特許条例
法令番号: 勅令第八十四號
公布年月日: 明治21年12月20日
法令の形式: 勅令
朕特許條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十一年十二月十八日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
農商務大臣 伯爵 井上馨
勅令第八十四號
特許條例
第一條 新規有益ナル工術、機械、製造品及合成物ヲ發明シ又ハ工術、機械、製造品及合成物ノ新規有益ナル改良ヲ發明シタル者ハ此條例ニ依リ特許ヲ受クルコトヲ得
特許トハ發明者ニ他人ヲシテ其承諾ヲ經スシテ前項ノ發明ヲ製作、使用又ハ販賣セシメサル特權ヲ許スコトヲ謂フ
第二條 左ニ揭クル發明ハ特許ヲ受クルコトヲ得サルモノトス
一 飮食物嗜好物
二 醫藥並其調合法
三 特許出願以前公ニ用ヒラレタルモノ但試驗ノ爲メ公ニ知ラレタルコト二年以內ノモノハ此限ニ在ラス
第三條 特許ヲ受ケント欲スル者ハ一發明每ニ發明ノ明細書及必要ノ圖面ヲ添ヘ農商務大臣ニ出願スヘシ但其願書明細書及圖面ハ特許局ニ差出スヘシ
第四條 特許ヲ出願スル者アルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ其發明ヲ審査セシメ特許ヲ與フヘシト査定シタルモノハ農商務大臣ノ認可ヲ經テ特許原簿ニ登錄シ特許證下付ノ手續ヲ爲スヘシ
第五條 特許證ハ農商務大臣之ニ署名シ特許局長之ニ副署シ明細書及必要ノ圖面ヲ添ヘ之ヲ下付スルモノトス
第六條 特許ノ年限ハ五年十年及十五年ノ三種ト爲シ原簿登錄ノ日ヨリ起算ス
第七條 公益ノ爲メ普及ヲ要スルモノ又ハ軍事上必要ナルモノ若クハ秘密ヲ要スルモノト認メタル發明ニハ農商務大臣ハ特許ニ制限ヲ附シ若クハ特許ヲ與ヘス又ハ既ニ與ヘタル特許ヲ制限シ若クハ之ヲ取消スコトアルヘシ
前項ノ場合ニ於テ農商務大臣ハ相當ト認ムル報酬ヲ發明者又ハ特許證主ニ與フルモノトス
第八條 他人ノ特許發明ヲ改良シ其改良發明ノ特許ヲ受ケント欲スル者ハ其特許證主ニ協議シ原發明ニ改良發明ヲ合セテ使用スルノ承諾ヲ經第三條ニ依リ出願スヘシ
特許證主其承諾ヲ拒ミタルトキハ其旨ヲ願書ニ記載シテ出願スルコトヲ得此場合ニ於テハ農商務大臣ハ原發明ヲ改良發明ニ合セテ使用スルノ特許ヲ改良發明者ニ與フルコトヲ得
改良發明者前項ノ特許ヲ受ケタルトキハ原特許證主ニ農商務大臣ノ相當ト認ムル報酬ヲ與フル義務アルモノトス
第九條 特許ヲ受ケタル者又ハ之ヲ受ケントスル者死亡シタルトキハ其權利ハ相續者ニ屬スルモノトス
第十條 特許ヲ受ケタル發明ト雖トモ左ニ揭クルモノハ其特許ヲ無效トス
一 新規又ハ有益ナラサリシコトヲ發見セラレタルモノ
二 第二條ニ該ルコトヲ發見セラレタルモノ
三 發明ヲ實施スルニ必要ナル事實ヲ故意ニ明細書ニ記載セサリシコトヲ發見セラレタルモノ
四 發明ヲ實施スルニ必要ナラサル事實ヲ故意ニ明細書ニ記載セシコトヲ發見セラレタルモノ
第十一條 特許局審査官特許出願ノ發明ヲ審査シ特許ヲ與フヘカラスト査定シタルトキハ特許局長ハ其査定書ヲ出願人ニ送付スヘシ
第十二條 前條ノ査定ニ服セサル者ハ特許局ニ不服理由書ヲ差出シ再審査ヲ請求スルコトヲ得
再審査ヲ請求スル者アルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ更ニ之ヲ審査セシムヘシ審査官其不服理由ヲ不當ト査定シタルトキハ其査定書ヲ不服者ニ送付スヘシ
第十三條 特許局審査官特許出願ノ發明他人ノ特許出願中ノ發明ト牴觸シ又ハ他人ノ特許發明ト牴觸スト査定シタルトキハ特許局長ハ其牴觸ノ箇所ヲ關係人ニ吿知シ其發明ニ關スル始末書ヲ差出サシムヘシ
關係人始末書ヲ差出シタルトキハ特許局長ハ之ヲ特許局審査官ニ付シテ發明ノ先後ヲ審査セシメ其査定書ヲ關係人ニ送付スヘシ
第十四條 前條ノ場合ニ於テ既ニ與ヘタル特許證ヲ取消シ出願ノ發明ニ特許ヲ與フルトキハ其特許年限ハ前特許證登錄ノ日ヨリ起算シ其年限ニ超ルコトヲ得ス
第十五條 第十二條ノ再査定及第十三條ノ査定ニ服セサル者ハ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十六條 特許證主其權利ノ他特許證主ノ權利ト撞著スルコトヲ發見シタルトキハ其權利ヲ確定スル爲メ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十七條 特許ヲ受ケタル發明第十條ニ該ルコトヲ發見シタル者ハ其特許ヲ無效トスル爲メ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十八條 審判ヲ請求スル者アルトキハ特許局ニ於テ局長ハ審判長トナリ二人以上ノ審判官ト共ニ之ヲ審判スヘシ
第十九條 特許局ノ審判ニ對シテハ不服ヲ申立又ハ裁判所ニ訴フルコトヲ得ス
第二十條 第十三條ノ審査及特許局ノ審判ニ關シ關係人ニ於テ證據ヲ要スルトキハ其請求ニ依リ特許局長ハ其集取ヲ治安裁判所ニ囑託スルコトヲ得
第二十一條 第十六條第十七條ニ係ル費用ハ民事訴訟入費ノ例ニ依リ負擔スヘキモノトス
第二十二條 特許ハ制限ヲ附シ若クハ附セスシテ賣與讓與シ若クハ共有トナシ又ハ書入トナスコトヲ得此場合ニ於テハ特許局ニ請求シ契約ノ登錄ヲ受クヘシ登錄ヲ受ケサル契約ハ第三者ニ對シ法律上其效ナキモノトス
第二十三條 特許局ノ官吏ハ在職中特許ヲ出願シ又ハ特許ヲ新ニ有スルコトヲ得ス但相續ニ由リ特許ヲ新ニ有スルハ此限ニ在ラス
第二十四條 特許ハ左ノ場合ニ於テ其效ヲ失フモノトス
一 特許證主相當ノ事故ナクシテ特許證ノ日附ヨリ三年ヲ經テ其發明ヲ實施公行セサルトキ
二 特許證主相當ノ事故ナクシテ其發明ノ實施公行ヲ三年間中止シタルトキ
三 特許證主其特許品ヲ外國ヨリ輸入シテ之ヲ販賣シ又ハ自己ノ權利ヲ侵スヘキ物品ヲ外國ヨリ輸入シテ販賣スル者アルコトヲ知リテ之ヲ默許シタルトキ
第二十五條 特許證主特許證ヲ毀損若クハ亡失シタルトキハ事由ヲ具シ再下付ヲ出願スルコトヲ得
第二十六條 特許證主其明細書若クハ圖面ノ不完全ナルコトヲ發見シタルトキハ特許ノ效力ヲ全クスル爲メ改訂明細書若クハ圖面ヲ添ヘ特許證ノ改訂ヲ出願スルコトヲ得但其發明ノ要部ニ變更ヲ生スルモノハ此限ニ在ラス
第二十七條 特許證主其明細書中ニ自己ノ發明ニアラサル事項ヲ誤テ自己ノ發明トシテ記載セシコトヲ發見シタルトキハ其削除ヲ出願スルコトヲ得
第二十八條 第二十六條第二十七條ニ依リ出願スルモノアルトキハ特許局長ハ其願書ヲ特許局審査官ニ付シテ審査セシムヘシ
前項ノ場合ニ於テ特許局審査官ノ査定ニ服セサル者ハ第十二條ニ依リ再審査ヲ請求スルコトヲ得
第二十九條 特許證主ハ其物品ニ農商務大臣ノ定メタル特許標記ヲ爲スヘシ
第三十條 特許ニ關シ出願又ハ請求スル者ハ左ノ手數料ヲ納ムヘシ
一 特許ヲ出願スルトキ 一發明每ニ金五圓
二 特許ノ賣與讓與共有又ハ書入契約ノ登錄ヲ請求スルトキ 一發明每ニ金三圓
三 特許證ノ再下付ヲ出願スルトキ 證書一枚每ニ金壹圓
四 特許證ノ改訂又ハ明細書中ノ削除ヲ出願スルトキ 一發明每ニ金五圓
五 審判ヲ請求スルトキ 一事件每ニ金七圓
第三十一條 特許證又ハ改訂特許證ヲ受クル者ハ一證書每ニ左ノ區別ニ從ヒ特許料ヲ納ムヘシ
一 五年ノ特許 金拾圓
二 十年ノ特許 金拾五圓
三 十五年ノ特許 金貳拾圓
第三十二條 特許局ハ時々特許發明ノ明細書及特許公報ヲ印刷シ衆庶ノ縱覽ニ供スヘシ其請求者アルトキハ相當代價ヲ以テ之ヲ拂下クルコトヲ得
第三十三條 特許ニ關スル書類ノ謄本又ハ圖面ノ調製ヲ要スル者ハ特許局ニ之ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ相當ノ手數料ヲ納ムヘシ
第三十四條 特許ヲ侵シタル者ハ其特許證主ニ對シ損害賠償ノ責ニ任スヘシ
第三十五條 前條損害賠賞ノ責ハ三年ヲ以テ期滿免除ノ期トス
第三十六條 他人ノ特許品ヲ僞造シテ使用若クハ販賣シタル者又ハ情ヲ知リ僞造品ヲ使用若クハ受託販賣シタル者又ハ他人ノ特許工術ヲ竊用シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮又ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
特許證主ノ權利ヲ侵スヘキ物品ナルコトヲ知リ之ヲ外國ヨリ輸入シテ使用若クハ販賣シタル者又ハ情ヲ知リ其輸入シタル物品ヲ使用若クハ受託販賣シタル者ハ罰前項ニ同シ
第三十七條 前條ノ場合ニ於テハ其犯罪ノ物件ヲ沒收シテ特許證主ニ給付シ其既ニ賣捌キタルモノハ代價ヲ追徵シテ之ヲ給付ス
第三十八條 詐欺ノ所爲ヲ以テ特許證ヲ受ケタル者又ハ特許ヲ受ケサル物品ニ特許標記若クハ之ニ類似シタル標記ヲ爲シテ販賣シタル者又ハ情ヲ知リテ其物品ヲ受託販賣シタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮又ハ十圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十九條 第三十六條ノ犯罪ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ其罪ヲ論ス
前項ノ場合ニ於テ吿訴人ノ請求ニ依リ裁判官ハ假ニ其吿訴ニ係ル物品ノ使用若クハ販賣ヲ差止ムルコトヲ得
第四十條 特許證主其特許品ニ第二十九條ノ特許標記ヲ爲スコトヲ怠リタルトキハ吿訴又ハ要償ノ訴ヲ爲スコトヲ得ス
第四十一條 被吿人特許ノ無效タルコトヲ以テ答辨セント欲スルトキハ其旨ヲ裁判所ニ申吿シ其日ヨリ三十日以內ニ特許局ニ第十七條ノ審判ヲ請求スヘシ此場合ニ於テ裁判所ハ特許局ノ審判終結マテ其裁判ヲ中止スヘシ
第四十二條 此條例ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ數罪倶發ノ例ヲ用ヒス
第四十三條 此條例施行ノ細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第四十四條 此條例ハ明治二十二年二月一日ヨリ施行ス
第四十五條 明治十八年四月第七號布吿專賣特許條例ハ此條例施行ノ日ヨリ廢止ス但專賣特許條例ニ依テ受ケタル專賣特許ハ此條例ニ依テ受ケタル特許ト同一ノ效アルモノトス
專賣特許出願ノ此條例施行ノ日ニ於テ處分ヲ終ラサルモノハ此條例ニ依リ處分ス
朕特許条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十一年十二月十八日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
農商務大臣 伯爵 井上馨
勅令第八十四号
特許条例
第一条 新規有益ナル工術、機械、製造品及合成物ヲ発明シ又ハ工術、機械、製造品及合成物ノ新規有益ナル改良ヲ発明シタル者ハ此条例ニ依リ特許ヲ受クルコトヲ得
特許トハ発明者ニ他人ヲシテ其承諾ヲ経スシテ前項ノ発明ヲ製作、使用又ハ販売セシメサル特権ヲ許スコトヲ謂フ
第二条 左ニ掲クル発明ハ特許ヲ受クルコトヲ得サルモノトス
一 飲食物嗜好物
二 医薬並其調合法
三 特許出願以前公ニ用ヒラレタルモノ但試験ノ為メ公ニ知ラレタルコト二年以内ノモノハ此限ニ在ラス
第三条 特許ヲ受ケント欲スル者ハ一発明毎ニ発明ノ明細書及必要ノ図面ヲ添ヘ農商務大臣ニ出願スヘシ但其願書明細書及図面ハ特許局ニ差出スヘシ
第四条 特許ヲ出願スル者アルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ其発明ヲ審査セシメ特許ヲ与フヘシト査定シタルモノハ農商務大臣ノ認可ヲ経テ特許原簿ニ登録シ特許証下付ノ手続ヲ為スヘシ
第五条 特許証ハ農商務大臣之ニ署名シ特許局長之ニ副署シ明細書及必要ノ図面ヲ添ヘ之ヲ下付スルモノトス
第六条 特許ノ年限ハ五年十年及十五年ノ三種ト為シ原簿登録ノ日ヨリ起算ス
第七条 公益ノ為メ普及ヲ要スルモノ又ハ軍事上必要ナルモノ若クハ秘密ヲ要スルモノト認メタル発明ニハ農商務大臣ハ特許ニ制限ヲ附シ若クハ特許ヲ与ヘス又ハ既ニ与ヘタル特許ヲ制限シ若クハ之ヲ取消スコトアルヘシ
前項ノ場合ニ於テ農商務大臣ハ相当ト認ムル報酬ヲ発明者又ハ特許証主ニ与フルモノトス
第八条 他人ノ特許発明ヲ改良シ其改良発明ノ特許ヲ受ケント欲スル者ハ其特許証主ニ協議シ原発明ニ改良発明ヲ合セテ使用スルノ承諾ヲ経第三条ニ依リ出願スヘシ
特許証主其承諾ヲ拒ミタルトキハ其旨ヲ願書ニ記載シテ出願スルコトヲ得此場合ニ於テハ農商務大臣ハ原発明ヲ改良発明ニ合セテ使用スルノ特許ヲ改良発明者ニ与フルコトヲ得
改良発明者前項ノ特許ヲ受ケタルトキハ原特許証主ニ農商務大臣ノ相当ト認ムル報酬ヲ与フル義務アルモノトス
第九条 特許ヲ受ケタル者又ハ之ヲ受ケントスル者死亡シタルトキハ其権利ハ相続者ニ属スルモノトス
第十条 特許ヲ受ケタル発明ト雖トモ左ニ掲クルモノハ其特許ヲ無効トス
一 新規又ハ有益ナラサリシコトヲ発見セラレタルモノ
二 第二条ニ該ルコトヲ発見セラレタルモノ
三 発明ヲ実施スルニ必要ナル事実ヲ故意ニ明細書ニ記載セサリシコトヲ発見セラレタルモノ
四 発明ヲ実施スルニ必要ナラサル事実ヲ故意ニ明細書ニ記載セシコトヲ発見セラレタルモノ
第十一条 特許局審査官特許出願ノ発明ヲ審査シ特許ヲ与フヘカラスト査定シタルトキハ特許局長ハ其査定書ヲ出願人ニ送付スヘシ
第十二条 前条ノ査定ニ服セサル者ハ特許局ニ不服理由書ヲ差出シ再審査ヲ請求スルコトヲ得
再審査ヲ請求スル者アルトキハ特許局長ハ特許局審査官ヲシテ更ニ之ヲ審査セシムヘシ審査官其不服理由ヲ不当ト査定シタルトキハ其査定書ヲ不服者ニ送付スヘシ
第十三条 特許局審査官特許出願ノ発明他人ノ特許出願中ノ発明ト牴触シ又ハ他人ノ特許発明ト牴触スト査定シタルトキハ特許局長ハ其牴触ノ箇所ヲ関係人ニ告知シ其発明ニ関スル始末書ヲ差出サシムヘシ
関係人始末書ヲ差出シタルトキハ特許局長ハ之ヲ特許局審査官ニ付シテ発明ノ先後ヲ審査セシメ其査定書ヲ関係人ニ送付スヘシ
第十四条 前条ノ場合ニ於テ既ニ与ヘタル特許証ヲ取消シ出願ノ発明ニ特許ヲ与フルトキハ其特許年限ハ前特許証登録ノ日ヨリ起算シ其年限ニ超ルコトヲ得ス
第十五条 第十二条ノ再査定及第十三条ノ査定ニ服セサル者ハ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十六条 特許証主其権利ノ他特許証主ノ権利ト撞著スルコトヲ発見シタルトキハ其権利ヲ確定スル為メ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十七条 特許ヲ受ケタル発明第十条ニ該ルコトヲ発見シタル者ハ其特許ヲ無効トスル為メ特許局ニ審判ヲ請求スルコトヲ得
第十八条 審判ヲ請求スル者アルトキハ特許局ニ於テ局長ハ審判長トナリ二人以上ノ審判官ト共ニ之ヲ審判スヘシ
第十九条 特許局ノ審判ニ対シテハ不服ヲ申立又ハ裁判所ニ訴フルコトヲ得ス
第二十条 第十三条ノ審査及特許局ノ審判ニ関シ関係人ニ於テ証拠ヲ要スルトキハ其請求ニ依リ特許局長ハ其集取ヲ治安裁判所ニ嘱託スルコトヲ得
第二十一条 第十六条第十七条ニ係ル費用ハ民事訴訟入費ノ例ニ依リ負担スヘキモノトス
第二十二条 特許ハ制限ヲ附シ若クハ附セスシテ売与譲与シ若クハ共有トナシ又ハ書入トナスコトヲ得此場合ニ於テハ特許局ニ請求シ契約ノ登録ヲ受クヘシ登録ヲ受ケサル契約ハ第三者ニ対シ法律上其効ナキモノトス
第二十三条 特許局ノ官吏ハ在職中特許ヲ出願シ又ハ特許ヲ新ニ有スルコトヲ得ス但相続ニ由リ特許ヲ新ニ有スルハ此限ニ在ラス
第二十四条 特許ハ左ノ場合ニ於テ其効ヲ失フモノトス
一 特許証主相当ノ事故ナクシテ特許証ノ日附ヨリ三年ヲ経テ其発明ヲ実施公行セサルトキ
二 特許証主相当ノ事故ナクシテ其発明ノ実施公行ヲ三年間中止シタルトキ
三 特許証主其特許品ヲ外国ヨリ輸入シテ之ヲ販売シ又ハ自己ノ権利ヲ侵スヘキ物品ヲ外国ヨリ輸入シテ販売スル者アルコトヲ知リテ之ヲ黙許シタルトキ
第二十五条 特許証主特許証ヲ毀損若クハ亡失シタルトキハ事由ヲ具シ再下付ヲ出願スルコトヲ得
第二十六条 特許証主其明細書若クハ図面ノ不完全ナルコトヲ発見シタルトキハ特許ノ効力ヲ全クスル為メ改訂明細書若クハ図面ヲ添ヘ特許証ノ改訂ヲ出願スルコトヲ得但其発明ノ要部ニ変更ヲ生スルモノハ此限ニ在ラス
第二十七条 特許証主其明細書中ニ自己ノ発明ニアラサル事項ヲ誤テ自己ノ発明トシテ記載セシコトヲ発見シタルトキハ其削除ヲ出願スルコトヲ得
第二十八条 第二十六条第二十七条ニ依リ出願スルモノアルトキハ特許局長ハ其願書ヲ特許局審査官ニ付シテ審査セシムヘシ
前項ノ場合ニ於テ特許局審査官ノ査定ニ服セサル者ハ第十二条ニ依リ再審査ヲ請求スルコトヲ得
第二十九条 特許証主ハ其物品ニ農商務大臣ノ定メタル特許標記ヲ為スヘシ
第三十条 特許ニ関シ出願又ハ請求スル者ハ左ノ手数料ヲ納ムヘシ
一 特許ヲ出願スルトキ 一発明毎ニ金五円
二 特許ノ売与譲与共有又ハ書入契約ノ登録ヲ請求スルトキ 一発明毎ニ金三円
三 特許証ノ再下付ヲ出願スルトキ 証書一枚毎ニ金壱円
四 特許証ノ改訂又ハ明細書中ノ削除ヲ出願スルトキ 一発明毎ニ金五円
五 審判ヲ請求スルトキ 一事件毎ニ金七円
第三十一条 特許証又ハ改訂特許証ヲ受クル者ハ一証書毎ニ左ノ区別ニ従ヒ特許料ヲ納ムヘシ
一 五年ノ特許 金拾円
二 十年ノ特許 金拾五円
三 十五年ノ特許 金弐拾円
第三十二条 特許局ハ時々特許発明ノ明細書及特許公報ヲ印刷シ衆庶ノ縦覧ニ供スヘシ其請求者アルトキハ相当代価ヲ以テ之ヲ払下クルコトヲ得
第三十三条 特許ニ関スル書類ノ謄本又ハ図面ノ調製ヲ要スル者ハ特許局ニ之ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ相当ノ手数料ヲ納ムヘシ
第三十四条 特許ヲ侵シタル者ハ其特許証主ニ対シ損害賠償ノ責ニ任スヘシ
第三十五条 前条損害賠賞ノ責ハ三年ヲ以テ期満免除ノ期トス
第三十六条 他人ノ特許品ヲ偽造シテ使用若クハ販売シタル者又ハ情ヲ知リ偽造品ヲ使用若クハ受託販売シタル者又ハ他人ノ特許工術ヲ窃用シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮又ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
特許証主ノ権利ヲ侵スヘキ物品ナルコトヲ知リ之ヲ外国ヨリ輸入シテ使用若クハ販売シタル者又ハ情ヲ知リ其輸入シタル物品ヲ使用若クハ受託販売シタル者ハ罰前項ニ同シ
第三十七条 前条ノ場合ニ於テハ其犯罪ノ物件ヲ没収シテ特許証主ニ給付シ其既ニ売捌キタルモノハ代価ヲ追徴シテ之ヲ給付ス
第三十八条 詐欺ノ所為ヲ以テ特許証ヲ受ケタル者又ハ特許ヲ受ケサル物品ニ特許標記若クハ之ニ類似シタル標記ヲ為シテ販売シタル者又ハ情ヲ知リテ其物品ヲ受託販売シタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮又ハ十円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十九条 第三十六条ノ犯罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ其罪ヲ論ス
前項ノ場合ニ於テ告訴人ノ請求ニ依リ裁判官ハ仮ニ其告訴ニ係ル物品ノ使用若クハ販売ヲ差止ムルコトヲ得
第四十条 特許証主其特許品ニ第二十九条ノ特許標記ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ告訴又ハ要償ノ訴ヲ為スコトヲ得ス
第四十一条 被告人特許ノ無効タルコトヲ以テ答弁セント欲スルトキハ其旨ヲ裁判所ニ申告シ其日ヨリ三十日以内ニ特許局ニ第十七条ノ審判ヲ請求スヘシ此場合ニ於テ裁判所ハ特許局ノ審判終結マテ其裁判ヲ中止スヘシ
第四十二条 此条例ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ数罪倶発ノ例ヲ用ヒス
第四十三条 此条例施行ノ細則ハ農商務大臣之ヲ定ム
第四十四条 此条例ハ明治二十二年二月一日ヨリ施行ス
第四十五条 明治十八年四月第七号布告専売特許条例ハ此条例施行ノ日ヨリ廃止ス但専売特許条例ニ依テ受ケタル専売特許ハ此条例ニ依テ受ケタル特許ト同一ノ効アルモノトス
専売特許出願ノ此条例施行ノ日ニ於テ処分ヲ終ラサルモノハ此条例ニ依リ処分ス