(目的)
第一条 この法律は、石炭鉱山の実態を総合的に調査して、その保安に関する設備の整備の促進を図るとともに、保安を確保することが困難なため鉱業を廃止する石炭鉱山に対しその廃止を円滑に行なわせるための措置を講じ、もつて石炭鉱山における保安を確保することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「鉱業権」、「採掘権」又は「租鉱権」とは、石炭を目的とする鉱業権、採掘権又は租鉱権をいい、「鉱業権者」、「採掘権者」又は「租鉱権者」とは、石炭を目的とする鉱業権、採掘権又は租鉱権を有する者をいい、「鉱区」又は「租鉱区」とは、石炭を目的とする鉱業権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区をいう。
2 この法律において「石炭鉱山」とは、石炭鉱業を行なう事業場をいう。
(行為の効力)
第三条 この法律の規定によつてした処分及び採掘権者、租鉱権者又は関係人がこの法律の規定によつてした手続その他の行為は、これらの者の承継人に対しても、その効力を有する。
(調査)
第四条 通商産業大臣は、石炭鉱山における保安を確保するため、この法律の施行の際現に鉱業を行なつている採掘権者又は租鉱権者について、石炭の鉱量及び品位、鉱床の状態その他の自然条件に関する事項、経理的基礎及び技術的能力に関する事項並びに保安に関する設備、保安教育その他の保安に関する事項に関し総合的調査を行なうものとする。
(保安に関する事項の改善の勧告)
第五条 通商産業大臣は、前条の調査の結果に基づき、必要があると認めるときは、採掘権者又は租鉱権者に対し、その石炭鉱山における保安に関する事項の改善に関し勧告をすることができる。
2 採掘権者又は租鉱権者は、前項の勧告を受けたときは、直ちに、その勧告の内容を鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)第十九条第一項の規定によりその石炭鉱山に設けられた保安委員会に通知しなければならない。
(鉱業の廃止の勧告)
第六条 通商産業大臣は、第四条の調査の結果に基づき、保安を確保することが困難であると認められる石炭鉱山の採掘権者又は租鉱権者であつて通商産業省令で定める基準に該当するものに対し、その石炭鉱山における鉱業の廃止の勧告をすることができる。
(資金の確保)
第七条 政府は、石炭鉱山における保安に関する設備の整備に必要な資金の確保に努めるものとする。
(石炭鉱山整理交付金の交付)
第八条 国は、政令で定めるところにより、第六条第一項の勧告を受けた採掘権者又は租鉱権者がその石炭鉱山における鉱業を廃止して当該採掘権又は租鉱権の放棄による消滅の登録を受けた場合は、当該採掘権者又は租鉱権者に対し、石炭鉱山整理交付金(以下「交付金」という。)を交付することができる。
2 交付金は、前項の規定によりその交付を受けることとなつた者(以下「廃止事業者」という。)のために、石炭鉱業合理化事業団(以下「事業団」という。)に対し交付するものとする。
(公示)
第九条 通商産業大臣は、廃止事業者に係る採掘権又は租鉱権の消滅の登録が行なわれたときは、すみやかに、当該廃止事業者について交付金を交付する旨及び当該鉱区又は租鉱区に関する鉱害について賠償請求権を有する者は、六十日以上の一定期間内に事業団に対し権利の申出をすべき旨を公示しなければならない。
2 前項の賠償請求権を有する者が同項の期間内に同項の申出をしなかつたときは、当該鉱区又は租鉱区に関する鉱害について有する当該賠償請求権については、次条第一項の規定による債務の弁済を請求することができない。
(債務の弁済)
第十条 事業団は、廃止事業者に代理して、第八条第二項の規定により交付を受けた交付金の額(以下「交付金額」という。)をこえない範囲内において、通商産業省令で定めるところにより、次に掲げる債務の弁済を行なう。
一 廃止事業者が放棄した採掘権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区における石炭の掘採及びこれに附属する選炭その他の業務に従事していた鉱山労働者に対し当該廃止事業者が負担する賃金の支払の債務であつて当該採掘権又は租鉱権を放棄した日までに弁済期の到来しているもの
二 廃止事業者が放棄した採掘権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区に関する鉱害の賠償債務
2 前項の通商産業省令には、同項各号に掲げる債務の弁済が公平に行なわれることを確保するために必要な事項及び同項各号に掲げる債務の合計額が交付金額をこえる場合における同項第一号に掲げる債務が同項第二号に掲げる債務に優先する限度を定めておかなければならない。
3 事業団は、廃止事業者が破産法(大正十一年法律第七十一号)その他の法令の規定によりその債務の弁済を制限されている場合においても、これらの法令の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる債務の弁済を行なうことができる。
(交付金の引渡し)
第十一条 事業団は、前条第一項の規定により一の廃止事業者に係る同項各号に掲げる債務の全部を弁済した場合において、当該廃止事業者に係る交付金額に残余があるときは、遅滞なく、通商産業大臣の承認を受けて、その残余に相当する金額を当該廃止事業者に引き渡さなければならない。一の廃止事業者に係る交付金額に残余があることが確実であると認められる場合も、同様とする。
(交付金を受ける権利の保護)
第十二条 廃止事業者が交付金の交付を受ける権利は、譲り渡し、、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、廃止事業者が前条の規定により交付金の引渡しを受ける権利については、この限りでない。
(政令への委任)
第十三条 前五条に規定するもののほか、交付金に関し必要な事項は、政令で定める。
(事業団の業務)
第十四条 事業団は、石炭鉱業合理化臨時措置法(昭和三十年法律第百五十六号)第二十五条第一項に規定する業務のほか、次の業務を行なう。
一 第八条第二項及び第十条第一項の規定による廃止事業者の代理並びに第十一条の規定による交付金の引渡しに関する業務
2 事業団は、石炭鉱業合理化臨時措置法第二十六条第一項の業務の方法には、前項各号に掲げる業務に関する業務の方法を定めておかなければならない。
3 事業団が第八条第二項の規定により交付を受けた交付金を運用した場合に生ずる利子は、第一項各号に掲げる業務の執行に必要な経費にあてるものとする。
4 事業団は、第一項各号に掲げる業務に係る経理については、政令で定めるところにより、その他の経理と区分し、特別の勘定を設けて整理しなければならない。
5 石炭鉱業合理化臨時措置法第五十二条第二項、第五十三条並びに第八十九条第四号及び第五号の規定は、第一項各号に掲げる業務について準用する。
6 第一項各号に掲げる業務は、石炭鉱業合理化臨時措置法第八十九条第二号の規定の適用については、同法第二十五条第一項に規定する業務とみなす。
(鉱業権の設定の出願の不許可等)
第十五条 通商産業局長は、廃止事業者が放棄した採掘権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区の区域について鉱業権の設定若しくは鉱区の増加の出願又は租鉱権の設定若しくは租鉱区の増加の認可の申請があつたときは、当該区域については、その出願を許可し、又はその申請の認可をしてはならない。
2 廃止事業者は、その放棄した採掘権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区の区域と重複する鉱区に係る鉱業権を譲り受けてはならない。
(鉱山労働者に対する金銭の支払)
第十六条 国は、政令で定めるところにより、廃止事業者が放棄した採掘権又は租鉱権の鉱区又は租鉱区における石炭の掘採及びこれに附属する選炭その他の業務に徒事していた鉱山労働者であつて当該廃止事業者がその石炭鉱山における鉱業を廃止したことにより解雇されたものに対し、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十二条の平均賃金の三十日分に相当する金額を支払わなければならない。
2 前項の規定による支払の義務は、二年を経過したときは、時効により消滅する。