法廷等の秩序維持に関する法律
法令番号: 法律第二百八十六号
公布年月日: 昭和27年7月31日
法令の形式: 法律
法廷等の秩序維持に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年七月三十一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百八十六号
法廷等の秩序維持に関する法律
(この法律の目的)
第一條 この法律は、民主社会における法の権威を確保するため、法廷等の秩序を維持し、裁判の威信を保持することを目的とする。
(制裁)
第二條 裁判所又は裁判官(以下「裁判所」という。)が法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際し、その面前その他直接に知ることができる場所で、秩序を維持するため裁判所が命じた事項を行わず若しくは執つた措置に従わず、又は暴言、暴行、けん騒その他不穏当な言動で裁判所の職務の執行を妨害し若しくは裁判の威信を著しく害した者は、二十日以下の監置若しくは三万円以下の過料に処し、又はこれを併科する。
2 監置は、監置場に留置する。
(事件の審判)
第三條 前條第一項の規定による制裁は、裁判所が科する。
2 前條第一項にあたる行為があつたときは、裁判所は、その場で直ちに、裁判所職員、警察官又は警察吏員に行為者を拘束させることができる。この場合において、拘束の時から二十四時間以内に監置に処する裁判がなされないときは、裁判所は、直ちにその拘束を解かなければならない。
(裁判)
第四條 制裁を科する裁判は、決定でする。
2 前項の裁判は、第二條第一項にあたる行為が終つた時から一箇月を経過した後は、することができない。
3 裁判所は、裁判をするについて必要があるときは、証人尋問その他の証拠調をすることができる。この場合においては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)による証拠調の場合の例による。
4 制裁を科する裁判をしたときは、手続に要した費用の全部又は一部を本人に負担させることができる。
(抗告及び異議の申立)
第五條 地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所又はその裁判官のした制裁を科する裁判に対しては、本人は、裁判が告知された日から五日以内に、その裁判が法令に違反することを理由として、高等裁判所に抗告をすることができる。
2 前項の抗告をするには、申立書を、原裁判所に提出しなければならない。原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるとき、その他原裁判を更正することを適当と認めるときは、その裁判を取り消し、又は本人の利益に変更することができる。
3 第一項の抗告は、裁判の執行を停止する効力を有しない。但し、抗告裁判所及び原裁判所は、抗告について裁判があるまで、裁判の執行を停止することができる。
4 高等裁判所又はその裁判官のした制裁を科する裁判に対しては、本人は、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。異議の申立には、抗告に関する規定を準用する。
(特別抗告)
第六條 抗告又は異議の申立について高等裁判所のした裁判に対しては、本人は、左の事由があることを理由とする場合に、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
一 憲法の違反があること、又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、前條の規定による抗告又は異議の申立についてした高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
2 前項の抗告の提起期間は、五日とする。
3 前條第二項前段及び第三項の規定は、第一項の抗告について準用する。
(執行)
第七條 制裁を科する裁判は、裁判官の命令で執行する。
2 監置の裁判を執行するため必要があるときは、裁判官は、収容状を発することができる。収容状は、勾引状と同一の効力を有するものとし、裁判官の指揮によつて執行する。
3 収容状の執行については、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)中勾引状の執行に関する規定を準用する。
4 第一項の命令で過料に係るものは、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
5 過料の裁判の執行については、民事訴訟に関する法令の規定を準用する。但し、執行前に裁判の送達をすることを要しない。
6 第一項及び前二項の規定は、第四條第四項の規定による裁判の執行について準用する。
7 監置の裁判の執行は、当該裁判があつた時から三箇月を経過した後は、開始することができない。
8 監置の裁判を受けた者について、当該裁判の執行によつて著しく健康を害する虞があるとき、その他重大な事由があるときは、裁判所は、本人の請求又は職権により、当該裁判の執行を停止することができる。
(補償)
第八條 制裁を科する裁判につき、第五條又は第六條の規定により取消の裁判を受けた者が、すでに当該制裁を科する裁判の執行を受けた場合には、その者は、国に対して、当該制裁を科する裁判の執行による補償を請求することができる。
2 前條第二項の収容状による抑留は、前項の規定の適用については、監置の裁判の執行とみなす。
3 第一項の規定による補償については、無罪の裁判を受けた者の補償に関する刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の規定を準用する。補償決定の公示についても同様である。
(規則)
第九條 制裁を科する裁判に関する手続その他の必要な事項は、最高裁判所が定める。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して六十日をこえない範囲内で、政令で定める。
2 監獄法(明治四十一年法律第二十八号)の一部を次のように改正する。
第八條中「労役場」の下に「及ビ監置場」を加え、同條第一項の次に次の一項を加える。
監置ノ執行ヲ為スニ当リ最寄ノ地ニ監置場ナキ場合又ハ監置場アルモ其収容能力十分ナラザル場合ニ於テハ拘留場(第一條第三項ノ規定ニ依リ代用セラルルモノヲ含ム)ノ特ニ区別シタル場所ヲ監置場ニ充ツルコトヲ得
第九條中「引致状ニ依リ監獄ニ留置シタル者」の下に「、監置ニ処セラレタル者」を加え、同條に次の但書を加える。
但第三十五條ノ規定ハ監置ニ処セラレタル者ニ之ヲ準用セズ
第十八條第一項中「及ビ労役場」を「、労役場及ビ監置場」に改める。
第三十二條中「受刑者」及び「但拘留囚」の下に、それぞれ「及ビ監置ニ処セラレタル者」を加える。
第四十五條第二項、第四十六條第二項及び第四十七條第一項中「受刑者」の下に、それぞれ「及ビ監置ニ処セラレタル者」を加える。
3 法務省設置法(昭和二十二年法律第百九十三号)の一部を次のように改正する。
第八條中第六号を第七号とし、第五号の次に次の一号を加える。
六 法廷等の秩序維持に関する法律(昭和二十七年法律第二百八十六号)により監置に処せられた者に関する事項
法務総裁 木村篤太郎
内閣総理大臣 吉田茂
法廷等の秩序維持に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年七月三十一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百八十六号
法廷等の秩序維持に関する法律
(この法律の目的)
第一条 この法律は、民主社会における法の権威を確保するため、法廷等の秩序を維持し、裁判の威信を保持することを目的とする。
(制裁)
第二条 裁判所又は裁判官(以下「裁判所」という。)が法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際し、その面前その他直接に知ることができる場所で、秩序を維持するため裁判所が命じた事項を行わず若しくは執つた措置に従わず、又は暴言、暴行、けん騒その他不穏当な言動で裁判所の職務の執行を妨害し若しくは裁判の威信を著しく害した者は、二十日以下の監置若しくは三万円以下の過料に処し、又はこれを併科する。
2 監置は、監置場に留置する。
(事件の審判)
第三条 前条第一項の規定による制裁は、裁判所が科する。
2 前条第一項にあたる行為があつたときは、裁判所は、その場で直ちに、裁判所職員、警察官又は警察吏員に行為者を拘束させることができる。この場合において、拘束の時から二十四時間以内に監置に処する裁判がなされないときは、裁判所は、直ちにその拘束を解かなければならない。
(裁判)
第四条 制裁を科する裁判は、決定でする。
2 前項の裁判は、第二条第一項にあたる行為が終つた時から一箇月を経過した後は、することができない。
3 裁判所は、裁判をするについて必要があるときは、証人尋問その他の証拠調をすることができる。この場合においては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)による証拠調の場合の例による。
4 制裁を科する裁判をしたときは、手続に要した費用の全部又は一部を本人に負担させることができる。
(抗告及び異議の申立)
第五条 地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所又はその裁判官のした制裁を科する裁判に対しては、本人は、裁判が告知された日から五日以内に、その裁判が法令に違反することを理由として、高等裁判所に抗告をすることができる。
2 前項の抗告をするには、申立書を、原裁判所に提出しなければならない。原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるとき、その他原裁判を更正することを適当と認めるときは、その裁判を取り消し、又は本人の利益に変更することができる。
3 第一項の抗告は、裁判の執行を停止する効力を有しない。但し、抗告裁判所及び原裁判所は、抗告について裁判があるまで、裁判の執行を停止することができる。
4 高等裁判所又はその裁判官のした制裁を科する裁判に対しては、本人は、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。異議の申立には、抗告に関する規定を準用する。
(特別抗告)
第六条 抗告又は異議の申立について高等裁判所のした裁判に対しては、本人は、左の事由があることを理由とする場合に、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
一 憲法の違反があること、又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、前条の規定による抗告又は異議の申立についてした高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
2 前項の抗告の提起期間は、五日とする。
3 前条第二項前段及び第三項の規定は、第一項の抗告について準用する。
(執行)
第七条 制裁を科する裁判は、裁判官の命令で執行する。
2 監置の裁判を執行するため必要があるときは、裁判官は、収容状を発することができる。収容状は、勾引状と同一の効力を有するものとし、裁判官の指揮によつて執行する。
3 収容状の執行については、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)中勾引状の執行に関する規定を準用する。
4 第一項の命令で過料に係るものは、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
5 過料の裁判の執行については、民事訴訟に関する法令の規定を準用する。但し、執行前に裁判の送達をすることを要しない。
6 第一項及び前二項の規定は、第四条第四項の規定による裁判の執行について準用する。
7 監置の裁判の執行は、当該裁判があつた時から三箇月を経過した後は、開始することができない。
8 監置の裁判を受けた者について、当該裁判の執行によつて著しく健康を害する虞があるとき、その他重大な事由があるときは、裁判所は、本人の請求又は職権により、当該裁判の執行を停止することができる。
(補償)
第八条 制裁を科する裁判につき、第五条又は第六条の規定により取消の裁判を受けた者が、すでに当該制裁を科する裁判の執行を受けた場合には、その者は、国に対して、当該制裁を科する裁判の執行による補償を請求することができる。
2 前条第二項の収容状による抑留は、前項の規定の適用については、監置の裁判の執行とみなす。
3 第一項の規定による補償については、無罪の裁判を受けた者の補償に関する刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の規定を準用する。補償決定の公示についても同様である。
(規則)
第九条 制裁を科する裁判に関する手続その他の必要な事項は、最高裁判所が定める。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して六十日をこえない範囲内で、政令で定める。
2 監獄法(明治四十一年法律第二十八号)の一部を次のように改正する。
第八条中「労役場」の下に「及ビ監置場」を加え、同条第一項の次に次の一項を加える。
監置ノ執行ヲ為スニ当リ最寄ノ地ニ監置場ナキ場合又ハ監置場アルモ其収容能力十分ナラザル場合ニ於テハ拘留場(第一条第三項ノ規定ニ依リ代用セラルルモノヲ含ム)ノ特ニ区別シタル場所ヲ監置場ニ充ツルコトヲ得
第九条中「引致状ニ依リ監獄ニ留置シタル者」の下に「、監置ニ処セラレタル者」を加え、同条に次の但書を加える。
但第三十五条ノ規定ハ監置ニ処セラレタル者ニ之ヲ準用セズ
第十八条第一項中「及ビ労役場」を「、労役場及ビ監置場」に改める。
第三十二条中「受刑者」及び「但拘留囚」の下に、それぞれ「及ビ監置ニ処セラレタル者」を加える。
第四十五条第二項、第四十六条第二項及び第四十七条第一項中「受刑者」の下に、それぞれ「及ビ監置ニ処セラレタル者」を加える。
3 法務省設置法(昭和二十二年法律第百九十三号)の一部を次のように改正する。
第八条中第六号を第七号とし、第五号の次に次の一号を加える。
六 法廷等の秩序維持に関する法律(昭和二十七年法律第二百八十六号)により監置に処せられた者に関する事項
法務総裁 木村篤太郎
内閣総理大臣 吉田茂