朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル古物商取締法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月二日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
內務大臣 子爵 野村靖
法律第十三號
古物商取締法
第一條 古物商トハ主トシテ一度使用シタル物品若ハ其ノ物品ニ幾部ノ手入ヲ爲シタルモノヲ賣買交換スルヲ以テ營業ト爲ス者ヲ云フ
第二條 古物商ノ營業ヲ爲サムトスル者ハ其ノ物品ノ種類ヲ定メ行政廳ノ免許ヲ受クヘシ
第三條 古物商ハ免許ヲ受ケタル行政廳ノ管轄內ニ店舖ヲ設ケタルトキハ其ノ旨行政廳ニ屆出ツヘシ
第四條 免許ヲ受ケタル行政廳ノ管轄以外ノ地ニ於テ營業所又ハ店舖ヲ設ケムトスルトキハ更ニ其ノ地行政廳ノ免許ヲ受クヘシ
管轄以外ノ地ニ於テ營業所又ハ店舖ヲ設クルニ非スシテ賣買若ハ交換シタルトキハ古物商ニ非サル者ヨリ買受ケ若ハ讓受ケタル場合ニ限リ其ノ品目ヲ其ノ地ノ行政廳ニ屆出ヘシ但シ官衙公署ノ公賣品及質業者ヨリ買受ケタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第五條 左ニ記載シタルモノニ關スル規定ハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
一 古物ノ市場、行商、露店及糶賣
二 刀劒又ハ之ヲ仕込ミタル器具其ノ他危險ノ虞アル物品ノ賣買交換
第六條 古物商物品ヲ買受ケ若ハ交換セムトスルトキハ賣主、讓渡主ニ於テ其ノ物品ヲ處分スルノ權利ヲ有スルコトヲ確認シタル後之ヲ爲スヘシ若不正品ノ疑アルトキハ直ニ警察官ニ申吿スヘシ
第七條 住所、氏名ノ詳ナラサル者ヨリ物品ヲ買受ケ又ハ交換スルコトヲ得ス但シ住所、氏名ノ詳ナル者其ノ證人タルトキ又ハ警察官ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八條 傳染病毒ニ汚染シタル物品ナリト認ムルモノハ消毒シタル後ニ非サレハ之ヲ買受ケ又ハ讓受クルコトヲ得ス
前項ノ物品ニシテ警察官ニ於テ未タ消毒セサルモノト認ムルトキハ直ニ消毒法ヲ施サシム其ノ命ニ從ハサルトキハ之ヲ官沒ス
第九條 贓物ニシテ特ニ識別シ得ヘキ物品ニ限リ警察官ハ品觸ヲ發スルコトヲ得
第十條 贓物ノ品觸アルトキハ到達シタル年月日ヲ其ノ品觸寫書ニ附記スヘシ品觸到達以後六箇月內ニ品觸ニ相當スル物品ヲ買受ケ又ハ交換シ若ハ寄藏ヲ受ケ若ハ其ノ以前ニ之ヲ得タル儘所持シタルトキハ直ニ警察官ニ屆出ヘシ
第十一條 古物商物品ヲ賣買シ若ハ交換シタルトキハ其ノ物品及賣主、讓渡主ヲ帳簿ニ記載シ又買主、讓受主ヲ詳ニスルコトヲ得タルトキハ之ヲ記載スヘシ
其ノ他帳簿ニ關スル規定ハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第十二條 物品ノ賣買交換ヲ記載シタル帳簿ヲ廢棄セムトスルトキハ警察官ノ許可ヲ受クヘシ
第十三條 警察官ハ犯罪ノ嫌疑アル物品若ハ遺失物又ハ傳染病毒汚染ノ物品アリト認ムルトキハ何時タリトモ物品及帳簿ノ檢査ヲ爲シ時宜ニ依リ其ノ物品ヲ差押ヘ又ハ帳簿ヲ差出サシムルコトヲ得
警察官ニ於テ物品ヲ押收シタルトキハ領置證書ヲ交付スヘシ
第十四條 古物商法律命令ニ違犯シ行政廳ニ於テ必要ト認ムルトキハ其ノ營業ヲ禁止若ハ停止スルコトヲ得
禁止及停止ノ效力ハ全國ニ及フ
第十五條 禁止ノ處分ヲ受ケタル者ハ他人ノ名義ヲ以テ古物商營業ヲ爲シ又ハ古物商ノ代理人タルコトヲ得ス停止ノ處分ヲ受ケタル者其ノ期限內亦同シ
第十六條 行政廳ハ何時タリトモ營業禁止ヲ解クコトヲ得
第十七條 古物商ノ買受ケ又ハ交換シタル物品ニシテ遺失物若ハ贓物ニ係ルトキハ營業者ヨリシタルト否トヲ問ハス警察官ニ於テ之ヲ徵收シ被害者ニ還付スルコトヲ得若被害者知レサルトキハ徵收シタル日ヨリ二箇年ノ後官沒スルコトヲ得
第十八條 他ノ營業者ニシテ隨時其ノ營業ニ屬スル古物ヲ賣買交換シ特ニ此ノ法律ヲ適用スルノ必要アルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九條 左ニ揭クル諸項ノ一ニ該當スル者ハ二圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第十三條ノ場合ニ於テ虛僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ故意ニ物品、帳簿ヲ毀損亡失シタル者
二 第二條ノ免許ヲ受ケスシテ營業ヲ爲シタル者
三 禁止又ハ停止中營業ヲ爲シタル者
四 第十五條ニ違犯シタル者
第二十條 第三條、第四條、第六條、第七條、第八條、第十條、第十一條及第十二條ニ違犯シタル者ハ二圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十一條 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第二十二條 營業上ニ付テハ家屬又ハ雇人ノ所爲ト雖營業者其ノ責ニ任ス
第二十三條 此ノ法律ヲ施行スル爲ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十四條 此ノ法律ハ明治二十八年九月一日ヨリ施行ス但シ沖繩縣ニ施行セス
第二十五條 明治十六年第五十號布吿古物商取締條例ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル古物商取締法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月二日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
内務大臣 子爵 野村靖
法律第十三号
古物商取締法
第一条 古物商トハ主トシテ一度使用シタル物品若ハ其ノ物品ニ幾部ノ手入ヲ為シタルモノヲ売買交換スルヲ以テ営業ト為ス者ヲ云フ
第二条 古物商ノ営業ヲ為サムトスル者ハ其ノ物品ノ種類ヲ定メ行政庁ノ免許ヲ受クヘシ
第三条 古物商ハ免許ヲ受ケタル行政庁ノ管轄内ニ店舗ヲ設ケタルトキハ其ノ旨行政庁ニ届出ツヘシ
第四条 免許ヲ受ケタル行政庁ノ管轄以外ノ地ニ於テ営業所又ハ店舗ヲ設ケムトスルトキハ更ニ其ノ地行政庁ノ免許ヲ受クヘシ
管轄以外ノ地ニ於テ営業所又ハ店舗ヲ設クルニ非スシテ売買若ハ交換シタルトキハ古物商ニ非サル者ヨリ買受ケ若ハ譲受ケタル場合ニ限リ其ノ品目ヲ其ノ地ノ行政庁ニ届出ヘシ但シ官衙公署ノ公売品及質業者ヨリ買受ケタルモノハ此ノ限ニ在ラス
第五条 左ニ記載シタルモノニ関スル規定ハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
一 古物ノ市場、行商、露店及糶売
二 刀剣又ハ之ヲ仕込ミタル器具其ノ他危険ノ虞アル物品ノ売買交換
第六条 古物商物品ヲ買受ケ若ハ交換セムトスルトキハ売主、譲渡主ニ於テ其ノ物品ヲ処分スルノ権利ヲ有スルコトヲ確認シタル後之ヲ為スヘシ若不正品ノ疑アルトキハ直ニ警察官ニ申告スヘシ
第七条 住所、氏名ノ詳ナラサル者ヨリ物品ヲ買受ケ又ハ交換スルコトヲ得ス但シ住所、氏名ノ詳ナル者其ノ証人タルトキ又ハ警察官ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八条 伝染病毒ニ汚染シタル物品ナリト認ムルモノハ消毒シタル後ニ非サレハ之ヲ買受ケ又ハ譲受クルコトヲ得ス
前項ノ物品ニシテ警察官ニ於テ未タ消毒セサルモノト認ムルトキハ直ニ消毒法ヲ施サシム其ノ命ニ従ハサルトキハ之ヲ官没ス
第九条 贓物ニシテ特ニ識別シ得ヘキ物品ニ限リ警察官ハ品触ヲ発スルコトヲ得
第十条 贓物ノ品触アルトキハ到達シタル年月日ヲ其ノ品触写書ニ附記スヘシ品触到達以後六箇月内ニ品触ニ相当スル物品ヲ買受ケ又ハ交換シ若ハ寄蔵ヲ受ケ若ハ其ノ以前ニ之ヲ得タル儘所持シタルトキハ直ニ警察官ニ届出ヘシ
第十一条 古物商物品ヲ売買シ若ハ交換シタルトキハ其ノ物品及売主、譲渡主ヲ帳簿ニ記載シ又買主、譲受主ヲ詳ニスルコトヲ得タルトキハ之ヲ記載スヘシ
其ノ他帳簿ニ関スル規定ハ別ニ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第十二条 物品ノ売買交換ヲ記載シタル帳簿ヲ廃棄セムトスルトキハ警察官ノ許可ヲ受クヘシ
第十三条 警察官ハ犯罪ノ嫌疑アル物品若ハ遺失物又ハ伝染病毒汚染ノ物品アリト認ムルトキハ何時タリトモ物品及帳簿ノ検査ヲ為シ時宜ニ依リ其ノ物品ヲ差押ヘ又ハ帳簿ヲ差出サシムルコトヲ得
警察官ニ於テ物品ヲ押収シタルトキハ領置証書ヲ交付スヘシ
第十四条 古物商法律命令ニ違犯シ行政庁ニ於テ必要ト認ムルトキハ其ノ営業ヲ禁止若ハ停止スルコトヲ得
禁止及停止ノ効力ハ全国ニ及フ
第十五条 禁止ノ処分ヲ受ケタル者ハ他人ノ名義ヲ以テ古物商営業ヲ為シ又ハ古物商ノ代理人タルコトヲ得ス停止ノ処分ヲ受ケタル者其ノ期限内亦同シ
第十六条 行政庁ハ何時タリトモ営業禁止ヲ解クコトヲ得
第十七条 古物商ノ買受ケ又ハ交換シタル物品ニシテ遺失物若ハ贓物ニ係ルトキハ営業者ヨリシタルト否トヲ問ハス警察官ニ於テ之ヲ徴収シ被害者ニ還付スルコトヲ得若被害者知レサルトキハ徴収シタル日ヨリ二箇年ノ後官没スルコトヲ得
第十八条 他ノ営業者ニシテ随時其ノ営業ニ属スル古物ヲ売買交換シ特ニ此ノ法律ヲ適用スルノ必要アルモノハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九条 左ニ掲クル諸項ノ一ニ該当スル者ハ二円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第十三条ノ場合ニ於テ虚偽ノ陳述ヲ為シ又ハ故意ニ物品、帳簿ヲ毀損亡失シタル者
二 第二条ノ免許ヲ受ケスシテ営業ヲ為シタル者
三 禁止又ハ停止中営業ヲ為シタル者
四 第十五条ニ違犯シタル者
第二十条 第三条、第四条、第六条、第七条、第八条、第十条、第十一条及第十二条ニ違犯シタル者ハ二円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十一条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第二十二条 営業上ニ付テハ家属又ハ雇人ノ所為ト雖営業者其ノ責ニ任ス
第二十三条 此ノ法律ヲ施行スル為ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十四条 此ノ法律ハ明治二十八年九月一日ヨリ施行ス但シ沖縄県ニ施行セス
第二十五条 明治十六年第五十号布告古物商取締条例ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス