朕は、帝國議會の協贊を經た自作農創設特別措置法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十月十九日
内閣總理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
内務大臣 大村清一
農林大臣 和田博雄
大藏大臣 石橋湛山
法律第四十三號
自作農創設特別措置法
第一條 この法律は、耕作者の地位を安定し、その勞働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ廣汎に創設し、以て農業生産力の發展と農村における民主的傾向の促進を圖ることを目的とする。
第二條 この法律において農地とは、耕作の目的に供される土地をいふ。
この法律において、自作地とは、耕作の業務を營む者が所有權に基きその業務の目的に供してゐる農地をいひ、小作地とは、耕作の業務を營む者が賃借權、使用貸借による權利、永小作權、地上權又は質權に基きその業務の目的に供してゐる農地をいふ。
前項の規定の適用については、耕作の業務を營む者の同居の戸主若しくは家族又は耕作の業務を營む者の戸主若しくは家族で命令で定める特別の事由に因りその者と同居しなくなつたものが有する同項に掲げる權利は、これをその耕作の業務を營む者の有するものとみなす。
この法律において、自作農とは、自作地に就き耕作の業務を營む個人をいひ、小作農とは、小作地に就き耕作の業務を營む個人をいふ。
第三條 左に掲げる農地は、政府が、これを買收する。
一 農地の所有者がその住所のある市町村の區域(その隣接市町村の區域内の地域で市町村農地委員會が都道府縣農地委員會の承認を得て當該市町村の區域に準ずるものとして指定したものを含む。以下同じ。)外において所有する小作地
二 農地の所有者がその住所のある市町村の區域内において、北海道にあつては四町歩、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める面積を超える小作地を所有する場合、その面積を超える面積の當該區域内の小作地
三 農地の所有者がその住所のある市町村の區域内において所有する小作地の面積とその者の所有する自作地の面積の合計が、北海道にあつては十二町歩、都府縣にあつては中央農地委員會が都府縣別に定める面積を超えるときは、その面積を超える面積の當該區域内の小作地
前項第二號又は第三號に規定する都府縣別の面積は、その平均面積が同項第二號に規定するものにあつては概ね一町歩、同項第三號に規定するものにあつては概ね三町歩になるやうに、これを定めなければならない。
都道府縣農地委員會は、特に必要があると認めるときは、中央農地委員會の承認を得て、當該都道府縣の區域を二以上の區域に分け各區域別に第一項第二號又は第三號の都道府縣別の面積に代るべき面積を定めることができる。但し、各區域別の面積は、その平均面積が概ね同項第二號又は第三號の當該都道府縣別の面積になるやうに、これを定めなければならない。
第五條第七號に規定する農地で命令で定めるものの面積は、第一項第二號又は第三號に規定する小作地又は自作地の面積にこれを算入しない。
第一項の農地の外左に掲げる農地で、都道府縣農地委員會又は市町村農地委員會が、命令の定めるところにより、自作農の創設上政府において買收することを相當と認めたものは、政府が、これを買收する。
一 自作農でその者の營む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地の面積が第一項第三號の面積を超える場合、當該面積を超える面積の自作地
二 自作地で當該自作地に就いての自作農以外の者が請負その他の契約に基き耕作の業務の目的に供してゐるもの
三 法人その他の團體でその營む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地
四 法人その他の團體の所有する小作地
五 農地で所有權その他の權原に基きこれを耕作することのできる者が現に耕作の目的に供してゐないもの
六 前各號に掲げるものを除く外農地でその所有者が市町村農地委員會に對し政府において買收すべき旨を申し出たもの
第四條 前條の規定の適用については、農地の所有者の同居の戸主若しくは家族又は農地の所有者の戸主若しくは家族で第二條第三項に規定する特別の事由に因りその者と同居しなくなつた者が當該農地の所有者の住所のある市町村の區域内において所有する農地は、これを當該農地の所有者の所有する農地とみなす。
前條第一項の規定の適用については、農地の所有者で第二條第三項に規定する特別の事由に因りその所有する農地のある市町村の區域内に住所を有しなくなつたものは、これを當該市町村の區域内に住所を有する者とみなす。
第五條 政府は、左の各號の一に該當する農地については、第三條の規定による買收をしない。
一 國又は公共團體が公共用又は公用に供してゐる農地
二 都道府縣、市町村、都道府縣農業會、市町村農業會、農事實行組合、農地開發營團その他命令で定める團體の所有する農地で自作農の創設又は共同耕作の目的に供するもの
三 試驗研究又は農事指導の目的に供してゐる農地で地方長官の指定したもの
四 都市計畫法第十二條第一項の規定による土地區劃整理を施行する土地又は都市計畫による同法第十六條第一項の施設に必要な土地の境域内にある農地で地方長官の指定する區域内にあるもの
五 近く土地使用の目的を變更することを相當とする農地で市町村農地委員會が都道府縣農地委員會の承認を得て指定したもの
六 自作農が疾病その他命令で定める事由に因つてその自作地に就き自ら耕作の業務を營むことができないため賃貸借又は使用貸借により一時當該自作地を他人の耕作の業務の目的に供した場合、市町村農地委員會が、その自作農が近く自作するものと認め、且つその自作を相當と認める當該農地
七 新開懇地、燒畑、切替畑等收穫の著しく不定な農地その他命令で定める農地で市町村農地委員會が政府において買收することを不相當と認めるもの
第六條 政府が第三條の規定による買收をするには、市町村農地委員會の定める農地買收計畫によらなければならない。
農地買收計畫においては、買收すべき農地竝びに買收の時期及び對價を定めなければならない。
前項の對價は、當該農地につき地租法による賃貸價格があるときは、田にあつては當該賃貸價格に四十(農地調整法第六條の三第一項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)、畑にあつては當該賃貸價格に四十八(同條同項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)を乘じて得た額(同條同項の規定により地方長官の定めた額があるときは、その額)の範圍内においてこれを定め、當該農地につき地租法による賃貸價格がないときは、市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて定めた額による。但し、特別の事情に因つて市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて當該農地につき額を定めたときは、その額による。
市町村農地委員會は、農地買收計畫を定めるには、左の事項を勘案してこれをしなければならない。
一 自作農となるべき者の農地を買ひ受ける機會を公正にすること。
二 自作農となるべき者の耕作する農地を集團化し、且つ當該地方の状況に應じて當該農地につき田畑の割合を適正にすること。
市町村農地委員會は、農地買收計畫を定めたときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 買收すべき農地の所有者の氏名又は名稱及び住所
二 買收すべき農地の所在、地番、地目(土地臺帳の地目が現況と異なるときは、土地臺帳の地目及び現況による地目以下同じ。)及び面積
三 對價
四 買收の時期
第七條 前條の規定による農地買收計畫に定められた農地につき所有權を有する者は、當該農地買收計畫について異議があるときは、市町村農地委員會に對して異議を申し立てることができる。但し、同條第五項の縱覧期間を經過したときは、この限りでない。
市町村農地委員會は、前項の申立を受けたときは、前條第五項の縱覧期間滿了後二十日以内に決定をしなければならない。
前項の決定に對して不服ある申立人は、都道府縣農地委員會に訴願することができる。但し、同項の期間滿了後十日を經過したときは、この限りでない。
都道府縣農地委員會は、前項の訴願を受理したときは、同項但書の期間滿了後二十日以内に裁決しなければならない。
第八條 第六條の規定による農地買收計畫につき同條第五項の期間内に前條第一項の規定による異議の申立がないとき、同項の規定による異議の申立があつた場合においてそのすべてについて同條第二項の規定による決定があり、且つ同條第三項但書の期間内に訴願の提起がなかつたとき、又は同項の規定による訴願の提起があつた場合においてそのすべてについて同條第四項の規定による裁決があつたときは、市町村農地委員會は、遲滯なく當該農地買收計畫について都道府縣農地委員會の承認を受けなければならない。
第九條 第三條の規定による買收は、地方長官が前條の規定による承認があつた農地買收計畫により當該農地の所有者に對し買收令書を交付して、これをしなければならない。但し、當該農地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときは、命令の定めるところにより、第二項各號に掲げる事項を公告し、令書の交付に代へることができる。
令書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第六條第五項各號に掲げる事項
二 對價の支拂の方法及び時期
三 その他必要な事項
地方長官は、令書の交付又は第一項但書の公告をしたときは、遲滯なく令書の交付又は同項但書の公告の際における買收の目的たる農地につき先取特權、質權又は抵當權を有する者に對してこれを通知しなければならない。但し、先取特權、質權又は抵當權を有する者が知れないとき、その他通知をすることができないときは、命令の定めるところにより、公告をし、通知に代へることができる。
第十條 第三條、第六條及び前條の規定の適用については、農地の面積は、土地臺帳に登録した當該農地の地積による。但し、市町村農地委員會が當該農地につき土地臺帳に登録した地積を以てその面積とすることを著しく不相當と認め、別段の面積を定めたときは、當該農地については、その面積による。
第十一條 第六條乃至第九條の規定によりした手續その他の行爲は、第三條の規定により買收すべき農地の所有者、先取特權者、質權者又は抵當權者の承繼人に對してもその效力を有する。
第十二條 地方長官が第九條の規定による手續をしたときは、令書に記載し、又は同條第一項但書の規定により公告した買收の時期に、當該農地の所有權は、政府が、これを取得し、當該農地に關する權利は、消滅する。
前項の規定により政府が取得した農地につきその取得の當時賃借權、使用貸借による權利、永小作權、地上權又は地役權があるときは、その取得の時に當該權利を有する者のために從前と同一の條件を以て當該權利が設定されたものとみなす。但し、その權利の存續期間は、從前の權利の殘存期間とする。
前項の場合において、從前の權利の上に先取特權、質權又は抵當權があるときは、その先取特權、質權又は抵當權は、同項の規定により設定された權利の上にあるものとみなす。
第十三條 第三條の規定による農地の買收については、政府は、その對價を買收の時期における當該農地の所有者に支拂はなければならない。但し、當該農地の上に先取特權、質權又は抵當權がある場合において、當該權利を有する者の請求があるとき、又は當該權利を有する者が知れないときは、その對價を供託しなければならない。
當該農地の上に先取特權、質權又は抵當權を有する者は、前項の規定により供託した對價に對してその權利を行ふことができる。
政府は、第三條の規定により買收する農地の所有者に對して、その農地の面積(その農地の面積が同條第一項第三號の當該都道府縣別の面積又は同條第三項の規定により當該區域につき定められた當該都道府縣別の面積に代るべき面積を超えるときは、當該都道府縣別の面積又は當該都道府縣別の面積に代るべき面積)に應じて報償金を交付する。
前項の報償金の一段歩當りの額は、田にあつては二百二十圓、畑にあつては百三十圓を基準とし、當該農地の收量、位置その他の状況を參酌して、主務大臣が、これを定める。
第三項の規定の適用については、第十條の規定を準用する。
第十四條 第三條の規定により買收した農地の對價に對して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、令書の交付又は第九條第一項但書の公告のあつた後一箇月を經過したときは、この限りでない。
第十五條 第三條の規定により買收する農地に就き自作農となるべき者又は當該農地につき所有權その他の權利を有する者が左に掲げる農業用施設、土地又は建物を政府において買收すべき旨の申請をした場合において、市町村農地委員會がその申請を相當と認めたときは、政府は、これを買收する。
一 第三條の規定により買收する農地の利用上必要な農業用施設
二 第三條の規定により買收する農地に就き自作農となるべき者が、賃借權、使用貸借による權利若しくは永小作權を有する採草地、賃借權、使用貸借による權利若しくは地上權を有する宅地又は賃借權を有する建物
前項の場合には、第六條第一項第二項第五項、第七條乃至第十二條、第十三條第一項第二項及び前條の規定を準用する。
前項において準用する第六條第二項の對價は、採草地にあつては、命令の定めるところにより、當該採草地の近傍類似の農地の時價を參酌し、採草地以外のものにあつては時價を參酌してこれを定める。
第十六條 政府は、第三條の規定により買收した農地及び政府の所有に屬する農地で命令で定めるものを、命令の定めるところにより、その買收の時期において當該農地に就き耕作の業務を營む小作農その他命令で定める者で自作農として農業に精進する見込のあるものに賣り渡す。
政府は、特別の事情があるときは、第三條の規定により買收した農地を市町村農業會その他命令で定める團體で自作農の創設の事業を行ふものに賣り渡すことができる。
第十七條 前條に規定する者で同條に規定する農地を買ひ受けようとするものは、市町村農地委員會に對してその申込をしなければならない。
第十八條 政府が第十六條の規定により賣渡をするには、市町村農地委員會の定める農地賣渡計畫によらなければならない。
農地賣渡計畫においては、賣り渡すべき農地竝びに賣渡の相手方、時期及び對價を定めなければならない。
前項の賣渡の相手方は、前條の規定による買受の申込をした者でなければならない。
市町村農地委員會は、農地賣渡計畫を定めたときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 賣渡の相手方の氏名又は名稱及び住所
二 賣り渡すべき農地の所在、地番、地目及び面積
三 對價
四 賣渡の時期
農地賣渡計畫については、第八條の規定を準用する。この場合において、同條中「同條第五項」とあるのは、「第十八條第四項」と、「前條第一項」とあるのは、「第十九條第一項」と讀み替へるものとする。
第十九條 第十七條の規定による買受の申込をした者は、前條の規定による農地賣渡計畫について異議があるときは、市町村農地委員會に對して異議を申し立てることができる。但し、同條第四項の縱覽期間を經過したときは、この限りでない。
前項の場合には、第七條第二項乃至第四項の規定を準用する。この場合において、同條第二項中「前條第五項」とあるは、「第十八條第四項」と讀み替へるものとする。
第二十條 第十六條の規定による賣渡は、地方長官が第十八條第五項において準用する第八條の規定による承認があつた農地賣渡計畫により賣渡の相手方に對し賣渡通知書を交付して、これをしなければならない。
通知書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第十八條第四項各號に掲げる事項
二 對價の支拂の方法及び時期
三 その他必要な事項
第二十一條 前條の規定による賣渡通知書の交付があつたときは、その通知書に記載された賣渡の時期に、當該農地の所有權は、その通知書に記載された賣渡の相手方に移轉する。
前項の規定により取得した農地の對價については、第十四條の規定を準用する。
第二十二條 第十六條の規定による賣渡があつた農地につき第十二條第二項の規定により設定された權利がある場合において、その權利を有する者が當該農地の賣渡の相手方でないときは、當該權利(當該權利が地役權であるときは、市町村農地委員會が當該農地を耕作することの妨げになるものと認定した地役權に限る。)は、當該農地の賣渡の時期に消滅する。
政府は、前項の規定により消滅する權利を有する者に對してその權利の消滅に因つて生じた損失を補償しなければならない。但し、その者が第六條第五項の規定による公告のあつた後第十二條第一項の規定により消滅した權利を取得した者であるときは、この限りでない。
前項の規定により補償すべき損失は、第一項の規定による權利の消滅に因つて通常生ずべき損失とする。
第二項の補償金額は、市町村農地委員會が、地方長官の認可を受けてこれを決定する。
市町村農地委員會は、前項の補償金額を決定したときは、遲滯なく第二項の規定により補償を受けるべき者に對してこれを通知しなければならない。
第四項の補償金額の決定に對して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、前項の通知を受けた日から二十日を經過したときは、この限りでない。
第一項の規定により消滅する權利の上に先取特權、質權又は抵當權があるときは、第十三條第一項及び第二項の規定を準用する。
第二十三條 政府が第十六條の規定により農地を賣り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員會は、地目、面積、等位等が當該農地と近似する小作地と當該農地との交換に關し、當該小作地の所有者に對して、必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換により當該小作地の所有者の取得すべき農地及び政府の取得すべき農地についてその所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による指示を受けた者は、その指示を受けた日から十日以内に當該指示に係る交換に關して市町村農地委員會と協議しなければならない。
前項の場合において、協議が調はないとき、又は協議をすることができないときは、市町村農地委員會は、都道府縣農地委員會の裁定の申請をすることができる。
前項の規定による裁定があつたときは、その定めるところにより、交換の契約が成立したものとみなす。
第二十四條 前條の規定による交換においては、同條第三項の協議又は同條第四項の裁定において定められた日に、農地の所有權の移轉の效力が、生ずるものとする。
前項の規定による所有權の移轉の際當該小作地の上にある先取特權、質權又は抵當權は、當該小作地の所有者が交換に因り取得した農地の上にあるものとする。
第二十五條 政府が第十六條の規定により農地を賣り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員會は、政府の賣り渡すべき農地につき賃借權又は永小作權を有する者及び地目、面積、等位等が當該農地と近似する農地で政府の買收しないものにつき賃借權又は永小作權を有する者に對して當該賃借權又は永小作權の交換に關し必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換に因り移轉すべき賃借權又は永小作權の目的たる農地の所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による交換については、賃借權又は永小作權の移轉は、民法第二百七十二條但書及び第六百十二條の規定にかかはらず、これをすることができる。
市町村農地委員會が第一項の指示をしたときは、遲滯なくその旨を當該指示に係る農地の所有者及び所有者でない賃貸人に通知しなければならない。
前項の通知を受けた者は、第一項の指示に異議があるときは、市町村農地委員會に異議を申し立てることができる。但し、前項の通知を受けた日から十日を經過したときは、この限りでない。
第一項の規定による交換には、第二十三條第三項乃至第五項及び前條の規定を準用する。この場合においては、第二十三條第三項中「市町村農地委員會と協議し」とあるのは、「協議し」と、同條第四項中「市町村農地委員會は、都道府縣農地委員會の裁定」とあるのは、「第一項の指示を受けた者は、市町村農地委員會の裁定」と讀み替へるものとする。
第二十六條 第十六條の規定により賣り渡した農地の對價の支拂は、支拂期間三十年(据置期間を含む。)以内、年利三分二厘の均等年賦支拂の方法によるものとする。但し、當該農地を買ひ受けた者の申出あるときは、その對價の全部又は一部につき一時支拂の方法によるものとする。
第二十七條 第十六條の規定により賣り渡した農地の對價を命令で定める支拂の方法により支拂ふものとした場合における年賦金額と當該農地の公租公課の金額の合計額が當該農地の通常收穫物の價額の一定の割合を超えるときは、政府は、當該農地の對價の支拂につき年賦金額を減免し、年賦金額の支拂を猶豫し、その他對價の支拂に關する負擔を輕減するため、必要な措置を講じなければならない。
前項の一定の割合は、中央農地委員會が、これを定める。但し、三分の一を超えてはならない。
前項に規定するものの外第一項の規定の施行に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十八條 第十六條の規定による農地の賣渡を受けた者又はその相續人が當該農地に就いての自作をやめようとするときは、政府は、命令の定めるところにより、その者に對して當該農地を買ひ取るべきことを申し入れなければならない。
前項の申入があつたときは、その時にその申入において定めた條件によつて當該農地の賣買が、成立する。この場合における當該農地の對價には、第六條第三項の規定を準用する。
第二十九條 第十六條の規定により農地の賣渡を受けた者で命令で定めるものは、第十五條の規定により政府が買收した農業用施設、土地又は建物を買ひ受けようとするときは、市町村農地委員會に對して申込をしなければならない。
第十五條の規定により政府が買收した農業用施設、土地又は建物の賣渡については、第十六條、第十八條乃至第二十二條及び第二十六條の規定を準用する。この場合において、第十八條第三項中「前條」とあり、又は第十九條第一項中「第十七條」とあるのは、「第二十九條第一項」と讀み替へるものとする。
第三十條 政府は、自作農を創設するため必要があるときは、左に掲げるものを買收することができる。
一 農地以外の土地で農地の開發に供しようとするもの
二 政府の所有に屬する土地で農地の開發に供しようとするものに關する所有權及び擔保權以外の權利
三 第一號又は前號の土地附近の農地で當該土地と併せて開發するのを相當とするもの
四 第一號又は第二號の土地の上にある立木又は建物その他の工作物
五 漁業權
六 水の使用に關する權利
七 開發後における第一號又は第二號の土地の利用上必要な土地、立木又は建物その他の工作物
前項第六號又は第七號に掲げるものは、政府が、これを使用することができる。
第三十一條 政府が前條の規定による買收又は使用をするには、都道府縣農地委員會が命令の定めるところにより定める未墾地買收計畫によらなければならない。
未墾地買收計畫においては、買收し、又は使用すべき土地、權利、立木又は建物その他の工作物、買收の時期又は使用の時期及び期間竝びに對價を定めなければならない。
前項の對價を定める場合には、農地にあつては、第六條第三項の規定を準用し、農地以外の土地にあつては、命令の定めるところにより、當該土地の近傍類似の農地の時價を參酌し、土地以外のものにあつては、時價を參酌する。この場合において、同項中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
都道府縣農地委員會は、未墾地買收計畫を定めたときは、遲滯なくその旨を公告し、且つ公告の日から二十日間前條の規定により買收し、又は使用すべきものの所在地の市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縱覽に供しなければならない。
一 買收し、又は使用すべき土地、權利、立木又は工作物の所有者の氏名又は名稱及び住所
二 買收し、又は使用すべき土地については、その所在、地番、地目及び面積、權利については、その種類、立木については、その樹種、數量及び所在の場所、工作物については、その種類及び所在の場所
三 對價
四 買收の時期又は使用の時期及び期間
未墾地買收計畫については、第七條及び第八條の規定を準用する。この場合において、これらの規定中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と、「都道府縣農地委員會」とあるのは、「地方長官」と、第七條第一項及び第八條中「同條第五項」とあり、又は第七條第二項中「前條第五項」とあるのは、「第三十一條第四項」と、第八條中「承認」とあるのは、「認可」と讀み替へるものとする。
第三十二條 都道府縣農地委員會は、前條の規定による未墾地買收計畫を定めるため必要があるときは、その委員又は委員會の事務に從事する者に、他人の土地に立ち入つて、測量し、檢査し、又は測量若しくは檢査の障害となる物を移轉し、若しくは除却させることができる。但し、これに因つて生じた損害は、これを補償しなければならない。
政府が第三十條の規定による買收又は使用をするため必要がある場合には、前項の規定を準用する。この場合において、同項の規定中「その委員又は委員會の事務に從事する者」とあるのは、「當該官吏」と讀み替へるものとする。
第三十三條 政府は、第三十條の規定による買收又は使用に係る土地(同條第一項第二號に規定する土地を含む。)又は工作物にある物件の所有者又は占有者に、その物件を收去させることができる。
前項の場合において、當該物件を收去することに因つて當該物件を從來用ひた目的に供することができないときは、當該物件の所有者は、命令の定めるところにより、政府に對してその買收を請求することができる。
前項に規定する買收の對價は、地方長官が、時價を參酌してこれを定める。
第二項に規定する買收については、第九條、第十一條、第十二條第一項、第十三條第一項第二項及び第十四條の規定を準用する。この場合において、第九條第二項第一號中「第六條第五項各號」とあるのは、「第三十一條第四項各號」と、第十一條中「第六條乃至第九條」とあるのは、「第三十三條第四項において準用する第九條」と讀み替へるものとする。
第三十四條 第三十條の規定による買收又は使用については、第九條乃至第十一條、第十二條第一項、第十三條第一項第二項及び第十四條の規定を準用する。この場合において、第九條第二項第一號中「第六條第五項各號」とあるのは、「第三十一條第四項各號」と、第十一條中「第六條乃至第九條」とあるのは、「第三十一條第一項乃至第四項(第三十八條第二項において準用する場合を含む。)若しくは同條第一項、第三十一條第五項若しくは第三十八條第二項において準用する第七條及び第八條竝びに第三十四條において準用する第九條」と讀み替へるものとし、第十條中「市町村農地委員會」とあるのは、當該買收が第三十八條に規定するものである場合を除いて、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
第三十五條 政府が、第三十條第二項の規定により、權利、土地、立木又は工作物を使用する場合においては、前條において準用する第九條第一項の令書に記載し、又は同項但書の規定により公告した使用の時期に、政府は、當該權利、土地、立木又は工作物の使用權を取得し、當該權利又は當該土地、立木若しくは工作物に關する權利は、使用の期間その行使を停止される。但し、使用を妨げないものは、この限りでない。
第三十六條 第三十條第二項の規定による權利、土地、立木若しくは工作物の使用が三年以上に亙るとき、又はその使用に因つて當該權利、土地、立木若しくは工作物を從來用ひた目的に供することが著しく困難となるときは、當該權利を有する者又は當該土地、立木若しくは工作物の所有者は、命令の定めるところにより、政府に對して當該權利又は土地、立木若しくは工作物の買收を請求することができる。
前項に規定する買收の對價は、地方長官が、これを定める。
第一項の場合には、第三十一條第三項前段及び第三十三條第四項の規定を準用する。この場合において、第三十一條第三項前段において準用する第六條第三項中「市町村農地委員會が地方長官の認可を受けて」とあるのは、「地方長官が」と讀み替へるものとする。
第三十七條 政府は、第三十條の規定により土地の買收をする場合において、特に必要があるときは、その買收の當時當該土地に關し所有權、賃借權、使用貸借による權利、永小作權、地上權又は入會權を有する者に對し當該土地に代るべき土地として賣り渡し、又は賃貸するため必要な他の土地(當該土地の上にある立木を含む。)を買收し、又は使用することができる。
前項の場合には、第三十一條乃至前條の規定を準用する。
第三十八條 政府が第三十條第一項の規定による買收をする場合において、その買收に係る同項第一號の土地の面積が主務大臣の定める面積を超えないときは、政府は、第三十一條第一項の規定にかかはらず、市町村農地委員會の定める未墾地買收計畫により第三十條第一項の規定による買收をすることができる。
前項の場合には、第七條、第八條、第三十一條第二項第三項前段第四項及び第三十二條第一項の規定を準用する。この場合において、第七條第一項及び第八條中「同條第五項」とあり、又は第七條第二項中「前條第五項」とあるのは、「第三十一條第四項」と、第三十一條第四項及び第三十二條第一項中「都道府縣農地委員會」とあるのは、「市町村農地委員會」と讀み替へるものとする。
第三十九條 政府は、第三十二條第一項(同條第二項、第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による行爲、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による收去、第三十三條第四項(第三十六條第三項及び第三十七條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十四條(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十二條第一項の規定による權利の消滅又は第三十五條(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による權利の行使の停止に因つて生じた損失を補償しなければならない。
第三十二條第一項(同條第二項、第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による行爲に係る補償の場合を除いて、前項の規定による補償を受けるべき者は、第三十條若しくは第三十七條の規定による買收若しくは使用又は第三十三條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十六條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による買收の場合にあつては、當該土地、權利又は立木、工作物その他の物件に關し所有權及び擔保權以外の權利を有した者、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による收去の場合にあつては、當該物件に關し擔保權以外の權利を有した者に限る。但し、その者が第三十一條第四項(第三十七條第二項及び前條第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後當該權利を取得した者であるときは、この限りでない。
第一項の補償金額については、第二十二條第三項乃至第七項の規定を準用する。この場合において、「市町村農地委員會」とあるのは、第三十二條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する同條第一項の規定による行爲、第三十三條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による收去又は第三十三條第二項若しくは第三十六條第一項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)の規定による買收に係る補償については、「地方長官」と、その他の補償については、前條の規定による買收に係る場合を除いて、「都道府縣農地委員會」と讀み替へるものとする。
第四十條 第三十條の規定により政府が買收した土地又は同條第一項第二號に規定する土地の開發については、他の法令中命令で定める制限又は禁止の規定は、これを適用しない。
第四十一條 政府は、第三十條第一項の規定により買收した土地(同條第一項第二號に規定する土地を含む。)、權利、立木若しくは工作物又は同條第二項の規定により使用した權利、土地、立木若しくは工作物を自作農として農業に精進し得る見込のある者その他命令で定める者に賣り渡し、又は賃貸することができる。
前項の規定による賣渡又は賃貸については、第十七條、第十八條第一項乃至第三項第五項、第二十條、第二十一條及び第二十六條の規定を準用する。この場合において、第三十一條の規定による未墾地買收計畫により買收し、又は使用した土地(第三十條第一項第二號に規定する土地を含む。)、權利、立木又は工作物の賣渡又は賃貸については、第十七條及び第十八條第一項竝びに同條第五項において準用する第八條中「市町村農地委員會」とあるのは、「都道府縣農地委員會」と、「都道府縣農地委員會の承認」とあるのは、「地方長官の認可」と讀み替へるものとする。
第一項の規定により第三十條第一項第一號乃至第三號に規定する土地を賣り渡す場合には、前項において準用する規定の外、第二十七條及び第二十八條の規定を準用する。
第四十二條 第六條第五項(第十五條第二項において準用する場合を含む。)又は第三十一條第四項(第三十七條第二項及び第三十八條第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後は、當該買收計畫において定められた土地、農業用施設、工作物又は立木に關する權利を有する者は、買收又は使用に支障を及ぼす虞のない場合を除いて、地方長官の許可を受けなければ、當該土地の形質を變更し、又は當該農業用施設、工作物若しくは立木を損壞し、若しくは收去してはならない。
第四十三條 第三條、第十五條、第三十條、第三十三條第二項、第三十六條又は第三十七條の規定により買收し、又は使用する土地、權利又は立木、工作物その他の物件の對價、第十三條第三項に規定する報償金及び第二十二條第二項又は第三十九條第一項の規定による補償金は、三十年以内に償還すべき證券を以てこれを交付することができる。
前項の規定により交付するため、政府は、必要な額を限度として證券を發行することができる。
前二項の規定により交付する證券の交付價格は、時價を參酌して大藏大臣が、これを定める。
第二項の證券に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四十四條 第三條、第十五條、第三十條第一項、第三十三條第二項、第三十六條若しくは第三十七條の規定による買收、第十六條(第二十九條第二項において準用する場合を含む。)若しくは第四十一條の規定による賣渡若しくは賃貸、第二十三條若しくは第二十五條の規定による交換又は第二十八條第一項(第四十一條第三項において準用する場合を含む。)の規定による買收をする場合における登記は、勅令の定めるところによる。
第四十五條 主務大臣又は地方長官は、必要があると認めるときは、農地その他の土地又は物件に關し必要な報告を徴することができる。
第四十六條 政府が、第三條、第十五條、第三十條、第三十三條第二項、第三十六條又は第三十七條の規定により買收し、又は使用する土地、權利又は立木、工作物その他の物件の管理に關する主務大臣の權限の一部は、命令の定めるところにより、市町村長、市町村農地委員會その他命令で定めるものにこれを行はせることができる。
第四十七條 主務大臣又は地方長官は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により市町村農地委員會の權限に屬させた事項を都道府縣農地委員會に處理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により都道府縣農地委員會に處理させる事項に關しては、この法律により都道府縣農地委員會の權限に屬させた事項は、地方長官が、これを處理し、この法律により市町村農地委員會に對してすべき異議の申立は、都道府縣農地委員會に對し、都道府縣農地委員會に對してすべき訴願の提起は、地方長官に對してこれをするものとする。
主務大臣は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により都道府縣農地委員會の權限に屬させた事項を地方長官又は中央農地委員會に處理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により地方長官又は中央農地委員會に處理させる事項に關しては、この法律により地方長官の權限に屬させた事項は、主務大臣が、これを處理し、この法律により都道府縣農地委員會に對してすべき異議の申立は、地方長官又は中央農地委員會に對し、地方長官に對してすべき訴願の提起は、主務大臣に對してこれをするものとする。
第四十八條 この法律中市町村農地委員會に關する規定は、地區農地委員會の設けられてゐる市町村の地區にあつては、地區農地委員會にこれを適用する。この場合において、第三條第一項中「市町村の區域」とあるのは、「地區農地委員會の設けられてゐる地區」と、同項第一號中「隣接市町村の區域」とあるのは、「隣接市町村の區域内の地域又は他の地區農地委員會の設けられてゐる地區で當該地區に隣接する地區」と讀み替へるものとする。
第四十九條 この法律中町村又は町村長に關する規定は、町村の事務の全部又は役場事務を共同處理する町村組合のある地にあつては町村組合又は組合管理者に、町村制を施行しない地にあつてはこれに準ずるものに、市又は市長に關する規定は、東京都の區のある區域、京都市、大阪市、横濱市、名古屋市及び神戸市にあつては地方長官の指定する區又は區長にこれを適用する。
第五十條 左の各號の一に該當する者は、これを六箇月以下の懲役又は五百圓以下の罰金に處する。
一 第三十二條第二項(第三十七條第二項において準用する場合を含む。)において準用する第三十二條第一項の規定による當該官吏の測量、檢査、移轉又は除却を拒み、妨げ又は忌避した者
二 第四十二條の規定に違反した者
三 第四十五條の規定に違反して、報告を怠り、又は虚僞の報告をした者
第五十一條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務に關し前條第二號又は第三號の違反行爲をしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對して同條の罰金刑を科する。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第三條第一項の規定による農地の買收については、市町村農地委員會は、相當と認めるときは、命令の定めるところにより、昭和二十年十一月二十三日現在における事實に基いて第六條の規定による農地買收計畫を定めることができる。
朕は、帝国議会の協賛を経た自作農創設特別措置法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年十月十九日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
内務大臣 大村清一
農林大臣 和田博雄
大蔵大臣 石橋湛山
法律第四十三号
自作農創設特別措置法
第一条 この法律は、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする。
第二条 この法律において農地とは、耕作の目的に供される土地をいふ。
この法律において、自作地とは、耕作の業務を営む者が所有権に基きその業務の目的に供してゐる農地をいひ、小作地とは、耕作の業務を営む者が賃借権、使用貸借による権利、永小作権、地上権又は質権に基きその業務の目的に供してゐる農地をいふ。
前項の規定の適用については、耕作の業務を営む者の同居の戸主若しくは家族又は耕作の業務を営む者の戸主若しくは家族で命令で定める特別の事由に因りその者と同居しなくなつたものが有する同項に掲げる権利は、これをその耕作の業務を営む者の有するものとみなす。
この法律において、自作農とは、自作地に就き耕作の業務を営む個人をいひ、小作農とは、小作地に就き耕作の業務を営む個人をいふ。
第三条 左に掲げる農地は、政府が、これを買収する。
一 農地の所有者がその住所のある市町村の区域(その隣接市町村の区域内の地域で市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て当該市町村の区域に準ずるものとして指定したものを含む。以下同じ。)外において所有する小作地
二 農地の所有者がその住所のある市町村の区域内において、北海道にあつては四町歩、都府県にあつては中央農地委員会が都府県別に定める面積を超える小作地を所有する場合、その面積を超える面積の当該区域内の小作地
三 農地の所有者がその住所のある市町村の区域内において所有する小作地の面積とその者の所有する自作地の面積の合計が、北海道にあつては十二町歩、都府県にあつては中央農地委員会が都府県別に定める面積を超えるときは、その面積を超える面積の当該区域内の小作地
前項第二号又は第三号に規定する都府県別の面積は、その平均面積が同項第二号に規定するものにあつては概ね一町歩、同項第三号に規定するものにあつては概ね三町歩になるやうに、これを定めなければならない。
都道府県農地委員会は、特に必要があると認めるときは、中央農地委員会の承認を得て、当該都道府県の区域を二以上の区域に分け各区域別に第一項第二号又は第三号の都道府県別の面積に代るべき面積を定めることができる。但し、各区域別の面積は、その平均面積が概ね同項第二号又は第三号の当該都道府県別の面積になるやうに、これを定めなければならない。
第五条第七号に規定する農地で命令で定めるものの面積は、第一項第二号又は第三号に規定する小作地又は自作地の面積にこれを算入しない。
第一項の農地の外左に掲げる農地で、都道府県農地委員会又は市町村農地委員会が、命令の定めるところにより、自作農の創設上政府において買収することを相当と認めたものは、政府が、これを買収する。
一 自作農でその者の営む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地の面積が第一項第三号の面積を超える場合、当該面積を超える面積の自作地
二 自作地で当該自作地に就いての自作農以外の者が請負その他の契約に基き耕作の業務の目的に供してゐるもの
三 法人その他の団体でその営む耕作の業務が適正でないものの所有する自作地
四 法人その他の団体の所有する小作地
五 農地で所有権その他の権原に基きこれを耕作することのできる者が現に耕作の目的に供してゐないもの
六 前各号に掲げるものを除く外農地でその所有者が市町村農地委員会に対し政府において買収すべき旨を申し出たもの
第四条 前条の規定の適用については、農地の所有者の同居の戸主若しくは家族又は農地の所有者の戸主若しくは家族で第二条第三項に規定する特別の事由に因りその者と同居しなくなつた者が当該農地の所有者の住所のある市町村の区域内において所有する農地は、これを当該農地の所有者の所有する農地とみなす。
前条第一項の規定の適用については、農地の所有者で第二条第三項に規定する特別の事由に因りその所有する農地のある市町村の区域内に住所を有しなくなつたものは、これを当該市町村の区域内に住所を有する者とみなす。
第五条 政府は、左の各号の一に該当する農地については、第三条の規定による買収をしない。
一 国又は公共団体が公共用又は公用に供してゐる農地
二 都道府県、市町村、都道府県農業会、市町村農業会、農事実行組合、農地開発営団その他命令で定める団体の所有する農地で自作農の創設又は共同耕作の目的に供するもの
三 試験研究又は農事指導の目的に供してゐる農地で地方長官の指定したもの
四 都市計画法第十二条第一項の規定による土地区画整理を施行する土地又は都市計画による同法第十六条第一項の施設に必要な土地の境域内にある農地で地方長官の指定する区域内にあるもの
五 近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地で市町村農地委員会が都道府県農地委員会の承認を得て指定したもの
六 自作農が疾病その他命令で定める事由に因つてその自作地に就き自ら耕作の業務を営むことができないため賃貸借又は使用貸借により一時当該自作地を他人の耕作の業務の目的に供した場合、市町村農地委員会が、その自作農が近く自作するものと認め、且つその自作を相当と認める当該農地
七 新開懇地、焼畑、切替畑等収穫の著しく不定な農地その他命令で定める農地で市町村農地委員会が政府において買収することを不相当と認めるもの
第六条 政府が第三条の規定による買収をするには、市町村農地委員会の定める農地買収計画によらなければならない。
農地買収計画においては、買収すべき農地並びに買収の時期及び対価を定めなければならない。
前項の対価は、当該農地につき地租法による賃貸価格があるときは、田にあつては当該賃貸価格に四十(農地調整法第六条の三第一項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)、畑にあつては当該賃貸価格に四十八(同条同項の規定により地方長官の定めた率があるときは、その率)を乗じて得た額(同条同項の規定により地方長官の定めた額があるときは、その額)の範囲内においてこれを定め、当該農地につき地租法による賃貸価格がないときは、市町村農地委員会が地方長官の認可を受けて定めた額による。但し、特別の事情に因つて市町村農地委員会が地方長官の認可を受けて当該農地につき額を定めたときは、その額による。
市町村農地委員会は、農地買収計画を定めるには、左の事項を勘案してこれをしなければならない。
一 自作農となるべき者の農地を買ひ受ける機会を公正にすること。
二 自作農となるべき者の耕作する農地を集団化し、且つ当該地方の状況に応じて当該農地につき田畑の割合を適正にすること。
市町村農地委員会は、農地買収計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縦覧に供しなければならない。
一 買収すべき農地の所有者の氏名又は名称及び住所
二 買収すべき農地の所在、地番、地目(土地台帳の地目が現況と異なるときは、土地台帳の地目及び現況による地目以下同じ。)及び面積
三 対価
四 買収の時期
第七条 前条の規定による農地買収計画に定められた農地につき所有権を有する者は、当該農地買収計画について異議があるときは、市町村農地委員会に対して異議を申し立てることができる。但し、同条第五項の縦覧期間を経過したときは、この限りでない。
市町村農地委員会は、前項の申立を受けたときは、前条第五項の縦覧期間満了後二十日以内に決定をしなければならない。
前項の決定に対して不服ある申立人は、都道府県農地委員会に訴願することができる。但し、同項の期間満了後十日を経過したときは、この限りでない。
都道府県農地委員会は、前項の訴願を受理したときは、同項但書の期間満了後二十日以内に裁決しなければならない。
第八条 第六条の規定による農地買収計画につき同条第五項の期間内に前条第一項の規定による異議の申立がないとき、同項の規定による異議の申立があつた場合においてそのすべてについて同条第二項の規定による決定があり、且つ同条第三項但書の期間内に訴願の提起がなかつたとき、又は同項の規定による訴願の提起があつた場合においてそのすべてについて同条第四項の規定による裁決があつたときは、市町村農地委員会は、遅滞なく当該農地買収計画について都道府県農地委員会の承認を受けなければならない。
第九条 第三条の規定による買収は、地方長官が前条の規定による承認があつた農地買収計画により当該農地の所有者に対し買収令書を交付して、これをしなければならない。但し、当該農地の所有者が知れないとき、その他令書の交付をすることができないときは、命令の定めるところにより、第二項各号に掲げる事項を公告し、令書の交付に代へることができる。
令書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第六条第五項各号に掲げる事項
二 対価の支払の方法及び時期
三 その他必要な事項
地方長官は、令書の交付又は第一項但書の公告をしたときは、遅滞なく令書の交付又は同項但書の公告の際における買収の目的たる農地につき先取特権、質権又は抵当権を有する者に対してこれを通知しなければならない。但し、先取特権、質権又は抵当権を有する者が知れないとき、その他通知をすることができないときは、命令の定めるところにより、公告をし、通知に代へることができる。
第十条 第三条、第六条及び前条の規定の適用については、農地の面積は、土地台帳に登録した当該農地の地積による。但し、市町村農地委員会が当該農地につき土地台帳に登録した地積を以てその面積とすることを著しく不相当と認め、別段の面積を定めたときは、当該農地については、その面積による。
第十一条 第六条乃至第九条の規定によりした手続その他の行為は、第三条の規定により買収すべき農地の所有者、先取特権者、質権者又は抵当権者の承継人に対してもその効力を有する。
第十二条 地方長官が第九条の規定による手続をしたときは、令書に記載し、又は同条第一項但書の規定により公告した買収の時期に、当該農地の所有権は、政府が、これを取得し、当該農地に関する権利は、消滅する。
前項の規定により政府が取得した農地につきその取得の当時賃借権、使用貸借による権利、永小作権、地上権又は地役権があるときは、その取得の時に当該権利を有する者のために従前と同一の条件を以て当該権利が設定されたものとみなす。但し、その権利の存続期間は、従前の権利の残存期間とする。
前項の場合において、従前の権利の上に先取特権、質権又は抵当権があるときは、その先取特権、質権又は抵当権は、同項の規定により設定された権利の上にあるものとみなす。
第十三条 第三条の規定による農地の買収については、政府は、その対価を買収の時期における当該農地の所有者に支払はなければならない。但し、当該農地の上に先取特権、質権又は抵当権がある場合において、当該権利を有する者の請求があるとき、又は当該権利を有する者が知れないときは、その対価を供託しなければならない。
当該農地の上に先取特権、質権又は抵当権を有する者は、前項の規定により供託した対価に対してその権利を行ふことができる。
政府は、第三条の規定により買収する農地の所有者に対して、その農地の面積(その農地の面積が同条第一項第三号の当該都道府県別の面積又は同条第三項の規定により当該区域につき定められた当該都道府県別の面積に代るべき面積を超えるときは、当該都道府県別の面積又は当該都道府県別の面積に代るべき面積)に応じて報償金を交付する。
前項の報償金の一段歩当りの額は、田にあつては二百二十円、畑にあつては百三十円を基準とし、当該農地の収量、位置その他の状況を参酌して、主務大臣が、これを定める。
第三項の規定の適用については、第十条の規定を準用する。
第十四条 第三条の規定により買収した農地の対価に対して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、令書の交付又は第九条第一項但書の公告のあつた後一箇月を経過したときは、この限りでない。
第十五条 第三条の規定により買収する農地に就き自作農となるべき者又は当該農地につき所有権その他の権利を有する者が左に掲げる農業用施設、土地又は建物を政府において買収すべき旨の申請をした場合において、市町村農地委員会がその申請を相当と認めたときは、政府は、これを買収する。
一 第三条の規定により買収する農地の利用上必要な農業用施設
二 第三条の規定により買収する農地に就き自作農となるべき者が、賃借権、使用貸借による権利若しくは永小作権を有する採草地、賃借権、使用貸借による権利若しくは地上権を有する宅地又は賃借権を有する建物
前項の場合には、第六条第一項第二項第五項、第七条乃至第十二条、第十三条第一項第二項及び前条の規定を準用する。
前項において準用する第六条第二項の対価は、採草地にあつては、命令の定めるところにより、当該採草地の近傍類似の農地の時価を参酌し、採草地以外のものにあつては時価を参酌してこれを定める。
第十六条 政府は、第三条の規定により買収した農地及び政府の所有に属する農地で命令で定めるものを、命令の定めるところにより、その買収の時期において当該農地に就き耕作の業務を営む小作農その他命令で定める者で自作農として農業に精進する見込のあるものに売り渡す。
政府は、特別の事情があるときは、第三条の規定により買収した農地を市町村農業会その他命令で定める団体で自作農の創設の事業を行ふものに売り渡すことができる。
第十七条 前条に規定する者で同条に規定する農地を買ひ受けようとするものは、市町村農地委員会に対してその申込をしなければならない。
第十八条 政府が第十六条の規定により売渡をするには、市町村農地委員会の定める農地売渡計画によらなければならない。
農地売渡計画においては、売り渡すべき農地並びに売渡の相手方、時期及び対価を定めなければならない。
前項の売渡の相手方は、前条の規定による買受の申込をした者でなければならない。
市町村農地委員会は、農地売渡計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縦覧に供しなければならない。
一 売渡の相手方の氏名又は名称及び住所
二 売り渡すべき農地の所在、地番、地目及び面積
三 対価
四 売渡の時期
農地売渡計画については、第八条の規定を準用する。この場合において、同条中「同条第五項」とあるのは、「第十八条第四項」と、「前条第一項」とあるのは、「第十九条第一項」と読み替へるものとする。
第十九条 第十七条の規定による買受の申込をした者は、前条の規定による農地売渡計画について異議があるときは、市町村農地委員会に対して異議を申し立てることができる。但し、同条第四項の縦覧期間を経過したときは、この限りでない。
前項の場合には、第七条第二項乃至第四項の規定を準用する。この場合において、同条第二項中「前条第五項」とあるは、「第十八条第四項」と読み替へるものとする。
第二十条 第十六条の規定による売渡は、地方長官が第十八条第五項において準用する第八条の規定による承認があつた農地売渡計画により売渡の相手方に対し売渡通知書を交付して、これをしなければならない。
通知書には、左の事項を記載しなければならない。
一 第十八条第四項各号に掲げる事項
二 対価の支払の方法及び時期
三 その他必要な事項
第二十一条 前条の規定による売渡通知書の交付があつたときは、その通知書に記載された売渡の時期に、当該農地の所有権は、その通知書に記載された売渡の相手方に移転する。
前項の規定により取得した農地の対価については、第十四条の規定を準用する。
第二十二条 第十六条の規定による売渡があつた農地につき第十二条第二項の規定により設定された権利がある場合において、その権利を有する者が当該農地の売渡の相手方でないときは、当該権利(当該権利が地役権であるときは、市町村農地委員会が当該農地を耕作することの妨げになるものと認定した地役権に限る。)は、当該農地の売渡の時期に消滅する。
政府は、前項の規定により消滅する権利を有する者に対してその権利の消滅に因つて生じた損失を補償しなければならない。但し、その者が第六条第五項の規定による公告のあつた後第十二条第一項の規定により消滅した権利を取得した者であるときは、この限りでない。
前項の規定により補償すべき損失は、第一項の規定による権利の消滅に因つて通常生ずべき損失とする。
第二項の補償金額は、市町村農地委員会が、地方長官の認可を受けてこれを決定する。
市町村農地委員会は、前項の補償金額を決定したときは、遅滞なく第二項の規定により補償を受けるべき者に対してこれを通知しなければならない。
第四項の補償金額の決定に対して不服ある者は、通常裁判所に出訴することができる。但し、前項の通知を受けた日から二十日を経過したときは、この限りでない。
第一項の規定により消滅する権利の上に先取特権、質権又は抵当権があるときは、第十三条第一項及び第二項の規定を準用する。
第二十三条 政府が第十六条の規定により農地を売り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員会は、地目、面積、等位等が当該農地と近似する小作地と当該農地との交換に関し、当該小作地の所有者に対して、必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換により当該小作地の所有者の取得すべき農地及び政府の取得すべき農地についてその所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による指示を受けた者は、その指示を受けた日から十日以内に当該指示に係る交換に関して市町村農地委員会と協議しなければならない。
前項の場合において、協議が調はないとき、又は協議をすることができないときは、市町村農地委員会は、都道府県農地委員会の裁定の申請をすることができる。
前項の規定による裁定があつたときは、その定めるところにより、交換の契約が成立したものとみなす。
第二十四条 前条の規定による交換においては、同条第三項の協議又は同条第四項の裁定において定められた日に、農地の所有権の移転の効力が、生ずるものとする。
前項の規定による所有権の移転の際当該小作地の上にある先取特権、質権又は抵当権は、当該小作地の所有者が交換に因り取得した農地の上にあるものとする。
第二十五条 政府が第十六条の規定により農地を売り渡す場合において、自作農の創設を適正に行ふため特に必要があるときは、市町村農地委員会は、政府の売り渡すべき農地につき賃借権又は永小作権を有する者及び地目、面積、等位等が当該農地と近似する農地で政府の買収しないものにつき賃借権又は永小作権を有する者に対して当該賃借権又は永小作権の交換に関し必要な事項を指示することができる。
前項の指示は、交換に因り移転すべき賃借権又は永小作権の目的たる農地の所在、地番、地目及び面積を定めて、これをしなければならない。
第一項の規定による交換については、賃借権又は永小作権の移転は、民法第二百七十二条但書及び第六百十二条の規定にかかはらず、これをすることができる。
市町村農地委員会が第一項の指示をしたときは、遅滞なくその旨を当該指示に係る農地の所有者及び所有者でない賃貸人に通知しなければならない。
前項の通知を受けた者は、第一項の指示に異議があるときは、市町村農地委員会に異議を申し立てることができる。但し、前項の通知を受けた日から十日を経過したときは、この限りでない。
第一項の規定による交換には、第二十三条第三項乃至第五項及び前条の規定を準用する。この場合においては、第二十三条第三項中「市町村農地委員会と協議し」とあるのは、「協議し」と、同条第四項中「市町村農地委員会は、都道府県農地委員会の裁定」とあるのは、「第一項の指示を受けた者は、市町村農地委員会の裁定」と読み替へるものとする。
第二十六条 第十六条の規定により売り渡した農地の対価の支払は、支払期間三十年(据置期間を含む。)以内、年利三分二厘の均等年賦支払の方法によるものとする。但し、当該農地を買ひ受けた者の申出あるときは、その対価の全部又は一部につき一時支払の方法によるものとする。
第二十七条 第十六条の規定により売り渡した農地の対価を命令で定める支払の方法により支払ふものとした場合における年賦金額と当該農地の公租公課の金額の合計額が当該農地の通常収穫物の価額の一定の割合を超えるときは、政府は、当該農地の対価の支払につき年賦金額を減免し、年賦金額の支払を猶予し、その他対価の支払に関する負担を軽減するため、必要な措置を講じなければならない。
前項の一定の割合は、中央農地委員会が、これを定める。但し、三分の一を超えてはならない。
前項に規定するものの外第一項の規定の施行に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十八条 第十六条の規定による農地の売渡を受けた者又はその相続人が当該農地に就いての自作をやめようとするときは、政府は、命令の定めるところにより、その者に対して当該農地を買ひ取るべきことを申し入れなければならない。
前項の申入があつたときは、その時にその申入において定めた条件によつて当該農地の売買が、成立する。この場合における当該農地の対価には、第六条第三項の規定を準用する。
第二十九条 第十六条の規定により農地の売渡を受けた者で命令で定めるものは、第十五条の規定により政府が買収した農業用施設、土地又は建物を買ひ受けようとするときは、市町村農地委員会に対して申込をしなければならない。
第十五条の規定により政府が買収した農業用施設、土地又は建物の売渡については、第十六条、第十八条乃至第二十二条及び第二十六条の規定を準用する。この場合において、第十八条第三項中「前条」とあり、又は第十九条第一項中「第十七条」とあるのは、「第二十九条第一項」と読み替へるものとする。
第三十条 政府は、自作農を創設するため必要があるときは、左に掲げるものを買収することができる。
一 農地以外の土地で農地の開発に供しようとするもの
二 政府の所有に属する土地で農地の開発に供しようとするものに関する所有権及び担保権以外の権利
三 第一号又は前号の土地附近の農地で当該土地と併せて開発するのを相当とするもの
四 第一号又は第二号の土地の上にある立木又は建物その他の工作物
五 漁業権
六 水の使用に関する権利
七 開発後における第一号又は第二号の土地の利用上必要な土地、立木又は建物その他の工作物
前項第六号又は第七号に掲げるものは、政府が、これを使用することができる。
第三十一条 政府が前条の規定による買収又は使用をするには、都道府県農地委員会が命令の定めるところにより定める未墾地買収計画によらなければならない。
未墾地買収計画においては、買収し、又は使用すべき土地、権利、立木又は建物その他の工作物、買収の時期又は使用の時期及び期間並びに対価を定めなければならない。
前項の対価を定める場合には、農地にあつては、第六条第三項の規定を準用し、農地以外の土地にあつては、命令の定めるところにより、当該土地の近傍類似の農地の時価を参酌し、土地以外のものにあつては、時価を参酌する。この場合において、同項中「市町村農地委員会」とあるのは、「都道府県農地委員会」と読み替へるものとする。
都道府県農地委員会は、未墾地買収計画を定めたときは、遅滞なくその旨を公告し、且つ公告の日から二十日間前条の規定により買収し、又は使用すべきものの所在地の市役所又は町村役場において左の事項を記載した書類を縦覧に供しなければならない。
一 買収し、又は使用すべき土地、権利、立木又は工作物の所有者の氏名又は名称及び住所
二 買収し、又は使用すべき土地については、その所在、地番、地目及び面積、権利については、その種類、立木については、その樹種、数量及び所在の場所、工作物については、その種類及び所在の場所
三 対価
四 買収の時期又は使用の時期及び期間
未墾地買収計画については、第七条及び第八条の規定を準用する。この場合において、これらの規定中「市町村農地委員会」とあるのは、「都道府県農地委員会」と、「都道府県農地委員会」とあるのは、「地方長官」と、第七条第一項及び第八条中「同条第五項」とあり、又は第七条第二項中「前条第五項」とあるのは、「第三十一条第四項」と、第八条中「承認」とあるのは、「認可」と読み替へるものとする。
第三十二条 都道府県農地委員会は、前条の規定による未墾地買収計画を定めるため必要があるときは、その委員又は委員会の事務に従事する者に、他人の土地に立ち入つて、測量し、検査し、又は測量若しくは検査の障害となる物を移転し、若しくは除却させることができる。但し、これに因つて生じた損害は、これを補償しなければならない。
政府が第三十条の規定による買収又は使用をするため必要がある場合には、前項の規定を準用する。この場合において、同項の規定中「その委員又は委員会の事務に従事する者」とあるのは、「当該官吏」と読み替へるものとする。
第三十三条 政府は、第三十条の規定による買収又は使用に係る土地(同条第一項第二号に規定する土地を含む。)又は工作物にある物件の所有者又は占有者に、その物件を収去させることができる。
前項の場合において、当該物件を収去することに因つて当該物件を従来用ひた目的に供することができないときは、当該物件の所有者は、命令の定めるところにより、政府に対してその買収を請求することができる。
前項に規定する買収の対価は、地方長官が、時価を参酌してこれを定める。
第二項に規定する買収については、第九条、第十一条、第十二条第一項、第十三条第一項第二項及び第十四条の規定を準用する。この場合において、第九条第二項第一号中「第六条第五項各号」とあるのは、「第三十一条第四項各号」と、第十一条中「第六条乃至第九条」とあるのは、「第三十三条第四項において準用する第九条」と読み替へるものとする。
第三十四条 第三十条の規定による買収又は使用については、第九条乃至第十一条、第十二条第一項、第十三条第一項第二項及び第十四条の規定を準用する。この場合において、第九条第二項第一号中「第六条第五項各号」とあるのは、「第三十一条第四項各号」と、第十一条中「第六条乃至第九条」とあるのは、「第三十一条第一項乃至第四項(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)若しくは同条第一項、第三十一条第五項若しくは第三十八条第二項において準用する第七条及び第八条並びに第三十四条において準用する第九条」と読み替へるものとし、第十条中「市町村農地委員会」とあるのは、当該買収が第三十八条に規定するものである場合を除いて、「都道府県農地委員会」と読み替へるものとする。
第三十五条 政府が、第三十条第二項の規定により、権利、土地、立木又は工作物を使用する場合においては、前条において準用する第九条第一項の令書に記載し、又は同項但書の規定により公告した使用の時期に、政府は、当該権利、土地、立木又は工作物の使用権を取得し、当該権利又は当該土地、立木若しくは工作物に関する権利は、使用の期間その行使を停止される。但し、使用を妨げないものは、この限りでない。
第三十六条 第三十条第二項の規定による権利、土地、立木若しくは工作物の使用が三年以上に亘るとき、又はその使用に因つて当該権利、土地、立木若しくは工作物を従来用ひた目的に供することが著しく困難となるときは、当該権利を有する者又は当該土地、立木若しくは工作物の所有者は、命令の定めるところにより、政府に対して当該権利又は土地、立木若しくは工作物の買収を請求することができる。
前項に規定する買収の対価は、地方長官が、これを定める。
第一項の場合には、第三十一条第三項前段及び第三十三条第四項の規定を準用する。この場合において、第三十一条第三項前段において準用する第六条第三項中「市町村農地委員会が地方長官の認可を受けて」とあるのは、「地方長官が」と読み替へるものとする。
第三十七条 政府は、第三十条の規定により土地の買収をする場合において、特に必要があるときは、その買収の当時当該土地に関し所有権、賃借権、使用貸借による権利、永小作権、地上権又は入会権を有する者に対し当該土地に代るべき土地として売り渡し、又は賃貸するため必要な他の土地(当該土地の上にある立木を含む。)を買収し、又は使用することができる。
前項の場合には、第三十一条乃至前条の規定を準用する。
第三十八条 政府が第三十条第一項の規定による買収をする場合において、その買収に係る同項第一号の土地の面積が主務大臣の定める面積を超えないときは、政府は、第三十一条第一項の規定にかかはらず、市町村農地委員会の定める未墾地買収計画により第三十条第一項の規定による買収をすることができる。
前項の場合には、第七条、第八条、第三十一条第二項第三項前段第四項及び第三十二条第一項の規定を準用する。この場合において、第七条第一項及び第八条中「同条第五項」とあり、又は第七条第二項中「前条第五項」とあるのは、「第三十一条第四項」と、第三十一条第四項及び第三十二条第一項中「都道府県農地委員会」とあるのは、「市町村農地委員会」と読み替へるものとする。
第三十九条 政府は、第三十二条第一項(同条第二項、第三十七条第二項及び前条第二項において準用する場合を含む。)の規定による行為、第三十三条第一項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による収去、第三十三条第四項(第三十六条第三項及び第三十七条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十四条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)において準用する第十二条第一項の規定による権利の消滅又は第三十五条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による権利の行使の停止に因つて生じた損失を補償しなければならない。
第三十二条第一項(同条第二項、第三十七条第二項及び前条第二項において準用する場合を含む。)の規定による行為に係る補償の場合を除いて、前項の規定による補償を受けるべき者は、第三十条若しくは第三十七条の規定による買収若しくは使用又は第三十三条第二項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第三十六条第一項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による買収の場合にあつては、当該土地、権利又は立木、工作物その他の物件に関し所有権及び担保権以外の権利を有した者、第三十三条第一項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による収去の場合にあつては、当該物件に関し担保権以外の権利を有した者に限る。但し、その者が第三十一条第四項(第三十七条第二項及び前条第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後当該権利を取得した者であるときは、この限りでない。
第一項の補償金額については、第二十二条第三項乃至第七項の規定を準用する。この場合において、「市町村農地委員会」とあるのは、第三十二条第二項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)において準用する同条第一項の規定による行為、第三十三条第一項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による収去又は第三十三条第二項若しくは第三十六条第一項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による買収に係る補償については、「地方長官」と、その他の補償については、前条の規定による買収に係る場合を除いて、「都道府県農地委員会」と読み替へるものとする。
第四十条 第三十条の規定により政府が買収した土地又は同条第一項第二号に規定する土地の開発については、他の法令中命令で定める制限又は禁止の規定は、これを適用しない。
第四十一条 政府は、第三十条第一項の規定により買収した土地(同条第一項第二号に規定する土地を含む。)、権利、立木若しくは工作物又は同条第二項の規定により使用した権利、土地、立木若しくは工作物を自作農として農業に精進し得る見込のある者その他命令で定める者に売り渡し、又は賃貸することができる。
前項の規定による売渡又は賃貸については、第十七条、第十八条第一項乃至第三項第五項、第二十条、第二十一条及び第二十六条の規定を準用する。この場合において、第三十一条の規定による未墾地買収計画により買収し、又は使用した土地(第三十条第一項第二号に規定する土地を含む。)、権利、立木又は工作物の売渡又は賃貸については、第十七条及び第十八条第一項並びに同条第五項において準用する第八条中「市町村農地委員会」とあるのは、「都道府県農地委員会」と、「都道府県農地委員会の承認」とあるのは、「地方長官の認可」と読み替へるものとする。
第一項の規定により第三十条第一項第一号乃至第三号に規定する土地を売り渡す場合には、前項において準用する規定の外、第二十七条及び第二十八条の規定を準用する。
第四十二条 第六条第五項(第十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第三十一条第四項(第三十七条第二項及び第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による公告のあつた後は、当該買収計画において定められた土地、農業用施設、工作物又は立木に関する権利を有する者は、買収又は使用に支障を及ぼす虞のない場合を除いて、地方長官の許可を受けなければ、当該土地の形質を変更し、又は当該農業用施設、工作物若しくは立木を損壊し、若しくは収去してはならない。
第四十三条 第三条、第十五条、第三十条、第三十三条第二項、第三十六条又は第三十七条の規定により買収し、又は使用する土地、権利又は立木、工作物その他の物件の対価、第十三条第三項に規定する報償金及び第二十二条第二項又は第三十九条第一項の規定による補償金は、三十年以内に償還すべき証券を以てこれを交付することができる。
前項の規定により交付するため、政府は、必要な額を限度として証券を発行することができる。
前二項の規定により交付する証券の交付価格は、時価を参酌して大蔵大臣が、これを定める。
第二項の証券に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第四十四条 第三条、第十五条、第三十条第一項、第三十三条第二項、第三十六条若しくは第三十七条の規定による買収、第十六条(第二十九条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第四十一条の規定による売渡若しくは賃貸、第二十三条若しくは第二十五条の規定による交換又は第二十八条第一項(第四十一条第三項において準用する場合を含む。)の規定による買収をする場合における登記は、勅令の定めるところによる。
第四十五条 主務大臣又は地方長官は、必要があると認めるときは、農地その他の土地又は物件に関し必要な報告を徴することができる。
第四十六条 政府が、第三条、第十五条、第三十条、第三十三条第二項、第三十六条又は第三十七条の規定により買収し、又は使用する土地、権利又は立木、工作物その他の物件の管理に関する主務大臣の権限の一部は、命令の定めるところにより、市町村長、市町村農地委員会その他命令で定めるものにこれを行はせることができる。
第四十七条 主務大臣又は地方長官は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により市町村農地委員会の権限に属させた事項を都道府県農地委員会に処理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により都道府県農地委員会に処理させる事項に関しては、この法律により都道府県農地委員会の権限に属させた事項は、地方長官が、これを処理し、この法律により市町村農地委員会に対してすべき異議の申立は、都道府県農地委員会に対し、都道府県農地委員会に対してすべき訴願の提起は、地方長官に対してこれをするものとする。
主務大臣は、自作農の創設上特に必要があると認めるときは、この法律により都道府県農地委員会の権限に属させた事項を地方長官又は中央農地委員会に処理させることができる。
前項の場合には、同項の規定により地方長官又は中央農地委員会に処理させる事項に関しては、この法律により地方長官の権限に属させた事項は、主務大臣が、これを処理し、この法律により都道府県農地委員会に対してすべき異議の申立は、地方長官又は中央農地委員会に対し、地方長官に対してすべき訴願の提起は、主務大臣に対してこれをするものとする。
第四十八条 この法律中市町村農地委員会に関する規定は、地区農地委員会の設けられてゐる市町村の地区にあつては、地区農地委員会にこれを適用する。この場合において、第三条第一項中「市町村の区域」とあるのは、「地区農地委員会の設けられてゐる地区」と、同項第一号中「隣接市町村の区域」とあるのは、「隣接市町村の区域内の地域又は他の地区農地委員会の設けられてゐる地区で当該地区に隣接する地区」と読み替へるものとする。
第四十九条 この法律中町村又は町村長に関する規定は、町村の事務の全部又は役場事務を共同処理する町村組合のある地にあつては町村組合又は組合管理者に、町村制を施行しない地にあつてはこれに準ずるものに、市又は市長に関する規定は、東京都の区のある区域、京都市、大阪市、横浜市、名古屋市及び神戸市にあつては地方長官の指定する区又は区長にこれを適用する。
第五十条 左の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は五百円以下の罰金に処する。
一 第三十二条第二項(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)において準用する第三十二条第一項の規定による当該官吏の測量、検査、移転又は除却を拒み、妨げ又は忌避した者
二 第四十二条の規定に違反した者
三 第四十五条の規定に違反して、報告を怠り、又は虚偽の報告をした者
第五十一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し前条第二号又は第三号の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して同条の罰金刑を科する。
附 則
この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第三条第一項の規定による農地の買収については、市町村農地委員会は、相当と認めるときは、命令の定めるところにより、昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基いて第六条の規定による農地買収計画を定めることができる。