朕陸軍幼年學校令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正九年八月七日
內閣總理大臣 原敬
陸軍大臣 田中義一
勅令第二百三十七號
陸軍幼年學校令
第一條 陸軍幼年學校ハ陸軍將校タルコトヲ志願スル者ノ中ヨリ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ選拔セラレタル生徒ニ陸軍士官學校豫科生徒タルニ必要ナル素養ヲ與フル爲軍事上ノ必要ヲ顧慮シテ普通學科ヲ敎授シ軍人精神ヲ涵養スル所トス
第二條 陸軍幼年學校ハ左ノ六箇所ニ置ク
東京
仙臺
名古屋
大阪
廣島
熊本
第三條 生徒ノ敎育ヲ分チテ敎授及訓育トシ其ノ敎育綱領ハ敎育總監之ヲ定ム
第四條 生徒ノ敎育ノ實施ハ敎則ニ依ル其ノ敎則ハ前條ノ敎育綱領ニ基キ校長案ヲ具シ敎育總監ニ上申シ敎育總監之ヲ裁定ス
第五條 陸軍幼年學校ニ左ノ職員ヲ置ク
校長
副官
敎官
生徒監主事
生徒監
主計
軍醫
下士、判任文官
前項ノ職員中將校同相當官及下士ヲ以テ之ニ充ツル者ニ在リテハ豫備役又ハ後備役ノ者ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
第六條 校長ハ敎育總監ニ隸シ校務ヲ總理ス
第七條 副官ハ校長ノ命ヲ承ケ庶務ヲ掌ル
第八條 敎官ハ校長ノ命ヲ承ケ各科目ノ敎授ヲ擔任ス
校長ハ敎官ノ內一人ヲ敎頭ト爲シ校長ノ命ヲ承ケ敎務ヲ監理セシム
第九條 生徒監主事ハ校長ノ命ヲ承ケ訓育ヲ監理ス
第十條 生徒監ハ生徒監主事ノ命ヲ承ケ訓育ヲ擔任ス
第十一條 主計及軍醫ハ校長ノ命ヲ承ケ各其ノ擔任ノ業務ヲ掌ル
第十二條 下士及判任文官ハ上官ノ命ヲ承ケ服務ス
第十三條 武官タル職員ニハ便宜ノ時期ニ於テ隊附勤務ヲ爲サシムルコトアルヘシ
第十四條 生徒ノ修業期間ハ三年トシ之ヲ三學年ニ分チ各學年ハ四月ヨリ翌年三月ニ至ル
第十五條 生徒ハ校內ニ居住セシメ其ノ修學ニ要スル兵器、圖書、器具及消耗品ハ之ヲ貸付シ又ハ支給スルコトヲ得
第十六條 生徒ハ在校中被服、糧食其ノ他ノ費用トシテ若干ノ納金ヲ爲スモノトス
生徒中左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ資產ヲ顧慮シ若干名ヲ限リ特ニ納金ノ全額又ハ一部ヲ免除スルコトヲ得
一 戰死シ又ハ公務ニ因リ傷痍ヲ受ケ若ハ疾病ニ罹リ之カ爲死亡シタル軍人又ハ文官ノ子
二 軍人恩給法ニ依リ退職恩給、免除恩給又ハ增加恩給ノ權ヲ得タル軍人ノ子
三 現役中ノ陸海軍佐官同相當官以下ノ高等武官又ハ十一年以上軍務ニ精勵シタル陸海軍准士官以下ノ軍人ノ子
十五年以上陸海軍部內ニ在リテ軍務ニ精勵シタル奏任又ハ判任ノ文官ノ子
四 特ニ國家ニ功勞アル軍人又ハ文官ニシテ死亡シタルモノノ子
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ子ハ父ト同一ノ家ニ在ルモノニ限リ養子ニ在リテハ前項ニ規定スル軍人又ハ文官ノ家督相續人タルモノニ限ル
第十七條 前條ノ規定ニ依リ納金ノ全額ヲ收ムル者ヲ自費生ト稱ス其ノ納金ノ全額ヲ免除セラレタル者ヲ特待生、其ノ一部ヲ免除セラレタル者ヲ半特待生ト稱ス
第十八條 特待生及半特待生ト爲スヘキ人員及其ノ區分ハ敎育總監陸軍大臣ニ協議シテ之ヲ定ム
第十九條 自費生及半特待生ノ納金額ハ陸軍大臣之ヲ定ム
第二十條 生徒中已ムヲ得サル事故ニ因リ退校ヲ願出ツル者アルトキハ其ノ事情ニ依リ之ヲ許可スルコトアルヘシ
第二十一條 生徒左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ之ヲ退校セシム
一 學術ノ成績不良ニシテ卒業ノ目途ナキ者
二 屢法則ヲ犯シ又ハ品行不正ニシテ改悛ノ目途ナキ者
三 傷痍疾病ニ因リ修業ニ堪ヘサル者
四 前各號ノ外將來陸軍將校タルニ適セスト認ムル者
前項各號ノ外納金滯納ノ場合ニハ退校セシムルコトアルヘシ
第二十二條 生徒中傷痍疾病其ノ他ノ事故ニ因リ各學年ニ於テ所定ノ學術ヲ修メ得サル者ニシテ尙望アルモノハ一學年間延期修學セシムルコトヲ得
第二十三條 前三條ノ規定ニ該當スル者アルトキハ校長其ノ事由ヲ具シ敎育總監ニ上申シ敎育總監之ヲ裁定處分ス
第二十四條 生徒卒業ノ期ニ至リタルトキハ校長ハ考科列序ヲ定メ敎育總監ノ認可ヲ受ケ卒業者ニ卒業證書ヲ付與ス
第二十五條 敎育總監ハ校長ヲシテ卒業者ニ對シ陸軍士官學校ニ入校ヲ命セシム但シ卒業者中傷痍疾病ニ因リ陸軍士官學校豫科生徒ト爲スヲ得サル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十六條 校長ハ生徒ニ每年冬季二週間以內夏季五週間以內ノ休暇ヲ與フルコトヲ得
第二十七條 校長ハ卒業者ニ卒業ノ日ヨリ陸軍士官學校入校ノ日ニ至ル迄休暇ヲ與ヘ歸省又ハ他行ヲ許スコトヲ得但シ此ノ期間ニ於ケル生徒ノ身分ハ陸軍幼年學校ニ屬ス
附 則
本令ハ大正九年八月十日ヨリ之ヲ施行ス
本令施行ノ際現ニ陸軍中央幼年學校豫科生徒及陸軍地方幼年學校生徒タル者ハ各當該學校所在地ニ設置セラルル陸軍幼年學校相當學年ノ生徒ト爲リタルモノトス
朕陸軍幼年学校令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正九年八月七日
内閣総理大臣 原敬
陸軍大臣 田中義一
勅令第二百三十七号
陸軍幼年学校令
第一条 陸軍幼年学校ハ陸軍将校タルコトヲ志願スル者ノ中ヨリ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ選抜セラレタル生徒ニ陸軍士官学校予科生徒タルニ必要ナル素養ヲ与フル為軍事上ノ必要ヲ顧慮シテ普通学科ヲ教授シ軍人精神ヲ涵養スル所トス
第二条 陸軍幼年学校ハ左ノ六箇所ニ置ク
東京
仙台
名古屋
大阪
広島
熊本
第三条 生徒ノ教育ヲ分チテ教授及訓育トシ其ノ教育綱領ハ教育総監之ヲ定ム
第四条 生徒ノ教育ノ実施ハ教則ニ依ル其ノ教則ハ前条ノ教育綱領ニ基キ校長案ヲ具シ教育総監ニ上申シ教育総監之ヲ裁定ス
第五条 陸軍幼年学校ニ左ノ職員ヲ置ク
校長
副官
教官
生徒監主事
生徒監
主計
軍医
下士、判任文官
前項ノ職員中将校同相当官及下士ヲ以テ之ニ充ツル者ニ在リテハ予備役又ハ後備役ノ者ヲ以テ之ニ充ツルコトヲ得
第六条 校長ハ教育総監ニ隷シ校務ヲ総理ス
第七条 副官ハ校長ノ命ヲ承ケ庶務ヲ掌ル
第八条 教官ハ校長ノ命ヲ承ケ各科目ノ教授ヲ担任ス
校長ハ教官ノ内一人ヲ教頭ト為シ校長ノ命ヲ承ケ教務ヲ監理セシム
第九条 生徒監主事ハ校長ノ命ヲ承ケ訓育ヲ監理ス
第十条 生徒監ハ生徒監主事ノ命ヲ承ケ訓育ヲ担任ス
第十一条 主計及軍医ハ校長ノ命ヲ承ケ各其ノ担任ノ業務ヲ掌ル
第十二条 下士及判任文官ハ上官ノ命ヲ承ケ服務ス
第十三条 武官タル職員ニハ便宜ノ時期ニ於テ隊附勤務ヲ為サシムルコトアルヘシ
第十四条 生徒ノ修業期間ハ三年トシ之ヲ三学年ニ分チ各学年ハ四月ヨリ翌年三月ニ至ル
第十五条 生徒ハ校内ニ居住セシメ其ノ修学ニ要スル兵器、図書、器具及消耗品ハ之ヲ貸付シ又ハ支給スルコトヲ得
第十六条 生徒ハ在校中被服、糧食其ノ他ノ費用トシテ若干ノ納金ヲ為スモノトス
生徒中左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ資産ヲ顧慮シ若干名ヲ限リ特ニ納金ノ全額又ハ一部ヲ免除スルコトヲ得
一 戦死シ又ハ公務ニ因リ傷痍ヲ受ケ若ハ疾病ニ罹リ之カ為死亡シタル軍人又ハ文官ノ子
二 軍人恩給法ニ依リ退職恩給、免除恩給又ハ増加恩給ノ権ヲ得タル軍人ノ子
三 現役中ノ陸海軍佐官同相当官以下ノ高等武官又ハ十一年以上軍務ニ精励シタル陸海軍准士官以下ノ軍人ノ子
十五年以上陸海軍部内ニ在リテ軍務ニ精励シタル奏任又ハ判任ノ文官ノ子
四 特ニ国家ニ功労アル軍人又ハ文官ニシテ死亡シタルモノノ子
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ子ハ父ト同一ノ家ニ在ルモノニ限リ養子ニ在リテハ前項ニ規定スル軍人又ハ文官ノ家督相続人タルモノニ限ル
第十七条 前条ノ規定ニ依リ納金ノ全額ヲ収ムル者ヲ自費生ト称ス其ノ納金ノ全額ヲ免除セラレタル者ヲ特待生、其ノ一部ヲ免除セラレタル者ヲ半特待生ト称ス
第十八条 特待生及半特待生ト為スヘキ人員及其ノ区分ハ教育総監陸軍大臣ニ協議シテ之ヲ定ム
第十九条 自費生及半特待生ノ納金額ハ陸軍大臣之ヲ定ム
第二十条 生徒中已ムヲ得サル事故ニ因リ退校ヲ願出ツル者アルトキハ其ノ事情ニ依リ之ヲ許可スルコトアルヘシ
第二十一条 生徒左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ之ヲ退校セシム
一 学術ノ成績不良ニシテ卒業ノ目途ナキ者
二 屡法則ヲ犯シ又ハ品行不正ニシテ改悛ノ目途ナキ者
三 傷痍疾病ニ因リ修業ニ堪ヘサル者
四 前各号ノ外将来陸軍将校タルニ適セスト認ムル者
前項各号ノ外納金滞納ノ場合ニハ退校セシムルコトアルヘシ
第二十二条 生徒中傷痍疾病其ノ他ノ事故ニ因リ各学年ニ於テ所定ノ学術ヲ修メ得サル者ニシテ尚望アルモノハ一学年間延期修学セシムルコトヲ得
第二十三条 前三条ノ規定ニ該当スル者アルトキハ校長其ノ事由ヲ具シ教育総監ニ上申シ教育総監之ヲ裁定処分ス
第二十四条 生徒卒業ノ期ニ至リタルトキハ校長ハ考科列序ヲ定メ教育総監ノ認可ヲ受ケ卒業者ニ卒業証書ヲ付与ス
第二十五条 教育総監ハ校長ヲシテ卒業者ニ対シ陸軍士官学校ニ入校ヲ命セシム但シ卒業者中傷痍疾病ニ因リ陸軍士官学校予科生徒ト為スヲ得サル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十六条 校長ハ生徒ニ毎年冬季二週間以内夏季五週間以内ノ休暇ヲ与フルコトヲ得
第二十七条 校長ハ卒業者ニ卒業ノ日ヨリ陸軍士官学校入校ノ日ニ至ル迄休暇ヲ与ヘ帰省又ハ他行ヲ許スコトヲ得但シ此ノ期間ニ於ケル生徒ノ身分ハ陸軍幼年学校ニ属ス
附 則
本令ハ大正九年八月十日ヨリ之ヲ施行ス
本令施行ノ際現ニ陸軍中央幼年学校予科生徒及陸軍地方幼年学校生徒タル者ハ各当該学校所在地ニ設置セラルル陸軍幼年学校相当学年ノ生徒ト為リタルモノトス