朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル質屋取締法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月十日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
內務大臣 子爵 野村靖
法律第十四號
質屋取締法
第一條 質屋營業ヲ爲サムトスル者ハ行政廳ノ免許ヲ受クヘシ支店ヲ設クルトキ亦同シ
廢業シタルトキハ行政廳ニ屆出ヘシ
第二條 質屋ハ店舖ノ外ニ於テ營業ヲ爲スコトヲ得ス
第三條 質屋物品ヲ質ニ取ラムトスルトキハ質置主ニ於テ其ノ物品ヲ質入シ得ヘキ權利ヲ有スルコトヲ確認シタル後之ヲ爲スヘシ若不正品ノ疑アルトキハ直ニ警察官ニ申吿スヘシ
第四條 住所、氏名ノ詳カナラサル者ヨリ物品ヲ質ニ取ルコトヲ得ス但シ住所、氏名ノ詳カナル者其ノ證人タルトキ又ハ警察官ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五條 質屋ハ質契約及質物處分ニ關スル事項ヲ帳簿ニ記載スヘシ
屋質ハ質契約ノ證トシテ質札又ハ通帳ヲ質置主ニ交付スヘシ
帳簿、質札及通帳ノ製方及樣式ハ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第六條 質屋ハ左ノ事項ヲ見易キ場所ニ揭示スヘシ
一 利子割合
一 流質期限
一 質物ノ災難ニ罹リタルトキノ處辨方
一 質物出入時間
第七條 傳染病毒ニ汚染シタル物品ナリト認ムルモノハ消毒シタル後ニ非サレハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス
前項ノ物品ニシテ警察官ニ於テ未タ消毒セサルモノト認ムルトキハ直ニ消毒法ヲ施サシメ命ニ從ハサレハ之ヲ官沒ス
第八條 質屋ハ質物ヲ使用シ若ハ貸付スルコトヲ得ス
轉質ハ必要ノ場合ニ限リ命令ヲ以テ制限シ若ハ禁止スルコトヲ得
第九條 質屋ハ左ニ揭クル制限內ノ利子ノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ金錢ヲ領收スルコトヲ得ス
貸金二十五錢以下ハ一箇月一錢、一圓以下ハ一箇月百分ノ四、五圓以下ハ一箇月百分ノ三、十圓以下ハ一箇月百分ノ二半
本條ニ違反シタル質契約ハ其ノ違反セル部分ニ限リ無效トス
第十條 質置主ハ流質期限前ハ何時タリトモ元利金ヲ辨濟シテ其ノ質物ヲ受戾スコトヲ得
第十一條 質屋ハ流質期限經過ノ後何時タリトモ其ノ質物ヲ處分スルコトヲ得
第十二條 質屋ハ何人ニ拘ラス質札又ハ通帳ヲ所持スル者ニ其ノ質物ヲ返還スルコトヲ得
第十三條 贓物ニシテ特ニ識別シ得ヘキ物品ニ限リ警察官ニ於テ必要アリト認ムルモノハ品觸ヲ發スルコトヲ得
第十四條 贓物ノ品觸アルトキハ到達シタル年月日ヲ其ノ品觸寫書ニ附記スヘシ品觸到達以後六箇月內ニ品觸ニ相當スル物品ヲ質ニ取リ若ハ質物トシテ占有セルコトヲ覺知スルトキハ直ニ警察官ニ屆出ヘシ
第十五條 警察官ハ犯罪ノ嫌疑アル物品若ハ遺失物又ハ傳染病毒汚染ノ物品アリト認ムルトキハ何時タリトモ質物及帳簿ノ檢査ヲ爲シ時宜ニ依リ十日以內ヲ限リ其ノ物品ヲ差押ヘ又ハ帳簿ヲ差出サシムルコトヲ得
警察官ニ於テ物品ヲ押收シタルトキハ領置證書ヲ交付スヘシ
第十六條 質物ニシテ遺失物若ハ贓物ニ係ルトキハ警察官之ヲ徵收シ被害者ニ還付スルコトヲ得若被害者知レサルトキハ徵收シタル日ヨリ二箇年ノ後官沒スルコトヲ得
第十七條 營業ニ關スル帳簿ヲ廢棄セムトスルトキハ警察官ノ許可ヲ受クヘシ
第十八條 質屋法律命令ニ違犯シ行政廳ニ於テ必要ト認ムルトキハ其ノ營業ヲ禁止又ハ停止スルコトヲ得
禁止及停止ノ效力ハ全國ニ及フ
第十九條 禁止ノ處分ヲ受ケタル者ハ他人ノ名義ヲ以テ質屋營業ヲ爲シ又ハ質屋營業者ノ代理人タルコトヲ得ス停止ノ處分ヲ受ケタル者其ノ期間亦同シ
第二十條 質屋廢業シ若ハ營業ヲ禁止セラレタルトキト雖其ノ以前ニ成立シタル質契約及其ノ質物ニ付テハ尙ホ此ノ法律ヲ適用ス停止ノ處分ヲ受ケタル者其ノ期間亦同シ
第二十一條 行政廳ハ何時タリトモ營業ノ禁止ヲ解クコトヲ得
第二十二條 左ニ揭クル諸項ノ一ニ該當スル者ハ二圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第十五條ノ場合ニ於テ虛僞ノ陳述ヲ爲シ又ハ故意ニ物品、帳簿ヲ毀損亡失シタル者
二 第一條ノ免許ヲ受ケスシテ營業ヲ爲シタル者
三 禁止又ハ停止中營業ヲ爲シタル者
四 第八條第一項及第十九條ニ違反シタル者
第二十三條 第一條第二項、第二條、第三條、第四條、第五條第一項及第二項、第六條、第七條第一項、第十四條及第十七條ニ違反シタル者ハ二圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十四條 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第二十五條 質屋營業上ニ就テハ家屬又ハ雇人ノ所爲ト雖營業者其ノ責ニ任ス
第二十六條 此ノ法律ヲ施行スル爲ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十七條 此ノ法律ハ明治二十八年九月一日ヨリ施行ス但シ沖繩縣ニ施行セス
第二十八條 此ノ法律施行以前ニ係ル質契約ニ付テハ契約當時ノ法令ヲ適用ス
第二十九條 明治十七年第九號布吿質屋取締條例ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル質屋取締法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十八年三月十日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
内務大臣 子爵 野村靖
法律第十四号
質屋取締法
第一条 質屋営業ヲ為サムトスル者ハ行政庁ノ免許ヲ受クヘシ支店ヲ設クルトキ亦同シ
廃業シタルトキハ行政庁ニ届出ヘシ
第二条 質屋ハ店舗ノ外ニ於テ営業ヲ為スコトヲ得ス
第三条 質屋物品ヲ質ニ取ラムトスルトキハ質置主ニ於テ其ノ物品ヲ質入シ得ヘキ権利ヲ有スルコトヲ確認シタル後之ヲ為スヘシ若不正品ノ疑アルトキハ直ニ警察官ニ申告スヘシ
第四条 住所、氏名ノ詳カナラサル者ヨリ物品ヲ質ニ取ルコトヲ得ス但シ住所、氏名ノ詳カナル者其ノ証人タルトキ又ハ警察官ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五条 質屋ハ質契約及質物処分ニ関スル事項ヲ帳簿ニ記載スヘシ
屋質ハ質契約ノ証トシテ質札又ハ通帳ヲ質置主ニ交付スヘシ
帳簿、質札及通帳ノ製方及様式ハ命令ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得
第六条 質屋ハ左ノ事項ヲ見易キ場所ニ掲示スヘシ
一 利子割合
一 流質期限
一 質物ノ災難ニ罹リタルトキノ処弁方
一 質物出入時間
第七条 伝染病毒ニ汚染シタル物品ナリト認ムルモノハ消毒シタル後ニ非サレハ之ヲ質ニ取ルコトヲ得ス
前項ノ物品ニシテ警察官ニ於テ未タ消毒セサルモノト認ムルトキハ直ニ消毒法ヲ施サシメ命ニ従ハサレハ之ヲ官没ス
第八条 質屋ハ質物ヲ使用シ若ハ貸付スルコトヲ得ス
転質ハ必要ノ場合ニ限リ命令ヲ以テ制限シ若ハ禁止スルコトヲ得
第九条 質屋ハ左ニ掲クル制限内ノ利子ノ外何等ノ名義ヲ以テスルモ金銭ヲ領収スルコトヲ得ス
貸金二十五銭以下ハ一箇月一銭、一円以下ハ一箇月百分ノ四、五円以下ハ一箇月百分ノ三、十円以下ハ一箇月百分ノ二半
本条ニ違反シタル質契約ハ其ノ違反セル部分ニ限リ無効トス
第十条 質置主ハ流質期限前ハ何時タリトモ元利金ヲ弁済シテ其ノ質物ヲ受戻スコトヲ得
第十一条 質屋ハ流質期限経過ノ後何時タリトモ其ノ質物ヲ処分スルコトヲ得
第十二条 質屋ハ何人ニ拘ラス質札又ハ通帳ヲ所持スル者ニ其ノ質物ヲ返還スルコトヲ得
第十三条 贓物ニシテ特ニ識別シ得ヘキ物品ニ限リ警察官ニ於テ必要アリト認ムルモノハ品触ヲ発スルコトヲ得
第十四条 贓物ノ品触アルトキハ到達シタル年月日ヲ其ノ品触写書ニ附記スヘシ品触到達以後六箇月内ニ品触ニ相当スル物品ヲ質ニ取リ若ハ質物トシテ占有セルコトヲ覚知スルトキハ直ニ警察官ニ届出ヘシ
第十五条 警察官ハ犯罪ノ嫌疑アル物品若ハ遺失物又ハ伝染病毒汚染ノ物品アリト認ムルトキハ何時タリトモ質物及帳簿ノ検査ヲ為シ時宜ニ依リ十日以内ヲ限リ其ノ物品ヲ差押ヘ又ハ帳簿ヲ差出サシムルコトヲ得
警察官ニ於テ物品ヲ押収シタルトキハ領置証書ヲ交付スヘシ
第十六条 質物ニシテ遺失物若ハ贓物ニ係ルトキハ警察官之ヲ徴収シ被害者ニ還付スルコトヲ得若被害者知レサルトキハ徴収シタル日ヨリ二箇年ノ後官没スルコトヲ得
第十七条 営業ニ関スル帳簿ヲ廃棄セムトスルトキハ警察官ノ許可ヲ受クヘシ
第十八条 質屋法律命令ニ違犯シ行政庁ニ於テ必要ト認ムルトキハ其ノ営業ヲ禁止又ハ停止スルコトヲ得
禁止及停止ノ効力ハ全国ニ及フ
第十九条 禁止ノ処分ヲ受ケタル者ハ他人ノ名義ヲ以テ質屋営業ヲ為シ又ハ質屋営業者ノ代理人タルコトヲ得ス停止ノ処分ヲ受ケタル者其ノ期間亦同シ
第二十条 質屋廃業シ若ハ営業ヲ禁止セラレタルトキト雖其ノ以前ニ成立シタル質契約及其ノ質物ニ付テハ尚ホ此ノ法律ヲ適用ス停止ノ処分ヲ受ケタル者其ノ期間亦同シ
第二十一条 行政庁ハ何時タリトモ営業ノ禁止ヲ解クコトヲ得
第二十二条 左ニ掲クル諸項ノ一ニ該当スル者ハ二円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第十五条ノ場合ニ於テ虚偽ノ陳述ヲ為シ又ハ故意ニ物品、帳簿ヲ毀損亡失シタル者
二 第一条ノ免許ヲ受ケスシテ営業ヲ為シタル者
三 禁止又ハ停止中営業ヲ為シタル者
四 第八条第一項及第十九条ニ違反シタル者
第二十三条 第一条第二項、第二条、第三条、第四条、第五条第一項及第二項、第六条、第七条第一項、第十四条及第十七条ニ違反シタル者ハ二円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十四条 此ノ法律ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第二十五条 質屋営業上ニ就テハ家属又ハ雇人ノ所為ト雖営業者其ノ責ニ任ス
第二十六条 此ノ法律ヲ施行スル為ニ必要ナル細則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十七条 此ノ法律ハ明治二十八年九月一日ヨリ施行ス但シ沖縄県ニ施行セス
第二十八条 此ノ法律施行以前ニ係ル質契約ニ付テハ契約当時ノ法令ヲ適用ス
第二十九条 明治十七年第九号布告質屋取締条例ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス