第一條 本法ハ產業ノ發展及國防ノ整備ヲ期スル爲本邦ニ於ケル製鐵事業ノ健全ナル發達ヲ圖ルコトヲ目的トス
第二條 本法ニ於テ製鐵事業ト稱スルハ銑鐵、鋼鐵、鋼材(鍛鋼品及鑄鋼品ヲ含ム)其ノ他ノ鐵鋼ノ製造及之ニ附隨スル副生物ノ製造ヲ爲ス事業ヲ謂フ
第三條 製鐵事業ヲ營マントスル者ハ政府ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ定ムル製鐵事業ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
本法ニ定ムルモノノ外前項ノ許可ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 前條ノ許可ヲ受ケタル者(製鐵事業者)ハ政府ノ指定スル期間內ニ其ノ事業ヲ開始スベシ
政府ハ正當ノ事由アリト認ムル場合ニ限リ前項ノ期間ノ延長ヲ許可スルコトヲ得
製鐵事業者前二項ノ期間內ニ其ノ事業ヲ開始セザルトキハ前條ノ許可ハ其ノ效力ヲ失フ
第五條 製鐵事業者其ノ設備ヲ增設シ又ハ變更セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
第六條 一ノ場所ニ於テ命令ノ定ムル所ニ依リ一年十萬瓲以上ノ製銑能力及一年十萬瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ以テ營ム製鐵事業ハ土地收用法第二條ノ土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得ル事業トシ同法ヲ適用ス
第七條 第三條ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ前條ニ規定スル設備ヲ新設シタル製鐵事業者ニハ設備完成ノ年及其ノ翌年ヨリ十五年間其ノ設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
前項ノ製鐵事業者其ノ設備完成前其ノ設備ノ一部ヲ以テ製鐵事業ヲ營ム場合ニ於テモ其ノ事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス但シ前項ノ規定ニ依ル期間內ニ設備ヲ完成セザルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前二項ノ製鐵事業ヨリ生ズル所得又ハ純益ガ法人ニ在リテハ各事業年度、個人ニ在リテハ各年ノ資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユルトキハ其ノ超過額ニ相當スル所得又ハ純益ニ付テハ前二項ノ規定ヲ適用セズ但シ所得稅法第十九條又ハ營業收益稅法第八條ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第八條 第六條ノ規定ニ該當セザル設備ヲ有スル製鐵事業者其ノ設備ニ付第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ第六條ノ規定ニ該當スルニ至ルベキ設備ヲ增設シタルトキハ其ノ增設シタル設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付前條ノ規定ヲ準用ス
第六條ニ規定スル設備ヲ以テ營ム製鐵事業者第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ其ノ場所ニ於テ製銑又ハ製鋼ノ設備ヲ增設シタルトキ亦前項ニ同ジ
第九條 第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ一ノ場所ニ於テ一年五千二百五十瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ增設シタル鍛鋼品又ハ鑄鋼品ノ製造事業者ニハ第七條ノ規定ヲ準用ス
第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ一ノ場所ニ於テ一年二千五百瓲以上ノ製銑能力又ハ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ增設シタル低燐銑鐵製造事業者、坩堝製鋼事業者及電氣製鐵事業者ニ付亦前項ニ同ジ
第十條 第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ砂鐵又ハ命令ヲ以テ定ムル鐵鑛ノ製鍊ヲ目的トスル特殊ノ設備ヲ新設シ又ハ增設シタル製鐵事業者ニハ其ノ設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付第七條第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
第十一條 砂鐵又ハ前條ノ鐵鑛ヲ配合シテ製銑ヲ爲ス製鐵事業者ニハ配合ノ割合ニ應ジ其ノ製鐵事業ニ付本法施行ノ日ヨリ十五年間命令ノ定ムル所ニ依リ所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
第十二條 北海道、府縣及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ本法ニ依リ(第七條第三項但書ノ場合ヲ含ム)所得稅及營業收益稅ヲ免除セラレタル製鐵事業者ニハ第七條第三項ノ規定ニ依リ賦課セラレタル所得稅及營業收益稅ノ附加稅ヲ除クノ外其ノ免除セラレタル事業ニ對シ又ハ其ノ免除セラレタル事業ニ屬スル資本金額、從業者、營業用ノ工作物若ハ物件、使用動力又ハ收入ヲ標準トシテ課稅スルコトヲ得ズ但シ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノニシテ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ前條ノ規定ニ依リ所得稅及營業收益稅ヲ免除セラレタル事業ニハ之ヲ適用セズ但シ其ノ事業ガ第七條乃至第九條ノ規定ニ依リ所得稅及營業收益稅ノ免除ヲ受クルコトヲ得ベキモノナルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十三條 製鐵事業ヲ繼續スル者又ハ其ノ事業ヲ繼續スルモノト認ムベキ事實アル者ハ前製鐵事業者ガ本法ニ依ル所得稅及營業收益稅免除期間內ニ在ルトキハ其ノ期間ヲ承繼ス
第十四條 帝國內ニ於テ製造シタル鋼材ガ船舶ノ建造又ハ修繕ニ使用セラレタル場合ニ於テハ政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ鋼材ノ製造者ニ對シ奬勵金ヲ交付スルコトヲ得
第十五條 詐欺ノ行爲ヲ以テ前條ノ奬勵金ノ交付ヲ受ケタル者ニ對シテハ其ノ金額ヲ返還セシム
前項ノ規定ニ依ル返還金ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノトス
第十六條 第六條又ハ第十條ニ規定スル製鐵事業ノ爲必要ナル器具、機械其ノ他ノ材料ヲ政府ノ認可ヲ受ケ輸入スルトキハ本法施行ノ日ヨリ十年間命令ノ定ムル所ニ依リ輸入稅ヲ免除ス
第十七條 製鐵事業者其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ讓渡シ、廢止シ又ハ休止セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
製鐵事業者タル法人ノ合併又ハ解散ノ決議ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十八條 製鐵事業者鐵鋼ノ生產、販賣、輸出、輸入、移出若ハ移入又ハ命令ヲ以テ定ムル製鐵原料ノ購入ニ關シ統制協定ヲ爲シタル場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ政府ニ屆出ヅベシ之ヲ變更シ又ハ廢止シタルトキ亦同ジ
第十九條 前條ノ統制協定ヲ爲シタル者ノ爲其ノ統制協定ニ基キ共同販賣其ノ他共同ノ目的ヲ達スルニ必要ナル事業ヲ行フ者ハ命令ノ定ムル事項ヲ政府ニ屆出ヅベシ
第二十條 政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ鐵鋼ノ供給數量、販賣價格又ハ販賣條件ノ變更其ノ他鐵鋼ノ需給ノ圓滑又ハ價格ノ公正ヲ圖ル爲必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ其ノ設備ノ擴張若ハ改良又ハ作業方法ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第二十一條 政府軍事上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ製鐵ニ關スル特殊事項ノ硏究又ハ特殊設備ノ施設、命令ヲ以テ定ムル製鐵原料ノ保持其ノ他軍事上必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
第二十二條 政府ハ第二十條第二項又ハ前條ノ規定ニ依リ爲シタル命令ニ因リ生ジタル損失ニ付勅令ノ定ムル所ニ依リ補償ヲ爲スコトヲ得
第二十三條 政府ハ製鐵事業者ニ對シ其ノ業務ノ狀況ニ關シ報吿ヲ爲サシメ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
政府監督上必要アリト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ製鐵事業者ノ事務所、營業所、工場、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ業務ノ狀況又ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ檢査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶セシムベシ
第二十四條 政府ハ第三條第一項但書ノ規定ニ依リ許可ヲ受クルコトヲ要セザル製鐵事業ヲ營ム者ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ設備ノ能力其ノ他必要ナル事項ヲ屆出デシムルコトヲ得
第二十五條 政府第三條ノ規定ニ依ル處分又ハ第二十條ノ規定ニ依ル命令ヲ爲サントスルトキハ製鐵事業委員會ノ議ヲ經ベシ
第二十六條 製鐵事業者本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ政府ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ、第三條ノ許可ヲ取消シ又ハ法人ノ役員ノ解任ヲ爲スコトヲ得
第二十七條 第十九條ノ規定ニ該當スル者ハ第十八條、第二十條第一項、第二十三條又ハ前條ノ規定ノ適用ニ關シテハ之ヲ製鐵事業者ト看做ス
第二十八條 第三條ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ製鐵事業ヲ營ミタル者ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十九條 第二十條又ハ第二十一條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條 第五條又ハ第十七條第一項ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ事項ヲ許可ヲ受ケズシテ爲シタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十一條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二十三條第一項ノ規定ニ依ル報吿ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ報吿ヲ爲シ又ハ監督上必要ナル命令若ハ處分ニ違反シタル者
二 第二十三條第二項ノ規定ニ依ル當該官吏ノ臨檢檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者
第三十二條 當該官吏又ハ其ノ職ニ在リタル者本法ニ依ル職務執行ニ關シ知得シタル個人又ハ法人ノ業務上ノ祕密ヲ漏洩シ又ハ竊用シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十三條 營業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十五條 第十八條又ハ第十九條ノ規定ニ依ル屆出ヲ怠リ又ハ不正ノ屆出ヲ爲シタル者ハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
第二十四條ノ規定ニ依ル屆出ヲ怠リ又ハ不正ノ屆出ヲ爲シタル者ハ百圓以下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用ス