朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル國立公園法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和六年三月三十一日
內閣總理大臣 濱口雄幸
大藏大臣 井上準之助
內務大臣 安達謙藏
法律第三十六號
國立公園法
第一條 國立公園ハ國立公園委員會ノ意見ヲ聽キ區域ヲ定メ主務大臣之ヲ指定ス
第二條 本法ニ於テ國立公園計畫ト稱スルハ國立公園ノ保護又ハ利用ニ關スル統制及施設ノ計畫ヲ謂ヒ國立公園事業ト稱スルハ國立公園計畫ニ基キ執行スベキ事業ニシテ道路、廣場、苑地、運動場、野營場、宿舍其ノ他命令ヲ以テ指定スル施設ニ關スルモノヲ謂フ
第三條 國立公園計畫及國立公園事業ハ國立公園委員會ノ意見ヲ聽キ主務大臣之ヲ決定ス
第四條 國立公園事業ハ行政官廳之ヲ執行ス
主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ公共團體ヲシテ國立公園事業ノ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
行政官廳又ハ公共團體ニ非ザル者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣ノ特許ヲ受ケ國立公園事業ノ一部ヲ執行スルコトヲ得
第五條 國立公園事業ノ執行ニ要スル費用ハ行政官廳之ヲ執行スル場合ニ在リテハ國庫、公共團體ヲシテ之ヲ執行セシムル場合ニ在リテハ其ノ公共團體、行政官廳又ハ公共團體ニ非ザル者之ヲ執行スル場合ニ在リテハ其ノ者ノ負擔トス
行政官廳國立公園事業ヲ執行スル場合ニ於テ主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ其ノ執行ニ要スル費用ノ一部ヲ公共團體ヲシテ負擔セシムルコトヲ得
行政官廳ニ非ザル者國立公園事業ヲ執行スル場合ニ於テ國庫ハ其ノ費用ノ一部ヲ補助スルコトヲ得
第六條 國立公園事業ノ執行ニ依リ生ジタル施設ハ其ノ事業ヲ執行シタル者之ヲ管理ス
主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ公共團體ヲ指定シテ行政官廳ノ執行スル國立公園事業ニ依リ生ジタル施設ノ管理ヲ爲サシムルコトヲ得
前二項ノ規定ハ他ノ法律ニ依リ管理者ヲ定メタル場合ニハ之ヲ適用セズ
第一項及第二項ノ規定ニ依ル管理ノ費用ハ行政官廳之ヲ管理スル場合ニ在リテハ國庫、公共團體之ヲ管理スル場合ニ在リテハ其ノ公共團體、行政官廳又ハ公共團體ニ非ザル者之ヲ管理スル場合ニ在リテハ其ノ者ノ負擔トス
第七條 行政官廳又ハ公共團體ノ管理スル國立公園ノ施設ニ付占用又ハ使用ヲ許可スルトキハ其ノ管理者ハ占用料又ハ使用料ヲ徵收スルコトヲ得但シ前條第三項ノ規定ノ適用アル場合ヲ除ク
前項ノ規定ニ依ル行政官廳ノ徵收金ハ國稅徵收法ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノトス
第八條 主務大臣ハ國立公園ノ風致維持ノ爲國立公園計畫ニ基キ其ノ區域內ニ特別地域ヲ指定スルコトヲ得
特別地域內ニ於テ左ノ各號ノ一ニ該當スル行爲ヲ爲サントスル者ハ主務大臣ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 工作物ノ新築、改築又ハ增築
二 水面ノ埋立又ハ干拓
三 鑛物ノ試掘若ハ採掘、砂鑛ノ採取又ハ土石ノ採掘
四 木竹ノ伐採
五 廣吿物、看板其ノ他之ニ關スル物件ノ設置
特別地域內ノ山林ニ對シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ地租其ノ他ノ公課ヲ免除スルコトヲ得
第九條 主務大臣ハ國立公園ノ保護又ハ利用ノ爲必要アリト認ムルトキハ其ノ區域內ニ於テ一定ノ行爲ヲ禁止若ハ制限シ又ハ必要ナル措置ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ一定ノ行爲ヲ禁止セラレ又ハ措置ヲ命ゼラレタルガ爲損害ヲ被リタル私人ニ對シテハ通常生ズベキ損害ニ限リ國庫之ヲ補償ス
勅令ノ定ムル所ニ依リ國庫ハ第一項ノ規定ニ依リ一定ノ行爲ヲ著シク制限セラレタル爲損害ヲ被リタル私人ニ對シ其ノ損害ヲ補償スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル補償金額ハ主務大臣之ヲ決定ス其ノ決定ニ對シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ズ
第十條 主務大臣ハ第八條第二項ノ規定、同條同項ノ許可ニ附シタル條件又ハ前條第一項ノ命令若ハ處分ニ違反シタル者ニ對シ原狀囘復ヲ命ズルコトヲ得
第十一條 國立公園ニ關シ實地調查ノ爲必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ、目標ヲ設置シ又ハ障碍物ヲ除却スルコトヲ得但シ行政官廳ニ於テハ地方長官ニ通知シテ之ヲ行フコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ豫メ其ノ旨ヲ土地ノ所有者及占有者ニ通知スベシ
第一項ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ同項但書ノ場合ヲ除クノ外其ノ行爲ヲ爲シタル者之ヲ補償スベシ
前項ノ規定ニ依ル補償金額ニ付協議調ハズ又ハ協議ヲ爲スコト能ハザルトキハ許可ヲ爲シタル地方長官之ヲ裁定ス其ノ裁定ニ對シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ズ
第一項但書ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ國庫之ヲ補償ス
第九條第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十二條 國立公園委員會ノ組織及權限ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官廳ノ爲シタル處分ニ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
本法ニ依リ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ズ
第十四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官廳ノ爲シタル違法處分ニ因リ權利ヲ毀損セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十五條 第八條第二項ノ規定、同條同項ノ許可ニ附シタル條件又ハ第九條第一項ノ命令若ハ處分ニ違反シタル者ハ二百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第十六條 主務大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ニ規定シタル職權ノ一部ヲ地方長官ニ委任スルコトヲ得
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル国立公園法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和六年三月三十一日
内閣総理大臣 浜口雄幸
大蔵大臣 井上準之助
内務大臣 安達謙蔵
法律第三十六号
国立公園法
第一条 国立公園ハ国立公園委員会ノ意見ヲ聴キ区域ヲ定メ主務大臣之ヲ指定ス
第二条 本法ニ於テ国立公園計画ト称スルハ国立公園ノ保護又ハ利用ニ関スル統制及施設ノ計画ヲ謂ヒ国立公園事業ト称スルハ国立公園計画ニ基キ執行スベキ事業ニシテ道路、広場、苑地、運動場、野営場、宿舎其ノ他命令ヲ以テ指定スル施設ニ関スルモノヲ謂フ
第三条 国立公園計画及国立公園事業ハ国立公園委員会ノ意見ヲ聴キ主務大臣之ヲ決定ス
第四条 国立公園事業ハ行政官庁之ヲ執行ス
主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ公共団体ヲシテ国立公園事業ノ一部ヲ執行セシムルコトヲ得
行政官庁又ハ公共団体ニ非ザル者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣ノ特許ヲ受ケ国立公園事業ノ一部ヲ執行スルコトヲ得
第五条 国立公園事業ノ執行ニ要スル費用ハ行政官庁之ヲ執行スル場合ニ在リテハ国庫、公共団体ヲシテ之ヲ執行セシムル場合ニ在リテハ其ノ公共団体、行政官庁又ハ公共団体ニ非ザル者之ヲ執行スル場合ニ在リテハ其ノ者ノ負担トス
行政官庁国立公園事業ヲ執行スル場合ニ於テ主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ其ノ執行ニ要スル費用ノ一部ヲ公共団体ヲシテ負担セシムルコトヲ得
行政官庁ニ非ザル者国立公園事業ヲ執行スル場合ニ於テ国庫ハ其ノ費用ノ一部ヲ補助スルコトヲ得
第六条 国立公園事業ノ執行ニ依リ生ジタル施設ハ其ノ事業ヲ執行シタル者之ヲ管理ス
主務大臣特別ノ事由アリト認ムルトキハ公共団体ヲ指定シテ行政官庁ノ執行スル国立公園事業ニ依リ生ジタル施設ノ管理ヲ為サシムルコトヲ得
前二項ノ規定ハ他ノ法律ニ依リ管理者ヲ定メタル場合ニハ之ヲ適用セズ
第一項及第二項ノ規定ニ依ル管理ノ費用ハ行政官庁之ヲ管理スル場合ニ在リテハ国庫、公共団体之ヲ管理スル場合ニ在リテハ其ノ公共団体、行政官庁又ハ公共団体ニ非ザル者之ヲ管理スル場合ニ在リテハ其ノ者ノ負担トス
第七条 行政官庁又ハ公共団体ノ管理スル国立公園ノ施設ニ付占用又ハ使用ヲ許可スルトキハ其ノ管理者ハ占用料又ハ使用料ヲ徴収スルコトヲ得但シ前条第三項ノ規定ノ適用アル場合ヲ除ク
前項ノ規定ニ依ル行政官庁ノ徴収金ハ国税徴収法ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得但シ先取特権ノ順位ハ国税ニ次グモノトス
第八条 主務大臣ハ国立公園ノ風致維持ノ為国立公園計画ニ基キ其ノ区域内ニ特別地域ヲ指定スルコトヲ得
特別地域内ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スル行為ヲ為サントスル者ハ主務大臣ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ許可ヲ要セズト規定シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
一 工作物ノ新築、改築又ハ増築
二 水面ノ埋立又ハ干拓
三 鉱物ノ試掘若ハ採掘、砂鉱ノ採取又ハ土石ノ採掘
四 木竹ノ伐採
五 広告物、看板其ノ他之ニ関スル物件ノ設置
特別地域内ノ山林ニ対シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ地租其ノ他ノ公課ヲ免除スルコトヲ得
第九条 主務大臣ハ国立公園ノ保護又ハ利用ノ為必要アリト認ムルトキハ其ノ区域内ニ於テ一定ノ行為ヲ禁止若ハ制限シ又ハ必要ナル措置ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ一定ノ行為ヲ禁止セラレ又ハ措置ヲ命ゼラレタルガ為損害ヲ被リタル私人ニ対シテハ通常生ズベキ損害ニ限リ国庫之ヲ補償ス
勅令ノ定ムル所ニ依リ国庫ハ第一項ノ規定ニ依リ一定ノ行為ヲ著シク制限セラレタル為損害ヲ被リタル私人ニ対シ其ノ損害ヲ補償スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル補償金額ハ主務大臣之ヲ決定ス其ノ決定ニ対シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ズ
第十条 主務大臣ハ第八条第二項ノ規定、同条同項ノ許可ニ附シタル条件又ハ前条第一項ノ命令若ハ処分ニ違反シタル者ニ対シ原状回復ヲ命ズルコトヲ得
第十一条 国立公園ニ関シ実地調査ノ為必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ、目標ヲ設置シ又ハ障碍物ヲ除却スルコトヲ得但シ行政官庁ニ於テハ地方長官ニ通知シテ之ヲ行フコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ予メ其ノ旨ヲ土地ノ所有者及占有者ニ通知スベシ
第一項ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ同項但書ノ場合ヲ除クノ外其ノ行為ヲ為シタル者之ヲ補償スベシ
前項ノ規定ニ依ル補償金額ニ付協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ許可ヲ為シタル地方長官之ヲ裁定ス其ノ裁定ニ対シテ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三月以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ訴願シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ズ
第一項但書ノ場合ニ於テ通常生ズベキ損害ハ国庫之ヲ補償ス
第九条第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十二条 国立公園委員会ノ組織及権限ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官庁ノ為シタル処分ニ不服アル者ハ訴願スルコトヲ得
本法ニ依リ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得ル場合ニ於テハ主務大臣ニ訴願スルコトヲ得ズ
第十四条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル事項ニ付行政官庁ノ為シタル違法処分ニ因リ権利ヲ毀損セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十五条 第八条第二項ノ規定、同条同項ノ許可ニ附シタル条件又ハ第九条第一項ノ命令若ハ処分ニ違反シタル者ハ二百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第十六条 主務大臣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ニ規定シタル職権ノ一部ヲ地方長官ニ委任スルコトヲ得
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム