朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル戰時刑事特別法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十七年二月二十三日
內閣總理大臣兼陸軍大臣 東條英機
司法大臣 岩村通世
海軍大臣 嶋田繁太郞
法律第六十四號
戰時刑事特別法
第一章 罪
第一條 戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ現ニ人ノ住居ニ使用シ又ハ人ノ現在スル建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若ハ鑛坑ヲ燒燬シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ現ニ人ノ住居ニ使用セズ又ハ人ノ現在セザル建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若ハ鑛坑ヲ燒燬シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
前項ノ物自己ノ所有ニ係ルトキハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス但シ公共ノ危險ヲ生ゼザルトキハ之ヲ罰セズ
第一項及第二項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ豫備又ハ通謀ヲ爲シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
第二條 戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ前條第一項及第二項ニ記載シタル以外ノ物ヲ燒燬シ因テ公共ノ危險ヲ生ゼシメタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス
前項ノ物自己ノ所有ニ係ルトキハ十年以下ノ懲役ニ處ス
第三條 第一條第二項及前條第一項ニ記載シタル物自己ノ所有ニ係ルトキト雖モ差押ヲ受ケ、物權ヲ負擔シ又ハ賃貸シ若ハ保險ニ付シタルモノヲ燒燬シタルトキハ他人ノ物ヲ燒燬シタル者ノ例ニ同ジ
第四條 戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ刑法第百七十六條若ハ同條ノ例ニ依ル同法第百七十八條ノ罪又ハ此等ニ關スル同法第百七十九條ノ罪ヲ犯シタル者ハ三年以上ノ有期懲役ニ處シ同法第百七十七條若ハ同條ノ例ニ依ル同法第百七十八條ノ罪又ハ此等ニ關スル同法第百七十九條ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ傷害ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ處シ死ニ致シタル者ハ死刑ニ處ス
刑法第百八十條ノ規定ハ第一項ノ罪ニ付テハ之ヲ適用セズ
第五條 戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ刑法第二百三十五條、第二百三十六條、第二百三十八條若ハ第二百三十九條ノ罪又ハ此等ニ關スル同法第二百四十三條ノ罪ヲ犯シタル者竊盜ヲ以テ論ズベキトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役、强盜ヲ以テ論ズベキトキハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ刑法第二百四十條前段若ハ第二百四十一條前段ノ罪又ハ此等ニ關スル同法第二百四十三條ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處シ同法第二百四十條後段若ハ第二百四十一條後段ノ罪又ハ此等ニ關スル同法第二百四十三條ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑ニ處ス
第一項ノ强盜ヲ爲ス目的ヲ以テ其ノ豫備又ハ通謀ヲ爲シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス
第六條 戰時ニ際シ燈火管制中又ハ敵襲ノ危險其ノ他人心ニ動搖ヲ生ゼシムベキ狀態アル場合ニ於テ刑法第二百四十九條ノ罪又ハ之ニ關スル同法第二百五十條ノ罪ヲ犯シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
第七條 戰時ニ際シ國政ヲ變亂スルコトヲ目的トシテ人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ處ス
前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第一項ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者ハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第一項ノ罪ヲ犯スコトヲ敎唆シ又ハ幫助シタル者ハ被敎唆者又ハ被幫助者其ノ實行ヲ爲スニ至ラザルトキハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第一項ノ罪ヲ犯サシムル爲他人ヲ煽動シタル者ノ罰亦前項ニ同ジ
第三項乃至前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除ス
第八條 戰時ニ際シ防空ノ實施ニ從事スル公務員ノ當該職務ヲ執行スルニ當リ之ニ對シテ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ七年以下ノ懲役ニ處ス
第九條 戰時ニ際シ刑法第百六條ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ區別ニ從テ處斷ス
一 首魁ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
二 他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ率先シテ勢ヲ助ケタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス
三 附和隨行シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
戰時ニ際シ暴行又ハ脅迫ヲ爲ス爲多衆聚合シ當該公務員ヨリ解散ノ命令ヲ受クルモ仍解散セザルトキハ首魁ハ十年以下ノ懲役ニ處シ其ノ他ノ者ハ三年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第十條 戰時ニ際シ公共ノ防空ノ爲ノ建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公共ノ防空ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ氣象ノ觀測ノ爲ノ建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ氣象ノ觀測ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
第十一條 戰時ニ際シ郵便又ハ電氣通信ノ用ニ供スル建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公共ノ通信ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ處ス
第十二條 戰時ニ際シ瓦斯又ハ電氣ノ用ニ供スル建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壞シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ瓦斯又ハ電氣ノ公共ノ利用ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ處ス
第十三條 戰時ニ際シ國防上重要ナル生產事業ノ設備其ノ他當該生產ノ用ニ供スル物ヲ損壞若ハ隱匿シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ其ノ物ノ效用ヲ害シ當該事業ノ遂行ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ處ス
第十四條 前四條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十五條 戰時ニ際シ業務上不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ生活必需品ノ買占又ハ賣惜ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ一萬圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者ニハ情狀ニ因リ懲役及罰金ヲ併科スルコトヲ得
第十六條 戰時ニ際シ刑法第百二十四條第一項ノ罪ヲ犯シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ刑法第百二十五條ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ刑法第百二十六條第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ處ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑ニ處ス
第二項ノ罪ヲ犯シ因テ刑法第百二十七條ニ定ムル結果ヲ生ゼシメタル者亦前項ノ例ニ同ジ
第一項前段、第二項及第三項前段ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十七條 戰時ニ際シ刑法第百三十條ノ罪ヲ犯シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十八條 戰時ニ際シ刑法第百四十三條又ハ第百四十四條ノ罪ヲ犯シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ刑法第百四十六條前段ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ處ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑ニ處ス
戰時ニ際シ刑法第百四十七條ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
第一項前段、第二項前段及前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第二項前段ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ豫備又ハ通諜ヲ爲シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ處ス
第二章 刑事手續
第十九條 戰時ニ於ケル刑事手續ニ關スル特例ハ本章ノ定ムル所ニ依ル但シ第二十條ノ規定ハ裁判所構成法戰時特例第四條第一項ニ揭グル罪竝ニ刑法第七十三條、第七十五條及第二編第二章ノ罪ニ關スル事件ニ限リ之ヲ適用ス
第二十條 辯護人ノ數ハ被吿人一人ニ付二人ヲ超ユルコトヲ得ズ
辯護人ノ選任ハ最初ニ定メタル公判期日ニ係ル召喚狀ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日ヲ經過シタルトキハ之ヲ爲スコトヲ得ズ但シ已ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於テ裁判所ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十一條 辯護人ハ訴訟ニ關スル書類ノ謄寫ヲ爲サントスルトキハ裁判長又ハ豫審判事ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
辯護人ノ訴訟ニ關スル書類ノ閱覽ハ裁判長又ハ豫審判事ノ指定シタル場所ニ於テ之ヲ爲スベシ
第二十二條 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ機密ノ保持其ノ他公益上ノ理由ニ依リ裁判所ニ於テ之ヲ被吿人其ノ他訴訟關係人ニ交付スルコトヲ相當ナラズト認ムルトキハ之ヲ交付セザルコトヲ得
第二十三條 豫審判事ハ商工會議所其ノ他ノ團體ニ對シ必要ナル事項ノ報吿ヲ求ムルコトヲ得
裁判所ハ公判期日前前項ノ團體ニ對シ必要ナル事項ノ報吿ヲ求ムルコトヲ得
刑事訴訟法第三百四十二條ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ集取シタルモノニ付之ヲ準用ス
第二十四條 刑事訴訟法第三百三十四條ノ規定ハ第五條第一項竝ニ昭和五年法律第九號第二條及第三條ノ竊盜ノ罪ニ關スル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
第二十五條 地方裁判所ノ事件ト雖モ刑事訴訟法第三百四十三條第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セズ
第二十六條 有罪ノ言渡ヲ爲スニ當リ證據ニ依リテ罪ト爲ルベキ事實ヲ認メタル理由ヲ說明シ法令ノ適用ヲ示スニハ證據ノ標目及法令ヲ揭グルヲ以テ足ル
第二十七條 國防保安法第三十四條第二項ノ規定ニ依リ上吿裁判所原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ其ノ事件裁判所構成法戰時特例第四條第一項第二號ニ揭グル罪ニ關スルモノナルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ事實ノ審理ヲ爲スベキ旨ヲ言渡スベシ
裁判所構成法戰時特例第四條第一項第二號ニ揭グル罪ヲ犯シタルモノト認メタル第一審判決ニ對シ控訴院ニ上吿アリタル場合ニ於テ其ノ罪ガ外國ト通謀シ又ハ外國ニ利益ヲ與フル目的ヲ以テ犯サレタルモノナルコトヲ疑フニ足ルベキ顯著ナル事由アルモノト認ムルトキハ控訴院ハ決定ヲ以テ事件ヲ大審院ニ移送スベシ此ノ場合ニ於テハ事件ハ上吿ヲ爲シタル時ヨリ大審院ニ繫屬シタルモノト看做ス
第二十八條 上吿裁判所訴訟記錄ノ送付ヲ受ケタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ上吿申立人及對手人ニ通知スベシ
上吿申立人ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ上吿趣意書ヲ上吿裁判所ニ差出スベシ
上吿ノ對手人ハ第一項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以內ニ附帶上吿ヲ爲スコトヲ得
刑事訴訟法第四百二十二條、第四百二十三條及第四百二十四條第一項ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第二十九條 上吿裁判所上吿趣意書其ノ他ノ書類ニ依リ上吿ノ理由ナキコト明白ナリト認ムルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ辯論ヲ經ズシテ判決ヲ以テ上吿ヲ棄却スルコトヲ得
第三十條 刑事手續ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外一般ノ規定ノ適用アルモノトス
第三十一條 第二十一條乃至第二十四條、第二十六條及前條ノ規定ハ軍法會議ノ刑事手續ニ付之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テ刑事訴訟法第三百四十二條トアルハ陸軍軍法會議法第三百八十八條又ハ海軍軍法會議法第三百九十條トシ刑事訴訟法第三百三十四條トアルハ陸軍軍法會議法第三百六十七條又ハ海軍軍法會議法第三百六十九條トス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
昭和十六年法律第九十八號ハ之ヲ廢止ス
第二十條及第二十四條乃至第二十九條(第二十四條及第二十六條ニ付テハ第三十一條ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ハ本法施行前公訴ヲ提起シタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
戰時終了ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
昭和十六年法律第九十八號ニ違反シタル者ノ處罰ニ付テハ仍舊法ニ依ル
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル戦時刑事特別法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十七年二月二十三日
内閣総理大臣兼陸軍大臣 東条英機
司法大臣 岩村通世
海軍大臣 嶋田繁太郎
法律第六十四号
戦時刑事特別法
第一章 罪
第一条 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ現ニ人ノ住居ニ使用シ又ハ人ノ現在スル建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若ハ鉱坑ヲ焼燬シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ現ニ人ノ住居ニ使用セズ又ハ人ノ現在セザル建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若ハ鉱坑ヲ焼燬シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
前項ノ物自己ノ所有ニ係ルトキハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス但シ公共ノ危険ヲ生ゼザルトキハ之ヲ罰セズ
第一項及第二項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ予備又ハ通謀ヲ為シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス
第二条 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ火ヲ放チテ前条第一項及第二項ニ記載シタル以外ノ物ヲ焼燬シ因テ公共ノ危険ヲ生ゼシメタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
前項ノ物自己ノ所有ニ係ルトキハ十年以下ノ懲役ニ処ス
第三条 第一条第二項及前条第一項ニ記載シタル物自己ノ所有ニ係ルトキト雖モ差押ヲ受ケ、物権ヲ負担シ又ハ賃貸シ若ハ保険ニ付シタルモノヲ焼燬シタルトキハ他人ノ物ヲ焼燬シタル者ノ例ニ同ジ
第四条 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ刑法第百七十六条若ハ同条ノ例ニ依ル同法第百七十八条ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第百七十九条ノ罪ヲ犯シタル者ハ三年以上ノ有期懲役ニ処シ同法第百七十七条若ハ同条ノ例ニ依ル同法第百七十八条ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第百七十九条ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ七年以上ノ懲役ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ傷害ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ処シ死ニ致シタル者ハ死刑ニ処ス
刑法第百八十条ノ規定ハ第一項ノ罪ニ付テハ之ヲ適用セズ
第五条 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ刑法第二百三十五条、第二百三十六条、第二百三十八条若ハ第二百三十九条ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第二百四十三条ノ罪ヲ犯シタル者窃盗ヲ以テ論ズベキトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役、強盗ヲ以テ論ズベキトキハ死刑又ハ無期若ハ十年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ刑法第二百四十条前段若ハ第二百四十一条前段ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第二百四十三条ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処シ同法第二百四十条後段若ハ第二百四十一条後段ノ罪又ハ此等ニ関スル同法第二百四十三条ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑ニ処ス
第一項ノ強盗ヲ為ス目的ヲ以テ其ノ予備又ハ通謀ヲ為シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス
第六条 戦時ニ際シ灯火管制中又ハ敵襲ノ危険其ノ他人心ニ動揺ヲ生ゼシムベキ状態アル場合ニ於テ刑法第二百四十九条ノ罪又ハ之ニ関スル同法第二百五十条ノ罪ヲ犯シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス
第七条 戦時ニ際シ国政ヲ変乱スルコトヲ目的トシテ人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ処ス
前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第一項ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ予備又ハ陰謀ヲ為シタル者ハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第一項ノ罪ヲ犯スコトヲ教唆シ又ハ幫助シタル者ハ被教唆者又ハ被幫助者其ノ実行ヲ為スニ至ラザルトキハ二年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
第一項ノ罪ヲ犯サシムル為他人ヲ煽動シタル者ノ罰亦前項ニ同ジ
第三項乃至前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除ス
第八条 戦時ニ際シ防空ノ実施ニ従事スル公務員ノ当該職務ヲ執行スルニ当リ之ニ対シテ暴行又ハ脅迫ヲ加ヘタル者ハ七年以下ノ懲役ニ処ス
第九条 戦時ニ際シ刑法第百六条ノ罪ヲ犯シタル者ハ左ノ区別ニ従テ処断ス
一 首魁ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
二 他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ率先シテ勢ヲ助ケタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
三 附和随行シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
戦時ニ際シ暴行又ハ脅迫ヲ為ス為多衆聚合シ当該公務員ヨリ解散ノ命令ヲ受クルモ仍解散セザルトキハ首魁ハ十年以下ノ懲役ニ処シ其ノ他ノ者ハ三年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
第十条 戦時ニ際シ公共ノ防空ノ為ノ建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公共ノ防空ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ気象ノ観測ノ為ノ建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ気象ノ観測ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス
第十一条 戦時ニ際シ郵便又ハ電気通信ノ用ニ供スル建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公共ノ通信ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ処ス
第十二条 戦時ニ際シ瓦斯又ハ電気ノ用ニ供スル建造物、工作物其ノ他ノ設備ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ瓦斯又ハ電気ノ公共ノ利用ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ処ス
第十三条 戦時ニ際シ国防上重要ナル生産事業ノ設備其ノ他当該生産ノ用ニ供スル物ヲ損壊若ハ隠匿シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ其ノ物ノ効用ヲ害シ当該事業ノ遂行ノ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ無期又ハ一年以上ノ懲役ニ処ス
第十四条 前四条ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十五条 戦時ニ際シ業務上不正ノ利益ヲ得ル目的ヲ以テ生活必需品ノ買占又ハ売惜ヲ為シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ一万円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者ニハ情状ニ因リ懲役及罰金ヲ併科スルコトヲ得
第十六条 戦時ニ際シ刑法第百二十四条第一項ノ罪ヲ犯シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ刑法第百二十五条ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ五年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ刑法第百二十六条第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑ニ処ス
第二項ノ罪ヲ犯シ因テ刑法第百二十七条ニ定ムル結果ヲ生ゼシメタル者亦前項ノ例ニ同ジ
第一項前段、第二項及第三項前段ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十七条 戦時ニ際シ刑法第百三十条ノ罪ヲ犯シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第十八条 戦時ニ際シ刑法第百四十三条又ハ第百四十四条ノ罪ヲ犯シタル者ハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス因テ人ヲ死傷ニ致シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ刑法第百四十六条前段ノ罪ヲ犯シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ処ス因テ人ヲ死ニ致シタル者ハ死刑ニ処ス
戦時ニ際シ刑法第百四十七条ノ罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ処ス
第一項前段、第二項前段及前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第二項前段ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ予備又ハ通諜ヲ為シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス
第二章 刑事手続
第十九条 戦時ニ於ケル刑事手続ニ関スル特例ハ本章ノ定ムル所ニ依ル但シ第二十条ノ規定ハ裁判所構成法戦時特例第四条第一項ニ掲グル罪並ニ刑法第七十三条、第七十五条及第二編第二章ノ罪ニ関スル事件ニ限リ之ヲ適用ス
第二十条 弁護人ノ数ハ被告人一人ニ付二人ヲ超ユルコトヲ得ズ
弁護人ノ選任ハ最初ニ定メタル公判期日ニ係ル召喚状ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ズ但シ已ムコトヲ得ザル事由アル場合ニ於テ裁判所ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十一条 弁護人ハ訴訟ニ関スル書類ノ謄写ヲ為サントスルトキハ裁判長又ハ予審判事ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
弁護人ノ訴訟ニ関スル書類ノ閲覧ハ裁判長又ハ予審判事ノ指定シタル場所ニ於テ之ヲ為スベシ
第二十二条 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ機密ノ保持其ノ他公益上ノ理由ニ依リ裁判所ニ於テ之ヲ被告人其ノ他訴訟関係人ニ交付スルコトヲ相当ナラズト認ムルトキハ之ヲ交付セザルコトヲ得
第二十三条 予審判事ハ商工会議所其ノ他ノ団体ニ対シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
裁判所ハ公判期日前前項ノ団体ニ対シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
刑事訴訟法第三百四十二条ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ集取シタルモノニ付之ヲ準用ス
第二十四条 刑事訴訟法第三百三十四条ノ規定ハ第五条第一項並ニ昭和五年法律第九号第二条及第三条ノ窃盗ノ罪ニ関スル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
第二十五条 地方裁判所ノ事件ト雖モ刑事訴訟法第三百四十三条第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セズ
第二十六条 有罪ノ言渡ヲ為スニ当リ証拠ニ依リテ罪ト為ルベキ事実ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スニハ証拠ノ標目及法令ヲ掲グルヲ以テ足ル
第二十七条 国防保安法第三十四条第二項ノ規定ニ依リ上告裁判所原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ其ノ事件裁判所構成法戦時特例第四条第一項第二号ニ掲グル罪ニ関スルモノナルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ事実ノ審理ヲ為スベキ旨ヲ言渡スベシ
裁判所構成法戦時特例第四条第一項第二号ニ掲グル罪ヲ犯シタルモノト認メタル第一審判決ニ対シ控訴院ニ上告アリタル場合ニ於テ其ノ罪ガ外国ト通謀シ又ハ外国ニ利益ヲ与フル目的ヲ以テ犯サレタルモノナルコトヲ疑フニ足ルベキ顕著ナル事由アルモノト認ムルトキハ控訴院ハ決定ヲ以テ事件ヲ大審院ニ移送スベシ此ノ場合ニ於テハ事件ハ上告ヲ為シタル時ヨリ大審院ニ繋属シタルモノト看做ス
第二十八条 上告裁判所訴訟記録ノ送付ヲ受ケタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ上告申立人及対手人ニ通知スベシ
上告申立人ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ上告趣意書ヲ上告裁判所ニ差出スベシ
上告ノ対手人ハ第一項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ附帯上告ヲ為スコトヲ得
刑事訴訟法第四百二十二条、第四百二十三条及第四百二十四条第一項ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第二十九条 上告裁判所上告趣意書其ノ他ノ書類ニ依リ上告ノ理由ナキコト明白ナリト認ムルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ弁論ヲ経ズシテ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スルコトヲ得
第三十条 刑事手続ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外一般ノ規定ノ適用アルモノトス
第三十一条 第二十一条乃至第二十四条、第二十六条及前条ノ規定ハ軍法会議ノ刑事手続ニ付之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テ刑事訴訟法第三百四十二条トアルハ陸軍軍法会議法第三百八十八条又ハ海軍軍法会議法第三百九十条トシ刑事訴訟法第三百三十四条トアルハ陸軍軍法会議法第三百六十七条又ハ海軍軍法会議法第三百六十九条トス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
昭和十六年法律第九十八号ハ之ヲ廃止ス
第二十条及第二十四条乃至第二十九条(第二十四条及第二十六条ニ付テハ第三十一条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ハ本法施行前公訴ヲ提起シタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
戦時終了ノ際ニ於テ必要ナル経過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
昭和十六年法律第九十八号ニ違反シタル者ノ処罰ニ付テハ仍旧法ニ依ル