金融機関経理応急措置法
法令番号: 法律第六號
公布年月日: 昭和21年8月15日
法令の形式: 法律
朕は、帝國議會の協贊を經た金融機關經理應急措置法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年八月十五日
内閣總理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
農林大臣 和田博雄
商工大臣 星島二郎
運輸大臣 平塚常次郎
大藏大臣 石橋湛山
法律第六號
金融機關經理應急措置法
第一條 金融機關には、この法律により、昭和二十一年八月十一日午前零時(以下指定時といふ。)において、新勘定及び舊勘定が設けられる。
金融機關の資産及び負債は、この法律の定めるところにより、新勘定又は舊勘定に屬する。
第二條 金融機關の指定時における資産及び負債のうち、左に掲げるものは、新勘定に屬する。
一 資産
イ 現金
ロ 國債及び地方債
ハ 國又は地方公共團體に對する金錢債權で國債及び地方債以外のもの
ニ 日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合に對する資産(金融機關の發行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものについては、第三條又は第四條の規定による措置をなしたものに限る。)
ホ その他主務大臣の指定する資産
二 負債
イ 命令で定める預金等
ロ 國又は地方公共團體の公租公課
ハ 日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合に對する負債で預金等以外のもの(金融機關の發行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる負債で命令で定めるものについては、その權利者たる金融機關から第三條又は第四條の規定により請求又は通知を受けたものに限る。)
ニ その他主務大臣の指定する負債
前項に規定する資産又は負債のうち、主務大臣の指定するものは、同項の規定にかかはらず、舊勘定に屬する。
第三條 日本銀行、金融機關及び保險事業を營む組合は、指定時においてその有する金融債券(金融機關の發行する債券をいふ。以下同じ。)で命令で定めるものについては、左の各號の區分に從ひ、その定める措置をしなければならない。
一 指定時において社債等登録法により登録されてゐる金融債券については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者たる金融機關に對し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
二 指定時において社債等登録法により登録されてゐない金融債券については、昭和二十一年九月十日までに、同法により登録した上その債務者たる金融機關に對し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
第四條 日本銀行、金融機關及び主務大臣の指定する者は、その指定時において有する日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者に對する手形等の資産(手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものをいふ。以下同じ。)については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者(手形及び小切手の支拂人を含む。)に對し、その辨濟の請求をなし又は書面を以てその種類及び金額を通知しなければならない。
第五條 金融機關の指定時における資産及び負債のうち、第二條の規定により新勘定に屬するもの以外のものは、舊勘定に屬する。
第六條 信託會社、保險會社、生命保險中央會、損害保險中央會、地方農業會その他命令で定める金融機關の指定時における資産及び負債の新勘定又は舊勘定への所屬については、命令で第二條及び前條の規定の特例を設けることができる。
第七條 金融機關の指定時における新勘定に屬する負債の總額が新勘定に屬する資産の總額を超えるときは、その超過額は、これを新勘定の舊勘定に對する貸として整理する。
金融機關の指定時における新勘定に屬する負債の總額が新勘定に屬する資産の總額に不足するときは、その不足額は、これを新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第八條 金融機關は、指定時における新勘定に屬する資産について目録を作成し、命令で定める日までに、公證人の認證を受けなければならない。
公證人法中商法第百六十七條の規定による定款の認證に關する規定(公證人法第六十二條ノ二を除く。)は、前項に規定する目録の認證について、これを準用する。
第九條 金融機關の舊勘定に屬する資産又は負債に關し指定時後生ずる財産上の權利及び義務は、命令で定めるものを除いては、舊勘定に屬する。
金融機關の指定時後生ずる財産上の權利及び義務のうち、前項の規定により舊勘定に屬するもの以外のものは、新勘定に屬する。
金融機關の指定時後生ずる役員及び職員その他の使用人に對する給與の債務の新勘定又は舊勘定への所屬については、命令の定めるところによる。
第十條 前條第一項の規定により、金融機關の舊勘定に屬する現金(小切手を含む。)は、命令の定めるところにより、これを舊勘定から新勘定に移し、その金額に相當する金額は、これを新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第十一條 金融機關が新勘定の業務を營むため舊勘定に屬する資産を使用し又は消費したときは、命令の定めるところにより、その對價に相當する金額を、新勘定の舊勘定に對する借として整理する。
第十二條 第九條第三項に規定する給與の支出金額は、命令の定めるところにより、これを新勘定の舊勘定に對する貸として整理する。
第十三條 金融機關は、第十六條但書の規定に基いて舊勘定に屬する債務の辨濟をなす場合においては、命令で特別の定をなす場合を除いては、その辨濟に必要な資金を新勘定から舊勘定に移し、舊勘定からその債務の辨濟に充てるために、これを支出する。この場合においては、その移した資金に相當する金額は、これを新勘定の舊勘定に對する貸として整理する。
第十四條 第七條、第十條、第十一條、第十二條又は前條の規定により新勘定の舊勘定に對する貸又は借として整理さるべき金額については、差引計算をした殘額を新勘定の舊勘定に對する貸又は借として整理する。
第七條、第十條、第十一條、第十二條又は前條の規定による新勘定の舊勘定に對する貸又は借(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定を適用した結果生ずる貸又は借)の金額には、命令の定めるところにより、利息に相當する金額を加算して整理する。
第十五條 金融機關の資産のうち、新勘定又は舊勘定のいづれに屬するか分明でないものは、舊勘定に屬するものと推定する。
第十六條 金融機關は、舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなすことができない。但し、命令の定める場合は、この限りでない。
第十七條 金融機關の舊勘定に屬する負債に關する權利者は、新勘定に屬する資産及び舊勘定に屬する資産のいづれについても、辨濟を受け又は金融機關の債務を消滅させる行爲(免除を除く。)をなすことができない。但し、前條但書の規定に基いて舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなす場合において、舊勘定に屬する資産については、この限りでない。
第十八條 金融機關の舊勘定に屬する財産に對しては、強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣法による競賣手續は、これをなすことができない。
金融機關の財産に對し既になされた強制執行、假差押若しくは假處分又は競賣手續は、これを中止する。
前二項の規定は、第十六條但書の規定に基いて舊勘定に屬する債務の辨濟又は舊勘定に屬する資産の處分をなす場合において、舊勘定に屬する財産についてなすときは、これを適用しない。
第十九條 金融機關の新勘定に屬する負債に關する權利者は、舊勘定に屬する資産については、辨濟を受け又は金融機關の債務を消滅させる行爲(免除を除く。)をなすことができない。
第二十條 日本銀行、金融機關及び保險事業を營む組合の指定時において有する金融債券で第三條の規定による通知のあつたものについては、命令で定める日まで、社債等登録法による登録の抹消又は變更を請求することができない。
第二十一條 日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者に對する手形等の資産で、日本銀行、金融機關又は主務大臣の指定する者が指定時において有するものについては、辨濟を受ける場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、讓渡、讓受その他一切の處分をなすことができない。
第二十二條 金融機關については、別に法律で定めるまでは、破産の宣告をなすことができない。
金融機關の解散、合併、分割、組織變更又は資本(出資金及び基金を含む。)の増加若しくは減少は、他の法令に基く命令に因る場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、その效力を生じない。
前項の規定による認可があつたときは、同一の事項については、同時に他の法令による認可等があつたものとみなす。
第二十三條 金融機關の舊勘定に屬する債務については、その債權は、その權利の行使ができることとなつた日から一箇月以内は、時效が完成しない。
第二十四條 生命保險會社又は生命保險中央會の舊勘定に屬する責任準備金に對應する生命保險金の部分(以下舊生命保險金といふ。)について、契約者が、指定時後拂込期日の到來する保險料を、命令の定める日まで拂ひ込まない場合においても、その舊生命保險金の保險契約は、一切變更を生じない。
舊生命保險金の保險契約については、保險契約の解除又は保險金額の減少その他の保險契約の條件の變更若しくは保險約款に基く貸付の請求は、これをなすことができない。
第二十五條 損害保險會社又は損害保險中央會(以下損害保險會社等といふ。)の舊勘定に屬する責任準備金に對應する損害保險金に關する保險契約(以下舊契約といふ。)について、指定時後二箇月以内に、舊契約と保險の目的及び保險者を同じくする保險契約(以下新契約といふ。)が成立した場合においては、その損害保險會社等は、先づ、指定時においてその新勘定に屬する責任準備金に對應する損害保險金に關する保險契約と新契約とに基いて損害を負擔し、その負擔額が損害の全部を填補するに足りないときは、舊契約に基いて、その保險金額が指定時においてその新勘定に屬する責任準備金に對應する保險金額と新契約の保險金額との合計額を超える金額を限度として、命令の定めるところにより、損害を負擔する。
前項の規定により新契約が成立した場合においては、舊契約の契約者に對しては、その損害保險會社等は、命令の定めるところにより、舊契約の保險料の一部を返還する。
第二十六條 金融機關の事業年度については、他の法令又は定款にかかはらず、その指定時を含む事業年度は、指定時までで終了するものとし、その事業年度に續く事業年度は、命令で特別の定をなす場合を除いては、昭和二十二年三月三十一日で終了するものとする。
指定時までで終了する事業年度について、利益又は剩餘金を生じたときは、他の法令又は定款にかかはらず、これを特別準備金として積み立て、缺損を生じたときは、これを繰り越さなければならない。
第二十七條 この法律において、金融機關とは、左に掲げる者(この法律施行前既に解散した者及び主務大臣の指定する者を除く。)をいふ。
一 銀行(日本銀行を除く。)、信託會社、保險會社、無盡會社、戰時金融金庫、南方開發金庫、外資金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫、恩給金庫、庶民金庫、國民更生金庫、生命保險中央會、損害保險中央會、地方農業會及び市街地信用組合
二 都道府縣水産業會、漁業會その他業として預金等の受入をなすことができる組合で指定時において預金等の金錢債務を有するもの
第二十八條 前條第二號に掲げる金融機關は、この法律施行の日から二週間以内に、主務大臣に對して、指定時において預金等の金錢債務を有した旨の屆出をしなければならない。
前條第二號に掲げる金融機關は、主たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から二週間以内に、從たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から三週間以内に、この法律の規定による金融機關である旨の登記をしなければならない。
前項の登記に關して必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十九條 この法律において、預金等とは、預金その他の金融業務上の債務で命令で定めるものをいふ。
第三十條 金融機關の業務又は財産に關し作成する帳簿は、その記載事項が新勘定又は舊勘定のいづれに關するかの區分を明らかにして、これを整理しなければならない。
第三十一條 この法律は、他の法令により金融機關に二以上の勘定があるときは、その各勘定について、これを適用する。
第三十二條 この法律の施行地内に本店又は主たる事務所を有する金融機關が、この法律の施行地外に支店又は從たる事務所を有するときは、その支店又は從たる事務所に係る資産及び負債を除いて、この法律を適用する。
この法律の施行地外に本店又は主たる事務所を有する金融機關が、この法律の施行地内に支店又は從たる事務所を有するときは、この法律の適用については、その支店又は從たる事務所を以て、(支店又は從たる事務所が二以上あるときは、他の法令にかかはらず、これを合せて、)一の金融機關とみなす。
前二項の場合において、この法律の施行地内にある店舖又は事務所のこの法律の施行地外にある店舖又は事務所に對する貸又は借があるときは、金融機關は、その貸又は借を舊勘定に屬する資産又は負債として整理するものとする。
第三十三條 この法律に規定するものの外、金融機關の新勘定及び舊勘定の分離等に關し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十四條 左の場合においては、その行爲をなした日本銀行、金融機關又は保險事業を營む組合の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第三條又は第四條の規定による通知の書面に虚僞の記載をなしたとき
二 第八條第一項の規定による認證を受けることを怠り、又は虚僞の記載をなした目録について認證を受けたとき
三 第十六條の規定に違反したとき
四 第二十條の規定に違反したとき
第三十五條 第四條の規定により主務大臣の指定する者が、同條の規定による通知の書面に虚僞の記載をなしたときは、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
第三十六條 左の各號の一に該當する者は、これを三年以下の懲役又は三萬圓以下の罰金に處する。
一 第十七條の規定に違反した者
二 第十九條の規定に違反した者
三 第二十一條の規定に違反した者
第三十七條 第三十條の規定に違反した場合においては、その行爲をなした金融機關の代表者、代理人、使用人その他の從業者は、これを一年以下の懲役又は一萬圓以下の罰金に處する。
第三十八條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の從業者が、その法人又は人の業務又は財産に關し第三十四條乃至前條の違反行爲をなしたときは、行爲者を罰する外、その法人又は人に對し、各本條の罰金刑を科する。
第三十九條 左の場合においては、金融機關の代表者は、これを三千圓以下の過料に處する。
一 第二十八條第一項に規定する屆出を怠つたとき
二 第二十八條第二項に規定する登記を怠つたとき
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
第十六條乃至第二十一條の規定は、指定時後の行爲に、これを適用する。
朕は、帝国議会の協賛を経た金融機関経理応急措置法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年八月十五日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
農林大臣 和田博雄
商工大臣 星島二郎
運輸大臣 平塚常次郎
大蔵大臣 石橋湛山
法律第六号
金融機関経理応急措置法
第一条 金融機関には、この法律により、昭和二十一年八月十一日午前零時(以下指定時といふ。)において、新勘定及び旧勘定が設けられる。
金融機関の資産及び負債は、この法律の定めるところにより、新勘定又は旧勘定に属する。
第二条 金融機関の指定時における資産及び負債のうち、左に掲げるものは、新勘定に属する。
一 資産
イ 現金
ロ 国債及び地方債
ハ 国又は地方公共団体に対する金銭債権で国債及び地方債以外のもの
ニ 日本銀行、金融機関又は保険事業を営む組合に対する資産(金融機関の発行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものについては、第三条又は第四条の規定による措置をなしたものに限る。)
ホ その他主務大臣の指定する資産
二 負債
イ 命令で定める預金等
ロ 国又は地方公共団体の公租公課
ハ 日本銀行、金融機関又は保険事業を営む組合に対する負債で預金等以外のもの(金融機関の発行する債券及び手形、小切手その他これに準ずる負債で命令で定めるものについては、その権利者たる金融機関から第三条又は第四条の規定により請求又は通知を受けたものに限る。)
ニ その他主務大臣の指定する負債
前項に規定する資産又は負債のうち、主務大臣の指定するものは、同項の規定にかかはらず、旧勘定に属する。
第三条 日本銀行、金融機関及び保険事業を営む組合は、指定時においてその有する金融債券(金融機関の発行する債券をいふ。以下同じ。)で命令で定めるものについては、左の各号の区分に従ひ、その定める措置をしなければならない。
一 指定時において社債等登録法により登録されてゐる金融債券については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者たる金融機関に対し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
二 指定時において社債等登録法により登録されてゐない金融債券については、昭和二十一年九月十日までに、同法により登録した上その債務者たる金融機関に対し、書面を以てその種類及び金額を通知すること。
第四条 日本銀行、金融機関及び主務大臣の指定する者は、その指定時において有する日本銀行、金融機関又は主務大臣の指定する者に対する手形等の資産(手形、小切手その他これに準ずる資産で命令で定めるものをいふ。以下同じ。)については、昭和二十一年八月三十一日までに、その債務者(手形及び小切手の支払人を含む。)に対し、その弁済の請求をなし又は書面を以てその種類及び金額を通知しなければならない。
第五条 金融機関の指定時における資産及び負債のうち、第二条の規定により新勘定に属するもの以外のものは、旧勘定に属する。
第六条 信託会社、保険会社、生命保険中央会、損害保険中央会、地方農業会その他命令で定める金融機関の指定時における資産及び負債の新勘定又は旧勘定への所属については、命令で第二条及び前条の規定の特例を設けることができる。
第七条 金融機関の指定時における新勘定に属する負債の総額が新勘定に属する資産の総額を超えるときは、その超過額は、これを新勘定の旧勘定に対する貸として整理する。
金融機関の指定時における新勘定に属する負債の総額が新勘定に属する資産の総額に不足するときは、その不足額は、これを新勘定の旧勘定に対する借として整理する。
第八条 金融機関は、指定時における新勘定に属する資産について目録を作成し、命令で定める日までに、公証人の認証を受けなければならない。
公証人法中商法第百六十七条の規定による定款の認証に関する規定(公証人法第六十二条ノ二を除く。)は、前項に規定する目録の認証について、これを準用する。
第九条 金融機関の旧勘定に属する資産又は負債に関し指定時後生ずる財産上の権利及び義務は、命令で定めるものを除いては、旧勘定に属する。
金融機関の指定時後生ずる財産上の権利及び義務のうち、前項の規定により旧勘定に属するもの以外のものは、新勘定に属する。
金融機関の指定時後生ずる役員及び職員その他の使用人に対する給与の債務の新勘定又は旧勘定への所属については、命令の定めるところによる。
第十条 前条第一項の規定により、金融機関の旧勘定に属する現金(小切手を含む。)は、命令の定めるところにより、これを旧勘定から新勘定に移し、その金額に相当する金額は、これを新勘定の旧勘定に対する借として整理する。
第十一条 金融機関が新勘定の業務を営むため旧勘定に属する資産を使用し又は消費したときは、命令の定めるところにより、その対価に相当する金額を、新勘定の旧勘定に対する借として整理する。
第十二条 第九条第三項に規定する給与の支出金額は、命令の定めるところにより、これを新勘定の旧勘定に対する貸として整理する。
第十三条 金融機関は、第十六条但書の規定に基いて旧勘定に属する債務の弁済をなす場合においては、命令で特別の定をなす場合を除いては、その弁済に必要な資金を新勘定から旧勘定に移し、旧勘定からその債務の弁済に充てるために、これを支出する。この場合においては、その移した資金に相当する金額は、これを新勘定の旧勘定に対する貸として整理する。
第十四条 第七条、第十条、第十一条、第十二条又は前条の規定により新勘定の旧勘定に対する貸又は借として整理さるべき金額については、差引計算をした残額を新勘定の旧勘定に対する貸又は借として整理する。
第七条、第十条、第十一条、第十二条又は前条の規定による新勘定の旧勘定に対する貸又は借(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定を適用した結果生ずる貸又は借)の金額には、命令の定めるところにより、利息に相当する金額を加算して整理する。
第十五条 金融機関の資産のうち、新勘定又は旧勘定のいづれに属するか分明でないものは、旧勘定に属するものと推定する。
第十六条 金融機関は、旧勘定に属する債務の弁済又は旧勘定に属する資産の処分をなすことができない。但し、命令の定める場合は、この限りでない。
第十七条 金融機関の旧勘定に属する負債に関する権利者は、新勘定に属する資産及び旧勘定に属する資産のいづれについても、弁済を受け又は金融機関の債務を消滅させる行為(免除を除く。)をなすことができない。但し、前条但書の規定に基いて旧勘定に属する債務の弁済又は旧勘定に属する資産の処分をなす場合において、旧勘定に属する資産については、この限りでない。
第十八条 金融機関の旧勘定に属する財産に対しては、強制執行、仮差押若しくは仮処分又は競売法による競売手続は、これをなすことができない。
金融機関の財産に対し既になされた強制執行、仮差押若しくは仮処分又は競売手続は、これを中止する。
前二項の規定は、第十六条但書の規定に基いて旧勘定に属する債務の弁済又は旧勘定に属する資産の処分をなす場合において、旧勘定に属する財産についてなすときは、これを適用しない。
第十九条 金融機関の新勘定に属する負債に関する権利者は、旧勘定に属する資産については、弁済を受け又は金融機関の債務を消滅させる行為(免除を除く。)をなすことができない。
第二十条 日本銀行、金融機関及び保険事業を営む組合の指定時において有する金融債券で第三条の規定による通知のあつたものについては、命令で定める日まで、社債等登録法による登録の抹消又は変更を請求することができない。
第二十一条 日本銀行、金融機関又は主務大臣の指定する者に対する手形等の資産で、日本銀行、金融機関又は主務大臣の指定する者が指定時において有するものについては、弁済を受ける場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、譲渡、譲受その他一切の処分をなすことができない。
第二十二条 金融機関については、別に法律で定めるまでは、破産の宣告をなすことができない。
金融機関の解散、合併、分割、組織変更又は資本(出資金及び基金を含む。)の増加若しくは減少は、他の法令に基く命令に因る場合を除いては、主務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
前項の規定による認可があつたときは、同一の事項については、同時に他の法令による認可等があつたものとみなす。
第二十三条 金融機関の旧勘定に属する債務については、その債権は、その権利の行使ができることとなつた日から一箇月以内は、時効が完成しない。
第二十四条 生命保険会社又は生命保険中央会の旧勘定に属する責任準備金に対応する生命保険金の部分(以下旧生命保険金といふ。)について、契約者が、指定時後払込期日の到来する保険料を、命令の定める日まで払ひ込まない場合においても、その旧生命保険金の保険契約は、一切変更を生じない。
旧生命保険金の保険契約については、保険契約の解除又は保険金額の減少その他の保険契約の条件の変更若しくは保険約款に基く貸付の請求は、これをなすことができない。
第二十五条 損害保険会社又は損害保険中央会(以下損害保険会社等といふ。)の旧勘定に属する責任準備金に対応する損害保険金に関する保険契約(以下旧契約といふ。)について、指定時後二箇月以内に、旧契約と保険の目的及び保険者を同じくする保険契約(以下新契約といふ。)が成立した場合においては、その損害保険会社等は、先づ、指定時においてその新勘定に属する責任準備金に対応する損害保険金に関する保険契約と新契約とに基いて損害を負担し、その負担額が損害の全部を填補するに足りないときは、旧契約に基いて、その保険金額が指定時においてその新勘定に属する責任準備金に対応する保険金額と新契約の保険金額との合計額を超える金額を限度として、命令の定めるところにより、損害を負担する。
前項の規定により新契約が成立した場合においては、旧契約の契約者に対しては、その損害保険会社等は、命令の定めるところにより、旧契約の保険料の一部を返還する。
第二十六条 金融機関の事業年度については、他の法令又は定款にかかはらず、その指定時を含む事業年度は、指定時までで終了するものとし、その事業年度に続く事業年度は、命令で特別の定をなす場合を除いては、昭和二十二年三月三十一日で終了するものとする。
指定時までで終了する事業年度について、利益又は剰余金を生じたときは、他の法令又は定款にかかはらず、これを特別準備金として積み立て、欠損を生じたときは、これを繰り越さなければならない。
第二十七条 この法律において、金融機関とは、左に掲げる者(この法律施行前既に解散した者及び主務大臣の指定する者を除く。)をいふ。
一 銀行(日本銀行を除く。)、信託会社、保険会社、無尽会社、戦時金融金庫、南方開発金庫、外資金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫、恩給金庫、庶民金庫、国民更生金庫、生命保険中央会、損害保険中央会、地方農業会及び市街地信用組合
二 都道府県水産業会、漁業会その他業として預金等の受入をなすことができる組合で指定時において預金等の金銭債務を有するもの
第二十八条 前条第二号に掲げる金融機関は、この法律施行の日から二週間以内に、主務大臣に対して、指定時において預金等の金銭債務を有した旨の届出をしなければならない。
前条第二号に掲げる金融機関は、主たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から二週間以内に、従たる事務所の所在地においてはこの法律施行の日から三週間以内に、この法律の規定による金融機関である旨の登記をしなければならない。
前項の登記に関して必要な事項は、命令でこれを定める。
第二十九条 この法律において、預金等とは、預金その他の金融業務上の債務で命令で定めるものをいふ。
第三十条 金融機関の業務又は財産に関し作成する帳簿は、その記載事項が新勘定又は旧勘定のいづれに関するかの区分を明らかにして、これを整理しなければならない。
第三十一条 この法律は、他の法令により金融機関に二以上の勘定があるときは、その各勘定について、これを適用する。
第三十二条 この法律の施行地内に本店又は主たる事務所を有する金融機関が、この法律の施行地外に支店又は従たる事務所を有するときは、その支店又は従たる事務所に係る資産及び負債を除いて、この法律を適用する。
この法律の施行地外に本店又は主たる事務所を有する金融機関が、この法律の施行地内に支店又は従たる事務所を有するときは、この法律の適用については、その支店又は従たる事務所を以て、(支店又は従たる事務所が二以上あるときは、他の法令にかかはらず、これを合せて、)一の金融機関とみなす。
前二項の場合において、この法律の施行地内にある店舗又は事務所のこの法律の施行地外にある店舗又は事務所に対する貸又は借があるときは、金融機関は、その貸又は借を旧勘定に属する資産又は負債として整理するものとする。
第三十三条 この法律に規定するものの外、金融機関の新勘定及び旧勘定の分離等に関し必要な事項は、命令でこれを定める。
第三十四条 左の場合においては、その行為をなした日本銀行、金融機関又は保険事業を営む組合の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、これを三年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
一 第三条又は第四条の規定による通知の書面に虚偽の記載をなしたとき
二 第八条第一項の規定による認証を受けることを怠り、又は虚偽の記載をなした目録について認証を受けたとき
三 第十六条の規定に違反したとき
四 第二十条の規定に違反したとき
第三十五条 第四条の規定により主務大臣の指定する者が、同条の規定による通知の書面に虚偽の記載をなしたときは、これを三年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
第三十六条 左の各号の一に該当する者は、これを三年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
一 第十七条の規定に違反した者
二 第十九条の規定に違反した者
三 第二十一条の規定に違反した者
第三十七条 第三十条の規定に違反した場合においては、その行為をなした金融機関の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、これを一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
第三十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し第三十四条乃至前条の違反行為をなしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。
第三十九条 左の場合においては、金融機関の代表者は、これを三千円以下の過料に処する。
一 第二十八条第一項に規定する届出を怠つたとき
二 第二十八条第二項に規定する登記を怠つたとき
附 則
この法律は、公布の日から、これを施行する。
第十六条乃至第二十一条の規定は、指定時後の行為に、これを適用する。