ばい煙の排出の規制等に関する法律
法令番号: 法律第百四十六号
公布年月日: 昭和37年6月2日
法令の形式: 法律
ばい煙の排出の規制等に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和三十七年六月二日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百四十六号
ばい煙の排出の規制等に関する法律
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
指定地域及び排出基準(第四条―第七条)
第三章
ばい煙発生施設(第八条―第十八条)
第四章
事故時の措置等(第十九条―第二十一条)
第五章
和解の仲介(第二十二条―第二十五条)
第六章
雑則(第二十六条―第三十二条)
第七章
罰則(第三十三条―第三十七条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、工場及び事業場における事業活動に伴つて発生するばい煙等の処理を適切にすること等により、大気の汚染による公衆衛生上の危害を防止するとともに、生活環境の保全と産業の健全な発展との調和を図り、かつ、大気の汚染に関する紛争について和解の仲介の制度を設けることにより、その解決に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「ばい煙」とは、燃料その他の物の燃焼又は熱源としての電気の使用に伴い発生するすすその他の粉じん又は亜硫酸ガス若しくは無水硫酸をいう。
2 この法律において「特定有害物質」とは、弗化水素、硫化水素、二酸化セレンその他の人の健康に著しく有害な物質(ばい煙を除く。)で政令で定めるものをいう。
3 この法律において「ばい煙発生施設」とは、工場又は事業場(鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)第二条第二項本文に規定する鉱山を除く。以下同じ。)に設置される施設のうち、ばい煙を多量に発生する施設であつて政令で定めるものをいう。
4 この法律において「ばい煙処理施設」とは、ばい煙発生施設において発生するばい煙を処理するための施設及びこれに附属する施設をいう。
5 この法律において「指定地域」とは、第四条第一項の政令で定める地域をいう。
6 この法律において「排出基準」とは、ばい煙発生施設において発生し、排出口から大気中に排出される気体に含まれるばい煙の量(以下「ばい煙濃度」という。)の許容限度をいう。
(大気の清浄の保持)
第三条 ばい煙又は特定有害物質を大気中に排出する者は、その処理を適切にすること等により、大気が清浄に保たれるように努めなければならない。
第二章 指定地域及び排出基準
(指定地域の指定)
第四条 この法律の規定によりばい煙の排出を規制する地域は、ばい煙発生施設において発生し、大気中に排出されるばい煙が大気を著しく汚染し、又は著しく汚染するおそれがある場合において、当該汚染の原因となるばい煙発生施設が集合して設置されている地域及び当該地域に隣接する地域でその地域におけるばい煙発生施設の設置が当該汚染に著しい影響を与え、又は与えるおそれがあると認められる地域について、政令で定める。
2 厚生大臣及び通商産業大臣は、前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、その政令の制定又は改廃により指定地域となり、又は指定地域でなくなる地域を管轄する都道府県知事の意見を聞かなければならない。
(排出基準の設定)
第五条 厚生大臣及び通商産業大臣は、指定地域に係る排出基準を、ばい煙発生施設の種類ごとに定めなければならない。
2 厚生大臣及び通商産業大臣は、前項の排出基準を定めるときは、当該排出基準を公示しなければならない。これを変更し、又は廃止するときも、同様とする。
(排出基準の遵守義務)
第六条 指定地域内においてばい煙発生施設において発生するばい煙を排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は、当該ばい煙発生施設に係る排出基準を遵守しなければならない。
(大気汚染状況の監視)
第七条 都道府県知事は、指定地域の指定があつたときは、当該指定地域に係る大気の汚染の状況を常時監視しなければならない。
第三章 ばい煙発生施設
(設置の届出)
第八条 指定地域内においてばい煙を排出する者は、ばい煙発生施設を設置しようとするときは、あらかじめ、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、次の事項を都道府県知事に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 工場又は事業場の名称及び所在地
三 ばい煙発生施設の種類
四 ばい煙発生施設の構造
五 ばい煙発生施設の使用の方法
六 ばい煙の処理の方法
2 前項の規定による届出をしようとする者は、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度に関する説明書その他厚生省令、通商産業省令で定める書類を添えて、届け出なければならない。
(経過措置)
第九条 一の地域が指定地域となつた際現にその地域内にばい煙発生施設を設置している者(設置の工事をしている者を含む。以下この条において同じ。)であつてばい煙を排出するもの又は一の施設がばい煙発生施設となつた際現に指定地域内にその施設を設置している者であつてばい煙を排出するものは、当該地域が指定地域となつた日又は当該施設がばい煙発生施設となつた日から三十日以内に、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、前条第一項各号に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。
2 前条第二項の規定は、前項の規定による届出に準用する。
(ばい煙発生施設の構造等の変更の届出)
第十条 第八条第一項又は前条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係る第八条第一項第四号から第六号までに掲げる事項の変更をしようとするときは、あらかじめ、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、当該事項を都道府県知事に届け出なければならない。ただし、当該事項の変更により、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度の増加を伴わない場合は、この限りでない。
2 第八条第二項の規定は、前項の規定による届出に準用する。
(計画変更命令等)
第十一条 都道府県知事は、第八条第一項又は前条第一項の規定による届出があつた場合において、その届出に係るばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、ばい煙発生施設の使用の方法又はばい煙の処理の方法の変更(前条第一項の規定による届出に係るこれらの変更の計画の廃止を含む。)を命ずることができる。
2 都道府県知事は、第八条第一項の規定による届出又はばい煙発生施設の構造の変更に係る前条第一項の規定による届出があつた場合において、その届出に係るばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合せず、かつ、前項の規定による命令によつては当該ばい煙濃度を当該排出基準に適合させることが著しく困難であると認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、ばい煙発生施設の構造に関する計画の変更(前条第一項の規定による届出に係る当該計画の廃止を含む。)又はばい煙発生施設の設置に関する計画の廃止を命ずることができる。
(実施の制限)
第十二条 第八条第一項又は第十条第一項の規定による届出をした者は、その届出が受理された日から六十日を経過した後でなければ、その届出に係るばい煙発生施設を設置し、又はばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくはばい煙の処理の方法を変更してはならない。
2 都道府県知事は、その届出に係る事項の内容が相当であると認めるとき、その他必要があると認めるときは、前項の期間を短縮することができる。
(使用開始の届出)
第十三条 第八条第一項又は第十条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係るばい煙発生施設又はばい煙処理施設の設置又は構造の変更の工事をした場合において、その工事に係る施設の全部又は一部の使用を開始したときは、その日から十五日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(氏名等の変更の届出)
第十四条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係る第八条第一項第一号又は第二号に掲げる事項に変更があつたときは、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(承継)
第十五条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者からその届出に係るばい煙発生施設を譲り受け、又は借り受けた者は、当該施設に係る当該届出をした者の地位を承継する。
2 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者について相続又は合併があつたときは、相続人又は合併後存続する法人若しくは合併により設立した法人は、当該届出をした者の地位を承継する。
3 前二項の規定により第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者の地位を承継した者は、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(改善命令等)
第十六条 都道府県知事は、指定地域内に設置されているばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないと認めるときは、当該ばい煙排出者に対し、期限を定めて、ばい煙発生施設の使用の方法、ばい煙の処理の方法又はばい煙発生施設の構造の改善を命ずることができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による命令を受けた者が、当該命令に従わない場合には、当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。
3 前二項の規定は、第九条第一項の規定による届出をした者の当該届出に係るばい煙発生施設については、同項に規定する指定地域となつた日又はばい煙発生施設となつた日から二年間は、適用しない。ただし、当該地域が指定地域となつた際その者に適用されている地方公共団体の条例の規定で第一項の規定に相当するものがある場合及びその者が第十条第一項の規定による届出をした場合において当該届出をした日から六十日を経過した場合は、この限りでない。
(ばい煙濃度の測定)
第十七条 ばい煙排出者は、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。
(使用の廃止の届出)
第十八条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係るばい煙発生施設の使用を廃止したときは、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
第四章 事故時の措置等
(ばい煙発生施設の事故時の措置等)
第十九条 ばい煙排出者は、ばい煙発生施設又はばい煙処理施設について、故障、破損その他の事故が発生し、当該事故に係る当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないばい煙を排出し、又は排出するおそれが生じたときは、ただちに、その事故について応急の措置を講じ、かつ、その事故をすみやかに復旧するように努めなければならない。
2 前項に規定する事故が発生した場合において、その事故が厚生省令、通商産業省令で定める程度のものであるときは、当該事故に係るばい煙排出者は、すみやかに、その事故の状況、その事故について講じ、又は講じようとする応急の措置の方法並びにその事故についての復旧工事の方法及び完了の予定を都道府県知事に届け出なければならない。
3 前項の規定による届出をした者は、当該届出に係る事故について復旧工事を完了したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
4 第十六条第一項及び第二項の規定は、第二項の規定による届出をした者については、当該施設の復旧工事に必要と認められる期間内は、適用しない。
(特定有害物質に関する事故時の措置)
第二十条 工場又は事業場に設置されている特定有害物質を発生する施設(以下「特定施設」という。)において発生する特定有害物質を排出する者(以下「特定有害物質排出者」という。)は、当該特定施設について故障、破損その他の事故が発生し、特定有害物質が多量に排出されたときは、ただちに、その事故について応急の措置を講じ、かつ、その事故をすみやかに復旧するように努めなければならない。
2 都道府県知事は、前項に規定する事故が発生した場合において、当該事故に係る工場又は事業場の周辺の地域における人の健康がそこなわれ、又はそこなわれるおそれがあると認めるときは、当該特定有害物質排出者に対し、その事故の拡大及び再発の防止に必要な措置を講ずることを勧告することができる。
(緊急時における都道府県知事の措置)
第二十一条 都道府県知事は、霧が持続的に発生したことにより、指定地域に係る大気の汚染が著しく人の健康をそこなうおそれがある場合であつて、厚生省令、通商産業省令で定めるときは、その事態を一般に周知させるとともに、指定地域内においてばい煙を排出する者に対し、ばい煙の排出量の減少について協力を求めなければならない。
2 都道府県知事は、前項に規定する事態が発生した場合において、他の都道府県の指定地域において排出するばい煙が当該事態の発生に著しい影響があると認めるときは、当該他の都道府県知事に対し、前項に規定する措置をとることを求めることができる。
第五章 和解の仲介
(和解の仲介の申立て)
第二十二条 ばい煙発生施設又は特定施設において発生し、大気中に排出されたばい煙又は特定有害物質による被害について、損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じたときは、当事者は、政令で定めるところにより、都道府県知事に和解の仲介の申立てをすることができる。
(仲介員名簿の作成)
第二十三条 都道府県知事は、毎年仲介員候補者十五人以内を委嘱し、その名簿を作成しておかなければならない。
2 前項の仲介員候補者は、一般公益を代表する者及び産業又は公衆衛生に関し学識経験を有する者のうちから、委嘱されなければならない。
(仲介員の指定)
第二十四条 都道府県知事は、第二十二条の規定による申立てがあつたときは、前条第一項の名簿に記載されている者のうちから、仲介員五人以内を指定しなければならない。
2 前項の場合において、一の紛争に係る申立てが二以上の都道府県知事になされたときは、当該都道府県知事は、協議により仲介員を指定することができる。
(仲介員の任務)
第二十五条 仲介員は、紛争の実情を詳細に調査し、事件が公正に解決されるように努めなければならない。
第六章 雑則
(立入検査)
第二十六条 都道府県知事は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、ばい煙排出者又は特定有害物質排出者の工場又は事業場に立ち入り、その者の帳簿書類、ばい煙発生施設、ばい煙処理施設、特定施設その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(報告の徴収)
第二十七条 都道府県知事は、この法律の施行に必要な限度において、ばい煙排出者又は特定有害物質排出者に対し、そのばい煙発生施設の状況、ばい煙の処理の方法若しくはばい煙濃度又は特定施設の事故の状況若しくは事故時の措置に関し報告をさせることができる。
(適用除外)
第二十八条 電気に関する臨時措置に関する法律(昭和二十七年法律第三百四十一号)の規定によりその例によるものとされた旧公益事業令(昭和二十五年政令第三百四十三号)附則第三項の規定によりなお効力を有する旧電気事業法(昭和六年法律第六十一号。以下「旧電気事業法」という。)の適用を受ける電気工作物又はガス事業法(昭和二十九年法律第五十一号)第二条第二項に規定するガス工作物であるばい煙発生施設又は特定施設において発生するばい煙又は特定有害物質を排出する者については、第三章(第十七条を除く。)、第十九条第二項及び第三項、第二十条第二項、第二十六条並びに前条の規定を適用せず、旧電気事業法又はガス事業法の相当規定の定めるところによる。
(関係行政機関の協力)
第二十九条 都道府県知事は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長に対し、ばい煙発生施設の状況等に関する資料の送付その他の協力を求めることができる。
(国の援助)
第三十条 国は、ばい煙処理施設の整備を促進することにより、大気の汚染の防止に資するため、ばい煙処理施設の設置又は改善につき必要な資金のあつせん、技術的な助言その他の援助に努めるものとする。
(研究の推進等)
第三十一条 国は、ばい煙及び特定有害物質の処理に関する技術並びに大気の汚染の人の健康に及ぼす影響の研究その他大気の汚染の防止に関する研究を推進し、その成果の普及に努めるものとする。
(事務の委任)
第三十二条 都道府県知事は、この法律の規定によりその権限に属する事務で政令で定めるものを、政令で定める市の長に委任することができる。
第七章 罰則
第三十三条 第十一条第一項若しくは第二項又は第十六条第一項若しくは第二項の規定による命令に違反した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第三十四条 第八条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、五万円以下の罰金に処する。
第三十五条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第九条第一項又は第十条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二 第十二条第一項の規定に違反した者
三 第十七条の規定による記録をせず、又は虚偽の記録をした者
四 第二十六条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
五 第二十七条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
第三十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第三十七条 第十三条、第十四条、第十五条第三項、第十八条又は第十九条第二項若しくは第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、一万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三項の規定は、昭和三十八年四月一日から施行する。
(地方税法の一部改正)
2 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第三百四十八条第二項第六号中「及び鉱水」を「、鉱水及び鉱煙」に改め、同項第六号の四の次に次の一号を加える。
六の五 公共の危害の防止のためにするばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十六号)第二条第四項に規定するばい煙処理施設で自治省令で定めるもの
(中小企業振興資金等助成法の一部改正)
3 中小企業振興資金等助成法(昭和三十一年法律第百十五号)の一部を次のように改正する。
第五条ただし書中「又は工場排水等の規制に関する法律(昭和三十三年法律第百八十二号)第二条第三項に規定する汚水処理施設」を「、工場排水等の規制に関する法律(昭和三十三年法律第百八十二号)第二条第三項に規定する汚水処理施設又はばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十六号)第二条第四項に規定するばい煙処理施設」に改める。
法務大臣 植木庚子郎
厚生大臣 灘尾弘吉
通商産業大臣 佐藤榮作
自治大臣 安井謙
内閣総理大臣 池田勇人
ばい煙の排出の規制等に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和三十七年六月二日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百四十六号
ばい煙の排出の規制等に関する法律
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
指定地域及び排出基準(第四条―第七条)
第三章
ばい煙発生施設(第八条―第十八条)
第四章
事故時の措置等(第十九条―第二十一条)
第五章
和解の仲介(第二十二条―第二十五条)
第六章
雑則(第二十六条―第三十二条)
第七章
罰則(第三十三条―第三十七条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、工場及び事業場における事業活動に伴つて発生するばい煙等の処理を適切にすること等により、大気の汚染による公衆衛生上の危害を防止するとともに、生活環境の保全と産業の健全な発展との調和を図り、かつ、大気の汚染に関する紛争について和解の仲介の制度を設けることにより、その解決に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「ばい煙」とは、燃料その他の物の燃焼又は熱源としての電気の使用に伴い発生するすすその他の粉じん又は亜硫酸ガス若しくは無水硫酸をいう。
2 この法律において「特定有害物質」とは、弗化水素、硫化水素、二酸化セレンその他の人の健康に著しく有害な物質(ばい煙を除く。)で政令で定めるものをいう。
3 この法律において「ばい煙発生施設」とは、工場又は事業場(鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)第二条第二項本文に規定する鉱山を除く。以下同じ。)に設置される施設のうち、ばい煙を多量に発生する施設であつて政令で定めるものをいう。
4 この法律において「ばい煙処理施設」とは、ばい煙発生施設において発生するばい煙を処理するための施設及びこれに附属する施設をいう。
5 この法律において「指定地域」とは、第四条第一項の政令で定める地域をいう。
6 この法律において「排出基準」とは、ばい煙発生施設において発生し、排出口から大気中に排出される気体に含まれるばい煙の量(以下「ばい煙濃度」という。)の許容限度をいう。
(大気の清浄の保持)
第三条 ばい煙又は特定有害物質を大気中に排出する者は、その処理を適切にすること等により、大気が清浄に保たれるように努めなければならない。
第二章 指定地域及び排出基準
(指定地域の指定)
第四条 この法律の規定によりばい煙の排出を規制する地域は、ばい煙発生施設において発生し、大気中に排出されるばい煙が大気を著しく汚染し、又は著しく汚染するおそれがある場合において、当該汚染の原因となるばい煙発生施設が集合して設置されている地域及び当該地域に隣接する地域でその地域におけるばい煙発生施設の設置が当該汚染に著しい影響を与え、又は与えるおそれがあると認められる地域について、政令で定める。
2 厚生大臣及び通商産業大臣は、前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、その政令の制定又は改廃により指定地域となり、又は指定地域でなくなる地域を管轄する都道府県知事の意見を聞かなければならない。
(排出基準の設定)
第五条 厚生大臣及び通商産業大臣は、指定地域に係る排出基準を、ばい煙発生施設の種類ごとに定めなければならない。
2 厚生大臣及び通商産業大臣は、前項の排出基準を定めるときは、当該排出基準を公示しなければならない。これを変更し、又は廃止するときも、同様とする。
(排出基準の遵守義務)
第六条 指定地域内においてばい煙発生施設において発生するばい煙を排出する者(以下「ばい煙排出者」という。)は、当該ばい煙発生施設に係る排出基準を遵守しなければならない。
(大気汚染状況の監視)
第七条 都道府県知事は、指定地域の指定があつたときは、当該指定地域に係る大気の汚染の状況を常時監視しなければならない。
第三章 ばい煙発生施設
(設置の届出)
第八条 指定地域内においてばい煙を排出する者は、ばい煙発生施設を設置しようとするときは、あらかじめ、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、次の事項を都道府県知事に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 工場又は事業場の名称及び所在地
三 ばい煙発生施設の種類
四 ばい煙発生施設の構造
五 ばい煙発生施設の使用の方法
六 ばい煙の処理の方法
2 前項の規定による届出をしようとする者は、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度に関する説明書その他厚生省令、通商産業省令で定める書類を添えて、届け出なければならない。
(経過措置)
第九条 一の地域が指定地域となつた際現にその地域内にばい煙発生施設を設置している者(設置の工事をしている者を含む。以下この条において同じ。)であつてばい煙を排出するもの又は一の施設がばい煙発生施設となつた際現に指定地域内にその施設を設置している者であつてばい煙を排出するものは、当該地域が指定地域となつた日又は当該施設がばい煙発生施設となつた日から三十日以内に、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、前条第一項各号に掲げる事項を都道府県知事に届け出なければならない。
2 前条第二項の規定は、前項の規定による届出に準用する。
(ばい煙発生施設の構造等の変更の届出)
第十条 第八条第一項又は前条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係る第八条第一項第四号から第六号までに掲げる事項の変更をしようとするときは、あらかじめ、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、当該事項を都道府県知事に届け出なければならない。ただし、当該事項の変更により、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度の増加を伴わない場合は、この限りでない。
2 第八条第二項の規定は、前項の規定による届出に準用する。
(計画変更命令等)
第十一条 都道府県知事は、第八条第一項又は前条第一項の規定による届出があつた場合において、その届出に係るばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないと認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、ばい煙発生施設の使用の方法又はばい煙の処理の方法の変更(前条第一項の規定による届出に係るこれらの変更の計画の廃止を含む。)を命ずることができる。
2 都道府県知事は、第八条第一項の規定による届出又はばい煙発生施設の構造の変更に係る前条第一項の規定による届出があつた場合において、その届出に係るばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合せず、かつ、前項の規定による命令によつては当該ばい煙濃度を当該排出基準に適合させることが著しく困難であると認めるときは、その届出を受理した日から六十日以内に限り、その届出をした者に対し、ばい煙発生施設の構造に関する計画の変更(前条第一項の規定による届出に係る当該計画の廃止を含む。)又はばい煙発生施設の設置に関する計画の廃止を命ずることができる。
(実施の制限)
第十二条 第八条第一項又は第十条第一項の規定による届出をした者は、その届出が受理された日から六十日を経過した後でなければ、その届出に係るばい煙発生施設を設置し、又はばい煙発生施設の構造若しくは使用の方法若しくはばい煙の処理の方法を変更してはならない。
2 都道府県知事は、その届出に係る事項の内容が相当であると認めるとき、その他必要があると認めるときは、前項の期間を短縮することができる。
(使用開始の届出)
第十三条 第八条第一項又は第十条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係るばい煙発生施設又はばい煙処理施設の設置又は構造の変更の工事をした場合において、その工事に係る施設の全部又は一部の使用を開始したときは、その日から十五日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(氏名等の変更の届出)
第十四条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係る第八条第一項第一号又は第二号に掲げる事項に変更があつたときは、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(承継)
第十五条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者からその届出に係るばい煙発生施設を譲り受け、又は借り受けた者は、当該施設に係る当該届出をした者の地位を承継する。
2 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者について相続又は合併があつたときは、相続人又は合併後存続する法人若しくは合併により設立した法人は、当該届出をした者の地位を承継する。
3 前二項の規定により第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者の地位を承継した者は、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
(改善命令等)
第十六条 都道府県知事は、指定地域内に設置されているばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないと認めるときは、当該ばい煙排出者に対し、期限を定めて、ばい煙発生施設の使用の方法、ばい煙の処理の方法又はばい煙発生施設の構造の改善を命ずることができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による命令を受けた者が、当該命令に従わない場合には、当該ばい煙発生施設の使用の一時停止を命ずることができる。
3 前二項の規定は、第九条第一項の規定による届出をした者の当該届出に係るばい煙発生施設については、同項に規定する指定地域となつた日又はばい煙発生施設となつた日から二年間は、適用しない。ただし、当該地域が指定地域となつた際その者に適用されている地方公共団体の条例の規定で第一項の規定に相当するものがある場合及びその者が第十条第一項の規定による届出をした場合において当該届出をした日から六十日を経過した場合は、この限りでない。
(ばい煙濃度の測定)
第十七条 ばい煙排出者は、厚生省令、通商産業省令で定めるところにより、当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならない。
(使用の廃止の届出)
第十八条 第八条第一項又は第九条第一項の規定による届出をした者は、その届出に係るばい煙発生施設の使用を廃止したときは、その日から三十日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
第四章 事故時の措置等
(ばい煙発生施設の事故時の措置等)
第十九条 ばい煙排出者は、ばい煙発生施設又はばい煙処理施設について、故障、破損その他の事故が発生し、当該事故に係る当該ばい煙発生施設に係るばい煙濃度が当該ばい煙発生施設に係る排出基準に適合しないばい煙を排出し、又は排出するおそれが生じたときは、ただちに、その事故について応急の措置を講じ、かつ、その事故をすみやかに復旧するように努めなければならない。
2 前項に規定する事故が発生した場合において、その事故が厚生省令、通商産業省令で定める程度のものであるときは、当該事故に係るばい煙排出者は、すみやかに、その事故の状況、その事故について講じ、又は講じようとする応急の措置の方法並びにその事故についての復旧工事の方法及び完了の予定を都道府県知事に届け出なければならない。
3 前項の規定による届出をした者は、当該届出に係る事故について復旧工事を完了したときは、すみやかに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
4 第十六条第一項及び第二項の規定は、第二項の規定による届出をした者については、当該施設の復旧工事に必要と認められる期間内は、適用しない。
(特定有害物質に関する事故時の措置)
第二十条 工場又は事業場に設置されている特定有害物質を発生する施設(以下「特定施設」という。)において発生する特定有害物質を排出する者(以下「特定有害物質排出者」という。)は、当該特定施設について故障、破損その他の事故が発生し、特定有害物質が多量に排出されたときは、ただちに、その事故について応急の措置を講じ、かつ、その事故をすみやかに復旧するように努めなければならない。
2 都道府県知事は、前項に規定する事故が発生した場合において、当該事故に係る工場又は事業場の周辺の地域における人の健康がそこなわれ、又はそこなわれるおそれがあると認めるときは、当該特定有害物質排出者に対し、その事故の拡大及び再発の防止に必要な措置を講ずることを勧告することができる。
(緊急時における都道府県知事の措置)
第二十一条 都道府県知事は、霧が持続的に発生したことにより、指定地域に係る大気の汚染が著しく人の健康をそこなうおそれがある場合であつて、厚生省令、通商産業省令で定めるときは、その事態を一般に周知させるとともに、指定地域内においてばい煙を排出する者に対し、ばい煙の排出量の減少について協力を求めなければならない。
2 都道府県知事は、前項に規定する事態が発生した場合において、他の都道府県の指定地域において排出するばい煙が当該事態の発生に著しい影響があると認めるときは、当該他の都道府県知事に対し、前項に規定する措置をとることを求めることができる。
第五章 和解の仲介
(和解の仲介の申立て)
第二十二条 ばい煙発生施設又は特定施設において発生し、大気中に排出されたばい煙又は特定有害物質による被害について、損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じたときは、当事者は、政令で定めるところにより、都道府県知事に和解の仲介の申立てをすることができる。
(仲介員名簿の作成)
第二十三条 都道府県知事は、毎年仲介員候補者十五人以内を委嘱し、その名簿を作成しておかなければならない。
2 前項の仲介員候補者は、一般公益を代表する者及び産業又は公衆衛生に関し学識経験を有する者のうちから、委嘱されなければならない。
(仲介員の指定)
第二十四条 都道府県知事は、第二十二条の規定による申立てがあつたときは、前条第一項の名簿に記載されている者のうちから、仲介員五人以内を指定しなければならない。
2 前項の場合において、一の紛争に係る申立てが二以上の都道府県知事になされたときは、当該都道府県知事は、協議により仲介員を指定することができる。
(仲介員の任務)
第二十五条 仲介員は、紛争の実情を詳細に調査し、事件が公正に解決されるように努めなければならない。
第六章 雑則
(立入検査)
第二十六条 都道府県知事は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、ばい煙排出者又は特定有害物質排出者の工場又は事業場に立ち入り、その者の帳簿書類、ばい煙発生施設、ばい煙処理施設、特定施設その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(報告の徴収)
第二十七条 都道府県知事は、この法律の施行に必要な限度において、ばい煙排出者又は特定有害物質排出者に対し、そのばい煙発生施設の状況、ばい煙の処理の方法若しくはばい煙濃度又は特定施設の事故の状況若しくは事故時の措置に関し報告をさせることができる。
(適用除外)
第二十八条 電気に関する臨時措置に関する法律(昭和二十七年法律第三百四十一号)の規定によりその例によるものとされた旧公益事業令(昭和二十五年政令第三百四十三号)附則第三項の規定によりなお効力を有する旧電気事業法(昭和六年法律第六十一号。以下「旧電気事業法」という。)の適用を受ける電気工作物又はガス事業法(昭和二十九年法律第五十一号)第二条第二項に規定するガス工作物であるばい煙発生施設又は特定施設において発生するばい煙又は特定有害物質を排出する者については、第三章(第十七条を除く。)、第十九条第二項及び第三項、第二十条第二項、第二十六条並びに前条の規定を適用せず、旧電気事業法又はガス事業法の相当規定の定めるところによる。
(関係行政機関の協力)
第二十九条 都道府県知事は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長に対し、ばい煙発生施設の状況等に関する資料の送付その他の協力を求めることができる。
(国の援助)
第三十条 国は、ばい煙処理施設の整備を促進することにより、大気の汚染の防止に資するため、ばい煙処理施設の設置又は改善につき必要な資金のあつせん、技術的な助言その他の援助に努めるものとする。
(研究の推進等)
第三十一条 国は、ばい煙及び特定有害物質の処理に関する技術並びに大気の汚染の人の健康に及ぼす影響の研究その他大気の汚染の防止に関する研究を推進し、その成果の普及に努めるものとする。
(事務の委任)
第三十二条 都道府県知事は、この法律の規定によりその権限に属する事務で政令で定めるものを、政令で定める市の長に委任することができる。
第七章 罰則
第三十三条 第十一条第一項若しくは第二項又は第十六条第一項若しくは第二項の規定による命令に違反した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第三十四条 第八条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、五万円以下の罰金に処する。
第三十五条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第九条第一項又は第十条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二 第十二条第一項の規定に違反した者
三 第十七条の規定による記録をせず、又は虚偽の記録をした者
四 第二十六条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
五 第二十七条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
第三十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第三十七条 第十三条、第十四条、第十五条第三項、第十八条又は第十九条第二項若しくは第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、一万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第三項の規定は、昭和三十八年四月一日から施行する。
(地方税法の一部改正)
2 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第三百四十八条第二項第六号中「及び鉱水」を「、鉱水及び鉱煙」に改め、同項第六号の四の次に次の一号を加える。
六の五 公共の危害の防止のためにするばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十六号)第二条第四項に規定するばい煙処理施設で自治省令で定めるもの
(中小企業振興資金等助成法の一部改正)
3 中小企業振興資金等助成法(昭和三十一年法律第百十五号)の一部を次のように改正する。
第五条ただし書中「又は工場排水等の規制に関する法律(昭和三十三年法律第百八十二号)第二条第三項に規定する汚水処理施設」を「、工場排水等の規制に関する法律(昭和三十三年法律第百八十二号)第二条第三項に規定する汚水処理施設又はばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和三十七年法律第百四十六号)第二条第四項に規定するばい煙処理施設」に改める。
法務大臣 植木庚子郎
厚生大臣 灘尾弘吉
通商産業大臣 佐藤栄作
自治大臣 安井謙
内閣総理大臣 池田勇人