日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法
法令番号: 法律第138号
公布年月日: 昭和27年5月7日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

日米安全保障条約第3条に基づく行政協定の実施にあたり、アメリカ軍及びその要員に対する刑事上の特別措置が必要となったため提案された。法案は、施設区域への不法侵入、軍事裁判所関連の証拠隠滅・偽証、軍用物損壊、機密侵害、制服の不当着用等の罪を規定している。また、米軍関係者の逮捕・引渡し、施設区域内での強制処分、米軍事裁判所への協力等の手続規定も含む。既存法令では対応できない事項について必要最小限の特則を設けつつ、一般国民の人権保護にも配慮している。なお、特別に規定のない事項については既存法令が適用される。

参照した発言:
第13回国会 衆議院 法務委員会 第29号

審議経過

第13回国会

参議院
(昭和27年3月31日)
衆議院
(昭和27年4月3日)
参議院
(昭和27年4月4日)
(昭和27年4月14日)
(昭和27年4月16日)
衆議院
(昭和27年4月17日)
(昭和27年4月18日)
(昭和27年4月19日)
(昭和27年4月21日)
参議院
(昭和27年4月21日)
衆議院
(昭和27年4月22日)
(昭和27年4月24日)
(昭和27年4月25日)
参議院
(昭和27年4月25日)
(昭和27年4月26日)
(昭和27年4月27日)
(昭和27年4月28日)
衆議院
(昭和27年5月6日)
参議院
(昭和27年5月6日)
衆議院
(昭和27年7月31日)
参議院
(昭和27年7月31日)
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年五月七日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百三十八号
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法
目次
第一章
総則(第一條)
第二章
罪(第二條―第九條)
第三章
刑事手続(第十條―第二十條)
附則
第一章 総則
(定義)
第一條 この法律において「行政協定」とは、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定をいう。
2 この法律において「合衆国軍隊」とは、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第一條に基き日本国内及びその附近に配備されたアメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍であつて、日本国内にある間におけるものをいう。
3 この法律において「合衆国軍隊の構成員」とは、合衆国軍隊に属する人員で、現に服役中のものをいう。
4 この法律において「軍属」とは、アメリカ合衆国の国籍を有する文民(アメリカ合衆国及び日本国の二重国籍者については、アメリカ合衆国が日本国内に入れた者に限る。)で、合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの(通常日本国内に在留する者及び合衆国軍隊のためのアメリカ合衆国との契約の履行のみを目的として日本国内にある者を除く。)をいう。
5 この法律において「家族」とは、左に掲げる者(日本国の国籍のみを有する者を除く。)をいう。
一 合衆国軍隊の構成員又は軍属の配偶者及び二十一歳未満の子
二 合衆国軍隊の構成員又は軍属の父、母及び二十一歳以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員又は軍属に依存するもの
第二章 罪
(施設又は区域を侵す罪)
第二條 正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(行政協定第二條第一項の施設又は区域をいう。以下同じ。)であつて入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、一年以下の懲役又は二千円以下の罰金若しくは科料に処する。但し刑法(明治四十年法律第四十五号)に正條がある場合には、同法による。
(証拠を隠滅する等の罪)
第三條 行政協定によりアメリカ合衆国の軍事裁判所(以下「合衆国軍事裁判所」という。)が裁判権を行使する他人の刑事被告事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
2 犯人の親族が犯人の利益のために前項の罪を犯したときは、その刑を免除することができる。
(偽証等の罪)
第四條 合衆国軍事裁判所の手続に従つて宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の罪を犯した者が、証言した事件の裁判の確定前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
3 合衆国軍事裁判所の手続に従つて宣誓した鑑定人又は通訳人が虚偽の鑑定又は通訳をしたときは、前二項の例による。
(軍用物を損壊する等の罪)
第五條 合衆国軍隊に属し、且つ、その軍用に供する兵器、弾薬、糧食、被服その他の物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
(合衆国軍隊の機密を侵す罪)
第六條 合衆国軍隊の機密(合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないものをいう。以下同じ。)を、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、探知し、又は収集した者は、十年以下の懲役に処する。
2 合衆国軍隊の機密で、通常不当な方法によらなければ探知し、又は収集することができないようなものを他人に漏らした者も、前項と同様とする。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
第七條 前條第一項又は第二項の罪の陰謀をした者は、五年以下の懲役に処する。
2 前條第一項又は第二項の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者も、前項と同様とする。
3 前項の規定は、教唆された者が、教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。
第八條 第六條第一項の罪、同項に係る同條第三項の罪又は同條第一項に係る前條第一項の罪を犯した者が、自首したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
(制服を不当に着用する罪)
第九條 正当な理由がないのに、合衆国軍隊の構成員の制服又はこれに似せて作つた衣服を着用した者は、拘留又は科料に処する。
第三章 刑事手続
(施設又は区域内の逮捕等)
第十條 合衆国軍隊の使用する施設又は区域内における逮捕、勾引状又は勾留状の執行その他人身を拘束する処分は、合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けて行い、又は検察官若しくは司法警察職員からその合衆国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。
(施設又は区域外で逮捕された合衆国軍隊要員の引渡)
第十一條 検察官又は司法警察員は、合衆国軍隊の使用する施設又は区域外で逮捕された者が合衆国軍隊の構成員、軍属又は家族(以下「合衆国軍隊要員」という。)であることを確認したときは、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定にかかわらず、直ちに被疑者を合衆国軍隊に引き渡さなければならない。
2 司法警察員は、前項の規定により被疑者を合衆国軍隊に引き渡した場合においても、必要な捜査を行い、すみやかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。
(合衆国軍隊によつて逮捕された者の受領)
第十二條 検察官又は司法警察員は、行政協定第十七條第三項(b)又は(c)による引渡の通知があつた場合には、裁判官の発する逮捕状を示して被疑者の引渡を受け、又は検察事務官若しくは司法警察職員にその引渡を受けさせなければならない。
2 検察官又は司法警察員は、引き渡されるべき者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があつて、急速を要し、あらかじめ裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げてその者の引渡を受け、又は受けさせなければならない。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
3 前二項の場合を除く外、検察官又は司法警察員は、引き渡される者を受け取つた後、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による引渡があつた場合には、刑事訴訟法第百九十九條の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。但し、同法第二百三條、第二百四條及び第二百五條第二項に規定する時間は、引渡があつた時から起算する。
(施設又は区域内の差押、捜索等)
第十三條 合衆国軍隊の使用する施設若しくは区域内における、又は合衆国軍隊の財産についての捜索(捜索状の執行を含む。以下同じ。)、差押(差押状の執行を含む。以下同じ。)又は検証は、合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けて行い、又は検察官若しくは司法警察員からその合衆国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。但し、裁判所又は裁判官が必要とする検証の嘱託は、その裁判所又は裁判官からするものとする。
2 合衆国軍隊の使用する施設又は区域外にある合衆国軍隊要員の身体又は財産についても、前項と同様である。但し、被疑者を逮捕するため捜索する場合、逮捕の現場で差押、捜索若しくは検証をする場合、又は行政協定第十七條第三項(a)に従つて逮捕することができる合衆国軍隊要員についてその事件の証拠を収集するため差押、捜索若しくは検証をする場合は、この限りでない。
(日本国の法令による罪に係る事件についての捜査)
第十四條 行政協定により合衆国軍事裁判所が裁判権を行使する事件であつても、日本国の法令による罪に係る事件については、検察官、検察事務官又は司法警察職員(鉄道公安職員を含む。)は、捜査をすることができる。
2 前項の捜査に関しては、裁判所又は裁判官は、令状の発付その他刑事訴訟に関する法令に定める権限を行使することができる。
(証人の出頭等の義務)
第十五條 合衆国軍事裁判所の嘱託により、裁判官から合衆国軍事裁判所に証人として出頭すべき旨を命ぜられ、又は合衆国軍事裁判所において宣誓若しくは証言を求められた者は、これに応じなければならない。
2 前項の者が、正当な理由がないのに、出頭せず、又は宣誓若しくは証言を拒んだときは、一万円以下の過料に処する。
(証人の勾引についての協力)
第十六條 正当な理由がないのに、前條第一項の規定による裁判官の出頭命令に応じない証人について合衆国軍事裁判所から嘱託があつたときは、裁判官は、その証人に対して勾引状を発して、これを合衆国軍事裁判所に勾引することができる。
2 前項の勾引状には、合衆国軍事裁判所の嘱託の趣旨を記載しなければならない。
3 第一項の勾引状は、検察官の指揮により、司法警察職員が執行する。
4 刑事訴訟法第七十一條及び第七十三條第一項前段の規定は、第一項の規定による勾引に準用する。
(書類又は証拠物の提供等)
第十七條 裁判所、検察官又は司法警察員は、その保管する書類又は証拠物について、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊から、刑事事件の審判又は捜査のため必要があるものとして申出があつたときは、その閲覧若しくは謄写を許し、謄本を作成して交付し、又はこれを一時貸与し、若しくは引き渡すことができる。
(日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件についての協力)
第十八條 検察官又は司法警察員は、合衆国軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、合衆国軍隊要員の逮捕の要請を受けたときは、これを逮捕し、又は検察事務官若しくは司法警察職員に逮捕させることができる。
2 合衆国軍隊から逮捕の要請があつた者が、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内にいることを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の許可を得て、その場所に入りその者を捜索することができる。但し、追跡されている者がその場所に入つたことが明らかであつて、急速を要し裁判官の許可を得ることができないときは、その許可を得ることを要しない。
3 第一項の規定により合衆国軍隊要員を逮捕したときは、直ちに検察官又は司法警察員から、その者を合衆国軍隊に引き渡さなければならない。
4 司法警察員は、前項の規定により合衆国軍隊要員を引き渡したときは、その旨を検察官に通報しなければならない。
第十九條 検察官又は司法警察員は、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、協力の要請を受けたときは、参考人を取り調べ、実況見分をし、又は書類その他の物の所有者、所持者、若しくは保管者にその物の提出を求めることができる。
2 検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。
3 前二項の処分に際しては、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、その処分を受ける者に対して合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊の要請による旨を明らかにしなければならない。
4 正当な理由がないのに、第一項又は第二項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の処分を拒み、妨げ、又は忌避した者は、一万円以下の過料に処する。
(刑事補償)
第二十條 刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の適用については、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊による抑留又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留又は拘禁とみなす。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
別表
一 防衛に関する事項
イ 防衛の方針若しくは計画の内容又はその実施の状況
ロ 部隊の隷属系統、部隊数、部隊の兵員数又は部隊の装備
ハ 部隊の任務、配備又は行動
ニ 部隊の使用する軍事施設の位置、構成、設備、性能又は強度
ホ 部隊の使用する艦船、航空機、兵器、弾薬その他の軍需品の種類又は数量
二 編制又は装備に関する事項
イ 編制若しくは装備に関する計画の内容又はその実施の状況
ロ 編制又は装備の現況
ハ 艦船、航空機、兵器、弾薬その他の軍需品の構造又は性能
三 運輸又は通信に関する事項
イ 軍事輸送の計画の内容又はその実施の状況
ロ 軍用通信の内容
ハ 軍用暗号
法務総裁 木村篤太郎
内閣総理大臣 吉田茂
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年五月七日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百三十八号
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法
目次
第一章
総則(第一条)
第二章
罪(第二条―第九条)
第三章
刑事手続(第十条―第二十条)
附則
第一章 総則
(定義)
第一条 この法律において「行政協定」とは、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定をいう。
2 この法律において「合衆国軍隊」とは、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第一条に基き日本国内及びその附近に配備されたアメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍であつて、日本国内にある間におけるものをいう。
3 この法律において「合衆国軍隊の構成員」とは、合衆国軍隊に属する人員で、現に服役中のものをいう。
4 この法律において「軍属」とは、アメリカ合衆国の国籍を有する文民(アメリカ合衆国及び日本国の二重国籍者については、アメリカ合衆国が日本国内に入れた者に限る。)で、合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの(通常日本国内に在留する者及び合衆国軍隊のためのアメリカ合衆国との契約の履行のみを目的として日本国内にある者を除く。)をいう。
5 この法律において「家族」とは、左に掲げる者(日本国の国籍のみを有する者を除く。)をいう。
一 合衆国軍隊の構成員又は軍属の配偶者及び二十一歳未満の子
二 合衆国軍隊の構成員又は軍属の父、母及び二十一歳以上の子で、その生計費の半額以上を合衆国軍隊の構成員又は軍属に依存するもの
第二章 罪
(施設又は区域を侵す罪)
第二条 正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(行政協定第二条第一項の施設又は区域をいう。以下同じ。)であつて入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、一年以下の懲役又は二千円以下の罰金若しくは科料に処する。但し刑法(明治四十年法律第四十五号)に正条がある場合には、同法による。
(証拠を隠滅する等の罪)
第三条 行政協定によりアメリカ合衆国の軍事裁判所(以下「合衆国軍事裁判所」という。)が裁判権を行使する他人の刑事被告事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
2 犯人の親族が犯人の利益のために前項の罪を犯したときは、その刑を免除することができる。
(偽証等の罪)
第四条 合衆国軍事裁判所の手続に従つて宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の罪を犯した者が、証言した事件の裁判の確定前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
3 合衆国軍事裁判所の手続に従つて宣誓した鑑定人又は通訳人が虚偽の鑑定又は通訳をしたときは、前二項の例による。
(軍用物を損壊する等の罪)
第五条 合衆国軍隊に属し、且つ、その軍用に供する兵器、弾薬、糧食、被服その他の物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
(合衆国軍隊の機密を侵す罪)
第六条 合衆国軍隊の機密(合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画若しくは物件で、公になつていないものをいう。以下同じ。)を、合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、又は不当な方法で、探知し、又は収集した者は、十年以下の懲役に処する。
2 合衆国軍隊の機密で、通常不当な方法によらなければ探知し、又は収集することができないようなものを他人に漏らした者も、前項と同様とする。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
第七条 前条第一項又は第二項の罪の陰謀をした者は、五年以下の懲役に処する。
2 前条第一項又は第二項の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者も、前項と同様とする。
3 前項の規定は、教唆された者が、教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。
第八条 第六条第一項の罪、同項に係る同条第三項の罪又は同条第一項に係る前条第一項の罪を犯した者が、自首したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
(制服を不当に着用する罪)
第九条 正当な理由がないのに、合衆国軍隊の構成員の制服又はこれに似せて作つた衣服を着用した者は、拘留又は科料に処する。
第三章 刑事手続
(施設又は区域内の逮捕等)
第十条 合衆国軍隊の使用する施設又は区域内における逮捕、勾引状又は勾留状の執行その他人身を拘束する処分は、合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けて行い、又は検察官若しくは司法警察職員からその合衆国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。
(施設又は区域外で逮捕された合衆国軍隊要員の引渡)
第十一条 検察官又は司法警察員は、合衆国軍隊の使用する施設又は区域外で逮捕された者が合衆国軍隊の構成員、軍属又は家族(以下「合衆国軍隊要員」という。)であることを確認したときは、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定にかかわらず、直ちに被疑者を合衆国軍隊に引き渡さなければならない。
2 司法警察員は、前項の規定により被疑者を合衆国軍隊に引き渡した場合においても、必要な捜査を行い、すみやかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。
(合衆国軍隊によつて逮捕された者の受領)
第十二条 検察官又は司法警察員は、行政協定第十七条第三項(b)又は(c)による引渡の通知があつた場合には、裁判官の発する逮捕状を示して被疑者の引渡を受け、又は検察事務官若しくは司法警察職員にその引渡を受けさせなければならない。
2 検察官又は司法警察員は、引き渡されるべき者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があつて、急速を要し、あらかじめ裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げてその者の引渡を受け、又は受けさせなければならない。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
3 前二項の場合を除く外、検察官又は司法警察員は、引き渡される者を受け取つた後、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による引渡があつた場合には、刑事訴訟法第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。但し、同法第二百三条、第二百四条及び第二百五条第二項に規定する時間は、引渡があつた時から起算する。
(施設又は区域内の差押、捜索等)
第十三条 合衆国軍隊の使用する施設若しくは区域内における、又は合衆国軍隊の財産についての捜索(捜索状の執行を含む。以下同じ。)、差押(差押状の執行を含む。以下同じ。)又は検証は、合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けて行い、又は検察官若しくは司法警察員からその合衆国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。但し、裁判所又は裁判官が必要とする検証の嘱託は、その裁判所又は裁判官からするものとする。
2 合衆国軍隊の使用する施設又は区域外にある合衆国軍隊要員の身体又は財産についても、前項と同様である。但し、被疑者を逮捕するため捜索する場合、逮捕の現場で差押、捜索若しくは検証をする場合、又は行政協定第十七条第三項(a)に従つて逮捕することができる合衆国軍隊要員についてその事件の証拠を収集するため差押、捜索若しくは検証をする場合は、この限りでない。
(日本国の法令による罪に係る事件についての捜査)
第十四条 行政協定により合衆国軍事裁判所が裁判権を行使する事件であつても、日本国の法令による罪に係る事件については、検察官、検察事務官又は司法警察職員(鉄道公安職員を含む。)は、捜査をすることができる。
2 前項の捜査に関しては、裁判所又は裁判官は、令状の発付その他刑事訴訟に関する法令に定める権限を行使することができる。
(証人の出頭等の義務)
第十五条 合衆国軍事裁判所の嘱託により、裁判官から合衆国軍事裁判所に証人として出頭すべき旨を命ぜられ、又は合衆国軍事裁判所において宣誓若しくは証言を求められた者は、これに応じなければならない。
2 前項の者が、正当な理由がないのに、出頭せず、又は宣誓若しくは証言を拒んだときは、一万円以下の過料に処する。
(証人の勾引についての協力)
第十六条 正当な理由がないのに、前条第一項の規定による裁判官の出頭命令に応じない証人について合衆国軍事裁判所から嘱託があつたときは、裁判官は、その証人に対して勾引状を発して、これを合衆国軍事裁判所に勾引することができる。
2 前項の勾引状には、合衆国軍事裁判所の嘱託の趣旨を記載しなければならない。
3 第一項の勾引状は、検察官の指揮により、司法警察職員が執行する。
4 刑事訴訟法第七十一条及び第七十三条第一項前段の規定は、第一項の規定による勾引に準用する。
(書類又は証拠物の提供等)
第十七条 裁判所、検察官又は司法警察員は、その保管する書類又は証拠物について、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊から、刑事事件の審判又は捜査のため必要があるものとして申出があつたときは、その閲覧若しくは謄写を許し、謄本を作成して交付し、又はこれを一時貸与し、若しくは引き渡すことができる。
(日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件についての協力)
第十八条 検察官又は司法警察員は、合衆国軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、合衆国軍隊要員の逮捕の要請を受けたときは、これを逮捕し、又は検察事務官若しくは司法警察職員に逮捕させることができる。
2 合衆国軍隊から逮捕の要請があつた者が、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内にいることを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の許可を得て、その場所に入りその者を捜索することができる。但し、追跡されている者がその場所に入つたことが明らかであつて、急速を要し裁判官の許可を得ることができないときは、その許可を得ることを要しない。
3 第一項の規定により合衆国軍隊要員を逮捕したときは、直ちに検察官又は司法警察員から、その者を合衆国軍隊に引き渡さなければならない。
4 司法警察員は、前項の規定により合衆国軍隊要員を引き渡したときは、その旨を検察官に通報しなければならない。
第十九条 検察官又は司法警察員は、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、協力の要請を受けたときは、参考人を取り調べ、実況見分をし、又は書類その他の物の所有者、所持者、若しくは保管者にその物の提出を求めることができる。
2 検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。
3 前二項の処分に際しては、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、その処分を受ける者に対して合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊の要請による旨を明らかにしなければならない。
4 正当な理由がないのに、第一項又は第二項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の処分を拒み、妨げ、又は忌避した者は、一万円以下の過料に処する。
(刑事補償)
第二十条 刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の適用については、合衆国軍事裁判所又は合衆国軍隊による抑留又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留又は拘禁とみなす。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
別表
一 防衛に関する事項
イ 防衛の方針若しくは計画の内容又はその実施の状況
ロ 部隊の隷属系統、部隊数、部隊の兵員数又は部隊の装備
ハ 部隊の任務、配備又は行動
ニ 部隊の使用する軍事施設の位置、構成、設備、性能又は強度
ホ 部隊の使用する艦船、航空機、兵器、弾薬その他の軍需品の種類又は数量
二 編制又は装備に関する事項
イ 編制若しくは装備に関する計画の内容又はその実施の状況
ロ 編制又は装備の現況
ハ 艦船、航空機、兵器、弾薬その他の軍需品の構造又は性能
三 運輸又は通信に関する事項
イ 軍事輸送の計画の内容又はその実施の状況
ロ 軍用通信の内容
ハ 軍用暗号
法務総裁 木村篤太郎
内閣総理大臣 吉田茂