弁護士法
法令番号: 法律第五十三號
公布年月日: 昭和8年5月1日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル辯護士法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年四月二十八日
內閣總理大臣 子爵 齋藤實
司法大臣 小山松吉
法律第五十三號
辯護士法
第一章 辯護士ノ職務及資格
第一條 辯護士ハ當事者其ノ他ノ關係人ノ委囑又ハ官廳ノ選任ニ因リ訴訟ニ關スル行爲其ノ他一般ノ法律事務ヲ行フコトヲ職務トス
第二條 左ノ條件ヲ具フル者ハ辯護士タル資格ヲ有ス
一 帝國臣民ニシテ成年者タルコト
二 辯護士試補トシテ一年六月以上ノ實務修習ヲ了ヘ考試ヲ經タルコト
前項第二號ノ實務修習及考試ニ關スル事項ハ司法大臣之ヲ定ム
第三條 辯護士試補タルニハ成規ノ試驗ニ合格スルコトヲ要ス
前項ノ試驗ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條 左ニ揭グル者ハ前二條ノ規定ニ拘ラズ辯護士タル資格ヲ有ス
一 判事又ハ檢事タル資格ヲ有スル者
二 三年以上專任行政裁判所長官又ハ專任行政裁判所評定官タリシ者
三 三年以上陸軍法務官又ハ海軍法務官タリシ者
第五條 左ニ揭グル者ハ辯護士タル資格ヲ有セズ
一 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
二 懲戒ノ處分ニ因リ免官若ハ免職セラレタル者、本法ニ依リ除名セラレタル者又ハ辨理士法若ハ計理士法ニ依リ業務ヲ禁止セラレタル者ニシテ免官、免職、除名又ハ業務禁止後二年ヲ經過セザル者
三 禁治產者又ハ準禁治產者
四 破產者ニシテ復權ヲ得ザル者
第六條 外國ノ辯護士タル資格ヲ有スル外國人ハ相互ノ保證アルトキニ限リ司法大臣ノ認可ヲ受ケ外國人又ハ外國法ニ關シ第一條ニ規定スル事項ヲ行フコトヲ得但シ前條ニ揭グル者ハ此ノ限ニ在ラズ
第十八條第二項、第二十條及第二十三條乃至第二十六條ノ規定ハ前項ノ認可ヲ受ケタル者ニ之ヲ準用ス
司法大臣必要ト認ムルトキハ第一項ノ認可ヲ取消スコトヲ得
第二章 辯護士名簿
第七條 辯護士タルニハ辯護士名簿ニ登錄セラルルコトヲ要ス
第八條 辯護士名簿ハ之ヲ司法省ニ備フ
第九條 辯護士タラントスル者ハ其ノ入會セントスル辯護士會ヲ經由シテ司法大臣ニ登錄ノ請求ヲ爲スベシ
第十條 辯護士辯護士會ノ所屬ヲ變更セントスルトキハ新ニ入會セントスル辯護士會ヲ經由シテ司法大臣ニ登錄換ノ請求ヲ爲スベシ
前項ノ登錄換アリタルトキハ辯護士ハ直ニ舊所屬辯護士會ニ之ヲ屆出ヅベシ
第十一條 辯護士所屬辯護士會ヲ退會セントスルトキハ其ノ辯護士會ヲ經由シテ司法大臣ニ登錄取消ノ請求ヲ爲スベシ
第十二條 辯護士會ハ會ノ秩序又ハ信用ヲ害スル虞アル者ノ登錄若ハ登錄換ノ請求ノ進達ヲ拒絕シ又ハ退會ヲ命ズルコトヲ得
第十三條 前條ノ規定ニ依リ登錄若ハ登錄換ノ進達ヲ拒絕セラレ又ハ退會セシメラレタル者ハ司法大臣ニ不服ノ申立ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ司法大臣ハ審查委員會ニ諮問シテ登錄若ハ登錄換ノ請求ノ進達ヲ命ジ又ハ退會ノ命ヲ取消スコトヲ得
第十四條 審查委員會ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十五條 左ノ場合ニ於テハ司法大臣ハ辯護士名簿ノ登錄ヲ取消スベシ
一 辯護士國籍ヲ喪失シタルトキ
二 辯護士第五條各號ノ一ニ該當スルニ至リタルトキ
三 第十一條ノ規定ニ依リ登錄取消ノ請求アリタルトキ
四 辯護士退會セシメラレ又ハ除名セラレタルトキ
五 辯護士死亡シタルトキ
六 總會ノ決議ニ因リ辯護士會解散シタルトキ
第十六條 辯護士名簿ノ登錄、登錄換及登錄取消ハ司法大臣之ヲ其ノ辯護士所屬ノ辯護士會ニ通知スベシ
第十七條 登錄ニ關スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三章 辯護士ノ權利及義務
第十八條 辯護士ノ事務所ハ所屬辯護士會ノ地域內ニ之ヲ設クベシ
辯護士ハ如何ナル名義ヲ以テスルモ二個以上ノ事務所ヲ設クルコトヲ得ズ但シ他ノ辯護士事務所ニ於テ執務スルコトヲ妨ゲズ
第十九條 辯護士事務所ヲ設ケタルトキハ直ニ之ヲ司法大臣及所屬辯護士會ニ屆出ヅベシ事務所ヲ移轉シタルトキ亦同ジ
第二十條 辯護士ハ誠實ニ其ノ職務ヲ行ヒ職務ノ內外ヲ問ハズ其ノ品位ヲ保持スベシ
第二十一條 辯護士又ハ辯護士タリシ者ハ其ノ職務上知得シタル祕密ヲ保持スル權利ヲ有シ義務ヲ負フ但シ他ノ法令ニ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二條 辯護士ハ所屬辯護士會ノ會則ヲ遵守スベシ
第二十三條 辯護士ハ正當ノ理由アルニ非ザレバ法令ニ依リ官廳ノ命ジタル事項及會則ノ定ムル所ニ依リ所屬辯護士會ノ指定シタル事項ヲ行フコトヲ辭スルコトヲ得ズ
第二十四條 辯護士ハ左ニ揭グル事件ニ付其ノ職務ヲ行フコトヲ得ズ
一 相手方ノ協議ヲ受ケテ贊助ヲ爲シ又ハ其ノ委囑ヲ承諾シタル事件
二 相手方ノ協議ヲ受ケタル事件ニシテ其ノ協議ノ程度及方法ガ信賴關係ニ基クモノト認メラルルモノ
三 公務員トシテ職務上取扱ヒタル事件
四 仲裁手續ニ依リ仲裁人トシテ取扱ヒタル事件
第二十五條 辯護士ハ係爭權利ヲ讓受クルコトヲ得ズ
第二十六條 辯護士ハ事件ノ委囑ヲ承諾セザルトキハ速ニ其ノ旨ヲ委囑者ニ通吿スベシ若通吿ヲ怠リタルトキハ之ガ爲生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ
第二十七條 辯護士ハ報酬アル公務ヲ兼ヌルコトヲ得ズ但シ帝國議會若ハ地方議會ノ議員ト爲リ又ハ官署若ハ公署ヨリ特ニ命ゼラレ若ハ囑託セラレタル職務ヲ行フハ此ノ限ニ在ラズ
辯護士ハ所屬辯護士會ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ商業其ノ他營利ヲ目的トスル業務ヲ營ミ若ハ之ヲ營ム者ノ使用人ト爲リ又ハ營利ヲ目的トスル法人ノ業務執行社員、取締役若ハ使用人ト爲ルコトヲ得ズ
第二十八條 前條ノ規定ハ實務修習中ノ辯護士試補ニ之ヲ準用ス
第四章 辯護士會
第二十九條 辯護士會ハ法人トス
辯護士會ハ辯護士ノ品位ノ保持及辯護士事務ノ改善進步ヲ圖ルヲ以テ目的トス
第三十條 辯護士會ハ地方裁判所ノ管轄區域每ニ之ヲ設立スベシ但シ辯護士會ニ屬スル辯護士三百名以上アル場合ニ於テ其ノ中百名以上ノ者ハ同一地方裁判所ノ管轄區域內ニ別ニ辯護士會ヲ設立スルコトヲ得
第三十一條 辯護士會ヲ設立セントスルトキハ會員ト爲ルベキ辯護士ハ會則ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
辯護士會ノ設立アリタルトキハ前項ノ辯護士ハ當然舊所屬辯護士會ヲ退會シ其ノ會員ト爲ルモノトス
第十條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
辯護士會會則ヲ變更セントスルトキハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
第三十二條 司法大臣辯護士會ノ設立ヲ認可シタルトキハ辯護士會ノ名稱、事務所ノ所在地及設立ノ年月日ヲ吿示スベシ
司法大臣辯護士會ノ名稱又ハ事務所ノ所在地ノ變更ヲ認可シタルトキハ變更ノ吿示ヲ爲スベシ
第三十三條 辯護士會ノ代表者ハ一人トス但シ代表者差支アル場合ニ於テ之ニ代リテ辯護士會ヲ代表スベキ者ヲ置クコトヲ妨ゲズ
第三十四條 辯護士會ハ司法大臣ノ監督ヲ受ク
第三十五條 第三十一條ニ規定スル場合ヲ除クノ外辯護士名簿ニ登錄又ハ登錄換ヲ受ケタル者ハ當然其ノ入會セントスル辯護士會ノ會員ト爲リ登錄換ヲ爲ス場合ニハ舊所屬辯護士會ヲ退會スルモノトス
第三十六條 辯護士第十一條ノ規定ニ依ル請求ニ因リテ登錄ヲ取消サレタルトキハ當然所屬辯護士會ヲ退會シタルモノトス
第三十七條 辯護士會ハ辯護士試補ノ實務修習ヲ擔當ス但シ司法大臣別段ノ規定ヲ設ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三十八條 辯護士會ハ官廳ヨリ諮問ヲ受ケタル事項ニ付答申ヲ爲スベシ
辯護士會ハ司法事務ニ關シ官廳ニ建議ヲ爲スコトヲ得辯護士ノ利害ニ關スル事項ニ付亦同ジ
第三十九條 辯護士會會則ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ
一 名稱及事務所ノ所在地
二 會ノ代表者其ノ他ノ機關ノ組織及職務權限ニ關スル規定
三 會議ニ關スル規定
四 辯護士試補ノ實務修習ニ關スル規定
五 辯護士ノ報酬ニ關シ標準ヲ示ス規定
六 會員ノ風紀保持ニ關スル規定
七 無資力者ノ爲ニスル法律相談及訴訟扶助ニ關スル規定
八 答申及建議ノ決議ニ關スル規定
九 會員ト委囑者トノ間ニ於ケル紛議ノ調停ニ關スル規定
十 辯護士名簿ノ登錄及登錄換ノ請求ノ進達ニ關スル規定
十一 入會及退會ニ關スル規定
十二 懲戒ノ申吿ニ關スル規定
十三 會費ノ徵收ニ關スル規定
十四 資產ニ關スル規定
第四十條 辯護士會ハ每年定期總會ヲ開ク
辯護士會ハ必要アル場合ニ於テ臨時總會ヲ開クコトヲ得
第四十一條 辯護士會ハ總會ノ日時、場所及議題竝ニ役員選擧ノ日時及場所ヲ豫メ司法大臣ニ申吿スベシ
第四十二條 司法大臣ハ辯護士會ノ總會又ハ役員選擧ノ場所ニ臨席シ又ハ所部ノ官吏ヲシテ臨席セシムルコトヲ得
第四十三條 辯護士會ハ遲滯ナク總會ノ決議竝ニ役員ノ就任及退任ヲ司法大臣ニ申吿スベシ
第四十四條 左ノ事項ハ總會ノ決議ヲ經ベシ
一 會則ノ變更
二 豫算及決算
第四十五條 辯護士會ノ會議法令若ハ會則ニ違反シ又ハ公益ヲ害スルトキハ司法大臣ハ其ノ決議ヲ取消シ、其ノ議事ヲ停止スルコトヲ得
第四十六條 辯護士會ハ辯護士ト委囑者トノ間ニ紛議ヲ生ジタルトキハ當事者ノ請求ニ因リ其ノ調停ヲ爲スコトヲ得
第四十七條 辯護士會ハ司法大臣ノ認可ヲ受ケ同一地方裁判所ノ管轄區域內ニ於ケル他ノ辯護士會ト合併スルコトヲ得
辯護士會合併シタルトキハ合併ニ因リテ解散シタル辯護士會所屬ノ辯護士ハ當然舊所屬辯護士會ヲ退會シ合併後存續シ又ハ合併ニ因リテ設立シタル辯護士會ノ會員ト爲ルモノトス
第十條第一項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四十八條 司法大臣辯護士會ノ合併ヲ認可シタルトキハ合併後存續スル辯護士會ニ付テハ變更ノ吿示ヲ爲シ、合併ニ因リテ解散シタル辯護士會ニ付テハ解散ノ吿示ヲ爲シ、合併ニ因リテ設立シタル辯護士會ニ付テハ第三十二條第一項ニ規定スル吿示ヲ爲スベシ
第四十九條 辯護士會合併ヲ爲サントスルトキハ其ノ債權者ニ對シ異議アラバ一月ヲ下ラザル期間內ニ之ヲ述ブベキ旨ヲ催吿スベシ
債權者ガ前項ノ期間內ニ異議ヲ述ベタルトキハ辯護士會ハ之ニ辨濟ヲ爲シ又ハ相當ノ擔保ヲ供スルニ非ザレバ合併ヲ爲スコトヲ得ズ
合併ニ因リテ解散シタル辯護士會ニ屬スル權利義務ハ合併後存續シ又ハ合併ニ因リテ設立シタル辯護士會之ヲ承繼ス
第五十條 辯護士會ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 總會ノ決議
二 合併
前項第一號ノ總會ノ決議ハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
民法第七十三條乃至第七十六條、第七十八條乃至第八十條、第八十二條及第八十三條竝ニ民法施行法第二十六條及第二十七條ノ規定ハ辯護士會ノ淸算ニ關シ之ヲ準用ス
第五十一條 司法大臣ハ辯護士會ノ解散ノ決議ヲ認可シタルトキハ解散ノ吿示ヲ爲スベシ
第五十二條 辯護士會ハ共同シテ特定ノ事項ヲ行フ爲規約ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受ケ聯合會ヲ設立スルコトヲ得
第五章 懲戒
第五十三條 辯護士本法又ハ辯護士會會則ニ違反シタルトキハ檢事長ハ司法大臣ノ命ニ依リ又ハ其ノ認可ヲ受ケテ懲戒開始ノ申立ヲ爲スベシ
辯護士會ハ會則ノ定ムル所ニ依リ懲戒ヲ求ムル爲司法大臣又ハ檢事長ニ申吿ヲ爲スコトヲ得
第五十四條 辯護士ノ懲戒ハ其ノ所屬辯護士會ノ地域ヲ管轄スル控訴院ニ於ケル懲戒裁判所之ヲ行フ
第五十五條 懲戒ハ左ノ四種トス
一 譴責
二 千圓以下ノ過料
三 一年以下ノ停職
四 除名
前項ノ過料ノ裁判ノ執行ニ付テハ非訟事件手續法第二百八條ノ規定ヲ準用ス
第五十六條 懲戒ノ訴追ヲ受ケタル辯護士ハ其ノ裁判確定スルニ至ル迄辯護士會ヲ退會シ又ハ辯護士名簿ノ登錄換ヲ請求スルコトヲ得ズ
辯護士會ハ懲戒ノ訴追ヲ受ケタル辯護士ヲ退會セシムルコトヲ得ズ
第五十七條 懲戒ノ事由アリタル時ヨリ三年ヲ經過シタルトキハ懲戒開始ノ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
第五十八條 本法ニ規定スルモノノ外懲戒ニ付テハ判事懲戒法ヲ準用ス
附 則
本法ハ昭和十一年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行ノ際現ニ從前ノ規定ニ依リテ辯護士タル資格ヲ有スル者ハ本法施行後ト雖モ仍其ノ資格ヲ有ス
舊刑法ノ重罪ノ刑又ハ禁錮ニ處セラレタル者ハ第五條ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ト看做ス
從前ノ規定ニ依ル辯護士名簿ノ登錄ハ之ヲ本法ニ依ル辯護士名簿ノ登錄ト看做ス
本法施行ノ際現ニ辯護士會ニ加入シ居ラザル辯護士ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ三月內ニ從前ノ例ニ依リテ辯護士會ニ加入スルニ非ザレバ其ノ登錄ハ效力ヲ失フ
辯護士會ニ關シテハ本法ニ依ル辯護士會成立スルニ至ル迄ハ仍從前ノ例ニ依ル但シ辯護士名簿登錄及登錄換ノ請求ノ進達ニ關シテハ本法ニ依ル
本法施行ノ際現ニ存スル辯護士會ハ本法施行ノ日ヨリ六月內ニ本法ニ依ル辯護士會ヲ設立スル爲會則ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ司法大臣ハ認可ヲ爲シタルトキハ辯護士會ノ名稱、事務所ノ所在地及設立ノ年月日ヲ吿示スベシ
前項ノ規定ニ依リテ辯護士會成立シタルトキハ舊辯護士會ノ會員ハ當然新辯護士會ノ會員ト爲リ舊辯護士會ニ屬シタル權利義務ハ新辯護士會之ヲ承繼ス
本法施行ノ際現ニ二個以上ノ事務所ヲ有スル辯護士ハ本法施行ノ日ヨリ六月內ニ限リ之ヲ存續スルコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル弁護士法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年四月二十八日
内閣総理大臣 子爵 斎藤実
司法大臣 小山松吉
法律第五十三号
弁護士法
第一章 弁護士ノ職務及資格
第一条 弁護士ハ当事者其ノ他ノ関係人ノ委嘱又ハ官庁ノ選任ニ因リ訴訟ニ関スル行為其ノ他一般ノ法律事務ヲ行フコトヲ職務トス
第二条 左ノ条件ヲ具フル者ハ弁護士タル資格ヲ有ス
一 帝国臣民ニシテ成年者タルコト
二 弁護士試補トシテ一年六月以上ノ実務修習ヲ了ヘ考試ヲ経タルコト
前項第二号ノ実務修習及考試ニ関スル事項ハ司法大臣之ヲ定ム
第三条 弁護士試補タルニハ成規ノ試験ニ合格スルコトヲ要ス
前項ノ試験ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四条 左ニ掲グル者ハ前二条ノ規定ニ拘ラズ弁護士タル資格ヲ有ス
一 判事又ハ検事タル資格ヲ有スル者
二 三年以上専任行政裁判所長官又ハ専任行政裁判所評定官タリシ者
三 三年以上陸軍法務官又ハ海軍法務官タリシ者
第五条 左ニ掲グル者ハ弁護士タル資格ヲ有セズ
一 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者
二 懲戒ノ処分ニ因リ免官若ハ免職セラレタル者、本法ニ依リ除名セラレタル者又ハ弁理士法若ハ計理士法ニ依リ業務ヲ禁止セラレタル者ニシテ免官、免職、除名又ハ業務禁止後二年ヲ経過セザル者
三 禁治産者又ハ準禁治産者
四 破産者ニシテ復権ヲ得ザル者
第六条 外国ノ弁護士タル資格ヲ有スル外国人ハ相互ノ保証アルトキニ限リ司法大臣ノ認可ヲ受ケ外国人又ハ外国法ニ関シ第一条ニ規定スル事項ヲ行フコトヲ得但シ前条ニ掲グル者ハ此ノ限ニ在ラズ
第十八条第二項、第二十条及第二十三条乃至第二十六条ノ規定ハ前項ノ認可ヲ受ケタル者ニ之ヲ準用ス
司法大臣必要ト認ムルトキハ第一項ノ認可ヲ取消スコトヲ得
第二章 弁護士名簿
第七条 弁護士タルニハ弁護士名簿ニ登録セラルルコトヲ要ス
第八条 弁護士名簿ハ之ヲ司法省ニ備フ
第九条 弁護士タラントスル者ハ其ノ入会セントスル弁護士会ヲ経由シテ司法大臣ニ登録ノ請求ヲ為スベシ
第十条 弁護士弁護士会ノ所属ヲ変更セントスルトキハ新ニ入会セントスル弁護士会ヲ経由シテ司法大臣ニ登録換ノ請求ヲ為スベシ
前項ノ登録換アリタルトキハ弁護士ハ直ニ旧所属弁護士会ニ之ヲ届出ヅベシ
第十一条 弁護士所属弁護士会ヲ退会セントスルトキハ其ノ弁護士会ヲ経由シテ司法大臣ニ登録取消ノ請求ヲ為スベシ
第十二条 弁護士会ハ会ノ秩序又ハ信用ヲ害スル虞アル者ノ登録若ハ登録換ノ請求ノ進達ヲ拒絶シ又ハ退会ヲ命ズルコトヲ得
第十三条 前条ノ規定ニ依リ登録若ハ登録換ノ進達ヲ拒絶セラレ又ハ退会セシメラレタル者ハ司法大臣ニ不服ノ申立ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ司法大臣ハ審査委員会ニ諮問シテ登録若ハ登録換ノ請求ノ進達ヲ命ジ又ハ退会ノ命ヲ取消スコトヲ得
第十四条 審査委員会ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十五条 左ノ場合ニ於テハ司法大臣ハ弁護士名簿ノ登録ヲ取消スベシ
一 弁護士国籍ヲ喪失シタルトキ
二 弁護士第五条各号ノ一ニ該当スルニ至リタルトキ
三 第十一条ノ規定ニ依リ登録取消ノ請求アリタルトキ
四 弁護士退会セシメラレ又ハ除名セラレタルトキ
五 弁護士死亡シタルトキ
六 総会ノ決議ニ因リ弁護士会解散シタルトキ
第十六条 弁護士名簿ノ登録、登録換及登録取消ハ司法大臣之ヲ其ノ弁護士所属ノ弁護士会ニ通知スベシ
第十七条 登録ニ関スル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三章 弁護士ノ権利及義務
第十八条 弁護士ノ事務所ハ所属弁護士会ノ地域内ニ之ヲ設クベシ
弁護士ハ如何ナル名義ヲ以テスルモ二個以上ノ事務所ヲ設クルコトヲ得ズ但シ他ノ弁護士事務所ニ於テ執務スルコトヲ妨ゲズ
第十九条 弁護士事務所ヲ設ケタルトキハ直ニ之ヲ司法大臣及所属弁護士会ニ届出ヅベシ事務所ヲ移転シタルトキ亦同ジ
第二十条 弁護士ハ誠実ニ其ノ職務ヲ行ヒ職務ノ内外ヲ問ハズ其ノ品位ヲ保持スベシ
第二十一条 弁護士又ハ弁護士タリシ者ハ其ノ職務上知得シタル秘密ヲ保持スル権利ヲ有シ義務ヲ負フ但シ他ノ法令ニ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二条 弁護士ハ所属弁護士会ノ会則ヲ遵守スベシ
第二十三条 弁護士ハ正当ノ理由アルニ非ザレバ法令ニ依リ官庁ノ命ジタル事項及会則ノ定ムル所ニ依リ所属弁護士会ノ指定シタル事項ヲ行フコトヲ辞スルコトヲ得ズ
第二十四条 弁護士ハ左ニ掲グル事件ニ付其ノ職務ヲ行フコトヲ得ズ
一 相手方ノ協議ヲ受ケテ賛助ヲ為シ又ハ其ノ委嘱ヲ承諾シタル事件
二 相手方ノ協議ヲ受ケタル事件ニシテ其ノ協議ノ程度及方法ガ信頼関係ニ基クモノト認メラルルモノ
三 公務員トシテ職務上取扱ヒタル事件
四 仲裁手続ニ依リ仲裁人トシテ取扱ヒタル事件
第二十五条 弁護士ハ係争権利ヲ譲受クルコトヲ得ズ
第二十六条 弁護士ハ事件ノ委嘱ヲ承諾セザルトキハ速ニ其ノ旨ヲ委嘱者ニ通告スベシ若通告ヲ怠リタルトキハ之ガ為生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ
第二十七条 弁護士ハ報酬アル公務ヲ兼ヌルコトヲ得ズ但シ帝国議会若ハ地方議会ノ議員ト為リ又ハ官署若ハ公署ヨリ特ニ命ゼラレ若ハ嘱託セラレタル職務ヲ行フハ此ノ限ニ在ラズ
弁護士ハ所属弁護士会ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ商業其ノ他営利ヲ目的トスル業務ヲ営ミ若ハ之ヲ営ム者ノ使用人ト為リ又ハ営利ヲ目的トスル法人ノ業務執行社員、取締役若ハ使用人ト為ルコトヲ得ズ
第二十八条 前条ノ規定ハ実務修習中ノ弁護士試補ニ之ヲ準用ス
第四章 弁護士会
第二十九条 弁護士会ハ法人トス
弁護士会ハ弁護士ノ品位ノ保持及弁護士事務ノ改善進歩ヲ図ルヲ以テ目的トス
第三十条 弁護士会ハ地方裁判所ノ管轄区域毎ニ之ヲ設立スベシ但シ弁護士会ニ属スル弁護士三百名以上アル場合ニ於テ其ノ中百名以上ノ者ハ同一地方裁判所ノ管轄区域内ニ別ニ弁護士会ヲ設立スルコトヲ得
第三十一条 弁護士会ヲ設立セントスルトキハ会員ト為ルベキ弁護士ハ会則ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
弁護士会ノ設立アリタルトキハ前項ノ弁護士ハ当然旧所属弁護士会ヲ退会シ其ノ会員ト為ルモノトス
第十条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
弁護士会会則ヲ変更セントスルトキハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
第三十二条 司法大臣弁護士会ノ設立ヲ認可シタルトキハ弁護士会ノ名称、事務所ノ所在地及設立ノ年月日ヲ告示スベシ
司法大臣弁護士会ノ名称又ハ事務所ノ所在地ノ変更ヲ認可シタルトキハ変更ノ告示ヲ為スベシ
第三十三条 弁護士会ノ代表者ハ一人トス但シ代表者差支アル場合ニ於テ之ニ代リテ弁護士会ヲ代表スベキ者ヲ置クコトヲ妨ゲズ
第三十四条 弁護士会ハ司法大臣ノ監督ヲ受ク
第三十五条 第三十一条ニ規定スル場合ヲ除クノ外弁護士名簿ニ登録又ハ登録換ヲ受ケタル者ハ当然其ノ入会セントスル弁護士会ノ会員ト為リ登録換ヲ為ス場合ニハ旧所属弁護士会ヲ退会スルモノトス
第三十六条 弁護士第十一条ノ規定ニ依ル請求ニ因リテ登録ヲ取消サレタルトキハ当然所属弁護士会ヲ退会シタルモノトス
第三十七条 弁護士会ハ弁護士試補ノ実務修習ヲ担当ス但シ司法大臣別段ノ規定ヲ設ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三十八条 弁護士会ハ官庁ヨリ諮問ヲ受ケタル事項ニ付答申ヲ為スベシ
弁護士会ハ司法事務ニ関シ官庁ニ建議ヲ為スコトヲ得弁護士ノ利害ニ関スル事項ニ付亦同ジ
第三十九条 弁護士会会則ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ
一 名称及事務所ノ所在地
二 会ノ代表者其ノ他ノ機関ノ組織及職務権限ニ関スル規定
三 会議ニ関スル規定
四 弁護士試補ノ実務修習ニ関スル規定
五 弁護士ノ報酬ニ関シ標準ヲ示ス規定
六 会員ノ風紀保持ニ関スル規定
七 無資力者ノ為ニスル法律相談及訴訟扶助ニ関スル規定
八 答申及建議ノ決議ニ関スル規定
九 会員ト委嘱者トノ間ニ於ケル紛議ノ調停ニ関スル規定
十 弁護士名簿ノ登録及登録換ノ請求ノ進達ニ関スル規定
十一 入会及退会ニ関スル規定
十二 懲戒ノ申告ニ関スル規定
十三 会費ノ徴収ニ関スル規定
十四 資産ニ関スル規定
第四十条 弁護士会ハ毎年定期総会ヲ開ク
弁護士会ハ必要アル場合ニ於テ臨時総会ヲ開クコトヲ得
第四十一条 弁護士会ハ総会ノ日時、場所及議題並ニ役員選挙ノ日時及場所ヲ予メ司法大臣ニ申告スベシ
第四十二条 司法大臣ハ弁護士会ノ総会又ハ役員選挙ノ場所ニ臨席シ又ハ所部ノ官吏ヲシテ臨席セシムルコトヲ得
第四十三条 弁護士会ハ遅滞ナク総会ノ決議並ニ役員ノ就任及退任ヲ司法大臣ニ申告スベシ
第四十四条 左ノ事項ハ総会ノ決議ヲ経ベシ
一 会則ノ変更
二 予算及決算
第四十五条 弁護士会ノ会議法令若ハ会則ニ違反シ又ハ公益ヲ害スルトキハ司法大臣ハ其ノ決議ヲ取消シ、其ノ議事ヲ停止スルコトヲ得
第四十六条 弁護士会ハ弁護士ト委嘱者トノ間ニ紛議ヲ生ジタルトキハ当事者ノ請求ニ因リ其ノ調停ヲ為スコトヲ得
第四十七条 弁護士会ハ司法大臣ノ認可ヲ受ケ同一地方裁判所ノ管轄区域内ニ於ケル他ノ弁護士会ト合併スルコトヲ得
弁護士会合併シタルトキハ合併ニ因リテ解散シタル弁護士会所属ノ弁護士ハ当然旧所属弁護士会ヲ退会シ合併後存続シ又ハ合併ニ因リテ設立シタル弁護士会ノ会員ト為ルモノトス
第十条第一項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四十八条 司法大臣弁護士会ノ合併ヲ認可シタルトキハ合併後存続スル弁護士会ニ付テハ変更ノ告示ヲ為シ、合併ニ因リテ解散シタル弁護士会ニ付テハ解散ノ告示ヲ為シ、合併ニ因リテ設立シタル弁護士会ニ付テハ第三十二条第一項ニ規定スル告示ヲ為スベシ
第四十九条 弁護士会合併ヲ為サントスルトキハ其ノ債権者ニ対シ異議アラバ一月ヲ下ラザル期間内ニ之ヲ述ブベキ旨ヲ催告スベシ
債権者ガ前項ノ期間内ニ異議ヲ述ベタルトキハ弁護士会ハ之ニ弁済ヲ為シ又ハ相当ノ担保ヲ供スルニ非ザレバ合併ヲ為スコトヲ得ズ
合併ニ因リテ解散シタル弁護士会ニ属スル権利義務ハ合併後存続シ又ハ合併ニ因リテ設立シタル弁護士会之ヲ承継ス
第五十条 弁護士会ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス
一 総会ノ決議
二 合併
前項第一号ノ総会ノ決議ハ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ
民法第七十三条乃至第七十六条、第七十八条乃至第八十条、第八十二条及第八十三条並ニ民法施行法第二十六条及第二十七条ノ規定ハ弁護士会ノ清算ニ関シ之ヲ準用ス
第五十一条 司法大臣ハ弁護士会ノ解散ノ決議ヲ認可シタルトキハ解散ノ告示ヲ為スベシ
第五十二条 弁護士会ハ共同シテ特定ノ事項ヲ行フ為規約ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受ケ連合会ヲ設立スルコトヲ得
第五章 懲戒
第五十三条 弁護士本法又ハ弁護士会会則ニ違反シタルトキハ検事長ハ司法大臣ノ命ニ依リ又ハ其ノ認可ヲ受ケテ懲戒開始ノ申立ヲ為スベシ
弁護士会ハ会則ノ定ムル所ニ依リ懲戒ヲ求ムル為司法大臣又ハ検事長ニ申告ヲ為スコトヲ得
第五十四条 弁護士ノ懲戒ハ其ノ所属弁護士会ノ地域ヲ管轄スル控訴院ニ於ケル懲戒裁判所之ヲ行フ
第五十五条 懲戒ハ左ノ四種トス
一 譴責
二 千円以下ノ過料
三 一年以下ノ停職
四 除名
前項ノ過料ノ裁判ノ執行ニ付テハ非訟事件手続法第二百八条ノ規定ヲ準用ス
第五十六条 懲戒ノ訴追ヲ受ケタル弁護士ハ其ノ裁判確定スルニ至ル迄弁護士会ヲ退会シ又ハ弁護士名簿ノ登録換ヲ請求スルコトヲ得ズ
弁護士会ハ懲戒ノ訴追ヲ受ケタル弁護士ヲ退会セシムルコトヲ得ズ
第五十七条 懲戒ノ事由アリタル時ヨリ三年ヲ経過シタルトキハ懲戒開始ノ申立ヲ為スコトヲ得ズ
第五十八条 本法ニ規定スルモノノ外懲戒ニ付テハ判事懲戒法ヲ準用ス
附 則
本法ハ昭和十一年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行ノ際現ニ従前ノ規定ニ依リテ弁護士タル資格ヲ有スル者ハ本法施行後ト雖モ仍其ノ資格ヲ有ス
旧刑法ノ重罪ノ刑又ハ禁錮ニ処セラレタル者ハ第五条ノ規定ノ適用ニ付テハ之ヲ禁錮以上ノ刑ニ処セラレタル者ト看做ス
従前ノ規定ニ依ル弁護士名簿ノ登録ハ之ヲ本法ニ依ル弁護士名簿ノ登録ト看做ス
本法施行ノ際現ニ弁護士会ニ加入シ居ラザル弁護士ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ三月内ニ従前ノ例ニ依リテ弁護士会ニ加入スルニ非ザレバ其ノ登録ハ効力ヲ失フ
弁護士会ニ関シテハ本法ニ依ル弁護士会成立スルニ至ル迄ハ仍従前ノ例ニ依ル但シ弁護士名簿登録及登録換ノ請求ノ進達ニ関シテハ本法ニ依ル
本法施行ノ際現ニ存スル弁護士会ハ本法施行ノ日ヨリ六月内ニ本法ニ依ル弁護士会ヲ設立スル為会則ヲ定メ司法大臣ノ認可ヲ受クベシ司法大臣ハ認可ヲ為シタルトキハ弁護士会ノ名称、事務所ノ所在地及設立ノ年月日ヲ告示スベシ
前項ノ規定ニ依リテ弁護士会成立シタルトキハ旧弁護士会ノ会員ハ当然新弁護士会ノ会員ト為リ旧弁護士会ニ属シタル権利義務ハ新弁護士会之ヲ承継ス
本法施行ノ際現ニ二個以上ノ事務所ヲ有スル弁護士ハ本法施行ノ日ヨリ六月内ニ限リ之ヲ存続スルコトヲ得