朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國議會ノ協贊ヲ經タル會計法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月七日
內閣總理大臣 原敬
海軍大臣 男爵 加藤友三郞
外務大臣 伯爵 內田康哉
大藏大臣 子爵 高橋是淸
陸軍大臣 男爵 田中義一
農商務大臣 男爵 山本達雄
內務大臣 床次竹二郞
文部大臣 中橋德五郞
遞信大臣 野田卯太郞
鐵道大臣 元田肇
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十二號
會計法
第一章 總則
第一條 政府ノ會計年度ハ每年四月一日ニ始リ翌年三月三十一日ニ終ル
一會計年度所屬ノ歲入歲出ノ出納ニ關スル事務ハ翌年度七月三十一日迄ニ悉皆完結スヘシ
第二條 租稅其ノ他一切ノ收納ヲ歲入トシ一切ノ經費ヲ歲出トシ歲入歲出ハ之ヲ總豫算ニ編入スヘシ
第三條 每會計年度ニ於ケル經費ノ定額ハ其ノ年度ノ歲入ヲ以テ之ヲ支辨スヘシ
第四條 各官廳ニ於テハ法律勅令ヲ以テ規定シタルモノヲ除クノ外特別ノ資金ヲ有スルコトヲ得ス
第五條 政府ハ日本銀行ヲシテ國庫金出納ノ事務ヲ取扱ハシム
前項ノ規定ニ依リ日本銀行ニ於テ受入レタル國庫金ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ預金トス
第六條 政府ハ國庫金出納上必要アルトキハ大藏省證券ヲ發行シ又ハ日本銀行ヨリ借入ヲ爲スコトヲ得
大藏省證券及借入金ハ當該年度ノ歲入ヲ以テ之ヲ償還スヘシ
大藏省證券及借入金ノ最高額ハ每年度帝國議會ノ協贊ヲ經テ之ヲ定ム
第二章 豫算
第七條 歲入歲出ノ總豫算ハ前年ノ帝國議會集會ノ始ニ於テ之ヲ提出スヘシ
必要避クヘカラサル經費及法律又ハ契約ニ基ク經費ニ不足ヲ生シタル場合ヲ除クノ外追加豫算ヲ提出スルコトヲ得ス
第八條 歲入歲出ノ總豫算ハ經常臨時ノ二部ニ大別シ各部中ニ於テ之ヲ款項ニ區分スヘシ
總豫算ニハ帝國議會參考ノ爲ニ左ノ文書ヲ添附スヘシ
一 歲入豫算明細書
二 各省ノ豫定經費要求書但シ各項中各目ノ明細ヲ記入スヘシ
第九條 豫算中ニ設クヘキ豫備費ハ左ノ二項ニ分ツ
第一豫備金
第二豫備金
第一豫備金ハ避クヘカラサル豫算ノ不足ヲ補フモノトス
第二豫備金ハ豫算外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツルモノトス
第十條 豫備金ヲ以テ支辨シタルモノハ其ノ第一豫備金支出ニ係ルモノハ年度經過後其ノ第二豫備金支出ニ係ルモノハ次ノ常會ニ於テ帝國議會ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルコトヲ要ス
第十一條 政府ハ豫算ニ定ムルモノ及特ニ帝國議會ノ協贊ヲ經タルモノヲ除クノ外災害事變其ノ他避クヘカラサル事由アル場合ニ於テハ翌年度ニ亙ル契約ヲ締結スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ翌年度ニ亙ル契約ヲ爲スコトヲ得ヘキ金額ハ每年度帝國議會ノ協贊ヲ經テ之ヲ定ム
第三章 收入
第十二條 租稅其ノ他ノ歲入ハ法令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ徵收又ハ收納スヘシ
法令ノ定ムル所ニ依リ當該官吏ノ資格アル者ニ非サレハ租稅其ノ他ノ歲入ヲ徵收又ハ收納スルコトヲ得ス但シ各廳事務員ヲシテ收納ヲ分掌セシムル場合又ハ日本銀行ヲシテ收納ヲ取扱ハシムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第四章 支出
第十三條 各年度ニ於テ決定シタル經費ノ定額ヲ以テ他ノ年度ニ屬スヘキ經費ニ充ツルコトヲ得ス
第十四條 國務大臣ハ其ノ所管ニ屬スル收入ヲ國庫ニ納ムヘシ直ニ之ヲ使用スルコトヲ得ス
國務大臣ハ豫算ニ定メタル目的ノ外ニ定額ヲ使用シ又ハ各項ノ金額ヲ彼此流用スルコトヲ得ス
第十五條 國務大臣其ノ所管定額ヲ支出セムトスルトキハ現金ノ交付ニ代ヘ日本銀行ヲ支拂人トスル小切手ヲ振出スヘシ但シ他ノ官吏ニ委任シテ小切手ヲ振出サシムルコトヲ得
第十六條 國務大臣ハ債主ノ爲ニスルニ非サレハ小切手ヲ振出スコトヲ得ス但シ以下四條ノ規定ニ依リ主任ノ官吏又ハ日本銀行ニ對シ資金ヲ交付スル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第十七條 國務大臣ハ勅令ヲ以テ定ムル經費ニ限リ主任ノ官吏ヲシテ現金支拂ヲ爲サシムル爲勅令ノ定ムル所ニ依リ之カ資金ヲ當該官吏ニ交付スルコトヲ得
第十八條 國務大臣ハ日本銀行ニ命シ國債ノ元利拂ヲ爲サシムル爲之カ資金ヲ日本銀行ニ交付スルコトヲ得
第十九條 國務大臣ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ現金支拂ヲ爲サシムル爲當該官吏ヲシテ其ノ保管ニ係ル歲入金、歲出金又ハ歲入歲出外現金ヲ繰替使用セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ歲出金ニ繰替使用シタル現金ヲ補塡スル爲國務大臣ハ之カ資金ヲ當該官吏ニ交付スルコトヲ得
第二十條 國務大臣隔地者ニ支拂ヲ爲サムトスルトキハ必要ナル資金ヲ日本銀行ニ交付シ之カ支拂ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ規定ハ隔地ノ出納官吏ニ資金ヲ交付セムトスル場合ニ之ヲ準用ス
第二十一條 國務大臣ハ勅令ヲ以テ定メタル場合ニ限リ前金拂又ハ槪算拂ヲ爲スコトヲ得但シ軍艦、兵器、弾藥若ハ外國ヨリ直接購入スル機械圖書ノ代價及官公署ニ對シ支拂フヘキ經費ヲ除クノ外物件ノ製造若ハ買入又ハ工事ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十二條 國務大臣ハ特殊ノ經理ヲ必要トスル場合ニ限リ勅令ノ定ムル所ニ依リ各廳事務費ノ全部又ハ一部ヲ主務官吏ニ對シ渡切ヲ以テ支給スルコトヲ得
第五章 決算
第二十三條 會計檢查院ノ檢查ヲ經テ政府ヨリ帝國議會ニ提出スル歲入歲出ノ總決算ハ翌年開會ノ常會ニ於テ帝國議會ニ之ヲ提出スヘシ
第二十四條 總決算ハ總豫算ト同一ノ樣式ヲ用井左ノ事項ノ計算ヲ明記スヘシ
歲入ノ部
歲入豫算額
調定濟歲入額
收入濟歲入額
不納缺損額
收入未濟歲入額
歲出ノ部
歲出豫算額
豫算決定後增加歲出額
支出濟歲出額
翌年度繰越額
不用額
第二十五條 總決算ニハ會計檢查院ノ檢查報告ト倶ニ左ノ文書ヲ添附スヘシ
一 歲入決算明細書
二 各省決算報告書
三 國債計算書
第六章 歲計剩餘定額繰越過年度支出豫算外收入及定額戾入
第二十六條 各年度ニ於テ歲計ニ剩餘アルトキハ其ノ翌年度ノ歲入ニ繰入ルヘシ
第二十七條 豫算ニ於テ特ニ明許シタルモノ及一年度內ニ終ルヘキ工事製造又ハ物品ノ買入若ハ運搬ニシテ避クヘカラサル事故ノ爲ニ竣功又ハ納入若ハ運搬ヲ遲延シ年度內ニ其ノ經費ノ支出ヲ終ラサリシモノハ之ヲ翌年度ニ繰越シ使用スルコトヲ得
第二十八條 數年ヲ期シテ竣功スヘキ工事製造其ノ他ノ事業ニシテ繼續費トシテ總額ヲ定メタルモノハ每年度ノ支出殘額ヲ竣功年度迄遞次繰越シ使用スルコトヲ得
第二十九條 過年度ニ屬スル經費ハ現年度定額ヨリ支出スヘシ但シ豫備金ヲ以テ補充シ得ヘキモノヲ除クノ外其ノ經費所屬年度ノ每項定額中不用ト爲リタル金額ヲ超過スルコトヲ得ス
第三十條 出納ノ完結シタル年度ニ屬スル收入其ノ他豫算外ノ收入ハ總テ現年度ノ歲入ニ組入ルヘシ但シ支出濟歲出ノ返納金ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ各之ヲ支拂ヒタル經費ノ定額ニ戾入ルルコトヲ得
第七章 契約
第三十一條 政府ニ於テ賣買貸借請負其ノ他ノ契約ヲ爲サムトスルトキハ勅令ヲ以テ定メタル場合ヲ除クノ外總テ公告シテ競爭ニ付スヘシ
國務大臣前項ノ方法ニ依リ契約ヲ爲スヲ不利ト認ムル場合ニ於テハ指名競爭ニ付シ又ハ隨意契約ニ依ルコトヲ得但シ不動產賣拂ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八章 時效
第三十二條 金錢ノ給付ヲ目的トスル政府ノ權利ニシテ時效ニ關シ他ノ法律ニ規定ナキトキハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス政府ニ對スル權利ニシテ金錢ノ給付ヲ目的トスルモノニ付亦同シ
第三十三條 金錢ノ給付ヲ目的トスル政府ノ權利ニ付消滅時效ノ中斷停止其ノ他ノ事項ニ關シ適用スヘキ他ノ法律ノ規定ナキトキハ民法ノ規定ヲ準用ス政府ニ對スル權利ニシテ金錢ノ給付ヲ目的トスルモノニ付亦同シ
第三十四條 法令ノ規定ニ依リ政府ノ爲ス納入ノ告知ハ民法第百五十三條ノ規定ニ拘ラス時效中斷ノ效力ヲ有ス
第九章 出納官吏
第三十五條 出納官吏ハ法令ノ定ムル所ニ依リ現金又ハ物品ヲ出納保管スヘシ
出納官吏ハ其ノ出納保管ニ係ル現金又ハ物品ニ付一切ノ責任ヲ負ヒ會計檢查院ノ檢查判決ヲ受クヘシ
第三十六條 出納官吏其ノ保管ニ係ル現金又ハ物品ヲ亡失毀損シタルトキハ善良ナル管理者ノ注意ヲ怠ラサリシコトヲ會計檢查院ニ證明シ責任解除ノ判決ヲ受クルニ非サレハ其ノ亡失毀損ニ付辨償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第三十七條 國務大臣ハ特ニ必要アル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ各廳ノ事務員ヲシテ現金又ハ物品ノ出納保管ヲ分掌セシムルコトヲ得
出納官吏ニ關スル規定ハ前項ノ事務員ニ付之ヲ準用ス
第三十八條 第十五條ニ定メタル小切手振出ノ職務ハ現金出納ノ職務ト相兼ヌルコトヲ得ス
第十章 雜則
第三十九條 特別ノ須要ニ因リ本法ニ準據シ難キモノアルトキハ特別會計ヲ設置スルコトヲ得
特別會計ヲ設置スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
第四十條 政府ハ其ノ所有又ハ保管ニ係ル有價證券ノ取扱ヲ日本銀行ニ命スルコトヲ得
第四十一條 日本銀行ハ其ノ取扱ヒタル國庫金ノ出納、國債ノ發行ニ依ル收入金ノ收支、第十八條又ハ第二十條ノ規定ニ依リ交付ヲ受ケタル資金ノ收支及前條ノ規定ニ依リ取扱ヒタル有價證券ノ受拂ニ關シ會計檢查院ノ檢查ヲ受クヘシ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治二十七年法律第十六號、明治三十三年法律第五十號及明治四十四年法律第二十四號ハ之ヲ廢止ス
本法施行前ニ爲シタル第二豫備金ノ支出竝本法施行ノ日ノ屬スル年度ノ前年度及前々年度ノ決算ニ付テハ仍從前ノ例ニ依ル
本法施行前ニ期滿免除ト爲ラサル權利ニ付テハ本法其ノ他ノ法律中時效ニ關スル規定ヲ適用ス但シ其ノ期間ノ起算點ニ付テハ從前ノ規定ニ依ル
本法施行前ニ進行ヲ始メタル期滿免除ノ期間カ本法其ノ他ノ法律ニ定メタル時效ノ期間ヨリ長キトキハ從前ノ規定ニ依ル但シ其ノ殘期カ本法施行ノ日ヨリ起算シ本法其ノ他ノ法律ニ定メタル時效ノ期間ヨリ長キトキハ其ノ日ヨリ起算シテ本法其ノ他ノ法律ヲ適用ス
前三項ニ規定スルモノヲ除クノ外本法ノ施行ニ關シ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ帝国議会ノ協賛ヲ経タル会計法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月七日
内閣総理大臣 原敬
海軍大臣 男爵 加藤友三郎
外務大臣 伯爵 内田康哉
大蔵大臣 子爵 高橋是清
陸軍大臣 男爵 田中義一
農商務大臣 男爵 山本達雄
内務大臣 床次竹二郎
文部大臣 中橋徳五郎
逓信大臣 野田卯太郎
鉄道大臣 元田肇
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十二号
会計法
第一章 総則
第一条 政府ノ会計年度ハ毎年四月一日ニ始リ翌年三月三十一日ニ終ル
一会計年度所属ノ歳入歳出ノ出納ニ関スル事務ハ翌年度七月三十一日迄ニ悉皆完結スヘシ
第二条 租税其ノ他一切ノ収納ヲ歳入トシ一切ノ経費ヲ歳出トシ歳入歳出ハ之ヲ総予算ニ編入スヘシ
第三条 毎会計年度ニ於ケル経費ノ定額ハ其ノ年度ノ歳入ヲ以テ之ヲ支弁スヘシ
第四条 各官庁ニ於テハ法律勅令ヲ以テ規定シタルモノヲ除クノ外特別ノ資金ヲ有スルコトヲ得ス
第五条 政府ハ日本銀行ヲシテ国庫金出納ノ事務ヲ取扱ハシム
前項ノ規定ニ依リ日本銀行ニ於テ受入レタル国庫金ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ預金トス
第六条 政府ハ国庫金出納上必要アルトキハ大蔵省証券ヲ発行シ又ハ日本銀行ヨリ借入ヲ為スコトヲ得
大蔵省証券及借入金ハ当該年度ノ歳入ヲ以テ之ヲ償還スヘシ
大蔵省証券及借入金ノ最高額ハ毎年度帝国議会ノ協賛ヲ経テ之ヲ定ム
第二章 予算
第七条 歳入歳出ノ総予算ハ前年ノ帝国議会集会ノ始ニ於テ之ヲ提出スヘシ
必要避クヘカラサル経費及法律又ハ契約ニ基ク経費ニ不足ヲ生シタル場合ヲ除クノ外追加予算ヲ提出スルコトヲ得ス
第八条 歳入歳出ノ総予算ハ経常臨時ノ二部ニ大別シ各部中ニ於テ之ヲ款項ニ区分スヘシ
総予算ニハ帝国議会参考ノ為ニ左ノ文書ヲ添附スヘシ
一 歳入予算明細書
二 各省ノ予定経費要求書但シ各項中各目ノ明細ヲ記入スヘシ
第九条 予算中ニ設クヘキ予備費ハ左ノ二項ニ分ツ
第一予備金
第二予備金
第一予備金ハ避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フモノトス
第二予備金ハ予算外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツルモノトス
第十条 予備金ヲ以テ支弁シタルモノハ其ノ第一予備金支出ニ係ルモノハ年度経過後其ノ第二予備金支出ニ係ルモノハ次ノ常会ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルコトヲ要ス
第十一条 政府ハ予算ニ定ムルモノ及特ニ帝国議会ノ協賛ヲ経タルモノヲ除クノ外災害事変其ノ他避クヘカラサル事由アル場合ニ於テハ翌年度ニ亘ル契約ヲ締結スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ翌年度ニ亘ル契約ヲ為スコトヲ得ヘキ金額ハ毎年度帝国議会ノ協賛ヲ経テ之ヲ定ム
第三章 収入
第十二条 租税其ノ他ノ歳入ハ法令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ徴収又ハ収納スヘシ
法令ノ定ムル所ニ依リ当該官吏ノ資格アル者ニ非サレハ租税其ノ他ノ歳入ヲ徴収又ハ収納スルコトヲ得ス但シ各庁事務員ヲシテ収納ヲ分掌セシムル場合又ハ日本銀行ヲシテ収納ヲ取扱ハシムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第四章 支出
第十三条 各年度ニ於テ決定シタル経費ノ定額ヲ以テ他ノ年度ニ属スヘキ経費ニ充ツルコトヲ得ス
第十四条 国務大臣ハ其ノ所管ニ属スル収入ヲ国庫ニ納ムヘシ直ニ之ヲ使用スルコトヲ得ス
国務大臣ハ予算ニ定メタル目的ノ外ニ定額ヲ使用シ又ハ各項ノ金額ヲ彼此流用スルコトヲ得ス
第十五条 国務大臣其ノ所管定額ヲ支出セムトスルトキハ現金ノ交付ニ代ヘ日本銀行ヲ支払人トスル小切手ヲ振出スヘシ但シ他ノ官吏ニ委任シテ小切手ヲ振出サシムルコトヲ得
第十六条 国務大臣ハ債主ノ為ニスルニ非サレハ小切手ヲ振出スコトヲ得ス但シ以下四条ノ規定ニ依リ主任ノ官吏又ハ日本銀行ニ対シ資金ヲ交付スル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第十七条 国務大臣ハ勅令ヲ以テ定ムル経費ニ限リ主任ノ官吏ヲシテ現金支払ヲ為サシムル為勅令ノ定ムル所ニ依リ之カ資金ヲ当該官吏ニ交付スルコトヲ得
第十八条 国務大臣ハ日本銀行ニ命シ国債ノ元利払ヲ為サシムル為之カ資金ヲ日本銀行ニ交付スルコトヲ得
第十九条 国務大臣ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ現金支払ヲ為サシムル為当該官吏ヲシテ其ノ保管ニ係ル歳入金、歳出金又ハ歳入歳出外現金ヲ繰替使用セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ歳出金ニ繰替使用シタル現金ヲ補填スル為国務大臣ハ之カ資金ヲ当該官吏ニ交付スルコトヲ得
第二十条 国務大臣隔地者ニ支払ヲ為サムトスルトキハ必要ナル資金ヲ日本銀行ニ交付シ之カ支払ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ規定ハ隔地ノ出納官吏ニ資金ヲ交付セムトスル場合ニ之ヲ準用ス
第二十一条 国務大臣ハ勅令ヲ以テ定メタル場合ニ限リ前金払又ハ概算払ヲ為スコトヲ得但シ軍艦、兵器、弾薬若ハ外国ヨリ直接購入スル機械図書ノ代価及官公署ニ対シ支払フヘキ経費ヲ除クノ外物件ノ製造若ハ買入又ハ工事ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十二条 国務大臣ハ特殊ノ経理ヲ必要トスル場合ニ限リ勅令ノ定ムル所ニ依リ各庁事務費ノ全部又ハ一部ヲ主務官吏ニ対シ渡切ヲ以テ支給スルコトヲ得
第五章 決算
第二十三条 会計検査院ノ検査ヲ経テ政府ヨリ帝国議会ニ提出スル歳入歳出ノ総決算ハ翌年開会ノ常会ニ於テ帝国議会ニ之ヲ提出スヘシ
第二十四条 総決算ハ総予算ト同一ノ様式ヲ用井左ノ事項ノ計算ヲ明記スヘシ
歳入ノ部
歳入予算額
調定済歳入額
収入済歳入額
不納欠損額
収入未済歳入額
歳出ノ部
歳出予算額
予算決定後増加歳出額
支出済歳出額
翌年度繰越額
不用額
第二十五条 総決算ニハ会計検査院ノ検査報告ト倶ニ左ノ文書ヲ添附スヘシ
一 歳入決算明細書
二 各省決算報告書
三 国債計算書
第六章 歳計剰余定額繰越過年度支出予算外収入及定額戻入
第二十六条 各年度ニ於テ歳計ニ剰余アルトキハ其ノ翌年度ノ歳入ニ繰入ルヘシ
第二十七条 予算ニ於テ特ニ明許シタルモノ及一年度内ニ終ルヘキ工事製造又ハ物品ノ買入若ハ運搬ニシテ避クヘカラサル事故ノ為ニ竣功又ハ納入若ハ運搬ヲ遅延シ年度内ニ其ノ経費ノ支出ヲ終ラサリシモノハ之ヲ翌年度ニ繰越シ使用スルコトヲ得
第二十八条 数年ヲ期シテ竣功スヘキ工事製造其ノ他ノ事業ニシテ継続費トシテ総額ヲ定メタルモノハ毎年度ノ支出残額ヲ竣功年度迄逓次繰越シ使用スルコトヲ得
第二十九条 過年度ニ属スル経費ハ現年度定額ヨリ支出スヘシ但シ予備金ヲ以テ補充シ得ヘキモノヲ除クノ外其ノ経費所属年度ノ毎項定額中不用ト為リタル金額ヲ超過スルコトヲ得ス
第三十条 出納ノ完結シタル年度ニ属スル収入其ノ他予算外ノ収入ハ総テ現年度ノ歳入ニ組入ルヘシ但シ支出済歳出ノ返納金ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ各之ヲ支払ヒタル経費ノ定額ニ戻入ルルコトヲ得
第七章 契約
第三十一条 政府ニ於テ売買貸借請負其ノ他ノ契約ヲ為サムトスルトキハ勅令ヲ以テ定メタル場合ヲ除クノ外総テ公告シテ競争ニ付スヘシ
国務大臣前項ノ方法ニ依リ契約ヲ為スヲ不利ト認ムル場合ニ於テハ指名競争ニ付シ又ハ随意契約ニ依ルコトヲ得但シ不動産売払ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八章 時効
第三十二条 金銭ノ給付ヲ目的トスル政府ノ権利ニシテ時効ニ関シ他ノ法律ニ規定ナキトキハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス政府ニ対スル権利ニシテ金銭ノ給付ヲ目的トスルモノニ付亦同シ
第三十三条 金銭ノ給付ヲ目的トスル政府ノ権利ニ付消滅時効ノ中断停止其ノ他ノ事項ニ関シ適用スヘキ他ノ法律ノ規定ナキトキハ民法ノ規定ヲ準用ス政府ニ対スル権利ニシテ金銭ノ給付ヲ目的トスルモノニ付亦同シ
第三十四条 法令ノ規定ニ依リ政府ノ為ス納入ノ告知ハ民法第百五十三条ノ規定ニ拘ラス時効中断ノ効力ヲ有ス
第九章 出納官吏
第三十五条 出納官吏ハ法令ノ定ムル所ニ依リ現金又ハ物品ヲ出納保管スヘシ
出納官吏ハ其ノ出納保管ニ係ル現金又ハ物品ニ付一切ノ責任ヲ負ヒ会計検査院ノ検査判決ヲ受クヘシ
第三十六条 出納官吏其ノ保管ニ係ル現金又ハ物品ヲ亡失毀損シタルトキハ善良ナル管理者ノ注意ヲ怠ラサリシコトヲ会計検査院ニ証明シ責任解除ノ判決ヲ受クルニ非サレハ其ノ亡失毀損ニ付弁償ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第三十七条 国務大臣ハ特ニ必要アル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ各庁ノ事務員ヲシテ現金又ハ物品ノ出納保管ヲ分掌セシムルコトヲ得
出納官吏ニ関スル規定ハ前項ノ事務員ニ付之ヲ準用ス
第三十八条 第十五条ニ定メタル小切手振出ノ職務ハ現金出納ノ職務ト相兼ヌルコトヲ得ス
第十章 雑則
第三十九条 特別ノ須要ニ因リ本法ニ準拠シ難キモノアルトキハ特別会計ヲ設置スルコトヲ得
特別会計ヲ設置スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
第四十条 政府ハ其ノ所有又ハ保管ニ係ル有価証券ノ取扱ヲ日本銀行ニ命スルコトヲ得
第四十一条 日本銀行ハ其ノ取扱ヒタル国庫金ノ出納、国債ノ発行ニ依ル収入金ノ収支、第十八条又ハ第二十条ノ規定ニ依リ交付ヲ受ケタル資金ノ収支及前条ノ規定ニ依リ取扱ヒタル有価証券ノ受払ニ関シ会計検査院ノ検査ヲ受クヘシ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
明治二十七年法律第十六号、明治三十三年法律第五十号及明治四十四年法律第二十四号ハ之ヲ廃止ス
本法施行前ニ為シタル第二予備金ノ支出並本法施行ノ日ノ属スル年度ノ前年度及前々年度ノ決算ニ付テハ仍従前ノ例ニ依ル
本法施行前ニ期満免除ト為ラサル権利ニ付テハ本法其ノ他ノ法律中時効ニ関スル規定ヲ適用ス但シ其ノ期間ノ起算点ニ付テハ従前ノ規定ニ依ル
本法施行前ニ進行ヲ始メタル期満免除ノ期間カ本法其ノ他ノ法律ニ定メタル時効ノ期間ヨリ長キトキハ従前ノ規定ニ依ル但シ其ノ残期カ本法施行ノ日ヨリ起算シ本法其ノ他ノ法律ニ定メタル時効ノ期間ヨリ長キトキハ其ノ日ヨリ起算シテ本法其ノ他ノ法律ヲ適用ス
前三項ニ規定スルモノヲ除クノ外本法ノ施行ニ関シ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム