軍事救護法
法令番号: 法律第一號
公布年月日: 大正6年7月20日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル軍事救護法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正六年七月十九日
內閣總理大臣 伯爵 寺內正毅
內務大臣 男爵 後藤新平
大藏大臣 勝田主計
法律第一號
軍事救護法
第一條 傷病兵、其ノ家族若ハ遺族又ハ下士兵卒ノ家族若ハ遺族ハ本法ニ依リ之ヲ救護ス
第二條 本法ニ於テ傷病兵ト稱スルハ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ヲ謂フ
一 陸海軍下士兵卒ニシテ戰鬪又ハ公務ノ爲傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ之カ爲兵役ヲ免セラレタル者
二 前號ニ揭クル者ヲ除クノ外陸海軍下士兵卒ニシテ故意又ハ重大ナル過失ニ因ルニ非スシテ戰地ニ於テ傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ之カ爲兵役ヲ免セラレタル者
第三條 本法ニ於テ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ト稱スルハ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ヲ謂フ
一 陸海軍現役兵、應召中ノ陸海軍下士兵卒又ハ傷病兵ノ配偶者又ハ子ニシテ現ニ之ト同一ノ家ニ在ル者但シ養子ハ家督相續人ニ限ル
二 前號ニ揭クル者ヲ除クノ外陸海軍現役兵、應召中ノ陸海軍下士兵卒又ハ傷病兵ニ依リ扶養ヲ受クヘキ者ニシテ現役兵ノ入營シタル時、下士兵卒ノ應召シタル時又ハ傷病兵ノ兵役ヲ免セラレタル時ヨリ引續キ之ト同一ノ家ニ在ル者
前項各號ノ陸海軍現役兵ニハ未入營現役兵及歸休兵ヲ包含セス
第四條 本法ニ於テ下士兵卒又ハ傷病兵ノ遺族ト稱スルハ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ヲ謂フ
一 戰死シタル陸海軍下士兵卒又ハ第二條各號ノ傷痍若ハ疾病ノ爲死歿シタル陸海軍下士兵卒若ハ傷病兵ノ配偶者又ハ子ニシテ現ニ下士兵卒又ハ傷病兵カ死亡ノ時屬シタル家ニ在ル者但シ養子ハ家督相續人ニ限ル
二 前號ニ揭クル者ヲ除クノ外戰死シタル陸海軍下士兵卒又ハ第二條各號ノ傷痍若ハ疾病ノ爲死歿シタル陸海軍下士兵卒若ハ傷病兵ニ依リ扶養ヲ受クヘキ者ニシテ下士兵卒ノ死亡ノ時又ハ傷病兵ノ兵役ヲ免セラレタル時ヨリ引續キ之ト同一ノ家ニ在ル者
第五條 救護ハ現役兵ノ入營、下士兵卒ノ應召傷病若ハ死亡又ハ傷病兵ノ死亡ノ爲生活スルコト能ハサル者ニ對シテノミ之ヲ爲ス
救護ハ生活ニ必要ナル限度ヲ超ユルコトヲ得ス
第六條 救護ノ種類ハ生業扶助、醫療、現品給與及現金給與トス
第七條 救護ノ程度及方法ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 傷病兵六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ者竝其ノ家族及遺族ニ對シ救護ヲ爲サス
第九條 下士兵卒又ハ傷病兵六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ニ處セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ間其ノ傷病兵及其ノ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ニ對シ救護ヲ爲サス
第十條 下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族又ハ遺族六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ者ニ對シ救護ヲ爲サス六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ニ處セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ間亦同シ
第十一條 下士兵卒ニシテ逃亡シ又ハ陸軍懲治隊ニ收容セラレタル者ニ付テハ其ノ逃亡又ハ收容ノ間其ノ家族ニ對シ救護ヲ爲サス
第十二條 下士兵卒又ハ傷病兵ニシテ怠惰又ハ素行不良ナル者ニ付テハ其ノ傷病兵竝其ノ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族及遺族ニ對シ情狀ニ因リ救護ヲ爲サス又ハ救護ノ程度ヲ減少スルコトヲ得
下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族又ハ遺族ニシテ怠惰又ハ素行不良ナル者ニ對シ亦前項ニ同シ
第十三條 傷病兵ニシテ日本ノ國籍ヲ失ヒタル者ニ對シテハ救護ヲ爲サス
第十四條 下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ニ對スル救護ハ下士兵卒又ハ傷病兵死亡後仍三月內之ヲ繼續スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ救護ヲ受クル者ニ對シテハ其ノ間下士兵卒又ハ傷病兵ノ遺族トシテノ救護ハ之ヲ爲サス
第十五條 下士兵卒ノ家族ニ對スル救護ハ下士兵卒ノ傷病兵トナリタル後仍三月內之ヲ繼續スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ救護ヲ受クル者ニ對シテハ其ノ間傷病兵ノ家族トシテノ救護ハ之ヲ爲サス
第十六條 本法ニ依ル救護ハ他ノ法令ノ適用ニ付テハ貧困ノ爲ニスル公費ノ救助ニ非サルモノト看做ス
第十七條 本法ニ依リ給與ヲ受ケタル救護金品ヲ標準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ課セス
第十八條 本法ニ依ル救護金品ハ旣ニ給與ヲ受ケタルト否トニ拘ラス之ヲ差押フルコトヲ得ス
第十九條 舊刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタル者ハ本法ノ適用ニ付テハ六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ト看做ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル軍事救護法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正六年七月十九日
内閣総理大臣 伯爵 寺内正毅
内務大臣 男爵 後藤新平
大蔵大臣 勝田主計
法律第一号
軍事救護法
第一条 傷病兵、其ノ家族若ハ遺族又ハ下士兵卒ノ家族若ハ遺族ハ本法ニ依リ之ヲ救護ス
第二条 本法ニ於テ傷病兵ト称スルハ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ヲ謂フ
一 陸海軍下士兵卒ニシテ戦闘又ハ公務ノ為傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ之カ為兵役ヲ免セラレタル者
二 前号ニ掲クル者ヲ除クノ外陸海軍下士兵卒ニシテ故意又ハ重大ナル過失ニ因ルニ非スシテ戦地ニ於テ傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ之カ為兵役ヲ免セラレタル者
第三条 本法ニ於テ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ト称スルハ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ヲ謂フ
一 陸海軍現役兵、応召中ノ陸海軍下士兵卒又ハ傷病兵ノ配偶者又ハ子ニシテ現ニ之ト同一ノ家ニ在ル者但シ養子ハ家督相続人ニ限ル
二 前号ニ掲クル者ヲ除クノ外陸海軍現役兵、応召中ノ陸海軍下士兵卒又ハ傷病兵ニ依リ扶養ヲ受クヘキ者ニシテ現役兵ノ入営シタル時、下士兵卒ノ応召シタル時又ハ傷病兵ノ兵役ヲ免セラレタル時ヨリ引続キ之ト同一ノ家ニ在ル者
前項各号ノ陸海軍現役兵ニハ未入営現役兵及帰休兵ヲ包含セス
第四条 本法ニ於テ下士兵卒又ハ傷病兵ノ遺族ト称スルハ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ヲ謂フ
一 戦死シタル陸海軍下士兵卒又ハ第二条各号ノ傷痍若ハ疾病ノ為死歿シタル陸海軍下士兵卒若ハ傷病兵ノ配偶者又ハ子ニシテ現ニ下士兵卒又ハ傷病兵カ死亡ノ時属シタル家ニ在ル者但シ養子ハ家督相続人ニ限ル
二 前号ニ掲クル者ヲ除クノ外戦死シタル陸海軍下士兵卒又ハ第二条各号ノ傷痍若ハ疾病ノ為死歿シタル陸海軍下士兵卒若ハ傷病兵ニ依リ扶養ヲ受クヘキ者ニシテ下士兵卒ノ死亡ノ時又ハ傷病兵ノ兵役ヲ免セラレタル時ヨリ引続キ之ト同一ノ家ニ在ル者
第五条 救護ハ現役兵ノ入営、下士兵卒ノ応召傷病若ハ死亡又ハ傷病兵ノ死亡ノ為生活スルコト能ハサル者ニ対シテノミ之ヲ為ス
救護ハ生活ニ必要ナル限度ヲ超ユルコトヲ得ス
第六条 救護ノ種類ハ生業扶助、医療、現品給与及現金給与トス
第七条 救護ノ程度及方法ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第八条 傷病兵六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ者並其ノ家族及遺族ニ対シ救護ヲ為サス
第九条 下士兵卒又ハ傷病兵六年未満ノ懲役又ハ禁錮ニ処セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ間其ノ傷病兵及其ノ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ニ対シ救護ヲ為サス
第十条 下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族又ハ遺族六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ者ニ対シ救護ヲ為サス六年未満ノ懲役又ハ禁錮ニ処セラレタル者ナル場合ニ於テハ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ間亦同シ
第十一条 下士兵卒ニシテ逃亡シ又ハ陸軍懲治隊ニ収容セラレタル者ニ付テハ其ノ逃亡又ハ収容ノ間其ノ家族ニ対シ救護ヲ為サス
第十二条 下士兵卒又ハ傷病兵ニシテ怠惰又ハ素行不良ナル者ニ付テハ其ノ傷病兵並其ノ下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族及遺族ニ対シ情状ニ因リ救護ヲ為サス又ハ救護ノ程度ヲ減少スルコトヲ得
下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族又ハ遺族ニシテ怠惰又ハ素行不良ナル者ニ対シ亦前項ニ同シ
第十三条 傷病兵ニシテ日本ノ国籍ヲ失ヒタル者ニ対シテハ救護ヲ為サス
第十四条 下士兵卒又ハ傷病兵ノ家族ニ対スル救護ハ下士兵卒又ハ傷病兵死亡後仍三月内之ヲ継続スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ救護ヲ受クル者ニ対シテハ其ノ間下士兵卒又ハ傷病兵ノ遺族トシテノ救護ハ之ヲ為サス
第十五条 下士兵卒ノ家族ニ対スル救護ハ下士兵卒ノ傷病兵トナリタル後仍三月内之ヲ継続スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ救護ヲ受クル者ニ対シテハ其ノ間傷病兵ノ家族トシテノ救護ハ之ヲ為サス
第十六条 本法ニ依ル救護ハ他ノ法令ノ適用ニ付テハ貧困ノ為ニスル公費ノ救助ニ非サルモノト看做ス
第十七条 本法ニ依リ給与ヲ受ケタル救護金品ヲ標準トシテ租税其ノ他ノ公課ヲ課セス
第十八条 本法ニ依ル救護金品ハ既ニ給与ヲ受ケタルト否トニ拘ラス之ヲ差押フルコトヲ得ス
第十九条 旧刑法ノ重罪ノ刑ニ処セラレタル者ハ本法ノ適用ニ付テハ六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者ト看做ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム