朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル小切手法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年七月二十八日
內閣總理大臣 子爵 齋藤實
司法大臣 小山松吉
法律第五十七號
小切手法
第一章 小切手ノ振出及方式
第一條 小切手ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ
一 證券ノ文言中ニ其ノ證券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル小切手ナルコトヲ示ス文字
二 一定ノ金額ヲ支拂フベキ旨ノ單純ナル委託
三 支拂ヲ爲スベキ者(支拂人)ノ名稱
四 支拂ヲ爲スベキ地ノ表示
五 小切手ヲ振出ス日及地ノ表示
六 小切手ヲ振出ス者(振出人)ノ署名
第二條 前條ニ揭グル事項ノ何レカヲ缺ク證券ハ小切手タル效力ヲ有セズ但シ次ノ數項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
支拂人ノ名稱ニ附記シタル地ハ特別ノ表示ナキ限リ之ヲ支拂地ト看做ス支拂人ノ名稱ニ數箇ノ地ノ附記アルトキハ小切手ハ初頭ニ記載シアル地ニ於テ之ヲ支拂フベキモノトス
前項ノ記載其ノ他何等ノ表示ナキ小切手ハ振出地ニ於テ之ヲ支拂フベキモノトス
振出地ノ記載ナキ小切手ハ振出人ノ名稱ニ附記シタル地ニ於テ之ヲ振出シタルモノト看做ス
第三條 小切手ハ其ノ呈示ノ時ニ於テ振出人ノ處分シ得ル資金アル銀行ニ宛テ且振出人ヲシテ資金ヲ小切手ニ依リ處分スルコトヲ得シムル明示又ハ默示ノ契約ニ從ヒ之ヲ振出スベキモノトス但シ此ノ規定ニ從ハザルトキト雖モ證券ノ小切手タル效力ヲ妨ゲズ
第四條 小切手ハ引受ヲ爲スコトヲ得ズ小切手ニ爲シタル引受ノ記載ハ之ヲ爲サザルモノト看做ス
第五條 小切手ハ左ノ何レカトシテ之ヲ振出スコトヲ得
一 記名式又ハ指圖式
二 記名式ニシテ「指圖禁止」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載スルモノ
三 持參人拂式
記名ノ小切手ニシテ「又ハ持參人ニ」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シタルモノハ之ヲ持參人拂式小切手ト看做ス
受取人ノ記載ナキ小切手ハ之ヲ持參人拂式小切手ト看做ス
第六條 小切手ハ振出人ノ自己指圖ニテ之ヲ振出スコトヲ得
小切手ハ第三者ノ計算ニ於テ之ヲ振出スコトヲ得
小切手ハ振出人ノ自己宛ニテ之ヲ振出スコトヲ得
第七條 小切手ニ記載シタル利息ノ約定ハ之ヲ爲サザルモノト看做ス
第八條 小切手ハ支拂人ノ住所地ニ在ルト又ハ其ノ他ノ地ニ在ルトヲ問ハズ第三者ノ住所ニ於テ支拂フベキモノト爲スコトヲ得但シ其ノ第三者ハ銀行タルコトヲ要ス
第九條 小切手ノ金額ヲ文字及數字ヲ以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ文字ヲ以テ記載シタル金額ヲ小切手金額トス
小切手ノ金額ヲ文字ヲ以テ又ハ數字ヲ以テ重複シテ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ最小金額ヲ小切手金額トス
第十條 小切手ニ小切手債務ヲ負擔スル能力ナキ者ノ署名、僞造ノ署名、假設人ノ署名又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ小切手ノ署名者若ハ其ノ本人ニ義務ヲ負ハシムルコト能ハザル署名アル場合ト雖モ他ノ署名者ノ債務ハ之ガ爲其ノ效力ヲ妨ゲラルルコトナシ
第十一條 代理權ヲ有セザル者ガ代理人トシテ小切手ニ署名シタルトキハ自ラ其ノ小切手ニ因リ義務ヲ負フ其ノ者ガ支拂ヲ爲シタルトキハ本人ト同一ノ權利ヲ有ス權限ヲ超エタル代理人ニ付亦同ジ
第十二條 振出人ハ支拂ヲ擔保ス振出人ガ之ヲ擔保セザル旨ノ一切ノ文言ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
第十三條 未完成ニテ振出シタル小切手ニ豫メ爲シタル合意ト異ル補充ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ對抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ小切手ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二章 讓渡
第十四條 記名式又ハ指圖式ノ小切手ハ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡スコトヲ得
記名式小切手ニシテ「指圖禁止」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シタルモノハ指名債權ノ讓渡ニ關スル方式ニ從ヒ且其ノ效力ヲ以テノミ之ヲ讓渡スコトヲ得
裏書ハ振出人其ノ他ノ債務者ニ對シテモ之ヲ爲スコトヲ得此等ノ者ハ更ニ小切手ヲ裏書スルコトヲ得
第十五條 裏書ハ單純ナルコトヲ要ス裏書ニ附シタル條件ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
一部ノ裏書ハ之ヲ無效トス
支拂人ノ裏書モ亦之ヲ無效トス
持參人拂ノ裏書ハ白地式裏書ト同一ノ效力ヲ有ス
支拂人ニ對シテ爲シタル裏書ハ受取證書タル效力ノミヲ有ス但シ支拂人ガ數箇ノ營業所ヲ有スル場合ニ於テ小切手ノ振宛テラレタル營業所以外ノ營業所ニ對シテ爲シタル裏書ハ此ノ限ニ在ラズ
第十六條 裏書ハ小切手又ハ之ト結合シタル紙片(補箋)ニ之ヲ記載シ裏書人署名スルコトヲ要ス
裏書ハ被裏書人ヲ指定セズシテ之ヲ爲シ又ハ單ニ裏書人ノ署名ノミヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得(白地式裏書)此ノ後ノ場合ニ於テハ裏書ハ小切手ノ裏面又ハ補箋ニ之ヲ爲スニ非ザレバ其ノ效力ヲ有セズ
第十七條 裏書ハ小切手ヨリ生ズル一切ノ權利ヲ移轉ス
裏書ガ白地式ナルトキハ所持人ハ
一 自己ノ名稱又ハ他人ノ名稱ヲ以テ白地ヲ補充スルコトヲ得
二 白地式ニ依リ又ハ他人ヲ表示シテ更ニ小切手ヲ裏書スルコトヲ得
三 白地ヲ補充セズ且裏書ヲ爲サズシテ小切手ヲ第三者ニ讓渡スコトヲ得
第十八條 裏書人ハ反對ノ文言ナキ限リ支拂ヲ擔保ス
裏書人ハ新ナル裏書ヲ禁ズルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ裏書人ハ小切手ノ爾後ノ被裏書人ニ對シ擔保ノ責ヲ負フコトナシ
第十九條 裏書シ得ベキ小切手ノ占有者ガ裏書ノ連續ニ依リ其ノ權利ヲ證明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス最後ノ裏書ガ白地式ナル場合ト雖モ亦同ジ抹消シタル裏書ハ此ノ關係ニ於テハ之ヲ記載セザルモノト看做ス白地式裏書ニ次デ他ノ裏書アルトキハ其ノ裏書ヲ爲シタル者ハ白地式裏書ニ因リテ小切手ヲ取得シタルモノト看做ス
第二十條 持參人拂式小切手ニ裏書ヲ爲シタルトキハ裏書人ハ遡求ニ關スル規定ニ從ヒ責任ヲ負フ但シ之ガ爲證券ハ指圖式小切手ニ變ズルコトナシ
第二十一條 事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持參人拂式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九條ノ規定ニ依リ權利ヲ證明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二條 小切手ニ依リ請求ヲ受ケタル者ハ振出人其ノ他所持人ノ前者ニ對スル人的關係ニ基ク抗辯ヲ以テ所持人ニ對抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ其ノ債務者ヲ害スルコトヲ知リテ小切手ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十三條 裏書ニ「囘收ノ爲」、「取立ノ爲」、「代理ノ爲」其ノ他單ナル委任ヲ示ス文言アルトキハ所持人ハ小切手ヨリ生ズル一切ノ權利ヲ行使スルコトヲ得但シ所持人ハ代理ノ爲ノ裏書ノミヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ債務者ガ所持人ニ對抗スルコトヲ得ル抗辯ハ裏書人ニ對抗スルコトヲ得ベカリシモノニ限ル
代理ノ爲ノ裏書ニ依ル委任ハ委任者ノ死亡又ハ其ノ者ガ無能力ト爲リタルコトニ因リ終了セズ
第二十四條 拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成後ノ裏書又ハ呈示期間經過後ノ裏書ハ指名債權ノ讓渡ノ效力ノミヲ有ス
日附ノ記載ナキ裏書ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成前又ハ呈示期間經過前ニ之ヲ爲シタルモノト推定ス
第三章 保證
第二十五條 小切手ノ支拂ハ其ノ金額ノ全部又ハ一部ニ付保證ニ依リ之ヲ擔保スルコトヲ得
支拂人ヲ除クノ外第三者ハ前項ノ保證ヲ爲スコトヲ得小切手ニ署名シタル者ト雖モ亦同ジ
第二十六條 保證ハ小切手又ハ補箋ニ之ヲ爲スベシ
保證ハ「保證」其ノ他之ト同一ノ意義ヲ有スル文字ヲ以テ表示シ保證人署名スベシ
小切手ノ表面ニ爲シタル單ナル署名ハ之ヲ保證ト看做ス但シ振出人ノ署名ハ此ノ限ニ在ラズ
保證ニハ何人ノ爲ニ之ヲ爲スカヲ表示スルコトヲ要ス其ノ表示ナキトキハ振出人ノ爲ニ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第二十七條 保證人ハ保證セラレタル者ト同一ノ責任ヲ負フ
保證ハ其ノ擔保シタル債務ガ方式ノ瑕疵ヲ除キ他ノ如何ナル事由ニ因リテ無效ナルトキト雖モ之ヲ有效トス
保證人ガ小切手ノ支拂ヲ爲シタルトキハ保證セラレタル者及其ノ者ノ小切手上ノ債務者ニ對シ小切手ヨリ生ズル權利ヲ取得ス
第四章 呈示及支拂
第二十八條 小切手ハ一覽拂ノモノトス之ニ反スル一切ノ記載ハ之ヲ爲サザルモノト看做ス
振出ノ日附トシテ記載シタル日ヨリ前ニ支拂ノ爲呈示シタル小切手ハ呈示ノ日ニ於テ之ヲ支拂フベキモノトス
第二十九條 國內ニ於テ振出シ且支拂フベキ小切手ハ十日內ニ支拂ノ爲之ヲ呈示スルコトヲ要ス
支拂ヲ爲スベキ國ト異ル國ニ於テ振出シタル小切手ハ振出地及支拂地ガ同一洲ニ存スルトキハ二十日內又異ル洲ニ存スルトキハ七十日內ニ之ヲ呈示スルコトヲ要ス
前項ニ關シテハ歐羅巴洲ノ一國ニ於テ振出シ地中海沿岸ノ一國ニ於テ支拂フベキ小切手又ハ地中海沿岸ノ一國ニ於テ振出シ歐羅巴洲ノ一國ニ於テ支拂フベキ小切手ハ同一洲內ニ於テ振出シ且支拂フベキモノト看做ス
本條ニ揭グル期間ノ起算日ハ小切手ニ振出ノ日附トシテ記載シタル日トス
第三十條 小切手ガ曆ヲ異ニスル二地ノ間ニ振出シタルモノナルトキハ振出ノ日ヲ支拂地ノ曆ノ應當日ニ換フ
第三十一條 手形交換所ニ於ケル小切手ノ呈示ハ支拂ノ爲ノ呈示タル效力ヲ有ス
第三十二條 小切手ノ支拂委託ノ取消ハ呈示期間經過後ニ於テノミ其ノ效力ヲ生ズ
支拂委託ノ取消ナキトキハ支拂人ハ期間經過後ト雖モ支拂ヲ爲スコトヲ得
第三十三條 振出ノ後振出人ガ死亡シ又ハ能力ヲ失フモ小切手ノ效力ニ影響ヲ及ボスコトナシ
第三十四條 小切手ノ支拂人ハ支拂ヲ爲スニ當リ所持人ニ對シ小切手ニ受取ヲ證スル記載ヲ爲シテ之ヲ交付スベキコトヲ請求スルコトヲ得
所持人ハ一部支拂ヲ拒ムコトヲ得ズ
一部支拂ノ場合ニ於テハ支拂人ハ其ノ支拂アリタル旨ノ小切手上ノ記載及受取證書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十五條 裏書シ得ベキ小切手ノ支拂ヲ爲ス支拂人ハ裏書ノ連續ノ整否ヲ調査スル義務アルモ裏書人ノ署名ヲ調査スル義務ナシ
第三十六條 支拂地ノ通貨ニ非ザル通貨ヲ以テ支拂フベキ旨ヲ記載シタル小切手ニ付テハ其ノ呈示期間內ハ支拂ノ日ニ於ケル價格ニ依リ其ノ國ノ通貨ヲ以テ支拂ヲ爲スコトヲ得呈示ヲ爲スモ支拂ナカリシトキハ所持人ハ其ノ選擇ニ依リ呈示ノ日又ハ支拂ノ日ノ相場ニ從ヒ其ノ國ノ通貨ヲ以テ小切手ノ金額ヲ支拂フベキコトヲ請求スルコトヲ得
外國通貨ノ價格ハ支拂地ノ慣習ニ依リ之ヲ定ム但シ振出人ハ小切手ニ定メタル換算率ニ依リ支拂金額ヲ計算スベキ旨ヲ記載スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ振出人ガ特種ノ通貨ヲ以テ支拂フベキ旨(外國通貨現實支拂文句)ヲ記載シタル場合ニハ之ヲ適用セズ
振出國ト支拂國トニ於テ同名異價ヲ有スル通貨ニ依リ小切手ノ金額ヲ定メタルトキハ支拂地ノ通貨ニ依リテ之ヲ定メタルモノト推定ス
第五章 線引小切手
第三十七條 小切手ノ振出人又ハ所持人ハ小切手ニ線引ヲ爲スコトヲ得線引ハ次條ニ定ムル效力ヲ有ス
線引ハ小切手ノ表面ニ二條ノ平行線ヲ引キテ之ヲ爲スベシ線引ハ一般又ハ特定タルコトヲ得
二條ノ線內ニ何等ノ指定ヲ爲サザルカ又ハ「銀行」若ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文字ヲ記載シタルトキハ線引ハ之ヲ一般トス二條ノ線內ニ銀行ノ名稱ヲ記載シタルトキハ線引ハ之ヲ特定トス
一般線引ハ之ヲ特定線引ニ變更スルコトヲ得ルモ特定線引ハ之ヲ一般線引ニ變更スルコトヲ得ズ
線引又ハ被指定銀行ノ名稱ノ抹消ハ之ヲ爲サザルモノト看做ス
第三十八條 一般線引小切手ハ支拂人ニ於テ銀行ニ對シ又ハ支拂人ノ取引先ニ對シテノミ之ヲ支拂フコトヲ得
特定線引小切手ハ支拂人ニ於テ被指定銀行ニ對シテノミ又被指定銀行ガ支拂人ナルトキハ自己ノ取引先ニ對シテノミ之ヲ支拂フコトヲ得但シ被指定銀行ハ他ノ銀行ヲシテ小切手ノ取立ヲ爲サシムルコトヲ得
銀行ハ自己ノ取引先又ハ他ノ銀行ヨリノミ線引小切手ヲ取得スルコトヲ得銀行ハ此等ノ者以外ノ者ノ爲ニ線引小切手ノ取立ヲ爲スコトヲ得ズ
數箇ノ特定線引アル小切手ハ支拂人ニ於テ之ヲ支拂フコトヲ得ズ但シ二箇ノ線引アル場合ニ於テ其ノ一ガ手形交換所ニ於ケル取立ノ爲ニ爲サレタルモノナルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前四項ノ規定ヲ遵守セザル支拂人又ハ銀行ハ之ガ爲ニ生ジタル損害ニ付小切手ノ金額ニ達スル迄賠償ノ責ニ任ズ
第六章 支拂拒絕ニ因ル遡求
第三十九條 適法ノ時期ニ呈示シタル小切手ノ支拂ナキ場合ニ於テ左ノ何レカニ依リ支拂拒絕ヲ證明スルトキハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ對シ其ノ遡求權ヲ行フコトヲ得
一 公正證書(拒絕證書)
二 小切手ニ呈示ノ日ヲ表示シテ記載シ且日附ヲ附シタル支拂人ノ宣言
三 適法ノ時期ニ小切手ヲ呈示シタルモ其ノ支拂ナカリシ旨ヲ證明シ且日附ヲ附シタル手形交換所ノ宣言
第四十條 拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ハ呈示期間經過前ニ之ヲ作ラシムルコトヲ要ス
期間ノ末日ニ呈示アリタルトキハ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ハ之ニ次グ第一ノ取引日ニ之ヲ作ラシムルコトヲ得
第四十一條 所持人ハ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成ノ日ニ次グ又ハ無費用償還文句アル場合ニ於テハ呈示ノ日ニ次グ四取引日內ニ自己ノ裏書人及振出人ニ對シ支拂拒絕アリタルコトヲ通知スルコトヲ要ス各裏書人ハ通知ヲ受ケタル日ニ次グ二取引日內ニ前ノ通知者全員ノ名稱及宛所ヲ示シテ自己ノ受ケタル通知ヲ自己ノ裏書人ニ通知シ順次振出人ニ及ブモノトス此ノ期間ハ各其ノ通知ヲ受ケタル時ヨリ進行ス
前項ノ規定ニ從ヒ小切手ノ署名者ニ通知ヲ爲ストキハ同一期間內ニ其ノ保證人ニ同一ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス
裏書人ガ其ノ宛所ヲ記載セズ又ハ其ノ記載ガ讀ミ難キ場合ニ於テハ其ノ裏書人ノ直接ノ前者ニ通知スルヲ以テ足ル
通知ヲ爲スベキ者ハ如何ナル方法ニ依リテモ之ヲ爲スコトヲ得單ニ小切手ヲ返付スルニ依リテモ亦之ヲ爲スコトヲ得
通知ヲ爲スベキ者ハ適法ノ期間內ニ通知ヲ爲シタルコトヲ證明スルコトヲ要ス此ノ期間內ニ通知ヲ爲ス書面ヲ郵便ニ付シタル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ遵守シタルモノト看做ス
前項ノ期間內ニ通知ヲ爲サザル者ハ其ノ權利ヲ失フコトナシ但シ過失ニ因リテ生ジタル損害アルトキハ小切手ノ金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ其ノ賠償ノ責ニ任ズ
第四十二條 振出人、裏書人又ハ保證人ハ證券ニ記載シ且署名シタル「無費用償還」、「拒絕證書不要」ノ文句其ノ他之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ニ依リ所持人ニ對シ其ノ遡求權ヲ行フ爲ノ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成ヲ免除スルコトヲ得
前項ノ文言ハ所持人ニ對シ法定期間內ニ於ケル小切手ノ呈示及通知ノ義務ヲ免除スルコトナシ期間ノ不遵守ハ所持人ニ對シ之ヲ援用スル者ニ於テ其ノ證明ヲ爲スコトヲ要ス
振出人ガ第一項ノ文言ヲ記載シタルトキハ一切ノ署名者ニ對シ其ノ效力ヲ生ズ裏書人又ハ保證人ガ之ヲ記載シタルトキハ其ノ裏書人又ハ保證人ニ對シテノミ其ノ效力ヲ生ズ振出人ガ此ノ文言ヲ記載シタルニ拘ラズ所持人ガ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ヲ作ラシメタルトキハ其ノ費用ハ所持人之ヲ負擔ス裏書人又ハ保證人ガ此ノ文言ヲ記載シタル場合ニ於テ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成アリタルトキハ一切ノ署名者ヲシテ其ノ費用ヲ償還セシムルコトヲ得
第四十三條 小切手上ノ各債務者ハ所持人ニ對シ合同シテ其ノ責ニ任ズ
所持人ハ前項ノ債務者ニ對シ其ノ債務ヲ負ヒタル順序ニ拘ラズ各別又ハ共同ニ請求ヲ爲スコトヲ得
小切手ノ署名者ニシテ之ヲ受戾シタルモノモ同一ノ權利ヲ有ス
債務者ノ一人ニ對スル請求ハ他ノ債務者ニ對スル請求ヲ妨ゲズ旣ニ請求ヲ受ケタル者ノ後者ニ對シテモ亦同ジ
第四十四條 所持人ハ遡求ヲ受クル者ニ對シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
一 支拂アラザリシ小切手ノ金額
二 年六分ノ率ニ依ル呈示ノ日以後ノ利息
三 拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ費用、通知ノ費用及其ノ他ノ費用
第四十五條 小切手ヲ受戾シタル者ハ其ノ前者ニ對シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
一 其ノ支拂ヒタル總金額
二 前號ノ金額ニ對シ年六分ノ率ニ依リ計算シタル支拂ノ日以後ノ利息
三 其ノ支出シタル費用
第四十六條 遡求ヲ受ケタル又ハ受クベキ債務者ハ支拂ト引換ニ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言、受取ヲ證スル記載ヲ爲シタル計算書及小切手ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
小切手ヲ受戾シタル裏書人ハ自己及後者ノ裏書ヲ抹消スルコトヲ得
第四十七條 法定ノ期間內ニ於ケル小切手ノ呈示又ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成ガ避クベカラザル障碍(國ノ法令ニ依ル禁制其ノ他ノ不可抗力)ニ因リテ妨ゲラレタルトキハ其ノ期間ヲ伸長ス
所持人ハ自己ノ裏書人ニ對シ遲滯ナク其ノ不可抗力ヲ通知シ且小切手又ハ補箋ニ其ノ通知ヲ記載シ日附ヲ附シテ之ニ署名スルコトヲ要ス其ノ他ニ付テハ第四十一條ノ規定ヲ準用ス
不可抗力ガ止ミタルトキハ所持人ハ遲滯ナク支拂ノ爲小切手ヲ呈示シ且必要アルトキハ拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ヲ作ラシムルコトヲ要ス
不可抗力ガ所持人ニ於テ其ノ裏書人ニ不可抗力ノ通知ヲ爲シタル日ヨリ十五日ヲ超エテ繼續スルトキハ呈示期間經過前ニ其ノ通知ヲ爲シタル場合ト雖モ呈示又ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ヲ要セズシテ遡求權ヲ行フコトヲ得
所持人又ハ所持人ガ小切手ノ呈示又ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成ヲ委任シタル者ニ付テノ單純ナル人的事由ハ不可抗力ヲ構成スルモノト認メズ
第七章 複本
第四十八條 一國ニ於テ振出シ他ノ國ニ於テ若ハ振出國ノ海外領土ニ於テ支拂フベキ小切手、一國ノ海外領土ニ於テ振出シ其ノ國ニ於テ支拂フベキ小切手、一國ノ同一海外領土ニ於テ振出シ且支拂フベキ小切手又ハ一國ノ一海外領土ニ於テ振出シ其ノ國ノ他ノ海外領土ニ於テ支拂フベキ小切手ハ持參人拂ノモノヲ除クノ外同一內容ノ數通ヲ以テ之ヲ振出スコトヲ得數通ヲ以テ小切手ヲ振出シタルトキハ其ノ證券ノ文言中ニ番號ヲ附スルコトヲ要ス之ヲ缺クトキハ各通ハ之ヲ各別ノ小切手ト看做ス
第四十九條 複本ノ一通ノ支拂ハ其ノ支拂ガ他ノ複本ヲ無效ナラシムル旨ノ記載ナキトキト雖モ義務ヲ免レシム
數人ニ各別ニ複本ヲ讓渡シタル裏書人及其ノ後ノ裏書人ハ其ノ署名アル各通ニシテ返還ヲ受ケザルモノニ付責任ヲ負フ
第八章 變造
第五十條 小切手ノ文言ノ變造ノ場合ニ於テハ其ノ變造後ノ署名者ハ變造シタル文言ニ從ヒテ責任ヲ負ヒ變造前ノ署名者ハ原文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ
第九章 時效
第五十一條 所持人ノ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ對スル遡求權ハ呈示期間經過後六月ヲ以テ時效ニ罹ル
小切手ノ支拂ヲ爲スベキ債務者ノ他ノ債務者ニ對スル遡求權ハ其ノ債務者ガ小切手ノ受戾ヲ爲シタル日又ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケタル日ヨリ六月ヲ以テ時效ニ罹ル
第五十二條 時效ノ中斷ハ其ノ中斷ノ事由ガ生ジタル者ニ對シテノミ其ノ效力ヲ生ズ
第十章 支拂保證
第五十三條 支拂人ハ小切手ニ支拂保證ヲ爲スコトヲ得
支拂保證ハ小切手ノ表面ニ「支拂保證」其ノ他支拂ヲ爲ス旨ノ文字ヲ以テ表示シ日附ヲ附シテ支拂人署名スベシ
第五十四條 支拂保證ハ單純ナルコトヲ要ス
支拂保證ニ依リ小切手ノ記載事項ニ加ヘタル變更ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
第五十五條 支拂保證ヲ爲シタル支拂人ハ呈示期間ノ經過前ニ小切手ノ呈示アリタル場合ニ於テノミ其ノ支拂ヲ爲ス義務ヲ負フ
支拂ナキ場合ニ於テ前項ノ呈示アリタルコトハ第三十九條ノ規定ニ依リ之ヲ證明スルコトヲ要ス
第四十四條及第四十五條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十六條 支拂保證ニ因リ振出人其ノ他ノ小切手上ノ債務者ハ其ノ責ヲ免ルルコトナシ
第五十七條 第四十七條ノ規定ハ支拂保證ヲ爲シタル支拂人ニ對スル權利ノ行使ニ付之ヲ準用ス
第五十八條 支拂保證ヲ爲シタル支拂人ニ對スル小切手上ノ請求權ハ呈示期間經過後一年ヲ以テ時效ニ罹ル
第十一章 通則
第五十九條 本法ニ於テ「銀行」ナル文字ハ法令ニ依リテ銀行ト同視セラルル人又ハ施設ヲ含ム
第六十條 小切手ノ呈示及拒絕證書ノ作成ハ取引日ニ於テノミ之ヲ爲スコトヲ得
小切手ニ關スル行爲ヲ爲ス爲殊ニ呈示又ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ノ作成ノ爲法令ニ規定シタル期間ノ末日ガ法定ノ休日ニ當ル場合ニ於テハ期間ハ其ノ滿了ニ次グ第一ノ取引日迄之ヲ伸長ス期間中ノ休日ハ之ヲ期間ニ算入ス
第六十一條 本法ニ規定スル期間ニハ其ノ初日ヲ算入セズ
第六十二條 恩惠日ハ法律上ノモノタルト裁判上ノモノタルトヲ問ハズ之ヲ認メズ
附 則
第六十三條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十四條 
商法第四編第四章ハ之ヲ削除ス
第六十五條 本法施行前ニ振出シタル小切手ニ付テハ仍從前ノ規定ニ依ル
第六十六條 本法施行後六月內ニ日本ニ於テ振出ス小切手ハ振出地ノ記載ヲ缺クトキト雖モ小切手タル效力ヲ有ス
第六十七條 本法ニ於テ署名トアルハ記名捺印ヲ含ム
第六十八條 朝鮮、臺灣、樺太、關東州、南洋群島又ハ勅令ヲ以テ指定スル亞細亞洲ノ地域ニ於テ振出シ日本內地ニ於テ支拂フベキ小切手ノ呈示期間ハ勅令ヲ以テ之ヲ伸長スルコトヲ得
第六十九條 第三十一條ノ手形交換所ハ司法大臣之ヲ指定ス
第七十條 拒絕證書ノ作成ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十一條 小切手ノ振出人ガ第三條ノ規定ニ違反シタルトキハ五千圓以下ノ過料ニ處ス
第七十二條 小切手ヨリ生ジタル權利ガ手續ノ欠缺又ハ時效ニ因リテ消滅シタルトキト雖モ所持人ハ振出人、裏書人又ハ支拂保證ヲ爲シタル支拂人ニ對シ其ノ受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第七十三條 裏書人ノ他ノ裏書人及振出人ニ對スル小切手上ノ請求權ノ消滅時效ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケタル場合ニ在リテハ前者ニ對シ訴訟吿知ヲ爲スニ因リテ中斷ス
前項ノ規定ニ因リテ中斷シタル時效ハ裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其ノ進行ヲ始ム
第七十四條 振出人又ハ所持人ガ證券ノ表面ニ「計算ノ爲」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シテ現金ノ支拂ヲ禁ジタル小切手ニシテ外國ニ於テ振出シ日本ニ於テ支拂フベキモノハ一般線引小切手タル效力ヲ有ス
第七十五條 本法ニ於テ休日トハ祭日、祝日、日曜日其ノ他ノ一般ノ休日ヲ謂フ
第七十六條 小切手ニ依リ義務ヲ負フ者ノ能力ハ其ノ本國法ニ依リ之ヲ定ム其ノ國ノ法律ガ他國ノ法律ニ依ルコトヲ定ムルトキハ其ノ他國ノ法律ヲ適用ス
前項ニ揭グル法律ニ依リ能力ヲ有セザル者ト雖モ他ノ國ノ領域ニ於テ署名ヲ爲シ其ノ國ノ法律ニ依レバ能力ヲ有スベキトキハ責任ヲ負フ
第七十七條 小切手ノ支拂人タルコトヲ得ル者ハ支拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
支拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ支拂人タルコトヲ得ザル者ヲ支拂人トシタル爲小切手ガ無效ナルトキト雖モ之ト同一ノ規定ナキ他ノ國ニ於テ其ノ小切手ニ爲シタル署名ヨリ生ズル債務ハ之ガ爲其ノ效力ヲ妨ゲラルルコトナシ
第七十八條 小切手上ノ行爲ノ方式ハ署名ヲ爲シタル地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム但シ支拂地ノ屬スル國ノ法律ノ規定スル方式ニ依ルヲ以テ足ル
小切手上ノ行爲ガ前項ノ規定ニ依リ有效ナラザル場合ト雖モ後ノ行爲ヲ爲シタル地ノ屬スル國ノ法律ニ依レバ適式ナルトキハ後ノ行爲ハ前ノ行爲ガ不適式ナルコトニ因リ其ノ效力ヲ妨ゲラルルコトナシ
日本人ガ外國ニ於テ爲シタル小切手上ノ行爲ハ其ノ行爲ガ日本ノ法律ニ規定スル方式ニ適合スル限リ他ノ日本人ニ對シ其ノ效力ヲ有ス
第七十九條 小切手ヨリ生ズル義務ノ效力ハ署名ヲ爲シタル地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム但シ遡求權ヲ行使スル期間ハ一切ノ署名者ニ付證券ノ振出地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
第八十條 左ノ事項ハ小切手ノ支拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
一 小切手ハ一覽拂タルコトヲ要スルヤ否ヤ、一覽後定期拂トシテ振出シ得ルヤ否ヤ及先日附小切手ノ效力
二 呈示期間
三 小切手ニ引受、支拂保證、確認又ハ査證ヲ爲シ得ルヤ否ヤ及此等ノ記載ノ效力
四 所持人ハ一部支拂ヲ請求シ得ルヤ否ヤ及一部支拂ヲ受諾スル義務アリヤ否ヤ
五 小切手ニ線引ヲ爲シ得ルヤ否ヤ、小切手ニ「計算ノ爲」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シ得ルヤ否ヤ及線引又ハ「計算ノ爲」ノ文字若ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ノ記載ノ效力
六 所持人ハ資金ニ對シ特別ノ權利ヲ有スルヤ否ヤ及此ノ權利ノ性質
七 振出人ハ小切手ノ支拂ノ委託ヲ取消シ又ハ支拂差止ノ手續ヲ爲シ得ルヤ否ヤ
八 小切手ノ喪失又ハ盜難ノ場合ニ爲スベキ手續
九 裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ對スル遡求權保全ノ爲拒絕證書又ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言ヲ必要トスルヤ否ヤ
第八十一條 拒絕證書ノ方式及作成期間其ノ他小切手上ノ權利ノ行使又ハ保存ニ必要ナル行爲ノ方式ハ拒絕證書ヲ作ルベキ地又ハ其ノ行爲ヲ爲スベキ地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル小切手法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年七月二十八日
内閣総理大臣 子爵 斎藤実
司法大臣 小山松吉
法律第五十七号
小切手法
第一章 小切手ノ振出及方式
第一条 小切手ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ
一 証券ノ文言中ニ其ノ証券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル小切手ナルコトヲ示ス文字
二 一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル委託
三 支払ヲ為スベキ者(支払人)ノ名称
四 支払ヲ為スベキ地ノ表示
五 小切手ヲ振出ス日及地ノ表示
六 小切手ヲ振出ス者(振出人)ノ署名
第二条 前条ニ掲グル事項ノ何レカヲ欠ク証券ハ小切手タル効力ヲ有セズ但シ次ノ数項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
支払人ノ名称ニ附記シタル地ハ特別ノ表示ナキ限リ之ヲ支払地ト看做ス支払人ノ名称ニ数箇ノ地ノ附記アルトキハ小切手ハ初頭ニ記載シアル地ニ於テ之ヲ支払フベキモノトス
前項ノ記載其ノ他何等ノ表示ナキ小切手ハ振出地ニ於テ之ヲ支払フベキモノトス
振出地ノ記載ナキ小切手ハ振出人ノ名称ニ附記シタル地ニ於テ之ヲ振出シタルモノト看做ス
第三条 小切手ハ其ノ呈示ノ時ニ於テ振出人ノ処分シ得ル資金アル銀行ニ宛テ且振出人ヲシテ資金ヲ小切手ニ依リ処分スルコトヲ得シムル明示又ハ黙示ノ契約ニ従ヒ之ヲ振出スベキモノトス但シ此ノ規定ニ従ハザルトキト雖モ証券ノ小切手タル効力ヲ妨ゲズ
第四条 小切手ハ引受ヲ為スコトヲ得ズ小切手ニ為シタル引受ノ記載ハ之ヲ為サザルモノト看做ス
第五条 小切手ハ左ノ何レカトシテ之ヲ振出スコトヲ得
一 記名式又ハ指図式
二 記名式ニシテ「指図禁止」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載スルモノ
三 持参人払式
記名ノ小切手ニシテ「又ハ持参人ニ」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シタルモノハ之ヲ持参人払式小切手ト看做ス
受取人ノ記載ナキ小切手ハ之ヲ持参人払式小切手ト看做ス
第六条 小切手ハ振出人ノ自己指図ニテ之ヲ振出スコトヲ得
小切手ハ第三者ノ計算ニ於テ之ヲ振出スコトヲ得
小切手ハ振出人ノ自己宛ニテ之ヲ振出スコトヲ得
第七条 小切手ニ記載シタル利息ノ約定ハ之ヲ為サザルモノト看做ス
第八条 小切手ハ支払人ノ住所地ニ在ルト又ハ其ノ他ノ地ニ在ルトヲ問ハズ第三者ノ住所ニ於テ支払フベキモノト為スコトヲ得但シ其ノ第三者ハ銀行タルコトヲ要ス
第九条 小切手ノ金額ヲ文字及数字ヲ以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ文字ヲ以テ記載シタル金額ヲ小切手金額トス
小切手ノ金額ヲ文字ヲ以テ又ハ数字ヲ以テ重複シテ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ最小金額ヲ小切手金額トス
第十条 小切手ニ小切手債務ヲ負担スル能力ナキ者ノ署名、偽造ノ署名、仮設人ノ署名又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ小切手ノ署名者若ハ其ノ本人ニ義務ヲ負ハシムルコト能ハザル署名アル場合ト雖モ他ノ署名者ノ債務ハ之ガ為其ノ効力ヲ妨ゲラルルコトナシ
第十一条 代理権ヲ有セザル者ガ代理人トシテ小切手ニ署名シタルトキハ自ラ其ノ小切手ニ因リ義務ヲ負フ其ノ者ガ支払ヲ為シタルトキハ本人ト同一ノ権利ヲ有ス権限ヲ超エタル代理人ニ付亦同ジ
第十二条 振出人ハ支払ヲ担保ス振出人ガ之ヲ担保セザル旨ノ一切ノ文言ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
第十三条 未完成ニテ振出シタル小切手ニ予メ為シタル合意ト異ル補充ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ小切手ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二章 譲渡
第十四条 記名式又ハ指図式ノ小切手ハ裏書ニ依リテ之ヲ譲渡スコトヲ得
記名式小切手ニシテ「指図禁止」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シタルモノハ指名債権ノ譲渡ニ関スル方式ニ従ヒ且其ノ効力ヲ以テノミ之ヲ譲渡スコトヲ得
裏書ハ振出人其ノ他ノ債務者ニ対シテモ之ヲ為スコトヲ得此等ノ者ハ更ニ小切手ヲ裏書スルコトヲ得
第十五条 裏書ハ単純ナルコトヲ要ス裏書ニ附シタル条件ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
一部ノ裏書ハ之ヲ無効トス
支払人ノ裏書モ亦之ヲ無効トス
持参人払ノ裏書ハ白地式裏書ト同一ノ効力ヲ有ス
支払人ニ対シテ為シタル裏書ハ受取証書タル効力ノミヲ有ス但シ支払人ガ数箇ノ営業所ヲ有スル場合ニ於テ小切手ノ振宛テラレタル営業所以外ノ営業所ニ対シテ為シタル裏書ハ此ノ限ニ在ラズ
第十六条 裏書ハ小切手又ハ之ト結合シタル紙片(補箋)ニ之ヲ記載シ裏書人署名スルコトヲ要ス
裏書ハ被裏書人ヲ指定セズシテ之ヲ為シ又ハ単ニ裏書人ノ署名ノミヲ以テ之ヲ為スコトヲ得(白地式裏書)此ノ後ノ場合ニ於テハ裏書ハ小切手ノ裏面又ハ補箋ニ之ヲ為スニ非ザレバ其ノ効力ヲ有セズ
第十七条 裏書ハ小切手ヨリ生ズル一切ノ権利ヲ移転ス
裏書ガ白地式ナルトキハ所持人ハ
一 自己ノ名称又ハ他人ノ名称ヲ以テ白地ヲ補充スルコトヲ得
二 白地式ニ依リ又ハ他人ヲ表示シテ更ニ小切手ヲ裏書スルコトヲ得
三 白地ヲ補充セズ且裏書ヲ為サズシテ小切手ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得
第十八条 裏書人ハ反対ノ文言ナキ限リ支払ヲ担保ス
裏書人ハ新ナル裏書ヲ禁ズルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ裏書人ハ小切手ノ爾後ノ被裏書人ニ対シ担保ノ責ヲ負フコトナシ
第十九条 裏書シ得ベキ小切手ノ占有者ガ裏書ノ連続ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ適法ノ所持人ト看做ス最後ノ裏書ガ白地式ナル場合ト雖モ亦同ジ抹消シタル裏書ハ此ノ関係ニ於テハ之ヲ記載セザルモノト看做ス白地式裏書ニ次デ他ノ裏書アルトキハ其ノ裏書ヲ為シタル者ハ白地式裏書ニ因リテ小切手ヲ取得シタルモノト看做ス
第二十条 持参人払式小切手ニ裏書ヲ為シタルトキハ裏書人ハ遡求ニ関スル規定ニ従ヒ責任ヲ負フ但シ之ガ為証券ハ指図式小切手ニ変ズルコトナシ
第二十一条 事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二条 小切手ニ依リ請求ヲ受ケタル者ハ振出人其ノ他所持人ノ前者ニ対スル人的関係ニ基ク抗弁ヲ以テ所持人ニ対抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ其ノ債務者ヲ害スルコトヲ知リテ小切手ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十三条 裏書ニ「回収ノ為」、「取立ノ為」、「代理ノ為」其ノ他単ナル委任ヲ示ス文言アルトキハ所持人ハ小切手ヨリ生ズル一切ノ権利ヲ行使スルコトヲ得但シ所持人ハ代理ノ為ノ裏書ノミヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ債務者ガ所持人ニ対抗スルコトヲ得ル抗弁ハ裏書人ニ対抗スルコトヲ得ベカリシモノニ限ル
代理ノ為ノ裏書ニ依ル委任ハ委任者ノ死亡又ハ其ノ者ガ無能力ト為リタルコトニ因リ終了セズ
第二十四条 拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成後ノ裏書又ハ呈示期間経過後ノ裏書ハ指名債権ノ譲渡ノ効力ノミヲ有ス
日附ノ記載ナキ裏書ハ拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成前又ハ呈示期間経過前ニ之ヲ為シタルモノト推定ス
第三章 保証
第二十五条 小切手ノ支払ハ其ノ金額ノ全部又ハ一部ニ付保証ニ依リ之ヲ担保スルコトヲ得
支払人ヲ除クノ外第三者ハ前項ノ保証ヲ為スコトヲ得小切手ニ署名シタル者ト雖モ亦同ジ
第二十六条 保証ハ小切手又ハ補箋ニ之ヲ為スベシ
保証ハ「保証」其ノ他之ト同一ノ意義ヲ有スル文字ヲ以テ表示シ保証人署名スベシ
小切手ノ表面ニ為シタル単ナル署名ハ之ヲ保証ト看做ス但シ振出人ノ署名ハ此ノ限ニ在ラズ
保証ニハ何人ノ為ニ之ヲ為スカヲ表示スルコトヲ要ス其ノ表示ナキトキハ振出人ノ為ニ之ヲ為シタルモノト看做ス
第二十七条 保証人ハ保証セラレタル者ト同一ノ責任ヲ負フ
保証ハ其ノ担保シタル債務ガ方式ノ瑕疵ヲ除キ他ノ如何ナル事由ニ因リテ無効ナルトキト雖モ之ヲ有効トス
保証人ガ小切手ノ支払ヲ為シタルトキハ保証セラレタル者及其ノ者ノ小切手上ノ債務者ニ対シ小切手ヨリ生ズル権利ヲ取得ス
第四章 呈示及支払
第二十八条 小切手ハ一覧払ノモノトス之ニ反スル一切ノ記載ハ之ヲ為サザルモノト看做ス
振出ノ日附トシテ記載シタル日ヨリ前ニ支払ノ為呈示シタル小切手ハ呈示ノ日ニ於テ之ヲ支払フベキモノトス
第二十九条 国内ニ於テ振出シ且支払フベキ小切手ハ十日内ニ支払ノ為之ヲ呈示スルコトヲ要ス
支払ヲ為スベキ国ト異ル国ニ於テ振出シタル小切手ハ振出地及支払地ガ同一洲ニ存スルトキハ二十日内又異ル洲ニ存スルトキハ七十日内ニ之ヲ呈示スルコトヲ要ス
前項ニ関シテハ欧羅巴洲ノ一国ニ於テ振出シ地中海沿岸ノ一国ニ於テ支払フベキ小切手又ハ地中海沿岸ノ一国ニ於テ振出シ欧羅巴洲ノ一国ニ於テ支払フベキ小切手ハ同一洲内ニ於テ振出シ且支払フベキモノト看做ス
本条ニ掲グル期間ノ起算日ハ小切手ニ振出ノ日附トシテ記載シタル日トス
第三十条 小切手ガ暦ヲ異ニスル二地ノ間ニ振出シタルモノナルトキハ振出ノ日ヲ支払地ノ暦ノ応当日ニ換フ
第三十一条 手形交換所ニ於ケル小切手ノ呈示ハ支払ノ為ノ呈示タル効力ヲ有ス
第三十二条 小切手ノ支払委託ノ取消ハ呈示期間経過後ニ於テノミ其ノ効力ヲ生ズ
支払委託ノ取消ナキトキハ支払人ハ期間経過後ト雖モ支払ヲ為スコトヲ得
第三十三条 振出ノ後振出人ガ死亡シ又ハ能力ヲ失フモ小切手ノ効力ニ影響ヲ及ボスコトナシ
第三十四条 小切手ノ支払人ハ支払ヲ為スニ当リ所持人ニ対シ小切手ニ受取ヲ証スル記載ヲ為シテ之ヲ交付スベキコトヲ請求スルコトヲ得
所持人ハ一部支払ヲ拒ムコトヲ得ズ
一部支払ノ場合ニ於テハ支払人ハ其ノ支払アリタル旨ノ小切手上ノ記載及受取証書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十五条 裏書シ得ベキ小切手ノ支払ヲ為ス支払人ハ裏書ノ連続ノ整否ヲ調査スル義務アルモ裏書人ノ署名ヲ調査スル義務ナシ
第三十六条 支払地ノ通貨ニ非ザル通貨ヲ以テ支払フベキ旨ヲ記載シタル小切手ニ付テハ其ノ呈示期間内ハ支払ノ日ニ於ケル価格ニ依リ其ノ国ノ通貨ヲ以テ支払ヲ為スコトヲ得呈示ヲ為スモ支払ナカリシトキハ所持人ハ其ノ選択ニ依リ呈示ノ日又ハ支払ノ日ノ相場ニ従ヒ其ノ国ノ通貨ヲ以テ小切手ノ金額ヲ支払フベキコトヲ請求スルコトヲ得
外国通貨ノ価格ハ支払地ノ慣習ニ依リ之ヲ定ム但シ振出人ハ小切手ニ定メタル換算率ニ依リ支払金額ヲ計算スベキ旨ヲ記載スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ振出人ガ特種ノ通貨ヲ以テ支払フベキ旨(外国通貨現実支払文句)ヲ記載シタル場合ニハ之ヲ適用セズ
振出国ト支払国トニ於テ同名異価ヲ有スル通貨ニ依リ小切手ノ金額ヲ定メタルトキハ支払地ノ通貨ニ依リテ之ヲ定メタルモノト推定ス
第五章 線引小切手
第三十七条 小切手ノ振出人又ハ所持人ハ小切手ニ線引ヲ為スコトヲ得線引ハ次条ニ定ムル効力ヲ有ス
線引ハ小切手ノ表面ニ二条ノ平行線ヲ引キテ之ヲ為スベシ線引ハ一般又ハ特定タルコトヲ得
二条ノ線内ニ何等ノ指定ヲ為サザルカ又ハ「銀行」若ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文字ヲ記載シタルトキハ線引ハ之ヲ一般トス二条ノ線内ニ銀行ノ名称ヲ記載シタルトキハ線引ハ之ヲ特定トス
一般線引ハ之ヲ特定線引ニ変更スルコトヲ得ルモ特定線引ハ之ヲ一般線引ニ変更スルコトヲ得ズ
線引又ハ被指定銀行ノ名称ノ抹消ハ之ヲ為サザルモノト看做ス
第三十八条 一般線引小切手ハ支払人ニ於テ銀行ニ対シ又ハ支払人ノ取引先ニ対シテノミ之ヲ支払フコトヲ得
特定線引小切手ハ支払人ニ於テ被指定銀行ニ対シテノミ又被指定銀行ガ支払人ナルトキハ自己ノ取引先ニ対シテノミ之ヲ支払フコトヲ得但シ被指定銀行ハ他ノ銀行ヲシテ小切手ノ取立ヲ為サシムルコトヲ得
銀行ハ自己ノ取引先又ハ他ノ銀行ヨリノミ線引小切手ヲ取得スルコトヲ得銀行ハ此等ノ者以外ノ者ノ為ニ線引小切手ノ取立ヲ為スコトヲ得ズ
数箇ノ特定線引アル小切手ハ支払人ニ於テ之ヲ支払フコトヲ得ズ但シ二箇ノ線引アル場合ニ於テ其ノ一ガ手形交換所ニ於ケル取立ノ為ニ為サレタルモノナルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前四項ノ規定ヲ遵守セザル支払人又ハ銀行ハ之ガ為ニ生ジタル損害ニ付小切手ノ金額ニ達スル迄賠償ノ責ニ任ズ
第六章 支払拒絶ニ因ル遡求
第三十九条 適法ノ時期ニ呈示シタル小切手ノ支払ナキ場合ニ於テ左ノ何レカニ依リ支払拒絶ヲ証明スルトキハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対シ其ノ遡求権ヲ行フコトヲ得
一 公正証書(拒絶証書)
二 小切手ニ呈示ノ日ヲ表示シテ記載シ且日附ヲ附シタル支払人ノ宣言
三 適法ノ時期ニ小切手ヲ呈示シタルモ其ノ支払ナカリシ旨ヲ証明シ且日附ヲ附シタル手形交換所ノ宣言
第四十条 拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ハ呈示期間経過前ニ之ヲ作ラシムルコトヲ要ス
期間ノ末日ニ呈示アリタルトキハ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ハ之ニ次グ第一ノ取引日ニ之ヲ作ラシムルコトヲ得
第四十一条 所持人ハ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成ノ日ニ次グ又ハ無費用償還文句アル場合ニ於テハ呈示ノ日ニ次グ四取引日内ニ自己ノ裏書人及振出人ニ対シ支払拒絶アリタルコトヲ通知スルコトヲ要ス各裏書人ハ通知ヲ受ケタル日ニ次グ二取引日内ニ前ノ通知者全員ノ名称及宛所ヲ示シテ自己ノ受ケタル通知ヲ自己ノ裏書人ニ通知シ順次振出人ニ及ブモノトス此ノ期間ハ各其ノ通知ヲ受ケタル時ヨリ進行ス
前項ノ規定ニ従ヒ小切手ノ署名者ニ通知ヲ為ストキハ同一期間内ニ其ノ保証人ニ同一ノ通知ヲ為スコトヲ要ス
裏書人ガ其ノ宛所ヲ記載セズ又ハ其ノ記載ガ読ミ難キ場合ニ於テハ其ノ裏書人ノ直接ノ前者ニ通知スルヲ以テ足ル
通知ヲ為スベキ者ハ如何ナル方法ニ依リテモ之ヲ為スコトヲ得単ニ小切手ヲ返付スルニ依リテモ亦之ヲ為スコトヲ得
通知ヲ為スベキ者ハ適法ノ期間内ニ通知ヲ為シタルコトヲ証明スルコトヲ要ス此ノ期間内ニ通知ヲ為ス書面ヲ郵便ニ付シタル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ遵守シタルモノト看做ス
前項ノ期間内ニ通知ヲ為サザル者ハ其ノ権利ヲ失フコトナシ但シ過失ニ因リテ生ジタル損害アルトキハ小切手ノ金額ヲ超エザル範囲内ニ於テ其ノ賠償ノ責ニ任ズ
第四十二条 振出人、裏書人又ハ保証人ハ証券ニ記載シ且署名シタル「無費用償還」、「拒絶証書不要」ノ文句其ノ他之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ニ依リ所持人ニ対シ其ノ遡求権ヲ行フ為ノ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成ヲ免除スルコトヲ得
前項ノ文言ハ所持人ニ対シ法定期間内ニ於ケル小切手ノ呈示及通知ノ義務ヲ免除スルコトナシ期間ノ不遵守ハ所持人ニ対シ之ヲ援用スル者ニ於テ其ノ証明ヲ為スコトヲ要ス
振出人ガ第一項ノ文言ヲ記載シタルトキハ一切ノ署名者ニ対シ其ノ効力ヲ生ズ裏書人又ハ保証人ガ之ヲ記載シタルトキハ其ノ裏書人又ハ保証人ニ対シテノミ其ノ効力ヲ生ズ振出人ガ此ノ文言ヲ記載シタルニ拘ラズ所持人ガ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ヲ作ラシメタルトキハ其ノ費用ハ所持人之ヲ負担ス裏書人又ハ保証人ガ此ノ文言ヲ記載シタル場合ニ於テ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成アリタルトキハ一切ノ署名者ヲシテ其ノ費用ヲ償還セシムルコトヲ得
第四十三条 小切手上ノ各債務者ハ所持人ニ対シ合同シテ其ノ責ニ任ズ
所持人ハ前項ノ債務者ニ対シ其ノ債務ヲ負ヒタル順序ニ拘ラズ各別又ハ共同ニ請求ヲ為スコトヲ得
小切手ノ署名者ニシテ之ヲ受戻シタルモノモ同一ノ権利ヲ有ス
債務者ノ一人ニ対スル請求ハ他ノ債務者ニ対スル請求ヲ妨ゲズ既ニ請求ヲ受ケタル者ノ後者ニ対シテモ亦同ジ
第四十四条 所持人ハ遡求ヲ受クル者ニ対シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
一 支払アラザリシ小切手ノ金額
二 年六分ノ率ニ依ル呈示ノ日以後ノ利息
三 拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ費用、通知ノ費用及其ノ他ノ費用
第四十五条 小切手ヲ受戻シタル者ハ其ノ前者ニ対シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
一 其ノ支払ヒタル総金額
二 前号ノ金額ニ対シ年六分ノ率ニ依リ計算シタル支払ノ日以後ノ利息
三 其ノ支出シタル費用
第四十六条 遡求ヲ受ケタル又ハ受クベキ債務者ハ支払ト引換ニ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言、受取ヲ証スル記載ヲ為シタル計算書及小切手ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
小切手ヲ受戻シタル裏書人ハ自己及後者ノ裏書ヲ抹消スルコトヲ得
第四十七条 法定ノ期間内ニ於ケル小切手ノ呈示又ハ拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成ガ避クベカラザル障碍(国ノ法令ニ依ル禁制其ノ他ノ不可抗力)ニ因リテ妨ゲラレタルトキハ其ノ期間ヲ伸長ス
所持人ハ自己ノ裏書人ニ対シ遅滞ナク其ノ不可抗力ヲ通知シ且小切手又ハ補箋ニ其ノ通知ヲ記載シ日附ヲ附シテ之ニ署名スルコトヲ要ス其ノ他ニ付テハ第四十一条ノ規定ヲ準用ス
不可抗力ガ止ミタルトキハ所持人ハ遅滞ナク支払ノ為小切手ヲ呈示シ且必要アルトキハ拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ヲ作ラシムルコトヲ要ス
不可抗力ガ所持人ニ於テ其ノ裏書人ニ不可抗力ノ通知ヲ為シタル日ヨリ十五日ヲ超エテ継続スルトキハ呈示期間経過前ニ其ノ通知ヲ為シタル場合ト雖モ呈示又ハ拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ヲ要セズシテ遡求権ヲ行フコトヲ得
所持人又ハ所持人ガ小切手ノ呈示又ハ拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成ヲ委任シタル者ニ付テノ単純ナル人的事由ハ不可抗力ヲ構成スルモノト認メズ
第七章 複本
第四十八条 一国ニ於テ振出シ他ノ国ニ於テ若ハ振出国ノ海外領土ニ於テ支払フベキ小切手、一国ノ海外領土ニ於テ振出シ其ノ国ニ於テ支払フベキ小切手、一国ノ同一海外領土ニ於テ振出シ且支払フベキ小切手又ハ一国ノ一海外領土ニ於テ振出シ其ノ国ノ他ノ海外領土ニ於テ支払フベキ小切手ハ持参人払ノモノヲ除クノ外同一内容ノ数通ヲ以テ之ヲ振出スコトヲ得数通ヲ以テ小切手ヲ振出シタルトキハ其ノ証券ノ文言中ニ番号ヲ附スルコトヲ要ス之ヲ欠クトキハ各通ハ之ヲ各別ノ小切手ト看做ス
第四十九条 複本ノ一通ノ支払ハ其ノ支払ガ他ノ複本ヲ無効ナラシムル旨ノ記載ナキトキト雖モ義務ヲ免レシム
数人ニ各別ニ複本ヲ譲渡シタル裏書人及其ノ後ノ裏書人ハ其ノ署名アル各通ニシテ返還ヲ受ケザルモノニ付責任ヲ負フ
第八章 変造
第五十条 小切手ノ文言ノ変造ノ場合ニ於テハ其ノ変造後ノ署名者ハ変造シタル文言ニ従ヒテ責任ヲ負ヒ変造前ノ署名者ハ原文言ニ従ヒテ責任ヲ負フ
第九章 時効
第五十一条 所持人ノ裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対スル遡求権ハ呈示期間経過後六月ヲ以テ時効ニ罹ル
小切手ノ支払ヲ為スベキ債務者ノ他ノ債務者ニ対スル遡求権ハ其ノ債務者ガ小切手ノ受戻ヲ為シタル日又ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケタル日ヨリ六月ヲ以テ時効ニ罹ル
第五十二条 時効ノ中断ハ其ノ中断ノ事由ガ生ジタル者ニ対シテノミ其ノ効力ヲ生ズ
第十章 支払保証
第五十三条 支払人ハ小切手ニ支払保証ヲ為スコトヲ得
支払保証ハ小切手ノ表面ニ「支払保証」其ノ他支払ヲ為ス旨ノ文字ヲ以テ表示シ日附ヲ附シテ支払人署名スベシ
第五十四条 支払保証ハ単純ナルコトヲ要ス
支払保証ニ依リ小切手ノ記載事項ニ加ヘタル変更ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
第五十五条 支払保証ヲ為シタル支払人ハ呈示期間ノ経過前ニ小切手ノ呈示アリタル場合ニ於テノミ其ノ支払ヲ為ス義務ヲ負フ
支払ナキ場合ニ於テ前項ノ呈示アリタルコトハ第三十九条ノ規定ニ依リ之ヲ証明スルコトヲ要ス
第四十四条及第四十五条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十六条 支払保証ニ因リ振出人其ノ他ノ小切手上ノ債務者ハ其ノ責ヲ免ルルコトナシ
第五十七条 第四十七条ノ規定ハ支払保証ヲ為シタル支払人ニ対スル権利ノ行使ニ付之ヲ準用ス
第五十八条 支払保証ヲ為シタル支払人ニ対スル小切手上ノ請求権ハ呈示期間経過後一年ヲ以テ時効ニ罹ル
第十一章 通則
第五十九条 本法ニ於テ「銀行」ナル文字ハ法令ニ依リテ銀行ト同視セラルル人又ハ施設ヲ含ム
第六十条 小切手ノ呈示及拒絶証書ノ作成ハ取引日ニ於テノミ之ヲ為スコトヲ得
小切手ニ関スル行為ヲ為ス為殊ニ呈示又ハ拒絶証書若ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ノ作成ノ為法令ニ規定シタル期間ノ末日ガ法定ノ休日ニ当ル場合ニ於テハ期間ハ其ノ満了ニ次グ第一ノ取引日迄之ヲ伸長ス期間中ノ休日ハ之ヲ期間ニ算入ス
第六十一条 本法ニ規定スル期間ニハ其ノ初日ヲ算入セズ
第六十二条 恩恵日ハ法律上ノモノタルト裁判上ノモノタルトヲ問ハズ之ヲ認メズ
附 則
第六十三条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十四条 
商法第四編第四章ハ之ヲ削除ス
第六十五条 本法施行前ニ振出シタル小切手ニ付テハ仍従前ノ規定ニ依ル
第六十六条 本法施行後六月内ニ日本ニ於テ振出ス小切手ハ振出地ノ記載ヲ欠クトキト雖モ小切手タル効力ヲ有ス
第六十七条 本法ニ於テ署名トアルハ記名捺印ヲ含ム
第六十八条 朝鮮、台湾、樺太、関東州、南洋群島又ハ勅令ヲ以テ指定スル亜細亜洲ノ地域ニ於テ振出シ日本内地ニ於テ支払フベキ小切手ノ呈示期間ハ勅令ヲ以テ之ヲ伸長スルコトヲ得
第六十九条 第三十一条ノ手形交換所ハ司法大臣之ヲ指定ス
第七十条 拒絶証書ノ作成ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十一条 小切手ノ振出人ガ第三条ノ規定ニ違反シタルトキハ五千円以下ノ過料ニ処ス
第七十二条 小切手ヨリ生ジタル権利ガ手続ノ欠欠又ハ時効ニ因リテ消滅シタルトキト雖モ所持人ハ振出人、裏書人又ハ支払保証ヲ為シタル支払人ニ対シ其ノ受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ノ請求ヲ為スコトヲ得
第七十三条 裏書人ノ他ノ裏書人及振出人ニ対スル小切手上ノ請求権ノ消滅時効ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケタル場合ニ在リテハ前者ニ対シ訴訟告知ヲ為スニ因リテ中断ス
前項ノ規定ニ因リテ中断シタル時効ハ裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其ノ進行ヲ始ム
第七十四条 振出人又ハ所持人ガ証券ノ表面ニ「計算ノ為」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シテ現金ノ支払ヲ禁ジタル小切手ニシテ外国ニ於テ振出シ日本ニ於テ支払フベキモノハ一般線引小切手タル効力ヲ有ス
第七十五条 本法ニ於テ休日トハ祭日、祝日、日曜日其ノ他ノ一般ノ休日ヲ謂フ
第七十六条 小切手ニ依リ義務ヲ負フ者ノ能力ハ其ノ本国法ニ依リ之ヲ定ム其ノ国ノ法律ガ他国ノ法律ニ依ルコトヲ定ムルトキハ其ノ他国ノ法律ヲ適用ス
前項ニ掲グル法律ニ依リ能力ヲ有セザル者ト雖モ他ノ国ノ領域ニ於テ署名ヲ為シ其ノ国ノ法律ニ依レバ能力ヲ有スベキトキハ責任ヲ負フ
第七十七条 小切手ノ支払人タルコトヲ得ル者ハ支払地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
支払地ノ属スル国ノ法律ニ依リ支払人タルコトヲ得ザル者ヲ支払人トシタル為小切手ガ無効ナルトキト雖モ之ト同一ノ規定ナキ他ノ国ニ於テ其ノ小切手ニ為シタル署名ヨリ生ズル債務ハ之ガ為其ノ効力ヲ妨ゲラルルコトナシ
第七十八条 小切手上ノ行為ノ方式ハ署名ヲ為シタル地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム但シ支払地ノ属スル国ノ法律ノ規定スル方式ニ依ルヲ以テ足ル
小切手上ノ行為ガ前項ノ規定ニ依リ有効ナラザル場合ト雖モ後ノ行為ヲ為シタル地ノ属スル国ノ法律ニ依レバ適式ナルトキハ後ノ行為ハ前ノ行為ガ不適式ナルコトニ因リ其ノ効力ヲ妨ゲラルルコトナシ
日本人ガ外国ニ於テ為シタル小切手上ノ行為ハ其ノ行為ガ日本ノ法律ニ規定スル方式ニ適合スル限リ他ノ日本人ニ対シ其ノ効力ヲ有ス
第七十九条 小切手ヨリ生ズル義務ノ効力ハ署名ヲ為シタル地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム但シ遡求権ヲ行使スル期間ハ一切ノ署名者ニ付証券ノ振出地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
第八十条 左ノ事項ハ小切手ノ支払地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
一 小切手ハ一覧払タルコトヲ要スルヤ否ヤ、一覧後定期払トシテ振出シ得ルヤ否ヤ及先日附小切手ノ効力
二 呈示期間
三 小切手ニ引受、支払保証、確認又ハ査証ヲ為シ得ルヤ否ヤ及此等ノ記載ノ効力
四 所持人ハ一部支払ヲ請求シ得ルヤ否ヤ及一部支払ヲ受諾スル義務アリヤ否ヤ
五 小切手ニ線引ヲ為シ得ルヤ否ヤ、小切手ニ「計算ノ為」ノ文字又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記載シ得ルヤ否ヤ及線引又ハ「計算ノ為」ノ文字若ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ノ記載ノ効力
六 所持人ハ資金ニ対シ特別ノ権利ヲ有スルヤ否ヤ及此ノ権利ノ性質
七 振出人ハ小切手ノ支払ノ委託ヲ取消シ又ハ支払差止ノ手続ヲ為シ得ルヤ否ヤ
八 小切手ノ喪失又ハ盗難ノ場合ニ為スベキ手続
九 裏書人、振出人其ノ他ノ債務者ニ対スル遡求権保全ノ為拒絶証書又ハ之ト同一ノ効力ヲ有スル宣言ヲ必要トスルヤ否ヤ
第八十一条 拒絶証書ノ方式及作成期間其ノ他小切手上ノ権利ノ行使又ハ保存ニ必要ナル行為ノ方式ハ拒絶証書ヲ作ルベキ地又ハ其ノ行為ヲ為スベキ地ノ属スル国ノ法律ニ依リ之ヲ定ム