第一條 此ノ法律ニ於テ行旅病人ト稱スルハ步行ニ堪ヘサル行旅中ノ病人ニシテ療養ノ途ヲ有セス且救護者ナキ者ヲ謂ヒ行旅死亡人ト稱スルハ行旅中死亡シ引取者ナキ者ヲ謂フ
住所、居所若ハ氏名知レス且引取者ナキ死亡人ハ行旅死亡人ト看做ス
前二項ノ外行旅病人及行旅死亡人ニ準スヘキ者ハ內務大臣之ヲ定ム
第二條 行旅病人ハ其ノ所在地市町村長之ヲ救護スヘシ
必要ノ場合ニ於テハ市町村長ハ行旅病人ノ同伴者ニ對シテ亦相當ノ救護ヲ爲スヘシ
第三條 行旅病人又ハ其ノ同伴者ヲ救護シタルトキハ市町村長ハ速ニ扶養義務者若ハ家族又ハ第五條ニ揭ケタル公共團體ニ通知シ之ヲ引取ラシムルノ手續ヲ爲スヘシ
前項ノ通知及引取ノ手續竝期間ノ指定其ノ他之ニ關スル必要ナル事項ハ內務大臣之ヲ定ム
第四條 救護ニ要シタル費用ハ被救護者ノ負擔トシ被救護者ヨリ辨償ヲ得サルトキハ其ノ扶養義務者ノ負擔トス
第五條 行旅病人若ハ其ノ同伴者ノ引取ヲ爲ス者ナキトキ又ハ救護費用ノ辨償ヲ得サル場合ニ於テ其ノ引取竝費用ノ辨償ヲ爲スヘキ公共團體ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第六條 扶養義務者ニ對スル被救護者引取ノ請求及救護費用辨償ノ請求ハ扶養義務者中ノ何人ニ對シテモ之ヲ請求スルコトヲ得但シ費用ノ辨償ヲ爲シタル者ハ民法第九百五十五條及第九百五十六條ニ依リ扶養ノ義務ヲ履行スヘキ者ニ對シ求償ヲ爲スヲ妨ケス
第七條 行旅死亡人アルトキハ其ノ所在地市町村長ハ其ノ狀況相貌遺留物件其ノ他本人ノ認識ニ必要ナル事項ヲ記錄シ其ノ屍體ヲ假土葬スヘシ但シ法令ニ別段ノ規定アル場合ニ於テ之ヲ火葬スルコトヲ妨ケス
墓地若ハ火葬場ノ管理者ハ本條ノ假土葬又ハ火葬ヲ拒ムコトヲ得ス
第八條 必要ノ場合ニ於テハ市町村長ハ行旅死亡人ノ同伴者ニ對シテ亦相當ノ救護ヲ爲スヘシ
第九條 行旅死亡人ノ住所、居所若ハ氏名知レサルトキハ市町村長ハ其ノ狀況相貌遺留物件其ノ他本人ノ認識ニ必要ナル事項ヲ公署ノ揭示場ニ吿示シ且官報若ハ新聞紙ニ公吿スヘシ
第十條 行旅死亡人ノ住所若ハ居所及氏名知レタルトキハ市町村長ハ速ニ相續人ニ通知シ相續人分明ナラサルトキハ扶養義務者若ハ家族ニ通知シ又ハ第十三條ニ揭ケタル公共團體ニ通知スヘシ
前項ノ手續其ノ他之ニ關スル必要ナル事項ニ付テハ第三條第二項ヲ準用ス
第十一條 行旅死亡人取扱ノ費用ハ先ツ其ノ遺留ノ金錢若ハ有價證券ヲ以テ之ニ充テ仍足ラサルトキハ相續人ノ負擔トシ相續人ヨリ辨償ヲ得サルトキハ死亡人ノ扶養義務者ノ負擔トス
第十二條 行旅死亡人ノ遺留物件ハ市町村長之ヲ保管スヘシ但シ其ノ保管ノ物件滅失若ハ毀損ノ虞アルトキ又ハ其ノ保管ニ不相當ノ費用若ハ手數ヲ要スルトキハ之ヲ賣却シ又ハ棄却スルコトヲ得
第十三條 市町村長ハ第九條ノ公吿後六十日ヲ經過スルモ仍行旅死亡人取扱費用ノ辨償ヲ得サルトキハ行旅死亡人ノ遺留物品ヲ賣却シテ其ノ費用ニ充ツルコトヲ得其ノ仍足ラサル場合ニ於テ費用ノ辨償ヲ爲スヘキ公共團體ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
市町村ハ行旅死亡人取扱費用ニ付遺留物件ノ上ニ他ノ債權者ノ先取特權ニ對シ優先權ヲ有ス
第十四條 市町村長ハ行旅死亡人取扱費用ノ辨償ヲ得タルトキハ相續人ニ其ノ保管スル遺留物件ヲ引渡スヘシ相續人ナキトキハ正當ナル請求者ト認ムル者ニ之ヲ引渡スコトヲ得
第十五條 行旅病人行旅死亡人及其ノ同伴者ノ救護若ハ取扱ニ關スル費用ハ所在地市町村費ヲ以テ一時之ヲ繰替フヘシ
前項費用ノ辨償金徵收ニ付テハ市町村稅徵收ニ關スル例ニ依ル
第十六條 行旅病人行旅死亡人ノ所持物件若ハ遺留物件ノ取扱ニ關スル規定ハ內務大臣之ヲ定ム
第十七條 外國人タル行旅病人行旅死亡人及其ノ同伴者竝其ノ所持物件若ハ遺留物件ノ取扱ニ關シ別段ノ規定ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十八條 船車內ニ於ケル行旅病人行旅死亡人及其ノ同伴者竝其ノ所持物件若ハ遺留物件ノ取扱ニ關シ別段ノ規定ヲ要スルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九條 此ノ法律ニ於テ市町村長トアルハ東京市京都市大阪市其ノ他勅令ヲ以テ指定シタル市ニ於テハ區長ニ、市町村長ヲ置カサル地ニ於テハ之ニ準スヘキモノニ、市町村トアルハ市制町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ之ニ準スヘキモノニ準用ス
第二十條 北海道沖繩縣其ノ他市制町村制ヲ施行セサル地ニハ命令ヲ以テ別段ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第二十一條 此ノ法律ハ明治三十二年七月一日ヨリ施行ス
第二十二條 明治十五年第四十九號布吿行旅死亡人取扱規則ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス