朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル國有林野法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十二日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
農商務大臣 曾禰荒助
法律第八十五號
國有林野法
第一條 此ノ法律ニ於テ國有林野ト稱スルハ國ノ所有ニ屬スル森林原野ヲ謂フ
第二條 國有林野ニシテ國土保安又ハ國有林野ノ經營上國有トシテ保存ノ必要アルモノハ賣拂讓與又ハ交換スルコトヲ得ス但シ公用又ハ公益事業ノ爲必要アルトキ及第十五條ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三條 前條ノ國有林野ト雖他ノ官有地ニ編入スルノ必要アルトキハ之カ組換ヲ爲スコトヲ得
組換ヲ爲シタル土地ニシテ其ノ使用ヲ廢シタル場合ニ於テ林野ニ復スヘキ必要アルモノハ更ニ國有林野ニ編入ス
社寺上地ニシテ其ノ境內ニ必要ナル風致林野ハ區域ヲ畫シテ社寺現境內ニ編入スルコトヲ得
第四條 國有林野ノ境界査定ハ當該官廳ニ於テ豫メ期日ヲ定メ鄰接地所有者ニ通吿シテ其ノ立會ヲ求メ施行スヘシ
鄰接地所有者豫定期日ニ於テ立會ハサルコトアルモ當該官廳ハ境界査定ヲ施行スルコトヲ得
第五條 國有林野ノ境界査定ヲ終ヘタルトキハ當該官廳ハ直ニ鄰接地所有者ニ通吿スヘシ
第六條 國有林野ノ境界査定又ハ測量ノ爲目標ヲ設置シ若ハ支障木竹ヲ伐採スルノ必要アルトキハ其ノ土地若ハ木竹ノ所有者ハ正當ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス但シ相當ノ補償ヲ求ムルコトヲ得
第七條 鄰接地所有者境界査定ニ不服アルトキハ第五條ノ通吿ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八條 國有林野ハ左ノ場合ニ限リ隨意契約ヲ以テ賣拂フコトヲ得
一 公用又ハ公益事業ノ爲必要アルトキ
二 市町村又ハ公立小學校ノ基本財產ニ充ツルトキ
三 社寺上地ノ森林ヲ其ノ社寺ニ賣拂フトキ
四 命令ノ定ムル所ニ依リ特別ノ緣故アル林野ヲ其ノ緣故アル者ニ賣拂フトキ
五 民有地、道路、河川等ニ介在スル十町步以內ノ林野ヲ賣拂フトキ
六 道路、溜池、堤塘、溝渠等ノ敷地トシテ貸付シアル林野ヲ其ノ借地人ニ賣拂フトキ
七 此ノ法律施行以前ニ開墾、牧畜又ハ植樹ノ爲貸付シタル林野又ハ第九條ノ開墾地ヲ其ノ事業ヲ成功シタル者ニ賣拂フトキ
第九條 國有林野ハ開墾ノ成功ヲ條件トシ豫メ其ノ價格及成功期限ヲ定メ隨意契約ヲ以テ賣拂ノ豫約ヲ爲スコトヲ得
第十條 國有林野產物ノ隨意契約ニ依ル賣拂ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條 國有林野ハ左ノ場合ニ限リ隨意契約ヲ以テ貸付シ又ハ使用セシムルコトヲ得
一 公用又ハ公益事業ノ爲必要アルトキ
二 牧畜又ハ植樹ノ爲必要アルトキ
三 牛馬放牧ノ爲使用セシムルトキ
四 第九條ニ依ル開墾者ノ爲ニスルトキ
五 一箇年貸付料三百圓ヲ超ヱサルトキ
第十二條 國有林野ヲ貸付シ又ハ使用セシムルトキハ相當ノ貸付料又ハ牛馬放牧料ヲ徵收スヘシ但シ前條第一號及第四號ノ場合ニ於テハ貸付料ヲ免スルコトヲ得
第十三條 國有林野ヲ貸付シ又ハ使用セシムルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
一 植樹ノ場合ニ於テハ八十年
二 家屋、倉庫其ノ他ノ建設物ノ場合ニ於テハ三十年
三 其ノ他ノ場合ニ於テハ十五年
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第十四條 國土保安又ハ國有林野ノ經營上必要ナル場合ニ限リ國有林野又ハ立木竹ト他ノ同價格以上ノ土地、森林、原野又ハ立木竹ト交換スルコトヲ得
第十五條 國有林野ハ左ノ場合ニ限リ讓與スルコトヲ得
一 段別一町步以下ニシテ公立ノ學校又ハ病院ノ用地ニ供スルトキ
二 府縣郡市町村及其ノ他ノ公共團體ニ於テ道路、河川、港灣、水道、堤塘、溝渠、溜池、火葬場、墓地、公園等公共ノ用ニ供スルトキ
第十六條 用途ヲ指定シテ讓與シタル國有林野ヲ指定ノ期間內ニ其ノ用途ニ使用セサルトキ又ハ一旦其ノ用途ニ使用シタル後當該官廳ニ於テ指定シタル期間其ノ使用ヲ繼續セサルトキハ之ヲ返還セシムルコトヲ得
前項ニ依リ林野ヲ返還セシメタル場合ニ於テハ其ノ林野ノ上ニ設定シタル第三者ノ權利ハ消滅ス
第十七條 社寺上地ノ森林ハ其ノ社寺ニ保管セシムルコトヲ得
社寺ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ社寺林地ヲ使用シ又ハ主副產物ヲ採取スルコトヲ得
第十八條 國有林野ニシテ保護上必要ナル場合ニ於テハ市町村又ハ市町村內ノ一部ニ其ノ保護ヲ委託スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ其ノ受託者ニ林野產物ヲ讓與スルコトヲ得
委託ノ方法及受託者ニ讓與スヘキ林野產物ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九條 國ハ造林者ト其ノ收益ヲ分收スルノ契約ヲ以テ國有林野ニ部分林ヲ設クルコトヲ得
法令、慣行又ハ其ノ他ノ理由ニ依リ國有林ニ就キ收益ノ分收ヲ爲スモノハ前項ノ部分林ト看做ス
第二十條 部分林ノ樹木ハ國ト造林者トノ共有トシ其ノ持分ハ收益分收ノ部合ニ均シキモノトス
部分林設定前ヨリ存在スル樹木ハ國ノ所有トス
第二十一條 部分林ノ存續期間ハ八十年ヲ超ユルコトヲ得ス
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第二十二條 民法第二百五十六條ノ規定ハ部分林ノ樹木ニ適用セス
第二十三條 第十八條第二項及第三項ノ規定ハ部分林ノ造林者ニ之ヲ準用ス
第二十四條 主務大臣ハ十箇年每ニ其ノ年三月三十一日ニ現在スル國有林野現在表ヲ其ノ年開會ノ帝國議會ニ報吿スヘシ但シ第一囘ノ報吿ハ明治三十四年三月三十一日ノ現在ニ依ル
第二十五條 主務大臣ハ每會計年度間ニ於ケル國有林野ノ增減異動ヲ翌年度開會ノ帝國議會ニ報吿スヘシ
附 則
第二十六條 此ノ法律ハ北海道及沖繩縣ニ施行セス
第二十七條 此ノ法律ハ明治三十二年七月一日ヨリ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル国有林野法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十二日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
農商務大臣 曽祢荒助
法律第八十五号
国有林野法
第一条 此ノ法律ニ於テ国有林野ト称スルハ国ノ所有ニ属スル森林原野ヲ謂フ
第二条 国有林野ニシテ国土保安又ハ国有林野ノ経営上国有トシテ保存ノ必要アルモノハ売払譲与又ハ交換スルコトヲ得ス但シ公用又ハ公益事業ノ為必要アルトキ及第十五条ノ場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三条 前条ノ国有林野ト雖他ノ官有地ニ編入スルノ必要アルトキハ之カ組換ヲ為スコトヲ得
組換ヲ為シタル土地ニシテ其ノ使用ヲ廃シタル場合ニ於テ林野ニ復スヘキ必要アルモノハ更ニ国有林野ニ編入ス
社寺上地ニシテ其ノ境内ニ必要ナル風致林野ハ区域ヲ画シテ社寺現境内ニ編入スルコトヲ得
第四条 国有林野ノ境界査定ハ当該官庁ニ於テ予メ期日ヲ定メ隣接地所有者ニ通告シテ其ノ立会ヲ求メ施行スヘシ
隣接地所有者予定期日ニ於テ立会ハサルコトアルモ当該官庁ハ境界査定ヲ施行スルコトヲ得
第五条 国有林野ノ境界査定ヲ終ヘタルトキハ当該官庁ハ直ニ隣接地所有者ニ通告スヘシ
第六条 国有林野ノ境界査定又ハ測量ノ為目標ヲ設置シ若ハ支障木竹ヲ伐採スルノ必要アルトキハ其ノ土地若ハ木竹ノ所有者ハ正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス但シ相当ノ補償ヲ求ムルコトヲ得
第七条 隣接地所有者境界査定ニ不服アルトキハ第五条ノ通告ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八条 国有林野ハ左ノ場合ニ限リ随意契約ヲ以テ売払フコトヲ得
一 公用又ハ公益事業ノ為必要アルトキ
二 市町村又ハ公立小学校ノ基本財産ニ充ツルトキ
三 社寺上地ノ森林ヲ其ノ社寺ニ売払フトキ
四 命令ノ定ムル所ニ依リ特別ノ縁故アル林野ヲ其ノ縁故アル者ニ売払フトキ
五 民有地、道路、河川等ニ介在スル十町歩以内ノ林野ヲ売払フトキ
六 道路、溜池、堤塘、溝渠等ノ敷地トシテ貸付シアル林野ヲ其ノ借地人ニ売払フトキ
七 此ノ法律施行以前ニ開墾、牧畜又ハ植樹ノ為貸付シタル林野又ハ第九条ノ開墾地ヲ其ノ事業ヲ成功シタル者ニ売払フトキ
第九条 国有林野ハ開墾ノ成功ヲ条件トシ予メ其ノ価格及成功期限ヲ定メ随意契約ヲ以テ売払ノ予約ヲ為スコトヲ得
第十条 国有林野産物ノ随意契約ニ依ル売払ニ関スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一条 国有林野ハ左ノ場合ニ限リ随意契約ヲ以テ貸付シ又ハ使用セシムルコトヲ得
一 公用又ハ公益事業ノ為必要アルトキ
二 牧畜又ハ植樹ノ為必要アルトキ
三 牛馬放牧ノ為使用セシムルトキ
四 第九条ニ依ル開墾者ノ為ニスルトキ
五 一箇年貸付料三百円ヲ超ヱサルトキ
第十二条 国有林野ヲ貸付シ又ハ使用セシムルトキハ相当ノ貸付料又ハ牛馬放牧料ヲ徴収スヘシ但シ前条第一号及第四号ノ場合ニ於テハ貸付料ヲ免スルコトヲ得
第十三条 国有林野ヲ貸付シ又ハ使用セシムルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
一 植樹ノ場合ニ於テハ八十年
二 家屋、倉庫其ノ他ノ建設物ノ場合ニ於テハ三十年
三 其ノ他ノ場合ニ於テハ十五年
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第十四条 国土保安又ハ国有林野ノ経営上必要ナル場合ニ限リ国有林野又ハ立木竹ト他ノ同価格以上ノ土地、森林、原野又ハ立木竹ト交換スルコトヲ得
第十五条 国有林野ハ左ノ場合ニ限リ譲与スルコトヲ得
一 段別一町歩以下ニシテ公立ノ学校又ハ病院ノ用地ニ供スルトキ
二 府県郡市町村及其ノ他ノ公共団体ニ於テ道路、河川、港湾、水道、堤塘、溝渠、溜池、火葬場、墓地、公園等公共ノ用ニ供スルトキ
第十六条 用途ヲ指定シテ譲与シタル国有林野ヲ指定ノ期間内ニ其ノ用途ニ使用セサルトキ又ハ一旦其ノ用途ニ使用シタル後当該官庁ニ於テ指定シタル期間其ノ使用ヲ継続セサルトキハ之ヲ返還セシムルコトヲ得
前項ニ依リ林野ヲ返還セシメタル場合ニ於テハ其ノ林野ノ上ニ設定シタル第三者ノ権利ハ消滅ス
第十七条 社寺上地ノ森林ハ其ノ社寺ニ保管セシムルコトヲ得
社寺ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ社寺林地ヲ使用シ又ハ主副産物ヲ採取スルコトヲ得
第十八条 国有林野ニシテ保護上必要ナル場合ニ於テハ市町村又ハ市町村内ノ一部ニ其ノ保護ヲ委託スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ其ノ受託者ニ林野産物ヲ譲与スルコトヲ得
委託ノ方法及受託者ニ譲与スヘキ林野産物ニ関スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九条 国ハ造林者ト其ノ収益ヲ分収スルノ契約ヲ以テ国有林野ニ部分林ヲ設クルコトヲ得
法令、慣行又ハ其ノ他ノ理由ニ依リ国有林ニ就キ収益ノ分収ヲ為スモノハ前項ノ部分林ト看做ス
第二十条 部分林ノ樹木ハ国ト造林者トノ共有トシ其ノ持分ハ収益分収ノ部合ニ均シキモノトス
部分林設定前ヨリ存在スル樹木ハ国ノ所有トス
第二十一条 部分林ノ存続期間ハ八十年ヲ超ユルコトヲ得ス
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得
第二十二条 民法第二百五十六条ノ規定ハ部分林ノ樹木ニ適用セス
第二十三条 第十八条第二項及第三項ノ規定ハ部分林ノ造林者ニ之ヲ準用ス
第二十四条 主務大臣ハ十箇年毎ニ其ノ年三月三十一日ニ現在スル国有林野現在表ヲ其ノ年開会ノ帝国議会ニ報告スヘシ但シ第一回ノ報告ハ明治三十四年三月三十一日ノ現在ニ依ル
第二十五条 主務大臣ハ毎会計年度間ニ於ケル国有林野ノ増減異動ヲ翌年度開会ノ帝国議会ニ報告スヘシ
附 則
第二十六条 此ノ法律ハ北海道及沖縄県ニ施行セス
第二十七条 此ノ法律ハ明治三十二年七月一日ヨリ施行ス