第一條 工業上ノ物品及方法ニ關シ最先ノ發明ヲ爲シタル者若ハ其ノ承繼人ハ此ノ法律ニ依リ特許ヲ受クルコトヲ得
物品ノ發明ニ係ル特許ハ特許ヲ受ケタル者ニ限リ其ノ發明ノ物品ヲ製作、使用、販賣若ハ擴布スルノ權利ヲ有セシム
方法ノ發明ニ係ル特許ハ特許ヲ受ケタル者ニ限リ之ヲ使用若ハ擴布スルノ權利ヲ有セシム但其ノ特許ノ效力ハ同一方法ニ依リ製作セラレタル物品ニ及フモノトス
第三條 特許ノ年限ハ十五年トシ原簿登錄ノ日ヨリ起算ス
第四條 特許ハ制限ヲ付シ若ハ付セスシテ讓渡シ、共有ト爲シ又ハ質權ノ目的ト爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ特許局ニ請求シ其ノ登錄ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五條 特許局ノ官吏ハ在職中特許ヲ有スルコトヲ得ス但シ相續ニ因リ之ヲ取得シ又ハ在職前ヨリ之ヲ有スルトキハ此ノ限ニアラス
第六條 特許ニ關シ出願若ハ請求ヲ爲サントスル者又ハ特許證主ニシテ帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ帝國內ニ住居ヲ有スル者ニ就キ代理人ヲ定ムヘシ
前項代理人ハ此ノ法律及之ニ基キテ發スル命令ノ定ムル所ニ依リ特許局ニ對シテ爲スヘキ手續又ハ特許ニ關スル民事訴訟及吿訴ニ付本人ヲ代表スルモノトス
第七條 特許局長ハ特許ニ關スル代理人ヲ適當ナラスト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトヲ得
第八條 特許ニ關スル代理ヲ常業トスル者ハ特許局長ニ願出登錄ヲ受クヘシ
第九條 前條ニ依リ登錄ヲ受ケタル代理業者ニシテ其ノ業務ニ關シ犯罪又ハ不正ノ行爲アリタルトキハ特許局長ハ其ノ代理業ヲ停止又ハ禁止スルコトヲ得
第十條 特許ニ關シ出願又ハ請求ヲ爲シタル者此ノ法律若ハ之ニ基キテ發スル命令ノ定ムル期間內又ハ此ノ法律若ハ之ニ基キテ發スル命令ニ依リ特許局長若ハ審判長ノ定ムル期間內ニ成規又ハ指定ノ手續ヲ爲ササルトキハ其ノ出願又ハ請求ハ無效トス
第十一條 特許ヲ受ケントスル者ハ一發明每ニ發明ノ明細書及必要ノ圖面ヲ添ヘ特許局長ニ出願スヘシ
特許局長ハ出願者ニ對シ必要ト認ムルトキハ雛形若ハ見本ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第十二條 特許ヲ出願シタルトキハ特許局審査官其ノ發明ヲ審査ス
第十三條 審査官ニ於テ特許ヲ與フヘキモノト査定シタルトキハ特許局長ハ特許原簿ニ登錄シ特許證ヲ下付ス
特許證ニハ特許局長之ニ署名シ明細書及必要ノ圖面ヲ添付ス
第十四條 工業所有權保護同盟條約國ニ於テ發明ノ特許ヲ出願シタル者七箇月以內ニ同一發明ニ付特許ヲ出願シタルトキハ其ノ出願ハ最初出願ノ日ニ於テ之ヲ爲シタルト同一ノ效力ヲ有ス
第十五條 政府若ハ府縣ノ開設シタル博覽會若ハ共進會ニ出品スル者ニシテ他日其ノ物品ニ付發明ノ特許ヲ出願セントスルトキハ出品前ニ於テ其ノ旨ヲ特許局長ニ屆出ヘシ
前項ノ場合ニ於テハ博覽會若ハ共進會ニ於テ其ノ物品ヲ受領セシ日ヨリ六箇月以內ニ特許ヲ出願シタル者ニ限リ最初屆出ノ日ニ於テ其ノ出願ヲ爲シタルト同一ノ效力ヲ有ス
工業所有權保護同盟條約國ニ於テ萬國博覽會ノ開設アルニ當リ其ノ國ニ於テ出品ニ對シ與ヘタル特許出願ノ期間ハ帝國內ニ於テモ有效トス
第十六條 公益ノ爲普及ヲ要スルモノ又ハ軍事上必要ナルモノ若ハ祕密ヲ要スルモノニ係ル發明ニシテ特許局長ニ於テ必要ト認メタルトキ又ハ主務官廳ヨリ請求アリタルトキハ特許局長ハ特許ニ制限ヲ付シ若ハ特許ヲ與ヘス又ハ旣ニ與ヘタル特許ヲ制限シ若ハ之ヲ取消スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ政府ハ相當ノ報酬ヲ特許出願者又ハ特許證主ニ與フヘキモノトス
第十七條 他人ノ特許發明ヲ利用シテ爲シタル發明ニ付特許ヲ出願シタル者特許ノ査定ヲ得タルトキハ原特許證主ニ協議シ其ノ發明ヲ使用スルノ承諾ヲ受クヘシ
發明者前項ノ承諾ヲ得ルコト能ハサルトキハ其ノ事由ヲ具シ特許局長ニ申吿スヘシ特許局長ニ於テ正當ノ理由アリト認ムルトキハ其ノ利用發明ニ對シ特許ヲ與フルコトヲ得但シ原特許證主ニ對シ特許局長ノ相當ト認ムル報酬ヲ仕拂フニ非サレハ其ノ特許ヲ實施スルコトヲ得ス
第十八條 前二條ノ報酬額ニ對シ不服アル者ハ裁判所ニ出訴スルコトヲ得但シ第十六條ノ場合ニ於テハ之カ爲處分ヲ停止セス
第十九條 特許證主ハ自己ノ特許發明ヲ利用シテ爲シタル發明ニ對シ追加特許ヲ受クルコトヲ得
第二十條 特許ヲ受ケタル發明ニシテ左ノ場合ニ該當スルモノアルトキハ其ノ特許ヲ無效トス
二 發明ノ實施ニ必要ナル事項ヲ故意ニ明細書ニ記載セサリシモノ
三 發明ノ實施ニ必要ナラサル事項ヲ故意ニ明細書ニ記載セシモノ
第二十一條 審査官ニ於テ特許ヲ與フヘカラスト査定シタルトキハ特許局長ハ其ノ査定書ヲ出願人ニ送付スヘシ
第二十二條 審査官ニ於テ特許出願ノ發明カ他人ノ特許出願中ノ發明又ハ他人ノ特許發明ト牴觸スト査定シタルトキハ特許局長ハ其ノ査定書ヲ關係人ニ送付スヘシ
第二十三條 前二條ノ査定ニ不服アル者ハ査定書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ特許局ニ不服理由書ヲ差出シ再審査ヲ請求スルコトヲ得
再審査ヲ請求スル者アルトキハ特許局長ハ前査定ニ干與セサル審査官ヲシテ更ニ之ヲ審査セシムヘシ
審査官其ノ不服理由ヲ不當ト査定シタルトキハ特許局長ハ其ノ査定書ヲ不服者ニ送付スヘシ
第二十四條 發明牴觸ノ査定確定シタルトキハ特許局長ハ關係人ヨリ發明ニ關スル始末書ヲ徵シ審査官ヲシテ發明完成ノ前後ヲ審査セシメ其ノ査定書ヲ關係人ニ送付スヘシ
第二十五條 前條ニ依リ旣ニ與ヘタル特許ヲ取消シ出願ノ發明ニ特許ヲ與フルトキハ其ノ特許年限ハ前特許登錄ノ日ヨリ起算ス
第二十六條 特許證主其ノ明細書若ハ圖面ノ不完全ナルコトヲ發見シタルトキハ改訂明細書若ハ圖面ヲ添ヘ特許證ノ改訂ヲ出願スルコトヲ得一箇ノ特許證ヲ分割シテ二箇以上ト爲スノ必要アルコトヲ發見シタルトキ亦同シ但シ發明ノ要部ヲ變更スルモノハ此ノ限ニアラス
第二十七條 前條ノ出願アリタルトキハ審査官之ヲ審査ス
前項ノ場合ニ於テ審査官ノ査定ニ不服アル者ハ第二十三條ニ依リ再審査ヲ請求スルコトヲ得
第二十八條 第二十三條及第二十七條ノ再査定ニ不服アル者ハ査定書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第二十九條 二箇以上ノ特許發明互ニ撞著シ又ハ特許發明ト特許ヲ受ケサル物品若ハ方法ト撞著スルコトヲ發見シタルトキハ利害關係人ハ權利ヲ確認スル爲特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第三十條 特許ヲ受ケタル發明第二十條ニ該當スルコトヲ發見シタル者ハ其ノ特許ヲ無效トスル爲特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第三十一條 特許局ノ審査、審判及報酬額ノ決定ニ關シ必要アルトキハ特許局ハ當事者ノ申立ニ因リ證據調ヲ爲シ又ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ區裁判所ニ證據調ヲ囑託スルコトヲ得
前項證據調ニ關シテハ民事訴訟法第二編第一章第五節乃至第十一節ノ規定ヲ準用ス
第三十二條 特許局ニ於テ審判スヘキ事件ハ審判官三人若ハ五人ヲ以テ之ヲ審判ス其ノ三人若ハ五人中ノ一人ヲ審判長トス
第三十三條 審判ハ正副二通ノ審判請求書ヲ以テ之ヲ請求スヘシ審判請求書ニハ理由ヲ付スルコトヲ要ス
特許局ニ於テ審判請求書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ被請求人ニ送付シ相當ノ期間ヲ指定シテ正副二通ノ答辯書ヲ差出サシムヘシ
特許局ハ必要ト認ムル場合ニ於テ期限ヲ付シテ更ニ請求人、被請求人ヨリ辯駁書、答辯書ヲ差出サシムルコトヲ得
審判長ハ職權又ハ當事者雙方ノ申立ニ因リ口頭審判ヲ爲スコトヲ得
第三十四條 請求人若ハ被請求人成規又ハ指定ノ期間內ニ答辯書若ハ辯駁書ヲ差出ササルトキ又ハ辯論期日ニ出頭セサルトキハ審判長ハ相手方ノ意見ヲ聽キ審判ヲ終結スルコトヲ得
第三十五條 第二十八條第二項第二十九條及第三十條ノ請求ニ因ル審決ニ對シ不服アル者ハ其ノ審決カ法律ヲ適用セス又ハ不當ニ適用シタルコトヲ理由トスルトキニ限リ審決書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ大審院ニ出訴スルコトヲ得
前項ノ訴及裁判ニ付テハ民事訴訟ノ上吿及其ノ裁判ニ關スル規定ヲ準用ス
第三十六條 大審院ニ於テ出訴ノ理由アリト認ムルトキハ原審決ヲ破毀シ更ニ審判ヲ爲サシムル爲事件ヲ特許局ニ差戾スヘシ
大審院ニ於テ裁判ヲ爲スニ當リ法律ノ㸃ニ付表シタル意見ハ其ノ事件ニ關シ特許局ヲ覊束スルモノトス
第三十七條 第二十八條第二項第二十九條及第三十條ノ請求ニ因ル審判ニ關スル費用ノ負擔及其ノ費用額ハ審判長之ヲ決定ス
大審院ニ於テ費用ノ負擔ヲ言渡シタル場合ニ於ケル費用額ニ付テモ亦同シ
前二項ノ費用ニ關シテハ民事訴訟法第七十二條乃至第八十二條第八十六條及民事訴訟費用法ヲ準用ス
第三十八條 特許ヲ受ケタル發明ニシテ左ノ場合ニ該當スルモノアルトキハ特許局長ニ於テ其ノ特許ヲ取消スコトヲ得
一 特許證主正當ノ事故ナクシテ特許證ノ日付ヨリ三年ヲ經ルモ帝國內ニ於テ其ノ發明ヲ實施公行セサル場合又ハ三年以上其ノ實施公行ヲ中止シタル場合ニ於テ第三者ヨリ相當ノ條件ヲ付シテ其ノ讓受若ハ使用ヲ請求スルモ之ヲ拒絕シタルトキ
二 特許證主特許料納付期限後六十日ヲ經過スルモ仍其ノ納付ヲ怠リタルトキ
三 特許證主正當ノ事故ナクシテ六箇月以上第六條ノ代理人ヲ置カサルトキ
第三十九條 特許證主ハ特許料トシテ各特許ニ付每年金十圓ヲ納ムヘシ
特許證主追加特許ヲ受ケタルトキハ追加特許料トシテ一時ニ金二十圓ヲ納ムヘシ
第四十條 特許料ハ每年一年分ヲ特許證ノ日付ニ應當スル日ニ於テ前納スヘシ第一年ニ係ルモノ及追加特許料ハ特許査定書到達ノ日ヨリ六十日以內ニ之ヲ納ムヘシ
前納セシ特許料ハ之ヲ還付セス但シ一時ニ二年分以上ノ特許料ヲ前納シタル場合ニ於テハ未タ其ノ納付期限ニ至ラサルモノニ限リ之ヲ還付ス
第四十一條 特許證主ハ其ノ特許品ニ特許ノ標記ヲ付スヘシ
第四十二條 特許局ハ特許公報ヲ發行シテ特許發明ノ明細書、圖面特許證ノ改訂、特許ノ異動其ノ他特許ニ關スル必要ノ事項ヲ公示スヘシ但シ祕密ヲ要スルモノハ此ノ限ニアラス
第四十三條 特許ニ關スル書類ノ謄本、圖面ノ調製又ハ特許原簿ノ一覽ヲ要スル者ハ特許局ニ請求スルコトヲ得但シ祕密ヲ要スルモノハ此ノ限ニアラス
第四十四條 證人又ハ鑑定人ニシテ特許局又ハ囑託ヲ受ケタル裁判所ニ對シ僞證又ハ詐僞ノ鑑定ヲ爲シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
賄賂其ノ他ノ方法ヲ以テ人ニ囑託シテ僞證又ハ詐僞ノ鑑定ヲ爲サシメタル者ハ罰前項ニ同シ
前二項ノ罪ヲ犯シタル者其ノ事件ノ査定、審決若ハ決定ニ至ラサル前特許局若ハ囑託ヲ受ケタル裁判所ニ自首シタルトキハ本刑ヲ免ス
第四十五條 他人ノ特許品ヲ僞造シタル者又ハ情ヲ知リテ僞造特許品ヲ使用シ若ハ販賣シタル者又ハ他人ノ特許方法ヲ竊用シタル者又ハ情ヲ知リ其ノ竊用シテ製造シタル物品ヲ使用若ハ販賣シタル者ハ十五日以上三年以下ノ重禁錮又ハ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
他人ノ特許ヲ侵害スヘキ物品ナルコトヲ知リ之ヲ外國ヨリ輸入シタル者又ハ情ヲ知リテ其ノ輸入シタル物品ヲ使用シ若ハ販賣シタル者ハ罰前項ニ同シ
第四十六條 前條ノ場合ニ於テ沒收シタル物件ハ之ヲ特許證主ニ給付ス
第四十七條 詐僞ノ所爲ヲ以テ特許ヲ受ケタル者又ハ特許ヲ受ケサル物品ニ特許標記ヲ付シ若ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者又ハ情ヲ知リ其ノ物品ヲ販賣シタル者ハ十五日以上一年以下ノ重禁錮又ハ十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
特許ヲ受ケサル物品ヲ販賣スル爲廣吿、看板、引札等ニ於テ特許品タルニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者ハ罰前項ニ同シ
第四十八條 第四十五條ノ犯罪ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ其ノ罪ヲ論ス
第四十九條 特許證主特許標記ヲ付スルコトヲ怠リタルトキハ其ノ特許品タルコトヲ知リテ其ノ權利ヲ侵害シタル者ニ對シテノミ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得
第五十條 特許證主其ノ特許品ノ要部ヲ分離シテ販賣シタルトキハ其ノ販賣シタル部分ニ對シ吿訴又ハ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス
第五十一條 此ノ法律ニ定メタル書類ノ送付ハ書留郵便又ハ特許局ノ使丁ヲ以テ之ヲ爲ス此ノ場合ニ於テ郵便配達人及特許局ノ使丁ハ民事訴訟法ノ送達吏ト準視ス