林業基本法
法令番号: 法律第161号
公布年月日: 昭和39年7月9日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

国土の約67%を占める山林原野の有効活用が国の重要な責務であるにもかかわらず、現状では国有林は特権的支配により健全な経営がなされず、公有林は財政難による過伐や乱伐、私有林は零細所有者の経営難や大山林地主の独占など、いずれも不適切な経営状態にある。このため林業生産の発展が妨げられ、木材需給のアンバランスや価格高騰を招き、林業労働者や山村農民の所得が低水準に抑えられている。山村と他地域との経済格差拡大の根本原因はここにあり、これを改善するため森林に関する新しい政策の目標と原則を示すことが本法案の提案理由である。

参照した発言:
第46回国会 衆議院 本会議 第23号

審議経過

第46回国会

衆議院
(昭和39年4月10日)
(昭和39年4月16日)
参議院
(昭和39年4月24日)
(昭和39年4月27日)
衆議院
(昭和39年5月22日)
(昭和39年5月28日)
(昭和39年6月5日)
(昭和39年6月9日)
(昭和39年6月10日)
(昭和39年6月11日)
(昭和39年6月12日)
(昭和39年6月16日)
(昭和39年6月17日)
(昭和39年6月19日)
(昭和39年6月19日)
参議院
(昭和39年6月23日)
(昭和39年6月25日)
衆議院
(昭和39年6月26日)
参議院
(昭和39年6月26日)
(昭和39年6月26日)
(昭和39年6月26日)
林業基本法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十九年七月九日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百六十一号
林業基本法
目次
第一章
総則(第一条―第九条)
第二章
林業生産の増進及び林業構造の改善(第十条―第十五条)
第三章
林産物の需給及び価格の安定等(第十六条・第十七条)
第四章
林業従事者(第十八条・第十九条)
第五章
林業行政機関及び林業団体(第二十条・第二十一条)
第六章
林政審議会(第二十二条―第二十七条)
附則
第一章 総則
(法律の目的)
第一条 この法律は、林業及びそのにない手としての林業従事者が国民経済において果たすべき重要な使命にかんがみ、国民経済の成長発展と社会生活の進歩向上に即応して、林業の発展と林業従事者の地位の向上を図り、あわせて森林資源の確保及び国土の保全のため、林業に関する政策の目標を明らかにし、その目標の達成に資するための基本的な施策を示すことを目的とする。
(政策の目標)
第二条 国の林業に関する政策の目標は、国民経済の成長発展と社会生活の進歩向上に即応して、林業の自然的経済的社会的制約による不利を補正し、林業総生産の増大を期するとともに、他産業との格差が是正されるように林業の生産性を向上することを目途として林業の安定的な発展を図り、あわせて林業従事者の所得を増大してその経済的社会的地位の向上に資することにあるものとする。
(国の施策)
第三条 国は、前条の目標を達成するため、次の各号に掲げる事項につき、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講じなければならない。
一 林産物の需要の動向に応ずるように林業生産を転換する等林野の林業的利用の高度化を図ること。
二 林業経営の規模等により類型的に区分される経営形態の差異を考慮して、林地の集団化、機械化、小規模林業経営の規模の拡大その他林地保有の合理化及び林業経営の近代化(以下「林業構造の改善」と総称する。)を図ること。
三 林業技術の向上を図ること。
四 林産物の需給及び価格の安定並びに流通及び加工の合理化を図ること。
五 近代的な林業経営を担当し、又は近代的な林業経営に係る林業技術に従事するのにふさわしい者の養成及び確保を図ること。
六 林業労働に従事する者の福祉の向上、養成及び確保を図ること。
2 前項の施策は、国土の保全その他森林の有する公益的機能の確保及び地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して講ずるものとする。
(国有林野の管理及び経営の事業)
第四条 国は、前条第一項の施策を講ずるに当たつては、国有林野の管理及び経営の事業について、その企業性の確保に必要な考慮を払いつつ、その適切な運営を通じて当該施策の遂行に資し、とくに、国有林野を重要な林産物の持続的供給源としてその需給及び価格の安定に貢献させるとともに、奥地未開発林野の開発等を促進して林業総生産の増大に寄与するほか、国有林野の所在する地域における林業構造の改善に資するため積極的にその活用を図るようにするものとする。
2 前項の場合において、国土の保全その他公益的機能を有する国有林野については、その機能が確保されるように努めるものとし、その所在する地域における農業構造の改善のためその他産業の振興又は住民の福祉の向上のため用いることを必要かつ相当とする国有林野については、これらの目的のため積極的に活用が図られるように努めるものとする。
(地方公共団体の施策)
第五条 地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならない。
(財政上の措置等)
第六条 政府は、第三条第一項の施策を実施するため必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。
2 政府は、第三条第一項の施策を講ずるに当たつては、必要な資金の融通の適正円滑化を図らなければならない。
(林業従事者等の努力の助長)
第七条 国及び地方公共団体は、第三条第一項及び第五条の施策を講ずるに当たつては、林業従事者又は林業に関する団体がする自主的な努力を助長することを旨とするものとする。
(林野の所有者等の責務)
第八条 林野の所有者又は林野を使用収益する権原を有する者は、その林野が、農業上の利用その他林業の用以外の適切な用途に供される場合を除くほか、林業の生産基盤として効率的に利用されるように努めなければならない。
(林業の動向に関する年次報告等)
第九条 政府は、毎年、国会に、林業の動向及び政府が林業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、前項の報告に係る林業の動向を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
3 政府は、前項の講じようとする施策を明らかにした文書を作成するには、林政審議会の意見をきかなければならない。
第二章 林業生産の増進及び林業構造の改善
(森林資源に関する基本計画及び林産物の需給に関する長期の見通し)
第十条 政府は、森林資源に関する基本計画並びに重要な林産物の需要及び供給に関する長期の見通しをたて、これを公表しなければならない。
2 政府は、森林資源の状況、重要な林産物の需給事情その他の経済事情等の変動により必要があるときは、前項の基本計画及び長期の見通しを改定するものとする。
3 政府は、第一項の基本計画及び長期の見通しをたて、又はこれを改定するには、林政審議会の意見をきかなければならない。
(林業生産に関する施策)
第十一条 国は、林野の林業的利用の高度化を図るため、前条第一項の基本計画及び長期の見通しを参酌して、林道の開設その他林業生産の基盤の整備及び開発、優良種苗の確保、樹種又は林相の改良等の造林の推進、機械の導入等必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、災害によつて林業の再生産が阻害されることを防止するとともに、林業経営の安定を図るため、災害による損失の合理的な補てん等必要な施策を講ずるものとする。
(林業経営の健全な発展)
第十二条 国は、林業経営を近代化してその健全な発展を図るため、経営形態の整備、合理的な経営方法の導入、資本装備の増大等必要な施策を講ずるとともに、小規模林業経営の規模の拡大に資する方策として、林地の取得の円滑化、分収造林の促進、国有林野についての部分林の設定の推進、入会権に係る林野についての権利関係の近代化等必要な施策を講ずるものとする。
(協業の促進)
第十三条 国は、林業生産の合理化を図つて林業経営の発展に資するため、生産行程についての協業を促進する方策として、森林組合等による森林の施業又は経営の共同事業の発達改善等必要な施策を講ずるものとする。
(林業技術の向上)
第十四条 国は、林業技術の向上を図るため、技術の研究及び開発の推進、その成果の普及等必要な施策を講ずるものとする。
(林業構造改善事業の助成等)
第十五条 国は、小規模林業経営の規模の拡大その他林業経営の基盤の整備及び拡充、近代的な林業施設の導入等林業構造の改善に関し必要な事業が総合的に行なわれるように指導及び助成を行なう等必要な施策を講ずるものとする。
第三章 林産物の需給及び価格の安定等
(林産物の需給及び価格に関する施策)
第十六条 国は、重要な林産物について、需給及び価格の安定を図るため、素材生産の円滑化、出荷の調整等必要な施策を講ずるほか、外国産の木材について輸入の適正円滑化等必要な施策を講ずるものとする。
(林産物の流通及び加工に関する施策)
第十七条 国は、林産物の流通及び加工の合理化を図るため、森林組合、中小企業等協同組合等が行なう林産物の販売、購買又は加工に関する事業の発達改善、林産物取引の近代化等必要な施策を講ずるものとする。
第四章 林業従事者
(教育の事業の充実等)
第十八条 国は、近代的な林業経営を担当し、又は近代的な林業経営に係る林業技術に従事するのにふさわしい者の養成及び確保を図るため、教育、研究及び普及の事業の充実等必要な施策を講ずるものとする。
(林業労働に関する施策)
第十九条 国は、林業労働に従事する者の福祉の向上、養成及び確保を図るため、就業の促進、雇用の安定、労働条件の改善、社会保障の拡充、職業訓練の事業の充実等必要な施策を講ずるものとする。
第五章 林業行政機関及び林業団体
(林業行政に関する組織の整備等)
第二十条 国及び地方公共団体は、第三条第一項及び第五条の施策を講ずるにつき、相協力するとともに、行政組織の整備及び行政運営の改善に努めるものとする。
(林業団体の整備)
第二十一条 国は、林業の発展及び林業従事者の地位の向上を図ることができるように、林業に関する団体の整備につき必要な施策を講ずるものとする。
第六章 林政審議会
(設置)
第二十二条 総理府に、附属機関として、林政審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(権限)
第二十三条 審議会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、この法律の施行に関する重要事項を調査審議する。
2 審議会は、前項に規定する事項に関し内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。
(組織)
第二十四条 審議会は、委員十五人以内で組織する。
2 委員は、前条第一項に規定する事項に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
(資料の提出等の要求)
第二十五条 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
(庶務)
第二十六条 審議会の庶務は、林野庁林政部において処理する。
(委任規定)
第二十七条 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第九条第三項、第十条第三項、第六章及び次項の規定並びに附則第三項中森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第六十八条、第六十九条及び第七十一条を改める部分の規定は、昭和四十年四月一日から施行する。
2 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十五条第一項の表中
農政審議会
農業基本法(昭和三十六年法律第百二十七号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。
農政審議会
農業基本法(昭和三十六年法律第百二十七号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。
林政審議会
林業基本法(昭和三十九年法律第百六十一号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。
に改める。
3 森林法の一部を次のように改正する。
第四条の見出し中「林産物の需給等に関する長期の見通し及び」を削り、同条第一項中「重要な林産物の需要及び供給並びに森林資源の状況に関する長期の見通しをたて、これに即し」を「林業基本法(昭和三十九年法律第百六十一号)第十条第一項の基本計画及び長期の見通しに即し」に改め、同条第三項中「第一項の長期の見通し又は」を削り、同条第四項中「第一項の長期の見通し若しくは」を削り、「これら」を「これ」に改め、「全国森林計画に係るときにあつては」を判り、同条第五項中「第一項の長期の見通し若しくは」を削り、「これら」を「これ」に、「全国森林計画に係るときにあつては当該計画」を「当該計画(変更の場合にあつては、変更後の計画)」に改める。
第六十八条第二項中「森林に関する重要事項について、」を「この法律又は他の法令の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、この法律の施行に関する重要事項について」に改め、同条第三項中「森林に関する重要事項」を「前項に規定する事項」に改める。
第六十九条第二項を削り、同条第三項第一号中「十七人」を「十三人」に改め、同項第二号中「十人」を「七人」に改め、同項を同条第二項とし、同条第四項を同条第三項とし、同条第五項を削り、同条第六項中「第三項第一号」を「第二項第一号」に改め、同項を同条第四項とし、同条第七項を削り、同条第八項中「及び臨時委員」を削り、同項を同条第五項とする。
第七十一条第一項中「第六十九条第三項第一号」を「第六十九条第二項第一号」に改める。
4 この法律の施行の際現にたてられている改正前の森林法第四条第一項の長期の見通しは、第十条第一項の規定により最初に同項の基本計画及び長期の見通しがたてられるまでの間は、改正後の同法第四条の規定の適用については、同条第一項に規定する林業基本法第十条第一項の基本計画及び長期の見通しとみなす。
内閣総理大臣 池田勇人
法務大臣 賀屋興宣
外務大臣 大平正芳
大蔵大臣 田中角栄
文部大臣 灘尾弘吉
厚生大臣 小林武治
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 福田一
運輸大臣 綾部健太郎
郵政大臣 古池信三
労働大臣 大橋武夫
建設大臣 河野一郎
自治大臣 赤沢正道