特許法
法令番号: 法律第二十三號
公布年月日: 明治42年4月5日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル特許法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年四月二日
內閣總理大臣 侯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 大浦兼武
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第二十三號
特許法
第一章 總則
第一條 新規ナル工業的發明ヲ爲シタル者ハ其ノ發明ニ付本法ニ依リ特許ヲ受クルコトヲ得
第二條 自己ノ特許發明又ハ特許出願中ノ發明ニ付改良又ハ擴張ヲ爲シタル者ハ其ノ改良又ハ擴張ニ係ル新規ノ發明ニ付追加特許ヲ受クルコトヲ得自己ノ特許發明又ハ特許出願中ノ發明ニ付他人ノ爲シタル改良又ハ擴張ニ係ル新規ノ發明ニ付特許ヲ受クルノ權利ヲ承繼シタル者亦同シ
前項ノ場合ニ於テ特許出願中ノ發明カ特許ヲ受クルコト能ハサルニ至リタルトキハ追加特許ノ出願ハ之ヲ獨立ノ特許出願ト爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テ其ノ獨立ノ特許出願ハ追加特許出願ノ時ニ於テ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第三條 職務上又ハ契約上爲シタル發明ニ付特許ヲ受クルノ權利ハ勤務規程又ハ契約ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外其ノ職務ヲ執行セシムル者又ハ使用者ニ屬ス
職務ノ執行又ハ契約ノ履行ニ依ル勤務中公務員又ハ被用者ノ爲シタル發明ニシテ職務上又ハ契約上爲シタルモノニ非サル發明ニ付發明前豫メ特許ヲ受クルノ權利又ハ特許權ヲ讓渡セシムルコトヲ定メタル勤務規程又ハ契約ノ條項ハ之ヲ無效トス
本條ニ於テ公務員ト稱スルハ刑法第七條第一項ノ公務員ヲ謂フ
第四條 本法ニ於テ發明ノ新規ト稱スルハ左ノ各號ニ該當セサルモノヲ謂フ
一 特許出願前帝國內ニ於テ公然知ラレ又ハ公然用井ラレタルモノ
二 特許出願前容易ニ應用スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ帝國內ニ頒布セラレタル刊行物ニ記載セラレタルモノ
第五條 發明カ左ノ各號ノ一ニ該當スルモ之ヲ新規ナルモノト看做ス
一 發明カ試驗ノ爲前條各號ノ一ニ該當スルニ至リタル時ヨリ二年以內ニ特許ヲ出願シタルトキ
二 同一發明ニ關スル特許出願中若ハ實用新案登錄出願中又ハ其ノ特許權若ハ實用新案權ノ存續中其ノ發明カ前條各號ノ一ニ該當スルニ至リタルトキ
第六條 左ニ揭クル發明ニ付テハ之ヲ特許セス
一 飮食物、嗜好物
二 醫藥、其ノ調合法
三 秩序若ハ風俗ヲ紊リ又ハ衞生ヲ害スルノ虞アルモノ
第七條 特許出願カ二以上ノ發明ヲ包含スルトキハ之ヲ分割スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ最初出願ノ時ニ於テ各出願ヲ爲シタルモノト看做ス
第八條 政府、道、府縣若ハ政府ノ認可ヲ得タルモノノ開設スル博覽會、共進會又ハ工業所有權保護同盟條約國ノ版圖內ニ開設スル官設若ハ官許ノ萬國博覽會ニ出品スル發明ニ付其ノ開會ノ日ヨリ六月以內ニ特許ヲ出願シタルトキハ開會ノ日ニ於テ出願シタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ命令ヲ以テ前項ノ出品ニ付豫メ屆出ツヘキコトヲ規定シタル場合ニ於テ其ノ屆出ヲ怠リタル者ニ對シ之ヲ適用セス
第一項ノ外外國ノ版圖內ニ開設スル官設又ハ官許ノ博覽會ニ出品スル發明ニ付保護ヲ與フルノ必要アルトキハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九條 同一發明ニ付各別ニ特許ヲ受クルノ權利ヲ有スル者二人以上アルトキハ最先ニ發明ヲ爲シタル者ニ限リ特許ス其ノ同時ノ發明ニ係ルトキ又ハ發明ノ前後不明ナルトキハ最先ニ出願ヲ爲シタル者ニ限リ特許ス但シ同日ノ出願ニ係ルトキハ關係者ノ協議ニ依リ協議調ハサルトキハ共ニ特許セス
特許權發生後二年ヲ經過シタルトキハ最先ニ與ヘタル特許ニ限リ有效トス
第十條 特許ヲ受クルノ權利ハ之ヲ移轉スルコトヲ得但シ擔保ニ供スルコトヲ得ス
特許ヲ受クルノ權利ノ承繼ハ特許出願前ニ在リテハ特許ヲ出願シ特許出願後ニ在リテハ出願人ノ名義變更ヲ屆出ツルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス但シ同日ノ出願又ハ屆出ニ係ルトキハ關係者ノ協議ニ依リ協議調ハサルトキハ共ニ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第十一條 特許出願ノ發明カ公益ノ爲普及ヲ要スルモノナルトキ又ハ軍事上必要ナルモノ若ハ祕密ヲ要スルモノナルトキハ特許ヲ與ヘス又ハ制限ヲ付シテ特許ヲ與フルコトヲ得
發明カ軍事上必要ナルモノ又ハ祕密ヲ要スルモノナルトキハ其ノ發明ニ付特許ヲ受クルノ權利ハ政府ニ於テ之ヲ收用スルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ政府ハ相當ノ補償金ヲ支給ス
第十二條 帝國內ニ在ラサル者ハ命令ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外帝國內ニ住所又ハ居所ヲ有スル代理人ニ依ルニ非サレハ特許ニ關スル出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲シ又ハ特許權若ハ特許ニ關スル權利ヲ主張スルコトヲ得ス
前項ノ特許權者又ハ特許ニ關スル權利ヲ有スル者ノ代理人ハ特ニ授ケラレタル權限ノ外本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ因ル手續竝特許ニ關スル民事訴訟、私訴及吿訴ニ付本人ヲ代表ス
第十三條 前條第二項ノ特許權者又ハ特許權ニ關シ登錄シタル權利ヲ有スル者ノ代理人ノ選任若ハ變更又ハ其ノ代理權ノ變更若ハ消滅ハ登錄ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
前項ニ該當スルモノヲ除クノ外特許ニ關スル出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲ス者ノ代理人ノ變更又ハ其ノ代理權ノ變更若ハ消滅ハ特許局ニ屆出ツルニ非サレハ之ヲ以テ特許局ニ對抗スルコトヲ得ス
第十四條 特許ニ關スル代理人數人アルトキハ特許局ニ對シテハ共同又ハ各別ニ本人ヲ代表ス
第十五條 特許局長ニ於テ特許ニ關スル代理人ヲ適當ナラスト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトヲ得
特許局長又ハ審判長ニ於テ當事者又ハ其ノ代理人カ手續又ハ演述ヲ爲スノ能力ナシト認ムルトキハ特許辨理士ヲ以テ代理セシムヘキコトヲ命スルコトヲ得
前二項ノ命令アリタル後第一項ノ代理人又ハ第二項ノ當事者若ハ代理人ノ特許局ニ對シテ爲シタル行爲ハ之ヲ無效ト爲スコトヲ得
第十六條 特許局ニ對シ爲スヘキ事項ノ代理業ハ特許辨理士ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
特許辨理士ノ資格、登錄、監督、懲戒等ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 數人共同シテ特許ニ關スル出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲ス者又ハ特許權ノ共有者ハ特許局ニ對シ各人互ニ代表スルモノトス但シ特ニ代表者ヲ定メ特許局ニ屆出タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十三條第二項ノ規定ハ前項但書ノ代表者ニ之ヲ準用ス
第十八條 特許權者ニシテ帝國內ニ住所ヲ有セサルトキハ第十二條ノ代理人ノ住所又ハ居所、其ノ代理人ナキモノニ在リテハ特許局ノ所在地ヲ以テ民事訴訟法第十七條ノ財產所在地ト看做ス
第十九條 特許局長ハ外國又ハ遠隔若ハ交通不便ノ地ニ住居スル者ノ爲職權ヲ以テ又ハ請求ニ依リ特許局ニ對シ手續ヲ爲スヘキ法定ノ期間ヲ延長スルコトヲ得
第二十條 特許ニ關シ出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲シタル者ニシテ法定又ハ指定ノ期間ヲ懈怠シタルトキハ其ノ出願、請求其ノ他ノ手續ハ之ヲ無效ト爲スコトヲ得
法定又ハ指定ノ期間ヲ懈怠シタル場合ニ於テ特許局長又ハ審判長宥恕スヘキ障礙ニ因ルモノト認ムルトキハ其ノ障礙ノ止ミタル後十四日以內ニ限リ請求ニ依リ懈怠ノ結果ヲ免レシムルコトヲ得但シ期間滿了後一年ヲ經過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十一條 特許局ニ差出スヘキ書類其ノ他ノ物件ニ付差出ノ效力ヲ生スヘキ時期ニ關シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル特許權者又ハ特許ニ關スル權利ヲ有スル者ノ權利義務ハ其ノ特許權又ハ特許ニ關スル權利ト共ニ移轉ス
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ爲シタル手續ハ特許權者又ハ特許ニ關スル權利ヲ有スル者ノ承繼人ニ對シ其ノ效力ヲ有ス
第二十三條 特許局ニ事件ノ繫屬中ニ於テ特許權又ハ特許ニ關スル權利ノ移轉アリタルトキハ承繼人ニ對シテ手續ヲ續行スルコトヲ得
第二十四條 本法ニ規定スルモノノ外特許局ニ繫ル手續ノ中斷、中止及續行ニ關シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十五條 特許ニ關スル證明、特許證ノ複本、書類ノ謄本、圖面ノ調製又ハ書類ノ閱覽若ハ謄寫ヲ要スル者ハ其ノ事由ヲ疏明シ特許局長ニ之ヲ請求スルコトヲ得但シ特許局長ニ於テ祕密ヲ要スト認ムルモノハ之ヲ許可セス
第二十六條 軍事上祕密ヲ要スル發明ニ付テハ本法ニ規定スルモノノ外命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第二十七條 外國人ニシテ帝國內ニ住所又ハ營業所ヲ有セサル者ハ條約又ハ之ニ準スヘキモノニ規定アル場合ノ外特許權又ハ特許ニ關スル權利ヲ享有スルコトヲ得ス
特許ニ關シ條約又ハ之ニ準スヘキモノニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ從フ
第二章 特許權
第二十八條 特許權ハ登錄ニ依リ發生ス
特許權者ハ物ノ特許發明ニ在リテハ其ノ發明ニ係ル物ヲ製作、使用、販賣又ハ擴布スルノ權利ヲ專有シ方法ノ特許發明ニ在リテハ其ノ方法ヲ使用シ及其ノ方法ニ依リテ製作シタル物ヲ使用、販賣又ハ擴布スルノ權利ヲ專有ス
新規ナル同一ノ物ハ同一ノ方法ニ依リテ製作シタルモノト推定ス
同一發明ニ關シテハ特許權ハ其ノ出願前ノ出願ニ係ル實用新案權ニ依リ制限ヲ受クルモノトス
第二十九條 特許權ノ效力ハ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノニ及ハス
一 硏究又ハ試驗ノ爲ニスル特許發明ノ應用
二 特許出願ノ際現ニ善意ニ帝國內ニ於テ其ノ發明實施ノ事業ヲ爲シ若ハ設備ヲ有スル者又ハ其ノ承繼人ノ特許發明ノ實施
三 單ニ帝國內ヲ通過スル運輸具及其ノ裝置
四 特許出願ノ際ヨリ帝國內ニ在ル物及第一號又ハ第二號ニ依リ製作シタル物
第三十條 特許權ノ存續期間ハ十五年トス但シ特許權カ分割セラレ又ハ追加特許權カ獨立ノ特許權ト爲リタルトキハ其ノ存續期間ハ原特許權發生ノ翌日ヨリ起算ス
前項ノ期間ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ三年以上十年以下之ヲ延長スルコトヲ得
第三十一條 冒認シタル他人ノ發明ニ付受ケタル特許權ヲ無效トシ正當權利者ニ特許ヲ與ヘタルトキハ其ノ特許權ハ無效ト爲リタル特許權發生ノ日ニ於テ發生シタルモノト看做ス
第三十二條 特許權ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ之ヲ移轉スルコトヲ得
第三十三條 特許權ノ移轉、抛棄ニ依ル消滅若ハ處分ノ制限又ハ特許權ヲ目的トスル質權ノ設定、移轉、變更、消滅若ハ處分ノ制限ハ其ノ登錄ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第三十四條 追加特許權ハ原特許權ニ附隨スルモノトス
第三十五條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ原權利ノ範圍內ニ於テ特許發明ヲ實施スルノ權利ヲ有ス
一 特許カ第四十八條ノ規定ニ依リ無效ト爲リタル場合又ハ同一發明ニ對スル二以上ノ特許中其ノ一カ無效ト爲リタル場合ニ於テ善意ナル原特許權者
二 前號ノ原特許權ニ付善意ニ使用又ハ實施ノ權利ヲ得テ登錄ヲ受ケタル者
第三十六條 前條ノ權利ハ特許發明實施ノ事業ト共ニスル場合ニ限リ移轉スルモノトス
第三十三條ノ規定ハ前條ノ權利ニ之ヲ準用ス
第三十七條 第三十五條ノ權利ハ其ノ發生後一年以內ニ登錄ヲ受クルニ非サレハ消滅ス
第三十八條 特許發明カ他人ノ特許發明又ハ登錄實用新案ヲ使用スルニ非サレハ實施スルコト能ハサル場合ニ於テ特許權者又ハ實用新案權者正當ノ理由ナクシテ其ノ使用ヲ許諾セサルトキ又ハ其ノ許諾ヲ得ルコト能ハサルトキハ審判ヲ請求スルコトヲ得但シ特許發明ノ使用ヲ要スル場合ニ於テハ其ノ使用セラルヘキ發明ノ特許權發生ノ日ヨリ三年ヲ經過セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依リ特許發明ヲ使用セラルル者其ノ使用ヲ必要トスル相手方ノ特許發明ニ付使用ノ許諾ヲ求メタル場合ニ於テ相手方カ正當ノ理由ナクシテ其ノ使用ヲ許諾セサルトキ又ハ其ノ許諾ヲ得ルコト能ハサルトキハ審判ヲ請求スルコトヲ得
第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ他人ノ特許發明又ハ登錄實用新案ヲ使用スル者ハ特許權者、實用新案權者其ノ他特許權又ハ實用新案權ニ關シ登錄シタル權利ヲ有スル者ニ對シ相當ノ補償金ヲ支拂フヘシ
第三十九條 前條ノ規定ニ依リ他人ノ特許發明又ハ登錄實用新案ヲ使用セムトスル者ハ補償金ノ支拂又ハ供託ヲ爲スニ非サレハ其ノ使用ヲ爲スコトヲ得ス但シ審決又ハ判決確定前ト雖其ノ審決又ハ判決ニ依ル補償金ヲ供託シタルトキハ其ノ使用ヲ爲スコトヲ得
第四十條 特許權者ハ特許發明ノ實施ヲ他人ニ許諾スルコトヲ得
前項ノ實施許諾ヲ得タル者ハ特許權者ノ承諾アルニ非サレハ其ノ實施權ヲ讓渡スルコトヲ得ス但シ發明實施ノ事業ト共ニスル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四十一條 特許發明ニ付使用ノ許諾、審決、判決又ハ實施許諾ヲ得タル者ニシテ其ノ登錄ヲ受クルトキハ其ノ使用權又ハ實施權ハ爾後其ノ特許權ヲ取得シタル者又ハ其ノ特許權ヲ目的トシテ設定シタル質權ヲ取得シタル者ニ對シテモ其ノ效力ヲ生ス
第四十二條 特許權者特許發明ノ明細書又ハ圖面ノ不完全ニ作製セラレタルコトヲ發見シタルトキハ特許權改訂ノ許可ヲ受クルコトヲ得
特許權者特許發明ヲ分割シテ二以上ノ特許權ト爲サムトスルトキハ特許權分割ノ許可ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ各部分カ特許出願ノ當時獨立シテ新規ノ發明ヲ爲ササルモノナルトキハ此ノ限ニ在ラス
前二項ノ場合ニ於テハ改訂又ハ分割前ノ發明ノ要部ヲ變更スルコトヲ得ス
特許權ノ改訂及分割ハ登錄ニ依リ其ノ效力ヲ生ス
第四十三條 特許權ハ其ノ制限付讓渡ヲ受ケタル者、實施許諾ヲ得タル者又ハ質權者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ之ヲ改訂シ又ハ抛棄スルコトヲ得ス
第四十四條 軍事上祕密ヲ要シ又ハ軍事上若ハ公益上必要ナル場合ニ於テハ特許權ハ之ヲ制限シ又ハ政府ニ於テ之ヲ收用シ、特許ハ之ヲ取消シ又ハ政府ニ於テ其ノ發明ヲ實施スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ政府ハ相當ノ補償金ヲ特許權者又ハ特許發明ヲ使用若ハ實施スルノ權利ヲ有スル者ニ支給ス
第四十五條 先取特權又ハ質權ハ本法ニ依リ受クヘキ補償金其ノ他特許權ノ對價又ハ特許發明ノ使用若ハ實施ニ對シテ受クヘキ金錢若ハ金錢以外ノ物ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ拂渡又ハ引渡前ニ差押ヲ爲スヘシ
第四十六條 特許權ノ收用アリタルトキハ其ノ特許發明ニ關スル特許權以外ノ權利ハ消滅ス
第四十七條 正當ノ理由ナクシテ特許權發生後三年以上其ノ發明ヲ帝國內ニ於テ適當ニ實施セス又ハ三年以上其ノ實施ヲ中止シタル場合ニ於テハ特許局長ハ利害關係人ノ請求ニ依リ又ハ職權ヲ以テ其ノ特許ヲ取消スコトヲ得
前項ノ處分ヲ受ケタル者其ノ處分ニ不服アルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第四十八條 權利確認ノ査定若ハ之ニ對スル審決確定シ又ハ判決アリタル爲出願カ特許又ハ許可スヘキモノト決定シタルトキハ其ノ牴觸スル發明ニ係ル特許ハ之ヲ無效トス
第四十九條 特許又ハ特許權ノ改訂若ハ分割ノ許可カ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ審判ニ依リ之ヲ無效ト爲スヘシ
一 特許カ第一條乃至第三條、第六條、第九條、第十條第二項又ハ第二十七條ノ規定ニ反シタルトキ
二 特許カ特許ヲ受クルノ權利ヲ冒認シタル者ニ對シテ與ヘラレタルトキ
三 特許權ノ分割シタル部分カ特許出願ノ當時獨立シテ新規ノ發明ヲ爲ササルトキ又ハ特許權ノ改訂若ハ分割カ第四十二條第三項ノ規定ニ反シタルトキ
四 發明ノ明細書ニ其ノ實施ニ必要ナル事項ヲ故意ニ記載セス又ハ其ノ實施ヲ不能若ハ困難ナラシムル爲必要ナラサル事項ヲ故意ニ記載シタルトキ
特許又ハ許可ハ特許權消滅後ト雖之ヲ無效ト爲スコトヲ妨ケス
第五十條 特許無效ト爲リタルトキハ特許權ハ初メヨリ存在セサルモノト看做ス
特許ノ取消アリタルトキハ特許權ハ以後其ノ效力ヲ失フ
第五十一條 特許權ハ相續人ナキトキハ消滅ス
第五十二條 特許カ取消サレ若ハ無效ト爲リ又ハ特許權カ抛棄ニ依リ消滅シタル場合ニ於テ追加特許權アルトキハ其ノ追加特許權ハ獨立ノ特許權ト爲ル
前項ノ場合ニ於テ獨立ノ特許權ト爲リタルモノニ係ル追加特許權アルトキハ其ノ追加特許權ハ獨立ト爲リタル特許權ノ追加特許權ト爲ル
前二項ノ場合ニ於テハ六十日以內ニ變更ノ登錄ヲ受クルニ非サレハ第一項ノ特許權又ハ前項ノ追加特許權ハ消滅ス
第三章 登錄、特許證、公報、特許標記及特許料
第五十三條 特許局ニ特許原簿ヲ備ヘ特許權及之ヲ目的トスル質權ノ設定、變更、移轉、消滅、處分ノ制限其ノ他法令ニ定ムル事項ヲ登錄ス
登錄ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十四條 特許スヘシトノ査定若ハ審決確定シ又ハ判決アリタルトキハ之ヲ特許原簿ニ登錄シ特許證ヲ下付ス特許權ノ改訂又ハ分割ヲ許可スヘシトノ査定若ハ審決確定シ又ハ判決アリタルトキ亦同シ
第五十五條 特許局ハ特許發明ノ明細書及特許公報ヲ發行シ特許發明及之ニ關スル必要ナル事項ヲ記載スヘシ但シ祕密ヲ要スル特許發明ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第五十六條 特許權者又ハ特許發明ニ付實施ノ權利ヲ有スル者ハ其ノ特許ニ係ル物ニ特許標記ヲ付スヘシ物ノ性質ニ依リ之ヲ付スルコト能ハサルトキハ其ノ容器、包裝等ニ之ヲ付スヘシ
特許權者ハ特許發明ニ付使用若ハ實施ノ權利ヲ有スル者又ハ第二十九條第一號若ハ第二號ノ應用若ハ實施ヲ爲ス者ニ對シ特許標記ヲ付スヘキコトヲ請求スルコトヲ得
特許標記ヲ付スルコトヲ怠リタル爲特許ニ係ル物ナルコトヲ知ラスシテ其ノ權利ヲ侵害シタル者ニ對シテハ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス
前三項ノ規定ハ特許ニ係ル物ノ一部ヲ分離シテ販賣又ハ擴布スル場合ニ於テ其ノ分離シテ販賣又ハ擴布スル物ニ之ヲ準用ス
第五十七條 特許權ノ登錄ヲ受クル者及特許證主ハ特許料トシテ每件左ノ金額ヲ納付スヘシ
一 第一年乃至第三年分 登錄ヲ受クルトキ一時 金二十圓
二 第四年乃至第六年 每年 金十圓
三 第七年乃至第九年 每年 金十五圓
四 第十年乃至第十二年 每年 金二十圓
五 第十三年乃至第十五年 每年 金二十五圓
特許權存續期間延長ノ登錄ヲ受クル者及其ノ特許證主ハ特許料トシテ每件左ノ金額ヲ納付スヘシ
一 第一年乃至第三年分 登錄ヲ受クルトキ一時 金百五十圓
二 第四年乃至第六年 每年 金七十圓
三 第七年乃至第十年 每年 金百圓
追加特許權ノ登錄ヲ受クル者ハ追加特許料トシテ登錄ヲ受クルトキ每件一時金十五圓ヲ納付スヘシ
特許權存續期間延長ノ場合ニ於テ追加特許權アルトキハ第二項第一號ノ特許料ニ每件金三十圓ヲ加フ
前四項ノ規定ハ國ニ屬スル特許權ニ付之ヲ適用セス
第五十八條 每年ノ特許料ハ其ノ翌年分ヲ前納スヘシ但シ數年分ヲ前納スルコトヲ妨ケス
特許料又ハ追加特許料ヲ納付スヘキ者カ發明者又ハ其ノ相續人ニシテ之ヲ納付スルノ資力ナシト認ムル場合ニ於テハ前條第一項第一號ノ特許料又ハ追加特許料ハ二年以內其ノ納付ヲ猶豫シ又ハ之ヲ減免スルコトヲ得
第五十九條 利害關係人ハ特許料又ハ追加特許料ヲ納付スヘキ者ニ代リ之ヲ納付スルコトヲ得
第六十條 旣納ノ特許料及追加特許料ハ之ヲ還付セス
第六十一條 特許料ノ納付ヲ怠リタルトキハ特許ヲ取消スコトヲ得追加特許料ノ納付ヲ怠リタルトキ其ノ追加特許ニ付亦同シ
第四章 審査及再審査
第六十二條 特許ノ出願又ハ特許權ノ改訂若ハ分割許可ノ出願アリタルトキハ審査官ヲシテ之ヲ査定セシム
前項ノ査定ハ第六十三條ノ場合ヲ除クノ外特許スヘキヤ否又ハ許可スヘキヤ否ヲ決定ス
第六十三條 審査官ハ出願ニ係ル發明カ他人ノ出願ニ係ル發明又ハ特許發明ト牴觸スト認メタル場合ニ於テハ發明牴觸ノ査定ヲ爲スヘシ但シ特許又ハ許可ヲ拒絕スヘキ他ノ理由アリト認メタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第六十四條 發明牴觸ノ査定確定シ又ハ審決アリタルトキハ審査官ヲシテ出願者ノ權利確認ノ査定ヲ爲サシム
前項ノ場合ニ於テ特許局長ハ出願者又ハ特許權者ヲシテ權利ニ關スル始末書ヲ差出サシムヘシ
前項始末書ノ差出アリタルトキハ特許局長ハ之ヲ相手方ニ送達シ答辯書ヲ差出サシムヘシ
第七十一條第二項及第七十六條ノ規定ハ權利確認ノ査定ニ之ヲ準用ス
權利確認ノ査定ニ於テハ出願者カ特許又ハ許可ヲ受クヘキ正當權利者ナリヤ否ヲ決定シ其ノ出願ニ對スル許否ヲ表示スヘシ
第六十五條 第六十二條第二項ノ査定又ハ發明牴觸ノ査定ニ不服アル者ハ査定ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ不服理由書ヲ差出シ再審査ヲ請求スルコトヲ得
再審査ノ請求アリタルトキハ前審査ニ干與セサル審査官ヲシテ更ニ之ヲ査定セシム
第六十六條 査定ニハ理由ヲ付スヘシ
第六十七條 審査又ハ再審査ニ關シ必要ナル場合ニ於テハ職權ヲ以テ又ハ當事者ノ申立ニ依リ證據調ヲ爲スコトヲ得
證據調ニ關シテハ民事訴訟法中證據調ニ關スル規定ヲ準用ス但シ特許局ニ於テ爲ス證據調ニ關シテハ罰金ノ言渡ヲ爲シ又ハ勾引ヲ命スルコトヲ得ス
證據調ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ區裁判所其ノ他區裁判所ノ事務ヲ行フ官廳ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
第六十八條 本法ニ規定スルモノノ外審査又ハ再審査ニ關スル書類ニシテ送達スヘキモノ及送達ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五章 審判、抗吿審判及出訴
第六十九條 審判ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル勅令ニ規定スルモノノ外左ニ揭クル事項ニ付之ヲ請求スルコトヲ得
一 第四十九條ノ規定ニ依ル特許又ハ許可ノ無效
二 特許權ノ範圍ノ確認
審判ノ請求ハ審査官又ハ利害關係人ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得但シ審査官ハ前項第二號ノ審判及第三條、第九條又ハ第十條第二項ノ規定ニ反ストノ理由ニ依ル前項第一號ノ審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第七十條 審判ノ請求ハ審判請求書ヲ差出シテ之ヲ爲スヘシ
審判請求書ニハ一定ノ申立及理由ヲ記載スヘシ
第七十一條 審判請求書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ被請求人ニ送達シ期間ヲ指定シテ答辯書ヲ差出サシメ其ノ答辯書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ相手方ニ送達スヘシ
審判ニ關シテハ當事者ノ差出シタル書類ニ對シ相手方ヲシテ答辯書ヲ差出サシメ又ハ當事者ニ訊問書ヲ發シテ之ニ對スル意見書ヲ差出サシムルコトヲ得
第七十二條 審判ハ審判官三人ノ合議ニ依リ之ヲ行フ
合議ハ過半數ニ依リ之ヲ決ス
審判長ハ審判官中ノ上席者ヲ以テ之ニ充ツ
審判長ハ各審判事件ニ關スル事務ヲ掌理ス
第七十三條 審判官ハ各審判事件ニ付之ヲ指定ス
審判官中審判ニ干與スルニ故障アル者アルトキハ其ノ指定ヲ解キ更ニ他ノ審判官ヲ以テ之ヲ補充ス
第七十四條 審判官ハ左ノ場合ニ於テ審判ニ干與スルコトヲ得ス
一 當事者カ自己又ハ親族ナルトキ
二 當事者ノ法定代理人若ハ保佐人タルトキ又ハ法定代理人若ハ保佐人タリシトキ
三 其ノ事件ニ付當事者ノ代理人タルトキ又ハ代理人タリシトキ
四 其ノ事件ニ付利害關係ヲ有スルトキ
五 其ノ事件ニ付審査官トシテ審査ニ干與シタルトキ
第七十五條 審判長ハ職權ヲ以テ又ハ當事者ノ申立ニ依リ口頭審理ヲ爲スコトヲ得
口頭審理ハ之ヲ公開ス但シ公益又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七十六條 請求人又ハ被請求人カ法定若ハ指定ノ期間內ニ手續ヲ爲サス又ハ期日ニ出頭セサルトキハ審判長ハ審判ヲ進行スルコトヲ得
第七十七條 審判ノ結果ニ付利害關係ヲ有スル者ハ其ノ審判ノ終結スル迄請求人又ハ被請求人ノ一方ヲ補助スル爲其ノ審判ニ參加スルコトヲ得
參加人ハ其ノ參加ノ時ニ於ケル審判ノ程度ヲ妨ケサル限リ審判ニ關スル總テノ行爲ヲ爲スコトヲ得但シ其ノ補助スル當事者ノ行爲ト牴觸スルモノハ其ノ效力ヲ有セス
第七十八條 參加ヲ爲サムトスル者ハ參加請求書ヲ審判長ニ差出スヘシ
審判長前項ノ請求書ヲ受理シタルトキハ之ヲ當事者ニ送達スヘシ
當事者ハ參加ニ付指定ノ期間內ニ異議ヲ申立ツルコトヲ得
參加ノ許否ハ決定ヲ以テ之ヲ審判ス
第七十九條 審判ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外審決ヲ以テ之ヲ終結ス
審決ニハ理由ヲ付スヘシ
第八十條 第三十八條ノ規定ニ依ル審判ニ於テハ補償金額ニ付テモ亦之ヲ審決スヘシ
第八十一條 審判ノ審決、權利確認ノ査定又ハ再審査ノ査定ニ不服アル者ハ審決又ハ査定ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ抗吿審判ヲ請求スルコトヲ得但シ前條ノ審決ニ依ル補償金額ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十二條 第七十條乃至第七十九條ノ規定ハ抗吿審判ニ之ヲ準用ス但シ審判官三人又ハ五人ノ合議ニ依ル
審判ニ干與シタル審判官ハ同一事件ニ付抗吿審判ニ干與スルコトヲ得ス
第八十三條 抗吿審判ニ於テハ其ノ事件ニ付審決ヲ爲スヘシ
再審査ノ査定ニ對スル抗吿審判ニ於テハ單ニ其ノ査定ヲ破毀シ更ニ審査ニ付スヘシトノ審決ヲ爲スコトヲ得其ノ破毀ノ基本ト爲シタル理由ハ其ノ事件ニ付テハ審査官ヲ覊束ス
發明牴觸ノ査定ニ對スル抗吿審判ニ於テ其ノ牴觸ナシト認メタルトキハ出願ニ對シ特許又ハ許可スヘキコトヲモ併セテ審決スヘシ
第八十四條 第六十七條及第六十八條ノ規定ハ審判及抗吿審判ニ之ヲ準用ス
第八十五條 抗吿審判ノ審決ニ不服アル者ハ其ノ審判カ法令ニ違背シタルコトヲ理由トスル場合ニ限リ審決ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ大審院ニ出訴スルコトヲ得但シ再審査ノ査定ニ對スル審決ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ出訴及裁判ニ付テハ民事訴訟ノ上吿及其ノ裁判ニ關スル規定ヲ準用ス
大審院ノ判決ニ於テ審決破毀ノ基本ト爲シタル理由ハ其ノ事件ニ付テハ特許局ヲ覊束ス
第八十六條 本法ニ依ル補償金額ニ付不服アル者ハ補償金額ノ通知又ハ審決ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八十七條 特許ノ效力又ハ特許權ノ範圍ニ關スル確定審決又ハ判決ノ登錄アリタルトキハ何人ト雖同一事實及同一證據ニ基キ同一審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第八十八條 民事又ハ刑事ノ訴訟ニ付特許權ノ效力又ハ範圍ニ關シ査定、審決又ハ判決ヲ待ツノ必要アル場合ニ於テハ裁判所ハ其ノ訴訟手續ヲ中止スルコトヲ得
第八十九條 審判及抗吿審判ニ關スル費用ノ負擔ハ本案ノ審決ヲ以テ之ヲ定ム
審判、抗吿審判及出訴ノ費用額ハ請求ニ依リ特許局長之ヲ決定ス
第九十條 前條ノ費用ノ負擔及費用額ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九十一條 審判、抗吿審判及出訴ノ費用額ノ決定及本法ニ規定スル補償金額ノ確定審決ハ强制執行ニ關シテハ公證人ノ作リタル債務名義ト看做ス但シ其ノ執行力アル正本ハ特許局官吏之ヲ付與ス
第六章 罰則
第九十二條 他人ノ特許權ヲ侵害シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
他人ノ特許權ヲ侵害スヘキ物ヲ輸入シタル者ハ罰前項ニ同シ
前二項ノ罪ハ吿訴ヲ待テ之ヲ論ス
第九十三條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 詐僞ノ所爲ヲ以テ特許ヲ受ケタル者
二 特許ニ係ラサル物又ハ其ノ容器、包裝等ニ特許標記ヲ付シ若ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者又ハ其ノ物ヲ販賣若ハ擴布シタル者
三 特許ニ係ラサル物若ハ方法ヲ販賣若ハ擴布スル爲又ハ特許ニ係ラサル方法ヲ使用セシムル爲廣吿、看板、引札等ニ其ノ物若ハ方法カ特許ニ係ルコトヲ表示シ又ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ爲シタル者
第九十四條 第九十二條ノ犯罪ニ因リ沒收スルコトヲ得ヘキ物ニ付判決言渡前被害者ヨリ請求アリタルトキハ之ヲ相當ノ代價ニ見積リ被害者ニ交付スル言渡ヲ爲スヘシ
損害ノ額カ交付ヲ受ケタル物ノ見積代價ニ超過スルトキハ被害者ハ其ノ差額ニ限リ賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第九十五條 法律ニ依リ宣誓シタル證人若ハ鑑定人又ハ通事ニシテ特許局又ハ其ノ囑託ヲ受ケタル裁判所若ハ官廳ニ對シ虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ三年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者事件ノ査定又ハ審決ニ至ラサル前自白シタルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スルコトヲ得
第九十六條 特許局ヨリ證人、鑑定人又ハ通事トシテ呼出サレタル者正當ノ理由ナクシテ呼出ニ應セス又ハ其ノ義務ヲ盡ササルトキハ四十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十七條 特許辨理士ニ非スシテ特許ニ關スル代理業ヲ營ミタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第七章 附則
第九十八條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九十九條 從前ノ規定ニ依ル特許ハ本法ニ依リ受ケタルモノト看做ス
第百條 本法施行前ニ發生シタル特許權ニ關シテハ第九條第二項ノ規定ハ本法施行ノ日ヨリ一年間之ヲ適用セス
第百一條 本法施行ノ際現ニ特許代理業者タル者ハ特許辨理士トス
第百二條 第三十五條ノ規定ハ本法施行前無效ト爲リタル特許ニ關シテハ之ヲ適用セス
第四十條第二項ノ規定ハ本法施行前發生シタル實施權ニ關シテハ之ヲ適用セス
第百三條 舊法第十六條又ハ第十七條ノ報酬額ニ不服アル者ハ本法施行後六十日以內ニ限リ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第百四條 本法施行前受ケタル特許ニ關スル第三年分迄ノ特許料ニ付テハ舊法ノ規定ニ依ル
前項ノ特許料ヲ除クノ外本法施行前二年分以上前納シタル特許料ニ付テハ其ノ未タ納期ニ至ラサルモノニ限リ本法ニ依リ納付スヘキ特許料ニ比シテ殘餘アルトキハ順次之ヲ後年分ニ充テ尙殘餘アルトキハ之ヲ還付ス
本法施行前前納ニ係ル特許料ニ付テハ舊法第四十條第二項但書ノ規定ハ仍其ノ效力ヲ有ス
前二項ノ規定ニ依リ還付ヲ受ケムトスル者ハ本法施行後一年以內ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第百五條 舊法ニ依リ利害關係人以外ノ者ノ爲シタル審判ノ請求ハ本法施行ノ爲其ノ效力ヲ失フコトナシ
第百六條 本法施行ノ際現ニ繫屬スル審判ニシテ其ノ事件カ本法ノ抗吿審判事件ニ該當スルモノナルトキハ抗吿審判ヲ以テ之ヲ處理スヘシ
本法施行前ノ審決ニシテ其ノ事件カ本法ノ抗吿審判事件ニ該當スルモノナルトキハ出訴ニ關シテハ之ヲ抗吿審判ノ審決ト看做ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル特許法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年四月二日
内閣総理大臣 侯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 大浦兼武
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第二十三号
特許法
第一章 総則
第一条 新規ナル工業的発明ヲ為シタル者ハ其ノ発明ニ付本法ニ依リ特許ヲ受クルコトヲ得
第二条 自己ノ特許発明又ハ特許出願中ノ発明ニ付改良又ハ拡張ヲ為シタル者ハ其ノ改良又ハ拡張ニ係ル新規ノ発明ニ付追加特許ヲ受クルコトヲ得自己ノ特許発明又ハ特許出願中ノ発明ニ付他人ノ為シタル改良又ハ拡張ニ係ル新規ノ発明ニ付特許ヲ受クルノ権利ヲ承継シタル者亦同シ
前項ノ場合ニ於テ特許出願中ノ発明カ特許ヲ受クルコト能ハサルニ至リタルトキハ追加特許ノ出願ハ之ヲ独立ノ特許出願ト為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ其ノ独立ノ特許出願ハ追加特許出願ノ時ニ於テ之ヲ為シタルモノト看做ス
第三条 職務上又ハ契約上為シタル発明ニ付特許ヲ受クルノ権利ハ勤務規程又ハ契約ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外其ノ職務ヲ執行セシムル者又ハ使用者ニ属ス
職務ノ執行又ハ契約ノ履行ニ依ル勤務中公務員又ハ被用者ノ為シタル発明ニシテ職務上又ハ契約上為シタルモノニ非サル発明ニ付発明前予メ特許ヲ受クルノ権利又ハ特許権ヲ譲渡セシムルコトヲ定メタル勤務規程又ハ契約ノ条項ハ之ヲ無効トス
本条ニ於テ公務員ト称スルハ刑法第七条第一項ノ公務員ヲ謂フ
第四条 本法ニ於テ発明ノ新規ト称スルハ左ノ各号ニ該当セサルモノヲ謂フ
一 特許出願前帝国内ニ於テ公然知ラレ又ハ公然用井ラレタルモノ
二 特許出願前容易ニ応用スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ帝国内ニ頒布セラレタル刊行物ニ記載セラレタルモノ
第五条 発明カ左ノ各号ノ一ニ該当スルモ之ヲ新規ナルモノト看做ス
一 発明カ試験ノ為前条各号ノ一ニ該当スルニ至リタル時ヨリ二年以内ニ特許ヲ出願シタルトキ
二 同一発明ニ関スル特許出願中若ハ実用新案登録出願中又ハ其ノ特許権若ハ実用新案権ノ存続中其ノ発明カ前条各号ノ一ニ該当スルニ至リタルトキ
第六条 左ニ掲クル発明ニ付テハ之ヲ特許セス
一 飲食物、嗜好物
二 医薬、其ノ調合法
三 秩序若ハ風俗ヲ紊リ又ハ衛生ヲ害スルノ虞アルモノ
第七条 特許出願カ二以上ノ発明ヲ包含スルトキハ之ヲ分割スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ最初出願ノ時ニ於テ各出願ヲ為シタルモノト看做ス
第八条 政府、道、府県若ハ政府ノ認可ヲ得タルモノノ開設スル博覧会、共進会又ハ工業所有権保護同盟条約国ノ版図内ニ開設スル官設若ハ官許ノ万国博覧会ニ出品スル発明ニ付其ノ開会ノ日ヨリ六月以内ニ特許ヲ出願シタルトキハ開会ノ日ニ於テ出願シタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ命令ヲ以テ前項ノ出品ニ付予メ届出ツヘキコトヲ規定シタル場合ニ於テ其ノ届出ヲ怠リタル者ニ対シ之ヲ適用セス
第一項ノ外外国ノ版図内ニ開設スル官設又ハ官許ノ博覧会ニ出品スル発明ニ付保護ヲ与フルノ必要アルトキハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九条 同一発明ニ付各別ニ特許ヲ受クルノ権利ヲ有スル者二人以上アルトキハ最先ニ発明ヲ為シタル者ニ限リ特許ス其ノ同時ノ発明ニ係ルトキ又ハ発明ノ前後不明ナルトキハ最先ニ出願ヲ為シタル者ニ限リ特許ス但シ同日ノ出願ニ係ルトキハ関係者ノ協議ニ依リ協議調ハサルトキハ共ニ特許セス
特許権発生後二年ヲ経過シタルトキハ最先ニ与ヘタル特許ニ限リ有効トス
第十条 特許ヲ受クルノ権利ハ之ヲ移転スルコトヲ得但シ担保ニ供スルコトヲ得ス
特許ヲ受クルノ権利ノ承継ハ特許出願前ニ在リテハ特許ヲ出願シ特許出願後ニ在リテハ出願人ノ名義変更ヲ届出ツルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス但シ同日ノ出願又ハ届出ニ係ルトキハ関係者ノ協議ニ依リ協議調ハサルトキハ共ニ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第十一条 特許出願ノ発明カ公益ノ為普及ヲ要スルモノナルトキ又ハ軍事上必要ナルモノ若ハ秘密ヲ要スルモノナルトキハ特許ヲ与ヘス又ハ制限ヲ付シテ特許ヲ与フルコトヲ得
発明カ軍事上必要ナルモノ又ハ秘密ヲ要スルモノナルトキハ其ノ発明ニ付特許ヲ受クルノ権利ハ政府ニ於テ之ヲ収用スルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ政府ハ相当ノ補償金ヲ支給ス
第十二条 帝国内ニ在ラサル者ハ命令ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外帝国内ニ住所又ハ居所ヲ有スル代理人ニ依ルニ非サレハ特許ニ関スル出願、請求其ノ他ノ手続ヲ為シ又ハ特許権若ハ特許ニ関スル権利ヲ主張スルコトヲ得ス
前項ノ特許権者又ハ特許ニ関スル権利ヲ有スル者ノ代理人ハ特ニ授ケラレタル権限ノ外本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ因ル手続並特許ニ関スル民事訴訟、私訴及告訴ニ付本人ヲ代表ス
第十三条 前条第二項ノ特許権者又ハ特許権ニ関シ登録シタル権利ヲ有スル者ノ代理人ノ選任若ハ変更又ハ其ノ代理権ノ変更若ハ消滅ハ登録ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
前項ニ該当スルモノヲ除クノ外特許ニ関スル出願、請求其ノ他ノ手続ヲ為ス者ノ代理人ノ変更又ハ其ノ代理権ノ変更若ハ消滅ハ特許局ニ届出ツルニ非サレハ之ヲ以テ特許局ニ対抗スルコトヲ得ス
第十四条 特許ニ関スル代理人数人アルトキハ特許局ニ対シテハ共同又ハ各別ニ本人ヲ代表ス
第十五条 特許局長ニ於テ特許ニ関スル代理人ヲ適当ナラスト認ムルトキハ其ノ改任ヲ命スルコトヲ得
特許局長又ハ審判長ニ於テ当事者又ハ其ノ代理人カ手続又ハ演述ヲ為スノ能力ナシト認ムルトキハ特許弁理士ヲ以テ代理セシムヘキコトヲ命スルコトヲ得
前二項ノ命令アリタル後第一項ノ代理人又ハ第二項ノ当事者若ハ代理人ノ特許局ニ対シテ為シタル行為ハ之ヲ無効ト為スコトヲ得
第十六条 特許局ニ対シ為スヘキ事項ノ代理業ハ特許弁理士ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
特許弁理士ノ資格、登録、監督、懲戒等ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 数人共同シテ特許ニ関スル出願、請求其ノ他ノ手続ヲ為ス者又ハ特許権ノ共有者ハ特許局ニ対シ各人互ニ代表スルモノトス但シ特ニ代表者ヲ定メ特許局ニ届出タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十三条第二項ノ規定ハ前項但書ノ代表者ニ之ヲ準用ス
第十八条 特許権者ニシテ帝国内ニ住所ヲ有セサルトキハ第十二条ノ代理人ノ住所又ハ居所、其ノ代理人ナキモノニ在リテハ特許局ノ所在地ヲ以テ民事訴訟法第十七条ノ財産所在地ト看做ス
第十九条 特許局長ハ外国又ハ遠隔若ハ交通不便ノ地ニ住居スル者ノ為職権ヲ以テ又ハ請求ニ依リ特許局ニ対シ手続ヲ為スヘキ法定ノ期間ヲ延長スルコトヲ得
第二十条 特許ニ関シ出願、請求其ノ他ノ手続ヲ為シタル者ニシテ法定又ハ指定ノ期間ヲ懈怠シタルトキハ其ノ出願、請求其ノ他ノ手続ハ之ヲ無効ト為スコトヲ得
法定又ハ指定ノ期間ヲ懈怠シタル場合ニ於テ特許局長又ハ審判長宥恕スヘキ障碍ニ因ルモノト認ムルトキハ其ノ障碍ノ止ミタル後十四日以内ニ限リ請求ニ依リ懈怠ノ結果ヲ免レシムルコトヲ得但シ期間満了後一年ヲ経過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十一条 特許局ニ差出スヘキ書類其ノ他ノ物件ニ付差出ノ効力ヲ生スヘキ時期ニ関シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル特許権者又ハ特許ニ関スル権利ヲ有スル者ノ権利義務ハ其ノ特許権又ハ特許ニ関スル権利ト共ニ移転ス
本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ為シタル手続ハ特許権者又ハ特許ニ関スル権利ヲ有スル者ノ承継人ニ対シ其ノ効力ヲ有ス
第二十三条 特許局ニ事件ノ繋属中ニ於テ特許権又ハ特許ニ関スル権利ノ移転アリタルトキハ承継人ニ対シテ手続ヲ続行スルコトヲ得
第二十四条 本法ニ規定スルモノノ外特許局ニ繋ル手続ノ中断、中止及続行ニ関シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十五条 特許ニ関スル証明、特許証ノ複本、書類ノ謄本、図面ノ調製又ハ書類ノ閲覧若ハ謄写ヲ要スル者ハ其ノ事由ヲ疏明シ特許局長ニ之ヲ請求スルコトヲ得但シ特許局長ニ於テ秘密ヲ要スト認ムルモノハ之ヲ許可セス
第二十六条 軍事上秘密ヲ要スル発明ニ付テハ本法ニ規定スルモノノ外命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設クルコトヲ得
第二十七条 外国人ニシテ帝国内ニ住所又ハ営業所ヲ有セサル者ハ条約又ハ之ニ準スヘキモノニ規定アル場合ノ外特許権又ハ特許ニ関スル権利ヲ享有スルコトヲ得ス
特許ニ関シ条約又ハ之ニ準スヘキモノニ別段ノ規定アルトキハ其ノ規定ニ従フ
第二章 特許権
第二十八条 特許権ハ登録ニ依リ発生ス
特許権者ハ物ノ特許発明ニ在リテハ其ノ発明ニ係ル物ヲ製作、使用、販売又ハ拡布スルノ権利ヲ専有シ方法ノ特許発明ニ在リテハ其ノ方法ヲ使用シ及其ノ方法ニ依リテ製作シタル物ヲ使用、販売又ハ拡布スルノ権利ヲ専有ス
新規ナル同一ノ物ハ同一ノ方法ニ依リテ製作シタルモノト推定ス
同一発明ニ関シテハ特許権ハ其ノ出願前ノ出願ニ係ル実用新案権ニ依リ制限ヲ受クルモノトス
第二十九条 特許権ノ効力ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノニ及ハス
一 研究又ハ試験ノ為ニスル特許発明ノ応用
二 特許出願ノ際現ニ善意ニ帝国内ニ於テ其ノ発明実施ノ事業ヲ為シ若ハ設備ヲ有スル者又ハ其ノ承継人ノ特許発明ノ実施
三 単ニ帝国内ヲ通過スル運輸具及其ノ装置
四 特許出願ノ際ヨリ帝国内ニ在ル物及第一号又ハ第二号ニ依リ製作シタル物
第三十条 特許権ノ存続期間ハ十五年トス但シ特許権カ分割セラレ又ハ追加特許権カ独立ノ特許権ト為リタルトキハ其ノ存続期間ハ原特許権発生ノ翌日ヨリ起算ス
前項ノ期間ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ三年以上十年以下之ヲ延長スルコトヲ得
第三十一条 冒認シタル他人ノ発明ニ付受ケタル特許権ヲ無効トシ正当権利者ニ特許ヲ与ヘタルトキハ其ノ特許権ハ無効ト為リタル特許権発生ノ日ニ於テ発生シタルモノト看做ス
第三十二条 特許権ハ制限ヲ付シ又ハ付セスシテ之ヲ移転スルコトヲ得
第三十三条 特許権ノ移転、抛棄ニ依ル消滅若ハ処分ノ制限又ハ特許権ヲ目的トスル質権ノ設定、移転、変更、消滅若ハ処分ノ制限ハ其ノ登録ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三十四条 追加特許権ハ原特許権ニ附随スルモノトス
第三十五条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ原権利ノ範囲内ニ於テ特許発明ヲ実施スルノ権利ヲ有ス
一 特許カ第四十八条ノ規定ニ依リ無効ト為リタル場合又ハ同一発明ニ対スル二以上ノ特許中其ノ一カ無効ト為リタル場合ニ於テ善意ナル原特許権者
二 前号ノ原特許権ニ付善意ニ使用又ハ実施ノ権利ヲ得テ登録ヲ受ケタル者
第三十六条 前条ノ権利ハ特許発明実施ノ事業ト共ニスル場合ニ限リ移転スルモノトス
第三十三条ノ規定ハ前条ノ権利ニ之ヲ準用ス
第三十七条 第三十五条ノ権利ハ其ノ発生後一年以内ニ登録ヲ受クルニ非サレハ消滅ス
第三十八条 特許発明カ他人ノ特許発明又ハ登録実用新案ヲ使用スルニ非サレハ実施スルコト能ハサル場合ニ於テ特許権者又ハ実用新案権者正当ノ理由ナクシテ其ノ使用ヲ許諾セサルトキ又ハ其ノ許諾ヲ得ルコト能ハサルトキハ審判ヲ請求スルコトヲ得但シ特許発明ノ使用ヲ要スル場合ニ於テハ其ノ使用セラルヘキ発明ノ特許権発生ノ日ヨリ三年ヲ経過セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依リ特許発明ヲ使用セラルル者其ノ使用ヲ必要トスル相手方ノ特許発明ニ付使用ノ許諾ヲ求メタル場合ニ於テ相手方カ正当ノ理由ナクシテ其ノ使用ヲ許諾セサルトキ又ハ其ノ許諾ヲ得ルコト能ハサルトキハ審判ヲ請求スルコトヲ得
第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ他人ノ特許発明又ハ登録実用新案ヲ使用スル者ハ特許権者、実用新案権者其ノ他特許権又ハ実用新案権ニ関シ登録シタル権利ヲ有スル者ニ対シ相当ノ補償金ヲ支払フヘシ
第三十九条 前条ノ規定ニ依リ他人ノ特許発明又ハ登録実用新案ヲ使用セムトスル者ハ補償金ノ支払又ハ供託ヲ為スニ非サレハ其ノ使用ヲ為スコトヲ得ス但シ審決又ハ判決確定前ト雖其ノ審決又ハ判決ニ依ル補償金ヲ供託シタルトキハ其ノ使用ヲ為スコトヲ得
第四十条 特許権者ハ特許発明ノ実施ヲ他人ニ許諾スルコトヲ得
前項ノ実施許諾ヲ得タル者ハ特許権者ノ承諾アルニ非サレハ其ノ実施権ヲ譲渡スルコトヲ得ス但シ発明実施ノ事業ト共ニスル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四十一条 特許発明ニ付使用ノ許諾、審決、判決又ハ実施許諾ヲ得タル者ニシテ其ノ登録ヲ受クルトキハ其ノ使用権又ハ実施権ハ爾後其ノ特許権ヲ取得シタル者又ハ其ノ特許権ヲ目的トシテ設定シタル質権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其ノ効力ヲ生ス
第四十二条 特許権者特許発明ノ明細書又ハ図面ノ不完全ニ作製セラレタルコトヲ発見シタルトキハ特許権改訂ノ許可ヲ受クルコトヲ得
特許権者特許発明ヲ分割シテ二以上ノ特許権ト為サムトスルトキハ特許権分割ノ許可ヲ受クルコトヲ得但シ其ノ各部分カ特許出願ノ当時独立シテ新規ノ発明ヲ為ササルモノナルトキハ此ノ限ニ在ラス
前二項ノ場合ニ於テハ改訂又ハ分割前ノ発明ノ要部ヲ変更スルコトヲ得ス
特許権ノ改訂及分割ハ登録ニ依リ其ノ効力ヲ生ス
第四十三条 特許権ハ其ノ制限付譲渡ヲ受ケタル者、実施許諾ヲ得タル者又ハ質権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ之ヲ改訂シ又ハ抛棄スルコトヲ得ス
第四十四条 軍事上秘密ヲ要シ又ハ軍事上若ハ公益上必要ナル場合ニ於テハ特許権ハ之ヲ制限シ又ハ政府ニ於テ之ヲ収用シ、特許ハ之ヲ取消シ又ハ政府ニ於テ其ノ発明ヲ実施スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ政府ハ相当ノ補償金ヲ特許権者又ハ特許発明ヲ使用若ハ実施スルノ権利ヲ有スル者ニ支給ス
第四十五条 先取特権又ハ質権ハ本法ニ依リ受クヘキ補償金其ノ他特許権ノ対価又ハ特許発明ノ使用若ハ実施ニ対シテ受クヘキ金銭若ハ金銭以外ノ物ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ払渡又ハ引渡前ニ差押ヲ為スヘシ
第四十六条 特許権ノ収用アリタルトキハ其ノ特許発明ニ関スル特許権以外ノ権利ハ消滅ス
第四十七条 正当ノ理由ナクシテ特許権発生後三年以上其ノ発明ヲ帝国内ニ於テ適当ニ実施セス又ハ三年以上其ノ実施ヲ中止シタル場合ニ於テハ特許局長ハ利害関係人ノ請求ニ依リ又ハ職権ヲ以テ其ノ特許ヲ取消スコトヲ得
前項ノ処分ヲ受ケタル者其ノ処分ニ不服アルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第四十八条 権利確認ノ査定若ハ之ニ対スル審決確定シ又ハ判決アリタル為出願カ特許又ハ許可スヘキモノト決定シタルトキハ其ノ牴触スル発明ニ係ル特許ハ之ヲ無効トス
第四十九条 特許又ハ特許権ノ改訂若ハ分割ノ許可カ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ審判ニ依リ之ヲ無効ト為スヘシ
一 特許カ第一条乃至第三条、第六条、第九条、第十条第二項又ハ第二十七条ノ規定ニ反シタルトキ
二 特許カ特許ヲ受クルノ権利ヲ冒認シタル者ニ対シテ与ヘラレタルトキ
三 特許権ノ分割シタル部分カ特許出願ノ当時独立シテ新規ノ発明ヲ為ササルトキ又ハ特許権ノ改訂若ハ分割カ第四十二条第三項ノ規定ニ反シタルトキ
四 発明ノ明細書ニ其ノ実施ニ必要ナル事項ヲ故意ニ記載セス又ハ其ノ実施ヲ不能若ハ困難ナラシムル為必要ナラサル事項ヲ故意ニ記載シタルトキ
特許又ハ許可ハ特許権消滅後ト雖之ヲ無効ト為スコトヲ妨ケス
第五十条 特許無効ト為リタルトキハ特許権ハ初メヨリ存在セサルモノト看做ス
特許ノ取消アリタルトキハ特許権ハ以後其ノ効力ヲ失フ
第五十一条 特許権ハ相続人ナキトキハ消滅ス
第五十二条 特許カ取消サレ若ハ無効ト為リ又ハ特許権カ抛棄ニ依リ消滅シタル場合ニ於テ追加特許権アルトキハ其ノ追加特許権ハ独立ノ特許権ト為ル
前項ノ場合ニ於テ独立ノ特許権ト為リタルモノニ係ル追加特許権アルトキハ其ノ追加特許権ハ独立ト為リタル特許権ノ追加特許権ト為ル
前二項ノ場合ニ於テハ六十日以内ニ変更ノ登録ヲ受クルニ非サレハ第一項ノ特許権又ハ前項ノ追加特許権ハ消滅ス
第三章 登録、特許証、公報、特許標記及特許料
第五十三条 特許局ニ特許原簿ヲ備ヘ特許権及之ヲ目的トスル質権ノ設定、変更、移転、消滅、処分ノ制限其ノ他法令ニ定ムル事項ヲ登録ス
登録ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十四条 特許スヘシトノ査定若ハ審決確定シ又ハ判決アリタルトキハ之ヲ特許原簿ニ登録シ特許証ヲ下付ス特許権ノ改訂又ハ分割ヲ許可スヘシトノ査定若ハ審決確定シ又ハ判決アリタルトキ亦同シ
第五十五条 特許局ハ特許発明ノ明細書及特許公報ヲ発行シ特許発明及之ニ関スル必要ナル事項ヲ記載スヘシ但シ秘密ヲ要スル特許発明ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第五十六条 特許権者又ハ特許発明ニ付実施ノ権利ヲ有スル者ハ其ノ特許ニ係ル物ニ特許標記ヲ付スヘシ物ノ性質ニ依リ之ヲ付スルコト能ハサルトキハ其ノ容器、包装等ニ之ヲ付スヘシ
特許権者ハ特許発明ニ付使用若ハ実施ノ権利ヲ有スル者又ハ第二十九条第一号若ハ第二号ノ応用若ハ実施ヲ為ス者ニ対シ特許標記ヲ付スヘキコトヲ請求スルコトヲ得
特許標記ヲ付スルコトヲ怠リタル為特許ニ係ル物ナルコトヲ知ラスシテ其ノ権利ヲ侵害シタル者ニ対シテハ要償ノ訴ヲ為スコトヲ得ス
前三項ノ規定ハ特許ニ係ル物ノ一部ヲ分離シテ販売又ハ拡布スル場合ニ於テ其ノ分離シテ販売又ハ拡布スル物ニ之ヲ準用ス
第五十七条 特許権ノ登録ヲ受クル者及特許証主ハ特許料トシテ毎件左ノ金額ヲ納付スヘシ
一 第一年乃至第三年分 登録ヲ受クルトキ一時 金二十円
二 第四年乃至第六年 毎年 金十円
三 第七年乃至第九年 毎年 金十五円
四 第十年乃至第十二年 毎年 金二十円
五 第十三年乃至第十五年 毎年 金二十五円
特許権存続期間延長ノ登録ヲ受クル者及其ノ特許証主ハ特許料トシテ毎件左ノ金額ヲ納付スヘシ
一 第一年乃至第三年分 登録ヲ受クルトキ一時 金百五十円
二 第四年乃至第六年 毎年 金七十円
三 第七年乃至第十年 毎年 金百円
追加特許権ノ登録ヲ受クル者ハ追加特許料トシテ登録ヲ受クルトキ毎件一時金十五円ヲ納付スヘシ
特許権存続期間延長ノ場合ニ於テ追加特許権アルトキハ第二項第一号ノ特許料ニ毎件金三十円ヲ加フ
前四項ノ規定ハ国ニ属スル特許権ニ付之ヲ適用セス
第五十八条 毎年ノ特許料ハ其ノ翌年分ヲ前納スヘシ但シ数年分ヲ前納スルコトヲ妨ケス
特許料又ハ追加特許料ヲ納付スヘキ者カ発明者又ハ其ノ相続人ニシテ之ヲ納付スルノ資力ナシト認ムル場合ニ於テハ前条第一項第一号ノ特許料又ハ追加特許料ハ二年以内其ノ納付ヲ猶予シ又ハ之ヲ減免スルコトヲ得
第五十九条 利害関係人ハ特許料又ハ追加特許料ヲ納付スヘキ者ニ代リ之ヲ納付スルコトヲ得
第六十条 既納ノ特許料及追加特許料ハ之ヲ還付セス
第六十一条 特許料ノ納付ヲ怠リタルトキハ特許ヲ取消スコトヲ得追加特許料ノ納付ヲ怠リタルトキ其ノ追加特許ニ付亦同シ
第四章 審査及再審査
第六十二条 特許ノ出願又ハ特許権ノ改訂若ハ分割許可ノ出願アリタルトキハ審査官ヲシテ之ヲ査定セシム
前項ノ査定ハ第六十三条ノ場合ヲ除クノ外特許スヘキヤ否又ハ許可スヘキヤ否ヲ決定ス
第六十三条 審査官ハ出願ニ係ル発明カ他人ノ出願ニ係ル発明又ハ特許発明ト牴触スト認メタル場合ニ於テハ発明牴触ノ査定ヲ為スヘシ但シ特許又ハ許可ヲ拒絶スヘキ他ノ理由アリト認メタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第六十四条 発明牴触ノ査定確定シ又ハ審決アリタルトキハ審査官ヲシテ出願者ノ権利確認ノ査定ヲ為サシム
前項ノ場合ニ於テ特許局長ハ出願者又ハ特許権者ヲシテ権利ニ関スル始末書ヲ差出サシムヘシ
前項始末書ノ差出アリタルトキハ特許局長ハ之ヲ相手方ニ送達シ答弁書ヲ差出サシムヘシ
第七十一条第二項及第七十六条ノ規定ハ権利確認ノ査定ニ之ヲ準用ス
権利確認ノ査定ニ於テハ出願者カ特許又ハ許可ヲ受クヘキ正当権利者ナリヤ否ヲ決定シ其ノ出願ニ対スル許否ヲ表示スヘシ
第六十五条 第六十二条第二項ノ査定又ハ発明牴触ノ査定ニ不服アル者ハ査定ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ不服理由書ヲ差出シ再審査ヲ請求スルコトヲ得
再審査ノ請求アリタルトキハ前審査ニ干与セサル審査官ヲシテ更ニ之ヲ査定セシム
第六十六条 査定ニハ理由ヲ付スヘシ
第六十七条 審査又ハ再審査ニ関シ必要ナル場合ニ於テハ職権ヲ以テ又ハ当事者ノ申立ニ依リ証拠調ヲ為スコトヲ得
証拠調ニ関シテハ民事訴訟法中証拠調ニ関スル規定ヲ準用ス但シ特許局ニ於テ為ス証拠調ニ関シテハ罰金ノ言渡ヲ為シ又ハ勾引ヲ命スルコトヲ得ス
証拠調ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ区裁判所其ノ他区裁判所ノ事務ヲ行フ官庁ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
第六十八条 本法ニ規定スルモノノ外審査又ハ再審査ニ関スル書類ニシテ送達スヘキモノ及送達ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第五章 審判、抗告審判及出訴
第六十九条 審判ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル勅令ニ規定スルモノノ外左ニ掲クル事項ニ付之ヲ請求スルコトヲ得
一 第四十九条ノ規定ニ依ル特許又ハ許可ノ無効
二 特許権ノ範囲ノ確認
審判ノ請求ハ審査官又ハ利害関係人ニ限リ之ヲ為スコトヲ得但シ審査官ハ前項第二号ノ審判及第三条、第九条又ハ第十条第二項ノ規定ニ反ストノ理由ニ依ル前項第一号ノ審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第七十条 審判ノ請求ハ審判請求書ヲ差出シテ之ヲ為スヘシ
審判請求書ニハ一定ノ申立及理由ヲ記載スヘシ
第七十一条 審判請求書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ被請求人ニ送達シ期間ヲ指定シテ答弁書ヲ差出サシメ其ノ答弁書ヲ受理シタルトキハ其ノ副本ヲ相手方ニ送達スヘシ
審判ニ関シテハ当事者ノ差出シタル書類ニ対シ相手方ヲシテ答弁書ヲ差出サシメ又ハ当事者ニ訊問書ヲ発シテ之ニ対スル意見書ヲ差出サシムルコトヲ得
第七十二条 審判ハ審判官三人ノ合議ニ依リ之ヲ行フ
合議ハ過半数ニ依リ之ヲ決ス
審判長ハ審判官中ノ上席者ヲ以テ之ニ充ツ
審判長ハ各審判事件ニ関スル事務ヲ掌理ス
第七十三条 審判官ハ各審判事件ニ付之ヲ指定ス
審判官中審判ニ干与スルニ故障アル者アルトキハ其ノ指定ヲ解キ更ニ他ノ審判官ヲ以テ之ヲ補充ス
第七十四条 審判官ハ左ノ場合ニ於テ審判ニ干与スルコトヲ得ス
一 当事者カ自己又ハ親族ナルトキ
二 当事者ノ法定代理人若ハ保佐人タルトキ又ハ法定代理人若ハ保佐人タリシトキ
三 其ノ事件ニ付当事者ノ代理人タルトキ又ハ代理人タリシトキ
四 其ノ事件ニ付利害関係ヲ有スルトキ
五 其ノ事件ニ付審査官トシテ審査ニ干与シタルトキ
第七十五条 審判長ハ職権ヲ以テ又ハ当事者ノ申立ニ依リ口頭審理ヲ為スコトヲ得
口頭審理ハ之ヲ公開ス但シ公益又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七十六条 請求人又ハ被請求人カ法定若ハ指定ノ期間内ニ手続ヲ為サス又ハ期日ニ出頭セサルトキハ審判長ハ審判ヲ進行スルコトヲ得
第七十七条 審判ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル者ハ其ノ審判ノ終結スル迄請求人又ハ被請求人ノ一方ヲ補助スル為其ノ審判ニ参加スルコトヲ得
参加人ハ其ノ参加ノ時ニ於ケル審判ノ程度ヲ妨ケサル限リ審判ニ関スル総テノ行為ヲ為スコトヲ得但シ其ノ補助スル当事者ノ行為ト牴触スルモノハ其ノ効力ヲ有セス
第七十八条 参加ヲ為サムトスル者ハ参加請求書ヲ審判長ニ差出スヘシ
審判長前項ノ請求書ヲ受理シタルトキハ之ヲ当事者ニ送達スヘシ
当事者ハ参加ニ付指定ノ期間内ニ異議ヲ申立ツルコトヲ得
参加ノ許否ハ決定ヲ以テ之ヲ審判ス
第七十九条 審判ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外審決ヲ以テ之ヲ終結ス
審決ニハ理由ヲ付スヘシ
第八十条 第三十八条ノ規定ニ依ル審判ニ於テハ補償金額ニ付テモ亦之ヲ審決スヘシ
第八十一条 審判ノ審決、権利確認ノ査定又ハ再審査ノ査定ニ不服アル者ハ審決又ハ査定ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ抗告審判ヲ請求スルコトヲ得但シ前条ノ審決ニ依ル補償金額ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十二条 第七十条乃至第七十九条ノ規定ハ抗告審判ニ之ヲ準用ス但シ審判官三人又ハ五人ノ合議ニ依ル
審判ニ干与シタル審判官ハ同一事件ニ付抗告審判ニ干与スルコトヲ得ス
第八十三条 抗告審判ニ於テハ其ノ事件ニ付審決ヲ為スヘシ
再審査ノ査定ニ対スル抗告審判ニ於テハ単ニ其ノ査定ヲ破毀シ更ニ審査ニ付スヘシトノ審決ヲ為スコトヲ得其ノ破毀ノ基本ト為シタル理由ハ其ノ事件ニ付テハ審査官ヲ羈束ス
発明牴触ノ査定ニ対スル抗告審判ニ於テ其ノ牴触ナシト認メタルトキハ出願ニ対シ特許又ハ許可スヘキコトヲモ併セテ審決スヘシ
第八十四条 第六十七条及第六十八条ノ規定ハ審判及抗告審判ニ之ヲ準用ス
第八十五条 抗告審判ノ審決ニ不服アル者ハ其ノ審判カ法令ニ違背シタルコトヲ理由トスル場合ニ限リ審決ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ大審院ニ出訴スルコトヲ得但シ再審査ノ査定ニ対スル審決ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ出訴及裁判ニ付テハ民事訴訟ノ上告及其ノ裁判ニ関スル規定ヲ準用ス
大審院ノ判決ニ於テ審決破毀ノ基本ト為シタル理由ハ其ノ事件ニ付テハ特許局ヲ羈束ス
第八十六条 本法ニ依ル補償金額ニ付不服アル者ハ補償金額ノ通知又ハ審決ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ六十日以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八十七条 特許ノ効力又ハ特許権ノ範囲ニ関スル確定審決又ハ判決ノ登録アリタルトキハ何人ト雖同一事実及同一証拠ニ基キ同一審判ヲ請求スルコトヲ得ス
第八十八条 民事又ハ刑事ノ訴訟ニ付特許権ノ効力又ハ範囲ニ関シ査定、審決又ハ判決ヲ待ツノ必要アル場合ニ於テハ裁判所ハ其ノ訴訟手続ヲ中止スルコトヲ得
第八十九条 審判及抗告審判ニ関スル費用ノ負担ハ本案ノ審決ヲ以テ之ヲ定ム
審判、抗告審判及出訴ノ費用額ハ請求ニ依リ特許局長之ヲ決定ス
第九十条 前条ノ費用ノ負担及費用額ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九十一条 審判、抗告審判及出訴ノ費用額ノ決定及本法ニ規定スル補償金額ノ確定審決ハ強制執行ニ関シテハ公証人ノ作リタル債務名義ト看做ス但シ其ノ執行力アル正本ハ特許局官吏之ヲ付与ス
第六章 罰則
第九十二条 他人ノ特許権ヲ侵害シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
他人ノ特許権ヲ侵害スヘキ物ヲ輸入シタル者ハ罰前項ニ同シ
前二項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ス
第九十三条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 詐偽ノ所為ヲ以テ特許ヲ受ケタル者
二 特許ニ係ラサル物又ハ其ノ容器、包装等ニ特許標記ヲ付シ若ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ為シタル者又ハ其ノ物ヲ販売若ハ拡布シタル者
三 特許ニ係ラサル物若ハ方法ヲ販売若ハ拡布スル為又ハ特許ニ係ラサル方法ヲ使用セシムル為広告、看板、引札等ニ其ノ物若ハ方法カ特許ニ係ルコトヲ表示シ又ハ之ニ紛ハシキ表示ヲ為シタル者
第九十四条 第九十二条ノ犯罪ニ因リ没収スルコトヲ得ヘキ物ニ付判決言渡前被害者ヨリ請求アリタルトキハ之ヲ相当ノ代価ニ見積リ被害者ニ交付スル言渡ヲ為スヘシ
損害ノ額カ交付ヲ受ケタル物ノ見積代価ニ超過スルトキハ被害者ハ其ノ差額ニ限リ賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得
第九十五条 法律ニ依リ宣誓シタル証人若ハ鑑定人又ハ通事ニシテ特許局又ハ其ノ嘱託ヲ受ケタル裁判所若ハ官庁ニ対シ虚偽ノ陳述ヲ為シタルトキハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者事件ノ査定又ハ審決ニ至ラサル前自白シタルトキハ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
第九十六条 特許局ヨリ証人、鑑定人又ハ通事トシテ呼出サレタル者正当ノ理由ナクシテ呼出ニ応セス又ハ其ノ義務ヲ尽ササルトキハ四十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十七条 特許弁理士ニ非スシテ特許ニ関スル代理業ヲ営ミタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
第七章 附則
第九十八条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九十九条 従前ノ規定ニ依ル特許ハ本法ニ依リ受ケタルモノト看做ス
第百条 本法施行前ニ発生シタル特許権ニ関シテハ第九条第二項ノ規定ハ本法施行ノ日ヨリ一年間之ヲ適用セス
第百一条 本法施行ノ際現ニ特許代理業者タル者ハ特許弁理士トス
第百二条 第三十五条ノ規定ハ本法施行前無効ト為リタル特許ニ関シテハ之ヲ適用セス
第四十条第二項ノ規定ハ本法施行前発生シタル実施権ニ関シテハ之ヲ適用セス
第百三条 旧法第十六条又ハ第十七条ノ報酬額ニ不服アル者ハ本法施行後六十日以内ニ限リ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第百四条 本法施行前受ケタル特許ニ関スル第三年分迄ノ特許料ニ付テハ旧法ノ規定ニ依ル
前項ノ特許料ヲ除クノ外本法施行前二年分以上前納シタル特許料ニ付テハ其ノ未タ納期ニ至ラサルモノニ限リ本法ニ依リ納付スヘキ特許料ニ比シテ残余アルトキハ順次之ヲ後年分ニ充テ尚残余アルトキハ之ヲ還付ス
本法施行前前納ニ係ル特許料ニ付テハ旧法第四十条第二項但書ノ規定ハ仍其ノ効力ヲ有ス
前二項ノ規定ニ依リ還付ヲ受ケムトスル者ハ本法施行後一年以内ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第百五条 旧法ニ依リ利害関係人以外ノ者ノ為シタル審判ノ請求ハ本法施行ノ為其ノ効力ヲ失フコトナシ
第百六条 本法施行ノ際現ニ繋属スル審判ニシテ其ノ事件カ本法ノ抗告審判事件ニ該当スルモノナルトキハ抗告審判ヲ以テ之ヲ処理スヘシ
本法施行前ノ審決ニシテ其ノ事件カ本法ノ抗告審判事件ニ該当スルモノナルトキハ出訴ニ関シテハ之ヲ抗告審判ノ審決ト看做ス