朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル借地法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月七日
內閣總理大臣 原敬
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十九號
借地法
第一條 本法ニ於テ借地權ト稱スルハ建物ノ所有ヲ目的トスル地上權及賃借權ヲ謂フ
第二條 借地權ノ存續期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ六十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年トス但シ建物カ此ノ期間滿了前朽廢シタルトキハ借地權ハ之ニ因リテ消滅ス
契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付三十年以上、其ノ他ノ建物ニ付二十年以上ノ存續期間ヲ定メタルトキハ借地權ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ滿了ニ因リテ消滅ス
第三條 契約ヲ以テ借地權ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地權ハ堅固ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス
第四條 借地權消滅ノ場合ニ於テ建物アルトキハ借地權者ハ契約ノ更新ヲ請求スルコトヲ得
土地所有者カ契約ノ更新ヲ欲セサルトキハ時價ヲ以テ建物其ノ他借地權者カ權原ニ因リテ土地ニ附屬セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
第五條 當事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地權ノ存續期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年トス此ノ場合ニ於テハ第二條第一項但書ノ規定ヲ準用ス
當事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ從フ
第六條 借地權者借地權ノ消滅後土地ノ使用ヲ繼續スル場合ニ於テ土地所有者カ遲滯ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ條件ヲ以テ更ニ借地權ヲ設定シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ前條第一項ノ規定ヲ準用ス
第七條 借地權ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ殘存期間ヲ超エテ存續スヘキ建物ノ築造ニ對シ土地所有者カ遲滯ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地權ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年間存續ス但シ殘存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル
第八條 前二條ノ規定ハ借地權者カ更ニ借地權ヲ設定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第九條 前七條ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ爲借地權ヲ設定シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
第十條 第三者カ賃借權ノ目的タル土地ノ上ニ存スル建物其ノ他借地權者カ權原ニ因リテ土地ニ附屬セシメタル物ヲ取得シタル場合ニ於テ賃貸人カ賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ヲ承諾セサルトキハ賃貸人ニ對シ時價ヲ以テ建物其ノ他借地權者カ權原ニ因リテ土地ニ附屬セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
第十一條 第二條、第四條乃至第八條及前條ノ規定ニ反スル契約條件ニシテ借地權者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス
第十二條 地代又ハ借賃カ土地ニ對スル租稅其ノ他ノ公課ノ增減若ハ土地ノ價格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相當ナルニ至リタルトキハ契約ノ條件ニ拘ラス當事者ハ將來ニ向テ地代又ハ借賃ノ增減ヲ請求スルコトヲ得但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ增加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ從フ
第十三條 土地所有者又ハ賃貸人ハ辨濟期ニ至リタル最後ノ二年分ノ地代又ハ借賃ニ付借地權者カ其ノ土地ニ於テ所有スル建物ノ上ニ先取特權ヲ有ス
前項ノ先取特權ハ地上權又ハ賃貸借ノ登記ヲ爲スニ因リテ其ノ效力ヲ保存ス
第十四條 前條ノ先取特權ハ他ノ權利ニ對シテ優先ノ效力ヲ有ス但シ國稅徵收法ニ依リ徵收スルコトヲ得ヘキ請求權、共益費用不動產保存不動產工事ノ先取特權及地上權又ハ賃貸借ノ登記前登記シタル質權抵當權ニ後ル
附 則
第十五條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條 本法施行ノ地區ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 本法施行前設定シタル地上權又ハ賃借權ニシテ建物ノ所有ヲ目的トスルモノノ存續期間ハ旣ニ經過シタル期間ヲ算入シ堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ二十年トス但シ建物カ此ノ期間滿了前朽廢シタルトキハ借地權ハ之ニ因リテ消滅シ堅固ノ建物ニ付三十年ヲ超エ、其ノ他ノ建物ニ付二十年ヲ超ユル存續期間ノ定アル地上權ハ其ノ期間ノ滿了ニ因リテ消滅ス
建物ノ所有ヲ目的トスル地上權又ハ賃借權ニ付存續期間ノ定ナキ場合ニ於テ本法施行前二十年以上ヲ經過シタルトキハ當事者ハ二十年每ニ契約ヲ更新シタルモノト看做シ前項ノ規定ヲ適用ス
第一項ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ爲設定シタルコト明ナル地上權及賃貸借ニ付之ヲ適用セス
第十八條 前條ニ規定スルモノヲ除クノ外本法施行ノ際現ニ存スル地上權又ハ賃借權ニシテ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付亦本法ヲ適用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル借地法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月七日
内閣総理大臣 原敬
司法大臣 伯爵 大木遠吉
法律第四十九号
借地法
第一条 本法ニ於テ借地権ト称スルハ建物ノ所有ヲ目的トスル地上権及賃借権ヲ謂フ
第二条 借地権ノ存続期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ六十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年トス但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付三十年以上、其ノ他ノ建物ニ付二十年以上ノ存続期間ヲ定メタルトキハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
第三条 契約ヲ以テ借地権ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地権ハ堅固ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス
第四条 借地権消滅ノ場合ニ於テ建物アルトキハ借地権者ハ契約ノ更新ヲ請求スルコトヲ得
土地所有者カ契約ノ更新ヲ欲セサルトキハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
第五条 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年トス此ノ場合ニ於テハ第二条第一項但書ノ規定ヲ準用ス
当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ
第六条 借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス
第七条 借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年間存続ス但シ残存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル
第八条 前二条ノ規定ハ借地権者カ更ニ借地権ヲ設定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第九条 前七条ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
第十条 第三者カ賃借権ノ目的タル土地ノ上ニ存スル建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ取得シタル場合ニ於テ賃貸人カ賃借権ノ譲渡又ハ転貸ヲ承諾セサルトキハ賃貸人ニ対シ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
第十一条 第二条、第四条乃至第八条及前条ノ規定ニ反スル契約条件ニシテ借地権者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス
第十二条 地代又ハ借賃カ土地ニ対スル租税其ノ他ノ公課ノ増減若ハ土地ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ地代又ハ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ
第十三条 土地所有者又ハ賃貸人ハ弁済期ニ至リタル最後ノ二年分ノ地代又ハ借賃ニ付借地権者カ其ノ土地ニ於テ所有スル建物ノ上ニ先取特権ヲ有ス
前項ノ先取特権ハ地上権又ハ賃貸借ノ登記ヲ為スニ因リテ其ノ効力ヲ保存ス
第十四条 前条ノ先取特権ハ他ノ権利ニ対シテ優先ノ効力ヲ有ス但シ国税徴収法ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権、共益費用不動産保存不動産工事ノ先取特権及地上権又ハ賃貸借ノ登記前登記シタル質権抵当権ニ後ル
附 則
第十五条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六条 本法施行ノ地区ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 本法施行前設定シタル地上権又ハ賃借権ニシテ建物ノ所有ヲ目的トスルモノノ存続期間ハ既ニ経過シタル期間ヲ算入シ堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ二十年トス但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅シ堅固ノ建物ニ付三十年ヲ超エ、其ノ他ノ建物ニ付二十年ヲ超ユル存続期間ノ定アル地上権ハ其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
建物ノ所有ヲ目的トスル地上権又ハ賃借権ニ付存続期間ノ定ナキ場合ニ於テ本法施行前二十年以上ヲ経過シタルトキハ当事者ハ二十年毎ニ契約ヲ更新シタルモノト看做シ前項ノ規定ヲ適用ス
第一項ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ為設定シタルコト明ナル地上権及賃貸借ニ付之ヲ適用セス
第十八条 前条ニ規定スルモノヲ除クノ外本法施行ノ際現ニ存スル地上権又ハ賃借権ニシテ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付亦本法ヲ適用ス