朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル相續稅法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年十二月三十一日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
內務大臣 子爵 芳川顯正
大藏大臣 男爵 曾禰荒助
司法大臣 波多野敬直
法律第十號
相續稅法
第一條 相續開始シタルトキハ開始地カ帝國內ニ在ルト否トヲ問ハス又被相續人若ハ相續人カ帝國臣民タルト否トヲ問ハス本法施行地ニ在ル相續財產ニハ本法ニ依リ相續稅ヲ課ス
第二條 被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ有スルトキハ左ニ揭クル財產ヲ以テ本法施行地ニ在ル相續財產トス
一 本法施行地ニ在ル動產及不動產
二 本法施行地ニ在ル不動產ノ上ニ存スル權利
三 前二號ニ揭ケタルモノ以外ノ財產權
被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ有セサルトキハ前項第一號及第二號ノ財產ヲ以テ本法施行地ニ在ル相續財產トス
船舶ノ所在ハ船籍ノ所在ニ依ル
相續開始前一年內ニ本法施行地內ヨリ本法施行地外ニ轉シタルモノノ住所又ハ船籍ハ本法施行地內ニ在ルモノト看做ス
第三條 被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ有スルトキハ相續開始ノ際本法施行地ニ在ル相續財產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ被相續人カ本法施行地ニ在ル財產ニ付爲シタル贈與ノ價額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課稅價格トス
一 公課
二 被相續人ノ葬式費用
三 債務
被相續人カ本法施行地ニ住所ヲ有セサルトキハ相續開始ノ際本法施行地ニ在ル相續財產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ被相續人カ本法施行地ニ在ル財產ニ付爲シタル贈與ノ價額ヲ加ヘタルモノヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課稅價格トス
一 其ノ財產ニ係ル公課
二 其ノ財產ヲ目的トスル留置權、特別ノ先取特權、質權又ハ抵當權ヲ以テ擔保セラルル債務
三 其ノ財產ニ關スル贈與ノ義務
永代借地權ハ相續稅ノ課稅價格ニ算入セス
公共團體又ハ慈善事業ニ對シ爲シタル贈與及遺贈ハ課稅價格ニ算入セス
第四條 相續財產ノ價額ハ相續開始ノ時ノ價額ニ依ル
船舶、地上權、永小作權及定期金ニ付テハ政府ハ左ノ方法ニ依リ其ノ價格ヲ評定ス
一 船舶ニ付テハ其ノ製造費中ヨリ製造後ノ年數ニ應シ一年ニ付其ノ二十五分ノ一宛ヲ控除シタルモノヲ以テ其ノ價額トス但シ製造後二十年ヲ經過シタルモノハ製造費ノ五分ノ一ヲ以テ其ノ價額トス
一年ニ滿タサル端數ハ之ヲ一年トシテ計算ス
二 地上權ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ價額トス
殘存期間十年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 二倍
殘存期間三十年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 三倍
殘存期間五十年以下ナルモノ又ハ存續期間ノ定ナキモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 五倍
殘存期間百年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 七倍
殘存期間百年ヨリ長キモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 十二倍
三 永小作權ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ價額トス
殘存期間十年以下ナルモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 二倍
殘存期間三十年以下ナルモノ又ハ存續期間ノ定メナキモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 三倍
殘存期間五十年以下ナルモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 五倍
四 有期定期金ハ其ノ殘存期間ニ於ケル總金額ヲ以テ其ノ價額トス但シ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ超ユルコトヲ得ス
五 無期定期金ハ其ノ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ以テ其ノ價額トス
六 終身定期金ハ目的トセラレタル人ノ年齡ニ依リ左ノ期間ニ於ケル定期金ノ總額ヲ以テ其ノ價額トス
二十歲未滿ノ者 十年
三十歲未滿ノ者 八年
四十歲未滿ノ者 六年
五十歲未滿ノ者 四年
六十歲未滿ノ者 二年
六十歲以上ノ者 一年
前項ニ於テ土地ノ賃貸價格ト稱スルハ貸主カ公課、修繕費、保險料其ノ他土地ノ維持ニ必要ナル經費ヲ負擔スル條件ヲ以テ之ヲ賃貸スル場合ニ於テ貸主ノ收得スヘキ金額ヲ謂フ
第五條 條件附權利、存續期間ノ不確定ナル權利又ハ訴訟中ノ權利ニ付テハ政府ノ認ムル所ニ依リ其ノ價格ヲ評定ス
第三條ニ依リ控除スヘキ債務金額ハ政府カ確實ト認メタルモノニ限ル
第六條 課稅價格カ家督相續ニ在リテハ千圓、遺產相續ニ在リテハ五百圓ニ滿タサルトキハ相續稅ヲ課セス
第七條 軍人、軍屬ノ戰死又ハ戰爭ノ爲受ケタル傷痍疾病ニ起因シタル死亡ニ因リ相續開始シタルトキハ相續稅ヲ課セス但シ傷痍者又ハ疾病者ニシテ負傷又ハ發病後一年ヲ經過シ死亡シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八條 相續稅ハ課稅價格ヲ左ノ各級ニ區分シ其ノ各區分ニ對シ相續人ノ種類ニ從ヒ遞次ニ各稅率ヲ適用シテ之ヲ課ス
家督相續
課稅價格
稅率
相續人カ被相續人ノ家族タル直系卑屬ナルトキ
相續人カ被相續人ノ指定シタル者、民法第九百八十二條ニ依リ選定セラレタル者、被相續人ノ家族タル直系尊屬又ハ入夫ナルトキ
相續人カ民法第九百八十五條ニ依リ選定セラレタル者ナルトキ
五千圓以下ノ金額
千分ノ十二
千分ノ十五
千分ノ二十
五千圓ヲ超ユル金額
千分ノ十五
千分ノ十七
千分ノ二十五
一萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ十七
千分ノ二十
千分ノ三十
二萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ二十
千分ノ二十五
千分ノ三十五
三萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ二十五
千分ノ三十
千分ノ四十
四萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ三十
千分ノ三十五
千分ノ四十五
五萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ三十五
千分ノ四十
千分ノ五十
七萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ四十
千分ノ四十五
千分ノ五十五
十萬圓ヲ超ユル金額ハ其ノ五萬圓每ニ(百萬圓ニ至テ止ム)
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
遺產相續
課稅價格
稅率
相續人カ直系卑屬ナルトキ
相續人カ配偶者又ハ直系尊屬ナルトキ
相續人カ其ノ他ノ者ナルトキ
千圓以下ノ金額
千分ノ十五
千分ノ十七
千分ノ二十五
千圓ヲ超ユル金額
千分ノ十七
千分ノ二十
千分ノ三十
五千圓ヲ超ユル金額
千分ノ二十
千分ノ二十五
千分ノ三十五
一萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ二十五
千分ノ三十
千分ノ四十
二萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ三十
千分ノ三十五
千分ノ四十五
三萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ三十五
千分ノ四十
千分ノ五十
四萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ四十
千分ノ四十五
千分ノ五十五
五萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ四十五
千分ノ五十
千分ノ六十
七萬圓ヲ超ユル金額
千分ノ五十
千分ノ五十五
千分ノ六十五
十萬圓ヲ超ユル金額ハ其ノ五萬圓每ニ(百萬圓ニ至テ止ム)
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
外國ノ法律ニ依リ開始シタル相續ニ關シテハ遺產相續ニ關スル稅率ヲ準用ス
第九條 相續人ノ廢除若ハ其ノ取消ニ關スル裁判ノ確定前又ハ相續ノ承認若ハ抛棄前ト雖政府ハ必要ニ依リ其ノ推定家督相續人又ハ推定遺產相續人ニ對スル稅率ヲ適用シ相續稅ヲ課スルコトヲ得
相續人アルコト分明ナラサルトキハ稅率ノ最高キ相續人ニ對スル稅率ヲ適用シテ相續稅ヲ課ス
前二項ニ依リ課稅シタル後相續人確定シタルトキハ稅率ノ適用ヲ改訂シ稅金ノ差額ヲ追徵シ又ハ還付ス
第十條 相續稅ヲ課セラレタル後三年以內ニ於テ更ニ相續開始シタルトキハ前ノ相續額ニ對スル相續稅ニ相當スル相續稅ヲ免除ス
相續稅ヲ課セラレタル後五年以內ニ於テ更ニ相續開始シタルトキハ前ノ相續額ニ對スル相續稅ノ半額ニ相當スル相續稅ヲ免除ス
第十一條 相續人ハ相續開始ヲ知リタル日ヨリ遺言執行者又ハ相續財產管理人ハ就職ノ日ヨリ三箇月以內ニ相續財產ノ目錄及相續財產ノ價額中ヨリ控除セラルヘキ金額ノ明細書ヲ政府ニ提出スヘシ
相續カ帝國外ニ於テ開始シタルトキ又ハ前項ノ書類ヲ提出スヘキ者カ帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ六箇月トス
相續人確定シタルトキハ前二項ノ書類ヲ提出スルト同時ニ又ハ其ノ確定ノ日ヨリ一箇月以內ニ相續人ノ相續關係ヲ記載シタル書面ヲ政府ニ提出スヘシ
第十二條 戶籍吏左ノ事項ニ關スル屆書ヲ受理シタルトキハ之ヲ收稅官廳ニ報吿スヘシ
一 死亡又ハ失踪
二 戶主ノ隱居又ハ國籍喪失
三 戶主カ婚姻又ハ養子緣組ノ取消ニ因リテ其ノ家ヲ去リタルコト
四 入夫婚姻ニ因リ女戶主カ戶主權ヲ喪失シタルコト
五 戶主タル入夫ノ離婚
第十三條 課稅價格ハ政府之ヲ決定ス
課稅價格ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人ニ通知スヘシ
第十四條 相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人前條ノ決定ニ對シ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日以內ニ申立テ再審査ヲ求ムルコトヲ得
相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三箇月トス
第十五條 前條ノ請求アリタルトキハ相續稅審査委員會ノ諮問ヲ經テ政府之ヲ決定ス
審査委員會ノ組織及會議ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條 課稅價格ノ決定ニ對シ不服アル者ハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第十七條 相續稅ハ一時ニ之ヲ納付スヘシ但シ稅金額百圓以上ナルトキハ相續稅ニ相當スル擔保ヲ提供シ三年以內ノ年賦延納ヲ求ムルコトヲ得
前項ニ依リテ年賦延納ヲ求メムトスル者ハ第十三條ノ通知ヲ受ケタル後二十日以內ニ政府ニ出願スヘシ
相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ三箇月トス
第十八條 審査ヲ求メ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲シタル場合ト雖相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人ハ通知ヲ受ケタル金額ニ依リ稅金ヲ納付スヘシ
第十九條 相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人ハ相續稅ヲ納付シ又ハ其ノ延納ノ許可ヲ受ケタル後ニ非サレハ遺贈ノ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
第二十條 相續財產ヲ以テ相續稅ヲ完納スルコト能ハサルトキハ相續開始前一年內ニ被相續人ヨリ本法施行地ニ在ル財產ノ贈與ヲ受ケタル者ハ其ノ限度ニ於テ不足額ヲ納付スヘシ但シ相續稅ノ延納ヲ許可シタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第二十一條 相續稅ノ審査ニ參與シタル者ハ其ノ審査ニ關スル事項ヲ他ニ漏洩スルコトヲ得ス
第二十二條 相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人期限內ニ第十一條ニ依ル書類ヲ提出セサルトキハ政府ハ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲スコトヲ得
相續人二人以上ナル場合ニ於テハ政府ハ其ノ一人ニ對シテ前項ノ催吿ヲナスコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人其ノ期間內ニ書類ヲ提出セサルトキハ政府ノ認ムル所ニ依リ課稅價格ヲ決定シ催吿ニ關スル費用及稅金ノ十分ノ一ニ相當スル金額ヲ相續人、遺言執行者又ハ相續財產管理人ヨリ徵收スルコトヲ得
相續人二人以上ナル場合ニ於テハ各相續人ハ前項ノ徵收金ニ付連帶納付ノ責ニ任ス
第三項ノ金額ノ徵收ニ關シテハ國稅徵收法ノ規定ヲ準用ス
第二十三條 左ニ揭クル場合ニ於テ本法施行地ニ在ル不動產及船舶以外ノ財產ニ付爲シタル贈與ノ價額カ五百圓以上ナルトキハ遺產相續開始シタルモノト看做シ其ノ財產ノ價額ヲ課稅價格トシテ本法ニ依リ相續稅ヲ課ス
一 被相續人カ推定家督相續人又ハ推定遺產相續人ニ贈與ヲ爲シタルトキ
二 分家ヲ爲スニ際シ若ハ分家ヲ爲シタル後本家ノ戶主又ハ家族カ分家ノ戶主又ハ家族ニ贈與ヲ爲シタルトキ
前項ノ遺產相續ニ關シテハ第十條ノ規定ヲ適用セス
第二十四條 第十一條ニ依リ提出シタル書類ニ虛僞ノ記載ヲ爲シタル者其ノ他不正ノ所爲ヲ以テ相續稅ノ逋脫ヲ圖リ又ハ逋脫シタル者ハ其ノ逋脫シ又ハ逋脫セムトシタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金ニ處ス但シ自首シタル者ハ其ノ稅金ヲ徵收シ其ノ罪ヲ問ハス
第二十五條 第二十一條ニ違反シタル者ハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ニ依リ處罰セラレタル者ハ其ノ職ヲ失フ
第二十六條 府縣市町村其ノ他ノ公共團體ハ相續稅ノ附加稅ヲ課スルコトヲ得ス
附 則
本法ハ明治三十八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル相続税法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年十二月三十一日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
内務大臣 子爵 芳川顕正
大蔵大臣 男爵 曽祢荒助
司法大臣 波多野敬直
法律第十号
相続税法
第一条 相続開始シタルトキハ開始地カ帝国内ニ在ルト否トヲ問ハス又被相続人若ハ相続人カ帝国臣民タルト否トヲ問ハス本法施行地ニ在ル相続財産ニハ本法ニ依リ相続税ヲ課ス
第二条 被相続人カ本法施行地ニ住所ヲ有スルトキハ左ニ掲クル財産ヲ以テ本法施行地ニ在ル相続財産トス
一 本法施行地ニ在ル動産及不動産
二 本法施行地ニ在ル不動産ノ上ニ存スル権利
三 前二号ニ掲ケタルモノ以外ノ財産権
被相続人カ本法施行地ニ住所ヲ有セサルトキハ前項第一号及第二号ノ財産ヲ以テ本法施行地ニ在ル相続財産トス
船舶ノ所在ハ船籍ノ所在ニ依ル
相続開始前一年内ニ本法施行地内ヨリ本法施行地外ニ転シタルモノノ住所又ハ船籍ハ本法施行地内ニ在ルモノト看做ス
第三条 被相続人カ本法施行地ニ住所ヲ有スルトキハ相続開始ノ際本法施行地ニ在ル相続財産ノ価額ニ相続開始前一年内ニ被相続人カ本法施行地ニ在ル財産ニ付為シタル贈与ノ価額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課税価格トス
一 公課
二 被相続人ノ葬式費用
三 債務
被相続人カ本法施行地ニ住所ヲ有セサルトキハ相続開始ノ際本法施行地ニ在ル相続財産ノ価額ニ相続開始前一年内ニ被相続人カ本法施行地ニ在ル財産ニ付為シタル贈与ノ価額ヲ加ヘタルモノヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課税価格トス
一 其ノ財産ニ係ル公課
二 其ノ財産ヲ目的トスル留置権、特別ノ先取特権、質権又ハ抵当権ヲ以テ担保セラルル債務
三 其ノ財産ニ関スル贈与ノ義務
永代借地権ハ相続税ノ課税価格ニ算入セス
公共団体又ハ慈善事業ニ対シ為シタル贈与及遺贈ハ課税価格ニ算入セス
第四条 相続財産ノ価額ハ相続開始ノ時ノ価額ニ依ル
船舶、地上権、永小作権及定期金ニ付テハ政府ハ左ノ方法ニ依リ其ノ価格ヲ評定ス
一 船舶ニ付テハ其ノ製造費中ヨリ製造後ノ年数ニ応シ一年ニ付其ノ二十五分ノ一宛ヲ控除シタルモノヲ以テ其ノ価額トス但シ製造後二十年ヲ経過シタルモノハ製造費ノ五分ノ一ヲ以テ其ノ価額トス
一年ニ満タサル端数ハ之ヲ一年トシテ計算ス
二 地上権ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ価額トス
残存期間十年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 二倍
残存期間三十年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 三倍
残存期間五十年以下ナルモノ又ハ存続期間ノ定ナキモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 五倍
残存期間百年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 七倍
残存期間百年ヨリ長キモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 十二倍
三 永小作権ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ価額トス
残存期間十年以下ナルモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 二倍
残存期間三十年以下ナルモノ又ハ存続期間ノ定メナキモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 三倍
残存期間五十年以下ナルモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 五倍
四 有期定期金ハ其ノ残存期間ニ於ケル総金額ヲ以テ其ノ価額トス但シ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ超ユルコトヲ得ス
五 無期定期金ハ其ノ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ以テ其ノ価額トス
六 終身定期金ハ目的トセラレタル人ノ年齢ニ依リ左ノ期間ニ於ケル定期金ノ総額ヲ以テ其ノ価額トス
二十歳未満ノ者 十年
三十歳未満ノ者 八年
四十歳未満ノ者 六年
五十歳未満ノ者 四年
六十歳未満ノ者 二年
六十歳以上ノ者 一年
前項ニ於テ土地ノ賃貸価格ト称スルハ貸主カ公課、修繕費、保険料其ノ他土地ノ維持ニ必要ナル経費ヲ負担スル条件ヲ以テ之ヲ賃貸スル場合ニ於テ貸主ノ収得スヘキ金額ヲ謂フ
第五条 条件附権利、存続期間ノ不確定ナル権利又ハ訴訟中ノ権利ニ付テハ政府ノ認ムル所ニ依リ其ノ価格ヲ評定ス
第三条ニ依リ控除スヘキ債務金額ハ政府カ確実ト認メタルモノニ限ル
第六条 課税価格カ家督相続ニ在リテハ千円、遺産相続ニ在リテハ五百円ニ満タサルトキハ相続税ヲ課セス
第七条 軍人、軍属ノ戦死又ハ戦争ノ為受ケタル傷痍疾病ニ起因シタル死亡ニ因リ相続開始シタルトキハ相続税ヲ課セス但シ傷痍者又ハ疾病者ニシテ負傷又ハ発病後一年ヲ経過シ死亡シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八条 相続税ハ課税価格ヲ左ノ各級ニ区分シ其ノ各区分ニ対シ相続人ノ種類ニ従ヒ逓次ニ各税率ヲ適用シテ之ヲ課ス
家督相続
課税価格
税率
相続人カ被相続人ノ家族タル直系卑属ナルトキ
相続人カ被相続人ノ指定シタル者、民法第九百八十二条ニ依リ選定セラレタル者、被相続人ノ家族タル直系尊属又ハ入夫ナルトキ
相続人カ民法第九百八十五条ニ依リ選定セラレタル者ナルトキ
五千円以下ノ金額
千分ノ十二
千分ノ十五
千分ノ二十
五千円ヲ超ユル金額
千分ノ十五
千分ノ十七
千分ノ二十五
一万円ヲ超ユル金額
千分ノ十七
千分ノ二十
千分ノ三十
二万円ヲ超ユル金額
千分ノ二十
千分ノ二十五
千分ノ三十五
三万円ヲ超ユル金額
千分ノ二十五
千分ノ三十
千分ノ四十
四万円ヲ超ユル金額
千分ノ三十
千分ノ三十五
千分ノ四十五
五万円ヲ超ユル金額
千分ノ三十五
千分ノ四十
千分ノ五十
七万円ヲ超ユル金額
千分ノ四十
千分ノ四十五
千分ノ五十五
十万円ヲ超ユル金額ハ其ノ五万円毎ニ(百万円ニ至テ止ム)
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
遺産相続
課税価格
税率
相続人カ直系卑属ナルトキ
相続人カ配偶者又ハ直系尊属ナルトキ
相続人カ其ノ他ノ者ナルトキ
千円以下ノ金額
千分ノ十五
千分ノ十七
千分ノ二十五
千円ヲ超ユル金額
千分ノ十七
千分ノ二十
千分ノ三十
五千円ヲ超ユル金額
千分ノ二十
千分ノ二十五
千分ノ三十五
一万円ヲ超ユル金額
千分ノ二十五
千分ノ三十
千分ノ四十
二万円ヲ超ユル金額
千分ノ三十
千分ノ三十五
千分ノ四十五
三万円ヲ超ユル金額
千分ノ三十五
千分ノ四十
千分ノ五十
四万円ヲ超ユル金額
千分ノ四十
千分ノ四十五
千分ノ五十五
五万円ヲ超ユル金額
千分ノ四十五
千分ノ五十
千分ノ六十
七万円ヲ超ユル金額
千分ノ五十
千分ノ五十五
千分ノ六十五
十万円ヲ超ユル金額ハ其ノ五万円毎ニ(百万円ニ至テ止ム)
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
千分ノ五ヲ加フ
外国ノ法律ニ依リ開始シタル相続ニ関シテハ遺産相続ニ関スル税率ヲ準用ス
第九条 相続人ノ廃除若ハ其ノ取消ニ関スル裁判ノ確定前又ハ相続ノ承認若ハ抛棄前ト雖政府ハ必要ニ依リ其ノ推定家督相続人又ハ推定遺産相続人ニ対スル税率ヲ適用シ相続税ヲ課スルコトヲ得
相続人アルコト分明ナラサルトキハ税率ノ最高キ相続人ニ対スル税率ヲ適用シテ相続税ヲ課ス
前二項ニ依リ課税シタル後相続人確定シタルトキハ税率ノ適用ヲ改訂シ税金ノ差額ヲ追徴シ又ハ還付ス
第十条 相続税ヲ課セラレタル後三年以内ニ於テ更ニ相続開始シタルトキハ前ノ相続額ニ対スル相続税ニ相当スル相続税ヲ免除ス
相続税ヲ課セラレタル後五年以内ニ於テ更ニ相続開始シタルトキハ前ノ相続額ニ対スル相続税ノ半額ニ相当スル相続税ヲ免除ス
第十一条 相続人ハ相続開始ヲ知リタル日ヨリ遺言執行者又ハ相続財産管理人ハ就職ノ日ヨリ三箇月以内ニ相続財産ノ目録及相続財産ノ価額中ヨリ控除セラルヘキ金額ノ明細書ヲ政府ニ提出スヘシ
相続カ帝国外ニ於テ開始シタルトキ又ハ前項ノ書類ヲ提出スヘキ者カ帝国内ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ六箇月トス
相続人確定シタルトキハ前二項ノ書類ヲ提出スルト同時ニ又ハ其ノ確定ノ日ヨリ一箇月以内ニ相続人ノ相続関係ヲ記載シタル書面ヲ政府ニ提出スヘシ
第十二条 戸籍吏左ノ事項ニ関スル届書ヲ受理シタルトキハ之ヲ収税官庁ニ報告スヘシ
一 死亡又ハ失踪
二 戸主ノ隠居又ハ国籍喪失
三 戸主カ婚姻又ハ養子縁組ノ取消ニ因リテ其ノ家ヲ去リタルコト
四 入夫婚姻ニ因リ女戸主カ戸主権ヲ喪失シタルコト
五 戸主タル入夫ノ離婚
第十三条 課税価格ハ政府之ヲ決定ス
課税価格ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人ニ通知スヘシ
第十四条 相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人前条ノ決定ニ対シ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日以内ニ申立テ再審査ヲ求ムルコトヲ得
相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人帝国内ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三箇月トス
第十五条 前条ノ請求アリタルトキハ相続税審査委員会ノ諮問ヲ経テ政府之ヲ決定ス
審査委員会ノ組織及会議ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六条 課税価格ノ決定ニ対シ不服アル者ハ訴願又ハ行政訴訟ヲ為スコトヲ得
第十七条 相続税ハ一時ニ之ヲ納付スヘシ但シ税金額百円以上ナルトキハ相続税ニ相当スル担保ヲ提供シ三年以内ノ年賦延納ヲ求ムルコトヲ得
前項ニ依リテ年賦延納ヲ求メムトスル者ハ第十三条ノ通知ヲ受ケタル後二十日以内ニ政府ニ出願スヘシ
相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人帝国内ニ住所ヲ有セサルトキハ前項ノ期間ハ三箇月トス
第十八条 審査ヲ求メ訴願又ハ行政訴訟ヲ為シタル場合ト雖相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人ハ通知ヲ受ケタル金額ニ依リ税金ヲ納付スヘシ
第十九条 相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人ハ相続税ヲ納付シ又ハ其ノ延納ノ許可ヲ受ケタル後ニ非サレハ遺贈ノ弁済ヲ為スコトヲ得ス
第二十条 相続財産ヲ以テ相続税ヲ完納スルコト能ハサルトキハ相続開始前一年内ニ被相続人ヨリ本法施行地ニ在ル財産ノ贈与ヲ受ケタル者ハ其ノ限度ニ於テ不足額ヲ納付スヘシ但シ相続税ノ延納ヲ許可シタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第二十一条 相続税ノ審査ニ参与シタル者ハ其ノ審査ニ関スル事項ヲ他ニ漏洩スルコトヲ得ス
第二十二条 相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人期限内ニ第十一条ニ依ル書類ヲ提出セサルトキハ政府ハ期間ヲ定メテ催告ヲ為スコトヲ得
相続人二人以上ナル場合ニ於テハ政府ハ其ノ一人ニ対シテ前項ノ催告ヲナスコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人其ノ期間内ニ書類ヲ提出セサルトキハ政府ノ認ムル所ニ依リ課税価格ヲ決定シ催告ニ関スル費用及税金ノ十分ノ一ニ相当スル金額ヲ相続人、遺言執行者又ハ相続財産管理人ヨリ徴収スルコトヲ得
相続人二人以上ナル場合ニ於テハ各相続人ハ前項ノ徴収金ニ付連帯納付ノ責ニ任ス
第三項ノ金額ノ徴収ニ関シテハ国税徴収法ノ規定ヲ準用ス
第二十三条 左ニ掲クル場合ニ於テ本法施行地ニ在ル不動産及船舶以外ノ財産ニ付為シタル贈与ノ価額カ五百円以上ナルトキハ遺産相続開始シタルモノト看做シ其ノ財産ノ価額ヲ課税価格トシテ本法ニ依リ相続税ヲ課ス
一 被相続人カ推定家督相続人又ハ推定遺産相続人ニ贈与ヲ為シタルトキ
二 分家ヲ為スニ際シ若ハ分家ヲ為シタル後本家ノ戸主又ハ家族カ分家ノ戸主又ハ家族ニ贈与ヲ為シタルトキ
前項ノ遺産相続ニ関シテハ第十条ノ規定ヲ適用セス
第二十四条 第十一条ニ依リ提出シタル書類ニ虚偽ノ記載ヲ為シタル者其ノ他不正ノ所為ヲ以テ相続税ノ逋脱ヲ図リ又ハ逋脱シタル者ハ其ノ逋脱シ又ハ逋脱セムトシタル税金ノ三倍ニ相当スル罰金ニ処ス但シ自首シタル者ハ其ノ税金ヲ徴収シ其ノ罪ヲ問ハス
第二十五条 第二十一条ニ違反シタル者ハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ニ依リ処罰セラレタル者ハ其ノ職ヲ失フ
第二十六条 府県市町村其ノ他ノ公共団体ハ相続税ノ附加税ヲ課スルコトヲ得ス
附 則
本法ハ明治三十八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス