(戦時刑事特別法中改正法律)
法令番号: 法律第百七號
公布年月日: 昭和18年10月31日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル戰時刑事特別法中改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十八年十月三十一日
內閣總理大臣兼陸軍大臣 東條英機
司法大臣 岩村通世
海軍大臣 嶋田繁太郞
法律第百七號
戰時刑事特別法中左ノ通改正ス
第一章中第十八條ノ次ニ左ノ六條ヲ加フ
第十八條ノ二 戰時ニ際シ公務員刑法第百九十七條第一項前段、第百九十七條第二項、第百九十七條ノ二又ハ第百九十七條ノ三第三項ノ罪ヲ犯シタルトキハ十年以下ノ懲役ニ處ス
戰時ニ際シ公務員刑法第百九十七條第一項後段ノ罪ヲ犯シタルトキハ一年以上ノ有期懲役ニ處ス
戰時ニ際シ公務員刑法第百九十七條ノ三第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯シタルトキハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ處ス
第十八條ノ三 戰時ニ際シ官公署ノ職員其ノ地位ヲ利用シ他ノ官公署ノ職員ノ職務ニ屬スル事項ニ關シ斡旋ヲ爲スコト又ハ斡旋ヲ爲シタルコトニ付不當ノ利益ヲ收受シ、要求シ又ハ約束シタルトキハ收賄ノ罪ト爲シ七年以下ノ懲役ニ處ス
第十八條ノ四 犯人又ハ情ヲ知リタル第三者ノ收受シタル賄賂ハ之ヲ沒收ス其ノ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
第十八條ノ五 第十八條ノ二及第十八條ノ三ニ規定スル賄賂ヲ供與シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ一萬圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ニ揭グル行爲ヲ爲サシムル目的ヲ以テ金錢若ハ物品ノ交付ヲ爲シ又ハ情ヲ知リテ其ノ交付ヲ受ケタル者ノ罰亦前項ニ同ジ
前項ノ場合ニ於テ交付ヲ受ケタル金錢又ハ物品ハ之ヲ沒收ス其ノ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
第十八條ノ六 第十八條ノ二、第十八條ノ四及前條ノ規定ノ適用ニ付テハ公務ニ從事スル職員ハ法令ニ依ラザル者ト雖モ之ヲ公務員ト看做ス
第十八條ノ七 第十八條ノ二ノ規定ハ他ノ法令ニ於テ官吏ト看做サルル者ヲ除クノ外他ノ法令ニ於テ法令ニ依リ公務ニ從事スル職員ト看做サルル者ニ付テハ之ヲ適用セズ
第十九條但書ヲ削ル
第二十二條ノ二 刑事訴訟法第六十條第二項第七號ノ規定ニ依リ公判調書ニ被吿人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ訊問及供述ヲ記載スルニハ其ノ供述ノ要領ノミヲ明確ニスルヲ以テ足ル
第二十二條ノ三 裁判所又ハ豫審判事相當ト認ムルトキハ證人又ハ鑑定人ノ訊問ニ代ヘ書面ノ提出ヲ爲サシムルコトヲ得
第二十五條ノ二 檢事事案ノ內容ニ照シ相當ト認ムルトキハ區裁判所ノ管轄ニ屬スル事件ニ付地方裁判所ニ公判ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ刑事訴訟法第三百五十六條但書ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第二十七條 裁判所構成法戰時特例第四條第二項ノ上吿ハ第二審ノ判決ニ對シ上吿ヲ爲スコトヲ得ル理由アル場合ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
上吿裁判所ハ第二審ノ判決ニ對スル上吿事件ニ關スル手續ニ依リ裁判ヲ爲スベシ
第二十九條ノ二 區裁判所ハ事案ノ內容單純ニシテ犯罪ノ成立明白ナリト認ムル事件ニ付略式命令ヲ以テ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ拘留ヲ科スルコトヲ得
左ニ揭グル罪ニ關スル事件ニ付前項ト同一ノ條件アルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ略式命令ヲ以テ三年以下ノ懲役ヲ科スルコトヲ得
一 第五條第一項ノ竊盜ノ罪
二 第十七條ノ罪
三 刑法第百八十六條ノ罪
四 刑法第二百三十五條ノ罪及其ノ未遂罪
五 昭和五年法律第九號第二條及第三條ノ竊盜ノ罪
前二項ノ場合ニ於テ刑ノ執行猶豫ハ刑ノ言渡ト同時ニ略式命令ヲ以テ其ノ言渡ヲ爲スベシ
第二十九條ノ三 略式命令ニ付テハ檢事ハ謄本ノ送達アリタル日ヨリ七日內ニ正式裁判ノ請求ヲ爲スコトヲ得
正式裁判ノ請求ハ略式命令ヲ爲シタル裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スベシ正式裁判ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ速ニ其ノ旨ヲ被吿人ニ通知スベシ
第二十九條ノ四 刑事訴訟法第五百二十三條乃至第五百二十八條ノ規定ハ第二十九條ノ二ノ場合ニ付、同法第五百二十九條乃至第五百三十三條ノ規定ハ前二條ノ場合ニ付之ヲ準用ス
第二十九條ノ五 檢事又ハ被吿人ハ略式命令ヲ爲シタル裁判所ニ書面ヲ以テ正式裁判ノ請求ヲ抛棄スルコトヲ得
正式裁判ノ請求ノ抛棄ニ因リ略式命令ハ確定判決ト同一ノ效力ヲ有ス
第三十一條中「此ノ場合ニ於テ」ノ下ニ「刑事訴訟法第六十條第二項第七號トアルハ陸軍軍法會議法第百十二條第二項第六號又ハ海軍軍法會議法第百十二條第二項第六號トシ」ヲ加フ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九條及第二十九條ノ二乃至第二十九條ノ五ノ改正規定ハ本法施行前公訴ヲ提起シタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
第二十七條ノ改正規定ハ本法施行前第一審ノ辯論ノ終結アリタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
改正前ノ戰時刑事特別法第二十七條ノ規定ハ本法施行前第一審ノ辯論ノ終結アリタル事件ニ付テハ本法施行後ト雖モ仍其ノ效力ヲ有ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル戦時刑事特別法中改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十八年十月三十一日
内閣総理大臣兼陸軍大臣 東条英機
司法大臣 岩村通世
海軍大臣 嶋田繁太郎
法律第百七号
戦時刑事特別法中左ノ通改正ス
第一章中第十八条ノ次ニ左ノ六条ヲ加フ
第十八条ノ二 戦時ニ際シ公務員刑法第百九十七条第一項前段、第百九十七条第二項、第百九十七条ノ二又ハ第百九十七条ノ三第三項ノ罪ヲ犯シタルトキハ十年以下ノ懲役ニ処ス
戦時ニ際シ公務員刑法第百九十七条第一項後段ノ罪ヲ犯シタルトキハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス
戦時ニ際シ公務員刑法第百九十七条ノ三第一項又ハ第二項ノ罪ヲ犯シタルトキハ無期又ハ二年以上ノ懲役ニ処ス
第十八条ノ三 戦時ニ際シ官公署ノ職員其ノ地位ヲ利用シ他ノ官公署ノ職員ノ職務ニ属スル事項ニ関シ斡旋ヲ為スコト又ハ斡旋ヲ為シタルコトニ付不当ノ利益ヲ収受シ、要求シ又ハ約束シタルトキハ収賄ノ罪ト為シ七年以下ノ懲役ニ処ス
第十八条ノ四 犯人又ハ情ヲ知リタル第三者ノ収受シタル賄賂ハ之ヲ没収ス其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴ス
第十八条ノ五 第十八条ノ二及第十八条ノ三ニ規定スル賄賂ヲ供与シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ為シタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ一万円以下ノ罰金ニ処ス
前項ニ掲グル行為ヲ為サシムル目的ヲ以テ金銭若ハ物品ノ交付ヲ為シ又ハ情ヲ知リテ其ノ交付ヲ受ケタル者ノ罰亦前項ニ同ジ
前項ノ場合ニ於テ交付ヲ受ケタル金銭又ハ物品ハ之ヲ没収ス其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴ス
第十八条ノ六 第十八条ノ二、第十八条ノ四及前条ノ規定ノ適用ニ付テハ公務ニ従事スル職員ハ法令ニ依ラザル者ト雖モ之ヲ公務員ト看做ス
第十八条ノ七 第十八条ノ二ノ規定ハ他ノ法令ニ於テ官吏ト看做サルル者ヲ除クノ外他ノ法令ニ於テ法令ニ依リ公務ニ従事スル職員ト看做サルル者ニ付テハ之ヲ適用セズ
第十九条但書ヲ削ル
第二十二条ノ二 刑事訴訟法第六十条第二項第七号ノ規定ニ依リ公判調書ニ被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ訊問及供述ヲ記載スルニハ其ノ供述ノ要領ノミヲ明確ニスルヲ以テ足ル
第二十二条ノ三 裁判所又ハ予審判事相当ト認ムルトキハ証人又ハ鑑定人ノ訊問ニ代ヘ書面ノ提出ヲ為サシムルコトヲ得
第二十五条ノ二 検事事案ノ内容ニ照シ相当ト認ムルトキハ区裁判所ノ管轄ニ属スル事件ニ付地方裁判所ニ公判ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ刑事訴訟法第三百五十六条但書ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第二十七条 裁判所構成法戦時特例第四条第二項ノ上告ハ第二審ノ判決ニ対シ上告ヲ為スコトヲ得ル理由アル場合ニ於テ之ヲ為スコトヲ得
上告裁判所ハ第二審ノ判決ニ対スル上告事件ニ関スル手続ニ依リ裁判ヲ為スベシ
第二十九条ノ二 区裁判所ハ事案ノ内容単純ニシテ犯罪ノ成立明白ナリト認ムル事件ニ付略式命令ヲ以テ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ拘留ヲ科スルコトヲ得
左ニ掲グル罪ニ関スル事件ニ付前項ト同一ノ条件アルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ略式命令ヲ以テ三年以下ノ懲役ヲ科スルコトヲ得
一 第五条第一項ノ窃盗ノ罪
二 第十七条ノ罪
三 刑法第百八十六条ノ罪
四 刑法第二百三十五条ノ罪及其ノ未遂罪
五 昭和五年法律第九号第二条及第三条ノ窃盗ノ罪
前二項ノ場合ニ於テ刑ノ執行猶予ハ刑ノ言渡ト同時ニ略式命令ヲ以テ其ノ言渡ヲ為スベシ
第二十九条ノ三 略式命令ニ付テハ検事ハ謄本ノ送達アリタル日ヨリ七日内ニ正式裁判ノ請求ヲ為スコトヲ得
正式裁判ノ請求ハ略式命令ヲ為シタル裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ為スベシ正式裁判ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ速ニ其ノ旨ヲ被告人ニ通知スベシ
第二十九条ノ四 刑事訴訟法第五百二十三条乃至第五百二十八条ノ規定ハ第二十九条ノ二ノ場合ニ付、同法第五百二十九条乃至第五百三十三条ノ規定ハ前二条ノ場合ニ付之ヲ準用ス
第二十九条ノ五 検事又ハ被告人ハ略式命令ヲ為シタル裁判所ニ書面ヲ以テ正式裁判ノ請求ヲ抛棄スルコトヲ得
正式裁判ノ請求ノ抛棄ニ因リ略式命令ハ確定判決ト同一ノ効力ヲ有ス
第三十一条中「此ノ場合ニ於テ」ノ下ニ「刑事訴訟法第六十条第二項第七号トアルハ陸軍軍法会議法第百十二条第二項第六号又ハ海軍軍法会議法第百十二条第二項第六号トシ」ヲ加フ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九条及第二十九条ノ二乃至第二十九条ノ五ノ改正規定ハ本法施行前公訴ヲ提起シタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
第二十七条ノ改正規定ハ本法施行前第一審ノ弁論ノ終結アリタル事件ニ付テハ之ヲ適用セズ
改正前ノ戦時刑事特別法第二十七条ノ規定ハ本法施行前第一審ノ弁論ノ終結アリタル事件ニ付テハ本法施行後ト雖モ仍其ノ効力ヲ有ス