公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法
法令番号: 法律第九十号
公布年月日: 昭和44年12月15日
法令の形式: 法律
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和四十四年十二月十五日
内閣総理大臣 佐藤栄作
法律第九十号
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
医療費等の支給(第三条―第九条)
第三章
費用(第十条―第十二条)
第四章
公害防止事業団の納付業務等(第十三条―第十九条)
第五章
雑則(第二十条―第三十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、事業活動その他の人の活動に伴つて相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発した場合において、当該疾病にかかつた者に対し、医療費、医療手当及び介護手当の支給の措置を講ずることにより、その者の健康被害の救済を図ることを目的とする。
(指定地域等)
第二条 この法律において「指定地域」とは、事業活動その他の人の活動に伴つて相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発している地域で政令で定めるものをいう。
2 前項の政令においては、あわせて同項に規定する疾病を定めなければならない。
3 厚生大臣は、第一項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県知事の意見をきかなければならない。
第二章 医療費等の支給
(認定)
第三条 指定地域の全部又は一部を管轄する都道府県知事は、当該指定地域につき前条第二項の規定により定められた疾病にかかつている者について、その者の申請に基づき、公害被害者認定審査会の意見をきいて、その者の当該疾病が当該指定地域に係る大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものである旨の認定を行なう。この場合において、当該疾病が厚生大臣の定める疾病であるときは、当該申請の時にその管轄に属する指定地域の区域内に住所を有しており、かつ、その時まで引き続き当該指定地域内に住所を有する期間が厚生大臣の定める期間以上である者(一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を当該指定地域内において過ごすことが常態であり、かつ、その期間が指定地域ごとに厚生大臣の定める期間以上である者を含む。)に限つて行なうものとする。
2 指定地域の全部又は一部が政令で定める市の区域内にある場合には、その区域については、前項の規定による都道府県知事の権限は、当該市の長が行なう。
3 都道府県知事(前項の政令で定める市にあつては、当該市の長とする。第六条第一項、第十条及び第二十条を除き、以下同じ。)は、第一項の認定を行なつたときは、当該認定を受けた者に対し、公害医療手帳を交付するものとする。
(医療費の支給)
第四条 都道府県知事は、当該都道府県知事による前条第一項の認定を受けた者が当該認定に係る疾病について次に掲げる医療を受けたときは、その者に対し、医療費を支給する。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 医学的処置、手術及びその他の治療
四 病院又は診療所への収容
五 看護
六 移送
2 前項の規定は、前条第一項の認定を受けた者で当該認定に係る疾病が厚生大臣の定める疾病であるものが、当該指定地域外に住所を移したとき(一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を当該指定地域内において過ごすことが常態でなくなつたときを含む。)、又は当該指定地域の全部若しくは一部が指定地域でなくなつたことにより指定地域内に住所を有しなくなつたとき(指定地域内において一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を過ごすことが常態でなくなつたときを含む。)は、その者については、その日から起算して厚生大臣の定める期間を経過した日以後は適用しない。
(医療費の額等)
第五条 前条第一項の規定により支給する医療費の額は、当該医療に要する費用の額を限度とする。ただし、その者が当該疾病につき、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)その他政令で定める法令の規定により医療に関する給付を受け、若しくは受けることができたとき、又は当該医療が法令の規定により国若しくは地方公共団体の負担による医療に関する給付として行なわれたときは、当該医療に要する費用の額から当該医療に関する給付の額を控除した額(その者が国民健康保険法による療養の給付を受け、又は受けることができたときは、当該療養の給付に関する同法の規定による一部負担金に相当する額とし、当該医療が法令の規定により国又は地方公共団体の負担による医療の現物給付として行なわれたときは、当該医療に関する給付について行なわれた実費徴収の額とする。)を限度とする。
2 前項の医療に要する費用の額は、健康保険の療養に要する費用の額の算定方法の例により算定した額とする。ただし、現に要した費用の額をこえることができない。
(保険医療機関等に対する医療費の支払等)
第六条 第三条第一項の認定を受けた者が、公害医療手帳を提示して、当該認定に係る疾病について、健康保険法その他政令で定める法令又は国民健康保険法の規定により当該指定地域をその区域に含む都道府県(当該指定地域が二以上の都道府県の区域にわたるときは、当該認定を行なつた都道府県知事(同条第二項の規定により市長が認定を行なつたときは、当該市をその区域に含む都道府県の都道府県知事とする。)の統轄する都道府県とする。後段において同じ。)の区域内の健康保険法第四十三条第三項第一号の保険医療機関若しくは保険薬局又は国民健康保険法第三十六条第四項の療養取扱機関(これらの開設者が診療報酬の請求及び支払に関しこの項及び次項に規定する方式によらない旨を都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長に申し出たものを除く。以下「保険医療機関等」という。)で医療を受けた場合には、当該保険医療機関等は、当該医療を受けた者に対する請求に代えて、その者が第四条第一項の規定により支給されるべき医療費の額を、都道府県(第三条第二項の政令で定める市の長による認定を受けた者が当該医療を受けたときは、当該市とする。次項及び第五項において同じ。)に対し、請求するものとする。同条第一項の認定を受けた者で生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)による保護を受けている世帯(その保護を停止されている世帯を除く。)に属するものが、公害医療手帳を提示して、当該認定に係る疾病について、当該指定地域をその区域に含む都道府県の区域内の同法第四十九条の規定により指定を受けた医療機関(その開設者が診療報酬の請求及び支払に関しこの項及び次項に規定する方式によらない旨を都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長に申し出たものを除く。以下「生活保護指定医療機関」という。)で医療を受けた場合における生活保護指定医療機関についても、同様とする。
2 都道府県は、前項の規定による請求があつたときは、当該医療を受けた者に代わり、保険医療機関等又は生活保護指定医療機関に対し、第四条第一項の規定により支給すべき医療費の額を支払うものとする。
3 前項の規定による支払があつたときは、当該医療を受けた者に対し、第四条第一項の規定による医療費の支給があつたものとみなす。
4 都道府県知事は、第二項の規定により支払うべき額を決定するにあたつては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)に定める審査委員会の意見をきかなければならない。
5 都道府県は、第二項の規定による支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
6 国民健康保険の被保険者である第三条第一項の認定を受けた者が、当該認定に係る疾病について、国民健康保険法第三十六条第四項の療養取扱機関から医療を受ける場合には、同法の規定により当該療養取扱機関に支払うべき一部負担金は、同法第四十二条第一項の規定にかかわらず、当該医療に関し都道府県知事が第二項の規定による支払をしない旨の決定をするまでは、支払うことを要しない。
(医療手当の支給)
第七条 都道府県知事は、当該都道府県知事による第三条第一項の認定を受けた者で、当該認定に係る疾病について第四条第一項各号の医療を受けており、かつ、その病状が政令で定める病状の程度をこえるものに対し、政令の定めるところにより、医療手当を支給する。
2 第四条第二項の規定は、医療手当について準用する。
(医療手当の支給の制限)
第八条 医療手当は、前条第一項に規定する者、その配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で前条第一項に規定する者の生計を維持するものの所得につき所得税法(昭和四十年法律第三十三号)の規定により計算した前年分(一月から四月までの間に受けた医療に係る医療手当については、前前年分とする。)の所得税の額(この所得税の額を計算する場合には、同法第九十二条及び第九十五条の規定を適用しないものとする。)が政令で定める額をこえるときは、支給しない。
(介護手当の支給)
第九条 都道府県知事は、当該都道府県知事による第三条第一項の認定を受けた者で、当該認定に係る疾病による厚生省令で定める範囲の身体上の障害により介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けているものに対し、政令の定めるところにより、介護手当を支給する。ただし、その者が介護者に対し介護に要する費用を支出しないで介護を受けている場合は、この限りでない。
2 第四条第二項及び前条の規定は、介護手当について準用する。
第三章 費用
(費用の支弁)
第十条 都道府県は、次に掲げる費用を支弁する。
一 当該都道府県知事が行なう医療費、医療手当及び介護手当(以下「医療費等」という。)の支給に要する費用
二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により当該都道府県知事が行なう事務の処理に要する費用
第十一条 第三条第二項の政令で定める市は、次に掲げる費用を支弁する。
一 当該市長が行なう医療費等の支給に要する費用
二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により当該市長が行なう事務の処理に要する費用
(補助金)
第十二条 都道府県は、前条の規定により市が支弁する費用について、政令の定めるところにより、同条第一号に掲げる費用にあつてはその六分の五、同条第二号に掲げる費用にあつてはその三分の二を補助するものとする。
第四章 公害防止事業団の納付業務等
(納付業務)
第十三条 公害防止事業団(以下「事業団」という。)は、公害防止事業団法(昭和四十年法律第九十五号)第十八条に規定する業務のほか、次条第一項の規定による納付金の納付に関する業務(以下「納付業務」という。)を行なう。
(納付金)
第十四条 事業団は、第十条の規定により都道府県が支弁する費用及び第十二条の規定により都道府県が補助する費用にあてるため、政令の定めるところにより、当該都道府県に対し、納付金を納付するものとする。
2 前項の納付金の額は、第十条の規定により都道府県が支弁する費用のうち、同条第一号に掲げるものについてはその四分の三、同条第二号に掲げるものについてはその二分の一に相当する額とし、第十二条の規定により都道府県が補助する費用のうち、第十一条第一号に掲げる費用に係るものについてはその五分の四、同条第二号に掲げる費用に係るものについてはその二分の一に相当する額とする。
(区分経理)
第十五条 事業団は、納付業務に係る経理については、厚生省令、通商産業省令の定めるところにより、特別の勘定を設けて、他の業務に係る経理と区分して整理しなければならない。
(拠出金等)
第十六条 公害に係る健康被害の救済のための措置の実施に協力することを目的として民法第三十四条の規定により設立された法人で、その申出に基づいて厚生大臣及び通商産業大臣の指定を受けたものは、事業団と締結する契約に基づき、毎年、事業団に対し、第十条第一号に掲げる費用の額と第十一条第一号に掲げる費用の額との合算額の二分の一に相当する金額を拠出金として拠出するものとする。
2 事業団は、前項の指定を受けた法人と同項に規定する契約を締結しようとするときは、厚生大臣及び通商産業大臣の承認を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
3 厚生大臣及び通商産業大臣は、第一項の指定をしたときは、その旨を公示しなければならない。
(事業者の拠出)
第十七条 事業者は、公害対策基本法(昭和四十二年法律第百三十二号)第三条第一項に規定する責務を有することにかんがみ、医療費等の支給の措置が円滑に実施されるように、前条第一項の指定を受けた法人に対し、同項の拠出金にあてるため拠出を行なうものとする。
(交付金)
第十八条 政府は、予算の範囲内において、事業団に対し、納付業務に要する費用の財源にあてるため交付金を交付するものとする。
(公害防止事業団法の特例等)
第十九条 納付業務については、公害防止事業団法第三十一条第二項、第三十二条第一項及び第三十七条第一号中「この法律」とあるのは「この法律又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」と、同法第三十四条第二号中「又は第三十条」とあるのは「若しくは第三十条又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十五条」と、同条第三号中「又は第二十九条」とあるのは「若しくは第二十九条又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十六条第二項」と、同法第三十七条第三号中「第十八条」とあるのは「第十八条及び公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十三条」と、同条第五号中「第三十一条第二項」とあるのは「第三十一条第二項(公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十九条において読み替えて適用する場合を含む。)」とする。
第五章 雑則
(公害被害者認定審査会)
第二十条 第三条第一項の規定によりその権限に属せしめられた事項を調査審議するため、指定地域の全部又は一部をその区域に含む都道府県又は第三条第二項の政令で定める市に、公害被害者認定審査会を置く。
2 公害被害者認定審査会は、委員十人以内で組織する。
3 委員は、医学に関し学識経験を有する者のうちから、都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長が任命する。
4 前三項に定めるもののほか、公害被害者認定審査会の組織、運営その他公害被害者認定審査会に関し必要な事項は、都道府県又は第三条第二項の政令で定める市の条例で定める。
(報告等)
第二十一条 都道府県知事は、医療費を支給するについて必要があるときは、当該医療を行なつた者又はこれを使用する者に対し、その行なつた医療に関し、報告若しくは診療録若しくは帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員をして質問させることができる。
(支給の制限等)
第二十二条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者、その配偶者又は民法第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で当該認定を受けた者の生計を維持するものが収入の状況に照らしその医療費を負担することができると認められるときは、医療費の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十三条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者が正当な理由がなくて療養に関する指示に従わなかつたときは、医療費又は医療手当の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十四条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者が当該認定に係る疾病に関し損害賠償その他の給付を受けた湯合において、これらの給付のうちに医療費等の支給に相当する給付があると認められるときは、その価額の限度において、医療費等の全部若しくは一部を支給せず、又はすでに支給した医療費等の額に相当する金額を返還させることができる。
(不正利得の徴収)
第二十五条 都道府県知事は、偽りその他不正の手段により医療費等の支給を受けた者があるときは、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(受給権の保護)
第二十六条 医療費等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。
(公課の禁止)
第二十七条 租税その他の公課は、医療費等として受けた金額を標準として、課することができない。
(再審査請求)
第二十八条 第三条第二項の政令で定める市の長が行なう医療費等の支給に関する処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、厚生大臣に対して再審査請求をすることができる。
(返還金の処理)
第二十九条 第二十四条の規定による返還金の処理に関し必要な事項は、政令で定める。
(実施命令)
第三十条 この法律に特別の規定があるものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、政令で定める。
(罰則)
第三十一条 第四条第一項各号の医療を行なつた者又はこれを使用する者が、第二十一条の規定により報告若しくは診療録若しくは帳簿書類その他の物件の提示を命ぜられて、正当な理由なしにこれに従わず、若しくは虚偽の報告をし、又は同条の規定による当該職員の質問に対して正当な理由なしに答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、一万円以下の過料に処分する。
附 則
(施行期日)
1 この法律中第一条から第三条まで、第二十条及び第三十条並びに附則第二項及び附則第四項の規定は公布の日から、その他の規定は昭和四十五年二月一日から施行する。
(他の公害に係る疾病に関する検討)
2 政府は、公害対策基本法第二条第一項に規定する公害のうち第一条に規定するもの以外のものに係る疾病に関し検討するものとする。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
3 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。
第十三条第二項中「又は結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八条第五項」を「、結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八条第五項又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)第六条第四項」に改め、「被爆者一般疾病医療機関」の下に「若しくは保険医療機関等若しくは生活保護指定医療機関」を加え、「又は結核予防法第三十八条第六項」を「、結核予防法第三十八条第六項又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第六条第五項」に改め、「一般疾病医療費」の下に「若しくは医療費」を加える。
(厚生省設置法の一部改正)
4 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第九条の二第一項第十一号の次に次の一号を加える。
十一の二 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)を施行すること。
法務大臣 西郷吉之助
厚生大臣 齋藤昇
通商産業大臣 大平正芳
内閣総理大臣 佐藤栄作
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和四十四年十二月十五日
内閣総理大臣 佐藤栄作
法律第九十号
公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
医療費等の支給(第三条―第九条)
第三章
費用(第十条―第十二条)
第四章
公害防止事業団の納付業務等(第十三条―第十九条)
第五章
雑則(第二十条―第三十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、事業活動その他の人の活動に伴つて相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発した場合において、当該疾病にかかつた者に対し、医療費、医療手当及び介護手当の支給の措置を講ずることにより、その者の健康被害の救済を図ることを目的とする。
(指定地域等)
第二条 この法律において「指定地域」とは、事業活動その他の人の活動に伴つて相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発している地域で政令で定めるものをいう。
2 前項の政令においては、あわせて同項に規定する疾病を定めなければならない。
3 厚生大臣は、第一項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県知事の意見をきかなければならない。
第二章 医療費等の支給
(認定)
第三条 指定地域の全部又は一部を管轄する都道府県知事は、当該指定地域につき前条第二項の規定により定められた疾病にかかつている者について、その者の申請に基づき、公害被害者認定審査会の意見をきいて、その者の当該疾病が当該指定地域に係る大気の汚染又は水質の汚濁の影響によるものである旨の認定を行なう。この場合において、当該疾病が厚生大臣の定める疾病であるときは、当該申請の時にその管轄に属する指定地域の区域内に住所を有しており、かつ、その時まで引き続き当該指定地域内に住所を有する期間が厚生大臣の定める期間以上である者(一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を当該指定地域内において過ごすことが常態であり、かつ、その期間が指定地域ごとに厚生大臣の定める期間以上である者を含む。)に限つて行なうものとする。
2 指定地域の全部又は一部が政令で定める市の区域内にある場合には、その区域については、前項の規定による都道府県知事の権限は、当該市の長が行なう。
3 都道府県知事(前項の政令で定める市にあつては、当該市の長とする。第六条第一項、第十条及び第二十条を除き、以下同じ。)は、第一項の認定を行なつたときは、当該認定を受けた者に対し、公害医療手帳を交付するものとする。
(医療費の支給)
第四条 都道府県知事は、当該都道府県知事による前条第一項の認定を受けた者が当該認定に係る疾病について次に掲げる医療を受けたときは、その者に対し、医療費を支給する。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 医学的処置、手術及びその他の治療
四 病院又は診療所への収容
五 看護
六 移送
2 前項の規定は、前条第一項の認定を受けた者で当該認定に係る疾病が厚生大臣の定める疾病であるものが、当該指定地域外に住所を移したとき(一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を当該指定地域内において過ごすことが常態でなくなつたときを含む。)、又は当該指定地域の全部若しくは一部が指定地域でなくなつたことにより指定地域内に住所を有しなくなつたとき(指定地域内において一日のうち厚生大臣の定める時間以上の時間を過ごすことが常態でなくなつたときを含む。)は、その者については、その日から起算して厚生大臣の定める期間を経過した日以後は適用しない。
(医療費の額等)
第五条 前条第一項の規定により支給する医療費の額は、当該医療に要する費用の額を限度とする。ただし、その者が当該疾病につき、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)その他政令で定める法令の規定により医療に関する給付を受け、若しくは受けることができたとき、又は当該医療が法令の規定により国若しくは地方公共団体の負担による医療に関する給付として行なわれたときは、当該医療に要する費用の額から当該医療に関する給付の額を控除した額(その者が国民健康保険法による療養の給付を受け、又は受けることができたときは、当該療養の給付に関する同法の規定による一部負担金に相当する額とし、当該医療が法令の規定により国又は地方公共団体の負担による医療の現物給付として行なわれたときは、当該医療に関する給付について行なわれた実費徴収の額とする。)を限度とする。
2 前項の医療に要する費用の額は、健康保険の療養に要する費用の額の算定方法の例により算定した額とする。ただし、現に要した費用の額をこえることができない。
(保険医療機関等に対する医療費の支払等)
第六条 第三条第一項の認定を受けた者が、公害医療手帳を提示して、当該認定に係る疾病について、健康保険法その他政令で定める法令又は国民健康保険法の規定により当該指定地域をその区域に含む都道府県(当該指定地域が二以上の都道府県の区域にわたるときは、当該認定を行なつた都道府県知事(同条第二項の規定により市長が認定を行なつたときは、当該市をその区域に含む都道府県の都道府県知事とする。)の統轄する都道府県とする。後段において同じ。)の区域内の健康保険法第四十三条第三項第一号の保険医療機関若しくは保険薬局又は国民健康保険法第三十六条第四項の療養取扱機関(これらの開設者が診療報酬の請求及び支払に関しこの項及び次項に規定する方式によらない旨を都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長に申し出たものを除く。以下「保険医療機関等」という。)で医療を受けた場合には、当該保険医療機関等は、当該医療を受けた者に対する請求に代えて、その者が第四条第一項の規定により支給されるべき医療費の額を、都道府県(第三条第二項の政令で定める市の長による認定を受けた者が当該医療を受けたときは、当該市とする。次項及び第五項において同じ。)に対し、請求するものとする。同条第一項の認定を受けた者で生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)による保護を受けている世帯(その保護を停止されている世帯を除く。)に属するものが、公害医療手帳を提示して、当該認定に係る疾病について、当該指定地域をその区域に含む都道府県の区域内の同法第四十九条の規定により指定を受けた医療機関(その開設者が診療報酬の請求及び支払に関しこの項及び次項に規定する方式によらない旨を都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長に申し出たものを除く。以下「生活保護指定医療機関」という。)で医療を受けた場合における生活保護指定医療機関についても、同様とする。
2 都道府県は、前項の規定による請求があつたときは、当該医療を受けた者に代わり、保険医療機関等又は生活保護指定医療機関に対し、第四条第一項の規定により支給すべき医療費の額を支払うものとする。
3 前項の規定による支払があつたときは、当該医療を受けた者に対し、第四条第一項の規定による医療費の支給があつたものとみなす。
4 都道府県知事は、第二項の規定により支払うべき額を決定するにあたつては、社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)に定める審査委員会の意見をきかなければならない。
5 都道府県は、第二項の規定による支払に関する事務を社会保険診療報酬支払基金に委託することができる。
6 国民健康保険の被保険者である第三条第一項の認定を受けた者が、当該認定に係る疾病について、国民健康保険法第三十六条第四項の療養取扱機関から医療を受ける場合には、同法の規定により当該療養取扱機関に支払うべき一部負担金は、同法第四十二条第一項の規定にかかわらず、当該医療に関し都道府県知事が第二項の規定による支払をしない旨の決定をするまでは、支払うことを要しない。
(医療手当の支給)
第七条 都道府県知事は、当該都道府県知事による第三条第一項の認定を受けた者で、当該認定に係る疾病について第四条第一項各号の医療を受けており、かつ、その病状が政令で定める病状の程度をこえるものに対し、政令の定めるところにより、医療手当を支給する。
2 第四条第二項の規定は、医療手当について準用する。
(医療手当の支給の制限)
第八条 医療手当は、前条第一項に規定する者、その配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で前条第一項に規定する者の生計を維持するものの所得につき所得税法(昭和四十年法律第三十三号)の規定により計算した前年分(一月から四月までの間に受けた医療に係る医療手当については、前前年分とする。)の所得税の額(この所得税の額を計算する場合には、同法第九十二条及び第九十五条の規定を適用しないものとする。)が政令で定める額をこえるときは、支給しない。
(介護手当の支給)
第九条 都道府県知事は、当該都道府県知事による第三条第一項の認定を受けた者で、当該認定に係る疾病による厚生省令で定める範囲の身体上の障害により介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けているものに対し、政令の定めるところにより、介護手当を支給する。ただし、その者が介護者に対し介護に要する費用を支出しないで介護を受けている場合は、この限りでない。
2 第四条第二項及び前条の規定は、介護手当について準用する。
第三章 費用
(費用の支弁)
第十条 都道府県は、次に掲げる費用を支弁する。
一 当該都道府県知事が行なう医療費、医療手当及び介護手当(以下「医療費等」という。)の支給に要する費用
二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により当該都道府県知事が行なう事務の処理に要する費用
第十一条 第三条第二項の政令で定める市は、次に掲げる費用を支弁する。
一 当該市長が行なう医療費等の支給に要する費用
二 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により当該市長が行なう事務の処理に要する費用
(補助金)
第十二条 都道府県は、前条の規定により市が支弁する費用について、政令の定めるところにより、同条第一号に掲げる費用にあつてはその六分の五、同条第二号に掲げる費用にあつてはその三分の二を補助するものとする。
第四章 公害防止事業団の納付業務等
(納付業務)
第十三条 公害防止事業団(以下「事業団」という。)は、公害防止事業団法(昭和四十年法律第九十五号)第十八条に規定する業務のほか、次条第一項の規定による納付金の納付に関する業務(以下「納付業務」という。)を行なう。
(納付金)
第十四条 事業団は、第十条の規定により都道府県が支弁する費用及び第十二条の規定により都道府県が補助する費用にあてるため、政令の定めるところにより、当該都道府県に対し、納付金を納付するものとする。
2 前項の納付金の額は、第十条の規定により都道府県が支弁する費用のうち、同条第一号に掲げるものについてはその四分の三、同条第二号に掲げるものについてはその二分の一に相当する額とし、第十二条の規定により都道府県が補助する費用のうち、第十一条第一号に掲げる費用に係るものについてはその五分の四、同条第二号に掲げる費用に係るものについてはその二分の一に相当する額とする。
(区分経理)
第十五条 事業団は、納付業務に係る経理については、厚生省令、通商産業省令の定めるところにより、特別の勘定を設けて、他の業務に係る経理と区分して整理しなければならない。
(拠出金等)
第十六条 公害に係る健康被害の救済のための措置の実施に協力することを目的として民法第三十四条の規定により設立された法人で、その申出に基づいて厚生大臣及び通商産業大臣の指定を受けたものは、事業団と締結する契約に基づき、毎年、事業団に対し、第十条第一号に掲げる費用の額と第十一条第一号に掲げる費用の額との合算額の二分の一に相当する金額を拠出金として拠出するものとする。
2 事業団は、前項の指定を受けた法人と同項に規定する契約を締結しようとするときは、厚生大臣及び通商産業大臣の承認を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
3 厚生大臣及び通商産業大臣は、第一項の指定をしたときは、その旨を公示しなければならない。
(事業者の拠出)
第十七条 事業者は、公害対策基本法(昭和四十二年法律第百三十二号)第三条第一項に規定する責務を有することにかんがみ、医療費等の支給の措置が円滑に実施されるように、前条第一項の指定を受けた法人に対し、同項の拠出金にあてるため拠出を行なうものとする。
(交付金)
第十八条 政府は、予算の範囲内において、事業団に対し、納付業務に要する費用の財源にあてるため交付金を交付するものとする。
(公害防止事業団法の特例等)
第十九条 納付業務については、公害防止事業団法第三十一条第二項、第三十二条第一項及び第三十七条第一号中「この法律」とあるのは「この法律又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」と、同法第三十四条第二号中「又は第三十条」とあるのは「若しくは第三十条又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十五条」と、同条第三号中「又は第二十九条」とあるのは「若しくは第二十九条又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十六条第二項」と、同法第三十七条第三号中「第十八条」とあるのは「第十八条及び公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十三条」と、同条第五号中「第三十一条第二項」とあるのは「第三十一条第二項(公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第十九条において読み替えて適用する場合を含む。)」とする。
第五章 雑則
(公害被害者認定審査会)
第二十条 第三条第一項の規定によりその権限に属せしめられた事項を調査審議するため、指定地域の全部又は一部をその区域に含む都道府県又は第三条第二項の政令で定める市に、公害被害者認定審査会を置く。
2 公害被害者認定審査会は、委員十人以内で組織する。
3 委員は、医学に関し学識経験を有する者のうちから、都道府県知事又は第三条第二項の政令で定める市の長が任命する。
4 前三項に定めるもののほか、公害被害者認定審査会の組織、運営その他公害被害者認定審査会に関し必要な事項は、都道府県又は第三条第二項の政令で定める市の条例で定める。
(報告等)
第二十一条 都道府県知事は、医療費を支給するについて必要があるときは、当該医療を行なつた者又はこれを使用する者に対し、その行なつた医療に関し、報告若しくは診療録若しくは帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員をして質問させることができる。
(支給の制限等)
第二十二条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者、その配偶者又は民法第八百七十七条第一項に定める扶養義務者で当該認定を受けた者の生計を維持するものが収入の状況に照らしその医療費を負担することができると認められるときは、医療費の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十三条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者が正当な理由がなくて療養に関する指示に従わなかつたときは、医療費又は医療手当の全部又は一部を支給しないことができる。
第二十四条 都道府県知事は、第三条第一項の認定を受けた者が当該認定に係る疾病に関し損害賠償その他の給付を受けた湯合において、これらの給付のうちに医療費等の支給に相当する給付があると認められるときは、その価額の限度において、医療費等の全部若しくは一部を支給せず、又はすでに支給した医療費等の額に相当する金額を返還させることができる。
(不正利得の徴収)
第二十五条 都道府県知事は、偽りその他不正の手段により医療費等の支給を受けた者があるときは、国税徴収の例により、その者から、その支給を受けた額に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(受給権の保護)
第二十六条 医療費等の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。
(公課の禁止)
第二十七条 租税その他の公課は、医療費等として受けた金額を標準として、課することができない。
(再審査請求)
第二十八条 第三条第二項の政令で定める市の長が行なう医療費等の支給に関する処分についての審査請求の裁決に不服がある者は、厚生大臣に対して再審査請求をすることができる。
(返還金の処理)
第二十九条 第二十四条の規定による返還金の処理に関し必要な事項は、政令で定める。
(実施命令)
第三十条 この法律に特別の規定があるものを除くほか、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、政令で定める。
(罰則)
第三十一条 第四条第一項各号の医療を行なつた者又はこれを使用する者が、第二十一条の規定により報告若しくは診療録若しくは帳簿書類その他の物件の提示を命ぜられて、正当な理由なしにこれに従わず、若しくは虚偽の報告をし、又は同条の規定による当該職員の質問に対して正当な理由なしに答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、一万円以下の過料に処分する。
附 則
(施行期日)
1 この法律中第一条から第三条まで、第二十条及び第三十条並びに附則第二項及び附則第四項の規定は公布の日から、その他の規定は昭和四十五年二月一日から施行する。
(他の公害に係る疾病に関する検討)
2 政府は、公害対策基本法第二条第一項に規定する公害のうち第一条に規定するもの以外のものに係る疾病に関し検討するものとする。
(社会保険診療報酬支払基金法の一部改正)
3 社会保険診療報酬支払基金法の一部を次のように改正する。
第十三条第二項中「又は結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八条第五項」を「、結核予防法(昭和二十六年法律第九十六号)第三十八条第五項又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)第六条第四項」に改め、「被爆者一般疾病医療機関」の下に「若しくは保険医療機関等若しくは生活保護指定医療機関」を加え、「又は結核予防法第三十八条第六項」を「、結核予防法第三十八条第六項又は公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法第六条第五項」に改め、「一般疾病医療費」の下に「若しくは医療費」を加える。
(厚生省設置法の一部改正)
4 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第九条の二第一項第十一号の次に次の一号を加える。
十一の二 公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)を施行すること。
法務大臣 西郷吉之助
厚生大臣 斎藤昇
通商産業大臣 大平正芳
内閣総理大臣 佐藤栄作