所得税法
法令番号: 勅令第五號
公布年月日: 明治20年3月23日
法令の形式: 勅令
朕所得稅法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十年三月十九日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
大藏大臣 伯爵 松方正義
勅令第五號
所得稅法
第一條 凡ソ人民ノ資產又ハ營業其他ヨリ生スル所得金高一箇年三百圓以上アル者ハ此稅法ニ依テ所得稅ヲ納ムヘシ
但同居ノ家族ニ屬スルモノハ總テ戶主ノ所得ニ合算スルモノトス
第二條 所得ハ左ノ定則ニ據テ算出スヘシ
第一 公債證書其他政府ヨリ發シ若クハ政府ノ特許ヲ得テ發スル證券ノ利子、營業ニアラサル貸金預金ノ利子、株式ノ利益配當金、官私ヨリ受クル俸給、手當金、年金、恩給金及割賦賞與金ハ直ニ其金額ヲ以テ所得トス
第二 第一項ヲ除クノ外資產又ハ營業其他ヨリ生スルモノハ其種類ニ應シ收入金高若クハ收入物品代價中ヨリ國稅、地方稅、區町村費、備荒儲蓄金、製造品ノ原質物代價、販賣品ノ原價、種代、肥料、營利事業ニ屬スル場所物件ノ借入料、修繕料、雇人給料、負債ノ利子及雜費ヲ除キタルモノヲ以テ所得トス
第三 第二項ノ所得ハ前三箇年間所得平均高ヲ以テ算出スヘシ但所得收入以來未タ三年ニ滿タサルモノハ月額平均其平均ヲ得難キモノハ他ニ比準ヲ取リテ算出スヘシ
第三條 左ニ揭クルモノハ所得稅ヲ課セス
第一 軍人從軍中ニ係ル俸給
第二 官私ヨリ受クル旅費、傷痍疾病者ノ恩給金及孤兒寡婦ノ扶助料
第三 營利ノ事業ニ屬セサル一時ノ所得
第四條 所得稅ノ等級及稅率左ノ如シ
等級 稅率
第一等 所得金高三萬圓以上 百分ノ三
第二等 所得金高貳萬圓以上 百分ノ二半
第三等 所得金高壹萬圓以上 百分ノ二
第四等 所得金高千圓以上 百分ノ一半
第五等 所得金高三百圓以上 百分ノ一
但所得金高ハ圓位未滿ノ端數ヲ算セス
第五條 所得稅ハ前半年分ヲ其年九月ニ後半年分ヲ翌年三月ニ納ムヘシ
第六條 此稅法ニ依リ稅金ヲ納ムヘキ所得アル者ハ其年所得ノ豫算金高及種類ヲ記シ每年四月三十日マテニ居住地ノ戶長ヲ經テ郡區長ニ屆出ヘシ
第七條 各郡區役所管轄內ニ七名以下ノ所得稅調査委員ヲ置キ每年調査委員會ヲ開キ所得稅ニ關スル調査ヲ爲サシム
調査委員定數ノ外五名以下ノ補缺員ヲ置キ缺員ノ補充ニ備フヘシ
調査委員及補缺員ニ選ハレタル者ハ正當ノ事由ナクシテ之ヲ辭スルコトヲ得ス
第八條 調査委員ハ其郡區內ノ選舉ヲ以テ之ヲ定ム
第九條 調査委員ノ選擧人被選人ハ二十五歲以上ノ男子ニシテ其郡區內ニ現住シ所得稅ヲ納ムル者ニ限ル但府縣會規則第十三條第一欵第二欵第三欵第四欵ニ觸ルヽ者ハ被選人タルコトヲ得ス同條第一欵第二欵第三欵ニ觸ルヽ者ハ選擧人タルコトヲ得ス
第十條 郡區長ハ各町村內ニ五名ヨリ多カラサル町村選擧人ノ員數ヲ定メ其町村人民中第九條ノ資格ヲ有スル者ヲシテ互選セシム但便宜ニヨリ數町村ヲ合シテ五名ヨリ多カラサル選擧人ヲ定ムルコトヲ得
町村選舉人ハ第九條ノ範圍內ニ於テ調査委員及補缺員ヲ選擧スヘシ
第十一條 調査委員ノ任期ハ滿四年トシ二年每ニ全數ノ半ヲ改選ス但第一囘ノ改選ハ抽籤ヲ以テ其退任者ヲ定ム
第十二條 調査委員ノ手當、旅費其他調査ニ關スル費用ハ國庫ヨリ之ヲ支給ス
第十三條 郡區長ハ第六條ノ屆書ニ據リ所得金高下調書ヲ製シ其屆書ト共ニ調査委員會ニ付スヘシ
第十四條 郡區長ハ納稅者ト認ムルモノニシテ第六條ノ期限ヲ過キテ其屆出ヲ爲サヽル者アルトキハ所得金高ノ見積ヲ立テ之ヲ調査委員會ニ付スヘシ
第十五條 調査委員會ハ郡區長ノ招集ニ由リ之ヲ開ク調査委員會ノ會長ハ郡區長ヲ以テ之ニ充ツ郡區長缺席スルトキハ會員ノ互選ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條 調査委員會ハ會員過半數出席スルニアラサレハ會議ヲ開クコトヲ得ス會議ハ出席員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ可否スル所ニ依ル但自己ノ所得ニ關スルトキハ其會議ニ與ルコトヲ得ス
第十七條 郡區長ハ調査委員會ノ決議ニ據リ各納稅者ノ所得稅等級金額ヲ定メ之ヲ納稅者ニ達スヘシ
第十八條 郡區長ハ調査委員會ノ決議ニ關シ意見アルトキハ府縣知事ニ具狀シ指揮ヲ請フヘシ
第十九條 納稅者ニ於テ所得稅ノ等級金額ヲ不當トスルトキハ其達ヲ受ケタル日ヨリ二十日以內ニ所得金高明細書及其證憑トナルヘキモノヲ添ヘ府縣知事ニ申出ルコトヲ得但此場合ニ於ケルモ其稅金ハ達ヲ受ケタル金額ニ從テ之ヲ納ムヘシ
第二十條 府縣知事ハ第十八條第十九條ノ場合ニ於テハ府縣常置委員會ニ付シテ調査セシメ其決議ニ據テ之ヲ處分スヘシ但其處分納稅後ニ捗ルトキハ稅額ノ不足アルモノハ之ヲ追徵シ過剩アルモノハ之ヲ還付スヘシ
第二十一條 調査委員會又ハ常置委員會ハ此稅法ニ關シ調査上必要ト認ムルトキハ納稅者ニ尋問スルコトヲ得
第二十二條 調査委員其他所得稅ノ調査ニ關スル者ハ納稅者ノ資產及所得ニ係ル事件ヲ他ニ漏洩スヘカラス
第二十三條 納稅者其納期前ニ於テ所得金高十分ノ五以上ヲ減損シタルトキハ郡區長ニ申出ルコトヲ得郡區長ハ事實ヲ審査シテ其稅額ヲ減シ所得金高一箇年三百圓ヲ下ルモノハ之ヲ免稅スヘシ但既納ノ稅金ハ之ヲ還付セス
第二十四條 所得金高ヲ隱蔽シテ逋稅シタル者ハ其逋稅金高三倍ノ罰金ニ處ス但自首スル者ハ其稅金ヲ追徵シ其罪ヲ問ハス
第二十五條 第二十二條ヲ犯シタル者ハ三圓以上三拾圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十六條 第六條ノ屆出ヲ爲サヽル者ハ壹圓以上壹圓九拾五錢以下ノ科料ニ處ス
第二十七條 此稅法ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ不論罪及減輕、再犯加重、數罪倶發ノ例ヲ用ヒス
第二十八條 此稅法施行ニ關スル細則ハ大藏大臣之ヲ定ム
第二十九條 此稅法ハ明治二十年七月一日ヨリ施行ス
但北海道、沖繩縣及東京府管轄小笠原島、伊豆七島ニ於テハ官府ヨリ受クル俸給、手當、年金及恩給金ノ外ハ當分ノ內之ヲ施行セス
附 則
本法第六條ノ屆書ハ本年ニ限リ七月三十一日マテニ差出スヘシ
朕所得税法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十年三月十九日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
大蔵大臣 伯爵 松方正義
勅令第五号
所得税法
第一条 凡ソ人民ノ資産又ハ営業其他ヨリ生スル所得金高一箇年三百円以上アル者ハ此税法ニ依テ所得税ヲ納ムヘシ
但同居ノ家族ニ属スルモノハ総テ戸主ノ所得ニ合算スルモノトス
第二条 所得ハ左ノ定則ニ拠テ算出スヘシ
第一 公債証書其他政府ヨリ発シ若クハ政府ノ特許ヲ得テ発スル証券ノ利子、営業ニアラサル貸金預金ノ利子、株式ノ利益配当金、官私ヨリ受クル俸給、手当金、年金、恩給金及割賦賞与金ハ直ニ其金額ヲ以テ所得トス
第二 第一項ヲ除クノ外資産又ハ営業其他ヨリ生スルモノハ其種類ニ応シ収入金高若クハ収入物品代価中ヨリ国税、地方税、区町村費、備荒儲蓄金、製造品ノ原質物代価、販売品ノ原価、種代、肥料、営利事業ニ属スル場所物件ノ借入料、修繕料、雇人給料、負債ノ利子及雑費ヲ除キタルモノヲ以テ所得トス
第三 第二項ノ所得ハ前三箇年間所得平均高ヲ以テ算出スヘシ但所得収入以来未タ三年ニ満タサルモノハ月額平均其平均ヲ得難キモノハ他ニ比準ヲ取リテ算出スヘシ
第三条 左ニ掲クルモノハ所得税ヲ課セス
第一 軍人従軍中ニ係ル俸給
第二 官私ヨリ受クル旅費、傷痍疾病者ノ恩給金及孤児寡婦ノ扶助料
第三 営利ノ事業ニ属セサル一時ノ所得
第四条 所得税ノ等級及税率左ノ如シ
等級 税率
第一等 所得金高三万円以上 百分ノ三
第二等 所得金高弐万円以上 百分ノ二半
第三等 所得金高壱万円以上 百分ノ二
第四等 所得金高千円以上 百分ノ一半
第五等 所得金高三百円以上 百分ノ一
但所得金高ハ円位未満ノ端数ヲ算セス
第五条 所得税ハ前半年分ヲ其年九月ニ後半年分ヲ翌年三月ニ納ムヘシ
第六条 此税法ニ依リ税金ヲ納ムヘキ所得アル者ハ其年所得ノ予算金高及種類ヲ記シ毎年四月三十日マテニ居住地ノ戸長ヲ経テ郡区長ニ届出ヘシ
第七条 各郡区役所管轄内ニ七名以下ノ所得税調査委員ヲ置キ毎年調査委員会ヲ開キ所得税ニ関スル調査ヲ為サシム
調査委員定数ノ外五名以下ノ補欠員ヲ置キ欠員ノ補充ニ備フヘシ
調査委員及補欠員ニ選ハレタル者ハ正当ノ事由ナクシテ之ヲ辞スルコトヲ得ス
第八条 調査委員ハ其郡区内ノ選挙ヲ以テ之ヲ定ム
第九条 調査委員ノ選挙人被選人ハ二十五歳以上ノ男子ニシテ其郡区内ニ現住シ所得税ヲ納ムル者ニ限ル但府県会規則第十三条第一款第二款第三款第四款ニ触ルヽ者ハ被選人タルコトヲ得ス同条第一款第二款第三款ニ触ルヽ者ハ選挙人タルコトヲ得ス
第十条 郡区長ハ各町村内ニ五名ヨリ多カラサル町村選挙人ノ員数ヲ定メ其町村人民中第九条ノ資格ヲ有スル者ヲシテ互選セシム但便宜ニヨリ数町村ヲ合シテ五名ヨリ多カラサル選挙人ヲ定ムルコトヲ得
町村選挙人ハ第九条ノ範囲内ニ於テ調査委員及補欠員ヲ選挙スヘシ
第十一条 調査委員ノ任期ハ満四年トシ二年毎ニ全数ノ半ヲ改選ス但第一回ノ改選ハ抽籤ヲ以テ其退任者ヲ定ム
第十二条 調査委員ノ手当、旅費其他調査ニ関スル費用ハ国庫ヨリ之ヲ支給ス
第十三条 郡区長ハ第六条ノ届書ニ拠リ所得金高下調書ヲ製シ其届書ト共ニ調査委員会ニ付スヘシ
第十四条 郡区長ハ納税者ト認ムルモノニシテ第六条ノ期限ヲ過キテ其届出ヲ為サヽル者アルトキハ所得金高ノ見積ヲ立テ之ヲ調査委員会ニ付スヘシ
第十五条 調査委員会ハ郡区長ノ招集ニ由リ之ヲ開ク調査委員会ノ会長ハ郡区長ヲ以テ之ニ充ツ郡区長欠席スルトキハ会員ノ互選ヲ以テ之ヲ定ム
第十六条 調査委員会ハ会員過半数出席スルニアラサレハ会議ヲ開クコトヲ得ス会議ハ出席員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ会長ノ可否スル所ニ依ル但自己ノ所得ニ関スルトキハ其会議ニ与ルコトヲ得ス
第十七条 郡区長ハ調査委員会ノ決議ニ拠リ各納税者ノ所得税等級金額ヲ定メ之ヲ納税者ニ達スヘシ
第十八条 郡区長ハ調査委員会ノ決議ニ関シ意見アルトキハ府県知事ニ具状シ指揮ヲ請フヘシ
第十九条 納税者ニ於テ所得税ノ等級金額ヲ不当トスルトキハ其達ヲ受ケタル日ヨリ二十日以内ニ所得金高明細書及其証憑トナルヘキモノヲ添ヘ府県知事ニ申出ルコトヲ得但此場合ニ於ケルモ其税金ハ達ヲ受ケタル金額ニ従テ之ヲ納ムヘシ
第二十条 府県知事ハ第十八条第十九条ノ場合ニ於テハ府県常置委員会ニ付シテ調査セシメ其決議ニ拠テ之ヲ処分スヘシ但其処分納税後ニ捗ルトキハ税額ノ不足アルモノハ之ヲ追徴シ過剰アルモノハ之ヲ還付スヘシ
第二十一条 調査委員会又ハ常置委員会ハ此税法ニ関シ調査上必要ト認ムルトキハ納税者ニ尋問スルコトヲ得
第二十二条 調査委員其他所得税ノ調査ニ関スル者ハ納税者ノ資産及所得ニ係ル事件ヲ他ニ漏洩スヘカラス
第二十三条 納税者其納期前ニ於テ所得金高十分ノ五以上ヲ減損シタルトキハ郡区長ニ申出ルコトヲ得郡区長ハ事実ヲ審査シテ其税額ヲ減シ所得金高一箇年三百円ヲ下ルモノハ之ヲ免税スヘシ但既納ノ税金ハ之ヲ還付セス
第二十四条 所得金高ヲ隠蔽シテ逋税シタル者ハ其逋税金高三倍ノ罰金ニ処ス但自首スル者ハ其税金ヲ追徴シ其罪ヲ問ハス
第二十五条 第二十二条ヲ犯シタル者ハ三円以上三拾円以下ノ罰金ニ処ス
第二十六条 第六条ノ届出ヲ為サヽル者ハ壱円以上壱円九拾五銭以下ノ科料ニ処ス
第二十七条 此税法ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ不論罪及減軽、再犯加重、数罪倶発ノ例ヲ用ヒス
第二十八条 此税法施行ニ関スル細則ハ大蔵大臣之ヲ定ム
第二十九条 此税法ハ明治二十年七月一日ヨリ施行ス
但北海道、沖縄県及東京府管轄小笠原島、伊豆七島ニ於テハ官府ヨリ受クル俸給、手当、年金及恩給金ノ外ハ当分ノ内之ヲ施行セス
附 則
本法第六条ノ届書ハ本年ニ限リ七月三十一日マテニ差出スヘシ