朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル保稅倉庫法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年三月二十六日
內閣總理大臣兼大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第十五號
保稅倉庫法
第一章 總則
第一條 保稅倉庫ハ輸入手數未濟ノ貨物ヲ藏置スル所トス
第二條 保稅倉庫ニ藏置ノ貨物ハ其ノ藏置中ハ輸入シタルモノト看做サス
第三條 保稅倉庫ニ藏置シタル貨物ノ輸入稅ハ其ノ最初庫入ノ時ノ性質及數量ニ依リ之ヲ徵收ス
第四條 保稅倉庫ニ若ハ保稅倉庫ヨリ輸入手數未濟貨物ヲ運搬スルトキハ命令ヲ以テ定ムル通路ニ依ルヘシ
第五條 保稅倉庫ニ藏置スルコトヲ得ヘキ貨物ノ種類ハ主務大臣之ヲ定ム
第六條 保稅倉庫ニ藏置シタル貨物ノ輸入ニ關シテハ此ノ法律ニ規定シタルモノノ外稅關法及稅關規則ヲ適用ス
第七條 保稅倉庫ノ貨物藏置期限ハ庫入ノ日ヨリ滿一箇年トス
第八條 保稅倉庫ニ藏置ノ貨物庫移ヲ爲ストキハ其ノ藏置期限ハ總テ最初庫入ノ日ヨリ通算ス
第九條 輸入手數未濟ノ貨物ヲ運搬スルトキハ當該官廳ハ貨主ヲシテ其ノ貨物ニ對スル輸入稅金ヲ假納セシムルコトヲ得
前項ノ貨物陸揚申吿ノ日ヨリ滿一箇年ヲ過キテ仕向地ニ到達セサルトキハ其ノ輸入稅ヲ徵收ス
第二章 官設保稅倉庫
第十條 官設保稅倉庫ニ藏置スル貨物ニ對シテハ記名ノ預證券ヲ發スルモノトス
第十一條 預證券ハ裏書ヲ以テ讓渡スコトヲ得
第十二條 預證券盜難ニ罹リ又ハ紛失滅失シタルトキハ其ノ旨當該官廳ニ屆出ヘシ
前項ノ場合ニ於テ民事訴訟法ニ依リ其ノ證券ヲ無效トスル除權判決アリタルトキハ權利者ニ新證券ヲ交付ス
第十三條 前條第一項ノ屆出アリタル預證券ヲ持參スル者アルトキハ持參人及屆出人ニ於テ相當ノ手續ヲ爲シ其ノ權利者確定スル迄藏置貨物ノ引渡ヲ停止ス
第十四條 藏置ノ貨物ハ預證券引換ニ交付スルモノトス
第十五條 藏置貨物引取ノ權利ニ付訴訟アルトキハ其ノ當事者ハ藏置期限ノ延期ヲ求ムルコトヲ得
第十六條 藏置期限ヲ經過シテ貨主貨物ヲ引取ラサルトキハ無請求品トシ當該官廳ハ其ノ貨物ノ記號、番號、品名、箇數等ヲ公吿スヘシ
前項公吿ノ日ヨリ滿六箇月ヲ經テ之ヲ引取ル者ナキトキハ當該官廳ハ其ノ貨物ヲ競賣ニ付シ輸入稅、公吿料、競賣手數料、庫敷料其ノ他一切ノ費用ニ充テ殘金アルトキハ貨主ニ還付ス
第十七條 藏置ノ貨物腐敗其ノ他ノ事故ニ因リ倉庫又ハ他ノ貨物ヲ害スルノ虞アルトキハ當該官廳ハ公吿シテ指定ノ期限內ニ其ノ引取ヲ命スヘシ此ノ期限ヲ經過スルモ其ノ貨物ヲ引取ラサルトキハ當該官廳ハ之ヲ滅却スルコトヲ得但シ緊急ノ必要アルトキハ期限內ニ於テモ仍之ヲ滅却スルコトヲ得
前項ニ依リ滅却シタル貨物ニ對シテハ輸入稅ヲ徵收セス
第三章 私設保稅倉庫
第十八條 保稅倉庫ヲ設ケ輸入手數未滿ノ貨物ヲ保管スル業ヲ營マムトスル者ハ主務大臣ノ特許ヲ受クヘシ
第十九條 私設保稅倉庫ノ庫主ハ當該官廳ノ指揮監督ヲ承クヘシ
第二十條 私設保稅倉庫ノ庫主ハ其ノ保管スル貨物ノ輸入稅ニ付自ラ一切ノ責任ヲ有シ天災事變其ノ他何等ノ事故ニ因ルヲ問ハス貨物紛失滅失シ若ハ盜難ニ罹ルモ其ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十一條 私設保稅倉庫ノ庫主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ保管貨物輸入稅ノ擔保トシテ金錢又ハ國債證券ヲ供託スヘシ
第二十二條 私設保稅倉庫ニハ庫主ニ屬スル貨物ヲ藏置スルコトヲ得ス
第二十三條 私設保稅倉庫ニ保管スル貨物ニシテ其ノ庫入ノ日ヨリ滿一箇年ヲ過クルトキハ輸入稅ヲ徵收ス
第二十四條 私設保稅倉庫ノ貨物保管規則及庫敷料ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ定ムヘシ
第二十五條 當該官吏ハ監督上必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ私設保稅倉庫ノ貨物又ハ帳簿書類ヲ檢査スルコトヲ得其ノ貨物運搬中ニ在ルモノハ其ノ所在ニ就キ檢査ヲ爲スコトヲ得
第二十六條 私設保稅倉庫營業ノ特許ハ左ノ場合ニ於テ消滅スルモノトス
一 庫主其ノ營業ヲ廢シタルトキ
二 庫主死亡シタルトキ
三 庫主破產ノ宣吿ヲ受ケタルトキ
四 特許ノ期限滿了シタルトキ
五 主務大臣ニ於テ特許ヲ取消シタルトキ
第二十七條 私設保稅倉庫營業ノ特許消滅シタルトキハ當該官廳ハ其ノ旨ヲ公吿シ貨主ヲシテ指定ノ期限內ニ其ノ藏置貨物ノ處分ヲ爲サシムヘシ但シ前營業者ノ業務ヲ引繼クカ爲ニ特許消滅後一箇月以內ニ營業ノ特許ヲ出願スル者アルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ指定期限ヲ過ルモ貨主其ノ貨物ノ處分ヲ爲ササルトキハ當該官廳ハ之ヲ官設保稅倉庫又ハ他ノ私設保稅倉庫ノ保管ニ移スヘシ
前項庫移ノ費用ハ貨主ノ負擔トス
第二十八條 營業特許ノ消滅シタル私設保稅倉庫ノ庫主又ハ其ノ相續人ハ其ノ藏置貨物ノ引取又ハ庫移ノ了ル迄ハ私設保稅倉庫ニ關スル一切ノ義務ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十九條 第二十七條第二項ニ依リ藏置貨物ノ庫移ヲ爲シタルトキハ貨主ハ其ノ保稅倉庫ニ於ケル諸般ノ規則慣例ヲ遵守スルノ義務アルモノトス
第三十條 左ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ營業ノ特許ヲ取消スコトヲ得
一 業務ニ關スル法律命令ニ違背シタルトキ
二 庫主輸入稅ノ負擔ニ堪ヘサルノ疑アルトキ
三 庫主重罪輕罪ノ刑ニ處セラレタルトキ
第四章 罰則
第三十一條 當該官廳ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保稅倉庫ヨリ貨物ヲ庫出スルコトヲ得ス犯ス者ハ其ノ貨物ヲ沒收ス若旣ニ讓渡シ又ハ消費シタルトキハ其ノ代金ヲ追徵ス
第四條ノ規程ニ違背シタル者罰前項ニ同シ
第三十二條 當該官廳ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保稅倉庫ニ貨物ヲ庫入レスルコトヲ得ス犯ス者ハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十三條 主務大臣ノ認可ヲ受ケスシテ私設保稅倉庫ノ貨物保管規則又ハ庫敷料ヲ定メタル者ハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十二條ノ規程ニ違背シタル者罰前項ニ同シ
第三十四條 第二十五條ノ檢査ヲ拒ミ又ハ之ヲ忌避シ若ハ之ニ支障ヲ加ヘタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
附 則
第三十五條 此ノ法律ハ明治三十年七月一日ヨリ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル保税倉庫法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年三月二十六日
内閣総理大臣兼大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第十五号
保税倉庫法
第一章 総則
第一条 保税倉庫ハ輸入手数未済ノ貨物ヲ蔵置スル所トス
第二条 保税倉庫ニ蔵置ノ貨物ハ其ノ蔵置中ハ輸入シタルモノト看做サス
第三条 保税倉庫ニ蔵置シタル貨物ノ輸入税ハ其ノ最初庫入ノ時ノ性質及数量ニ依リ之ヲ徴収ス
第四条 保税倉庫ニ若ハ保税倉庫ヨリ輸入手数未済貨物ヲ運搬スルトキハ命令ヲ以テ定ムル通路ニ依ルヘシ
第五条 保税倉庫ニ蔵置スルコトヲ得ヘキ貨物ノ種類ハ主務大臣之ヲ定ム
第六条 保税倉庫ニ蔵置シタル貨物ノ輸入ニ関シテハ此ノ法律ニ規定シタルモノノ外税関法及税関規則ヲ適用ス
第七条 保税倉庫ノ貨物蔵置期限ハ庫入ノ日ヨリ満一箇年トス
第八条 保税倉庫ニ蔵置ノ貨物庫移ヲ為ストキハ其ノ蔵置期限ハ総テ最初庫入ノ日ヨリ通算ス
第九条 輸入手数未済ノ貨物ヲ運搬スルトキハ当該官庁ハ貨主ヲシテ其ノ貨物ニ対スル輸入税金ヲ仮納セシムルコトヲ得
前項ノ貨物陸揚申告ノ日ヨリ満一箇年ヲ過キテ仕向地ニ到達セサルトキハ其ノ輸入税ヲ徴収ス
第二章 官設保税倉庫
第十条 官設保税倉庫ニ蔵置スル貨物ニ対シテハ記名ノ預証券ヲ発スルモノトス
第十一条 預証券ハ裏書ヲ以テ譲渡スコトヲ得
第十二条 預証券盗難ニ罹リ又ハ紛失滅失シタルトキハ其ノ旨当該官庁ニ届出ヘシ
前項ノ場合ニ於テ民事訴訟法ニ依リ其ノ証券ヲ無効トスル除権判決アリタルトキハ権利者ニ新証券ヲ交付ス
第十三条 前条第一項ノ届出アリタル預証券ヲ持参スル者アルトキハ持参人及届出人ニ於テ相当ノ手続ヲ為シ其ノ権利者確定スル迄蔵置貨物ノ引渡ヲ停止ス
第十四条 蔵置ノ貨物ハ預証券引換ニ交付スルモノトス
第十五条 蔵置貨物引取ノ権利ニ付訴訟アルトキハ其ノ当事者ハ蔵置期限ノ延期ヲ求ムルコトヲ得
第十六条 蔵置期限ヲ経過シテ貨主貨物ヲ引取ラサルトキハ無請求品トシ当該官庁ハ其ノ貨物ノ記号、番号、品名、箇数等ヲ公告スヘシ
前項公告ノ日ヨリ満六箇月ヲ経テ之ヲ引取ル者ナキトキハ当該官庁ハ其ノ貨物ヲ競売ニ付シ輸入税、公告料、競売手数料、庫敷料其ノ他一切ノ費用ニ充テ残金アルトキハ貨主ニ還付ス
第十七条 蔵置ノ貨物腐敗其ノ他ノ事故ニ因リ倉庫又ハ他ノ貨物ヲ害スルノ虞アルトキハ当該官庁ハ公告シテ指定ノ期限内ニ其ノ引取ヲ命スヘシ此ノ期限ヲ経過スルモ其ノ貨物ヲ引取ラサルトキハ当該官庁ハ之ヲ滅却スルコトヲ得但シ緊急ノ必要アルトキハ期限内ニ於テモ仍之ヲ滅却スルコトヲ得
前項ニ依リ滅却シタル貨物ニ対シテハ輸入税ヲ徴収セス
第三章 私設保税倉庫
第十八条 保税倉庫ヲ設ケ輸入手数未満ノ貨物ヲ保管スル業ヲ営マムトスル者ハ主務大臣ノ特許ヲ受クヘシ
第十九条 私設保税倉庫ノ庫主ハ当該官庁ノ指揮監督ヲ承クヘシ
第二十条 私設保税倉庫ノ庫主ハ其ノ保管スル貨物ノ輸入税ニ付自ラ一切ノ責任ヲ有シ天災事変其ノ他何等ノ事故ニ因ルヲ問ハス貨物紛失滅失シ若ハ盗難ニ罹ルモ其ノ責ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十一条 私設保税倉庫ノ庫主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ保管貨物輸入税ノ担保トシテ金銭又ハ国債証券ヲ供託スヘシ
第二十二条 私設保税倉庫ニハ庫主ニ属スル貨物ヲ蔵置スルコトヲ得ス
第二十三条 私設保税倉庫ニ保管スル貨物ニシテ其ノ庫入ノ日ヨリ満一箇年ヲ過クルトキハ輸入税ヲ徴収ス
第二十四条 私設保税倉庫ノ貨物保管規則及庫敷料ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ定ムヘシ
第二十五条 当該官吏ハ監督上必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ私設保税倉庫ノ貨物又ハ帳簿書類ヲ検査スルコトヲ得其ノ貨物運搬中ニ在ルモノハ其ノ所在ニ就キ検査ヲ為スコトヲ得
第二十六条 私設保税倉庫営業ノ特許ハ左ノ場合ニ於テ消滅スルモノトス
一 庫主其ノ営業ヲ廃シタルトキ
二 庫主死亡シタルトキ
三 庫主破産ノ宣告ヲ受ケタルトキ
四 特許ノ期限満了シタルトキ
五 主務大臣ニ於テ特許ヲ取消シタルトキ
第二十七条 私設保税倉庫営業ノ特許消滅シタルトキハ当該官庁ハ其ノ旨ヲ公告シ貨主ヲシテ指定ノ期限内ニ其ノ蔵置貨物ノ処分ヲ為サシムヘシ但シ前営業者ノ業務ヲ引継クカ為ニ特許消滅後一箇月以内ニ営業ノ特許ヲ出願スル者アルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ指定期限ヲ過ルモ貨主其ノ貨物ノ処分ヲ為ササルトキハ当該官庁ハ之ヲ官設保税倉庫又ハ他ノ私設保税倉庫ノ保管ニ移スヘシ
前項庫移ノ費用ハ貨主ノ負担トス
第二十八条 営業特許ノ消滅シタル私設保税倉庫ノ庫主又ハ其ノ相続人ハ其ノ蔵置貨物ノ引取又ハ庫移ノ了ル迄ハ私設保税倉庫ニ関スル一切ノ義務ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十九条 第二十七条第二項ニ依リ蔵置貨物ノ庫移ヲ為シタルトキハ貨主ハ其ノ保税倉庫ニ於ケル諸般ノ規則慣例ヲ遵守スルノ義務アルモノトス
第三十条 左ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ営業ノ特許ヲ取消スコトヲ得
一 業務ニ関スル法律命令ニ違背シタルトキ
二 庫主輸入税ノ負担ニ堪ヘサルノ疑アルトキ
三 庫主重罪軽罪ノ刑ニ処セラレタルトキ
第四章 罰則
第三十一条 当該官庁ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保税倉庫ヨリ貨物ヲ庫出スルコトヲ得ス犯ス者ハ其ノ貨物ヲ没収ス若既ニ譲渡シ又ハ消費シタルトキハ其ノ代金ヲ追徴ス
第四条ノ規程ニ違背シタル者罰前項ニ同シ
第三十二条 当該官庁ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保税倉庫ニ貨物ヲ庫入レスルコトヲ得ス犯ス者ハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十三条 主務大臣ノ認可ヲ受ケスシテ私設保税倉庫ノ貨物保管規則又ハ庫敷料ヲ定メタル者ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十二条ノ規程ニ違背シタル者罰前項ニ同シ
第三十四条 第二十五条ノ検査ヲ拒ミ又ハ之ヲ忌避シ若ハ之ニ支障ヲ加ヘタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
附 則
第三十五条 此ノ法律ハ明治三十年七月一日ヨリ施行ス