朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル煙草專賣法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年三月三十一日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
大藏大臣 男爵 曾禰荒助
法律第十四號
煙草專賣法
第一條 煙草ノ製造ハ政府ニ專屬ス
第二條 煙草ハ政府及政府ノ命ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ輸入スルコトヲ得ス
第三條 煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ耕作スルコトヲ得ス
第四條 煙草耕作者ノ收穫シタル葉煙草ハ政府之ヲ收納ス
第五條 煙草ノ耕作區域ハ政府之ヲ定ム
第六條 政府ハ每年耕作スヘキ煙草ノ種類、耕作段別及葉煙草ノ賠償價格ヲ定メ豫メ之ヲ公示ス
第七條 煙草ヲ耕作セムトスル者ハ每年煙草苗床ノ位置及坪數、煙草耕作地ノ位置及段別、煙草ノ種類、本數、乾燥場及藏置場ヲ定メ政府ニ申請シ許可ヲ受クヘシ其ノ之ヲ變更シ又ハ耕作ヲ廢止セムトスルトキ亦同シ
第八條 相續ニ因ルノ外煙草ノ耕作ヲ承繼セムトスルトキハ政府ノ許可ヲ受クヘシ
相續ニ因リ煙草ノ耕作ヲ承繼シタルトキハ政府ニ屆出ヘシ
第九條 煙草耕作者ニ非サレハ煙草苗ヲ育成スルコトヲ得ス
煙草苗ノ讓渡及讓受ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クヘシ
第十條 煙草耕作者ハ政府ノ定ムル方法及手續ニ依リ其ノ耕作ヲ完成スル義務ヲ負フ
第十一條 政府ハ收穫前ニ於テ葉煙草ノ收穫量目又ハ葉數ヲ査定ス
前項査定ノ場合ニ於テハ煙草耕作者ハ之ニ立會フヘシ若立會ハサルトキハ其ノ査定ニ對シ異議ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十二條 煙草耕作者前條ノ量目又ハ葉數ノ査定ニ不服ナルトキハ卽時異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得
異議ノ申立アリタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ二人以上ノ鑑定人ヲ選定シ其ノ意見ヲ徵シ政府之ヲ決定ス
異議申立人ノ主張ニ係ル葉煙草ノ量目又ハ葉數ト前項決定額トノ差カ前條ノ査定額ト前項決定額トノ差ヨリ大ナルトキハ鑑定ニ關スル費用ハ異議申立人ノ負擔トス
第十三條 煙草耕作者ハ政府ノ許可ヲ受クルニ非サレハ第十一條ノ査定前ニ於テ葉煙草ヲ採取シ又ハ幹根ヲ拔除スルコトヲ得ス第十二條ニ依リ異議ノ申立ヲ爲シタル者其ノ決定前ニ於テ亦同シ
第十四條 煙草耕作者一番葉ノ收穫ヲ終リタルトキハ直ニ其ノ幹根ヲ拔除シ其ノ幹ニ附著スル葉煙草ハ之ヲ廢棄スヘシ
種子ノ採取又ハ二番葉ノ收穫ヲ爲サムトスル者ハ政府ノ許可ヲ受クヘシ
前項ノ場合ニ於テ採取又ハ收穫ヲ終リタルトキハ第一項ノ處置ヲ爲スヘシ
第十五條 煙草耕作者ノ收穫シタル葉煙草ハ乾燥調理ノ後政府ニ納付スヘシ
納付ノ期日及場所ハ政府之ヲ定ム
煙草耕作者ノ收穫シタル葉煙草ニシテ政府ノ收納ニ適セサルモノハ政府ノ承認ヲ經テ之ヲ廢棄スヘシ
第十六條 煙草耕作者ノ納付シタル葉煙草ハ鑑定人ヲシテ之ヲ鑑定セシメ其ノ等級ニ依リ賠償金ヲ交付ス
煙草耕作者前項ノ鑑定ニ不服ナルトキハ再鑑定ヲ求ムルコトヲ得但シ賠償金ノ請求ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
再鑑定申立人ノ主張ニ係ル葉煙草ノ等級ト再鑑定等級トノ差カ第一項ノ鑑定等級ト再鑑定等級トノ差ヨリ大ナルトキハ再鑑定ニ關スル費用ハ其ノ申立人ノ負擔トス
再鑑定ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 煙草耕作者正當ノ事由ナクシテ政府ノ査定若ハ決定シタル量目又ハ葉數以上ノ葉煙草ヲ納付セサルトキハ政府ハ其ノ不足額ニ對シ第十八條第二項ノ規定ニ準シテ算定シタル金額ノ三倍以下ヲ納付セシムルコトヲ得
第十八條 煙草耕作者私ニ耕作段別ヲ減少シ又ハ耕作ヲ廢止シタルトキハ政府ハ其ノ減作地又ハ廢作地ニ生產スヘキ葉煙草ノ價格ニ相當スル金額ヲ納付セシムルコトヲ得
前項葉煙草ノ價格ハ其ノ年ニ於ケル近傍類似煙草耕作地ノ葉煙草生產額及之ニ對スル賠償金額ヲ標準トシ之ヲ算定ス
第十九條 煙草耕作者其ノ耕作段別ヲ減少シ又ハ耕作ヲ廢止シタル場合ニ於テ其ノ耕作ヲ承繼スル者ナキトキハ政府ハ其ノ現存スル煙草又ハ煙草苗ヲ廢棄セシムルコトヲ得
第二十條 煙草耕作者ノ葉煙草ハ其ノ耕作地、乾燥場、藏置場又ハ其ノ收納官署ノ外他ニ之ヲ運送スルコトヲ得ス
政府ハ必要ト認ムルトキハ葉煙草運送ノ通路及時間ヲ指定スルコトヲ得
第二十一條 公共團體又ハ私人ニ於テ試作場ヲ特設シ煙草ノ試作ヲ爲サムトスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クヘシ
前項ノ試作ニ關シテハ第四條、第七條、第九條、第十五條、第十六條第一項及第十九條ノ規定ヲ準用ス
第二十二條 製造煙草ハ政府又ハ政府ノ指定シタル煙草元賣捌人若ハ煙草小賣人ニ非サレハ之ヲ販賣スルコトヲ得ス
煙草賣捌人及煙草ノ販賣ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十三條 煙草小賣人ハ政府ノ定メタル價格ヲ以テスルニ非サレハ製造煙草ヲ消費者ニ販賣スルコトヲ得ス
第二十四條 煙草賣捌人ハ政府ノ封緘ヲ施シタル製造煙草ノ包裹ヲ開披シ若ハ之ヲ改裝シ又ハ包裹ノ破損シタル製造煙草ヲ販賣スルコトヲ得ス
第二十五條 輸出ノ爲葉煙草又ハ製造煙草ノ賣渡ヲ請求スル者アルトキハ政府ハ特ニ定メタル價格ヲ以テ之ヲ賣渡スコトヲ得
前項煙草ノ賣渡ヲ受ケタル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ帳簿ヲ調製シ其ノ營業ニ關スル事項ヲ記載スヘシ
輸出ニ供スル煙草ヲ製造セムトスル者ノ爲政府ハ一定ノ地域ニ於テ煙草自由倉庫ヲ設置シ又ハ其ノ設置ヲ特許スルコトヲ得
煙草自由倉庫及其ノ特許ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六條 前條ニ依リ輸出ノ爲葉煙草又ハ製造煙草ヲ買受ケタル者ハ政府ノ指定シタル期間內ニ輸出免狀ニ外國仕向港ニ陸揚ヲ爲シタルコトヲ證スヘキ書類ヲ添ヘ政府ニ差出スヘシ
正當ノ事由ナクシテ前項ノ免狀及書類ヲ差出ササルトキハ政府ハ葉煙草ニ付テハ第二十九條製造煙草ニ付テハ第三十條ノ規定ニ依リ相當金額ヲ納付セシム
第二十七條 輸出ノ爲政府ヨリ買受ケタル葉煙草又ハ製造煙草ハ輸出前之ヲ他ニ讓渡シ又ハ消費スルコトヲ得ス但シ其ノ使用ニ適セサルニ至リタルモノハ政府ノ許可ヲ受ケテ之ヲ廢棄スルコトヲ得
第二十八條 輸出ノ爲政府ヨリ買受ケタル葉煙草又ハ製造煙草ノ輸出ヲ廢止シタルトキ又ハ買受ノ日ヨリ一箇年ヲ過キ之ヲ輸出セサルトキハ其ノ使用ニ適スルモノニ限リ政府之ヲ收納シ其ノ他ハ之ヲ廢棄セシム
前項ノ收納ヲ爲ストキハ鑑定人ヲシテ鑑定セシメ賠償金ヲ交付ス但シ其ノ賠償金ハ第二十五條ニ依ル賣渡價格ニ超過スルコトヲ得ス
第二十九條 本法ノ規定ニ依リ輸出シ、廢棄シ及收納セラレタル葉煙草竝現在葉煙草ノ總量目カ政府ヨリ買受ケタル葉煙草ノ總量目ニ比シ正當ノ事由ナクシテ不足シタルトキハ政府ハ輸出者ヲシテ其ノ不足額ニ對シ第二十五條ノ賣渡價格ニ相當スル金額ノ四倍以下ヲ納付セシム
第三十條 本法ノ規定ニ依リ輸出シ、廢棄シ及收納セラレタル製造煙草竝現在製造煙草ノ總量目カ政府ヨリ買受ケタル製造煙草ノ總量目ニ比シ正當ノ事由ナクシテ不足シタルトキハ政府ハ輸出者ヲシテ其ノ不足額ニ對シ第二十三條ノ賣渡價格ト第二十五條ノ賣渡價格トノ差額ニ相當スル金額ノ二倍以下ヲ納付セシム
第三十一條 政府ハ標本ニ供スルモノニ限リ葉煙草ヲ交付シ又ハ煙草ノ輸入ヲ許可スルコトヲ得
標本ニ供スル煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケ標本トシテ他ニ讓渡シ又ハ試驗ノ用ニ供シ又ハ廢棄スルノ外之ヲ處分スルコトヲ得ス
第三十二條 健康上若ハ習慣上缺クヘカラサル製造煙草ハ自用ニ供スルモノニ限リ自用者ニ於テ政府ノ許可ヲ受ケ之ヲ輸入スルコトヲ得
第三十三條 輸出ノ爲買受ケタル煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケタル場所ニ非サレハ之ヲ藏置スルコトヲ得ス
第三十四條 何人ト雖本法ニ於テ認メタル場合ノ外葉煙草、政府ノ證票ヲ附セサル製造煙草又ハ煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ヲ所持シ、讓渡シ若ハ讓受クルコトヲ得ス
前項ノ物件ハ本法ニ依リ沒收スル場合ノ外政府ニ於テ之ヲ處分ス
第三十五條 何人ト雖營業ノ目的ヲ以テ煙草ニ代用スヘキ物品ヲ製造シ又ハ販賣スルコトヲ得ス
第三十六條 煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ハ政府ノ許可ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ製作シ、販賣シ又ハ藏置スルコトヲ得ス
第三十七條 煙草耕作者、試作者又ハ煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ノ製作者、販賣者若ハ藏置者本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキハ政府ハ耕作、試作、藏置又ハ營業ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第三十八條 政府ハ煙草ノ苗床、耕作地、試作地、乾燥場、藏置場又ハ煙草苗、煙草若ハ煙草製造器具機械及卷紙ノ所在ト認ムル場所又ハ煙草苗、煙草若ハ煙草製造器具機械及卷紙ヲ檢査シ又ハ監督上必要ノ處分ヲ爲スコトヲ得
當該官吏ハ前項ノ檢査ニ際シ必要ト認ムルトキハ關係人ヲシテ之ニ立會ハシムルコトヲ得
第三十九條 行政執行ノ手續ニ依リ費用ヲ納付セシムル場合ニ於テ義務者ニ交付スヘキ金額アルトキハ之ヲ差引スルコトヲ得
第四十條 本法ノ規定ニ依リ納付セシムヘキ金額ノ徵收ニ關シテハ國稅徵收法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第四十一條 第三條又ハ第九條第一項ニ違反シタル者ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草又ハ煙草苗ハ之ヲ沒收ス許可ヲ受ケスシテ試作ヲ爲シタル者亦同シ
第四十二條 煙草耕作者許可ヲ受ケサル土地ニ煙草ヲ耕作シ若ハ煙草苗ヲ育成シ又ハ許可ヲ受ケサル種類ノ煙草ヲ耕作シ又ハ許可ヲ受ケスシテ煙草苗ヲ讓渡シ若ハ讓受ケタルトキハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草又ハ煙草苗ハ之ヲ沒收ス
第四十三條 煙草耕作者許可ヲ受ケサル場所ニ葉煙草ヲ乾燥シ又ハ藏置シタルトキハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ沒收ス
情ヲ知リテ前項ノ場所ヲ供與シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十四條 第十三條ニ違反シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ沒收ス
第四十五條 第十四條及第十九條ニ依リ葉煙草ヲ廢棄スヘキ者其ノ葉煙草ヲ收穫シ又ハ種子ヲ採取シタルトキハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草又ハ種子ハ之ヲ沒收ス
第四十六條 天災其ノ他避クヘカラサル事變ニ依ルニ非スシテ第二十條第一項ニ違反シ又ハ政府ノ指定シタル通路若ハ時間ニ依ラスシテ葉煙草ヲ運送シタル者ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ沒收ス
第四十七條 煙草耕作者正當ノ事由ナクシテ政府ノ指定シタル納付期日ニ葉煙草ヲ納付セサルトキハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十八條 政府ニ納付スヘキ葉煙草ヲ他ニ讓渡シ又ハ消費シ又ハ隱蔽シタル者ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ沒收ス之ヲ讓受ケタル者亦同シ
情ヲ知リテ葉煙草隱蔽ノ場所ヲ供與シタル者ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十九條 煙草賣捌人ニ非スシテ製造煙草ヲ販賣シ又ハ販賣ノ準備ヲ爲シタル者ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル製造煙草ハ之ヲ沒收ス
第五十條 第二十三條又ハ第二十四條ニ違反シタル者ハ五圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十一條 煙草輸出者帳簿ヲ調製セス又ハ其ノ記載ヲ怠リ若ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十二條 第二十七條ニ違反シタル者ハ三十圓以上千圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ沒收ス之ヲ讓受ケタル者亦同シ
第五十三條 第三十一條第二項ニ違反シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ煙草ヲ讓受ケタル者亦同シ
第五十四條 第三十二條ニ依リ輸入シタル煙草ヲ他ニ讓渡シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ沒收ス
第五十五條 第三十三條ニ違反シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス情ヲ知リテ藏置ノ場所ヲ供與シタル者亦同シ
第五十六條 許可ヲ受ケサル者ノ耕作若ハ試作シタル葉煙草又ハ煙草耕作者、試作者ニ非サル者ノ育成シタル煙草苗又ハ權利者ノ不明ナル葉煙草若ハ煙草苗ヲ所持スル者ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草若ハ煙草苗ハ之ヲ沒收ス
第五十七條 第三十四條第一項ニ違反シテ製造煙草ヲ所持シ、讓渡シ又ハ讓受ケタル者ハ煙草賣捌人ニ在リテハ百圓以上千圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ他ノ者ニ在リテハ十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル製造煙草ハ之ヲ沒收ス
第五十八條 私ニ煙草ヲ製造シ又ハ製造ノ準備ヲ爲シタル者ハ百圓以上千圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草及煙草製造器具機械及卷紙ハ之ヲ沒收ス
第五十九條 第三十五條ニ違反シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル物品竝其ノ原料、製造器具機械及卷紙ハ之ヲ沒收ス
第六十條 第三十六條ニ違反シタル者又ハ權利者不明ノ煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ヲ所持シタル者ハ三十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ハ之ヲ沒收ス
第六十一條 本法ノ犯罪ニ係ル物件ヲ他ニ讓渡シ若ハ消費シタルトキ又ハ其ノ物件ニシテ他ニ所有者アル爲沒收スルコトヲ得サルトキハ其ノ價格ニ相當スル金額ヲ追徵ス
第六十二條 當該官吏ノ尋問ニ對シ虛僞ノ答辯ヲ爲シ又ハ當該官吏ノ職務執行ヲ拒ミ又ハ之ヲ忌避シ又ハ之ニ支障ヲ加ヘタル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
第六十三條 煙草耕作者、試作者、煙草賣捌人、煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ノ製作者、販賣者若ハ藏置者又ハ煙草輸出者カ未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ之ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第六十四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シタル者ニハ刑法ノ減輕、再犯加重及數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第六十五條 煙草耕作者、試作者、煙草賣捌人、煙草製造專用ノ器具機械及卷紙ノ製作者、販賣者若ハ藏置者又ハ煙草輸出者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人、其ノ他ノ從業者ニシテ其ノ業務ニ關シ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ處罰ヲ免カルルコトヲ得ス
第六十六條 明治三十三年法律第五十二號ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
第六十七條 間接國稅犯則者處分法ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ違反事件ニ之ヲ準用ス但シ同法ニ定メタル職務ヲ行フ官吏ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第六十八條 本法ハ明治三十七年七月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ第二十二條第二項及第七十三條ハ本法發布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行ノ際ニ於ケル煙草製造業者ハ明治三十八年三月三十一日迄刻煙草ノ製造ニ限リ其ノ營業ヲ繼續スルコトヲ得
前項刻煙草ノ製造及其ノ原料ニ供スル葉煙草ノ賣買ニ關シテハ明治三十八年三月三十一日迄本法ノ規定ヲ適用セス仍葉煙草專賣法ヲ適用ス
第六十九條 本法施行ノ際ニ於ケル葉煙草耕作者ハ本法ニ依ル煙草耕作者ト看做ス
第七十條 左記ノ物件ハ政府之ヲ徵收シ之ニ對シ補償金ヲ交付ス
一 明治三十七年六月三十日ニ現在スル煙草製造專用ノ器具機械及卷紙但シ刻煙草製造專用ノモノヲ除ク
二 明治三十八年三月三十一日ニ現在スル刻煙草製造專用ノ器具機械
三 明治三十八年三月三十一日ニ現在スル葉煙草
第七十一條 本法施行ノ際政府ノ保管ニ係ル輸出葉煙草ニ關シテハ本法施行後ト雖仍葉煙草專賣法ヲ適用ス
第七十二條 明治三十七年六月三十日ニ現在スル刻煙草以外ノ煙草製造業者ノ所有ニ係ル葉煙草ハ明治三十八年三月三十一日迄ハ刻煙草製造業者若ハ葉煙草賣買業者ニ限リ之ヲ讓渡シ又ハ之ヲ所有スルコトヲ得但シ外國產葉煙草ニ限リ明治三十七年七月二十日迄ニ其ノ買上ヲ政府ニ請求スルコトヲ得
第七十三條 本法發布ノ際ニ現在スル煙草製造用ノ建物、其ノ敷地及其ノ製造場備附ノ煙草製造用ノ器具機械ハ政府ニ於テ之ヲ徵收スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ之ニ對シ補償金ヲ交付ス
政府ハ本法發布ノ後煙草製造業者ノ營業場ニ就キ前項ニ依リ徵收スヘキ物件ヲ調査シ徵收目錄ヲ調成ス
徵收目錄ハ本法發布後六十日以內ニ之ヲ所有者ニ吿知ス
前項ノ吿知後ハ所有者ハ政府ノ承認ヲ受クルニ非サレハ徵收目錄ニ記載シタル物件ヲ處分スルコトヲ得ス
第七十四條 煙草製造業者ノ所有ニ係ル煙草ノ製造及裝置ニ使用スヘキ物件竝其ノ現ニ使用スル煙草製造及裝置用器具機械ニシテ第七十條ノ規定ニ該當セサルモノハ其ノ買上ヲ政府ニ請求スルコトヲ得但シ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年六月三十日ニ現在スルモノニ限リ刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年三月三十一日ニ現在スルモノニ限ル
前項ニ依リ買上ヲ請求シ得ヘキ物件ノ種類數量竝器具機械ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十五條 政府ハ煙草製造業者ニ對シ其ノ請求ニ依リ煙草賣渡代金ノ二割ニ相當スル金額ヲ交付シ其ノ額金五百圓ニ滿タサル者ニ對シテハ金五百圓ヲ交付ス但シ煙草製造用ノ建物及其ノ敷地ヲ所有スル者ニシテ其ノ建物及敷地ノ全部ノ徵收又ハ買上ヲ受ケサル者ニ對シテハ尙交付金ニ相當スル金額ノ六分ノ一ヲ增給ス
煙草製造業者ニシテ煙草元賣捌人ニ指定セラレタルモノニ對シテハ前項ノ規定ヲ適用セス
第一項ニ依リ交付スヘキ金額ハ總計金九百十萬圓ヲ以テ限度トス若此ノ金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ各自ニ按分シテ之ヲ減少ス
第一項ノ賣渡代金ハ明治三十五年ヨリ明治三十六年ニ至ル二箇年間ノ賣渡代金ノ平均高ニ依リ明治三十五年二月以後ニ其ノ營業ヲ開始シタル者ハ明治三十六年ノ賣渡高ニ依ル
第一項ニ煙草製造業者トアルハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十六年一月三十一日以前ヨリ明治三十七年六月三十日ニ至ル迄、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十六年一月三十一日以前ヨリ明治三十八年三月三十一日ニ至ル迄其ノ營業ヲ繼續シタルモノニ限ル但シ家督相續人カ被相續人ノ營ミタル煙草製造業ヲ繼續シタル場合ニ於テ被相續人ノ營業期間ハ家督相續人ノ營業期間ト看做ス
第七十六條 第七十五條第一項ノ賣渡代金ハ確實ナリト認ムル帳簿書類ニ依リ政府之ヲ決定ス
第七十七條 第七十條、第七十三條ノ補償價格及第七十二條、第七十四條ノ買上價格ハ協議ニ依リ之ヲ定ム協議整ハサルトキハ鑑定人ノ意見ヲ徵シ政府之ヲ決定ス
前項ノ決定ニ對シ不服アル者ハ十日以內ニ其ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ政府ハ更ニ鑑定人ノ意見ヲ徵シ之ヲ裁定ス
鑑定人ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十八條 第七十條第一號ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十七年七月五日迄ニ、同條第二號ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十八年四月五日迄ニ其ノ種類數量ヲ政府ニ申吿スヘシ此ノ期限ヲ過キ申吿ヲ爲ササルトキハ其ノ物件ノ藏置ニ關シテハ第三十六條及第六十條ヲ適用ス
前項ニ依リ申吿ヲ爲シタル物件ノ藏置ニ關シテハ之カ徵收ヲ終ル迄第三十六條ヲ適用セス
第七十九條 第七十條第三號ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十八年四月五日迄ニ其ノ種類數量ヲ政府ニ申吿スヘシ此ノ期限ヲ過キ申吿ヲ爲ササルトキハ其ノ物件ノ藏置ニ關シテハ第五十六條ノ例ニ依リ處分ス
第八十條 第七十四條ニ依ル物件買上ノ請求ハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年七月五日迄ニ、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年四月五日迄ニ之ヲ爲スヘシ
第八十一條 第七十五條ニ依ル交付金ノ請求ハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年九月三十日迄ニ、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年六月三十日迄ニ之ヲ爲スヘシ
第八十二條 本法施行ノ際現在スル製造煙草又ハ刻煙草製造業者ノ明治三十八年三月三十一日迄ニ製造シタル刻煙草ハ本法ノ規定ニ依ラス之ヲ所持シ、讓渡シ又ハ讓受クルコトヲ得
政府ハ必要ト認メタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ製造煙草ニ包裹ヲ施サシメ竝一定ノ證票ヲ貼附セシムルコトヲ得
前項ニ依ル命令ニ違反シ包裹ヲ施サス又ハ證票ヲ貼附セサル製造煙草ニ關シテハ第三十四條及第五十七條ヲ準用ス
第八十三條 煙草製造業者又ハ製造煙草ヲ販賣スル者ハ明治三十七年六月三十日ニ於テ現ニ其ノ所持ニ係ル刻煙草以外ノ製造煙草ノ種類數量ヲ明治三十七年七月十日迄ニ政府ニ申吿スヘシ
刻煙草製造業者ハ明治三十八年三月三十一日ニ於テ現ニ其ノ所持ニ係ル刻煙草ノ種類數量ヲ翌月十日迄ニ政府ニ申吿スヘシ
第八十四條 本法施行後政府ノ賣渡ササル製造煙草ヲ販賣スル者ハ營業ニ關スル帳簿ヲ調製シ明治三十七年七月以後每月末日ニ於ケル製造煙草ノ種類數量及其ノ月ノ受拂高ヲ翌月五日迄ニ政府ニ申吿スヘシ
第八十五條 第八十三條及第八十四條ノ規定ニ違反シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十六條 葉煙草專賣法ニ違反シタル者ニハ本法施行後ト雖仍同法ヲ適用ス
第八十七條 本法ハ勅令ヲ以テ指定シタル島嶼ニハ之ヲ施行セス
本法ヲ施行セサル地ト本法施行地トノ間ニ於ケル煙草ノ移入移出ニ關シテハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ム
政府ノ外本法ヲ施行セサル地ヨリ煙草ヲ本法施行地ニ移入スルコトヲ得ス犯シタル者ハ十圓以上千圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ沒收ス
第八十八條 明治三十八年ニ於テハ煙草製造業者及葉煙草賣買業者ニ係ル免許料ハ之ヲ徵收セス
明治三十七年ニ於ケル刻煙草以外ノ製造業者ニ係ル免許料ハ其ノ十二分ノ六ヲ還付ス
第八十九條 第七十條、第七十三條ノ補償金、第七十二條、第七十四條ノ買上金及第七十五條ノ交付金ニ充ツル爲政府ハ國庫債券ヲ發行スルコトヲ得
第七十五條ノ交付金ハ國庫債券ヲ以テ之ヲ給付ス但シ五十圓未滿ノ端數ハ現金ヲ以テ之ヲ給付ス
第七十條、第七十三條ノ補償金及第七十二條、第七十四條ノ買上金ハ本人ノ請求ニ依リ國庫債券ヲ以テ給付スルコトアルヘシ
國庫債券ニ對シテハ一箇年百分ノ五ノ利子ヲ附シ發行ノ年ヨリ七箇年以內ニ之ヲ償還ス
國庫債券ニ關シテハ本條ニ規定スルモノノ外整理公債條例ニ準據ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル煙草専売法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十七年三月三十一日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
大蔵大臣 男爵 曽祢荒助
法律第十四号
煙草専売法
第一条 煙草ノ製造ハ政府ニ専属ス
第二条 煙草ハ政府及政府ノ命ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ輸入スルコトヲ得ス
第三条 煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ耕作スルコトヲ得ス
第四条 煙草耕作者ノ収穫シタル葉煙草ハ政府之ヲ収納ス
第五条 煙草ノ耕作区域ハ政府之ヲ定ム
第六条 政府ハ毎年耕作スヘキ煙草ノ種類、耕作段別及葉煙草ノ賠償価格ヲ定メ予メ之ヲ公示ス
第七条 煙草ヲ耕作セムトスル者ハ毎年煙草苗床ノ位置及坪数、煙草耕作地ノ位置及段別、煙草ノ種類、本数、乾燥場及蔵置場ヲ定メ政府ニ申請シ許可ヲ受クヘシ其ノ之ヲ変更シ又ハ耕作ヲ廃止セムトスルトキ亦同シ
第八条 相続ニ因ルノ外煙草ノ耕作ヲ承継セムトスルトキハ政府ノ許可ヲ受クヘシ
相続ニ因リ煙草ノ耕作ヲ承継シタルトキハ政府ニ届出ヘシ
第九条 煙草耕作者ニ非サレハ煙草苗ヲ育成スルコトヲ得ス
煙草苗ノ譲渡及譲受ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クヘシ
第十条 煙草耕作者ハ政府ノ定ムル方法及手続ニ依リ其ノ耕作ヲ完成スル義務ヲ負フ
第十一条 政府ハ収穫前ニ於テ葉煙草ノ収穫量目又ハ葉数ヲ査定ス
前項査定ノ場合ニ於テハ煙草耕作者ハ之ニ立会フヘシ若立会ハサルトキハ其ノ査定ニ対シ異議ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十二条 煙草耕作者前条ノ量目又ハ葉数ノ査定ニ不服ナルトキハ即時異議ノ申立ヲ為スコトヲ得
異議ノ申立アリタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ二人以上ノ鑑定人ヲ選定シ其ノ意見ヲ徴シ政府之ヲ決定ス
異議申立人ノ主張ニ係ル葉煙草ノ量目又ハ葉数ト前項決定額トノ差カ前条ノ査定額ト前項決定額トノ差ヨリ大ナルトキハ鑑定ニ関スル費用ハ異議申立人ノ負担トス
第十三条 煙草耕作者ハ政府ノ許可ヲ受クルニ非サレハ第十一条ノ査定前ニ於テ葉煙草ヲ採取シ又ハ幹根ヲ抜除スルコトヲ得ス第十二条ニ依リ異議ノ申立ヲ為シタル者其ノ決定前ニ於テ亦同シ
第十四条 煙草耕作者一番葉ノ収穫ヲ終リタルトキハ直ニ其ノ幹根ヲ抜除シ其ノ幹ニ附著スル葉煙草ハ之ヲ廃棄スヘシ
種子ノ採取又ハ二番葉ノ収穫ヲ為サムトスル者ハ政府ノ許可ヲ受クヘシ
前項ノ場合ニ於テ採取又ハ収穫ヲ終リタルトキハ第一項ノ処置ヲ為スヘシ
第十五条 煙草耕作者ノ収穫シタル葉煙草ハ乾燥調理ノ後政府ニ納付スヘシ
納付ノ期日及場所ハ政府之ヲ定ム
煙草耕作者ノ収穫シタル葉煙草ニシテ政府ノ収納ニ適セサルモノハ政府ノ承認ヲ経テ之ヲ廃棄スヘシ
第十六条 煙草耕作者ノ納付シタル葉煙草ハ鑑定人ヲシテ之ヲ鑑定セシメ其ノ等級ニ依リ賠償金ヲ交付ス
煙草耕作者前項ノ鑑定ニ不服ナルトキハ再鑑定ヲ求ムルコトヲ得但シ賠償金ノ請求ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
再鑑定申立人ノ主張ニ係ル葉煙草ノ等級ト再鑑定等級トノ差カ第一項ノ鑑定等級ト再鑑定等級トノ差ヨリ大ナルトキハ再鑑定ニ関スル費用ハ其ノ申立人ノ負担トス
再鑑定ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 煙草耕作者正当ノ事由ナクシテ政府ノ査定若ハ決定シタル量目又ハ葉数以上ノ葉煙草ヲ納付セサルトキハ政府ハ其ノ不足額ニ対シ第十八条第二項ノ規定ニ準シテ算定シタル金額ノ三倍以下ヲ納付セシムルコトヲ得
第十八条 煙草耕作者私ニ耕作段別ヲ減少シ又ハ耕作ヲ廃止シタルトキハ政府ハ其ノ減作地又ハ廃作地ニ生産スヘキ葉煙草ノ価格ニ相当スル金額ヲ納付セシムルコトヲ得
前項葉煙草ノ価格ハ其ノ年ニ於ケル近傍類似煙草耕作地ノ葉煙草生産額及之ニ対スル賠償金額ヲ標準トシ之ヲ算定ス
第十九条 煙草耕作者其ノ耕作段別ヲ減少シ又ハ耕作ヲ廃止シタル場合ニ於テ其ノ耕作ヲ承継スル者ナキトキハ政府ハ其ノ現存スル煙草又ハ煙草苗ヲ廃棄セシムルコトヲ得
第二十条 煙草耕作者ノ葉煙草ハ其ノ耕作地、乾燥場、蔵置場又ハ其ノ収納官署ノ外他ニ之ヲ運送スルコトヲ得ス
政府ハ必要ト認ムルトキハ葉煙草運送ノ通路及時間ヲ指定スルコトヲ得
第二十一条 公共団体又ハ私人ニ於テ試作場ヲ特設シ煙草ノ試作ヲ為サムトスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クヘシ
前項ノ試作ニ関シテハ第四条、第七条、第九条、第十五条、第十六条第一項及第十九条ノ規定ヲ準用ス
第二十二条 製造煙草ハ政府又ハ政府ノ指定シタル煙草元売捌人若ハ煙草小売人ニ非サレハ之ヲ販売スルコトヲ得ス
煙草売捌人及煙草ノ販売ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十三条 煙草小売人ハ政府ノ定メタル価格ヲ以テスルニ非サレハ製造煙草ヲ消費者ニ販売スルコトヲ得ス
第二十四条 煙草売捌人ハ政府ノ封緘ヲ施シタル製造煙草ノ包裹ヲ開披シ若ハ之ヲ改装シ又ハ包裹ノ破損シタル製造煙草ヲ販売スルコトヲ得ス
第二十五条 輸出ノ為葉煙草又ハ製造煙草ノ売渡ヲ請求スル者アルトキハ政府ハ特ニ定メタル価格ヲ以テ之ヲ売渡スコトヲ得
前項煙草ノ売渡ヲ受ケタル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ帳簿ヲ調製シ其ノ営業ニ関スル事項ヲ記載スヘシ
輸出ニ供スル煙草ヲ製造セムトスル者ノ為政府ハ一定ノ地域ニ於テ煙草自由倉庫ヲ設置シ又ハ其ノ設置ヲ特許スルコトヲ得
煙草自由倉庫及其ノ特許ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六条 前条ニ依リ輸出ノ為葉煙草又ハ製造煙草ヲ買受ケタル者ハ政府ノ指定シタル期間内ニ輸出免状ニ外国仕向港ニ陸揚ヲ為シタルコトヲ証スヘキ書類ヲ添ヘ政府ニ差出スヘシ
正当ノ事由ナクシテ前項ノ免状及書類ヲ差出ササルトキハ政府ハ葉煙草ニ付テハ第二十九条製造煙草ニ付テハ第三十条ノ規定ニ依リ相当金額ヲ納付セシム
第二十七条 輸出ノ為政府ヨリ買受ケタル葉煙草又ハ製造煙草ハ輸出前之ヲ他ニ譲渡シ又ハ消費スルコトヲ得ス但シ其ノ使用ニ適セサルニ至リタルモノハ政府ノ許可ヲ受ケテ之ヲ廃棄スルコトヲ得
第二十八条 輸出ノ為政府ヨリ買受ケタル葉煙草又ハ製造煙草ノ輸出ヲ廃止シタルトキ又ハ買受ノ日ヨリ一箇年ヲ過キ之ヲ輸出セサルトキハ其ノ使用ニ適スルモノニ限リ政府之ヲ収納シ其ノ他ハ之ヲ廃棄セシム
前項ノ収納ヲ為ストキハ鑑定人ヲシテ鑑定セシメ賠償金ヲ交付ス但シ其ノ賠償金ハ第二十五条ニ依ル売渡価格ニ超過スルコトヲ得ス
第二十九条 本法ノ規定ニ依リ輸出シ、廃棄シ及収納セラレタル葉煙草並現在葉煙草ノ総量目カ政府ヨリ買受ケタル葉煙草ノ総量目ニ比シ正当ノ事由ナクシテ不足シタルトキハ政府ハ輸出者ヲシテ其ノ不足額ニ対シ第二十五条ノ売渡価格ニ相当スル金額ノ四倍以下ヲ納付セシム
第三十条 本法ノ規定ニ依リ輸出シ、廃棄シ及収納セラレタル製造煙草並現在製造煙草ノ総量目カ政府ヨリ買受ケタル製造煙草ノ総量目ニ比シ正当ノ事由ナクシテ不足シタルトキハ政府ハ輸出者ヲシテ其ノ不足額ニ対シ第二十三条ノ売渡価格ト第二十五条ノ売渡価格トノ差額ニ相当スル金額ノ二倍以下ヲ納付セシム
第三十一条 政府ハ標本ニ供スルモノニ限リ葉煙草ヲ交付シ又ハ煙草ノ輸入ヲ許可スルコトヲ得
標本ニ供スル煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケ標本トシテ他ニ譲渡シ又ハ試験ノ用ニ供シ又ハ廃棄スルノ外之ヲ処分スルコトヲ得ス
第三十二条 健康上若ハ習慣上欠クヘカラサル製造煙草ハ自用ニ供スルモノニ限リ自用者ニ於テ政府ノ許可ヲ受ケ之ヲ輸入スルコトヲ得
第三十三条 輸出ノ為買受ケタル煙草ハ政府ノ許可ヲ受ケタル場所ニ非サレハ之ヲ蔵置スルコトヲ得ス
第三十四条 何人ト雖本法ニ於テ認メタル場合ノ外葉煙草、政府ノ証票ヲ附セサル製造煙草又ハ煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ヲ所持シ、譲渡シ若ハ譲受クルコトヲ得ス
前項ノ物件ハ本法ニ依リ没収スル場合ノ外政府ニ於テ之ヲ処分ス
第三十五条 何人ト雖営業ノ目的ヲ以テ煙草ニ代用スヘキ物品ヲ製造シ又ハ販売スルコトヲ得ス
第三十六条 煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ハ政府ノ許可ヲ受ケタル者ニ非サレハ之ヲ製作シ、販売シ又ハ蔵置スルコトヲ得ス
第三十七条 煙草耕作者、試作者又ハ煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ノ製作者、販売者若ハ蔵置者本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキハ政府ハ耕作、試作、蔵置又ハ営業ノ許可ヲ取消スコトヲ得
第三十八条 政府ハ煙草ノ苗床、耕作地、試作地、乾燥場、蔵置場又ハ煙草苗、煙草若ハ煙草製造器具機械及巻紙ノ所在ト認ムル場所又ハ煙草苗、煙草若ハ煙草製造器具機械及巻紙ヲ検査シ又ハ監督上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
当該官吏ハ前項ノ検査ニ際シ必要ト認ムルトキハ関係人ヲシテ之ニ立会ハシムルコトヲ得
第三十九条 行政執行ノ手続ニ依リ費用ヲ納付セシムル場合ニ於テ義務者ニ交付スヘキ金額アルトキハ之ヲ差引スルコトヲ得
第四十条 本法ノ規定ニ依リ納付セシムヘキ金額ノ徴収ニ関シテハ国税徴収法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第四十一条 第三条又ハ第九条第一項ニ違反シタル者ハ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草又ハ煙草苗ハ之ヲ没収ス許可ヲ受ケスシテ試作ヲ為シタル者亦同シ
第四十二条 煙草耕作者許可ヲ受ケサル土地ニ煙草ヲ耕作シ若ハ煙草苗ヲ育成シ又ハ許可ヲ受ケサル種類ノ煙草ヲ耕作シ又ハ許可ヲ受ケスシテ煙草苗ヲ譲渡シ若ハ譲受ケタルトキハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草又ハ煙草苗ハ之ヲ没収ス
第四十三条 煙草耕作者許可ヲ受ケサル場所ニ葉煙草ヲ乾燥シ又ハ蔵置シタルトキハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ没収ス
情ヲ知リテ前項ノ場所ヲ供与シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十四条 第十三条ニ違反シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ没収ス
第四十五条 第十四条及第十九条ニ依リ葉煙草ヲ廃棄スヘキ者其ノ葉煙草ヲ収穫シ又ハ種子ヲ採取シタルトキハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草又ハ種子ハ之ヲ没収ス
第四十六条 天災其ノ他避クヘカラサル事変ニ依ルニ非スシテ第二十条第一項ニ違反シ又ハ政府ノ指定シタル通路若ハ時間ニ依ラスシテ葉煙草ヲ運送シタル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ没収ス
第四十七条 煙草耕作者正当ノ事由ナクシテ政府ノ指定シタル納付期日ニ葉煙草ヲ納付セサルトキハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十八条 政府ニ納付スヘキ葉煙草ヲ他ニ譲渡シ又ハ消費シ又ハ隠蔽シタル者ハ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草ハ之ヲ没収ス之ヲ譲受ケタル者亦同シ
情ヲ知リテ葉煙草隠蔽ノ場所ヲ供与シタル者ハ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十九条 煙草売捌人ニ非スシテ製造煙草ヲ販売シ又ハ販売ノ準備ヲ為シタル者ハ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル製造煙草ハ之ヲ没収ス
第五十条 第二十三条又ハ第二十四条ニ違反シタル者ハ五円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十一条 煙草輸出者帳簿ヲ調製セス又ハ其ノ記載ヲ怠リ若ハ不正ノ記載ヲ為シタルトキハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十二条 第二十七条ニ違反シタル者ハ三十円以上千円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ没収ス之ヲ譲受ケタル者亦同シ
第五十三条 第三十一条第二項ニ違反シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス其ノ煙草ヲ譲受ケタル者亦同シ
第五十四条 第三十二条ニ依リ輸入シタル煙草ヲ他ニ譲渡シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ没収ス
第五十五条 第三十三条ニ違反シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス情ヲ知リテ蔵置ノ場所ヲ供与シタル者亦同シ
第五十六条 許可ヲ受ケサル者ノ耕作若ハ試作シタル葉煙草又ハ煙草耕作者、試作者ニ非サル者ノ育成シタル煙草苗又ハ権利者ノ不明ナル葉煙草若ハ煙草苗ヲ所持スル者ハ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル葉煙草若ハ煙草苗ハ之ヲ没収ス
第五十七条 第三十四条第一項ニ違反シテ製造煙草ヲ所持シ、譲渡シ又ハ譲受ケタル者ハ煙草売捌人ニ在リテハ百円以上千円以下ノ罰金ニ処シ其ノ他ノ者ニ在リテハ十円以上三百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル製造煙草ハ之ヲ没収ス
第五十八条 私ニ煙草ヲ製造シ又ハ製造ノ準備ヲ為シタル者ハ百円以上千円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草及煙草製造器具機械及巻紙ハ之ヲ没収ス
第五十九条 第三十五条ニ違反シタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル物品並其ノ原料、製造器具機械及巻紙ハ之ヲ没収ス
第六十条 第三十六条ニ違反シタル者又ハ権利者不明ノ煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ヲ所持シタル者ハ三十円以上五百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ハ之ヲ没収ス
第六十一条 本法ノ犯罪ニ係ル物件ヲ他ニ譲渡シ若ハ消費シタルトキ又ハ其ノ物件ニシテ他ニ所有者アル為没収スルコトヲ得サルトキハ其ノ価格ニ相当スル金額ヲ追徴ス
第六十二条 当該官吏ノ尋問ニ対シ虚偽ノ答弁ヲ為シ又ハ当該官吏ノ職務執行ヲ拒ミ又ハ之ヲ忌避シ又ハ之ニ支障ヲ加ヘタル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
第六十三条 煙草耕作者、試作者、煙草売捌人、煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ノ製作者、販売者若ハ蔵置者又ハ煙草輸出者カ未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ之ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第六十四条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シタル者ニハ刑法ノ減軽、再犯加重及数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第六十五条 煙草耕作者、試作者、煙草売捌人、煙草製造専用ノ器具機械及巻紙ノ製作者、販売者若ハ蔵置者又ハ煙草輸出者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人、其ノ他ノ従業者ニシテ其ノ業務ニ関シ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ処罰ヲ免カルルコトヲ得ス
第六十六条 明治三十三年法律第五十二号ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
第六十七条 間接国税犯則者処分法ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ違反事件ニ之ヲ準用ス但シ同法ニ定メタル職務ヲ行フ官吏ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第六十八条 本法ハ明治三十七年七月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ第二十二条第二項及第七十三条ハ本法発布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行ノ際ニ於ケル煙草製造業者ハ明治三十八年三月三十一日迄刻煙草ノ製造ニ限リ其ノ営業ヲ継続スルコトヲ得
前項刻煙草ノ製造及其ノ原料ニ供スル葉煙草ノ売買ニ関シテハ明治三十八年三月三十一日迄本法ノ規定ヲ適用セス仍葉煙草専売法ヲ適用ス
第六十九条 本法施行ノ際ニ於ケル葉煙草耕作者ハ本法ニ依ル煙草耕作者ト看做ス
第七十条 左記ノ物件ハ政府之ヲ徴収シ之ニ対シ補償金ヲ交付ス
一 明治三十七年六月三十日ニ現在スル煙草製造専用ノ器具機械及巻紙但シ刻煙草製造専用ノモノヲ除ク
二 明治三十八年三月三十一日ニ現在スル刻煙草製造専用ノ器具機械
三 明治三十八年三月三十一日ニ現在スル葉煙草
第七十一条 本法施行ノ際政府ノ保管ニ係ル輸出葉煙草ニ関シテハ本法施行後ト雖仍葉煙草専売法ヲ適用ス
第七十二条 明治三十七年六月三十日ニ現在スル刻煙草以外ノ煙草製造業者ノ所有ニ係ル葉煙草ハ明治三十八年三月三十一日迄ハ刻煙草製造業者若ハ葉煙草売買業者ニ限リ之ヲ譲渡シ又ハ之ヲ所有スルコトヲ得但シ外国産葉煙草ニ限リ明治三十七年七月二十日迄ニ其ノ買上ヲ政府ニ請求スルコトヲ得
第七十三条 本法発布ノ際ニ現在スル煙草製造用ノ建物、其ノ敷地及其ノ製造場備附ノ煙草製造用ノ器具機械ハ政府ニ於テ之ヲ徴収スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ之ニ対シ補償金ヲ交付ス
政府ハ本法発布ノ後煙草製造業者ノ営業場ニ就キ前項ニ依リ徴収スヘキ物件ヲ調査シ徴収目録ヲ調成ス
徴収目録ハ本法発布後六十日以内ニ之ヲ所有者ニ告知ス
前項ノ告知後ハ所有者ハ政府ノ承認ヲ受クルニ非サレハ徴収目録ニ記載シタル物件ヲ処分スルコトヲ得ス
第七十四条 煙草製造業者ノ所有ニ係ル煙草ノ製造及装置ニ使用スヘキ物件並其ノ現ニ使用スル煙草製造及装置用器具機械ニシテ第七十条ノ規定ニ該当セサルモノハ其ノ買上ヲ政府ニ請求スルコトヲ得但シ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年六月三十日ニ現在スルモノニ限リ刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年三月三十一日ニ現在スルモノニ限ル
前項ニ依リ買上ヲ請求シ得ヘキ物件ノ種類数量並器具機械ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十五条 政府ハ煙草製造業者ニ対シ其ノ請求ニ依リ煙草売渡代金ノ二割ニ相当スル金額ヲ交付シ其ノ額金五百円ニ満タサル者ニ対シテハ金五百円ヲ交付ス但シ煙草製造用ノ建物及其ノ敷地ヲ所有スル者ニシテ其ノ建物及敷地ノ全部ノ徴収又ハ買上ヲ受ケサル者ニ対シテハ尚交付金ニ相当スル金額ノ六分ノ一ヲ増給ス
煙草製造業者ニシテ煙草元売捌人ニ指定セラレタルモノニ対シテハ前項ノ規定ヲ適用セス
第一項ニ依リ交付スヘキ金額ハ総計金九百十万円ヲ以テ限度トス若此ノ金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ各自ニ按分シテ之ヲ減少ス
第一項ノ売渡代金ハ明治三十五年ヨリ明治三十六年ニ至ル二箇年間ノ売渡代金ノ平均高ニ依リ明治三十五年二月以後ニ其ノ営業ヲ開始シタル者ハ明治三十六年ノ売渡高ニ依ル
第一項ニ煙草製造業者トアルハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十六年一月三十一日以前ヨリ明治三十七年六月三十日ニ至ル迄、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十六年一月三十一日以前ヨリ明治三十八年三月三十一日ニ至ル迄其ノ営業ヲ継続シタルモノニ限ル但シ家督相続人カ被相続人ノ営ミタル煙草製造業ヲ継続シタル場合ニ於テ被相続人ノ営業期間ハ家督相続人ノ営業期間ト看做ス
第七十六条 第七十五条第一項ノ売渡代金ハ確実ナリト認ムル帳簿書類ニ依リ政府之ヲ決定ス
第七十七条 第七十条、第七十三条ノ補償価格及第七十二条、第七十四条ノ買上価格ハ協議ニ依リ之ヲ定ム協議整ハサルトキハ鑑定人ノ意見ヲ徴シ政府之ヲ決定ス
前項ノ決定ニ対シ不服アル者ハ十日以内ニ其ノ申立ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ政府ハ更ニ鑑定人ノ意見ヲ徴シ之ヲ裁定ス
鑑定人ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十八条 第七十条第一号ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十七年七月五日迄ニ、同条第二号ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十八年四月五日迄ニ其ノ種類数量ヲ政府ニ申告スヘシ此ノ期限ヲ過キ申告ヲ為ササルトキハ其ノ物件ノ蔵置ニ関シテハ第三十六条及第六十条ヲ適用ス
前項ニ依リ申告ヲ為シタル物件ノ蔵置ニ関シテハ之カ徴収ヲ終ル迄第三十六条ヲ適用セス
第七十九条 第七十条第三号ノ物件ヲ所有スル者ハ明治三十八年四月五日迄ニ其ノ種類数量ヲ政府ニ申告スヘシ此ノ期限ヲ過キ申告ヲ為ササルトキハ其ノ物件ノ蔵置ニ関シテハ第五十六条ノ例ニ依リ処分ス
第八十条 第七十四条ニ依ル物件買上ノ請求ハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年七月五日迄ニ、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年四月五日迄ニ之ヲ為スヘシ
第八十一条 第七十五条ニ依ル交付金ノ請求ハ刻煙草以外ノ煙草製造業者ニ在リテハ明治三十七年九月三十日迄ニ、刻煙草製造業者ニ在リテハ明治三十八年六月三十日迄ニ之ヲ為スヘシ
第八十二条 本法施行ノ際現在スル製造煙草又ハ刻煙草製造業者ノ明治三十八年三月三十一日迄ニ製造シタル刻煙草ハ本法ノ規定ニ依ラス之ヲ所持シ、譲渡シ又ハ譲受クルコトヲ得
政府ハ必要ト認メタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ製造煙草ニ包裹ヲ施サシメ並一定ノ証票ヲ貼附セシムルコトヲ得
前項ニ依ル命令ニ違反シ包裹ヲ施サス又ハ証票ヲ貼附セサル製造煙草ニ関シテハ第三十四条及第五十七条ヲ準用ス
第八十三条 煙草製造業者又ハ製造煙草ヲ販売スル者ハ明治三十七年六月三十日ニ於テ現ニ其ノ所持ニ係ル刻煙草以外ノ製造煙草ノ種類数量ヲ明治三十七年七月十日迄ニ政府ニ申告スヘシ
刻煙草製造業者ハ明治三十八年三月三十一日ニ於テ現ニ其ノ所持ニ係ル刻煙草ノ種類数量ヲ翌月十日迄ニ政府ニ申告スヘシ
第八十四条 本法施行後政府ノ売渡ササル製造煙草ヲ販売スル者ハ営業ニ関スル帳簿ヲ調製シ明治三十七年七月以後毎月末日ニ於ケル製造煙草ノ種類数量及其ノ月ノ受払高ヲ翌月五日迄ニ政府ニ申告スヘシ
第八十五条 第八十三条及第八十四条ノ規定ニ違反シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第八十六条 葉煙草専売法ニ違反シタル者ニハ本法施行後ト雖仍同法ヲ適用ス
第八十七条 本法ハ勅令ヲ以テ指定シタル島嶼ニハ之ヲ施行セス
本法ヲ施行セサル地ト本法施行地トノ間ニ於ケル煙草ノ移入移出ニ関シテハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ム
政府ノ外本法ヲ施行セサル地ヨリ煙草ヲ本法施行地ニ移入スルコトヲ得ス犯シタル者ハ十円以上千円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル煙草ハ之ヲ没収ス
第八十八条 明治三十八年ニ於テハ煙草製造業者及葉煙草売買業者ニ係ル免許料ハ之ヲ徴収セス
明治三十七年ニ於ケル刻煙草以外ノ製造業者ニ係ル免許料ハ其ノ十二分ノ六ヲ還付ス
第八十九条 第七十条、第七十三条ノ補償金、第七十二条、第七十四条ノ買上金及第七十五条ノ交付金ニ充ツル為政府ハ国庫債券ヲ発行スルコトヲ得
第七十五条ノ交付金ハ国庫債券ヲ以テ之ヲ給付ス但シ五十円未満ノ端数ハ現金ヲ以テ之ヲ給付ス
第七十条、第七十三条ノ補償金及第七十二条、第七十四条ノ買上金ハ本人ノ請求ニ依リ国庫債券ヲ以テ給付スルコトアルヘシ
国庫債券ニ対シテハ一箇年百分ノ五ノ利子ヲ附シ発行ノ年ヨリ七箇年以内ニ之ヲ償還ス
国庫債券ニ関シテハ本条ニ規定スルモノノ外整理公債条例ニ準拠ス