朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル畜牛結核病豫防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十四年四月十二日
內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
內務大臣 文學博士 男爵 末松謙澄
農商務大臣 林有造
法律第三十五號
畜牛結核病豫防法
第一條 乳用牛、外國種牛及雜種牛ハ結核病ノ有無又ハ輕重ヲ定ムル爲行政官廳ニ於テ之ヲ檢査ス結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ニ付テモ亦同シ
第二條 乳用牛、種牡牛及結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ノ檢査ハ「ツベルクリン」注射ノ方法ニ依リ之ヲ行フ
第三條 檢査ノ期日及場所ハ行政官廳之ヲ指定ス
第一條ニ揭ケタル畜牛ノ所有者又ハ管理者ハ前項ノ指定ニ從ヒ其ノ檢査ヲ受クヘシ
第四條 結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ヲ發見シタルトキハ所有者、管理者又ハ獸醫ニ於テ直ニ之ヲ屆出ツヘシ
第五條 結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ハ檢査員ノ指揮ニ從ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ隔離スヘシ
第六條 重症結核病ニ罹リタル畜牛ハ檢査員ノ指揮ニ從ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ撲殺スヘシ
輕症結核病ニ罹リタル畜牛ハ檢査員ノ指揮ニ從ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ鎖錮スヘシ
第七條 外國ヨリ輸入スル畜牛ハ輸入申吿後特ニ定メタル場所ニ於テ「ツベルクリン」注射ノ方法ニ依リ之ヲ檢査ス
前項ノ檢査ニ關シテハ稅關長及檢査員ノ指揮ニ從フヘシ
第一項ノ畜牛ニシテ結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アルトキハ稅關長又ハ檢査員ニ於テ其ノ輸入ノ禁止、繫留其ノ他必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得
第八條 前條ニ依リ輸入ヲ禁止セラレタル者畜牛ヲ撲殺セムトスルトキハ稅關長及檢査員ノ指揮ニ從フヘシ
第九條 結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁、屍體及其ノ部分、畜牛ヲ置キタル場所竝病毒ニ汚染シ及其ノ疑アル物品ハ檢査員ノ指揮ニ從ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ消毒スヘシ
第十條 重症結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁竝屍體及其ノ部分ハ皮角蹄ヲ除クノ外檢査員ノ指揮ニ從ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ燒棄又ハ埋却スヘシ但シ認可ヲ得タル裝置ヲ以テ化製スルモノハ此ノ限ニ在ラス
輕症結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁竝屍體及其ノ部分ノ處分方法ハ主務大臣之ヲ定ム
第十一條 結核病ニ罹リタル畜牛ヲ置キタル場所竝病毒ニ汚染シ及其ノ疑アル物品ハ檢査員ニ於テ其ノ燒棄又ハ埋却ヲ命スルコトヲ得
第十二條 結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁、屍體若ハ其ノ部分又ハ病毒ニ汚染シ若ハ其ノ疑アル物品ヲ埋却シタル場所ハ三箇年間之ヲ發掘スルコトヲ得ス但シ行政官廳ノ許可ヲ得タル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十三條 第六條又ハ第十一條ニ依リ畜牛ヲ撲殺シ又ハ物品ヲ燒棄若ハ埋却シタル場合ニ於テハ其ノ評價額ノ二分ノ一ニ當ル手當金ヲ下付ス
畜牛ノ手當金ハ一頭ニ付外國種牛ニ在リテハ七十五圓、雜種牛及內國種牛ニ在リテハ五十圓、六箇月未滿ノ幼牛ニ在リテハ十五圓ヲ超ユルコトヲ得ス物品ノ手當金ハ總テ十圓ヲ超ユルコトヲ得ス
畜牛及物品ノ評價ハ三人以上ノ評價人ヲ選定シテ之ヲ爲サシム但シ其ノ評價ヲ不當ト認メタルトキハ更ニ三人以上ノ評價人ヲ選定シテ之ヲ爲サシム
第十四條 左ノ場合ニ於テハ畜牛ノ手當金ヲ下付セス
一、 檢査ヲ受ケス、之ヲ拒ミ又ハ妨ケタルトキ
二、 第四條、第五條又ハ第六條ニ違背シタルトキ
三、 檢査ヲ受ケスシテ畜牛ヲ輸入シタルトキ
左ノ場合ニ於テハ物品ノ手當金ヲ下付セス
一、 前項各號ノ一ニ該當スルトキ
二、 第九條、第十條第一項又ハ同條第二項ニ基ツキテ發シタル命令ニ違背シタルトキ
三、 第七條第二項、第三項又ハ第八條若ハ第十一條ノ命令ニ從ハサルトキ
第十五條 手當金ヲ受クヘキ者其ノ全部又ハ一部ヲ拒否スル處分ニ不服ナルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第十六條 畜牛結核病豫防ニ關スル費用ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ國庫、府縣及一個人ニ於テ之ヲ負擔ス
第十七條 檢査ヲ受ケス、之ヲ拒ミ若ハ之ヲ妨ケタル者、檢査ヲ受ケスシテ畜牛ヲ輸入シタル者、第五條若ハ第六條ニ違背シタル者又ハ第七條第三項ノ命令ニ從ハサル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十八條 第四條、第九條、第十條第一項若ハ第十二條ニ違背シタル者又ハ第七條第二項、第八條若ハ第十一條ノ命令ニ從ハサル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第十九條 明治三十三年法律第五十二號ハ本法及本法ニ基ツキテ發スル命令ノ處罰ニ關シテ之ヲ準用ス
附 則
本法ハ明治三十六年七月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ外國ヨリ輸入スル畜牛ニ關シテハ明治三十四年七月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル畜牛結核病予防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十四年四月十二日
内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文
内務大臣 文学博士 男爵 末松謙澄
農商務大臣 林有造
法律第三十五号
畜牛結核病予防法
第一条 乳用牛、外国種牛及雑種牛ハ結核病ノ有無又ハ軽重ヲ定ムル為行政官庁ニ於テ之ヲ検査ス結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ニ付テモ亦同シ
第二条 乳用牛、種牡牛及結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ノ検査ハ「ツベルクリン」注射ノ方法ニ依リ之ヲ行フ
第三条 検査ノ期日及場所ハ行政官庁之ヲ指定ス
第一条ニ掲ケタル畜牛ノ所有者又ハ管理者ハ前項ノ指定ニ従ヒ其ノ検査ヲ受クヘシ
第四条 結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ヲ発見シタルトキハ所有者、管理者又ハ獣医ニ於テ直ニ之ヲ届出ツヘシ
第五条 結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アル畜牛ハ検査員ノ指揮ニ従ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ隔離スヘシ
第六条 重症結核病ニ罹リタル畜牛ハ検査員ノ指揮ニ従ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ撲殺スヘシ
軽症結核病ニ罹リタル畜牛ハ検査員ノ指揮ニ従ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ鎖錮スヘシ
第七条 外国ヨリ輸入スル畜牛ハ輸入申告後特ニ定メタル場所ニ於テ「ツベルクリン」注射ノ方法ニ依リ之ヲ検査ス
前項ノ検査ニ関シテハ税関長及検査員ノ指揮ニ従フヘシ
第一項ノ畜牛ニシテ結核病ニ罹リ又ハ其ノ疑アルトキハ税関長又ハ検査員ニ於テ其ノ輸入ノ禁止、繋留其ノ他必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得
第八条 前条ニ依リ輸入ヲ禁止セラレタル者畜牛ヲ撲殺セムトスルトキハ税関長及検査員ノ指揮ニ従フヘシ
第九条 結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁、屍体及其ノ部分、畜牛ヲ置キタル場所並病毒ニ汚染シ及其ノ疑アル物品ハ検査員ノ指揮ニ従ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ消毒スヘシ
第十条 重症結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁並屍体及其ノ部分ハ皮角蹄ヲ除クノ外検査員ノ指揮ニ従ヒ所有者又ハ管理者ニ於テ之ヲ焼棄又ハ埋却スヘシ但シ認可ヲ得タル装置ヲ以テ化製スルモノハ此ノ限ニ在ラス
軽症結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁並屍体及其ノ部分ノ処分方法ハ主務大臣之ヲ定ム
第十一条 結核病ニ罹リタル畜牛ヲ置キタル場所並病毒ニ汚染シ及其ノ疑アル物品ハ検査員ニ於テ其ノ焼棄又ハ埋却ヲ命スルコトヲ得
第十二条 結核病ニ罹リタル畜牛ノ乳汁、屍体若ハ其ノ部分又ハ病毒ニ汚染シ若ハ其ノ疑アル物品ヲ埋却シタル場所ハ三箇年間之ヲ発掘スルコトヲ得ス但シ行政官庁ノ許可ヲ得タル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十三条 第六条又ハ第十一条ニ依リ畜牛ヲ撲殺シ又ハ物品ヲ焼棄若ハ埋却シタル場合ニ於テハ其ノ評価額ノ二分ノ一ニ当ル手当金ヲ下付ス
畜牛ノ手当金ハ一頭ニ付外国種牛ニ在リテハ七十五円、雑種牛及内国種牛ニ在リテハ五十円、六箇月未満ノ幼牛ニ在リテハ十五円ヲ超ユルコトヲ得ス物品ノ手当金ハ総テ十円ヲ超ユルコトヲ得ス
畜牛及物品ノ評価ハ三人以上ノ評価人ヲ選定シテ之ヲ為サシム但シ其ノ評価ヲ不当ト認メタルトキハ更ニ三人以上ノ評価人ヲ選定シテ之ヲ為サシム
第十四条 左ノ場合ニ於テハ畜牛ノ手当金ヲ下付セス
一、 検査ヲ受ケス、之ヲ拒ミ又ハ妨ケタルトキ
二、 第四条、第五条又ハ第六条ニ違背シタルトキ
三、 検査ヲ受ケスシテ畜牛ヲ輸入シタルトキ
左ノ場合ニ於テハ物品ノ手当金ヲ下付セス
一、 前項各号ノ一ニ該当スルトキ
二、 第九条、第十条第一項又ハ同条第二項ニ基ツキテ発シタル命令ニ違背シタルトキ
三、 第七条第二項、第三項又ハ第八条若ハ第十一条ノ命令ニ従ハサルトキ
第十五条 手当金ヲ受クヘキ者其ノ全部又ハ一部ヲ拒否スル処分ニ不服ナルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第十六条 畜牛結核病予防ニ関スル費用ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ国庫、府県及一個人ニ於テ之ヲ負担ス
第十七条 検査ヲ受ケス、之ヲ拒ミ若ハ之ヲ妨ケタル者、検査ヲ受ケスシテ畜牛ヲ輸入シタル者、第五条若ハ第六条ニ違背シタル者又ハ第七条第三項ノ命令ニ従ハサル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第十八条 第四条、第九条、第十条第一項若ハ第十二条ニ違背シタル者又ハ第七条第二項、第八条若ハ第十一条ノ命令ニ従ハサル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第十九条 明治三十三年法律第五十二号ハ本法及本法ニ基ツキテ発スル命令ノ処罰ニ関シテ之ヲ準用ス
附 則
本法ハ明治三十六年七月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ外国ヨリ輸入スル畜牛ニ関シテハ明治三十四年七月一日ヨリ之ヲ施行ス