朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル鐵道船舶郵便法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十二日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
遞信大臣 子爵 芳川顯正
法律第五十六號
鐵道船舶郵便法
第一條 本法ニ於テ鐵道運送業者ト稱スルハ私設鐵道條例ニ依リ鐵道ヲ以テ運送營業ヲ爲ス者ヲ謂ヒ船舶運送業者ト稱スルハ商法ニ依リ船舶ヲ以テ運送營業ヲ爲ス者ヲ謂フ
第二條 鐵道運送業者ハ郵便取扱ノ爲郵便官署ノ要求アルトキハ鐵道用地及停車場建物ノ一部ヲ供シ又ハ建物ノ建築若ハ改築ヲ爲スヘシ
前項ノ場合ニ於テ土地建物ノ使用料及建築改築ノ費用ハ郵便官署之ヲ支給ス
第三條 鐵道運送業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ定期列車每ニ郵便車トシテ列車定數ノ總容積ノ五分ノ一迄ハ其ノ列車ノ一部ヲ供給シ又ハ郵便官署ノ交付ニ係ル同一容積以內ノ郵便車ヲ聯結スヘシ
船舶運送業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ其ノ船舶ニ相當ノ郵便船室ヲ供給スヘシ
第四條 郵便車ノ構造ハ通常客車ト同一タルコトヲ要ス
第五條 郵便車又ハ郵便船室ニハ郵便物郵便取扱員及其ノ監視員ノ外搭載スルコトヲ得ス
第六條 鐵道運送業者又ハ船舶運送業者ハ郵便官署ノ要求ニ應シ郵便車又ハ郵便船室ニ郵便物ノ取扱ニ必要ナル設備及維持ヲ爲スヘシ
鐵道運送業者ハ郵便官署ノ交付ニ係ル郵便車ヲ保管スヘシ
前二項ノ場合ニ於テ設備維持及保管ニ要スル費用ハ郵便官署之ヲ支給ス
第七條 鐵道運送業者ハ列車仕立驛ニ於テ指定ノ郵便車ノ外臨時容積ノ增加ヲ要シ又ハ臨時郵便車ノ聯結ヲ要スル爲其ノ列車出發時刻三十分前迄ニ郵便官署ノ要求アルトキハ他ノ郵便車ヲ聯結シ又ハ通常客車ヲ其ノ代用ニ供スヘシ
第八條 鐵道運送業者ハ郵便官署ニ於テ郵便車ニ依ラサル郵便物ノ運送ヲ要求シタルトキハ旅客列車ニ依リ運送スル貨物ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ運送スヘシ
第九條 鐵道運送業者列車ノ發着時刻ヲ變更スルトキハ七日以前ニ之ヲ郵便官署ニ報吿スヘシ但シ天災其ノ他避クヘカラサル事故ノ爲發着時刻ノ變更ヲ決定シタルトキハ直ニ報吿スヘシ
第十條 郵便車ノ使用料金ハ左ノ割合ニ依ル
三百立方尺迄 一哩每ニ 金一錢八厘以內
五百立方尺迄 一哩每ニ 金三錢五厘以內
七百立方尺迄 一哩每ニ 金五錢六厘以內
千立方尺迄 一哩每ニ 金九錢以內
千立方尺ヲ超過シタルトキハ其ノ全容積ニ對シ百立方尺迄ニ付一哩每ニ金一錢以內
郵便車ノ容積ハ各列車ニ於ケル郵便車總容積ヲ以テ之ヲ算定ス其ノ容積ノ算定方法ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
郵便物ヲ旅客列車ニ依リ運送スル貨物ト同一ノ方法ヲ以テ運送セシムルトキハ其ノ運送料金ハ其ノ鐵道運送業者ノ定メタル普通貨物運賃ノ最低額ノ半額以內トス
郵便官署ヨリ郵便車ヲ交付シタル場合ニ於テ鐵道運送業者ニ支給スヘキ金額ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十一條 船舶運送業者ハ船舶ニ搭載シタル郵便物ヲ其ノ目的地ニ於テ他ノ貨物ニ先チ陸揚スヘシ天災事變ノ爲航海ノ途中ニ於テ積替若ハ陸揚スルトキ亦同シ
第十二條 船舶運送業者ニ交付スヘキ運送料金ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十三條 郵便物搭載列車天災事變ノ爲其ノ進行ヲ停止シタルトキ又ハ郵便物搭載船舶航行中天災事變ニ因リ郵便物ヲ陸揚シタルトキハ鐵道運送業者又ハ船舶運送業者ハ郵便取扱員ノ在ラサル場合ニ限リ直ニ該郵便物ヲ附近郵便官署ニ送達スヘシ其ノ送達ニ要スル費用ハ之ヲ支給ス
第十四條 第三條ノ要求ニ應セサル者又ハ正當ノ理由ナクシテ第二條若ハ第七條ノ要求ニ應セサル者ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十五條 第六條第一項及第二項ニ違反シタル者又ハ正當ノ理由ナクシテ第八條ノ要求ニ應セサル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス第五條ニ違反シタル鐵道運送業者及船舶運送業者亦同シ
第十六條 第十三條ニ依ル送達ヲ爲ササル者ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十七條 過失ニ依リ運送中ニ係ル郵便物ヲ亡失シ又ハ之ヲ毀損シタルトキハ鐵道運送業者又ハ船舶運送業者ヲ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十八條 第九條又ハ第十一條ニ違反シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第十九條 法人ノ業務ニ關シ其ノ代表者又ハ雇人其ノ他ノ從業者前數條ノ罪ヲ犯シタルトキハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス
法人ヲ處罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被吿人トス
法人ヲ處罰スルノ裁判確定シタル日ヨリ罰金ニ關シテハ一月以內科料ニ關シテハ十日以內ニ之ヲ納完セサルトキハ民事訴訟法第六編ノ規定ニ從ヒテ其ノ執行ヲ爲ス此ノ場合ニ於テハ檢事ノ命令ヲ以テ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ效力アルモノトス
前項ニ依リ執行ヲ爲スニハ執行前裁判ノ送達ヲ爲スコトヲ要セス
第二十條 軌道條例ニ依リ運送營業ヲ爲ス者ニ對シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第二十一條 鐵道又ハ航路若ハ船舶ニ關シ政府ヨリ補助ヲ受ケ若ハ受ケタル鐵道運送業者又ハ船舶運送業者ニ對シ特別ノ命令アルトキハ其ノ命令ニ依ル
附 則
本法ハ明治三十三年十月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル鉄道船舶郵便法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十二日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
逓信大臣 子爵 芳川顕正
法律第五十六号
鉄道船舶郵便法
第一条 本法ニ於テ鉄道運送業者ト称スルハ私設鉄道条例ニ依リ鉄道ヲ以テ運送営業ヲ為ス者ヲ謂ヒ船舶運送業者ト称スルハ商法ニ依リ船舶ヲ以テ運送営業ヲ為ス者ヲ謂フ
第二条 鉄道運送業者ハ郵便取扱ノ為郵便官署ノ要求アルトキハ鉄道用地及停車場建物ノ一部ヲ供シ又ハ建物ノ建築若ハ改築ヲ為スヘシ
前項ノ場合ニ於テ土地建物ノ使用料及建築改築ノ費用ハ郵便官署之ヲ支給ス
第三条 鉄道運送業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ定期列車毎ニ郵便車トシテ列車定数ノ総容積ノ五分ノ一迄ハ其ノ列車ノ一部ヲ供給シ又ハ郵便官署ノ交付ニ係ル同一容積以内ノ郵便車ヲ連結スヘシ
船舶運送業者ハ郵便官署ノ要求アルトキハ其ノ船舶ニ相当ノ郵便船室ヲ供給スヘシ
第四条 郵便車ノ構造ハ通常客車ト同一タルコトヲ要ス
第五条 郵便車又ハ郵便船室ニハ郵便物郵便取扱員及其ノ監視員ノ外搭載スルコトヲ得ス
第六条 鉄道運送業者又ハ船舶運送業者ハ郵便官署ノ要求ニ応シ郵便車又ハ郵便船室ニ郵便物ノ取扱ニ必要ナル設備及維持ヲ為スヘシ
鉄道運送業者ハ郵便官署ノ交付ニ係ル郵便車ヲ保管スヘシ
前二項ノ場合ニ於テ設備維持及保管ニ要スル費用ハ郵便官署之ヲ支給ス
第七条 鉄道運送業者ハ列車仕立駅ニ於テ指定ノ郵便車ノ外臨時容積ノ増加ヲ要シ又ハ臨時郵便車ノ連結ヲ要スル為其ノ列車出発時刻三十分前迄ニ郵便官署ノ要求アルトキハ他ノ郵便車ヲ連結シ又ハ通常客車ヲ其ノ代用ニ供スヘシ
第八条 鉄道運送業者ハ郵便官署ニ於テ郵便車ニ依ラサル郵便物ノ運送ヲ要求シタルトキハ旅客列車ニ依リ運送スル貨物ト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ運送スヘシ
第九条 鉄道運送業者列車ノ発着時刻ヲ変更スルトキハ七日以前ニ之ヲ郵便官署ニ報告スヘシ但シ天災其ノ他避クヘカラサル事故ノ為発着時刻ノ変更ヲ決定シタルトキハ直ニ報告スヘシ
第十条 郵便車ノ使用料金ハ左ノ割合ニ依ル
三百立方尺迄 一哩毎ニ 金一銭八厘以内
五百立方尺迄 一哩毎ニ 金三銭五厘以内
七百立方尺迄 一哩毎ニ 金五銭六厘以内
千立方尺迄 一哩毎ニ 金九銭以内
千立方尺ヲ超過シタルトキハ其ノ全容積ニ対シ百立方尺迄ニ付一哩毎ニ金一銭以内
郵便車ノ容積ハ各列車ニ於ケル郵便車総容積ヲ以テ之ヲ算定ス其ノ容積ノ算定方法ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
郵便物ヲ旅客列車ニ依リ運送スル貨物ト同一ノ方法ヲ以テ運送セシムルトキハ其ノ運送料金ハ其ノ鉄道運送業者ノ定メタル普通貨物運賃ノ最低額ノ半額以内トス
郵便官署ヨリ郵便車ヲ交付シタル場合ニ於テ鉄道運送業者ニ支給スヘキ金額ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十一条 船舶運送業者ハ船舶ニ搭載シタル郵便物ヲ其ノ目的地ニ於テ他ノ貨物ニ先チ陸揚スヘシ天災事変ノ為航海ノ途中ニ於テ積替若ハ陸揚スルトキ亦同シ
第十二条 船舶運送業者ニ交付スヘキ運送料金ハ命令ノ定ムル所ニ依ル
第十三条 郵便物搭載列車天災事変ノ為其ノ進行ヲ停止シタルトキ又ハ郵便物搭載船舶航行中天災事変ニ因リ郵便物ヲ陸揚シタルトキハ鉄道運送業者又ハ船舶運送業者ハ郵便取扱員ノ在ラサル場合ニ限リ直ニ該郵便物ヲ附近郵便官署ニ送達スヘシ其ノ送達ニ要スル費用ハ之ヲ支給ス
第十四条 第三条ノ要求ニ応セサル者又ハ正当ノ理由ナクシテ第二条若ハ第七条ノ要求ニ応セサル者ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
第十五条 第六条第一項及第二項ニ違反シタル者又ハ正当ノ理由ナクシテ第八条ノ要求ニ応セサル者ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス第五条ニ違反シタル鉄道運送業者及船舶運送業者亦同シ
第十六条 第十三条ニ依ル送達ヲ為ササル者ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第十七条 過失ニ依リ運送中ニ係ル郵便物ヲ亡失シ又ハ之ヲ毀損シタルトキハ鉄道運送業者又ハ船舶運送業者ヲ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第十八条 第九条又ハ第十一条ニ違反シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第十九条 法人ノ業務ニ関シ其ノ代表者又ハ雇人其ノ他ノ従業者前数条ノ罪ヲ犯シタルトキハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス
法人ヲ処罰スヘキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ被告人トス
法人ヲ処罰スルノ裁判確定シタル日ヨリ罰金ニ関シテハ一月以内科料ニ関シテハ十日以内ニ之ヲ納完セサルトキハ民事訴訟法第六編ノ規定ニ従ヒテ其ノ執行ヲ為ス此ノ場合ニ於テハ検事ノ命令ヲ以テ執行力ヲ有スル債務名義ト同一ノ効力アルモノトス
前項ニ依リ執行ヲ為スニハ執行前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
第二十条 軌道条例ニ依リ運送営業ヲ為ス者ニ対シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第二十一条 鉄道又ハ航路若ハ船舶ニ関シ政府ヨリ補助ヲ受ケ若ハ受ケタル鉄道運送業者又ハ船舶運送業者ニ対シ特別ノ命令アルトキハ其ノ命令ニ依ル
附 則
本法ハ明治三十三年十月一日ヨリ之ヲ施行ス