糸価安定施設法
法令番号: 法律第十六號
公布年月日: 昭和12年3月30日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル絲價安定施設法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年三月三十日
內閣總理大臣 林銑十郞
農林大臣 山崎達之輔
法律第十六號
絲價安定施設法
第一條 本法ハ生絲ノ價格ノ異常ナル騰貴又ハ低落ノ防止ヲ圖リ蠶絲業ノ安定及發達ヲ期スルコトヲ目的トス
第二條 製絲業者ハ絲價ノ安定ヲ圖リ蠶絲業ノ改善發達ヲ期スル目的ヲ以テ主務大臣ノ認可ヲ受ケ絲價安定施設組合ヲ設立スルコトヲ得
第三條 本法ニ於テ製絲業者トハ命令ヲ以テ規定スル者ヲ除クノ外生絲ノ製造ヲ業トスル者ヲ謂フ
製絲ヲ爲シ又ハ製絲工場ヲ有スル產業組合及產業組合聯合會ハ命令ヲ以テ規定スル者ヲ除クノ外本法ノ適用ニ付テハ之ヲ製絲業者ト看做ス
第四條 製絲業者絲價安定施設組合ヲ設立セザル場合ニ於テ主務大臣必要アリト認ムルトキハ製絲業者ニ對シ絲價安定施設組合ノ設立ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ設立ヲ命ゼラレタル者命令ノ定ムル所ニ依リ設立ノ認可ヲ申請セザルトキハ主務大臣ハ定款ノ作成其ノ他設立ニ關シ必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
第五條 絲價安定施設組合ハ法人トス
絲價安定施設組合ハ營利ヲ目的トシテ其ノ事業ヲ營ムコトヲ得ズ
第六條 絲價安定施設組合ノ地區ハ全國ノ區域ニ依ル
第七條 絲價安定施設組合ノ名稱中ニハ絲價安定施設組合ナル文字ヲ用フベシ
本法ニ依リ設立シタル絲價安定施設組合ニ非ザレバ其ノ名稱中ニ絲價安定施設組合タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ
第八條 絲價安定施設組合ハ設立ノ認可アリタル時又ハ第四條第二項ノ規定ニ依リ定款ノ作成アリタル時成立ス
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ組合設立ノ旨、主タル事務所ノ所在地竝ニ理事長及副理事長ノ氏名及住所ヲ吿示スベシ其ノ吿示シタル事項ニ變更アリタルトキ亦同ジ
第九條 絲價安定施設組合成立シタルトキハ製絲業者ハ總テ其ノ組合員トス
絲價安定施設組合ハ命令ノ定ムル所ニ依リ輸出生絲取引法第一條ノ輸出生絲問屋及生絲輸出業者竝ニ本法施行地域外ニ於ケル製絲業者ヲ組合員ト爲スコトヲ得
第十條 絲價安定施設組合ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ一定ノ價格(賣渡價格)ニ依ル買入ノ申込又ハ一定ノ價格(買入價格)ニ依ル賣渡ノ申込ニ應ジテ生絲ノ賣渡又ハ買入ヲ爲スモノトス
第十一條 賣渡價格及買入價格ハ勅令ヲ以テ定ムル制限ノ範圍內ニ於テ勅令ノ定ムル所ニ依リ競爭纖維ノ價格、繭生產費中ニ於ケル現金支出額ニ自給費ノ一定割合ノ金額ヲ加ヘタルモノ及生絲ノ製造販賣ニ要スル費用竝ニ物價其ノ他ノ經濟事情ヲ參酌シテ主務大臣之ヲ定ム
第十二條 賣渡價格及買入價格ハ絲價安定委員會ニ諮問シテ之ヲ定ム
絲價安定委員會ノ組織及權限ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條 絲價安定施設組合ハ第十條ニ揭グル事業ノ外左ノ事業ヲ行フコトヲ得
一 組合員ノ生絲ノ共同保管
二 組合員ノ事業ニ關スル統制
三 組合員ノ事業ノ改善ニ關スル施設
四 組合ノ行フ事業ニ要スル費用ニ充ツル爲ノ積立金ノ造成
五 前各號ニ揭グルモノノ外組合ノ目的ヲ達成スルニ必要ナル施設
第十四條 絲價安定施設組合ハ生絲ノ市價ガ勅令ヲ以テ定ムル價格以下ニ低落シタル場合ニ限リ生絲ノ共同保管ヲ行フコトヲ得
第十五條 生絲ノ市價ガ前條ノ規定ニ依ル價格以下ニ低落シタル場合ニ於テ主務大臣必要アリト認ムルトキハ絲價安定委員會ニ諮問シテ絲價安定施設組合ニ對シ其ノ組合員ノ生絲ノ共同保管ヲ行フベキコトヲ命ズルコトヲ得
絲價安定施設組合前項ノ規定ニ依リ生絲ノ共同保管ヲ行ヒタルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ組合ニ對シ其ノ所有スル生絲ヲ交付スルコトヲ得
第十六條 主務大臣必要アリト認ムルトキハ絲價安定委員會ニ諮問シテ絲價安定施設組合ニ對シ其ノ共同保管スル生絲ニ付保管ノ解除ヲ命ズルコトヲ得
第十七條 絲價安定施設組合ハ第十條ニ規定スル場合及勅令ヲ以テ規定スル場合ヲ除クノ外生絲ノ賣渡又ハ買入ヲ爲スコトヲ得ズ
第十八條 絲價安定施設組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ其ノ組合員ニ對シ經費ヲ分賦シ及過怠金ヲ徵收スルコトヲ得
絲價安定施設組合ノ經費又ハ過怠金ヲ滯納スル者アル場合ニ於テ其ノ理事長ノ請求アルトキハ市町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テ絲價安定施設組合ハ其ノ徵收金額ノ百分ノ四ヲ市町村ニ交付スベシ
市町村ガ前項ノ請求ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ其ノ處分ニ著手セズ又ハ九十日以內ニ之ヲ結了セザルトキハ理事長ハ主務大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ處分スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ町村制第百十一條第一項及第四項ノ規定ヲ準用ス
前二項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徵收金ニ次ギ其ノ時效ニ付テハ市町村稅ノ例ニ依ル
第一項ニ規定スル徵收金ノ賦課徵收及滯納處分ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ異議ノ申立若ハ訴願ヲ爲シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九條 絲價安定施設組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ使用料及手數料ヲ徵收スルコトヲ得
第二十條 使用料及手數料ノ徵收、生絲ノ寄託其ノ他絲價安定施設組合ト組合員トノ間ニ於ケル權利義務ニ關シテハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十一條 絲價安定施設組合ニ總代會ヲ置ク
總代會ハ理事長、副理事長及總代ヲ以テ之ヲ組織ス
第二十二條 絲價安定施設組合ノ組合員ハ命令ノ定ムル所ニ依リ組合員中ヨリ總代ヲ選擧スベシ
第二十三條 左ニ揭グル事項ハ總代會ノ議決ヲ經ベシ
一 收支豫算
二 經費ノ分賦收入方法
三 第十三條第一號、第二號及第四號ニ揭グル事業其ノ他命令ヲ以テ定ムル事業ノ開始及改廢
四 事業報吿及收支決算
五 借入金
六 基本財產ノ造成、管理及處分
七 定款ノ變更
八 役員ノ選任及解任
前項第一號乃至第三號及第五號乃至第八號ニ揭グル事項ノ決議ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
主務大臣生絲ノ共同保管及其ノ解除ノ決議ノ認可ヲ爲サントスル場合ニ於テハ絲價安定委員會ニ諮問スルコトヲ要ス
第二十四條 絲價安定施設組合ニ左ノ役員ヲ置ク
理事長 一人
副理事長 一人
理事 數人
評議員 數人
役員ハ組合員又ハ組合員タル法人ノ役員中ヨリ之ヲ選任ス但シ理事長及副理事長ハ其ノ他ノ者ヨリ之ヲ選任スルコトヲ妨ゲズ
第二十五條 主務大臣ハ絲價安定施設組合ニ對シ組合ノ事業ニ關スル報吿ヲ爲サシメ、組合ノ業務執行又ハ財產ノ狀況ヲ檢査シ、定款、收支豫算又ハ經費ノ分賦收入方法ノ變更ヲ命ジ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第二十六條 絲價安定施設組合ノ決議若ハ選擧又ハ役員ノ行爲ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ主務大臣ハ決議、選擧若ハ當選ヲ取消シ、役員ヲ解任シ、總代ノ改選ヲ命ジ、組合ノ事業ヲ停止シ又ハ組合ノ解散ヲ命ズルコトヲ得
第二十七條 本法ニ規定スルモノヲ除クノ外絲價安定施設組合ノ設立、管理、解散、淸算其ノ他組合ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十八條 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ絲價安定施設組合ニ對シ賣渡價格ニ依リ生絲ノ賣渡ヲ爲シ又ハ絲價安定施設組合ヨリ買入價格ニ依リ生絲ノ買入ヲ爲ス
第二十九條 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ所有生絲ノ貯藏、買換、交換、加工、整理ノ爲ニスル賣渡及新規ノ用途又ハ販路ニ向クル爲ニスル處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ賣渡又ハ買入ノ價格ハ時價ニ準據シテ之ヲ定ム
第三十條 政府ハ賣渡價格ヲ維持スルニ必要ナル數量ノ生絲ヲ保有スル爲必要アリト認ムルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ生絲ノ市價ガ賣渡價格ノ一定割合ニ相當スル價格以下ナル場合ニ限リ絲價安定委員會ニ諮問シテ市價ニ惡影響ヲ及ボサザル方法ニ依リ生絲ノ買入ヲ爲スコトヲ得
前條第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十一條 主務大臣絲價安定上必要アリト認ムルトキハ絲價安定施設組合其ノ他命令ヲ以テ規定スル蠶絲業者ノ團體ノ組織員ニ對シ蠶種、繭又ハ生絲ノ生產、保管又ハ販賣ニ關スル其ノ團體ノ統制ニ從フベキコトヲ命ズルコトヲ得
第三十二條 繭及生絲ノ生產費、生產高、現在高、消費高及價格ノ調査ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十三條 政府ハ前條ニ規定スル事項其ノ他絲價安定ニ關シ必要ナル事項ヲ調査スル爲特ニ必要アリト認ムルトキハ繭若ハ生絲ノ生產者、取引業者、倉庫業者、消費者其ノ他占有者ニ對シ必要ナル事項ノ報吿ヲ命ジ又ハ官吏若ハ吏員ヲシテ其ノ營業所、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ帳簿物件ヲ檢査セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ當該官吏又ハ吏員ハ其ノ身分ヲ證明スル證票ヲ携帶スベシ
第三十四條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第三十一條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
二 第三十三條第一項ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ又ハ當該官吏若ハ吏員ノ職務ノ執行ヲ妨ゲタル者
第三十五條 第三十一條ニ規定スル團體ノ組織員ハ其ノ代理人、戶主、家族、雇人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十六條 第三十四條ノ規定又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十七條 絲價安定施設組合ノ證票ヲ不正ニ使用シタル者、行使ノ目的ヲ以テ證票ヲ僞造若ハ變造シタル者又ハ僞造若ハ變造ノ證票ヲ使用シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十八條 絲價安定施設組合ノ役員、職員、總代又ハ淸算人其ノ職務ニ關シ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ要求若ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ處ス因テ不正ノ行爲ヲ爲シ又ハ相當ノ行爲ヲ爲サザルトキハ五年以下ノ懲役ニ處ス
前項ノ場合ニ於テ收受シタル賄賂ハ之ヲ沒收ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
第三十九條 前條第一項ニ揭グル者ニ對シ賄賂ヲ交付、提供又ハ約束シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得
第四十條 第三十七條ニ揭グル罪ハ刑法第三條ノ例ニ、第三十八條ニ揭グル罪ハ刑法第四條ノ例ニ從フ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
絲價安定施設組合ノ設立前ニ在リテハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ賣渡價格ニ依ル買入ノ申込又ハ買入價格ニ依ル賣渡ノ申込ニ應ジテ生絲ノ賣渡又ハ買入ヲ爲スコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル糸価安定施設法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年三月三十日
内閣総理大臣 林銑十郎
農林大臣 山崎達之輔
法律第十六号
糸価安定施設法
第一条 本法ハ生糸ノ価格ノ異常ナル騰貴又ハ低落ノ防止ヲ図リ蚕糸業ノ安定及発達ヲ期スルコトヲ目的トス
第二条 製糸業者ハ糸価ノ安定ヲ図リ蚕糸業ノ改善発達ヲ期スル目的ヲ以テ主務大臣ノ認可ヲ受ケ糸価安定施設組合ヲ設立スルコトヲ得
第三条 本法ニ於テ製糸業者トハ命令ヲ以テ規定スル者ヲ除クノ外生糸ノ製造ヲ業トスル者ヲ謂フ
製糸ヲ為シ又ハ製糸工場ヲ有スル産業組合及産業組合連合会ハ命令ヲ以テ規定スル者ヲ除クノ外本法ノ適用ニ付テハ之ヲ製糸業者ト看做ス
第四条 製糸業者糸価安定施設組合ヲ設立セザル場合ニ於テ主務大臣必要アリト認ムルトキハ製糸業者ニ対シ糸価安定施設組合ノ設立ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ設立ヲ命ゼラレタル者命令ノ定ムル所ニ依リ設立ノ認可ヲ申請セザルトキハ主務大臣ハ定款ノ作成其ノ他設立ニ関シ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
第五条 糸価安定施設組合ハ法人トス
糸価安定施設組合ハ営利ヲ目的トシテ其ノ事業ヲ営ムコトヲ得ズ
第六条 糸価安定施設組合ノ地区ハ全国ノ区域ニ依ル
第七条 糸価安定施設組合ノ名称中ニハ糸価安定施設組合ナル文字ヲ用フベシ
本法ニ依リ設立シタル糸価安定施設組合ニ非ザレバ其ノ名称中ニ糸価安定施設組合タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ
第八条 糸価安定施設組合ハ設立ノ認可アリタル時又ハ第四条第二項ノ規定ニ依リ定款ノ作成アリタル時成立ス
前項ノ場合ニ於テハ主務大臣ハ組合設立ノ旨、主タル事務所ノ所在地並ニ理事長及副理事長ノ氏名及住所ヲ告示スベシ其ノ告示シタル事項ニ変更アリタルトキ亦同ジ
第九条 糸価安定施設組合成立シタルトキハ製糸業者ハ総テ其ノ組合員トス
糸価安定施設組合ハ命令ノ定ムル所ニ依リ輸出生糸取引法第一条ノ輸出生糸問屋及生糸輸出業者並ニ本法施行地域外ニ於ケル製糸業者ヲ組合員ト為スコトヲ得
第十条 糸価安定施設組合ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ一定ノ価格(売渡価格)ニ依ル買入ノ申込又ハ一定ノ価格(買入価格)ニ依ル売渡ノ申込ニ応ジテ生糸ノ売渡又ハ買入ヲ為スモノトス
第十一条 売渡価格及買入価格ハ勅令ヲ以テ定ムル制限ノ範囲内ニ於テ勅令ノ定ムル所ニ依リ競争繊維ノ価格、繭生産費中ニ於ケル現金支出額ニ自給費ノ一定割合ノ金額ヲ加ヘタルモノ及生糸ノ製造販売ニ要スル費用並ニ物価其ノ他ノ経済事情ヲ参酌シテ主務大臣之ヲ定ム
第十二条 売渡価格及買入価格ハ糸価安定委員会ニ諮問シテ之ヲ定ム
糸価安定委員会ノ組織及権限ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三条 糸価安定施設組合ハ第十条ニ掲グル事業ノ外左ノ事業ヲ行フコトヲ得
一 組合員ノ生糸ノ共同保管
二 組合員ノ事業ニ関スル統制
三 組合員ノ事業ノ改善ニ関スル施設
四 組合ノ行フ事業ニ要スル費用ニ充ツル為ノ積立金ノ造成
五 前各号ニ掲グルモノノ外組合ノ目的ヲ達成スルニ必要ナル施設
第十四条 糸価安定施設組合ハ生糸ノ市価ガ勅令ヲ以テ定ムル価格以下ニ低落シタル場合ニ限リ生糸ノ共同保管ヲ行フコトヲ得
第十五条 生糸ノ市価ガ前条ノ規定ニ依ル価格以下ニ低落シタル場合ニ於テ主務大臣必要アリト認ムルトキハ糸価安定委員会ニ諮問シテ糸価安定施設組合ニ対シ其ノ組合員ノ生糸ノ共同保管ヲ行フベキコトヲ命ズルコトヲ得
糸価安定施設組合前項ノ規定ニ依リ生糸ノ共同保管ヲ行ヒタルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ組合ニ対シ其ノ所有スル生糸ヲ交付スルコトヲ得
第十六条 主務大臣必要アリト認ムルトキハ糸価安定委員会ニ諮問シテ糸価安定施設組合ニ対シ其ノ共同保管スル生糸ニ付保管ノ解除ヲ命ズルコトヲ得
第十七条 糸価安定施設組合ハ第十条ニ規定スル場合及勅令ヲ以テ規定スル場合ヲ除クノ外生糸ノ売渡又ハ買入ヲ為スコトヲ得ズ
第十八条 糸価安定施設組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ其ノ組合員ニ対シ経費ヲ分賦シ及過怠金ヲ徴収スルコトヲ得
糸価安定施設組合ノ経費又ハ過怠金ヲ滞納スル者アル場合ニ於テ其ノ理事長ノ請求アルトキハ市町村ハ市町村税ノ例ニ依リ之ヲ処分ス此ノ場合ニ於テ糸価安定施設組合ハ其ノ徴収金額ノ百分ノ四ヲ市町村ニ交付スベシ
市町村ガ前項ノ請求ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ其ノ処分ニ著手セズ又ハ九十日以内ニ之ヲ結了セザルトキハ理事長ハ主務大臣ノ認可ヲ得テ之ヲ処分スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ町村制第百十一条第一項及第四項ノ規定ヲ準用ス
前二項ニ規定スル徴収金ノ先取特権ノ順位ハ市町村其ノ他之ニ準ズベキモノノ徴収金ニ次ギ其ノ時効ニ付テハ市町村税ノ例ニ依ル
第一項ニ規定スル徴収金ノ賦課徴収及滞納処分ニ関シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ異議ノ申立若ハ訴願ヲ為シ又ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九条 糸価安定施設組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ使用料及手数料ヲ徴収スルコトヲ得
第二十条 使用料及手数料ノ徴収、生糸ノ寄託其ノ他糸価安定施設組合ト組合員トノ間ニ於ケル権利義務ニ関シテハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十一条 糸価安定施設組合ニ総代会ヲ置ク
総代会ハ理事長、副理事長及総代ヲ以テ之ヲ組織ス
第二十二条 糸価安定施設組合ノ組合員ハ命令ノ定ムル所ニ依リ組合員中ヨリ総代ヲ選挙スベシ
第二十三条 左ニ掲グル事項ハ総代会ノ議決ヲ経ベシ
一 収支予算
二 経費ノ分賦収入方法
三 第十三条第一号、第二号及第四号ニ掲グル事業其ノ他命令ヲ以テ定ムル事業ノ開始及改廃
四 事業報告及収支決算
五 借入金
六 基本財産ノ造成、管理及処分
七 定款ノ変更
八 役員ノ選任及解任
前項第一号乃至第三号及第五号乃至第八号ニ掲グル事項ノ決議ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
主務大臣生糸ノ共同保管及其ノ解除ノ決議ノ認可ヲ為サントスル場合ニ於テハ糸価安定委員会ニ諮問スルコトヲ要ス
第二十四条 糸価安定施設組合ニ左ノ役員ヲ置ク
理事長 一人
副理事長 一人
理事 数人
評議員 数人
役員ハ組合員又ハ組合員タル法人ノ役員中ヨリ之ヲ選任ス但シ理事長及副理事長ハ其ノ他ノ者ヨリ之ヲ選任スルコトヲ妨ゲズ
第二十五条 主務大臣ハ糸価安定施設組合ニ対シ組合ノ事業ニ関スル報告ヲ為サシメ、組合ノ業務執行又ハ財産ノ状況ヲ検査シ、定款、収支予算又ハ経費ノ分賦収入方法ノ変更ヲ命ジ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ発シ又ハ処分ヲ為スコトヲ得
第二十六条 糸価安定施設組合ノ決議若ハ選挙又ハ役員ノ行為ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ主務大臣ハ決議、選挙若ハ当選ヲ取消シ、役員ヲ解任シ、総代ノ改選ヲ命ジ、組合ノ事業ヲ停止シ又ハ組合ノ解散ヲ命ズルコトヲ得
第二十七条 本法ニ規定スルモノヲ除クノ外糸価安定施設組合ノ設立、管理、解散、清算其ノ他組合ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十八条 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ糸価安定施設組合ニ対シ売渡価格ニ依リ生糸ノ売渡ヲ為シ又ハ糸価安定施設組合ヨリ買入価格ニ依リ生糸ノ買入ヲ為ス
第二十九条 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ所有生糸ノ貯蔵、買換、交換、加工、整理ノ為ニスル売渡及新規ノ用途又ハ販路ニ向クル為ニスル処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ売渡又ハ買入ノ価格ハ時価ニ準拠シテ之ヲ定ム
第三十条 政府ハ売渡価格ヲ維持スルニ必要ナル数量ノ生糸ヲ保有スル為必要アリト認ムルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ生糸ノ市価ガ売渡価格ノ一定割合ニ相当スル価格以下ナル場合ニ限リ糸価安定委員会ニ諮問シテ市価ニ悪影響ヲ及ボサザル方法ニ依リ生糸ノ買入ヲ為スコトヲ得
前条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十一条 主務大臣糸価安定上必要アリト認ムルトキハ糸価安定施設組合其ノ他命令ヲ以テ規定スル蚕糸業者ノ団体ノ組織員ニ対シ蚕種、繭又ハ生糸ノ生産、保管又ハ販売ニ関スル其ノ団体ノ統制ニ従フベキコトヲ命ズルコトヲ得
第三十二条 繭及生糸ノ生産費、生産高、現在高、消費高及価格ノ調査ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十三条 政府ハ前条ニ規定スル事項其ノ他糸価安定ニ関シ必要ナル事項ヲ調査スル為特ニ必要アリト認ムルトキハ繭若ハ生糸ノ生産者、取引業者、倉庫業者、消費者其ノ他占有者ニ対シ必要ナル事項ノ報告ヲ命ジ又ハ官吏若ハ吏員ヲシテ其ノ営業所、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨検シ帳簿物件ヲ検査セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ当該官吏又ハ吏員ハ其ノ身分ヲ証明スル証票ヲ携帯スベシ
第三十四条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第三十一条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
二 第三十三条第一項ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ又ハ当該官吏若ハ吏員ノ職務ノ執行ヲ妨ゲタル者
第三十五条 第三十一条ニ規定スル団体ノ組織員ハ其ノ代理人、戸主、家族、雇人其ノ他ノ従業者ガ其ノ業務ニ関シ本法若ハ本法ニ基キテ発スル命令又ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第三十六条 第三十四条ノ規定又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ適用スベキ罰則ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員ニ、未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三十七条 糸価安定施設組合ノ証票ヲ不正ニ使用シタル者、行使ノ目的ヲ以テ証票ヲ偽造若ハ変造シタル者又ハ偽造若ハ変造ノ証票ヲ使用シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十八条 糸価安定施設組合ノ役員、職員、総代又ハ清算人其ノ職務ニ関シ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス因テ不正ノ行為ヲ為シ又ハ相当ノ行為ヲ為サザルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス
前項ノ場合ニ於テ収受シタル賄賂ハ之ヲ没収ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴ス
第三十九条 前条第一項ニ掲グル者ニ対シ賄賂ヲ交付、提供又ハ約束シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
第四十条 第三十七条ニ掲グル罪ハ刑法第三条ノ例ニ、第三十八条ニ掲グル罪ハ刑法第四条ノ例ニ従フ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
糸価安定施設組合ノ設立前ニ在リテハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ売渡価格ニ依ル買入ノ申込又ハ買入価格ニ依ル売渡ノ申込ニ応ジテ生糸ノ売渡又ハ買入ヲ為スコトヲ得