軍馬資源保護法
法令番号: 法律第七十六號
公布年月日: 昭和14年4月7日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル軍馬資源保護法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月六日
內閣總理大臣 男爵 平沼騏一郞
內務大臣 侯爵 木戶幸一
陸軍大臣 板垣征四郞
大藏大臣 石渡莊太郞
農林大臣 櫻內幸雄
法律第七十六號
軍馬資源保護法
第一條 本法ハ國防上特ニ必要トスル馬ノ資質ノ向上ヲ圖リ軍馬資源ノ充實ヲ期スルコトヲ目的トス
第二條 政府ハ軍馬タルベキ資質アル馬ヲ選定スル爲命令ノ定ムル所ニ依リ每年馬ノ檢定ヲ行ヒ之ニ合格シタルモノヲ軍用保護馬ニ指定スルコトヲ得
市町村長ハ前項ノ檢定ニ立會ヒ又ハ當該市町村ノ吏員ヲシテ之ニ立會ハシムベシ
第三條 政府ハ前條第一項ノ檢定ヲ受クル者ニ對シ勅令ノ定ムル所ニ依リ手當及旅費ヲ給ス
第四條 政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ每年度豫算ノ範圍內ニ於テ軍用保護馬ヲ飼養スル者ニ對シ補助金ヲ交付スルコトヲ得
第五條 軍用保護馬ノ所有者其ノ他命令ヲ以テ定ムル者ハ其ノ軍用保護馬ニ付本法ノ定ムル鍛鍊ヲ受ケシムルコトヲ要ス
第六條 本法ニ依ル軍用保護馬ノ鍛鍊ハ普通鍛鍊及鍛鍊競技トシ政府之ヲ管理ス
普通鍛鍊ハ軍馬トシテ必要ナル能力及馴致ノ向上維持ヲ圖ルコトヲ目的トス
鍛鍊競技ハ普通鍛鍊ヲ受ケタル軍用保護馬ノ能力及馴致ヲ審査シ併セテ軍馬ノ資質ニ關スル知識ノ普及ヲ圖ルコトヲ目的トス
第七條 普通鍛鍊ノ事業ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官之ヲ行フ
市町村長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ普通鍛鍊ニ關スル事務ノ一部ヲ行フ
普通鍛鍊ノ施行ニ因リ軍用保護馬死亡シ又ハ傷害ヲ受ケタルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ補償金ヲ交付ス
第八條 鍛鍊競技ハ命令ノ定ムル所ニ依リ北海道、府縣、畜產組合聯合會、畜產組合其ノ他政府ノ指定スル團體ヲシテ之ヲ行ハシム
鍛鍊競技ニシテ優等馬ノ投票ニ關スル施設ヲ伴フモノ(以下鍛鍊馬競走ト稱ス)ヲ行フコトヲ得ル者ハ命令ヲ以テ定ムル畜產組合聯合會又ハ道府縣ノ區域ニ依ル畜產組合其ノ他政府ノ指定スル法人ニシテ鍛鍊馬場ニ付政府ノ許可ヲ受ケタルモノニ限ル
鍛鍊馬競走ヲ行フコトヲ得ル鍛鍊馬場ノ數ハ一府縣一箇所以內、北海道三箇所以內トス
鍛鍊馬競走ノ施行ハ鍛鍊馬場每ニ年二囘以內トシ其ノ期間ハ每囘四日以內トス
第九條 鍛鍊競技ニハ勅令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ指定シタル軍用保護馬ニ非ザレバ出場セシムルコトヲ得ズ
第十條 鍛鍊馬競走ノ施行者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ入場者ヨリ入場料ヲ徵收スベシ
鍛鍊馬競走ノ施行者ハ鍛鍊馬場ニ於テ入場者ニ對シ額面金額三圓以下ノ優等馬票ヲ額面金額ヲ以テ發行スルコトヲ得
優等馬票ノ發行ハ鍛鍊馬競走一競技ニ付一人一枚ヲ限リ單式優等馬票及複式優等馬票ヲ發行スル場合ニ於テハ鍛鍊馬競走一競技ニ付一人各一枚ヲ限ル
優等馬票ハ之ヲ讓渡スコトヲ得ズ
學生生徒又ハ未成年者ニ對シ優等馬票ヲ發行スルコトヲ得ズ
當該鍛鍊馬競走ニ於ケル命令ヲ以テ定ムル施行委員又ハ當該鍛鍊馬競走ニ關スル騎乘者其ノ他鍛鍊馬競走ノ事務ニ從事スル者ニ對シ亦前項ニ同ジ
鍛鍊馬競走ノ施行者ハ優等馬投票ノ的中者ニ對シ命令ノ定ムル所ニ依リ當該競技ニ付テノ優等馬票ノ發行ニ依リ得タル金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ拂戾ヲ爲スモノトス但シ其ノ金額ハ優等馬票ノ額面金額ノ十倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
優等馬投票ノ的中者無キ場合ニ於ケル優等馬票ノ發行ニ依リ得タル金額又ハ前項但書ノ規定ニ依リ生ジタル超過金ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ優等馬票ヲ購買シタル者ニ拂戾スベシ
前二項ノ拂戾金ノ債權ハ一年間之ヲ行ハザルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第十一條 鍛鍊馬競走ノ施行者優等馬票ヲ發行シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ發行ニ依リ得タル金額ノ百分ノ二十五以內ノ金額ヲ收得スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ鍛鍊馬競走ノ施行者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ納付金ヲ軍用保護馬鍛鍊中央會ニ納付スベシ
前項ノ納付金ハ軍用保護馬鍛鍊中央會ノ目的ヲ達スル爲必要ナル經費ニ充ツルコトヲ要ス
鍛鍊馬場ノ開設又ハ維持、競走ノ觀覽、優等馬票ノ發行又ハ購買、拂戾金又ハ賞金ノ交付又ハ受領其ノ他鍛鍊馬競走ノ施行又ハ開催ニ關シテハ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ
第十二條 軍用保護馬鍛鍊中央會ハ法人トシ鍛鍊競技ノ健全ナル發達ヲ圖リ以テ軍用保護馬ノ能力及馴致ノ向上ニ資スルト共ニ軍馬ノ資質ニ關スル知識ノ普及ヲ期スルコトヲ目的トス
軍用保護馬鍛鍊中央會ハ全國ヲ通ジ一箇トシ第八條第二項ノ許可ヲ受ケタル者ヲ以テ之ヲ組織ス
軍用保護馬鍛鍊中央會成立シタルトキハ會員タル資格ヲ有スル者ハ總テ會員トス
第十三條 政府ハ軍用保護馬鍛鍊中央會ノ保有スル資金ガ勅令ヲ以テ定ムル額ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ヲ政府ニ納付セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル納付金ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得但シ先取特權ノ順位ハ國稅ニ次グモノトス
第十四條 軍用保護馬鍛鍊中央會ニハ所得稅及營業收益稅ヲ課セズ
軍用保護馬鍛鍊中央會ガ本法ニ基キテ爲ス登記ニ付テハ登錄稅ヲ課セズ
第十五條 本法ニ定ムルモノノ外軍用保護馬鍛鍊中央會ノ設立、登記、管理、監督、解散、淸算其ノ他軍用保護馬鍛鍊中央會ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條 行政官廳ハ鍛鍊競技ノ施行者ニ對シ鍛鍊競技ノ施行ニ關シ監督上必要ナル命令又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第十七條 政府ハ鍛鍊馬競走ノ施行者又ハ軍用保護馬鍛鍊中央會ニ對シ鍛鍊競技ノ健全ナル發達ヲ圖ル爲必要ナル施設ヲ命ズルコトヲ得
第十八條 政府ハ鍛鍊馬競走ノ施行者又ハ其ノ役員若ハ施行委員ノ行爲ガ法令若ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 第八條第二項ノ許可ノ取消
二 鍛鍊馬競走ノ停止
三 優等馬票發行ノ停止又ハ制限
四 施行委員ノ職務執行ノ停止
第十九條 軍用保護馬ハ政府ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ輸出シ又ハ移出スルコトヲ得ズ第二條第一項ノ檢定ニ合格シタル馬ニ付命令ヲ以テ定ムル期間內亦同ジ
第二十條 政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ每年軍用保護馬ノ檢査ヲ行ヒ之ニ合格セザルモノニ付軍用保護馬ノ指定ヲ取消スコトヲ得
第二條第二項ノ規定ハ前項ノ檢査ニ之ヲ準用ス
第二十一條 政府ハ第二條第一項ノ檢定又ハ前條第一項ノ檢査ノ爲必要アリト認ムルトキハ區域及期間ヲ指定シ馬ノ移動ヲ制限スルコトヲ得
第二十二條 本法ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル馬ニ付之ヲ適用セズ
一 當歲ノモノ又ハ明ケ十八歲以上ノモノ
二 國又ハ道府縣ノ所有ニ係ルモノ
三 前二號ノ外命令ヲ以テ定ムルモノ
第二十三條 軍用保護馬ガ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ軍用保護馬ノ指定ハ其ノ效力ヲ失フ
一 明ケ十八歲ニ達シタルトキ
二 輸出又ハ移出セラレタルトキ
三 國又ハ道府縣ノ所有ト爲リタルトキ
四 前三號ノ外命令ヲ以テ定ムル場合
第二十四條 市町村長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ左ノ各號ノ一ニ該當スル馬ニ付馬籍ニ其ノ旨記載スベシ
一 第二條第一項ノ檢定ニ合格シタルモノ
二 軍用保護馬ニ指定セラレタルモノ又ハ軍用保護馬ノ指定ヲ取消サレタルモノ若ハ其ノ指定ノ效力ヲ失ヒタルモノ
第二十五條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三年以下ノ懲役若ハ五千圓以下ノ罰金ニ處シ又ハ其ノ刑ヲ併科ス
一 鍛鍊競技ニ關シ第八條第二項ノ許可ヲ受ケズシテ優等馬票ヲ發行シ又ハ之ニ類似ノ行爲ヲ爲シタル者
二 第十八條第三號ノ停止又ハ制限ニ違反シ優等馬票ヲ發行シタル者
三 鍛鍊競技ニ關シ常習トシテ多數ノ者ニ對シ財物ヲ以テ賭事ヲ爲シタル者
四 第十條第六項ニ揭グル者ニシテ前號ニ規定スル行爲ノ相手方ト爲リタルモノ
第二十六條 鍛鍊馬競走ノ施行委員鍛鍊馬競走ノ職務ヲ執行スルニ當リ之ニ對シテ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
團體若ハ多衆ノ威力ヲ示シ、團體若ハ多衆ヲ假裝シテ威力ヲ示シ又ハ兇器ヲ示シ若ハ數人共同シテ前項ノ罪ヲ犯シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十七條 第十九條ノ規定ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十八條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第九條ノ規定ニ違反シ同條ニ規定スル軍用保護馬ニ非ザル馬ヲ鍛鍊競技ニ出場セシメタル者
二 第十條第二項又ハ第三項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ發行シタル者
三 第十條第五項又ハ第六項ノ規定ニ違反シ優等馬票ヲ發行シタル者
四 第十條第六項ニ揭グル者ニシテ優等馬票ヲ購買シタルモノ
五 第十條第七項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ拂戾金ヲ交付シタル者
六 第二十五條第一號乃至第三號ノ一ニ規定スル行爲ノ相手方ト爲リタル者
第二十九條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
一 第十條第二項又ハ第三項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ購買シタル者
二 第十條第五項ニ揭グル者ニシテ優等馬票ヲ購買シタルモノ
三 優等馬票ヲ讓渡シ又ハ讓受ケタル者
四 第十條第七項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シタル拂戾金ノ交付ヲ受ケタル者
第三十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五十圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
一 第二條第一項ノ檢定、第七條第一項ノ普通鍛鍊又ハ第二十條第一項ノ檢査ニ應ゼザル者
二 第二條第一項ノ檢定、第七條第一項ノ普通鍛鍊又ハ第二十條第一項ノ檢査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
三 第二十一條ノ規定ニ依ル制限ニ違反シタル者
第三十一條 軍用保護馬鍛鍊中央會ノ役員又ハ鍛鍊馬競走ノ施行委員ガ其ノ職務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス因テ不正ノ行爲ヲ爲シ又ハ相當ノ行爲ヲ爲サザルトキハ五年以下ノ懲役ニ處ス
前項ノ場合ニ於テ收受シタル賄賂ハ之ヲ沒收ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
第三十二條 前條第一項ニ揭グル者ニ對シ賄賂ヲ交付、提供又ハ約束シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得
第三十三條 法律ノ規定ニ依ラザル馬ノ競走ニ關シ優等馬票、勝馬投票券若ハ之ニ類似ノモノヲ發賣シ又ハ之ニ類似ノ行爲ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役若ハ五千圓以下ノ罰金ニ處シ又ハ其ノ刑ヲ併科ス
第三十四條 法人又ハ人ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ關シ第二十七條又ハ第三十條第一號若ハ第三號ノ違反行爲ヲ爲シタルトキハ其ノ法人又ハ人ハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十五條 第二十七條竝ニ第三十條第一號及第三號ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十六條 前二條ノ場合ニ於テハ懲役ノ刑ニ處スルコトヲ得ズ
第三十七條 鍛鍊競技ノ施行者又ハ鍛鍊馬競走ノ施行委員第十六條、第十七條又ハ第十八條第四號ノ規定ニ依ル行政官廳ノ命令ニ違反シタルトキハ千圓以下ノ過料ニ處ス
軍用保護馬鍛鍊中央會ノ役員第十五條ノ規定ニ依ル勅令又ハ第十七條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタルトキハ千圓以下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用ス
第三十八條 本法ニ於テ市町村又ハ市町村長トアルハ市制第六條ノ市及市制第八十二條第三項ノ市ニ在リテハ區又ハ區長トシ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ町村又ハ町村長ニ準ズベキモノトス
附 則
本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム
軍用保護馬鍛鍊中央會ハ本法公布ノ日ニ於テ現ニ優勝馬投票ニ依リ景品券ヲ發行スル競馬施行ノ許可ヲ受ケ居ル畜產組合聯合會又ハ畜產組合ガ第三十三條ノ規定ノ施行ニ關聯シ當該競馬場ニ付爲ス設備ノ處分其ノ他ノ整理ニ關シ勅令ノ定ムル所ニ依リ必要ナル事業ヲ行フコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル軍馬資源保護法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月六日
内閣総理大臣 男爵 平沼騏一郎
内務大臣 侯爵 木戸幸一
陸軍大臣 板垣征四郎
大蔵大臣 石渡荘太郎
農林大臣 桜内幸雄
法律第七十六号
軍馬資源保護法
第一条 本法ハ国防上特ニ必要トスル馬ノ資質ノ向上ヲ図リ軍馬資源ノ充実ヲ期スルコトヲ目的トス
第二条 政府ハ軍馬タルベキ資質アル馬ヲ選定スル為命令ノ定ムル所ニ依リ毎年馬ノ検定ヲ行ヒ之ニ合格シタルモノヲ軍用保護馬ニ指定スルコトヲ得
市町村長ハ前項ノ検定ニ立会ヒ又ハ当該市町村ノ吏員ヲシテ之ニ立会ハシムベシ
第三条 政府ハ前条第一項ノ検定ヲ受クル者ニ対シ勅令ノ定ムル所ニ依リ手当及旅費ヲ給ス
第四条 政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ毎年度予算ノ範囲内ニ於テ軍用保護馬ヲ飼養スル者ニ対シ補助金ヲ交付スルコトヲ得
第五条 軍用保護馬ノ所有者其ノ他命令ヲ以テ定ムル者ハ其ノ軍用保護馬ニ付本法ノ定ムル鍛錬ヲ受ケシムルコトヲ要ス
第六条 本法ニ依ル軍用保護馬ノ鍛錬ハ普通鍛錬及鍛錬競技トシ政府之ヲ管理ス
普通鍛錬ハ軍馬トシテ必要ナル能力及馴致ノ向上維持ヲ図ルコトヲ目的トス
鍛錬競技ハ普通鍛錬ヲ受ケタル軍用保護馬ノ能力及馴致ヲ審査シ併セテ軍馬ノ資質ニ関スル知識ノ普及ヲ図ルコトヲ目的トス
第七条 普通鍛錬ノ事業ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官之ヲ行フ
市町村長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ普通鍛錬ニ関スル事務ノ一部ヲ行フ
普通鍛錬ノ施行ニ因リ軍用保護馬死亡シ又ハ傷害ヲ受ケタルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ補償金ヲ交付ス
第八条 鍛錬競技ハ命令ノ定ムル所ニ依リ北海道、府県、畜産組合連合会、畜産組合其ノ他政府ノ指定スル団体ヲシテ之ヲ行ハシム
鍛錬競技ニシテ優等馬ノ投票ニ関スル施設ヲ伴フモノ(以下鍛錬馬競走ト称ス)ヲ行フコトヲ得ル者ハ命令ヲ以テ定ムル畜産組合連合会又ハ道府県ノ区域ニ依ル畜産組合其ノ他政府ノ指定スル法人ニシテ鍛錬馬場ニ付政府ノ許可ヲ受ケタルモノニ限ル
鍛錬馬競走ヲ行フコトヲ得ル鍛錬馬場ノ数ハ一府県一箇所以内、北海道三箇所以内トス
鍛錬馬競走ノ施行ハ鍛錬馬場毎ニ年二回以内トシ其ノ期間ハ毎回四日以内トス
第九条 鍛錬競技ニハ勅令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ指定シタル軍用保護馬ニ非ザレバ出場セシムルコトヲ得ズ
第十条 鍛錬馬競走ノ施行者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ入場者ヨリ入場料ヲ徴収スベシ
鍛錬馬競走ノ施行者ハ鍛錬馬場ニ於テ入場者ニ対シ額面金額三円以下ノ優等馬票ヲ額面金額ヲ以テ発行スルコトヲ得
優等馬票ノ発行ハ鍛錬馬競走一競技ニ付一人一枚ヲ限リ単式優等馬票及複式優等馬票ヲ発行スル場合ニ於テハ鍛錬馬競走一競技ニ付一人各一枚ヲ限ル
優等馬票ハ之ヲ譲渡スコトヲ得ズ
学生生徒又ハ未成年者ニ対シ優等馬票ヲ発行スルコトヲ得ズ
当該鍛錬馬競走ニ於ケル命令ヲ以テ定ムル施行委員又ハ当該鍛錬馬競走ニ関スル騎乗者其ノ他鍛錬馬競走ノ事務ニ従事スル者ニ対シ亦前項ニ同ジ
鍛錬馬競走ノ施行者ハ優等馬投票ノ的中者ニ対シ命令ノ定ムル所ニ依リ当該競技ニ付テノ優等馬票ノ発行ニ依リ得タル金額ヲ超エザル範囲内ニ於テ払戻ヲ為スモノトス但シ其ノ金額ハ優等馬票ノ額面金額ノ十倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
優等馬投票ノ的中者無キ場合ニ於ケル優等馬票ノ発行ニ依リ得タル金額又ハ前項但書ノ規定ニ依リ生ジタル超過金ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ優等馬票ヲ購買シタル者ニ払戻スベシ
前二項ノ払戻金ノ債権ハ一年間之ヲ行ハザルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第十一条 鍛錬馬競走ノ施行者優等馬票ヲ発行シタルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ発行ニ依リ得タル金額ノ百分ノ二十五以内ノ金額ヲ収得スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ鍛錬馬競走ノ施行者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ納付金ヲ軍用保護馬鍛錬中央会ニ納付スベシ
前項ノ納付金ハ軍用保護馬鍛錬中央会ノ目的ヲ達スル為必要ナル経費ニ充ツルコトヲ要ス
鍛錬馬場ノ開設又ハ維持、競走ノ観覧、優等馬票ノ発行又ハ購買、払戻金又ハ賞金ノ交付又ハ受領其ノ他鍛錬馬競走ノ施行又ハ開催ニ関シテハ地方税ヲ課スルコトヲ得ズ
第十二条 軍用保護馬鍛錬中央会ハ法人トシ鍛錬競技ノ健全ナル発達ヲ図リ以テ軍用保護馬ノ能力及馴致ノ向上ニ資スルト共ニ軍馬ノ資質ニ関スル知識ノ普及ヲ期スルコトヲ目的トス
軍用保護馬鍛錬中央会ハ全国ヲ通ジ一箇トシ第八条第二項ノ許可ヲ受ケタル者ヲ以テ之ヲ組織ス
軍用保護馬鍛錬中央会成立シタルトキハ会員タル資格ヲ有スル者ハ総テ会員トス
第十三条 政府ハ軍用保護馬鍛錬中央会ノ保有スル資金ガ勅令ヲ以テ定ムル額ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ヲ政府ニ納付セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル納付金ハ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得但シ先取特権ノ順位ハ国税ニ次グモノトス
第十四条 軍用保護馬鍛錬中央会ニハ所得税及営業収益税ヲ課セズ
軍用保護馬鍛錬中央会ガ本法ニ基キテ為ス登記ニ付テハ登録税ヲ課セズ
第十五条 本法ニ定ムルモノノ外軍用保護馬鍛錬中央会ノ設立、登記、管理、監督、解散、清算其ノ他軍用保護馬鍛錬中央会ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六条 行政官庁ハ鍛錬競技ノ施行者ニ対シ鍛錬競技ノ施行ニ関シ監督上必要ナル命令又ハ処分ヲ為スコトヲ得
第十七条 政府ハ鍛錬馬競走ノ施行者又ハ軍用保護馬鍛錬中央会ニ対シ鍛錬競技ノ健全ナル発達ヲ図ル為必要ナル施設ヲ命ズルコトヲ得
第十八条 政府ハ鍛錬馬競走ノ施行者又ハ其ノ役員若ハ施行委員ノ行為ガ法令若ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
一 第八条第二項ノ許可ノ取消
二 鍛錬馬競走ノ停止
三 優等馬票発行ノ停止又ハ制限
四 施行委員ノ職務執行ノ停止
第十九条 軍用保護馬ハ政府ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ輸出シ又ハ移出スルコトヲ得ズ第二条第一項ノ検定ニ合格シタル馬ニ付命令ヲ以テ定ムル期間内亦同ジ
第二十条 政府ハ命令ノ定ムル所ニ依リ毎年軍用保護馬ノ検査ヲ行ヒ之ニ合格セザルモノニ付軍用保護馬ノ指定ヲ取消スコトヲ得
第二条第二項ノ規定ハ前項ノ検査ニ之ヲ準用ス
第二十一条 政府ハ第二条第一項ノ検定又ハ前条第一項ノ検査ノ為必要アリト認ムルトキハ区域及期間ヲ指定シ馬ノ移動ヲ制限スルコトヲ得
第二十二条 本法ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル馬ニ付之ヲ適用セズ
一 当歳ノモノ又ハ明ケ十八歳以上ノモノ
二 国又ハ道府県ノ所有ニ係ルモノ
三 前二号ノ外命令ヲ以テ定ムルモノ
第二十三条 軍用保護馬ガ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ軍用保護馬ノ指定ハ其ノ効力ヲ失フ
一 明ケ十八歳ニ達シタルトキ
二 輸出又ハ移出セラレタルトキ
三 国又ハ道府県ノ所有ト為リタルトキ
四 前三号ノ外命令ヲ以テ定ムル場合
第二十四条 市町村長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ左ノ各号ノ一ニ該当スル馬ニ付馬籍ニ其ノ旨記載スベシ
一 第二条第一項ノ検定ニ合格シタルモノ
二 軍用保護馬ニ指定セラレタルモノ又ハ軍用保護馬ノ指定ヲ取消サレタルモノ若ハ其ノ指定ノ効力ヲ失ヒタルモノ
第二十五条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三年以下ノ懲役若ハ五千円以下ノ罰金ニ処シ又ハ其ノ刑ヲ併科ス
一 鍛錬競技ニ関シ第八条第二項ノ許可ヲ受ケズシテ優等馬票ヲ発行シ又ハ之ニ類似ノ行為ヲ為シタル者
二 第十八条第三号ノ停止又ハ制限ニ違反シ優等馬票ヲ発行シタル者
三 鍛錬競技ニ関シ常習トシテ多数ノ者ニ対シ財物ヲ以テ賭事ヲ為シタル者
四 第十条第六項ニ掲グル者ニシテ前号ニ規定スル行為ノ相手方ト為リタルモノ
第二十六条 鍛錬馬競走ノ施行委員鍛錬馬競走ノ職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シテ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
団体若ハ多衆ノ威力ヲ示シ、団体若ハ多衆ヲ仮装シテ威力ヲ示シ又ハ兇器ヲ示シ若ハ数人共同シテ前項ノ罪ヲ犯シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
第二十七条 第十九条ノ規定ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第二十八条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
一 第九条ノ規定ニ違反シ同条ニ規定スル軍用保護馬ニ非ザル馬ヲ鍛錬競技ニ出場セシメタル者
二 第十条第二項又ハ第三項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ発行シタル者
三 第十条第五項又ハ第六項ノ規定ニ違反シ優等馬票ヲ発行シタル者
四 第十条第六項ニ掲グル者ニシテ優等馬票ヲ購買シタルモノ
五 第十条第七項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ払戻金ヲ交付シタル者
六 第二十五条第一号乃至第三号ノ一ニ規定スル行為ノ相手方ト為リタル者
第二十九条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 第十条第二項又ハ第三項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シ優等馬票ヲ購買シタル者
二 第十条第五項ニ掲グル者ニシテ優等馬票ヲ購買シタルモノ
三 優等馬票ヲ譲渡シ又ハ譲受ケタル者
四 第十条第七項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シタル払戻金ノ交付ヲ受ケタル者
第三十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五十円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 第二条第一項ノ検定、第七条第一項ノ普通鍛錬又ハ第二十条第一項ノ検査ニ応ゼザル者
二 第二条第一項ノ検定、第七条第一項ノ普通鍛錬又ハ第二十条第一項ノ検査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
三 第二十一条ノ規定ニ依ル制限ニ違反シタル者
第三十一条 軍用保護馬鍛錬中央会ノ役員又ハ鍛錬馬競走ノ施行委員ガ其ノ職務ニ関シ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス因テ不正ノ行為ヲ為シ又ハ相当ノ行為ヲ為サザルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス
前項ノ場合ニ於テ収受シタル賄賂ハ之ヲ没収ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴ス
第三十二条 前条第一項ニ掲グル者ニ対シ賄賂ヲ交付、提供又ハ約束シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
第三十三条 法律ノ規定ニ依ラザル馬ノ競走ニ関シ優等馬票、勝馬投票券若ハ之ニ類似ノモノヲ発売シ又ハ之ニ類似ノ行為ヲ為シタル者ハ三年以下ノ懲役若ハ五千円以下ノ罰金ニ処シ又ハ其ノ刑ヲ併科ス
第三十四条 法人又ハ人ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ第二十七条又ハ第三十条第一号若ハ第三号ノ違反行為ヲ為シタルトキハ其ノ法人又ハ人ハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十五条 第二十七条並ニ第三十条第一号及第三号ノ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十六条 前二条ノ場合ニ於テハ懲役ノ刑ニ処スルコトヲ得ズ
第三十七条 鍛錬競技ノ施行者又ハ鍛錬馬競走ノ施行委員第十六条、第十七条又ハ第十八条第四号ノ規定ニ依ル行政官庁ノ命令ニ違反シタルトキハ千円以下ノ過料ニ処ス
軍用保護馬鍛錬中央会ノ役員第十五条ノ規定ニ依ル勅令又ハ第十七条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタルトキハ千円以下ノ過料ニ処ス
非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ前二項ノ過料ニ之ヲ準用ス
第三十八条 本法ニ於テ市町村又ハ市町村長トアルハ市制第六条ノ市及市制第八十二条第三項ノ市ニ在リテハ区又ハ区長トシ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ町村又ハ町村長ニ準ズベキモノトス
附 則
本法施行ノ期日ハ各規定ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム
軍用保護馬鍛錬中央会ハ本法公布ノ日ニ於テ現ニ優勝馬投票ニ依リ景品券ヲ発行スル競馬施行ノ許可ヲ受ケ居ル畜産組合連合会又ハ畜産組合ガ第三十三条ノ規定ノ施行ニ関連シ当該競馬場ニ付為ス設備ノ処分其ノ他ノ整理ニ関シ勅令ノ定ムル所ニ依リ必要ナル事業ヲ行フコトヲ得