製鉄事業法
法令番号: 法律第六十八號
公布年月日: 昭和12年8月13日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル製鐵事業法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年八月十二日
內閣總理大臣 公爵 近衞文麿
內務大臣 馬場鍈一
海軍大臣 米內光政
陸軍大臣 杉山元
大藏大臣 賀屋興宣
商工大臣 吉野信次
法律第六十八號
製鐵事業法
第一條 本法ハ產業ノ發展及國防ノ整備ヲ期スル爲本邦ニ於ケル製鐵事業ノ健全ナル發達ヲ圖ルコトヲ目的トス
第二條 本法ニ於テ製鐵事業ト稱スルハ銑鐵、鋼鐵、鋼材(鍛鋼品及鑄鋼品ヲ含ム)其ノ他ノ鐵鋼ノ製造及之ニ附隨スル副生物ノ製造ヲ爲ス事業ヲ謂フ
前項ノ副生物ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條 製鐵事業ヲ營マントスル者ハ政府ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ定ムル製鐵事業ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
本法ニ定ムルモノノ外前項ノ許可ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 前條ノ許可ヲ受ケタル者(製鐵事業者)ハ政府ノ指定スル期間內ニ其ノ事業ヲ開始スベシ
政府ハ正當ノ事由アリト認ムル場合ニ限リ前項ノ期間ノ延長ヲ許可スルコトヲ得
製鐵事業者前二項ノ期間內ニ其ノ事業ヲ開始セザルトキハ前條ノ許可ハ其ノ效力ヲ失フ
第五條 製鐵事業者其ノ設備ヲ增設シ又ハ變更セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
第六條 一ノ場所ニ於テ命令ノ定ムル所ニ依リ一年十萬瓲以上ノ製銑能力及一年十萬瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ以テ營ム製鐵事業ハ土地收用法第二條ノ土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得ル事業トシ同法ヲ適用ス
第七條 第三條ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ前條ニ規定スル設備ヲ新設シタル製鐵事業者ニハ設備完成ノ年及其ノ翌年ヨリ十五年間其ノ設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
前項ノ製鐵事業者其ノ設備完成前其ノ設備ノ一部ヲ以テ製鐵事業ヲ營ム場合ニ於テモ其ノ事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス但シ前項ノ規定ニ依ル期間內ニ設備ヲ完成セザルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前二項ノ製鐵事業ヨリ生ズル所得又ハ純益ガ法人ニ在リテハ各事業年度、個人ニ在リテハ各年ノ資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユルトキハ其ノ超過額ニ相當スル所得又ハ純益ニ付テハ前二項ノ規定ヲ適用セズ但シ所得稅法第十九條又ハ營業收益稅法第八條ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
前項ノ資本金額ノ計算方法ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 第六條ノ規定ニ該當セザル設備ヲ有スル製鐵事業者其ノ設備ニ付第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ第六條ノ規定ニ該當スルニ至ルベキ設備ヲ增設シタルトキハ其ノ增設シタル設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付前條ノ規定ヲ準用ス
第六條ニ規定スル設備ヲ以テ營ム製鐵事業者第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ其ノ場所ニ於テ製銑又ハ製鋼ノ設備ヲ增設シタルトキ亦前項ニ同ジ
第九條 第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ一ノ場所ニ於テ一年五千二百五十瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ增設シタル鍛鋼品又ハ鑄鋼品ノ製造事業者ニハ第七條ノ規定ヲ準用ス
第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ一ノ場所ニ於テ一年二千五百瓲以上ノ製銑能力又ハ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ增設シタル低燐銑鐵製造事業者、坩堝製鋼事業者及電氣製鐵事業者ニ付亦前項ニ同ジ
第十條 第三條ノ許可又ハ第五條ノ增設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間內ニ砂鐵又ハ命令ヲ以テ定ムル鐵鑛ノ製鍊ヲ目的トスル特殊ノ設備ヲ新設シ又ハ增設シタル製鐵事業者ニハ其ノ設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付第七條第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
第十一條 砂鐵又ハ前條ノ鐵鑛ヲ配合シテ製銑ヲ爲ス製鐵事業者ニハ配合ノ割合ニ應ジ其ノ製鐵事業ニ付本法施行ノ日ヨリ十五年間命令ノ定ムル所ニ依リ所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
第十二條 北海道、府縣及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ本法ニ依リ(第七條第三項但書ノ場合ヲ含ム)所得稅及營業收益稅ヲ免除セラレタル製鐵事業者ニハ第七條第三項ノ規定ニ依リ賦課セラレタル所得稅及營業收益稅ノ附加稅ヲ除クノ外其ノ免除セラレタル事業ニ對シ又ハ其ノ免除セラレタル事業ニ屬スル資本金額、從業者、營業用ノ工作物若ハ物件、使用動力又ハ收入ヲ標準トシテ課稅スルコトヲ得ズ但シ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノニシテ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ前條ノ規定ニ依リ所得稅及營業收益稅ヲ免除セラレタル事業ニハ之ヲ適用セズ但シ其ノ事業ガ第七條乃至第九條ノ規定ニ依リ所得稅及營業收益稅ノ免除ヲ受クルコトヲ得ベキモノナルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十三條 製鐵事業ヲ繼續スル者又ハ其ノ事業ヲ繼續スルモノト認ムベキ事實アル者ハ前製鐵事業者ガ本法ニ依ル所得稅及營業收益稅免除期間內ニ在ルトキハ其ノ期間ヲ承繼ス
第十四條 帝國內ニ於テ製造シタル鋼材ガ船舶ノ建造又ハ修繕ニ使用セラレタル場合ニ於テハ政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ鋼材ノ製造者ニ對シ奬勵金ヲ交付スルコトヲ得
第十五條 詐欺ノ行爲ヲ以テ前條ノ奬勵金ノ交付ヲ受ケタル者ニ對シテハ其ノ金額ヲ返還セシム
前項ノ規定ニ依ル返還金ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノトス
第十六條 第六條又ハ第十條ニ規定スル製鐵事業ノ爲必要ナル器具、機械其ノ他ノ材料ヲ政府ノ認可ヲ受ケ輸入スルトキハ本法施行ノ日ヨリ十年間命令ノ定ムル所ニ依リ輸入稅ヲ免除ス
第十七條 製鐵事業者其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ讓渡シ、廢止シ又ハ休止セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
製鐵事業者タル法人ノ合併又ハ解散ノ決議ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十八條 製鐵事業者鐵鋼ノ生產、販賣、輸出、輸入、移出若ハ移入又ハ命令ヲ以テ定ムル製鐵原料ノ購入ニ關シ統制協定ヲ爲シタル場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ政府ニ屆出ヅベシ之ヲ變更シ又ハ廢止シタルトキ亦同ジ
第十九條 前條ノ統制協定ヲ爲シタル者ノ爲其ノ統制協定ニ基キ共同販賣其ノ他共同ノ目的ヲ達スルニ必要ナル事業ヲ行フ者ハ命令ノ定ムル事項ヲ政府ニ屆出ヅベシ
第二十條 政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ鐵鋼ノ供給數量、販賣價格又ハ販賣條件ノ變更其ノ他鐵鋼ノ需給ノ圓滑又ハ價格ノ公正ヲ圖ル爲必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ其ノ設備ノ擴張若ハ改良又ハ作業方法ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第二十一條 政府軍事上必要アリト認ムルトキハ製鐵事業者ニ對シ製鐵ニ關スル特殊事項ノ硏究又ハ特殊設備ノ施設、命令ヲ以テ定ムル製鐵原料ノ保持其ノ他軍事上必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
第二十二條 政府ハ第二十條第二項又ハ前條ノ規定ニ依リ爲シタル命令ニ因リ生ジタル損失ニ付勅令ノ定ムル所ニ依リ補償ヲ爲スコトヲ得
第二十三條 政府ハ製鐵事業者ニ對シ其ノ業務ノ狀況ニ關シ報吿ヲ爲サシメ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
政府監督上必要アリト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ製鐵事業者ノ事務所、營業所、工場、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ業務ノ狀況又ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ檢査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶セシムベシ
第二十四條 政府ハ第三條第一項但書ノ規定ニ依リ許可ヲ受クルコトヲ要セザル製鐵事業ヲ營ム者ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ設備ノ能力其ノ他必要ナル事項ヲ屆出デシムルコトヲ得
第二十五條 政府第三條ノ規定ニ依ル處分又ハ第二十條ノ規定ニ依ル命令ヲ爲サントスルトキハ製鐵事業委員會ノ議ヲ經ベシ
製鐵事業委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六條 製鐵事業者本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ政府ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ、第三條ノ許可ヲ取消シ又ハ法人ノ役員ノ解任ヲ爲スコトヲ得
第二十七條 第十九條ノ規定ニ該當スル者ハ第十八條、第二十條第一項、第二十三條又ハ前條ノ規定ノ適用ニ關シテハ之ヲ製鐵事業者ト看做ス
第二十八條 第三條ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ製鐵事業ヲ營ミタル者ハ五千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十九條 第二十條又ハ第二十一條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十條 第五條又ハ第十七條第一項ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ事項ヲ許可ヲ受ケズシテ爲シタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十一條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二十三條第一項ノ規定ニ依ル報吿ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ報吿ヲ爲シ又ハ監督上必要ナル命令若ハ處分ニ違反シタル者
二 第二十三條第二項ノ規定ニ依ル當該官吏ノ臨檢檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ質問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者
第三十二條 當該官吏又ハ其ノ職ニ在リタル者本法ニ依ル職務執行ニ關シ知得シタル個人又ハ法人ノ業務上ノ祕密ヲ漏洩シ又ハ竊用シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十三條 營業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十五條 第十八條又ハ第十九條ノ規定ニ依ル屆出ヲ怠リ又ハ不正ノ屆出ヲ爲シタル者ハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
第二十四條ノ規定ニ依ル屆出ヲ怠リ又ハ不正ノ屆出ヲ爲シタル者ハ百圓以下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用ス
附 則
第三十六條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十七條 製鐵業奬勵法ハ之ヲ廢止ス
第三十八條 本法施行ノ際現ニ第三條ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ製鐵事業ヲ營ム者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ同條ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第三十九條 前條ノ製鐵事業者ニシテ本法施行ノ際現ニ其ノ設備ノ增設又ハ變更ノ工事中ニ在ルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ第五條ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第四十條 第三條ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ製鐵事業ヲ營ム爲本法施行ノ際現ニ製鐵設備ノ建設工事中ニ在ル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ同條ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第四十一條 第三十八條ノ製鐵事業者ニシテ本法施行ノ際現ニ其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ休止セルモノハ本法施行ノ日ヨリ六月間ヲ限リ第十七條第一項ノ規定ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ繼續スルコトヲ得
第四十二條 本法施行ノ際現ニ製鐵業奬勵法ニ依リ所得稅、營業收益稅及地方稅ノ免除ヲ受クルコトヲ得ベキ製鐵事業ニ付テハ仍從前ノ例ニ依リ所得稅、營業收益稅及地方稅ヲ免除ス
本法施行ノ際現ニ製鐵業奬勵法第二條乃至第四條ノ規定ニ依ル認可ヲ申請中ノ者ニ對スル所得稅、營業收益稅及地方稅ノ免除ニ關シテハ仍從前ノ例ニ依ル
前二項ノ規定ノ適用ヲ受クル者第十一條ノ規定ノ適用ヲ受クルニ至リタル場合ニ於テハ第十二條ノ規定ニ拘ラズ前二項ノ規定ニ依リ地方稅ノ免除ヲ受ク
第四十三條 本法施行ノ際現ニ第十條ニ規定スル設備ヲ以テ製鐵事業ヲ營ム者及同條ニ規定スル設備ノ新設又ハ增設ノ工事中ニ在ル者ニハ本法施行ノ日ヨリ十五年間命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ設備ヲ以テ營ム製鐵事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
第四十四條 製鐵業奬勵法ニ依リテ爲シタル認可、處分、手續其ノ他ノ行爲ハ本法中之ニ相當スル規定アル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第四十五條 
大正九年法律第十二號第七條ノ二中「製鐵業奬勵法ニ定ムル能力」ヲ「製鐵事業法ニ定ムル能力」ニ改メ「看做シ」ノ下ニ「製鐵事業法第七條第三項ノ金額又ハ製鐵事業法第四十二條ノ規定ニ依リ適用セラルル」ヲ加フ
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル製鉄事業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年八月十二日
内閣総理大臣 公爵 近衛文麿
内務大臣 馬場鍈一
海軍大臣 米内光政
陸軍大臣 杉山元
大蔵大臣 賀屋興宣
商工大臣 吉野信次
法律第六十八号
製鉄事業法
第一条 本法ハ産業ノ発展及国防ノ整備ヲ期スル為本邦ニ於ケル製鉄事業ノ健全ナル発達ヲ図ルコトヲ目的トス
第二条 本法ニ於テ製鉄事業ト称スルハ銑鉄、鋼鉄、鋼材(鍛鋼品及鋳鋼品ヲ含ム)其ノ他ノ鉄鋼ノ製造及之ニ附随スル副生物ノ製造ヲ為ス事業ヲ謂フ
前項ノ副生物ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三条 製鉄事業ヲ営マントスル者ハ政府ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ定ムル製鉄事業ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
本法ニ定ムルモノノ外前項ノ許可ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 前条ノ許可ヲ受ケタル者(製鉄事業者)ハ政府ノ指定スル期間内ニ其ノ事業ヲ開始スベシ
政府ハ正当ノ事由アリト認ムル場合ニ限リ前項ノ期間ノ延長ヲ許可スルコトヲ得
製鉄事業者前二項ノ期間内ニ其ノ事業ヲ開始セザルトキハ前条ノ許可ハ其ノ効力ヲ失フ
第五条 製鉄事業者其ノ設備ヲ増設シ又ハ変更セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
第六条 一ノ場所ニ於テ命令ノ定ムル所ニ依リ一年十万瓲以上ノ製銑能力及一年十万瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ以テ営ム製鉄事業ハ土地収用法第二条ノ土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業トシ同法ヲ適用ス
第七条 第三条ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ前条ニ規定スル設備ヲ新設シタル製鉄事業者ニハ設備完成ノ年及其ノ翌年ヨリ十五年間其ノ設備ヲ以テ営ム製鉄事業ニ付所得税及営業収益税ヲ免除ス
前項ノ製鉄事業者其ノ設備完成前其ノ設備ノ一部ヲ以テ製鉄事業ヲ営ム場合ニ於テモ其ノ事業ニ付所得税及営業収益税ヲ免除ス但シ前項ノ規定ニ依ル期間内ニ設備ヲ完成セザルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前二項ノ製鉄事業ヨリ生ズル所得又ハ純益ガ法人ニ在リテハ各事業年度、個人ニ在リテハ各年ノ資本金額ニ対シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユルトキハ其ノ超過額ニ相当スル所得又ハ純益ニ付テハ前二項ノ規定ヲ適用セズ但シ所得税法第十九条又ハ営業収益税法第八条ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
前項ノ資本金額ノ計算方法ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八条 第六条ノ規定ニ該当セザル設備ヲ有スル製鉄事業者其ノ設備ニ付第五条ノ増設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ第六条ノ規定ニ該当スルニ至ルベキ設備ヲ増設シタルトキハ其ノ増設シタル設備ヲ以テ営ム製鉄事業ニ付前条ノ規定ヲ準用ス
第六条ニ規定スル設備ヲ以テ営ム製鉄事業者第五条ノ増設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ其ノ場所ニ於テ製銑又ハ製鋼ノ設備ヲ増設シタルトキ亦前項ニ同ジ
第九条 第三条ノ許可又ハ第五条ノ増設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ一ノ場所ニ於テ一年五千二百五十瓲以上ノ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ増設シタル鍛鋼品又ハ鋳鋼品ノ製造事業者ニハ第七条ノ規定ヲ準用ス
第三条ノ許可又ハ第五条ノ増設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ一ノ場所ニ於テ一年二千五百瓲以上ノ製銑能力又ハ製鋼能力ヲ有スル設備ヲ新設シ又ハ増設シタル低燐銑鉄製造事業者、坩堝製鋼事業者及電気製鉄事業者ニ付亦前項ニ同ジ
第十条 第三条ノ許可又ハ第五条ノ増設ノ許可ヲ受ケ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ指定スル期間内ニ砂鉄又ハ命令ヲ以テ定ムル鉄鉱ノ製錬ヲ目的トスル特殊ノ設備ヲ新設シ又ハ増設シタル製鉄事業者ニハ其ノ設備ヲ以テ営ム製鉄事業ニ付第七条第一項及第二項ノ規定ヲ準用ス
第十一条 砂鉄又ハ前条ノ鉄鉱ヲ配合シテ製銑ヲ為ス製鉄事業者ニハ配合ノ割合ニ応ジ其ノ製鉄事業ニ付本法施行ノ日ヨリ十五年間命令ノ定ムル所ニ依リ所得税及営業収益税ヲ免除ス
第十二条 北海道、府県及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ本法ニ依リ(第七条第三項但書ノ場合ヲ含ム)所得税及営業収益税ヲ免除セラレタル製鉄事業者ニハ第七条第三項ノ規定ニ依リ賦課セラレタル所得税及営業収益税ノ附加税ヲ除クノ外其ノ免除セラレタル事業ニ対シ又ハ其ノ免除セラレタル事業ニ属スル資本金額、従業者、営業用ノ工作物若ハ物件、使用動力又ハ収入ヲ標準トシテ課税スルコトヲ得ズ但シ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノニシテ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ前条ノ規定ニ依リ所得税及営業収益税ヲ免除セラレタル事業ニハ之ヲ適用セズ但シ其ノ事業ガ第七条乃至第九条ノ規定ニ依リ所得税及営業収益税ノ免除ヲ受クルコトヲ得ベキモノナルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十三条 製鉄事業ヲ継続スル者又ハ其ノ事業ヲ継続スルモノト認ムベキ事実アル者ハ前製鉄事業者ガ本法ニ依ル所得税及営業収益税免除期間内ニ在ルトキハ其ノ期間ヲ承継ス
第十四条 帝国内ニ於テ製造シタル鋼材ガ船舶ノ建造又ハ修繕ニ使用セラレタル場合ニ於テハ政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ鋼材ノ製造者ニ対シ奨励金ヲ交付スルコトヲ得
第十五条 詐欺ノ行為ヲ以テ前条ノ奨励金ノ交付ヲ受ケタル者ニ対シテハ其ノ金額ヲ返還セシム
前項ノ規定ニ依ル返還金ハ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得但シ先取特権ノ順位ハ国税ニ次グモノトス
第十六条 第六条又ハ第十条ニ規定スル製鉄事業ノ為必要ナル器具、機械其ノ他ノ材料ヲ政府ノ認可ヲ受ケ輸入スルトキハ本法施行ノ日ヨリ十年間命令ノ定ムル所ニ依リ輸入税ヲ免除ス
第十七条 製鉄事業者其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ譲渡シ、廃止シ又ハ休止セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ許可ヲ受クベシ
製鉄事業者タル法人ノ合併又ハ解散ノ決議ハ命令ノ定ムル所ニ依リ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
第十八条 製鉄事業者鉄鋼ノ生産、販売、輸出、輸入、移出若ハ移入又ハ命令ヲ以テ定ムル製鉄原料ノ購入ニ関シ統制協定ヲ為シタル場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ政府ニ届出ヅベシ之ヲ変更シ又ハ廃止シタルトキ亦同ジ
第十九条 前条ノ統制協定ヲ為シタル者ノ為其ノ統制協定ニ基キ共同販売其ノ他共同ノ目的ヲ達スルニ必要ナル事業ヲ行フ者ハ命令ノ定ムル事項ヲ政府ニ届出ヅベシ
第二十条 政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鉄事業者ニ対シ鉄鋼ノ供給数量、販売価格又ハ販売条件ノ変更其ノ他鉄鋼ノ需給ノ円滑又ハ価格ノ公正ヲ図ル為必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
政府公益上必要アリト認ムルトキハ製鉄事業者ニ対シ其ノ設備ノ拡張若ハ改良又ハ作業方法ノ変更ヲ命ズルコトヲ得
第二十一条 政府軍事上必要アリト認ムルトキハ製鉄事業者ニ対シ製鉄ニ関スル特殊事項ノ研究又ハ特殊設備ノ施設、命令ヲ以テ定ムル製鉄原料ノ保持其ノ他軍事上必要ナル事項ヲ命ズルコトヲ得
第二十二条 政府ハ第二十条第二項又ハ前条ノ規定ニ依リ為シタル命令ニ因リ生ジタル損失ニ付勅令ノ定ムル所ニ依リ補償ヲ為スコトヲ得
第二十三条 政府ハ製鉄事業者ニ対シ其ノ業務ノ状況ニ関シ報告ヲ為サシメ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ発シ又ハ処分ヲ為スコトヲ得
政府監督上必要アリト認ムルトキハ当該官吏ヲシテ製鉄事業者ノ事務所、営業所、工場、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨検シ業務ノ状況又ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ検査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス証票ヲ携帯セシムベシ
第二十四条 政府ハ第三条第一項但書ノ規定ニ依リ許可ヲ受クルコトヲ要セザル製鉄事業ヲ営ム者ニ対シ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ設備ノ能力其ノ他必要ナル事項ヲ届出デシムルコトヲ得
第二十五条 政府第三条ノ規定ニ依ル処分又ハ第二十条ノ規定ニ依ル命令ヲ為サントスルトキハ製鉄事業委員会ノ議ヲ経ベシ
製鉄事業委員会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十六条 製鉄事業者本法若ハ本法ニ基キテ発スル命令又ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シタルトキハ政府ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ、第三条ノ許可ヲ取消シ又ハ法人ノ役員ノ解任ヲ為スコトヲ得
第二十七条 第十九条ノ規定ニ該当スル者ハ第十八条、第二十条第一項、第二十三条又ハ前条ノ規定ノ適用ニ関シテハ之ヲ製鉄事業者ト看做ス
第二十八条 第三条ノ規定ニ違反シ許可ヲ受ケズシテ製鉄事業ヲ営ミタル者ハ五千円以下ノ罰金ニ処ス
第二十九条 第二十条又ハ第二十一条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
第三十条 第五条又ハ第十七条第一項ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ事項ヲ許可ヲ受ケズシテ為シタル者ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第三十一条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第二十三条第一項ノ規定ニ依ル報告ヲ為サズ若ハ虚偽ノ報告ヲ為シ又ハ監督上必要ナル命令若ハ処分ニ違反シタル者
二 第二十三条第二項ノ規定ニ依ル当該官吏ノ臨検検査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ其ノ質問ニ対シ答弁ヲ為サズ若ハ虚偽ノ陳述ヲ為シタル者
第三十二条 当該官吏又ハ其ノ職ニ在リタル者本法ニ依ル職務執行ニ関シ知得シタル個人又ハ法人ノ業務上ノ秘密ヲ漏洩シ又ハ窃用シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第三十三条 営業者ハ其ノ代理人、戸主、家族、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ業務ニ関シ本法若ハ本法ニ基キテ発スル命令又ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十四条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十五条 第十八条又ハ第十九条ノ規定ニ依ル届出ヲ怠リ又ハ不正ノ届出ヲ為シタル者ハ五百円以下ノ過料ニ処ス
第二十四条ノ規定ニ依ル届出ヲ怠リ又ハ不正ノ届出ヲ為シタル者ハ百円以下ノ過料ニ処ス
非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用ス
附 則
第三十六条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十七条 製鉄業奨励法ハ之ヲ廃止ス
第三十八条 本法施行ノ際現ニ第三条ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ製鉄事業ヲ営ム者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ同条ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第三十九条 前条ノ製鉄事業者ニシテ本法施行ノ際現ニ其ノ設備ノ増設又ハ変更ノ工事中ニ在ルモノハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ第五条ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第四十条 第三条ノ規定ニ依リ許可ヲ受クベキ製鉄事業ヲ営ム為本法施行ノ際現ニ製鉄設備ノ建設工事中ニ在ル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ日ヨリ之ヲ同条ノ許可ヲ受ケタル者ト看做ス
第四十一条 第三十八条ノ製鉄事業者ニシテ本法施行ノ際現ニ其ノ事業ノ全部又ハ一部ヲ休止セルモノハ本法施行ノ日ヨリ六月間ヲ限リ第十七条第一項ノ規定ニ拘ラズ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ継続スルコトヲ得
第四十二条 本法施行ノ際現ニ製鉄業奨励法ニ依リ所得税、営業収益税及地方税ノ免除ヲ受クルコトヲ得ベキ製鉄事業ニ付テハ仍従前ノ例ニ依リ所得税、営業収益税及地方税ヲ免除ス
本法施行ノ際現ニ製鉄業奨励法第二条乃至第四条ノ規定ニ依ル認可ヲ申請中ノ者ニ対スル所得税、営業収益税及地方税ノ免除ニ関シテハ仍従前ノ例ニ依ル
前二項ノ規定ノ適用ヲ受クル者第十一条ノ規定ノ適用ヲ受クルニ至リタル場合ニ於テハ第十二条ノ規定ニ拘ラズ前二項ノ規定ニ依リ地方税ノ免除ヲ受ク
第四十三条 本法施行ノ際現ニ第十条ニ規定スル設備ヲ以テ製鉄事業ヲ営ム者及同条ニ規定スル設備ノ新設又ハ増設ノ工事中ニ在ル者ニハ本法施行ノ日ヨリ十五年間命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ設備ヲ以テ営ム製鉄事業ニ付所得税及営業収益税ヲ免除ス
第四十四条 製鉄業奨励法ニ依リテ為シタル認可、処分、手続其ノ他ノ行為ハ本法中之ニ相当スル規定アル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ為シタルモノト看做ス
第四十五条 
大正九年法律第十二号第七条ノ二中「製鉄業奨励法ニ定ムル能力」ヲ「製鉄事業法ニ定ムル能力」ニ改メ「看做シ」ノ下ニ「製鉄事業法第七条第三項ノ金額又ハ製鉄事業法第四十二条ノ規定ニ依リ適用セラルル」ヲ加フ