朕商法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
內閣總理大臣兼內務大臣 伯爵 山縣有朋
海軍大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
文部大臣 子爵 榎本武揚
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
農商務大臣 岩村通俊
法律第三十二號
商法目錄
總則
第一編
商ノ通則
第一章
商事及ヒ商人
第二章
商業登記簿
第三章
商號
第四章
商業帳簿
第五章
代務人及ヒ商業使用人
第六章
商事會社及ヒ共算商業組合
商事會社總則
第一節
合名會社
第一款
會社ノ設立
第二款
會社契約ノ變更
第三款
社員間ノ權利義務
第四款
第三者ニ對スル社員ノ權利義務
第五款
社員ノ退社
第六款
會社ノ解散
第二節
合資會社
第三節
株式會社
第一款
總則
第二款
會社ノ發起及ヒ設立
第三款
會社ノ商號及ヒ株主名簿
第四款
株式
第五款
取締役及ヒ監査役
第六款
株主總會
第七款
定款ノ變更
第八款
株金ノ拂込
第九款
會社ノ義務
第十款
會社ノ檢査
第十一款
取締役及ヒ監査役ニ對スル訴訟
第十二款
會社ノ解散
第十三款
會社ノ淸算
第四節
罰則
第五節
共算商業組合
第七章
商事契約
第一節
契約ノ種類
第二節
契約ノ取結
第三節
契約ノ履行
第四節
價額賠償、損害賠償及ヒ割引
第五節
違約金
第六節
代理
第七節
時効
第八節
交互計算
第九節
質權
第十節
留置權
第十一節
指圖證券及ヒ無記名證券
第八章
代辨人、仲立人、仲買人、運送取扱人及ヒ運送人
第一節
總則
第二節
代辨人
第三節
仲立人
第四節
取引所仲立人
第五節
仲買人
第六節
運送取扱人
第七節
運送人
第八節
旅客運送
第九章
賣買
第一節
賣買契約
第二節
供給契約
第三節
競賣
第四節
取戾權
第十章
信用
第一節
消費貸借
第二節
信用約束
第三節
寄託
第十一章
保險
第一節
總則
第二節
火災及ヒ震災ノ保險
第三節
土地ノ產物ノ保險
第四節
運送保險
第五節
生命保險、病傷保險及ヒ年金保險
第六節
保險營業ノ公行
第十二章
手形及ヒ小切手
總則
第一節
爲替手形
第一款
振出
第二款
裏書
第三款
引受
第四款
榮譽引受
第五款
保證
第六款
支拂
第七款
榮譽支拂
第八款
償還請求
第九款
拒證書作成
第十款
戾爲替手形
第十一款
資金
第二節
約束手形
第三節
小切手
第二編
海商
第一章
船舶
第二章
船舶所有者
第一節
船舶所有權ノ取得及ヒ移轉
第二節
船舶所有者ノ權利及ヒ義務
第三章
船舶債權者
第四章
船長及ヒ海員
第一節
船長
第二節
海員
第五章
運送契約
第一節
船舶賃貸借契約
第二節
船荷證書
第三節
運送賃
第四節
旅客運送
第六章
海損
第七章
冒險貸借
第八章
保險
第一節
保險契約ノ取結
第二節
保險者及ヒ被保險者ノ權利義務
第三節
委棄
第九章
時効
第三編
破產
第一章
破產宣吿
第二章
破產ノ効力
第三章
別除權
第四章
保全處分
第五章
財團ノ管理及ヒ換價
第六章
債權者
第一節
債權ノ屆出及ヒ確定
第二節
特種ノ債權者
第三節
債權者集會
第七章
協諧契約
第八章
配當
第九章
有罪破產
第十章
破產ヨリ生スル身上ノ結果
第十一章
支拂猶豫
商法
總則
第一條 商事ニ於テ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習及ヒ民法ノ成規ヲ適用ス
第二條 特種ノ商事又ハ商人ノ爲メニ發布シタル法律、命令及ヒ規則ノ効力ハ本法ニ因リ妨ケラルルコト無シ
第一編 商ノ通則
第一章 商事及ヒ商人
第三條 商事トハ商人又ハ其他ノ人ノ爲シタルニ拘ハラス總テノ商取引及ヒ其他本法ニ規定シタル事項ヲ謂フ
第四條 商取引トハ賣買、賃貸又ハ其他ノ取捌ノ方法ニ因リ產物、商品又ハ有價證券ノ轉換ヲ以テ利益ヲ得又ハ生計ノ爲メニスル旨趣ニテ直接又ハ間接ニ行フ所ノ總テノ權利行爲ヲ謂フ殊ニ左ニ揭クルモノハ商取引ニ屬ス
第一 產物ノ交換、販賣ヲ目的トスル取引
第二 製造、工業及ヒ手職業ニ係ル作業及ヒ取引
第三 人及ヒ物ノ運送ニ係ル作業及ヒ取引
第四 航漕ニ係ル作業及ヒ取引
第五 建築ニ係ル作業及ヒ取引
第六 銀行營業ニ係ル作業及ヒ取引
第七 流通シ得ヘキ信用證券ノ發行及ヒ流通ニ係ル作業及ヒ取引
第八 商ノ爲メニ爲シ又ハ受クル倉庫寄託及ヒ其他ノ寄託ニ係ル作業及ヒ取引
第九 船舶ノ賣買、質入、抵當、構造、修繕、艤裝及ヒ乘組ニ係ル作業及ヒ取引
第十 取引所ノ取引
第十一 保險ニ係ル作業及ヒ取引
第五條 其他左ニ揭クルモノハ之ヲ商取引ト看做ス
第一 公ニ開キタル店舖、帳場若クハ其他ノ營業所ニ於テ又ハ公吿ヲ爲シテ營ム兩替及ヒ利息若クハ其他ノ報酬ヲ受クル金錢貸付
第二 新聞紙及ヒ其他ノ定期印刷物ノ發行
第三 商事ニ於ケル各般ノ代理及ヒ委任
第四 公ナル周旋所及ヒ代辨ノ營業
第五 公ナル共歡場及ヒ娛遊場ノ營業
第六 受負作業ノ引受
第六條 商人其營業上ニ於テ取結ヒ又ハ他ノ商人若クハ作業人ト取結ヒタル取引ハ反對ノ證ナキトキハ之ヲ商取引ト看做ス
第七條 左ニ揭クルモノハ之ヲ商取引ト看做サス
第一 所有地又ハ借地ヨリ收穫シタル產物ヲ賣ルコト但營業ノ目的ヲ以テセサルモノニ限ル
第二 戶戶ニ就キ又ハ道路ニ於テ物品ヲ賣リ又ハ勞役ヲ供スルコト但常設ノ營業所ヨリ出ツルモノハ此限ニ在ラス
第三 專ラ勞力賃ノミヲ得ル目的ニテ物品ヲ製作シ又ハ勞役ヲ爲スコト
第四 他人ノ爲メニ働作又ハ勞役ヲ賃約スルコト但本法中此等ノ契約ニ關スル規定ヲ揭ケサルトキニ限ル
第八條 不動產ニ關スル權利ヲ目的トスル契約ハ商取引トセス但射利ヲ旨趣トスル買得及ヒ轉賣ハ此限ニ在ラス
第九條 商人トハ總テ商業ヲ營ム者ヲ謂ヒ商業ヲ營ムトハ常業トシテ商取引ヲ爲スコトヲ謂フ
農作、牧畜、養蠶、狩獵、捕漁及ヒ採藻ノ業ヲ營ムハ商業ヲ營ムト看做サス
第十條 契約ニ因リ獨立シテ義務ヲ負フコトヲ得ル各人ハ一時ノ商取引ナルト常時ノ商業ナルトヲ問ハス總テ商ヲ爲スコトヲ得
獨立シテ義務ヲ負フコトヲ得サル者ト雖モ其後見人ニ依リ亦商ヲ爲スコトヲ得但後見人ハ商業登記簿ニ其登記ヲ受ク可シ
第十一條 男女ヲ問ハス未成年者ニシテ年齡十八歲ニ滿チ且父、母又ハ後見人ノ承諾ヲ得テ獨立ノ生計ヲ立ツル者ハ商ヲ爲スコトヲ得
右ノ未成年者自己ノ爲メ商ヲ爲サント欲スルトキハ前項ノ要件ヲ明記シ且自己及ヒ父、母又ハ後見人ノ署名捺印シタル陳述書ヲ管轄裁判所ニ差出シ登記ヲ受ク可シ然ルトキハ其登記ノ日ヨリ商事ニ於テ總テノ權利及ヒ義務ニ關シ成年者ト全ク同一ナルモノトス
第十二條 婦ハ其夫ノ明示又ハ默示ノ承諾ヲ得テ商ヲ爲スコトヲ得此承諾ハ其婦カ夫ニ遺棄セラレ又ハ夫ヨリ必要ノ給養ヲ受ケサルトキハ之ヲ得ルコトヲ要セス
婦カ其夫ノ商業ヲ助クルノミニテハ之ヲ商人ト看做サス
第十三條 商ヲ爲スコトヲ得ル婦ハ商事ニ於テハ獨立人ノ總テノ權利ヲ得義務ヲ負フ
婦ハ商ノ債務ニ付テハ婦ノ財產ニ對シテ夫ニ屬スル管理權又ハ其他ノ權利アルニ拘ハラス自己ノ全財產ヲ以テ其責任ヲ負フ但夫ノ承諾ヲ得テ商ヲ爲ス場合ニ於テ夫婦間ニ財產共通ノ存スルトキハ共通財產モ亦其責任ヲ負フ
第十四條 夫婦ノ一方カ商ヲ爲シ夫婦間ニ財產共通ヲ爲ササルトキ又ハ之ヲ解キタルトキハ商業登記簿ニ登記ヲ受クル爲メ其事實ヲ管轄裁判所ニ屆出ツルコトヲ要ス
夫婦ハ共ニ同一商事會社ノ無限責任社員タルコトヲ得ス
第十五條 法律上禁セラレタル總テノ商取引又ハ法律上特ニ規定セラレタル別段ノ資格ヲ有セサル者ノ爲シタル總テノ商取引ハ無効タリ
公務ヲ帶フル者商業ヲ營ムコトヲ禁セラレタル場合ト雖モ其者ノ爲シタル取引ハ此理由ノ爲メ無効ト爲ルコト無シ
第十六條 一方ノ者ノミニ對シテ商取引タル取引ニ付テハ本法ノ規定ヲ雙方ニ適用ス但本法中商人ノ身分ニ關スル規定及ヒ反對ノ意ヲ表シタル規定ハ此限ニ在ラス
第十七條 會社及ヒ其他ノ法人カ商業ヲ營ムトキハ亦商業ニ付キ設ケタル規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第二章 商業登記簿
第十八條 商號、後見人、未成年者、婚姻契約、代務及ヒ會社ニ關スル商業登記簿ハ當事者ノ營業所又ハ住所ノ裁判所ニ之ヲ備ヘ登記及ヒ之ニ關スル事務ハ其裁判所之ヲ行フ
前項ノ營業所又ハ住所ヲ他ノ地ニ移シタルトキハ既ニ登記シタル事實カ尙ホ存スル場合ニ限リ移轉地ニ於テモ亦更ニ其登記ヲ受ク可シ
第十九條 登記ハ其度每ニ裁判所ヨリ其地ニ於テ發行スル新聞紙ヲ以テ速ニ之ヲ公吿ス可シ其新聞紙ハ豫メ一曆年ノ間之ヲ定メ置クコトヲ要ス若シ其地ニ發行ノ新聞紙ナキトキハ其公吿ノ方法ハ司法大臣ノ定ムル所ニ依ル又各人ニ商業登記簿ノ縱覽ヲ許シ且手數料ヲ納ムル者ニハ認證シタル謄本ヲ請フコトヲ許ス
登記及ヒ公吿ヲ受クル每ニ手數料ヲ納メシム其額ハ勅令ヲ以テ一定平等ニ之ヲ定ム
第二十條 登記ヲ受ケントスルトキハ當事者ノ署名捺印シタル陳述書ヲ以テ自己又ハ委任狀ヲ受ケタル代理人ヨリ屆出ツルコトヲ要ス其登記ハ卽日又ハ翌日中ニ之ヲ爲ス
第二十一條 若シ裁判所ニ於テ登記ヲ拒ミタルトキハ當事者ヨリ其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
登記ノ變更又ハ取消ニ付テモ亦前項ニ同シ
第二十二條 登記シタル事項ハ公ニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトス何人ト雖モ毫モ己レノ過失ニ非サルコトヲ證シ得ルニ非サレハ之ヲ知ラサルヲ以テ己レヲ保護スルコトヲ得ス然レトモ其事項ハ他ノ方法ニ因リ之ヲ知得タル者ニ對シテハ登記ノ前後ヲ問ハス其効用ヲ致サシム但權利關係カ登記ニ因リ始メテ生ス可キ例外ノ場合ハ其場所ニ於テ之ヲ定ム
第三章 商號
第二十三條 各商人ハ商號ヲ有シ總テ商業上ニ於テ自己ヲ表示スル爲メ之ヲ用ユ若シ一人ニシテ資本ヲ分チ數箇ノ營業ヲ爲ストキハ其各營業ニ付キ各別ノ商號ヲ有スルコトヲ要ス
第二十四條 商號ハ從來屋號ト稱スルモノヲ以テスルヲ通例トスト雖モ營業者ノ氏又ハ氏名ヲ以テスルモ妨ナシ
第二十五條 商號ノ登記ヲ請ハントスル者ハ商業登記簿ニ登記ヲ受クルコトヲ得支店アルトキハ其支店ニ付テモ亦同シ
登記ヲ受ケタル商號ノ變更又ハ廢止ハ速ニ其登記ヲ受ク可シ
第二十六條 商號ハ登記ニ因リ同一營業ニ付キ一地域內ニ於テ其專有ノ權利ヲ取得シ他人之ヲ用ユルコトヲ得ス但本法施行以前ヨリ有スル商號ハ從前ノ營業ヲ變セサルモノニ限リ一地域內ニ於テ同一ナルモ妨ナシ
第二十七條 相續ニ因リテ商業ヲ引受クル者又ハ契約ニ因リテ商業ト共ニ商號ヲ引受クル者ハ第七十五條ニ規定シタル場合ヲ除ク外從前ノ商號ヲ續用スルコトヲ得
第二十八條 商號ハ其營業ト共ニスルニ非サレハ他人ニ讓渡スコトヲ得ス
營業ト商號トヲ併セテ讓渡ストキハ其商號ヲ續用スルト之ヲ變更スルトヲ問ハス取引ノ仕殘、債務、得意先及ヒ商業帳簿モ共ニ讓渡スモノト看做ス但特約アルトキハ此限ニ在ラス
商號引受ノ通知又ハ公吿ノ中ニ特約ヲ明揭セサルトキハ其特約ハ第三者ニ對シテ無効タリ
第二十九條 營業ト商號トヲ併セテ讓渡ス者更ニ其營業ヲ爲ササル責務ヲ負擔シタルトキハ其責務ノ履行ハ爾後十个年間其一地域內ニ限ル
第三十條 既ニ登記シタル他人ノ商號ヲ濫用シタル者又ハ第二十八條第二項及ヒ第二十九條ニ記載シタル責務ニ背ク者アルトキハ被害者ハ其加害所爲ノ停止及ヒ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
第四章 商業帳簿
第三十一條 各商人ハ其營業部類ノ慣例ニ從ヒ完全ナル商業帳簿ヲ備フル責アリ殊ニ帳簿ニ日日其取扱ヒタル取引、他人トノ間ニ成立チタル自己ノ權利義務、受取リ又ハ引渡シタル商品、支拂ヒ又ハ受取リタル金額ヲ整齊且明瞭ニ記入シ又月月其家事費用及ヒ商業費用ノ總額ヲ記入ス
小賣ノ取引ハ現金賣ト掛賣トヲ問ハス逐一之ヲ記入スルコトヲ要セス日日ノ賣上總額ノミヲ記入ス
第三十二條 各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後每年初ノ三个月內ニ又合資會社及ヒ株式會社ハ開業ノ時及ヒ每事業年度ノ終ニ於テ動產、不動產ノ總目錄及ヒ貸方借方ノ對照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名スル責アリ
財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ作ルニハ總テノ商品、債權及ヒ其他總テノ財產ニ當時ノ相場又ハ市場價直ヲ附ス辨償ヲ得ルコトノ確ナラサル債權ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ扣除シテ之ヲ記載シ又到底損失ニ歸ス可キ債權ハ全ク之ヲ記載セス
第三十三條 每半个年又ハ每半个年內ニ利息又ハ配當金ヲ社員ニ分配スル會社ハ每半个年ニ前條記載ノ責ヲ盡ス可シ
第三十四條 各商人ハ十个年間商業帳簿ヲ貯藏シ火災又ハ其他ノ意外ノ事變ニ因リテ喪失又ハ毀損セサルコトニ注意スル責アリ
第三十五條 商人ノ商業帳簿ハ其一身ノ所有物ニシテ破產又ハ會社淸算ノ場合ヲ除ク外官權ヲ以テ之ヲ交付セシムルコトヲ得ス
第三十六條 然レトモ相續ニ關スル事件、共通ニ關スル事件、分割ニ關スル事件及ヒ業務取扱ニ關スル爭訟ニ付キ當事者ノ申立ニ因リ裁判所ノ命令アルトキハ總テノ商業帳簿ヲ差出ササルコトヲ得ス
第三十七條 爭訟中原吿又ハ被吿ノ申立アルトキハ受訴裁判所ハ相手方ノ商業帳簿ノ開示ヲ命シ其所有者ノ面前ニ於テ右爭訟事件ニ關スル記入ノ檢閱又ハ時宜ニ因リテ其謄寫ヲ爲サシム若シ其帳簿カ他ノ地ニ在ルトキハ右裁判所ハ其地ニ就キ又ハ其地ノ裁判所ニ囑託シテ檢閱又ハ謄寫ヲ爲サシム
第三十八條 何人ニテモ商業帳簿又ハ其中ノ一ヲ開示ス可キ裁判所ノ命令ニ從ハサル者ハ之ヲ以テ證ス可キ爭訟事件ニ付キ自己ノ不利ト爲ル推定ヲ受ク但其開示セサリシハ自己ノ過失ニ非サルコトヲ證シ又ハ疏明シ得ルトキハ此限ニ在ラス
第三十九條 商業帳簿ノ記入ノ證據力ハ裁判所事情ヲ斟酌シテ之ヲ判決ス然レトモ其記入ノミヲ以テ記入者ノ利益ト爲ル可キ十分ノ證ト爲スコトヲ得ス但相手方ニ於テモ亦其記入ヲ援用シタルトキ又ハ相手方カ商人ニシテ自己ノ帳簿ニ於ケル反對ノ記入ヲ以テ之ニ對抗シ能ハサルトキ又ハ相手方ニ於テ其不正ナルコトヲ少シニテモ信認セシメ得サルトキハ此限ニ在ラス
相手方其記入ヲ援用シタル場合ニ於テ之ト連絡セル記入アルトキモ亦同シ
第四十條 原吿被吿雙方ノ商業帳簿ノ記入相牴觸シテ解明シ能ハサルトキニ於テモ亦裁判所ハ事情ヲ斟酌シテ其證據物ヲ全ク擲棄スルト否ト又ハ一方ノ帳簿ニ一層ノ信用ヲ置クト否トヲ判決ス
第四十一條 商業帳簿カ十分ノ證ト爲ラサル總テノ場合ニ於テハ裁判所カ事情ヲ斟酌シテ定ム可キ他ノ證據ヲ以テ之ヲ補充スルコトヲ得
第五章 代務人及ヒ商業使用人
第四十二條 何人ニテモ商業ヲ營ム者ハ本店又ハ支店ニ明示ノ委任ヲ以テ一人又ハ數人ノ代務人ヲ置クコトヲ得但其委任ハ別ニ定式ヲ要セス
代務ノ委任及ヒ其解任ハ商業登記簿ニ其登記ヲ受ク可シ
第四十三條 代務ハ何時ニテモ之ヲ解任シ又ハ代務人ヨリ之ヲ辭スルコトヲ得又其委任時期ノ滿了ニ因リ又ハ代務人ト取結ヒタル雇傭契約ノ絕止ニ因リ又ハ其委任ヲ爲シタル營業ノ讓渡若クハ廢止ニ因リテ自ラ消滅ス然レトモ商業主人ノ死亡ニ因リテハ消滅セス
代務人其委任ノ終リタル後ニ爲シタル取引ハ代務人其終リタルコトヲ知ラサルトキニ限リ有効タリ
第四十四條 數人共同ニ委任ヲ受ケタル代務ハ總員共同ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス此代務ハ其一人ニ付テ消滅シタルトキハ他ノ各人ニ付テモ亦消滅ス
第四十五條 代務ノ委任ニハ商業主人ノ商號ヲ用井且之ニ代リ裁判上ト裁判外トヲ問ハス其商業ニ關スル總テノ商取引及ヒ權利行爲ヲ爲シ得ル權力ノ授與ヲ包含ス
代務權ニ制限ヲ立ツルモ其制限ハ第三者ニ對シテ無効タリ但第三者其制限アルコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第四十六條 代務ハ無期ニテモ又或ル時期ニ達シ若クハ或ル事件ノ生スルヲ限トシテモ又有期ニテモ之ヲ委任スルコトヲ得但解任及ヒ辭任ノ權利ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第四十七條 代務人ハ代務權ノ全部若クハ一分ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得ス但商業使用人ヲ置ク權アリ
第四十八條 商業主人ハ代務人カ其主人ノ營業上ニ於テ爲シタル取引及ヒ行爲ニ因リテ特リ直接ニ權利ヲ得義務ヲ負フ但主人ノ之ヲ承諾シタルト否ト又ハ主人ノ名ヲ以テ爲シタルト否トヲ問フコト無シ又代務人カ其主人ノ營業上ニ於テ爲シタル不法ノ行爲又ハ代務人カ自己ノ名ヲ以テ取結ヒタル取引ト雖モ其時ノ情況及ヒ相手方ノ意思ニ因リ主人ノ計算ヲ以テ爲シタリトス可キモノニ付テハ亦同シ
第四十九條 何人ニテモ代務委任ヲ僞稱シ又ハ代務委任ヲ踰越シテ取引ヲ取結ヒタル者ハ相手方ニ對シテ其擇ニ從ヒ取引履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己ニ負フ其代務委任踰越ノ場合ニ於テ第四十五條第二項ニ從ヒテ商業主人其義務ヲ負フ可キトキハ主人モ亦之カ責ニ任セサルコトヲ得ス然レトモ此場合ニ於テハ主人又ハ代務人ノ中一方ノミニ對シテ其取引ノ効用ヲ致サシムルコトヲ得
相手方ニ於テ代務委任ノ欠缺ヲ知テ爲シタル取引ハ雙方ニ在テ無効タリ
第五十條 代務人ハ自己ノ計算ニテモ又第三者ノ計算ニテモ商ヲ爲スコトヲ得ス若シ此成規ニ背キタルトキハ第六十三條ニ定メタル結果ノ外商業主人ノ求ニ從ヒ其商取引ヲ主人ノ計算ニ移シ且損害アラハ之ヲ賠償スルコトヲ要ス
第五十一條 何人ニテモ商業上商業主人ノ業務ヲ辨センカ爲メニ商業使用人トシテ置カレタル者ハ特別ノ委任ヲ受ケスト雖モ通常其擔當職分ノ範圍內ニ屬ス可キ總テノ取引及ヒ行爲ヲ主人ノ爲メニ十分ノ効力ヲ以テ爲スコトヲ得使用人カ營業ノ全部若クハ一分ノ爲メニ置カレタルト否ト又ハ或種ノ取引若クハ一箇ノ取引ノ爲メニ置カレタルト否トヲ問ハス其取引及ヒ行爲ニ因リテ主人獨リ權利ヲ得義務ヲ負フ
使用人カ主人ノ爲メニ訴訟ヲ爲シ又ハ裁判所ニ出テ或ル行爲ヲ爲スハ特別ノ委任ヲ受ケタルトキニ限ル
使用人署名スルトキハ主人ノ代理タル旨ヲ書添フルコトヲ要ス
第五十二條 商業使用人カ商業主人ノ爲メニ店舖、倉庫及ヒ其他ノ營業場ニ於テ或ル業務ヲ辨スルトキ又ハ他所ニ送遣セラルルトキ又ハ帳場ニ於テ第三者ト取引ヲ爲スニ際シ主人ヨリ制止セラレス若クハ第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ爲ス權アリト答ヘタルトキハ殊ニ其職分ノ範圍ニ付キ置カレタルモノト看做サル
第五十三條 商業使用人ヲ商業主人ノ代人トシテ之ト取引ヲ爲シタル第三者カ善意ナルニ於テハ使用人其受ケタル委任ニ依ラサルモ又指定セラレタル方法ニ依ラサルモ其取引ハ第三者ニ對シテ有効タリ
第五十四條 商業主人カ商業使用人ヲシテ商慣習ニ定マレル職分ノ範圍ヲ擴メテ其代理ヲ爲サシメントスルトキハ此カ爲メ特別ノ委任ヲ爲シ且相當ノ方法ヲ以テ之ヲ第三者ニ吿知スルコトヲ要ス殊ニ商業通信書又ハ手形及ヒ其他ノ債務證書ニ於ケル使用人ノ署名カ主人ヲ覊束ス可キトキハ右ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五十五條 營業場ニ於テ第三者カ善意ヲ以テ商業使用人ニ對シテ金錢ノ受渡ヲ爲シタルトキハ何レノ場合ヲ問ハス商業主人之ヲ承認スル義務アリ商品、證券及ヒ其他ノ有價物ニ付テモ亦同シ
受取ノ證アル勘定書及ヒ其他ノ受取證書ヲ持參スル者ハ拂金及ヒ其他書中記載ノ物ヲ受取ル權アルモノト看做サル但情況ニ因リテ右ニ異ナレル推定ヲ爲ス可キトキハ此限ニ在ラス
第五十六條 商業使用人ハ其職分上ノ權ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得ス又商業主人ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ他人ヲ代理トシテ其權ノ全部若クハ一分ヲ行ハシムルコトヲ得ス但商慣習ニ於テ代理ヲ許スモノハ此限ニ在ラス
第五十七條 第四十五條第二項、第四十八條、第四十九條及ヒ第五十條ノ規定ハ商業使用人ニモ亦之ヲ適用ス
第五十八條 商業主人ト商業使用人トノ間ノ權利關係ニシテ其雇傭ニ關スルモノハ本法ニ規定シタルモノヲ除ク外雇傭契約ノ原則ニ從ヒ之ヲ定ム
第五十九條 期限ヲ定メスシテ取結ヒタル雇傭契約ハ雙方何時ニテモ之ヲ解ク豫吿ヲ爲スコトヲ得但其豫吿ハ一个月前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
商業主人若クハ商業使用人ノ終身ヲ期シ又ハ之ト同視ス可キ長キ期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ期限ヲ定メサルモノト看做ス
第六十條 期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ雙方ノ承諾アルニ非サレハ其期間滿了ノ前ニ之ヲ解クコトヲ得ス但法律ニ依リ其期限前ニ辭任又ハ解任ヲ爲シ得ヘキ場合ハ此限ニ在ラス
雇傭期限中ハ商業主人ニ於テ商業使用人ヲ全ク使役セス又ハ僅カニ使役スト雖モ使用人ハ契約上ノ給料又ハ各地慣習ノ給料ヲ受クル權利アリ
第六十一條 商業使用人カ雇傭期限中疾病ニ罹リ又ハ其他ノ事故ニ因リテ二个月以上業務ニ就クニ耐ヘサルトキハ之ヲ解任スルコトヲ得
第六十二條 商業使用人カ就業中疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ被ムルモ商業主人ノ過失ニ因ラサルトキハ主人ヨリ治療費ヲ給シ又ハ償金ヲ與フル義務ナシ
第六十三條 商業使用人ヲ何時ニテモ解任シ得ヘキ場合左ノ如シ
第一 不實ノ行爲ヲ爲シ又ハ己レニ受ケタル信任ニ背キタルトキ
第二 自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ取引ヲ爲シタルトキ但些少ノ取引ハ此限ニ在ラス
第三 正當ノ理由ナクシテ其命セラレタル仕事ヲ爲スコト及ヒ總テ己レノ負擔シタル義務ヲ履行スルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ怠リタルトキ
第四 不當ノ擧動又ハ不品行ノ爲メニ指斥ヲ受ケタルトキ
第六十四條 商業主人カ商業使用人ニ相當ノ給料ヲ與ヘス又ハ之ニ違法若クハ不善ノ業務ヲ命シ又ハ其身體ノ安全、健康若クハ名譽ヲ害シ若クハ害セントスル取扱ヲ爲ストキハ使用人ハ何時ニテモ辭任スルコトヲ得
若シ使用人獨立シテ營業ヲ始メントスルトキハ期限前ト雖モ第五十九條ニ揭ケタル豫吿期間ニ從フニ於テハ亦辭任スルコトヲ得
第六十五條 雇傭契約ハ商業主人ノ死亡ニ因リテ終ラス然レトモ商業使用人ノ雇入レラレタル其營業ノ廢止ニ因リテ終ル但其營業ヲ他人ニ移サントスルトキハ第五十九條ニ從ヒ雙方豫吿ノ權利ヲ有ス
第六章 商事會社及ヒ共算商業組合
商事會社總則
第六十六條 商事會社ハ共同シテ商業ヲ營ム爲メニノミ之ヲ設立スルコトヲ得
第六十七條 法律ニ背キ又ハ禁止セラレタル事業ヲ目的トスル會社ハ初ヨリ無効タリ
若シ會社ノ營業カ公安又ハ風俗ヲ害ス可キトキハ裁判所ハ檢事若クハ警察官ノ申立ニ因リ又ハ職權ニ依リ其命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得但其命令ニ對シ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第六十八條 法律、命令ニ依リ官廳ノ許可ヲ受ク可キ營業ヲ爲サントスル會社ハ其許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ設立スルコトヲ得ス
株式會社ニ關シテハ第三節ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第六十九條 會社ノ設立ハ適當ナル登記及ヒ公吿ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シテ會社タル効ナシ
第七十條 會社ハ商號ヲ設ケ社印ヲ製シ定マリタル營業所ヲ設クルコトヲ要ス
第七十一條 社印ニハ商號ヲ刻シ其印鑑ヲ商業登記簿ニ添ヘテ保存スル爲メ之ヲ第十八條ニ揭ケタル裁判所ニ差出スコトヲ要ス社印ヲ變更シ又ハ改刻スルトキモ亦此手續ヲ爲ス
第七十二條 商號及ヒ社印ハ官廳ニ宛テタル文書又ハ報吿書、株券、手形及ヒ會社ニ於テ權利ヲ得義務ヲ負フ可キ一切ノ書類ニ之ヲ用ユ
第七十三條 會社ハ特立ノ財產ヲ所有シ又獨立シテ權利ヲ得義務ヲ負フ殊ニ其名ヲ以テ債權ヲ得債務ヲ負ヒ動產、不動產ヲ取得シ又訴訟ニ付キ原吿又ハ被吿ト爲ルコトヲ得
第一節 合名會社
第一款 會社ノ設立
第七十四條 二人以上七人以下共通ノ計算ヲ以テ商業ヲ營ム爲メ金錢又ハ有價物又ハ勞力ヲ出資ト爲シテ共有資本ヲ組成シ責任其出資ニ止マラサルモノヲ合名會社ト爲ス
第七十五條 商號ニハ總社員又ハ其一人若クハ數人ノ氏ヲ用井之ニ會社ナル文字ヲ附ス可シ
會社若シ現存セル他人ノ營業ヲ引受クルトキハ其舊商號ヲ續用スルコトヲ得ス
第七十六條 社員ノ退社シタル後ト雖モ從前ノ商號ヲ續用スルコトヲ得但退社員ノ氏ヲ商號中ニ續用セントスルトキハ本人ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ス
第七十七條 會社ハ書面契約ニ因リテノミ之ヲ設立スルコトヲ得其契約書ハ總社員之ニ連署シ各自一通ヲ所持ス
右ノ規定ハ會社契約ノ變更ニ於テモ亦之ヲ遵守ス
第七十八條 會社ハ設立後十四日內ニ本店及ヒ支店ノ地ニ於テ其登記ヲ受ク可シ
第七十九條 登記及ヒ公吿ス可キ事項左ノ如シ
第一 合名會社ナルコト
第二 會社ノ目的
第三 會社ノ商號及ヒ營業所
第四 各社員ノ氏名、住所
第五 設立ノ年月日
第六 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第七 業務擔當社員ヲ特ニ定メタルトキハ其氏名
第八十條 前條ニ揭ケタル一箇又ハ數箇ノ事項ニ變更ヲ生シ又ハ合意ヲ以テ變更ヲ爲シタルトキハ七日內ニ其登記ヲ受ク可シ
第八十一條 會社ハ登記前ニ開業スルコトヲ得ス之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ似テ其營業ヲ差止ム但其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第八十二條 會社其登記ノ日ヨリ六个月內ニ開業セサルトキハ其登記及ヒ公吿ハ無効タリ
第二款 會社契約ノ變更
第八十三條 會社契約ハ總社員ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ變更スルコトヲ得ス其承諾ナキトキハ契約ノ從前ノ規定ニ從フ
第八十四條 會社契約ノ規定ニシテ會社ノ施行セサリシモノハ社員又ハ第三者ニ對シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得ス
第三款 社員間ノ權利義務
第八十五條 社員間ノ權利義務ハ本法及ヒ會社契約ニ因リテ定マルモノトス
第八十六條 會社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項ニ付テハ業務擔當ノ任アル總社員ノ承諾ヲ要ス
第八十七條 會社契約ノ規定ノ施行ニ關スル事項ハ業務擔當ノ任アル社員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス
第八十八條 會社ノ業務ヲ行ヒ及ヒ其利益ヲ保衞スルニ付テハ各社員同等ノ權利ヲ有シ義務ヲ負フ但會社契約ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第八十九條 社員ノ議決權ハ其出資ノ額ニ應シテ等差ヲ立ツルコトヲ得ス
第九十條 業務擔當ノ任ナキ社員ハ何時ニテモ業務ノ實況ヲ監視シ會社ノ帳簿及ヒ書類ヲ檢査シ且此事ニ關シ意見ヲ述フルコトヲ得
第九十一條 業務擔當ノ任アル各社員ハ代務ノ委任又ハ解任ヲ爲ス權利アリ
第九十二條 各社員ハ會社ニ對シ正整ナル商人ノ自己ノ事務ニ於テ爲スト同シキ勉勵注意ヲ爲ス責務アリ其責務ニ背キ會社ニ損害ヲ生セシメタルトキハ之ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九十三條 社員ノ差入レタル金錢又ハ有價物ノ出資ハ契約ニ定メタル評價額ヲ附シテ會社ノ財產目錄ニ記入シ會社ノ所有ニ歸ス
第九十四條 社員其負擔シタル出資ヲ差入ルルコト能ハサルトキハ除名セラレタルモノト看做ス但總社員ノ承諾ヲ得テ他ノ出資ヲ差入ルルトキハ此限ニ在ラス
第九十五條 社員其負擔シタル出資ヲ差入レサルトキハ會社ハ之ヲ除名スルト年百分ノ七ノ利息ヲ拂ハシムルトヲ擇ミ尙ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第九十六條 社員ハ契約上ノ額外ニ出資ヲ增シ又ハ損失ニ因リテ減シタル出資ヲ補充スル義務ナシ
第九十七條 社員ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其出資又ハ會社財產中ノ持分ヲ減スルコトヲ得ス
第九十八條 社員ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ第三者ヲ入社セシメ又ハ第三者ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシムルコトヲ得ス
社員ノ相續人又ハ承繼人ハ契約ニ於テ反對ヲ明示セサルトキハ其社員ノ地位ニ代ハルコトヲ得但總社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ業務ヲ擔當スル權利ナシ
第九十九條 社員ヨリ他人ニ爲シタル持分ノ讓渡ハ會社及ヒ第三者ニ對シテ其効ナシ
第百條 社員其持分ニ他人ヲ加入セシムルトキハ其關係ハ共算商業組合ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム
第百一條 社員カ會社ニ消費貸ヲ爲シ又ハ會社ノ爲メニ立替金ヲ爲シタルトキハ年百分ノ七ノ利息ヲ求ムルコトヲ得又社員カ業務施行ノ爲メ直接ニ受ケタル損失ニ付テハ其補償ヲ求ムルコトヲ得
第百二條 會社契約ニ於テ明示ノ合意ナキトキハ社員ハ業務施行ノ勤勞ニ付キ其報酬ヲ求ムルコトヲ得ス然レトモ勞力ヲ出資ト爲シタル社員其負擔シタル出資外ニ爲シタル勞力ニ付テハ相當ノ報酬ヲ求ムルコトヲ得
第百三條 社員カ會社ノ爲メニ受取リタル金錢ヲ相當ノ時日內ニ會社ニ引渡サス又ハ會社ノ金錢ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ會社ニ對シテ年百分ノ七ノ利息ヲ拂ヒ且如何ナル損害ヲモ賠償スル義務アリ
第百四條 社員ハ總社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ自己ノ計算ニテモ又第三者ノ計算ニテモ會社ノ商部類ニ屬スル取引ヲ爲シ又ハ之ニ與カルコトヲ得ス之ニ背キタルトキハ會社ハ其擇ニ從ヒ其社員ヲ除名シ又ハ其取引ヲ會社ニ引受ケ尙ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第百五條 各社員ノ會社ノ損益ヲ共分スル割合ハ契約ニ於テ他ノ準率ヲ定メサルトキハ其出資ノ價額ニ準ス
出資ト爲シタル勞力ノ價額ヲ契約ニ於テ定メサルトキハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第百六條 社員カ業務擔當ノ任ナクシテ業務擔當ノ所爲ヲ爲シ又ハ會社ニ對シテ詐欺ヲ行ヒ又ハ其他會社ニ對シテ主要ノ責務ヲ甚シク缺キタルトキハ會社ハ之ヲ除名シ且損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第百七條 社員カ會社契約ニ依リ又ハ本法ノ規定ニ依リテ會社ノ爲メニ爲シタル總テノ行爲及ヒ取引ハ各社員互ニ之ヲ承認スル義務アリ
第四款 第三者ニ對スル社員ノ權利義務
第百八條 會社ハ業務擔當ノ任アル社員ノ明示シテ會社ノ爲メニ爲シ又ハ事實會社ノ爲メニ爲シタル總テノ行爲ニ因リテ直接ニ權利ヲ得義務ヲ負フ
第百九條 會社ノ權利ハ業務擔當ノ任アル社員裁判上ト裁判外トヲ問ハス之ヲ主張シ又ハ有効ニ之ヲ處分スルコトヲ得
第百十條 第三者ニ對スル會社ノ義務ハ第三者ヨリ業務擔當ノ任アル各社員ニ對シテ其履行ヲ求ムルコトヲ得
第百十一條 業務擔當ノ任アル社員ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ對シテ其効ナシ
第百十二條 會社ノ義務ニ付テハ先ツ會社財產之ヲ負擔シ次ニ各社員其全財產ヲ以テ不分ニテ之ヲ負擔ス
第百十三條 社員ニ非スシテ商號ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シ若クハ之ヲ表スルニ任セ又ハ會社ノ業務ノ施行ニ與カリ又ハ事實社員タルノ權利義務ヲ有スル者ハ社員ト同シク連帶無限ノ責任ヲ負フ
第百十四條 商業使用人又ハ代務人ハ其給料ノ全部又ハ一分ヲ一定又ハ不定ノ利益配當ニ因リテ受クルモノト雖モ前條ノ者ト同視セス
第百十五條 新ニ入社スル社員ハ契約上他ノ定ナキトキハ其入社前ニ生シタル會社ノ義務ニ付テモ責任ヲ負フ
第百十六條 會社財產ニ屬スル物ハ社員ノ債權者其債權ノ爲メ之ヲ請求スルコトヲ得ス但差入前ニ於テ其物ニ付キ第三者ノ爲メ權利ノ設定セラレタルトキハ此限ニ在ラス
第百十七條 社員ノ債權者ハ社員自ラ要求シ得ヘキ利息又ハ配當金ノミヲ會社ニ對シテ要求スルコトヲ得
然レトモ社員ノ持分ハ社員ノ退社又ハ會社解散ノ場合ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第百十八條 會社ニ對スル債務ト社員ニ對スル債權ト又會社ニ對スル債權ト社員ニ對スル債務トノ相殺ハ會社財產ノ分割前ニ在テハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第百十九條 社員ノ持分ヲ減シタル爲メ會社ノ債權者カ其會社財產ヨリ得ヘキ辨償ヲ減損セラレ又ハ支障セラレタルトキハ減少ノ時ヨリ二个年內ニ在テハ其減少ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得
第五款 社員ノ退社
第百二十條 社員ハ會社契約カ有期ナルトキハ總社員ノ承諾ヲ要シ無期又ハ終身ナルトキハ其承諾ヲ要セスシテ任意ニ退社スルコトヲ得
其退社ハ六个月前ニ豫吿ヲ爲シタル上事業年度ノ末ニ限ル但急速ニ退社ス可キ重要ノ事由アルトキハ此限ニ在ラス
第百二十一條 右ノ外社員ハ左ノ諸件ニ因リテ退社ス
第一 除名
第二 死亡但亡社員ノ地位ニ代ハル可キ相續人又ハ承繼人ナキ時ニ限ル
第三 破產
第四 能力ノ喪失但特約ナキトキニ限ル
第百二十二條 社員退社スル每ニ會社ハ七日內ニ其理由ヲ附シタル登記ヲ受ク可シ
第百二十三條 會社ハ退社員ノ爲メ特ニ作リタル貸借對照表ニ依リ退社ノ時ノ割合ヲ以テ其持分ヲ退社員又ハ其相續人若クハ承繼人ニ拂渡スコトヲ要ス
退社前ノ取引ニシテ未タ結了セサルモノハ其結了ノ後之ヲ計算スルコトヲ得
第百二十四條 退社員ノ持分ノ價直ハ特約アルニ非サレハ其出資ノ何種類タルヲ問ハス金錢ノミニテ之ヲ拂渡ス
勞力ノ出資又ハ其他退社ト共ニ終止スル出資ニ付テハ特約アルニ非サレハ之ニ對スル報償ヲ爲ス義務ナシ
第百二十五條 退社員ハ退社前ニ係ル會社ノ義務ニ付テハ退社後二个年間仍ホ全財產ヲ以テ其責任ヲ負フ
第九十八條ノ場合ニ於テ第三者ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシメタル者ニ付テモ亦前項ヲ適用ス
第六款 會社ノ解散
第百二十六條 會社ハ左ノ諸件ニ因リテ解散ス
第一 會社存立時期ノ滿了
第二 會社契約ニ定メタル解散事由ノ起發
第三 總社員ノ承諾
第四 會社ノ破產
第五 裁判所ノ命令
第百二十七條 第六十七條ニ揭ケタル場合ノ外會社其目的ヲ達スルコト能ハス又ハ會社ノ地位ヲ維持スルコト能ハサルノ理由ヲ以テ一人又ハ數人ノ社員ヨリ會社ノ解散ヲ申立ツルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得
會社ノ地位ヲ維持スルコト能ハサル場合ニ於テ會社ノ解散ニ換ヘテ或ル社員ヲ除名ス可キコトヲ他ノ總社員ヨリ相當ノ理由ヲ以テ申立ツルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ除名スルコトヲ得
前二項ニ揭ケタル裁判所ノ命令ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第百二十八條 第百二十六條ノ第一號第二號ニ記載シタル場合ニ於テハ總社員又ハ社員ノ一分ニテ會社ヲ保續スルコトヲ得但社員ノ一分ニテ保續シタルトキハ其離脫シタル社員ハ退社シタルモノト看做ス
第百二十九條 會社解散スルトキハ破產ノ場合ヲ除ク外總社員ノ多數決ヲ以テ淸算人一人又ハ數人ヲ任シ七日內ニ解散ノ原由、年月日及ヒ淸算人ノ氏名、住所ノ登記ヲ受ク可シ
第百三十條 淸算人ハ會社ノ現務ヲ結了シ會社ノ義務ヲ履行シ未收ノ債權ヲ行用シ現存ノ財產ヲ賣却ス又淸算人ハ淸算ノ目的ヲ超エテ營業ヲ保續シ又ハ新ニ取引ヲ爲スコトヲ得ス又淸算人ハ裁判上會社ヲ代理シ且會社ノ爲メ和解契約及ヒ仲裁契約ヲ爲スコトヲ得
第百三十一條 淸算人ノ權ハ社員之ヲ制限スルコトヲ得ス且重要ナル事由ニ基ク社員ノ申立ニ因リ裁判所ノ命令ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ解任スルコトヲ得ス但其命令ニ對シ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第百三十二條 淸算人ハ委任事務ヲ履行シタル後社員ニ計算ヲ報吿シ第百五條及ヒ第百二十四條ノ規定ニ準シ會社財產ヲ社員ニ分配ス又淸算中ト雖モ自由ト爲リタル財產ハ之ヲ社員ニ分配スルコトヲ得
第百三十三條 社員ニ分配ス可キ物ハ會社ノ總テノ義務ヲ濟了スルニ要セサル會社財產ニ限ル
第百三十四條 解散シタル會社ノ商業帳簿及ヒ其他ノ書類ハ社員第三十四條ノ規定ニ從ヒ之ヲ處分ス
第百三十五條 會社ノ義務ニ對スル社員ノ無限責任ハ其義務ニ付キ五个年未滿ノ時効ノ定ナキトキニ限リ解散後五个年ノ滿了ニ因リテ時効ニ罹ル但債權者カ未タ分配セラレサル會社財產ニ對シテ請求ヲ爲ストキハ此限ニ在ラス
第二節 合資會社
第百三十六條 社員ノ一人又ハ數人ニ對シテ契約上別段ノ定ナキトキハ社員ノ責任カ金錢又ハ有價物ヲ以テスル出資ノミニ限ルモノヲ合資會社ト爲ス
合資會社ノ社員ノ數ハ之ヲ制限セス
第百三十七條 合資會社ハ本節ニ定メタル規定ノ外總テ合名會社ノ規定ニ從フ
第百三十八條 合資會社ノ登記及ヒ公吿ニハ第七十九條ノ第二號乃至第六號ニ列記シタルモノノ外尙ホ左ノ事項ヲ揭クルコトヲ要ス
第一 合資會社ナルコト
第二 會社資本ノ總額
第三 各社員ノ出資額
第四 無限責任社員アルトキハ其氏名
第五 業務擔當社員又ハ取締役アルトキハ其氏名及ヒ其責任ノ有限又ハ無限ナルコト
第百三十九條 商號ニハ社員ノ氏ヲ用ユルコトヲ得ス但無限責任社員ノ氏ハ此限ニ在ラス又商號ニハ何レノ場合ニ於テモ合資會社ナル文字ヲ附ス可シ
若シ商號ニ社員ノ氏ヲ用井タルトキハ其社員ハ此カ爲メ當然會社ノ義務ニ對シテ無限ノ責任ヲ負フ
第百四十條 無限責任ノ社員、取締役ヲ除ク外社員ハ自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ會社ノ商部類ニ屬スル取引ヲ爲シ又ハ之ニ與カルコトヲ得
第百四十一條 各社員ハ契約上他ノ定ナキトキハ同等ニ會社ヲ代理スル權利義務ヲ有ス
第百四十二條 社員七人ヲ超ユル會社ニ在テハ其契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ數人ノ取締役ヲ任シ又設立後七人ヲ超ユルトキハ會社ノ決議ヲ以テ之ヲ任ス但其決議ノ効力ハ總社員四分三以上ノ多數決ニ依リテ生ス
取締役ハ何時ニテモ會社ノ決議ニ依リテ解任セラルルコト有ル可シ其決議ノ効力ハ亦總社員四分三以上ノ多數決ニ依リテ生ス
第百四十三條 業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ハ裁判上ト裁判外トヲ問ハス總テ會社ノ事務ニ付キ會社ヲ代理スル專權ヲ有ス然レトモ會社契約又ハ會社ノ決議ニ依リテ覊束セラル
數人ノ業務擔當社員又ハ取締役アル場合ニ於テ各別ニ業務ヲ取扱フコトヲ得ルモノタリヤ又ハ其總員若クハ數人共同ニ非サレハ之ヲ取扱フコトヲ得サルモノタリヤハ會社契約又ハ會社ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第百四十四條 業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ノ代理權ニ加ヘタル制限ハ善意ヲ以テ之ト取引ヲ爲シタル第三者ニ對シテ其効ナシ
第百四十五條 有限責任社員ハ業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ノ認可ヲ得テ其持分ヲ他人ニ讓渡スコトヲ得此場合ニ於テハ取得者ハ讓渡人ノ權利義務ヲ襲承ス
第百四十六條 會社契約ニ於テ又ハ第百四十二條ニ定メタル會社ノ決議ニ依リテ業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ノ總員、數人若クハ一人カ其業務施行中ニ生シタル會社ノ義務ニ付キ無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ豫メ定ムルコトヲ得
第百四十七條 前條ニ揭ケタル無限ノ責任ハ業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ノ退任後一个年ノ滿了ニ因リテ消滅ス
第百四十八條 業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ハ每年少ナクトモ一囘通常總會ヲ招集シ其他業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ニ於テ必要ト認ムルトキ又ハ總社員四分一以上ノ申立アルトキハ臨時總會ヲ招集ス可シ
第百四十九條 總會ヲ招集スルニハ會日ヨリ少ナクトモ七日前ニ各社員ニ會議ノ目的ヲ通知シ及ヒ提出ス可キ書類ヲ送付スルコトヲ要ス
第百五十條 事業年度ノ終リタル後直チニ通常總會ヲ開キ其年度ノ貸借對照表及ヒ事業竝ニ其成果ノ報吿書ヲ社員ニ提出シテ檢査及ヒ認定ヲ受ク其認定ハ出席社員ノ多數決ニ依ル
第百五十一條 臨時總會ニ於テ議ス可キ事項ハ總社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
然レトモ合名會社ニ在テ總社員ノ承諾ヲ要ス可キ事項ハ總社員四分三以上ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス此場合ニ於テハ不同意ノ社員ハ直チニ退社スル權利アリ
第百五十二條 前條ニ揭ケタル決議ニ要スル定數ノ社員出席セサルトキハ其總會ニ於テ假ニ決議ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ其決議ヲ總社員ニ通知シテ再ヒ總會ヲ招集ス其通知ニハ若シ第二ノ總會ニ於テ出席社員ノ多數ヲ以テ第一ノ總會ノ決議ヲ認可シタルトキハ之ヲ有効ト爲ス可キ旨ヲ明吿スルコトヲ要ス
第百五十三條 利息又ハ配當金ハ會社資本額カ損失ニ因リテ減シタル間ハ之ヲ社員ニ拂渡スコトヲ得ス
第三節 株式會社
第一款 總則
第百五十四條 會社ノ資本ヲ株式ニ分チ其義務ニ對シテ會社財產ノミ責任ヲ負フモノヲ株式會社ト爲ス
第百五十五條 株式會社ハ其目的カ商業ヲ營ムニ在ラサルモノモ亦之ヲ商事會社ト看做ス
第百五十六條 株式會社ハ七人以上ヲ以テシ且政府ノ免許ヲ得ルニ非サレハ之ヲ設立スルコトヲ得ス
第二款 會社ノ發起及ヒ設立
第百五十七條 株式會社ハ四人以上ニ非サレハ之ヲ發起スルコトヲ得ス
發起人ハ目論見書及ヒ假定款ヲ作リ各自之ニ署名捺印ス
定款ハ本法ノ規定ニ牴觸スルコトヲ得ス
第百五十八條 目論見書ニ記載ス可キ事項左ノ如シ
第一 株式會社ナルコト
第二 會社ノ目的
第三 會社ノ商號及ヒ營業所
第四 資本ノ總額、株式ノ總數及ヒ一株ノ金額
第五 資本使用ノ槪算
第六 發起人ノ氏名、住所及ヒ發起人各自ノ引受クル株數
第七 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第百五十九條 發起人ハ會社ヲ設立ス可キ地ノ地方長官ヲ經由シテ目論見書及ヒ假定款ヲ主務省ニ差出シ發起ノ認可ヲ請フコトヲ要ス
第百六十條 發起人ハ前條ノ認可ヲ得タルトキハ目論見書ヲ公吿シテ株主ヲ募集スルコトヲ得
其公吿中ニハ法律ニ規定シタル發起ノ認可ヲ得タル旨及ヒ其認可ノ年月日ト各株式申込人ニ假定款ヲ展閱セシムル旨トヲ附記ス
第百六十一條 株式ノ申込ヲ爲スニハ申込人其引受クル株數ヲ株式申込簿ニ記入シテ之ニ署名捺印ス又其申込ハ署名捺印シタル陳述書ノ送附ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
代人ヲ以テ申込ムトキハ委任者ノ氏名ニ代人其氏名ヲ附記シテ之ニ捺印ス
第百六十二條 株式ノ申込ニ因リテ申込人ハ會社設立スルニ至レハ定款ニ從ヒ各株式ニ付テノ拂込ヲ爲ス可キ義務ヲ負フ
第百六十三條 總株式ノ申込アリタル後ハ發起人ハ創業總會ヲ開ク可シ其總會ニ於テハ少ナクトモ總申込人ノ半數ニシテ總株金ノ半額以上ニ當ル申込人ノ承認ヲ經テ定款ヲ確定ス
第百六十四條 創業總會ニ於テハ創業ノ爲メ發起人ノ爲シタル契約及ヒ出費ノ認否ヲ議定シ又有價物ノ出資ヲ差入レテ株式ヲ受ク可キ者アルトキハ其價格ヲ議定ス
前項ノ議定ハ少ナクトモ總申込人ノ半數ニシテ總株金ノ半額以上ニ當ル申込人出席シ其議決權ノ過半數ニ依リテ之ヲ爲ス
第百六十五條 其他創業總會ニ於テハ取締役及ヒ監査役ヲ選定ス
第百六十六條 創業總會ノ終リシ後發起人ハ地方長官ヲ經由シテ主務省ニ會社設立ノ免許ヲ請フ其申請書ニハ左ノ書類ヲ添フ可シ
第一 目論見書及ヒ定款
第二 株式申込簿
第三 發起ノ認可證
第百六十七條 會社設立ノ免許ヲ得タルトキハ發起人其事務ヲ取締役ニ引渡ス可シ
取締役ハ速ニ株主ヲシテ各株式ニ付キ少ナクトモ四分一ノ金額ヲ會社ニ拂込マシム
第百六十八條 會社ハ前條ニ揭ケタル金額拂込ノ後十四日內ニ目論見書、定款、株式申込簿及ヒ設立免許書ヲ添ヘテ登記ヲ受ク可シ
登記及ヒ公吿ス可キ事項ハ左ノ如シ
第一 株式會社ナルコト
第二 會社ノ目的
第三 會社ノ商號及ヒ營業所
第四 資本ノ總額、株式ノ總數及ヒ一株ノ金額
第五 各株式ニ付キ拂込ミタル金額
第六 取締役ノ氏名、住所
第七 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第八 設立免許ノ年月日
第九 開業ノ年月日
裁判所ハ會社ヨリ差出シタル書類ヲ登記簿ニ添ヘテ保存ス
第百六十九條 會社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦登記ヲ受ク可シ
第百七十條 設立ノ免許ヲ得タル後遲クトモ一个年內ニ登記ヲ受ケサルトキハ其免許ハ効力ヲ失フ第八十一條及ヒ第八十二條ノ規定ハ株式會社ニモ亦之ヲ適用ス
第百七十一條 登記前ニ在テハ創業總會ノ承認ヲ經タル義務及ヒ出費ニ付キ發起人、取締役及ヒ株主ニ於テ連帶無限ノ責任ヲ負フ
第百七十二條 創業總會ノ承認ヲ經サル義務及ヒ出費ニ付テハ發起人ニ於テ仍ホ連帶無限ノ責任ヲ負フ
第三款 會社ノ商號及ヒ株主名簿
第百七十三條 商號ニハ株主ノ氏ヲ用ユルコトヲ得ス又商號ニハ株式會社ナル文字ヲ附ス可シ
第百七十四條 會社ハ株主名簿ヲ備ヘ之ニ左ノ事項ヲ記載ス
第一 各株主ノ氏名、住所
第二 各株主所有ノ株式ノ數及ヒ株券ノ番號
第三 各株式ニ付キ拂込ミタル金額
第四 各株式ノ取得及ヒ讓渡ノ年月日
第四款 株式
第百七十五條 各株式ノ金額ハ會社資本ヲ一定平等ニ分チタルモノニシテ二十圓ヲ下ルコトヲ得ス又其資本十萬圓以上ナルトキハ五十圓ヲ下ルコトヲ得ス
第百七十六條 株式ハ一株每ニ株券一通ヲ作リ之ニ其金額、發行ノ年月日、番號、商號、社印、取締役ノ氏名、印及ヒ株主ノ氏名ヲ載ス
第百七十七條 株式ハ分割又ハ併合スルコトヲ得ス
第百七十八條 株金全額拂込以前ニ於テハ會社ハ假株券ヲ發行シ全額完納ノ後ニ至リ始メテ本株券ヲ發行スルコトヲ得
第百七十九條 假株券及ヒ本株券ハ登記前ニ之ヲ發行スルコトヲ得ス
第百八十條 株金額少ナクトモ四分一ノ拂込前ニ爲シタル株式ノ讓渡ハ無効タリ
第百八十一條 株式ノ讓渡ハ取得者ノ氏名ヲ株券及ヒ株主名簿ニ記載スルニ非サレハ會社ニ對シテ其効ナシ
第百八十二條 株金半額拂込前ノ株式ノ讓渡人ハ會社ニ對シテ其株金未納額ノ擔保義務ヲ負フ
第百八十三條 會社ハ株主名簿及ヒ計算ノ閉鎖ノ爲メ公吿ヲ爲シテ事業年度每ニ一个月ヲ踰エサル期間株券ノ讓渡ヲ停止スルコトヲ得
第百八十四條 拂込ミタル株金額及ヒ會社財產中ノ持分ハ會社解散前ニ於テハ之ヲ取戾サント求ムルコトヲ得ス
第五款 取締役及ヒ監査役
第百八十五條 總會ハ株主中ニ於テ三人ヨリ少ナカラサル取締役ヲ三个年內ノ時期ヲ以テ選定ス但其時期滿了ノ後再選スルハ妨ナシ
取締役ハ同役中ヨリ主トシテ業務ヲ取扱フ可キ專務取締役ヲ置クコトヲ得然レトモ其責任ハ他ノ取締役ト同一ナリ
第百八十六條 取締役ノ代理權及ヒ其權ノ制限ニ付テハ第百四十三條及ヒ第百四十四條ノ規定ヲ適用ス
第百八十七條 取締役ニ選マルル爲メ株主ノ所有ス可キ株數ハ會社定款ニ於テ之ヲ定ム取締役ノ在任中ハ其株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シ之ヲ會社ニ預リ置ク可シ
第百八十八條 取締役ハ其職分上ノ責務ヲ盡スコト及ヒ定款竝ニ會社ノ決議ヲ遵守スルコトニ付キ會社ニ對シテ自己ニ其責任ヲ負フ
第百八十九條 取締役ハ會社ノ義務ニ付キ各株主ニ異ナラサル責任ヲ負フ然レトモ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ取締役ノ在任中ニ生シタル義務ニ付キ取締役カ連帶無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ豫メ定ムルコトヲ得其責任ハ退任後一个年ノ滿了ニ因リテ消滅ス
第百九十條 取締役ノ更迭ハ其度每ニ登記ヲ受ク可シ
第百九十一條 總會ハ株主中ニ於テ三人ヨリ少ナカラサル監査役ヲ二个年內ノ時期ヲ以テ選定ス但其時期滿了ノ後再選スルハ妨ナシ
第百九十二條 監査役ノ職分ハ左ノ如シ
第一 取締役ノ業務施行カ法律、命令、定款及ヒ總會ノ決議ニ適合スルヤ否ヤヲ監視シ且總テ其業務施行上ノ過愆及ヒ不整ヲ檢出スルコト
第二 計算書、財產目錄、貸借對照表、事業報吿書、利息又ハ配當金ノ分配案ヲ檢査シ此事ニ關シ株主總會ニ報吿ヲ爲スコト
第三 會社ノ爲メニ必要又ハ有益ト認ムルトキハ總會ヲ招集スルコト
第百九十三條 監査役ハ何時ニテモ會社ノ業務ノ實況ヲ尋問シ會社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閱シ會社ノ金匣及ヒ其全財產ノ現況ヲ檢査スル權利アリ
第百九十四條 監査役中ニ於テ意見ノ分レタルトキハ其意見ヲ總會ニ提出ス
第百九十五條 監査役ハ第百九十二條ニ揭ケタル責務ヲ缺キタルニ因リテ會社又ハ其債權者ニ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第百九十六條 取締役又ハ監査役カ給料又ハ其他ノ報酬ヲ受ク可キトキハ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第百九十七條 取締役又ハ監査役ハ何時ニテモ總會ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得其解任セラレタル者ハ會社ニ對シテ解任後ノ給料若クハ其他ノ報酬又ハ償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第六款 株主總會
第百九十八條 總會ハ取締役、監査役又ハ其他本法ニ依リテ招集ノ權ヲ有スル者之ヲ招集ス
第百九十九條 總會ノ招集ハ會日ヨリ少ナクトモ十四日前ニ其會議ノ目的及ヒ事項ヲ示シ且定款ニ定メタル方法ニ從ヒテ之ヲ爲ス
此規定ハ創業總會ノ招集ニモ亦之ヲ適用ス
第二百條 通常總會ハ每年少ナクトモ一囘定款ニ定メタル時ニ於テ之ヲ開キ其總會ニ於テハ前事業年度ノ計算書、財產目錄、貸借對照表、事業報吿書、利息又ハ配當金ノ分配案ヲ株主ニ示シテ其決議ヲ爲ス
取締役ノ提出スル書類ニ付テノ監査役ノ報吿書ハ其書類ト共ニ之ヲ提出ス
第二百一條 臨時總會ハ臨時ノ事項ヲ議スル爲メ何時ニテモ之ヲ招集スルコトヲ得又總株金ノ少ナクトモ五分一ニ當ル株主ヨリ會議ノ目的ヲ示シテ申立ツルトキハ亦臨時總會ヲ招集セサルコトヲ得ス
第二百二條 總會ハ本法ニ於テ別段ノ規定アルトキノ外定款ノ定ニ從ヒテノミ決議ヲ爲スコトヲ得定款ニ其定ナキトキハ總株金ノ少ナクトモ四分一ニ當ル株主出席シ其議決權ノ過半數ニ依リテ決議ヲ爲ス
第二百三條 定款ノ變更及ヒ任意ノ解散ニ付テノ決議ヲ爲スニハ第百六十四條ニ定メタル決議ノ方法ニ依ル
第百五十二條ノ規定ハ株式會社ニモ亦之ヲ適用ス
第二百四條 株主ノ議決權ハ一株每ニ一箇タルヲ通例トス然レトモ十一株以上ヲ有スル株主ノ議決權ハ定款ヲ以テ其制限ヲ立ツルコトヲ得
第七款 定款ノ變更
第二百五條 會社ハ定款ニ定アルトキ又ハ總會ノ決議ニ依リテ定款ヲ變更スルコトヲ得然レトモ法律ノ規定又ハ政府ヨリ免許ニ附シタル條件ニ違背スルコトヲ得ス
第二百六條 會社資本ノ增加ハ株券ノ金額ヲ增シ又ハ新株券若クハ債券ヲ發行シテ之ヲ爲シ又其減少ハ株券ノ金領又ハ株數ヲ減シテ之ヲ爲スコトヲ得但資本ハ其全額ノ四分一未滿ニ減スルコトヲ得ス此債券ハ記名ノモノニシテ其金額ニ付テハ第百七十五條ノ規定ヲ適用ス
第二百七條 會社資本ヲ減セントスルトキハ會社ハ其減少ノ旨ヲ總テノ債權者ニ通知シ且異議アル者ハ三十日內ニ申出ツ可キ旨ヲ催吿スルコトヲ要ス
第二百八條 前條ニ揭ケタル期間ニ異議ノ申出アラサルトキハ異議ナキモノト看做ス
異議ノ申出アリタルトキハ會社ハ其債務ヲ辨償シ又ハ之ニ擔保ヲ供シテ異議ヲ取除キタル後ニ非サレハ資本ヲ減スルコトヲ得ス
第二百九條 資本ノ減少シタル部分ノ拂戾ヲ受ケタル株主ハ過愆ナキ不知ノ爲メ其減少ニ付キ異議ヲ申出テサル債權者ニ對シテ登記ノ日ヨリ二个年間其受ケタル拂戾ノ額ニ至ルマテ自己ニ責任ヲ負フ
第二百十條 會社ノ定款中既ニ登記ヲ受ケタル事項ヲ變更シタルトキハ直チニ其變更ノ登記ヲ受ク可シ登記前ニ在テハ其變更ノ効ヲ生セス
營業所ヲ移轉スルトキハ舊所在地ニ於テ移轉ノ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テハ新ニ設立スル會社ニ付キ要スル諸件ノ登記ヲ受ク可シ又同一ノ地域內ニ於テ移轉スルトキハ移轉ノミノ登記ヲ受ク可シ
第二百十一條 會社定款ノ變更ノ登記ヲ受ケタルトキハ地方長官ヲ經由シテ主務省ニ其變更ヲ屆出ツルコトヲ要ス
第八款 株金ノ拂込
第二百十二條 株金拂込ノ期節及ヒ方法ハ定款ニ於テ之ヲ定ム其拂込ヲ催吿スルニハ拂込ノ日ヨリ少ナクトモ十四日前ニ各株主ニ通知スルコトヲ要ス其通知ニハ拂込ヲ爲ササル爲メ株主ノ被フル可キ損失ヲ併示ス
第二百十三條 拂込期節ヲ怠リタル株主ハ年百分ノ七ノ遲延利息及ヒ其遲延ノ爲メニ生シタル費用ヲ支拂フ義務アリ
第二百十四條 拂込ヲ怠リタル株主カ更ニ少ナクトモ十四日ノ期間ニ於テ拂込ム可キ催吿ヲ會社ヨリ受ケ仍ホ拂込ヲ爲ササルトキハ會社ハ其株主ニ對シテ株券ノ所有權ヲ失ヒタリト宣言スルコトヲ得然ルトキハ其株券ハ會社ノ所有ト爲ル
第二百十五條 所有權ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券ノ從前ノ所有者ハ會社ニ於テ其株券ヲ公賣スルモ其代金既ニ催吿ヲ受ケタル拂込金額ニ滿タサルトキハ其不足金及ヒ第二百十三條ニ記載シタル利息竝ニ費用ノ支拂ニ付キ仍ホ責任ヲ負フ但剩餘アルトキハ會社ハ之ヲ從前ノ所有者ニ還付ス
會社ハ其定款ヲ以テ別ニ違約金ヲ拂フ可キコトヲ定ムルコトヲ得
第九款 會社ノ義務
第二百十六條 會社ハ株金ノ全部又ハ一分ヲ株主ニ拂戾スコトヲ得ス
若シ拂戾シタルトキハ其金額ハ會社又ハ其債權者直接ニ之ヲ取戾サント求ムルコトヲ得
第二百十七條 會社ハ自己ノ株券ヲ取得シ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス所有權ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券又ハ債務ノ辨償ノ爲メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ會社ニ交付セラレ若クハ移屬シタル株券ハ一个月內ニ於テ公ニ之ヲ賣リ其代金ヲ會社ニ收ム
第二百十八條 會社ハ每年少ナクトモ一囘計算ヲ閉鎖シ計算書、財產目錄、貸借對照表、事業報吿書、利息又ハ配當金ノ分配案ヲ作リ監査役ノ檢査ヲ受ケ總會ノ認定ヲ得タル後其財產目錄及ヒ貸借對照表ヲ公吿ス其公吿ニハ取締役及ヒ監査役ノ氏名ヲ載スルコトヲ要ス
第二百十九條 利息又ハ配當金ハ損失ニ因リテ減シタル資本ヲ塡補シ及ヒ規定ノ準備金ヲ扣取シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス
準備金カ資本ノ四分一ニ達スルマテハ每年ノ利益ノ少ナクトモ二十分一ヲ準備金トシテ積置クコトヲ要ス
第二百二十條 前二條ノ成規ニ依ラスシテ拂出シタル利息又ハ配當金ハ會社又ハ其債權者直接ニ之ヲ取戾サント求ムルコトヲ得
第二百二十一條 利息又ハ配當金ノ分配ハ各株ニ付キ拂込ミタル金額ニ應シ總株主ノ間ニ平等ニ之ヲ爲ス
第二百二十二條 會社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿、目論見書、定款、設立免許書、總會ノ決議書、每事業年度ノ計算書、財產目錄、貸借對照表事業報吿書、利息又ハ配當金ノ分配案及ヒ抵當若クハ不動產質ノ債權者ノ名簿ヲ備置キ通常ノ取引時間中何人ニモ其求ニ應シ展閱ヲ許ス義務アリ
第二百二十三條 諸帳簿檢正ノ爲メ事業年度每ニ一囘一个月ヲ超エサル期間前條ニ定メタル展閱ヲ停止スルコトヲ得
第十款 會社ノ檢査
第二百二十四條 總株金ノ少ナクトモ五分一ニ當ル株主ノ申立ニ因リテ會社營業所ノ裁判所ハ一人又ハ數人ノ官吏ニ會社ノ業務ノ實況及ヒ財產ノ現況ノ檢査ヲ命スルコトヲ得
第二百二十五條 檢査官吏ハ會社ノ金匣、財產現在高、帳簿及ヒ總テノ書類ヲ檢査シ取締役及ヒ其他ノ役員ニ說明ヲ求ムル權利アリ
第二百二十六條 檢査官吏ハ檢査ノ顚末及ヒ其面前ニ於テ爲シタル供述ヲ調書ニ記載シ之ヲ授命ノ裁判所ニ差出スコトヲ要ス
調書ノ謄本ハ裁判所ヨリ之ヲ會社ニ付與シ又株主及ヒ其他ノ者ヨリ手數料ヲ納ムルトキハ其求ニ應シテ之ヲ付與ス
第二百二十七條 主務省ハ何時ニテモ其職權ヲ以テ地方長官又ハ其他ノ官吏ニ命シテ第二百二十四條ニ揭ケタル檢査ヲ爲サシムルコトヲ得
第十一款 取締役及ヒ監査役ニ對スル訴訟
第二百二十八條 總會ハ監査役又ハ特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役又ハ監査役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得
第二百二十九條 會社資本ノ少ナクトモ二十分一ニ當ル株主ハ亦特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役又ハ監査役ニ對シテ訴訟ヲ爲スコトヲ得但各株主ノ自己ノ名ヲ用井又ハ參加人ト爲リ裁判所ニ於テ其權利ヲ保衞スル權ヲ妨ケス
第十二款 會社ノ解散
第二百三十條 會社ハ左ノ諸件ニ因リテ解散ス
第一 定款ニ定メタル場合
第二 株主ノ任意ノ解散
第三 株主ノ七人未滿ニ減シタルコト
第四 資本ノ四分一未滿ニ減シタルコト
第五 會社ノ破產
第六 裁判所ノ命令
第二百三十一條 會社解散ノ場合ニ於テハ既ニ始メタル取引ヲ完結シ又ハ現ニ存在スル會社義務ヲ履行スル外其業務ヲ止ム取締役之ニ拘ハラスシテ營業ヲ續行スルトキハ此カ爲メ其全財產ヲ以テ自己ニ責任ヲ負フ
第二百三十二條 會社解散ノ場合ニ於テハ取締役ハ總會ヲ招集シ解散ノ決議ヲ取ル但裁判所ノ命令ニ依リテ解散スル場合ハ此限ニ在ラス
其總會ニ於テハ破產ノ場合ヲ除ク外一人又ハ數人ノ淸算人ヲ選定ス
第二百三十三條 前條ニ揭ケタル解散ノ決議又ハ淸算人ノ選定ヲ爲ササルトキハ裁判所ハ債權者若クハ株主ノ申立ニ因リ又ハ職權ニ依リ其命令ヲ以テ決議ニ換ヘ又ハ淸算人ヲ任スルコトヲ得
第二百三十四條 會社ハ破產ノ場合ヲ除ク外決議後七日內ニ解散ノ原由、年月日及ヒ淸算人ノ氏名、住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ裁判所ニ屆出テ又何レノ場合ニ於テモ之ヲ各株主ニ通知シ且地方長官ヲ經由シテ主務省ニ屆出ツルコトヲ要ス
第二百三十五條 裁判所ハ解散及ヒ淸算ノ實況ヲ監視スル權アリ
第二百三十六條 登記ヲ受クルト共ニ取締役ノ代理權ハ淸算人ニ移ル然レトモ取締役ハ淸算人ノ求ニ應シ淸算事務ヲ補助スル義務アリ
第二百三十七條 登記後ニ爲シタル株式ノ讓渡及ヒ淸算ノ目的ノ爲メニセサル財產ノ處分ハ總テ無効タリ但特別ノ理由アリテ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十八條 取締役カ總會ノ招集又ハ登記ノ屆出ヲ爲ササリシトキハ此カ爲メ會社又ハ第三者ニ生セシメタル損害ニ付キ其全財產ヲ以テ自己ニ責任ヲ負フ
第二百三十九條 解散及ヒ淸算ノ費用ハ現在ノ會社財產中ヨリ最モ先ニ之ヲ支拂フモノトス
第十三款 會社ノ淸算
第二百四十條 淸算人ノ職分ニ付テハ第百三十條及ヒ第百三十一條ヲ適用ス
第二百四十一條 淸算人ノ職分ノ踐行ニ付テハ總會ヨリ又ハ株主若クハ債權者ノ申立ニ因リテ裁判所ヨリ淸算人ニ訓示ヲ與フルコトヲ得淸算人ハ其訓示及ヒ法律ノ規定ヲ遵守スル責任ヲ負フ
第二百四十二條 會社ノ債權者ノ相當ノ理由ヲ以テ爲シタル申立ニ因リ總會又ハ時宜ニ從ヒテ裁判所ハ債權者ノ利益護視ノ爲メ一人又ハ數人ノ代人ヲシテ淸算ヲ監査シ又ハ淸算人ニ參加セシムルコトヲ得
第二百四十三條 淸算人ハ其選定ノ日ヨリ六十日內ニ會社帳簿ニ依リテ其財產ノ現況ヲ取調ヘ少ナクトモ三囘ノ公吿ヲ以テ債務者ニハ其債務ノ辨濟期限ニ至リタル時直チニ之ヲ辨濟ス可ク又債權者ニハ或ル期間ニ其債權ヲ申出ツ可キ旨ヲ催吿スルコトヲ要ス但其期間ハ六十日ヲ下ルコトヲ得ス
其公吿ニハ債權者期間ニ申出ヲ爲ササルトキハ其債權ヲ淸算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記ス然レトモ淸算人ハ期間ニ申出テサル債權者ト雖モ其知レタル者ヲ淸算ヨリ除斥スルコトヲ得ス
第二百四十四條 淸算人ハ其期間滿了前ニ於テハ債權者ニ支拂ヲ爲シ始ムルコトヲ得ス
第二百四十五條 期間後ニ申出テタル債權者ハ會社ノ債務ヲ濟了シタル後未タ株主ニ分配セサル會社財產ノミニ對シテ其辨償ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第二百四十六條 淸算人ハ淸算ノ爲メ株主ヲシテ其未タ全額ヲ拂込マサル株券ニ付キ拂込ヲ爲サシムル權利アリ
第二百四十七條 淸算人ハ必要又ハ有益ト認ムルトキハ何時ニテモ總會ヲ招集スルコトヲ得又淸算人ハ定款又ハ總會ノ決議ヲ以テ定メタルトキ又ハ總株金ノ少ナクトモ五分一ニ當ル株主ヨリ申立ツルトキハ總會ヲ招集スル義務アリ
第二百四十八條 淸算人ハ委任事務ヲ履行シタル後總會ニ計算書ヲ差出シテ其認定ヲ求ム
第二百四十九條 淸算人ハ前條ニ揭ケタル認定ヲ得タルトキハ會社ノ債務ヲ濟了シタル殘餘ノ財產ヲ各株主ニ其所有株數ニ應シ金錢ヲ以テ平等ニ分配ス此分配ハ總債權者ニ辨償シタル時ヨリ三个月ノ滿了ノ後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
株主ハ總會ニ於テ金錢ニ非サル物ヲ以テ分配ス可キ決議ヲ爲シタルトキト雖モ之ヲ受取ル義務ナシ
第二百五十條 淸算ノ終リタル後淸算人ハ總計算書及ヒ一般ノ事務報吿書ヲ總會ニ差出シテ卸任ヲ求ム若シ總會ニ於テ卸任ヲ許ササルトキハ裁判所ハ淸算人ノ申立ニ因リ其命令ヲ以テ之ヲ許スト否トヲ定ム但其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第二百五十一條 淸算人ハ其行爲ニ付キ總會ノミニ對シテ責任ヲ負フ然レトモ其行爲ニ因リ或ル株主ノ一己ノ權利ヲ害シタルトキハ其株主ハ淸算人ニ對シテ其權利ノ承認及ヒ損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第二百五十二條 淸算人ハ卸任ヲ得タル後商業登記簿ニ淸算結了ノ登記ヲ受ケ且之ヲ公吿ス其公吿ニハ淸算ニ付キ生シタル會社ニ對スル請求アレハ之ヲ三个月ノ期間ニ主張ス可キ旨ノ催吿ヲ附ス其請求アリタルトキハ淸算人ニ於テ之ヲ辨了ス
第二百五十三條 淸算中ニ現在ノ會社財產ヲ以テ會社ノ總債權者ニ完濟シ能ハサルコトノ分明ナルニ至リタルトキハ淸算人ハ破產手續ノ開始ヲ爲シテ其旨ヲ公吿シ且會社ノ取引先ニ通知ス
此場合ニ於テ既ニ債權者又ハ株主ニ支拂ヒタルモノ有ルトキハ之ヲ取戾スコトヲ得淸算人カ貸方借方ノ此ノ如キ關係ナルコトヲ知リテ爲シタル支拂ニシテ其受取人ヨリ取戾シ得サルモノニ付テハ債權者ニ對シテ其責任ヲ負フ
第二百五十四條 總會ノ決議ニ依リテ會社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ノ貯藏ヲ委任セラレタル者ノ氏名、住所ハ淸算人ヨリ之ヲ裁判所ニ屆出ツ可シ此屆出前ニ在テハ淸算人其貯藏ノ責任ヲ負フ
第二百五十五條 淸算ノ結果卽チ左ノ事項ハ淸算人ヨリ裁判所ニ屆出テ且之ヲ公吿ス可シ
第一 支拂又ハ示談ニ因リテ總債權者ニ辨償ヲ爲シタルコト
第二 會社ノ殘餘財產ヲ株主ニ分配シタルコト及ヒ其分配ノ金額
第三 淸算費用ヲ辨濟シ及ヒ淸算ニ付キ生シタル請求ヲ辨了シタルコト
第四 總會ヨリ又ハ裁判所ノ命令ニ因リテ卸任ヲ得タルコト
第五 會社ノ帳簿及ヒ書類ノ貯藏ニ關スル處置ヲ爲シタルコト
第六 會社ノ株券又ハ債券ノ其効力ヲ失ヒタルコト
其淸算ノ結果ハ亦淸算人ヨリ地方長官ヲ經由シテ主務省ニ屆出ツルコトヲ要ス
第四節 罰則
第二百五十六條 業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上五十圓以下ノ過料ニ處セラル
第一 本章ニ定メタル登記ヲ受クルコトヲ怠リタルトキ
第二 登記前ニ開業シタルトキ
第二百五十七條 株式會社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ五圓以上五十圓以下ノ過料ニ處セラル
第一 株主名簿ヲ備ヘス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
第二 會社解散ノ場合ニ於テ總會ノ招集又ハ株主ヘノ通知ヲ怠リタルトキ
第二百五十八條 株式會社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ二十圓以上二百圓以下ノ過料ニ處セラル
第一 第二百十六條ノ規定ニ反シ株金ノ全部又ハ一分ヲ拂戾シタルトキ
第二 第二百十七條ノ規定ニ反シ會社ノ爲メ其株券ヲ取得シ又ハ質ニ取リ又ハ公賣セサルトキ
第三 第二百十八條又ハ第二百十九條ノ規定ニ反シ利息又ハ配當金ヲ株主ニ拂渡シタルトキ
第四 第二百二十五條ノ場合ニ於テ會社ノ金匣、財產現在高、帳簿及ヒ總テノ書類ノ檢査ヲ妨ケ又ハ求メラレタル說明ヲ拒ミタルトキ
合資會社ノ業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役カ第百五十三條ノ規定ニ反シ利息又ハ配當金ヲ社員ニ拂渡シタルトキハ亦本條ニ定メタル罰則ヲ之ニ適用ス
第二百五十九條 株式會社ノ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ十圓以上百圓以下ノ過料ニ處セラル
第一 第二百四十三條ニ定メタル公吿ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
第二 第二百五十三條ノ規定ニ反シ破產手續ノ開始ヲ爲スコトヲ怠リタルトキ
第二百六十條 株式會社ノ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ二十圓以上二百圓以下ノ過料ニ處セラル
第一 第二百四十四條ノ規定ニ反シ債權者ニ支拂ヲ爲シ始メタルトキ
第二 第二百四十九條ノ規定ニ反シ株主ニ分配ヲ爲シタルトキ
第二百六十一條 前數條ニ揭ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但其命令ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
過料ノ辨納ニ付テハ業務擔當ノ任アル社員、取締役又ハ淸算人連帶シテ其責任ヲ負フ
第二百六十二條 業務擔當ノ任アル社員、取締役、監査役又ハ淸算人ハ左ノ場合ニ於テハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處セラレ情重キトキハ罰金ニ併セ一年以下ノ重禁錮ニ處セラル
第一 官廳又ハ總會ニ對シ書面若クハ口頭ヲ以テ會社ノ財產ノ現況若クハ業務ノ實況ニ付キ故意ニ不實ノ申立ヲ爲シ又ハ不正ノ意ヲ以テ其現況若クハ實況ヲ隱蔽シタルトキ
第二 公吿ノ中ニ詐僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ
前ニ揭ケタル者ノ外會社ノ他ノ役員及ヒ使用人カ之ト共ニ犯シタルトキハ亦右ノ罰ニ處セラル
第二百六十三條 發起人カ株式申込ニ付キ詐僞ノ記載ヲ爲シタルトキハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處セラル
第二百六十四條 前二條ニ揭ケタル罰ニ處スルニハ刑事裁判上ノ手續ヲ以テス
第五節 共算商業組合
第二百六十五條 共算商業組合ノ契約ハ會社ニ關スル本法ノ規定ニ從フコトヲ要セス其契納ニ因リテ商事會社及ヒ會社財產ハ成立セス
第二百六十六條 二人以上共通ノ計算ヲ以テ一時ノ商取引又ハ作業ヲ爲スヲ當座組合トシ契約實行ノ爲メ其一二ノ組合員若クハ總組合員ニ於テ又ハ共同代理人ヲ以テ爲シタル行爲ニ付テハ第三者ニ對シテ各組合員直接ニ連帶ノ權利義務ヲ有ス
第二百六十七條 二人以上各自別箇ニ一時ノ商取引若クハ作業ヲ爲シ又ハ商業ヲ營ムト雖モ此ニ因リテ生スル損益ヲ共分スルコトヲ契約シタルモノヲ共分組合トシ各組合員亦前條ニ揭ケタルト同シキ連帶ノ權利義務ヲ有ス然レトモ他ノ組合員ノ爲シタル行爲ヨリ生スル請求ニ對シテハ先訴ハ抗辯ヲ爲ス權利アリ
第二百六十八條 或人カ損益共分ノ契約ヲ以テ他人ノ營ム商業ニ出資ヲ供シテ之ヲ其者ノ所有ニ移シ商號ニ自己ヲ表示スル名稱ヲ顯ハサス又業務施行ニ與カラサルモノヲ匿名組合トシ其營業者ノ行爲ニ付キ第三者ニ對シ出資未濟ノ場合ニ於テ其出資ノ額ニ滿ツルマテヲ限リ義務ヲ負フ
代務人又ハ商業使用人ト爲リテ用務ヲ辨スルハ業務施行ニ與カルモノト看做サス
第二百六十九條 匿名組合ノ損益共分ノ割合ハ明約アルニ非サレハ營業資本總額ニ對スル出資額ノ比例ヲ以テ之ヲ量定ス
第二百七十條 利益ハ損失ニ因リテ減シタル出資ヲ塡補シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス然レトモ匿名員ハ受取期限ニ至リテ未タ受取ラサル利益又ハ既ニ受取リタル利益ヲ以テ其後ニ生シタル損失ヲ補充スル義務ナシ
第二百七十一條 匿名組合ノ契約ハ其契約ニ於テ時期ヲ定メサリシトキハ六个月前ノ豫吿ヲ以テ之ヲ解除スルコトヲ得又其契約ハ營業者ノ破產若クハ死亡又ハ其營業ノ廢止ヲ以テ終ル
第二百七十二條 契約解除ノ場合ニ於テハ匿名員ノ負擔ニ歸ス可キ損失及ヒ債務ヲ引去リタル後其出資額ヲ之ニ拂戾スコトヲ要ス
第二百七十三條 匿名員ハ契約解除ノ場合及ヒ每事業年度ノ終ニ於テ計算書ノ差出ヲ求メ及ヒ商業帳簿竝ニ書類ヲ展閱調査セント求ムル權利アリ
此規定ハ第二百六十六條及ヒ第二百六十七條ニ揭ケタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
第七章 商事契約
第一節 契約ノ種類
第二百七十四條 商事契約ハ明示又ハ默示ニテ之ヲ取結フコトヲ得
第二百七十五條 商事契約ノ旨趣ハ當事者ノ眞實及ヒ確定ナル共通ノ意思ニ依リテ定マルモノトス其意思ハ商慣習ト商人タル者ノ當然ノ思考トニ從ヒテ解釋ス可シ
第二百七十六條 明示ノ契約ハ書面、口頭又ハ容態ニテ之ヲ取結フコトヲ得
第二百七十七條 主タル目的物カ五十圓ノ價額ヲ超ユル契約ハ其履行ヲ卽時ニ爲ササルトキハ之ヲ書面ニ作成シテ交付ス可シ
本法中或ル契約ニ關スル特別ノ規定ハ前項ノ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第二百七十八條 書面作成ノ要件ハ合式ノ契約證書ヲ以テモ義務者又ハ其代人ノ署名若クハ之ニ代ハル可キ氏名アル書簡、電報、勘定書、切符其他ノ各書類ヲ以テモ之ヲ充タスコトヲ得
第二百七十九條 第二百七十七條ニ揭ケタル契約ノ旨趣ニ付テノ證據又ハ反對證據ハ書面ヲ以テスルモノニ限リ之ヲ許ス但第二百七十五條ニ從ヒテ爲ス契約條款ノ解釋ニ關スルモノ又ハ錯誤、强暴若クハ詐欺ノ證明ニ關スルモノ又ハ覊束スル意思ナクシテ契約書ニ揭ケタル事實ニ關スルモノハ此限ニ在ラス
第二百八十條 第二百七十七條ニ揭ケタル契約ハ書面ニ作成セスト雖モ後ニ至リ當事者ニ於テ殊ニ雙務契約ノ場合ニ在テハ其雙方ニ於テ實際之ヲ履行シ又ハ書面ヲ以テ之ヲ承認シタルトキハ其効力アリ
第二百八十一條 默示ノ契約ハ契約提供ニ對シテ默示ノ承諾アル場合ニ存シ又事ヲ爲シ又ハ爲ササルニ因リテ法律上若クハ商慣習上義務又ハ請求權ノ生スル總テノ場合ニ存ス
第二百八十二條 契約提供ニ對スル默示ノ承諾ハ一般ニ商慣習若クハ誠實、信用ニ因リ殊ニ被提供者ノ特別ナル業體又ハ雙方間ノ平常ノ取引關係ニ因リテ承諾シタルモノト通例推定ス可キ場合ヲ除ク外ハ決シテ存スルモノト看做スコトヲ得ス
第二百八十三條 雙務ノ契約ニ在テハ相手方ノ履行ニ對スル承諾ハ其承諾シタル一方ニ於テモ履行ス可キ默示ノ約束ヲ爲シタルモノトス
第二百八十四條 契約上ノ義務ハ明示ト默示トヲ問ハス合法ノ原因アルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス
第二百八十五條 契約上ノ義務ヲ將來ノ事件ノ不確定ナル發生又ハ不發生ニ繫ラシムル場合ニ於テハ契約ハ其事件ノ發生セサルトキ又ハ發生シタルトキハ當然消滅ス
第二百八十六條 契約ニ加ヘタル未必條件又ハ期限ハ此カ爲メ利益ヲ受ク可キ者ノ明示ノ抛棄ニ因ルニ非サレハ無効ト爲スコトヲ得ス
第二百八十七條 商事契約ニ依リ二人以上共同シテ債權ヲ取得シ又ハ債務ヲ負擔スル場合ニ於テハ反對ヲ明示シタルニ非サレハ其債權ハ各債權者ヨリ又其債務ハ各債務者ニ對シテ連帶且無條件ニテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得
第二百八十八條 前條ノ規定ハ保證義務ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス殊ニ一人ノ保證人ニ對スル二人以上ノ債權者ニ關シテモ一人ノ債務者ノ爲メニスル二人以上ノ保證人ニ關シテモ二人以上ノ債務者中ノ一人ノ爲メニスル保證人ニ關シテモ之ヲ適用ス
第二百八十九條 商事ニ於テ他人ニ對シ責ニ任スル注意ハ別段ノ規定又ハ契約アルニ非サレハ辨識アリ且勉勵ナル商人カ履行地ノ慣例ニ從ヒテ爲ス可キ注意ナリトス
第二百九十條 不適法ノ意思又ハ甚シキ怠慢ニ出テタル行爲ニ付テノ責任ハ豫メ契約ヲ以テ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第二百九十一條 意外ノ事ニ因ル危險及ヒ至重ナル注意ハ本法ニ規定ナキモ明示ノ契約ヲ以テ之ヲ引受クルコトヲ得
第二節 契約ノ取結
第二百九十二條 契約ハ一方ノ提供ヲ他ノ一方ニ於テ異議ナク承諾シタルトキ直チニ之ヲ取結ヒタルモノトス但默示ノ承諾ノ存セサルトキハ適當ノ方式ヲ以テ提供者ニ承諾ヲ述フルコトヲ要ス
第二百九十三條 契約ノ提供ハ卽時ニ又ハ被提供者ニ許與シタル期間ニ承諾ヲ述ヘサルトキハ之ヲ拒絕シタルモノト看做ス
第二百九十四條 提供ノ默示ノ承諾ヲ推定スルコトヲ得ル場合ニ於テハ被提供者カ卽時又ハ許與セラレタル期間ニ拒絕ヲ述ヘサルトキハ其提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
第二百九十五條 地ヲ隔テタル者ノ間ニ於テハ提供者ニ對スル承諾ノ陳述ハ遲クトモ提供ヲ受取リタル翌日正午マテニ普通ノ送達方法ヲ以テ提供者ニ其陳述ヲ發シタルトキハ卽時ニ之ヲ爲シタリト看做ス但其翌日カ一般ノ休日ナルトキハ更ニ其翌日ニ於テスルコトヲ得
第二百九十六條 契約提供ニ對シテ條件ヲ附シ又ハ變更ヲ加ヘテ爲ス承諾ニ在テハ提供者ハ其選擇ヲ以テ之ヲ純粹ノ拒絕ト看做シ又ハ被提供者ヨリ更ニ爲シタル提供ト看做スコトヲ得
第二百九十七條 提供者ハ被提供者カ通常ノ情況ニ於テ卽時又ハ期間ニ承諾ヲ述フルコトヲ得ル時ニ至ルマテハ被提供者ニ對シテ其提供ニ覊束セラルルモノトス然レトモ提供ノ被提供者ニ達スル以前又ハ達スルト同時ニ反對ノ通知ヲ以テ其提供ヲ取消スコトヲ得
第二百九十八條 契約提供ノ承諾ヲ述ヘタルトキハ他ノ一方ノ同意ヲ得ルニ非サレハ其承諾ヲ取消スコトヲ得ス然レトモ地ヲ隔テタル者ノ間ニ於テハ取消カ承諾陳述ノ達スル以前又ハ達スルト同時ニ提供者ニ達スルトキハ其取消ヲ有効トス
第二百九十九條 契約取結ニ關スル通信ヲ爲スニ當リ送達人ノ過誤及ヒ遲延ニ付キ送達人ニ其責任ナキトキハ送達ノ爲メ利益ヲ受クル者其責ニ任ス
第三百條 見本、代價附其他契約提供ヲ媒介スル物ニシテ契約提供ト共ニ送付シ若クハ別ニ送付スルモノハ其提供ノ拒絕セラルル場合ト雖モ被提供者ノ方ニ留マルヲ通例トス其他ノ商品ニ在テハ被提供者ハ提供者カ更ニ處分ヲ爲スニ至ルマテ相當ノ方法ヲ以テ之ヲ貯藏ス可シ然レトモ第三百七十三條ノ規定ニ從ヒ相當ノ期間ニ其商品ヲ賣却シテ立替金及ヒ口錢ノ辨濟ニ充ツルコトヲ得
第三百一條 商事契約ハ强暴、詐欺又ハ錯誤アル場合ニ於テハ之ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得然レトモ大ナル損失ニ因リ殊ニ代價其他ノ報償ノ不相當ナルニ因リテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
第三節 契約ノ履行
第三百二條 契約ノ履行ハ一方カ他ノ一方ノ同意ヲ得テ明示又ハ默示ニテ負ヒタル義務ヲ完全ニ辨濟スルニ在リ
第三百三條 債務者ノ義務ノ旨趣及ヒ範圍殊ニ債務ノ目的物ノ性質及ヒ品位ニ付テハ履行地ニ行ハルル定例ニ依リテ之ヲ定ム但別段ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百四條 十分ナル債務辨濟ヲ適當ノ方法ヲ以テ債權者ニ言込ムモ債權者其承諾ヲ拒絕スルトキハ債務者ハ其辨濟ス可キモノヲ債權者ノ計算及ヒ危險ニ於テ處分スルコトヲ得此場合ニ於テハ債務者ハ不適法ノ意思又ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ債權者ニ對シテ責任ヲ負フ
第三百五條 債權者ハ一分ノ履行又ハ遲延シタル履行ヲ承諾スルコトヲ要セス但割拂ノ契約又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百六條 契約ノ履行ハ契約上ノ滿期日又ハ其他定マリタル滿期日ニ之ヲ爲ササルトキハ遲延シタリトス
第三百七條 滿期日ハ日ヲ指シテ之ヲ定メ又ハ期間ヲ設ケテ之ヲ定ムルコトヲ得
第三百八條 期間ヲ定ムルニ日數ヲ以テシタルトキハ其期間ノ末日ヲ滿期日ト看做シ週數、月數又ハ年數ヲ以テシタルトキハ最後ノ週、月又ハ年ニ於テ結約ノ日ニ應當スル日ヲ滿期日ト看做ス
第三百九條 日ヲ以テ定メタル期間ノ計算ニ付テハ結約ノ日ハ之ヲ算入セス
第三百十條 半个月ハ十五个日ノ期間ト看做ス
第三百十一條 滿期日カ一般ノ休日ニ當ルトキハ其翌日ヲ滿期日ト看做ス
第三百十二條 特別ノ情況アルトキノ外ハ履行地ニ於ケル慣習上ノ取引時間ヲ以テ履行ニ付テノ一日ノ時間ト看做ス
第三百十三條 或ル期間ノ經過中ニ履行ヲ爲ス契約ナルトキハ其履行ハ期間內何レノ取引日ニテモ之ヲ爲シ又ハ之ヲ求ムルコトヲ得
第三百十四條 前條ノ場合ニ於テ疑ハシキトキハ期間ノ定ニ因リテ利益ヲ受ク可キ一方カ履行日ヲ擇ムコトヲ得通例此ノ如キ一方ト看做ス可キ者ハ商品ノ受取人又金錢ニ係ル債權ニ在テハ債務者トス
第三百十五條 期間ヲ延ヘタル場合ニ於テ別ニ定ムル所アルニ非サレハ其新期間ハ舊期間ノ滿了ヨリ起算ス
第三百十六條 契約其他ニ履行期日ノ定ナクシテ債務者其履行ヲ相當ノ期間ニ爲ササルトキハ債權者ハ滿期日ヲ定ムルコトヲ得
第三百十七條 別段ノ履行地ヲ定メス又ハ取引ノ性質若クハ當事者ノ意思ニ因リテ之ヲ推知スルコトヲ得サルトキハ履行ハ債權者若クハ受取ノ權利アル者ノ指定シタル地若シ指定セサルトキハ其住地殊ニ營業場ニ於テ之ヲ爲ス可シ
第三百十八條 債務者ノ負擔セル送付ノ義務ハ債權者ノ指定シタル運送場若シ指定セサルトキハ適當ノ運送場ニ交付スルヲ以テ之ヲ履行シタルモノトス
第三百十九條 當事者雙方カ同地ニ住スル場合ニ於テ別段ノ契約ナキトキハ債務者カ債務ノ目的物ヲ送付ス可キヤ又ハ債權者カ之ヲ取寄ス可キヤハ其地ノ慣習又ハ取引ノ性質ニ依リテ之ヲ定ム
第三百二十條 別段ノ契約ナキトキハ債務ノ目的物ノ送付ハ債權者ノ危險ニ於テ之ヲ爲スヲ通例トス但債務者カ自己又ハ其使用人ノ過失ニ付テ負フ責任ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第三百二十一條 度量衡、距離、期間、休日、支拂貨幣ノ本位竝ニ種類其他履行ノ細目ハ履行地ニ行ハルル定例ニ從ヒテ之ヲ定ム但別段ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十二條 擇一債務其他目的物ノ特定セサル債務ニ付キ履行ノ目的物ヲ定ムルコトハ其目的物ノ尙ホ存スル場合ニ限リ疑ハシキトキハ債務者ノ擇ムニ任ス
第四節 價額賠償、損害賠償及ヒ割引
第三百二十三條 債務者カ其債務ノ履行ヲ正當期日ニ爲ササルトキハ債權者ハ契約ヲ解除シ又ハ價額賠償若クハ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十四條 價額賠償ハ金錢ニ係ル債務ニ付テハ債務額ノ外滿期日ヨリ其債務ヲ辨濟スル日マテノ遲延利息ヲ支拂フニ在リ總テ其他ノ債務ニ付テハ債務ノ目的物カ滿期日ノ後ニ有セシ最高ノ價額ト其價額ヲ定メタル時ヨリ辨濟ノ日マテノ遲延利息トヲ支拂フニ在リ但債權者ニ於テ債務ノ目的物カ滿期日ニ有セシ價額ト此日ヨリノ遲延利息ノ賠償トヲ得ント欲スルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十五條 債權者ハ債務者ノ過失ヲ證明シ又ハ債務ノ不履行ニ因リ自己ニ加ヘラレタル損害ヲ證明スルコト無クシテ價額賠償ヲ求ムルコトヲ得但義務ノ性質及ヒ範圍ニ因リテ債務者カ不履行ニ付キ責任ヲ負フトキニ限ル
第三百二十六條 第三百二十四條ノ規定ニ從ヒテ査定ス可キ債務ノ目的物ノ價額ハ其普通ノ市場價額又取引所ニ於テ賣買スル物ニ在テハ其取引所相場ニ加フルニ遲延ニ因リテ生シタル費用及ヒ立替金ヲ以テシタルモノトス
第三百二十七條 第三百四條ニ揭ケタル承諾ヲ遲延シタル債權者ハ亦遲延ニ因リテ生シタル費用及ヒ立替金ヲ債務者ニ賠償ス可シ
第三百二十八條 故意又ハ怠慢ノ行爲ニ因リテ不適法ニ損害ヲ他人ニ加ヘタル者ハ其損害ニ付キ十分ノ賠償ヲ爲ス義務アリ
第三百二十九條 損害賠償ハ生シタル損失及ヒ失ヒタル利益ノ辨償ヲ包括ス
第三百三十條 利益トハ一方ノ加害ノ行爲ナカリシトキハ他ノ一方カ爲シ得ヘカリシコトヲ證明シ得ヘキ取得ヲ謂フ此取得ハ豫見シ得ヘカリシモノト否ト又ハ通常ナリシモノト否トヲ問フコト無シ
第三百三十一條 損害賠償ヲ査定スルニハ偶然、推測若クハ將來ノ利益若クハ損失又ハ他ノ情況ノ加ハルニ因リテ生スルコト有ル可キ利益若クハ損失ハ之ヲ問フコトヲ得ス
第三百三十二條 契約ヲ以テ豫メ價額賠償又ハ損害賠償ノ額ヲ定メタルトキハ之ニ從フヲ通例トシ實際ノ情況ヲ援用シテ其豫定ノ額ヲ增減セント主張スルコトヲ得ス
第三百三十三條 費用、立替金、前貸金其他此類ノ支出金ノ賠償及ヒ損害ノ賠償ヲ爲ス可キ者ハ權利者ノ求ニ依リ其各金額ノ割合ニ應シテ辨償ス可キ日ヨリノ利息ヲ支拂フ可シ
第三百三十四條 遲延利息其他ノ利息ニシテ法律又ハ契約ニ於テ步合ヲ定メサルモノハ年百分ノ七トス
第三百三十五條 金錢ニ係ル債務ヲ滿期前ニ支拂フトキハ債務者ハ契約又ハ商慣習アルトキニ限リ其滿期前ノ時間ニ應シテ割引ヲ求ムルコトヲ得
第三百三十六條 契約不履行ニ因リテ債權者ヨリ契約ヲ解除スルトキハ債務者ハ既ニ爲シタル一分ノ辨濟ヲ現狀ニテ取戾シ既ニ受取リタル報償ヲ全額又ハ全價額ヲ以テ債權者ニ償還ス可シ
第五節 違約金
第三百三十七條 債權者ハ契約ノ履行ヲ確ムル爲メ其不履行ノ場合ニ於テ違約金トシテ或ル金額ヲ支拂フ義務ヲ債務者ニ負ハシムルコトヲ得其違約金ヲ求ムルニハ損害賠償ノ要件ニ關係ナキモノトス
第三百三十八條 履行又ハ賠償ヲ求ムル債權者ノ權利ハ違約金ノ爲メニ廢止セラレスト雖モ疑ハシキトキハ違約金ト共ニ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得ス
第三百三十九條 過失アル不履行ニ因リテ債權者ニ加ヘタル損害カ違約金ノ額ヲ超ユルトキハ違約金ノ外此超過額ニ付キ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第三百四十條 違約金ノ契約ニシテ差額取引又ハ不法ナル博奕若クハ賭事ノ取引ヲ隱蔽セントスル目的ヲ以テスルモノハ無効トス
第六節 代理
第三百四十一條 商取引ノ取結ノ爲メニスル委任ハ總テノ場合ニ於テ其取引取結ノ爲メニスル代理ト看做ス但委任者カ代理人ノ行爲ニ承諾ヲ與フルコトヲ要スル旨ヲ明示シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ハ委任ヲ行フ際至重ノ注意ヲ爲ス義務アリ
第三百四十二條 委任者ノ名ヲ以テシタルト否トヲ問ハス委任者ノ爲メニ代理人ノ取結ヒタル商取引ニ因リ委任者ハ直接ニ第三者ニ對シテ權利ヲ得義務ヲ負フ
第三百四十三條 委任又ハ事後ノ承諾ヲ受クルコト無クシテ第三者ノ爲メニ或人ト取引ヲ取結フ者ハ其人ニ對シテ責任ヲ負フ
第三百四十四條 取引取結ノ際其委任ノ權限ヲ踰越スル者ハ第三者カ其踰越ヲ知ラス又ハ知ルコト能ハサリシトキハ委任者ニ對シテ責任ヲ負フ
第三百四十五條 代理人カ他人ノ爲メ商取引ヲ取結ヒタル場合ニ於テ相手方カ自己ノ過失ニ非スシテ代理ナルコトヲ知ラス又ハ委任者ヲ知ラサリシトキハ其相手方ハ委任者ノ不履行ニ因リテ被フリタル損害ニ付キ其代理人ニ對シテ賠償ヲ求ムル權利アリ
第三百四十六條 代理ハ委任者又ハ代理人ノ死亡ニ因リテ解除スルモノニ非ス
第三百四十七條 代理ハ委任者ノ承諾アリ又ハ其承諾ヲ得ヘキモノト推定ス可キ情況アルニ非サレハ之ヲ第三者ニ轉付スルコトヲ得ス
第三百四十八條 他人ノ爲メニ其委任又ハ事後ノ承諾ヲ受ケテ商取引ヲ取結フ者ハ明約ナキトキト雖モ計算書ヲ示シテ其取引取結ニ付キ正當ニ爲シタル前貸金、立替金竝ニ費用ヲ賠償セシメ及ヒ慣習上ノ利息、手數料又ハ口錢ヲ求ムル權利アリ
第七節 時効
第三百四十九條 商事ニ於ケル債權ハ滿期日ヨリ若シ此期日ノ定ナキトキハ其債權ノ生シタル日ヨリ六个年ノ滿了ニ因リテ時効ニ罹ル但法律上此ヨリ短キ時効期間ヲ規定シタルトキハ此限ニ在ラス
第三百五十條 時効ハ履行ノ爲メ債務者ニ明示シテ爲シタル催吿又ハ債權ノ取立若クハ擔保ノ爲メ債務者ニ對シテ爲シタル債權者ノ裁判上若クハ裁判外ノ行爲又ハ書面上ノ支拂約束又ハ主タル物若クハ從タル物ニ關シ債務者ノ爲シタル一分ノ支拂ニ因リテ中斷ス
第三百五十一條 受取證ヲ記シ又ハ記セサル計算書ノ送付ノミニテハ之ヲ催吿ト看做スコトヲ得ス
第三百五十二條 滿了シタル時効ノ効力ハ主タル物及ヒ從タル物ニ付テノ債權全ク消滅シ債權者ヨリ直接ニモ間接ニモ復タ之ヲ主張スルコトヲ得サルニ在リ
第八節 交互計算
第三百五十三條 相互ノ間ニ絕エス債權及ヒ債務カ生スル所ノ平常ノ取引關係ヲ有スル者ハ期間ヲ定メテ互ニ差引計算ヲ爲シ其債權及ヒ債務ヲ消却スルコトヲ得
第三百五十四條 交互計算ノ關係ハ明示又ハ默示ノ契約ニ因リテ生ス然レトモ長キ時間與信用ヲ繼續シタルモ此カ爲メニ交互計算ノ關係ヲ生スルコト無シ
第三百五十五條 差引計算ノ期間ハ一个年トス但契約ヲ以テ此ヨリ短キ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
第三百五十六條 各當事者ハ每期間ノ終ニ計算ヲ閉鎖シ且約定又ハ相當ノ期間ニ其計算書ヲ承認又ハ異議申述ノ爲メ互ニ送付スル義務アリ
第三百五十七條 異議ヲ起サス又ハ異議ヲ起シタルモ留保ヲ爲サスシテ交互計算ノ關係ヲ繼續スルトキハ計算ヲ默認シタルモノト看做ス
第三百五十八條 交互計算ニ屬スル各債權ハ交互計算ノ關係ヲ解キ又ハ計算ニ對シテ異議ヲ述フルトキニ非サレハ各箇ニ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第三百五十九條 計算カ承認セラレタルトキハ其計算ニ依ルニ非サレハ差引殘額ヲ請求スルコトヲ得ス
第三百六十條 每期間ノ終ニ生スル差引殘額ハ之ヲ新ナル債務計目トシテ次ノ計算ニ移スコトヲ得但反對ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第三百六十一條 別段ノ契約又ハ慣習アラサルトキハ商事ヨリ生スル相互ノ債權及ヒ債務ハ種類ノ何タルヲ問ハス交互計算ヲ以テ取扱フコトヲ得
第三百六十二條 一方ニ於テノミ債權ヲ生シ他ノ一方ハ其債權ノ計算ノ爲メニ時時支拂ヲ爲シテ絕エス取引スル者ノ間ニ交互計算ノ關係ヲ生スルトキハ其計算ニ屬スル債權ハ期間ニ從ヒ且交互計算ノ全部ニ依ルニ非サレハ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第三百六十三條 交互計算ニ繰込ミタル債權ハ契約上ノ定ナキトキト雖モ其繰込ノ日ヨリ之ニ相當ノ利息ヲ付ス可シ
第三百六十四條 各計算期間ニ生スル差引殘額ニ付テハ期間ノ末日ヲ滿期日ト看做ス
第三百六十五條 交互計算ノ關係ハ其計算ニ繰込ミタル債權及ヒ債務ニ付テハ第三者ニ對シテ其効ヲ有セス
第三百六十六條 交互計算ノ關係ハ當事者ノ一方カ何時ニテモ之ヲ辭スル外死亡又ハ破產ニ因リテ解除ス
第九節 質權
第三百六十七條 商取引ヨリ生スル債權ノ擔保ノ爲メニスル動產質權ノ設定ハ總テノ場合ニ於テ書面契約ヲ以テ之ヲ爲ス可シ其契約ハ擔保セラル可キ債權ノ年月日、數量竝ニ其合法ノ原因及ヒ質權設定ノ年月日竝ニ目的物ヲ逐一記載セサルトキハ無効トス
第三百六十八條 質權設定ニ因リ債權者ハ質物ヲ賣却シテ其債權ノ辨償ニ充ツル權利ヲ取得ス但質物ノ占有カ自己又ハ其代人ニ移リタルトキニ限ル
第三百六十九條 船荷證書、倉荷證書其他裏書ヲ以テ所載商品ノ處分權ヲ移轉スルコトヲ得ル證券ノ裏書讓渡ハ物ノ占有ノ移轉ト同一ナリトス
第三百七十條 指圖證券カ質權設定ノ目的物ナルトキハ其證券ニ質入ノ旨ヲ附記シテ債權者ニ裏書讓渡ス可シ
第三百七十一條 債務者カ其債務ノ辨濟ヲ遲延シタルトキハ債權者ハ債務者ニ對シ訴ヲ起スコト無クシテ質契約書ヲ差出シ裁判所ノ命令ヲ得タル後質物ノ賣却ニ著手スルコトヲ得
此命令ハ債權者ヨリ遲延ナク債務者ニ之ヲ通知ス可シ
第三百七十二條 債務者カ契約書ヲ以テ賣却ノ承諾ヲ明示シタルトキ又ハ指圖證券ヲ質入シタルトキハ債權者ハ裁判所ノ命令ナクシテ賣却ヲ爲スコトヲ得
第三百七十三條 前二條ノ場合ニ於ケル賣却ハ仲立人又ハ競賣人カ競賣ヲ以テ之ヲ爲シ又取引所ニ於テ賣買スル商品ニ在テハ取引所ニ於テ公ノ呼上ヲ以テ之ヲ爲シ且賣却期日ノ少ナクトモ八日前ニ其爲サントスル賣却ヲ債務者ニ通知ス可シ
第三百七十四條 前條ニ揭ケタル期間ノ滿了スルマテハ債務者ハ債權者ニ辨濟ヲ爲シテ質物ノ還付ヲ求ムル權利アリ
第三百七十五條 債務額ニ利息及ヒ必要ノ費用竝ニ立替金ヲ加ヘタル額ヲ超ユル賣却代價ノ過剩ハ賣却ノ諸費用ヲ引去リタル後之ヲ債務者ニ還付ス可シ
第三百七十六條 債務者ハ質權ノ設定ニ因リテ質物ヲ他ニ讓渡ス權利ヲ失フコト無シ然レトモ質債務ノ全額ニ滿ツルマテ其代價ヲ質債權者ニ支拂フ可シ之ニ違フトキハ二年以下ノ重禁錮ニ處ス
第三百七十七條 買主ニシテ其買入レタル物ニ付キ第三者ニ質權ノ存スルコトヲ知ル者ハ質債務ノ全額ニ滿ツルマテ其代價ヲ直接ニ質債權者ニ支拂フ可シ之ニ違フトキハ亦前條ノ刑ニ處ス
第三百七十八條 同一ノ物ニ付キ質權ヲ二人以上ニ設定シタルトキハ其物ノ占有者カ賣却ノ優先權ヲ有ス但强暴若クハ隱密ニテ又ハ隨時返還ノ條件ヲ以テ其占有ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第三百七十九條 二人以上ノ質債權者中一人ハ現物ヲ占有シ他ノ者ハ其物ニ付テノ處分證券ヲ占有スルトキハ孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者賣却ノ優先權ヲ有ス
第三百八十條 動產ニ付テノ有効ナル質權ハ質債權者ノ善意ナルトキニ限リ所有者ニ於テ又ハ物ヲ處分スル爲メ所有者ヨリ委託セラレタル代人ニ於テ又ハ正當ナル取得ニ因リ物ノ占有ヲ得タル各人ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得但無記名證券ヲ除ク外其物カ盜品又ハ紛失品ナルトキハ此限ニ在ラス
第三百八十一條 所有者ニ非サル者ノ質入シタル物ハ賣却執行ノ終ニ至ルマテハ所有者ヨリ質債權者ニ十分ナル辨償ヲ爲シテ其取戾ヲ求ムルコトヲ得
第三百八十二條 有効ニ質入シタル物ヲ賣却シ其代價ノ支拂アリタルトキハ從來其物ニ付キ存セル所有權又ハ質權ハ總テ消滅ス
第三百八十三條 質權ハ第三者ニ於テモ債務者ノ爲メ之ヲ設定スルコトヲ得
第三百八十四條 質權ハ將來ノ債權ノ爲メ豫メ之ヲ設定スルコトヲ得ス
第三百八十五條 質物賣却ノ裁判上ノ停止ハ債權者ニ辨濟ヲ爲シタリトノ抗辯ヲ以テ之ヲ爲サシムルコトヲ得但其抗辯ヲ直チニ信認セシメ得ルトキニ限ル
第三百八十六條 指圖證券又ハ無記名證券ニ因リテ生シタル債權ヲ質入スルニハ債務者ニ通知ヲ爲スコトヲ要セス
質債權者ハ質ニ取リタル債權ヲ賣却ニ代ヘテ直接ニ取立ツルコトヲ得又金錢ニ係ル債權ニ非サルトキハ目的物ヲ質物トシテ取扱フコトヲ得
第十節 留置權
第三百八十七條 商取引ニ因リテ他人ノ物ヲ占有シ其物ニ付キ勞力、費用、前貸金、立替金、手數料又ハ利息ニ關シテ滿期ト爲リタル債權ヲ有スル者ハ其債權ノ完全ナル辨濟又ハ擔保ヲ得ルマテハ其物又ハ其賣得金ヲ留置スル權利アリ
第三百八十八條 交互計算ヨリ生スル差引殘額ニ付テノ債權ノ爲メ又ハ債務者支拂ヲ停止シタルトキハ未タ滿期ト爲ラサルモ商取引ヨリ生スル總テノ債權ノ爲メ債權者ハ正當ニ占有ヲ得タル債務者ノ總テノ物ニ對シテ留置權ヲ行フコトヲ得
第三百八十九條 留置權ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但權利者カ自己ノ利益ノ爲メ其物ヲ處分シタルモ其留置權アルコトヲ新所持人ニ吿知セシトキハ此限ニ在ラス
第三百九十條 留置權ハ債權カ時効其他ノ事由ニ因リテ消滅シタルカ爲メニ消滅スト雖モ物ノ所有權カ債務者ノ意ヲ以テ又ハ意ナクシテ他人ニ移リタルカ爲メニハ消滅セス
第三百九十一條 留置權ハ債權者ヨリ之ヲ他人ニ移スコトヲ得ス
第三百九十二條 留置權ノ行使ヲ債務者ニ通知シタルモ仍ホ相當ノ期間ニ辨濟又ハ擔保ヲ得サル者ハ留置シタル物ヲ第三百七十一條及ヒ第三百七十三條ノ規定ニ從ヒテ賣却シ其賣得金ヲ以テ辨濟ニ充ツルコトヲ得
第三百九十三條 雙務ノ契約ニ依リテ其履行ヲ求ムルコトヲ得ル者ハ他ノ一方カ履行ヲ爲スマテハ自己ノ義務ノ目的物ヲ留置スルコトヲ得但反對ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第十一節 指圖證券及ヒ無記名證券
第三百九十四條 或ル金額又ハ商品ノ引渡ニ係ル書面契約ヨリ生スル債權ハ契約書カ其明文又ハ商慣習ニ從ヒテ指圖式ナルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ第三者ニ讓渡スコトヲ得
第三百九十五條 指圖證券ノ發行人又ハ裏書讓渡人ハ其證券ニ指圖式ニ非サル旨ヲ明記シテ裏書讓渡スヲ得サルモノト爲スコトヲ得
第三百九十六條 指圖證券及ヒ其裏書ニハ年月日ヲ記シ發行人又ハ裏書讓渡人之ニ署名捺印ス可シ
第三百九十七條 發行又ハ裏書讓渡ノ緣由タル契約ノ合法ノ原因ハ之ヲ證券ニ揭クルコトヲ要セス但第三百七十條ノ規定ヲ妨ケス
第三百九十八條 指圖證券ノ裏書讓渡ハ白地ニテモ之ヲ爲スコトヲ得
第三百九十九條 指圖證券ノ發行人ハ受取證ヲ記シタル指圖證券ノ呈示及ヒ交付ヲ受ケタルトキハ豫メ引受ヲ爲サスト雖トモ其證券ニ記載シタル金額又ハ商品ヲ裏書讓受人ニ引渡ス義務アリ但第三百八十七條ニ依リテ留置權ノ原因タル反對債權ヲ有スル場合ニ於テハ其辨濟ヲ受ケタルトキニ限ル
第四百條 指圖證券ノ發行人ハ呈示人ノ眞僞ヲ調査スル權利アルモ其義務ナシ然レトモ惡意又ハ甚シキ怠慢ニ付テハ此カ爲メ損害ヲ受ケタル者ニ對シテ其責ヲ負フ
第四百一條 指圖證券ノ發行人ハ前二條ノ旨趣ニ從ヒ自己ニ屬スル抗辯又ハ證券面ヨリ生スル抗辯ニ依ルニ非サレハ義務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得ス
第四百二條 裏書讓受人カ裏書讓渡ニ因リテ受取リタル物ニ付キ如何ナル權利ヲ有スルカハ裏書讓受人ト裏書讓渡人トノ間ニ取結ヒタル契約ノ旨趣ニ依リテ之ヲ定ム
第四百三條 盜取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル指圖證券ハ裏書讓渡アリタルト否トヲ問ハス民事訴訟法ニ從ヒテ權利者之ヲ無効トスル手續ヲ爲スコトヲ得
第四百四條 切手、切符其他ノ無記名證券ハ交付ノミヲ以テ之ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得此等ノ證券ニ因リ所持人カ發行人ニ對シテ有スル權利ハ其證券ニ記載シタル旨趣又ハ法律、命令若クハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
第八章 代辨人、仲立人、仲買人、運送取扱人及ヒ運送人
第一節 總則
第四百五條 代辨人、仲立人、仲買人及ヒ運送取扱人ノ權利義務ハ第七章第六節ニ揭ケタル原則ニ從ヒテ之ヲ定ム但下ノ數條ニ別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第二節 代辨人
第四百六條 代辨人ハ商事ニ於テ他人ノ代理ヲ爲スヲ營業トスル商人タリ
代辨人ハ或ル營業者ノ代辨店ノ業務ヲ取扱フ爲メニモ之ヲ置クコトヲ得
第四百七條 代辨人ハ自己ノ計算ヲ以テ商業其他ノ職業ヲ行ヒ又數人ノ代理ヲ引受クルコトヲ得然レトモ一箇ノ取引ニ付キ同時ニ雙方ヲ代理スルコトヲ得サルヲ通例トス
第四百八條 代辨ノ契約ハ一箇ノ取引ノ爲メ又ハ一種類若クハ數種類ノ取引ノ爲メ有期ト無期ト又明示ト默示トヲ問ハス之ヲ取結フコトヲ得又其契約ハ何時ニテモ一方ヨリ之ヲ解クコトヲ得然レトモ其契約ヨリ生シタル權利及ヒ過失ニ出ツル解除ニ因リテ被フラシメタル損害ヲ賠償スル義務ハ契約ヲ解キタルカ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第四百九條 代辨人ハ特ニ委任者ノ求ナキモ其委任セラレタル取引ノ範圍內ニ於テ委任者ノ利益ヲ謀ル義務アリ然レトモ滿期ト爲リタル自己ノ債權ノ辨濟ヲ受ケサル間ハ其任務ヲ續行スルコトヲ要セス
第四百十條 委任者ニ對スル代辨人ノ代理權ノ範圍ハ委任者ヨリ與ヘタル委任又ハ事後ノ承諾ニ依リテ之ヲ定ム常囑ノ代辨人ニ在テハ其事後ノ承諾ヲ以テ引續ノ委任ト看做ス但反對ノ情況又ハ明示アルトキハ此限ニ在ラス
第四百十一條 代辨人ハ明示ノ委任ヲ受クルニ非サレハ契約ノ取結ヲ爲スコトヲ得サルヲ通例トス
第四百十二條 取引ノ取結ヲ爲スノミノ委任ヲ受ケタル代辨人ハ支拂ノ金錢若クハ差戾ノ商品ヲ受取リ又ハ異議ヲ承諾スル權利ナシ
第四百十三條 代辨人ハ別段ノ委任ヲ受クルニ非サレハ和解契約ヲ取結ヒ又ハ訴訟ヲ爲ス權利ナシ
第四百十四條 商品ノ引渡其他契約履行ノ爲メ委任ヲ受ケタル代辨人ハ其代價ノ支拂ヲ受クル權利アリト看做ス但委任者其反對ヲ明示シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十五條 代辨人ハ其取扱ヒ又ハ取結ヒタル取引ニ關シテハ過失アルトキ又ハ別段ニ義務ヲ負擔シタルトキニ限リ第三者ノ支拂資力ニ付キ委任者ニ對シテ責任ヲ負フ其別段ニ義務ヲ負擔シタル場合ニ於テハ第二百八十八條ノ規定ヲ適用ス
第四百十六條 常囑ノ代辨人其行爲ニ付キ第三者ノ問ニ對シテ己レニ其權アリト明言シタルトキ又ハ其行爲カ慣習上委任ノ範圍內ニ在ルトキハ委任者ハ善意ナル第三者ニ對シテ責任ヲ負フ
第四百十七條 代辨人其行爲ニ付キ第三者ヨリ口錢、報酬又ハ償金ヲ受クルトキハ之ヲ委任者ノ計算ニ歸ス可シ然ラサルトキハ委任者其行爲ニ付キ責任ナシト述フルコトヲ得
第四百十八條 代辨人ハ自己ノ受取ル可キ手數料、前貸金、立替金、費用及ヒ利息ノ爲メ第三百八十七條及ヒ第三百八十八條ノ規定ニ從ヒ委任者ニ對シテ留置權ヲ有ス又其現ニ支拂ヒタル立替金及ヒ費用ニ付テハ商慣習又ハ實際ノ必要ニ依リ又ハ委任者ノ利益ノ爲メ正當ト認ム可キモノニ限リ之ヲ委任者ノ負擔ニ歸スルコトヲ得
第三節 仲立人
第四百十九條 仲立人ハ官ノ認可ヲ受ケ他人間ノ商取引ノ媒介ヲ爲スヲ營業トスル商人ニシテ取引所ナキ地ニ於テハ商品、有價證券、貨幣及ヒ爲替ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスル專權ヲ有ス其仲立人ノ行爲ハ總テ公ノ信用アルモノトス
第四百二十條 仲立人ハ或ル部類ノ商取引ノ爲メニ認可セラルルコトヲ得
仲立人ハ仲立營業外ノ商業ヲ爲スコトヲ得ス然レトモ其地ノ情況ニ因リテ二箇以上ノ仲立營業部類ヲ一人ニ兼ネシムルコト及ヒ仲立人ヲシテ取引所ニ於テ其營業ヲ爲サシムルコトヲ官ヨリ又ハ取引所定款ニ於テ許スコトヲ得
第四百二十一條 何人ニテモ年齡滿二十五歲ニ達シ少ナクトモ五年間其部類ノ商ニ從事シ且聲聞ニ瑕瑾ナキ者ニ限リ仲立人ト爲ルコトヲ得但破產シタル者ハ復權ヲ得タル後ニ非サレハ仲立人ト爲ルコトヲ得ス
第四百二十二條 仲立人ハ其業務ヲ始ムル以前ニ保證金ヲ差出ス可キモノトス其額ハ各地及ヒ各商部類竝ニ二箇以上ノ仲立營業部類ヲ兼ネシムル場合ノ爲メ省令ヲ以テ之ヲ定ム然レトモ二萬圓ヲ超ユルコトヲ許サス
第四百二十三條 仲立人ノ員數ハ各地ノ爲メ及ヒ其地ノ各商部類ノ爲メ其需用ニ應シテ之ヲ定ムルコトヲ得
第四百二十四條 仲立人ハ其資格アル者ニ其營業ヲ讓渡シ又ハ相續セシムルコトヲ得ルト雖モ其承繼人ハ官ノ認可ヲ受ケ及ヒ保證金ヲ差出シタル後ニ非サレハ其營業ヲ行フコトヲ得ス
第四百二十五條 一地ノ仲立人又ハ一地ニ於ケル或ル商部類ノ仲立人十人以上アルトキハ其仲立人ハ官ノ認可ヲ受ケタル後組合ヲ成スコトヲ得此場合ニ於テハ其組合中ヨリ一个年ノ任期ニテ少ナクトモ三人ノ取締役ヲ選擧ス可シ總テ其地ノ仲立人ハ此組合ニ加入スル權利及ヒ義務アリ
第四百二十六條 仲立人及ヒ仲立人組合ハ共通計算ヲ以テ仲立營業ヲ爲スコトヲ許サス之ニ背クトキハ仲立人ニ在テハ其營業ヲ禁止シ組合ニ在テハ其組合ヲ解散シ尙ホ其組合員ノ營業ヲ禁止ス然レトモ仲立人組合ハ其組合定款ニ從ヒテ各組合員ノ爲メニ共同保證ヲ引受クルコトヲ得
第四百二十七條 仲立人組合ハ多數決ヲ以テ其營業ヲ行フ爲メノ定款ヲ設ク可シ此定款ハ商業會議所及ヒ取引所又ハ其一ノ存スル地ニ在テハ其承諾ヲ經且官ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス各組合員ハ其定款ヲ遵守スル義務アリ
前項ノ規定ハ定款變更ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス
定款ハ法律、命令、商慣習及ヒ其地ノ取引所定款ニ背戾スルコトヲ得ス
第四百四十八條ノ規定ハ取締役ノ決議ニ付テモ之ヲ適用ス
第四百二十八條 取締役ハ左ニ揭クル權利及ヒ義務アリ
第一 仲立人カ其職務範圍內ニ屬スル取引ニ於テ法律、命令及ヒ仲立人組合定款ヲ遵守スルヤ否ヤヲ監視スルコト
第二 組合員中ニ違犯者アルトキハ之ヲ懲責シ且必要ノ場合ニ於テハ其處罰及ヒ除名ヲ申立ツルコト
第三 取引所ナキ地ニ於テハ各組合員ヨリ提出スル覺書ニ基キ少ナクトモ一週日每ニ爲替相場及ヒ貨幣、商品竝ニ有價證券ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスルコト
第四 其定メタル相場ヲ絕エス記入スル爲メ帳簿ヲ備ヘ且求ニ應シテ公定ノ相場書ヲ交付スルコト
第五 裁判所又ハ官廳ノ求ニ應シテ商ノ情況ヲ開陳シ又慣習ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
第六 仲立人ノ認可及ヒ員數ノ增減ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
第七 總テ組合內部ノ事務ヲ管理スルコト
第四百二十九條 仲立人ハ其媒介スル取引ニ於テ雙方ヲ代理スル權利アリ
仲立人ハ正當ノ理由アルニ非サレハ何人ノ委任タリトモ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第四百三十條 仲立人ハ自己又ハ他人ノ計算ノ爲メニスルモ自己又ハ他人ノ名義ヲ以テスルモ自己ニ直接又ハ間接ノ利害アル取引ヲ爲スコトヲ得ス
仲立人ハ他人ノ爲メニ支拂若クハ保證其他ノ擔保ヲ受ケ又ハ爲シ又ハ他人ノ爲メニ商品ニ對シテ前貸ヲ爲スコトヲ得ス
仲立人ハ代務人又ハ商業使用人タル資格ヲ以テ他人ノ用ヲ辨スルコトヲ得ス
前三項ノ規定ヲ犯シテ仲立人ノ爲シタル取引ハ總テ無効トス
第四百三十一條 仲立人ハ委任者ニ對シテ詳悉、完全及ヒ正實ニ必要ノ申吿ヲ爲ス可シ其申吿ニ付キ殊ニ其媒介シタル取引ニ關シテハ委任者ノ人違ニ非サルコト無能力者ニ非サルコト及ヒ署名捺印ノ眞正ナルコトニ付キ責任アルモノトス又其地ノ顯著ナル商人ニ於テ人違ニ非サルコトヲ擔保スルニ非サレハ面識ナキ人ノ爲メ又ハ之ニ對シテ取引ヲ媒介スルコトヲ得ス
第四百三十二條 仲立人ハ委任者ノ求ニ應シテ事ヲ祕スル義務アリ
第四百三十三條 仲立人ハ其媒介シタル取引ニ付キ自ラ其商品ノ存在、品位及ヒ買主ノ支拂資力ヲ確認シ且其受取リタル雛形及ヒ見本ニ相當ノ記號ヲ附シ其取引ノ結了スルマテ之ヲ貯藏ス可シ
第四百三十四條 仲立人ハ手形其他ノ有價證券ノ取引ニ付キ委任ヲ受クルトキハ賣主ニ對シテハ證券ノ交付ヲ求メ買主ニ對シテハ價額ノ少ナクトモ百分ノ二十ノ前拂ヲ求ム可キモノトス
第四百三十五條 仲立人ハ當事者ノ明言アルトキニ限リ取引ヲ取結フ權アリ匿名委任者ノ場合ニ於テハ取引取結ノ權限ニハ辨濟又ハ報償ヲ受クル權ヲ併セテ與ヘタルモノト看做ス
第四百三十六條 仲立人ハ違法若クハ制禁ノ取引又ハ空取引ヲ媒介スルコトヲ得ス
第四百三十七條 仲立人ハ自ラ業務ヲ營ム可キモノニシテ殊ニ取引取結ニ付テハ使用人又ハ代理人ヲ用ユルコトヲ得ス
第四百三十八條 仲立人ハ其擔任義務ノ違背其他ノ過失ニ付キ委任者ニ對シテ損害賠償ヲ爲ス責ニ任ス
第四百三十九條 匿名委任者ノ爲メ取結ヒタル取引ニ付テハ仲立人獨リ直接ニ請求ヲ受ク
第四百四十條 仲立人ハ其取結ヒタル取引ノ要旨ヲ特設ノ日記帳ニ日日記入シ自ラ其記入ヲ日日閉鎖シテ之ニ署名捺印シ且遲クトモ翌日中ニ關係アル部分ノ謄本ニ署名捺印シテ之ヲ委任者雙方ニ交付ス可シ但其謄本ハ指圖式ト爲スコトヲ得
其一方ニ於テ右謄本ノ旨趣ニ對シテ異議ヲ唱ヘ又ハ承諾スルコトヲ肯セサルトキハ仲立人直チニ之ヲ他ノ一方ニ通知ス可シ但他ノ一方カ匿名委任者ニ非サルトキニ限ル
第四百四十一條 死亡シ又ハ退職シタル仲立人ノ日記帳ハ仲立人組合ノ取締役ニ於テ其組合ナキ地ニ在テハ裁判所ニ於テ之ヲ預リ置ク可シ
第四百四十二條 仲立人ノ手數料ハ別段ノ定例又ハ慣習ノ存スル場合ヲ除ク外其取引結了ノ後ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
手數料ノ額ハ仲立人組合定款又ハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
手數料ハ別段ノ契約又ハ慣習ナキトキニ限リ委任者雙方ヨリ各其半額ヲ拂フヲ通例トス
手數料ハ仲立人ノ過失ニ因リテ其契約ヲ相當ニ履行セサルトキハ之ヲ拂フコトヲ要セス
第四百四十三條 仲立人カ適法ノ手數料ヲ超過シタル報酬又ハ惠與ヲ委任者ノ一方ヨリ受ケタルトキハ他ノ一方ニ於テ其取引ヲ無効ナリト陳述スルコトヲ得
第四節 取引所仲立人
第四百四十四條 取引所ハ取引所定款ノ規定ニ從ヒテ商取引ヲ爲ス所ノ公設場トス
第四百四十五條 相應ノ商アル地ニ於テハ其地又ハ其一區域內ノ商人ニ於テ一般又ハ或ル部類ノ商取引ノ爲メ官ノ認可ヲ得テ取引所ヲ設立スルコトヲ得
第四百四十六條 取引所ハ取引場ヲ定メ定款ヲ設ケ及ヒ取締役ヲ置ク可シ此諸件及ヒ其變更ニ付テハ官ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第四百四十七條 取引所ノ事務及ヒ章程ハ特別ノ法律、命令アルニ非サレハ定款ヲ以テ之ヲ定ム若シ其定ナキトキハ取締役其定款ニ準據シテ之ヲ定ム
第四百四十八條 取締役ノ決議ヲ不當又ハ有害ナリトシテ異議ヲ述フル者アルトキハ農商務省ニ於テ雙方ヲ審訊シタル後其理由ヲ示シテ之ヲ裁決ス
第四百四十九條 或ル商品ヲ小賣ノ外ハ取引所ニ非サレハ商フヲ得サルコトヲ官ヨリ規定スルコトヲ得
此規定ニ違フ者ハ二圓以上二百圓以下ノ過料ニ處ス
前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一條第一項ノ規定ヲ適用ス
第四百五十條 取引所ニ於テハ其賣買ヲ許サレタル商品ノ倉庫ヲ設置シ及ヒ指圖式ノ倉荷證書ヲ發行スルコトヲ得取締役又ハ取引所仲立人ハ其倉荷證書ニ對シテ前貸ヲ爲シ又ハ之ヲ買受クルコトヲ得ス
第四百五十一條 取引所仲立人ハ特ニ取引所仲立人トシテ官ノ認可ヲ受ケ且保證金ヲ差出シタル後取締役ヨリ其職ニ充テラルルモノトス其仲立人ハ取引所ノ定款其他ノ章程ヲ遵守スルコトヲ誓フ可シ
第四百五十二條 仲立人組合ノ存在スル地ニ在テハ其組合取締役ノ中少ナクトモ一人ヲ取引所取締役ニ選ム可シ
第四百五十三條 取引所ハ其取引ノ範圍ニ應スル員數ノ仲立人ヲ置ク可シ
第四百五十四條 本法中仲立人ニ係ル規定ハ取引所仲立人モ之ヲ遵守ス可シ
第四百五十五條 仲立人、取引所仲立人及ヒ取引所ハ大藏省及ヒ農商務省ノ監督ヲ受ク
第五節 仲買人
第四百五十六條 仲買人ハ契約ニ從ヒ自己ノ名ヲ用井他人ノ計算ヲ以テ商業ヲ營ム商人タリ
第四百五十七條 仲買人ノ第三者ト取結ヒタル取引ノ効力ハ第三者ニ對シテハ委任者ノ委任又ハ承諾ニ關係セス
第四百五十八條 仲買人ハ委任者ノ與ヘタル委任ヲ遵守スル義務アリ其委任ノ踰越其他ノ過失ニ因リテ加ヘタル損害ニ付テハ委任者ニ對シテ其責ニ任ス
第四百五十九條 仲買人事情避ク可カラサリシコトト委任者ノ爲メ更ニ大ナル損害ヲ防止シタルコトトヲ證明スルトキハ委任踰越ノ責ヲ免カル但委任者カ明示又ハ默示ニテ其委任ヲ必行ス可キコトヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百六十條 仲買人ハ委任踰越ニ因リテ委任者ノ損失ト爲リタル物價ノ差額其他計算上ノ差額ヲ自己ニ負擔スルヲ以テ委任踰越ノ責ヲ免カルルコトヲ得ス
第四百六十一條 仲買人ハ委任ニ背クニ因リテ委任者ノ利益ト爲リタル物價ノ差額其他計算上ノ差額ヲ自己ノ有ニ歸スルコトヲ得ス
第四百六十二條 第四百九條ノ規定ハ仲買人ニモ之ヲ適用ス殊ニ仲買人ハ取引施行ノ前後ヲ問ハス常ニ遲延ナク委任者ニ必要ノ報知ヲ爲シ且運送、貯藏、保險、賣買其他總テ商業上ノ作用ニ付キ十分ニ所有者ノ利益ヲ謀ル可シ
第四百六十三條 仲買人ハ必要ノ前貸金ヲ遲滯ナク交付セラレ又ハ取引ヨリ生ス可キ自己ノ請求ニ對スル引當ヲ有シ若クハ擔保ヲ得タルトキハ總テ其營業ニ屬スル委任ヲ引受クル義務アリ
第四百六十四條 仲買人委任ノ引受ヲ肯セサルトキハ直チニ之ヲ委任者ニ通知シ且寄託ノ貨物ヲ適當ニ保存スル義務アリ若シ其通知ヲ爲ササルトキハ委任施行ノ責ニ任ス
第四百六十五條 仲買人ハ別段ノ契約ナキトキハ委任者ニ又ハ委任者ノ計算ヲ以テ第三者ニ前貸ヲ爲ス義務ナシ然レトモ委任者ノ承諾ヲ得タルトキ又ハ其承諾ナキモ商慣習アルトキハ委任者ノ計算ヲ以テ第三者ニ前貸ヲ爲シ又ハ信用ヲ與フル權利アリ
第四百六十六條 仲買人ハ第四百十五條ノ規定ニ從ヒ第三者ノ支拂資力ニ付キ委任者ニ對シテ責ニ任ス然レトモ其責任ハ第三者カ責ニ任ス可キマテヲ以テ限トス
第四百六十七條 委任者ハ仲買人ニ與ヘタル委任ノ未タ施行セサルモノニ限リ何時ニテモ之ヲ廢止シ又ハ變更スルコトヲ得
仲買人ハ第四百六十三條ノ規定ニ依リテ委任ノ引受ヲ拒ミ得ルトキニ限リ解約ヲ申込ム權利アリ但正當ニ其申込ヲ爲シタル後ト雖モ惡意又ハ怠慢ニ付テハ委任者ニ對シテ仍ホ責ニ任ス
第四百六十八條 仲買委任ノ關係ハ一方ノ破產ニ因リテ終ル又死亡其他委任ヲ施行スルコト能ハサル事由ニ因リテハ此事由ニ基キテ其關係ヲ解クコトヲ一方ヨリ明言シタルトキニ限リ終ルモノトス
第四百六十九條 仲買人ハ仲買取引ノ外自己ノ計算ヲ以テ同種類又ハ他種類ノ取引ヲモ爲ス權利アリ
前項ノ商人ニシテ仲買取引ヲ常業ト爲ササル者ニハ第四百六十三條ノ規定ヲ適用セス
第四百七十條 仲買人ハ委任者ニ於テ反對ノ明言ヲ爲ササルトキハ其受ケタル委任ヲ買主、賣主又ハ其他ノ者トシテ自己ノ計算ヲ以テ施行スルコトヲ得然レトモ委任者ニ對スル自己ノ權利及ヒ義務ハ變更スルコト無シ
第四百七十一條 前條ノ場合ニ於テハ仲買人ヨリ自己ノ計算ヲ以テ引受ケタル旨ノ通知ヲ委任者ニ發送シタル時直チニ其委任ヲ施行シタルモノト看做ス
第四百七十二條 仲買人ハ委任施行ノ後之ヲ委任者ニ通知シ其取引ノ賣得金ヨリ自己ノ取分ヲ引去リテ之ヲ委任者ニ支拂ヒ又ハ其計算ニ立ツ可シ
第四百七十三條 委任者ノ計算ヲ以テ買入レ又ハ引受ケタル商品ハ委任ニ他ノ定ナキトキハ仲買人之ヲ委任者ノ處分ニ付シ其處分アルマテ適當ニ貯藏ス可シ其商品ノ運送ヲ周旋スル義務アルハ明示ノ委任アルトキニ限ル但自己ノ留置權ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第四百七十四條 仲買人ノ取引ニシテ委任者ノ承認スル義務ナキモノハ其承認ナキニ拘ハラス仲買人ノ計算ニ於テハ有効トス然レトモ第三百八十一條ノ規定ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ又仲買人ハ委任者ニ總テノ損害ヲ賠償ス可シ
第四百七十五條 仲買取引ヨリ生シタル債權及ヒ債務ハ仲買人ノ直接ノ債權及ヒ債務タルヲ通例トス然レトモ仲買人其債權ヲ委任者ニ讓渡シ又ハ支拂資力ヲ失ヒタルトキハ委任者直チニ第三者ニ對シテ其債權ヲ主張スルコトヲ得
第四百七十六條 仲買人ハ委任者ニ爲シタル前貸ノ償還ノ外尙ホ左ノ諸件ヲ求ムル權利アリ
第一 必要又ハ有益ニシテ商慣習ニ適スルモノニ眼リ現ニ支拂ヒタル費用及ヒ立替金ノ辨償
第二 各地慣習又ハ契約上ノ仲買手數料
第三 仲買人ニ於テ資力保證ヲ負擔シタルトキハ其保證料
仲買人ハ右ノ債權ニ付キ第三百八十七條及ヒ第三百八十八條ノ規定ニ從ヒテ留置權ヲ有ス
第四百七十七條 仲買人ノ過失ニ非スシテ委任ヲ施行セサリシトキト雖モ仲買人ハ慣習アル地ニ限リ仲買手數料ヲ求ムルコトヲ得但其額ハ通常手數料ノ半額ヲ超ユルコトヲ得ス
第四百七十八條 仲買人ハ仲買ノ爲メ取扱フ商品ニ自己ノ商標又ハ商號ヲ附スルコトヲ得
然レトモ其商品ニ附シタル他ノ商人又ハ製造人ノ商標又ハ製造標ヲ其承諾ヲ得スシテ變更シ又ハ除去スルコトヲ得ス又他ノ商人又ハ製造人ヨリ出テタル仲買商品ニ出所ノ區別ヲ表セスシテ自己ノ商標又ハ商號ヲ附スルコトヲ得ス
第四百七十九條 仲買人或ル見本又ハ雛形ニ從ヒテ委任ヲ施行ス可キトキハ反對ノ明約ナキトキニ限リ正當ノ所有者又ハ製出者ニ依ルニ非サレハ其委任ヲ施行スルコトヲ得ス之ニ違フトキハ委任者ハ其商品カ見本又ハ雛形ニ適スルト否トヲ問ハス其契約ヲ解クコトヲ得
第四百八十條 書籍其他器械ヲ以テ複製スル學藝、技術上ノ製出物ノ發行引受ハ仲買營業ノ原則ニ依ル可シ
第六節 運送取扱人
第四百八十一條 運送取扱人ハ契約ニ從ヒ自己ノ名ヲ用井他人ノ計算ヲ以テ商品其他ノ物ノ運送取扱ヲ營業トスル商人タリ
運送取扱人ハ其營業ノ外亦自己ノ計算又ハ他人ノ計算ヲ以テ他ノ商取引ヲ爲スコトヲ得
第四百八十二條 運送取扱人ハ運送賃ヲ約定シタルト否トヲ問ハス又其引受ケタル運送ヲ自己ノ運送具、賃借ノ運送具又ハ他人ノ運送具ヲ以テ施行スルト施行セシムルトヲ問ハス仲買人及ヒ運送營業人ト同一ノ責ニ任ス
第四百八十三條 運送取扱人ハ別段ノ契約ヲ爲ササルトキ又ハ直接ニ運送ヲ爲ス場合ニ於テハ其運送ヲ遞次施行スル總テノ中間運送取扱人、代辨人、運送營業人其他ノ人ノ爲メ運送營業人タル責ニ任ス
第四百八十四條 運送取扱人ハ運送狀ヲ發行ス可シ其運送狀ニハ左ノ諸件ヲ揭クルコトヲ要ス
第一 年月日、運送取扱人ノ氏名及ヒ住所
第二 運送營業人ノ氏名及ヒ住所
第三 運送品ノ種類及ヒ重量
第四 行李アルトキハ其箇數、性質及ヒ記號
第五 約定シタル引渡ノ地及ヒ時
第六 運送賃
其他運送狀ニハ左ノ諸件ヲ揭クルコトヲ得
第一 運送品ノ價額
第二 名宛人ノ氏名
第三 引渡ヲ遲延シタル場合ニ於テ支拂フ可キ損害賠償ノ額
第四百八十五條 運送狀ハ反對ヲ明記セサルトキハ指圖式トス又無記名式ニテ之ヲ發行スルコトヲ得
第四百八十六條 運送品ノ差出人ハ運送狀一通又ハ數通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第四百八十七條 運送取扱人ハ其取結ヒタル總テノ運送取扱契約ヲ特設ノ帳簿ニ日日記入シ且其帳簿ヲ日日閉鎖シテ之ニ署名捺印ス可シ各運送狀ハ其帳簿ノ記入ト同文ナルコトヲ要ス
第四百八十八條 運送狀ノ記入ニシテ運送取扱契約又ハ法律、命令ニ背戾スルモノハ無効トス
第四百八十九條 運送取扱人ハ左ニ揭クルモノヲ求ムルコトヲ得
第一 運送取扱人ヨリ運送品ニ對シテ爲シタル前貸及ヒ其立替ヘタル運送賃ノ償還
第二 運送取扱人ヨリ運送品ノ爲メニ支拂ヒタル必要又ハ有益ノ費用及ヒ立替金ノ辨償
第三 各地慣習又ハ契約上ノ運送取扱手數料但運送賃額ヲ定メタル場合ニ於テハ其手數料ヲ明約シタルトキニ限ル
運送取扱人ハ右ノ債權ニ付テハ第三百八十七條及ヒ第三百八十八條ノ規定ニ從ヒ運送品ニ對シテ留置權ヲ有ス
第四百九十條 運送取扱人ノ債權ハ特約アルニ非サレハ到達地ニ於テ運送品ヲ引渡ス際運送取扱人、其受次人又ハ約定シタル運送ノ全部若クハ一分ヲ施行シタル者ヨリ始メテ之ヲ主張スルコトヲ得
第四百九十一條 運送取扱人ノ責任ニ因リテ生スル請求又ハ抗辯ニ對シテハ運送取扱人及ヒ前條ニ揭ケタル各人ハ連帶且無條件ニテ其責ニ任ス
第四百九十二條 本節ノ規定ハ旅客ノ運送、新聞紙、電報、印刷物其他ノ物ノ送達竝ニ廣吿ノ取次其他ノ送達事業ヲ營業トスル人ニモ之ヲ適用ス然レトモ運送仲立人、代辨人、商事問合場及ヒ此類ノモノニハ之ヲ適用セス
第七節 運送人
第四百九十三條 運送人ハ陸上又ハ國內水上ニ於テ商品其他ノ物ノ運送ヲ營業トスル商人タリ
運送人ハ運送品ヲ引受ケタル時ヨリ其運送品ノ喪失、毀損及ヒ引渡ノ遲延ニ付キ責ニ任ス但此事實カ差出人ノ過失、運送品ノ性質又ハ不可抗力ニ因リテ生シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十四條 運送品ノ引渡ハ約定ノ期間ニ之ヲ爲ササルトキ又期間ノ約定ナキ場合ニ於テハ運送ヲ施行スル爲メ通例必要ナル期間ニ之ヲ爲ササルトキハ遲延シタルモノトス右ノ期間ハ孰レノ場合ニ於テモ運送狀ノ日附ヨリ若シ其日附ナキトキハ運送品ヲ引受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第四百九十五條 運送品ノ引渡ヲ遲延シタルニ付テノ賠償額ハ運送賃ノ三分一トス但此額カ損害ノ割合ニ應セサルトキ又ハ別段ノ額ヲ約定シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十六條 運送品カ遲延又ハ一分ノ喪失若クハ毀損ニ因リテ其儘賣却シ若クハ使用シ得ヘカラサルニ至リタルトキ又ハ少ナクトモ其價額ノ四分三ヲ失ヒタルトキハ其運送品ヲ運送人ニ委付シテ全價額ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第四百九十七條 運送品ノ各部又ハ各箇ノ喪失若クハ毀損ノ場合ニ於テ毀損セサル各部又ハ各箇ヲ其儘使用シ若クハ賣却シ得ヘカラサルトキハ其喪失若クハ毀損ニ因リテ運送品全部ニ付キ減シタル價額ヲ賠償ス可シ然レトモ其毀損セサル各部又ハ各箇ノ價額カ運送品全部ノ價額ノ四分一ニ超エサルトキハ前條ノ規定ヲ適用ス
第四百九十八條 賠償額ハ商品ニ在テハ引渡地ノ商價額ニ從ヒ其他ノ運送品ニ在テハ引渡地ノ普通價額ニ從ヒ第三百二十四條ノ規定ニ依リテ之ヲ計算ス可シ但運送狀ニ此ヨリ高キ價額ヲ揭ケサルモノニ限ル
第四百九十九條 價額ニ付キ又ハ損傷ノ範圍ニ付キ當事者間ニ爭ノ生スルトキハ鑑定人ノ鑑定ニ因リ之ヲ定ム其鑑定人ハ當事者之ヲ任シ若シ當事者同意スルコトヲ得サルトキハ其申立ニ因リテ裁判所之ヲ任ス
第五百條 金銀貨幣、貴金屬、寶石、金銀物、有價證券、證書類其他ノ高價物ニ在テハ其賠償ハ運送委託ノ際其物ノ性質及ヒ價額ヲ明吿シ且適當ニ廣吿シタル特別運送賃表ニ依リテ高額ノ運送賃ヲ承諾シタルトキニ限リ其實價ニ從ヒテ之ヲ求ムルコトヲ得
第五百一條 前條ニ揭ケサル運送品ニ在テハ運送人ハ豫メ適當ニ廣吿シタル運送賃表ヲ以テ各行李又ハ重量ニ付キ或ル金額マテニ限リ第四百九十八條ノ價額賠償ヲ辨濟ス可キ旨ヲ約定スルコトヲ得
第五百二條 前數條ニ揭ケタル賠償額ハ至當ノ理由ニ基キタル明示ノ契約ニ依ルニ非サレハ之ヲ增減スルコトヲ得ス
第五百三條 運送人ハ甚シキ怠慢又ハ惡意ニ因リ總テノ場合ニ於テ第三百二十八條及ヒ第三百二十九條ノ規定ニ從ヒテ十分ナル損害賠償ノ義務ヲ負フ
第五百四條 運送人ハ使用人其他自己ノ引受ケタル運送ヲ爲スニ當リ使用スル者ノ爲メ責ニ任ス
第五百五條 或ル運送人ニ於テ引受ケタル運送ヲ之ニ次ク他ノ運送人ノ爲ストキハ其各運送人ハ連帶シテ責任ノ全部ヲ負擔ス
第五百六條 運送人ハ運送ノ爲メ委託セラレタル貨物ニ付テハ差出人又ハ受取人ノ代辨人ト看做サレ差出人又ハ受取人ニ對シテ其貨物ノ保存及ヒ適當ナル運送ノ爲メニ必要ナル注意ヲ爲ス責ニ任ス
第五百七條 第四百八十三條乃至第四百九十一條ノ規定ハ運送人ニモ之ヲ準用ス
第五百八條 差出人又ハ受取人ハ運送前ハ勿論運送中ト雖モ其約定シタル運送ノ施行ヲ止メ又ハ變スル權利アリ然レトモ運送人ニ屬スル求償權ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第五百九條 不可抗力其他ノ意外ノ事ニ因リテ約束シタル運送ノ著手又ハ續行ヲ妨ケラレ又ハ之ヲ爲スコトヲ得ス若クハ其危險ナルニ至リタルトキハ雙方ニ於テ前條ト同一ノ權利ヲ有ス然レトモ此場合ニ於テ運送人ハ既ニ爲シタル運送ノ割合ニ應スル運送賃ノ支拂及ヒ費用又ハ立替金ノ辨償ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第五百十條 約定ノ運送ヲ爲サス又ハ中止シタルコトカ運送人ノ過失又ハ行爲ニ出テタル場合ニ於テ其運送人カ他ノ適當ナル運送人ヲ任セサルトキハ差出人又ハ受取人ハ契約ヲ解除シ又ハ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第五百十一條 運送人カ運送品又ハ運送狀ヲ最初ニ定メタル受取人ニ交付セサル間ハ差出人ハ運送前ト運送中トヲ問ハス其運送品ニ付キ運送狀ニ揭ケタルモノニ異ナレル處分ヲ爲スコトヲ得
第五百十二條 運送人ハ其求メラレタル運送カ特別ナル危險ヲ免カルルコトヲ得サルトキ又ハ其平常爲ス運送營業ニ屬セサルトキノ外ハ適法ノ理由アルニ非サレハ其運送委託ノ引受ヲ拒ミ又ハ其引受ヲ困難ナル條件ニ繫ラシムルコトヲ得ス殊ニ非常ノ情況アルトキノ外ハ運送具又ハ運送設備ノ不完全ナルヲ以テ口實ト爲スコトヲ得ス
第五百十三條 運送狀又ハ其他ニ指名シタル受取人ハ自己ノ名ヲ以テスルト他人ノ名ヲ以テスルトヲ問ハス到達地ニ於テ運送狀ニ從ヒ運送人ニ對シテ運送契約ヨリ生スル債權ヲ主張スルコトヲ得
第五百十四條 運送狀又ハ其他ニ指名シタル受取人カ運送品ノ引受若クハ差出人ノ附シタル條件ノ履行ヲ拒ムトキ又ハ運送賃其他運送人ノ正當ナル債權ノ支沸ヲ爲ササルトキ又ハ其受取人ヲ搜出スルヲ得サルトキハ運送人ハ運送品ヲ公ノ倉庫ニ寄託シ又ハ裁判所ノ命令ニ依リテ他人ニ寄託シ及ヒ第三百九十二條ノ規定ニ從ヒ其總債權ノ額ニ滿ツルマテ之ヲ賣却スルコトヲ得
第五百十五條 受取人留保ヲ爲サスシテ運送品ヲ受取リ及ヒ運送人ニ支拂ヲ爲シタルトキハ運送人ニ對スル總テノ請求權ハ消滅ス
第五百十六條 喪失、毀損又ハ遲延ノ爲メ運送人ニ對スル總テノ訴及ヒ抗辯ノ權ハ運送品ノ引渡ヲ爲シタル日又全部喪失ノ場合ニ於テハ其引渡ヲ爲ス可カリシ日ヨリ一个年ヲ以テ時効ニ罹ル
第八節 旅客運送
第五百十七條 陸上又ハ國內水上ニ於テ通例運送賃ヲ受ケテ旅客ヲ運送スル者ハ其運送ヲ爲スニ當リ旅客ノ爲メ至重ノ注意ヲ爲ササルニ因リテ之ニ加ヘタル身體上ノ傷害ニ付キ賠償ヲ爲ス義務アリ但爭アル場合ニ於テハ自己ノ過失ニ非サルヲ證明スルコトヲ要ス
第五百十八條 損害賠償ハ傷害ヲ被フリタル者ニ生セシメタル治療費及ヒ特別ノ給養費ノ賠償ト慰藉金トヲ包括ス其慰藉金ハ災害ノ結果ノ輕重、長短及ヒ罹災者ノ所得ノ關係ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第五百十九條 災害ノ爲メ死亡シ又ハ永久ノ癈疾、不具若クハ所得無能力ト爲リタルトキハ慰藉金ノ額ハ尙ホ罹災者ノ家族ノ生計ノ需用ヲモ斟酌シテ之ヲ定ム
第五百二十條 旅用行李ニ付テハ旅客カ携帶スルト否ト又別段ノ報酬ヲ支拂フト否トヲ問ハス之ヲ旅客運送人ニ交付シ且必要ノ場合ニ於テ其性質及ヒ價額ヲ明吿シタルトキハ旅客運送人ハ運送人ト同一ノ責ニ任ス
第五百二十一條 手荷物ニ付テハ旅客運送人ハ過失ノ責ノ自己ニ歸スル場合ニシテ其手荷物カ現實且相當ノ旅行需用ヲ充タスニ必要ナルモノニ限リ賠償ノ責ニ任ス
第五百二十二條 旅用行李ハ別段ノ委託ナキトキハ旅行ノ終ニ於テ之ヲ旅客ニ交付シ若シ交付スルコトヲ得サルトキハ三日間保藏ス可シ此期間ノ滿了後ハ旅客運送人ノ責任ハ第三百四條ノ規定ニ從フ
第五百二十三條 前諸條ノ外ハ旅客及ヒ行李ノ運送ニ付キ前節ノ規定ヲ適用ス其旅客ノ衣服又ハ裝具ニ對シテハ留置權ヲ行フコトヲ得ス
第五百二十四條 旅客及ヒ行李ニ付テノ責任ハ運送賃ヲ前拂ニ爲シタルト否トニ拘ハラス又之ヲ支拂フコトヲ要セサル場合ト雖モ仍ホ存スルモノトス
第九章 賣買
第一節 賣買契約
第五百二十五條 契約取結ノ時現ニ存在シ且賣主ニ處分權ノ屬スル物ニ非サレハ賣買契約ノ目的物タルコトヲ得ス
第五百二十六條 他人ノ物ト雖モ其占有ヲ正當ノ方法ヲ以テ取得シタル者ハ所有權移轉ノ時ニ於テ買主善意ナルトキハ之ヲ賣買スルコトヲ得但無記名證券ヲ除ク外盜品又ハ紛失品ハ此限ニ在ラス
第五百二十七條 契約取結ノ時現ニ存在スルモ天然ノ原因ニ由リテ未タ引渡ス能ハサル物ノ賣買契約ハ其物カ引渡スヲ得ヘキモノト爲ラハトノ條件ヲ以テスル契約タリ但當事者カ他ノ意思ヲ有スルトキハ此限ニ在ラス
第五百二十八條 契約取結ノ時既ニ存在セサル物ノ賣買契約ハ雙方孰レモ此事實ヲ知ラス且其存在ノ確實ナラサルコトヲ認メテ之ヲ取結ヒタルトキハ有効トス
第五百二十九條 賣主カ買戾ヲ約定スル賣買契約ハ差額取引又ハ違法ノ高利取引其他ノ不法ノ取引ヲ目的トシテ之ヲ取結ヒタルトキハ無効トス
第五百三十條 初ヨリ履行ノ意思ナクシテ取結ヒ又ハ取得若クハ讓渡ヲ禁セラレタル物ニ付キ取結ヒタル賣買契約ハ無効トス
第五百三十一條 買主ハ賣買契約ノ取結ニ因リ又條件附契約ノ場合ニ於テハ其條件ノ成就ニ因リ又物ヲ先ツ量定シ若クハ分割スルコトヲ要スルトキハ其量定、分割若クハ符記ニ因リテ物ノ所有者ト爲リ且其喪失若クハ毀損ノ危險ヲ負擔ス
二人以上ニ屬スル共有物ノ持分ヲ賣渡スニ付テハ豫メ其量定若クハ分割ヲ爲スコトヲ要セス
第五百三十二條 㸃檢又ハ甞試ノ上ニテ爲ス賣買契約ハ買主カ其物ヲ承諾セハトノ條件ヲ以テ之ヲ取結ヒタリト看做ス
買主カ契約若クハ商慣習ニ因リテ定マリタル期間又ハ㸃檢若クハ甞試ノ爲メ必要ナル期間ニ其承諾ヲ述ヘサルトキハ條件ハ成就セサリシモノト看做ス之ニ反シテ㸃檢又ハ甞試ノ爲メ賣買物ヲ買主ニ引渡シタル場合ニ於テ買主カ右期間ノ滿了マテニ承諾ヲ述ヘス又其物ヲ賣主ニ還付セサルトキハ條件ハ成就シタルモノト看做ス
第五百三十三條 商標、見本、雛形又ハ試品ヲ以テ爲ス賣買契約ハ無條件ノモノニシテ此契約ニ依リテ賣主ハ物カ商標、見本、雛形又ハ試品ニ適合ス可ク且別段ノ契約アルニ非サレハ其物カ商標、見本、雛形又ハ試品ノ所有者又ハ製出者ニ由來ス可キ義務ヲ負フ
第五百三十四條 物ヲ㸃檢ノ後無條件ニテ賣買シタルトキハ賣主ハ自己ノ詐欺又ハ買主ノ重要ナル錯誤アル場合ノ外ハ其擔保ヲ引受ケ又ハ買主ニ隱蔽シタル欠缺若クハ瑕疵ニ付テノミ責任ヲ負フ
買主ハ欠缺若クハ瑕疵ノ些少ナルトキ又ハ賣主ニ過失ナキトキハ代價ノ相當ナル減少ノミヲ求ムルコトヲ得
第五百三十五條 商品及ヒ代價ヲ明細ニ記載シテ見本、雛形、試品、商品目錄其他ノ取引上ノ通吿書ヲ指定セル人ニ送付シタルトキハ其送付ハ覊束セラルル提供ト看做ス但送付者カ其提供ヲ變更スル權利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十六條 契約取結ノ後直チニ賣主ハ物ヲ引渡シ及ヒ代價ヲ受取リ買主ハ物ヲ受取リ及ヒ代價ヲ支拂フ可キ權利及ヒ義務アリ但契約又ハ商慣習ニ依リテ此義務ノ履行ノ爲メ或ル期間ノ存スルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十七條 別段ノ定例、契約又ハ商慣習ナキトキハ物ノ引渡ハ賣主ノ費用ヲ以テ之ヲ爲シ其受取、檢査及ヒ代價支拂ハ買主ノ費用ヲ以テ之ヲ爲ス
第五百三十八條 物ノ引渡マテハ賣主ハ至重ノ注意ヲ爲ササルニ因リテ生セシメタル喪失又ハ毀損ニ付キ買主ニ對シテ責任ヲ負フ但買主カ受取ヲ遲延シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十九條 契約取結ノ前豫メ物ヲ買主ニ引渡シタルトキハ買主ハ賣主ニ對シテ前條ニ揭ケタル責任ヲ負フ
第五百四十條 契約取結ノ時物カ第三者ノ手ニ存在スルトキハ其第三者ハ賣主ニ引渡スト同樣ニ其物ヲ買主ニ引渡ス義務アリ
第五百四十一條 代價ヲ明示ニテ定メサリシ場合ニ於テ當事者ノ別段ノ意思ナキトキハ履行ノ時及ヒ地ニ於ケル市場代價又取引所ニ於テ賣買スル物ニ在テハ取引所相場代價ヲ支拂フコトヲ要ス
買主ハ別段ノ契約又ハ商慣習ナキトキハ物ノ引渡前ニ代價ヲ支拂フ義務ナシ
第五百四十二條 買主ハ物ノ欠缺若クハ瑕疵又ハ引渡ノ遲延ニ付キ仲立人ヲシテ賣主ノ費用ヲ以テ故障證書ヲ作ラシメ之ヲ賣主ニ送付スル權利アリ
第五百四十三條 別段ノ契約ナキトキハ賣主ハ履行ノ時及ヒ地ニ於テ普通ナル品質ノ商品ヲ引渡ス義務アリ
右ノ規定ハ壜、箱其他ノ容器、外包ニシテ商品ノ引渡若クハ轉賣ノ用ニ供スルモノ又ハ運送ノ用ニ供スル外包ニシテ商品ノ形狀、性質ヲ保全スルニ必要ナルモノニモ之ヲ適用ス
第五百四十四條 買主商品ヲ受取リタルトキハ卽時ニ其分量及ヒ品質ヲ檢査シ欠缺又ハ瑕疵アラハ之ヲ賣主ニ通知スル義務アリ
後ニ至リ發見シタル欠缺又ハ瑕疵ニ付テハ賣主カ擔保ヲ引受ケ若クハ詐欺ヲ行ヒ又ハ買主カ商品ノ性質ニ因リ卽時檢査ヲ爲ス能ハサリシ場合ニ於テ其發見後直チニ通知ヲ爲シタルニ非サレハ買主ハ訴又ハ抗辯ヲ以テ其權利ヲ主張スルコトヲ得ス
第五百四十五條 賣主カ契約ノ一分ノミヲ履行シタルトキハ買主ハ其全部ヲ解除スルコトヲ得但當事者ノ意思ニ依リテ一分ノ履行ヲ爲シ得ヘキトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テハ代價ハ其爲シタル履行ノ割合ニ應シテ之ヲ支拂フコトヲ得
若シ賣主カ完全ノ履行ヲ爲シタル場合ニ於テ買主カ代價ノ一分ノミヲ支拂ヒタルトキハ賣主ハ
第三百二十三條ニ揭ケタル權利ヲ主張シ又ハ其支拂ヲ受ケサル部分ヲ取戾シテ之ヲ自己又ハ買主ノ計算ニテ賣却スルコトヲ得
第五百四十六條 風袋ノ重量ハ明示ノ契約又ハ商慣習アルニ非サレハ商品ノ重量ニ算入スルコトヲ得ス
風袋ノ重量トシ又ハ損敗、毀損ノ部分トシテ買主ニ增數若クハ增量ヲ與フルヤ否ヤ及ヒ其多少ハ契約又ハ商慣習ニ從フ
第五百四十七條 買主ヨリ物ノ欠缺又ハ瑕疵ニ付テ通知若クハ故障ヲ受ケタルトキハ賣主ニ於テモ仲立人其他ノ鑑定人ヲシテ其物ノ現狀及ヒ品質ヲ檢査セシムルコトヲ得
第五百四十八條 當事者又ハ其鑑定人ニ於テ協議調ハサルトキハ裁判所ヨリ任スル鑑定人其物ノ現狀又ハ品質ヲ査定ス
第五百四十九條 買主カ物ノ受取ヲ拒ムトキハ遲延ナク其物ヲ賣主ノ處分ニ付スルコトヲ要シ又此處分ヲ爲シ又ハ當ニ爲スヘキニ至ルマテ其貯藏ニ注意スルコトヲ要ス
買主ハ賣主ノ委託アルニ非サレハ其物ヲ賣主ニ送還スル權利及ヒ義務ナシ
第五百五十條 買主ハ其拒ミタル物ノ代價ヲ既ニ支拂ヒタルトキ又ハ其物カ損敗シ若クハ價ヲ失フニ至ル可キモノナルトキハ賣主ノ計算ヲ以テ之ヲ賣却スルコトヲ得買主ノ利益ノ爲メニスル賣却ニ在テハ第三百九十二條ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十一條 買主ハ賣主ニ對シテ遲クトモ物ノ引渡マテニ送品勘定書ヲ得ント求メ又代價支拂ノ爲メ受取證書ヲ得ント求ムルコトヲ得
第二節 供給契約
第五百五十二條 供給契約ハ契約取結ノ時未タ現存セサル物又ハ賣主ニ處分權ノ屬セサル物又ハ仍ホ運送中ニ在ル物又ハ指圖證券、無記名證券ヲ以テ若クハ必要ナル名前書替ヲ以テ引渡ス可キ物ノ賣買契約タリ
第五百五十三條 供給契約ハ雙方ヲ覊束ス然レトモ物ノ所有權及ヒ危險ハ其物ヲ引渡スニ因リ始メテ買主ニ移ル
第五百五十四條 天然ニハ現在スト雖モ未タ人ノ威力內ニ在ラサル物ハ之ヲ現存セサルモノト看做ス
第五百五十五條 買主ニ引渡スニ至ルマテ其送付ニ付キ賣主カ責任ヲ負フ物ハ之ヲ運送中ニ在ル物ト看做ス
運送中ニ在ル物ヲ指圖證券、無記名證券ヲ以テ又ハ其他ノ間接ノ方法ヲ以テ賣渡シタルトキハ賣主ハ其物ノ引渡ニ至ルマテ全部ノ喪失又ハ毀損ノ危險ヲ負擔ス又買主ハ一分ノ喪失又ハ毀損ニ付テハ代價ノ相當ナル減少ヲ請求スルコトヲ得
第五百五十六條 指圖證券、無記名證券等ヲ以テスル供給契約ノ場合ニ在テハ此證券等ニ基キテ物ヲ引渡ス義務アル第三者ニ買受代價ヲ支拂フニ因リテノミ其物ヲ買主ニ引渡スコトヲ得ルハ契約又ハ商慣習アルトキニ限ル
供給契約ノ目的物ニ質權ノ存スルトキハ尙ホ第三百七十七條ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十七條 指圖證券、無記名證券等ニ基キテ引渡ス可キ物ノ引渡ヲ得サルトキハ買主ハ供給契約ヨリ生スル權利ヲ賣主ニ對シテ行フコトヲ得但當事者ノ意思又ハ取引ノ性質ニ因リテ賣主カ責任ヲ免カル可キトキハ此限ニ在ラス
第五百五十八條 本節ノ規定ノ外賣買契約ノ原則ハ供給契約ニモ之ヲ適用ス
第三節 競賣
第五百五十九條 他人ノ爲メ公ノ競賣ヲ爲スヲ營業トスル者ハ其受ケタル競賣ノ委託ヲ適法ノ理由ナクシテ拒ムコトヲ得ス
第五百六十條 取引所ニ於テ爲ス競賣ハ取引所仲立人ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第五百六十一條 支拂資力ナキコト又ハ惡意アルコトニ付キ理由アル嫌疑ノ存セサル者ハ公ノ競賣ニ於テ競買スルコトヲ得
第五百六十二條 競賣人ハ自己ノ爲メニ競買ヲ爲スコトヲ得ス又賣主ハ競買ヲ爲ス權利ヲ明示シテ留保シ且詐欺ニ因リテ代價ヲ昻ラシムル目的ナキトキニ限リ競買ヲ爲スコトヲ得
第五百六十三條 明示ノ留保ナキトキハ競賣ニ付シタル物ハ其期日ニ於テ最高額ノ競買人ニ競落セラル
第五百六十四條 競落カ最終ノ競買人ニ歸シタルトキハ競賣ノ各箇ノ物又ハ番號ニ付キ賣買契約ヲ取結ヒタルモノトス
第五百六十五條 二人以上同時ニ最高ノ價額ヲ呼ヒタル場合ニ於テ物ヲ共同シテ取得スルコトヲ欲セサルトキハ競落ハ其者ノ中更ニ最高價ノ競買ヲ爲ス者ニ歸ス
第五百六十六條 最終ノ競買無効ナルトキ又ハ競賣人之ヲ承諾セサルトキハ其競落ハ之ニ次ク最高價ノ競買人ニ歸ス
第五百六十七條 各競買人ハ競賣前ニ競賣人ヨリ公吿シタル競賣ノ條件ニ服從ス可シ但其條件カ違法ノモノナルトキハ此限ニ在ラス
印刷シ又ハ其他書面ニテ定メタル條件ハ競賣人ノ口頭陳述ヲ以テ之ヲ變更シ又ハ廢止スルコトヲ得ス
第五百六十八條 競賣人ハ競買ニ付キ及ヒ賣買契約ノ取結竝ニ履行ニ付キ買主ノ代理ヲモ引受クルコトヲ得然レトモ競賣ノ爲メ委託セラレタル物ヲ競賣スル以前ニ其物ニ對シテ賣主ニ前貸ヲ爲ス權利ナシ
第五百六十九條 競賣ノ費用ハ賣主ニ於テ之ヲ負擔スルコトヲ要ス但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第五百七十條 競賣人ハ契約上又ハ慣習上ノ競賣手數料ト競賣ニ付キ支拂ヒタル費用及ヒ立替金ニシテ競賣手數料中ニ包含セサルモノノ賠償トヲ賣主ニ對シテ請求スルコトヲ得又競賣人ハ此債權ノ爲メ及ヒ適法ニ賣主ニ爲シタル前貸ノ爲メ競賣物又ハ其代價ニ付キ留置權ヲ有ス
第五百七十一條 競賣人ハ賣主ニ對シ怠慢、不熟練又ハ惡意ニ因リテ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第四節 取戾權
第五百七十二條 賣買契約ノ取結後買主其支拂ヲ停止シ又ハ其取結前既ニ支拂停止ト爲リタルコトヲ賣主ノ知リタル場合ニ於テ賣主カ他ノ方法ヲ以テ十分ナル支拂又ハ擔保ヲ受ケサルトキハ賣主ハ買主又ハ其指圖シタル人ニ宛テタル運送中ノ賣買物ヲ取戾スコトヲ得但未タ買主若クハ其代人ノ占有ニ移ラサルモノ又ハ買主若クハ其代人カ有効ニ轉賣シ若クハ質入セサルモノニ限ル
第五百七十三條 轉賣ハ後ノ買主善意ニシテ且其代價ノ相當及ヒ眞實ナルトキニ限リ有効トス若シ未タ其代價ヲ支拂ハサルトキハ初ノ賣主ハ自己ノ債權ノ額ニ滿ツルマテ後ノ買主ニ對シテ其支拂ヲ求ムルコトヲ得
第五百七十四條 取戾權ハ賣主カ掛賣ヲ爲シ又ハ一分ノ支拂ヲ受ケ又ハ買主ト交互計算ノ關係ヲ有スルニ因リテ之ヲ失フコト無シ然レトモ賣主カ爲替手形ヲ振出シ又ハ手形其他ノ信用證券ヲ買主ヨリ受取リ代價全額ノ支拂ニ充テタル場合ニ於テ此等ノ證券ニ義務者トシテ買主若クハ其代人ノ外第三者ノ署名アルトキハ取戾權ヲ失フ
第五百七十五條 買主ノ支拂停止ニ至ラントスルニ付キ理由アル嫌疑アルトキ又ハ切迫ナル取引情況ノ爲メ支拂停止ヲ爲スコトノ測リ難キトキハ眞ノ支拂停止ヲ爲シタルニ同シ
第五百七十六條 貨物ヲ買主ノ倉庫ニ入レ又ハ買主ノ名ヲ以テ倉庫ニ寄託シタルトキハ運送賃、關稅其他貨物ノ負擔スル費用ヲ支拂ヒタルト否トヲ問ハス買主又ハ其代人ニ於テ占有ヲ得タリト看做ス
第五百七十七條 取戾權ハ運送ニ因リ又ハ運送ニ關シ貨物ノ負擔スル費用、立替金其他ノ債務殊ニ運送賃、仲買手數料、運送取扱手數料、關稅、保險料若クハ海損共擔金ノ支拂又ハ償還ヲ爲スニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
第五百七十八條 取戾權ハ貨物賣渡ノ委任ヲ受ケタル仲買人又ハ其代人カ既ニ貨物ヲ占有シ又ハ之ヲ第三者ニ賣リタルトキト雖モ委任者ヨリ其仲買人又ハ其代人ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得貨物買受ノ委任ヲ受ケタル仲買人ヨリ其委任者ニ對シテモ亦同シ
第五百七十九條 取戾權ハ左ノ場合ニ於テ亦之ヲ行フコトヲ得
第一 手形其他ノ信用證券ニ關シテハ或人カ他ノ者ノ債務者ニ非スシテ交互計算ノ爲メ又ハ貯藏、取立若クハ保證ノ爲メ又ハ支拂ヲ爲サシメンカ爲メ之ヲ他ノ者ニ送リ且其證券カ未タ金錢ニ交換セラレスシテ受取人ノ方ニ存在スル場合
第二 金錢ニ關シテハ或人カ前號ト同一ノ目的ヲ以テ之ヲ他ノ者ニ送リ其金錢カ未タ受取人ニ達セス又ハ達シタル後其受取人之ヲ自己ノ計算ニ移サス若クハ之ニ付キ其他ノ處分ヲ爲ササル場合
第十章 信用
第一節 消費貸借
第五百八十條 消費貸ハ債權者ヨリ又ハ債權者ノ計算ヲ以テ他人ヨリ債務者ニ又ハ債務者ノ計算ヲ以テ他人ニ之ヲ爲スコトヲ得
第五百八十一條 債務者ノ計算ヲ以テスル前貸若クハ支拂又ハ定マリタル義務ノ引受ハ直接ノ契約ニ出ツルト其他雙方間ニ存在スル契約關係ニ出ツルトヲ問ハス消費貸ニ同シ
第五百八十二條 債務者ハ常ニ同種、同量ノ物ヲ償還スル義務アリ但同種、同量ノ償還ヲ爲スコトヲ得ス又ハ當事者ノ意思ニ依リテ爲スコトヲ要セサルトキハ此限ニ在ラス
第五百八十三條 商品又ハ有價證券ノ消費借ニ付テハ債務者ハ別段ノ契約ナキトキ又ハ特定物ナルトキハ其領收ノ時ト地トニ於ケル價額ヲ償還スルコトヲ要ス
第五百八十四條 債務者ノ名ヲ記シタル信用證券又ハ債務者ノ計算ヲ以テ發行シタル信用證券ハ債務者其金額ヲ償還スル義務アルトキニ限リ債務者ニ於テ又ハ債務者ノ計算ヲ以テ之ヲ讓渡シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ付與スルニハ券面記載ノ滿額ヲ以テスルコトヲ要ス之ニ違フトキハ其證券ヲ無効トス然レトモ割引ヲ爲スコトハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第五百八十五條 裏書讓渡ス可キ信用證券其他流通ス可キ信用證券ヲ以テ消費貸ヲ爲シタルトキハ右證券ニ債權者又ハ債務者トシテ記載セラレタル者ヲ以テ債權者又ハ債務者ト看做ス
第五百八十六條 債務者ハ明示ノ契約ナキモ其消費借ヲ償還スル義務アリ但反對カ當事者ノ意思又ハ其取引ノ性質ニ依リテ推知スルコトヲ得ヘキトキハ此限ニ在ラス
第五百八十七條 債務者カ約定ノ豫吿又ハ相當ノ豫吿ノ後何時ニテモ消費借ヲ償還スル權利ハ豫メ契約ヲ以テ之ヲ奪フコトヲ得ス然レトモ別段ノ契約ナキトキハ債務ノ主タルモノ及ヒ從タルモノヲ割引ナク一囘ニ償還スルニ非サレハ債權者之ヲ領收スルコトヲ要セス
第五百八十八條 無期ノ消費借ニ於テハ債務者ハ相當ノ豫吿ノ後何時ニテモ之ヲ償還スルコトヲ得然レトモ債權者ハ相當ノ豫吿ノ後ニシテ且惡意ナキトキニ非サレハ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第五百八十九條 第五百八十五條ノ場合ニ於テハ償還ノ義務ハ期間ヲ定メテノミ之ヲ約定スルコトヲ得
第五百九十條 元債ノ償還ハ若シ債務者カ契約上負擔シタル利息ノ支拂ヲ二期以上遲延シ又ハ支拂停止ト爲リ又ハ資產上切迫ナル情況ニ至リタルトキハ反對ノ契約アルニ拘ハラス約定期間ノ滿了前ニ之ヲ求ムルコトヲ得
第五百九十一條 第五百八十一條ノ場合ニ於テハ債權者ト債務者トノ間ニ存スル契約關係ニ準據シテノミ債權ヲ主張スルコトヲ得
第五百九十二條 總テ消費貸又ハ他人ノ爲メニスル資本ノ交付若クハ使用ニ付テハ取引ノ性質ニ依リテ定マリタル慣習上ノ利息ヲ求ムルコトヲ得但明示ノ契約又ハ前條ノ規定ニ反スルトキハ此限ニ在ラス
第五百九十三條 滿期ト爲リタル利息カ差引殘額ノ計算若クハ其他ノ淸算ニ因リ又ハ特別ノ契約ニ因リテ元債ニ組入レラレタルトキハ其利息ノ利息ヲ求ムルコトヲ得
第五百九十四條 元債全額ノ償還ニ對スル單一ナル受取證書ハ其利息ヲモ併セタル受取證書ト看做ス
第五百九十五條 任意ニ支拂ヒタル利息ハ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第五百九十六條 債權者ハ直接ノ償還ヲ受クルニ換ヘ主タルモノ及ヒ從タルモノヲ併セタル債務ノ額ニ滿ツルマテ自己ノ計算ヲ以テ他人ニ支拂ヲ爲シ又ハ手形若クハ支拂手形ノ引受若クハ支拂ヲ爲シ又ハ其他債務ノ擔任ヲ爲ス可キコトヲ債務者ニ對シテ求ムルコトヲ得又債務者ハ債權者ニ對シ第五百八十一條ニ準據シテ計算セシムルコトヲ得
第二節 信用約束
第五百九十七條 信用ヲ與フル約束ハ之ヲ取消ササル間ハ他ノ契約ノ附從トシテモ獨立ノ約束トシテモ其効力ヲ有ス
第五百九十八條 債務ノ支拂若クハ保證ノ爲メ或ル額ニ付キ債權者ニ信用約束ヲ爲シタル明約又ハ情況アルトキハ其約束ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百九十九條 或ル額ニ付キ引受ケタル獨立ノ信用約束ハ受信用者カ其約束ニ對シテ負擔シタル義務ヲ履行セス又ハ支拂停止ト爲リ又ハ取引上切迫ナル情況ニ至リ且與信用者ノ爲メ十分ナル引當若クハ擔保ノ備ハラサルトキニ限リ之ヲ取消スコトヲ得
第六百條 信用約束ハ額ヲ定ムルモ定メサルモ有期ニテモ無期ニテモ條件附ニテモ無條件ニテモ人ヲ特定シテモ指圖式ニテモ之ヲ爲スコトヲ得
第六百一條 相互ノ信用約束ハ雙務契約ノ原則ニ從ヒ各當事者ヲ覊束ス然レトモ第五百九十九條ノ場合ニ於テハ其約束ヲ取消スコトヲ得
第六百二條 寄託物其他ノ金額又ハ有價物ヲ交互計算ニ於テ領收シタルトキハ信用ノ處分シ得ヘキ額ヲ限トシテ默示ノ信用約束ヲ爲シタリト看做ス
第六百三條 信用約束ニ付テノ利息又ハ手數料ハ疑ハシキ場合ニ於テハ其約束ニ依リ現ニ與ヘタル信用ノ割合ニ應シテノミ之ヲ求ムルコトヲ得
第六百四條 支拂手形又ハ信用證券ヲ以テ信用約束ヲ爲シタルトキハ其發行人ハ受信用者ニ對シテ履行ノ責ヲ負ヒ且自己ノ計算ヲ以テ其履行ヲ爲スモノトス然レトモ其支拂手形又ハ信用證券ニ對スル第三者ノ引受ハ之ヲ新ナル信用約束ト看做ス
第六百五條 他人ノ委託ヲ受ケテ信用約束ヲ爲シタルトキハ其委託者ヲ受信用者ノ保證人ト看做ス
第六百六條 或ル額ニ付キ與信用ノ爲メニ人ヲ紹介スルハ之ヲ信用委託ト看做ス但其紹介ヲ留保ナクシテ爲シタルトキニ限ル
第三節 寄託
第六百七條 他人ノ物ヲ貯藏ノ爲メ領收シタル者ハ自己ノ所有物ニ付テ爲スト同一ノ注意ヲ加ヘテ寄託者ニ其物ヲ還付スル責任アリ
第六百八條 他人ノ物ノ貯藏ノ爲メ報酬ヲ受クル者又ハ其貯藏ニ付キ明示シテ責任ヲ負擔スル者又ハ其物ヲ貯藏ノ爲メノミナラス管理ノ爲メニ領收スル者又ハ其物ノ貯藏若クハ管理ヲ以テ營業ト爲ス者又ハ自己ノ營業ニ因リテ他人ノ物ノ寄託ヲ受クル者ハ寄託者ニ對シテ至重ノ注意ヲ爲ス義務ヲ負フ
第六百九條 旅店主、飮食店主、浴場營業者其他他人ヲ自家ニ引受クル營業者ハ客ノ持込ミテ此等ノ者ノ方ニ置キタル物ニ關シテハ其喪失又ハ損害ニ付キ責任ヲ負フ此責任ハ無責任ノ吿示ヲ爲スモ客ニ自身ノ注意ヲ催カスモ又此等ノ者又ハ其使用人ノ過失アルトキハ契約ヲ以テモ之ヲ免カルルコトヲ得ス大金及ヒ特ニ貴重ナル物ハ之ヲ明吿シテ特別ナル貯藏ノ爲メ交付スルコトヲ要ス
第六百十條 受託者ハ契約ニ從ヒ又他人ノ物ノ貯藏又ハ管理ヲ營業トスルトキハ契約ナシト雖モ受託料ヲ求ムルコトヲ得又總テノ場合ニ於テ必要ナル立替金ノ賠償及ヒ寄託者ノ過失ニ因リテ被フリタル損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
受託者ハ其債權ノ爲メ寄託物ニ對シテ留置權ヲ有ス
第六百十一條 寄託物ハ有期ト無期トヲ問ハス第六百十七條ノ場合ヲ除ク外ハ豫吿ナクシテ何時ニテモ其還付ヲ求ムルコトヲ得
第六百十二條 無期ノ寄託物ハ何時ニテモ受託者之ヲ還付スルコトヲ得但相當又ハ約定ノ豫吿期間ニ從フコトヲ要ス
第六百十三條 物ヲ二人以上共同シテ寄託シタル場合ニ於テ別段ノ契約ナキトキハ各人ヨリ其物ノ還付ヲ求メ又各人ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第六百十四條 寄託中寄託物ヨリ生スル果實又ハ利益ハ別段ノ契約アルニ非サレハ寄託者ニ屬ス
第六百十五條 物ノ種類ノミヲ定メ數量ヲ以テ之ヲ寄託シタルトキハ同一ノ數量ヲ以テノミ還付ヲ求ムルコトヲ得但物ノ性質ニ於テ特定物ト看做ス可キトキハ此限ニ在ラス
第六百十六條 二人以上ノ寄託者ノ代替物カ互ニ混合シタルトキハ各寄託者ハ其寄託シタル數量ノ割合ニ應シテ混合物ノ共有者ト爲リ且其割合ニ應シテ混合物全部ノ喪失又ハ毀損ノ危險ヲ負擔ス
第六百十七條 契約又ハ商慣習ニ依リ使用權又ハ處分權カ受託者ニ屬ス可キ方法ヲ以テ代替物ヲ寄託シタルトキハ受託者カ受託料ヲ受クルト否ト又寄託者ニ利息ヲ支拂フト否トヲ問ハス其物ノ所有權及ヒ其物ノ喪失若クハ毀損ニ係ル危險ノ全部ハ受託者ニ移ル
第六百十八條 特定物ニ付キ受託者カ其物ヲ使用スルコトヲ得ルト否トハ專ラ當事者ノ意思ニ從ヒテ之ヲ定ム
第六百十九條 反對ノ明約ナキトキハ封セサル金錢又ハ貴金屬ノ寄託物ハ常ニ受託者ノ所有物ト看做シ又封セサル有價證券ノ寄託物ハ其證券ヲ寄託者ヨリ定マリタル相場ニテ受託者ニ交付シタルトキニ限リ受託者ノ所有物ト看做ス
第六百二十條 受託者ハ自己ニ所有權ノ移リタル寄託物ニ付テハ明約アルトキニ限リ利息ヲ支拂フコトヲ要ス又明約又ハ慣習アルトキニ限リ報酬ヲ求ムルコトヲ得
第六百二十一條 寄託物ノ受取證書ハ寄託者ノ名ヲ以テモ指圖式ニテモ無記名式ニテモ之ヲ發行スルコトヲ得但反對ノ明記ナキトキハ其裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得
第六百二十二條 第六百十七條及ヒ第六百十九條ノ場合ニ於テハ契約又ハ商慣習ニ依リ現物ニテモ交付若クハ還付ノ時及ヒ地ニ於ケル市場代價ニテモ償還スル權利ヲ受託者ニ與ヘ又之ヲ要求スル權利ヲ寄託者ニ與フルコトヲ得
第六百二十三條 受託者ハ寄託者ノ所有權若クハ處分權ヲ調査シ又ハ寄託證書ヲ提示シテ還付ヲ要求スル者ノ權利ヲ調査スル義務ナシ然レトモ惡意及ヒ甚シキ怠慢ニ付テハ責任ヲ負フ
第六百二十四條 第六百十五條以下ニ揭ケタル原則ハ運送、製作其他ノ目的ノ爲メ封緘若クハ記號ナクシテ數量ヲ以テ物ヲ委託セラレタル運送人、船長及ヒ其他ノ者ニモ金錢其他ノ代替物ヲ質物トシテ受取リタル質債權者ニモ之ヲ適用ス
第十一章 保險
第一節 總則
第六百二十五條 保險契約ハ保險者カ保險料ヲ受ケテ或ル物ニ關シ或ル時間ニ於テ不測又ハ不確定ノ事故ニ因リテ生スルコト有ル可キ喪失又ハ損害ニ付キ被保險者ニ賠償ヲ爲ス義務ヲ負フ契約タリ
第六百二十六條 保險スルコトヲ得ヘキ危險ハ主トシテ火災、地震、暴風雨其他ノ天災、陸海運送ノ危險、死亡及ヒ身體上ノ災害ナリ然レトモ其他ノ危險ニ對スル保險ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
海上運送ノ保險ハ第二編ノ規定ニ牴觸セサルモノニ限リ本章ノ規定ニ從フ
保險ハ別段ノ契約アルニ非サレハ保險料支拂期間ニ生スル諸般ノ危險殊ニ相次テ生スル危險ニ及フモノトス然レトモ保險者ハ如何ナル事情アルモ被保險額ヲ超エテ賠償ヲ爲スコトヲ要セス
第六百二十七條 所有權、債權其他ノ權利名義又ハ權利關係ニ基因スル財產上ノ利益ニシテ此ニ關スル危險ノ起生ニ因リ被保險者ニ直接ニ損害ヲ加フ可キモノハ保險ニ付スルコトヲ得ル利益トス
博奕、賭事、富講又ハ其他ノ意外ノ事ニ因ル僥倖ノ利益ハ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得ス
第六百二十八條 保險ハ自己ノ計算ヲ以テスルト他人ノ計算ヲ以テスルトヲ問ハス又被保險者ノ委託ヲ受ケタルト否ト被保險者ノ豫知スルト否ト被保險者ヲ明示スルト否トヲ問ハス之ヲ受クルコトヲ得
契約ニ依リテ他人ノ利益カ知レサルトキハ保險申込人ハ保險者ニ對シテ被保險者ト看做サル
第六百二十九條 被保險利益ハ被保險物ノ普通價額ヲ以テ限トスルヲ通例トス若シ其利益カ此價額ヲ超過ス可キトキハ特ニ之ヲ明約スルコトヲ要ス
第六百三十條 被保險物ノ價額ハ使用ニ供スル動產ニ在テハ修繕又ハ新調ノ費用ニ依リ商品ニ在テハ損害又ハ喪失ノ生シタル時及ヒ地ニ於ケル市場代價ニ依リテ之ヲ定ム
第六百三十一條 保險ハ被保險物ノ利益額ヲ超過スル部分ニ限リ無効トス
第六百三十二條 前條ノ規定ニ拘ハラス被保險物ノ價額ヲ豫メ明約又ハ鑑定人ノ評價ニ依リテ定メタルトキハ後ニ至リ其價額ノ定ニ對シテハ强暴若クハ詐欺ノ場合又ハ價額ノ著シク過當ナル場合ニ於テノミ異議ヲ述フルコトヲ得
第六百三十三條 保險セラレタル債權ノ價額ハ債務額ニ利息及ヒ取立費用ヲ合算シタル額トス
第六百三十四條 辨濟ス可キ賠償額ハ人ノ保險ニ在テハ被保險額トシ物ノ保險ニ在テハ被保險者カ危險ノ發生ニ因リテ直接又ハ間接ニ被フリタル損害ヲ以テ限トス
間接ノ損害中ニハ現ニ生シ又ハ將ニ生セントスル危險ノ已ムヲ得サル防止ニ因リテ生シタル別段ノ費用及ヒ損害ヲモ包含スルモノトス
第六百三十五條 被保險者カ已ムヲ得サルニ非スシテ任意ニ加ヘ若クハ加ヘシメタル喪失若クハ損害又ハ被保險物ノ性質、固有ノ瑕疵若クハ當然ノ使用ニ因リテ直接ニ生シタル喪失若クハ損害ニ付テハ保險者ハ賠償ヲ爲ス義務ナシ
第六百三十六條 保險契約取結ノ時既ニ生シタル危險ニ對スル保險ハ無効トス但當事者雙方又ハ其代人ノ孰レモ其危險ノ生シタルコトヲ知ラス且既ニ危險ノ生シタルモ有効タル可キ旨ヲ明示シテ契約ヲ取結ヒタルトキハ此限ニ在ラス
第六百三十七條 一人カ同一ノ物及ヒ同一ノ利益ニ關シ時ヲ同クシ又ハ時ヲ異ニシテ二人以上ノ保險者ヨリ各別ニ保險ヲ受クルトキハ其重複保險ヲ各保險者ニ通知シテ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス之ニ違フトキハ各保險者ハ其契約ヲ解除スルコトヲ得
第六百三十八條 重複保險ノ場合ニ在テハ被保險者ハ別段ノ契約ヲ爲ササルトキハ保險者ノ孰レニ對シテモ賠償ヲ求ムルコトヲ得其保險者ハ賠償ヲ爲シタル後保險ノ割合ニ應シテ其賠償ノ割賦金ヲ他ノ保險者ニ請求スルコトヲ得但他ノ保險カ無効ナルトキ又ハ期間ノ滿了若クハ其他ノ理由ニ因リテ終リシトキハ此限ニ在ラス
一保險者ノ爲メニスル抛棄ハ他ノ保險者ノ害ト爲ル効力ヲ生スルコト無シ
第六百三十九條 保險スルコトヲ得ル利益ノ額ニ滿タサル保險ノ場合ニ在テハ其殘餘ノ額ニ付キ被保險者ヲ自己ノ保險者ト看做シ被保險者ハ其額ノ割合ニ應シテ損害ヲ負擔ス但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第六百四十條 保險ハ被保險物ノ讓渡其他被保險利益ノ轉付ニ因リテ當然新取得者ニ移ル但讓渡人カ利益ヲ留置キタル場合又ハ第六百五十四條ノ場合又ハ保險者カ轉付ニ付キ承諾ヲ與フル權利ヲ明示シテ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス
然レトモ總テノ場合ニ於テ被保險者ハ其爲シタル轉付ヲ遲延ナク保險者ニ通知シ又保險者ハ保險カ記名ナルトキハ新取得者ノ名ニ書替フルコトヲ要ス
第六百四十一條 被保險額ノ請求權ハ特約ナキトキニ限リ滿期日ノ前後ヲ問ハス保險者ノ承諾ナクシテ之ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得保險者ハ其轉付ヲ知リタル時ヨリ其人ニノミ支拂ヲ爲ス義務アリ
被保險物ノ抵當若クハ質入又ハ抵當物若クハ質物ノ保險又ハ第三者ノ爲メニスル保險ハ被保險額請求權ノ轉付ト同視ス
第六百四十二條 保險契約ノ取結及ヒ履行ニ付テハ第七章ノ原則ヲ標準ト爲ス然レトモ保險者ハ總テノ場合ニ於テ契約取結ノ後卽時ニ保險證券ヲ作リテ被保險者ニ交付スル義務ヲ負ヒ此手續ヲ爲サス又ハ遲延スルニ因リテ生シタル總テノ損害ニ付キ被保險者ニ對シテ責任ヲ負フ
第六百四十三條 保險契約ハ保險者又ハ契約取結ノ權アル代人カ保險申込書及ヒ之ニ屬スル陳述書ヲ異議ナク承諾シタルトキハ之ヲ取結ヒタリト看做ス
第六百四十四條 保險契約ハ各當事者ニ於テ仲買人ヲ以テモ之ヲ取結フコトヲ得
第六百四十五條 保險營業者ノ其取引場ヨリ他ノ地ニ置キタル代辨人又ハ外國保險營業者ノ內國ニ置キタル代辨人ハ被保險者ニ對シ契約ノ取結、陳述ノ承諾、保險料ノ受取、被保險額ノ支拂其他總テ保險者ノ代理テ爲ス權アリト看做ス但其代辨人カ被保險者ニ反對ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第六百四十六條 保險證券ニハ年月日ヲ記シ及ヒ保險者若クハ其代人署名、捺印シ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要ス
第一 保險ノ初日及ヒ其期間
第二 被保險物ノ十分精密ナル記載
第三 被保險額
第四 保險料ノ額
第五 保險シタル危險
第六 保險申込人ノ氏名及ヒ被保險者ノ指示
第七 保險ノ旨趣ニ重要ナル影響ヲ及ホス事情及ヒ契約ノ特別ナル條款アラハ其條款
第六百四十七條 保險證券ノ旨趣ハ商慣習又ハ附屬書類其他ノ證書ヲ以テ之ヲ更正シ說明シ補充シ又ハ變更スルコトヲ得
第六百四十八條 保險證券ハ指圖式又ハ無記名式ニテ之ヲ發行スルコトヲ得然レトモ白地ニテ之ヲ發行スルコトヲ得ス
第六百四十九條 保險契約ノ旨趣ニ係ル證據ハ保險證券又ハ附屬書類ヲ以テノミ之ヲ擧クルコトヲ得但其證券及ヒ附屬書類カ最早存在セス又ハ其發行ヲ爲ササルトキハ此限ニ在ラス
第六百五十條 被保險物ノ價額ニシテ保險證券ニ揭ケサルモノ及ヒ損害額ノ證據ハ總テ他ノ適法ナル證據方法ヲ以テ之ヲ擧クルコトヲ得
損害額ノ評定ハ當事者雙方ノ協議調ハサルトキハ裁判所ヨリ指名シタル鑑定人之ヲ爲ス
第六百五十一條 被保險者ハ危險ノ生スルニ當リ成ル可ク其防止ニ盡力シ又其既ニ生シタル後ハ保險者又ハ其代人ニ遲延ナク其危險及ヒ喪失若クハ損害竝ニ其大小ヲ通知スル義務ヲ負ヒ其義務背反ニ因リテ生シタル損害ニ付キ保險者又ハ其代人ニ對シテ責任ヲ負フ
第六百五十二條 戰爭又ハ暴動ニ因リテ生シタル危險ニ對シテハ明約ヲ以テ引受ケタルニ非サレハ保險ノ責ニ任スルコト無シ
第六百五十三條 保險者ハ被保險者カ契約取結ノ際重要ナル情況ニ付キ虛僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ其情況ヲ默スルトキハ惡意アリタルト否トヲ問ハス契約ヲ解ク權利アリ但被保險者カ保險者ノ總テノ問ニ對シテ其知ル所ヲ竭シ且善意ニテ答ヘタルトキハ過失ナキモノト看做ス然レトモ保險者ノ有スル解約ノ權利ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第六百五十四條 契約取結ノ後被保險物ニ付キ情況ノ變更カ發生シタル爲メ其引受ケタル危險ノ增加シ若クハ變更スル場合又ハ保險料ノ支拂ニ付キ明示若クハ默示ノ延期ナキトキ契約上又ハ慣習上ノ期間ニ受取證書ト引換ニテ其支拂ヲ求ムルモ仍ホ之ヲ得サル場合ニ於テハ保險者ハ其契約ニ覊束セラルルコト無シ但孰レノ場合ニ於テモ保險者其契約ヲ繼續スルトキハ此限ニ在ラス
保險料ノ支拂ハ第六百四十條及ヒ第六百四十一條ノ場合ト雖モ被保險者又ハ其權利承繼人之ヲ爲スコトヲ得
第六百五十五條 契約ハ保險シタル危險カ被保險者ニ對シテ生ス可キニ至ラサルトキハ被保險者ヲ覊束セス然レトモ危險ノ減少又ハ其期間ノ短縮ノ爲メ保險料ヲ分割スルコトヲ得ルハ保險料支拂期間二囘以上ノ保險料ヲ前拂シタルトキニ限ル
保險料支拂期間ハ一个年タルヲ通例トス
第六百五十六條 當事者ノ一方カ保險ノ存續中ニ破產ノ宣吿ヲ受ケタルトキハ他ノ一方ハ契約ヲ解キ又ハ其履行ニ付キ擔保ヲ求ムルコトヲ得
第六百五十七條 契約カ被保險者ノ過失ナクシテ無効タリ又ハ任意ニ解カルルトキハ保險者ニ對シテ危險ノ生ス可キニ至ラサル場合ニ在テハ既ニ支拂ヒタル保險料ノ全部ヲ被保險者ニ償還シ又重複保險若クハ超過保險ノ場合、被保險利益ノ減少ノ場合又ハ其他ノ事由ニ因レル場合ニ在テハ現保險料支拂期間ノ爲メ既ニ支拂ヒタル保險料ヲ危險減少ノ割合ニ應シテ被保險者ニ償還スルコトヲ要ス但慣習上保險者カ受ク可キモノヲ扣除ス
第六百五十八條 保險者ハ被保險者ニ被保險額ヲ支拂ヒタルトキハ損害ノ生シタル爲メ被保險者カ第三者ニ對シテ有スル請求權ヲ當然取得シ殊ニ債權ノ保險ノ場合ニ於テハ債務者ニ對スル債權者ノ權利ヲ當然取得ス但其支拂ヒタル額ヲ限トス
被保險者ハ此事ニ關シ保險者ニ害ヲ加ヘタル行爲ニ付キ責任ヲ負フ
第六百五十九條 社員相互ノ保險ヲ目的トシテ設立シタル會社ニ在テハ社員ノ權利及ヒ義務殊ニ保險料ノ支拂、追拂、會社負債ノ支拂、會社利益ノ分配及ヒ計算書ノ提出ニ關スルモノハ其會社ノ契約若クハ定款ニ從ヒ其不十分ナル場合ニ在テハ本法ノ規定ニ從ヒテ之ヲ定ム
第二節 火災及ヒ震災ノ保險
第六百六十條 動產又ハ不動產ハ賃借人、用益者若クハ受託者其他ノ資格ヲ以テ之ヲ占有シ又ハ保管スル者ニ於テ自己ノ利益ニテモ所有者ノ利益ニテモ自己及ヒ所有者ノ利益ニテモ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得但孰レノ利益ニテ保險ニ付シタルカニ付キ疑アルトキハ自己ノ利益ニテ保險ニ付シタルモノト看做ス
自己ノ利益ニテ保險ニ付シタル場合ニ在テハ第一ニ被保險者自己ノ損害ニ充テンカ爲メ次ニ所有者ニ對スル自己ノ責任ニ充テンカ爲メ保險ニ付シタルモノト看做ス其責任ニ充ツル被保險額ノ部分ニ對シテハ被保險者ノ債權者ハ總テ請求權ヲ有セス
所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ爲メ保險ニ付シタル場合ニ於テハ第六百三十九條ニ依リ自己ノ保險者ト看做ス可キトキト雖モ其被保險額ヲ限トシテ保險者獨リ全部ノ損害ヲ負擔ス
第六百六十一條 不動產ノ保險ニ在テハ法律、命令其他ノ成規又ハ契約ニ依リテ被保險者ニ毀滅シ若クハ破損シタル物ノ再築若クハ修繕ヲ爲ス義務アルトキハ保險者ハ被保險者若クハ其權利承繼人ノ此義務ヲ履行ス可キ期間ヲ定メンコトヲ裁判所ニ申立テ又其再築若クハ修繕ノ實施ヲ監視シ及ヒ其工事ノ捗ル割合ニ應シテ被保險額ヲ支拂フコトヲ得
又保險者ハ契約ニ依リ被保險額ノ割合ニ應シ自費ヲ以テ再築若クハ修繕ヲ爲シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第六百六十二條 動產ハ各箇ニ又ハ包括シテ保險ニ付スルコトヲ得包括シテ保險ニ付シタル場合ニ在テハ保險ノ存續間其包括中ノ各部分ヲ增減シ又ハ他ノ物ヲ以テ其全部若クハ一分ニ代フルトキト雖モ保險ニハ影響ヲ及ホスコト無シ
家屋內ニ備在ル動產一切ノ保險ハ現貨、寳玉、證書、有價證券及ヒ稿本其他普通價額ヲ有セサル物ヲ包含セス但反對ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十三條 動產ノ保險ハ保險證券ニ記載シタル住居其他ノ場所ニ關シテノミ効力ヲ有ス然レトモ其契約ハ被保險物ヲ一時保險外ノ場所ニ移シタルモ此カ爲メニ解止セラルルコト無シ
第六百六十四條 自燃又ハ爆發ノ危險アル物ニ付テハ被保險者カ契約上若クハ相當ノ豫防處分ヲ爲ササルトキニ限リ第六百三十五條ノ規定ヲ適用ス
第六百六十五條 火災カ被保險者ノ方ニ起リタルト近傍ニ起リタルトヲ問ハス消防若クハ救濟ノ處分又ハ竊盜其他類似ノ事由ニ因リテ被保險者ニ加ヘタル損害モ火災損害ト看做ス
第六百六十六條 雷電ノ危險、火藥若クハ機關ノ破裂ノ危險、火藥若クハ機關ニ原因スル破裂ノ危險其他類似ノ危險及ヒ震災ノ危險ハ同時ニ火災ノ起リタルト否トヲ問ハス之ヲ火災ノ危險ト同視ス但他ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第三節 土地ノ產物ノ保險
第六百六十七條 土地ノ果實其他ノ天產物ノ保險ハ强雨、洪水、旱魃、暴風雨ノ如キ人ノ力ト注意トヲ以テ防ク能ハサル非常ノ天災ニ對シテノミ之ヲ爲スコトヲ得
保險シタル危險ハ保險證券ニ逐一明記スルコトヲ要ス
第六百六十八條 保險ハ一个年間効力ヲ有ス但更ニ短キ期間ヲ約定シタルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十九條 損害ノ生シタル場合ニ在テハ保險シタル產物カ其損害ナク成熟シタル現狀ニ於テ有シタル可キ價額ト其災害ノ後ニ有スル價額トノ間ノ差額ヲ被保險額ノ割合ニ應シテ被保險者ニ償フ但被保險額カ成熟シタル現狀ニ於テ有シタル可キ價額ヲ超過セサルトキニ限ル
第六百七十條 保險者ハ損害ノ額カ其損害ノ生スルニ非サレハ產物ノ有シタル可キ價額ノ少ナクトモ四分一ニ滿タサルトキハ其責ニ任セス
第四節 運送保險
第六百七十一條 運送中ニ在ル物ハ運送人ヨリ又ハ其物ノ到達地ニ安著スルコトニ付キ利益ヲ有スル各人ヨリ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得
第六百七十二條 保險者ハ運送品ノ保險ニ因リ運送ノ期間中其物ノ喪失若クハ毀損ノ各危險ヲ引受ク其危險中ニ火災、盜難、敵ノ威力及ヒ此類ノモノヲモ包含ス但或ル危險ヲ明示シテ取除キタルトキハ此限ニ在ラス
運送ノ期間ハ別段ノ契約アルニ非サレハ運送人ニ物ノ交付ヲ始ムル時ヨリ受取人ニ其引渡ヲ終フル時マテトス
第六百七十三條 運送ノ期間中運送品ヲ讓渡シタルトキハ保險ハ第六百四十條ノ規定ニ從ヒテ讓渡人ヨリ新取得者ニ移ル
第六百七十四條 保險證券ヲ以テ保險シタル以外ノ喪失若クハ損害カ運送品ニ生スルトキハ其例外タル證據ヲ擧クル義務ハ保險者ニ在リトス
第六百七十五條 價額ヲ保險證券ニ記載セサル場合ニ於テ損害ノ價額ヲ評定スルニハ最初ノ代價及ヒ其附帶ノ費用ヲ標準トス若シ之ヲ知ル能ハサルトキハ積込ノ地及ヒ時ニ於ケル普通價額若クハ市場價額ニ諸稅、保險費用、積込費用及ヒ被保險者ノ負擔ニ歸スル運送費用ヲ合算シタルモノヲ標準トス
第六百七十六條 保險證券ニハ第六百四十六條ニ揭ケタル諸件ノ外尙ホ運送ノ方法、運送具ノ種類、運送取扱人及ヒ運送人ノ氏名、運送ノ線路及ヒ發送地竝ニ到達地ヲ逐一記載シ且立寄地アルトキハ其地又運送期間ノ約定アルトキハ其期間ヲ揭クルコトヲ要ス
保險證券ハ反對ノ明約アルニ非サレハ其證券ニ揭ケタル運送期間若クハ通常ノ運送期間ヲ踰越シ其他前項ニ揭ケタル保險證券ノ條件ニ違戾シタルカ爲メニ無効ト爲ルコト無シ但其踰越又ハ違戾ニ因リ運送取扱人若クハ運送人ニ對シテ生シタル被保險者ノ請求權ハ保險者ニ移ル
第五節 生命保險、病傷保險及ヒ年金保險
第六百七十七條 人ノ生命又ハ健康ハ終身其他或ル期間中之ヲ保險ニ付スルコトヲ得
第六百七十八條 何人ニテモ自己ノ生命若クハ健康ヲ保險ニ付スルコトヲ得又保險ニ付セントスル時ニ於テ他人ノ生命若クハ健康ニ付キ財產上ノ利益ヲ有スル者ハ其他人ノ生命若クハ健康ヲ保險ニ付スルコトヲ得
配偶者、兄弟姊妹、尊屬親及ヒ卑屬親ノ生命若クハ健康ニ關スル相互ノ利益ニ付テハ證據ヲ擧クルコトヲ要セス
第六百七十九條 他人ノ生命又ハ健康ノ保險ノ有効ナルニハ其人ノ承諾又ハ了知ヲ要セス
第六百八十條 被保險額ハ其支拂フ可キニ至リタルトキ直チニ被保險者又ハ保險證券ニ依リテ保險ノ爲メ益ヲ受クル者又ハ被保險額請求權ノ轉付ヲ受ケタル者ニ之ヲ支拂フコトヲ要ス
被保險者ノ死亡ニ因リ被保險額ヲ支拂フ可キニ至リタル場合ニ於テ其被保險額ヲ受ク可キ人カ其際存在セサルトキハ其被保險額ハ死亡者ノ遺產ノ一分トシテ之ヲ處分スルコトヲ要ス
第六百八十一條 他人ノ生命又ハ健康ハ其人ノ爲メ又ハ第三者ノ爲メ契約上ノ義務ニ依リテ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得
第六百八十二條 保險ハ左ノ場合ニ於テハ無効トス
第一 保險シタル死亡又ハ病傷カ保險契約取結ノ際既ニ生シタルトキ但保險申込人カ其事ヲ知ラサルトキハ此限ニ在ラス
第二 生命若クハ健康ヲ保險ニ付シ又ハ付セシメタル者カ契約上負擔シタル義務ニ違反シ又ハ放蕩、粗暴其他故意ノ所爲ニ因リテ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタルトキ
第三 死亡若クハ病傷カ重罪若クハ輕罪ニ付テノ有罪判決ノ執行ニ因リ若クハ其執行中ニ生シ又ハ重罪若クハ輕罪ヲ犯シタル直接ノ結果トシテ生シ又ハ決鬪其他故意ノ所爲ニ因リテ生シタルトキ
第六百八十三條 總テ保險無効ノ場合ニ於テハ保險契約ヲ以テ此場合ノ爲メニ約定シタル額若シ約定ナキトキハ少ナクトモ被保險者ノ爲メニ既ニ積立テタル貯金ノ半額ヲ被保險者ニ償還スルコトヲ要ス但被保險者カ詐欺若クハ惡意ニ因リテ自ラ無効ニ至ラシメタルトキハ此限ニ在ラス
第六百八十四條 契約ノ無効ハ保險者カ契約ノ無効ヲ致ス情況ヲ知リタル後尙ホ契約ヲ被保險者ト繼續シタルトキハ保險者ヨリ被保險者ニ對シテ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第六百八十五條 死亡若クハ病傷ノ時ノ外尙ホ契約ニ依リ或ル年齡若クハ期限ニ至リタル時ヲ以テ被保險額支拂ノ時ト爲スコトヲ得又被保險額ノ支拂ニ換ヘテ年金ノ支拂ヲ約定スルコトヲ得
第六百八十六條 年金保險ハ保險者カ或ル金額ヲ受取リテ被保險者ニ又ハ其死亡ノ後ハ其保險ニ與カリタル人ニ終身間又ハ或ル期間ノ滿了ニ至ルマテ年金ヲ支拂フ義務ヲ負フ契約タリ
第六百八十七條 年金受取ノ權利ハ被保險者ニ屬スルト同一ノ範圍及ヒ條件ニテ第六百四十一條ノ規定ニ從ヒテ被保險者ヨリ之ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得
第六百八十八條 總テ生命保險、病傷保險及ヒ年金保險ノ場合ニ於テハ被保險者若クハ其權利承繼人ハ正當時期ニ豫吿ヲ爲シタル後保險契約ニ從ヒ若クハ第六百八十三條ニ從ヒ自己ニ屬スル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除スル權利ヲ有シ又ハ豫吿ヲ以テ償還ヲ求ムルコトヲ得ヘキ利息附ノ預ケ金ニ其契約ヲ變換スル權利ヲ有ス
保險料ノ不拂ハ保險者ニ於テ之ヲ契約解除ノ豫吿ト看做スコトヲ得
第六節 保險營業ノ公行
第六百八十九條 保險會社ハ官許ヲ受クルニ非サレハ其營業ヲ爲スコトヲ得ス
第六百九十條 保險會社ハ保險料其他ノ收入金ノ中ヲ以テ年年積立ヲ爲シ何時ニテモ年年支拂フ可キ被保險額ノ少ナクトモ平均二倍ニ滿ツル準備金ヲ設クル義務アリ此準備金ハ十分安全ニ利用シ其證券ヲ裁判所ニ寄託スルコトヲ要ス但之ヨリ生スル收入ハ會社ニ歸ス
第六百九十一條 保險會社ハ少ナクトモ每年一囘其年ノ收支一覽表及ヒ貸借對照表ヲ作リテ之ヲ公吿シ且各社員及ヒ各被保險者ニ送達スル義務アリ
第六百九十二條 裁判所ハ何時ニテモ被保險者ノ申立ニ因リ保險會社ノ保險業ノ現況、取引ノ實況、貸借ノ關係及ヒ會社カ保險業ヲ營ム原則ヲ一人若クハ二人以上ノ鑑定人ヲシテ檢査セシメ其檢査ノ結果ヲ被保險者ニ通知シ且公吿スル權アリ其檢査及ヒ公吿ノ費用ハ裁判所ノ見込ヲ以テ右申立ヲ十分ノ理由アリトスルトキハ保險會社之ヲ負擔ス
行政官廳ハ亦其職權ヲ以テ檢査ヲ行フコトヲ得
第六百九十三條 一部類ノ保險業ノ外ニ尙ホ他ノ部類ノ保險業ヲ營ム會社ハ各部類ノ保險業ヲ各別ニ營ミ又其各部類ニ生スル收入ハ專ラ其部類ノ爲メニ之ヲ積立テ及ヒ使用スルコトヲ要ス此規定ハ保險會社ノ破產ノ場合ニモ之ヲ適用ス其殘餘ノ財團ハ第千四十五條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ分配ス可シ
保險業ノ外ニ他ノ業ヲ營ム會社ハ亦前項ニ準ス
第六百九十四條 保險會社カ第六百九十條乃至第六百九十三條ノ規定ニ背クトキ又ハ被保險者總員ノ承諾ヲ得スシテ同業若クハ他業ノ會社ト合併スルトキ又ハ被保險者ニ吿知シタル保險業ノ原則ヲ變更シ若クハ事實上之ヲ犯ストキハ各被保險者ハ豫吿ヲ爲スコト無クシテ何時ニテモ保險ヲ解止シ其拂込ミタル現支拂期間ノ保險料總額ノ償還及ヒ拂込ミタル日ヨリノ法律上ノ利息ヲ求ムル權利アリ
第六百九十五條 保險會社カ將來ノ義務ヲ履行スル能ハスト豫知ス可キ取引ノ實況ニ至リタルトキハ其會社カ未タ支拂ヲ停止セスト雖モ被保險者ハ破產宣吿ヲ求ムル申立ヲ爲スコトヲ得
第六百九十六條 保險會社ニシテ其本店ノ所在地外ニ於テ代辨人ヲ以テ保險契約ヲ取結フ者ハ其代辨人ニ與ヘタル權限ノ如何ニ拘ハラス其契約ニ關シテハ代辨人ノ營業所ノ地ヲ管轄スル裁判所ノ裁判權ニ服從シ且其裁判所ニ差出ス可キ裁判上ノ代人ヲ定置ク義務アリ若シ之ヲ定置カサルトキハ其代辨人ヲ裁判上ノ代人ト看做ス
第六百九十七條 第六百四十五條ノ規定ニ從ヒ獨立シテ保險契約ヲ取結フ爲メ內國ニ置キタル外國保險會社ノ代辨店ハ之ヲ支店ト看做シ支店ニ關スル一般ノ規定及ヒ本節ノ規定ヲ適用ス
第六百九十八條 本節ノ規定ハ一個人又ハ組合ニシテ保險營業ヲ爲スモノニモ之ヲ適用ス
第十二章 手形及ヒ小切手
總則
第六百九十九條 手形ハ或ル金額カ相違ナク支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證券ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノタリ
第七百條 商ヲ爲スコトヲ得ル各人ハ爲替義務ヲ負フコトヲ得
第七百一條 手形ニ爲替無能力者ノ署名アルモ其他ノ署名ノ効力ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
第七百二條 手形ノ要件ヲ外觀ノ爲メニノミ記入シタル手形ハ其情ヲ知リタル者ノ爲メニハ之ヲ手形ト看做サス
第七百三條 他人ヨリ特ニ委任ヲ受クルコト無ク又ハ代理ノ事實ヲ明記スルコト無クシテ他人ノ爲メニ手形ニ署名スル者ハ此ニ因リテ自己ニ責任ヲ負フ
第七百四條 手形ノ受取人ハ直チニ振出人ニ對シ又其後ノ各所持人ハ其前者ヲ經由シテ振出人ニ對シ番號ヲ記シタル同文ノ手形數通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
手形ノ各所持人ハ需用ニ應シテ自ラ手形ノ謄本ヲ作ルコトヲ得
第七百五條 手形ハ其旨趣ニ因リテ直接ニ義務ヲ負ハシム但法律又ハ商慣習ニ依リテ例外ト爲ス可キモノハ此限ニ在ラス
第七百六條 法律上ノ要件ヲ揭ケサル手形又ハ其要件ト共ニ違法ノ事項ヲ揭ケタル手形又ハ旨趣カ互ニ牴觸シ其牴觸ヲ法律ノ許セル方法ヲ以テ取除クコトヲ得サル手形ハ無効タリ
第七百七條 手形上ノ重要ナラサル附記ハ法律上ノ要件ニ適スル手形ノ旨趣ノ効力ヲ妨クルコト無ク又爲替上ノ義務ヲ生セシムルコト無シ
第七百八條 僞造又ハ變造ノ手形ハ手形トシテ其効ヲ有ス然レトモ僞造、變造ニ因リテ義務ヲ生スルコト無シ但一旦生シタル義務ハ變更セサルモノトス
僞造、變造ニ付テノ異議ハ其僞造、變造ヲ爲シタル者又ハ其情ヲ知リテ手形ヲ取得シタル者ニ對シテ之ヲ起スコトヲ得
第七百九條 爲替義務ハ其負擔ニ關シテハ手形ニ記載シタル地ノ法律ニ從ヒ若シ其地ヲ記載セサルトキハ債務者ノ住所ノ法律ニ從ヒテ之ヲ定メ又其履行ニ關シテハ履行ヲ爲ス可キ地ノ法律ニ從ヒテ之ヲ定ム
爲替上ノ權利ヲ行使シ及ヒ保全スル爲メニスル行爲ハ其行爲ノ地ノ法律ニ從ヒテ之ヲ爲スコトヲ要ス但手形ニ其他ノ地ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百十條 手形又ハ小切手ノ占有者ニシテ正當ノ方法ニ依リ且甚シキ怠慢ニ出テスシテ之ヲ取得シタル者ハ其手形又ハ小切手若クハ其代金ノ引渡ノ請求ニ應スル義務ナシ但占有者カ手形又ハ小切手ノ引渡ヲ求ムル訴ヲ起シタル場合アルニ當リ之ニ對シ抗辯ヲ爲シ得ヘキ事實ト同一ノ事實ニ因リテ請求セラルルトキハ此限ニ在ラス
第七百十一條 盜取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル手形及ヒ小切手ニ付テハ第四百三條ノ規定ヲ適用ス
第七百十二條 爲替手形ノ引受人又ハ約束手形ノ振出人ニ對スル爲替上ノ請求權ハ滿期日ヨリ起算シ三个年ヲ以テ時効ニ罹リ又所持人若クハ裏書讓渡人ヨリ振出人若クハ前裏書讓渡人ニ對スル償還請求權ハ拒證書ヲ作リタル日若クハ請求ノ通知ヲ爲シタル日ヨリ三个年ヲ以テ時効ニ罹ル
時効ハ訴ヲ起シ其他各箇ノ裁判上ノ手續ヲ爲スニ因リテ中斷セラレ又裁判所ノ判決ニ依リ又ハ書面ニ明示シテ債務ヲ承認シ新債務ト爲シタルニ因リテ消滅ス
第七百十三條 一覽拂又ハ一覽後定期拂ノ手形ニ在テハ時効ハ呈示ニ付キ規定セラレタル期間ノ滿了ヨリ始マル但其滿了前ニ呈示ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百十四條 手形ヨリ生スル請求權ヲ時効ニ因リ又ハ法律ニ規定シタル行爲ヲ怠リタルニ因リテ失ヒタル者ハ其失ヒタルニ拘ハラス支拂人、振出人又ハ裏書讓渡人ニ對シ此等ノ者カ支拂ハサル爲替資金若クハ取戾シタル爲替資金ニ因リテ己レヲ利シタル限度ニ於テ右請求權ヲ主張スルコトヲ得第七百十一條ノ場合ニ係ルモノト雖モ亦同シ
第七百十五條 總テ手形ニ署名ヲ爲シタル者ハ此ニ因リ連帶シテ義務ヲ負擔ス然レトモ此連帶義務ハ各義務者ニ於テ特立ノモノトス
爲替ノ訴ハ其總員ニ對シ又ハ其一人ニ對シテ之ヲ起スコトヲ得
第一節 爲替手形
第一款 振出
第七百十六條 爲替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 爲替金額但文辭ヲ以テ記ス可シ
第三 支拂人ノ氏名
第四 受取人ノ氏名又ハ其指圖セラレタル人若クハ所持人ニ支拂フ可キ旨及ヒ滿期日竝ニ支拂地
第五 爲替手形ト引換ニテ支拂ヲ爲ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
第七百十七條 振出人ハ爲替手形ヲ自己ノ指圖ニテ振出シ又ハ振出地ニ非サル地ニ於テ支拂ヲ爲ス可キトキハ自己ニ宛テ振出スコトヲ得
第七百十八條 爲替手形ノ金額二十五圓以上ナルトキハ無記名式ニテ振出スコトヲ得
第七百十九條 滿期日ハ定マリタル日又ハ日附ノ後定マリタル期間又ハ一覽ノ時又ハ一覽後定マリタル期間ニ於テノミ之ヲ定ムルコトヲ得
第七百二十條 爲替手形ニ滿期日ヲ記載セサルトキハ其手形ハ一覽ノ時ニ滿期ト爲ル
第七百二十一條 支拂人ノ住地又ハ其他ノ地〔他所拂爲替手形〕ハ支拂地トシテ之ヲ記載スルコトヲ得他ノ地ヲ記載シタル場合ニ在テ爲替手形ニ支拂ノ爲メ他人〔他所拂人〕ヲ明記セサルトキハ支拂人ハ其記載シタル地ニ於テ支拂ヲ爲スコトヲ要ス
第二款 裏書
第七百二十二條 爲替手形ノ受取人及ヒ其後ノ各所持人ハ若シ其手形ニ反對ヲ明記セサルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得
第七百二十三條 裏書ニハ其年月日、場所、裏書讓渡人ノ署名、捺印及ヒ裏書讓受人ノ氏名アルコトヲ要ス然レトモ白地ニテモ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得
第七百二十四條 裏書ニハ其日ヨリ前ノ日附ヲ爲スコトヲ禁ス之ニ違フトキハ僞造、變造ノ刑ニ處ス
第七百二十五條 無記名式ニテ振出シ又ハ白地ニテ裏書讓渡ヲ爲シタル爲替手形ハ交付ノミヲ以テ之ヲ轉付スルコトヲ得
第七百二十六條 爲替手形ハ滿期後ト雖モ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得又代理若クハ擔保ノ爲メ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得
第七百二十七條 支拂ノ爲メニスル呈示及ヒ拒證書ノ作成ヲ事情ニ因リテ正當時期內ニ爲スコトヲ得サル爲替手形ノ裏書讓渡ハ滿期後ノ爲替手形ノ裏書讓渡ニ同シ
第七百二十八條 滿期後ノ爲替手形ノ裏書讓渡ハ其裏書讓渡人ノ權利及ヒ義務ノミヲ裏書讓受人ニ轉付スルモノトス然レトモ裏書讓受人ハ滿期後ニ爲替手形ノ裏書讓渡ヲ爲シタル各人ニ對シテ如何ナル方式ニモ覊束セラレス且獨立シタル償還請求權ヲ取得ス
第七百二十九條 代理ノ爲メ又ハ擔保ノ爲メニスル裏書讓渡ハ其目的ヲ爲替手形ニ記載セサルトキハ第三者ニ對シテ眞ノ裏書讓渡タリ
第七百三十條 代理ノ爲メニスル裏書讓渡ニシテ其目的ヲ記載シタルトキハ其裏書讓受人ニ裏書讓渡人ノ權利及ヒ義務ヲ行フ權殊ニ更ニ眞ノ裏書讓渡ヲ爲ス權ヲ付與スルモノトス但其手形ニ眞ノ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得サル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百三十一條 擔保ノ爲メニスル裏書讓渡〔質入爲替手形、寄託爲替手形〕ハ其目的ヲ記載シタルトキト雖モ眞ノ裏書讓渡タリ然レトモ各爲替債務者ハ爲替手形ヲ以テ擔保シタル債務ヲ支拂ヒ又ハ其他ノ方法ヲ以テ之ヲ消却シタリトノ抗辯ヲ裏書讓受人ニ對シテ爲スコトヲ得
第七百三十二條 裏書讓渡ハ各裏書讓渡人ノ順序カ裏書讓受人ニ至ルマテ間斷ナキトキニ限リ裏書讓受人ノ爲メ効力アリ又代理又ハ擔保ノ爲メ裏書讓渡ヲ爲シタル爲替手形ハ裏書讓渡人ニテモ裏書讓受人ニテモ更ニ裏書讓渡ヲ爲スコトヲ得
第七百三十三條 裏書讓渡ノ法律上ノ効力ハ爲替手形ニ裏書讓渡ヲ禁スル旨ヲ記載シタルカ爲メ之ヲ失フコト無シ但之ヲ禁シタル者ニ對スル償還請求權ハ此カ爲メニ消滅ス
第三款 引受
第七百三十四條 爲替手形ノ所持人ハ其手形ニ別段ノ記載ナキトキハ滿期日前ニ引受ノ爲メ支拂人ニ之ヲ呈示スルコトヲ得若シ支拂人其引受ヲ爲ササルトキハ其翌日拒證書ヲ作ルコトヲ要ス
他所拂爲替手形ノ振出人ハ所持人ニ於テ引受ノ爲メ其手形ノ呈示ヲ爲ス可ク若シ爲ササルトキハ償還請求權ヲ失フ可キ旨ヲ記スルコトヲ得
第七百三十五條 一覽後定期拂ノ爲替手形ハ別ニ短キ呈示期間ノ記載ナキトキハ日附後遲クトモ二个年內ニ引受ノ爲メ之ヲ呈示ス可シ若シ之ヲ呈示セサルトキハ振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對スル償還請求權ヲ失フ
支拂人カ方式ニ依レル引受ヲ拒ミ若クハ引受ノ日附ヲ爲スコトヲ拒ムトキハ其翌日拒證書ヲ作ルコトヲ要ス此場合ニ於テハ拒證書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做ス若シ拒證書ヲ作ラサルトキハ滿期日ハ呈示期間ノ末日ヨリ起算ス
第七百三十六條 引受ハ支拂人カ爲替資金ヲ受取リタルト否トヲ問ハス爲替手形ノ所持人ニ對シテ滿期日ニ爲替金額ヲ支拂フ義務ヲ支拂人ニ負ハシム又所持人ニ引受ノ旨ヲ記シタル爲替手形ヲ還付シタル後ハ强暴又ハ詐欺ノ場合ヲ除ク外之ヲ取消スコトヲ得ス
第七百三十七條 引受ハ支拂人カ爲替手形ニ引受ノ旨ヲ記シテ署名、捺印ヲ爲シ又ハ署名、捺印ノミヲ爲スニ因リテ成ル此方式ニ依ラサル引受ノ効力ハ第八百五條ノ規定ニ從フ
第七百三十八條 卽日ニ引受ヲ爲サス又ハ條件若クハ其他ノ制限ヲ以テ之ヲ爲シタルトキハ引受人ハ其引受ノ爲メ當然覊束セラルルモ所持人ハ之ヲ拒ミタリト看做スコトヲ得若シ爲替金額ノ一分ニ付テノミ引受ヲ爲シタルトキハ他ノ部分ニ付テハ其引受ヲ拒ミタリト看做ス
第七百三十九條 支拂人カ引受ノ全部若クハ一分ヲ拒ミタルトキ又ハ第七百三十七條及ヒ第七百三十八條ノ規定ニ依リテ引受ヲ拒ミタリト看做ス可キトキハ所持人ハ拒證書ノ作成ヲ遲延ナク振出人又ハ裏書讓渡人ニ通知ス可シ若シ此通知ヲ爲ササルトキハ之ヲ受ケサリシ者ニ對シテ償還請求權ヲ失フ
又右ノ通知ヲ爲シタル所持人ハ振出人又ハ裏書讓渡人ニ對シテ爲替金額及ヒ拒證書ノ費用竝ニ戾爲替ノ費用ヲ滿期日ニ支拂フコトニ付テノ擔保ヲ求ムル權利ヲ有シ各裏書讓渡人ハ自ラ擔保ヲ爲シタルト否トヲ問ハス前者ニ對シテ右同一ノ權利ヲ有ス但拒證書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ擔保ヲ供スル義務ナシ
當事者ノ一人カ爲シタル通知及ヒ其受ケタル擔保ハ其後者總員ノ爲メニモ効力アリ
第七百四十條 振出人及ヒ裏書讓渡人ハ擔保ヲ爲スニ換ヘテ前條ニ揭ケタル一切ノ金額ヲ卽時ニ所持人ニ支拂ヒ又ハ卽時ニ供託所ニ寄託スルコトヲ得
第七百四十一條 擔保又ハ寄託ハ後ニ至リ爲替手形ノ引受アリタルトキ又ハ爲替金額若クハ償還金額ノ支拂アリタルトキ又ハ所持人カ時効若クハ懈怠ニ因リテ爲替手形上ノ權利ヲ失ヒタルトキハ其生シタル費用ヲ引去リテ之ヲ還付スルコトヲ要ス
第七百四十二條 第七百四十條ノ規定ニ從ヒテ爲替金額及ヒ費用ヲ所持人ニ支拂ヒタル者ハ其所持人ニ對シテ裏書讓渡ヲ求メ且爲替手形ト共ニ受取證ヲ記シタル償還計算書ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第四款 榮譽引受
第七百四十三條 支拂人カ引受ヲ拒ミタル爲替手形ニ同地ニ於ケル豫備支拂人ヲ揭ケタルトキハ其爲替手形ヲ拒證書ト共ニ引受ノ爲メ遲延ナク豫備支拂人ニ呈示ス可シ
第七百四十四條 豫備支拂人ヲ揭ケサルトキト雖モ支拂人及ヒ第三者ハ拒マレタル爲替手形ヲ振出人又ハ裏書讓渡人ノ榮譽ノ爲メニ引受クルコトヲ得然レトモ所持人ハ此ノ如キ參加ヲ許諾スル義務ナシ
第七百四十五條 二人以上ノ參加人アルトキハ最モ多數ノ義務者ノ榮譽ノ爲メニ引受ヲ爲ス者ヲ以テ榮譽引受人トス若シ受榮譽者ヲ記載セサルトキハ振出人ヲ受榮譽者ト看做ス
第七百四十六條 豫備支拂人ノ引受其他所持人カ許諾シタル參加人ノ引受ハ受榮譽者及ヒ其後者ニ擔保ヲ供スル義務ヲ免カレシム
第七百四十七條 榮譽引受ハ支拂人カ支拂ヲ爲ササルトキニ於テ參加人ニ滿期後爲替金額ヲ支拂フ義務ヲ負ハシム
第七百四十八條 榮譽引受ハ參加人爲替手形ニ之ヲ記載シテ署名、捺印シ且拒證書若クハ其附箋ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス
第七百四十九條 拒證書ハ拒證書費用ノ辨償ヲ受ケタル上之ヲ參加人ニ交付シ參加人ハ遲クトモ拒證書作成ノ翌日受榮譽者ニ榮譽引受ヲ爲シタル旨ヲ通知シテ拒證書ヲ送付スルコトヲ要ス若シ此事ヲ怠ルトキハ此ニ因リテ生スル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第七百五十條 受榮譽者及ヒ其前者ハ擔保ヲ求ムル權利ヲ有ス然レトモ所持人ハ第七百四十四條ニ依リテ榮譽引受ヲ許諾セサルトキニ非サレハ之ヲ有セス
第五款 保證
第七百五十一條 爲替手形ニ於テ爲替債務者ノ署名ニ自己ノ署名ヲ添フル第三者ハ其債務者ト連帶シテ義務ヲ負フ
第七百五十二條 前條ノ義務ヲ負擔スルニハ別ニ書面上ノ陳述ヲ以テスルコトヲ得
第七百五十三條 爲替保證ノ義務ハ明示ノ契約ヲ以テ之ヲ制限スルコトヲ得然レトモ其制限ハ契約ヲ爲シタル當事者間ニノミ効力アリ
第六款 支拂
第七百五十四條 爲替金額ハ爲替手形ニ記載シタル貨幣ヲ以テ之ヲ支拂フ可シ若シ特ニ貨幣ノ種類ヲ表示セサルトキハ支拂地ニ於テ商人間ニ流通スル貨幣ヲ以テ支拂ヲ爲ス意思ナリト推定ス
第七百五十五條 支拂ハ第七百七十八條ノ場合ヲ除ク外ハ支拂人カ引受ヲ爲シタルト否トヲ問ハス滿期日ニ支拂人ノ方ニテ之ヲ受クルモノトス
支拂恩惠期日ハ之ヲ許サス然レトモ其地慣習ノ支拂日ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス
第七百五十六條 滿期日カ一般ノ休日ニ當ルトキハ其後ノ業日ヲ以テ支拂日トス
第七百五十七條 一覽拂爲替手形ハ呈示ノ日ニ滿期ト爲ル若シ日附後二个年內ニ呈示ヲ爲ササルトキ又ハ二个年內ノ呈示期間ヲ其手形ニ定メサルトキハ日附後二个年ヲ以テ滿期ト爲ル若シ正當ノ時期ニ呈示ヲ爲ササルトキハ所持人ハ振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對スル償還請求權ヲ失フ
第七百五十八條 債權者カ爲替金額ヲ滿期日ニ受取ラサルトキハ支拂人ハ債權者ノ費用及ヒ危險ニテ其金額ヲ供託所ニ寄託スルコトヲ得此場合ニ於テハ支拂人ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ責任ヲ負フ
第七百五十九條 債權者ハ滿期日前ニ支拂ヲ受クル義務ナシ若シ滿期日前ニ支拂ヲ爲シタルトキハ債務者其危險ヲ負擔ス
第七百六十條 債務者ハ滿期ノ時又ハ後ニ所持人ニ支拂ヲ爲スヲ以テ其責ヲ免カル但其際債務者ニ甚シキ怠慢アリタルトキハ此限ニ在ラス
第七百六十一條 支拂ハ受取證ヲ記シタル爲替手形ノ交付ト引換ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
債權者ハ一分ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得ス但一分ノ支拂ノ場合ニ在テハ爲替手形ニ其支拂ヲ記入シ且其支拂ニ付テノ別段ノ受取證ヲ債務者ニ交付ス可シ
第七百六十二條 爲替手形ヲ數通ニシテ振出シタルトキハ債務者ハ其中ノ孰レニ依リテ支拂ヲ爲スモ此ニ因リテ其責ヲ免カル然レトモ裏書アル一通又ハ支拂人ノ引受ヲ記シタル一通ヲ所有者トシテ占有スル第三者ノ權利ヲ妨ケス
第七百十條及ヒ第七百十一條ノ規定ハ一爲替手形ノ數通ノ引渡及ヒ喪失ニモ之ヲ適用ス
第七百六十三條 引受人ハ一爲替手形ノ數通中ニテ其引受ヲ記セサルモノニ對シテハ擔保ヲ供セシメタル上ニ非サレハ支拂ヲ爲ス義務ナシ引受ヲ記シタル爲替手形數通アル場合ニ在テハ之ヲ合シテ引渡ササルトキモ亦同シ若シ擔保ノ提供ヲ爲スニ拘ハラス引受人カ支拂ヲ拒ムトキハ所持人ハ拒證書ヲ作ルコトヲ得
第七百六十四條 滿期ノ時又ハ後ニ於テ爲替手形上ノ正當ノ所持人ニ爲ス支拂ハ其所持人カ破產宣吿ヲ受ケタル場合又ハ第七百十條及ヒ第七百十一條ノ場合ニ限リ裁判所ノ命令ヲ以テノミ之ヲ差押フルコトヲ得
第七百六十五條 支拂ニ對シ前條以外ノ方法ヲ以テスル故障又ハ債務者ノ知ラサル人ニ爲ス支拂ニ付テハ第四百條ノ規定ヲ適用スルコトヲ得
第七百六十六條 第七百十條及ヒ第七百十一條ノ場合ニ在テハ爲替手形ニ付キ自己ノ所有權ヲ疏明シ且裁判所ノ命令ヲ得タル者ハ判決ノ確定前ニ擔保ヲ供シテ爲替金額ノ支拂ヲ求メ又ハ擔保ヲ供セスシテ爲替金額ヲ供託所ニ寄託スルヲ求ムルコトヲ得此寄託ノ場合ニ在テモ第七百五十八條ノ規定ヲ適用ス
第七百六十七條 支拂人カ正當ノ理由ナクシテ滿期日ニ爲替金額ノ支拂又ハ寄託ヲ拒ムトキハ所持人ハ其次ノ業日ニ拒證書ヲ作リ且所持人カ償還請求ヲ爲サント欲スル者ニ拒證書ノ作成ヲ通知スルコトヲ要ス然レトモ所持人ハ爲替手形ニ明記アルニ因リテ拒證書作成ノ義務ヲ免カルルコトヲ得
第七款 榮譽支拂
第七百六十八條 拒マレタル爲替手形ハ振出人又ハ裏書讓渡人ノ榮譽ノ爲メ榮譽引受人、支拂人又ハ第三者之ヲ支拂フコトヲ得
第七百六十九條 豫備支拂人其他ノ參加人ノ引受ヲ記シタル爲替手形ハ拒證書作成ノ後直チニ榮譽引受人ニ支拂ノ爲メ之ヲ呈示ス可シ
第七百七十條 榮譽支拂若クハ其拒絕又ハ其提供ハ何レノ場合ニ於テモ之ヲ支拂拒證書又ハ其附箋ニ記載ス可シ
其拒證書ハ爲替手形ト共ニ拒證書費用ノ辨償ヲ受ケタル上之ヲ榮譽支拂人ニ交付ス
第七百七十一條 榮譽支拂人ハ引受人、振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對シテ所持人ノ權利ヲ承繼ス但其權利ヲ主張スルニハ所持人ト同一ノ義務ヲ履行スルコトヲ要ス
第七百七十二條 榮譽支拂ハ受榮譽者ノ後者總員ヲシテ責ヲ免カレシム
第七百七十三條 榮譽支拂ヲ提供スル者二人以上アルトキハ支拂人ヲ以テ榮譽支拂人トシ之ニ次テハ最モ多數ノ義務者ヲシテ責ヲ免カレシムル者ヲ以テ榮譽支拂人トス
第七百七十四條 所持人ハ榮譽支拂ヲ受クルコトヲ拒ムニ因リテ受榮譽者及ヒ其後者ニ對スル償還請求權ヲ失フ
第八款 償還請求
第七百七十五條 支拂人カ滿期日ニ爲替手形ノ支拂ヲ爲ササルトキハ所持人ハ振出人及ヒ裏書讓渡人ニ對シ爲替金額及ヒ其利息竝ニ不拂ニ因リテ生シタル一切ノ費用ニ付キ償還請求權ヲ有ス
第七百七十六條 所持人ハ爲替手形ヲ滿期日ニ支拂ノ爲メ呈示ス可シ若シ支拂ヲ爲ササルトキハ滿期日ノ次ノ業日ニ支拂拒證書ヲ作ル可シ但第七百六十一條第二項ニ揭ケタル一分ノ支拂ノ場合ニ於テモ亦同シ
第七百七十七條 支拂拒證書ハ既ニ引受拒證書ヲ作リタルトキニモ債務者カ死亡シ又ハ破產宣吿ヲ受ケ又ハ其所在ノ知レサルトキニモ之ヲ作ル可シ
第七百七十八條 引受人ニ對シテ爲替權利ヲ保全スルニハ滿期日ニ於ケル呈示及ヒ拒證書ノ作成ヲ要セス然レトモ他所拂爲替手形ハ他所拂人若シ他所拂人ノ記載ナキトキハ支拂人ニ其爲替手形ヲ支拂フ可キ地ニ於テ支拂ノ爲メ之ヲ呈示ス可シ若シ支拂ヲ爲ササルトキハ同地ニ於テ拒證書ヲ作ル可シ
第七百七十九條 引受人カ破產宣吿ヲ受ケ其他資力ノ確ナラサルニ至リタル場合ニ於テ爲替支拂ノ爲メ十分ナル擔保ヲ供セサルトキハ所持人ハ滿期日前ニ支拂拒證書ヲ作リテ償還請求ヲ爲スコトヲ得
第七百八十條 所持人ハ振出人及ヒ裏書讓渡人ノ各員又ハ總員ニ對シ償還請求ヲ爲スコトヲ得又償還請求ヲ受ケタル裏書讓渡人ハ其前者ニ對シテ同一ノ權利ヲ有ス
第七百八十一條 償還請求ヲ爲ス者ハ第七百三十九條ノ規定ニ依リテ引受拒證書作成ノ通知ヲ爲シタルニ拘ハラス尙ホ其償還請求ヲ爲サント欲スル前者ニ書面ヲ以テ其請求及ヒ支拂拒證書作成ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス其通知ハ所持人ニ在テハ拒證書ヲ作リタル日ノ翌日、裏書讓渡人ニ在テハ通知書ヲ受取リタル日ノ翌日之ヲ爲ス可シ但裏書讓渡人ノ通知ハ其後者ノ爲メニモ効力アリ
第七百八十二條 前者ニ對シテ償還請求ヲ爲シタルモ此カ爲メニ其後者ハ償還義務ヲ免カレス
第七百八十三條 拒證書作成ノ義務免除ニ因リテ拒證書作成ノ權利及ヒ償還請求權ハ消滅セス然レトモ此場合ニ於テ其免除ヲ爲シタル者ノ後者ニ在テハ其免除ヲ爲シタル者ニ對シ謄本ヲ以テ爲替手形ノ送付ヲ爲スト同時ニ書面ニテ償還請求ノ通知ヲ爲スヲ以テ足レリトス
第七百八十四條 償還請求ノ訴ハ償還請求權ヲ得タル者ヨリ償還請求ヲ受ク可キ者ニ對シ時効期間中何時ニテモ之ヲ起スコトヲ得
第七百八十五條 償還請求權ハ支拂人カ爲替資金ヲ受取リタリトノ抗辯ノ爲メニ効力ヲ失フコト無シ然レトモ爲替資金ヲ供スル義務アル者ニ對シテハ其者カ爲替資金ヲ供セサリシトノ抗辯ヲ爲スコトヲ得
第七百八十六條 償還請求ハ左ノ額ニ付キ之ヲ爲スコトヲ得
第一 爲替金額及ヒ滿期日ヨリ起算シタル年百分ノ七ノ利息
第二 拒證書ノ費用其他必要ナル立替金
第三 戾爲替ヲ振出シタルトキハ其費用
第七百八十七條 償還請求權ヲ得タル者ハ償還義務者ニ對シ償還金額ヲ限トシテ其動產ノ假差押ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得然レトモ償還請求ノ訴ヲ十四日內ニ起ササルトキハ其差押ハ無効ト爲ル
所持人ハ引受人ニ對シテ右同一ノ權利ヲ有ス
第七百八十八條 償還義務者ハ爲替手形、拒證書及ヒ受取證ヲ記シタル償還計算書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ支拂ヲ爲ス義務ナシ
第七百八十九條 爲替義務者ハ償還金額ノ支拂ト引換ニテ受取證ヲ記シタル爲替手形及ヒ支拂拒證書ノ交付ヲ所持人ニ求ムル權利アリ
第九款 拒證書作成
第七百九十條 拒證書ハ裁判所ノ役員又ハ公證人之ヲ作ルモノトス若シ其地ニ此等ノ人ナキトキハ被拒者ニ於テ證人二人ノ立會ヲ以テ之ヲ作ル可シ但其證人ハ成年ノ男子ニシテ成ル可ク商人タルコトヲ要ス
第七百九十一條 拒證書ハ拒者ノ營業場若シ營業場ナキトキハ其住居ノ內若クハ傍ニ於テ之ヲ作ル可シ但拒者不在ナルトキ又ハ臨席ヲ肯セス若クハ來入ヲ拒ムトキト雖モ亦同シ
若シ已ムヲ得サル場合アルトキハ裁判所又ハ公證人役場ニ於テ拒證書ヲ作ルコトヲ得
第七百九十二條 拒者ノ營業場及ヒ住居ノ知レサル場合ニ於テ支拂地ノ官署ニ問合ヲ爲スモ尙ホ知ルコトヲ得サルトキハ拒證書ハ其官署內ニ於テ之ヲ作ルコトヲ要ス
第七百九十三條 法律上定メタル場所ノ外ニ於テハ拒者ノ承諾アルモ拒證書ヲ作ルコトヲ得ス
第七百九十四條 一般ノ休日ニハ拒證書ヲ作ルコトヲ得ス然レトモ通常ノ取引時間外ニ於テ之ヲ作ルハ妨ナシ
第七百九十五條 拒證書ニハ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要ス
第一 爲替手形ノ全文但最後ノ裏書ニ至ルマテ遺漏ナク記載ス可シ
第二 拒者ノ臨席又ハ不在
第三 引受、支拂又ハ擔保ノ要求及ヒ拒絕竝ニ拒絕ノ理由
第四 右要求及ヒ拒絕ノ日竝ニ場所
第五 榮譽引受又ハ榮譽支拂アルトキハ其旨
第六 年月日、場所及ヒ臨席總員ノ署名、捺印
若シ拒者カ署名、捺印スルコトヲ欲セス又ハ署名、捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ證書ニ明記ス可シ
第七百九十六條 第七百九十一條乃至第七百九十四條ノ規定ハ引受又ハ支拂ノ爲メニスル呈示、爲替手形數通ノ要求其他本章ノ規定ニ從ヒ或人ノ方ニテ爲ス可キ行爲ニモ之ヲ適用ス
第七百九十七條 第七百十條及ヒ第七百十一條ノ場合ニ於テハ其情況ヲ拒證書ニ明示シ且成ル可ク詳細ニ爲替手形ノ旨趣ヲ記シテ爲替手形ノ全文ニ代フ
第七百九十八條 裁判所ノ役員又ハ公證人ハ其作リタル拒證書ノ全文ヲ日日帳簿ニ記入シ且被拒者ノ求ニ因リテ數通ニ之ヲ作ル義務アリ
拒證書作成ノ費用ハ被拒者之ヲ立替フルコトヲ要ス
第十款 戾爲替手形
第七百九十九條 所持人ハ償還金額ニ付キ各償還義務者ニ對シテ戾爲替手形ヲ振出スコトヲ得
第八百條 戾爲替手形ノ費用ノ額ハ仲買人手數料、仲立人手數料、郵便稅、印紙稅及ヒ支拂地ヨリ償還義務者ノ住地ニ宛テ振出シタル一覽拂爲替手形ノ相場ニ因リテ定マル
右ノ相場ハ戾爲替手形ヲ遞次振出ス場合ト雖モ本爲替手形ノ支拂地ヨリ振出地ニ宛テタル一覽拂爲替手形ノ相場ヲ超ユルコトヲ得ス此二箇ノ相場ハ仲立人ノ認證ヲ受クルコトヲ要ス
第八百一條 戾爲替手形ニハ拒マレタル爲替手形、拒證書、償還計算書及ヒ前條ノ二箇ノ相場認證書ヲ添フ可シ
第八百二條 戾爲替手形ヲ支拂ヒタル者ハ其前者中ノ一人ニ宛テ更ニ戾爲替手形ヲ振出スコトヲ得
第十一款 資金
第八百三條 振出人又ハ自己ノ計算ニテ爲替手形ヲ振出サシメタル者又ハ明示シテ爲替資金ヲ供スル義務ヲ負ヒタル裏書讓渡人ハ支拂人ニ對シテ爲替資金ヲ供スル義務ヲ負フ
第八百四條 現金支拂ノ外爲替資金義務者カ支拂人ニ對シテ有スル債權又ハ信用ハ之ヲ爲替資金ニ充ツルコトヲ得
第八百五條 方式ニ依ラサル引受ト雖モ其引受ニ依リテ引受人カ爲替資金義務者ヨリ爲替資金ヲ受取リタリトノ推定ヲ生ス但參加引受ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第八百六條 爲替資金義務者ト所持人トノ間ニ在テハ爲替手形ノ引受ニ依リテ爲替資金ヲ供シタリトノ推定ヲ生セス
第八百七條 爲替手形ノ支拂ヲ爲シタル支拂人ハ爲替資金ノ請求權ヲ爲替ノ原則ニ從ヒテ主張スルコトヲ得
第八百八條 支拂人ニ代ハリテ爲替手形ノ支拂ヲ爲シタル者ハ支拂人又ハ償還義務者ニ對シテ所持人ノ權利ヲ主張スルコトヲ得
第八百九條 振出人及ヒ裏書讓渡人ハ爲替資金ヲ供シタルモ爲替手形ノ引受及ヒ支拂ニ付キ連帶ノ責任ヲ免カルルコトヲ得ス然レトモ其責任ハ別段ノ契約ヲ以テ其契約者間ニ於テノミ之ヲ制限シ又ハ廢止スルコトヲ得
第八百十條 支拂人ハ爲替資金ヲ受取リタルトキハ勿論假令之ヲ受取ラサルモ振出人其他ノ爲替資金義務者ニ對シ爲替手形ノ引受及ヒ支拂ノ義務ヲ明示ニテ負擔シタルトキハ引受若クハ支拂ヲ爲ササルニ因リテ振出人其他ノ爲替資金義務者ニ生セシメタル損害ニ付キ責任ヲ負フ但此損害ニ付テノ請求ハ豫メ之ヲ支拂人ニ通知スルコトヲ要セス
第二節 約束手形
第八百十一條 約束手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 支拂金額但文辭ヲ以テ記ス可シ
第三 受取人ノ氏名又ハ其指圖セラレタル人ニ支拂フ可キ旨
第四 滿期日
第五 約束手形ト引換ニテ支拂ヲ爲ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
第八百十二條 約束手形ハ振出人ノ指圖ニテ之ヲ振出スコトヲ得ス
第八百十三條 約束手形ニ別段ノ支拂地ヲ揭ケサルトキハ振出ノ場所ニ於テ其支拂ヲ爲スコトヲ要ス
第八百十四條 約束手形ノ振出人ハ其振出ニ因リテ滿期日ニ支拂ヲ爲ス義務ヲ負擔ス
振出人ニ對シテ爲替權利ヲ保全スルニハ引受ヲモ支拂ノ爲メノ呈示ヲモ拒證書ノ作成ヲモ要スルコト無シ然レトモ一覽後定期拂ノ約束手形又ハ他所拂人ヲ揭ケタル約束手形ニ在テハ其振出人ニ關シテモ第七百三十五條及ヒ第七百七十八條ノ規定ヲ適用ス
第八百十五條 右ノ外爲替手形ニ關スル規定ハ性質上牴觸セサルモノニ限リ約束手形ニモ之ヲ適用ス
第三節 小切手
第八百十六條 小切手ハ寄託其他ノ方法ニ依リ銀行ニ對シテ繼續スル信用ヲ有スル者カ其銀行ニ依賴シ之ヲシテ記名セラレタル人又ハ指圖セラレタル人若クハ所持人ニ呈示ヲ受ケ次第或ル金額ヲ支拂ハシムル證券タリ
第八百十七條 小切手ニハ年月日ヲ記シ振出人署名、捺印ス可シ又小切手ハ一覽拂トスルニ非サレハ之ヲ振出スコトヲ得ス其他銀行ト明示又ハ默示ニテ約定シタル振出ノ方式ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス
第八百十八條 小切手ハ裏書ヲ以テ之ヲ轉付スルコトヲ得若シ白地ニテ裏書讓渡ヲ爲シタルトキ又ハ無記名式ニテ振出シタルトキハ交付ニ因リテ之ヲ轉付スルコトヲ得
第八百十九條 小切手ハ引受ヲモ拒證書ヲモ要スルコト無シ又小切手ハ日附後三个年ヲ以テ時効ニ罹ル若シ小切手ヲ振出ノ日ヨリ三日內ニ支拂ノ爲メ呈示セス又ハ送付セサルトキハ所持人ハ遲延ノ結果ヲ負擔ス
第八百二十條 呈示ノ上ニテ支拂ヲ受ケサルトキハ日附後十日內ニ所持人ハ裏書讓渡人若クハ振出人ニ對シ裏書讓渡人ハ其前者若クハ振出人ニ對シテ償還請求權ヲ有ス然レトモ振出人ニ對シテハ振出人カ信用ヲ有セス又ハ信用ヲ消盡シ又ハ依賴ヲ取消シタルトキハ右期間ノ滿了後ト雖モ償還請求權ヲ有ス
振出人ハ爭アル場合ニ在テハ其小切手帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ
第八百二十一條 振出人又ハ所持人ハ小切手ニ橫線ヲ附シ其橫線內ニ特ニ銀行ノミニ支拂フ可キ旨ヲ記載スルコトヲ得
第八百二十二條 小切手ハ支拂金ヲ受取ル時受取證ヲ記シテ之ヲ交付スルコトヲ要ス
第八百二十三條 日附ヲ爲サス若クハ虛僞ノ日附ヲ爲シテ小切手ヲ振出シ裏書讓渡シ若クハ之ニ受取證ヲ記スル者又ハ日附ナキ小切手ヲ受取リ支拂ヒ若クハ之ニ受取證ヲ記スル者又ハ相當ノ信用ナクシテ小切手ヲ振出シ若クハ正當ノ理由ナクシテ依賴ヲ取消ス者ハ小切手金額ノ百分ノ十ノ過料ニ處ス若シ刑法上ノ刑ニ處ス可キ行爲アルトキハ併セテ其刑ニ處ス
前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一條第一項ノ規定ヲ適用ス
第二編 海商
第一章 船舶
第八百二十四條 日本人民ノ所有ニ專屬シ又ハ日本ニ主タル營業所ヲ有シ且日本ノ裁判權ニ服從スル會社其他ノ法人ニシテ合名會社ニ在テハ總社員、合資會社ニ在テハ少ナクトモ社員ノ半數、株式會社ニ在テハ取締役ノ總員、其他ノ法人ニ在テハ代表者ノ總員カ日本人民ナルモノノ所有ニ專屬スル商船其他ノ海船ハ日本ノ船舶ニシテ日本ノ國旗ヲ揭クル權利ヲ有ス
第八百二十五條 總テ日本船舶ハ航海ノ用ニ供スル以前ニ法律、命令ニ從ヒ職權アル者ノ測度ヲ受ク可シ若シ其積量十五噸以上ナルトキハ管海官廳ヨリ船籍證書ヲ受ケタル後船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ於テ船舶登記簿ニ登記ヲ受ク可シ
端舟其他㯭櫂ノミヲ以テ運轉シ又ハ主トシテ㯭櫂ヲ以テ運轉スル舟ニハ本編ノ規定ヲ適用セス
第八百二十六條 船舶登記簿ニハ左ノ諸件ヲ登記シ且年月日ヲ記ス可シ
第一 船名及ヒ船籍港
第二 船舶構造ノ時及ヒ地ノ知レタルトキハ其時及ヒ地又船舶カ日本ノ船籍ニ歸シタルトキハ其時及ヒ事情
第三 官ノ測度證書ニ基キタル船舶ノ種類、大小、積量及ヒ詳細ナル記載
第四 船長ノ氏名及ヒ國籍
第五 一人又ハ數人ノ所有者ノ氏名、住所及ヒ詳細ナル記載又船舶ノ所有權ニ付キ所有者ノ股分ノ割合及ヒ所有權取得ノ合法ノ原因
第八百二十七條 登記ハ一人若クハ數人ノ所有者又ハ委任狀ヲ有スル代人ノ陳述書ニ依リテ之ヲ爲ス其陳述書ニハ必要ナル證明書ヲ添フルコトヲ要ス
登記ヲ爲シタルトキハ其登記ト同文ノ船舶登記證書ヲ作リテ之ヲ所有者ニ交付ス
第八百二十八條 船籍證書及ヒ船舶登記證書ノ交付前ニハ國旗ヲ揭クル權利ヲ行フコトヲ得ス
船舶カ沈沒シ又ハ日本ノ船舶タル資格ヲ失ヒタルトキハ其船舶ノ登記ノ取消ヲ爲シ且船舶登記證書ヲ還納ス可シ
第八百二十九條 登記シタル事實ニ變更ノ生スルトキハ船舶登記簿及ヒ船舶登記證書ニ其變更ノ附記ヲ受ク可シ
登記シタル船名ハ管海官廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ變更スルコトヲ得ス
第八百三十條 船籍港外ニ於テ日本人民、會社其他ノ法人カ船舶ヲ取得シタルトキハ其船籍港ニ到著スルマテハ外國ニ在テハ其取得ノ地若クハ其近傍ニ駐在スル日本領事、內國ニ在テハ地方官廳ヨリ假證書ヲ受ケ之ヲ船籍證書及ヒ船舶登記證書ニ代フルコトヲ得此場合ニ於テハ領事又ハ地方官廳ハ其證書ノ謄本ヲ管海官廳及ヒ船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ遲延ナク送付スルコトヲ要ス
前項ノ證書ノ効用ハ領事ヨリ交付シタルモノハ一个年、地方官廳ヨリ交付シタルモノハ半个年ヲ以テ限トス
第八百三十一條 船籍證書又ハ船舶登記證書ノ喪失シ毀損シ又ハ用ユ可カラサルモノト爲リタルトキハ之ニ換ヘテ新ナル船籍證書、船舶登記證書若クハ前條ノ假證書ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第八百三十二條 船舶カ國旗ヲ揭クル權利ヲ有セスシテ之ヲ揭クルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス又事情ニ從ヒ殊ニ不正ノ船籍證書又ハ船舶登記證書ヲ用井タルトキハ其船舶ヲ沒收ス
日本ノ船舶カ外國ノ國旗ヲ揭ケテ外國ノ國籍ヲ冒シタルトキハ前項同一ノ罰ニ處ス但敵ヲ避クル場合ハ此限ニ在ラス
第八百三十三條 日本ノ船舶カ船籍證書及ヒ船舶登記證書ノ交付前ニ國旗ヲ揭ケ其他本章ノ規定ニ違フトキハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第二章 船舶所有者
第一節 船舶所有權ノ取得及ヒ移轉
第八百三十四條 商船其他ノ海船ハ之ヲ動產トス但本法ニ例外ヲ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
第八百三十五條 船舶構造ノ契約及ヒ賣買其他ノ權利行爲ニ因リテ船舶ノ全部若クハ股分ヲ取得スル契約ハ特ニ作レル契約證書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ取結フコトヲ得ス
相續、結婚其他此類ノ事由ニ因レル船舶所有權ノ移轉ハ公正ノ證書ヲ以テ之ヲ證スルコトヲ要ス
第八百三十六條 船舶ハ其所有者タラサル者ニ在テハ所有者ノ明示ノ委任ニ依ルニ非サレハ有効ニ之ヲ賣却スルコトヲ得ス然レトモ船長ニ在テハ明示ノ委任ヲ受ケサルモ避ク可カラサル必要アリテ官ノ證認ヲ經タル場合ニ於テハ特ニ競賣ヲ以テ有効ニ之ヲ賣却スルコトヲ得
第八百三十七條 船舶ノ取得時効ノ期間ハ二十个年トス但船長ハ時効ニ因リテ船舶ヲ取得スルコトヲ得ス
第八百三十八條 船舶ノ所有權ハ別段ノ契約アルニ非サレハ航海ノ爲メニスル總テノ艤裝物殊ニ桅檣、帆具、綱具、機關、碇錨、船用器具、端舟、貯蓄品及ヒ糧食ノ所有權ヲ包含ス但船長又ハ海員ノ一身ニ屬スル所有物ハ此限ニ在ラス
第八百三十九條 航海中ニ船舶ヲ讓渡シタルトキハ其航海ヨリ生スル利益及ヒ損失ハ別段ノ契約アルニ非サレハ取得者ニ移ル
第八百四十條 任意ニ爲ス船舶ノ賣却ハ船舶債權者ノ債權ニ對シテ船舶ノ負擔スル責任又ハ其賣買價額ノ負擔スル責任及ヒ讓渡人ノ一身上ノ義務ニ變更ヲ生スルコト無シ强制賣却又ハ必要賣却ノ場合ニ在テハ船舶ノ負擔スル責任ハ當然賣買價額ニ移ル
第二節 船舶所有者ノ權利及ヒ義務
第八百四十一條 船舶ノ所有權カ二人以上ノ股分所有者ニ屬スルトキハ航海ニ關スル一切ノ業務ニ付キ其代理トシテ船舶管理人ヲ置クコトヲ要ス
第八百四十二條 所有者ハ船長及ヒ海員ノ職務施行ニ關スル行爲ニ付テハ船舶及ヒ運送賃ヲ以テ責任ヲ負フ若シ船長カ同時ニ所有者ナルトキハ船長ハ無限ノ責任ヲ負フ然レトモ股分所有者ナルトキハ過失ノ爲メ自己ニ不分ノ責任ノ歸セサルトキニ限リ其股分ノ割合ニ應シテ責任ヲ負ヒ尙ホ不足アルトキハ其不足額ニ對シテ無限ノ責任ヲ負フ
第八百四十三條 所有者ハ船長ヲ任シ又隨意ニ之ヲ免スルコトヲ得又書面ノ契約アルニ非サレハ船長ニ對シテ損害賠償ノ責ニ任セス
第八百四十四條 船長カ同時ニ股分所有者ナル場合ニ在テ其意ニ反シ罷免セラレタルトキハ自己ニ屬スル股分ノ價額ノ支拂ヲ求ムルコトヲ得但其價額ハ鑑定人ノ鑑定ニ從フ
第八百四十五條 二人以上ノ股分所有者ノ間ニ在テハ船舶ニ關スル總テノ事件ハ議決權ノ過半數ヲ以テ決定ス其過半數ハ各所有者ノ股分額ニ從ヒテ之ヲ算ス
過半數ノ決議ヲ得ルニ至ラサルトキハ議決權ノ半數ノ決議ヲ以テ船舶ノ競賣ヲ求ムルコトヲ得
或ル股分所有者カ必要ナル新支出ニ同意セサルトキハ其所有者ハ自己ノ股分ヲ他ノ股分所有者ニ委付シテ賦課金ノ義務ヲ免カルルコトヲ得但股分額カ賦課金ヲ超ユルトキハ其超過額ノ支拂ヲ受クルコトヲ得
第八百四十六條 各船舶所有者ハ總テノ費用及ヒ損失ヲ扣除シタル後ニ非サレハ航海ニ因リテ生スル利益ヲ請求スル權利ナシ
第八百四十七條 股分所有者ハ他ノ股分所有者又ハ船舶管理人ノ承諾ヲ受ケスシテ何時ニテモ自己ノ股分ヲ自由ニ讓渡スコトヲ得
第八百四十八條 船舶股分ノ所有權ノ移轉ニ因リテ船舶カ其國籍ヲ失フ可キトキハ他ノ股分所有者ハ右ノ股分ヲ自己ノ計算ニ引受ケ又ハ其股分ヲ所有スル資格アル者ニ競賣センコトヲ求ムル權利アリ但自己ノ計算ニ引受クル場合ニ在テ已ムヲ得サルトキハ裁判上ノ手續ヲ以テ其股分ノ價額ヲ定ム
會社社員ノ變更ニ因リ船舶カ其國籍ヲ失フ可キトキハ會社ハ其社員ノ持分ヲ之ヲ所有スル資格アル者ニ競賣センコトヲ求ムル權利アリ
第三章 船舶債權者
第八百四十九條 船舶ハ第三者ノ占有ニ在ルトキト雖モ其附屬物及ヒ未收ノ運送賃ト共ニ左ニ揭クル債權ノ爲メ以下ノ順序ニ從ヒテ責任ヲ負フ
第一 船舶ノ强制賣却及ヒ其賣却金ノ分配ニ係ル裁判上其他ノ費用、强制賣却ノ開始以來船舶及ヒ附屬物ノ監守竝ニ保全ノ費用
第二 船舶航海ノ諸稅卽チ港稅、噸稅、燈臺稅其他ノ稅
第三 入港以來船舶及ヒ附屬物ノ保全ノ費用、水先案內料及ヒ挽船料
第四 最後ノ航海中ノ共同海損及ヒ救援、救撈其他救助ニ付テノ費用
第五 最後ノ雇入契約期間中其契約ヨリ生スル船長及ヒ海員ノ債權
第六 最後ノ航海中船舶ノ需用ノ爲メ船長ノ爲シタル借入ニ付テノ債權及ヒ同一ノ目的ノ爲メ船長ノ賣却シタル積荷、船長ニ渡シタル物若クハ給シタル勞役ニ付テノ求償權
第七 未タ航海ヲ爲ササル船舶ノ賣却、構造又ハ艤裝ヨリ生スル債權竝ニ勞役賃及ヒ最後ノ航海ノ爲メニスル修繕、艤裝又ハ糧食準備ヨリ生スル債權但出港セサル前ニ限ル
第八 船舶ノ構造又ハ艤裝ノ爲メノ消費貸ヨリ生スル債權及ヒ船舶カ未タ引渡サレサル間ハ自己ノ計算ニテ構造セシムル者ノ爲シタル代價割拂ニ付テノ債權
第九 最後ノ航海又ハ最後ノ保險料支拂期間ニ係ル船舶及ヒ附屬物ノ保險料ニ付テノ債權
第十 船長又ハ海員ノ過失ニ因リテ積荷若クハ旅客ノ旅荷物ヲ引渡サス又ハ之ニ損害ヲ加ヘタルヨリ生スル債權
第十一 船舶ノ衝突其他船長又ハ海員ノ過失ノ場合ニ於ケル損害賠償ニ付テノ債權
第十二 船舶登記簿ニ登記シタル債權但其登記ノ日附ノ順序ニ從フ
第十三 右ノ外船舶ノ所有者又ハ賣却者ニ對スル總テノ債權
同一號內ニ於ケル二人以上ノ債權者ハ同一ノ割合ヲ以テ辨償ヲ受ク但第十二號ノ場合ハ此限ニ在ラス
第八百五十條 運送賃ノ負擔スル責任ハ最後ノ航海ノ運送賃ヲ以テ限トシ一航海ノ爲メ又ハ一航海中ニ生シタル債權ニ對シテハ其航海ノ運送賃ヲ以テ限トス
第八百五十一條 登記セサル債權ニ付キ船舶又ハ運送賃ノ負擔スル責任ハ任意ノ讓渡ノ場合ニ在テハ船舶カ讓渡人ノ債權者ノ異議ヲ受クルコト無ク取得者ノ名義及ヒ計算ニテ船籍港ヨリ新ニ航海ヲ爲シ且其發航以來少ナクトモ六十日ヲ經過シタル後消滅ス
第八百五十二條 船舶ニ對スル債權ノ登記ハ第八百五十七條ノ場合ヲ除ク外ハ登記ヲ受ケタル船舶ニシテ特ニ作レル抵當證書ニ依ルニ非サレハ之ヲ許サス
右ノ登記ハ其日附ヨリ起算シテ三个年間其効ヲ有ス若シ此期間滿了前ニ之ヲ更新セサルトキハ其効ヲ失フ
第八百五十三條 登記ハ船舶登記簿ニ之ヲ爲ス又其登記ニハ左ノ諸件ヲ包含スルコトヲ要ス
第一 債權者及ヒ債務者ノ氏名、住所
第二 債權ノ額及ヒ其合法ノ原因
第三 抵當證書ノ年月日
第四 登記ノ時日
第八百五十四條 登記ヲ爲シタルトキハ登記證書ヲ交付ス若シ其以前ニ登記シタル債權アルトキハ其債權ヲモ併記ス可シ此證書ハ裏書ヲ以テ之ヲ讓渡スコトヲ得其裏書讓渡ハ船舶登記簿ニ登記ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ對シテ其効ヲ有セス
第八百五十五條 登記シタル債權ハ債權者ノ書面上ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リテ消滅ス此場合ニ於テハ登記證書ヲ裁判所ニ還納シ裁判所ハ其證書ニ債權消滅ノ旨ヲ記ス可シ
第八百五十六條 船舶債權者ハ其債權ノ證據完全ナルトキニ限リ裁判所ノ命令ニ依リテ船舶ノ競賣ヲ爲スコトヲ得但法律上ノ優先權ハ此カ爲メニ妨ケラルルコト無シ
船舶ノ股分ニ付テノミ債權ヲ登記シ又ハ股分所有者ニ對シテノミ之ヲ主張スルトキハ其債權ニ關スル股分ノミノ競賣ヲ爲スコトヲ得但其股分ノ額カ船舶全部ノ額ノ半ヲ超ユルトキハ此限ニ在ラス
第八百五十七條 船舶債權者ノ權利ハ構造中ノ船舶ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得
構造中ノ船舶ノ登記ハ其登記ヲ受クルニ至ルマテハ將來船籍ヲ定ム可キ地ノ裁判所ニ相當ノ明吿ヲ爲スヲ以テ之ニ代フ
第八百五十八條 船舶カ沈沒シ又ハ航海ノ用ニ耐ヘサルニ至ルトキハ船舶債權者ノ權利ハ救助セラレタル部分若クハ尙ホ存在スル部分又ハ其賣得金及ヒ被保險額ニ移ル
船舶債權者ノ債權ハ其債權者ヨリ獨立シテ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得
第八百五十九條 船舶ハ發航ノ準備ヲ終リタル時ヨリシテ債務ノ爲メニ差押ヘラルルコト無ク又其乘組員ハ引留メラルルコト無シ但其爲サントスル航海ノ爲メニ負ヒタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス
第四章 船長及ヒ海員
第一節 船長
第八百六十條 船長其他ノ船舶指揮者ハ其職務ノ執行ニ當リ些少ナル過失ニ付テモ責任ヲ負ヒ殊ニ積荷ニ付キ及ヒ旅客ノ安全竝ニ其旅荷物ニ付キ責任ヲ負フ
第八百六十一條 船長ハ或人ノ指圖ヲ受ケテ爲シタル行爲ニ付テハ其人カ其情況ヲ知リタルトキニ限リ其人ニ對シテ責任ヲ免カル
船長カ其特別ナル職務上ノ義務ニ背反スルトキハ不可抗力又ハ意外ノ情況ニ因リテ惹起シタルニ非サル災害ニ付キ責任ヲ負フ
第八百六十二條 船長ハ航海ノ際船舶ノ航海ニ耐フルコト船舶ノ艤裝、海員ノ具備、糧食ノ準備竝ニ積荷ノ配置ノ適當ナルコト必要ノ底荷ヲ具備スルコト過分ノ積荷ヲ爲ササルコト及ヒ過分ノ旅客ヲ載セサルコトニ付キ注意ヲ爲ス可シ
第八百六十三條 船長ハ海員ヲ選擇シテ雇入レ乘組員ヲ編成シ船舶ヲ修繕シ艤裝シ及ヒ運送契約ヲ取結フ權利ヲ有ス然レトモ此等ノ事項ニ關シテハ船舶所有者又ハ其代人ノ指圖ニ從フコトヲ要ス
第八百六十四條 船長ハ航海ノ際船籍證書、船舶登記證書、航海日誌、海員名簿、稅關ノ納稅受取證書、運送契約竝ニ積荷ニ關スル書類及ヒ旅客名簿ヲ船中ニ備フ可シ
第八百六十五條 航海日誌ハ船長ノ監督ヲ受ケテ一等役員之ヲ掌リ船舶、海員、旅客及ヒ積荷ニ關スル總テノ情況竝ニ事故殊ニ左ノ諸件ヲ日日之ニ記載ス
第一 船舶ノ發航地、立寄地、通航地ノ名
第二 風候、天氣及ヒ潮流
第三 進航シタル線路及ヒ經過シタル距離
第四 測知シタル經度及ヒ緯度
其他時宜ニ因リテ左ノ諸件ヲモ記載ス
第一 海水ノ深度、溫度及ヒ漏水ノ度
第二 水先人又ハ挽船ノ雇入
第三 船舶會議ノ決議
第四 海員ノ變更
第五 總テノ災害、特別ノ事故竝ニ船舶內ノ犯罪及ヒ懲戒處分
第八百六十六條 船長ハ航海ノ始ヨリ終ニ至ルマテ自ラ船中ニ在リ且其委任ヲ受ケタル航海ヲ遲延ナク又迂路ヲ取ラスシテ爲スコトヲ要ス
第八百六十七條 船長ハ到達地ニ到著ノ後二十四時內ニ其地ノ管海官廳ニ出頭シテ檢閱證ヲ受クル爲メ航海日誌ヲ差出シ同時ニ報吿ヲ爲スコトヲ要ス其報吿ニハ船名、噸數、積荷、發航ノ地及ヒ時、經過シタル線路、風候、天氣及ヒ潮流若シ死亡其他ノ災害若クハ船舶ノ現狀ニ變更アルトキハ其事由及ヒ航海中ニ生シタル著シキ事故ヲ包含ス
此報吿ヲ爲ス前ニハ荷卸ヲ爲スコトヲ得ス但急迫ナル場合ハ此限ニ在ラス
沿岸航海ニ付テハ本條ノ規定ヲ適用セス
第八百六十八條 航海中ニ避難港ニ入ルコトノ必要ト爲リテ入港シタルトキハ船長ハ遲延ナク其港ノ管海官廳ニ出頭シ入港ノ事由及ヒ情況ニ付テノ報吿ヲ爲シテ筆記ヲ受クルコトヲ要ス其筆記ハ公文ト爲シテ船舶所有者ニ又求ニ因リテ其他ノ利害關係者ニ其者ノ費用ニテ之ヲ交付ス
第八百六十九條 船長ハ航海中ニ危險ノ生シタルトキハ役員其他重立タル海員ト評議ヲ爲シタル場合ノ外ハ如何ナル事情アルモ船舶ヲ放棄スルコトヲ得ス其船舶ヲ放棄スル場合ニ於テハ船長ハ最後ニ去ル可ク且成ル可ク人命、書類、貨物及ヒ船舶ヲ救助スル責任ヲ負フ
第八百七十條 破船其他船舶放棄ノ場合ニ在テハ船長ハ遲延ナク最近ノ管海官廳ニ出頭シテ其事由及ヒ情況ヲ報吿ス可シ其官廳ハ報吿ヲ認定シ若クハ補充スル爲メ海員及ヒ旅客ヲ訊問シ其他必要ナル調査ヲ爲スコトヲ得
第八百七十一條 船長ハ航海中必要ナル場合ニ在テハ役員ト評議ヲ爲シタル後船舶ニ存在スル總テノ食料ノ何人ニ屬スルヲ問ハス乘込人ノ需用ノ爲メニ之ヲ處分スルコトヲ得但其價額ヲ賠償スルコトヲ要ス
第八百七十二條 船長ハ航海中船舶ノ修繕其他必要ナル需用ノ爲メ他ニ其費用支辨ノ途ナキ場合ニ於テ船舶所有者若クハ其代人ノ現在セサルトキハ豫メ役員ト評議ヲ爲シ且管海官廳ノ認可ヲ得タル後船舶ヲ抵當ト爲シ又ハ積荷ノ全部若クハ一分ヲ質入シ若クハ賣却スルコトヲ得其積荷ヲ質入シ若クハ賣却シタルトキハ積荷所有者ハ其荷卸ノ地及ヒ時ニ於ケル代價ニ應シテ損害賠償ヲ求ムル權利アリ
第八百七十三條 船長ハ航海ヲ始ムル際及ヒ終リタル後又求アルトキハ何時ニテモ船舶所有者ニ報吿ヲ爲シ及ヒ計算ヲ爲スコトヲ要ス
第八百七十四條 船長及ヒ海員ハ船舶所有者ノ承諾ナクシテ自己ノ計算ニテ貨物ヲ船舶ニ積入ルルコトヲ得ス之ニ違フトキハ船舶所有者ハ運送賃ト貨物ヨリ生シタル利益トヲ自己ノ有ニ歸スルコトヲ得
第二節 海員
第八百七十五條 海員ノ雇入又ハ雇止ヲ爲シタルトキハ其地ノ管海官廳ニ於テ海員名簿ニ登記シ若クハ其登記ヲ削除ス可シ
第八百七十六條 海員雇入ノ條件ハ海員名簿ノ旨趣、別段ノ契約又ハ商慣習ニ因リテ定マル
海員ハ非常ノ服務ノ爲メ特別ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
第八百七十七條 十分ナル理由ナクシテ雇止セラレタル海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料ノ外尙ホ其雇止ノ爲メニ失ヒタル給料ノ半額ヲ損害賠償トシテ受クル權利アリ然レトモ其額ハ一个月ノ給料ヲ超ユルコトヲ得ス
禁令其他國ノ處分ニ因リテ航海ヲ廢止シ停止シ又ハ短縮シタルハ之ヲ雇止ノ十分ナル理由ト看做ス
第八百七十八條 航海中十分ナル理由ナクシテ雇止セラレタル海員ハ發航シタル港マテノ無賃送還ヲ請求スル權利アリ
船長カ其海員ヲシテ發航シタル港ニ航行スル船舶ニ於テ相當ノ職務ニ就カシメタルトキハ右ノ請求ニ應シタルモノトス
第八百七十九條 定マリタル航海ノ爲メニスル雇入ノ場合ニ在テハ海員ハ其航海ノ延長シタルトキハ割合ニ應シテ增給ヲ受クル權利アリ
第八百八十條 船舶カ航海ヲ終ラサル前ニ沈沒シタルトキハ海員ハ給料ノ請求權ヲ失フ但海員ノ勞動ニ因リテ救助シタル船舶若クハ積荷ノ部分ニ付テハ此限ニ在ラス
船舶カ掠奪セラレ又ハ修繕ノ効ナキモノト爲リタル場合ニ於テハ海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料及ヒ發航シタル港マテノ無賃送還ヲ請求スルコトヲ得
第八百七十八條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス
第八百八十一條 給料ノ請求權ハ海員カ船舶又ハ積荷ノ碎殘物ノ救撈ニ從事シタル日數ニ付テモ成立ス
第八百八十二條 就役ノ後疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ被フリタル海員ハ三个月ヲ超エサル期間看護及ヒ治療ヲ請求スル權利アリ但自己ノ過失ニ因リテ疾病又ハ傷痍ヲ惹起シタルトキハ此限ニ在ラス
第八百八十三條 海員カ就役ノ後死亡シタルトキハ其死亡ノ日マテノ給料ハ其相續人ニ歸シ又船舶ノ防禦ノ際死亡シタルトキハ全航海ニ付テノ給料全額カ其相續人ニ歸ス
海上又ハ外國ニ於テ爲ス葬式ノ費用ハ船舶所有者之ヲ負擔ス
第八百八十四條 海員ハ就役ノ後ハ船長又ハ其代人ノ許可ヲ受クルニ非サレハ船舶ヲ離ルルコトヲ得ス
海員遁走シタルトキハ地方官廳ニ依賴シ强制シテ復役セシムルコトヲ得復役セシムルコトヲ得サル場合ニ在テハ其海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料及ヒ其遺留物ヲ請求スル權利ヲ失フ
第八百八十五條 本節ノ規定ハ船長ニモ之ヲ適用ス但別段ノ規定アルトキ又ハ性質上當然反對ノ生スルトキハ此限ニ在ラス
第八百八十六條 海員ノ義務背反殊ニ不從順及ヒ抵抗ハ船長懲戒權ヲ以テ之ヲ制止ス
第五章 運送契約
第一節 船舶賃貸借契約
第八百八十七條 航海ノ爲メニ船舶ノ全部若クハ一分ヲ賃貸借スル契約ハ書面ニ作リテ當事者各自ニ其一通ヲ所持スルコトヲ要ス
賃貸人ハ航海前又ハ航海中已ムヲ得サル場合ニ於テハ賃借人ノ不利ト爲ラサルトキニ限リ契約書ニ記シタル船舶ヨリ他ノ船舶ニ自費ヲ以テ運送品ヲ積換フルコトヲ得
第八百八十八條 繫船場、碇泊期間、超過碇泊期間ト超過碇泊ニ付テノ損害賠償トハ別段ノ契約アルニ非サレハ其地ノ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
第八百八十九條 碇泊期間及ヒ超過碇泊期間ノ計算ニハ一般ノ休日及ヒ風雨其他天然若クハ法律上ノ妨礙ニ因リテ荷積又ハ荷卸ヲ妨ケラレタル日ヲ算入セス
第八百九十條 月又ハ其他ノ時限ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其時限ハ別段ノ契約アルニ非サレハ航海ヲ始ムル日ヨリ之ヲ起算ス
第八百九十一條 航海ヲ始ムル前ニ到達地トノ貿易及ヒ交通ノ禁止セラレタルトキハ契約ハ解除シタルモノトス但此カ爲メニ當事者ノ中孰レニモ損害賠償ヲ求ムル權利ヲ生スルコト無シ
航海中ニ右ノ禁止ニ因リテ船舶カ歸航セサルヲ得サルトキハ往返航海ノ爲メニ賃借シタルトキト雖モ往路ノ運送賃ニ限リ支拂フコトヲ要ス
右二箇ノ場合ニ於テハ荷積及ヒ荷卸ノ費用ハ賃借人ノ負擔トス
第八百九十二條 到達港カ封港又ハ其他ノ處分ニ因リテ閉鎖セラレタルトキハ船長ハ別段ノ指圖ヲ受ケサルカ又ハ受ケタル指圖ヲ實行スル能ハサルニ於テハ賃借人ノ利益ヲ謀リ最近ノ港ニ入航スルカ又ハ發航ノ港ニ歸航スルコトヲ要ス
第八百九十三條 不可抗力ニ因リテ航海ノ起始又ハ繼續カ一時妨ケラレタルトキハ契納ハ仍ホ効力ヲ有シ當事者ノ孰レニモ損害賠償ヲ求ムル權利ヲ生スルコト無シ然レトモ賃借人ハ自費ヲ以テ積荷ヲ處分スル權利ヲ有ス
第八百九十四條 荷積ヲ始ムル前ニ在テハ賃借人ハ運送賃ノ半額ヲ支拂ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得若シ碇泊期間ニ一モ積荷ヲ引渡ササルトキハ契約解除ト看做サレ又運送賃ノ半額ヲ支拂フコトヲ要ス
第八百九十五條 賃借人ハ其過失ニ因リテ積荷ヲ沒收セラレ又ハ差押ヘラレタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支拂ヒ且此カ爲メニ生シタル損害ヲ賠償スル義務アリ
第八百九十六條 船長ハ賃借人カ約定シタル積荷ノ全部ヲ積込マサルトキト雖モ契約ヲ解除セサルニ於テハ航海ヲ爲ス權利ヲ有シ義務ヲ負フ此場合ニ於テ運送賃ノ全額ニ對スル擔保ヲ缺クトキハ更ニ其擔保ヲ求メ又積荷ノ不十分ナル爲メニ損害ヲ生シタルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
第八百九十七條 他ノ運送品ニ付キ得タル收入及ヒ航海ヲ止メタルニ因リテ減シタル費用ハ運送賃ヨリ之ヲ扣除スルコトヲ得ス但第九百五條第二項ノ場合ハ此限ニ在ラス
第八百九十八條 船舶賃貸借契約ニ關スル原則ハ貨物運送ノ外ナル目的ヲ以テ航海スル爲メノ船舶賃貸借契約ニモ之ヲ適用ス
第二節 船荷證書
第八百九十九條 船荷證書ハ船長カ運送ノ爲メニ受取リタル運送品ニ對シテ發ス可キ受取證券ニシテ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 船名及ヒ國籍
第二 船長ノ氏名
第三 船舶賃借人ノ氏名及ヒ積荷受取人ノ指示
第四 荷積港及ヒ到達港
第五 貨物ノ種類、數量及ヒ各箇運送品ノ員數、記號、番號、外包ノ方法
第六 運送賃ニ付テノ約定
第七 年月日
第八 交付シタル船荷證書ノ數
船荷證書ハ求ニ應シ幾通ニテモ之ヲ交付ス可シ其中ノ一通ニハ船長ノ手許ニ備置ク爲メ賃借人署名、捺印シ他ノ各通ニハ船長署名、捺印スルコトヲ要ス
船荷證書ハ或人ニ宛テ又ハ指圖式若クハ無記名式ニテ之ヲ發スルコトヲ得
第九百條 船荷證書ハ荷積ヲ終リタル後二十四時內ニ之ヲ發スルコトヲ要ス
積込ミタル貨物ニ付テノ關稅受取證書及ヒ關稅明細書ハ右同一ノ期間ニ賃借人之ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
第九百一條 規定ニ從ヒテ發シタル船荷證書ノ旨趣ハ當事者相互ノ間及ヒ當事者ト保險者トノ間ニ於テ完全ナル證據ト爲ルモノトス然レトモ反對ノ證據ハ之ヲ擧クルコトヲ得
船長ハ外包ノ儘ニ又ハ閉蓋シタル容器ノ儘ニ受取リタル運送品ノ種類及ヒ數量ニ付テハ明約アルニ非サレハ責任ヲ負フコト無シ但運送品ヲ受取人ニ引渡ス時ニ於テ其外部ニ毀損アルトキハ此限ニ在ラス
喪失又ハ毀損ニ付テノ責任ハ第四百九十三條ニ揭ケタル情況ニ因ル外尙ホ火災、盜難其他過失ニ出テサル事故ニ因リテ消滅ス
過失ニ付テノ責任ハ契約ヲ以テモ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百二條 船長ハ到達港ニ於テ運送賃、附帶費用、海損竝ニ立替金ノ辨償及ヒ受取證書ヲ受ケテ船荷證書所持人ニ運送品ヲ引渡ス義務アリ若シ二人以上ノ船荷證書所持人カ申出ヲ爲ストキハ運送品ヲ公ノ倉庫ニ寄託シ又ハ裁判所ノ命令ニ依リテ之ヲ他人ニ寄託スルコトヲ要ス
第三節 運送賃
第九百三條 運送賃ノ額ハ契約又ハ時價ニ依リテ之ヲ定ム其契約上ノ額ハ船舶賃貸借契約書又ハ船荷證書ヲ以テ之ヲ證明スルコトヲ要ス
單獨海損及ヒ附帶費用ハ契約又ハ商慣習ニ依リテノミ之ヲ計算スルコトヲ得
第九百四條 船長ハ現實ノ積量ニ超エタル積量ヲ明吿シタルトキハ此ニ因リテ賃借人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル義務ヲ負ヒ且割合ニ應シテ運送賃ヲ減ス可キモノトス但其明吿カ官ノ測度證書ト符合シ又ハ錯誤ヨリ出テタル差カ四十分ノ一ヨリ多カラサルトキハ此限ニ在ラス
第九百五條 船舶賃借ノ場合ニ於テハ賃借人ハ積荷ノ全部ヲ引渡ササルトキト雖モ運送賃ノ全額ヲ支拂フ義務アリ又餘分ノ積荷ニ付テハ割合ニ應シテ運送賃ノ增額ヲ支拂フコトヲ要ス
船長ハ賃借人ノ承諾ヲ得テ他ノ運送品ヲ以テ積荷ノ不足ヲ補充スルコトヲ得其補充ヨリ生スル運送賃ハ賃借人ニ歸ス
第九百六條 各箇ノ積荷ハ航海ヲ始ムル前ニ在テハ賃借人運送賃ノ半額ト取戾ニ因リテ生スル費用トヲ支拂ヒテ之ヲ取戾スコトヲ得航海ヲ始メタル後ニ在テハ運送賃ノ全額ト取戾ニ因リテ生スル費用トヲ支拂フコトヲ要ス但其取戾カ船長ノ過失ニ因ルトキハ第九百八條ノ規定ニ從フ
第九百七條 船長ノ承諾ヲ得ス又ハ虛僞ノ明吿ヲ爲シテ船舶ニ積込ミタル運送品ハ船長之ヲ陸揚シ又ハ之ニ最高ノ運送賃ヲ付スルコトヲ得又其運送品カ船舶若クハ他ノ物ヲ危險ナラシムルトキハ之ヲ海中ニ投スルコトヲ得
第九百八條 船舶カ航海ノ用ニ耐ヘサルトキ又ハ契約ニ揭ケタル國籍ヲ有セス若クハ之ヲ失ヒタルトキハ賃借人ハ契約ヲ解除スルコトヲ得又船長ハ運送賃ノ請求權ヲ失ヒ且賃借人ニ被フラシメタル總テノ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九百九條 船舶カ航海中ニ生シタル破損ノ爲メ修繕ヲ要スルトキハ賃借人ハ運送賃ノ全額ヲ支拂ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
若シ船舶ヲ相當ノ期間ニ修繕スルコトヲ得サルトキハ賃借人ハ船長カ他ノ船舶ヲ以テ之ニ換ヘサルトキニ限リ其地マテノ運送賃ヲ支拂ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第九百十條 第八百九十三條ノ場合ニ於テハ滯泊ノ費用ハ共同海損ノ原則ニ從ヒテ之ヲ定ム
第九百十一條 航海前、航海中又ハ到達港ニ於テ賃借人又ハ船長ノ惹起シタル遲延ノ費用ハ其遲延ヲ惹起シタル者之ヲ負擔シ且此ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九百十二條 賃借人ノ過失、物ノ性質又ハ事變ニ因リテ喪失シタル運送品、第八百七十二條ニ從ヒテ賣却シタル運送品又ハ共同ノ危險ヲ救フ爲メニ海中ニ投シタル運送品ニ付テハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要ス然レトモ海中ニ投シタル場合ニ於テハ其運送賃ハ共擔辨濟ノ義務ヲ負擔ス
第九百十三條 船舶ノ難破、坐礁、膠沙又ハ掠奪ニ因リテ失ヒタル運送品ニ付テハ運送賃ヲ支拂フコトヲ要セス且別段ノ契約アルニ非サレハ豫メ支拂ヒタル運送賃ハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
救助セラレ又ハ贖戾サレタル運送品ニ付テハ之ヲ到達港ニ運送セサルトキハ船舶ノ難破、坐礁、膠沙又ハ掠奪ノ地ニ至ルマテノ運送賃ヲ支拂フコトヲ要ス
第九百十四條 積荷受取人ヨリ運送賃ヲ受取ルコトヲ得ス又運送品ヲ賣却スルモ仍ホ之ヲ得ルコト能ハサルトキハ賃借人ハ其運送賃ニ付キ責任ヲ負フ
第九百十五條 船長ハ運送品ヲ引渡シタル後十四日間ハ所有者ノ破產シタルトキト雖モ運送賃其他ノ債權ノ爲メ運送品ニ付キ優先權ヲ有ス但其貨物ノ占有カ第三者ニ移リタルトキハ此限ニ在ラス
第九百十六條 運送賃ノ減額ハ運送品ノ喪失、情況ノ變更又ハ其他ノ事由ノ爲メニ之ヲ求ムルコトヲ得ス
第九百十七條 運送品ノ價額ノ損失ニ付キ船長其責任ヲ負ヒタルトキハ運送品ヲ船長ニ委付シテ運送賃ニ換フルコトヲ得
第四節 旅客運送
第九百十八條 旅客運送契約ニ旅客ノ氏名ヲ揭ケタルトキハ旅客ハ船長ノ承諾ナクシテ航海ノ權利ヲ他人ニ轉付スルコトヲ得ス
第九百十九條 旅客ハ船中ノ秩序ニ係ル船長ノ指圖ニ服從スル義務アリ
第九百二十條 航海中旅客ノ賄ハ反對ノ契約又ハ慣習アルニ非サレハ運送賃ニ包含スルモノトス若シ反對ノ契約又ハ慣習アル場合ニ於テ旅客カ食物ノ缺乏ヲ吿クルトキハ船長ハ相當ノ代價ニテ之ヲ給スル義務アリ
第九百二十一條 旅客カ乘船地又ハ航海中ニ於テ定時ニ乘船セサルトキハ船長ハ之ヲ待ツ義務ナク旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支拂フ義務アリ
第九百二十二條 發航前ニ航海ヲ廢止スル場合ニ於テハ左ノ規定ニ從フ
第一 旅客ハ解約ノ申込ヲ爲シテ航海ヲ止メタルトキハ運送賃ノ半額ヲ支拂フコトヲ要ス
第二 旅客カ死亡、疾病其他一身ニ係ル已ムヲ得サル事故若クハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ運送賃ノ四分一ヲ支拂フコトヲ要ス然レトモ旅客ハ尙ホ次囘ニ發航スル船舶ヲ以テ航海スルヲ擇フコトヲ得但同一ノ定常航路ニ由ルトキニ限ル
第三 船長ノ過失ニ因リテ航海ヲ廢止シタルトキハ旅客ハ既ニ支拂ヒタル運送賃ヲ取戾ス外尙ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四 船舶ニ係ル已ムヲ得サル事故又ハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ雙方ニ損害賠償ノ責ヲ生スルコト無クシテ契約ハ當然廢棄ニ歸ス但既ニ支拂ヒタル運送賃ハ別段ノ契約ナキトキハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
第九百二十三條 發航後ニ航海ヲ廢止スル場合ニ於テハ左ノ規定ニ從フ
第一 旅客カ航海中ニ解約ノ申込ヲ爲シテ航海ヲ止メタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支拂フコトヲ要ス
第二 船長カ航海ノ續行ヲ拒ミ其他旅客ノ航海ヲ止メタルコトニ付キ過失ノ責ヲ負フトキハ旅客ハ既ニ支拂ヒタル運送賃ヲ取戾ス外尙ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
第三 旅客カ其一身又ハ船舶ニ係ル已ムヲ得サル事故又ハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ既ニ航海シタル路程ニ應スル運送賃ノミヲ支拂フ義務アリ但船長カ契約上ノ旅客ノ權利ヲ害スルコト無ク他ノ同樣ナル船便ヲ以テ航海ヲ遂クルコトヲ申入レタルトキハ此限ニ在ラス
海上災害其他ノ災害ノ爲メニ死亡シタル旅客ノ相續人ハ運送賃ヲ支拂フコトヲ要セス然レトモ既ニ支拂ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得ス
第九百二十四條 原因ノ如何ヲ問ハス船舶カ發航ヲ遲延シタルトキハ旅客ハ無代價ノ止宿若シ運送賃ニ賄ヲ包含スルトキハ船中ニ於ケル賄ヲモ請求スルコトヲ得然レトモ其遲延ノ甚シキトキハ旅客ハ契約ヲ解除シテ既ニ支拂ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得但其遲延カ船長ノ過失ニ因ルトキハ尙ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ航海中立寄港ニ於テ生シタル同一ノ場合ニモ之ヲ適用ス然レトモ運送賃ノ償還ハ未タ航海セサル路程ニ應シテノミ之ヲ請求スルコトヲ得
第九百二十五條 前條ノ場合ニ於テ船長カ契約上ノ旅客ノ權利ヲ害スルコト無ク他ノ同樣ナル船便ヲ以テ航海ヲ遂クルコトヲ申入レタルトキハ旅客ハ契約ヲ解除スルコトヲ得ス
第九百二十六條 船長ハ旅客ノ安全、健康ニ注意シ必要ノ食物、藥劑及ヒ救助具ヲ供用ニ耐フル景狀ニテ船中ニ備フルコトヲ要ス若シ災害ノ生シタルトキハ船長ハ第一ニ旅客ヲ救助スル義務アリ且如何ナル情況アルモ此救助ヲ實行シタル後ニ非サレハ船舶ヲ去ルコトヲ得ス
船中ニ於テ死亡シタル旅客ノ埋葬ハ相續人ノ費用若シ已ムヲ得サレハ船舶ノ費用ヲ以テ慣習ニ從ヒ船長之ヲ爲ス義務アリ
第九百二十七條 旅客カ船中ニ積入ルルコトヲ得ル行李及ヒ旅用具ノ運送ニ付テハ反對ノ契約アルニ非サレハ旅客運送賃ノ外特別ノ報酬ヲ支拂フコトヲ要セス
第九百二十八條 船中ニ於テ死亡シタル旅客ノ行李及ヒ旅用具ニシテ船中ニ在ルモノハ船長ニ於テ其相續人ノ爲メ適當ノ方法ヲ以テ之ヲ取扱フ可シ
第九百二十九條 本章第一節第三節及ヒ第一編第八章第八節ノ原則ハ第五百二十三條前段ノ規定ヲ除ク外本節ノ旅客運送ニモ之ヲ適用ス
第六章 海損
第九百三十條 共同海損ハ船舶及ヒ積荷ヲ共同ノ危險ヨリ救助センカ爲メ故サラニ直接又ハ間接ニ船舶又ハ積荷ニ加ヘタル非常ノ喪失、損害及ヒ同一ノ旨趣ニテ支出シタル非常ノ費用タリ殊ニ左ニ揭クルモノハ共同海損ニ屬ス
第一 船舶及ヒ積荷ニ係ル危險ヲ避ケ又ハ其既ニ被フリタル危險ノ有害ナル結果ヲ避ケンカ爲メニスル避難港ヘノ入航
第二 船舶ヲ輕クセンカ爲メニスル積荷ノ投棄又ハ陸揚及ヒ此ニ因リテ船舶又ハ積荷ニ加ヘタル損害
第三 沈沒又ハ掠奪ヲ避ケンカ爲メニスル任意ノ坐礁、膠沙
第四 船舶又ハ積荷ノ贖戾ノ費用及ヒ人質ニ取ラレタル者アルトキハ其贖戾ノ費用
第五 第八百七十二條ニ從ヒテ共同海損ヲ償フ爲メニ借入レタル金額ノ利息若クハ冒險料又ハ賣却シタル積荷ノ損失其他共同海損ノ調査及ヒ計算ノ費用
第九百三十一條 共同海損ノ處分ヲ行フニハ船長ハ成ル可ク役員ト評議ヲ爲シ且其評議ノ結果ヲ航海日誌ニ記載ス可シ
第九百三十二條 船舶及ヒ積荷ノ全部又ハ一分ヲ救助スルコトヲ得タルトキハ積荷ト船舶及ヒ運送賃ノ半分トカ到達港其他航海ノ終極地ニ於ケル其價額ノ平等ナル割合ヲ以テ共同海損ヲ共擔ス
第九百三十三條 共同海損ノ場合カ當事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ其過失ノ責任ハ共擔ノ爲メニ消滅セス
第九百三十四條 共同海損ノ確定及ヒ割賦ハ到達港其他航海ノ終極地ニ於テ鑑定人之ヲ爲シ若シ鑑定人ノ選定ニ付キ爭アルトキハ官ヨリ之ヲ命ス
第九百三十五條 船舶ノ武具、食料、乘組員ノ給料、所持品及ヒ旅客ノ旅荷物ハ共同海損ヲ共擔セス然レトモ其喪失又ハ損害ノ場合ニ在テハ他ノ共擔義務アル物ヨリ其賠償ヲ受ク
第九百三十六條 喪失、損害及ヒ共擔額ノ計算ハ棄却シタル物及ヒ救助シタル物ノ實價ニ從ヒテ之ヲ爲ス然レトモ棄却シタル物ニ付テハ其實價カ船荷證書ニ記載シタル價額ヨリ高價ナリシトキト雖モ其記載ノ價額ノミヲ賠償ス
船荷證書其他ノ明吿書ナクシテ積込ミタル貨物及ヒ甲板上ニ積込ミタル貨物ニ付テハ賠償ヲ爲スコト無シ但甲板上ニ積込ミタル貨物ニ付テハ沿岸小航海ノ船舶ニ非サルトキニ限ル
前項ノ場合ニ於テ救助シタル貨物ハ共擔義務ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百三十七條 救助セラレタル船舶又ハ積荷カ其後喪失シ若クハ毀損シタルトキ又ハ海損若クハ救助ニ係ル債權ノ爲メ責ヲ負ヒタルトキ共擔義務ノ全ク消滅セサルニ於テハ其共擔義務ノ割合ハ初ノ海損ニ對シテ變更ヲ生スルコト無シ然レトモ其共擔義務ハ後ニ生シタル喪失若クハ毀損ヲ扣除シ又ハ海損若クハ救助ニ係ル債權ヲ扣除シタル殘價額ニ從ヒテ之ヲ定ム
第九百三十八條 棄却シタル貨物ハ其後ニ生シタル海損ノ場合ニ在テハ共擔義務ヲ負擔セス又船舶ニ對スル積荷ノ共擔義務ハ船舶カ後ニ喪失シ又ハ使用ニ耐ヘサルニ至リタルトキハ消滅ス
第九百三十九條 棄却シタル貨物カ海損割賦ノ後所有者ニ返リタルトキハ其所有者ハ救助ノ費用ト棄却ニ因リテ生シタル損害ノ額トヲ扣除シテ既ニ受取リタル割賦金ヲ當事者ニ償還スル義務アリ
第九百四十條 單獨海損ハ任意ニ非スシテ生シ又ハ船舶若クハ積荷ノミニ生シタル喪失、損害及ヒ費用タリ此海損ハ各所有者各別ニ之ヲ負擔スルコトヲ要ス
第九百四十一條 水先案內料、挽船料、避氷入費、諸稅、手數料又ハ檣、帆若クハ機關ノ過度ナル使用ニ因リテ生シタル船舶ノ毀損ノ如キ航海ノ通常及ヒ臨時ノ費用若クハ損害ハ船舶ノミノ責ニ歸ス但反對ノ慣習アルモノハ此限ニ在ラス
第九百四十二條 衝突、破裂其他ノ事由ニ因リテ船舶及ヒ積荷ニ生シタル損害ニ付テハ自己ノ過失ニ因リテ其損害ヲ惹起シタル者責任ヲ負フ若シ其災害カ事變又ハ當事者雙方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ各當事者ハ己レニ受ケタル損害ヲ負擔ス
然レトモ當事者雙方ノ過失相均シカラサルトキ又ハ其災害ノ事由ヲ明カニ檢知スルコトヲ得サルトキハ損害ノ割賦ハ公平ナル酌量ニ從ヒテ之ヲ爲ス
第九百四十三條 海難ニ於テ乘組員ノ船舶ヲ退去シ若クハ抛棄シタルトキ其船舶又ハ積荷ノ全部若クハ一分ヲ救助シタル者又ハ救援若クハ救撈ノ際乘組員ニ助力ヲ爲シテ其功ヲ致シタル者ハ救助賃又ハ助力賃ヲ請求スル權利アリ其賃額ハ危險ノ度、費用、時間及ヒ救助竝ニ助力ヲ爲ス危險ト困難トヲ酙酌シテ之ヲ定ム然レトモ其賃額ハ救助シタル物ノ價額ノ三分一ヲ超エサルヲ通例トシ如何ナル場合ト雖モ半額ヲ超ユルコトヲ得ス
第九百四十四條 海損ノ爲メ保險者ニ對スル請求權ハ共同海損ノ場合ニ在テハ損害額カ船舶及ヒ積荷ノ被保險價額合計高ノ百分一以上ナルトキ單獨海損ノ場合ニ在テハ毀損シタル物ノ被保險價額ノ百分一以上ナルトキニ非サレハ成立セス
第九百四十五條 保險契約ニ海損ノ責ニ任セサル旨ノ條款アルトキハ保險者ハ總テ海損ニ付テノ責ヲ免カル但委棄ノ要件ノ存在スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テハ被保險者ハ委棄スルト海損請求權ヲ主張スルトノ一ヲ擇フ權利アリ
第七章 冒險貸借
第九百四十六條 冒險貸借ハ船長カ船籍港外ニ在テ船舶又ハ積荷ノ已ムヲ得サル需用ノ爲メ債權者ニ冒險料ヲ支拂フ約束ニテ航海中冒險抵當物ニ付テノ海上危險ヲ引受ケシムル條件ヲ以テ取結フ貸借契約タリ此契約ヲ取結フニハ第八百七十二條ノ手續ニ依ルコトヲ要ス
認可書及ヒ冒險貸借證書ニハ冒險貸借ノ事實、目的、船名、航路、冒險抵當物及ヒ其價額ヲ明記スルコトヲ要ス
冒險貸借ノ金額カ冒險抵當物ノ價額ニ超ユルトキハ債權者ハ其超過額若シ債務者ニ詐欺ノ意思アル場合ニ在テハ全金額ニ利息ヲ附シテ之ヲ取戾スコトヲ得
期望ノ利益ハ之ヲ積荷ノ價額ニ算入スルコトヲ得ス
第九百四十七條 船舶、〔附屬物ヲ包含ス〕運送賃及ヒ積荷ハ之ヲ總括シ又ハ分別シテ冒險抵當ト爲スコトヲ得然レトモ積荷ノミハ其需用ノ爲メニスルニ非サレハ之ヲ冒險抵當ト爲スコトヲ得ス
船舶ノ冒險抵當ニハ明示ナキモ船舶ノ附屬物及ヒ航海ノ終ニ於テ得ヘキ運送賃ヲ包含ス
第九百四十八條 同一ノ物ヲ相異ナル需用ノ爲メニ數囘冒險抵當ト爲シタルトキハ後ノ債權ハ前ノ債權ニ先タツモノトス
第九百四十九條 冒險貸借證券ハ求ニ因リテ二通以上ヲ交付シ又指圖式ニテ之ヲ發スルコトヲ得指圖式ニテ發シタル場合ニ在テハ裏書ヲ以テ轉付スルコトヲ得然レトモ裏書讓渡人ハ元金ノ支拂ニ付テノミ責ヲ負ヒ冒險料ノ支拂ニ付テハ明約アルニ非サレハ其責ヲ負ハス
第九百五十條 冒險貸借金額及ヒ冒險料ハ別段ノ期間ヲ約定シタルニ非サレハ船舶ノ投錨後八日內積荷ニ付テハ其陸揚後八日內ニ之ヲ辨償スルコトヲ要ス若シ此期間ニ辨償ヲ爲ササルトキハ債權者ハ冒險抵當物ニ對シテ質權ヲ行フコトヲ得
總テノ冒險抵當物ハ其債權者ニ對シテ連帶ノ責任ヲ負フ
第九百五十一條 航海ノ變更、他ノ船舶ニ貨物ノ積換其他危險ノ變更ハ避ク可カラサル必要ニ出テタルニ非サレハ債權者ヲシテ海難ニ付テノ責ヲ免カレシム
第九百五十二條 冒險貸借債務ノ辨償ハ冒險抵當物ノ全部カ航海中海上危險ノ爲メニ喪失シタルトキハ之ヲ求ムルコトヲ得ス若シ毀損又ハ一分ノ喪失ノ場合ニ在テハ其殘餘ノ價額ニ限リ之ヲ求ムルコトヲ得但海損及ヒ救助ノ費用ハ之ヲ扣除ス
前項ノ場合ニ在テハ海損ニ付テノ損害賠償ハ債權者ノ利益ニ歸ス
第八章 保險
第一節 保險契約ノ取結
第九百五十三條 總テ航海ノ危險ニ罹ル可キ適法ナル財產上ノ利益ハ航海ノ全部又ハ一分ノ爲メ平時ト戰時トヲ問ハス航海前又ハ航海中ニ之ヲ保險ニ付スルコトヲ得
殊ニ船舶、〔附屬物ヲ包含ス〕貨物運送賃、旅客運送賃、運送貨物、其賣却利益、仲買人手數料、仲立人手數料、冒險貸借債權、海損債權其他船舶債權者ノ債權及ヒ保險者自身ノ利益ハ之ヲ總括シ又ハ分別シテ保險ニ付スルコトヲ得
船舶乘組員ノ給料及ヒ報酬ノ保險ハ無効トス
第九百五十四條 船舶ノ被保險價額ハ危險ノ始マル時及ヒ地ニ於テ船舶ノ有スル價額トス
第九百五十五條 船舶ノ危險ハ積荷又ハ底荷ノ積入ノ始マル時ニ始マリ荷卸ノ終リタル時又ハ不當ノ遲延ナクシテ其終リ得タル可キ時ニ終ル但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第九百五十六條 冒險貸借債權及ヒ海損債權ハ冒險抵當物又ハ共擔義務ヲ負フ物ノ價額ヲ限トシテ保險ニ付スルコトヲ得
第九百五十七條 保險契約取結ノ後戰爭起リ其他總テ國ノ處分ニ出ツル危險生シタルトキハ當事者ハ契約ヲ解除スル權利ヲ有ス但保險料ノ相當ナル增加ヲ豫定シタルトキハ此限ニ在ラス
既ニ支拂ヒタル保險料ハ契約解除ノ場合ニ在テハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
第二節 保險者及ヒ被保險者ノ權利義務
第九百五十八條 被保險者ハ危險ノ始マル前ニ航海ヲ止メタルトキハ被保險額ノ二百分一ノ損害賠償ヲ支拂ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第九百五十九條 保險者ハ海上危險ノ發生ニ因リ殊ニ暴風雨、破船、坐礁、膠沙、流氷、衝突、投荷、火災、破裂、盜難、劫掠ニ因リ又ハ航海、線路若クハ船舶ノ已ムヲ得サルニ出テタル變更ニ因リ又ハ乘組員ノ不正若クハ過失其他ノ事由ニ因リテ生シタル總テノ喪失及ヒ損害ヲ負擔ス但契約ヲ以テ取除ヲ設ケタルモノハ此限ニ在ラス
保險者ハ明約アルニ非サレハ戰爭其他總テ國ノ處分ニ出ツル危險殊ニ掠奪、宣戰、報復、封港、鎖港、差押及ヒ此類ノ事由ニ因リテ生シタル喪失及ヒ損害ヲ負擔セス
第九百六十條 保險者ハ水先案內料、挽船料、船舶又ハ積荷ニ付キ支拂フ可キ手數料、關稅其他ノ諸稅、年數、腐朽又ハ蠧蝕ニ因リテ生シタル損害、通常ノ使用ニ因リテ生シタル損耗、船長又ハ海員ノ行爲ニ付キ船舶所有者ノ負擔スル責任、航海不耐用又ハ艤裝若クハ乘組員ノ不十分又ハ成規上ノ書類ノ欠缺ニ因リテ生シタル損害ヲ負擔セス
第九百六十一條 損害ヲ賠償ス可キ保險者ノ義務ハ被保險者カ其損害ニ付キ船長其他ノ人ニ對シテ賠償請求ノ權利ヲ有スルカ爲メニ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百六十二條 保險料ハ契約上ノ航海期間ヲ延長シタルトキハ割合ニ應シテ之ヲ增スコトヲ要ス然レトモ其期間ヲ短縮スル場合ニ在テハ之ヲ減スルコトヲ得ス航海ヲ短縮スル場合モ亦同シ
第九百六十三條 旅客運送賃ノ保險ハ航海ノ延長、旅客ノ載換、避難港ニ於ケル旅客ノ給養、他船ヲ以テスル旅客ノ運送、食料ノ喪失若クハ減損其他此類ノ海上災害ニ因リテ生シタル旅客運送費增額ノ賠償ヲ請求スル權利ヲ被保險者ニ與フルモノトス
第九百六十四條 貨物運送賃又ハ旅客運送賃ノ通常額ヲ增加シテ運送貨物又ハ旅荷物ノ危險ヲ引受クル者アルトキハ保險ニ關スル原則ヲ之ニ適用ス
第三節 委棄
第九百六十五條 委棄ハ全被保險額ノ支拂ヲ受ケテ保險者ニ被保險物ヲ委付スルニ在リ
委棄ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ申込ムコトヲ得
第一 船舶カ沈沒シ破碎シ又ハ踪跡ヲ失ヒ又ハ使用ニ耐ヘサルトキ
第二 船舶カ掠奪セラレ又ハ國ノ處分ニ因リテ抑留セラレタルトキ
第三 喪失又ハ毀損カ價額ノ四分三ヲ超エタルトキ
委棄ハ一分ノミ又ハ條件附ニテ之ヲ爲スコトヲ得ス又之ヲ取消スコトヲ得ス
第九百六十六條 船舶カ到達港ニ達セス且發航ノ時又ハ其船舶ニ付キ最後ノ通信アリタル時ヨリ一个年ヲ經過シタルトキ又沿岸航海ニ在テハ六个月ヲ經過シタルトキハ其船舶ハ踪跡ヲ失ヒタルモノト看做ス
有期ノ保險ノ場合ニ在テハ前項ノ期間滿了後ハ其船舶ハ保險期間ニ喪失シタルモノト推定ス
第九百六十七條 坐礁、膠沙ニ罹リタル船舶ハ之ヲ引卸シ修繕ヲ加ヘテ到達港マテ航海ヲ繼續セシムルコトヲ得ヘキトキ保險者カ此カ爲メニ必要ナル費用ノ前貸ヲ爲スニ於テハ使用ニ耐ヘサルモノトシテ委棄スルコトヲ得ス然レトモ被保險者ハ此場合ニ於テハ坐礁、膠沙ノ爲メニ生シタル費用及ヒ海損ノ爲メノ請求權ヲ保有ス
第九百六十八條 使用ニ耐ヘサル船舶ノ積荷ハ船長カ他ノ船舶ヲ以テ之ヲ到達港ニ送達スル能ハサルトキニ限リ委棄スルコトヲ得若シ船長カ其積荷ヲ送達スルコトヲ得タルトキハ保險者ハ總テノ海損及ヒ運送賃ノ增額ト積荷ノ救助、積換、倉入其他ノ事由ニ因リテ生シタル總テノ費用トヲ負擔ス
第九百六十九條 被保險者ハ災害ノ通知ヲ得タル後又ハ第九百六十六條ニ定メタル期間ノ滿了後三日內ニ委棄ノ理由タル事實ヲ保險者ニ通知シ且六个月內ニ其委棄ヲ申込ム義務アリ
前項ノ期間ヲ怠リタルトキハ被保險者ハ保險契約ヨリ生スル通常ノ請求權ノミヲ主張スルコトヲ得
第九百七十條 保險者ハ別段ノ契約アルニ非サレハ委棄ノ申込ヲ受ケタル後三个月內ニ被保險額ヲ拂渡スコトヲ要ス然レトモ委棄ノ辯明ニ供スル證書ノ交付ヲ受ケス且總テ委棄シタル物ニ係ル他ノ保險、冒險貸借、登記ヲ經タル債權其他ノ債權ノ通知ヲ受ケサル以前ニ拂渡ヲ爲スコトヲ要セス
右ニ揭ケタル證書ノ旨趣ニ對シテハ反對證據ヲ擧クルコトヲ得
第九百七十一條 被保險者ハ詐欺ノ委棄申込ヲ爲シタルトキハ其保險上ノ權利ヲ失ヒ且委棄シタル物ニ係ル債權ヲ自ラ支拂フコトヲ要ス
第九百七十二條 委棄シタル物ニ付テノ被保險者ノ權利ハ其委棄ノ承諾又ハ有効ナリトノ判決ニ依リテ保險者ニ移ル
船舶ノ委棄ニハ救助セラレタル運送貨物ノ運送賃全額ヲ包含ス但其運送賃ノ負擔スル總テノ義務ハ之ヲ扣除ス
第九百七十三條 被保險者ハ委棄申込ノ後ト雖モ被保險物ヲ救助シ又ハ取戾ス爲メ及ヒ一層大ナル損害ヲ避クル爲メ成ル可ク注意ヲ爲ス義務アリ又右ノ目的ノ爲メ支出シタル費用ハ救助セラレタル物ノ價額ニ至ルマテ保險者之ヲ負擔スルコトヲ要ス
第九百七十四條 掠奪セラレ又ハ國ノ處分ニ因リテ抑留セラレタル場合ニ在テハ被保險者ハ此事實ヲ保險者ニ通知シタル後六个月內ニ判決又ハ沒收ノ言渡ナキトキハ始メテ委棄ヲ申込ムコトヲ得掠奪ノ場合ニ在テハ被保險者ハ已ムヲ得サルトキニ限リ豫メ通知ヲ爲サス且保險者ノ委任ナシト雖モ贖戾ヲ爲スコトヲ得然レトモ保險者ハ其贖戾ヲ自己ノ計算ニテ引受クルト否トヲ選擇スル權利ヲ有ス
第九百七十五條 一旦申込ミタル委棄ノ効力ハ後日ニ至リ船舶ノ救助又ハ歸航ニ因リテ變スルコト無シ
第九章 時効
第九百七十六條 船舶債權者ノ債權及ヒ冒險貸借、海損竝ニ救助ニ因リテ生シタル債權ハ船舶所有者、船長又ハ海員ノ一身ニ對スル請求權ナルトキト雖モ之ヲ主張スルコトヲ得ル日ヨリ起算シ一个年ヲ以テ時効ニ罹ル
委棄ニ付テノ訴權ハ第九百六十九條ニ揭ケタル申込期間後一个月ノ滿了ヲ以テ消滅ス
第九百七十七條 喪失又ハ毀損ニ付キ船長及ヒ保險者ニ對スル請求權ハ留保ナク運送貨物ヲ受取リテ其運送賃ヲ支拂ヒタル時消滅ス又海損又ハ救助ニ因リテ生シタル債權ハ留保ナク運送貨物ヲ引渡シテ其運送賃ヲ受取リタル時消滅ス
有効ニ留保ヲ爲スニハ運送貨物ヲ受取リ又ハ引渡シタル後二十四時內ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第三編 破產
第一章 破產宣吿
第九百七十八條 商ヲ爲スニ當リ支拂ヲ停止スル者ハ自己若クハ債權者ノ申立ニ因リ又ハ職權ニ依リ裁判所ノ決定ヲ以テ破產者トシテ宣吿セラル但此決定ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
前項ノ決定ハ口頭辯論ヲ要セスシテ之ヲ爲スコトヲ得
第九百七十九條 支拂停止ハ其停止ヲ爲シタル本人ヨリ又商事會社ニ在テハ業務擔當ノ任アル社員又ハ取締役又ハ淸算人ヨリ支拂停止ノ日ヲ算入シテ五日內ニ其營業所又ハ住所ノ裁判所ニ書面ヲ以テ又ハ口述ヲ調書ニ筆記セシメテ之ヲ屆出ツ可シ此屆出ニハ支拂停止ノ事由ヲ明示シ及ヒ貸借對照表竝ニ商業帳簿ヲ添フルコトヲ要ス
貸借對照表ニハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 總テノ動產、不動產其他債權ノ列擧及ヒ價額
第二 總テノ債務
第三 利益及ヒ損失ノ槪要
第四 每月ノ一身上ノ費用及ヒ家事費用ノ支出額
第九百八十條 破產決定書ニハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 支拂停止ノ時期
第二 破產主任官及ヒ一人又ハ二人以上ノ破產管財人ノ選定
第三 破產財團ノ保全ニ必要ナル處分ニ付テノ命令
第四 破產者ノ債務者又ハ財團ニ屬スル物ノ占有者ニ對スル拂渡差押ノ命令
第五 破產者ノ總債權者ニ對シ其請求權ヲ短クトモ三个月長クトモ六个月ノ期間ニ破產主任官ニ屆出ツ可キ旨ノ催吿
第六 調査會ノ期日及ヒ債權者集會ノ期日ノ指定
破產決定書ハ之ヲ檢事ニ送致ス可シ
第九百八十一條 破產宣吿ハ卽時ニ裁判所ノ揭示場竝ニ破產者ノ營業場ニ貼附シ及ヒ其地ノ新聞紙ニ載セテ之ヲ公吿スルコトヲ要ス其宣吿ハ假執行ヲ爲スコトヲ得
第九百八十二條 破產者ノ財產ヲ以テ破產手續ノ費用ヲ償フニ足ラサルトキハ前條ノ手續ヲ除ク外其後ノ手續ヲ停止ス其手續ノ停止ハ之ヲ公吿スルコトヲ要ス
然レトモ破產手續ノ費用ヲ償フニ足ル破產者ノ財產アルコトヲ證明スルトキハ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ卽時其手續ヲ再施ス
破產手續ノ停止ハ其繼續スル間ハ第千四十九條ニ揭ケタル効力ヲ有ス
第九百八十三條 破產主任官ハ總テノ破產手續ヲ指揮シ及ヒ監督スルコトヲ要ス其命令ハ假執行ヲ爲スコトヲ得然レトモ此命令ニ對シテハ破產裁判所ニ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第九百八十四條 檢事ハ職權ヲ以テ破產者ノ罰セラル可キ所爲ノ有無ヲ搜査シ且此カ爲メ取引帳簿其他ノ書類ノ展閱ヲ求ムルコトヲ得
第二章 破產ノ効力
第九百八十五條 破產宣吿ニ依リ破產者ハ破產手續ノ繼續中自己ノ財產ヲ占有シ管理シ及ヒ處分スル權利ヲ失フ
破產宣吿ノ日ヨリ以後ハ破產者ノ爲シタル支拂其他總テノ權利行爲及ヒ破產者ニ爲シタル支拂ハ當然無効トス
破產者ノ動產、不動產ニ關スル訴及ヒ執行ハ特リ管財人ヨリ又ハ管財人ニ對シテ之ヲ起シ又ハ繼續スルコトヲ得
第九百八十六條 破產者ノ營業ノ用ニ供スル動產ニ對シテ不動產貸賃ノ爲メニスル强制執行ハ三十日間之ヲ猶豫ス但賃貸人カ其賃貸物ヲ取戾ス權利ヲ有スルトキハ此限ニ在ラス
第九百八十七條 各箇債權者ハ優先權ノ存スルニ非サレハ破產處分中破產者ノ財產ニ對シテ强制執行ヲ爲スコトヲ得ス
第九百八十八條 辨濟期限ノ未タ至ラサル破產者ノ債務ハ破產宣吿ニ依リテ辨濟期限ニ至リタルモノトス
爲替手形ノ引受人又ハ引受ナキ爲替手形ノ振出人又ハ約束手形ノ振出人カ破產宣吿ヲ受ケタルトキハ其償還義務ニ付テモ前項ノ規定ヲ適用ス
第九百八十九條 財團ニ對シテハ破產宣吿ノ日ヨリ利息ヲ生スルコトヲ止ム但抵當權、質權其他ノ優先權ヲ以テ擔保セラレタル債權ハ其擔保物ノ賣拂代金ニ滿ツルマテヲ限トシテ利息ヲ生スルコトヲ得
第九百九十條 支拂停止後又ハ支拂停止前十日內ニ破產者カ其財產中ヨリ無償ノ利益ヲ或人ニ與フル權利行爲殊ニ贈與、無償ニテ若クハ不相當ノ報償ヲ以テ義務ヲ負擔スル契約、期限ニ至ラサル債務ノ支拂、期限ニ至リタル債務ノ變體支拂及ヒ從來負擔シタル債務ノ爲メ新ニ供スル擔保ハ財團ニ對シテハ當然無効トス
第九百九十一條 前條ニ揭ケタルモノノ外債務者カ支拂停止後破產宣吿前ニ財團ノ損害ニ於テ爲シタル總テノ支拂及ヒ權利行爲ハ相手方カ支拂停止ヲ知リタルトキニ限リ財團ノ計算ノ爲メ之ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得
然レトモ手形ヲ支拂ヒタル場合ニ於テハ爲替手形ヲ振出シ又ハ振出サシムル際支拂停止ヲ知リタル振出人又ハ振出委託人ヨリ又約束手形ニ在テハ裏書讓渡ノ際支拂停止ヲ知リタル第一ノ裏書讓渡人ヨリ其支拂金額ヲ償還スルコトヲ要ス
第九百九十二條 有効ニ取得シタル抵當權其他合式ノ登記ニ因リテ法律上効力ヲ有ス可キ權利ハ支拂停止後ニ在テハ其取得ノ時ヨリ十五日ヲ過キサルトキニ限リ破產宣吿ノ日マテ登記ヲ爲スコトヲ得
第九百九十三條 破產宣吿ノ時ニ破產者及ヒ其相手方ノ未タ履行セス又ハ履行ヲ終ラサル雙務契約ハ孰レノ方ヨリモ無賠償ニテ其解約ヲ申入ルルコトヲ得
賃貸借契約又ハ雇傭契約ニ在テハ解約申入ノ期間ニ付キ協議調ハサルトキハ法律上又ハ慣習上ノ豫吿期間ヲ遵守ス可シ
第九百九十四條 契約者ノ一方ノ義務不履行ノ爲メ他ノ一方ニ於テ契約ヲ解除スル權利又ハ既ニ給付シタル物ヲ取戾ス權利ハ財團ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス
第九百九十五條 相殺ノ權利アル債權者ハ期限ニ至ラサル債權又ハ金額未定ノ債權ト雖モ財團ニ對シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得
債權カ支拂停止後ニ生シ又ハ取得シタルモノナルトキハ支拂停止ヲ知リタル場合ニ限リ相殺ヲ許サス
第九百九十六條 債務者カ債權者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ爲シタル權利行爲ハ相手方カ情ヲ知リタルトキニ限リ其日附ノ如何ヲ問ハス之ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得
第三章 別除權
第九百九十七條 債務者ノ動產又ハ不動產ニ對シテ抵當權、質權其他ノ優先權ヲ有スル債權者ハ財團ヨリ先ツ辨償ヲ受ケタルニ非サレハ其擔保物ノ賣拂代金ヨリ費用、利息及ヒ元金ノ支拂ヲ受クル爲メ別除ノ辨償ヲ請求スルコトヲ得若シ其賣拂代金ノ剩餘アルトキハ買主之ヲ財團ニ拂込ム可シ
第九百九十八條 優先權及ヒ其順序ハ民法及ヒ特別ノ法律ニ依リテ定マル
第九百九十九條 優先權ヲ有スル者其擔保物ノ賣拂代金ヨリ完全ナル辨償ヲ受ケサルトキハ其未濟ノ債權ハ他ノ債權者ト平等ナル割合ヲ以テ財團ニ對シテ之ヲ主張スルコトヲ得
第千條 債務者カ其支拂停止後ニ遺產ヲ取得シタルトキハ遺產債權者及ヒ受遺者ハ遺產トシテ仍ホ現存スル遺產物ヨリ又ハ未タ債務者ニ支拂ハレサル遺產ニ屬スル金錢ヨリ別除ノ辨償ヲ請求スルコトヲ得
第千一條 破產者ノ財產ニシテ民事訴訟法ニ從ヒ强制執行ノ爲メ差押フルコトヲ得サルモノハ之ヲ財團ニ加フルコトヲ得ス但債權者ニ優先權ノ屬スルモノニ付テハ第九百九十七條ノ規定ニ從フ
第四章 保全處分
第千二條 裁判所ハ破產宣吿ト同時ニ債務者ノ動產ノ封印及ヒ債務者ノ卽時勾留若クハ監守ヲ命ス
右處分ハ破產宣吿前ト雖モ若シ債務者カ逃走シ若クハ逃走セントシ又ハ其財產ヲ隱匿スルトキハ其地警察官廳ニ於テ債權者ノ申立ニ因リテ之ヲ爲スコトヲ得
商事會社ニ在テハ連帶無限ノ責任ヲ負ヘル總社員ノ身體及ヒ財產ニ對シテ右ノ處分ヲ行フ
第千三條 債務者カ第九百七十九條ノ規定ヲ踐行シ且別ニ勾留又ハ監守ヲ受ク可キ事由ナキトキハ其勾留又ハ監守ヲ實施セサルコトヲ得然レトモ後日職權ヲ以テ之ヲ實施スルコトヲ妨ケス
債務者ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非サレハ其住地ヲ離ルルコトヲ得ス又裁判所ハ何時ニテモ債務者ノ引致ヲ命スルコトヲ得
第千四條 勾留若クハ監守ノ事由最早存セサルトキハ裁判所ハ其決定ヲ以テ債務者ヲ釋放ス可シ然レトモ債務者ヲシテ裁判所又ハ管財人ノ呼出ニ應シ何時ニテモ出頭ス可キ爲メノ擔保ヲ供スル義務ヲ負ハシムルコトヲ得
取上ケタル擔保ハ之ヲ財團ニ歸セシム
第千五條 管財人カ債務者ノ財產ヲ財產目錄ニ載セ且之ヲ占有シタルトキハ直チニ其封印ヲ解ク可シ
第千一條ニ依リ財團ニ加フルコトヲ得サル物及ヒ財團ノ爲メニスル卽時ノ換價又ハ繼續利用ヲ封印ノ爲メ妨ケラルル物ニハ封印ヲ爲ササルコトヲ得此等ノ物ハ直チニ財產目錄ニ載セ管財人之ヲ占有スルコトヲ要ス
債務者ノ商業帳簿ハ卽時之ヲ管財人ニ交付シ且其帳簿ノ現狀ハ破產主任官之ヲ認證ス
特ニ高價ナル物ハ卽時之ヲ管財人ニ交付シ又ハ一時之ヲ裁判所ニ引取ルコトヲ得
第千六條 破產者ニ對シテ債務ヲ負ヒ又ハ財團ニ屬スル物ヲ占有スル者ハ其支拂又ハ交付ヲ管財人ニノミ爲ス可キコトヲ拂渡差押ノ命令ヲ以テ催吿セラレタルモノトス
別除權ヲ行ハント欲スル者ハ其旨ヲ管財人ニ申出ツ可シ若シ管助人ヨリ其物ノ評價ヲ爲サンコトヲ求ムルトキハ之ヲ承諾スルコトヲ要ス
債務者ニ宛テタル電信、書狀其他ノ送達物ハ之ヲ管財人ニ交付ス可シ其管財人ハ開封ノ權ヲ有ス然レトモ其旨趣カ財團ニ關係ナキトキハ管財人ヨリ債務者ニ引渡スコトヲ要ス
破產裁判所ハ此カ爲メ郵便局、電信局其他ノ運送取扱所ニ必要ナル命令ヲ發ス可シ
第千七條 破產主任官ハ破產者及ヒ其家族ニ財團ヨリ給養ノ扶助料ヲ與フルコトヲ得
第五章 財團ノ管理及ヒ換價
第千八條 各裁判所管轄區ニハ職務上義務ヲ負フ可キ破產管財人ノ名簿ヲ備置キ破產裁判所ハ各箇ノ場合ニ於テ其名簿中ヨリ管財人ヲ選定ス
第千九條 管財人ノ勤勞ニ對スル報酬ハ財團ヨリ第一ニ之ヲ支拂ヒ其額ハ破產裁判所之ヲ定ム
第千十條 裁判所ハ何時ニテモ管財人ヲ易ヘ又ハ他ノ管財人ヲ加フルコトヲ得
第千十一條 管財人ハ其行爲ニ付テハ代理人ト同一ノ責任ヲ負フ若シ管財人二人以上アルトキハ共同ニ非サレハ行爲ヲ爲スコトヲ得ス但破產主任官カ或ル行爲ニ付キ各箇ニ特別ノ委任ヲ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第千十二條 管財人ハ破產宣吿後卽時ニ財團ヲ占有シ且其管理及ヒ換價ニ著手スルコトヲ要ス
管財人ハ其執務ノ爲メ破產者ノ補助ヲ求ムルコトヲ得破產主任官ハ此カ爲メ破產者ニ報酬ヲ與フルコトヲ得
第千十三條 管財人ハ破產主任官ノ監督ヲ受ケ且其指揮ニ從フ義務アリ若シ管財人ノ行爲又ハ決斷ニ對シテ異議ヲ述フル者アルトキハ破產主任官命令ヲ以テ之ヲ決ス此命令ニ對シテハ破產裁判所ニ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第千十四條 財產目錄ハ裁判所職員又ハ其地警察官吏ノ立會ヲ以テ管財人之ヲ作リ若シ必要アルトキハ破產者ヲモ立會ハシム
破產者ニ屬スル總テノ財產ハ財團ニ組入ル可カラサルモノト雖モ其價額ヲ明示シテ之ヲ財產目錄ニ記入スルコトヲ要ス必要ナル場合ニ在テハ其價額ハ鑑定人ヲシテ之ヲ鑑定セシム
財產目錄及ヒ之ニ關スル調書ノ認證アル謄本ハ公衆ノ展閱ニ供スル爲メ裁判所ニ之ヲ備フ
檢事ハ其見込ニ因リ職權ヲ以テ財產目錄ノ作成ニ立會フコトヲ得
第千十五條 破產者ニ屬セサル財產ヲ財團ヨリ取戾スコトニ係ル爭訟ハ破產裁判所之ヲ裁判シ不動產ニ付テハ其所在地ヲ管轄スル裁判所之ヲ裁判ス
第千十六條 管財人ハ破產主任官ノ定メタル三十日以內ノ期間ニ破產者ヨリ差出シタル屆書及ヒ貸借對照表ヲ調査シ若シ破產者ヨリ之ヲ差出ササリシトキハ自ラ貸借對照表ヲ作リ且其報吿書ニ貸借對照表ヲ添ヘテ破產主任官ニ提出ス可シ
報吿書及ヒ貸借對照表ノ認證アル謄本ハ公衆ノ展閱ニ供スル爲メ裁判所ニ之ヲ備フ
報吿書及ヒ貸借對照表ハ之ヲ檢事ニ送致スルコトヲ要ス
第千十七條 貸方ノ借方ニ超ユルコト判然ナルトキ又ハ協諧契約ノ豫期セラルル間ハ裁判所ハ破產主任官ノ申立ニ因リ且管財人ノ意見ヲ聽キタル後管財人ヲシテ破產者ノ營業ヲ續行セシムル決定ヲ爲スコトヲ得
管財人營業ヲ續行スル場合ニ在テ財團ニ屬スル物ヲ通常ノ營業外ニテ賣却セントスルニハ破產主任官ノ認可ヲ受ケ且豫メ破產者ノ意見ヲ聽クコトヲ要ス
第千十八條 不動產ハ破產主任官ノ認可ヲ受ケテ之ヲ競賣スルコトヲ要ス
動產ハ競賣スルヲ通例トスト雖モ破產主任官ノ認可ヲ受クルトキハ相對ヲ以テ之ヲ賣却スルコトヲ得
競賣ノ手續ハ總テ民事訴訟法ノ規定ニ依ル
第千十九條 管財人ハ財團ニ屬スル破產者ノ貸方ヲ取立テ及ヒ破產者ノ權利ヲ債務者其他ノ人ニ對シテ主張シ且保全スルコトヲ要ス
管財人ハ左ニ揭クル行爲ニシテ百圓以上ノ額ニ係ルモノニ付テハ破產者ノ意見ヲ聽キ且破產主任官ノ認可ヲ受ク可シ
第一 訴訟ヲ爲スコト
第二 和解契約又ハ仲裁契約ヲ取結フコト
第三 質物ヲ受戾スコト
第四 債權ヲ轉付スルコト
第五 相續又ハ遺贈ヲ拒絕スルコト
第六 消費借ヲ爲スコト
第七 不動產ヲ買入ルルコト
第八 權利ヲ抛棄スルコト
第九 總テ財團ニ新ナル義務ヲ負ハシムルコト
第千二十條 財團ニ收入スル金錢ハ破產主任官ノ定ム可キ常用支出額ノ外遲延ナク之ヲ供託所ニ寄託スルコトヲ要ス其金錢ハ破產主任官ノ支拂命令ニ依ルニ非サレハ支出スルコトヲ得ス
第千二十一條 管財人ハ其管財中破產者ニ罰セラル可キ行爲アルヲ知リタルトキハ之ヲ破產主任官ニ屆出ツル義務アリ破產主任官其屆出ヲ受ケタルトキハ之ヲ檢事ニ通知ス
第千二十二條 破產主任官ハ破產ノ原由、事情、貸方借方竝ニ其對照表其他管理及ヒ破產手續ニ關スル事項ニ付キ破產者、其商業使用人、雇人其他ノ人ヲ何時ニテモ訊問スルコトヲ得
第六章 債權者
第一節 債權ノ屆出及ヒ確定
第千二十三條 破產者ノ總債權者ハ破產決定ノ公吿ニ因リ債權屆出ノ期間ニ其債權ヲ破產主任官ニ屆出ツ可キ旨ノ催吿ヲ受ケタルモノトス其屆出ニハ各債權ノ合法ノ原因及ヒ請求金額若シ優先權アルモノハ其權利ヲ明記シ且證據書類又ハ其謄本ヲ添フ可シ
他所ニ住スル債權者ハ裁判所所在地ニ代人ヲ置ク可シ
債權及ヒ代人任置ノ屆出ハ書面ヲ以テ又ハ調書ニ筆記セシメテ之ヲ爲スコトヲ得書面ヲ以テスル場合ニ在テハ二通ヲ差出スコトヲ要ス
所在ノ知レタル債權者ハ右ノ外特ニ裁判所ヨリ書面ヲ以テ其債權屆出ノ催吿ヲ受ク然レトモ其書面カ債權者ニ達セサルモ此カ爲メ損害賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第千二十四條 屆出ハ之ヲ受取リタルトキ直チニ順次番號ヲ付シテ二箇ノ表ニ記載ス可シ其一ニハ優先權アル債權ヲ揭ケ他ノ一ニハ通常ノ債權ヲ揭ク此債權表ハ公衆ノ展閱ニ供スル爲メ裁判所ニ之ヲ備フ
管財人ハ其使用ノ爲メ屆出書及ヒ債權表ノ謄本ヲ受領ス
第千二十五條 調査會ハ管財人及ヒ成ル可ク破產者ノ面前ニ於テ破產主任官之ヲ開キ且其調書ヲ作ル可シ債權者ハ自身又ハ代理人ヲ以テ此會ニ參加スルコトヲ得
破產主任官ハ債權者ニ取引帳簿若クハ其拔書ノ提出ヲ命スルコトヲ得調査ノ結果ハ債權表及ヒ提出シタル債務證書ニ附記シ且各債權者又ハ其代理人ニ吿知スルコトヲ要ス
調査會ハ屆出期間ノ滿了後十日乃至十五日間ニ之ヲ開クヲ通例トス
屆出期間ノ滿了後ニ屆出テタル債權ハ調査會ニ於テ之ヲ調査スルコトヲ得然レトモ其調査ヲ爲スコトニ付キ異議ノ申立アリタルトキ又ハ調査會ノ終リタル後債權ヲ屆出テタルトキハ其債權者ノ費用ヲ以テ新ナル調査會ヲ開ク
第千二十六條 債權ノ確定ハ承認又ハ裁判所ノ判決ヲ以テ之ヲ爲ス
調査會ニ於テ管財人ヨリモ又債權ノ確定シ若クハ貸借對照表ニ揭ケタル債權者ヨリモ異議ヲ申立テサルトキハ債權ハ承認ヲ得タルモノトス
管財人ノ債權ニ係ル承認又ハ異議ハ破產主任官其管財人ニ代ハリテ之ヲ爲ス
第千二十七條 異議ヲ受ケタル各債權ハ若シ其債權者之ヲ取消ササルトキハ破產裁判所公廷ニ於テ破產主任官ノ演述ヲ聽キ成ル可ク合併シテ其判決ヲ爲ス可シ其辯論及ヒ判決ハ原吿、被吿ノ出頭セサルトキト雖モ之ヲ爲ス但此判決ニ對シテハ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
第千二十八條 判決ハ成ル可ク債權者集會前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス若シ之ヲ爲スコト能ハス又ハ判決ニ對シテ控訴ヲ爲シタルトキハ裁判所ハ異議ヲ受ケタル債權者ノ右集會ニ加ハルコトヲ許ス可キヤ否ヤ又幾許ノ金額ニ付キ加ハルコトヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス
債權者ノ優先權ノミカ異議ヲ受ケタルトキハ其債權者ハ通常ノ債權者トシテ右集會ニ加ハルコトヲ得
第千二十九條 債權ヲ正當時期ニ屆出テス又ハ債權ノ確定セサル債權者ハ以後ノ確定ニ因リテ爲ス可キ財團ノ配當ニノミ加ハルコトヲ得然レトモ異議ヲ受ケテ訴訟中ニ在ル債權及ヒ屆出竝ニ調査ノ爲メ別段ノ期間ヲ定メラレタル在外國債權者ノ債權ニ付テハ以前ノ配當ニ於テ其債權ニ歸スル割前ヲ留存ス
第二節 特種ノ債權者
第千三十條 主タル債務者ノ破產ニ於テ屆出テタル債權ハ協諧契約ノ場合ト雖モ保證人其他ノ共同義務者ニ對シ其全額ニ付キ之ヲ主張スルコトヲ得又保證人又ハ共同義務者ハ主タル債務者ノ破產ニ於テ其償還請求ヲ屆出ツルコトヲ得然レトモ主タル債務者ノ爲メニスル協諧契約ノ効果ニ從フ
第千三十一條 二人以上ノ共同義務者カ破產シタルトキハ其各義務者ノ破產ニ於テ債權ノ全額ヲ屆出ツルコトヲ得
各自ノ破產財團ノ間ニ於ケル償還請求權ハ之ヲ主張スルコトヲ得ス然レトモ債權者カ受取ル割前ノ額カ主タルモノ及ヒ從タルモノヲ合セタル債權ノ總額ヲ超過スルトキハ其超過額ハ共同義務者中他ノ共同義務者ニ對シテ償還請求權ヲ有スル者ノ財團ニ歸ス
第千三十二條 左ニ揭クル債權ハ屆出及ヒ確定ニ關スル規定ニ從フコトヲ要セス
第一 裁判費用、管理費用其他破產手續上ノ費用
第二 公ノ手數料及ヒ諸稅
第三 管財人カ財團ノ爲メニ負擔シタル義務ヨリ生スル債權
右債權ハ破產主任官ノ指圖ニ從ヒ通常ノ方法ヲ以テ財團ノ現額ヨリ之ヲ支拂フ
第千三十三條 破產手續ニ加ハリタルニ因リテ債權者ニ生シタル費用ハ財團ニ對シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第千三十四條 婦ハ其夫ノ財團ニ對シテハ法律、明約又ハ疑ナキ慣例ニ依リ婦ノ特有ニ歸スル所有權ヨリ生スル債權ノミヲ主張スルコトヲ得
第三節 債權者集會
第千三十五條 債權者集會ハ破產主任官之ヲ招集シ及ヒ之ヲ指揮ス其招集ハ會議ノ事項ヲ明示スル公吿ヲ以テ之ヲ爲ス
其集會ハ管財人、債權ノ確定シタル債權者及ヒ第千二十八條ニ依リテ參加スルコトヲ得ヘキ債權者ヨリ成立ス然レトモ優先權ノ確定シタル債權者ハ其優先權ヲ抛棄シタル限度又ハ優先權ヲ行フニ當リ不足アル可シト推定セラルル限度ニ於テノミ參加ス
債權者ハ代理人ヲ差出スコトヲ得
破產者ハ之ヲ集會ニ呼出スコトヲ得
第千三十六條 決議ハ出席シタル債權者ノ過半數ヲ以テ爲スヲ通例トス其過半數ハ出席員ノ有スル債權額ノ半ヨリ多キ額ニ當ルコトヲ要ス
第千三十七條 集會ニ於テハ破產主任官ハ破產手續ノ從來ノ成行ニ付テノ報吿ヲ爲シ管財人ハ管財ノ處理、其結果及ヒ財團ノ現況ニ付テノ報吿ヲ爲ス
集會ハ右ノ報吿ニ付テ決議ヲ爲シ若シ破產主任官又ハ管財人ノ意見アリタルトキハ其意見及ヒ債權者ノ爲シタル申立又ハ破產主任官ノ認可ヲ受ケテ破產者ノ爲シタル申立ニ付テ決議ヲ爲ス可シ此等ノ決議ハ裁判所ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第七章 協諧契約
第千三十八條 法律上ノ義務ヲ履行シタル破產者ニシテ有罪破產ノ判決ヲ受ケス又其審問中ニ在ラサル者ハ破產主任官ノ認可ヲ受ケ第一ノ集會ニ於テ債權者ニ協諧契約ヲ提供スルコトヲ得又十分ノ理由アルトキハ以後ノ集會ニ於テモ之ヲ提供スルコトヲ得然レトモ其提供ハ一囘ニ限ル
第一ノ集會ハ普通ノ調査會ヨリ四週日後ニ之ヲ爲ス協諧契約ノ申立書ハ少ナクトモ集會ノ二十日前ニ之ヲ裁判所ニ差出シ裁判所ハ之ヲ公衆ノ展閱ニ供シ且其旨ヲ公吿ス可シ
第千三十九條 協諧契約ヲ承諾スルニハ出席シタル債權者ノ過半數ノ承諾ヲ要ス其過半數ハ議決權アル總債權額ノ四分三以上ニ當ルコトヲ要ス
管財人及ヒ議決權ヲ有スル債權者又後ニ至リ債權ノ確定シタル債權者ハ協諧契約ニ對シテ十日內ニ理由ヲ附シタル異議ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得
第千四十條 債權者ノ承諾シタル協諧契約ハ裁判所ノ認可ヲ得テ始メテ法律上有効トス其認可又ハ棄却ニ付テノ決定ハ破產主任官ノ演述ヲ聽キ前條ノ期間滿了後直チニ之ヲ爲ス此決定ニ對シテハ債務者及ヒ異議申立ノ權利アル者ヨリ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第千四十一條 協諧契約ハ左ノ場合ニ於テハ之ヲ棄却ス可シ
第一 第千三十八條及ヒ第千三十九條ノ規定ヲ踐行セサルトキ
第二 協諧契約ニ依リ或ル債權者カ其承諾ナクシテ偏頗ノ處置ヲ受ケ損害ヲ被フルトキ
第三 協諧契約カ詐欺其他不正ノ方法ヲ以テ成リタルトキ
第四 協諧契約カ公益ニ觸ルルトキ
第千四十二條 協諧契約ハ破產者カ後ニ至リ有罪破產ノ判決ヲ受ケタルトキハ當然消滅シ其審問中ハ免訴又ハ無罪ノ宣吿ヲ受クルマテ之ヲ停止ス
前條第三號ニ揭ケタル理由アルトキハ協諧契約認可ノ後ト雖モ尙ホ之ニ對シテ異議ヲ申立ツルコトヲ得
第千四十三條 協諧契約ノ確定シタルトキハ管財人ハ直チニ其執務ヲ罷メ且其執務ニ付キ計算ヲ爲ス可シ
破產者ハ協諧契約ニ別段ノ定ナキトキニ限リ任意ノ管理及ヒ處分ノ爲メ其財產ヲ取戾スコトヲ得
協諧契約ノ履行ハ破產主任官ノ監督ヲ以テ之ヲ爲ス
第千四十四條 協諧契約カ棄却セラレ又ハ後ニ至リ消滅シ若クハ取消サルルトキ又ハ不履行ノ爲メ解除セラルルトキハ破產手續ヲ再施シ直チニ財團ノ換價及ヒ配當ヲ爲シテ終局ニ至ラシム其再施シタル手續ニハ再施マテノ間ニ債權ヲ得タル者モ參加スルコトヲ得
不履行ノ場合ニ在テハ協諧契約ノ爲メ立テタル保證人ハ其義務ヲ免カレス
第八章 配當
第千四十五條 第千三十二條ニ揭ケタル債權及ヒ優先權アル債權ヲ支拂ヒタル後ニ殘レル財團ハ他ノ債權者間ニ平等ノ割合ヲ以テ之ヲ配當ス
破產者カ資本ヲ分チ數箇ノ營業ヲ爲シタル場合ニ在テハ各營業ニ對スル債權者ハ其營業ニ屬スル財團ヨリ優先權ヲ以テ辨償ヲ受ク
第千四十六條 配當ハ普通ノ調査會ノ終リタル後ハ配當ニ足ル可キ財團ノ生スル每ニ管財人ノ調製シテ破產主任官ノ認可ヲ受ケタル配當案ニ依リテ之ヲ爲ス其案ハ破產主任官之ニ署名シ公衆ノ展閱ニ供スル爲メ裁判所ニ備置キ且其旨ヲ公吿ス可シ
配當案ニ對スル異議ハ其公吿ノ日ヨリ起算シ十四日內ニ之ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得
第千四十七條 前條ニ揭ケタル期間ニ配當案ニ對シテ異議ヲ申立ツル者ナキトキ又ハ異議ノ落著シタルトキハ管財人ハ各債權者ヲシテ其債務證書ヲ提出セシメ之ニ每囘ノ支拂額ヲ記入シテ支拂ヲ爲ス若シ債務證書ノ提出ヲ爲スコト能ハサルトキハ破產主任官ノ許可ヲ得テ債權表ニ依リ支拂ヲ爲スコトヲ得孰レノ場合ニ於テモ債權者ハ配當案ニ受取書ヲ記スルコトヲ要ス
第千四十八條 財團ノ換價及ヒ配當ヲ全ク終リタルトキハ債權者集會ヲ開キ此集會ニ於テ管財人ハ終局ノ計算ヲ爲ス可シ此計算ノ濟了シタルトキハ裁判所ハ直チニ破產主任官ノ申立ニ因リテ破產手續ノ終結ヲ決定ス此決定ハ之ヲ公吿ス可シ
第千四十九條 破產手續終結ノ後ハ辨償ヲ受ケサル債權者ハ破產手續ニ於テ確定シタルニ因リテ得タル權利名義ニ基キ其債權ヲ債務者ニ對シテ無限ニ行フコトヲ得
第九章 有罪破產
第千五十條 破產宜吿ヲ受ケタル債務者カ支拂停止又ハ破產宣吿ノ前後ヲ問ハス履行スル意ナキ義務又ハ履行スル能ハサルコトヲ知リタル義務ヲ負擔シタルトキ又ハ債權者ニ損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸方財產ノ全部若クハ一分ヲ藏匿シ轉匿シ若クハ脫漏シ又ハ借方現額ヲ過度ニ揭ケ又ハ商業帳簿ヲ毀滅シ藏匿シ若クハ僞造、變造シタルトキハ詐欺破產ノ刑ニ處ス
第千五十一條 破產宣吿ヲ受ケタル債務者カ支拂停止又ハ破產宣吿ノ前後ヲ問ハス左ニ揭クル行爲ヲ爲シタルトキハ過怠破產ノ刑ニ處ス
第一 一身又ハ一家ノ過分ナル費用、博奕、空取引又ハ不相應ノ射利ニ因リテ貸方財產ヲ甚シク減少シ若クハ過分ノ債務ヲ負ヒタルトキ
第二 支拂停止ヲ延ハサンカ爲メ損失ヲ生スル取引ヲ爲シテ支拂資料ヲ調ヘタルトキ
第三 支拂停止ヲ爲シタル後支拂又ハ擔保ヲ爲シテ或ル債權者ニ利ヲ與ヘ財團ニ損害ヲ加ヘタルトキ
第四 商業帳簿ヲ秩序ナク記載シ藏匿シ毀滅シ又ハ全ク記載セサルトキ
第五 破產者カ第三十二條、第九百七十九條又ハ第千三條第二項ニ規定シタル義務ヲ履行セサルトキ
第千五十二條 前二條ノ罰則ハ商事會社ノ業務擔當ノ任アル社員若クハ取締役及ヒ淸算人ニモ之ヲ適用シ又第千五十條ノ罰則ハ破產管財人及ヒ有罪行爲ヲ行フ際犯者ヲ助ケ又ハ有罪行爲ヲ破產者ノ利益ノ爲メニ行ヒタル者ニモ之ヲ適用ス
第千五十三條 債權者集會ニ於ケル議決ニ關シ債權者ニ賄賂ヲ爲シタルトキハ其雙方ヲ二年以下ノ重禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第十章 破產ヨリ生スル身上ノ結果
第千五十四條 破產宣吿ヲ受ケタル債務者又ハ破產シタル商事會社ノ無限責任社員若クハ取締役ハ復權ヲ得ルニ至ルマテハ取引所ニ立入ルコト仲立人ト爲リ合名會社若クハ合資會社ノ社員ト爲リ又ハ株式會社ノ取締役ト爲ルコト淸算人、破產管財人若クハ商事代人ノ職ヲ執ルコト商業會議所ノ會員ト爲ルコト其他商業上ノ榮譽職ニ就クコトヲ得ス
第千五十五條 復權ヲ得ルニハ協諧契約ノ調ヒタルト否トヲ問ハス破產者カ元債、利息及ヒ費用ノ全額ヲ債權者總員ニ辨償シタルコト又所在ノ知レサル爲メ未タ辨償ヲ受ケサル債權者ニ全額ヲ辨償スル準備及ヒ資力アルコトヲ證明ス可シ
復權ノ申立ニハ債權者ノ受取證其他必要ナル證據物ヲ添フ可シ
然レトモ協諧契約ノ場合ニ在テハ第一項ノ證明ヲ爲スコト無クシテ取引所ニ立入ルコトヲ得又商事會社ニ付キ協諧契約ノ調ヒタルトキハ無限責任社員若クハ取締役ハ亦其證明ヲ要セスシテ會社ヲ繼續スルコトヲ得
第千五十六條 復權ノ申立アリタルトキハ破產裁判所ハ異議アル者ヲシテ二个月ノ期間ニ異議ヲ起サシメンカ爲メ裁判所ノ揭示場ト取引所トニ其旨ヲ揭示シ且裁判所ノ見込ニ因リ新聞紙ヲ以テ之ヲ公吿シ又調査及ヒ搜査ヲ爲サシメンカ爲メ之ヲ檢事ニ通知ス可シ
裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キタル後復權ノ申立ヲ許可スルト否トヲ決定ス此決定ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得確定シタル決定ハ之ヲ公吿ス
棄却セラレタル申立ハ一个年ノ滿了前ニハ再ヒ之ヲ爲スコトヲ得ス
第千五十七條 復權ハ債務者ノ死亡後ト雖モ之ヲ許ス
第千五十八條 復權ハ詐欺破產ノ爲メニ判決ヲ受ケタル破產者又ハ重罪、輕罪ノ爲メニ剝奪公權若クハ停止公權ヲ受ケテ其時間中ニ在ル破產者ニハ之ヲ許サス
過怠破產ノ場合ニ在テハ復權ハ刑ノ滿期ト爲リ又ハ恩赦ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ許サス
第十一章 支拂猶豫
第千五十九條 商ヲ爲スニ當リ自己ノ過失ナクシテ一時其支拂ヲ中止セサルコトヲ得サルニ至リタル者ハ商事上ノ債權者ノ過半數ノ承諾ヲ得テ其營業所若クハ住所ノ裁判所ヨリ右債權者ニ對スル義務ニ付キ一个年以內ノ支拂猶豫ヲ受クルコトヲ得
第千六十條 支拂猶豫ノ申立ニハ左ノ諸件ヲ添附スルコトヲ要ス
第一 支拂中止ノ事由ノ完全ナル明示
第二 貸借對照表、財產目錄及ヒ住所ト債權額トヲ明示シタル債權者名簿
第三 債權者ニ主タルモノ及ヒ從タルモノノ完全ナル辨償ヲ爲シ得ル方法、期間及ヒ此カ爲メ供スルコトヲ得ル擔保ノ證明
右申立及ヒ添附書類ハ公衆ノ展閱ニ供スル爲メ之ヲ裁判所ニ備置キ且債權者ノ集會期日ヲ定メテ之ト共ニ其備置キタル旨ヲ公吿スルコトヲ要ス債權者ハ集會ノ爲メ各別ニ招集ヲ受ク
支拂猶豫ハ裁判所ヨリ假ニ之ヲ許可スルコトヲ得
第千六十一條 集會期日ニ於テハ裁判所ヨリ任セラレタル主任判事ノ上席ヲ以テ債務者ト債權者トノ間ニ支拂猶豫ノ申立ニ付キ辯論ヲ爲ス其申立ヲ承諾スルニハ第千三十六條ニ揭ケタル過半數ヲ要ス其辯論及ヒ議決ニ付テハ調書ヲ作ル可シ
第千六十二條 裁判所ハ承諾ヲ得タル支拂猶豫ノ認否ニ付キ主任判事ノ演述ヲ聽キテ決定ヲ爲ス此決定ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
支拂猶豫ハ申立ニ因リテ前數條ノ手續ニ從ヒ一囘ニ限リ之ヲ延長スルコトヲ得然レトモ其期間ハ一个年ヲ超ユルコトヲ得ス
第千六十三條 債務者有効ナル支拂猶豫ヲ得タルトキハ猶豫期間中其以前ニ取結ヒタル商取引ヨリ生スル債權ノ爲メニ强制執行及ヒ破產宣吿ヲ受クルコト無シ但猶豫契約ノ履行及ヒ業務ノ施行ニ關シテハ主任判事ノ監督ヲ受ク
債務者ノ保證人及ヒ共同義務者ノ義務ハ右猶豫ノ爲メニ變更スルコト無シ
第千六十四條 支拂猶豫ノ承諾ヲ得ス若クハ裁判所之ヲ棄却シタルトキ又ハ後日ニ至リ債務者ノ詐欺若クハ不正ノ爲メ若クハ法律上ノ條件ノ缺クルカ爲メ之ヲ廢止シタルトキ又ハ債務者ニ於テ其猶豫契約ヲ履行セサルトキ又ハ其猶豫期間中債務者ノ財產ニ付キ他ノ債權者ヨリ强制執行ヲ爲ストキハ直チニ債務者ニ對シテ破產手續ヲ開始ス此場合ニ於テハ支拂猶豫申立ノ日附ヲ以テ支拂停止ノ日ト定ム
朕商法ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
内閣総理大臣兼内務大臣 伯爵 山県有朋
海軍大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
文部大臣 子爵 榎本武揚
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
農商務大臣 岩村通俊
法律第三十二号
商法目録
総則
第一編
商ノ通則
第一章
商事及ヒ商人
第二章
商業登記簿
第三章
商号
第四章
商業帳簿
第五章
代務人及ヒ商業使用人
第六章
商事会社及ヒ共算商業組合
商事会社総則
第一節
合名会社
第一款
会社ノ設立
第二款
会社契約ノ変更
第三款
社員間ノ権利義務
第四款
第三者ニ対スル社員ノ権利義務
第五款
社員ノ退社
第六款
会社ノ解散
第二節
合資会社
第三節
株式会社
第一款
総則
第二款
会社ノ発起及ヒ設立
第三款
会社ノ商号及ヒ株主名簿
第四款
株式
第五款
取締役及ヒ監査役
第六款
株主総会
第七款
定款ノ変更
第八款
株金ノ払込
第九款
会社ノ義務
第十款
会社ノ検査
第十一款
取締役及ヒ監査役ニ対スル訴訟
第十二款
会社ノ解散
第十三款
会社ノ清算
第四節
罰則
第五節
共算商業組合
第七章
商事契約
第一節
契約ノ種類
第二節
契約ノ取結
第三節
契約ノ履行
第四節
価額賠償、損害賠償及ヒ割引
第五節
違約金
第六節
代理
第七節
時効
第八節
交互計算
第九節
質権
第十節
留置権
第十一節
指図証券及ヒ無記名証券
第八章
代弁人、仲立人、仲買人、運送取扱人及ヒ運送人
第一節
総則
第二節
代弁人
第三節
仲立人
第四節
取引所仲立人
第五節
仲買人
第六節
運送取扱人
第七節
運送人
第八節
旅客運送
第九章
売買
第一節
売買契約
第二節
供給契約
第三節
競売
第四節
取戻権
第十章
信用
第一節
消費貸借
第二節
信用約束
第三節
寄託
第十一章
保険
第一節
総則
第二節
火災及ヒ震災ノ保険
第三節
土地ノ産物ノ保険
第四節
運送保険
第五節
生命保険、病傷保険及ヒ年金保険
第六節
保険営業ノ公行
第十二章
手形及ヒ小切手
総則
第一節
為替手形
第一款
振出
第二款
裏書
第三款
引受
第四款
栄誉引受
第五款
保証
第六款
支払
第七款
栄誉支払
第八款
償還請求
第九款
拒証書作成
第十款
戻為替手形
第十一款
資金
第二節
約束手形
第三節
小切手
第二編
海商
第一章
船舶
第二章
船舶所有者
第一節
船舶所有権ノ取得及ヒ移転
第二節
船舶所有者ノ権利及ヒ義務
第三章
船舶債権者
第四章
船長及ヒ海員
第一節
船長
第二節
海員
第五章
運送契約
第一節
船舶賃貸借契約
第二節
船荷証書
第三節
運送賃
第四節
旅客運送
第六章
海損
第七章
冒険貸借
第八章
保険
第一節
保険契約ノ取結
第二節
保険者及ヒ被保険者ノ権利義務
第三節
委棄
第九章
時効
第三編
破産
第一章
破産宣告
第二章
破産ノ効力
第三章
別除権
第四章
保全処分
第五章
財団ノ管理及ヒ換価
第六章
債権者
第一節
債権ノ届出及ヒ確定
第二節
特種ノ債権者
第三節
債権者集会
第七章
協諧契約
第八章
配当
第九章
有罪破産
第十章
破産ヨリ生スル身上ノ結果
第十一章
支払猶予
商法
総則
第一条 商事ニ於テ本法ニ規定ナキモノニ付テハ商慣習及ヒ民法ノ成規ヲ適用ス
第二条 特種ノ商事又ハ商人ノ為メニ発布シタル法律、命令及ヒ規則ノ効力ハ本法ニ因リ妨ケラルルコト無シ
第一編 商ノ通則
第一章 商事及ヒ商人
第三条 商事トハ商人又ハ其他ノ人ノ為シタルニ拘ハラス総テノ商取引及ヒ其他本法ニ規定シタル事項ヲ謂フ
第四条 商取引トハ売買、賃貸又ハ其他ノ取捌ノ方法ニ因リ産物、商品又ハ有価証券ノ転換ヲ以テ利益ヲ得又ハ生計ノ為メニスル旨趣ニテ直接又ハ間接ニ行フ所ノ総テノ権利行為ヲ謂フ殊ニ左ニ掲クルモノハ商取引ニ属ス
第一 産物ノ交換、販売ヲ目的トスル取引
第二 製造、工業及ヒ手職業ニ係ル作業及ヒ取引
第三 人及ヒ物ノ運送ニ係ル作業及ヒ取引
第四 航漕ニ係ル作業及ヒ取引
第五 建築ニ係ル作業及ヒ取引
第六 銀行営業ニ係ル作業及ヒ取引
第七 流通シ得ヘキ信用証券ノ発行及ヒ流通ニ係ル作業及ヒ取引
第八 商ノ為メニ為シ又ハ受クル倉庫寄託及ヒ其他ノ寄託ニ係ル作業及ヒ取引
第九 船舶ノ売買、質入、抵当、構造、修繕、艤装及ヒ乗組ニ係ル作業及ヒ取引
第十 取引所ノ取引
第十一 保険ニ係ル作業及ヒ取引
第五条 其他左ニ掲クルモノハ之ヲ商取引ト看做ス
第一 公ニ開キタル店舗、帳場若クハ其他ノ営業所ニ於テ又ハ公告ヲ為シテ営ム両替及ヒ利息若クハ其他ノ報酬ヲ受クル金銭貸付
第二 新聞紙及ヒ其他ノ定期印刷物ノ発行
第三 商事ニ於ケル各般ノ代理及ヒ委任
第四 公ナル周旋所及ヒ代弁ノ営業
第五 公ナル共歓場及ヒ娯遊場ノ営業
第六 受負作業ノ引受
第六条 商人其営業上ニ於テ取結ヒ又ハ他ノ商人若クハ作業人ト取結ヒタル取引ハ反対ノ証ナキトキハ之ヲ商取引ト看做ス
第七条 左ニ掲クルモノハ之ヲ商取引ト看做サス
第一 所有地又ハ借地ヨリ収穫シタル産物ヲ売ルコト但営業ノ目的ヲ以テセサルモノニ限ル
第二 戸戸ニ就キ又ハ道路ニ於テ物品ヲ売リ又ハ労役ヲ供スルコト但常設ノ営業所ヨリ出ツルモノハ此限ニ在ラス
第三 専ラ労力賃ノミヲ得ル目的ニテ物品ヲ製作シ又ハ労役ヲ為スコト
第四 他人ノ為メニ働作又ハ労役ヲ賃約スルコト但本法中此等ノ契約ニ関スル規定ヲ掲ケサルトキニ限ル
第八条 不動産ニ関スル権利ヲ目的トスル契約ハ商取引トセス但射利ヲ旨趣トスル買得及ヒ転売ハ此限ニ在ラス
第九条 商人トハ総テ商業ヲ営ム者ヲ謂ヒ商業ヲ営ムトハ常業トシテ商取引ヲ為スコトヲ謂フ
農作、牧畜、養蚕、狩猟、捕漁及ヒ採藻ノ業ヲ営ムハ商業ヲ営ムト看做サス
第十条 契約ニ因リ独立シテ義務ヲ負フコトヲ得ル各人ハ一時ノ商取引ナルト常時ノ商業ナルトヲ問ハス総テ商ヲ為スコトヲ得
独立シテ義務ヲ負フコトヲ得サル者ト雖モ其後見人ニ依リ亦商ヲ為スコトヲ得但後見人ハ商業登記簿ニ其登記ヲ受ク可シ
第十一条 男女ヲ問ハス未成年者ニシテ年齢十八歳ニ満チ且父、母又ハ後見人ノ承諾ヲ得テ独立ノ生計ヲ立ツル者ハ商ヲ為スコトヲ得
右ノ未成年者自己ノ為メ商ヲ為サント欲スルトキハ前項ノ要件ヲ明記シ且自己及ヒ父、母又ハ後見人ノ署名捺印シタル陳述書ヲ管轄裁判所ニ差出シ登記ヲ受ク可シ然ルトキハ其登記ノ日ヨリ商事ニ於テ総テノ権利及ヒ義務ニ関シ成年者ト全ク同一ナルモノトス
第十二条 婦ハ其夫ノ明示又ハ黙示ノ承諾ヲ得テ商ヲ為スコトヲ得此承諾ハ其婦カ夫ニ遺棄セラレ又ハ夫ヨリ必要ノ給養ヲ受ケサルトキハ之ヲ得ルコトヲ要セス
婦カ其夫ノ商業ヲ助クルノミニテハ之ヲ商人ト看做サス
第十三条 商ヲ為スコトヲ得ル婦ハ商事ニ於テハ独立人ノ総テノ権利ヲ得義務ヲ負フ
婦ハ商ノ債務ニ付テハ婦ノ財産ニ対シテ夫ニ属スル管理権又ハ其他ノ権利アルニ拘ハラス自己ノ全財産ヲ以テ其責任ヲ負フ但夫ノ承諾ヲ得テ商ヲ為ス場合ニ於テ夫婦間ニ財産共通ノ存スルトキハ共通財産モ亦其責任ヲ負フ
第十四条 夫婦ノ一方カ商ヲ為シ夫婦間ニ財産共通ヲ為ササルトキ又ハ之ヲ解キタルトキハ商業登記簿ニ登記ヲ受クル為メ其事実ヲ管轄裁判所ニ届出ツルコトヲ要ス
夫婦ハ共ニ同一商事会社ノ無限責任社員タルコトヲ得ス
第十五条 法律上禁セラレタル総テノ商取引又ハ法律上特ニ規定セラレタル別段ノ資格ヲ有セサル者ノ為シタル総テノ商取引ハ無効タリ
公務ヲ帯フル者商業ヲ営ムコトヲ禁セラレタル場合ト雖モ其者ノ為シタル取引ハ此理由ノ為メ無効ト為ルコト無シ
第十六条 一方ノ者ノミニ対シテ商取引タル取引ニ付テハ本法ノ規定ヲ双方ニ適用ス但本法中商人ノ身分ニ関スル規定及ヒ反対ノ意ヲ表シタル規定ハ此限ニ在ラス
第十七条 会社及ヒ其他ノ法人カ商業ヲ営ムトキハ亦商業ニ付キ設ケタル規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第二章 商業登記簿
第十八条 商号、後見人、未成年者、婚姻契約、代務及ヒ会社ニ関スル商業登記簿ハ当事者ノ営業所又ハ住所ノ裁判所ニ之ヲ備ヘ登記及ヒ之ニ関スル事務ハ其裁判所之ヲ行フ
前項ノ営業所又ハ住所ヲ他ノ地ニ移シタルトキハ既ニ登記シタル事実カ尚ホ存スル場合ニ限リ移転地ニ於テモ亦更ニ其登記ヲ受ク可シ
第十九条 登記ハ其度毎ニ裁判所ヨリ其地ニ於テ発行スル新聞紙ヲ以テ速ニ之ヲ公告ス可シ其新聞紙ハ予メ一暦年ノ間之ヲ定メ置クコトヲ要ス若シ其地ニ発行ノ新聞紙ナキトキハ其公告ノ方法ハ司法大臣ノ定ムル所ニ依ル又各人ニ商業登記簿ノ縦覧ヲ許シ且手数料ヲ納ムル者ニハ認証シタル謄本ヲ請フコトヲ許ス
登記及ヒ公告ヲ受クル毎ニ手数料ヲ納メシム其額ハ勅令ヲ以テ一定平等ニ之ヲ定ム
第二十条 登記ヲ受ケントスルトキハ当事者ノ署名捺印シタル陳述書ヲ以テ自己又ハ委任状ヲ受ケタル代理人ヨリ届出ツルコトヲ要ス其登記ハ即日又ハ翌日中ニ之ヲ為ス
第二十一条 若シ裁判所ニ於テ登記ヲ拒ミタルトキハ当事者ヨリ其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
登記ノ変更又ハ取消ニ付テモ亦前項ニ同シ
第二十二条 登記シタル事項ハ公ニシテ且裁判所ノ認知シタルモノトス何人ト雖モ毫モ己レノ過失ニ非サルコトヲ証シ得ルニ非サレハ之ヲ知ラサルヲ以テ己レヲ保護スルコトヲ得ス然レトモ其事項ハ他ノ方法ニ因リ之ヲ知得タル者ニ対シテハ登記ノ前後ヲ問ハス其効用ヲ致サシム但権利関係カ登記ニ因リ始メテ生ス可キ例外ノ場合ハ其場所ニ於テ之ヲ定ム
第三章 商号
第二十三条 各商人ハ商号ヲ有シ総テ商業上ニ於テ自己ヲ表示スル為メ之ヲ用ユ若シ一人ニシテ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為ストキハ其各営業ニ付キ各別ノ商号ヲ有スルコトヲ要ス
第二十四条 商号ハ従来屋号ト称スルモノヲ以テスルヲ通例トスト雖モ営業者ノ氏又ハ氏名ヲ以テスルモ妨ナシ
第二十五条 商号ノ登記ヲ請ハントスル者ハ商業登記簿ニ登記ヲ受クルコトヲ得支店アルトキハ其支店ニ付テモ亦同シ
登記ヲ受ケタル商号ノ変更又ハ廃止ハ速ニ其登記ヲ受ク可シ
第二十六条 商号ハ登記ニ因リ同一営業ニ付キ一地域内ニ於テ其専有ノ権利ヲ取得シ他人之ヲ用ユルコトヲ得ス但本法施行以前ヨリ有スル商号ハ従前ノ営業ヲ変セサルモノニ限リ一地域内ニ於テ同一ナルモ妨ナシ
第二十七条 相続ニ因リテ商業ヲ引受クル者又ハ契約ニ因リテ商業ト共ニ商号ヲ引受クル者ハ第七十五条ニ規定シタル場合ヲ除ク外従前ノ商号ヲ続用スルコトヲ得
第二十八条 商号ハ其営業ト共ニスルニ非サレハ他人ニ譲渡スコトヲ得ス
営業ト商号トヲ併セテ譲渡ストキハ其商号ヲ続用スルト之ヲ変更スルトヲ問ハス取引ノ仕残、債務、得意先及ヒ商業帳簿モ共ニ譲渡スモノト看做ス但特約アルトキハ此限ニ在ラス
商号引受ノ通知又ハ公告ノ中ニ特約ヲ明掲セサルトキハ其特約ハ第三者ニ対シテ無効タリ
第二十九条 営業ト商号トヲ併セテ譲渡ス者更ニ其営業ヲ為ササル責務ヲ負担シタルトキハ其責務ノ履行ハ爾後十个年間其一地域内ニ限ル
第三十条 既ニ登記シタル他人ノ商号ヲ濫用シタル者又ハ第二十八条第二項及ヒ第二十九条ニ記載シタル責務ニ背ク者アルトキハ被害者ハ其加害所為ノ停止及ヒ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
第四章 商業帳簿
第三十一条 各商人ハ其営業部類ノ慣例ニ従ヒ完全ナル商業帳簿ヲ備フル責アリ殊ニ帳簿ニ日日其取扱ヒタル取引、他人トノ間ニ成立チタル自己ノ権利義務、受取リ又ハ引渡シタル商品、支払ヒ又ハ受取リタル金額ヲ整斉且明瞭ニ記入シ又月月其家事費用及ヒ商業費用ノ総額ヲ記入ス
小売ノ取引ハ現金売ト掛売トヲ問ハス逐一之ヲ記入スルコトヲ要セス日日ノ売上総額ノミヲ記入ス
第三十二条 各商人ハ開業ノ時及ヒ爾後毎年初ノ三个月内ニ又合資会社及ヒ株式会社ハ開業ノ時及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ動産、不動産ノ総目録及ヒ貸方借方ノ対照表ヲ作リ特ニ設ケタル帳簿ニ記入シテ署名スル責アリ
財産目録及ヒ貸借対照表ヲ作ルニハ総テノ商品、債権及ヒ其他総テノ財産ニ当時ノ相場又ハ市場価直ヲ附ス弁償ヲ得ルコトノ確ナラサル債権ニ付テハ其推知シ得ヘキ損失額ヲ扣除シテ之ヲ記載シ又到底損失ニ帰ス可キ債権ハ全ク之ヲ記載セス
第三十三条 毎半个年又ハ毎半个年内ニ利息又ハ配当金ヲ社員ニ分配スル会社ハ毎半个年ニ前条記載ノ責ヲ尽ス可シ
第三十四条 各商人ハ十个年間商業帳簿ヲ貯蔵シ火災又ハ其他ノ意外ノ事変ニ因リテ喪失又ハ毀損セサルコトニ注意スル責アリ
第三十五条 商人ノ商業帳簿ハ其一身ノ所有物ニシテ破産又ハ会社清算ノ場合ヲ除ク外官権ヲ以テ之ヲ交付セシムルコトヲ得ス
第三十六条 然レトモ相続ニ関スル事件、共通ニ関スル事件、分割ニ関スル事件及ヒ業務取扱ニ関スル争訟ニ付キ当事者ノ申立ニ因リ裁判所ノ命令アルトキハ総テノ商業帳簿ヲ差出ササルコトヲ得ス
第三十七条 争訟中原告又ハ被告ノ申立アルトキハ受訴裁判所ハ相手方ノ商業帳簿ノ開示ヲ命シ其所有者ノ面前ニ於テ右争訟事件ニ関スル記入ノ検閲又ハ時宜ニ因リテ其謄写ヲ為サシム若シ其帳簿カ他ノ地ニ在ルトキハ右裁判所ハ其地ニ就キ又ハ其地ノ裁判所ニ嘱託シテ検閲又ハ謄写ヲ為サシム
第三十八条 何人ニテモ商業帳簿又ハ其中ノ一ヲ開示ス可キ裁判所ノ命令ニ従ハサル者ハ之ヲ以テ証ス可キ争訟事件ニ付キ自己ノ不利ト為ル推定ヲ受ク但其開示セサリシハ自己ノ過失ニ非サルコトヲ証シ又ハ疏明シ得ルトキハ此限ニ在ラス
第三十九条 商業帳簿ノ記入ノ証拠力ハ裁判所事情ヲ斟酌シテ之ヲ判決ス然レトモ其記入ノミヲ以テ記入者ノ利益ト為ル可キ十分ノ証ト為スコトヲ得ス但相手方ニ於テモ亦其記入ヲ援用シタルトキ又ハ相手方カ商人ニシテ自己ノ帳簿ニ於ケル反対ノ記入ヲ以テ之ニ対抗シ能ハサルトキ又ハ相手方ニ於テ其不正ナルコトヲ少シニテモ信認セシメ得サルトキハ此限ニ在ラス
相手方其記入ヲ援用シタル場合ニ於テ之ト連絡セル記入アルトキモ亦同シ
第四十条 原告被告双方ノ商業帳簿ノ記入相牴触シテ解明シ能ハサルトキニ於テモ亦裁判所ハ事情ヲ斟酌シテ其証拠物ヲ全ク擲棄スルト否ト又ハ一方ノ帳簿ニ一層ノ信用ヲ置クト否トヲ判決ス
第四十一条 商業帳簿カ十分ノ証ト為ラサル総テノ場合ニ於テハ裁判所カ事情ヲ斟酌シテ定ム可キ他ノ証拠ヲ以テ之ヲ補充スルコトヲ得
第五章 代務人及ヒ商業使用人
第四十二条 何人ニテモ商業ヲ営ム者ハ本店又ハ支店ニ明示ノ委任ヲ以テ一人又ハ数人ノ代務人ヲ置クコトヲ得但其委任ハ別ニ定式ヲ要セス
代務ノ委任及ヒ其解任ハ商業登記簿ニ其登記ヲ受ク可シ
第四十三条 代務ハ何時ニテモ之ヲ解任シ又ハ代務人ヨリ之ヲ辞スルコトヲ得又其委任時期ノ満了ニ因リ又ハ代務人ト取結ヒタル雇傭契約ノ絶止ニ因リ又ハ其委任ヲ為シタル営業ノ譲渡若クハ廃止ニ因リテ自ラ消滅ス然レトモ商業主人ノ死亡ニ因リテハ消滅セス
代務人其委任ノ終リタル後ニ為シタル取引ハ代務人其終リタルコトヲ知ラサルトキニ限リ有効タリ
第四十四条 数人共同ニ委任ヲ受ケタル代務ハ総員共同ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス此代務ハ其一人ニ付テ消滅シタルトキハ他ノ各人ニ付テモ亦消滅ス
第四十五条 代務ノ委任ニハ商業主人ノ商号ヲ用井且之ニ代リ裁判上ト裁判外トヲ問ハス其商業ニ関スル総テノ商取引及ヒ権利行為ヲ為シ得ル権力ノ授与ヲ包含ス
代務権ニ制限ヲ立ツルモ其制限ハ第三者ニ対シテ無効タリ但第三者其制限アルコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第四十六条 代務ハ無期ニテモ又或ル時期ニ達シ若クハ或ル事件ノ生スルヲ限トシテモ又有期ニテモ之ヲ委任スルコトヲ得但解任及ヒ辞任ノ権利ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第四十七条 代務人ハ代務権ノ全部若クハ一分ヲ他人ニ転付スルコトヲ得ス但商業使用人ヲ置ク権アリ
第四十八条 商業主人ハ代務人カ其主人ノ営業上ニ於テ為シタル取引及ヒ行為ニ因リテ特リ直接ニ権利ヲ得義務ヲ負フ但主人ノ之ヲ承諾シタルト否ト又ハ主人ノ名ヲ以テ為シタルト否トヲ問フコト無シ又代務人カ其主人ノ営業上ニ於テ為シタル不法ノ行為又ハ代務人カ自己ノ名ヲ以テ取結ヒタル取引ト雖モ其時ノ情況及ヒ相手方ノ意思ニ因リ主人ノ計算ヲ以テ為シタリトス可キモノニ付テハ亦同シ
第四十九条 何人ニテモ代務委任ヲ偽称シ又ハ代務委任ヲ踰越シテ取引ヲ取結ヒタル者ハ相手方ニ対シテ其択ニ従ヒ取引履行又ハ損害賠償ノ責任ヲ自己ニ負フ其代務委任踰越ノ場合ニ於テ第四十五条第二項ニ従ヒテ商業主人其義務ヲ負フ可キトキハ主人モ亦之カ責ニ任セサルコトヲ得ス然レトモ此場合ニ於テハ主人又ハ代務人ノ中一方ノミニ対シテ其取引ノ効用ヲ致サシムルコトヲ得
相手方ニ於テ代務委任ノ欠欠ヲ知テ為シタル取引ハ双方ニ在テ無効タリ
第五十条 代務人ハ自己ノ計算ニテモ又第三者ノ計算ニテモ商ヲ為スコトヲ得ス若シ此成規ニ背キタルトキハ第六十三条ニ定メタル結果ノ外商業主人ノ求ニ従ヒ其商取引ヲ主人ノ計算ニ移シ且損害アラハ之ヲ賠償スルコトヲ要ス
第五十一条 何人ニテモ商業上商業主人ノ業務ヲ弁センカ為メニ商業使用人トシテ置カレタル者ハ特別ノ委任ヲ受ケスト雖モ通常其担当職分ノ範囲内ニ属ス可キ総テノ取引及ヒ行為ヲ主人ノ為メニ十分ノ効力ヲ以テ為スコトヲ得使用人カ営業ノ全部若クハ一分ノ為メニ置カレタルト否ト又ハ或種ノ取引若クハ一箇ノ取引ノ為メニ置カレタルト否トヲ問ハス其取引及ヒ行為ニ因リテ主人独リ権利ヲ得義務ヲ負フ
使用人カ主人ノ為メニ訴訟ヲ為シ又ハ裁判所ニ出テ或ル行為ヲ為スハ特別ノ委任ヲ受ケタルトキニ限ル
使用人署名スルトキハ主人ノ代理タル旨ヲ書添フルコトヲ要ス
第五十二条 商業使用人カ商業主人ノ為メニ店舗、倉庫及ヒ其他ノ営業場ニ於テ或ル業務ヲ弁スルトキ又ハ他所ニ送遣セラルルトキ又ハ帳場ニ於テ第三者ト取引ヲ為スニ際シ主人ヨリ制止セラレス若クハ第三者ノ問ヲ受ケテ己レ之ヲ為ス権アリト答ヘタルトキハ殊ニ其職分ノ範囲ニ付キ置カレタルモノト看做サル
第五十三条 商業使用人ヲ商業主人ノ代人トシテ之ト取引ヲ為シタル第三者カ善意ナルニ於テハ使用人其受ケタル委任ニ依ラサルモ又指定セラレタル方法ニ依ラサルモ其取引ハ第三者ニ対シテ有効タリ
第五十四条 商業主人カ商業使用人ヲシテ商慣習ニ定マレル職分ノ範囲ヲ拡メテ其代理ヲ為サシメントスルトキハ此カ為メ特別ノ委任ヲ為シ且相当ノ方法ヲ以テ之ヲ第三者ニ告知スルコトヲ要ス殊ニ商業通信書又ハ手形及ヒ其他ノ債務証書ニ於ケル使用人ノ署名カ主人ヲ羈束ス可キトキハ右ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五十五条 営業場ニ於テ第三者カ善意ヲ以テ商業使用人ニ対シテ金銭ノ受渡ヲ為シタルトキハ何レノ場合ヲ問ハス商業主人之ヲ承認スル義務アリ商品、証券及ヒ其他ノ有価物ニ付テモ亦同シ
受取ノ証アル勘定書及ヒ其他ノ受取証書ヲ持参スル者ハ払金及ヒ其他書中記載ノ物ヲ受取ル権アルモノト看做サル但情況ニ因リテ右ニ異ナレル推定ヲ為ス可キトキハ此限ニ在ラス
第五十六条 商業使用人ハ其職分上ノ権ヲ他人ニ転付スルコトヲ得ス又商業主人ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ他人ヲ代理トシテ其権ノ全部若クハ一分ヲ行ハシムルコトヲ得ス但商慣習ニ於テ代理ヲ許スモノハ此限ニ在ラス
第五十七条 第四十五条第二項、第四十八条、第四十九条及ヒ第五十条ノ規定ハ商業使用人ニモ亦之ヲ適用ス
第五十八条 商業主人ト商業使用人トノ間ノ権利関係ニシテ其雇傭ニ関スルモノハ本法ニ規定シタルモノヲ除ク外雇傭契約ノ原則ニ従ヒ之ヲ定ム
第五十九条 期限ヲ定メスシテ取結ヒタル雇傭契約ハ双方何時ニテモ之ヲ解ク予告ヲ為スコトヲ得但其予告ハ一个月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス
商業主人若クハ商業使用人ノ終身ヲ期シ又ハ之ト同視ス可キ長キ期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ期限ヲ定メサルモノト看做ス
第六十条 期限ヲ定メテ取結ヒタル雇傭契約ハ双方ノ承諾アルニ非サレハ其期間満了ノ前ニ之ヲ解クコトヲ得ス但法律ニ依リ其期限前ニ辞任又ハ解任ヲ為シ得ヘキ場合ハ此限ニ在ラス
雇傭期限中ハ商業主人ニ於テ商業使用人ヲ全ク使役セス又ハ僅カニ使役スト雖モ使用人ハ契約上ノ給料又ハ各地慣習ノ給料ヲ受クル権利アリ
第六十一条 商業使用人カ雇傭期限中疾病ニ罹リ又ハ其他ノ事故ニ因リテ二个月以上業務ニ就クニ耐ヘサルトキハ之ヲ解任スルコトヲ得
第六十二条 商業使用人カ就業中疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ被ムルモ商業主人ノ過失ニ因ラサルトキハ主人ヨリ治療費ヲ給シ又ハ償金ヲ与フル義務ナシ
第六十三条 商業使用人ヲ何時ニテモ解任シ得ヘキ場合左ノ如シ
第一 不実ノ行為ヲ為シ又ハ己レニ受ケタル信任ニ背キタルトキ
第二 自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ取引ヲ為シタルトキ但些少ノ取引ハ此限ニ在ラス
第三 正当ノ理由ナクシテ其命セラレタル仕事ヲ為スコト及ヒ総テ己レノ負担シタル義務ヲ履行スルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ怠リタルトキ
第四 不当ノ挙動又ハ不品行ノ為メニ指斥ヲ受ケタルトキ
第六十四条 商業主人カ商業使用人ニ相当ノ給料ヲ与ヘス又ハ之ニ違法若クハ不善ノ業務ヲ命シ又ハ其身体ノ安全、健康若クハ名誉ヲ害シ若クハ害セントスル取扱ヲ為ストキハ使用人ハ何時ニテモ辞任スルコトヲ得
若シ使用人独立シテ営業ヲ始メントスルトキハ期限前ト雖モ第五十九条ニ掲ケタル予告期間ニ従フニ於テハ亦辞任スルコトヲ得
第六十五条 雇傭契約ハ商業主人ノ死亡ニ因リテ終ラス然レトモ商業使用人ノ雇入レラレタル其営業ノ廃止ニ因リテ終ル但其営業ヲ他人ニ移サントスルトキハ第五十九条ニ従ヒ双方予告ノ権利ヲ有ス
第六章 商事会社及ヒ共算商業組合
商事会社総則
第六十六条 商事会社ハ共同シテ商業ヲ営ム為メニノミ之ヲ設立スルコトヲ得
第六十七条 法律ニ背キ又ハ禁止セラレタル事業ヲ目的トスル会社ハ初ヨリ無効タリ
若シ会社ノ営業カ公安又ハ風俗ヲ害ス可キトキハ裁判所ハ検事若クハ警察官ノ申立ニ因リ又ハ職権ニ依リ其命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得但其命令ニ対シ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第六十八条 法律、命令ニ依リ官庁ノ許可ヲ受ク可キ営業ヲ為サントスル会社ハ其許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ設立スルコトヲ得ス
株式会社ニ関シテハ第三節ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第六十九条 会社ノ設立ハ適当ナル登記及ヒ公告ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ対シテ会社タル効ナシ
第七十条 会社ハ商号ヲ設ケ社印ヲ製シ定マリタル営業所ヲ設クルコトヲ要ス
第七十一条 社印ニハ商号ヲ刻シ其印鑑ヲ商業登記簿ニ添ヘテ保存スル為メ之ヲ第十八条ニ掲ケタル裁判所ニ差出スコトヲ要ス社印ヲ変更シ又ハ改刻スルトキモ亦此手続ヲ為ス
第七十二条 商号及ヒ社印ハ官庁ニ宛テタル文書又ハ報告書、株券、手形及ヒ会社ニ於テ権利ヲ得義務ヲ負フ可キ一切ノ書類ニ之ヲ用ユ
第七十三条 会社ハ特立ノ財産ヲ所有シ又独立シテ権利ヲ得義務ヲ負フ殊ニ其名ヲ以テ債権ヲ得債務ヲ負ヒ動産、不動産ヲ取得シ又訴訟ニ付キ原告又ハ被告ト為ルコトヲ得
第一節 合名会社
第一款 会社ノ設立
第七十四条 二人以上七人以下共通ノ計算ヲ以テ商業ヲ営ム為メ金銭又ハ有価物又ハ労力ヲ出資ト為シテ共有資本ヲ組成シ責任其出資ニ止マラサルモノヲ合名会社ト為ス
第七十五条 商号ニハ総社員又ハ其一人若クハ数人ノ氏ヲ用井之ニ会社ナル文字ヲ附ス可シ
会社若シ現存セル他人ノ営業ヲ引受クルトキハ其旧商号ヲ続用スルコトヲ得ス
第七十六条 社員ノ退社シタル後ト雖モ従前ノ商号ヲ続用スルコトヲ得但退社員ノ氏ヲ商号中ニ続用セントスルトキハ本人ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ス
第七十七条 会社ハ書面契約ニ因リテノミ之ヲ設立スルコトヲ得其契約書ハ総社員之ニ連署シ各自一通ヲ所持ス
右ノ規定ハ会社契約ノ変更ニ於テモ亦之ヲ遵守ス
第七十八条 会社ハ設立後十四日内ニ本店及ヒ支店ノ地ニ於テ其登記ヲ受ク可シ
第七十九条 登記及ヒ公告ス可キ事項左ノ如シ
第一 合名会社ナルコト
第二 会社ノ目的
第三 会社ノ商号及ヒ営業所
第四 各社員ノ氏名、住所
第五 設立ノ年月日
第六 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第七 業務担当社員ヲ特ニ定メタルトキハ其氏名
第八十条 前条ニ掲ケタル一箇又ハ数箇ノ事項ニ変更ヲ生シ又ハ合意ヲ以テ変更ヲ為シタルトキハ七日内ニ其登記ヲ受ク可シ
第八十一条 会社ハ登記前ニ開業スルコトヲ得ス之ニ違フトキハ裁判所ノ命令ヲ似テ其営業ヲ差止ム但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第八十二条 会社其登記ノ日ヨリ六个月内ニ開業セサルトキハ其登記及ヒ公告ハ無効タリ
第二款 会社契約ノ変更
第八十三条 会社契約ハ総社員ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス其承諾ナキトキハ契約ノ従前ノ規定ニ従フ
第八十四条 会社契約ノ規定ニシテ会社ノ施行セサリシモノハ社員又ハ第三者ニ対シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得ス
第三款 社員間ノ権利義務
第八十五条 社員間ノ権利義務ハ本法及ヒ会社契約ニ因リテ定マルモノトス
第八十六条 会社ノ目的ニ反セサルモ之ニ異ナル業務及ヒ事項ニ付テハ業務担当ノ任アル総社員ノ承諾ヲ要ス
第八十七条 会社契約ノ規定ノ施行ニ関スル事項ハ業務担当ノ任アル社員ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス
第八十八条 会社ノ業務ヲ行ヒ及ヒ其利益ヲ保衛スルニ付テハ各社員同等ノ権利ヲ有シ義務ヲ負フ但会社契約ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第八十九条 社員ノ議決権ハ其出資ノ額ニ応シテ等差ヲ立ツルコトヲ得ス
第九十条 業務担当ノ任ナキ社員ハ何時ニテモ業務ノ実況ヲ監視シ会社ノ帳簿及ヒ書類ヲ検査シ且此事ニ関シ意見ヲ述フルコトヲ得
第九十一条 業務担当ノ任アル各社員ハ代務ノ委任又ハ解任ヲ為ス権利アリ
第九十二条 各社員ハ会社ニ対シ正整ナル商人ノ自己ノ事務ニ於テ為スト同シキ勉励注意ヲ為ス責務アリ其責務ニ背キ会社ニ損害ヲ生セシメタルトキハ之ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九十三条 社員ノ差入レタル金銭又ハ有価物ノ出資ハ契約ニ定メタル評価額ヲ附シテ会社ノ財産目録ニ記入シ会社ノ所有ニ帰ス
第九十四条 社員其負担シタル出資ヲ差入ルルコト能ハサルトキハ除名セラレタルモノト看做ス但総社員ノ承諾ヲ得テ他ノ出資ヲ差入ルルトキハ此限ニ在ラス
第九十五条 社員其負担シタル出資ヲ差入レサルトキハ会社ハ之ヲ除名スルト年百分ノ七ノ利息ヲ払ハシムルトヲ択ミ尚ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第九十六条 社員ハ契約上ノ額外ニ出資ヲ増シ又ハ損失ニ因リテ減シタル出資ヲ補充スル義務ナシ
第九十七条 社員ハ総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其出資又ハ会社財産中ノ持分ヲ減スルコトヲ得ス
第九十八条 社員ハ総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ第三者ヲ入社セシメ又ハ第三者ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシムルコトヲ得ス
社員ノ相続人又ハ承継人ハ契約ニ於テ反対ヲ明示セサルトキハ其社員ノ地位ニ代ハルコトヲ得但総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ業務ヲ担当スル権利ナシ
第九十九条 社員ヨリ他人ニ為シタル持分ノ譲渡ハ会社及ヒ第三者ニ対シテ其効ナシ
第百条 社員其持分ニ他人ヲ加入セシムルトキハ其関係ハ共算商業組合ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム
第百一条 社員カ会社ニ消費貸ヲ為シ又ハ会社ノ為メニ立替金ヲ為シタルトキハ年百分ノ七ノ利息ヲ求ムルコトヲ得又社員カ業務施行ノ為メ直接ニ受ケタル損失ニ付テハ其補償ヲ求ムルコトヲ得
第百二条 会社契約ニ於テ明示ノ合意ナキトキハ社員ハ業務施行ノ勤労ニ付キ其報酬ヲ求ムルコトヲ得ス然レトモ労力ヲ出資ト為シタル社員其負担シタル出資外ニ為シタル労力ニ付テハ相当ノ報酬ヲ求ムルコトヲ得
第百三条 社員カ会社ノ為メニ受取リタル金銭ヲ相当ノ時日内ニ会社ニ引渡サス又ハ会社ノ金銭ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ会社ニ対シテ年百分ノ七ノ利息ヲ払ヒ且如何ナル損害ヲモ賠償スル義務アリ
第百四条 社員ハ総社員ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ自己ノ計算ニテモ又第三者ノ計算ニテモ会社ノ商部類ニ属スル取引ヲ為シ又ハ之ニ与カルコトヲ得ス之ニ背キタルトキハ会社ハ其択ニ従ヒ其社員ヲ除名シ又ハ其取引ヲ会社ニ引受ケ尚ホ其孰レノ場合ニ於テモ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第百五条 各社員ノ会社ノ損益ヲ共分スル割合ハ契約ニ於テ他ノ準率ヲ定メサルトキハ其出資ノ価額ニ準ス
出資ト為シタル労力ノ価額ヲ契約ニ於テ定メサルトキハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第百六条 社員カ業務担当ノ任ナクシテ業務担当ノ所為ヲ為シ又ハ会社ニ対シテ詐欺ヲ行ヒ又ハ其他会社ニ対シテ主要ノ責務ヲ甚シク欠キタルトキハ会社ハ之ヲ除名シ且損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第百七条 社員カ会社契約ニ依リ又ハ本法ノ規定ニ依リテ会社ノ為メニ為シタル総テノ行為及ヒ取引ハ各社員互ニ之ヲ承認スル義務アリ
第四款 第三者ニ対スル社員ノ権利義務
第百八条 会社ハ業務担当ノ任アル社員ノ明示シテ会社ノ為メニ為シ又ハ事実会社ノ為メニ為シタル総テノ行為ニ因リテ直接ニ権利ヲ得義務ヲ負フ
第百九条 会社ノ権利ハ業務担当ノ任アル社員裁判上ト裁判外トヲ問ハス之ヲ主張シ又ハ有効ニ之ヲ処分スルコトヲ得
第百十条 第三者ニ対スル会社ノ義務ハ第三者ヨリ業務担当ノ任アル各社員ニ対シテ其履行ヲ求ムルコトヲ得
第百十一条 業務担当ノ任アル社員ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ第三者ニ対シテ其効ナシ
第百十二条 会社ノ義務ニ付テハ先ツ会社財産之ヲ負担シ次ニ各社員其全財産ヲ以テ不分ニテ之ヲ負担ス
第百十三条 社員ニ非スシテ商号ニ其氏ヲ表スルコトヲ承諾シ若クハ之ヲ表スルニ任セ又ハ会社ノ業務ノ施行ニ与カリ又ハ事実社員タルノ権利義務ヲ有スル者ハ社員ト同シク連帯無限ノ責任ヲ負フ
第百十四条 商業使用人又ハ代務人ハ其給料ノ全部又ハ一分ヲ一定又ハ不定ノ利益配当ニ因リテ受クルモノト雖モ前条ノ者ト同視セス
第百十五条 新ニ入社スル社員ハ契約上他ノ定ナキトキハ其入社前ニ生シタル会社ノ義務ニ付テモ責任ヲ負フ
第百十六条 会社財産ニ属スル物ハ社員ノ債権者其債権ノ為メ之ヲ請求スルコトヲ得ス但差入前ニ於テ其物ニ付キ第三者ノ為メ権利ノ設定セラレタルトキハ此限ニ在ラス
第百十七条 社員ノ債権者ハ社員自ラ要求シ得ヘキ利息又ハ配当金ノミヲ会社ニ対シテ要求スルコトヲ得
然レトモ社員ノ持分ハ社員ノ退社又ハ会社解散ノ場合ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第百十八条 会社ニ対スル債務ト社員ニ対スル債権ト又会社ニ対スル債権ト社員ニ対スル債務トノ相殺ハ会社財産ノ分割前ニ在テハ之ヲ為スコトヲ得ス
第百十九条 社員ノ持分ヲ減シタル為メ会社ノ債権者カ其会社財産ヨリ得ヘキ弁償ヲ減損セラレ又ハ支障セラレタルトキハ減少ノ時ヨリ二个年内ニ在テハ其減少ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得
第五款 社員ノ退社
第百二十条 社員ハ会社契約カ有期ナルトキハ総社員ノ承諾ヲ要シ無期又ハ終身ナルトキハ其承諾ヲ要セスシテ任意ニ退社スルコトヲ得
其退社ハ六个月前ニ予告ヲ為シタル上事業年度ノ末ニ限ル但急速ニ退社ス可キ重要ノ事由アルトキハ此限ニ在ラス
第百二十一条 右ノ外社員ハ左ノ諸件ニ因リテ退社ス
第一 除名
第二 死亡但亡社員ノ地位ニ代ハル可キ相続人又ハ承継人ナキ時ニ限ル
第三 破産
第四 能力ノ喪失但特約ナキトキニ限ル
第百二十二条 社員退社スル毎ニ会社ハ七日内ニ其理由ヲ附シタル登記ヲ受ク可シ
第百二十三条 会社ハ退社員ノ為メ特ニ作リタル貸借対照表ニ依リ退社ノ時ノ割合ヲ以テ其持分ヲ退社員又ハ其相続人若クハ承継人ニ払渡スコトヲ要ス
退社前ノ取引ニシテ未タ結了セサルモノハ其結了ノ後之ヲ計算スルコトヲ得
第百二十四条 退社員ノ持分ノ価直ハ特約アルニ非サレハ其出資ノ何種類タルヲ問ハス金銭ノミニテ之ヲ払渡ス
労力ノ出資又ハ其他退社ト共ニ終止スル出資ニ付テハ特約アルニ非サレハ之ニ対スル報償ヲ為ス義務ナシ
第百二十五条 退社員ハ退社前ニ係ル会社ノ義務ニ付テハ退社後二个年間仍ホ全財産ヲ以テ其責任ヲ負フ
第九十八条ノ場合ニ於テ第三者ヲシテ己レノ地位ニ代ハラシメタル者ニ付テモ亦前項ヲ適用ス
第六款 会社ノ解散
第百二十六条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ解散ス
第一 会社存立時期ノ満了
第二 会社契約ニ定メタル解散事由ノ起発
第三 総社員ノ承諾
第四 会社ノ破産
第五 裁判所ノ命令
第百二十七条 第六十七条ニ掲ケタル場合ノ外会社其目的ヲ達スルコト能ハス又ハ会社ノ地位ヲ維持スルコト能ハサルノ理由ヲ以テ一人又ハ数人ノ社員ヨリ会社ノ解散ヲ申立ツルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ解散セシムルコトヲ得
会社ノ地位ヲ維持スルコト能ハサル場合ニ於テ会社ノ解散ニ換ヘテ或ル社員ヲ除名ス可キコトヲ他ノ総社員ヨリ相当ノ理由ヲ以テ申立ツルトキハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ除名スルコトヲ得
前二項ニ掲ケタル裁判所ノ命令ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第百二十八条 第百二十六条ノ第一号第二号ニ記載シタル場合ニ於テハ総社員又ハ社員ノ一分ニテ会社ヲ保続スルコトヲ得但社員ノ一分ニテ保続シタルトキハ其離脱シタル社員ハ退社シタルモノト看做ス
第百二十九条 会社解散スルトキハ破産ノ場合ヲ除ク外総社員ノ多数決ヲ以テ清算人一人又ハ数人ヲ任シ七日内ニ解散ノ原由、年月日及ヒ清算人ノ氏名、住所ノ登記ヲ受ク可シ
第百三十条 清算人ハ会社ノ現務ヲ結了シ会社ノ義務ヲ履行シ未収ノ債権ヲ行用シ現存ノ財産ヲ売却ス又清算人ハ清算ノ目的ヲ超エテ営業ヲ保続シ又ハ新ニ取引ヲ為スコトヲ得ス又清算人ハ裁判上会社ヲ代理シ且会社ノ為メ和解契約及ヒ仲裁契約ヲ為スコトヲ得
第百三十一条 清算人ノ権ハ社員之ヲ制限スルコトヲ得ス且重要ナル事由ニ基ク社員ノ申立ニ因リ裁判所ノ命令ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ解任スルコトヲ得ス但其命令ニ対シ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第百三十二条 清算人ハ委任事務ヲ履行シタル後社員ニ計算ヲ報告シ第百五条及ヒ第百二十四条ノ規定ニ準シ会社財産ヲ社員ニ分配ス又清算中ト雖モ自由ト為リタル財産ハ之ヲ社員ニ分配スルコトヲ得
第百三十三条 社員ニ分配ス可キ物ハ会社ノ総テノ義務ヲ済了スルニ要セサル会社財産ニ限ル
第百三十四条 解散シタル会社ノ商業帳簿及ヒ其他ノ書類ハ社員第三十四条ノ規定ニ従ヒ之ヲ処分ス
第百三十五条 会社ノ義務ニ対スル社員ノ無限責任ハ其義務ニ付キ五个年未満ノ時効ノ定ナキトキニ限リ解散後五个年ノ満了ニ因リテ時効ニ罹ル但債権者カ未タ分配セラレサル会社財産ニ対シテ請求ヲ為ストキハ此限ニ在ラス
第二節 合資会社
第百三十六条 社員ノ一人又ハ数人ニ対シテ契約上別段ノ定ナキトキハ社員ノ責任カ金銭又ハ有価物ヲ以テスル出資ノミニ限ルモノヲ合資会社ト為ス
合資会社ノ社員ノ数ハ之ヲ制限セス
第百三十七条 合資会社ハ本節ニ定メタル規定ノ外総テ合名会社ノ規定ニ従フ
第百三十八条 合資会社ノ登記及ヒ公告ニハ第七十九条ノ第二号乃至第六号ニ列記シタルモノノ外尚ホ左ノ事項ヲ掲クルコトヲ要ス
第一 合資会社ナルコト
第二 会社資本ノ総額
第三 各社員ノ出資額
第四 無限責任社員アルトキハ其氏名
第五 業務担当社員又ハ取締役アルトキハ其氏名及ヒ其責任ノ有限又ハ無限ナルコト
第百三十九条 商号ニハ社員ノ氏ヲ用ユルコトヲ得ス但無限責任社員ノ氏ハ此限ニ在ラス又商号ニハ何レノ場合ニ於テモ合資会社ナル文字ヲ附ス可シ
若シ商号ニ社員ノ氏ヲ用井タルトキハ其社員ハ此カ為メ当然会社ノ義務ニ対シテ無限ノ責任ヲ負フ
第百四十条 無限責任ノ社員、取締役ヲ除ク外社員ハ自己ノ計算又ハ第三者ノ計算ニテ会社ノ商部類ニ属スル取引ヲ為シ又ハ之ニ与カルコトヲ得
第百四十一条 各社員ハ契約上他ノ定ナキトキハ同等ニ会社ヲ代理スル権利義務ヲ有ス
第百四十二条 社員七人ヲ超ユル会社ニ在テハ其契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ数人ノ取締役ヲ任シ又設立後七人ヲ超ユルトキハ会社ノ決議ヲ以テ之ヲ任ス但其決議ノ効力ハ総社員四分三以上ノ多数決ニ依リテ生ス
取締役ハ何時ニテモ会社ノ決議ニ依リテ解任セラルルコト有ル可シ其決議ノ効力ハ亦総社員四分三以上ノ多数決ニ依リテ生ス
第百四十三条 業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ハ裁判上ト裁判外トヲ問ハス総テ会社ノ事務ニ付キ会社ヲ代理スル専権ヲ有ス然レトモ会社契約又ハ会社ノ決議ニ依リテ羈束セラル
数人ノ業務担当社員又ハ取締役アル場合ニ於テ各別ニ業務ヲ取扱フコトヲ得ルモノタリヤ又ハ其総員若クハ数人共同ニ非サレハ之ヲ取扱フコトヲ得サルモノタリヤハ会社契約又ハ会社ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第百四十四条 業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ善意ヲ以テ之ト取引ヲ為シタル第三者ニ対シテ其効ナシ
第百四十五条 有限責任社員ハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ認可ヲ得テ其持分ヲ他人ニ譲渡スコトヲ得此場合ニ於テハ取得者ハ譲渡人ノ権利義務ヲ襲承ス
第百四十六条 会社契約ニ於テ又ハ第百四十二条ニ定メタル会社ノ決議ニ依リテ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ総員、数人若クハ一人カ其業務施行中ニ生シタル会社ノ義務ニ付キ無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ予メ定ムルコトヲ得
第百四十七条 前条ニ掲ケタル無限ノ責任ハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ノ退任後一个年ノ満了ニ因リテ消滅ス
第百四十八条 業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ハ毎年少ナクトモ一回通常総会ヲ招集シ其他業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ニ於テ必要ト認ムルトキ又ハ総社員四分一以上ノ申立アルトキハ臨時総会ヲ招集ス可シ
第百四十九条 総会ヲ招集スルニハ会日ヨリ少ナクトモ七日前ニ各社員ニ会議ノ目的ヲ通知シ及ヒ提出ス可キ書類ヲ送付スルコトヲ要ス
第百五十条 事業年度ノ終リタル後直チニ通常総会ヲ開キ其年度ノ貸借対照表及ヒ事業並ニ其成果ノ報告書ヲ社員ニ提出シテ検査及ヒ認定ヲ受ク其認定ハ出席社員ノ多数決ニ依ル
第百五十一条 臨時総会ニ於テ議ス可キ事項ハ総社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス
然レトモ合名会社ニ在テ総社員ノ承諾ヲ要ス可キ事項ハ総社員四分三以上ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス此場合ニ於テハ不同意ノ社員ハ直チニ退社スル権利アリ
第百五十二条 前条ニ掲ケタル決議ニ要スル定数ノ社員出席セサルトキハ其総会ニ於テ仮ニ決議ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ其決議ヲ総社員ニ通知シテ再ヒ総会ヲ招集ス其通知ニハ若シ第二ノ総会ニ於テ出席社員ノ多数ヲ以テ第一ノ総会ノ決議ヲ認可シタルトキハ之ヲ有効ト為ス可キ旨ヲ明告スルコトヲ要ス
第百五十三条 利息又ハ配当金ハ会社資本額カ損失ニ因リテ減シタル間ハ之ヲ社員ニ払渡スコトヲ得ス
第三節 株式会社
第一款 総則
第百五十四条 会社ノ資本ヲ株式ニ分チ其義務ニ対シテ会社財産ノミ責任ヲ負フモノヲ株式会社ト為ス
第百五十五条 株式会社ハ其目的カ商業ヲ営ムニ在ラサルモノモ亦之ヲ商事会社ト看做ス
第百五十六条 株式会社ハ七人以上ヲ以テシ且政府ノ免許ヲ得ルニ非サレハ之ヲ設立スルコトヲ得ス
第二款 会社ノ発起及ヒ設立
第百五十七条 株式会社ハ四人以上ニ非サレハ之ヲ発起スルコトヲ得ス
発起人ハ目論見書及ヒ仮定款ヲ作リ各自之ニ署名捺印ス
定款ハ本法ノ規定ニ牴触スルコトヲ得ス
第百五十八条 目論見書ニ記載ス可キ事項左ノ如シ
第一 株式会社ナルコト
第二 会社ノ目的
第三 会社ノ商号及ヒ営業所
第四 資本ノ総額、株式ノ総数及ヒ一株ノ金額
第五 資本使用ノ概算
第六 発起人ノ氏名、住所及ヒ発起人各自ノ引受クル株数
第七 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第百五十九条 発起人ハ会社ヲ設立ス可キ地ノ地方長官ヲ経由シテ目論見書及ヒ仮定款ヲ主務省ニ差出シ発起ノ認可ヲ請フコトヲ要ス
第百六十条 発起人ハ前条ノ認可ヲ得タルトキハ目論見書ヲ公告シテ株主ヲ募集スルコトヲ得
其公告中ニハ法律ニ規定シタル発起ノ認可ヲ得タル旨及ヒ其認可ノ年月日ト各株式申込人ニ仮定款ヲ展閲セシムル旨トヲ附記ス
第百六十一条 株式ノ申込ヲ為スニハ申込人其引受クル株数ヲ株式申込簿ニ記入シテ之ニ署名捺印ス又其申込ハ署名捺印シタル陳述書ノ送附ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
代人ヲ以テ申込ムトキハ委任者ノ氏名ニ代人其氏名ヲ附記シテ之ニ捺印ス
第百六十二条 株式ノ申込ニ因リテ申込人ハ会社設立スルニ至レハ定款ニ従ヒ各株式ニ付テノ払込ヲ為ス可キ義務ヲ負フ
第百六十三条 総株式ノ申込アリタル後ハ発起人ハ創業総会ヲ開ク可シ其総会ニ於テハ少ナクトモ総申込人ノ半数ニシテ総株金ノ半額以上ニ当ル申込人ノ承認ヲ経テ定款ヲ確定ス
第百六十四条 創業総会ニ於テハ創業ノ為メ発起人ノ為シタル契約及ヒ出費ノ認否ヲ議定シ又有価物ノ出資ヲ差入レテ株式ヲ受ク可キ者アルトキハ其価格ヲ議定ス
前項ノ議定ハ少ナクトモ総申込人ノ半数ニシテ総株金ノ半額以上ニ当ル申込人出席シ其議決権ノ過半数ニ依リテ之ヲ為ス
第百六十五条 其他創業総会ニ於テハ取締役及ヒ監査役ヲ選定ス
第百六十六条 創業総会ノ終リシ後発起人ハ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ会社設立ノ免許ヲ請フ其申請書ニハ左ノ書類ヲ添フ可シ
第一 目論見書及ヒ定款
第二 株式申込簿
第三 発起ノ認可証
第百六十七条 会社設立ノ免許ヲ得タルトキハ発起人其事務ヲ取締役ニ引渡ス可シ
取締役ハ速ニ株主ヲシテ各株式ニ付キ少ナクトモ四分一ノ金額ヲ会社ニ払込マシム
第百六十八条 会社ハ前条ニ掲ケタル金額払込ノ後十四日内ニ目論見書、定款、株式申込簿及ヒ設立免許書ヲ添ヘテ登記ヲ受ク可シ
登記及ヒ公告ス可キ事項ハ左ノ如シ
第一 株式会社ナルコト
第二 会社ノ目的
第三 会社ノ商号及ヒ営業所
第四 資本ノ総額、株式ノ総数及ヒ一株ノ金額
第五 各株式ニ付キ払込ミタル金額
第六 取締役ノ氏名、住所
第七 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期
第八 設立免許ノ年月日
第九 開業ノ年月日
裁判所ハ会社ヨリ差出シタル書類ヲ登記簿ニ添ヘテ保存ス
第百六十九条 会社支店ヲ設ケタルトキハ其所在地ニ於テ亦登記ヲ受ク可シ
第百七十条 設立ノ免許ヲ得タル後遅クトモ一个年内ニ登記ヲ受ケサルトキハ其免許ハ効力ヲ失フ第八十一条及ヒ第八十二条ノ規定ハ株式会社ニモ亦之ヲ適用ス
第百七十一条 登記前ニ在テハ創業総会ノ承認ヲ経タル義務及ヒ出費ニ付キ発起人、取締役及ヒ株主ニ於テ連帯無限ノ責任ヲ負フ
第百七十二条 創業総会ノ承認ヲ経サル義務及ヒ出費ニ付テハ発起人ニ於テ仍ホ連帯無限ノ責任ヲ負フ
第三款 会社ノ商号及ヒ株主名簿
第百七十三条 商号ニハ株主ノ氏ヲ用ユルコトヲ得ス又商号ニハ株式会社ナル文字ヲ附ス可シ
第百七十四条 会社ハ株主名簿ヲ備ヘ之ニ左ノ事項ヲ記載ス
第一 各株主ノ氏名、住所
第二 各株主所有ノ株式ノ数及ヒ株券ノ番号
第三 各株式ニ付キ払込ミタル金額
第四 各株式ノ取得及ヒ譲渡ノ年月日
第四款 株式
第百七十五条 各株式ノ金額ハ会社資本ヲ一定平等ニ分チタルモノニシテ二十円ヲ下ルコトヲ得ス又其資本十万円以上ナルトキハ五十円ヲ下ルコトヲ得ス
第百七十六条 株式ハ一株毎ニ株券一通ヲ作リ之ニ其金額、発行ノ年月日、番号、商号、社印、取締役ノ氏名、印及ヒ株主ノ氏名ヲ載ス
第百七十七条 株式ハ分割又ハ併合スルコトヲ得ス
第百七十八条 株金全額払込以前ニ於テハ会社ハ仮株券ヲ発行シ全額完納ノ後ニ至リ始メテ本株券ヲ発行スルコトヲ得
第百七十九条 仮株券及ヒ本株券ハ登記前ニ之ヲ発行スルコトヲ得ス
第百八十条 株金額少ナクトモ四分一ノ払込前ニ為シタル株式ノ譲渡ハ無効タリ
第百八十一条 株式ノ譲渡ハ取得者ノ氏名ヲ株券及ヒ株主名簿ニ記載スルニ非サレハ会社ニ対シテ其効ナシ
第百八十二条 株金半額払込前ノ株式ノ譲渡人ハ会社ニ対シテ其株金未納額ノ担保義務ヲ負フ
第百八十三条 会社ハ株主名簿及ヒ計算ノ閉鎖ノ為メ公告ヲ為シテ事業年度毎ニ一个月ヲ踰エサル期間株券ノ譲渡ヲ停止スルコトヲ得
第百八十四条 払込ミタル株金額及ヒ会社財産中ノ持分ハ会社解散前ニ於テハ之ヲ取戻サント求ムルコトヲ得ス
第五款 取締役及ヒ監査役
第百八十五条 総会ハ株主中ニ於テ三人ヨリ少ナカラサル取締役ヲ三个年内ノ時期ヲ以テ選定ス但其時期満了ノ後再選スルハ妨ナシ
取締役ハ同役中ヨリ主トシテ業務ヲ取扱フ可キ専務取締役ヲ置クコトヲ得然レトモ其責任ハ他ノ取締役ト同一ナリ
第百八十六条 取締役ノ代理権及ヒ其権ノ制限ニ付テハ第百四十三条及ヒ第百四十四条ノ規定ヲ適用ス
第百八十七条 取締役ニ選マルル為メ株主ノ所有ス可キ株数ハ会社定款ニ於テ之ヲ定ム取締役ノ在任中ハ其株券ニ融通ヲ禁スル印ヲ捺シ之ヲ会社ニ預リ置ク可シ
第百八十八条 取締役ハ其職分上ノ責務ヲ尽スコト及ヒ定款並ニ会社ノ決議ヲ遵守スルコトニ付キ会社ニ対シテ自己ニ其責任ヲ負フ
第百八十九条 取締役ハ会社ノ義務ニ付キ各株主ニ異ナラサル責任ヲ負フ然レトモ定款又ハ総会ノ決議ヲ以テ取締役ノ在任中ニ生シタル義務ニ付キ取締役カ連帯無限ノ責任ヲ負フ可キ旨ヲ予メ定ムルコトヲ得其責任ハ退任後一个年ノ満了ニ因リテ消滅ス
第百九十条 取締役ノ更迭ハ其度毎ニ登記ヲ受ク可シ
第百九十一条 総会ハ株主中ニ於テ三人ヨリ少ナカラサル監査役ヲ二个年内ノ時期ヲ以テ選定ス但其時期満了ノ後再選スルハ妨ナシ
第百九十二条 監査役ノ職分ハ左ノ如シ
第一 取締役ノ業務施行カ法律、命令、定款及ヒ総会ノ決議ニ適合スルヤ否ヤヲ監視シ且総テ其業務施行上ノ過愆及ヒ不整ヲ検出スルコト
第二 計算書、財産目録、貸借対照表、事業報告書、利息又ハ配当金ノ分配案ヲ検査シ此事ニ関シ株主総会ニ報告ヲ為スコト
第三 会社ノ為メニ必要又ハ有益ト認ムルトキハ総会ヲ招集スルコト
第百九十三条 監査役ハ何時ニテモ会社ノ業務ノ実況ヲ尋問シ会社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ヲ展閲シ会社ノ金匣及ヒ其全財産ノ現況ヲ検査スル権利アリ
第百九十四条 監査役中ニ於テ意見ノ分レタルトキハ其意見ヲ総会ニ提出ス
第百九十五条 監査役ハ第百九十二条ニ掲ケタル責務ヲ欠キタルニ因リテ会社又ハ其債権者ニ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第百九十六条 取締役又ハ監査役カ給料又ハ其他ノ報酬ヲ受ク可キトキハ定款又ハ総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
第百九十七条 取締役又ハ監査役ハ何時ニテモ総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得其解任セラレタル者ハ会社ニ対シテ解任後ノ給料若クハ其他ノ報酬又ハ償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第六款 株主総会
第百九十八条 総会ハ取締役、監査役又ハ其他本法ニ依リテ招集ノ権ヲ有スル者之ヲ招集ス
第百九十九条 総会ノ招集ハ会日ヨリ少ナクトモ十四日前ニ其会議ノ目的及ヒ事項ヲ示シ且定款ニ定メタル方法ニ従ヒテ之ヲ為ス
此規定ハ創業総会ノ招集ニモ亦之ヲ適用ス
第二百条 通常総会ハ毎年少ナクトモ一回定款ニ定メタル時ニ於テ之ヲ開キ其総会ニ於テハ前事業年度ノ計算書、財産目録、貸借対照表、事業報告書、利息又ハ配当金ノ分配案ヲ株主ニ示シテ其決議ヲ為ス
取締役ノ提出スル書類ニ付テノ監査役ノ報告書ハ其書類ト共ニ之ヲ提出ス
第二百一条 臨時総会ハ臨時ノ事項ヲ議スル為メ何時ニテモ之ヲ招集スルコトヲ得又総株金ノ少ナクトモ五分一ニ当ル株主ヨリ会議ノ目的ヲ示シテ申立ツルトキハ亦臨時総会ヲ招集セサルコトヲ得ス
第二百二条 総会ハ本法ニ於テ別段ノ規定アルトキノ外定款ノ定ニ従ヒテノミ決議ヲ為スコトヲ得定款ニ其定ナキトキハ総株金ノ少ナクトモ四分一ニ当ル株主出席シ其議決権ノ過半数ニ依リテ決議ヲ為ス
第二百三条 定款ノ変更及ヒ任意ノ解散ニ付テノ決議ヲ為スニハ第百六十四条ニ定メタル決議ノ方法ニ依ル
第百五十二条ノ規定ハ株式会社ニモ亦之ヲ適用ス
第二百四条 株主ノ議決権ハ一株毎ニ一箇タルヲ通例トス然レトモ十一株以上ヲ有スル株主ノ議決権ハ定款ヲ以テ其制限ヲ立ツルコトヲ得
第七款 定款ノ変更
第二百五条 会社ハ定款ニ定アルトキ又ハ総会ノ決議ニ依リテ定款ヲ変更スルコトヲ得然レトモ法律ノ規定又ハ政府ヨリ免許ニ附シタル条件ニ違背スルコトヲ得ス
第二百六条 会社資本ノ増加ハ株券ノ金額ヲ増シ又ハ新株券若クハ債券ヲ発行シテ之ヲ為シ又其減少ハ株券ノ金領又ハ株数ヲ減シテ之ヲ為スコトヲ得但資本ハ其全額ノ四分一未満ニ減スルコトヲ得ス此債券ハ記名ノモノニシテ其金額ニ付テハ第百七十五条ノ規定ヲ適用ス
第二百七条 会社資本ヲ減セントスルトキハ会社ハ其減少ノ旨ヲ総テノ債権者ニ通知シ且異議アル者ハ三十日内ニ申出ツ可キ旨ヲ催告スルコトヲ要ス
第二百八条 前条ニ掲ケタル期間ニ異議ノ申出アラサルトキハ異議ナキモノト看做ス
異議ノ申出アリタルトキハ会社ハ其債務ヲ弁償シ又ハ之ニ担保ヲ供シテ異議ヲ取除キタル後ニ非サレハ資本ヲ減スルコトヲ得ス
第二百九条 資本ノ減少シタル部分ノ払戻ヲ受ケタル株主ハ過愆ナキ不知ノ為メ其減少ニ付キ異議ヲ申出テサル債権者ニ対シテ登記ノ日ヨリ二个年間其受ケタル払戻ノ額ニ至ルマテ自己ニ責任ヲ負フ
第二百十条 会社ノ定款中既ニ登記ヲ受ケタル事項ヲ変更シタルトキハ直チニ其変更ノ登記ヲ受ク可シ登記前ニ在テハ其変更ノ効ヲ生セス
営業所ヲ移転スルトキハ旧所在地ニ於テ移転ノ登記ヲ受ケ新所在地ニ於テハ新ニ設立スル会社ニ付キ要スル諸件ノ登記ヲ受ク可シ又同一ノ地域内ニ於テ移転スルトキハ移転ノミノ登記ヲ受ク可シ
第二百十一条 会社定款ノ変更ノ登記ヲ受ケタルトキハ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ其変更ヲ届出ツルコトヲ要ス
第八款 株金ノ払込
第二百十二条 株金払込ノ期節及ヒ方法ハ定款ニ於テ之ヲ定ム其払込ヲ催告スルニハ払込ノ日ヨリ少ナクトモ十四日前ニ各株主ニ通知スルコトヲ要ス其通知ニハ払込ヲ為ササル為メ株主ノ被フル可キ損失ヲ併示ス
第二百十三条 払込期節ヲ怠リタル株主ハ年百分ノ七ノ遅延利息及ヒ其遅延ノ為メニ生シタル費用ヲ支払フ義務アリ
第二百十四条 払込ヲ怠リタル株主カ更ニ少ナクトモ十四日ノ期間ニ於テ払込ム可キ催告ヲ会社ヨリ受ケ仍ホ払込ヲ為ササルトキハ会社ハ其株主ニ対シテ株券ノ所有権ヲ失ヒタリト宣言スルコトヲ得然ルトキハ其株券ハ会社ノ所有ト為ル
第二百十五条 所有権ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券ノ従前ノ所有者ハ会社ニ於テ其株券ヲ公売スルモ其代金既ニ催告ヲ受ケタル払込金額ニ満タサルトキハ其不足金及ヒ第二百十三条ニ記載シタル利息並ニ費用ノ支払ニ付キ仍ホ責任ヲ負フ但剰余アルトキハ会社ハ之ヲ従前ノ所有者ニ還付ス
会社ハ其定款ヲ以テ別ニ違約金ヲ払フ可キコトヲ定ムルコトヲ得
第九款 会社ノ義務
第二百十六条 会社ハ株金ノ全部又ハ一分ヲ株主ニ払戻スコトヲ得ス
若シ払戻シタルトキハ其金額ハ会社又ハ其債権者直接ニ之ヲ取戻サント求ムルコトヲ得
第二百十七条 会社ハ自己ノ株券ヲ取得シ又ハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス所有権ヲ失ヒタリト宣言セラレタル株券又ハ債務ノ弁償ノ為メ若クハ其他ノ事由ニ因リテ会社ニ交付セラレ若クハ移属シタル株券ハ一个月内ニ於テ公ニ之ヲ売リ其代金ヲ会社ニ収ム
第二百十八条 会社ハ毎年少ナクトモ一回計算ヲ閉鎖シ計算書、財産目録、貸借対照表、事業報告書、利息又ハ配当金ノ分配案ヲ作リ監査役ノ検査ヲ受ケ総会ノ認定ヲ得タル後其財産目録及ヒ貸借対照表ヲ公告ス其公告ニハ取締役及ヒ監査役ノ氏名ヲ載スルコトヲ要ス
第二百十九条 利息又ハ配当金ハ損失ニ因リテ減シタル資本ヲ填補シ及ヒ規定ノ準備金ヲ扣取シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス
準備金カ資本ノ四分一ニ達スルマテハ毎年ノ利益ノ少ナクトモ二十分一ヲ準備金トシテ積置クコトヲ要ス
第二百二十条 前二条ノ成規ニ依ラスシテ払出シタル利息又ハ配当金ハ会社又ハ其債権者直接ニ之ヲ取戻サント求ムルコトヲ得
第二百二十一条 利息又ハ配当金ノ分配ハ各株ニ付キ払込ミタル金額ニ応シ総株主ノ間ニ平等ニ之ヲ為ス
第二百二十二条 会社ハ其本店及ヒ各支店ニ株主名簿、目論見書、定款、設立免許書、総会ノ決議書、毎事業年度ノ計算書、財産目録、貸借対照表事業報告書、利息又ハ配当金ノ分配案及ヒ抵当若クハ不動産質ノ債権者ノ名簿ヲ備置キ通常ノ取引時間中何人ニモ其求ニ応シ展閲ヲ許ス義務アリ
第二百二十三条 諸帳簿検正ノ為メ事業年度毎ニ一回一个月ヲ超エサル期間前条ニ定メタル展閲ヲ停止スルコトヲ得
第十款 会社ノ検査
第二百二十四条 総株金ノ少ナクトモ五分一ニ当ル株主ノ申立ニ因リテ会社営業所ノ裁判所ハ一人又ハ数人ノ官吏ニ会社ノ業務ノ実況及ヒ財産ノ現況ノ検査ヲ命スルコトヲ得
第二百二十五条 検査官吏ハ会社ノ金匣、財産現在高、帳簿及ヒ総テノ書類ヲ検査シ取締役及ヒ其他ノ役員ニ説明ヲ求ムル権利アリ
第二百二十六条 検査官吏ハ検査ノ顛末及ヒ其面前ニ於テ為シタル供述ヲ調書ニ記載シ之ヲ授命ノ裁判所ニ差出スコトヲ要ス
調書ノ謄本ハ裁判所ヨリ之ヲ会社ニ付与シ又株主及ヒ其他ノ者ヨリ手数料ヲ納ムルトキハ其求ニ応シテ之ヲ付与ス
第二百二十七条 主務省ハ何時ニテモ其職権ヲ以テ地方長官又ハ其他ノ官吏ニ命シテ第二百二十四条ニ掲ケタル検査ヲ為サシムルコトヲ得
第十一款 取締役及ヒ監査役ニ対スル訴訟
第二百二十八条 総会ハ監査役又ハ特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役又ハ監査役ニ対シテ訴訟ヲ為スコトヲ得
第二百二十九条 会社資本ノ少ナクトモ二十分一ニ当ル株主ハ亦特ニ選定シタル代人ヲ以テ取締役又ハ監査役ニ対シテ訴訟ヲ為スコトヲ得但各株主ノ自己ノ名ヲ用井又ハ参加人ト為リ裁判所ニ於テ其権利ヲ保衛スル権ヲ妨ケス
第十二款 会社ノ解散
第二百三十条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ解散ス
第一 定款ニ定メタル場合
第二 株主ノ任意ノ解散
第三 株主ノ七人未満ニ減シタルコト
第四 資本ノ四分一未満ニ減シタルコト
第五 会社ノ破産
第六 裁判所ノ命令
第二百三十一条 会社解散ノ場合ニ於テハ既ニ始メタル取引ヲ完結シ又ハ現ニ存在スル会社義務ヲ履行スル外其業務ヲ止ム取締役之ニ拘ハラスシテ営業ヲ続行スルトキハ此カ為メ其全財産ヲ以テ自己ニ責任ヲ負フ
第二百三十二条 会社解散ノ場合ニ於テハ取締役ハ総会ヲ招集シ解散ノ決議ヲ取ル但裁判所ノ命令ニ依リテ解散スル場合ハ此限ニ在ラス
其総会ニ於テハ破産ノ場合ヲ除ク外一人又ハ数人ノ清算人ヲ選定ス
第二百三十三条 前条ニ掲ケタル解散ノ決議又ハ清算人ノ選定ヲ為ササルトキハ裁判所ハ債権者若クハ株主ノ申立ニ因リ又ハ職権ニ依リ其命令ヲ以テ決議ニ換ヘ又ハ清算人ヲ任スルコトヲ得
第二百三十四条 会社ハ破産ノ場合ヲ除ク外決議後七日内ニ解散ノ原由、年月日及ヒ清算人ノ氏名、住所ノ登記ヲ受ケ之ヲ裁判所ニ届出テ又何レノ場合ニ於テモ之ヲ各株主ニ通知シ且地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス
第二百三十五条 裁判所ハ解散及ヒ清算ノ実況ヲ監視スル権アリ
第二百三十六条 登記ヲ受クルト共ニ取締役ノ代理権ハ清算人ニ移ル然レトモ取締役ハ清算人ノ求ニ応シ清算事務ヲ補助スル義務アリ
第二百三十七条 登記後ニ為シタル株式ノ譲渡及ヒ清算ノ目的ノ為メニセサル財産ノ処分ハ総テ無効タリ但特別ノ理由アリテ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十八条 取締役カ総会ノ招集又ハ登記ノ届出ヲ為ササリシトキハ此カ為メ会社又ハ第三者ニ生セシメタル損害ニ付キ其全財産ヲ以テ自己ニ責任ヲ負フ
第二百三十九条 解散及ヒ清算ノ費用ハ現在ノ会社財産中ヨリ最モ先ニ之ヲ支払フモノトス
第十三款 会社ノ清算
第二百四十条 清算人ノ職分ニ付テハ第百三十条及ヒ第百三十一条ヲ適用ス
第二百四十一条 清算人ノ職分ノ践行ニ付テハ総会ヨリ又ハ株主若クハ債権者ノ申立ニ因リテ裁判所ヨリ清算人ニ訓示ヲ与フルコトヲ得清算人ハ其訓示及ヒ法律ノ規定ヲ遵守スル責任ヲ負フ
第二百四十二条 会社ノ債権者ノ相当ノ理由ヲ以テ為シタル申立ニ因リ総会又ハ時宜ニ従ヒテ裁判所ハ債権者ノ利益護視ノ為メ一人又ハ数人ノ代人ヲシテ清算ヲ監査シ又ハ清算人ニ参加セシムルコトヲ得
第二百四十三条 清算人ハ其選定ノ日ヨリ六十日内ニ会社帳簿ニ依リテ其財産ノ現況ヲ取調ヘ少ナクトモ三回ノ公告ヲ以テ債務者ニハ其債務ノ弁済期限ニ至リタル時直チニ之ヲ弁済ス可ク又債権者ニハ或ル期間ニ其債権ヲ申出ツ可キ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ六十日ヲ下ルコトヲ得ス
其公告ニハ債権者期間ニ申出ヲ為ササルトキハ其債権ヲ清算ヨリ除斥セラルル旨ヲ附記ス然レトモ清算人ハ期間ニ申出テサル債権者ト雖モ其知レタル者ヲ清算ヨリ除斥スルコトヲ得ス
第二百四十四条 清算人ハ其期間満了前ニ於テハ債権者ニ支払ヲ為シ始ムルコトヲ得ス
第二百四十五条 期間後ニ申出テタル債権者ハ会社ノ債務ヲ済了シタル後未タ株主ニ分配セサル会社財産ノミニ対シテ其弁償ノ請求ヲ為スコトヲ得
第二百四十六条 清算人ハ清算ノ為メ株主ヲシテ其未タ全額ヲ払込マサル株券ニ付キ払込ヲ為サシムル権利アリ
第二百四十七条 清算人ハ必要又ハ有益ト認ムルトキハ何時ニテモ総会ヲ招集スルコトヲ得又清算人ハ定款又ハ総会ノ決議ヲ以テ定メタルトキ又ハ総株金ノ少ナクトモ五分一ニ当ル株主ヨリ申立ツルトキハ総会ヲ招集スル義務アリ
第二百四十八条 清算人ハ委任事務ヲ履行シタル後総会ニ計算書ヲ差出シテ其認定ヲ求ム
第二百四十九条 清算人ハ前条ニ掲ケタル認定ヲ得タルトキハ会社ノ債務ヲ済了シタル残余ノ財産ヲ各株主ニ其所有株数ニ応シ金銭ヲ以テ平等ニ分配ス此分配ハ総債権者ニ弁償シタル時ヨリ三个月ノ満了ノ後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
株主ハ総会ニ於テ金銭ニ非サル物ヲ以テ分配ス可キ決議ヲ為シタルトキト雖モ之ヲ受取ル義務ナシ
第二百五十条 清算ノ終リタル後清算人ハ総計算書及ヒ一般ノ事務報告書ヲ総会ニ差出シテ卸任ヲ求ム若シ総会ニ於テ卸任ヲ許ササルトキハ裁判所ハ清算人ノ申立ニ因リ其命令ヲ以テ之ヲ許スト否トヲ定ム但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第二百五十一条 清算人ハ其行為ニ付キ総会ノミニ対シテ責任ヲ負フ然レトモ其行為ニ因リ或ル株主ノ一己ノ権利ヲ害シタルトキハ其株主ハ清算人ニ対シテ其権利ノ承認及ヒ損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第二百五十二条 清算人ハ卸任ヲ得タル後商業登記簿ニ清算結了ノ登記ヲ受ケ且之ヲ公告ス其公告ニハ清算ニ付キ生シタル会社ニ対スル請求アレハ之ヲ三个月ノ期間ニ主張ス可キ旨ノ催告ヲ附ス其請求アリタルトキハ清算人ニ於テ之ヲ弁了ス
第二百五十三条 清算中ニ現在ノ会社財産ヲ以テ会社ノ総債権者ニ完済シ能ハサルコトノ分明ナルニ至リタルトキハ清算人ハ破産手続ノ開始ヲ為シテ其旨ヲ公告シ且会社ノ取引先ニ通知ス
此場合ニ於テ既ニ債権者又ハ株主ニ支払ヒタルモノ有ルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得清算人カ貸方借方ノ此ノ如キ関係ナルコトヲ知リテ為シタル支払ニシテ其受取人ヨリ取戻シ得サルモノニ付テハ債権者ニ対シテ其責任ヲ負フ
第二百五十四条 総会ノ決議ニ依リテ会社ノ帳簿及ヒ其他ノ書類ノ貯蔵ヲ委任セラレタル者ノ氏名、住所ハ清算人ヨリ之ヲ裁判所ニ届出ツ可シ此届出前ニ在テハ清算人其貯蔵ノ責任ヲ負フ
第二百五十五条 清算ノ結果即チ左ノ事項ハ清算人ヨリ裁判所ニ届出テ且之ヲ公告ス可シ
第一 支払又ハ示談ニ因リテ総債権者ニ弁償ヲ為シタルコト
第二 会社ノ残余財産ヲ株主ニ分配シタルコト及ヒ其分配ノ金額
第三 清算費用ヲ弁済シ及ヒ清算ニ付キ生シタル請求ヲ弁了シタルコト
第四 総会ヨリ又ハ裁判所ノ命令ニ因リテ卸任ヲ得タルコト
第五 会社ノ帳簿及ヒ書類ノ貯蔵ニ関スル処置ヲ為シタルコト
第六 会社ノ株券又ハ債券ノ其効力ヲ失ヒタルコト
其清算ノ結果ハ亦清算人ヨリ地方長官ヲ経由シテ主務省ニ届出ツルコトヲ要ス
第四節 罰則
第二百五十六条 業務担当ノ任アル社員又ハ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ五円以上五十円以下ノ過料ニ処セラル
第一 本章ニ定メタル登記ヲ受クルコトヲ怠リタルトキ
第二 登記前ニ開業シタルトキ
第二百五十七条 株式会社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ五円以上五十円以下ノ過料ニ処セラル
第一 株主名簿ヲ備ヘス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ為シタルトキ
第二 会社解散ノ場合ニ於テ総会ノ招集又ハ株主ヘノ通知ヲ怠リタルトキ
第二百五十八条 株式会社ノ取締役ハ左ノ場合ニ於テハ二十円以上二百円以下ノ過料ニ処セラル
第一 第二百十六条ノ規定ニ反シ株金ノ全部又ハ一分ヲ払戻シタルトキ
第二 第二百十七条ノ規定ニ反シ会社ノ為メ其株券ヲ取得シ又ハ質ニ取リ又ハ公売セサルトキ
第三 第二百十八条又ハ第二百十九条ノ規定ニ反シ利息又ハ配当金ヲ株主ニ払渡シタルトキ
第四 第二百二十五条ノ場合ニ於テ会社ノ金匣、財産現在高、帳簿及ヒ総テノ書類ノ検査ヲ妨ケ又ハ求メラレタル説明ヲ拒ミタルトキ
合資会社ノ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役カ第百五十三条ノ規定ニ反シ利息又ハ配当金ヲ社員ニ払渡シタルトキハ亦本条ニ定メタル罰則ヲ之ニ適用ス
第二百五十九条 株式会社ノ清算人ハ左ノ場合ニ於テハ十円以上百円以下ノ過料ニ処セラル
第一 第二百四十三条ニ定メタル公告ヲ為スコトヲ怠リタルトキ
第二 第二百五十三条ノ規定ニ反シ破産手続ノ開始ヲ為スコトヲ怠リタルトキ
第二百六十条 株式会社ノ清算人ハ左ノ場合ニ於テハ二十円以上二百円以下ノ過料ニ処セラル
第一 第二百四十四条ノ規定ニ反シ債権者ニ支払ヲ為シ始メタルトキ
第二 第二百四十九条ノ規定ニ反シ株主ニ分配ヲ為シタルトキ
第二百六十一条 前数条ニ掲ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但其命令ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
過料ノ弁納ニ付テハ業務担当ノ任アル社員、取締役又ハ清算人連帯シテ其責任ヲ負フ
第二百六十二条 業務担当ノ任アル社員、取締役、監査役又ハ清算人ハ左ノ場合ニ於テハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処セラレ情重キトキハ罰金ニ併セ一年以下ノ重禁錮ニ処セラル
第一 官庁又ハ総会ニ対シ書面若クハ口頭ヲ以テ会社ノ財産ノ現況若クハ業務ノ実況ニ付キ故意ニ不実ノ申立ヲ為シ又ハ不正ノ意ヲ以テ其現況若クハ実況ヲ隠蔽シタルトキ
第二 公告ノ中ニ詐偽ノ陳述ヲ為シ又ハ事実ヲ隠蔽シタルトキ
前ニ掲ケタル者ノ外会社ノ他ノ役員及ヒ使用人カ之ト共ニ犯シタルトキハ亦右ノ罰ニ処セラル
第二百六十三条 発起人カ株式申込ニ付キ詐偽ノ記載ヲ為シタルトキハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処セラル
第二百六十四条 前二条ニ掲ケタル罰ニ処スルニハ刑事裁判上ノ手続ヲ以テス
第五節 共算商業組合
第二百六十五条 共算商業組合ノ契約ハ会社ニ関スル本法ノ規定ニ従フコトヲ要セス其契納ニ因リテ商事会社及ヒ会社財産ハ成立セス
第二百六十六条 二人以上共通ノ計算ヲ以テ一時ノ商取引又ハ作業ヲ為スヲ当座組合トシ契約実行ノ為メ其一二ノ組合員若クハ総組合員ニ於テ又ハ共同代理人ヲ以テ為シタル行為ニ付テハ第三者ニ対シテ各組合員直接ニ連帯ノ権利義務ヲ有ス
第二百六十七条 二人以上各自別箇ニ一時ノ商取引若クハ作業ヲ為シ又ハ商業ヲ営ムト雖モ此ニ因リテ生スル損益ヲ共分スルコトヲ契約シタルモノヲ共分組合トシ各組合員亦前条ニ掲ケタルト同シキ連帯ノ権利義務ヲ有ス然レトモ他ノ組合員ノ為シタル行為ヨリ生スル請求ニ対シテハ先訴ハ抗弁ヲ為ス権利アリ
第二百六十八条 或人カ損益共分ノ契約ヲ以テ他人ノ営ム商業ニ出資ヲ供シテ之ヲ其者ノ所有ニ移シ商号ニ自己ヲ表示スル名称ヲ顕ハサス又業務施行ニ与カラサルモノヲ匿名組合トシ其営業者ノ行為ニ付キ第三者ニ対シ出資未済ノ場合ニ於テ其出資ノ額ニ満ツルマテヲ限リ義務ヲ負フ
代務人又ハ商業使用人ト為リテ用務ヲ弁スルハ業務施行ニ与カルモノト看做サス
第二百六十九条 匿名組合ノ損益共分ノ割合ハ明約アルニ非サレハ営業資本総額ニ対スル出資額ノ比例ヲ以テ之ヲ量定ス
第二百七十条 利益ハ損失ニ因リテ減シタル出資ヲ填補シタル後ニ非サレハ之ヲ分配スルコトヲ得ス然レトモ匿名員ハ受取期限ニ至リテ未タ受取ラサル利益又ハ既ニ受取リタル利益ヲ以テ其後ニ生シタル損失ヲ補充スル義務ナシ
第二百七十一条 匿名組合ノ契約ハ其契約ニ於テ時期ヲ定メサリシトキハ六个月前ノ予告ヲ以テ之ヲ解除スルコトヲ得又其契約ハ営業者ノ破産若クハ死亡又ハ其営業ノ廃止ヲ以テ終ル
第二百七十二条 契約解除ノ場合ニ於テハ匿名員ノ負担ニ帰ス可キ損失及ヒ債務ヲ引去リタル後其出資額ヲ之ニ払戻スコトヲ要ス
第二百七十三条 匿名員ハ契約解除ノ場合及ヒ毎事業年度ノ終ニ於テ計算書ノ差出ヲ求メ及ヒ商業帳簿並ニ書類ヲ展閲調査セント求ムル権利アリ
此規定ハ第二百六十六条及ヒ第二百六十七条ニ掲ケタル場合ニモ亦之ヲ適用ス
第七章 商事契約
第一節 契約ノ種類
第二百七十四条 商事契約ハ明示又ハ黙示ニテ之ヲ取結フコトヲ得
第二百七十五条 商事契約ノ旨趣ハ当事者ノ真実及ヒ確定ナル共通ノ意思ニ依リテ定マルモノトス其意思ハ商慣習ト商人タル者ノ当然ノ思考トニ従ヒテ解釈ス可シ
第二百七十六条 明示ノ契約ハ書面、口頭又ハ容態ニテ之ヲ取結フコトヲ得
第二百七十七条 主タル目的物カ五十円ノ価額ヲ超ユル契約ハ其履行ヲ即時ニ為ササルトキハ之ヲ書面ニ作成シテ交付ス可シ
本法中或ル契約ニ関スル特別ノ規定ハ前項ノ為メニ妨ケラルルコト無シ
第二百七十八条 書面作成ノ要件ハ合式ノ契約証書ヲ以テモ義務者又ハ其代人ノ署名若クハ之ニ代ハル可キ氏名アル書簡、電報、勘定書、切符其他ノ各書類ヲ以テモ之ヲ充タスコトヲ得
第二百七十九条 第二百七十七条ニ掲ケタル契約ノ旨趣ニ付テノ証拠又ハ反対証拠ハ書面ヲ以テスルモノニ限リ之ヲ許ス但第二百七十五条ニ従ヒテ為ス契約条款ノ解釈ニ関スルモノ又ハ錯誤、強暴若クハ詐欺ノ証明ニ関スルモノ又ハ羈束スル意思ナクシテ契約書ニ掲ケタル事実ニ関スルモノハ此限ニ在ラス
第二百八十条 第二百七十七条ニ掲ケタル契約ハ書面ニ作成セスト雖モ後ニ至リ当事者ニ於テ殊ニ双務契約ノ場合ニ在テハ其双方ニ於テ実際之ヲ履行シ又ハ書面ヲ以テ之ヲ承認シタルトキハ其効力アリ
第二百八十一条 黙示ノ契約ハ契約提供ニ対シテ黙示ノ承諾アル場合ニ存シ又事ヲ為シ又ハ為ササルニ因リテ法律上若クハ商慣習上義務又ハ請求権ノ生スル総テノ場合ニ存ス
第二百八十二条 契約提供ニ対スル黙示ノ承諾ハ一般ニ商慣習若クハ誠実、信用ニ因リ殊ニ被提供者ノ特別ナル業体又ハ双方間ノ平常ノ取引関係ニ因リテ承諾シタルモノト通例推定ス可キ場合ヲ除ク外ハ決シテ存スルモノト看做スコトヲ得ス
第二百八十三条 双務ノ契約ニ在テハ相手方ノ履行ニ対スル承諾ハ其承諾シタル一方ニ於テモ履行ス可キ黙示ノ約束ヲ為シタルモノトス
第二百八十四条 契約上ノ義務ハ明示ト黙示トヲ問ハス合法ノ原因アルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス
第二百八十五条 契約上ノ義務ヲ将来ノ事件ノ不確定ナル発生又ハ不発生ニ繋ラシムル場合ニ於テハ契約ハ其事件ノ発生セサルトキ又ハ発生シタルトキハ当然消滅ス
第二百八十六条 契約ニ加ヘタル未必条件又ハ期限ハ此カ為メ利益ヲ受ク可キ者ノ明示ノ抛棄ニ因ルニ非サレハ無効ト為スコトヲ得ス
第二百八十七条 商事契約ニ依リ二人以上共同シテ債権ヲ取得シ又ハ債務ヲ負担スル場合ニ於テハ反対ヲ明示シタルニ非サレハ其債権ハ各債権者ヨリ又其債務ハ各債務者ニ対シテ連帯且無条件ニテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得
第二百八十八条 前条ノ規定ハ保証義務ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス殊ニ一人ノ保証人ニ対スル二人以上ノ債権者ニ関シテモ一人ノ債務者ノ為メニスル二人以上ノ保証人ニ関シテモ二人以上ノ債務者中ノ一人ノ為メニスル保証人ニ関シテモ之ヲ適用ス
第二百八十九条 商事ニ於テ他人ニ対シ責ニ任スル注意ハ別段ノ規定又ハ契約アルニ非サレハ弁識アリ且勉励ナル商人カ履行地ノ慣例ニ従ヒテ為ス可キ注意ナリトス
第二百九十条 不適法ノ意思又ハ甚シキ怠慢ニ出テタル行為ニ付テノ責任ハ予メ契約ヲ以テ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第二百九十一条 意外ノ事ニ因ル危険及ヒ至重ナル注意ハ本法ニ規定ナキモ明示ノ契約ヲ以テ之ヲ引受クルコトヲ得
第二節 契約ノ取結
第二百九十二条 契約ハ一方ノ提供ヲ他ノ一方ニ於テ異議ナク承諾シタルトキ直チニ之ヲ取結ヒタルモノトス但黙示ノ承諾ノ存セサルトキハ適当ノ方式ヲ以テ提供者ニ承諾ヲ述フルコトヲ要ス
第二百九十三条 契約ノ提供ハ即時ニ又ハ被提供者ニ許与シタル期間ニ承諾ヲ述ヘサルトキハ之ヲ拒絶シタルモノト看做ス
第二百九十四条 提供ノ黙示ノ承諾ヲ推定スルコトヲ得ル場合ニ於テハ被提供者カ即時又ハ許与セラレタル期間ニ拒絶ヲ述ヘサルトキハ其提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
第二百九十五条 地ヲ隔テタル者ノ間ニ於テハ提供者ニ対スル承諾ノ陳述ハ遅クトモ提供ヲ受取リタル翌日正午マテニ普通ノ送達方法ヲ以テ提供者ニ其陳述ヲ発シタルトキハ即時ニ之ヲ為シタリト看做ス但其翌日カ一般ノ休日ナルトキハ更ニ其翌日ニ於テスルコトヲ得
第二百九十六条 契約提供ニ対シテ条件ヲ附シ又ハ変更ヲ加ヘテ為ス承諾ニ在テハ提供者ハ其選択ヲ以テ之ヲ純粋ノ拒絶ト看做シ又ハ被提供者ヨリ更ニ為シタル提供ト看做スコトヲ得
第二百九十七条 提供者ハ被提供者カ通常ノ情況ニ於テ即時又ハ期間ニ承諾ヲ述フルコトヲ得ル時ニ至ルマテハ被提供者ニ対シテ其提供ニ羈束セラルルモノトス然レトモ提供ノ被提供者ニ達スル以前又ハ達スルト同時ニ反対ノ通知ヲ以テ其提供ヲ取消スコトヲ得
第二百九十八条 契約提供ノ承諾ヲ述ヘタルトキハ他ノ一方ノ同意ヲ得ルニ非サレハ其承諾ヲ取消スコトヲ得ス然レトモ地ヲ隔テタル者ノ間ニ於テハ取消カ承諾陳述ノ達スル以前又ハ達スルト同時ニ提供者ニ達スルトキハ其取消ヲ有効トス
第二百九十九条 契約取結ニ関スル通信ヲ為スニ当リ送達人ノ過誤及ヒ遅延ニ付キ送達人ニ其責任ナキトキハ送達ノ為メ利益ヲ受クル者其責ニ任ス
第三百条 見本、代価附其他契約提供ヲ媒介スル物ニシテ契約提供ト共ニ送付シ若クハ別ニ送付スルモノハ其提供ノ拒絶セラルル場合ト雖モ被提供者ノ方ニ留マルヲ通例トス其他ノ商品ニ在テハ被提供者ハ提供者カ更ニ処分ヲ為スニ至ルマテ相当ノ方法ヲ以テ之ヲ貯蔵ス可シ然レトモ第三百七十三条ノ規定ニ従ヒ相当ノ期間ニ其商品ヲ売却シテ立替金及ヒ口銭ノ弁済ニ充ツルコトヲ得
第三百一条 商事契約ハ強暴、詐欺又ハ錯誤アル場合ニ於テハ之ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得然レトモ大ナル損失ニ因リ殊ニ代価其他ノ報償ノ不相当ナルニ因リテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
第三節 契約ノ履行
第三百二条 契約ノ履行ハ一方カ他ノ一方ノ同意ヲ得テ明示又ハ黙示ニテ負ヒタル義務ヲ完全ニ弁済スルニ在リ
第三百三条 債務者ノ義務ノ旨趣及ヒ範囲殊ニ債務ノ目的物ノ性質及ヒ品位ニ付テハ履行地ニ行ハルル定例ニ依リテ之ヲ定ム但別段ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百四条 十分ナル債務弁済ヲ適当ノ方法ヲ以テ債権者ニ言込ムモ債権者其承諾ヲ拒絶スルトキハ債務者ハ其弁済ス可キモノヲ債権者ノ計算及ヒ危険ニ於テ処分スルコトヲ得此場合ニ於テハ債務者ハ不適法ノ意思又ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ債権者ニ対シテ責任ヲ負フ
第三百五条 債権者ハ一分ノ履行又ハ遅延シタル履行ヲ承諾スルコトヲ要セス但割払ノ契約又ハ慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百六条 契約ノ履行ハ契約上ノ満期日又ハ其他定マリタル満期日ニ之ヲ為ササルトキハ遅延シタリトス
第三百七条 満期日ハ日ヲ指シテ之ヲ定メ又ハ期間ヲ設ケテ之ヲ定ムルコトヲ得
第三百八条 期間ヲ定ムルニ日数ヲ以テシタルトキハ其期間ノ末日ヲ満期日ト看做シ週数、月数又ハ年数ヲ以テシタルトキハ最後ノ週、月又ハ年ニ於テ結約ノ日ニ応当スル日ヲ満期日ト看做ス
第三百九条 日ヲ以テ定メタル期間ノ計算ニ付テハ結約ノ日ハ之ヲ算入セス
第三百十条 半个月ハ十五个日ノ期間ト看做ス
第三百十一条 満期日カ一般ノ休日ニ当ルトキハ其翌日ヲ満期日ト看做ス
第三百十二条 特別ノ情況アルトキノ外ハ履行地ニ於ケル慣習上ノ取引時間ヲ以テ履行ニ付テノ一日ノ時間ト看做ス
第三百十三条 或ル期間ノ経過中ニ履行ヲ為ス契約ナルトキハ其履行ハ期間内何レノ取引日ニテモ之ヲ為シ又ハ之ヲ求ムルコトヲ得
第三百十四条 前条ノ場合ニ於テ疑ハシキトキハ期間ノ定ニ因リテ利益ヲ受ク可キ一方カ履行日ヲ択ムコトヲ得通例此ノ如キ一方ト看做ス可キ者ハ商品ノ受取人又金銭ニ係ル債権ニ在テハ債務者トス
第三百十五条 期間ヲ延ヘタル場合ニ於テ別ニ定ムル所アルニ非サレハ其新期間ハ旧期間ノ満了ヨリ起算ス
第三百十六条 契約其他ニ履行期日ノ定ナクシテ債務者其履行ヲ相当ノ期間ニ為ササルトキハ債権者ハ満期日ヲ定ムルコトヲ得
第三百十七条 別段ノ履行地ヲ定メス又ハ取引ノ性質若クハ当事者ノ意思ニ因リテ之ヲ推知スルコトヲ得サルトキハ履行ハ債権者若クハ受取ノ権利アル者ノ指定シタル地若シ指定セサルトキハ其住地殊ニ営業場ニ於テ之ヲ為ス可シ
第三百十八条 債務者ノ負担セル送付ノ義務ハ債権者ノ指定シタル運送場若シ指定セサルトキハ適当ノ運送場ニ交付スルヲ以テ之ヲ履行シタルモノトス
第三百十九条 当事者双方カ同地ニ住スル場合ニ於テ別段ノ契約ナキトキハ債務者カ債務ノ目的物ヲ送付ス可キヤ又ハ債権者カ之ヲ取寄ス可キヤハ其地ノ慣習又ハ取引ノ性質ニ依リテ之ヲ定ム
第三百二十条 別段ノ契約ナキトキハ債務ノ目的物ノ送付ハ債権者ノ危険ニ於テ之ヲ為スヲ通例トス但債務者カ自己又ハ其使用人ノ過失ニ付テ負フ責任ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第三百二十一条 度量衡、距離、期間、休日、支払貨幣ノ本位並ニ種類其他履行ノ細目ハ履行地ニ行ハルル定例ニ従ヒテ之ヲ定ム但別段ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十二条 択一債務其他目的物ノ特定セサル債務ニ付キ履行ノ目的物ヲ定ムルコトハ其目的物ノ尚ホ存スル場合ニ限リ疑ハシキトキハ債務者ノ択ムニ任ス
第四節 価額賠償、損害賠償及ヒ割引
第三百二十三条 債務者カ其債務ノ履行ヲ正当期日ニ為ササルトキハ債権者ハ契約ヲ解除シ又ハ価額賠償若クハ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十四条 価額賠償ハ金銭ニ係ル債務ニ付テハ債務額ノ外満期日ヨリ其債務ヲ弁済スル日マテノ遅延利息ヲ支払フニ在リ総テ其他ノ債務ニ付テハ債務ノ目的物カ満期日ノ後ニ有セシ最高ノ価額ト其価額ヲ定メタル時ヨリ弁済ノ日マテノ遅延利息トヲ支払フニ在リ但債権者ニ於テ債務ノ目的物カ満期日ニ有セシ価額ト此日ヨリノ遅延利息ノ賠償トヲ得ント欲スルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十五条 債権者ハ債務者ノ過失ヲ証明シ又ハ債務ノ不履行ニ因リ自己ニ加ヘラレタル損害ヲ証明スルコト無クシテ価額賠償ヲ求ムルコトヲ得但義務ノ性質及ヒ範囲ニ因リテ債務者カ不履行ニ付キ責任ヲ負フトキニ限ル
第三百二十六条 第三百二十四条ノ規定ニ従ヒテ査定ス可キ債務ノ目的物ノ価額ハ其普通ノ市場価額又取引所ニ於テ売買スル物ニ在テハ其取引所相場ニ加フルニ遅延ニ因リテ生シタル費用及ヒ立替金ヲ以テシタルモノトス
第三百二十七条 第三百四条ニ掲ケタル承諾ヲ遅延シタル債権者ハ亦遅延ニ因リテ生シタル費用及ヒ立替金ヲ債務者ニ賠償ス可シ
第三百二十八条 故意又ハ怠慢ノ行為ニ因リテ不適法ニ損害ヲ他人ニ加ヘタル者ハ其損害ニ付キ十分ノ賠償ヲ為ス義務アリ
第三百二十九条 損害賠償ハ生シタル損失及ヒ失ヒタル利益ノ弁償ヲ包括ス
第三百三十条 利益トハ一方ノ加害ノ行為ナカリシトキハ他ノ一方カ為シ得ヘカリシコトヲ証明シ得ヘキ取得ヲ謂フ此取得ハ予見シ得ヘカリシモノト否ト又ハ通常ナリシモノト否トヲ問フコト無シ
第三百三十一条 損害賠償ヲ査定スルニハ偶然、推測若クハ将来ノ利益若クハ損失又ハ他ノ情況ノ加ハルニ因リテ生スルコト有ル可キ利益若クハ損失ハ之ヲ問フコトヲ得ス
第三百三十二条 契約ヲ以テ予メ価額賠償又ハ損害賠償ノ額ヲ定メタルトキハ之ニ従フヲ通例トシ実際ノ情況ヲ援用シテ其予定ノ額ヲ増減セント主張スルコトヲ得ス
第三百三十三条 費用、立替金、前貸金其他此類ノ支出金ノ賠償及ヒ損害ノ賠償ヲ為ス可キ者ハ権利者ノ求ニ依リ其各金額ノ割合ニ応シテ弁償ス可キ日ヨリノ利息ヲ支払フ可シ
第三百三十四条 遅延利息其他ノ利息ニシテ法律又ハ契約ニ於テ歩合ヲ定メサルモノハ年百分ノ七トス
第三百三十五条 金銭ニ係ル債務ヲ満期前ニ支払フトキハ債務者ハ契約又ハ商慣習アルトキニ限リ其満期前ノ時間ニ応シテ割引ヲ求ムルコトヲ得
第三百三十六条 契約不履行ニ因リテ債権者ヨリ契約ヲ解除スルトキハ債務者ハ既ニ為シタル一分ノ弁済ヲ現状ニテ取戻シ既ニ受取リタル報償ヲ全額又ハ全価額ヲ以テ債権者ニ償還ス可シ
第五節 違約金
第三百三十七条 債権者ハ契約ノ履行ヲ確ムル為メ其不履行ノ場合ニ於テ違約金トシテ或ル金額ヲ支払フ義務ヲ債務者ニ負ハシムルコトヲ得其違約金ヲ求ムルニハ損害賠償ノ要件ニ関係ナキモノトス
第三百三十八条 履行又ハ賠償ヲ求ムル債権者ノ権利ハ違約金ノ為メニ廃止セラレスト雖モ疑ハシキトキハ違約金ト共ニ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得ス
第三百三十九条 過失アル不履行ニ因リテ債権者ニ加ヘタル損害カ違約金ノ額ヲ超ユルトキハ違約金ノ外此超過額ニ付キ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得
第三百四十条 違約金ノ契約ニシテ差額取引又ハ不法ナル博奕若クハ賭事ノ取引ヲ隠蔽セントスル目的ヲ以テスルモノハ無効トス
第六節 代理
第三百四十一条 商取引ノ取結ノ為メニスル委任ハ総テノ場合ニ於テ其取引取結ノ為メニスル代理ト看做ス但委任者カ代理人ノ行為ニ承諾ヲ与フルコトヲ要スル旨ヲ明示シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ハ委任ヲ行フ際至重ノ注意ヲ為ス義務アリ
第三百四十二条 委任者ノ名ヲ以テシタルト否トヲ問ハス委任者ノ為メニ代理人ノ取結ヒタル商取引ニ因リ委任者ハ直接ニ第三者ニ対シテ権利ヲ得義務ヲ負フ
第三百四十三条 委任又ハ事後ノ承諾ヲ受クルコト無クシテ第三者ノ為メニ或人ト取引ヲ取結フ者ハ其人ニ対シテ責任ヲ負フ
第三百四十四条 取引取結ノ際其委任ノ権限ヲ踰越スル者ハ第三者カ其踰越ヲ知ラス又ハ知ルコト能ハサリシトキハ委任者ニ対シテ責任ヲ負フ
第三百四十五条 代理人カ他人ノ為メ商取引ヲ取結ヒタル場合ニ於テ相手方カ自己ノ過失ニ非スシテ代理ナルコトヲ知ラス又ハ委任者ヲ知ラサリシトキハ其相手方ハ委任者ノ不履行ニ因リテ被フリタル損害ニ付キ其代理人ニ対シテ賠償ヲ求ムル権利アリ
第三百四十六条 代理ハ委任者又ハ代理人ノ死亡ニ因リテ解除スルモノニ非ス
第三百四十七条 代理ハ委任者ノ承諾アリ又ハ其承諾ヲ得ヘキモノト推定ス可キ情況アルニ非サレハ之ヲ第三者ニ転付スルコトヲ得ス
第三百四十八条 他人ノ為メニ其委任又ハ事後ノ承諾ヲ受ケテ商取引ヲ取結フ者ハ明約ナキトキト雖モ計算書ヲ示シテ其取引取結ニ付キ正当ニ為シタル前貸金、立替金並ニ費用ヲ賠償セシメ及ヒ慣習上ノ利息、手数料又ハ口銭ヲ求ムル権利アリ
第七節 時効
第三百四十九条 商事ニ於ケル債権ハ満期日ヨリ若シ此期日ノ定ナキトキハ其債権ノ生シタル日ヨリ六个年ノ満了ニ因リテ時効ニ罹ル但法律上此ヨリ短キ時効期間ヲ規定シタルトキハ此限ニ在ラス
第三百五十条 時効ハ履行ノ為メ債務者ニ明示シテ為シタル催告又ハ債権ノ取立若クハ担保ノ為メ債務者ニ対シテ為シタル債権者ノ裁判上若クハ裁判外ノ行為又ハ書面上ノ支払約束又ハ主タル物若クハ従タル物ニ関シ債務者ノ為シタル一分ノ支払ニ因リテ中断ス
第三百五十一条 受取証ヲ記シ又ハ記セサル計算書ノ送付ノミニテハ之ヲ催告ト看做スコトヲ得ス
第三百五十二条 満了シタル時効ノ効力ハ主タル物及ヒ従タル物ニ付テノ債権全ク消滅シ債権者ヨリ直接ニモ間接ニモ復タ之ヲ主張スルコトヲ得サルニ在リ
第八節 交互計算
第三百五十三条 相互ノ間ニ絶エス債権及ヒ債務カ生スル所ノ平常ノ取引関係ヲ有スル者ハ期間ヲ定メテ互ニ差引計算ヲ為シ其債権及ヒ債務ヲ消却スルコトヲ得
第三百五十四条 交互計算ノ関係ハ明示又ハ黙示ノ契約ニ因リテ生ス然レトモ長キ時間与信用ヲ継続シタルモ此カ為メニ交互計算ノ関係ヲ生スルコト無シ
第三百五十五条 差引計算ノ期間ハ一个年トス但契約ヲ以テ此ヨリ短キ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
第三百五十六条 各当事者ハ毎期間ノ終ニ計算ヲ閉鎖シ且約定又ハ相当ノ期間ニ其計算書ヲ承認又ハ異議申述ノ為メ互ニ送付スル義務アリ
第三百五十七条 異議ヲ起サス又ハ異議ヲ起シタルモ留保ヲ為サスシテ交互計算ノ関係ヲ継続スルトキハ計算ヲ黙認シタルモノト看做ス
第三百五十八条 交互計算ニ属スル各債権ハ交互計算ノ関係ヲ解キ又ハ計算ニ対シテ異議ヲ述フルトキニ非サレハ各箇ニ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第三百五十九条 計算カ承認セラレタルトキハ其計算ニ依ルニ非サレハ差引残額ヲ請求スルコトヲ得ス
第三百六十条 毎期間ノ終ニ生スル差引残額ハ之ヲ新ナル債務計目トシテ次ノ計算ニ移スコトヲ得但反対ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第三百六十一条 別段ノ契約又ハ慣習アラサルトキハ商事ヨリ生スル相互ノ債権及ヒ債務ハ種類ノ何タルヲ問ハス交互計算ヲ以テ取扱フコトヲ得
第三百六十二条 一方ニ於テノミ債権ヲ生シ他ノ一方ハ其債権ノ計算ノ為メニ時時支払ヲ為シテ絶エス取引スル者ノ間ニ交互計算ノ関係ヲ生スルトキハ其計算ニ属スル債権ハ期間ニ従ヒ且交互計算ノ全部ニ依ルニ非サレハ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第三百六十三条 交互計算ニ繰込ミタル債権ハ契約上ノ定ナキトキト雖モ其繰込ノ日ヨリ之ニ相当ノ利息ヲ付ス可シ
第三百六十四条 各計算期間ニ生スル差引残額ニ付テハ期間ノ末日ヲ満期日ト看做ス
第三百六十五条 交互計算ノ関係ハ其計算ニ繰込ミタル債権及ヒ債務ニ付テハ第三者ニ対シテ其効ヲ有セス
第三百六十六条 交互計算ノ関係ハ当事者ノ一方カ何時ニテモ之ヲ辞スル外死亡又ハ破産ニ因リテ解除ス
第九節 質権
第三百六十七条 商取引ヨリ生スル債権ノ担保ノ為メニスル動産質権ノ設定ハ総テノ場合ニ於テ書面契約ヲ以テ之ヲ為ス可シ其契約ハ担保セラル可キ債権ノ年月日、数量並ニ其合法ノ原因及ヒ質権設定ノ年月日並ニ目的物ヲ逐一記載セサルトキハ無効トス
第三百六十八条 質権設定ニ因リ債権者ハ質物ヲ売却シテ其債権ノ弁償ニ充ツル権利ヲ取得ス但質物ノ占有カ自己又ハ其代人ニ移リタルトキニ限ル
第三百六十九条 船荷証書、倉荷証書其他裏書ヲ以テ所載商品ノ処分権ヲ移転スルコトヲ得ル証券ノ裏書譲渡ハ物ノ占有ノ移転ト同一ナリトス
第三百七十条 指図証券カ質権設定ノ目的物ナルトキハ其証券ニ質入ノ旨ヲ附記シテ債権者ニ裏書譲渡ス可シ
第三百七十一条 債務者カ其債務ノ弁済ヲ遅延シタルトキハ債権者ハ債務者ニ対シ訴ヲ起スコト無クシテ質契約書ヲ差出シ裁判所ノ命令ヲ得タル後質物ノ売却ニ著手スルコトヲ得
此命令ハ債権者ヨリ遅延ナク債務者ニ之ヲ通知ス可シ
第三百七十二条 債務者カ契約書ヲ以テ売却ノ承諾ヲ明示シタルトキ又ハ指図証券ヲ質入シタルトキハ債権者ハ裁判所ノ命令ナクシテ売却ヲ為スコトヲ得
第三百七十三条 前二条ノ場合ニ於ケル売却ハ仲立人又ハ競売人カ競売ヲ以テ之ヲ為シ又取引所ニ於テ売買スル商品ニ在テハ取引所ニ於テ公ノ呼上ヲ以テ之ヲ為シ且売却期日ノ少ナクトモ八日前ニ其為サントスル売却ヲ債務者ニ通知ス可シ
第三百七十四条 前条ニ掲ケタル期間ノ満了スルマテハ債務者ハ債権者ニ弁済ヲ為シテ質物ノ還付ヲ求ムル権利アリ
第三百七十五条 債務額ニ利息及ヒ必要ノ費用並ニ立替金ヲ加ヘタル額ヲ超ユル売却代価ノ過剰ハ売却ノ諸費用ヲ引去リタル後之ヲ債務者ニ還付ス可シ
第三百七十六条 債務者ハ質権ノ設定ニ因リテ質物ヲ他ニ譲渡ス権利ヲ失フコト無シ然レトモ質債務ノ全額ニ満ツルマテ其代価ヲ質債権者ニ支払フ可シ之ニ違フトキハ二年以下ノ重禁錮ニ処ス
第三百七十七条 買主ニシテ其買入レタル物ニ付キ第三者ニ質権ノ存スルコトヲ知ル者ハ質債務ノ全額ニ満ツルマテ其代価ヲ直接ニ質債権者ニ支払フ可シ之ニ違フトキハ亦前条ノ刑ニ処ス
第三百七十八条 同一ノ物ニ付キ質権ヲ二人以上ニ設定シタルトキハ其物ノ占有者カ売却ノ優先権ヲ有ス但強暴若クハ隠密ニテ又ハ随時返還ノ条件ヲ以テ其占有ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第三百七十九条 二人以上ノ質債権者中一人ハ現物ヲ占有シ他ノ者ハ其物ニ付テノ処分証券ヲ占有スルトキハ孰レニテモ其占有ヲ先キニ得タル者売却ノ優先権ヲ有ス
第三百八十条 動産ニ付テノ有効ナル質権ハ質債権者ノ善意ナルトキニ限リ所有者ニ於テ又ハ物ヲ処分スル為メ所有者ヨリ委託セラレタル代人ニ於テ又ハ正当ナル取得ニ因リ物ノ占有ヲ得タル各人ニ於テ之ヲ設定スルコトヲ得但無記名証券ヲ除ク外其物カ盗品又ハ紛失品ナルトキハ此限ニ在ラス
第三百八十一条 所有者ニ非サル者ノ質入シタル物ハ売却執行ノ終ニ至ルマテハ所有者ヨリ質債権者ニ十分ナル弁償ヲ為シテ其取戻ヲ求ムルコトヲ得
第三百八十二条 有効ニ質入シタル物ヲ売却シ其代価ノ支払アリタルトキハ従来其物ニ付キ存セル所有権又ハ質権ハ総テ消滅ス
第三百八十三条 質権ハ第三者ニ於テモ債務者ノ為メ之ヲ設定スルコトヲ得
第三百八十四条 質権ハ将来ノ債権ノ為メ予メ之ヲ設定スルコトヲ得ス
第三百八十五条 質物売却ノ裁判上ノ停止ハ債権者ニ弁済ヲ為シタリトノ抗弁ヲ以テ之ヲ為サシムルコトヲ得但其抗弁ヲ直チニ信認セシメ得ルトキニ限ル
第三百八十六条 指図証券又ハ無記名証券ニ因リテ生シタル債権ヲ質入スルニハ債務者ニ通知ヲ為スコトヲ要セス
質債権者ハ質ニ取リタル債権ヲ売却ニ代ヘテ直接ニ取立ツルコトヲ得又金銭ニ係ル債権ニ非サルトキハ目的物ヲ質物トシテ取扱フコトヲ得
第十節 留置権
第三百八十七条 商取引ニ因リテ他人ノ物ヲ占有シ其物ニ付キ労力、費用、前貸金、立替金、手数料又ハ利息ニ関シテ満期ト為リタル債権ヲ有スル者ハ其債権ノ完全ナル弁済又ハ担保ヲ得ルマテハ其物又ハ其売得金ヲ留置スル権利アリ
第三百八十八条 交互計算ヨリ生スル差引残額ニ付テノ債権ノ為メ又ハ債務者支払ヲ停止シタルトキハ未タ満期ト為ラサルモ商取引ヨリ生スル総テノ債権ノ為メ債権者ハ正当ニ占有ヲ得タル債務者ノ総テノ物ニ対シテ留置権ヲ行フコトヲ得
第三百八十九条 留置権ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但権利者カ自己ノ利益ノ為メ其物ヲ処分シタルモ其留置権アルコトヲ新所持人ニ告知セシトキハ此限ニ在ラス
第三百九十条 留置権ハ債権カ時効其他ノ事由ニ因リテ消滅シタルカ為メニ消滅スト雖モ物ノ所有権カ債務者ノ意ヲ以テ又ハ意ナクシテ他人ニ移リタルカ為メニハ消滅セス
第三百九十一条 留置権ハ債権者ヨリ之ヲ他人ニ移スコトヲ得ス
第三百九十二条 留置権ノ行使ヲ債務者ニ通知シタルモ仍ホ相当ノ期間ニ弁済又ハ担保ヲ得サル者ハ留置シタル物ヲ第三百七十一条及ヒ第三百七十三条ノ規定ニ従ヒテ売却シ其売得金ヲ以テ弁済ニ充ツルコトヲ得
第三百九十三条 双務ノ契約ニ依リテ其履行ヲ求ムルコトヲ得ル者ハ他ノ一方カ履行ヲ為スマテハ自己ノ義務ノ目的物ヲ留置スルコトヲ得但反対ノ契約又ハ商慣習アルトキハ此限ニ在ラス
第十一節 指図証券及ヒ無記名証券
第三百九十四条 或ル金額又ハ商品ノ引渡ニ係ル書面契約ヨリ生スル債権ハ契約書カ其明文又ハ商慣習ニ従ヒテ指図式ナルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得
第三百九十五条 指図証券ノ発行人又ハ裏書譲渡人ハ其証券ニ指図式ニ非サル旨ヲ明記シテ裏書譲渡スヲ得サルモノト為スコトヲ得
第三百九十六条 指図証券及ヒ其裏書ニハ年月日ヲ記シ発行人又ハ裏書譲渡人之ニ署名捺印ス可シ
第三百九十七条 発行又ハ裏書譲渡ノ縁由タル契約ノ合法ノ原因ハ之ヲ証券ニ掲クルコトヲ要セス但第三百七十条ノ規定ヲ妨ケス
第三百九十八条 指図証券ノ裏書譲渡ハ白地ニテモ之ヲ為スコトヲ得
第三百九十九条 指図証券ノ発行人ハ受取証ヲ記シタル指図証券ノ呈示及ヒ交付ヲ受ケタルトキハ予メ引受ヲ為サスト雖トモ其証券ニ記載シタル金額又ハ商品ヲ裏書譲受人ニ引渡ス義務アリ但第三百八十七条ニ依リテ留置権ノ原因タル反対債権ヲ有スル場合ニ於テハ其弁済ヲ受ケタルトキニ限ル
第四百条 指図証券ノ発行人ハ呈示人ノ真偽ヲ調査スル権利アルモ其義務ナシ然レトモ悪意又ハ甚シキ怠慢ニ付テハ此カ為メ損害ヲ受ケタル者ニ対シテ其責ヲ負フ
第四百一条 指図証券ノ発行人ハ前二条ノ旨趣ニ従ヒ自己ニ属スル抗弁又ハ証券面ヨリ生スル抗弁ニ依ルニ非サレハ義務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得ス
第四百二条 裏書譲受人カ裏書譲渡ニ因リテ受取リタル物ニ付キ如何ナル権利ヲ有スルカハ裏書譲受人ト裏書譲渡人トノ間ニ取結ヒタル契約ノ旨趣ニ依リテ之ヲ定ム
第四百三条 盗取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル指図証券ハ裏書譲渡アリタルト否トヲ問ハス民事訴訟法ニ従ヒテ権利者之ヲ無効トスル手続ヲ為スコトヲ得
第四百四条 切手、切符其他ノ無記名証券ハ交付ノミヲ以テ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得此等ノ証券ニ因リ所持人カ発行人ニ対シテ有スル権利ハ其証券ニ記載シタル旨趣又ハ法律、命令若クハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
第八章 代弁人、仲立人、仲買人、運送取扱人及ヒ運送人
第一節 総則
第四百五条 代弁人、仲立人、仲買人及ヒ運送取扱人ノ権利義務ハ第七章第六節ニ掲ケタル原則ニ従ヒテ之ヲ定ム但下ノ数条ニ別段ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第二節 代弁人
第四百六条 代弁人ハ商事ニ於テ他人ノ代理ヲ為スヲ営業トスル商人タリ
代弁人ハ或ル営業者ノ代弁店ノ業務ヲ取扱フ為メニモ之ヲ置クコトヲ得
第四百七条 代弁人ハ自己ノ計算ヲ以テ商業其他ノ職業ヲ行ヒ又数人ノ代理ヲ引受クルコトヲ得然レトモ一箇ノ取引ニ付キ同時ニ双方ヲ代理スルコトヲ得サルヲ通例トス
第四百八条 代弁ノ契約ハ一箇ノ取引ノ為メ又ハ一種類若クハ数種類ノ取引ノ為メ有期ト無期ト又明示ト黙示トヲ問ハス之ヲ取結フコトヲ得又其契約ハ何時ニテモ一方ヨリ之ヲ解クコトヲ得然レトモ其契約ヨリ生シタル権利及ヒ過失ニ出ツル解除ニ因リテ被フラシメタル損害ヲ賠償スル義務ハ契約ヲ解キタルカ為メニ妨ケラルルコト無シ
第四百九条 代弁人ハ特ニ委任者ノ求ナキモ其委任セラレタル取引ノ範囲内ニ於テ委任者ノ利益ヲ謀ル義務アリ然レトモ満期ト為リタル自己ノ債権ノ弁済ヲ受ケサル間ハ其任務ヲ続行スルコトヲ要セス
第四百十条 委任者ニ対スル代弁人ノ代理権ノ範囲ハ委任者ヨリ与ヘタル委任又ハ事後ノ承諾ニ依リテ之ヲ定ム常嘱ノ代弁人ニ在テハ其事後ノ承諾ヲ以テ引続ノ委任ト看做ス但反対ノ情況又ハ明示アルトキハ此限ニ在ラス
第四百十一条 代弁人ハ明示ノ委任ヲ受クルニ非サレハ契約ノ取結ヲ為スコトヲ得サルヲ通例トス
第四百十二条 取引ノ取結ヲ為スノミノ委任ヲ受ケタル代弁人ハ支払ノ金銭若クハ差戻ノ商品ヲ受取リ又ハ異議ヲ承諾スル権利ナシ
第四百十三条 代弁人ハ別段ノ委任ヲ受クルニ非サレハ和解契約ヲ取結ヒ又ハ訴訟ヲ為ス権利ナシ
第四百十四条 商品ノ引渡其他契約履行ノ為メ委任ヲ受ケタル代弁人ハ其代価ノ支払ヲ受クル権利アリト看做ス但委任者其反対ヲ明示シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十五条 代弁人ハ其取扱ヒ又ハ取結ヒタル取引ニ関シテハ過失アルトキ又ハ別段ニ義務ヲ負担シタルトキニ限リ第三者ノ支払資力ニ付キ委任者ニ対シテ責任ヲ負フ其別段ニ義務ヲ負担シタル場合ニ於テハ第二百八十八条ノ規定ヲ適用ス
第四百十六条 常嘱ノ代弁人其行為ニ付キ第三者ノ問ニ対シテ己レニ其権アリト明言シタルトキ又ハ其行為カ慣習上委任ノ範囲内ニ在ルトキハ委任者ハ善意ナル第三者ニ対シテ責任ヲ負フ
第四百十七条 代弁人其行為ニ付キ第三者ヨリ口銭、報酬又ハ償金ヲ受クルトキハ之ヲ委任者ノ計算ニ帰ス可シ然ラサルトキハ委任者其行為ニ付キ責任ナシト述フルコトヲ得
第四百十八条 代弁人ハ自己ノ受取ル可キ手数料、前貸金、立替金、費用及ヒ利息ノ為メ第三百八十七条及ヒ第三百八十八条ノ規定ニ従ヒ委任者ニ対シテ留置権ヲ有ス又其現ニ支払ヒタル立替金及ヒ費用ニ付テハ商慣習又ハ実際ノ必要ニ依リ又ハ委任者ノ利益ノ為メ正当ト認ム可キモノニ限リ之ヲ委任者ノ負担ニ帰スルコトヲ得
第三節 仲立人
第四百十九条 仲立人ハ官ノ認可ヲ受ケ他人間ノ商取引ノ媒介ヲ為スヲ営業トスル商人ニシテ取引所ナキ地ニ於テハ商品、有価証券、貨幣及ヒ為替ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスル専権ヲ有ス其仲立人ノ行為ハ総テ公ノ信用アルモノトス
第四百二十条 仲立人ハ或ル部類ノ商取引ノ為メニ認可セラルルコトヲ得
仲立人ハ仲立営業外ノ商業ヲ為スコトヲ得ス然レトモ其地ノ情況ニ因リテ二箇以上ノ仲立営業部類ヲ一人ニ兼ネシムルコト及ヒ仲立人ヲシテ取引所ニ於テ其営業ヲ為サシムルコトヲ官ヨリ又ハ取引所定款ニ於テ許スコトヲ得
第四百二十一条 何人ニテモ年齢満二十五歳ニ達シ少ナクトモ五年間其部類ノ商ニ従事シ且声聞ニ瑕瑾ナキ者ニ限リ仲立人ト為ルコトヲ得但破産シタル者ハ復権ヲ得タル後ニ非サレハ仲立人ト為ルコトヲ得ス
第四百二十二条 仲立人ハ其業務ヲ始ムル以前ニ保証金ヲ差出ス可キモノトス其額ハ各地及ヒ各商部類並ニ二箇以上ノ仲立営業部類ヲ兼ネシムル場合ノ為メ省令ヲ以テ之ヲ定ム然レトモ二万円ヲ超ユルコトヲ許サス
第四百二十三条 仲立人ノ員数ハ各地ノ為メ及ヒ其地ノ各商部類ノ為メ其需用ニ応シテ之ヲ定ムルコトヲ得
第四百二十四条 仲立人ハ其資格アル者ニ其営業ヲ譲渡シ又ハ相続セシムルコトヲ得ルト雖モ其承継人ハ官ノ認可ヲ受ケ及ヒ保証金ヲ差出シタル後ニ非サレハ其営業ヲ行フコトヲ得ス
第四百二十五条 一地ノ仲立人又ハ一地ニ於ケル或ル商部類ノ仲立人十人以上アルトキハ其仲立人ハ官ノ認可ヲ受ケタル後組合ヲ成スコトヲ得此場合ニ於テハ其組合中ヨリ一个年ノ任期ニテ少ナクトモ三人ノ取締役ヲ選挙ス可シ総テ其地ノ仲立人ハ此組合ニ加入スル権利及ヒ義務アリ
第四百二十六条 仲立人及ヒ仲立人組合ハ共通計算ヲ以テ仲立営業ヲ為スコトヲ許サス之ニ背クトキハ仲立人ニ在テハ其営業ヲ禁止シ組合ニ在テハ其組合ヲ解散シ尚ホ其組合員ノ営業ヲ禁止ス然レトモ仲立人組合ハ其組合定款ニ従ヒテ各組合員ノ為メニ共同保証ヲ引受クルコトヲ得
第四百二十七条 仲立人組合ハ多数決ヲ以テ其営業ヲ行フ為メノ定款ヲ設ク可シ此定款ハ商業会議所及ヒ取引所又ハ其一ノ存スル地ニ在テハ其承諾ヲ経且官ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス各組合員ハ其定款ヲ遵守スル義務アリ
前項ノ規定ハ定款変更ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス
定款ハ法律、命令、商慣習及ヒ其地ノ取引所定款ニ背戻スルコトヲ得ス
第四百四十八条ノ規定ハ取締役ノ決議ニ付テモ之ヲ適用ス
第四百二十八条 取締役ハ左ニ掲クル権利及ヒ義務アリ
第一 仲立人カ其職務範囲内ニ属スル取引ニ於テ法律、命令及ヒ仲立人組合定款ヲ遵守スルヤ否ヤヲ監視スルコト
第二 組合員中ニ違犯者アルトキハ之ヲ懲責シ且必要ノ場合ニ於テハ其処罰及ヒ除名ヲ申立ツルコト
第三 取引所ナキ地ニ於テハ各組合員ヨリ提出スル覚書ニ基キ少ナクトモ一週日毎ニ為替相場及ヒ貨幣、商品並ニ有価証券ノ相場ヲ定メ及ヒ之ヲ公ニスルコト
第四 其定メタル相場ヲ絶エス記入スル為メ帳簿ヲ備ヘ且求ニ応シテ公定ノ相場書ヲ交付スルコト
第五 裁判所又ハ官庁ノ求ニ応シテ商ノ情況ヲ開陳シ又慣習ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
第六 仲立人ノ認可及ヒ員数ノ増減ニ付キ意見ヲ陳述スルコト
第七 総テ組合内部ノ事務ヲ管理スルコト
第四百二十九条 仲立人ハ其媒介スル取引ニ於テ双方ヲ代理スル権利アリ
仲立人ハ正当ノ理由アルニ非サレハ何人ノ委任タリトモ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第四百三十条 仲立人ハ自己又ハ他人ノ計算ノ為メニスルモ自己又ハ他人ノ名義ヲ以テスルモ自己ニ直接又ハ間接ノ利害アル取引ヲ為スコトヲ得ス
仲立人ハ他人ノ為メニ支払若クハ保証其他ノ担保ヲ受ケ又ハ為シ又ハ他人ノ為メニ商品ニ対シテ前貸ヲ為スコトヲ得ス
仲立人ハ代務人又ハ商業使用人タル資格ヲ以テ他人ノ用ヲ弁スルコトヲ得ス
前三項ノ規定ヲ犯シテ仲立人ノ為シタル取引ハ総テ無効トス
第四百三十一条 仲立人ハ委任者ニ対シテ詳悉、完全及ヒ正実ニ必要ノ申告ヲ為ス可シ其申告ニ付キ殊ニ其媒介シタル取引ニ関シテハ委任者ノ人違ニ非サルコト無能力者ニ非サルコト及ヒ署名捺印ノ真正ナルコトニ付キ責任アルモノトス又其地ノ顕著ナル商人ニ於テ人違ニ非サルコトヲ担保スルニ非サレハ面識ナキ人ノ為メ又ハ之ニ対シテ取引ヲ媒介スルコトヲ得ス
第四百三十二条 仲立人ハ委任者ノ求ニ応シテ事ヲ秘スル義務アリ
第四百三十三条 仲立人ハ其媒介シタル取引ニ付キ自ラ其商品ノ存在、品位及ヒ買主ノ支払資力ヲ確認シ且其受取リタル雛形及ヒ見本ニ相当ノ記号ヲ附シ其取引ノ結了スルマテ之ヲ貯蔵ス可シ
第四百三十四条 仲立人ハ手形其他ノ有価証券ノ取引ニ付キ委任ヲ受クルトキハ売主ニ対シテハ証券ノ交付ヲ求メ買主ニ対シテハ価額ノ少ナクトモ百分ノ二十ノ前払ヲ求ム可キモノトス
第四百三十五条 仲立人ハ当事者ノ明言アルトキニ限リ取引ヲ取結フ権アリ匿名委任者ノ場合ニ於テハ取引取結ノ権限ニハ弁済又ハ報償ヲ受クル権ヲ併セテ与ヘタルモノト看做ス
第四百三十六条 仲立人ハ違法若クハ制禁ノ取引又ハ空取引ヲ媒介スルコトヲ得ス
第四百三十七条 仲立人ハ自ラ業務ヲ営ム可キモノニシテ殊ニ取引取結ニ付テハ使用人又ハ代理人ヲ用ユルコトヲ得ス
第四百三十八条 仲立人ハ其担任義務ノ違背其他ノ過失ニ付キ委任者ニ対シテ損害賠償ヲ為ス責ニ任ス
第四百三十九条 匿名委任者ノ為メ取結ヒタル取引ニ付テハ仲立人独リ直接ニ請求ヲ受ク
第四百四十条 仲立人ハ其取結ヒタル取引ノ要旨ヲ特設ノ日記帳ニ日日記入シ自ラ其記入ヲ日日閉鎖シテ之ニ署名捺印シ且遅クトモ翌日中ニ関係アル部分ノ謄本ニ署名捺印シテ之ヲ委任者双方ニ交付ス可シ但其謄本ハ指図式ト為スコトヲ得
其一方ニ於テ右謄本ノ旨趣ニ対シテ異議ヲ唱ヘ又ハ承諾スルコトヲ肯セサルトキハ仲立人直チニ之ヲ他ノ一方ニ通知ス可シ但他ノ一方カ匿名委任者ニ非サルトキニ限ル
第四百四十一条 死亡シ又ハ退職シタル仲立人ノ日記帳ハ仲立人組合ノ取締役ニ於テ其組合ナキ地ニ在テハ裁判所ニ於テ之ヲ預リ置ク可シ
第四百四十二条 仲立人ノ手数料ハ別段ノ定例又ハ慣習ノ存スル場合ヲ除ク外其取引結了ノ後ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
手数料ノ額ハ仲立人組合定款又ハ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
手数料ハ別段ノ契約又ハ慣習ナキトキニ限リ委任者双方ヨリ各其半額ヲ払フヲ通例トス
手数料ハ仲立人ノ過失ニ因リテ其契約ヲ相当ニ履行セサルトキハ之ヲ払フコトヲ要セス
第四百四十三条 仲立人カ適法ノ手数料ヲ超過シタル報酬又ハ恵与ヲ委任者ノ一方ヨリ受ケタルトキハ他ノ一方ニ於テ其取引ヲ無効ナリト陳述スルコトヲ得
第四節 取引所仲立人
第四百四十四条 取引所ハ取引所定款ノ規定ニ従ヒテ商取引ヲ為ス所ノ公設場トス
第四百四十五条 相応ノ商アル地ニ於テハ其地又ハ其一区域内ノ商人ニ於テ一般又ハ或ル部類ノ商取引ノ為メ官ノ認可ヲ得テ取引所ヲ設立スルコトヲ得
第四百四十六条 取引所ハ取引場ヲ定メ定款ヲ設ケ及ヒ取締役ヲ置ク可シ此諸件及ヒ其変更ニ付テハ官ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第四百四十七条 取引所ノ事務及ヒ章程ハ特別ノ法律、命令アルニ非サレハ定款ヲ以テ之ヲ定ム若シ其定ナキトキハ取締役其定款ニ準拠シテ之ヲ定ム
第四百四十八条 取締役ノ決議ヲ不当又ハ有害ナリトシテ異議ヲ述フル者アルトキハ農商務省ニ於テ双方ヲ審訊シタル後其理由ヲ示シテ之ヲ裁決ス
第四百四十九条 或ル商品ヲ小売ノ外ハ取引所ニ非サレハ商フヲ得サルコトヲ官ヨリ規定スルコトヲ得
此規定ニ違フ者ハ二円以上二百円以下ノ過料ニ処ス
前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一条第一項ノ規定ヲ適用ス
第四百五十条 取引所ニ於テハ其売買ヲ許サレタル商品ノ倉庫ヲ設置シ及ヒ指図式ノ倉荷証書ヲ発行スルコトヲ得取締役又ハ取引所仲立人ハ其倉荷証書ニ対シテ前貸ヲ為シ又ハ之ヲ買受クルコトヲ得ス
第四百五十一条 取引所仲立人ハ特ニ取引所仲立人トシテ官ノ認可ヲ受ケ且保証金ヲ差出シタル後取締役ヨリ其職ニ充テラルルモノトス其仲立人ハ取引所ノ定款其他ノ章程ヲ遵守スルコトヲ誓フ可シ
第四百五十二条 仲立人組合ノ存在スル地ニ在テハ其組合取締役ノ中少ナクトモ一人ヲ取引所取締役ニ選ム可シ
第四百五十三条 取引所ハ其取引ノ範囲ニ応スル員数ノ仲立人ヲ置ク可シ
第四百五十四条 本法中仲立人ニ係ル規定ハ取引所仲立人モ之ヲ遵守ス可シ
第四百五十五条 仲立人、取引所仲立人及ヒ取引所ハ大蔵省及ヒ農商務省ノ監督ヲ受ク
第五節 仲買人
第四百五十六条 仲買人ハ契約ニ従ヒ自己ノ名ヲ用井他人ノ計算ヲ以テ商業ヲ営ム商人タリ
第四百五十七条 仲買人ノ第三者ト取結ヒタル取引ノ効力ハ第三者ニ対シテハ委任者ノ委任又ハ承諾ニ関係セス
第四百五十八条 仲買人ハ委任者ノ与ヘタル委任ヲ遵守スル義務アリ其委任ノ踰越其他ノ過失ニ因リテ加ヘタル損害ニ付テハ委任者ニ対シテ其責ニ任ス
第四百五十九条 仲買人事情避ク可カラサリシコトト委任者ノ為メ更ニ大ナル損害ヲ防止シタルコトトヲ証明スルトキハ委任踰越ノ責ヲ免カル但委任者カ明示又ハ黙示ニテ其委任ヲ必行ス可キコトヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百六十条 仲買人ハ委任踰越ニ因リテ委任者ノ損失ト為リタル物価ノ差額其他計算上ノ差額ヲ自己ニ負担スルヲ以テ委任踰越ノ責ヲ免カルルコトヲ得ス
第四百六十一条 仲買人ハ委任ニ背クニ因リテ委任者ノ利益ト為リタル物価ノ差額其他計算上ノ差額ヲ自己ノ有ニ帰スルコトヲ得ス
第四百六十二条 第四百九条ノ規定ハ仲買人ニモ之ヲ適用ス殊ニ仲買人ハ取引施行ノ前後ヲ問ハス常ニ遅延ナク委任者ニ必要ノ報知ヲ為シ且運送、貯蔵、保険、売買其他総テ商業上ノ作用ニ付キ十分ニ所有者ノ利益ヲ謀ル可シ
第四百六十三条 仲買人ハ必要ノ前貸金ヲ遅滞ナク交付セラレ又ハ取引ヨリ生ス可キ自己ノ請求ニ対スル引当ヲ有シ若クハ担保ヲ得タルトキハ総テ其営業ニ属スル委任ヲ引受クル義務アリ
第四百六十四条 仲買人委任ノ引受ヲ肯セサルトキハ直チニ之ヲ委任者ニ通知シ且寄託ノ貨物ヲ適当ニ保存スル義務アリ若シ其通知ヲ為ササルトキハ委任施行ノ責ニ任ス
第四百六十五条 仲買人ハ別段ノ契約ナキトキハ委任者ニ又ハ委任者ノ計算ヲ以テ第三者ニ前貸ヲ為ス義務ナシ然レトモ委任者ノ承諾ヲ得タルトキ又ハ其承諾ナキモ商慣習アルトキハ委任者ノ計算ヲ以テ第三者ニ前貸ヲ為シ又ハ信用ヲ与フル権利アリ
第四百六十六条 仲買人ハ第四百十五条ノ規定ニ従ヒ第三者ノ支払資力ニ付キ委任者ニ対シテ責ニ任ス然レトモ其責任ハ第三者カ責ニ任ス可キマテヲ以テ限トス
第四百六十七条 委任者ハ仲買人ニ与ヘタル委任ノ未タ施行セサルモノニ限リ何時ニテモ之ヲ廃止シ又ハ変更スルコトヲ得
仲買人ハ第四百六十三条ノ規定ニ依リテ委任ノ引受ヲ拒ミ得ルトキニ限リ解約ヲ申込ム権利アリ但正当ニ其申込ヲ為シタル後ト雖モ悪意又ハ怠慢ニ付テハ委任者ニ対シテ仍ホ責ニ任ス
第四百六十八条 仲買委任ノ関係ハ一方ノ破産ニ因リテ終ル又死亡其他委任ヲ施行スルコト能ハサル事由ニ因リテハ此事由ニ基キテ其関係ヲ解クコトヲ一方ヨリ明言シタルトキニ限リ終ルモノトス
第四百六十九条 仲買人ハ仲買取引ノ外自己ノ計算ヲ以テ同種類又ハ他種類ノ取引ヲモ為ス権利アリ
前項ノ商人ニシテ仲買取引ヲ常業ト為ササル者ニハ第四百六十三条ノ規定ヲ適用セス
第四百七十条 仲買人ハ委任者ニ於テ反対ノ明言ヲ為ササルトキハ其受ケタル委任ヲ買主、売主又ハ其他ノ者トシテ自己ノ計算ヲ以テ施行スルコトヲ得然レトモ委任者ニ対スル自己ノ権利及ヒ義務ハ変更スルコト無シ
第四百七十一条 前条ノ場合ニ於テハ仲買人ヨリ自己ノ計算ヲ以テ引受ケタル旨ノ通知ヲ委任者ニ発送シタル時直チニ其委任ヲ施行シタルモノト看做ス
第四百七十二条 仲買人ハ委任施行ノ後之ヲ委任者ニ通知シ其取引ノ売得金ヨリ自己ノ取分ヲ引去リテ之ヲ委任者ニ支払ヒ又ハ其計算ニ立ツ可シ
第四百七十三条 委任者ノ計算ヲ以テ買入レ又ハ引受ケタル商品ハ委任ニ他ノ定ナキトキハ仲買人之ヲ委任者ノ処分ニ付シ其処分アルマテ適当ニ貯蔵ス可シ其商品ノ運送ヲ周旋スル義務アルハ明示ノ委任アルトキニ限ル但自己ノ留置権ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第四百七十四条 仲買人ノ取引ニシテ委任者ノ承認スル義務ナキモノハ其承認ナキニ拘ハラス仲買人ノ計算ニ於テハ有効トス然レトモ第三百八十一条ノ規定ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ又仲買人ハ委任者ニ総テノ損害ヲ賠償ス可シ
第四百七十五条 仲買取引ヨリ生シタル債権及ヒ債務ハ仲買人ノ直接ノ債権及ヒ債務タルヲ通例トス然レトモ仲買人其債権ヲ委任者ニ譲渡シ又ハ支払資力ヲ失ヒタルトキハ委任者直チニ第三者ニ対シテ其債権ヲ主張スルコトヲ得
第四百七十六条 仲買人ハ委任者ニ為シタル前貸ノ償還ノ外尚ホ左ノ諸件ヲ求ムル権利アリ
第一 必要又ハ有益ニシテ商慣習ニ適スルモノニ眼リ現ニ支払ヒタル費用及ヒ立替金ノ弁償
第二 各地慣習又ハ契約上ノ仲買手数料
第三 仲買人ニ於テ資力保証ヲ負担シタルトキハ其保証料
仲買人ハ右ノ債権ニ付キ第三百八十七条及ヒ第三百八十八条ノ規定ニ従ヒテ留置権ヲ有ス
第四百七十七条 仲買人ノ過失ニ非スシテ委任ヲ施行セサリシトキト雖モ仲買人ハ慣習アル地ニ限リ仲買手数料ヲ求ムルコトヲ得但其額ハ通常手数料ノ半額ヲ超ユルコトヲ得ス
第四百七十八条 仲買人ハ仲買ノ為メ取扱フ商品ニ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得
然レトモ其商品ニ附シタル他ノ商人又ハ製造人ノ商標又ハ製造標ヲ其承諾ヲ得スシテ変更シ又ハ除去スルコトヲ得ス又他ノ商人又ハ製造人ヨリ出テタル仲買商品ニ出所ノ区別ヲ表セスシテ自己ノ商標又ハ商号ヲ附スルコトヲ得ス
第四百七十九条 仲買人或ル見本又ハ雛形ニ従ヒテ委任ヲ施行ス可キトキハ反対ノ明約ナキトキニ限リ正当ノ所有者又ハ製出者ニ依ルニ非サレハ其委任ヲ施行スルコトヲ得ス之ニ違フトキハ委任者ハ其商品カ見本又ハ雛形ニ適スルト否トヲ問ハス其契約ヲ解クコトヲ得
第四百八十条 書籍其他器械ヲ以テ複製スル学芸、技術上ノ製出物ノ発行引受ハ仲買営業ノ原則ニ依ル可シ
第六節 運送取扱人
第四百八十一条 運送取扱人ハ契約ニ従ヒ自己ノ名ヲ用井他人ノ計算ヲ以テ商品其他ノ物ノ運送取扱ヲ営業トスル商人タリ
運送取扱人ハ其営業ノ外亦自己ノ計算又ハ他人ノ計算ヲ以テ他ノ商取引ヲ為スコトヲ得
第四百八十二条 運送取扱人ハ運送賃ヲ約定シタルト否トヲ問ハス又其引受ケタル運送ヲ自己ノ運送具、賃借ノ運送具又ハ他人ノ運送具ヲ以テ施行スルト施行セシムルトヲ問ハス仲買人及ヒ運送営業人ト同一ノ責ニ任ス
第四百八十三条 運送取扱人ハ別段ノ契約ヲ為ササルトキ又ハ直接ニ運送ヲ為ス場合ニ於テハ其運送ヲ逓次施行スル総テノ中間運送取扱人、代弁人、運送営業人其他ノ人ノ為メ運送営業人タル責ニ任ス
第四百八十四条 運送取扱人ハ運送状ヲ発行ス可シ其運送状ニハ左ノ諸件ヲ掲クルコトヲ要ス
第一 年月日、運送取扱人ノ氏名及ヒ住所
第二 運送営業人ノ氏名及ヒ住所
第三 運送品ノ種類及ヒ重量
第四 行李アルトキハ其箇数、性質及ヒ記号
第五 約定シタル引渡ノ地及ヒ時
第六 運送賃
其他運送状ニハ左ノ諸件ヲ掲クルコトヲ得
第一 運送品ノ価額
第二 名宛人ノ氏名
第三 引渡ヲ遅延シタル場合ニ於テ支払フ可キ損害賠償ノ額
第四百八十五条 運送状ハ反対ヲ明記セサルトキハ指図式トス又無記名式ニテ之ヲ発行スルコトヲ得
第四百八十六条 運送品ノ差出人ハ運送状一通又ハ数通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第四百八十七条 運送取扱人ハ其取結ヒタル総テノ運送取扱契約ヲ特設ノ帳簿ニ日日記入シ且其帳簿ヲ日日閉鎖シテ之ニ署名捺印ス可シ各運送状ハ其帳簿ノ記入ト同文ナルコトヲ要ス
第四百八十八条 運送状ノ記入ニシテ運送取扱契約又ハ法律、命令ニ背戻スルモノハ無効トス
第四百八十九条 運送取扱人ハ左ニ掲クルモノヲ求ムルコトヲ得
第一 運送取扱人ヨリ運送品ニ対シテ為シタル前貸及ヒ其立替ヘタル運送賃ノ償還
第二 運送取扱人ヨリ運送品ノ為メニ支払ヒタル必要又ハ有益ノ費用及ヒ立替金ノ弁償
第三 各地慣習又ハ契約上ノ運送取扱手数料但運送賃額ヲ定メタル場合ニ於テハ其手数料ヲ明約シタルトキニ限ル
運送取扱人ハ右ノ債権ニ付テハ第三百八十七条及ヒ第三百八十八条ノ規定ニ従ヒ運送品ニ対シテ留置権ヲ有ス
第四百九十条 運送取扱人ノ債権ハ特約アルニ非サレハ到達地ニ於テ運送品ヲ引渡ス際運送取扱人、其受次人又ハ約定シタル運送ノ全部若クハ一分ヲ施行シタル者ヨリ始メテ之ヲ主張スルコトヲ得
第四百九十一条 運送取扱人ノ責任ニ因リテ生スル請求又ハ抗弁ニ対シテハ運送取扱人及ヒ前条ニ掲ケタル各人ハ連帯且無条件ニテ其責ニ任ス
第四百九十二条 本節ノ規定ハ旅客ノ運送、新聞紙、電報、印刷物其他ノ物ノ送達並ニ広告ノ取次其他ノ送達事業ヲ営業トスル人ニモ之ヲ適用ス然レトモ運送仲立人、代弁人、商事問合場及ヒ此類ノモノニハ之ヲ適用セス
第七節 運送人
第四百九十三条 運送人ハ陸上又ハ国内水上ニ於テ商品其他ノ物ノ運送ヲ営業トスル商人タリ
運送人ハ運送品ヲ引受ケタル時ヨリ其運送品ノ喪失、毀損及ヒ引渡ノ遅延ニ付キ責ニ任ス但此事実カ差出人ノ過失、運送品ノ性質又ハ不可抗力ニ因リテ生シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十四条 運送品ノ引渡ハ約定ノ期間ニ之ヲ為ササルトキ又期間ノ約定ナキ場合ニ於テハ運送ヲ施行スル為メ通例必要ナル期間ニ之ヲ為ササルトキハ遅延シタルモノトス右ノ期間ハ孰レノ場合ニ於テモ運送状ノ日附ヨリ若シ其日附ナキトキハ運送品ヲ引受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第四百九十五条 運送品ノ引渡ヲ遅延シタルニ付テノ賠償額ハ運送賃ノ三分一トス但此額カ損害ノ割合ニ応セサルトキ又ハ別段ノ額ヲ約定シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十六条 運送品カ遅延又ハ一分ノ喪失若クハ毀損ニ因リテ其儘売却シ若クハ使用シ得ヘカラサルニ至リタルトキ又ハ少ナクトモ其価額ノ四分三ヲ失ヒタルトキハ其運送品ヲ運送人ニ委付シテ全価額ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第四百九十七条 運送品ノ各部又ハ各箇ノ喪失若クハ毀損ノ場合ニ於テ毀損セサル各部又ハ各箇ヲ其儘使用シ若クハ売却シ得ヘカラサルトキハ其喪失若クハ毀損ニ因リテ運送品全部ニ付キ減シタル価額ヲ賠償ス可シ然レトモ其毀損セサル各部又ハ各箇ノ価額カ運送品全部ノ価額ノ四分一ニ超エサルトキハ前条ノ規定ヲ適用ス
第四百九十八条 賠償額ハ商品ニ在テハ引渡地ノ商価額ニ従ヒ其他ノ運送品ニ在テハ引渡地ノ普通価額ニ従ヒ第三百二十四条ノ規定ニ依リテ之ヲ計算ス可シ但運送状ニ此ヨリ高キ価額ヲ掲ケサルモノニ限ル
第四百九十九条 価額ニ付キ又ハ損傷ノ範囲ニ付キ当事者間ニ争ノ生スルトキハ鑑定人ノ鑑定ニ因リ之ヲ定ム其鑑定人ハ当事者之ヲ任シ若シ当事者同意スルコトヲ得サルトキハ其申立ニ因リテ裁判所之ヲ任ス
第五百条 金銀貨幣、貴金属、宝石、金銀物、有価証券、証書類其他ノ高価物ニ在テハ其賠償ハ運送委託ノ際其物ノ性質及ヒ価額ヲ明告シ且適当ニ広告シタル特別運送賃表ニ依リテ高額ノ運送賃ヲ承諾シタルトキニ限リ其実価ニ従ヒテ之ヲ求ムルコトヲ得
第五百一条 前条ニ掲ケサル運送品ニ在テハ運送人ハ予メ適当ニ広告シタル運送賃表ヲ以テ各行李又ハ重量ニ付キ或ル金額マテニ限リ第四百九十八条ノ価額賠償ヲ弁済ス可キ旨ヲ約定スルコトヲ得
第五百二条 前数条ニ掲ケタル賠償額ハ至当ノ理由ニ基キタル明示ノ契約ニ依ルニ非サレハ之ヲ増減スルコトヲ得ス
第五百三条 運送人ハ甚シキ怠慢又ハ悪意ニ因リ総テノ場合ニ於テ第三百二十八条及ヒ第三百二十九条ノ規定ニ従ヒテ十分ナル損害賠償ノ義務ヲ負フ
第五百四条 運送人ハ使用人其他自己ノ引受ケタル運送ヲ為スニ当リ使用スル者ノ為メ責ニ任ス
第五百五条 或ル運送人ニ於テ引受ケタル運送ヲ之ニ次ク他ノ運送人ノ為ストキハ其各運送人ハ連帯シテ責任ノ全部ヲ負担ス
第五百六条 運送人ハ運送ノ為メ委託セラレタル貨物ニ付テハ差出人又ハ受取人ノ代弁人ト看做サレ差出人又ハ受取人ニ対シテ其貨物ノ保存及ヒ適当ナル運送ノ為メニ必要ナル注意ヲ為ス責ニ任ス
第五百七条 第四百八十三条乃至第四百九十一条ノ規定ハ運送人ニモ之ヲ準用ス
第五百八条 差出人又ハ受取人ハ運送前ハ勿論運送中ト雖モ其約定シタル運送ノ施行ヲ止メ又ハ変スル権利アリ然レトモ運送人ニ属スル求償権ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第五百九条 不可抗力其他ノ意外ノ事ニ因リテ約束シタル運送ノ著手又ハ続行ヲ妨ケラレ又ハ之ヲ為スコトヲ得ス若クハ其危険ナルニ至リタルトキハ双方ニ於テ前条ト同一ノ権利ヲ有ス然レトモ此場合ニ於テ運送人ハ既ニ為シタル運送ノ割合ニ応スル運送賃ノ支払及ヒ費用又ハ立替金ノ弁償ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第五百十条 約定ノ運送ヲ為サス又ハ中止シタルコトカ運送人ノ過失又ハ行為ニ出テタル場合ニ於テ其運送人カ他ノ適当ナル運送人ヲ任セサルトキハ差出人又ハ受取人ハ契約ヲ解除シ又ハ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第五百十一条 運送人カ運送品又ハ運送状ヲ最初ニ定メタル受取人ニ交付セサル間ハ差出人ハ運送前ト運送中トヲ問ハス其運送品ニ付キ運送状ニ掲ケタルモノニ異ナレル処分ヲ為スコトヲ得
第五百十二条 運送人ハ其求メラレタル運送カ特別ナル危険ヲ免カルルコトヲ得サルトキ又ハ其平常為ス運送営業ニ属セサルトキノ外ハ適法ノ理由アルニ非サレハ其運送委託ノ引受ヲ拒ミ又ハ其引受ヲ困難ナル条件ニ繋ラシムルコトヲ得ス殊ニ非常ノ情況アルトキノ外ハ運送具又ハ運送設備ノ不完全ナルヲ以テ口実ト為スコトヲ得ス
第五百十三条 運送状又ハ其他ニ指名シタル受取人ハ自己ノ名ヲ以テスルト他人ノ名ヲ以テスルトヲ問ハス到達地ニ於テ運送状ニ従ヒ運送人ニ対シテ運送契約ヨリ生スル債権ヲ主張スルコトヲ得
第五百十四条 運送状又ハ其他ニ指名シタル受取人カ運送品ノ引受若クハ差出人ノ附シタル条件ノ履行ヲ拒ムトキ又ハ運送賃其他運送人ノ正当ナル債権ノ支沸ヲ為ササルトキ又ハ其受取人ヲ捜出スルヲ得サルトキハ運送人ハ運送品ヲ公ノ倉庫ニ寄託シ又ハ裁判所ノ命令ニ依リテ他人ニ寄託シ及ヒ第三百九十二条ノ規定ニ従ヒ其総債権ノ額ニ満ツルマテ之ヲ売却スルコトヲ得
第五百十五条 受取人留保ヲ為サスシテ運送品ヲ受取リ及ヒ運送人ニ支払ヲ為シタルトキハ運送人ニ対スル総テノ請求権ハ消滅ス
第五百十六条 喪失、毀損又ハ遅延ノ為メ運送人ニ対スル総テノ訴及ヒ抗弁ノ権ハ運送品ノ引渡ヲ為シタル日又全部喪失ノ場合ニ於テハ其引渡ヲ為ス可カリシ日ヨリ一个年ヲ以テ時効ニ罹ル
第八節 旅客運送
第五百十七条 陸上又ハ国内水上ニ於テ通例運送賃ヲ受ケテ旅客ヲ運送スル者ハ其運送ヲ為スニ当リ旅客ノ為メ至重ノ注意ヲ為ササルニ因リテ之ニ加ヘタル身体上ノ傷害ニ付キ賠償ヲ為ス義務アリ但争アル場合ニ於テハ自己ノ過失ニ非サルヲ証明スルコトヲ要ス
第五百十八条 損害賠償ハ傷害ヲ被フリタル者ニ生セシメタル治療費及ヒ特別ノ給養費ノ賠償ト慰藉金トヲ包括ス其慰藉金ハ災害ノ結果ノ軽重、長短及ヒ罹災者ノ所得ノ関係ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第五百十九条 災害ノ為メ死亡シ又ハ永久ノ廃疾、不具若クハ所得無能力ト為リタルトキハ慰藉金ノ額ハ尚ホ罹災者ノ家族ノ生計ノ需用ヲモ斟酌シテ之ヲ定ム
第五百二十条 旅用行李ニ付テハ旅客カ携帯スルト否ト又別段ノ報酬ヲ支払フト否トヲ問ハス之ヲ旅客運送人ニ交付シ且必要ノ場合ニ於テ其性質及ヒ価額ヲ明告シタルトキハ旅客運送人ハ運送人ト同一ノ責ニ任ス
第五百二十一条 手荷物ニ付テハ旅客運送人ハ過失ノ責ノ自己ニ帰スル場合ニシテ其手荷物カ現実且相当ノ旅行需用ヲ充タスニ必要ナルモノニ限リ賠償ノ責ニ任ス
第五百二十二条 旅用行李ハ別段ノ委託ナキトキハ旅行ノ終ニ於テ之ヲ旅客ニ交付シ若シ交付スルコトヲ得サルトキハ三日間保蔵ス可シ此期間ノ満了後ハ旅客運送人ノ責任ハ第三百四条ノ規定ニ従フ
第五百二十三条 前諸条ノ外ハ旅客及ヒ行李ノ運送ニ付キ前節ノ規定ヲ適用ス其旅客ノ衣服又ハ装具ニ対シテハ留置権ヲ行フコトヲ得ス
第五百二十四条 旅客及ヒ行李ニ付テノ責任ハ運送賃ヲ前払ニ為シタルト否トニ拘ハラス又之ヲ支払フコトヲ要セサル場合ト雖モ仍ホ存スルモノトス
第九章 売買
第一節 売買契約
第五百二十五条 契約取結ノ時現ニ存在シ且売主ニ処分権ノ属スル物ニ非サレハ売買契約ノ目的物タルコトヲ得ス
第五百二十六条 他人ノ物ト雖モ其占有ヲ正当ノ方法ヲ以テ取得シタル者ハ所有権移転ノ時ニ於テ買主善意ナルトキハ之ヲ売買スルコトヲ得但無記名証券ヲ除ク外盗品又ハ紛失品ハ此限ニ在ラス
第五百二十七条 契約取結ノ時現ニ存在スルモ天然ノ原因ニ由リテ未タ引渡ス能ハサル物ノ売買契約ハ其物カ引渡スヲ得ヘキモノト為ラハトノ条件ヲ以テスル契約タリ但当事者カ他ノ意思ヲ有スルトキハ此限ニ在ラス
第五百二十八条 契約取結ノ時既ニ存在セサル物ノ売買契約ハ双方孰レモ此事実ヲ知ラス且其存在ノ確実ナラサルコトヲ認メテ之ヲ取結ヒタルトキハ有効トス
第五百二十九条 売主カ買戻ヲ約定スル売買契約ハ差額取引又ハ違法ノ高利取引其他ノ不法ノ取引ヲ目的トシテ之ヲ取結ヒタルトキハ無効トス
第五百三十条 初ヨリ履行ノ意思ナクシテ取結ヒ又ハ取得若クハ譲渡ヲ禁セラレタル物ニ付キ取結ヒタル売買契約ハ無効トス
第五百三十一条 買主ハ売買契約ノ取結ニ因リ又条件附契約ノ場合ニ於テハ其条件ノ成就ニ因リ又物ヲ先ツ量定シ若クハ分割スルコトヲ要スルトキハ其量定、分割若クハ符記ニ因リテ物ノ所有者ト為リ且其喪失若クハ毀損ノ危険ヲ負担ス
二人以上ニ属スル共有物ノ持分ヲ売渡スニ付テハ予メ其量定若クハ分割ヲ為スコトヲ要セス
第五百三十二条 点検又ハ嘗試ノ上ニテ為ス売買契約ハ買主カ其物ヲ承諾セハトノ条件ヲ以テ之ヲ取結ヒタリト看做ス
買主カ契約若クハ商慣習ニ因リテ定マリタル期間又ハ点検若クハ嘗試ノ為メ必要ナル期間ニ其承諾ヲ述ヘサルトキハ条件ハ成就セサリシモノト看做ス之ニ反シテ点検又ハ嘗試ノ為メ売買物ヲ買主ニ引渡シタル場合ニ於テ買主カ右期間ノ満了マテニ承諾ヲ述ヘス又其物ヲ売主ニ還付セサルトキハ条件ハ成就シタルモノト看做ス
第五百三十三条 商標、見本、雛形又ハ試品ヲ以テ為ス売買契約ハ無条件ノモノニシテ此契約ニ依リテ売主ハ物カ商標、見本、雛形又ハ試品ニ適合ス可ク且別段ノ契約アルニ非サレハ其物カ商標、見本、雛形又ハ試品ノ所有者又ハ製出者ニ由来ス可キ義務ヲ負フ
第五百三十四条 物ヲ点検ノ後無条件ニテ売買シタルトキハ売主ハ自己ノ詐欺又ハ買主ノ重要ナル錯誤アル場合ノ外ハ其担保ヲ引受ケ又ハ買主ニ隠蔽シタル欠欠若クハ瑕疵ニ付テノミ責任ヲ負フ
買主ハ欠欠若クハ瑕疵ノ些少ナルトキ又ハ売主ニ過失ナキトキハ代価ノ相当ナル減少ノミヲ求ムルコトヲ得
第五百三十五条 商品及ヒ代価ヲ明細ニ記載シテ見本、雛形、試品、商品目録其他ノ取引上ノ通告書ヲ指定セル人ニ送付シタルトキハ其送付ハ羈束セラルル提供ト看做ス但送付者カ其提供ヲ変更スル権利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十六条 契約取結ノ後直チニ売主ハ物ヲ引渡シ及ヒ代価ヲ受取リ買主ハ物ヲ受取リ及ヒ代価ヲ支払フ可キ権利及ヒ義務アリ但契約又ハ商慣習ニ依リテ此義務ノ履行ノ為メ或ル期間ノ存スルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十七条 別段ノ定例、契約又ハ商慣習ナキトキハ物ノ引渡ハ売主ノ費用ヲ以テ之ヲ為シ其受取、検査及ヒ代価支払ハ買主ノ費用ヲ以テ之ヲ為ス
第五百三十八条 物ノ引渡マテハ売主ハ至重ノ注意ヲ為ササルニ因リテ生セシメタル喪失又ハ毀損ニ付キ買主ニ対シテ責任ヲ負フ但買主カ受取ヲ遅延シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十九条 契約取結ノ前予メ物ヲ買主ニ引渡シタルトキハ買主ハ売主ニ対シテ前条ニ掲ケタル責任ヲ負フ
第五百四十条 契約取結ノ時物カ第三者ノ手ニ存在スルトキハ其第三者ハ売主ニ引渡スト同様ニ其物ヲ買主ニ引渡ス義務アリ
第五百四十一条 代価ヲ明示ニテ定メサリシ場合ニ於テ当事者ノ別段ノ意思ナキトキハ履行ノ時及ヒ地ニ於ケル市場代価又取引所ニ於テ売買スル物ニ在テハ取引所相場代価ヲ支払フコトヲ要ス
買主ハ別段ノ契約又ハ商慣習ナキトキハ物ノ引渡前ニ代価ヲ支払フ義務ナシ
第五百四十二条 買主ハ物ノ欠欠若クハ瑕疵又ハ引渡ノ遅延ニ付キ仲立人ヲシテ売主ノ費用ヲ以テ故障証書ヲ作ラシメ之ヲ売主ニ送付スル権利アリ
第五百四十三条 別段ノ契約ナキトキハ売主ハ履行ノ時及ヒ地ニ於テ普通ナル品質ノ商品ヲ引渡ス義務アリ
右ノ規定ハ壜、箱其他ノ容器、外包ニシテ商品ノ引渡若クハ転売ノ用ニ供スルモノ又ハ運送ノ用ニ供スル外包ニシテ商品ノ形状、性質ヲ保全スルニ必要ナルモノニモ之ヲ適用ス
第五百四十四条 買主商品ヲ受取リタルトキハ即時ニ其分量及ヒ品質ヲ検査シ欠欠又ハ瑕疵アラハ之ヲ売主ニ通知スル義務アリ
後ニ至リ発見シタル欠欠又ハ瑕疵ニ付テハ売主カ担保ヲ引受ケ若クハ詐欺ヲ行ヒ又ハ買主カ商品ノ性質ニ因リ即時検査ヲ為ス能ハサリシ場合ニ於テ其発見後直チニ通知ヲ為シタルニ非サレハ買主ハ訴又ハ抗弁ヲ以テ其権利ヲ主張スルコトヲ得ス
第五百四十五条 売主カ契約ノ一分ノミヲ履行シタルトキハ買主ハ其全部ヲ解除スルコトヲ得但当事者ノ意思ニ依リテ一分ノ履行ヲ為シ得ヘキトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テハ代価ハ其為シタル履行ノ割合ニ応シテ之ヲ支払フコトヲ得
若シ売主カ完全ノ履行ヲ為シタル場合ニ於テ買主カ代価ノ一分ノミヲ支払ヒタルトキハ売主ハ
第三百二十三条ニ掲ケタル権利ヲ主張シ又ハ其支払ヲ受ケサル部分ヲ取戻シテ之ヲ自己又ハ買主ノ計算ニテ売却スルコトヲ得
第五百四十六条 風袋ノ重量ハ明示ノ契約又ハ商慣習アルニ非サレハ商品ノ重量ニ算入スルコトヲ得ス
風袋ノ重量トシ又ハ損敗、毀損ノ部分トシテ買主ニ増数若クハ増量ヲ与フルヤ否ヤ及ヒ其多少ハ契約又ハ商慣習ニ従フ
第五百四十七条 買主ヨリ物ノ欠欠又ハ瑕疵ニ付テ通知若クハ故障ヲ受ケタルトキハ売主ニ於テモ仲立人其他ノ鑑定人ヲシテ其物ノ現状及ヒ品質ヲ検査セシムルコトヲ得
第五百四十八条 当事者又ハ其鑑定人ニ於テ協議調ハサルトキハ裁判所ヨリ任スル鑑定人其物ノ現状又ハ品質ヲ査定ス
第五百四十九条 買主カ物ノ受取ヲ拒ムトキハ遅延ナク其物ヲ売主ノ処分ニ付スルコトヲ要シ又此処分ヲ為シ又ハ当ニ為スヘキニ至ルマテ其貯蔵ニ注意スルコトヲ要ス
買主ハ売主ノ委託アルニ非サレハ其物ヲ売主ニ送還スル権利及ヒ義務ナシ
第五百五十条 買主ハ其拒ミタル物ノ代価ヲ既ニ支払ヒタルトキ又ハ其物カ損敗シ若クハ価ヲ失フニ至ル可キモノナルトキハ売主ノ計算ヲ以テ之ヲ売却スルコトヲ得買主ノ利益ノ為メニスル売却ニ在テハ第三百九十二条ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十一条 買主ハ売主ニ対シテ遅クトモ物ノ引渡マテニ送品勘定書ヲ得ント求メ又代価支払ノ為メ受取証書ヲ得ント求ムルコトヲ得
第二節 供給契約
第五百五十二条 供給契約ハ契約取結ノ時未タ現存セサル物又ハ売主ニ処分権ノ属セサル物又ハ仍ホ運送中ニ在ル物又ハ指図証券、無記名証券ヲ以テ若クハ必要ナル名前書替ヲ以テ引渡ス可キ物ノ売買契約タリ
第五百五十三条 供給契約ハ双方ヲ羈束ス然レトモ物ノ所有権及ヒ危険ハ其物ヲ引渡スニ因リ始メテ買主ニ移ル
第五百五十四条 天然ニハ現在スト雖モ未タ人ノ威力内ニ在ラサル物ハ之ヲ現存セサルモノト看做ス
第五百五十五条 買主ニ引渡スニ至ルマテ其送付ニ付キ売主カ責任ヲ負フ物ハ之ヲ運送中ニ在ル物ト看做ス
運送中ニ在ル物ヲ指図証券、無記名証券ヲ以テ又ハ其他ノ間接ノ方法ヲ以テ売渡シタルトキハ売主ハ其物ノ引渡ニ至ルマテ全部ノ喪失又ハ毀損ノ危険ヲ負担ス又買主ハ一分ノ喪失又ハ毀損ニ付テハ代価ノ相当ナル減少ヲ請求スルコトヲ得
第五百五十六条 指図証券、無記名証券等ヲ以テスル供給契約ノ場合ニ在テハ此証券等ニ基キテ物ヲ引渡ス義務アル第三者ニ買受代価ヲ支払フニ因リテノミ其物ヲ買主ニ引渡スコトヲ得ルハ契約又ハ商慣習アルトキニ限ル
供給契約ノ目的物ニ質権ノ存スルトキハ尚ホ第三百七十七条ノ規定ヲ遵守スルコトヲ要ス
第五百五十七条 指図証券、無記名証券等ニ基キテ引渡ス可キ物ノ引渡ヲ得サルトキハ買主ハ供給契約ヨリ生スル権利ヲ売主ニ対シテ行フコトヲ得但当事者ノ意思又ハ取引ノ性質ニ因リテ売主カ責任ヲ免カル可キトキハ此限ニ在ラス
第五百五十八条 本節ノ規定ノ外売買契約ノ原則ハ供給契約ニモ之ヲ適用ス
第三節 競売
第五百五十九条 他人ノ為メ公ノ競売ヲ為スヲ営業トスル者ハ其受ケタル競売ノ委託ヲ適法ノ理由ナクシテ拒ムコトヲ得ス
第五百六十条 取引所ニ於テ為ス競売ハ取引所仲立人ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第五百六十一条 支払資力ナキコト又ハ悪意アルコトニ付キ理由アル嫌疑ノ存セサル者ハ公ノ競売ニ於テ競買スルコトヲ得
第五百六十二条 競売人ハ自己ノ為メニ競買ヲ為スコトヲ得ス又売主ハ競買ヲ為ス権利ヲ明示シテ留保シ且詐欺ニ因リテ代価ヲ昂ラシムル目的ナキトキニ限リ競買ヲ為スコトヲ得
第五百六十三条 明示ノ留保ナキトキハ競売ニ付シタル物ハ其期日ニ於テ最高額ノ競買人ニ競落セラル
第五百六十四条 競落カ最終ノ競買人ニ帰シタルトキハ競売ノ各箇ノ物又ハ番号ニ付キ売買契約ヲ取結ヒタルモノトス
第五百六十五条 二人以上同時ニ最高ノ価額ヲ呼ヒタル場合ニ於テ物ヲ共同シテ取得スルコトヲ欲セサルトキハ競落ハ其者ノ中更ニ最高価ノ競買ヲ為ス者ニ帰ス
第五百六十六条 最終ノ競買無効ナルトキ又ハ競売人之ヲ承諾セサルトキハ其競落ハ之ニ次ク最高価ノ競買人ニ帰ス
第五百六十七条 各競買人ハ競売前ニ競売人ヨリ公告シタル競売ノ条件ニ服従ス可シ但其条件カ違法ノモノナルトキハ此限ニ在ラス
印刷シ又ハ其他書面ニテ定メタル条件ハ競売人ノ口頭陳述ヲ以テ之ヲ変更シ又ハ廃止スルコトヲ得ス
第五百六十八条 競売人ハ競買ニ付キ及ヒ売買契約ノ取結並ニ履行ニ付キ買主ノ代理ヲモ引受クルコトヲ得然レトモ競売ノ為メ委託セラレタル物ヲ競売スル以前ニ其物ニ対シテ売主ニ前貸ヲ為ス権利ナシ
第五百六十九条 競売ノ費用ハ売主ニ於テ之ヲ負担スルコトヲ要ス但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第五百七十条 競売人ハ契約上又ハ慣習上ノ競売手数料ト競売ニ付キ支払ヒタル費用及ヒ立替金ニシテ競売手数料中ニ包含セサルモノノ賠償トヲ売主ニ対シテ請求スルコトヲ得又競売人ハ此債権ノ為メ及ヒ適法ニ売主ニ為シタル前貸ノ為メ競売物又ハ其代価ニ付キ留置権ヲ有ス
第五百七十一条 競売人ハ売主ニ対シ怠慢、不熟練又ハ悪意ニ因リテ加ヘタル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第四節 取戻権
第五百七十二条 売買契約ノ取結後買主其支払ヲ停止シ又ハ其取結前既ニ支払停止ト為リタルコトヲ売主ノ知リタル場合ニ於テ売主カ他ノ方法ヲ以テ十分ナル支払又ハ担保ヲ受ケサルトキハ売主ハ買主又ハ其指図シタル人ニ宛テタル運送中ノ売買物ヲ取戻スコトヲ得但未タ買主若クハ其代人ノ占有ニ移ラサルモノ又ハ買主若クハ其代人カ有効ニ転売シ若クハ質入セサルモノニ限ル
第五百七十三条 転売ハ後ノ買主善意ニシテ且其代価ノ相当及ヒ真実ナルトキニ限リ有効トス若シ未タ其代価ヲ支払ハサルトキハ初ノ売主ハ自己ノ債権ノ額ニ満ツルマテ後ノ買主ニ対シテ其支払ヲ求ムルコトヲ得
第五百七十四条 取戻権ハ売主カ掛売ヲ為シ又ハ一分ノ支払ヲ受ケ又ハ買主ト交互計算ノ関係ヲ有スルニ因リテ之ヲ失フコト無シ然レトモ売主カ為替手形ヲ振出シ又ハ手形其他ノ信用証券ヲ買主ヨリ受取リ代価全額ノ支払ニ充テタル場合ニ於テ此等ノ証券ニ義務者トシテ買主若クハ其代人ノ外第三者ノ署名アルトキハ取戻権ヲ失フ
第五百七十五条 買主ノ支払停止ニ至ラントスルニ付キ理由アル嫌疑アルトキ又ハ切迫ナル取引情況ノ為メ支払停止ヲ為スコトノ測リ難キトキハ真ノ支払停止ヲ為シタルニ同シ
第五百七十六条 貨物ヲ買主ノ倉庫ニ入レ又ハ買主ノ名ヲ以テ倉庫ニ寄託シタルトキハ運送賃、関税其他貨物ノ負担スル費用ヲ支払ヒタルト否トヲ問ハス買主又ハ其代人ニ於テ占有ヲ得タリト看做ス
第五百七十七条 取戻権ハ運送ニ因リ又ハ運送ニ関シ貨物ノ負担スル費用、立替金其他ノ債務殊ニ運送賃、仲買手数料、運送取扱手数料、関税、保険料若クハ海損共担金ノ支払又ハ償還ヲ為スニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
第五百七十八条 取戻権ハ貨物売渡ノ委任ヲ受ケタル仲買人又ハ其代人カ既ニ貨物ヲ占有シ又ハ之ヲ第三者ニ売リタルトキト雖モ委任者ヨリ其仲買人又ハ其代人ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得貨物買受ノ委任ヲ受ケタル仲買人ヨリ其委任者ニ対シテモ亦同シ
第五百七十九条 取戻権ハ左ノ場合ニ於テ亦之ヲ行フコトヲ得
第一 手形其他ノ信用証券ニ関シテハ或人カ他ノ者ノ債務者ニ非スシテ交互計算ノ為メ又ハ貯蔵、取立若クハ保証ノ為メ又ハ支払ヲ為サシメンカ為メ之ヲ他ノ者ニ送リ且其証券カ未タ金銭ニ交換セラレスシテ受取人ノ方ニ存在スル場合
第二 金銭ニ関シテハ或人カ前号ト同一ノ目的ヲ以テ之ヲ他ノ者ニ送リ其金銭カ未タ受取人ニ達セス又ハ達シタル後其受取人之ヲ自己ノ計算ニ移サス若クハ之ニ付キ其他ノ処分ヲ為ササル場合
第十章 信用
第一節 消費貸借
第五百八十条 消費貸ハ債権者ヨリ又ハ債権者ノ計算ヲ以テ他人ヨリ債務者ニ又ハ債務者ノ計算ヲ以テ他人ニ之ヲ為スコトヲ得
第五百八十一条 債務者ノ計算ヲ以テスル前貸若クハ支払又ハ定マリタル義務ノ引受ハ直接ノ契約ニ出ツルト其他双方間ニ存在スル契約関係ニ出ツルトヲ問ハス消費貸ニ同シ
第五百八十二条 債務者ハ常ニ同種、同量ノ物ヲ償還スル義務アリ但同種、同量ノ償還ヲ為スコトヲ得ス又ハ当事者ノ意思ニ依リテ為スコトヲ要セサルトキハ此限ニ在ラス
第五百八十三条 商品又ハ有価証券ノ消費借ニ付テハ債務者ハ別段ノ契約ナキトキ又ハ特定物ナルトキハ其領収ノ時ト地トニ於ケル価額ヲ償還スルコトヲ要ス
第五百八十四条 債務者ノ名ヲ記シタル信用証券又ハ債務者ノ計算ヲ以テ発行シタル信用証券ハ債務者其金額ヲ償還スル義務アルトキニ限リ債務者ニ於テ又ハ債務者ノ計算ヲ以テ之ヲ譲渡シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ付与スルニハ券面記載ノ満額ヲ以テスルコトヲ要ス之ニ違フトキハ其証券ヲ無効トス然レトモ割引ヲ為スコトハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第五百八十五条 裏書譲渡ス可キ信用証券其他流通ス可キ信用証券ヲ以テ消費貸ヲ為シタルトキハ右証券ニ債権者又ハ債務者トシテ記載セラレタル者ヲ以テ債権者又ハ債務者ト看做ス
第五百八十六条 債務者ハ明示ノ契約ナキモ其消費借ヲ償還スル義務アリ但反対カ当事者ノ意思又ハ其取引ノ性質ニ依リテ推知スルコトヲ得ヘキトキハ此限ニ在ラス
第五百八十七条 債務者カ約定ノ予告又ハ相当ノ予告ノ後何時ニテモ消費借ヲ償還スル権利ハ予メ契約ヲ以テ之ヲ奪フコトヲ得ス然レトモ別段ノ契約ナキトキハ債務ノ主タルモノ及ヒ従タルモノヲ割引ナク一回ニ償還スルニ非サレハ債権者之ヲ領収スルコトヲ要セス
第五百八十八条 無期ノ消費借ニ於テハ債務者ハ相当ノ予告ノ後何時ニテモ之ヲ償還スルコトヲ得然レトモ債権者ハ相当ノ予告ノ後ニシテ且悪意ナキトキニ非サレハ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第五百八十九条 第五百八十五条ノ場合ニ於テハ償還ノ義務ハ期間ヲ定メテノミ之ヲ約定スルコトヲ得
第五百九十条 元債ノ償還ハ若シ債務者カ契約上負担シタル利息ノ支払ヲ二期以上遅延シ又ハ支払停止ト為リ又ハ資産上切迫ナル情況ニ至リタルトキハ反対ノ契約アルニ拘ハラス約定期間ノ満了前ニ之ヲ求ムルコトヲ得
第五百九十一条 第五百八十一条ノ場合ニ於テハ債権者ト債務者トノ間ニ存スル契約関係ニ準拠シテノミ債権ヲ主張スルコトヲ得
第五百九十二条 総テ消費貸又ハ他人ノ為メニスル資本ノ交付若クハ使用ニ付テハ取引ノ性質ニ依リテ定マリタル慣習上ノ利息ヲ求ムルコトヲ得但明示ノ契約又ハ前条ノ規定ニ反スルトキハ此限ニ在ラス
第五百九十三条 満期ト為リタル利息カ差引残額ノ計算若クハ其他ノ清算ニ因リ又ハ特別ノ契約ニ因リテ元債ニ組入レラレタルトキハ其利息ノ利息ヲ求ムルコトヲ得
第五百九十四条 元債全額ノ償還ニ対スル単一ナル受取証書ハ其利息ヲモ併セタル受取証書ト看做ス
第五百九十五条 任意ニ支払ヒタル利息ハ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第五百九十六条 債権者ハ直接ノ償還ヲ受クルニ換ヘ主タルモノ及ヒ従タルモノヲ併セタル債務ノ額ニ満ツルマテ自己ノ計算ヲ以テ他人ニ支払ヲ為シ又ハ手形若クハ支払手形ノ引受若クハ支払ヲ為シ又ハ其他債務ノ担任ヲ為ス可キコトヲ債務者ニ対シテ求ムルコトヲ得又債務者ハ債権者ニ対シ第五百八十一条ニ準拠シテ計算セシムルコトヲ得
第二節 信用約束
第五百九十七条 信用ヲ与フル約束ハ之ヲ取消ササル間ハ他ノ契約ノ附従トシテモ独立ノ約束トシテモ其効力ヲ有ス
第五百九十八条 債務ノ支払若クハ保証ノ為メ或ル額ニ付キ債権者ニ信用約束ヲ為シタル明約又ハ情況アルトキハ其約束ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百九十九条 或ル額ニ付キ引受ケタル独立ノ信用約束ハ受信用者カ其約束ニ対シテ負担シタル義務ヲ履行セス又ハ支払停止ト為リ又ハ取引上切迫ナル情況ニ至リ且与信用者ノ為メ十分ナル引当若クハ担保ノ備ハラサルトキニ限リ之ヲ取消スコトヲ得
第六百条 信用約束ハ額ヲ定ムルモ定メサルモ有期ニテモ無期ニテモ条件附ニテモ無条件ニテモ人ヲ特定シテモ指図式ニテモ之ヲ為スコトヲ得
第六百一条 相互ノ信用約束ハ双務契約ノ原則ニ従ヒ各当事者ヲ羈束ス然レトモ第五百九十九条ノ場合ニ於テハ其約束ヲ取消スコトヲ得
第六百二条 寄託物其他ノ金額又ハ有価物ヲ交互計算ニ於テ領収シタルトキハ信用ノ処分シ得ヘキ額ヲ限トシテ黙示ノ信用約束ヲ為シタリト看做ス
第六百三条 信用約束ニ付テノ利息又ハ手数料ハ疑ハシキ場合ニ於テハ其約束ニ依リ現ニ与ヘタル信用ノ割合ニ応シテノミ之ヲ求ムルコトヲ得
第六百四条 支払手形又ハ信用証券ヲ以テ信用約束ヲ為シタルトキハ其発行人ハ受信用者ニ対シテ履行ノ責ヲ負ヒ且自己ノ計算ヲ以テ其履行ヲ為スモノトス然レトモ其支払手形又ハ信用証券ニ対スル第三者ノ引受ハ之ヲ新ナル信用約束ト看做ス
第六百五条 他人ノ委託ヲ受ケテ信用約束ヲ為シタルトキハ其委託者ヲ受信用者ノ保証人ト看做ス
第六百六条 或ル額ニ付キ与信用ノ為メニ人ヲ紹介スルハ之ヲ信用委託ト看做ス但其紹介ヲ留保ナクシテ為シタルトキニ限ル
第三節 寄託
第六百七条 他人ノ物ヲ貯蔵ノ為メ領収シタル者ハ自己ノ所有物ニ付テ為スト同一ノ注意ヲ加ヘテ寄託者ニ其物ヲ還付スル責任アリ
第六百八条 他人ノ物ノ貯蔵ノ為メ報酬ヲ受クル者又ハ其貯蔵ニ付キ明示シテ責任ヲ負担スル者又ハ其物ヲ貯蔵ノ為メノミナラス管理ノ為メニ領収スル者又ハ其物ノ貯蔵若クハ管理ヲ以テ営業ト為ス者又ハ自己ノ営業ニ因リテ他人ノ物ノ寄託ヲ受クル者ハ寄託者ニ対シテ至重ノ注意ヲ為ス義務ヲ負フ
第六百九条 旅店主、飲食店主、浴場営業者其他他人ヲ自家ニ引受クル営業者ハ客ノ持込ミテ此等ノ者ノ方ニ置キタル物ニ関シテハ其喪失又ハ損害ニ付キ責任ヲ負フ此責任ハ無責任ノ告示ヲ為スモ客ニ自身ノ注意ヲ催カスモ又此等ノ者又ハ其使用人ノ過失アルトキハ契約ヲ以テモ之ヲ免カルルコトヲ得ス大金及ヒ特ニ貴重ナル物ハ之ヲ明告シテ特別ナル貯蔵ノ為メ交付スルコトヲ要ス
第六百十条 受託者ハ契約ニ従ヒ又他人ノ物ノ貯蔵又ハ管理ヲ営業トスルトキハ契約ナシト雖モ受託料ヲ求ムルコトヲ得又総テノ場合ニ於テ必要ナル立替金ノ賠償及ヒ寄託者ノ過失ニ因リテ被フリタル損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
受託者ハ其債権ノ為メ寄託物ニ対シテ留置権ヲ有ス
第六百十一条 寄託物ハ有期ト無期トヲ問ハス第六百十七条ノ場合ヲ除ク外ハ予告ナクシテ何時ニテモ其還付ヲ求ムルコトヲ得
第六百十二条 無期ノ寄託物ハ何時ニテモ受託者之ヲ還付スルコトヲ得但相当又ハ約定ノ予告期間ニ従フコトヲ要ス
第六百十三条 物ヲ二人以上共同シテ寄託シタル場合ニ於テ別段ノ契約ナキトキハ各人ヨリ其物ノ還付ヲ求メ又各人ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第六百十四条 寄託中寄託物ヨリ生スル果実又ハ利益ハ別段ノ契約アルニ非サレハ寄託者ニ属ス
第六百十五条 物ノ種類ノミヲ定メ数量ヲ以テ之ヲ寄託シタルトキハ同一ノ数量ヲ以テノミ還付ヲ求ムルコトヲ得但物ノ性質ニ於テ特定物ト看做ス可キトキハ此限ニ在ラス
第六百十六条 二人以上ノ寄託者ノ代替物カ互ニ混合シタルトキハ各寄託者ハ其寄託シタル数量ノ割合ニ応シテ混合物ノ共有者ト為リ且其割合ニ応シテ混合物全部ノ喪失又ハ毀損ノ危険ヲ負担ス
第六百十七条 契約又ハ商慣習ニ依リ使用権又ハ処分権カ受託者ニ属ス可キ方法ヲ以テ代替物ヲ寄託シタルトキハ受託者カ受託料ヲ受クルト否ト又寄託者ニ利息ヲ支払フト否トヲ問ハス其物ノ所有権及ヒ其物ノ喪失若クハ毀損ニ係ル危険ノ全部ハ受託者ニ移ル
第六百十八条 特定物ニ付キ受託者カ其物ヲ使用スルコトヲ得ルト否トハ専ラ当事者ノ意思ニ従ヒテ之ヲ定ム
第六百十九条 反対ノ明約ナキトキハ封セサル金銭又ハ貴金属ノ寄託物ハ常ニ受託者ノ所有物ト看做シ又封セサル有価証券ノ寄託物ハ其証券ヲ寄託者ヨリ定マリタル相場ニテ受託者ニ交付シタルトキニ限リ受託者ノ所有物ト看做ス
第六百二十条 受託者ハ自己ニ所有権ノ移リタル寄託物ニ付テハ明約アルトキニ限リ利息ヲ支払フコトヲ要ス又明約又ハ慣習アルトキニ限リ報酬ヲ求ムルコトヲ得
第六百二十一条 寄託物ノ受取証書ハ寄託者ノ名ヲ以テモ指図式ニテモ無記名式ニテモ之ヲ発行スルコトヲ得但反対ノ明記ナキトキハ其裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第六百二十二条 第六百十七条及ヒ第六百十九条ノ場合ニ於テハ契約又ハ商慣習ニ依リ現物ニテモ交付若クハ還付ノ時及ヒ地ニ於ケル市場代価ニテモ償還スル権利ヲ受託者ニ与ヘ又之ヲ要求スル権利ヲ寄託者ニ与フルコトヲ得
第六百二十三条 受託者ハ寄託者ノ所有権若クハ処分権ヲ調査シ又ハ寄託証書ヲ提示シテ還付ヲ要求スル者ノ権利ヲ調査スル義務ナシ然レトモ悪意及ヒ甚シキ怠慢ニ付テハ責任ヲ負フ
第六百二十四条 第六百十五条以下ニ掲ケタル原則ハ運送、製作其他ノ目的ノ為メ封緘若クハ記号ナクシテ数量ヲ以テ物ヲ委託セラレタル運送人、船長及ヒ其他ノ者ニモ金銭其他ノ代替物ヲ質物トシテ受取リタル質債権者ニモ之ヲ適用ス
第十一章 保険
第一節 総則
第六百二十五条 保険契約ハ保険者カ保険料ヲ受ケテ或ル物ニ関シ或ル時間ニ於テ不測又ハ不確定ノ事故ニ因リテ生スルコト有ル可キ喪失又ハ損害ニ付キ被保険者ニ賠償ヲ為ス義務ヲ負フ契約タリ
第六百二十六条 保険スルコトヲ得ヘキ危険ハ主トシテ火災、地震、暴風雨其他ノ天災、陸海運送ノ危険、死亡及ヒ身体上ノ災害ナリ然レトモ其他ノ危険ニ対スル保険ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
海上運送ノ保険ハ第二編ノ規定ニ牴触セサルモノニ限リ本章ノ規定ニ従フ
保険ハ別段ノ契約アルニ非サレハ保険料支払期間ニ生スル諸般ノ危険殊ニ相次テ生スル危険ニ及フモノトス然レトモ保険者ハ如何ナル事情アルモ被保険額ヲ超エテ賠償ヲ為スコトヲ要セス
第六百二十七条 所有権、債権其他ノ権利名義又ハ権利関係ニ基因スル財産上ノ利益ニシテ此ニ関スル危険ノ起生ニ因リ被保険者ニ直接ニ損害ヲ加フ可キモノハ保険ニ付スルコトヲ得ル利益トス
博奕、賭事、富講又ハ其他ノ意外ノ事ニ因ル僥倖ノ利益ハ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得ス
第六百二十八条 保険ハ自己ノ計算ヲ以テスルト他人ノ計算ヲ以テスルトヲ問ハス又被保険者ノ委託ヲ受ケタルト否ト被保険者ノ予知スルト否ト被保険者ヲ明示スルト否トヲ問ハス之ヲ受クルコトヲ得
契約ニ依リテ他人ノ利益カ知レサルトキハ保険申込人ハ保険者ニ対シテ被保険者ト看做サル
第六百二十九条 被保険利益ハ被保険物ノ普通価額ヲ以テ限トスルヲ通例トス若シ其利益カ此価額ヲ超過ス可キトキハ特ニ之ヲ明約スルコトヲ要ス
第六百三十条 被保険物ノ価額ハ使用ニ供スル動産ニ在テハ修繕又ハ新調ノ費用ニ依リ商品ニ在テハ損害又ハ喪失ノ生シタル時及ヒ地ニ於ケル市場代価ニ依リテ之ヲ定ム
第六百三十一条 保険ハ被保険物ノ利益額ヲ超過スル部分ニ限リ無効トス
第六百三十二条 前条ノ規定ニ拘ハラス被保険物ノ価額ヲ予メ明約又ハ鑑定人ノ評価ニ依リテ定メタルトキハ後ニ至リ其価額ノ定ニ対シテハ強暴若クハ詐欺ノ場合又ハ価額ノ著シク過当ナル場合ニ於テノミ異議ヲ述フルコトヲ得
第六百三十三条 保険セラレタル債権ノ価額ハ債務額ニ利息及ヒ取立費用ヲ合算シタル額トス
第六百三十四条 弁済ス可キ賠償額ハ人ノ保険ニ在テハ被保険額トシ物ノ保険ニ在テハ被保険者カ危険ノ発生ニ因リテ直接又ハ間接ニ被フリタル損害ヲ以テ限トス
間接ノ損害中ニハ現ニ生シ又ハ将ニ生セントスル危険ノ已ムヲ得サル防止ニ因リテ生シタル別段ノ費用及ヒ損害ヲモ包含スルモノトス
第六百三十五条 被保険者カ已ムヲ得サルニ非スシテ任意ニ加ヘ若クハ加ヘシメタル喪失若クハ損害又ハ被保険物ノ性質、固有ノ瑕疵若クハ当然ノ使用ニ因リテ直接ニ生シタル喪失若クハ損害ニ付テハ保険者ハ賠償ヲ為ス義務ナシ
第六百三十六条 保険契約取結ノ時既ニ生シタル危険ニ対スル保険ハ無効トス但当事者双方又ハ其代人ノ孰レモ其危険ノ生シタルコトヲ知ラス且既ニ危険ノ生シタルモ有効タル可キ旨ヲ明示シテ契約ヲ取結ヒタルトキハ此限ニ在ラス
第六百三十七条 一人カ同一ノ物及ヒ同一ノ利益ニ関シ時ヲ同クシ又ハ時ヲ異ニシテ二人以上ノ保険者ヨリ各別ニ保険ヲ受クルトキハ其重複保険ヲ各保険者ニ通知シテ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス之ニ違フトキハ各保険者ハ其契約ヲ解除スルコトヲ得
第六百三十八条 重複保険ノ場合ニ在テハ被保険者ハ別段ノ契約ヲ為ササルトキハ保険者ノ孰レニ対シテモ賠償ヲ求ムルコトヲ得其保険者ハ賠償ヲ為シタル後保険ノ割合ニ応シテ其賠償ノ割賦金ヲ他ノ保険者ニ請求スルコトヲ得但他ノ保険カ無効ナルトキ又ハ期間ノ満了若クハ其他ノ理由ニ因リテ終リシトキハ此限ニ在ラス
一保険者ノ為メニスル抛棄ハ他ノ保険者ノ害ト為ル効力ヲ生スルコト無シ
第六百三十九条 保険スルコトヲ得ル利益ノ額ニ満タサル保険ノ場合ニ在テハ其残余ノ額ニ付キ被保険者ヲ自己ノ保険者ト看做シ被保険者ハ其額ノ割合ニ応シテ損害ヲ負担ス但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第六百四十条 保険ハ被保険物ノ譲渡其他被保険利益ノ転付ニ因リテ当然新取得者ニ移ル但譲渡人カ利益ヲ留置キタル場合又ハ第六百五十四条ノ場合又ハ保険者カ転付ニ付キ承諾ヲ与フル権利ヲ明示シテ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス
然レトモ総テノ場合ニ於テ被保険者ハ其為シタル転付ヲ遅延ナク保険者ニ通知シ又保険者ハ保険カ記名ナルトキハ新取得者ノ名ニ書替フルコトヲ要ス
第六百四十一条 被保険額ノ請求権ハ特約ナキトキニ限リ満期日ノ前後ヲ問ハス保険者ノ承諾ナクシテ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得保険者ハ其転付ヲ知リタル時ヨリ其人ニノミ支払ヲ為ス義務アリ
被保険物ノ抵当若クハ質入又ハ抵当物若クハ質物ノ保険又ハ第三者ノ為メニスル保険ハ被保険額請求権ノ転付ト同視ス
第六百四十二条 保険契約ノ取結及ヒ履行ニ付テハ第七章ノ原則ヲ標準ト為ス然レトモ保険者ハ総テノ場合ニ於テ契約取結ノ後即時ニ保険証券ヲ作リテ被保険者ニ交付スル義務ヲ負ヒ此手続ヲ為サス又ハ遅延スルニ因リテ生シタル総テノ損害ニ付キ被保険者ニ対シテ責任ヲ負フ
第六百四十三条 保険契約ハ保険者又ハ契約取結ノ権アル代人カ保険申込書及ヒ之ニ属スル陳述書ヲ異議ナク承諾シタルトキハ之ヲ取結ヒタリト看做ス
第六百四十四条 保険契約ハ各当事者ニ於テ仲買人ヲ以テモ之ヲ取結フコトヲ得
第六百四十五条 保険営業者ノ其取引場ヨリ他ノ地ニ置キタル代弁人又ハ外国保険営業者ノ内国ニ置キタル代弁人ハ被保険者ニ対シ契約ノ取結、陳述ノ承諾、保険料ノ受取、被保険額ノ支払其他総テ保険者ノ代理テ為ス権アリト看做ス但其代弁人カ被保険者ニ反対ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第六百四十六条 保険証券ニハ年月日ヲ記シ及ヒ保険者若クハ其代人署名、捺印シ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要ス
第一 保険ノ初日及ヒ其期間
第二 被保険物ノ十分精密ナル記載
第三 被保険額
第四 保険料ノ額
第五 保険シタル危険
第六 保険申込人ノ氏名及ヒ被保険者ノ指示
第七 保険ノ旨趣ニ重要ナル影響ヲ及ホス事情及ヒ契約ノ特別ナル条款アラハ其条款
第六百四十七条 保険証券ノ旨趣ハ商慣習又ハ附属書類其他ノ証書ヲ以テ之ヲ更正シ説明シ補充シ又ハ変更スルコトヲ得
第六百四十八条 保険証券ハ指図式又ハ無記名式ニテ之ヲ発行スルコトヲ得然レトモ白地ニテ之ヲ発行スルコトヲ得ス
第六百四十九条 保険契約ノ旨趣ニ係ル証拠ハ保険証券又ハ附属書類ヲ以テノミ之ヲ挙クルコトヲ得但其証券及ヒ附属書類カ最早存在セス又ハ其発行ヲ為ササルトキハ此限ニ在ラス
第六百五十条 被保険物ノ価額ニシテ保険証券ニ掲ケサルモノ及ヒ損害額ノ証拠ハ総テ他ノ適法ナル証拠方法ヲ以テ之ヲ挙クルコトヲ得
損害額ノ評定ハ当事者双方ノ協議調ハサルトキハ裁判所ヨリ指名シタル鑑定人之ヲ為ス
第六百五十一条 被保険者ハ危険ノ生スルニ当リ成ル可ク其防止ニ尽力シ又其既ニ生シタル後ハ保険者又ハ其代人ニ遅延ナク其危険及ヒ喪失若クハ損害並ニ其大小ヲ通知スル義務ヲ負ヒ其義務背反ニ因リテ生シタル損害ニ付キ保険者又ハ其代人ニ対シテ責任ヲ負フ
第六百五十二条 戦争又ハ暴動ニ因リテ生シタル危険ニ対シテハ明約ヲ以テ引受ケタルニ非サレハ保険ノ責ニ任スルコト無シ
第六百五十三条 保険者ハ被保険者カ契約取結ノ際重要ナル情況ニ付キ虚偽ノ陳述ヲ為シ又ハ其情況ヲ黙スルトキハ悪意アリタルト否トヲ問ハス契約ヲ解ク権利アリ但被保険者カ保険者ノ総テノ問ニ対シテ其知ル所ヲ竭シ且善意ニテ答ヘタルトキハ過失ナキモノト看做ス然レトモ保険者ノ有スル解約ノ権利ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第六百五十四条 契約取結ノ後被保険物ニ付キ情況ノ変更カ発生シタル為メ其引受ケタル危険ノ増加シ若クハ変更スル場合又ハ保険料ノ支払ニ付キ明示若クハ黙示ノ延期ナキトキ契約上又ハ慣習上ノ期間ニ受取証書ト引換ニテ其支払ヲ求ムルモ仍ホ之ヲ得サル場合ニ於テハ保険者ハ其契約ニ羈束セラルルコト無シ但孰レノ場合ニ於テモ保険者其契約ヲ継続スルトキハ此限ニ在ラス
保険料ノ支払ハ第六百四十条及ヒ第六百四十一条ノ場合ト雖モ被保険者又ハ其権利承継人之ヲ為スコトヲ得
第六百五十五条 契約ハ保険シタル危険カ被保険者ニ対シテ生ス可キニ至ラサルトキハ被保険者ヲ羈束セス然レトモ危険ノ減少又ハ其期間ノ短縮ノ為メ保険料ヲ分割スルコトヲ得ルハ保険料支払期間二回以上ノ保険料ヲ前払シタルトキニ限ル
保険料支払期間ハ一个年タルヲ通例トス
第六百五十六条 当事者ノ一方カ保険ノ存続中ニ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ他ノ一方ハ契約ヲ解キ又ハ其履行ニ付キ担保ヲ求ムルコトヲ得
第六百五十七条 契約カ被保険者ノ過失ナクシテ無効タリ又ハ任意ニ解カルルトキハ保険者ニ対シテ危険ノ生ス可キニ至ラサル場合ニ在テハ既ニ支払ヒタル保険料ノ全部ヲ被保険者ニ償還シ又重複保険若クハ超過保険ノ場合、被保険利益ノ減少ノ場合又ハ其他ノ事由ニ因レル場合ニ在テハ現保険料支払期間ノ為メ既ニ支払ヒタル保険料ヲ危険減少ノ割合ニ応シテ被保険者ニ償還スルコトヲ要ス但慣習上保険者カ受ク可キモノヲ扣除ス
第六百五十八条 保険者ハ被保険者ニ被保険額ヲ支払ヒタルトキハ損害ノ生シタル為メ被保険者カ第三者ニ対シテ有スル請求権ヲ当然取得シ殊ニ債権ノ保険ノ場合ニ於テハ債務者ニ対スル債権者ノ権利ヲ当然取得ス但其支払ヒタル額ヲ限トス
被保険者ハ此事ニ関シ保険者ニ害ヲ加ヘタル行為ニ付キ責任ヲ負フ
第六百五十九条 社員相互ノ保険ヲ目的トシテ設立シタル会社ニ在テハ社員ノ権利及ヒ義務殊ニ保険料ノ支払、追払、会社負債ノ支払、会社利益ノ分配及ヒ計算書ノ提出ニ関スルモノハ其会社ノ契約若クハ定款ニ従ヒ其不十分ナル場合ニ在テハ本法ノ規定ニ従ヒテ之ヲ定ム
第二節 火災及ヒ震災ノ保険
第六百六十条 動産又ハ不動産ハ賃借人、用益者若クハ受託者其他ノ資格ヲ以テ之ヲ占有シ又ハ保管スル者ニ於テ自己ノ利益ニテモ所有者ノ利益ニテモ自己及ヒ所有者ノ利益ニテモ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得但孰レノ利益ニテ保険ニ付シタルカニ付キ疑アルトキハ自己ノ利益ニテ保険ニ付シタルモノト看做ス
自己ノ利益ニテ保険ニ付シタル場合ニ在テハ第一ニ被保険者自己ノ損害ニ充テンカ為メ次ニ所有者ニ対スル自己ノ責任ニ充テンカ為メ保険ニ付シタルモノト看做ス其責任ニ充ツル被保険額ノ部分ニ対シテハ被保険者ノ債権者ハ総テ請求権ヲ有セス
所有者又ハ其他ノ者ノ損害賠償ノ要求ニ充テンカ為メ保険ニ付シタル場合ニ於テハ第六百三十九条ニ依リ自己ノ保険者ト看做ス可キトキト雖モ其被保険額ヲ限トシテ保険者独リ全部ノ損害ヲ負担ス
第六百六十一条 不動産ノ保険ニ在テハ法律、命令其他ノ成規又ハ契約ニ依リテ被保険者ニ毀滅シ若クハ破損シタル物ノ再築若クハ修繕ヲ為ス義務アルトキハ保険者ハ被保険者若クハ其権利承継人ノ此義務ヲ履行ス可キ期間ヲ定メンコトヲ裁判所ニ申立テ又其再築若クハ修繕ノ実施ヲ監視シ及ヒ其工事ノ捗ル割合ニ応シテ被保険額ヲ支払フコトヲ得
又保険者ハ契約ニ依リ被保険額ノ割合ニ応シ自費ヲ以テ再築若クハ修繕ヲ為シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第六百六十二条 動産ハ各箇ニ又ハ包括シテ保険ニ付スルコトヲ得包括シテ保険ニ付シタル場合ニ在テハ保険ノ存続間其包括中ノ各部分ヲ増減シ又ハ他ノ物ヲ以テ其全部若クハ一分ニ代フルトキト雖モ保険ニハ影響ヲ及ホスコト無シ
家屋内ニ備在ル動産一切ノ保険ハ現貨、宝玉、証書、有価証券及ヒ稿本其他普通価額ヲ有セサル物ヲ包含セス但反対ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十三条 動産ノ保険ハ保険証券ニ記載シタル住居其他ノ場所ニ関シテノミ効力ヲ有ス然レトモ其契約ハ被保険物ヲ一時保険外ノ場所ニ移シタルモ此カ為メニ解止セラルルコト無シ
第六百六十四条 自燃又ハ爆発ノ危険アル物ニ付テハ被保険者カ契約上若クハ相当ノ予防処分ヲ為ササルトキニ限リ第六百三十五条ノ規定ヲ適用ス
第六百六十五条 火災カ被保険者ノ方ニ起リタルト近傍ニ起リタルトヲ問ハス消防若クハ救済ノ処分又ハ窃盗其他類似ノ事由ニ因リテ被保険者ニ加ヘタル損害モ火災損害ト看做ス
第六百六十六条 雷電ノ危険、火薬若クハ機関ノ破裂ノ危険、火薬若クハ機関ニ原因スル破裂ノ危険其他類似ノ危険及ヒ震災ノ危険ハ同時ニ火災ノ起リタルト否トヲ問ハス之ヲ火災ノ危険ト同視ス但他ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第三節 土地ノ産物ノ保険
第六百六十七条 土地ノ果実其他ノ天産物ノ保険ハ強雨、洪水、旱魃、暴風雨ノ如キ人ノ力ト注意トヲ以テ防ク能ハサル非常ノ天災ニ対シテノミ之ヲ為スコトヲ得
保険シタル危険ハ保険証券ニ逐一明記スルコトヲ要ス
第六百六十八条 保険ハ一个年間効力ヲ有ス但更ニ短キ期間ヲ約定シタルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十九条 損害ノ生シタル場合ニ在テハ保険シタル産物カ其損害ナク成熟シタル現状ニ於テ有シタル可キ価額ト其災害ノ後ニ有スル価額トノ間ノ差額ヲ被保険額ノ割合ニ応シテ被保険者ニ償フ但被保険額カ成熟シタル現状ニ於テ有シタル可キ価額ヲ超過セサルトキニ限ル
第六百七十条 保険者ハ損害ノ額カ其損害ノ生スルニ非サレハ産物ノ有シタル可キ価額ノ少ナクトモ四分一ニ満タサルトキハ其責ニ任セス
第四節 運送保険
第六百七十一条 運送中ニ在ル物ハ運送人ヨリ又ハ其物ノ到達地ニ安著スルコトニ付キ利益ヲ有スル各人ヨリ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得
第六百七十二条 保険者ハ運送品ノ保険ニ因リ運送ノ期間中其物ノ喪失若クハ毀損ノ各危険ヲ引受ク其危険中ニ火災、盗難、敵ノ威力及ヒ此類ノモノヲモ包含ス但或ル危険ヲ明示シテ取除キタルトキハ此限ニ在ラス
運送ノ期間ハ別段ノ契約アルニ非サレハ運送人ニ物ノ交付ヲ始ムル時ヨリ受取人ニ其引渡ヲ終フル時マテトス
第六百七十三条 運送ノ期間中運送品ヲ譲渡シタルトキハ保険ハ第六百四十条ノ規定ニ従ヒテ譲渡人ヨリ新取得者ニ移ル
第六百七十四条 保険証券ヲ以テ保険シタル以外ノ喪失若クハ損害カ運送品ニ生スルトキハ其例外タル証拠ヲ挙クル義務ハ保険者ニ在リトス
第六百七十五条 価額ヲ保険証券ニ記載セサル場合ニ於テ損害ノ価額ヲ評定スルニハ最初ノ代価及ヒ其附帯ノ費用ヲ標準トス若シ之ヲ知ル能ハサルトキハ積込ノ地及ヒ時ニ於ケル普通価額若クハ市場価額ニ諸税、保険費用、積込費用及ヒ被保険者ノ負担ニ帰スル運送費用ヲ合算シタルモノヲ標準トス
第六百七十六条 保険証券ニハ第六百四十六条ニ掲ケタル諸件ノ外尚ホ運送ノ方法、運送具ノ種類、運送取扱人及ヒ運送人ノ氏名、運送ノ線路及ヒ発送地並ニ到達地ヲ逐一記載シ且立寄地アルトキハ其地又運送期間ノ約定アルトキハ其期間ヲ掲クルコトヲ要ス
保険証券ハ反対ノ明約アルニ非サレハ其証券ニ掲ケタル運送期間若クハ通常ノ運送期間ヲ踰越シ其他前項ニ掲ケタル保険証券ノ条件ニ違戻シタルカ為メニ無効ト為ルコト無シ但其踰越又ハ違戻ニ因リ運送取扱人若クハ運送人ニ対シテ生シタル被保険者ノ請求権ハ保険者ニ移ル
第五節 生命保険、病傷保険及ヒ年金保険
第六百七十七条 人ノ生命又ハ健康ハ終身其他或ル期間中之ヲ保険ニ付スルコトヲ得
第六百七十八条 何人ニテモ自己ノ生命若クハ健康ヲ保険ニ付スルコトヲ得又保険ニ付セントスル時ニ於テ他人ノ生命若クハ健康ニ付キ財産上ノ利益ヲ有スル者ハ其他人ノ生命若クハ健康ヲ保険ニ付スルコトヲ得
配偶者、兄弟姉妹、尊属親及ヒ卑属親ノ生命若クハ健康ニ関スル相互ノ利益ニ付テハ証拠ヲ挙クルコトヲ要セス
第六百七十九条 他人ノ生命又ハ健康ノ保険ノ有効ナルニハ其人ノ承諾又ハ了知ヲ要セス
第六百八十条 被保険額ハ其支払フ可キニ至リタルトキ直チニ被保険者又ハ保険証券ニ依リテ保険ノ為メ益ヲ受クル者又ハ被保険額請求権ノ転付ヲ受ケタル者ニ之ヲ支払フコトヲ要ス
被保険者ノ死亡ニ因リ被保険額ヲ支払フ可キニ至リタル場合ニ於テ其被保険額ヲ受ク可キ人カ其際存在セサルトキハ其被保険額ハ死亡者ノ遺産ノ一分トシテ之ヲ処分スルコトヲ要ス
第六百八十一条 他人ノ生命又ハ健康ハ其人ノ為メ又ハ第三者ノ為メ契約上ノ義務ニ依リテ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得
第六百八十二条 保険ハ左ノ場合ニ於テハ無効トス
第一 保険シタル死亡又ハ病傷カ保険契約取結ノ際既ニ生シタルトキ但保険申込人カ其事ヲ知ラサルトキハ此限ニ在ラス
第二 生命若クハ健康ヲ保険ニ付シ又ハ付セシメタル者カ契約上負担シタル義務ニ違反シ又ハ放蕩、粗暴其他故意ノ所為ニ因リテ生命ヲ短縮シ若クハ健康ヲ毀損シタルトキ
第三 死亡若クハ病傷カ重罪若クハ軽罪ニ付テノ有罪判決ノ執行ニ因リ若クハ其執行中ニ生シ又ハ重罪若クハ軽罪ヲ犯シタル直接ノ結果トシテ生シ又ハ決闘其他故意ノ所為ニ因リテ生シタルトキ
第六百八十三条 総テ保険無効ノ場合ニ於テハ保険契約ヲ以テ此場合ノ為メニ約定シタル額若シ約定ナキトキハ少ナクトモ被保険者ノ為メニ既ニ積立テタル貯金ノ半額ヲ被保険者ニ償還スルコトヲ要ス但被保険者カ詐欺若クハ悪意ニ因リテ自ラ無効ニ至ラシメタルトキハ此限ニ在ラス
第六百八十四条 契約ノ無効ハ保険者カ契約ノ無効ヲ致ス情況ヲ知リタル後尚ホ契約ヲ被保険者ト継続シタルトキハ保険者ヨリ被保険者ニ対シテ之ヲ主張スルコトヲ得ス
第六百八十五条 死亡若クハ病傷ノ時ノ外尚ホ契約ニ依リ或ル年齢若クハ期限ニ至リタル時ヲ以テ被保険額支払ノ時ト為スコトヲ得又被保険額ノ支払ニ換ヘテ年金ノ支払ヲ約定スルコトヲ得
第六百八十六条 年金保険ハ保険者カ或ル金額ヲ受取リテ被保険者ニ又ハ其死亡ノ後ハ其保険ニ与カリタル人ニ終身間又ハ或ル期間ノ満了ニ至ルマテ年金ヲ支払フ義務ヲ負フ契約タリ
第六百八十七条 年金受取ノ権利ハ被保険者ニ属スルト同一ノ範囲及ヒ条件ニテ第六百四十一条ノ規定ニ従ヒテ被保険者ヨリ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得
第六百八十八条 総テ生命保険、病傷保険及ヒ年金保険ノ場合ニ於テハ被保険者若クハ其権利承継人ハ正当時期ニ予告ヲ為シタル後保険契約ニ従ヒ若クハ第六百八十三条ニ従ヒ自己ニ属スル償還金ヲ受ケテ契約ヲ解除スル権利ヲ有シ又ハ予告ヲ以テ償還ヲ求ムルコトヲ得ヘキ利息附ノ預ケ金ニ其契約ヲ変換スル権利ヲ有ス
保険料ノ不払ハ保険者ニ於テ之ヲ契約解除ノ予告ト看做スコトヲ得
第六節 保険営業ノ公行
第六百八十九条 保険会社ハ官許ヲ受クルニ非サレハ其営業ヲ為スコトヲ得ス
第六百九十条 保険会社ハ保険料其他ノ収入金ノ中ヲ以テ年年積立ヲ為シ何時ニテモ年年支払フ可キ被保険額ノ少ナクトモ平均二倍ニ満ツル準備金ヲ設クル義務アリ此準備金ハ十分安全ニ利用シ其証券ヲ裁判所ニ寄託スルコトヲ要ス但之ヨリ生スル収入ハ会社ニ帰ス
第六百九十一条 保険会社ハ少ナクトモ毎年一回其年ノ収支一覧表及ヒ貸借対照表ヲ作リテ之ヲ公告シ且各社員及ヒ各被保険者ニ送達スル義務アリ
第六百九十二条 裁判所ハ何時ニテモ被保険者ノ申立ニ因リ保険会社ノ保険業ノ現況、取引ノ実況、貸借ノ関係及ヒ会社カ保険業ヲ営ム原則ヲ一人若クハ二人以上ノ鑑定人ヲシテ検査セシメ其検査ノ結果ヲ被保険者ニ通知シ且公告スル権アリ其検査及ヒ公告ノ費用ハ裁判所ノ見込ヲ以テ右申立ヲ十分ノ理由アリトスルトキハ保険会社之ヲ負担ス
行政官庁ハ亦其職権ヲ以テ検査ヲ行フコトヲ得
第六百九十三条 一部類ノ保険業ノ外ニ尚ホ他ノ部類ノ保険業ヲ営ム会社ハ各部類ノ保険業ヲ各別ニ営ミ又其各部類ニ生スル収入ハ専ラ其部類ノ為メニ之ヲ積立テ及ヒ使用スルコトヲ要ス此規定ハ保険会社ノ破産ノ場合ニモ之ヲ適用ス其残余ノ財団ハ第千四十五条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ分配ス可シ
保険業ノ外ニ他ノ業ヲ営ム会社ハ亦前項ニ準ス
第六百九十四条 保険会社カ第六百九十条乃至第六百九十三条ノ規定ニ背クトキ又ハ被保険者総員ノ承諾ヲ得スシテ同業若クハ他業ノ会社ト合併スルトキ又ハ被保険者ニ告知シタル保険業ノ原則ヲ変更シ若クハ事実上之ヲ犯ストキハ各被保険者ハ予告ヲ為スコト無クシテ何時ニテモ保険ヲ解止シ其払込ミタル現支払期間ノ保険料総額ノ償還及ヒ払込ミタル日ヨリノ法律上ノ利息ヲ求ムル権利アリ
第六百九十五条 保険会社カ将来ノ義務ヲ履行スル能ハスト予知ス可キ取引ノ実況ニ至リタルトキハ其会社カ未タ支払ヲ停止セスト雖モ被保険者ハ破産宣告ヲ求ムル申立ヲ為スコトヲ得
第六百九十六条 保険会社ニシテ其本店ノ所在地外ニ於テ代弁人ヲ以テ保険契約ヲ取結フ者ハ其代弁人ニ与ヘタル権限ノ如何ニ拘ハラス其契約ニ関シテハ代弁人ノ営業所ノ地ヲ管轄スル裁判所ノ裁判権ニ服従シ且其裁判所ニ差出ス可キ裁判上ノ代人ヲ定置ク義務アリ若シ之ヲ定置カサルトキハ其代弁人ヲ裁判上ノ代人ト看做ス
第六百九十七条 第六百四十五条ノ規定ニ従ヒ独立シテ保険契約ヲ取結フ為メ内国ニ置キタル外国保険会社ノ代弁店ハ之ヲ支店ト看做シ支店ニ関スル一般ノ規定及ヒ本節ノ規定ヲ適用ス
第六百九十八条 本節ノ規定ハ一個人又ハ組合ニシテ保険営業ヲ為スモノニモ之ヲ適用ス
第十二章 手形及ヒ小切手
総則
第六百九十九条 手形ハ或ル金額カ相違ナク支払ハル可キ旨ヲ明記シ指図式又ハ無記名式ニテ発行スル信用証券ニシテ合法ノ原因ヲ当然含有スルモノタリ
第七百条 商ヲ為スコトヲ得ル各人ハ為替義務ヲ負フコトヲ得
第七百一条 手形ニ為替無能力者ノ署名アルモ其他ノ署名ノ効力ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
第七百二条 手形ノ要件ヲ外観ノ為メニノミ記入シタル手形ハ其情ヲ知リタル者ノ為メニハ之ヲ手形ト看做サス
第七百三条 他人ヨリ特ニ委任ヲ受クルコト無ク又ハ代理ノ事実ヲ明記スルコト無クシテ他人ノ為メニ手形ニ署名スル者ハ此ニ因リテ自己ニ責任ヲ負フ
第七百四条 手形ノ受取人ハ直チニ振出人ニ対シ又其後ノ各所持人ハ其前者ヲ経由シテ振出人ニ対シ番号ヲ記シタル同文ノ手形数通ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
手形ノ各所持人ハ需用ニ応シテ自ラ手形ノ謄本ヲ作ルコトヲ得
第七百五条 手形ハ其旨趣ニ因リテ直接ニ義務ヲ負ハシム但法律又ハ商慣習ニ依リテ例外ト為ス可キモノハ此限ニ在ラス
第七百六条 法律上ノ要件ヲ掲ケサル手形又ハ其要件ト共ニ違法ノ事項ヲ掲ケタル手形又ハ旨趣カ互ニ牴触シ其牴触ヲ法律ノ許セル方法ヲ以テ取除クコトヲ得サル手形ハ無効タリ
第七百七条 手形上ノ重要ナラサル附記ハ法律上ノ要件ニ適スル手形ノ旨趣ノ効力ヲ妨クルコト無ク又為替上ノ義務ヲ生セシムルコト無シ
第七百八条 偽造又ハ変造ノ手形ハ手形トシテ其効ヲ有ス然レトモ偽造、変造ニ因リテ義務ヲ生スルコト無シ但一旦生シタル義務ハ変更セサルモノトス
偽造、変造ニ付テノ異議ハ其偽造、変造ヲ為シタル者又ハ其情ヲ知リテ手形ヲ取得シタル者ニ対シテ之ヲ起スコトヲ得
第七百九条 為替義務ハ其負担ニ関シテハ手形ニ記載シタル地ノ法律ニ従ヒ若シ其地ヲ記載セサルトキハ債務者ノ住所ノ法律ニ従ヒテ之ヲ定メ又其履行ニ関シテハ履行ヲ為ス可キ地ノ法律ニ従ヒテ之ヲ定ム
為替上ノ権利ヲ行使シ及ヒ保全スル為メニスル行為ハ其行為ノ地ノ法律ニ従ヒテ之ヲ為スコトヲ要ス但手形ニ其他ノ地ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百十条 手形又ハ小切手ノ占有者ニシテ正当ノ方法ニ依リ且甚シキ怠慢ニ出テスシテ之ヲ取得シタル者ハ其手形又ハ小切手若クハ其代金ノ引渡ノ請求ニ応スル義務ナシ但占有者カ手形又ハ小切手ノ引渡ヲ求ムル訴ヲ起シタル場合アルニ当リ之ニ対シ抗弁ヲ為シ得ヘキ事実ト同一ノ事実ニ因リテ請求セラルルトキハ此限ニ在ラス
第七百十一条 盗取セラレ又ハ紛失シ若クハ滅失シタル手形及ヒ小切手ニ付テハ第四百三条ノ規定ヲ適用ス
第七百十二条 為替手形ノ引受人又ハ約束手形ノ振出人ニ対スル為替上ノ請求権ハ満期日ヨリ起算シ三个年ヲ以テ時効ニ罹リ又所持人若クハ裏書譲渡人ヨリ振出人若クハ前裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ハ拒証書ヲ作リタル日若クハ請求ノ通知ヲ為シタル日ヨリ三个年ヲ以テ時効ニ罹ル
時効ハ訴ヲ起シ其他各箇ノ裁判上ノ手続ヲ為スニ因リテ中断セラレ又裁判所ノ判決ニ依リ又ハ書面ニ明示シテ債務ヲ承認シ新債務ト為シタルニ因リテ消滅ス
第七百十三条 一覧払又ハ一覧後定期払ノ手形ニ在テハ時効ハ呈示ニ付キ規定セラレタル期間ノ満了ヨリ始マル但其満了前ニ呈示ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百十四条 手形ヨリ生スル請求権ヲ時効ニ因リ又ハ法律ニ規定シタル行為ヲ怠リタルニ因リテ失ヒタル者ハ其失ヒタルニ拘ハラス支払人、振出人又ハ裏書譲渡人ニ対シ此等ノ者カ支払ハサル為替資金若クハ取戻シタル為替資金ニ因リテ己レヲ利シタル限度ニ於テ右請求権ヲ主張スルコトヲ得第七百十一条ノ場合ニ係ルモノト雖モ亦同シ
第七百十五条 総テ手形ニ署名ヲ為シタル者ハ此ニ因リ連帯シテ義務ヲ負担ス然レトモ此連帯義務ハ各義務者ニ於テ特立ノモノトス
為替ノ訴ハ其総員ニ対シ又ハ其一人ニ対シテ之ヲ起スコトヲ得
第一節 為替手形
第一款 振出
第七百十六条 為替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 為替金額但文辞ヲ以テ記ス可シ
第三 支払人ノ氏名
第四 受取人ノ氏名又ハ其指図セラレタル人若クハ所持人ニ支払フ可キ旨及ヒ満期日並ニ支払地
第五 為替手形ト引換ニテ支払ヲ為ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
第七百十七条 振出人ハ為替手形ヲ自己ノ指図ニテ振出シ又ハ振出地ニ非サル地ニ於テ支払ヲ為ス可キトキハ自己ニ宛テ振出スコトヲ得
第七百十八条 為替手形ノ金額二十五円以上ナルトキハ無記名式ニテ振出スコトヲ得
第七百十九条 満期日ハ定マリタル日又ハ日附ノ後定マリタル期間又ハ一覧ノ時又ハ一覧後定マリタル期間ニ於テノミ之ヲ定ムルコトヲ得
第七百二十条 為替手形ニ満期日ヲ記載セサルトキハ其手形ハ一覧ノ時ニ満期ト為ル
第七百二十一条 支払人ノ住地又ハ其他ノ地〔他所払為替手形〕ハ支払地トシテ之ヲ記載スルコトヲ得他ノ地ヲ記載シタル場合ニ在テ為替手形ニ支払ノ為メ他人〔他所払人〕ヲ明記セサルトキハ支払人ハ其記載シタル地ニ於テ支払ヲ為スコトヲ要ス
第二款 裏書
第七百二十二条 為替手形ノ受取人及ヒ其後ノ各所持人ハ若シ其手形ニ反対ヲ明記セサルトキハ裏書ヲ以テ之ヲ他人ニ転付スルコトヲ得
第七百二十三条 裏書ニハ其年月日、場所、裏書譲渡人ノ署名、捺印及ヒ裏書譲受人ノ氏名アルコトヲ要ス然レトモ白地ニテモ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第七百二十四条 裏書ニハ其日ヨリ前ノ日附ヲ為スコトヲ禁ス之ニ違フトキハ偽造、変造ノ刑ニ処ス
第七百二十五条 無記名式ニテ振出シ又ハ白地ニテ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ交付ノミヲ以テ之ヲ転付スルコトヲ得
第七百二十六条 為替手形ハ満期後ト雖モ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得又代理若クハ担保ノ為メ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第七百二十七条 支払ノ為メニスル呈示及ヒ拒証書ノ作成ヲ事情ニ因リテ正当時期内ニ為スコトヲ得サル為替手形ノ裏書譲渡ハ満期後ノ為替手形ノ裏書譲渡ニ同シ
第七百二十八条 満期後ノ為替手形ノ裏書譲渡ハ其裏書譲渡人ノ権利及ヒ義務ノミヲ裏書譲受人ニ転付スルモノトス然レトモ裏書譲受人ハ満期後ニ為替手形ノ裏書譲渡ヲ為シタル各人ニ対シテ如何ナル方式ニモ羈束セラレス且独立シタル償還請求権ヲ取得ス
第七百二十九条 代理ノ為メ又ハ担保ノ為メニスル裏書譲渡ハ其目的ヲ為替手形ニ記載セサルトキハ第三者ニ対シテ真ノ裏書譲渡タリ
第七百三十条 代理ノ為メニスル裏書譲渡ニシテ其目的ヲ記載シタルトキハ其裏書譲受人ニ裏書譲渡人ノ権利及ヒ義務ヲ行フ権殊ニ更ニ真ノ裏書譲渡ヲ為ス権ヲ付与スルモノトス但其手形ニ真ノ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得サル旨ヲ記載シタルトキハ此限ニ在ラス
第七百三十一条 担保ノ為メニスル裏書譲渡〔質入為替手形、寄託為替手形〕ハ其目的ヲ記載シタルトキト雖モ真ノ裏書譲渡タリ然レトモ各為替債務者ハ為替手形ヲ以テ担保シタル債務ヲ支払ヒ又ハ其他ノ方法ヲ以テ之ヲ消却シタリトノ抗弁ヲ裏書譲受人ニ対シテ為スコトヲ得
第七百三十二条 裏書譲渡ハ各裏書譲渡人ノ順序カ裏書譲受人ニ至ルマテ間断ナキトキニ限リ裏書譲受人ノ為メ効力アリ又代理又ハ担保ノ為メ裏書譲渡ヲ為シタル為替手形ハ裏書譲渡人ニテモ裏書譲受人ニテモ更ニ裏書譲渡ヲ為スコトヲ得
第七百三十三条 裏書譲渡ノ法律上ノ効力ハ為替手形ニ裏書譲渡ヲ禁スル旨ヲ記載シタルカ為メ之ヲ失フコト無シ但之ヲ禁シタル者ニ対スル償還請求権ハ此カ為メニ消滅ス
第三款 引受
第七百三十四条 為替手形ノ所持人ハ其手形ニ別段ノ記載ナキトキハ満期日前ニ引受ノ為メ支払人ニ之ヲ呈示スルコトヲ得若シ支払人其引受ヲ為ササルトキハ其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ要ス
他所払為替手形ノ振出人ハ所持人ニ於テ引受ノ為メ其手形ノ呈示ヲ為ス可ク若シ為ササルトキハ償還請求権ヲ失フ可キ旨ヲ記スルコトヲ得
第七百三十五条 一覧後定期払ノ為替手形ハ別ニ短キ呈示期間ノ記載ナキトキハ日附後遅クトモ二个年内ニ引受ノ為メ之ヲ呈示ス可シ若シ之ヲ呈示セサルトキハ振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ヲ失フ
支払人カ方式ニ依レル引受ヲ拒ミ若クハ引受ノ日附ヲ為スコトヲ拒ムトキハ其翌日拒証書ヲ作ルコトヲ要ス此場合ニ於テハ拒証書作成ノ日ヲ以テ呈示ノ日ト看做ス若シ拒証書ヲ作ラサルトキハ満期日ハ呈示期間ノ末日ヨリ起算ス
第七百三十六条 引受ハ支払人カ為替資金ヲ受取リタルト否トヲ問ハス為替手形ノ所持人ニ対シテ満期日ニ為替金額ヲ支払フ義務ヲ支払人ニ負ハシム又所持人ニ引受ノ旨ヲ記シタル為替手形ヲ還付シタル後ハ強暴又ハ詐欺ノ場合ヲ除ク外之ヲ取消スコトヲ得ス
第七百三十七条 引受ハ支払人カ為替手形ニ引受ノ旨ヲ記シテ署名、捺印ヲ為シ又ハ署名、捺印ノミヲ為スニ因リテ成ル此方式ニ依ラサル引受ノ効力ハ第八百五条ノ規定ニ従フ
第七百三十八条 即日ニ引受ヲ為サス又ハ条件若クハ其他ノ制限ヲ以テ之ヲ為シタルトキハ引受人ハ其引受ノ為メ当然羈束セラルルモ所持人ハ之ヲ拒ミタリト看做スコトヲ得若シ為替金額ノ一分ニ付テノミ引受ヲ為シタルトキハ他ノ部分ニ付テハ其引受ヲ拒ミタリト看做ス
第七百三十九条 支払人カ引受ノ全部若クハ一分ヲ拒ミタルトキ又ハ第七百三十七条及ヒ第七百三十八条ノ規定ニ依リテ引受ヲ拒ミタリト看做ス可キトキハ所持人ハ拒証書ノ作成ヲ遅延ナク振出人又ハ裏書譲渡人ニ通知ス可シ若シ此通知ヲ為ササルトキハ之ヲ受ケサリシ者ニ対シテ償還請求権ヲ失フ
又右ノ通知ヲ為シタル所持人ハ振出人又ハ裏書譲渡人ニ対シテ為替金額及ヒ拒証書ノ費用並ニ戻為替ノ費用ヲ満期日ニ支払フコトニ付テノ担保ヲ求ムル権利ヲ有シ各裏書譲渡人ハ自ラ担保ヲ為シタルト否トヲ問ハス前者ニ対シテ右同一ノ権利ヲ有ス但拒証書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ担保ヲ供スル義務ナシ
当事者ノ一人カ為シタル通知及ヒ其受ケタル担保ハ其後者総員ノ為メニモ効力アリ
第七百四十条 振出人及ヒ裏書譲渡人ハ担保ヲ為スニ換ヘテ前条ニ掲ケタル一切ノ金額ヲ即時ニ所持人ニ支払ヒ又ハ即時ニ供託所ニ寄託スルコトヲ得
第七百四十一条 担保又ハ寄託ハ後ニ至リ為替手形ノ引受アリタルトキ又ハ為替金額若クハ償還金額ノ支払アリタルトキ又ハ所持人カ時効若クハ懈怠ニ因リテ為替手形上ノ権利ヲ失ヒタルトキハ其生シタル費用ヲ引去リテ之ヲ還付スルコトヲ要ス
第七百四十二条 第七百四十条ノ規定ニ従ヒテ為替金額及ヒ費用ヲ所持人ニ支払ヒタル者ハ其所持人ニ対シテ裏書譲渡ヲ求メ且為替手形ト共ニ受取証ヲ記シタル償還計算書ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第四款 栄誉引受
第七百四十三条 支払人カ引受ヲ拒ミタル為替手形ニ同地ニ於ケル予備支払人ヲ掲ケタルトキハ其為替手形ヲ拒証書ト共ニ引受ノ為メ遅延ナク予備支払人ニ呈示ス可シ
第七百四十四条 予備支払人ヲ掲ケサルトキト雖モ支払人及ヒ第三者ハ拒マレタル為替手形ヲ振出人又ハ裏書譲渡人ノ栄誉ノ為メニ引受クルコトヲ得然レトモ所持人ハ此ノ如キ参加ヲ許諾スル義務ナシ
第七百四十五条 二人以上ノ参加人アルトキハ最モ多数ノ義務者ノ栄誉ノ為メニ引受ヲ為ス者ヲ以テ栄誉引受人トス若シ受栄誉者ヲ記載セサルトキハ振出人ヲ受栄誉者ト看做ス
第七百四十六条 予備支払人ノ引受其他所持人カ許諾シタル参加人ノ引受ハ受栄誉者及ヒ其後者ニ担保ヲ供スル義務ヲ免カレシム
第七百四十七条 栄誉引受ハ支払人カ支払ヲ為ササルトキニ於テ参加人ニ満期後為替金額ヲ支払フ義務ヲ負ハシム
第七百四十八条 栄誉引受ハ参加人為替手形ニ之ヲ記載シテ署名、捺印シ且拒証書若クハ其附箋ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス
第七百四十九条 拒証書ハ拒証書費用ノ弁償ヲ受ケタル上之ヲ参加人ニ交付シ参加人ハ遅クトモ拒証書作成ノ翌日受栄誉者ニ栄誉引受ヲ為シタル旨ヲ通知シテ拒証書ヲ送付スルコトヲ要ス若シ此事ヲ怠ルトキハ此ニ因リテ生スル損害ニ付キ責任ヲ負フ
第七百五十条 受栄誉者及ヒ其前者ハ担保ヲ求ムル権利ヲ有ス然レトモ所持人ハ第七百四十四条ニ依リテ栄誉引受ヲ許諾セサルトキニ非サレハ之ヲ有セス
第五款 保証
第七百五十一条 為替手形ニ於テ為替債務者ノ署名ニ自己ノ署名ヲ添フル第三者ハ其債務者ト連帯シテ義務ヲ負フ
第七百五十二条 前条ノ義務ヲ負担スルニハ別ニ書面上ノ陳述ヲ以テスルコトヲ得
第七百五十三条 為替保証ノ義務ハ明示ノ契約ヲ以テ之ヲ制限スルコトヲ得然レトモ其制限ハ契約ヲ為シタル当事者間ニノミ効力アリ
第六款 支払
第七百五十四条 為替金額ハ為替手形ニ記載シタル貨幣ヲ以テ之ヲ支払フ可シ若シ特ニ貨幣ノ種類ヲ表示セサルトキハ支払地ニ於テ商人間ニ流通スル貨幣ヲ以テ支払ヲ為ス意思ナリト推定ス
第七百五十五条 支払ハ第七百七十八条ノ場合ヲ除ク外ハ支払人カ引受ヲ為シタルト否トヲ問ハス満期日ニ支払人ノ方ニテ之ヲ受クルモノトス
支払恩恵期日ハ之ヲ許サス然レトモ其地慣習ノ支払日ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス
第七百五十六条 満期日カ一般ノ休日ニ当ルトキハ其後ノ業日ヲ以テ支払日トス
第七百五十七条 一覧払為替手形ハ呈示ノ日ニ満期ト為ル若シ日附後二个年内ニ呈示ヲ為ササルトキ又ハ二个年内ノ呈示期間ヲ其手形ニ定メサルトキハ日附後二个年ヲ以テ満期ト為ル若シ正当ノ時期ニ呈示ヲ為ササルトキハ所持人ハ振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対スル償還請求権ヲ失フ
第七百五十八条 債権者カ為替金額ヲ満期日ニ受取ラサルトキハ支払人ハ債権者ノ費用及ヒ危険ニテ其金額ヲ供託所ニ寄託スルコトヲ得此場合ニ於テハ支払人ハ甚シキ怠慢ニ付テノミ責任ヲ負フ
第七百五十九条 債権者ハ満期日前ニ支払ヲ受クル義務ナシ若シ満期日前ニ支払ヲ為シタルトキハ債務者其危険ヲ負担ス
第七百六十条 債務者ハ満期ノ時又ハ後ニ所持人ニ支払ヲ為スヲ以テ其責ヲ免カル但其際債務者ニ甚シキ怠慢アリタルトキハ此限ニ在ラス
第七百六十一条 支払ハ受取証ヲ記シタル為替手形ノ交付ト引換ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
債権者ハ一分ノ支払ヲ拒ムコトヲ得ス但一分ノ支払ノ場合ニ在テハ為替手形ニ其支払ヲ記入シ且其支払ニ付テノ別段ノ受取証ヲ債務者ニ交付ス可シ
第七百六十二条 為替手形ヲ数通ニシテ振出シタルトキハ債務者ハ其中ノ孰レニ依リテ支払ヲ為スモ此ニ因リテ其責ヲ免カル然レトモ裏書アル一通又ハ支払人ノ引受ヲ記シタル一通ヲ所有者トシテ占有スル第三者ノ権利ヲ妨ケス
第七百十条及ヒ第七百十一条ノ規定ハ一為替手形ノ数通ノ引渡及ヒ喪失ニモ之ヲ適用ス
第七百六十三条 引受人ハ一為替手形ノ数通中ニテ其引受ヲ記セサルモノニ対シテハ担保ヲ供セシメタル上ニ非サレハ支払ヲ為ス義務ナシ引受ヲ記シタル為替手形数通アル場合ニ在テハ之ヲ合シテ引渡ササルトキモ亦同シ若シ担保ノ提供ヲ為スニ拘ハラス引受人カ支払ヲ拒ムトキハ所持人ハ拒証書ヲ作ルコトヲ得
第七百六十四条 満期ノ時又ハ後ニ於テ為替手形上ノ正当ノ所持人ニ為ス支払ハ其所持人カ破産宣告ヲ受ケタル場合又ハ第七百十条及ヒ第七百十一条ノ場合ニ限リ裁判所ノ命令ヲ以テノミ之ヲ差押フルコトヲ得
第七百六十五条 支払ニ対シ前条以外ノ方法ヲ以テスル故障又ハ債務者ノ知ラサル人ニ為ス支払ニ付テハ第四百条ノ規定ヲ適用スルコトヲ得
第七百六十六条 第七百十条及ヒ第七百十一条ノ場合ニ在テハ為替手形ニ付キ自己ノ所有権ヲ疏明シ且裁判所ノ命令ヲ得タル者ハ判決ノ確定前ニ担保ヲ供シテ為替金額ノ支払ヲ求メ又ハ担保ヲ供セスシテ為替金額ヲ供託所ニ寄託スルヲ求ムルコトヲ得此寄託ノ場合ニ在テモ第七百五十八条ノ規定ヲ適用ス
第七百六十七条 支払人カ正当ノ理由ナクシテ満期日ニ為替金額ノ支払又ハ寄託ヲ拒ムトキハ所持人ハ其次ノ業日ニ拒証書ヲ作リ且所持人カ償還請求ヲ為サント欲スル者ニ拒証書ノ作成ヲ通知スルコトヲ要ス然レトモ所持人ハ為替手形ニ明記アルニ因リテ拒証書作成ノ義務ヲ免カルルコトヲ得
第七款 栄誉支払
第七百六十八条 拒マレタル為替手形ハ振出人又ハ裏書譲渡人ノ栄誉ノ為メ栄誉引受人、支払人又ハ第三者之ヲ支払フコトヲ得
第七百六十九条 予備支払人其他ノ参加人ノ引受ヲ記シタル為替手形ハ拒証書作成ノ後直チニ栄誉引受人ニ支払ノ為メ之ヲ呈示ス可シ
第七百七十条 栄誉支払若クハ其拒絶又ハ其提供ハ何レノ場合ニ於テモ之ヲ支払拒証書又ハ其附箋ニ記載ス可シ
其拒証書ハ為替手形ト共ニ拒証書費用ノ弁償ヲ受ケタル上之ヲ栄誉支払人ニ交付ス
第七百七十一条 栄誉支払人ハ引受人、振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対シテ所持人ノ権利ヲ承継ス但其権利ヲ主張スルニハ所持人ト同一ノ義務ヲ履行スルコトヲ要ス
第七百七十二条 栄誉支払ハ受栄誉者ノ後者総員ヲシテ責ヲ免カレシム
第七百七十三条 栄誉支払ヲ提供スル者二人以上アルトキハ支払人ヲ以テ栄誉支払人トシ之ニ次テハ最モ多数ノ義務者ヲシテ責ヲ免カレシムル者ヲ以テ栄誉支払人トス
第七百七十四条 所持人ハ栄誉支払ヲ受クルコトヲ拒ムニ因リテ受栄誉者及ヒ其後者ニ対スル償還請求権ヲ失フ
第八款 償還請求
第七百七十五条 支払人カ満期日ニ為替手形ノ支払ヲ為ササルトキハ所持人ハ振出人及ヒ裏書譲渡人ニ対シ為替金額及ヒ其利息並ニ不払ニ因リテ生シタル一切ノ費用ニ付キ償還請求権ヲ有ス
第七百七十六条 所持人ハ為替手形ヲ満期日ニ支払ノ為メ呈示ス可シ若シ支払ヲ為ササルトキハ満期日ノ次ノ業日ニ支払拒証書ヲ作ル可シ但第七百六十一条第二項ニ掲ケタル一分ノ支払ノ場合ニ於テモ亦同シ
第七百七十七条 支払拒証書ハ既ニ引受拒証書ヲ作リタルトキニモ債務者カ死亡シ又ハ破産宣告ヲ受ケ又ハ其所在ノ知レサルトキニモ之ヲ作ル可シ
第七百七十八条 引受人ニ対シテ為替権利ヲ保全スルニハ満期日ニ於ケル呈示及ヒ拒証書ノ作成ヲ要セス然レトモ他所払為替手形ハ他所払人若シ他所払人ノ記載ナキトキハ支払人ニ其為替手形ヲ支払フ可キ地ニ於テ支払ノ為メ之ヲ呈示ス可シ若シ支払ヲ為ササルトキハ同地ニ於テ拒証書ヲ作ル可シ
第七百七十九条 引受人カ破産宣告ヲ受ケ其他資力ノ確ナラサルニ至リタル場合ニ於テ為替支払ノ為メ十分ナル担保ヲ供セサルトキハ所持人ハ満期日前ニ支払拒証書ヲ作リテ償還請求ヲ為スコトヲ得
第七百八十条 所持人ハ振出人及ヒ裏書譲渡人ノ各員又ハ総員ニ対シ償還請求ヲ為スコトヲ得又償還請求ヲ受ケタル裏書譲渡人ハ其前者ニ対シテ同一ノ権利ヲ有ス
第七百八十一条 償還請求ヲ為ス者ハ第七百三十九条ノ規定ニ依リテ引受拒証書作成ノ通知ヲ為シタルニ拘ハラス尚ホ其償還請求ヲ為サント欲スル前者ニ書面ヲ以テ其請求及ヒ支払拒証書作成ノ通知ヲ為スコトヲ要ス其通知ハ所持人ニ在テハ拒証書ヲ作リタル日ノ翌日、裏書譲渡人ニ在テハ通知書ヲ受取リタル日ノ翌日之ヲ為ス可シ但裏書譲渡人ノ通知ハ其後者ノ為メニモ効力アリ
第七百八十二条 前者ニ対シテ償還請求ヲ為シタルモ此カ為メニ其後者ハ償還義務ヲ免カレス
第七百八十三条 拒証書作成ノ義務免除ニ因リテ拒証書作成ノ権利及ヒ償還請求権ハ消滅セス然レトモ此場合ニ於テ其免除ヲ為シタル者ノ後者ニ在テハ其免除ヲ為シタル者ニ対シ謄本ヲ以テ為替手形ノ送付ヲ為スト同時ニ書面ニテ償還請求ノ通知ヲ為スヲ以テ足レリトス
第七百八十四条 償還請求ノ訴ハ償還請求権ヲ得タル者ヨリ償還請求ヲ受ク可キ者ニ対シ時効期間中何時ニテモ之ヲ起スコトヲ得
第七百八十五条 償還請求権ハ支払人カ為替資金ヲ受取リタリトノ抗弁ノ為メニ効力ヲ失フコト無シ然レトモ為替資金ヲ供スル義務アル者ニ対シテハ其者カ為替資金ヲ供セサリシトノ抗弁ヲ為スコトヲ得
第七百八十六条 償還請求ハ左ノ額ニ付キ之ヲ為スコトヲ得
第一 為替金額及ヒ満期日ヨリ起算シタル年百分ノ七ノ利息
第二 拒証書ノ費用其他必要ナル立替金
第三 戻為替ヲ振出シタルトキハ其費用
第七百八十七条 償還請求権ヲ得タル者ハ償還義務者ニ対シ償還金額ヲ限トシテ其動産ノ仮差押ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得然レトモ償還請求ノ訴ヲ十四日内ニ起ササルトキハ其差押ハ無効ト為ル
所持人ハ引受人ニ対シテ右同一ノ権利ヲ有ス
第七百八十八条 償還義務者ハ為替手形、拒証書及ヒ受取証ヲ記シタル償還計算書ノ交付ヲ受クルニ非サレハ支払ヲ為ス義務ナシ
第七百八十九条 為替義務者ハ償還金額ノ支払ト引換ニテ受取証ヲ記シタル為替手形及ヒ支払拒証書ノ交付ヲ所持人ニ求ムル権利アリ
第九款 拒証書作成
第七百九十条 拒証書ハ裁判所ノ役員又ハ公証人之ヲ作ルモノトス若シ其地ニ此等ノ人ナキトキハ被拒者ニ於テ証人二人ノ立会ヲ以テ之ヲ作ル可シ但其証人ハ成年ノ男子ニシテ成ル可ク商人タルコトヲ要ス
第七百九十一条 拒証書ハ拒者ノ営業場若シ営業場ナキトキハ其住居ノ内若クハ傍ニ於テ之ヲ作ル可シ但拒者不在ナルトキ又ハ臨席ヲ肯セス若クハ来入ヲ拒ムトキト雖モ亦同シ
若シ已ムヲ得サル場合アルトキハ裁判所又ハ公証人役場ニ於テ拒証書ヲ作ルコトヲ得
第七百九十二条 拒者ノ営業場及ヒ住居ノ知レサル場合ニ於テ支払地ノ官署ニ問合ヲ為スモ尚ホ知ルコトヲ得サルトキハ拒証書ハ其官署内ニ於テ之ヲ作ルコトヲ要ス
第七百九十三条 法律上定メタル場所ノ外ニ於テハ拒者ノ承諾アルモ拒証書ヲ作ルコトヲ得ス
第七百九十四条 一般ノ休日ニハ拒証書ヲ作ルコトヲ得ス然レトモ通常ノ取引時間外ニ於テ之ヲ作ルハ妨ナシ
第七百九十五条 拒証書ニハ左ノ諸件ヲ記載スルコトヲ要ス
第一 為替手形ノ全文但最後ノ裏書ニ至ルマテ遺漏ナク記載ス可シ
第二 拒者ノ臨席又ハ不在
第三 引受、支払又ハ担保ノ要求及ヒ拒絶並ニ拒絶ノ理由
第四 右要求及ヒ拒絶ノ日並ニ場所
第五 栄誉引受又ハ栄誉支払アルトキハ其旨
第六 年月日、場所及ヒ臨席総員ノ署名、捺印
若シ拒者カ署名、捺印スルコトヲ欲セス又ハ署名、捺印スルコト能ハサルトキハ其旨ヲ証書ニ明記ス可シ
第七百九十六条 第七百九十一条乃至第七百九十四条ノ規定ハ引受又ハ支払ノ為メニスル呈示、為替手形数通ノ要求其他本章ノ規定ニ従ヒ或人ノ方ニテ為ス可キ行為ニモ之ヲ適用ス
第七百九十七条 第七百十条及ヒ第七百十一条ノ場合ニ於テハ其情況ヲ拒証書ニ明示シ且成ル可ク詳細ニ為替手形ノ旨趣ヲ記シテ為替手形ノ全文ニ代フ
第七百九十八条 裁判所ノ役員又ハ公証人ハ其作リタル拒証書ノ全文ヲ日日帳簿ニ記入シ且被拒者ノ求ニ因リテ数通ニ之ヲ作ル義務アリ
拒証書作成ノ費用ハ被拒者之ヲ立替フルコトヲ要ス
第十款 戻為替手形
第七百九十九条 所持人ハ償還金額ニ付キ各償還義務者ニ対シテ戻為替手形ヲ振出スコトヲ得
第八百条 戻為替手形ノ費用ノ額ハ仲買人手数料、仲立人手数料、郵便税、印紙税及ヒ支払地ヨリ償還義務者ノ住地ニ宛テ振出シタル一覧払為替手形ノ相場ニ因リテ定マル
右ノ相場ハ戻為替手形ヲ逓次振出ス場合ト雖モ本為替手形ノ支払地ヨリ振出地ニ宛テタル一覧払為替手形ノ相場ヲ超ユルコトヲ得ス此二箇ノ相場ハ仲立人ノ認証ヲ受クルコトヲ要ス
第八百一条 戻為替手形ニハ拒マレタル為替手形、拒証書、償還計算書及ヒ前条ノ二箇ノ相場認証書ヲ添フ可シ
第八百二条 戻為替手形ヲ支払ヒタル者ハ其前者中ノ一人ニ宛テ更ニ戻為替手形ヲ振出スコトヲ得
第十一款 資金
第八百三条 振出人又ハ自己ノ計算ニテ為替手形ヲ振出サシメタル者又ハ明示シテ為替資金ヲ供スル義務ヲ負ヒタル裏書譲渡人ハ支払人ニ対シテ為替資金ヲ供スル義務ヲ負フ
第八百四条 現金支払ノ外為替資金義務者カ支払人ニ対シテ有スル債権又ハ信用ハ之ヲ為替資金ニ充ツルコトヲ得
第八百五条 方式ニ依ラサル引受ト雖モ其引受ニ依リテ引受人カ為替資金義務者ヨリ為替資金ヲ受取リタリトノ推定ヲ生ス但参加引受ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第八百六条 為替資金義務者ト所持人トノ間ニ在テハ為替手形ノ引受ニ依リテ為替資金ヲ供シタリトノ推定ヲ生セス
第八百七条 為替手形ノ支払ヲ為シタル支払人ハ為替資金ノ請求権ヲ為替ノ原則ニ従ヒテ主張スルコトヲ得
第八百八条 支払人ニ代ハリテ為替手形ノ支払ヲ為シタル者ハ支払人又ハ償還義務者ニ対シテ所持人ノ権利ヲ主張スルコトヲ得
第八百九条 振出人及ヒ裏書譲渡人ハ為替資金ヲ供シタルモ為替手形ノ引受及ヒ支払ニ付キ連帯ノ責任ヲ免カルルコトヲ得ス然レトモ其責任ハ別段ノ契約ヲ以テ其契約者間ニ於テノミ之ヲ制限シ又ハ廃止スルコトヲ得
第八百十条 支払人ハ為替資金ヲ受取リタルトキハ勿論仮令之ヲ受取ラサルモ振出人其他ノ為替資金義務者ニ対シ為替手形ノ引受及ヒ支払ノ義務ヲ明示ニテ負担シタルトキハ引受若クハ支払ヲ為ササルニ因リテ振出人其他ノ為替資金義務者ニ生セシメタル損害ニ付キ責任ヲ負フ但此損害ニ付テノ請求ハ予メ之ヲ支払人ニ通知スルコトヲ要セス
第二節 約束手形
第八百十一条 約束手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 支払金額但文辞ヲ以テ記ス可シ
第三 受取人ノ氏名又ハ其指図セラレタル人ニ支払フ可キ旨
第四 満期日
第五 約束手形ト引換ニテ支払ヲ為ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
第八百十二条 約束手形ハ振出人ノ指図ニテ之ヲ振出スコトヲ得ス
第八百十三条 約束手形ニ別段ノ支払地ヲ掲ケサルトキハ振出ノ場所ニ於テ其支払ヲ為スコトヲ要ス
第八百十四条 約束手形ノ振出人ハ其振出ニ因リテ満期日ニ支払ヲ為ス義務ヲ負担ス
振出人ニ対シテ為替権利ヲ保全スルニハ引受ヲモ支払ノ為メノ呈示ヲモ拒証書ノ作成ヲモ要スルコト無シ然レトモ一覧後定期払ノ約束手形又ハ他所払人ヲ掲ケタル約束手形ニ在テハ其振出人ニ関シテモ第七百三十五条及ヒ第七百七十八条ノ規定ヲ適用ス
第八百十五条 右ノ外為替手形ニ関スル規定ハ性質上牴触セサルモノニ限リ約束手形ニモ之ヲ適用ス
第三節 小切手
第八百十六条 小切手ハ寄託其他ノ方法ニ依リ銀行ニ対シテ継続スル信用ヲ有スル者カ其銀行ニ依頼シ之ヲシテ記名セラレタル人又ハ指図セラレタル人若クハ所持人ニ呈示ヲ受ケ次第或ル金額ヲ支払ハシムル証券タリ
第八百十七条 小切手ニハ年月日ヲ記シ振出人署名、捺印ス可シ又小切手ハ一覧払トスルニ非サレハ之ヲ振出スコトヲ得ス其他銀行ト明示又ハ黙示ニテ約定シタル振出ノ方式ハ之ヲ遵守スルコトヲ要ス
第八百十八条 小切手ハ裏書ヲ以テ之ヲ転付スルコトヲ得若シ白地ニテ裏書譲渡ヲ為シタルトキ又ハ無記名式ニテ振出シタルトキハ交付ニ因リテ之ヲ転付スルコトヲ得
第八百十九条 小切手ハ引受ヲモ拒証書ヲモ要スルコト無シ又小切手ハ日附後三个年ヲ以テ時効ニ罹ル若シ小切手ヲ振出ノ日ヨリ三日内ニ支払ノ為メ呈示セス又ハ送付セサルトキハ所持人ハ遅延ノ結果ヲ負担ス
第八百二十条 呈示ノ上ニテ支払ヲ受ケサルトキハ日附後十日内ニ所持人ハ裏書譲渡人若クハ振出人ニ対シ裏書譲渡人ハ其前者若クハ振出人ニ対シテ償還請求権ヲ有ス然レトモ振出人ニ対シテハ振出人カ信用ヲ有セス又ハ信用ヲ消尽シ又ハ依頼ヲ取消シタルトキハ右期間ノ満了後ト雖モ償還請求権ヲ有ス
振出人ハ争アル場合ニ在テハ其小切手帳ヲ裁判所ニ差出ス義務アリ
第八百二十一条 振出人又ハ所持人ハ小切手ニ横線ヲ附シ其横線内ニ特ニ銀行ノミニ支払フ可キ旨ヲ記載スルコトヲ得
第八百二十二条 小切手ハ支払金ヲ受取ル時受取証ヲ記シテ之ヲ交付スルコトヲ要ス
第八百二十三条 日附ヲ為サス若クハ虚偽ノ日附ヲ為シテ小切手ヲ振出シ裏書譲渡シ若クハ之ニ受取証ヲ記スル者又ハ日附ナキ小切手ヲ受取リ支払ヒ若クハ之ニ受取証ヲ記スル者又ハ相当ノ信用ナクシテ小切手ヲ振出シ若クハ正当ノ理由ナクシテ依頼ヲ取消ス者ハ小切手金額ノ百分ノ十ノ過料ニ処ス若シ刑法上ノ刑ニ処ス可キ行為アルトキハ併セテ其刑ニ処ス
前項ノ過料ニ付テハ第二百六十一条第一項ノ規定ヲ適用ス
第二編 海商
第一章 船舶
第八百二十四条 日本人民ノ所有ニ専属シ又ハ日本ニ主タル営業所ヲ有シ且日本ノ裁判権ニ服従スル会社其他ノ法人ニシテ合名会社ニ在テハ総社員、合資会社ニ在テハ少ナクトモ社員ノ半数、株式会社ニ在テハ取締役ノ総員、其他ノ法人ニ在テハ代表者ノ総員カ日本人民ナルモノノ所有ニ専属スル商船其他ノ海船ハ日本ノ船舶ニシテ日本ノ国旗ヲ掲クル権利ヲ有ス
第八百二十五条 総テ日本船舶ハ航海ノ用ニ供スル以前ニ法律、命令ニ従ヒ職権アル者ノ測度ヲ受ク可シ若シ其積量十五噸以上ナルトキハ管海官庁ヨリ船籍証書ヲ受ケタル後船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ於テ船舶登記簿ニ登記ヲ受ク可シ
端舟其他㯭櫂ノミヲ以テ運転シ又ハ主トシテ㯭櫂ヲ以テ運転スル舟ニハ本編ノ規定ヲ適用セス
第八百二十六条 船舶登記簿ニハ左ノ諸件ヲ登記シ且年月日ヲ記ス可シ
第一 船名及ヒ船籍港
第二 船舶構造ノ時及ヒ地ノ知レタルトキハ其時及ヒ地又船舶カ日本ノ船籍ニ帰シタルトキハ其時及ヒ事情
第三 官ノ測度証書ニ基キタル船舶ノ種類、大小、積量及ヒ詳細ナル記載
第四 船長ノ氏名及ヒ国籍
第五 一人又ハ数人ノ所有者ノ氏名、住所及ヒ詳細ナル記載又船舶ノ所有権ニ付キ所有者ノ股分ノ割合及ヒ所有権取得ノ合法ノ原因
第八百二十七条 登記ハ一人若クハ数人ノ所有者又ハ委任状ヲ有スル代人ノ陳述書ニ依リテ之ヲ為ス其陳述書ニハ必要ナル証明書ヲ添フルコトヲ要ス
登記ヲ為シタルトキハ其登記ト同文ノ船舶登記証書ヲ作リテ之ヲ所有者ニ交付ス
第八百二十八条 船籍証書及ヒ船舶登記証書ノ交付前ニハ国旗ヲ掲クル権利ヲ行フコトヲ得ス
船舶カ沈没シ又ハ日本ノ船舶タル資格ヲ失ヒタルトキハ其船舶ノ登記ノ取消ヲ為シ且船舶登記証書ヲ還納ス可シ
第八百二十九条 登記シタル事実ニ変更ノ生スルトキハ船舶登記簿及ヒ船舶登記証書ニ其変更ノ附記ヲ受ク可シ
登記シタル船名ハ管海官庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス
第八百三十条 船籍港外ニ於テ日本人民、会社其他ノ法人カ船舶ヲ取得シタルトキハ其船籍港ニ到著スルマテハ外国ニ在テハ其取得ノ地若クハ其近傍ニ駐在スル日本領事、内国ニ在テハ地方官庁ヨリ仮証書ヲ受ケ之ヲ船籍証書及ヒ船舶登記証書ニ代フルコトヲ得此場合ニ於テハ領事又ハ地方官庁ハ其証書ノ謄本ヲ管海官庁及ヒ船籍港ヲ管轄スル裁判所ニ遅延ナク送付スルコトヲ要ス
前項ノ証書ノ効用ハ領事ヨリ交付シタルモノハ一个年、地方官庁ヨリ交付シタルモノハ半个年ヲ以テ限トス
第八百三十一条 船籍証書又ハ船舶登記証書ノ喪失シ毀損シ又ハ用ユ可カラサルモノト為リタルトキハ之ニ換ヘテ新ナル船籍証書、船舶登記証書若クハ前条ノ仮証書ノ交付ヲ求ムルコトヲ得
第八百三十二条 船舶カ国旗ヲ掲クル権利ヲ有セスシテ之ヲ掲クルトキハ千円以下ノ罰金ニ処ス又事情ニ従ヒ殊ニ不正ノ船籍証書又ハ船舶登記証書ヲ用井タルトキハ其船舶ヲ没収ス
日本ノ船舶カ外国ノ国旗ヲ掲ケテ外国ノ国籍ヲ冒シタルトキハ前項同一ノ罰ニ処ス但敵ヲ避クル場合ハ此限ニ在ラス
第八百三十三条 日本ノ船舶カ船籍証書及ヒ船舶登記証書ノ交付前ニ国旗ヲ掲ケ其他本章ノ規定ニ違フトキハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第二章 船舶所有者
第一節 船舶所有権ノ取得及ヒ移転
第八百三十四条 商船其他ノ海船ハ之ヲ動産トス但本法ニ例外ヲ定メタル場合ハ此限ニ在ラス
第八百三十五条 船舶構造ノ契約及ヒ売買其他ノ権利行為ニ因リテ船舶ノ全部若クハ股分ヲ取得スル契約ハ特ニ作レル契約証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ取結フコトヲ得ス
相続、結婚其他此類ノ事由ニ因レル船舶所有権ノ移転ハ公正ノ証書ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ要ス
第八百三十六条 船舶ハ其所有者タラサル者ニ在テハ所有者ノ明示ノ委任ニ依ルニ非サレハ有効ニ之ヲ売却スルコトヲ得ス然レトモ船長ニ在テハ明示ノ委任ヲ受ケサルモ避ク可カラサル必要アリテ官ノ証認ヲ経タル場合ニ於テハ特ニ競売ヲ以テ有効ニ之ヲ売却スルコトヲ得
第八百三十七条 船舶ノ取得時効ノ期間ハ二十个年トス但船長ハ時効ニ因リテ船舶ヲ取得スルコトヲ得ス
第八百三十八条 船舶ノ所有権ハ別段ノ契約アルニ非サレハ航海ノ為メニスル総テノ艤装物殊ニ桅檣、帆具、綱具、機関、碇錨、船用器具、端舟、貯蓄品及ヒ糧食ノ所有権ヲ包含ス但船長又ハ海員ノ一身ニ属スル所有物ハ此限ニ在ラス
第八百三十九条 航海中ニ船舶ヲ譲渡シタルトキハ其航海ヨリ生スル利益及ヒ損失ハ別段ノ契約アルニ非サレハ取得者ニ移ル
第八百四十条 任意ニ為ス船舶ノ売却ハ船舶債権者ノ債権ニ対シテ船舶ノ負担スル責任又ハ其売買価額ノ負担スル責任及ヒ譲渡人ノ一身上ノ義務ニ変更ヲ生スルコト無シ強制売却又ハ必要売却ノ場合ニ在テハ船舶ノ負担スル責任ハ当然売買価額ニ移ル
第二節 船舶所有者ノ権利及ヒ義務
第八百四十一条 船舶ノ所有権カ二人以上ノ股分所有者ニ属スルトキハ航海ニ関スル一切ノ業務ニ付キ其代理トシテ船舶管理人ヲ置クコトヲ要ス
第八百四十二条 所有者ハ船長及ヒ海員ノ職務施行ニ関スル行為ニ付テハ船舶及ヒ運送賃ヲ以テ責任ヲ負フ若シ船長カ同時ニ所有者ナルトキハ船長ハ無限ノ責任ヲ負フ然レトモ股分所有者ナルトキハ過失ノ為メ自己ニ不分ノ責任ノ帰セサルトキニ限リ其股分ノ割合ニ応シテ責任ヲ負ヒ尚ホ不足アルトキハ其不足額ニ対シテ無限ノ責任ヲ負フ
第八百四十三条 所有者ハ船長ヲ任シ又随意ニ之ヲ免スルコトヲ得又書面ノ契約アルニ非サレハ船長ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任セス
第八百四十四条 船長カ同時ニ股分所有者ナル場合ニ在テ其意ニ反シ罷免セラレタルトキハ自己ニ属スル股分ノ価額ノ支払ヲ求ムルコトヲ得但其価額ハ鑑定人ノ鑑定ニ従フ
第八百四十五条 二人以上ノ股分所有者ノ間ニ在テハ船舶ニ関スル総テノ事件ハ議決権ノ過半数ヲ以テ決定ス其過半数ハ各所有者ノ股分額ニ従ヒテ之ヲ算ス
過半数ノ決議ヲ得ルニ至ラサルトキハ議決権ノ半数ノ決議ヲ以テ船舶ノ競売ヲ求ムルコトヲ得
或ル股分所有者カ必要ナル新支出ニ同意セサルトキハ其所有者ハ自己ノ股分ヲ他ノ股分所有者ニ委付シテ賦課金ノ義務ヲ免カルルコトヲ得但股分額カ賦課金ヲ超ユルトキハ其超過額ノ支払ヲ受クルコトヲ得
第八百四十六条 各船舶所有者ハ総テノ費用及ヒ損失ヲ扣除シタル後ニ非サレハ航海ニ因リテ生スル利益ヲ請求スル権利ナシ
第八百四十七条 股分所有者ハ他ノ股分所有者又ハ船舶管理人ノ承諾ヲ受ケスシテ何時ニテモ自己ノ股分ヲ自由ニ譲渡スコトヲ得
第八百四十八条 船舶股分ノ所有権ノ移転ニ因リテ船舶カ其国籍ヲ失フ可キトキハ他ノ股分所有者ハ右ノ股分ヲ自己ノ計算ニ引受ケ又ハ其股分ヲ所有スル資格アル者ニ競売センコトヲ求ムル権利アリ但自己ノ計算ニ引受クル場合ニ在テ已ムヲ得サルトキハ裁判上ノ手続ヲ以テ其股分ノ価額ヲ定ム
会社社員ノ変更ニ因リ船舶カ其国籍ヲ失フ可キトキハ会社ハ其社員ノ持分ヲ之ヲ所有スル資格アル者ニ競売センコトヲ求ムル権利アリ
第三章 船舶債権者
第八百四十九条 船舶ハ第三者ノ占有ニ在ルトキト雖モ其附属物及ヒ未収ノ運送賃ト共ニ左ニ掲クル債権ノ為メ以下ノ順序ニ従ヒテ責任ヲ負フ
第一 船舶ノ強制売却及ヒ其売却金ノ分配ニ係ル裁判上其他ノ費用、強制売却ノ開始以来船舶及ヒ附属物ノ監守並ニ保全ノ費用
第二 船舶航海ノ諸税即チ港税、噸税、灯台税其他ノ税
第三 入港以来船舶及ヒ附属物ノ保全ノ費用、水先案内料及ヒ挽船料
第四 最後ノ航海中ノ共同海損及ヒ救援、救撈其他救助ニ付テノ費用
第五 最後ノ雇入契約期間中其契約ヨリ生スル船長及ヒ海員ノ債権
第六 最後ノ航海中船舶ノ需用ノ為メ船長ノ為シタル借入ニ付テノ債権及ヒ同一ノ目的ノ為メ船長ノ売却シタル積荷、船長ニ渡シタル物若クハ給シタル労役ニ付テノ求償権
第七 未タ航海ヲ為ササル船舶ノ売却、構造又ハ艤装ヨリ生スル債権並ニ労役賃及ヒ最後ノ航海ノ為メニスル修繕、艤装又ハ糧食準備ヨリ生スル債権但出港セサル前ニ限ル
第八 船舶ノ構造又ハ艤装ノ為メノ消費貸ヨリ生スル債権及ヒ船舶カ未タ引渡サレサル間ハ自己ノ計算ニテ構造セシムル者ノ為シタル代価割払ニ付テノ債権
第九 最後ノ航海又ハ最後ノ保険料支払期間ニ係ル船舶及ヒ附属物ノ保険料ニ付テノ債権
第十 船長又ハ海員ノ過失ニ因リテ積荷若クハ旅客ノ旅荷物ヲ引渡サス又ハ之ニ損害ヲ加ヘタルヨリ生スル債権
第十一 船舶ノ衝突其他船長又ハ海員ノ過失ノ場合ニ於ケル損害賠償ニ付テノ債権
第十二 船舶登記簿ニ登記シタル債権但其登記ノ日附ノ順序ニ従フ
第十三 右ノ外船舶ノ所有者又ハ売却者ニ対スル総テノ債権
同一号内ニ於ケル二人以上ノ債権者ハ同一ノ割合ヲ以テ弁償ヲ受ク但第十二号ノ場合ハ此限ニ在ラス
第八百五十条 運送賃ノ負担スル責任ハ最後ノ航海ノ運送賃ヲ以テ限トシ一航海ノ為メ又ハ一航海中ニ生シタル債権ニ対シテハ其航海ノ運送賃ヲ以テ限トス
第八百五十一条 登記セサル債権ニ付キ船舶又ハ運送賃ノ負担スル責任ハ任意ノ譲渡ノ場合ニ在テハ船舶カ譲渡人ノ債権者ノ異議ヲ受クルコト無ク取得者ノ名義及ヒ計算ニテ船籍港ヨリ新ニ航海ヲ為シ且其発航以来少ナクトモ六十日ヲ経過シタル後消滅ス
第八百五十二条 船舶ニ対スル債権ノ登記ハ第八百五十七条ノ場合ヲ除ク外ハ登記ヲ受ケタル船舶ニシテ特ニ作レル抵当証書ニ依ルニ非サレハ之ヲ許サス
右ノ登記ハ其日附ヨリ起算シテ三个年間其効ヲ有ス若シ此期間満了前ニ之ヲ更新セサルトキハ其効ヲ失フ
第八百五十三条 登記ハ船舶登記簿ニ之ヲ為ス又其登記ニハ左ノ諸件ヲ包含スルコトヲ要ス
第一 債権者及ヒ債務者ノ氏名、住所
第二 債権ノ額及ヒ其合法ノ原因
第三 抵当証書ノ年月日
第四 登記ノ時日
第八百五十四条 登記ヲ為シタルトキハ登記証書ヲ交付ス若シ其以前ニ登記シタル債権アルトキハ其債権ヲモ併記ス可シ此証書ハ裏書ヲ以テ之ヲ譲渡スコトヲ得其裏書譲渡ハ船舶登記簿ニ登記ヲ受クルニ非サレハ第三者ニ対シテ其効ヲ有セス
第八百五十五条 登記シタル債権ハ債権者ノ書面上ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リテ消滅ス此場合ニ於テハ登記証書ヲ裁判所ニ還納シ裁判所ハ其証書ニ債権消滅ノ旨ヲ記ス可シ
第八百五十六条 船舶債権者ハ其債権ノ証拠完全ナルトキニ限リ裁判所ノ命令ニ依リテ船舶ノ競売ヲ為スコトヲ得但法律上ノ優先権ハ此カ為メニ妨ケラルルコト無シ
船舶ノ股分ニ付テノミ債権ヲ登記シ又ハ股分所有者ニ対シテノミ之ヲ主張スルトキハ其債権ニ関スル股分ノミノ競売ヲ為スコトヲ得但其股分ノ額カ船舶全部ノ額ノ半ヲ超ユルトキハ此限ニ在ラス
第八百五十七条 船舶債権者ノ権利ハ構造中ノ船舶ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得
構造中ノ船舶ノ登記ハ其登記ヲ受クルニ至ルマテハ将来船籍ヲ定ム可キ地ノ裁判所ニ相当ノ明告ヲ為スヲ以テ之ニ代フ
第八百五十八条 船舶カ沈没シ又ハ航海ノ用ニ耐ヘサルニ至ルトキハ船舶債権者ノ権利ハ救助セラレタル部分若クハ尚ホ存在スル部分又ハ其売得金及ヒ被保険額ニ移ル
船舶債権者ノ債権ハ其債権者ヨリ独立シテ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得
第八百五十九条 船舶ハ発航ノ準備ヲ終リタル時ヨリシテ債務ノ為メニ差押ヘラルルコト無ク又其乗組員ハ引留メラルルコト無シ但其為サントスル航海ノ為メニ負ヒタル債務ニ付テハ此限ニ在ラス
第四章 船長及ヒ海員
第一節 船長
第八百六十条 船長其他ノ船舶指揮者ハ其職務ノ執行ニ当リ些少ナル過失ニ付テモ責任ヲ負ヒ殊ニ積荷ニ付キ及ヒ旅客ノ安全並ニ其旅荷物ニ付キ責任ヲ負フ
第八百六十一条 船長ハ或人ノ指図ヲ受ケテ為シタル行為ニ付テハ其人カ其情況ヲ知リタルトキニ限リ其人ニ対シテ責任ヲ免カル
船長カ其特別ナル職務上ノ義務ニ背反スルトキハ不可抗力又ハ意外ノ情況ニ因リテ惹起シタルニ非サル災害ニ付キ責任ヲ負フ
第八百六十二条 船長ハ航海ノ際船舶ノ航海ニ耐フルコト船舶ノ艤装、海員ノ具備、糧食ノ準備並ニ積荷ノ配置ノ適当ナルコト必要ノ底荷ヲ具備スルコト過分ノ積荷ヲ為ササルコト及ヒ過分ノ旅客ヲ載セサルコトニ付キ注意ヲ為ス可シ
第八百六十三条 船長ハ海員ヲ選択シテ雇入レ乗組員ヲ編成シ船舶ヲ修繕シ艤装シ及ヒ運送契約ヲ取結フ権利ヲ有ス然レトモ此等ノ事項ニ関シテハ船舶所有者又ハ其代人ノ指図ニ従フコトヲ要ス
第八百六十四条 船長ハ航海ノ際船籍証書、船舶登記証書、航海日誌、海員名簿、税関ノ納税受取証書、運送契約並ニ積荷ニ関スル書類及ヒ旅客名簿ヲ船中ニ備フ可シ
第八百六十五条 航海日誌ハ船長ノ監督ヲ受ケテ一等役員之ヲ掌リ船舶、海員、旅客及ヒ積荷ニ関スル総テノ情況並ニ事故殊ニ左ノ諸件ヲ日日之ニ記載ス
第一 船舶ノ発航地、立寄地、通航地ノ名
第二 風候、天気及ヒ潮流
第三 進航シタル線路及ヒ経過シタル距離
第四 測知シタル経度及ヒ緯度
其他時宜ニ因リテ左ノ諸件ヲモ記載ス
第一 海水ノ深度、温度及ヒ漏水ノ度
第二 水先人又ハ挽船ノ雇入
第三 船舶会議ノ決議
第四 海員ノ変更
第五 総テノ災害、特別ノ事故並ニ船舶内ノ犯罪及ヒ懲戒処分
第八百六十六条 船長ハ航海ノ始ヨリ終ニ至ルマテ自ラ船中ニ在リ且其委任ヲ受ケタル航海ヲ遅延ナク又迂路ヲ取ラスシテ為スコトヲ要ス
第八百六十七条 船長ハ到達地ニ到著ノ後二十四時内ニ其地ノ管海官庁ニ出頭シテ検閲証ヲ受クル為メ航海日誌ヲ差出シ同時ニ報告ヲ為スコトヲ要ス其報告ニハ船名、噸数、積荷、発航ノ地及ヒ時、経過シタル線路、風候、天気及ヒ潮流若シ死亡其他ノ災害若クハ船舶ノ現状ニ変更アルトキハ其事由及ヒ航海中ニ生シタル著シキ事故ヲ包含ス
此報告ヲ為ス前ニハ荷卸ヲ為スコトヲ得ス但急迫ナル場合ハ此限ニ在ラス
沿岸航海ニ付テハ本条ノ規定ヲ適用セス
第八百六十八条 航海中ニ避難港ニ入ルコトノ必要ト為リテ入港シタルトキハ船長ハ遅延ナク其港ノ管海官庁ニ出頭シ入港ノ事由及ヒ情況ニ付テノ報告ヲ為シテ筆記ヲ受クルコトヲ要ス其筆記ハ公文ト為シテ船舶所有者ニ又求ニ因リテ其他ノ利害関係者ニ其者ノ費用ニテ之ヲ交付ス
第八百六十九条 船長ハ航海中ニ危険ノ生シタルトキハ役員其他重立タル海員ト評議ヲ為シタル場合ノ外ハ如何ナル事情アルモ船舶ヲ放棄スルコトヲ得ス其船舶ヲ放棄スル場合ニ於テハ船長ハ最後ニ去ル可ク且成ル可ク人命、書類、貨物及ヒ船舶ヲ救助スル責任ヲ負フ
第八百七十条 破船其他船舶放棄ノ場合ニ在テハ船長ハ遅延ナク最近ノ管海官庁ニ出頭シテ其事由及ヒ情況ヲ報告ス可シ其官庁ハ報告ヲ認定シ若クハ補充スル為メ海員及ヒ旅客ヲ訊問シ其他必要ナル調査ヲ為スコトヲ得
第八百七十一条 船長ハ航海中必要ナル場合ニ在テハ役員ト評議ヲ為シタル後船舶ニ存在スル総テノ食料ノ何人ニ属スルヲ問ハス乗込人ノ需用ノ為メニ之ヲ処分スルコトヲ得但其価額ヲ賠償スルコトヲ要ス
第八百七十二条 船長ハ航海中船舶ノ修繕其他必要ナル需用ノ為メ他ニ其費用支弁ノ途ナキ場合ニ於テ船舶所有者若クハ其代人ノ現在セサルトキハ予メ役員ト評議ヲ為シ且管海官庁ノ認可ヲ得タル後船舶ヲ抵当ト為シ又ハ積荷ノ全部若クハ一分ヲ質入シ若クハ売却スルコトヲ得其積荷ヲ質入シ若クハ売却シタルトキハ積荷所有者ハ其荷卸ノ地及ヒ時ニ於ケル代価ニ応シテ損害賠償ヲ求ムル権利アリ
第八百七十三条 船長ハ航海ヲ始ムル際及ヒ終リタル後又求アルトキハ何時ニテモ船舶所有者ニ報告ヲ為シ及ヒ計算ヲ為スコトヲ要ス
第八百七十四条 船長及ヒ海員ハ船舶所有者ノ承諾ナクシテ自己ノ計算ニテ貨物ヲ船舶ニ積入ルルコトヲ得ス之ニ違フトキハ船舶所有者ハ運送賃ト貨物ヨリ生シタル利益トヲ自己ノ有ニ帰スルコトヲ得
第二節 海員
第八百七十五条 海員ノ雇入又ハ雇止ヲ為シタルトキハ其地ノ管海官庁ニ於テ海員名簿ニ登記シ若クハ其登記ヲ削除ス可シ
第八百七十六条 海員雇入ノ条件ハ海員名簿ノ旨趣、別段ノ契約又ハ商慣習ニ因リテ定マル
海員ハ非常ノ服務ノ為メ特別ノ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
第八百七十七条 十分ナル理由ナクシテ雇止セラレタル海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料ノ外尚ホ其雇止ノ為メニ失ヒタル給料ノ半額ヲ損害賠償トシテ受クル権利アリ然レトモ其額ハ一个月ノ給料ヲ超ユルコトヲ得ス
禁令其他国ノ処分ニ因リテ航海ヲ廃止シ停止シ又ハ短縮シタルハ之ヲ雇止ノ十分ナル理由ト看做ス
第八百七十八条 航海中十分ナル理由ナクシテ雇止セラレタル海員ハ発航シタル港マテノ無賃送還ヲ請求スル権利アリ
船長カ其海員ヲシテ発航シタル港ニ航行スル船舶ニ於テ相当ノ職務ニ就カシメタルトキハ右ノ請求ニ応シタルモノトス
第八百七十九条 定マリタル航海ノ為メニスル雇入ノ場合ニ在テハ海員ハ其航海ノ延長シタルトキハ割合ニ応シテ増給ヲ受クル権利アリ
第八百八十条 船舶カ航海ヲ終ラサル前ニ沈没シタルトキハ海員ハ給料ノ請求権ヲ失フ但海員ノ労動ニ因リテ救助シタル船舶若クハ積荷ノ部分ニ付テハ此限ニ在ラス
船舶カ掠奪セラレ又ハ修繕ノ効ナキモノト為リタル場合ニ於テハ海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料及ヒ発航シタル港マテノ無賃送還ヲ請求スルコトヲ得
第八百七十八条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ於テモ之ヲ適用ス
第八百八十一条 給料ノ請求権ハ海員カ船舶又ハ積荷ノ砕残物ノ救撈ニ従事シタル日数ニ付テモ成立ス
第八百八十二条 就役ノ後疾病ニ罹リ又ハ傷痍ヲ被フリタル海員ハ三个月ヲ超エサル期間看護及ヒ治療ヲ請求スル権利アリ但自己ノ過失ニ因リテ疾病又ハ傷痍ヲ惹起シタルトキハ此限ニ在ラス
第八百八十三条 海員カ就役ノ後死亡シタルトキハ其死亡ノ日マテノ給料ハ其相続人ニ帰シ又船舶ノ防禦ノ際死亡シタルトキハ全航海ニ付テノ給料全額カ其相続人ニ帰ス
海上又ハ外国ニ於テ為ス葬式ノ費用ハ船舶所有者之ヲ負担ス
第八百八十四条 海員ハ就役ノ後ハ船長又ハ其代人ノ許可ヲ受クルニ非サレハ船舶ヲ離ルルコトヲ得ス
海員遁走シタルトキハ地方官庁ニ依頼シ強制シテ復役セシムルコトヲ得復役セシムルコトヲ得サル場合ニ在テハ其海員ハ既ニ受取ル可キニ至リタル給料及ヒ其遺留物ヲ請求スル権利ヲ失フ
第八百八十五条 本節ノ規定ハ船長ニモ之ヲ適用ス但別段ノ規定アルトキ又ハ性質上当然反対ノ生スルトキハ此限ニ在ラス
第八百八十六条 海員ノ義務背反殊ニ不従順及ヒ抵抗ハ船長懲戒権ヲ以テ之ヲ制止ス
第五章 運送契約
第一節 船舶賃貸借契約
第八百八十七条 航海ノ為メニ船舶ノ全部若クハ一分ヲ賃貸借スル契約ハ書面ニ作リテ当事者各自ニ其一通ヲ所持スルコトヲ要ス
賃貸人ハ航海前又ハ航海中已ムヲ得サル場合ニ於テハ賃借人ノ不利ト為ラサルトキニ限リ契約書ニ記シタル船舶ヨリ他ノ船舶ニ自費ヲ以テ運送品ヲ積換フルコトヲ得
第八百八十八条 繋船場、碇泊期間、超過碇泊期間ト超過碇泊ニ付テノ損害賠償トハ別段ノ契約アルニ非サレハ其地ノ慣習ニ依リテ之ヲ定ム
第八百八十九条 碇泊期間及ヒ超過碇泊期間ノ計算ニハ一般ノ休日及ヒ風雨其他天然若クハ法律上ノ妨碍ニ因リテ荷積又ハ荷卸ヲ妨ケラレタル日ヲ算入セス
第八百九十条 月又ハ其他ノ時限ヲ以テ運送賃ヲ定メタルトキハ其時限ハ別段ノ契約アルニ非サレハ航海ヲ始ムル日ヨリ之ヲ起算ス
第八百九十一条 航海ヲ始ムル前ニ到達地トノ貿易及ヒ交通ノ禁止セラレタルトキハ契約ハ解除シタルモノトス但此カ為メニ当事者ノ中孰レニモ損害賠償ヲ求ムル権利ヲ生スルコト無シ
航海中ニ右ノ禁止ニ因リテ船舶カ帰航セサルヲ得サルトキハ往返航海ノ為メニ賃借シタルトキト雖モ往路ノ運送賃ニ限リ支払フコトヲ要ス
右二箇ノ場合ニ於テハ荷積及ヒ荷卸ノ費用ハ賃借人ノ負担トス
第八百九十二条 到達港カ封港又ハ其他ノ処分ニ因リテ閉鎖セラレタルトキハ船長ハ別段ノ指図ヲ受ケサルカ又ハ受ケタル指図ヲ実行スル能ハサルニ於テハ賃借人ノ利益ヲ謀リ最近ノ港ニ入航スルカ又ハ発航ノ港ニ帰航スルコトヲ要ス
第八百九十三条 不可抗力ニ因リテ航海ノ起始又ハ継続カ一時妨ケラレタルトキハ契納ハ仍ホ効力ヲ有シ当事者ノ孰レニモ損害賠償ヲ求ムル権利ヲ生スルコト無シ然レトモ賃借人ハ自費ヲ以テ積荷ヲ処分スル権利ヲ有ス
第八百九十四条 荷積ヲ始ムル前ニ在テハ賃借人ハ運送賃ノ半額ヲ支払ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得若シ碇泊期間ニ一モ積荷ヲ引渡ササルトキハ契約解除ト看做サレ又運送賃ノ半額ヲ支払フコトヲ要ス
第八百九十五条 賃借人ハ其過失ニ因リテ積荷ヲ没収セラレ又ハ差押ヘラレタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払ヒ且此カ為メニ生シタル損害ヲ賠償スル義務アリ
第八百九十六条 船長ハ賃借人カ約定シタル積荷ノ全部ヲ積込マサルトキト雖モ契約ヲ解除セサルニ於テハ航海ヲ為ス権利ヲ有シ義務ヲ負フ此場合ニ於テ運送賃ノ全額ニ対スル担保ヲ欠クトキハ更ニ其担保ヲ求メ又積荷ノ不十分ナル為メニ損害ヲ生シタルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
第八百九十七条 他ノ運送品ニ付キ得タル収入及ヒ航海ヲ止メタルニ因リテ減シタル費用ハ運送賃ヨリ之ヲ扣除スルコトヲ得ス但第九百五条第二項ノ場合ハ此限ニ在ラス
第八百九十八条 船舶賃貸借契約ニ関スル原則ハ貨物運送ノ外ナル目的ヲ以テ航海スル為メノ船舶賃貸借契約ニモ之ヲ適用ス
第二節 船荷証書
第八百九十九条 船荷証書ハ船長カ運送ノ為メニ受取リタル運送品ニ対シテ発ス可キ受取証券ニシテ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 船名及ヒ国籍
第二 船長ノ氏名
第三 船舶賃借人ノ氏名及ヒ積荷受取人ノ指示
第四 荷積港及ヒ到達港
第五 貨物ノ種類、数量及ヒ各箇運送品ノ員数、記号、番号、外包ノ方法
第六 運送賃ニ付テノ約定
第七 年月日
第八 交付シタル船荷証書ノ数
船荷証書ハ求ニ応シ幾通ニテモ之ヲ交付ス可シ其中ノ一通ニハ船長ノ手許ニ備置ク為メ賃借人署名、捺印シ他ノ各通ニハ船長署名、捺印スルコトヲ要ス
船荷証書ハ或人ニ宛テ又ハ指図式若クハ無記名式ニテ之ヲ発スルコトヲ得
第九百条 船荷証書ハ荷積ヲ終リタル後二十四時内ニ之ヲ発スルコトヲ要ス
積込ミタル貨物ニ付テノ関税受取証書及ヒ関税明細書ハ右同一ノ期間ニ賃借人之ヲ船長ニ交付スルコトヲ要ス
第九百一条 規定ニ従ヒテ発シタル船荷証書ノ旨趣ハ当事者相互ノ間及ヒ当事者ト保険者トノ間ニ於テ完全ナル証拠ト為ルモノトス然レトモ反対ノ証拠ハ之ヲ挙クルコトヲ得
船長ハ外包ノ儘ニ又ハ閉蓋シタル容器ノ儘ニ受取リタル運送品ノ種類及ヒ数量ニ付テハ明約アルニ非サレハ責任ヲ負フコト無シ但運送品ヲ受取人ニ引渡ス時ニ於テ其外部ニ毀損アルトキハ此限ニ在ラス
喪失又ハ毀損ニ付テノ責任ハ第四百九十三条ニ掲ケタル情況ニ因ル外尚ホ火災、盗難其他過失ニ出テサル事故ニ因リテ消滅ス
過失ニ付テノ責任ハ契約ヲ以テモ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百二条 船長ハ到達港ニ於テ運送賃、附帯費用、海損並ニ立替金ノ弁償及ヒ受取証書ヲ受ケテ船荷証書所持人ニ運送品ヲ引渡ス義務アリ若シ二人以上ノ船荷証書所持人カ申出ヲ為ストキハ運送品ヲ公ノ倉庫ニ寄託シ又ハ裁判所ノ命令ニ依リテ之ヲ他人ニ寄託スルコトヲ要ス
第三節 運送賃
第九百三条 運送賃ノ額ハ契約又ハ時価ニ依リテ之ヲ定ム其契約上ノ額ハ船舶賃貸借契約書又ハ船荷証書ヲ以テ之ヲ証明スルコトヲ要ス
単独海損及ヒ附帯費用ハ契約又ハ商慣習ニ依リテノミ之ヲ計算スルコトヲ得
第九百四条 船長ハ現実ノ積量ニ超エタル積量ヲ明告シタルトキハ此ニ因リテ賃借人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル義務ヲ負ヒ且割合ニ応シテ運送賃ヲ減ス可キモノトス但其明告カ官ノ測度証書ト符合シ又ハ錯誤ヨリ出テタル差カ四十分ノ一ヨリ多カラサルトキハ此限ニ在ラス
第九百五条 船舶賃借ノ場合ニ於テハ賃借人ハ積荷ノ全部ヲ引渡ササルトキト雖モ運送賃ノ全額ヲ支払フ義務アリ又余分ノ積荷ニ付テハ割合ニ応シテ運送賃ノ増額ヲ支払フコトヲ要ス
船長ハ賃借人ノ承諾ヲ得テ他ノ運送品ヲ以テ積荷ノ不足ヲ補充スルコトヲ得其補充ヨリ生スル運送賃ハ賃借人ニ帰ス
第九百六条 各箇ノ積荷ハ航海ヲ始ムル前ニ在テハ賃借人運送賃ノ半額ト取戻ニ因リテ生スル費用トヲ支払ヒテ之ヲ取戻スコトヲ得航海ヲ始メタル後ニ在テハ運送賃ノ全額ト取戻ニ因リテ生スル費用トヲ支払フコトヲ要ス但其取戻カ船長ノ過失ニ因ルトキハ第九百八条ノ規定ニ従フ
第九百七条 船長ノ承諾ヲ得ス又ハ虚偽ノ明告ヲ為シテ船舶ニ積込ミタル運送品ハ船長之ヲ陸揚シ又ハ之ニ最高ノ運送賃ヲ付スルコトヲ得又其運送品カ船舶若クハ他ノ物ヲ危険ナラシムルトキハ之ヲ海中ニ投スルコトヲ得
第九百八条 船舶カ航海ノ用ニ耐ヘサルトキ又ハ契約ニ掲ケタル国籍ヲ有セス若クハ之ヲ失ヒタルトキハ賃借人ハ契約ヲ解除スルコトヲ得又船長ハ運送賃ノ請求権ヲ失ヒ且賃借人ニ被フラシメタル総テノ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九百九条 船舶カ航海中ニ生シタル破損ノ為メ修繕ヲ要スルトキハ賃借人ハ運送賃ノ全額ヲ支払ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
若シ船舶ヲ相当ノ期間ニ修繕スルコトヲ得サルトキハ賃借人ハ船長カ他ノ船舶ヲ以テ之ニ換ヘサルトキニ限リ其地マテノ運送賃ヲ支払ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第九百十条 第八百九十三条ノ場合ニ於テハ滞泊ノ費用ハ共同海損ノ原則ニ従ヒテ之ヲ定ム
第九百十一条 航海前、航海中又ハ到達港ニ於テ賃借人又ハ船長ノ惹起シタル遅延ノ費用ハ其遅延ヲ惹起シタル者之ヲ負担シ且此ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第九百十二条 賃借人ノ過失、物ノ性質又ハ事変ニ因リテ喪失シタル運送品、第八百七十二条ニ従ヒテ売却シタル運送品又ハ共同ノ危険ヲ救フ為メニ海中ニ投シタル運送品ニ付テハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス然レトモ海中ニ投シタル場合ニ於テハ其運送賃ハ共担弁済ノ義務ヲ負担ス
第九百十三条 船舶ノ難破、坐礁、膠沙又ハ掠奪ニ因リテ失ヒタル運送品ニ付テハ運送賃ヲ支払フコトヲ要セス且別段ノ契約アルニ非サレハ予メ支払ヒタル運送賃ハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
救助セラレ又ハ贖戻サレタル運送品ニ付テハ之ヲ到達港ニ運送セサルトキハ船舶ノ難破、坐礁、膠沙又ハ掠奪ノ地ニ至ルマテノ運送賃ヲ支払フコトヲ要ス
第九百十四条 積荷受取人ヨリ運送賃ヲ受取ルコトヲ得ス又運送品ヲ売却スルモ仍ホ之ヲ得ルコト能ハサルトキハ賃借人ハ其運送賃ニ付キ責任ヲ負フ
第九百十五条 船長ハ運送品ヲ引渡シタル後十四日間ハ所有者ノ破産シタルトキト雖モ運送賃其他ノ債権ノ為メ運送品ニ付キ優先権ヲ有ス但其貨物ノ占有カ第三者ニ移リタルトキハ此限ニ在ラス
第九百十六条 運送賃ノ減額ハ運送品ノ喪失、情況ノ変更又ハ其他ノ事由ノ為メニ之ヲ求ムルコトヲ得ス
第九百十七条 運送品ノ価額ノ損失ニ付キ船長其責任ヲ負ヒタルトキハ運送品ヲ船長ニ委付シテ運送賃ニ換フルコトヲ得
第四節 旅客運送
第九百十八条 旅客運送契約ニ旅客ノ氏名ヲ掲ケタルトキハ旅客ハ船長ノ承諾ナクシテ航海ノ権利ヲ他人ニ転付スルコトヲ得ス
第九百十九条 旅客ハ船中ノ秩序ニ係ル船長ノ指図ニ服従スル義務アリ
第九百二十条 航海中旅客ノ賄ハ反対ノ契約又ハ慣習アルニ非サレハ運送賃ニ包含スルモノトス若シ反対ノ契約又ハ慣習アル場合ニ於テ旅客カ食物ノ欠乏ヲ告クルトキハ船長ハ相当ノ代価ニテ之ヲ給スル義務アリ
第九百二十一条 旅客カ乗船地又ハ航海中ニ於テ定時ニ乗船セサルトキハ船長ハ之ヲ待ツ義務ナク旅客ハ運送賃ノ全額ヲ支払フ義務アリ
第九百二十二条 発航前ニ航海ヲ廃止スル場合ニ於テハ左ノ規定ニ従フ
第一 旅客ハ解約ノ申込ヲ為シテ航海ヲ止メタルトキハ運送賃ノ半額ヲ支払フコトヲ要ス
第二 旅客カ死亡、疾病其他一身ニ係ル已ムヲ得サル事故若クハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ運送賃ノ四分一ヲ支払フコトヲ要ス然レトモ旅客ハ尚ホ次回ニ発航スル船舶ヲ以テ航海スルヲ択フコトヲ得但同一ノ定常航路ニ由ルトキニ限ル
第三 船長ノ過失ニ因リテ航海ヲ廃止シタルトキハ旅客ハ既ニ支払ヒタル運送賃ヲ取戻ス外尚ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四 船舶ニ係ル已ムヲ得サル事故又ハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ双方ニ損害賠償ノ責ヲ生スルコト無クシテ契約ハ当然廃棄ニ帰ス但既ニ支払ヒタル運送賃ハ別段ノ契約ナキトキハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
第九百二十三条 発航後ニ航海ヲ廃止スル場合ニ於テハ左ノ規定ニ従フ
第一 旅客カ航海中ニ解約ノ申込ヲ為シテ航海ヲ止メタルトキハ運送賃ノ全額ヲ支払フコトヲ要ス
第二 船長カ航海ノ続行ヲ拒ミ其他旅客ノ航海ヲ止メタルコトニ付キ過失ノ責ヲ負フトキハ旅客ハ既ニ支払ヒタル運送賃ヲ取戻ス外尚ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
第三 旅客カ其一身又ハ船舶ニ係ル已ムヲ得サル事故又ハ不可抗力ニ因リテ航海ヲ妨ケラレタルトキハ既ニ航海シタル路程ニ応スル運送賃ノミヲ支払フ義務アリ但船長カ契約上ノ旅客ノ権利ヲ害スルコト無ク他ノ同様ナル船便ヲ以テ航海ヲ遂クルコトヲ申入レタルトキハ此限ニ在ラス
海上災害其他ノ災害ノ為メニ死亡シタル旅客ノ相続人ハ運送賃ヲ支払フコトヲ要セス然レトモ既ニ支払ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得ス
第九百二十四条 原因ノ如何ヲ問ハス船舶カ発航ヲ遅延シタルトキハ旅客ハ無代価ノ止宿若シ運送賃ニ賄ヲ包含スルトキハ船中ニ於ケル賄ヲモ請求スルコトヲ得然レトモ其遅延ノ甚シキトキハ旅客ハ契約ヲ解除シテ既ニ支払ヒタル運送賃ノ償還ヲ請求スルコトヲ得但其遅延カ船長ノ過失ニ因ルトキハ尚ホ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ航海中立寄港ニ於テ生シタル同一ノ場合ニモ之ヲ適用ス然レトモ運送賃ノ償還ハ未タ航海セサル路程ニ応シテノミ之ヲ請求スルコトヲ得
第九百二十五条 前条ノ場合ニ於テ船長カ契約上ノ旅客ノ権利ヲ害スルコト無ク他ノ同様ナル船便ヲ以テ航海ヲ遂クルコトヲ申入レタルトキハ旅客ハ契約ヲ解除スルコトヲ得ス
第九百二十六条 船長ハ旅客ノ安全、健康ニ注意シ必要ノ食物、薬剤及ヒ救助具ヲ供用ニ耐フル景状ニテ船中ニ備フルコトヲ要ス若シ災害ノ生シタルトキハ船長ハ第一ニ旅客ヲ救助スル義務アリ且如何ナル情況アルモ此救助ヲ実行シタル後ニ非サレハ船舶ヲ去ルコトヲ得ス
船中ニ於テ死亡シタル旅客ノ埋葬ハ相続人ノ費用若シ已ムヲ得サレハ船舶ノ費用ヲ以テ慣習ニ従ヒ船長之ヲ為ス義務アリ
第九百二十七条 旅客カ船中ニ積入ルルコトヲ得ル行李及ヒ旅用具ノ運送ニ付テハ反対ノ契約アルニ非サレハ旅客運送賃ノ外特別ノ報酬ヲ支払フコトヲ要セス
第九百二十八条 船中ニ於テ死亡シタル旅客ノ行李及ヒ旅用具ニシテ船中ニ在ルモノハ船長ニ於テ其相続人ノ為メ適当ノ方法ヲ以テ之ヲ取扱フ可シ
第九百二十九条 本章第一節第三節及ヒ第一編第八章第八節ノ原則ハ第五百二十三条前段ノ規定ヲ除ク外本節ノ旅客運送ニモ之ヲ適用ス
第六章 海損
第九百三十条 共同海損ハ船舶及ヒ積荷ヲ共同ノ危険ヨリ救助センカ為メ故サラニ直接又ハ間接ニ船舶又ハ積荷ニ加ヘタル非常ノ喪失、損害及ヒ同一ノ旨趣ニテ支出シタル非常ノ費用タリ殊ニ左ニ掲クルモノハ共同海損ニ属ス
第一 船舶及ヒ積荷ニ係ル危険ヲ避ケ又ハ其既ニ被フリタル危険ノ有害ナル結果ヲ避ケンカ為メニスル避難港ヘノ入航
第二 船舶ヲ軽クセンカ為メニスル積荷ノ投棄又ハ陸揚及ヒ此ニ因リテ船舶又ハ積荷ニ加ヘタル損害
第三 沈没又ハ掠奪ヲ避ケンカ為メニスル任意ノ坐礁、膠沙
第四 船舶又ハ積荷ノ贖戻ノ費用及ヒ人質ニ取ラレタル者アルトキハ其贖戻ノ費用
第五 第八百七十二条ニ従ヒテ共同海損ヲ償フ為メニ借入レタル金額ノ利息若クハ冒険料又ハ売却シタル積荷ノ損失其他共同海損ノ調査及ヒ計算ノ費用
第九百三十一条 共同海損ノ処分ヲ行フニハ船長ハ成ル可ク役員ト評議ヲ為シ且其評議ノ結果ヲ航海日誌ニ記載ス可シ
第九百三十二条 船舶及ヒ積荷ノ全部又ハ一分ヲ救助スルコトヲ得タルトキハ積荷ト船舶及ヒ運送賃ノ半分トカ到達港其他航海ノ終極地ニ於ケル其価額ノ平等ナル割合ヲ以テ共同海損ヲ共担ス
第九百三十三条 共同海損ノ場合カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ其過失ノ責任ハ共担ノ為メニ消滅セス
第九百三十四条 共同海損ノ確定及ヒ割賦ハ到達港其他航海ノ終極地ニ於テ鑑定人之ヲ為シ若シ鑑定人ノ選定ニ付キ争アルトキハ官ヨリ之ヲ命ス
第九百三十五条 船舶ノ武具、食料、乗組員ノ給料、所持品及ヒ旅客ノ旅荷物ハ共同海損ヲ共担セス然レトモ其喪失又ハ損害ノ場合ニ在テハ他ノ共担義務アル物ヨリ其賠償ヲ受ク
第九百三十六条 喪失、損害及ヒ共担額ノ計算ハ棄却シタル物及ヒ救助シタル物ノ実価ニ従ヒテ之ヲ為ス然レトモ棄却シタル物ニ付テハ其実価カ船荷証書ニ記載シタル価額ヨリ高価ナリシトキト雖モ其記載ノ価額ノミヲ賠償ス
船荷証書其他ノ明告書ナクシテ積込ミタル貨物及ヒ甲板上ニ積込ミタル貨物ニ付テハ賠償ヲ為スコト無シ但甲板上ニ積込ミタル貨物ニ付テハ沿岸小航海ノ船舶ニ非サルトキニ限ル
前項ノ場合ニ於テ救助シタル貨物ハ共担義務ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百三十七条 救助セラレタル船舶又ハ積荷カ其後喪失シ若クハ毀損シタルトキ又ハ海損若クハ救助ニ係ル債権ノ為メ責ヲ負ヒタルトキ共担義務ノ全ク消滅セサルニ於テハ其共担義務ノ割合ハ初ノ海損ニ対シテ変更ヲ生スルコト無シ然レトモ其共担義務ハ後ニ生シタル喪失若クハ毀損ヲ扣除シ又ハ海損若クハ救助ニ係ル債権ヲ扣除シタル残価額ニ従ヒテ之ヲ定ム
第九百三十八条 棄却シタル貨物ハ其後ニ生シタル海損ノ場合ニ在テハ共担義務ヲ負担セス又船舶ニ対スル積荷ノ共担義務ハ船舶カ後ニ喪失シ又ハ使用ニ耐ヘサルニ至リタルトキハ消滅ス
第九百三十九条 棄却シタル貨物カ海損割賦ノ後所有者ニ返リタルトキハ其所有者ハ救助ノ費用ト棄却ニ因リテ生シタル損害ノ額トヲ扣除シテ既ニ受取リタル割賦金ヲ当事者ニ償還スル義務アリ
第九百四十条 単独海損ハ任意ニ非スシテ生シ又ハ船舶若クハ積荷ノミニ生シタル喪失、損害及ヒ費用タリ此海損ハ各所有者各別ニ之ヲ負担スルコトヲ要ス
第九百四十一条 水先案内料、挽船料、避氷入費、諸税、手数料又ハ檣、帆若クハ機関ノ過度ナル使用ニ因リテ生シタル船舶ノ毀損ノ如キ航海ノ通常及ヒ臨時ノ費用若クハ損害ハ船舶ノミノ責ニ帰ス但反対ノ慣習アルモノハ此限ニ在ラス
第九百四十二条 衝突、破裂其他ノ事由ニ因リテ船舶及ヒ積荷ニ生シタル損害ニ付テハ自己ノ過失ニ因リテ其損害ヲ惹起シタル者責任ヲ負フ若シ其災害カ事変又ハ当事者双方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ各当事者ハ己レニ受ケタル損害ヲ負担ス
然レトモ当事者双方ノ過失相均シカラサルトキ又ハ其災害ノ事由ヲ明カニ検知スルコトヲ得サルトキハ損害ノ割賦ハ公平ナル酌量ニ従ヒテ之ヲ為ス
第九百四十三条 海難ニ於テ乗組員ノ船舶ヲ退去シ若クハ抛棄シタルトキ其船舶又ハ積荷ノ全部若クハ一分ヲ救助シタル者又ハ救援若クハ救撈ノ際乗組員ニ助力ヲ為シテ其功ヲ致シタル者ハ救助賃又ハ助力賃ヲ請求スル権利アリ其賃額ハ危険ノ度、費用、時間及ヒ救助並ニ助力ヲ為ス危険ト困難トヲ斟酌シテ之ヲ定ム然レトモ其賃額ハ救助シタル物ノ価額ノ三分一ヲ超エサルヲ通例トシ如何ナル場合ト雖モ半額ヲ超ユルコトヲ得ス
第九百四十四条 海損ノ為メ保険者ニ対スル請求権ハ共同海損ノ場合ニ在テハ損害額カ船舶及ヒ積荷ノ被保険価額合計高ノ百分一以上ナルトキ単独海損ノ場合ニ在テハ毀損シタル物ノ被保険価額ノ百分一以上ナルトキニ非サレハ成立セス
第九百四十五条 保険契約ニ海損ノ責ニ任セサル旨ノ条款アルトキハ保険者ハ総テ海損ニ付テノ責ヲ免カル但委棄ノ要件ノ存在スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テハ被保険者ハ委棄スルト海損請求権ヲ主張スルトノ一ヲ択フ権利アリ
第七章 冒険貸借
第九百四十六条 冒険貸借ハ船長カ船籍港外ニ在テ船舶又ハ積荷ノ已ムヲ得サル需用ノ為メ債権者ニ冒険料ヲ支払フ約束ニテ航海中冒険抵当物ニ付テノ海上危険ヲ引受ケシムル条件ヲ以テ取結フ貸借契約タリ此契約ヲ取結フニハ第八百七十二条ノ手続ニ依ルコトヲ要ス
認可書及ヒ冒険貸借証書ニハ冒険貸借ノ事実、目的、船名、航路、冒険抵当物及ヒ其価額ヲ明記スルコトヲ要ス
冒険貸借ノ金額カ冒険抵当物ノ価額ニ超ユルトキハ債権者ハ其超過額若シ債務者ニ詐欺ノ意思アル場合ニ在テハ全金額ニ利息ヲ附シテ之ヲ取戻スコトヲ得
期望ノ利益ハ之ヲ積荷ノ価額ニ算入スルコトヲ得ス
第九百四十七条 船舶、〔附属物ヲ包含ス〕運送賃及ヒ積荷ハ之ヲ総括シ又ハ分別シテ冒険抵当ト為スコトヲ得然レトモ積荷ノミハ其需用ノ為メニスルニ非サレハ之ヲ冒険抵当ト為スコトヲ得ス
船舶ノ冒険抵当ニハ明示ナキモ船舶ノ附属物及ヒ航海ノ終ニ於テ得ヘキ運送賃ヲ包含ス
第九百四十八条 同一ノ物ヲ相異ナル需用ノ為メニ数回冒険抵当ト為シタルトキハ後ノ債権ハ前ノ債権ニ先タツモノトス
第九百四十九条 冒険貸借証券ハ求ニ因リテ二通以上ヲ交付シ又指図式ニテ之ヲ発スルコトヲ得指図式ニテ発シタル場合ニ在テハ裏書ヲ以テ転付スルコトヲ得然レトモ裏書譲渡人ハ元金ノ支払ニ付テノミ責ヲ負ヒ冒険料ノ支払ニ付テハ明約アルニ非サレハ其責ヲ負ハス
第九百五十条 冒険貸借金額及ヒ冒険料ハ別段ノ期間ヲ約定シタルニ非サレハ船舶ノ投錨後八日内積荷ニ付テハ其陸揚後八日内ニ之ヲ弁償スルコトヲ要ス若シ此期間ニ弁償ヲ為ササルトキハ債権者ハ冒険抵当物ニ対シテ質権ヲ行フコトヲ得
総テノ冒険抵当物ハ其債権者ニ対シテ連帯ノ責任ヲ負フ
第九百五十一条 航海ノ変更、他ノ船舶ニ貨物ノ積換其他危険ノ変更ハ避ク可カラサル必要ニ出テタルニ非サレハ債権者ヲシテ海難ニ付テノ責ヲ免カレシム
第九百五十二条 冒険貸借債務ノ弁償ハ冒険抵当物ノ全部カ航海中海上危険ノ為メニ喪失シタルトキハ之ヲ求ムルコトヲ得ス若シ毀損又ハ一分ノ喪失ノ場合ニ在テハ其残余ノ価額ニ限リ之ヲ求ムルコトヲ得但海損及ヒ救助ノ費用ハ之ヲ扣除ス
前項ノ場合ニ在テハ海損ニ付テノ損害賠償ハ債権者ノ利益ニ帰ス
第八章 保険
第一節 保険契約ノ取結
第九百五十三条 総テ航海ノ危険ニ罹ル可キ適法ナル財産上ノ利益ハ航海ノ全部又ハ一分ノ為メ平時ト戦時トヲ問ハス航海前又ハ航海中ニ之ヲ保険ニ付スルコトヲ得
殊ニ船舶、〔附属物ヲ包含ス〕貨物運送賃、旅客運送賃、運送貨物、其売却利益、仲買人手数料、仲立人手数料、冒険貸借債権、海損債権其他船舶債権者ノ債権及ヒ保険者自身ノ利益ハ之ヲ総括シ又ハ分別シテ保険ニ付スルコトヲ得
船舶乗組員ノ給料及ヒ報酬ノ保険ハ無効トス
第九百五十四条 船舶ノ被保険価額ハ危険ノ始マル時及ヒ地ニ於テ船舶ノ有スル価額トス
第九百五十五条 船舶ノ危険ハ積荷又ハ底荷ノ積入ノ始マル時ニ始マリ荷卸ノ終リタル時又ハ不当ノ遅延ナクシテ其終リ得タル可キ時ニ終ル但別段ノ契約アルトキハ此限ニ在ラス
第九百五十六条 冒険貸借債権及ヒ海損債権ハ冒険抵当物又ハ共担義務ヲ負フ物ノ価額ヲ限トシテ保険ニ付スルコトヲ得
第九百五十七条 保険契約取結ノ後戦争起リ其他総テ国ノ処分ニ出ツル危険生シタルトキハ当事者ハ契約ヲ解除スル権利ヲ有ス但保険料ノ相当ナル増加ヲ予定シタルトキハ此限ニ在ラス
既ニ支払ヒタル保険料ハ契約解除ノ場合ニ在テハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
第二節 保険者及ヒ被保険者ノ権利義務
第九百五十八条 被保険者ハ危険ノ始マル前ニ航海ヲ止メタルトキハ被保険額ノ二百分一ノ損害賠償ヲ支払ヒテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第九百五十九条 保険者ハ海上危険ノ発生ニ因リ殊ニ暴風雨、破船、坐礁、膠沙、流氷、衝突、投荷、火災、破裂、盗難、劫掠ニ因リ又ハ航海、線路若クハ船舶ノ已ムヲ得サルニ出テタル変更ニ因リ又ハ乗組員ノ不正若クハ過失其他ノ事由ニ因リテ生シタル総テノ喪失及ヒ損害ヲ負担ス但契約ヲ以テ取除ヲ設ケタルモノハ此限ニ在ラス
保険者ハ明約アルニ非サレハ戦争其他総テ国ノ処分ニ出ツル危険殊ニ掠奪、宣戦、報復、封港、鎖港、差押及ヒ此類ノ事由ニ因リテ生シタル喪失及ヒ損害ヲ負担セス
第九百六十条 保険者ハ水先案内料、挽船料、船舶又ハ積荷ニ付キ支払フ可キ手数料、関税其他ノ諸税、年数、腐朽又ハ蠧蝕ニ因リテ生シタル損害、通常ノ使用ニ因リテ生シタル損耗、船長又ハ海員ノ行為ニ付キ船舶所有者ノ負担スル責任、航海不耐用又ハ艤装若クハ乗組員ノ不十分又ハ成規上ノ書類ノ欠欠ニ因リテ生シタル損害ヲ負担セス
第九百六十一条 損害ヲ賠償ス可キ保険者ノ義務ハ被保険者カ其損害ニ付キ船長其他ノ人ニ対シテ賠償請求ノ権利ヲ有スルカ為メニ之ヲ免カルルコトヲ得ス
第九百六十二条 保険料ハ契約上ノ航海期間ヲ延長シタルトキハ割合ニ応シテ之ヲ増スコトヲ要ス然レトモ其期間ヲ短縮スル場合ニ在テハ之ヲ減スルコトヲ得ス航海ヲ短縮スル場合モ亦同シ
第九百六十三条 旅客運送賃ノ保険ハ航海ノ延長、旅客ノ載換、避難港ニ於ケル旅客ノ給養、他船ヲ以テスル旅客ノ運送、食料ノ喪失若クハ減損其他此類ノ海上災害ニ因リテ生シタル旅客運送費増額ノ賠償ヲ請求スル権利ヲ被保険者ニ与フルモノトス
第九百六十四条 貨物運送賃又ハ旅客運送賃ノ通常額ヲ増加シテ運送貨物又ハ旅荷物ノ危険ヲ引受クル者アルトキハ保険ニ関スル原則ヲ之ニ適用ス
第三節 委棄
第九百六十五条 委棄ハ全被保険額ノ支払ヲ受ケテ保険者ニ被保険物ヲ委付スルニ在リ
委棄ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ申込ムコトヲ得
第一 船舶カ沈没シ破砕シ又ハ踪跡ヲ失ヒ又ハ使用ニ耐ヘサルトキ
第二 船舶カ掠奪セラレ又ハ国ノ処分ニ因リテ抑留セラレタルトキ
第三 喪失又ハ毀損カ価額ノ四分三ヲ超エタルトキ
委棄ハ一分ノミ又ハ条件附ニテ之ヲ為スコトヲ得ス又之ヲ取消スコトヲ得ス
第九百六十六条 船舶カ到達港ニ達セス且発航ノ時又ハ其船舶ニ付キ最後ノ通信アリタル時ヨリ一个年ヲ経過シタルトキ又沿岸航海ニ在テハ六个月ヲ経過シタルトキハ其船舶ハ踪跡ヲ失ヒタルモノト看做ス
有期ノ保険ノ場合ニ在テハ前項ノ期間満了後ハ其船舶ハ保険期間ニ喪失シタルモノト推定ス
第九百六十七条 坐礁、膠沙ニ罹リタル船舶ハ之ヲ引卸シ修繕ヲ加ヘテ到達港マテ航海ヲ継続セシムルコトヲ得ヘキトキ保険者カ此カ為メニ必要ナル費用ノ前貸ヲ為スニ於テハ使用ニ耐ヘサルモノトシテ委棄スルコトヲ得ス然レトモ被保険者ハ此場合ニ於テハ坐礁、膠沙ノ為メニ生シタル費用及ヒ海損ノ為メノ請求権ヲ保有ス
第九百六十八条 使用ニ耐ヘサル船舶ノ積荷ハ船長カ他ノ船舶ヲ以テ之ヲ到達港ニ送達スル能ハサルトキニ限リ委棄スルコトヲ得若シ船長カ其積荷ヲ送達スルコトヲ得タルトキハ保険者ハ総テノ海損及ヒ運送賃ノ増額ト積荷ノ救助、積換、倉入其他ノ事由ニ因リテ生シタル総テノ費用トヲ負担ス
第九百六十九条 被保険者ハ災害ノ通知ヲ得タル後又ハ第九百六十六条ニ定メタル期間ノ満了後三日内ニ委棄ノ理由タル事実ヲ保険者ニ通知シ且六个月内ニ其委棄ヲ申込ム義務アリ
前項ノ期間ヲ怠リタルトキハ被保険者ハ保険契約ヨリ生スル通常ノ請求権ノミヲ主張スルコトヲ得
第九百七十条 保険者ハ別段ノ契約アルニ非サレハ委棄ノ申込ヲ受ケタル後三个月内ニ被保険額ヲ払渡スコトヲ要ス然レトモ委棄ノ弁明ニ供スル証書ノ交付ヲ受ケス且総テ委棄シタル物ニ係ル他ノ保険、冒険貸借、登記ヲ経タル債権其他ノ債権ノ通知ヲ受ケサル以前ニ払渡ヲ為スコトヲ要セス
右ニ掲ケタル証書ノ旨趣ニ対シテハ反対証拠ヲ挙クルコトヲ得
第九百七十一条 被保険者ハ詐欺ノ委棄申込ヲ為シタルトキハ其保険上ノ権利ヲ失ヒ且委棄シタル物ニ係ル債権ヲ自ラ支払フコトヲ要ス
第九百七十二条 委棄シタル物ニ付テノ被保険者ノ権利ハ其委棄ノ承諾又ハ有効ナリトノ判決ニ依リテ保険者ニ移ル
船舶ノ委棄ニハ救助セラレタル運送貨物ノ運送賃全額ヲ包含ス但其運送賃ノ負担スル総テノ義務ハ之ヲ扣除ス
第九百七十三条 被保険者ハ委棄申込ノ後ト雖モ被保険物ヲ救助シ又ハ取戻ス為メ及ヒ一層大ナル損害ヲ避クル為メ成ル可ク注意ヲ為ス義務アリ又右ノ目的ノ為メ支出シタル費用ハ救助セラレタル物ノ価額ニ至ルマテ保険者之ヲ負担スルコトヲ要ス
第九百七十四条 掠奪セラレ又ハ国ノ処分ニ因リテ抑留セラレタル場合ニ在テハ被保険者ハ此事実ヲ保険者ニ通知シタル後六个月内ニ判決又ハ没収ノ言渡ナキトキハ始メテ委棄ヲ申込ムコトヲ得掠奪ノ場合ニ在テハ被保険者ハ已ムヲ得サルトキニ限リ予メ通知ヲ為サス且保険者ノ委任ナシト雖モ贖戻ヲ為スコトヲ得然レトモ保険者ハ其贖戻ヲ自己ノ計算ニテ引受クルト否トヲ選択スル権利ヲ有ス
第九百七十五条 一旦申込ミタル委棄ノ効力ハ後日ニ至リ船舶ノ救助又ハ帰航ニ因リテ変スルコト無シ
第九章 時効
第九百七十六条 船舶債権者ノ債権及ヒ冒険貸借、海損並ニ救助ニ因リテ生シタル債権ハ船舶所有者、船長又ハ海員ノ一身ニ対スル請求権ナルトキト雖モ之ヲ主張スルコトヲ得ル日ヨリ起算シ一个年ヲ以テ時効ニ罹ル
委棄ニ付テノ訴権ハ第九百六十九条ニ掲ケタル申込期間後一个月ノ満了ヲ以テ消滅ス
第九百七十七条 喪失又ハ毀損ニ付キ船長及ヒ保険者ニ対スル請求権ハ留保ナク運送貨物ヲ受取リテ其運送賃ヲ支払ヒタル時消滅ス又海損又ハ救助ニ因リテ生シタル債権ハ留保ナク運送貨物ヲ引渡シテ其運送賃ヲ受取リタル時消滅ス
有効ニ留保ヲ為スニハ運送貨物ヲ受取リ又ハ引渡シタル後二十四時内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第三編 破産
第一章 破産宣告
第九百七十八条 商ヲ為スニ当リ支払ヲ停止スル者ハ自己若クハ債権者ノ申立ニ因リ又ハ職権ニ依リ裁判所ノ決定ヲ以テ破産者トシテ宣告セラル但此決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
前項ノ決定ハ口頭弁論ヲ要セスシテ之ヲ為スコトヲ得
第九百七十九条 支払停止ハ其停止ヲ為シタル本人ヨリ又商事会社ニ在テハ業務担当ノ任アル社員又ハ取締役又ハ清算人ヨリ支払停止ノ日ヲ算入シテ五日内ニ其営業所又ハ住所ノ裁判所ニ書面ヲ以テ又ハ口述ヲ調書ニ筆記セシメテ之ヲ届出ツ可シ此届出ニハ支払停止ノ事由ヲ明示シ及ヒ貸借対照表並ニ商業帳簿ヲ添フルコトヲ要ス
貸借対照表ニハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 総テノ動産、不動産其他債権ノ列挙及ヒ価額
第二 総テノ債務
第三 利益及ヒ損失ノ概要
第四 毎月ノ一身上ノ費用及ヒ家事費用ノ支出額
第九百八十条 破産決定書ニハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 支払停止ノ時期
第二 破産主任官及ヒ一人又ハ二人以上ノ破産管財人ノ選定
第三 破産財団ノ保全ニ必要ナル処分ニ付テノ命令
第四 破産者ノ債務者又ハ財団ニ属スル物ノ占有者ニ対スル払渡差押ノ命令
第五 破産者ノ総債権者ニ対シ其請求権ヲ短クトモ三个月長クトモ六个月ノ期間ニ破産主任官ニ届出ツ可キ旨ノ催告
第六 調査会ノ期日及ヒ債権者集会ノ期日ノ指定
破産決定書ハ之ヲ検事ニ送致ス可シ
第九百八十一条 破産宣告ハ即時ニ裁判所ノ掲示場並ニ破産者ノ営業場ニ貼附シ及ヒ其地ノ新聞紙ニ載セテ之ヲ公告スルコトヲ要ス其宣告ハ仮執行ヲ為スコトヲ得
第九百八十二条 破産者ノ財産ヲ以テ破産手続ノ費用ヲ償フニ足ラサルトキハ前条ノ手続ヲ除ク外其後ノ手続ヲ停止ス其手続ノ停止ハ之ヲ公告スルコトヲ要ス
然レトモ破産手続ノ費用ヲ償フニ足ル破産者ノ財産アルコトヲ証明スルトキハ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ即時其手続ヲ再施ス
破産手続ノ停止ハ其継続スル間ハ第千四十九条ニ掲ケタル効力ヲ有ス
第九百八十三条 破産主任官ハ総テノ破産手続ヲ指揮シ及ヒ監督スルコトヲ要ス其命令ハ仮執行ヲ為スコトヲ得然レトモ此命令ニ対シテハ破産裁判所ニ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第九百八十四条 検事ハ職権ヲ以テ破産者ノ罰セラル可キ所為ノ有無ヲ捜査シ且此カ為メ取引帳簿其他ノ書類ノ展閲ヲ求ムルコトヲ得
第二章 破産ノ効力
第九百八十五条 破産宣告ニ依リ破産者ハ破産手続ノ継続中自己ノ財産ヲ占有シ管理シ及ヒ処分スル権利ヲ失フ
破産宣告ノ日ヨリ以後ハ破産者ノ為シタル支払其他総テノ権利行為及ヒ破産者ニ為シタル支払ハ当然無効トス
破産者ノ動産、不動産ニ関スル訴及ヒ執行ハ特リ管財人ヨリ又ハ管財人ニ対シテ之ヲ起シ又ハ継続スルコトヲ得
第九百八十六条 破産者ノ営業ノ用ニ供スル動産ニ対シテ不動産貸賃ノ為メニスル強制執行ハ三十日間之ヲ猶予ス但賃貸人カ其賃貸物ヲ取戻ス権利ヲ有スルトキハ此限ニ在ラス
第九百八十七条 各箇債権者ハ優先権ノ存スルニ非サレハ破産処分中破産者ノ財産ニ対シテ強制執行ヲ為スコトヲ得ス
第九百八十八条 弁済期限ノ未タ至ラサル破産者ノ債務ハ破産宣告ニ依リテ弁済期限ニ至リタルモノトス
為替手形ノ引受人又ハ引受ナキ為替手形ノ振出人又ハ約束手形ノ振出人カ破産宣告ヲ受ケタルトキハ其償還義務ニ付テモ前項ノ規定ヲ適用ス
第九百八十九条 財団ニ対シテハ破産宣告ノ日ヨリ利息ヲ生スルコトヲ止ム但抵当権、質権其他ノ優先権ヲ以テ担保セラレタル債権ハ其担保物ノ売払代金ニ満ツルマテヲ限トシテ利息ヲ生スルコトヲ得
第九百九十条 支払停止後又ハ支払停止前十日内ニ破産者カ其財産中ヨリ無償ノ利益ヲ或人ニ与フル権利行為殊ニ贈与、無償ニテ若クハ不相当ノ報償ヲ以テ義務ヲ負担スル契約、期限ニ至ラサル債務ノ支払、期限ニ至リタル債務ノ変体支払及ヒ従来負担シタル債務ノ為メ新ニ供スル担保ハ財団ニ対シテハ当然無効トス
第九百九十一条 前条ニ掲ケタルモノノ外債務者カ支払停止後破産宣告前ニ財団ノ損害ニ於テ為シタル総テノ支払及ヒ権利行為ハ相手方カ支払停止ヲ知リタルトキニ限リ財団ノ計算ノ為メ之ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得
然レトモ手形ヲ支払ヒタル場合ニ於テハ為替手形ヲ振出シ又ハ振出サシムル際支払停止ヲ知リタル振出人又ハ振出委託人ヨリ又約束手形ニ在テハ裏書譲渡ノ際支払停止ヲ知リタル第一ノ裏書譲渡人ヨリ其支払金額ヲ償還スルコトヲ要ス
第九百九十二条 有効ニ取得シタル抵当権其他合式ノ登記ニ因リテ法律上効力ヲ有ス可キ権利ハ支払停止後ニ在テハ其取得ノ時ヨリ十五日ヲ過キサルトキニ限リ破産宣告ノ日マテ登記ヲ為スコトヲ得
第九百九十三条 破産宣告ノ時ニ破産者及ヒ其相手方ノ未タ履行セス又ハ履行ヲ終ラサル双務契約ハ孰レノ方ヨリモ無賠償ニテ其解約ヲ申入ルルコトヲ得
賃貸借契約又ハ雇傭契約ニ在テハ解約申入ノ期間ニ付キ協議調ハサルトキハ法律上又ハ慣習上ノ予告期間ヲ遵守ス可シ
第九百九十四条 契約者ノ一方ノ義務不履行ノ為メ他ノ一方ニ於テ契約ヲ解除スル権利又ハ既ニ給付シタル物ヲ取戻ス権利ハ財団ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス
第九百九十五条 相殺ノ権利アル債権者ハ期限ニ至ラサル債権又ハ金額未定ノ債権ト雖モ財団ニ対シテ其効用ヲ致サシムルコトヲ得
債権カ支払停止後ニ生シ又ハ取得シタルモノナルトキハ支払停止ヲ知リタル場合ニ限リ相殺ヲ許サス
第九百九十六条 債務者カ債権者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ為シタル権利行為ハ相手方カ情ヲ知リタルトキニ限リ其日附ノ如何ヲ問ハス之ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得
第三章 別除権
第九百九十七条 債務者ノ動産又ハ不動産ニ対シテ抵当権、質権其他ノ優先権ヲ有スル債権者ハ財団ヨリ先ツ弁償ヲ受ケタルニ非サレハ其担保物ノ売払代金ヨリ費用、利息及ヒ元金ノ支払ヲ受クル為メ別除ノ弁償ヲ請求スルコトヲ得若シ其売払代金ノ剰余アルトキハ買主之ヲ財団ニ払込ム可シ
第九百九十八条 優先権及ヒ其順序ハ民法及ヒ特別ノ法律ニ依リテ定マル
第九百九十九条 優先権ヲ有スル者其担保物ノ売払代金ヨリ完全ナル弁償ヲ受ケサルトキハ其未済ノ債権ハ他ノ債権者ト平等ナル割合ヲ以テ財団ニ対シテ之ヲ主張スルコトヲ得
第千条 債務者カ其支払停止後ニ遺産ヲ取得シタルトキハ遺産債権者及ヒ受遺者ハ遺産トシテ仍ホ現存スル遺産物ヨリ又ハ未タ債務者ニ支払ハレサル遺産ニ属スル金銭ヨリ別除ノ弁償ヲ請求スルコトヲ得
第千一条 破産者ノ財産ニシテ民事訴訟法ニ従ヒ強制執行ノ為メ差押フルコトヲ得サルモノハ之ヲ財団ニ加フルコトヲ得ス但債権者ニ優先権ノ属スルモノニ付テハ第九百九十七条ノ規定ニ従フ
第四章 保全処分
第千二条 裁判所ハ破産宣告ト同時ニ債務者ノ動産ノ封印及ヒ債務者ノ即時勾留若クハ監守ヲ命ス
右処分ハ破産宣告前ト雖モ若シ債務者カ逃走シ若クハ逃走セントシ又ハ其財産ヲ隠匿スルトキハ其地警察官庁ニ於テ債権者ノ申立ニ因リテ之ヲ為スコトヲ得
商事会社ニ在テハ連帯無限ノ責任ヲ負ヘル総社員ノ身体及ヒ財産ニ対シテ右ノ処分ヲ行フ
第千三条 債務者カ第九百七十九条ノ規定ヲ践行シ且別ニ勾留又ハ監守ヲ受ク可キ事由ナキトキハ其勾留又ハ監守ヲ実施セサルコトヲ得然レトモ後日職権ヲ以テ之ヲ実施スルコトヲ妨ケス
債務者ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非サレハ其住地ヲ離ルルコトヲ得ス又裁判所ハ何時ニテモ債務者ノ引致ヲ命スルコトヲ得
第千四条 勾留若クハ監守ノ事由最早存セサルトキハ裁判所ハ其決定ヲ以テ債務者ヲ釈放ス可シ然レトモ債務者ヲシテ裁判所又ハ管財人ノ呼出ニ応シ何時ニテモ出頭ス可キ為メノ担保ヲ供スル義務ヲ負ハシムルコトヲ得
取上ケタル担保ハ之ヲ財団ニ帰セシム
第千五条 管財人カ債務者ノ財産ヲ財産目録ニ載セ且之ヲ占有シタルトキハ直チニ其封印ヲ解ク可シ
第千一条ニ依リ財団ニ加フルコトヲ得サル物及ヒ財団ノ為メニスル即時ノ換価又ハ継続利用ヲ封印ノ為メ妨ケラルル物ニハ封印ヲ為ササルコトヲ得此等ノ物ハ直チニ財産目録ニ載セ管財人之ヲ占有スルコトヲ要ス
債務者ノ商業帳簿ハ即時之ヲ管財人ニ交付シ且其帳簿ノ現状ハ破産主任官之ヲ認証ス
特ニ高価ナル物ハ即時之ヲ管財人ニ交付シ又ハ一時之ヲ裁判所ニ引取ルコトヲ得
第千六条 破産者ニ対シテ債務ヲ負ヒ又ハ財団ニ属スル物ヲ占有スル者ハ其支払又ハ交付ヲ管財人ニノミ為ス可キコトヲ払渡差押ノ命令ヲ以テ催告セラレタルモノトス
別除権ヲ行ハント欲スル者ハ其旨ヲ管財人ニ申出ツ可シ若シ管助人ヨリ其物ノ評価ヲ為サンコトヲ求ムルトキハ之ヲ承諾スルコトヲ要ス
債務者ニ宛テタル電信、書状其他ノ送達物ハ之ヲ管財人ニ交付ス可シ其管財人ハ開封ノ権ヲ有ス然レトモ其旨趣カ財団ニ関係ナキトキハ管財人ヨリ債務者ニ引渡スコトヲ要ス
破産裁判所ハ此カ為メ郵便局、電信局其他ノ運送取扱所ニ必要ナル命令ヲ発ス可シ
第千七条 破産主任官ハ破産者及ヒ其家族ニ財団ヨリ給養ノ扶助料ヲ与フルコトヲ得
第五章 財団ノ管理及ヒ換価
第千八条 各裁判所管轄区ニハ職務上義務ヲ負フ可キ破産管財人ノ名簿ヲ備置キ破産裁判所ハ各箇ノ場合ニ於テ其名簿中ヨリ管財人ヲ選定ス
第千九条 管財人ノ勤労ニ対スル報酬ハ財団ヨリ第一ニ之ヲ支払ヒ其額ハ破産裁判所之ヲ定ム
第千十条 裁判所ハ何時ニテモ管財人ヲ易ヘ又ハ他ノ管財人ヲ加フルコトヲ得
第千十一条 管財人ハ其行為ニ付テハ代理人ト同一ノ責任ヲ負フ若シ管財人二人以上アルトキハ共同ニ非サレハ行為ヲ為スコトヲ得ス但破産主任官カ或ル行為ニ付キ各箇ニ特別ノ委任ヲ与ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第千十二条 管財人ハ破産宣告後即時ニ財団ヲ占有シ且其管理及ヒ換価ニ著手スルコトヲ要ス
管財人ハ其執務ノ為メ破産者ノ補助ヲ求ムルコトヲ得破産主任官ハ此カ為メ破産者ニ報酬ヲ与フルコトヲ得
第千十三条 管財人ハ破産主任官ノ監督ヲ受ケ且其指揮ニ従フ義務アリ若シ管財人ノ行為又ハ決断ニ対シテ異議ヲ述フル者アルトキハ破産主任官命令ヲ以テ之ヲ決ス此命令ニ対シテハ破産裁判所ニ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第千十四条 財産目録ハ裁判所職員又ハ其地警察官吏ノ立会ヲ以テ管財人之ヲ作リ若シ必要アルトキハ破産者ヲモ立会ハシム
破産者ニ属スル総テノ財産ハ財団ニ組入ル可カラサルモノト雖モ其価額ヲ明示シテ之ヲ財産目録ニ記入スルコトヲ要ス必要ナル場合ニ在テハ其価額ハ鑑定人ヲシテ之ヲ鑑定セシム
財産目録及ヒ之ニ関スル調書ノ認証アル謄本ハ公衆ノ展閲ニ供スル為メ裁判所ニ之ヲ備フ
検事ハ其見込ニ因リ職権ヲ以テ財産目録ノ作成ニ立会フコトヲ得
第千十五条 破産者ニ属セサル財産ヲ財団ヨリ取戻スコトニ係ル争訟ハ破産裁判所之ヲ裁判シ不動産ニ付テハ其所在地ヲ管轄スル裁判所之ヲ裁判ス
第千十六条 管財人ハ破産主任官ノ定メタル三十日以内ノ期間ニ破産者ヨリ差出シタル届書及ヒ貸借対照表ヲ調査シ若シ破産者ヨリ之ヲ差出ササリシトキハ自ラ貸借対照表ヲ作リ且其報告書ニ貸借対照表ヲ添ヘテ破産主任官ニ提出ス可シ
報告書及ヒ貸借対照表ノ認証アル謄本ハ公衆ノ展閲ニ供スル為メ裁判所ニ之ヲ備フ
報告書及ヒ貸借対照表ハ之ヲ検事ニ送致スルコトヲ要ス
第千十七条 貸方ノ借方ニ超ユルコト判然ナルトキ又ハ協諧契約ノ予期セラルル間ハ裁判所ハ破産主任官ノ申立ニ因リ且管財人ノ意見ヲ聴キタル後管財人ヲシテ破産者ノ営業ヲ続行セシムル決定ヲ為スコトヲ得
管財人営業ヲ続行スル場合ニ在テ財団ニ属スル物ヲ通常ノ営業外ニテ売却セントスルニハ破産主任官ノ認可ヲ受ケ且予メ破産者ノ意見ヲ聴クコトヲ要ス
第千十八条 不動産ハ破産主任官ノ認可ヲ受ケテ之ヲ競売スルコトヲ要ス
動産ハ競売スルヲ通例トスト雖モ破産主任官ノ認可ヲ受クルトキハ相対ヲ以テ之ヲ売却スルコトヲ得
競売ノ手続ハ総テ民事訴訟法ノ規定ニ依ル
第千十九条 管財人ハ財団ニ属スル破産者ノ貸方ヲ取立テ及ヒ破産者ノ権利ヲ債務者其他ノ人ニ対シテ主張シ且保全スルコトヲ要ス
管財人ハ左ニ掲クル行為ニシテ百円以上ノ額ニ係ルモノニ付テハ破産者ノ意見ヲ聴キ且破産主任官ノ認可ヲ受ク可シ
第一 訴訟ヲ為スコト
第二 和解契約又ハ仲裁契約ヲ取結フコト
第三 質物ヲ受戻スコト
第四 債権ヲ転付スルコト
第五 相続又ハ遺贈ヲ拒絶スルコト
第六 消費借ヲ為スコト
第七 不動産ヲ買入ルルコト
第八 権利ヲ抛棄スルコト
第九 総テ財団ニ新ナル義務ヲ負ハシムルコト
第千二十条 財団ニ収入スル金銭ハ破産主任官ノ定ム可キ常用支出額ノ外遅延ナク之ヲ供託所ニ寄託スルコトヲ要ス其金銭ハ破産主任官ノ支払命令ニ依ルニ非サレハ支出スルコトヲ得ス
第千二十一条 管財人ハ其管財中破産者ニ罰セラル可キ行為アルヲ知リタルトキハ之ヲ破産主任官ニ届出ツル義務アリ破産主任官其届出ヲ受ケタルトキハ之ヲ検事ニ通知ス
第千二十二条 破産主任官ハ破産ノ原由、事情、貸方借方並ニ其対照表其他管理及ヒ破産手続ニ関スル事項ニ付キ破産者、其商業使用人、雇人其他ノ人ヲ何時ニテモ訊問スルコトヲ得
第六章 債権者
第一節 債権ノ届出及ヒ確定
第千二十三条 破産者ノ総債権者ハ破産決定ノ公告ニ因リ債権届出ノ期間ニ其債権ヲ破産主任官ニ届出ツ可キ旨ノ催告ヲ受ケタルモノトス其届出ニハ各債権ノ合法ノ原因及ヒ請求金額若シ優先権アルモノハ其権利ヲ明記シ且証拠書類又ハ其謄本ヲ添フ可シ
他所ニ住スル債権者ハ裁判所所在地ニ代人ヲ置ク可シ
債権及ヒ代人任置ノ届出ハ書面ヲ以テ又ハ調書ニ筆記セシメテ之ヲ為スコトヲ得書面ヲ以テスル場合ニ在テハ二通ヲ差出スコトヲ要ス
所在ノ知レタル債権者ハ右ノ外特ニ裁判所ヨリ書面ヲ以テ其債権届出ノ催告ヲ受ク然レトモ其書面カ債権者ニ達セサルモ此カ為メ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第千二十四条 届出ハ之ヲ受取リタルトキ直チニ順次番号ヲ付シテ二箇ノ表ニ記載ス可シ其一ニハ優先権アル債権ヲ掲ケ他ノ一ニハ通常ノ債権ヲ掲ク此債権表ハ公衆ノ展閲ニ供スル為メ裁判所ニ之ヲ備フ
管財人ハ其使用ノ為メ届出書及ヒ債権表ノ謄本ヲ受領ス
第千二十五条 調査会ハ管財人及ヒ成ル可ク破産者ノ面前ニ於テ破産主任官之ヲ開キ且其調書ヲ作ル可シ債権者ハ自身又ハ代理人ヲ以テ此会ニ参加スルコトヲ得
破産主任官ハ債権者ニ取引帳簿若クハ其抜書ノ提出ヲ命スルコトヲ得調査ノ結果ハ債権表及ヒ提出シタル債務証書ニ附記シ且各債権者又ハ其代理人ニ告知スルコトヲ要ス
調査会ハ届出期間ノ満了後十日乃至十五日間ニ之ヲ開クヲ通例トス
届出期間ノ満了後ニ届出テタル債権ハ調査会ニ於テ之ヲ調査スルコトヲ得然レトモ其調査ヲ為スコトニ付キ異議ノ申立アリタルトキ又ハ調査会ノ終リタル後債権ヲ届出テタルトキハ其債権者ノ費用ヲ以テ新ナル調査会ヲ開ク
第千二十六条 債権ノ確定ハ承認又ハ裁判所ノ判決ヲ以テ之ヲ為ス
調査会ニ於テ管財人ヨリモ又債権ノ確定シ若クハ貸借対照表ニ掲ケタル債権者ヨリモ異議ヲ申立テサルトキハ債権ハ承認ヲ得タルモノトス
管財人ノ債権ニ係ル承認又ハ異議ハ破産主任官其管財人ニ代ハリテ之ヲ為ス
第千二十七条 異議ヲ受ケタル各債権ハ若シ其債権者之ヲ取消ササルトキハ破産裁判所公廷ニ於テ破産主任官ノ演述ヲ聴キ成ル可ク合併シテ其判決ヲ為ス可シ其弁論及ヒ判決ハ原告、被告ノ出頭セサルトキト雖モ之ヲ為ス但此判決ニ対シテハ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
第千二十八条 判決ハ成ル可ク債権者集会前ニ之ヲ為スコトヲ要ス若シ之ヲ為スコト能ハス又ハ判決ニ対シテ控訴ヲ為シタルトキハ裁判所ハ異議ヲ受ケタル債権者ノ右集会ニ加ハルコトヲ許ス可キヤ否ヤ又幾許ノ金額ニ付キ加ハルコトヲ許ス可キヤ否ヤヲ決定ス
債権者ノ優先権ノミカ異議ヲ受ケタルトキハ其債権者ハ通常ノ債権者トシテ右集会ニ加ハルコトヲ得
第千二十九条 債権ヲ正当時期ニ届出テス又ハ債権ノ確定セサル債権者ハ以後ノ確定ニ因リテ為ス可キ財団ノ配当ニノミ加ハルコトヲ得然レトモ異議ヲ受ケテ訴訟中ニ在ル債権及ヒ届出並ニ調査ノ為メ別段ノ期間ヲ定メラレタル在外国債権者ノ債権ニ付テハ以前ノ配当ニ於テ其債権ニ帰スル割前ヲ留存ス
第二節 特種ノ債権者
第千三十条 主タル債務者ノ破産ニ於テ届出テタル債権ハ協諧契約ノ場合ト雖モ保証人其他ノ共同義務者ニ対シ其全額ニ付キ之ヲ主張スルコトヲ得又保証人又ハ共同義務者ハ主タル債務者ノ破産ニ於テ其償還請求ヲ届出ツルコトヲ得然レトモ主タル債務者ノ為メニスル協諧契約ノ効果ニ従フ
第千三十一条 二人以上ノ共同義務者カ破産シタルトキハ其各義務者ノ破産ニ於テ債権ノ全額ヲ届出ツルコトヲ得
各自ノ破産財団ノ間ニ於ケル償還請求権ハ之ヲ主張スルコトヲ得ス然レトモ債権者カ受取ル割前ノ額カ主タルモノ及ヒ従タルモノヲ合セタル債権ノ総額ヲ超過スルトキハ其超過額ハ共同義務者中他ノ共同義務者ニ対シテ償還請求権ヲ有スル者ノ財団ニ帰ス
第千三十二条 左ニ掲クル債権ハ届出及ヒ確定ニ関スル規定ニ従フコトヲ要セス
第一 裁判費用、管理費用其他破産手続上ノ費用
第二 公ノ手数料及ヒ諸税
第三 管財人カ財団ノ為メニ負担シタル義務ヨリ生スル債権
右債権ハ破産主任官ノ指図ニ従ヒ通常ノ方法ヲ以テ財団ノ現額ヨリ之ヲ支払フ
第千三十三条 破産手続ニ加ハリタルニ因リテ債権者ニ生シタル費用ハ財団ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第千三十四条 婦ハ其夫ノ財団ニ対シテハ法律、明約又ハ疑ナキ慣例ニ依リ婦ノ特有ニ帰スル所有権ヨリ生スル債権ノミヲ主張スルコトヲ得
第三節 債権者集会
第千三十五条 債権者集会ハ破産主任官之ヲ招集シ及ヒ之ヲ指揮ス其招集ハ会議ノ事項ヲ明示スル公告ヲ以テ之ヲ為ス
其集会ハ管財人、債権ノ確定シタル債権者及ヒ第千二十八条ニ依リテ参加スルコトヲ得ヘキ債権者ヨリ成立ス然レトモ優先権ノ確定シタル債権者ハ其優先権ヲ抛棄シタル限度又ハ優先権ヲ行フニ当リ不足アル可シト推定セラルル限度ニ於テノミ参加ス
債権者ハ代理人ヲ差出スコトヲ得
破産者ハ之ヲ集会ニ呼出スコトヲ得
第千三十六条 決議ハ出席シタル債権者ノ過半数ヲ以テ為スヲ通例トス其過半数ハ出席員ノ有スル債権額ノ半ヨリ多キ額ニ当ルコトヲ要ス
第千三十七条 集会ニ於テハ破産主任官ハ破産手続ノ従来ノ成行ニ付テノ報告ヲ為シ管財人ハ管財ノ処理、其結果及ヒ財団ノ現況ニ付テノ報告ヲ為ス
集会ハ右ノ報告ニ付テ決議ヲ為シ若シ破産主任官又ハ管財人ノ意見アリタルトキハ其意見及ヒ債権者ノ為シタル申立又ハ破産主任官ノ認可ヲ受ケテ破産者ノ為シタル申立ニ付テ決議ヲ為ス可シ此等ノ決議ハ裁判所ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第七章 協諧契約
第千三十八条 法律上ノ義務ヲ履行シタル破産者ニシテ有罪破産ノ判決ヲ受ケス又其審問中ニ在ラサル者ハ破産主任官ノ認可ヲ受ケ第一ノ集会ニ於テ債権者ニ協諧契約ヲ提供スルコトヲ得又十分ノ理由アルトキハ以後ノ集会ニ於テモ之ヲ提供スルコトヲ得然レトモ其提供ハ一回ニ限ル
第一ノ集会ハ普通ノ調査会ヨリ四週日後ニ之ヲ為ス協諧契約ノ申立書ハ少ナクトモ集会ノ二十日前ニ之ヲ裁判所ニ差出シ裁判所ハ之ヲ公衆ノ展閲ニ供シ且其旨ヲ公告ス可シ
第千三十九条 協諧契約ヲ承諾スルニハ出席シタル債権者ノ過半数ノ承諾ヲ要ス其過半数ハ議決権アル総債権額ノ四分三以上ニ当ルコトヲ要ス
管財人及ヒ議決権ヲ有スル債権者又後ニ至リ債権ノ確定シタル債権者ハ協諧契約ニ対シテ十日内ニ理由ヲ附シタル異議ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得
第千四十条 債権者ノ承諾シタル協諧契約ハ裁判所ノ認可ヲ得テ始メテ法律上有効トス其認可又ハ棄却ニ付テノ決定ハ破産主任官ノ演述ヲ聴キ前条ノ期間満了後直チニ之ヲ為ス此決定ニ対シテハ債務者及ヒ異議申立ノ権利アル者ヨリ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第千四十一条 協諧契約ハ左ノ場合ニ於テハ之ヲ棄却ス可シ
第一 第千三十八条及ヒ第千三十九条ノ規定ヲ践行セサルトキ
第二 協諧契約ニ依リ或ル債権者カ其承諾ナクシテ偏頗ノ処置ヲ受ケ損害ヲ被フルトキ
第三 協諧契約カ詐欺其他不正ノ方法ヲ以テ成リタルトキ
第四 協諧契約カ公益ニ触ルルトキ
第千四十二条 協諧契約ハ破産者カ後ニ至リ有罪破産ノ判決ヲ受ケタルトキハ当然消滅シ其審問中ハ免訴又ハ無罪ノ宣告ヲ受クルマテ之ヲ停止ス
前条第三号ニ掲ケタル理由アルトキハ協諧契約認可ノ後ト雖モ尚ホ之ニ対シテ異議ヲ申立ツルコトヲ得
第千四十三条 協諧契約ノ確定シタルトキハ管財人ハ直チニ其執務ヲ罷メ且其執務ニ付キ計算ヲ為ス可シ
破産者ハ協諧契約ニ別段ノ定ナキトキニ限リ任意ノ管理及ヒ処分ノ為メ其財産ヲ取戻スコトヲ得
協諧契約ノ履行ハ破産主任官ノ監督ヲ以テ之ヲ為ス
第千四十四条 協諧契約カ棄却セラレ又ハ後ニ至リ消滅シ若クハ取消サルルトキ又ハ不履行ノ為メ解除セラルルトキハ破産手続ヲ再施シ直チニ財団ノ換価及ヒ配当ヲ為シテ終局ニ至ラシム其再施シタル手続ニハ再施マテノ間ニ債権ヲ得タル者モ参加スルコトヲ得
不履行ノ場合ニ在テハ協諧契約ノ為メ立テタル保証人ハ其義務ヲ免カレス
第八章 配当
第千四十五条 第千三十二条ニ掲ケタル債権及ヒ優先権アル債権ヲ支払ヒタル後ニ残レル財団ハ他ノ債権者間ニ平等ノ割合ヲ以テ之ヲ配当ス
破産者カ資本ヲ分チ数箇ノ営業ヲ為シタル場合ニ在テハ各営業ニ対スル債権者ハ其営業ニ属スル財団ヨリ優先権ヲ以テ弁償ヲ受ク
第千四十六条 配当ハ普通ノ調査会ノ終リタル後ハ配当ニ足ル可キ財団ノ生スル毎ニ管財人ノ調製シテ破産主任官ノ認可ヲ受ケタル配当案ニ依リテ之ヲ為ス其案ハ破産主任官之ニ署名シ公衆ノ展閲ニ供スル為メ裁判所ニ備置キ且其旨ヲ公告ス可シ
配当案ニ対スル異議ハ其公告ノ日ヨリ起算シ十四日内ニ之ヲ裁判所ニ申立ツルコトヲ得
第千四十七条 前条ニ掲ケタル期間ニ配当案ニ対シテ異議ヲ申立ツル者ナキトキ又ハ異議ノ落著シタルトキハ管財人ハ各債権者ヲシテ其債務証書ヲ提出セシメ之ニ毎回ノ支払額ヲ記入シテ支払ヲ為ス若シ債務証書ノ提出ヲ為スコト能ハサルトキハ破産主任官ノ許可ヲ得テ債権表ニ依リ支払ヲ為スコトヲ得孰レノ場合ニ於テモ債権者ハ配当案ニ受取書ヲ記スルコトヲ要ス
第千四十八条 財団ノ換価及ヒ配当ヲ全ク終リタルトキハ債権者集会ヲ開キ此集会ニ於テ管財人ハ終局ノ計算ヲ為ス可シ此計算ノ済了シタルトキハ裁判所ハ直チニ破産主任官ノ申立ニ因リテ破産手続ノ終結ヲ決定ス此決定ハ之ヲ公告ス可シ
第千四十九条 破産手続終結ノ後ハ弁償ヲ受ケサル債権者ハ破産手続ニ於テ確定シタルニ因リテ得タル権利名義ニ基キ其債権ヲ債務者ニ対シテ無限ニ行フコトヲ得
第九章 有罪破産
第千五十条 破産宜告ヲ受ケタル債務者カ支払停止又ハ破産宣告ノ前後ヲ問ハス履行スル意ナキ義務又ハ履行スル能ハサルコトヲ知リタル義務ヲ負担シタルトキ又ハ債権者ニ損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸方財産ノ全部若クハ一分ヲ蔵匿シ転匿シ若クハ脱漏シ又ハ借方現額ヲ過度ニ掲ケ又ハ商業帳簿ヲ毀滅シ蔵匿シ若クハ偽造、変造シタルトキハ詐欺破産ノ刑ニ処ス
第千五十一条 破産宣告ヲ受ケタル債務者カ支払停止又ハ破産宣告ノ前後ヲ問ハス左ニ掲クル行為ヲ為シタルトキハ過怠破産ノ刑ニ処ス
第一 一身又ハ一家ノ過分ナル費用、博奕、空取引又ハ不相応ノ射利ニ因リテ貸方財産ヲ甚シク減少シ若クハ過分ノ債務ヲ負ヒタルトキ
第二 支払停止ヲ延ハサンカ為メ損失ヲ生スル取引ヲ為シテ支払資料ヲ調ヘタルトキ
第三 支払停止ヲ為シタル後支払又ハ担保ヲ為シテ或ル債権者ニ利ヲ与ヘ財団ニ損害ヲ加ヘタルトキ
第四 商業帳簿ヲ秩序ナク記載シ蔵匿シ毀滅シ又ハ全ク記載セサルトキ
第五 破産者カ第三十二条、第九百七十九条又ハ第千三条第二項ニ規定シタル義務ヲ履行セサルトキ
第千五十二条 前二条ノ罰則ハ商事会社ノ業務担当ノ任アル社員若クハ取締役及ヒ清算人ニモ之ヲ適用シ又第千五十条ノ罰則ハ破産管財人及ヒ有罪行為ヲ行フ際犯者ヲ助ケ又ハ有罪行為ヲ破産者ノ利益ノ為メニ行ヒタル者ニモ之ヲ適用ス
第千五十三条 債権者集会ニ於ケル議決ニ関シ債権者ニ賄賂ヲ為シタルトキハ其双方ヲ二年以下ノ重禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第十章 破産ヨリ生スル身上ノ結果
第千五十四条 破産宣告ヲ受ケタル債務者又ハ破産シタル商事会社ノ無限責任社員若クハ取締役ハ復権ヲ得ルニ至ルマテハ取引所ニ立入ルコト仲立人ト為リ合名会社若クハ合資会社ノ社員ト為リ又ハ株式会社ノ取締役ト為ルコト清算人、破産管財人若クハ商事代人ノ職ヲ執ルコト商業会議所ノ会員ト為ルコト其他商業上ノ栄誉職ニ就クコトヲ得ス
第千五十五条 復権ヲ得ルニハ協諧契約ノ調ヒタルト否トヲ問ハス破産者カ元債、利息及ヒ費用ノ全額ヲ債権者総員ニ弁償シタルコト又所在ノ知レサル為メ未タ弁償ヲ受ケサル債権者ニ全額ヲ弁償スル準備及ヒ資力アルコトヲ証明ス可シ
復権ノ申立ニハ債権者ノ受取証其他必要ナル証拠物ヲ添フ可シ
然レトモ協諧契約ノ場合ニ在テハ第一項ノ証明ヲ為スコト無クシテ取引所ニ立入ルコトヲ得又商事会社ニ付キ協諧契約ノ調ヒタルトキハ無限責任社員若クハ取締役ハ亦其証明ヲ要セスシテ会社ヲ継続スルコトヲ得
第千五十六条 復権ノ申立アリタルトキハ破産裁判所ハ異議アル者ヲシテ二个月ノ期間ニ異議ヲ起サシメンカ為メ裁判所ノ掲示場ト取引所トニ其旨ヲ掲示シ且裁判所ノ見込ニ因リ新聞紙ヲ以テ之ヲ公告シ又調査及ヒ捜査ヲ為サシメンカ為メ之ヲ検事ニ通知ス可シ
裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キタル後復権ノ申立ヲ許可スルト否トヲ決定ス此決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得確定シタル決定ハ之ヲ公告ス
棄却セラレタル申立ハ一个年ノ満了前ニハ再ヒ之ヲ為スコトヲ得ス
第千五十七条 復権ハ債務者ノ死亡後ト雖モ之ヲ許ス
第千五十八条 復権ハ詐欺破産ノ為メニ判決ヲ受ケタル破産者又ハ重罪、軽罪ノ為メニ剥奪公権若クハ停止公権ヲ受ケテ其時間中ニ在ル破産者ニハ之ヲ許サス
過怠破産ノ場合ニ在テハ復権ハ刑ノ満期ト為リ又ハ恩赦ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ許サス
第十一章 支払猶予
第千五十九条 商ヲ為スニ当リ自己ノ過失ナクシテ一時其支払ヲ中止セサルコトヲ得サルニ至リタル者ハ商事上ノ債権者ノ過半数ノ承諾ヲ得テ其営業所若クハ住所ノ裁判所ヨリ右債権者ニ対スル義務ニ付キ一个年以内ノ支払猶予ヲ受クルコトヲ得
第千六十条 支払猶予ノ申立ニハ左ノ諸件ヲ添附スルコトヲ要ス
第一 支払中止ノ事由ノ完全ナル明示
第二 貸借対照表、財産目録及ヒ住所ト債権額トヲ明示シタル債権者名簿
第三 債権者ニ主タルモノ及ヒ従タルモノノ完全ナル弁償ヲ為シ得ル方法、期間及ヒ此カ為メ供スルコトヲ得ル担保ノ証明
右申立及ヒ添附書類ハ公衆ノ展閲ニ供スル為メ之ヲ裁判所ニ備置キ且債権者ノ集会期日ヲ定メテ之ト共ニ其備置キタル旨ヲ公告スルコトヲ要ス債権者ハ集会ノ為メ各別ニ招集ヲ受ク
支払猶予ハ裁判所ヨリ仮ニ之ヲ許可スルコトヲ得
第千六十一条 集会期日ニ於テハ裁判所ヨリ任セラレタル主任判事ノ上席ヲ以テ債務者ト債権者トノ間ニ支払猶予ノ申立ニ付キ弁論ヲ為ス其申立ヲ承諾スルニハ第千三十六条ニ掲ケタル過半数ヲ要ス其弁論及ヒ議決ニ付テハ調書ヲ作ル可シ
第千六十二条 裁判所ハ承諾ヲ得タル支払猶予ノ認否ニ付キ主任判事ノ演述ヲ聴キテ決定ヲ為ス此決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
支払猶予ハ申立ニ因リテ前数条ノ手続ニ従ヒ一回ニ限リ之ヲ延長スルコトヲ得然レトモ其期間ハ一个年ヲ超ユルコトヲ得ス
第千六十三条 債務者有効ナル支払猶予ヲ得タルトキハ猶予期間中其以前ニ取結ヒタル商取引ヨリ生スル債権ノ為メニ強制執行及ヒ破産宣告ヲ受クルコト無シ但猶予契約ノ履行及ヒ業務ノ施行ニ関シテハ主任判事ノ監督ヲ受ク
債務者ノ保証人及ヒ共同義務者ノ義務ハ右猶予ノ為メニ変更スルコト無シ
第千六十四条 支払猶予ノ承諾ヲ得ス若クハ裁判所之ヲ棄却シタルトキ又ハ後日ニ至リ債務者ノ詐欺若クハ不正ノ為メ若クハ法律上ノ条件ノ欠クルカ為メ之ヲ廃止シタルトキ又ハ債務者ニ於テ其猶予契約ヲ履行セサルトキ又ハ其猶予期間中債務者ノ財産ニ付キ他ノ債権者ヨリ強制執行ヲ為ストキハ直チニ債務者ニ対シテ破産手続ヲ開始ス此場合ニ於テハ支払猶予申立ノ日附ヲ以テ支払停止ノ日ト定ム