賃金臨時措置令
法令番号: 勅令第七百五號
公布年月日: 昭和14年10月18日
法令の形式: 勅令
朕賃金臨時措置令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年十月十七日
內閣總理大臣 阿部信行
遞信大臣 永井柳太郞
厚生大臣 小原直
拓務大臣 金光庸夫
農林大臣 伯爵 酒井忠正
勅令第七百五號
賃金臨時措置令
第一條 國家總動員法(昭和十三年勅令第三百十七號ニ於テ依ル場合ヲ含ム以下同ジ)第六條ノ規定ニ基ク勞務者ノ賃金ニ關スル臨時措置ニ付テハ本令ノ定ムル所ニ依ル
第二條 本令ニ於テ勞務者ト稱スルハ船員トシテ又ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル事業ニ從事スル爲ニ雇傭セラレ賃金ヲ受クル者ヲ謂フ但シ命令ヲ以テ定ムル者ヲ除ク
一 鑛業、砂鑛業、石切業其ノ他鑛物採取ノ事業
二 物ノ製造、加工、淨洗、選別、包裝、修理又ハ解體ノ事業(電氣、瓦斯又ハ各種動力ノ發生、變更又ハ傳導ヲ爲ス事業及水道ノ事業ヲ含ム)
三 土木、建築其ノ他工作物ノ建設、改造、保存、修理、變更、破壞又ハ其ノ準備ノ事業
四 道路、鐵道、軌道又ハ索道ニ依ル旅客又ハ貨物ノ運送ノ事業
五 船渠、船舶、岸壁、波止場、停車場又ハ倉庫ニ於ケル貨物ノ取扱ノ事業
六 土地ノ耕作若ハ開墾又ハ植物ノ栽植、栽培、採取若ハ伐採ノ事業其ノ他ノ農業又ハ林業
七 動物ノ飼育又ハ水產動植物ノ採捕若ハ養殖ノ事業其ノ他ノ畜產業、養蠶業又ハ水產業
八 其ノ他命令ヲ以テ定ムル事業
第三條 本令ニ於テ賃金ト稱スルハ賃金、給料、手當、賞與其ノ他名稱ノ如何ヲ問ハズ雇傭者ガ勞働ノ對償トシテ支給スル金錢、物其ノ他ノ利益ヲ謂フ
本令ニ於テ基本給ト稱スルハ定額賃金制ニ於ケル定額給又ハ請負賃金制ニ於ケル保證給若ハ單位時間給ヲ謂ヒ賃金基準ト稱スルハ奬勵加給、手當、實物給與若ハ命令ヲ以テ定ムル賞與以外ノ賞與ノ基準又ハ請負賃金制ニ於ケル請負單價、請負時間、步合若ハ算定方法ヲ謂フ
第四條 事業ノ爲ニ勞務者ヲ雇傭スル者(以下雇傭主ト稱ス)ハ其ノ雇傭スル勞務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ昭和十四年九月十八日(以下指定期日ト稱ス)ノ基本給ヲ變更スルコトヲ得ズ
雇傭主本令施行前其ノ雇傭スル勞務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ基本給ヲ變更シタル場合ニ於テハ變更シタル基本給ニ依リ賃金ヲ支給スルコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニハ之ヲ適用セズ
第五條 指定期日後雇入ルル勞務者ニ付テハ其ノ雇入ノ際ノ基本給ヲ以テ指定期日ノ基本給ト看做ス
第六條 雇入後三十日ヲ超エザル試ノ雇傭期間ヲ定メタル勞務者ニシテ指定期日後其ノ試ノ雇傭期間ヲ終リタルモノニ關スル本令ノ適用ニ付テハ其ノ試ノ雇傭期間ヲ終リタル後ニ基本給ヲ定メタル時ニ於テ雇入アリタルモノト看做ス
第七條 雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ基キ指定期日後雇入ルル勞務者ノ雇入ノ際ノ基本給ヲ地方長官(東京府ニ在リテハ警視總監以下同ジ)ニ報吿スベシ但シ第八條第一項ノ規定ニ依リ報吿シタル內規ニ依リ雇入ルル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
地方長官前項ノ基本給ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ關スル實情ニ鑑ミ不適當ト認ムルトキハ第四條ノ規定ノ適用ニ付雇入ノ際ノ基本給ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ指定期日ノ基本給ト看做ス
第八條 雇傭主ハ勞務者ノ雇入ノ際ノ基本給ニ關スル內規ヲ地方長官ニ報吿スルコトヲ得
地方長官前項ノ規定ニ依リ報吿シタル內規ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ關スル實情ニ鑑ミ不適當ト認ムルトキハ前條第一項但書ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ第一項ノ規定ニ依リ報吿シタル內規ト看做ス
第九條 雇傭主ハ其ノ雇傭スル勞務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ヲ變更スルコトヲ得ズ
雇傭主本令施行前其ノ雇傭スル勞務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ヲ變更シタル場合ニ於テハ變更シタル賃金基準ニ依リ賃金ヲ支給スルコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニハ之ヲ適用セズ
第十條 雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ基キ指定期日ノ賃金基準ヲ地方長官ニ報吿スベシ
第十一條 同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ指定期日ニ賃金基準ノ定ナキ作業ニシテ同種又ハ類似ノ作業ニ付賃金基準ノ定アルモノニ關シテハ其ノ賃金基準ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
指定期日ニ賃金基準ノ定ナキ作業ニシテ前項ノ規定ノ適用ナキモノニ付指定期日後ニ賃金基準ヲ定ムル場合ニ於テハ其ノ賃金基準ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ基キ指定期日後ニ定ムル賃金基準ヲ地方長官ニ報吿スベシ
地方長官前項ノ規定ニ依リ報吿シタル賃金基準ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ關スル實情ニ鑑ミ不適當ト認ムルトキハ第九條ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
第十二條 雇傭主其ノ雇傭スル勞務者ノ箇箇ニ付基本給又ハ賃金基準ヲ變更シテ賃金ヲ增サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ本令施行前其ノ雇傭スル勞務者ノ箇箇ニ付指定期日ノ基本給又ハ賃金基準ヲ變更シテ賃金ヲ增シタルトキ其ノ支給ニ付亦同ジ
前項ノ規定ハ第十三條第一項若ハ第十四條第一項ノ規定ニ依リ報吿シタル昇給內規ニ依リ昇給セシメ又ハセシメタル場合又ハ第十五條若ハ第十六條ノ規定ニ依ル昇給內規ノ定アルトキ之ニ依リ昇給セシムル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第十三條 同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ常時五十人以上ノ勞務者ヲ雇傭スル雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ基キ其ノ雇傭スル勞務者ノ昇給內規ヲ地方長官ニ報吿スベシ
地方長官前項ノ規定ニ依リ報吿シタル昇給內規ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ關スル實情ニ鑑ミ不適當ト認ムルトキハ前條第一項ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ前項ノ規定ニ依リ報吿シタル內規ト看做ス
第十四條 前條ニ規定スル雇傭主以外ノ雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ雇傭スル勞務者ノ昇給內規ヲ地方長官ニ報吿スルコトヲ得
前條第二項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル報吿アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第十五條 雇傭主相互間ニ於テ又ハ厚生大臣ノ指定スル組合若ハ團體ニ於テ勞務者ノ基本給、賃金基準又ハ昇給內規ノ定ヲ爲シ地方長官ノ許可ヲ受ケタルトキハ其ノ雇傭主又ハ其ノ組合員若ハ團體員(組合又ハ團體ヲ組織スル組合又ハ團體ノ組合員又ハ團體員ヲ含ム)タル雇傭主ノ爲ス雇傭ニ於テハ其ノ定ニ依ルベシ但シ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第十六條 日日雇入レラルル者ノ賃金ニ付必要アル場合又ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ地方長官ハ道府縣賃金委員會ニ諮問シテ勞務者ノ基本給、賃金基準又ハ昇給內規ノ定ヲ爲スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ雇傭主ハ地方長官ノ爲シタル定ニ依ルコトヲ要ス但シ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第十七條 前二條ノ規定ニ依ル定ニシテ勞務者ノ雇入ノ際ノ基本給以外ノ基本給ニ關スルモノナルトキ、雇入ノ際ノ基本給ニ關スルモノナルトキ、賃金基準ニ關スルモノナルトキ又ハ昇給內規ニ關スルモノナルトキハ其ノ定ヲ爲シタル事項ニ付各第四條ノ規定、第七條及第八條ノ規定、第九條乃至第十一條ノ規定又ハ第十三條及第十四條ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第十八條 雇傭主第三條第二項ノ規定ニ依リ命令ヲ以テ定ムル賞與ニ關シ前年支給セザリシ時期ニ之ヲ支給セントスルトキ又ハ其ノ賞與率ヲ前年同期ニ支給シタル賞與ノ賞與率ヨリ增加シテ之ヲ支給セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ
前項ノ賞與率ノ算定方法ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
雇傭主其ノ雇傭スル勞務者ノ全部又ハ大部分ニ對シ時ヲ同ジクシテ臨時ノ給與ヲ爲サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ
第十九條 雇傭主ハ何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハズ第四條、第九條、第十二條、第十五條、第十六條及第十八條ノ規定ニ依ル制限ヲ免ルル行爲ヲ爲スコトヲ得ズ
第二十條 厚生大臣又ハ地方長官ハ國家總動員法第三十一條ノ規定ニ依リ賃金ノ狀況ニ關シ報吿ヲ徵シ又ハ當該官吏ヲシテ工場、事業場、事務所、船舶其ノ他ノ場所ニ臨檢シ帳簿書類ヲ檢査セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ當該官吏ヲシテ臨檢檢査セシムル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス證票ヲ携帶セシムベシ
第二十一條 本令實施ニ關スル重要事項ニ付厚生大臣ノ諮問ニ應ズル爲賃金臨時措置調査委員會ヲ置ク
賃金臨時措置調査委員會ニ關スル規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二十二條 本令ハ賃金統制令第五條ノ規定ニ依ル初給賃金ヲ受クル勞務者ニ關シテハ之ヲ適用セズ
本令ハ賃金統制令第六條ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第二十三條 本令ハ國又ハ道府縣ニハ之ヲ適用セズ
本令ハ國際條約又ハ之ニ基ク協定中賃金ニ關スル定アルトキ其ノ制限ニ牴觸スル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第二十四條 第十三條中同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ常時五十人以上ノ勞務者ヲ雇傭スル雇傭主トアルハ船員ニ付テハ常時五十人以上ノ勞務者タル船員ヲ雇傭スル雇傭主トス
第二十五條 內地ニ於テ船員ニ關スルモノヲ除クノ外鑛業及砂鑛業ニ付テハ本令中地方長官トアルハ鑛山監督局長トシ道府縣賃金委員會トアルハ鑛山賃金委員會トス
內地ニ於テ船員ニ付テハ第十五條、第二十條及第二十一條中厚生大臣トアルハ遞信大臣トシ第七條及第十二條中地方長官トアルハ管海官廳トシ第八條、第十條、第十一條及第十三條乃至第十六條中地方長官トアルハ遞信大臣ノ定ムル所ニ依リ遞信大臣又ハ遞信局長トシ第十八條中地方長官トアルハ遞信局長トシ第二十條中地方長官トアルハ遞信局長及管海官廳トス
第十六條中道府縣賃金委員會トアルハ船員法第一條第一項各號ニ揭グル船舶ニ乘組ム船員以外ノ船員ニ付テハ船員給料委員會トス
船員給料委員會ニ關スル規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二十六條 本令中遞信局長又ハ管海官廳ノ職權ニ屬スル事項ハ船員法第一條第一項各號ニ揭グル船舶ニ乘組ム船員ニ付テハ地方長官之ヲ行フ
第二十七條 本令中厚生大臣トアルハ朝鮮、臺灣、樺太又ハ南洋群島ニ在リテハ各朝鮮總督、臺灣總督、樺太廳長官又ハ南洋廳長官トシ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ道知事、臺灣ニ在リテハ州知事又ハ廳長、樺太ニ在リテハ樺太廳長官、南洋群島ニ在リテハ南洋廳長官トシ道府縣トアルハ朝鮮ニ在リテハ道、臺灣ニ在リテハ州又ハ廳、南洋群島ニ在リテハ南洋群島地方費トス
本令中地方長官トアルハ船員(船員法第一條第一項各號ニ揭グル船舶ニ乘組ム者ヲ除ク)ニ付テハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮總督ノ定ムル所ニ依リ朝鮮總督府遞信局長又ハ管海官廳、臺灣ニ在リテハ臺灣總督ノ定ムル所ニ依リ臺灣總督府交通局總長又ハ管海官廳トス
第二十八條 第十六條中道府縣賃金委員會ニ關スル規定及第二十一條ノ規定ハ朝鮮、臺灣、樺太及南洋群島ニハ之ヲ適用セズ
附 則
本令ハ昭和十四年十月二十日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、臺灣、樺太及南洋群島ニ在リテハ昭和十四年十月二十七日ヨリ之ヲ施行ス
本令ハ昭和十五年十月十九日迄其ノ效力ヲ有ス但シ同日以前ニ爲シタル行爲ニ關スル罰則ノ適用ニ付テハ同日後ト雖モ仍其ノ效力ヲ有ス
朕賃金臨時措置令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年十月十七日
内閣総理大臣 阿部信行
逓信大臣 永井柳太郎
厚生大臣 小原直
拓務大臣 金光庸夫
農林大臣 伯爵 酒井忠正
勅令第七百五号
賃金臨時措置令
第一条 国家総動員法(昭和十三年勅令第三百十七号ニ於テ依ル場合ヲ含ム以下同ジ)第六条ノ規定ニ基ク労務者ノ賃金ニ関スル臨時措置ニ付テハ本令ノ定ムル所ニ依ル
第二条 本令ニ於テ労務者ト称スルハ船員トシテ又ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル事業ニ従事スル為ニ雇傭セラレ賃金ヲ受クル者ヲ謂フ但シ命令ヲ以テ定ムル者ヲ除ク
一 鉱業、砂鉱業、石切業其ノ他鉱物採取ノ事業
二 物ノ製造、加工、浄洗、選別、包装、修理又ハ解体ノ事業(電気、瓦斯又ハ各種動力ノ発生、変更又ハ伝導ヲ為ス事業及水道ノ事業ヲ含ム)
三 土木、建築其ノ他工作物ノ建設、改造、保存、修理、変更、破壊又ハ其ノ準備ノ事業
四 道路、鉄道、軌道又ハ索道ニ依ル旅客又ハ貨物ノ運送ノ事業
五 船渠、船舶、岸壁、波止場、停車場又ハ倉庫ニ於ケル貨物ノ取扱ノ事業
六 土地ノ耕作若ハ開墾又ハ植物ノ栽植、栽培、採取若ハ伐採ノ事業其ノ他ノ農業又ハ林業
七 動物ノ飼育又ハ水産動植物ノ採捕若ハ養殖ノ事業其ノ他ノ畜産業、養蚕業又ハ水産業
八 其ノ他命令ヲ以テ定ムル事業
第三条 本令ニ於テ賃金ト称スルハ賃金、給料、手当、賞与其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ雇傭者ガ労働ノ対償トシテ支給スル金銭、物其ノ他ノ利益ヲ謂フ
本令ニ於テ基本給ト称スルハ定額賃金制ニ於ケル定額給又ハ請負賃金制ニ於ケル保証給若ハ単位時間給ヲ謂ヒ賃金基準ト称スルハ奨励加給、手当、実物給与若ハ命令ヲ以テ定ムル賞与以外ノ賞与ノ基準又ハ請負賃金制ニ於ケル請負単価、請負時間、歩合若ハ算定方法ヲ謂フ
第四条 事業ノ為ニ労務者ヲ雇傭スル者(以下雇傭主ト称ス)ハ其ノ雇傭スル労務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ昭和十四年九月十八日(以下指定期日ト称ス)ノ基本給ヲ変更スルコトヲ得ズ
雇傭主本令施行前其ノ雇傭スル労務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ基本給ヲ変更シタル場合ニ於テハ変更シタル基本給ニ依リ賃金ヲ支給スルコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニハ之ヲ適用セズ
第五条 指定期日後雇入ルル労務者ニ付テハ其ノ雇入ノ際ノ基本給ヲ以テ指定期日ノ基本給ト看做ス
第六条 雇入後三十日ヲ超エザル試ノ雇傭期間ヲ定メタル労務者ニシテ指定期日後其ノ試ノ雇傭期間ヲ終リタルモノニ関スル本令ノ適用ニ付テハ其ノ試ノ雇傭期間ヲ終リタル後ニ基本給ヲ定メタル時ニ於テ雇入アリタルモノト看做ス
第七条 雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ基キ指定期日後雇入ルル労務者ノ雇入ノ際ノ基本給ヲ地方長官(東京府ニ在リテハ警視総監以下同ジ)ニ報告スベシ但シ第八条第一項ノ規定ニ依リ報告シタル内規ニ依リ雇入ルル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
地方長官前項ノ基本給ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ関スル実情ニ鑑ミ不適当ト認ムルトキハ第四条ノ規定ノ適用ニ付雇入ノ際ノ基本給ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ指定期日ノ基本給ト看做ス
第八条 雇傭主ハ労務者ノ雇入ノ際ノ基本給ニ関スル内規ヲ地方長官ニ報告スルコトヲ得
地方長官前項ノ規定ニ依リ報告シタル内規ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ関スル実情ニ鑑ミ不適当ト認ムルトキハ前条第一項但書ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ第一項ノ規定ニ依リ報告シタル内規ト看做ス
第九条 雇傭主ハ其ノ雇傭スル労務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ヲ変更スルコトヲ得ズ
雇傭主本令施行前其ノ雇傭スル労務者ノ全部又ハ一部ノ賃金ヲ引上グル目的ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ヲ変更シタル場合ニ於テハ変更シタル賃金基準ニ依リ賃金ヲ支給スルコトヲ得ズ
前二項ノ規定ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニハ之ヲ適用セズ
第十条 雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ基キ指定期日ノ賃金基準ヲ地方長官ニ報告スベシ
第十一条 同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ指定期日ニ賃金基準ノ定ナキ作業ニシテ同種又ハ類似ノ作業ニ付賃金基準ノ定アルモノニ関シテハ其ノ賃金基準ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
指定期日ニ賃金基準ノ定ナキ作業ニシテ前項ノ規定ノ適用ナキモノニ付指定期日後ニ賃金基準ヲ定ムル場合ニ於テハ其ノ賃金基準ヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ基キ指定期日後ニ定ムル賃金基準ヲ地方長官ニ報告スベシ
地方長官前項ノ規定ニ依リ報告シタル賃金基準ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ関スル実情ニ鑑ミ不適当ト認ムルトキハ第九条ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ指定期日ノ賃金基準ト看做ス
第十二条 雇傭主其ノ雇傭スル労務者ノ箇箇ニ付基本給又ハ賃金基準ヲ変更シテ賃金ヲ増サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ本令施行前其ノ雇傭スル労務者ノ箇箇ニ付指定期日ノ基本給又ハ賃金基準ヲ変更シテ賃金ヲ増シタルトキ其ノ支給ニ付亦同ジ
前項ノ規定ハ第十三条第一項若ハ第十四条第一項ノ規定ニ依リ報告シタル昇給内規ニ依リ昇給セシメ又ハセシメタル場合又ハ第十五条若ハ第十六条ノ規定ニ依ル昇給内規ノ定アルトキ之ニ依リ昇給セシムル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第十三条 同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ常時五十人以上ノ労務者ヲ雇傭スル雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ基キ其ノ雇傭スル労務者ノ昇給内規ヲ地方長官ニ報告スベシ
地方長官前項ノ規定ニ依リ報告シタル昇給内規ヲ指定期日ニ於ケル賃金ニ関スル実情ニ鑑ミ不適当ト認ムルトキハ前条第一項ノ規定ノ適用ニ付之ニ代ルベキモノヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ地方長官ノ定ムルモノヲ以テ前項ノ規定ニ依リ報告シタル内規ト看做ス
第十四条 前条ニ規定スル雇傭主以外ノ雇傭主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ雇傭スル労務者ノ昇給内規ヲ地方長官ニ報告スルコトヲ得
前条第二項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル報告アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第十五条 雇傭主相互間ニ於テ又ハ厚生大臣ノ指定スル組合若ハ団体ニ於テ労務者ノ基本給、賃金基準又ハ昇給内規ノ定ヲ為シ地方長官ノ許可ヲ受ケタルトキハ其ノ雇傭主又ハ其ノ組合員若ハ団体員(組合又ハ団体ヲ組織スル組合又ハ団体ノ組合員又ハ団体員ヲ含ム)タル雇傭主ノ為ス雇傭ニ於テハ其ノ定ニ依ルベシ但シ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第十六条 日日雇入レラルル者ノ賃金ニ付必要アル場合又ハ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ地方長官ハ道府県賃金委員会ニ諮問シテ労務者ノ基本給、賃金基準又ハ昇給内規ノ定ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ雇傭主ハ地方長官ノ為シタル定ニ依ルコトヲ要ス但シ命令ヲ以テ定ムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
第十七条 前二条ノ規定ニ依ル定ニシテ労務者ノ雇入ノ際ノ基本給以外ノ基本給ニ関スルモノナルトキ、雇入ノ際ノ基本給ニ関スルモノナルトキ、賃金基準ニ関スルモノナルトキ又ハ昇給内規ニ関スルモノナルトキハ其ノ定ヲ為シタル事項ニ付各第四条ノ規定、第七条及第八条ノ規定、第九条乃至第十一条ノ規定又ハ第十三条及第十四条ノ規定ハ之ヲ適用セズ
第十八条 雇傭主第三条第二項ノ規定ニ依リ命令ヲ以テ定ムル賞与ニ関シ前年支給セザリシ時期ニ之ヲ支給セントスルトキ又ハ其ノ賞与率ヲ前年同期ニ支給シタル賞与ノ賞与率ヨリ増加シテ之ヲ支給セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ
前項ノ賞与率ノ算定方法ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
雇傭主其ノ雇傭スル労務者ノ全部又ハ大部分ニ対シ時ヲ同ジクシテ臨時ノ給与ヲ為サントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ
第十九条 雇傭主ハ何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハズ第四条、第九条、第十二条、第十五条、第十六条及第十八条ノ規定ニ依ル制限ヲ免ルル行為ヲ為スコトヲ得ズ
第二十条 厚生大臣又ハ地方長官ハ国家総動員法第三十一条ノ規定ニ依リ賃金ノ状況ニ関シ報告ヲ徴シ又ハ当該官吏ヲシテ工場、事業場、事務所、船舶其ノ他ノ場所ニ臨検シ帳簿書類ヲ検査セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ当該官吏ヲシテ臨検検査セシムル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ示ス証票ヲ携帯セシムベシ
第二十一条 本令実施ニ関スル重要事項ニ付厚生大臣ノ諮問ニ応ズル為賃金臨時措置調査委員会ヲ置ク
賃金臨時措置調査委員会ニ関スル規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二十二条 本令ハ賃金統制令第五条ノ規定ニ依ル初給賃金ヲ受クル労務者ニ関シテハ之ヲ適用セズ
本令ハ賃金統制令第六条ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第二十三条 本令ハ国又ハ道府県ニハ之ヲ適用セズ
本令ハ国際条約又ハ之ニ基ク協定中賃金ニ関スル定アルトキ其ノ制限ニ牴触スル場合ニ於テハ之ヲ適用セズ
第二十四条 第十三条中同一ノ工場、事業場、事務所其ノ他ノ場所ニ於テ常時五十人以上ノ労務者ヲ雇傭スル雇傭主トアルハ船員ニ付テハ常時五十人以上ノ労務者タル船員ヲ雇傭スル雇傭主トス
第二十五条 内地ニ於テ船員ニ関スルモノヲ除クノ外鉱業及砂鉱業ニ付テハ本令中地方長官トアルハ鉱山監督局長トシ道府県賃金委員会トアルハ鉱山賃金委員会トス
内地ニ於テ船員ニ付テハ第十五条、第二十条及第二十一条中厚生大臣トアルハ逓信大臣トシ第七条及第十二条中地方長官トアルハ管海官庁トシ第八条、第十条、第十一条及第十三条乃至第十六条中地方長官トアルハ逓信大臣ノ定ムル所ニ依リ逓信大臣又ハ逓信局長トシ第十八条中地方長官トアルハ逓信局長トシ第二十条中地方長官トアルハ逓信局長及管海官庁トス
第十六条中道府県賃金委員会トアルハ船員法第一条第一項各号ニ掲グル船舶ニ乗組ム船員以外ノ船員ニ付テハ船員給料委員会トス
船員給料委員会ニ関スル規程ハ別ニ之ヲ定ム
第二十六条 本令中逓信局長又ハ管海官庁ノ職権ニ属スル事項ハ船員法第一条第一項各号ニ掲グル船舶ニ乗組ム船員ニ付テハ地方長官之ヲ行フ
第二十七条 本令中厚生大臣トアルハ朝鮮、台湾、樺太又ハ南洋群島ニ在リテハ各朝鮮総督、台湾総督、樺太庁長官又ハ南洋庁長官トシ地方長官トアルハ朝鮮ニ在リテハ道知事、台湾ニ在リテハ州知事又ハ庁長、樺太ニ在リテハ樺太庁長官、南洋群島ニ在リテハ南洋庁長官トシ道府県トアルハ朝鮮ニ在リテハ道、台湾ニ在リテハ州又ハ庁、南洋群島ニ在リテハ南洋群島地方費トス
本令中地方長官トアルハ船員(船員法第一条第一項各号ニ掲グル船舶ニ乗組ム者ヲ除ク)ニ付テハ朝鮮ニ在リテハ朝鮮総督ノ定ムル所ニ依リ朝鮮総督府逓信局長又ハ管海官庁、台湾ニ在リテハ台湾総督ノ定ムル所ニ依リ台湾総督府交通局総長又ハ管海官庁トス
第二十八条 第十六条中道府県賃金委員会ニ関スル規定及第二十一条ノ規定ハ朝鮮、台湾、樺太及南洋群島ニハ之ヲ適用セズ
附 則
本令ハ昭和十四年十月二十日ヨリ之ヲ施行ス但シ朝鮮、台湾、樺太及南洋群島ニ在リテハ昭和十四年十月二十七日ヨリ之ヲ施行ス
本令ハ昭和十五年十月十九日迄其ノ効力ヲ有ス但シ同日以前ニ為シタル行為ニ関スル罰則ノ適用ニ付テハ同日後ト雖モ仍其ノ効力ヲ有ス