松くい虫防除特別措置法
法令番号: 法律第18号
公布年月日: 昭和52年4月18日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

松林は防風や土砂防止など国土保全上重要な森林資源だが、近年松くい虫による被害が激甚化し、宮城県から沖縄県まで約45万ヘクタールに及び、年間被害材積は100万立方メートルを超えている。原因は、マツノザイセンチュウがマツノマダラカミキリを介して松に侵入することが判明し、その防除には薬剤の空中散布が有効とわかった。松くい虫の繁殖力が旺盛なため、航空機による薬剤防除を緊急かつ計画的に推進し、異常な被害を早急に終息させる必要があることから、森林病害虫等防除法に対する特別法として本法案を提出した。

参照した発言:
第80回国会 衆議院 農林水産委員会 第3号

審議経過

第80回国会

衆議院
(昭和52年3月10日)
参議院
(昭和52年3月10日)
衆議院
(昭和52年3月15日)
(昭和52年3月16日)
(昭和52年3月22日)
(昭和52年3月23日)
(昭和52年3月29日)
(昭和52年3月30日)
参議院
(昭和52年3月31日)
(昭和52年4月1日)
(昭和52年4月7日)
(昭和52年4月16日)
松くい虫防除特別措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和五十二年四月十八日
内閣総理大臣 福田赳夫
法律第十八号
松くい虫防除特別措置法
(目的)
第一条 この法律は、松くい虫が運ぶ線虫類により松林に異常な被害が発生している状況にかんがみ、森林資源として重要な松林を保護するため、必要な特別防除を、周囲の自然環境及び生活環境の保全に適切な考慮を払いつつ、緊急かつ計画的に推進する措置を講じ、もつて国土の保全に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「松くい虫」とは、松の枯死の原因となる線虫類(以下「線虫類」という。)を運ぶ松くい虫をいう。
2 この法律において「特別防除」とは、松くい虫を駆除し、又はそのまん延を防止するため航空機を利用して行う薬剤による防除をいう。
(基本方針)
第三条 農林大臣は、昭和五十二年度以降の五箇年間において松くい虫が運ぶ線虫類により松林に発生している異常な被害が終息することとなるように、特別防除を行うべき松林に関する基準、特別防除を行う松林の周囲の自然環境及び生活環境の保全に関する事項、特別防除により農業、漁業その他の事業に被害を及ぼさないようにするために必要な措置に関する事項その他松くい虫の薬剤による防除に関する基本的な事項についての基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 農林大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更しようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、中央森林審議会及び関係都道府県知事の意見を聴かなければならない。
3 農林大臣は、基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、関係行政機関の長及び関係都道府県知事に通知しなければならない。
(実施計画)
第四条 都道府県知事は、前条第三項の規定による通知を受けたときは、遅滞なく、基本方針に即して、民有林(森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第二条第三項に規定する民有林をいう。)である松林について松くい虫の薬剤による防除に関する実施計画(以下「実施計画」という。)を定め、又はこれを変更しなければならない。
2 実施計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 基本方針に定める特別防除を行うべき松林に関する基準に適合する二以上の松林を合わせて政令で定めるところにより防除の単位として定める松林群(以下「松林群」という。)ごとの特別防除の計画的な実施に関し必要な事項
二 前号に掲げるもののほか、松くい虫の薬剤による防除の実施に関し必要な事項
3 都道府県知事は、実施計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、都道府県森林審議会及び関係市町村長の意見を聴くとともに、農林大臣に協議しなければならない。
4 都道府県知事は、実施計画を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、関係市町村長に通知しなければならない。
(命令に代えて行う特別防除)
第五条 都道府県知事は、次に掲げる松林群につき、松くい虫を駆除し、又はそのまん延を防止するため特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、森林病害虫等防除法(昭和二十五年法律第五十三号)第五条第一項の規定による命令(同法第三条第一項第四号に掲げるものに限る。以下同じ。)に代えて特別防除を行うことができる。
一 森林法第二十五条第一項又は第二項の規定により保安林として指定された松林その他の公益的機能が高い松林で政令で定めるものの面積がその面積の過半を占める松林群
二 特別防除を緊急に行わないとすれば、松くい虫が運ぶ線虫類により松林に発生している被害が著しく拡大することとなると認められる松林群(前号に掲げる松林群を除く。)
2 都道府県知事は、前項の規定により特別防除を行おうとするときは、その二十日前までに、農林省令で定めるところにより、特別防除を行う区域及び期間を公表しなければならない。ただし、特別防除を特に緊急に行う必要があるときは、この限りでない。
3 前項の区域内において松林を所有する者は、同項の規定による公表があつた日から二週間以内に、理由を記載した書面をもつて都道府県知事に不服を申し出ることができる。
4 都道府県知事は、前項の規定による不服の申出を受けたときは、当該申出をした者に対し、あらかじめ期日及び場所を通知して、公開による聴聞を行い、その者又はその代理人が証拠を提示し、意見を述べる機会を与えた後、当該申出に対する決定をしなければならない。
第六条 農林大臣は、前条第一項各号に掲げる松林群(政令で定める面積以上の面積を有するものに限る。)につき、都道府県知事の申出があつた場合において、早期に、かつ、徹底的に、松くい虫を駆除し、又はそのまん延を防止するため特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、森林病害虫等防除法第三条第一項第四号に掲げる命令に代えて、特別防除を行うことができる。
2 前項の場合には、前条第二項から第四項までの規定を準用する。
(受忍義務)
第七条 第五条第一項又は前条第一項の規定による特別防除が行われる区域内において松林を所有し、又は管理する者は、当該特別防除の実施行為を拒んではならない。
(薬剤の安全かつ適正な使用等)
第八条 松林群において特別防除を行う者は、薬剤の安全かつ適正な使用を確保するとともに、農業、漁業その他の事業に被害を及ぼさないように必要な措置を講ずるものとする。
(実施計画と薬剤による防除の命令との関係)
第九条 農林大臣又は都道府県知事は、松くい虫の防除に係る森林病害虫等防除法第三条第一項第四号に掲げる命令又は同法第五条第一項の規定による命令をするに当たつては、実施計画が達成されることとなるようにしなければならない。
(国有林)
第十条 国有林(森林法第二条第三項に規定する国有林をいう。)である松林を所管する国の機関は、基本方針に即して、当該松林について計画的に松くい虫の防除を行うものとする。
(国の補助)
第十一条 国は、都道府県に対し、政令で定めるところにより、第五条第一項の規定により都道府県知事が行う特別防除に要する費用の一部を補助する。
(準用規定)
第十二条 森林病害虫等防除法第四条の二の規定は第五条第一項又は第六条第一項の規定による特別防除について、同法第十条の規定は第五条第一項の規定による特別防除について、それぞれ準用する。この場合において、同法第四条の二中「農林大臣は、第三条第一項又は前条第一項の規定により森林病害虫等の駆除又はそのまん延の防止のため必要な措置を行なう場合」とあるのは「農林大臣又は都道府県知事は、松くい虫防除特別措置法第六条第一項又は第五条第一項の規定により特別防除を行う場合」と、同法第十条中「第五条第一項若しくは同条第二項において準用する第四条第一項の規定により都道府県知事が行なう森林病害虫等の駆除若しくはそのまん延の防止のため必要な措置又は第七条第二項の規定により森林害虫防除員の行なう処分」とあるのは「松くい虫防除特別措置法第五条第一項の規定により都道府県知事が行う特別防除」と、「森林、樹木、指定種苗又は伐採木等」とあるのは「松林」と読み替えるものとする。
(森林害虫防除員の事務の特例)
第十三条 森林害虫防除員は、森林病害虫等防除法第十一条に規定する事務のほか、第五条第一項の規定による特別防除に関する事務に従事するものとする。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 この法律は、昭和五十七年三月三十一日限り、その効力を失う。
農林大臣 鈴木善幸
内閣総理大臣 福田赳夫