少年法
法令番号: 法律第四十二號
公布年月日: 大正11年4月17日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル少年法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十一年四月十五日
內閣總理大臣 子爵 高橋是淸
內務大臣 床次竹二郞
文部大臣 中橋德五郞
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十二號
少年法
第一章 通則
第一條 本法ニ於テ少年ト稱スルハ十八歲ニ滿タサル者ヲ謂フ
第二條 少年ノ刑事處分ニ關スル事項ハ本法ニ定ムルモノノ外一般ノ例ニ依ル
第三條 本法ハ第七條、第八條、第十條乃至第十四條ノ規定ヲ除クノ外陸軍刑法第八條、第九條及海軍刑法第八條、第九條ニ揭ケタル者ニ之ヲ適用セス
第二章 保護處分
第四條 刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲シ又ハ刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲ス虞アル少年ニ對シテハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 訓誡ヲ加フルコト
二 學校長ノ訓誡ニ委スルコト
三 書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ爲サシムルコト
四 條件ヲ附シテ保護者ニ引渡スコト
五 寺院、敎會、保護團體又ハ適當ナル者ニ委託スルコト
六 少年保護司ノ觀察ニ付スルコト
七 感化院ニ送致スルコト
八 矯正院ニ送致スルコト
九 病院ニ送致又ハ委託スルコト
前項各號ノ處分ハ適宜併セテ之ヲ爲スコトヲ得
第五條 前條第一項第五號乃至第九號ノ處分ハ二十三歲ニ至ル迄其ノ執行ヲ繼續シ又ハ其ノ執行ノ繼續中何時ニテモ之ヲ取消シ若ハ變更スルコトヲ得
第六條 少年ニシテ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケ又ハ假出獄ヲ許サレタル者ハ猶豫又ハ假出獄ノ期間內少年保護司ノ觀察ニ付ス
前項ノ場合ニ於テ必要アルトキハ第四條第一項第四號、第五號、第七號乃至第九號ノ處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ第四條第一項第七號又ハ第八號ノ處分ヲ爲シタルトキハ其ノ執行ノ繼續中少年保護司ノ觀察ヲ停止ス
第三章 刑事處分
第七條 罪ヲ犯ス時十六歲ニ滿タサル者ニハ死刑及無期刑ヲ科セス死刑又ハ無期刑ヲ以テ處斷スヘキトキハ十年以上十五年以下ニ於テ懲役又ハ禁錮ヲ科ス
刑法第七十三條、第七十五條又ハ第二百條ノ罪ヲ犯シタル者ニハ前項ノ規定ヲ適用セス
第八條 少年ニ對シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ以テ處斷スヘキトキハ其ノ刑ノ範圍內ニ於テ短期ト長期トヲ定メ之ヲ言渡ス但シ短期五年ヲ超ユル刑ヲ以テ處斷スヘキトキハ短期ヲ五年ニ短縮ス
前項ノ規定ニ依リ言渡スヘキ刑ノ短期ハ五年長期ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス
刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ爲スヘキ場合ニハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第九條 懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル少年ニ對シテハ特ニ設ケタル監獄又ハ監獄內ノ特ニ分界ヲ設ケタル場所ニ於テ其ノ刑ヲ執行ス
本人十八歲ニ達シタル後ト雖二十三歲ニ至ル迄ハ前項ノ規定ニ依リ執行ヲ繼續スルコトヲ得
第十條 少年ニシテ懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル者ニハ左ノ期間ヲ經過シタル後假出獄ヲ許スコトヲ得
一 無期刑ニ付テハ七年
二 第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ三年
三 第八條第一項及第二項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ其ノ刑ノ短期ノ三分ノ一
第十一條 少年ニシテ無期刑ノ言渡ヲ受ケタル者假出獄ヲ許サレタル後其ノ處分ヲ取消サルルコトナクシテ十年ヲ經過シタルトキハ刑ノ執行終リタルモノトス
少年ニシテ第七條第一項又ハ第八條第一項及第二項ノ規定ニ依リ刑ノ言渡ヲ受ケタル者假出獄ヲ許サレタル後其ノ處分ヲ取消サルルコトナクシテ假出獄前ニ刑ノ執行ヲ爲シタルト同一ノ期間ヲ經過シタルトキ亦前項ニ同シ
第十二條 少年ノ假出獄ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條 少年ニ對シテハ勞役場留置ノ言渡ヲ爲サス
第十四條 少年ノ時犯シタル罪ニ因リ死刑又ハ無期刑ニ非サル刑ニ處セラレタル者ニシテ其ノ執行ヲ終ヘ又ハ執行免除ヲ受ケタルモノハ人ノ資格ニ關スル法令ノ適用ニ付テハ將來ニ向テ刑ノ言渡ヲ受ケサリシモノト看做ス
少年ノ時犯シタル罪ニ付刑ニ處セラレタル者ニシテ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケタルモノハ其ノ猶豫期間中刑ノ執行ヲ終ヘタルモノト看做シ前項ノ規定ヲ適用ス
前項ノ場合ニ於テ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消サレタルトキハ人ノ資格ニ關スル法令ノ適用ニ付テハ其ノ取消サレタル時刑ノ言渡アリタルモノト看做ス
第四章 少年審判所ノ組織
第十五條 少年ニ對シ保護處分ヲ爲ス爲少年審判所ヲ置ク
第十六條 少年審判所ノ設立、廢止及管轄ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 少年審判所ハ司法大臣ノ監督ニ屬ス
司法大臣ハ控訴院長及地方裁判所長ニ少年審判所ノ監督ヲ命スルコトヲ得
第十八條 少年審判所ニ少年審判官、少年保護司及書記ヲ置ク
第十九條 少年審判官ハ單獨ニテ審判ヲ爲ス
第二十條 少年審判官ハ少年審判所ノ事務ヲ管理シ所部ノ職員ヲ監督ス
二人以上ノ少年審判官ヲ置キタル少年審判所ニ於テハ上席者前項ノ規定ニ依ル職務ヲ行フ
第二十一條 少年審判官ハ判事ヲシテ之ヲ兼ネシムルコトヲ得
判事タル資格ヲ有スル少年審判官ハ判事ヲ兼ヌルコトヲ得
第二十二條 少年審判官審判ノ公平ニ付嫌疑ヲ生スヘキ事由アリト思料スルトキハ職務ノ執行ヲ避クヘシ
第二十三條 少年保護司ハ少年審判官ヲ輔佐シテ審判ノ資料ヲ供シ觀察事務ヲ掌ル
少年保護司ハ少年ノ保護又ハ敎育ニ經驗ヲ有スル者其ノ他適當ナル者ニ對シ司法大臣之ヲ囑託スルコトヲ得
第二十四條 書記ハ上司ノ指揮ヲ承ケ審判ニ關スル書類ノ調製ヲ掌リ庶務ニ從事ス
第二十五條 少年審判所及少年保護司ハ其ノ職務ヲ行フニ付公務所又ハ公務員ニ對シ囑託ヲ爲シ其ノ他必要ナル補助ヲ求ムルコトヲ得
第五章 少年審判所ノ手續
第二十六條 大審院ノ特別權限ニ屬スル罪ヲ犯シタル者ハ少年審判所ノ審判ニ付セス
第二十七條 左ニ記載シタル者ハ裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外少年審判所ノ審判ニ付セス
一 死刑、無期又ハ短期三年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ルヘキ罪ヲ犯シタル者
二 十六歲以上ニシテ罪ヲ犯シタル者
第二十八條 刑事手續ニ依リ審理中ノ者ハ少年審判所ノ審判ニ付セス
十四歲ニ滿タサル者ハ地方長官ヨリ送致ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外少年審判所ノ審判ニ付セス
第二十九條 少年審判所ニ於テ保護處分ヲ爲スヘキ少年アルコトヲ認知シタル者ハ之ヲ少年審判所又ハ其ノ職員ニ通告スヘシ
第三十條 通告ヲ爲スニハ其ノ事由ヲ開示シ成ルヘク本人及其ノ保護者ノ氏名、住所、年齡、職業、性行等ヲ申立テ且參考ト爲ルヘキ資料ヲ差出スヘシ
通告ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得口頭ノ通告アリタル場合ニ於テハ少年審判所ノ職員其ノ申立ヲ錄取スヘシ
第三十一條 少年審判所審判ニ付スヘキ少年アリト思料シタルトキハ事件ノ關係及本人ノ性行、境遇、經歷、心身ノ狀況、敎育ノ程度等ヲ調査スヘシ
心身ノ狀況ニ付テハ成ルヘク醫師ヲシテ診察ヲ爲サシムヘシ
第三十二條 少年審判所ハ少年保護司ニ命シテ必要ナル調査ヲ爲サシムヘシ
第三十三條 少年審判所ハ事實ノ取調ヲ保護者ニ命シ又ハ之ヲ保護團體ニ委託スルコトヲ得
保護者及保護團體ハ參考ト爲ルヘキ資料ヲ差出スコトヲ得
第三十四條 少年審判所ハ參考人ニ出頭ヲ命シ調査ノ爲必要ナル事實ノ供述又ハ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ供述又ハ鑑定ノ要領ヲ錄取スヘシ
第三十五條 參考人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ費用ヲ請求スルコトヲ得
第三十六條 少年審判所ハ必要ニ依リ何時ニテモ少年保護司ヲシテ本人ヲ同行セシムルコトヲ得
第三十七條 少年審判所ハ事情ニ從ヒ本人ニ對シ假ニ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 條件ヲ附シ又ハ附セスシテ保護者ニ預クルコト
二 寺院、敎會、保護團體又ハ適當ナル者ニ委託スルコト
三 病院ニ委託スルコト
四 少年保護司ノ觀察ニ付スルコト
已ムコトヲ得サル場合ニ於テハ本人ヲ假ニ感化院又ハ矯正院ニ委託スルコトヲ得
第一項第一號乃至第三號ノ處分アリタルトキハ本人ヲ少年保護司ノ觀察ニ付ス
第三十八條 前條ノ處分ハ何時ニテモ之ヲ取消シ又ハ變更スルコトヲ得
第三十九條 前三條ノ場合ニ於テハ速ニ其ノ旨ヲ保護者ニ通知スヘシ
第四十條 少年審判所調査ノ結果ニ因リ審判ヲ開始スヘキモノト思料シタルトキハ審判期日ヲ定ムヘシ
第四十一條 審判ヲ開始セサル場合ニ於テハ第三十七條ノ處分ハ之ヲ取消スヘシ
第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四十二條 少年審判所審判ヲ開始スル場合ニ於テ必要アルトキハ本人ノ爲附添人ヲ附スルコトヲ得
本人、保護者又ハ保護團體ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケ附添人ヲ選任スルコトヲ得
附添人ハ辯護士、保護事業ニ從事スル者又ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケタル者ヲ以テ之ニ充ツヘシ
第四十三條 審判期日ニハ少年審判官及書記出席スヘシ
少年保護司ハ審判期日ニ出席スルコトヲ得
審判期日ニハ本人、保護者及附添人ヲ呼出スヘシ但シ實益ナシト認ムルトキハ保護者ハ之ヲ呼出ササルコトヲ得
第四十四條 少年保護司、保護者及附添人ハ審判ノ席ニ於テ意見ヲ陳述スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ本人ヲ退席セシムヘシ但シ相當ノ事由アルトキハ本人ヲ在席セシムルコトヲ得
第四十五條 審判ハ之ヲ公行セス但シ少年審判所ハ本人ノ親族、保護事業ニ從事スル者其ノ他相當ト認ムル者ニ在席ヲ許スコトヲ得
第四十六條 少年審判所審理ヲ終ヘタルトキハ第四十七條乃至第五十四條ノ規定ニ依リ終結處分ヲ爲スヘシ
第四十七條 刑事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ事件ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送致スヘシ
裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル事件ニ付新ナル事實ノ發見ニ因リ刑事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ管轄裁判所ノ檢事ノ意見ヲ聽キ前項ノ手續ヲ爲スヘシ
前二項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ其ノ旨ヲ本人及保護者ニ通知スヘシ
檢事ハ第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ送致ヲ受ケタル事件ニ付爲シタル處分ヲ少年審判所ニ通知スヘシ
第四十八條 訓誡ヲ加フヘキモノト認メタルトキハ本人ニ對シ其ノ非行ヲ指摘シ將來遵守スヘキ事項ヲ諭告スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者及附添人ヲシテ立會ハシムヘシ
第四十九條 學校長ノ訓誡ニ委スヘキモノト認メタルトキハ學校長ニ對シ必要ナル事項ヲ指示シ本人ニ訓誡ヲ加フヘキ旨ヲ告知スヘシ
第五十條 改心ノ誓約ヲ爲サシムヘキモノト認メタルトキハ本人ヲシテ誓約書ヲ差出サシムヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者ヲシテ立會ハシメ且誓約書ニ連署セシムヘシ
第五十一條 條件ヲ附シテ保護者ニ引渡スヘキモノト認メタルトキハ保護者ニ對シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル條件ヲ指示シ本人ヲ引渡スヘシ
第五十二條 寺院、敎會、保護團體又ハ適當ナル者ニ委託スヘキモノト認メタルトキハ委託ヲ受クヘキ者ニ對シ本人ノ處遇ニ付參考ト爲ルヘキ事項ヲ指示シ保護監督ノ任務ヲ委囑スヘシ
第五十三條 少年保護司ノ觀察ニ付スヘキモノト認メタルトキハ少年保護司ニ對シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル事項ヲ指示シ觀察ニ付スヘシ
第五十四條 感化院、矯正院又ハ病院ニ送致又ハ委託スヘキモノト認メタルトキハ其ノ長ニ對シ本人ノ處遇ニ付參考ト爲ルヘキ事項ヲ指示シ本人ヲ引渡スヘシ
第五十五條 刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲ス虞アル少年ニ對シ前三條ノ處分ヲ爲ス場合ニ於テ適當ナル親權者、後見人、戶主其ノ他ノ保護者アルトキハ其ノ承諾ヲ經ヘシ
第五十六條 少年審判所ノ審判ニ付テハ始末書ヲ作リ審判ヲ經タル事件及終結處分ヲ明確ニシ其ノ他必要ト認メタル事項ヲ記載スヘシ
第五十七條 少年審判所第四十八條乃至第五十二條及第五十四條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ保護者、學校長、受託者又ハ感化院、矯正院若ハ病院ノ長ニ對シ成績報告ヲ求ムルコトヲ得
第五十八條 少年審判所第五十一條及第五十二條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ少年保護司ヲシテ其ノ成績ヲ視察シ適當ナル指示ヲ爲サシムルコトヲ得
第五十九條 少年審判所第四十八條乃至第五十四條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタル後審判ヲ經タル事件第二十六條又ハ第二十七條第一號ニ記載シタルモノナルコトヲ發見シタルトキハ裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル場合ト雖管轄裁判所ノ檢事ノ意見ヲ聽キ處分ヲ取消シ事件ヲ檢事ニ送致スヘシ
禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ニ付第四條第一項第七號又ハ第八號ノ處分ヲ繼續スルニ適セサル事情アリト認メタルトキ亦前項ニ同シ
第六十條 少年審判所本人ヲ寺院、敎會、保護團體若ハ適當ナル者ニ委託シ又ハ病院ニ送致若ハ委託シタルトキハ委託又ハ送致ヲ受ケタル者ニ對シ之ニ因リ生シタル費用ノ全部又ハ一部ヲ給付スルコトヲ得
第六十一條 第三十五條及前條ノ費用竝矯正院ニ於テ生シタル費用ハ少年審判所ノ命令ニ依リ本人又ハ本人ヲ扶養スル義務アル者ヨリ全部又ハ一部ヲ徵收スルコトヲ得
前項費用ノ徵收ニ付テハ非訟事件手續法第二百八條ノ規定ヲ準用ス
第六章 裁判所ノ刑事手續
第六十二條 檢事少年ニ對スル刑事事件ニ付第四條ノ處分ヲ爲スヲ相當ト思料シタルトキハ事件ヲ少年審判所ニ送致スヘシ
第六十三條 第四條ノ處分ヲ受ケタル少年ニ對シテハ審判ヲ經タル事件又ハ之ヨリ輕キ刑ニ該ルヘキ事件ニシテ處分前ニ犯シタルモノニ付刑事訴追ヲ爲スコトヲ得ス但シ第五十九條ノ規定ニ依リ處分ヲ取消シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第六十四條 少年ニ對スル刑事事件ニ付テハ第三十一條ノ調査ヲ爲スヘシ
少年ノ身上ニ關スル事項ノ調査ハ少年保護司ニ囑託シテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第六十五條 裁判所ハ公判期日前前條ノ調査ヲ爲シ又ハ受命判事ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第六十六條 裁判所又ハ豫審判事ハ職權ヲ以テ又ハ檢事ノ申立ニ因リ第三十七條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スコトヲ得
第三十八條及第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六十七條 勾留狀ハ已ムコトヲ得サル場合ニ非サレハ少年ニ對シテ之ヲ發スルコトヲ得ス
拘置監ニ於テハ特別ノ事由アル場合ヲ除クノ外少年ヲ獨居セシムヘシ
第六十八條 少年ノ被告人ハ他ノ被告人ト分離シ其ノ接觸ヲ避ケシムヘシ
第六十九條 少年ニ對スル被告事件ハ他ノ被告事件ト牽連スル場合ト雖審理ニ妨ナキ限リ其ノ手續ヲ分離スヘシ
第七十條 裁判所ハ事情ニ依リ公判中一時少年ノ被告人ヲ退廷セシムルコトヲ得
第七十一條 第一審裁判所又ハ控訴裁判所審理ノ結果ニ因リ被告人ニ對シ第四條ノ處分ヲ爲スヲ相當ト認メタルトキハ少年審判所ニ送致スル旨ノ決定ヲ爲スヘシ
檢事ハ前項ノ決定ニ對シ三日內ニ抗告ヲ爲スコトヲ得
第七十二條 第六十六條ノ處分ハ事件ヲ終局セシムル裁判ノ確定ニ因リ其ノ效力ヲ失フ
第七十三條 第四十二條、第四十三條第二項第三項及第四十四條ノ規定ハ公判ノ手續ニ第六十條及第六十一條ノ規定ハ豫審又ハ公判ノ手續ニ之ヲ準用ス
第七章 罰則
第七十四條 少年審判所ノ審判ニ付セラレタル事項又ハ少年ニ對スル刑事事件ニ付豫審又ハ公判ニ付セラレタル事項ハ之ヲ新聞紙其ノ他ノ出版物ニ揭載スルコトヲ得ス
前項ノ規定ニ違反シタルトキハ新聞紙ニ在リテハ編輯人及發行人、其ノ他ノ出版物ニ在リテハ著作者及發行者ヲ一年以下ノ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル少年法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
摂政名
大正十一年四月十五日
内閣総理大臣 子爵 高橋是清
内務大臣 床次竹二郎
文部大臣 中橋徳五郎
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十二号
少年法
第一章 通則
第一条 本法ニ於テ少年ト称スルハ十八歳ニ満タサル者ヲ謂フ
第二条 少年ノ刑事処分ニ関スル事項ハ本法ニ定ムルモノノ外一般ノ例ニ依ル
第三条 本法ハ第七条、第八条、第十条乃至第十四条ノ規定ヲ除クノ外陸軍刑法第八条、第九条及海軍刑法第八条、第九条ニ掲ケタル者ニ之ヲ適用セス
第二章 保護処分
第四条 刑罰法令ニ触ルル行為ヲ為シ又ハ刑罰法令ニ触ルル行為ヲ為ス虞アル少年ニ対シテハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
一 訓誡ヲ加フルコト
二 学校長ノ訓誡ニ委スルコト
三 書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ為サシムルコト
四 条件ヲ附シテ保護者ニ引渡スコト
五 寺院、教会、保護団体又ハ適当ナル者ニ委託スルコト
六 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
七 感化院ニ送致スルコト
八 矯正院ニ送致スルコト
九 病院ニ送致又ハ委託スルコト
前項各号ノ処分ハ適宜併セテ之ヲ為スコトヲ得
第五条 前条第一項第五号乃至第九号ノ処分ハ二十三歳ニ至ル迄其ノ執行ヲ継続シ又ハ其ノ執行ノ継続中何時ニテモ之ヲ取消シ若ハ変更スルコトヲ得
第六条 少年ニシテ刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ受ケ又ハ仮出獄ヲ許サレタル者ハ猶予又ハ仮出獄ノ期間内少年保護司ノ観察ニ付ス
前項ノ場合ニ於テ必要アルトキハ第四条第一項第四号、第五号、第七号乃至第九号ノ処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ第四条第一項第七号又ハ第八号ノ処分ヲ為シタルトキハ其ノ執行ノ継続中少年保護司ノ観察ヲ停止ス
第三章 刑事処分
第七条 罪ヲ犯ス時十六歳ニ満タサル者ニハ死刑及無期刑ヲ科セス死刑又ハ無期刑ヲ以テ処断スヘキトキハ十年以上十五年以下ニ於テ懲役又ハ禁錮ヲ科ス
刑法第七十三条、第七十五条又ハ第二百条ノ罪ヲ犯シタル者ニハ前項ノ規定ヲ適用セス
第八条 少年ニ対シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ以テ処断スヘキトキハ其ノ刑ノ範囲内ニ於テ短期ト長期トヲ定メ之ヲ言渡ス但シ短期五年ヲ超ユル刑ヲ以テ処断スヘキトキハ短期ヲ五年ニ短縮ス
前項ノ規定ニ依リ言渡スヘキ刑ノ短期ハ五年長期ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス
刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ為スヘキ場合ニハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第九条 懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル少年ニ対シテハ特ニ設ケタル監獄又ハ監獄内ノ特ニ分界ヲ設ケタル場所ニ於テ其ノ刑ヲ執行ス
本人十八歳ニ達シタル後ト雖二十三歳ニ至ル迄ハ前項ノ規定ニ依リ執行ヲ継続スルコトヲ得
第十条 少年ニシテ懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル者ニハ左ノ期間ヲ経過シタル後仮出獄ヲ許スコトヲ得
一 無期刑ニ付テハ七年
二 第七条第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ三年
三 第八条第一項及第二項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ其ノ刑ノ短期ノ三分ノ一
第十一条 少年ニシテ無期刑ノ言渡ヲ受ケタル者仮出獄ヲ許サレタル後其ノ処分ヲ取消サルルコトナクシテ十年ヲ経過シタルトキハ刑ノ執行終リタルモノトス
少年ニシテ第七条第一項又ハ第八条第一項及第二項ノ規定ニ依リ刑ノ言渡ヲ受ケタル者仮出獄ヲ許サレタル後其ノ処分ヲ取消サルルコトナクシテ仮出獄前ニ刑ノ執行ヲ為シタルト同一ノ期間ヲ経過シタルトキ亦前項ニ同シ
第十二条 少年ノ仮出獄ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三条 少年ニ対シテハ労役場留置ノ言渡ヲ為サス
第十四条 少年ノ時犯シタル罪ニ因リ死刑又ハ無期刑ニ非サル刑ニ処セラレタル者ニシテ其ノ執行ヲ終ヘ又ハ執行免除ヲ受ケタルモノハ人ノ資格ニ関スル法令ノ適用ニ付テハ将来ニ向テ刑ノ言渡ヲ受ケサリシモノト看做ス
少年ノ時犯シタル罪ニ付刑ニ処セラレタル者ニシテ刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ受ケタルモノハ其ノ猶予期間中刑ノ執行ヲ終ヘタルモノト看做シ前項ノ規定ヲ適用ス
前項ノ場合ニ於テ刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ取消サレタルトキハ人ノ資格ニ関スル法令ノ適用ニ付テハ其ノ取消サレタル時刑ノ言渡アリタルモノト看做ス
第四章 少年審判所ノ組織
第十五条 少年ニ対シ保護処分ヲ為ス為少年審判所ヲ置ク
第十六条 少年審判所ノ設立、廃止及管轄ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 少年審判所ハ司法大臣ノ監督ニ属ス
司法大臣ハ控訴院長及地方裁判所長ニ少年審判所ノ監督ヲ命スルコトヲ得
第十八条 少年審判所ニ少年審判官、少年保護司及書記ヲ置ク
第十九条 少年審判官ハ単独ニテ審判ヲ為ス
第二十条 少年審判官ハ少年審判所ノ事務ヲ管理シ所部ノ職員ヲ監督ス
二人以上ノ少年審判官ヲ置キタル少年審判所ニ於テハ上席者前項ノ規定ニ依ル職務ヲ行フ
第二十一条 少年審判官ハ判事ヲシテ之ヲ兼ネシムルコトヲ得
判事タル資格ヲ有スル少年審判官ハ判事ヲ兼ヌルコトヲ得
第二十二条 少年審判官審判ノ公平ニ付嫌疑ヲ生スヘキ事由アリト思料スルトキハ職務ノ執行ヲ避クヘシ
第二十三条 少年保護司ハ少年審判官ヲ輔佐シテ審判ノ資料ヲ供シ観察事務ヲ掌ル
少年保護司ハ少年ノ保護又ハ教育ニ経験ヲ有スル者其ノ他適当ナル者ニ対シ司法大臣之ヲ嘱託スルコトヲ得
第二十四条 書記ハ上司ノ指揮ヲ承ケ審判ニ関スル書類ノ調製ヲ掌リ庶務ニ従事ス
第二十五条 少年審判所及少年保護司ハ其ノ職務ヲ行フニ付公務所又ハ公務員ニ対シ嘱託ヲ為シ其ノ他必要ナル補助ヲ求ムルコトヲ得
第五章 少年審判所ノ手続
第二十六条 大審院ノ特別権限ニ属スル罪ヲ犯シタル者ハ少年審判所ノ審判ニ付セス
第二十七条 左ニ記載シタル者ハ裁判所又ハ検事ヨリ送致ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外少年審判所ノ審判ニ付セス
一 死刑、無期又ハ短期三年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ルヘキ罪ヲ犯シタル者
二 十六歳以上ニシテ罪ヲ犯シタル者
第二十八条 刑事手続ニ依リ審理中ノ者ハ少年審判所ノ審判ニ付セス
十四歳ニ満タサル者ハ地方長官ヨリ送致ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外少年審判所ノ審判ニ付セス
第二十九条 少年審判所ニ於テ保護処分ヲ為スヘキ少年アルコトヲ認知シタル者ハ之ヲ少年審判所又ハ其ノ職員ニ通告スヘシ
第三十条 通告ヲ為スニハ其ノ事由ヲ開示シ成ルヘク本人及其ノ保護者ノ氏名、住所、年齢、職業、性行等ヲ申立テ且参考ト為ルヘキ資料ヲ差出スヘシ
通告ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得口頭ノ通告アリタル場合ニ於テハ少年審判所ノ職員其ノ申立ヲ録取スヘシ
第三十一条 少年審判所審判ニ付スヘキ少年アリト思料シタルトキハ事件ノ関係及本人ノ性行、境遇、経歴、心身ノ状況、教育ノ程度等ヲ調査スヘシ
心身ノ状況ニ付テハ成ルヘク医師ヲシテ診察ヲ為サシムヘシ
第三十二条 少年審判所ハ少年保護司ニ命シテ必要ナル調査ヲ為サシムヘシ
第三十三条 少年審判所ハ事実ノ取調ヲ保護者ニ命シ又ハ之ヲ保護団体ニ委託スルコトヲ得
保護者及保護団体ハ参考ト為ルヘキ資料ヲ差出スコトヲ得
第三十四条 少年審判所ハ参考人ニ出頭ヲ命シ調査ノ為必要ナル事実ノ供述又ハ鑑定ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ供述又ハ鑑定ノ要領ヲ録取スヘシ
第三十五条 参考人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ費用ヲ請求スルコトヲ得
第三十六条 少年審判所ハ必要ニ依リ何時ニテモ少年保護司ヲシテ本人ヲ同行セシムルコトヲ得
第三十七条 少年審判所ハ事情ニ従ヒ本人ニ対シ仮ニ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
一 条件ヲ附シ又ハ附セスシテ保護者ニ預クルコト
二 寺院、教会、保護団体又ハ適当ナル者ニ委託スルコト
三 病院ニ委託スルコト
四 少年保護司ノ観察ニ付スルコト
已ムコトヲ得サル場合ニ於テハ本人ヲ仮ニ感化院又ハ矯正院ニ委託スルコトヲ得
第一項第一号乃至第三号ノ処分アリタルトキハ本人ヲ少年保護司ノ観察ニ付ス
第三十八条 前条ノ処分ハ何時ニテモ之ヲ取消シ又ハ変更スルコトヲ得
第三十九条 前三条ノ場合ニ於テハ速ニ其ノ旨ヲ保護者ニ通知スヘシ
第四十条 少年審判所調査ノ結果ニ因リ審判ヲ開始スヘキモノト思料シタルトキハ審判期日ヲ定ムヘシ
第四十一条 審判ヲ開始セサル場合ニ於テハ第三十七条ノ処分ハ之ヲ取消スヘシ
第三十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四十二条 少年審判所審判ヲ開始スル場合ニ於テ必要アルトキハ本人ノ為附添人ヲ附スルコトヲ得
本人、保護者又ハ保護団体ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケ附添人ヲ選任スルコトヲ得
附添人ハ弁護士、保護事業ニ従事スル者又ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケタル者ヲ以テ之ニ充ツヘシ
第四十三条 審判期日ニハ少年審判官及書記出席スヘシ
少年保護司ハ審判期日ニ出席スルコトヲ得
審判期日ニハ本人、保護者及附添人ヲ呼出スヘシ但シ実益ナシト認ムルトキハ保護者ハ之ヲ呼出ササルコトヲ得
第四十四条 少年保護司、保護者及附添人ハ審判ノ席ニ於テ意見ヲ陳述スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ本人ヲ退席セシムヘシ但シ相当ノ事由アルトキハ本人ヲ在席セシムルコトヲ得
第四十五条 審判ハ之ヲ公行セス但シ少年審判所ハ本人ノ親族、保護事業ニ従事スル者其ノ他相当ト認ムル者ニ在席ヲ許スコトヲ得
第四十六条 少年審判所審理ヲ終ヘタルトキハ第四十七条乃至第五十四条ノ規定ニ依リ終結処分ヲ為スヘシ
第四十七条 刑事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ事件ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送致スヘシ
裁判所又ハ検事ヨリ送致ヲ受ケタル事件ニ付新ナル事実ノ発見ニ因リ刑事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ管轄裁判所ノ検事ノ意見ヲ聴キ前項ノ手続ヲ為スヘシ
前二項ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ其ノ旨ヲ本人及保護者ニ通知スヘシ
検事ハ第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ送致ヲ受ケタル事件ニ付為シタル処分ヲ少年審判所ニ通知スヘシ
第四十八条 訓誡ヲ加フヘキモノト認メタルトキハ本人ニ対シ其ノ非行ヲ指摘シ将来遵守スヘキ事項ヲ諭告スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者及附添人ヲシテ立会ハシムヘシ
第四十九条 学校長ノ訓誡ニ委スヘキモノト認メタルトキハ学校長ニ対シ必要ナル事項ヲ指示シ本人ニ訓誡ヲ加フヘキ旨ヲ告知スヘシ
第五十条 改心ノ誓約ヲ為サシムヘキモノト認メタルトキハ本人ヲシテ誓約書ヲ差出サシムヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者ヲシテ立会ハシメ且誓約書ニ連署セシムヘシ
第五十一条 条件ヲ附シテ保護者ニ引渡スヘキモノト認メタルトキハ保護者ニ対シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル条件ヲ指示シ本人ヲ引渡スヘシ
第五十二条 寺院、教会、保護団体又ハ適当ナル者ニ委託スヘキモノト認メタルトキハ委託ヲ受クヘキ者ニ対シ本人ノ処遇ニ付参考ト為ルヘキ事項ヲ指示シ保護監督ノ任務ヲ委嘱スヘシ
第五十三条 少年保護司ノ観察ニ付スヘキモノト認メタルトキハ少年保護司ニ対シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル事項ヲ指示シ観察ニ付スヘシ
第五十四条 感化院、矯正院又ハ病院ニ送致又ハ委託スヘキモノト認メタルトキハ其ノ長ニ対シ本人ノ処遇ニ付参考ト為ルヘキ事項ヲ指示シ本人ヲ引渡スヘシ
第五十五条 刑罰法令ニ触ルル行為ヲ為ス虞アル少年ニ対シ前三条ノ処分ヲ為ス場合ニ於テ適当ナル親権者、後見人、戸主其ノ他ノ保護者アルトキハ其ノ承諾ヲ経ヘシ
第五十六条 少年審判所ノ審判ニ付テハ始末書ヲ作リ審判ヲ経タル事件及終結処分ヲ明確ニシ其ノ他必要ト認メタル事項ヲ記載スヘシ
第五十七条 少年審判所第四十八条乃至第五十二条及第五十四条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ保護者、学校長、受託者又ハ感化院、矯正院若ハ病院ノ長ニ対シ成績報告ヲ求ムルコトヲ得
第五十八条 少年審判所第五十一条及第五十二条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ少年保護司ヲシテ其ノ成績ヲ視察シ適当ナル指示ヲ為サシムルコトヲ得
第五十九条 少年審判所第四十八条乃至第五十四条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタル後審判ヲ経タル事件第二十六条又ハ第二十七条第一号ニ記載シタルモノナルコトヲ発見シタルトキハ裁判所又ハ検事ヨリ送致ヲ受ケタル場合ト雖管轄裁判所ノ検事ノ意見ヲ聴キ処分ヲ取消シ事件ヲ検事ニ送致スヘシ
禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ニ付第四条第一項第七号又ハ第八号ノ処分ヲ継続スルニ適セサル事情アリト認メタルトキ亦前項ニ同シ
第六十条 少年審判所本人ヲ寺院、教会、保護団体若ハ適当ナル者ニ委託シ又ハ病院ニ送致若ハ委託シタルトキハ委託又ハ送致ヲ受ケタル者ニ対シ之ニ因リ生シタル費用ノ全部又ハ一部ヲ給付スルコトヲ得
第六十一条 第三十五条及前条ノ費用並矯正院ニ於テ生シタル費用ハ少年審判所ノ命令ニ依リ本人又ハ本人ヲ扶養スル義務アル者ヨリ全部又ハ一部ヲ徴収スルコトヲ得
前項費用ノ徴収ニ付テハ非訟事件手続法第二百八条ノ規定ヲ準用ス
第六章 裁判所ノ刑事手続
第六十二条 検事少年ニ対スル刑事事件ニ付第四条ノ処分ヲ為スヲ相当ト思料シタルトキハ事件ヲ少年審判所ニ送致スヘシ
第六十三条 第四条ノ処分ヲ受ケタル少年ニ対シテハ審判ヲ経タル事件又ハ之ヨリ軽キ刑ニ該ルヘキ事件ニシテ処分前ニ犯シタルモノニ付刑事訴追ヲ為スコトヲ得ス但シ第五十九条ノ規定ニ依リ処分ヲ取消シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第六十四条 少年ニ対スル刑事事件ニ付テハ第三十一条ノ調査ヲ為スヘシ
少年ノ身上ニ関スル事項ノ調査ハ少年保護司ニ嘱託シテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第六十五条 裁判所ハ公判期日前前条ノ調査ヲ為シ又ハ受命判事ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第六十六条 裁判所又ハ予審判事ハ職権ヲ以テ又ハ検事ノ申立ニ因リ第三十七条ノ規定ニ依ル処分ヲ為スコトヲ得
第三十八条及第三十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六十七条 勾留状ハ已ムコトヲ得サル場合ニ非サレハ少年ニ対シテ之ヲ発スルコトヲ得ス
拘置監ニ於テハ特別ノ事由アル場合ヲ除クノ外少年ヲ独居セシムヘシ
第六十八条 少年ノ被告人ハ他ノ被告人ト分離シ其ノ接触ヲ避ケシムヘシ
第六十九条 少年ニ対スル被告事件ハ他ノ被告事件ト牽連スル場合ト雖審理ニ妨ナキ限リ其ノ手続ヲ分離スヘシ
第七十条 裁判所ハ事情ニ依リ公判中一時少年ノ被告人ヲ退廷セシムルコトヲ得
第七十一条 第一審裁判所又ハ控訴裁判所審理ノ結果ニ因リ被告人ニ対シ第四条ノ処分ヲ為スヲ相当ト認メタルトキハ少年審判所ニ送致スル旨ノ決定ヲ為スヘシ
検事ハ前項ノ決定ニ対シ三日内ニ抗告ヲ為スコトヲ得
第七十二条 第六十六条ノ処分ハ事件ヲ終局セシムル裁判ノ確定ニ因リ其ノ効力ヲ失フ
第七十三条 第四十二条、第四十三条第二項第三項及第四十四条ノ規定ハ公判ノ手続ニ第六十条及第六十一条ノ規定ハ予審又ハ公判ノ手続ニ之ヲ準用ス
第七章 罰則
第七十四条 少年審判所ノ審判ニ付セラレタル事項又ハ少年ニ対スル刑事事件ニ付予審又ハ公判ニ付セラレタル事項ハ之ヲ新聞紙其ノ他ノ出版物ニ掲載スルコトヲ得ス
前項ノ規定ニ違反シタルトキハ新聞紙ニ在リテハ編輯人及発行人、其ノ他ノ出版物ニ在リテハ著作者及発行者ヲ一年以下ノ禁錮又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム