官吏遺族扶助法
法令番号: 法律第四十四號
公布年月日: 明治23年6月21日
法令の形式: 法律
朕官吏遺族扶助法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年六月二十日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
內務大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顯正
農商務大臣 陸奧宗光
法律第四十四號
官吏遺族扶助法
第一條 文官判任以上ノ者左ニ揭クル事項ノ一ニ當ルトキハ其遺族ハ此法律ノ規定スル所ニ依リ扶助料ヲ受クルノ權利ヲ有ス但第二條ノ納金ヲナスヘキ義務ナキ者ノ遺族ハ此限ニ在ラス
一 在官十五年以上ノ者在官中死去シタルトキ
二 在官十五年未滿ノ者公務ノ爲メ死去シタルトキ
三 恩給ヲ受クル者死去シタルトキ
第二條 文官判任以上ノ者ハ其俸給百分ノ一ヲ國庫ニ納ムヘシ
第三條 交際官及領事貿易事務官等其俸給普通文官ヨリ多額ナルトキハ普通文官ノ俸給ニ依リ少額ナルトキハ現ニ受クル所ノ俸給ニ依リ第二條ノ納金ヲ爲スヘシ
政府ヨリ俸給ヲ受ケサル官吏及商業ヲ營ムコトヲ得ヘキ官吏竝ニ高等官試補判任官見習ノ俸給及兼官ニ依テ受クル加俸ニ對シテハ第二條ノ納金ヲ要セス
第四條 寡婦扶助料年額ハ亡夫ノ受ケタル若クハ受クヘキ恩給年額三分ノ一トス
公務ノ爲メ受ケタル傷痍ニ原因シテ死去シ又ハ非常ノ勞動及困苦ヲ忍ヒ勤務ニ從事シ爲メニ發病死去シ又ハ公務ニ依リ傳染病者ニ接シ該病毒ニ感染シテ死去シ又ハ戰地ニ於テ若クハ公務旅行中流行病ニ罹リ死去シタル者ノ寡婦扶助料ハ亡夫ノ俸給ニ對シ官吏恩給法第五條ニ依リ算出シタル恩給年額三分ノ二トス
扶助料年額圓位未滿ノ數ハ圓位ニ滿タシム
第五條 寡婦ナキトキ又ハ扶助料ヲ受クル寡婦死去シ若クハ權利消滅シタルトキハ其扶助料ヲ孤兒ニ給ス
第六條 孤兒扶助料ハ數子アルトキハ家名繼襲者ニ給シ戶主ニ非サル者ノ孤兒ニ在テハ長子ニ給ス其繼襲者及長子死去シ若クハ權利消滅シ若クハ支給期限ノ滿ツルトキハ順次年少者ニ轉給スルモノトス但家名繼襲者ヲ除クノ外男子ヲ先ニシ女子ヲ後ニス
第七條 恩給ヲ受ケタル者ノ寡婦ニシテ其夫退官後結婚シタル者ハ扶助料ヲ受クルコトヲ得ス
第八條 此法律ニ於テ孤兒トハ年齡二十歲未滿ノ男女子ニシテ未タ結婚セサル者ヲ云フ但養男女子ハ家名繼襲者ニ限ル
第九條 扶助料ハ之ヲ受クヘキ事由ノ生シタル月ノ翌月ヨリ之ヲ給ス
第十條 扶助料ヲ受クヘキ寡婦及孤兒ナク若クハ扶助料ヲ受ケタル寡婦及孤兒戶籍ヲ去リ若クハ死去シ若クハ權利消滅シタルトキ父母又ハ祖父母アルトキハ寡婦ニ相當スル扶助料ノ全額ヲ其父母又ハ祖父母ニ終身給スルコトヲ得
其扶助料ハ先ツ父ニ給シ其父存在セサルトキ若クハ權利消滅シタルトキハ母ニ給ス母ヨリ祖父ニ祖父ヨリ祖母ニ轉給スルハ順次此例ニ依ル
第十一條 扶助料ヲ受クヘキ寡婦孤兒又ハ父母祖父母ナクシテ死去シタル者ノ戶籍內ニ在ル二十歲未滿又ハ癈疾若クハ不具ニシテ產業ヲ營ムコト能ハサル兄弟姊妹アリテ之ヲ給養スル者ナキトキハ寡婦ニ相當スル扶助料一個年分ヨリ少カラス五個年分ヨリ多カラサル金額ヲ人員ニ抅ハラス一時限リ其兄弟姊妹ニ給スルコトヲ得
第十二條 扶助料ハ之チ受クヘキ權利ノ生シタル日ヨリ三個年內ニ請求セサレハ其權利ヲ抛棄シタルモノトス
第十三條 扶助料ハ賣買讓與質入書入スルコトヲ得ス又負債ノ抵償トシテ差押フルコトヲ得ス
第十四條 扶助料ヲ受クルノ權利ハ左ノ時ヨリ消滅ス
一 寡婦死去又ハ婚嫁シ若クハ戶籍ヲ去リタル月ノ翌月
二 孤兒死去又ハ婚嫁シ又ハ他家ノ養子女トナリ又ハ年齡二十歲ニ滿チタル月ノ翌月
三 父母祖父母死去シ又ハ戶籍ヲ去リタル月ノ翌月
第十五條 孤兒二十歲ニ滿ツルモ癈疾若クハ不具ニシテ產業ヲ營ムコト能ハス他ニ給養スル者ナキトキハ寡婦扶助料ノ三分ノ一ヲ其孤兒ニ各終身給スルコトヲ得但一戶籍內ニ寡婦ト同額ノ扶助料ヲ受クル者アルトキハ其間之ヲ給セス
第十六條 扶助料ヲ受クル者日本臣民タルノ分限ヲ失ヒ若クハ重罪ノ刑ニ處セラレタルトキハ扶助料ノ支給ヲ廢ス
公權ヲ停止セラレタルトキハ其間支給ヲ停止ス
扶助料ヲ受クル者公權停止中ハ其轉給ヲ受クヘキ者ニ之ヲ給ス
第十七條 在官十五年未滿ノ者在官中公務ノ故ニアラスシテ死去シタルトキハ其遺族ニ一時扶助金ヲ給ス
前項ノ扶助金ハ在職最終ノ俸給年額百分ノ一ヲ在官年數ニ乘シタル額トス但一年未滿ノ在官月數ハ計算セス
第十八條 扶助料ノ支給ハ地方長官ノ申牒ニ依リ恩給局ノ審査ヲ經テ內閣總理大臣之ヲ裁定ス
行政上ノ處分ニ因リ扶助料ニ關スル權利ヲ障害セラレタリトスル者ハ六個月以內ニ恩給局ニ具申シテ裁決ヲ請フコトヲ得其裁決ニ服セサル者ハ一個年以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九條 明治十七年達官吏恩給令ニ依リ扶助料ヲ受ケタル者及恩給ヲ受ケタル者ノ遺族扶助料ハ總テ其恩給令ニ依ルヘシ但其權利消滅及停止ハ此法律ニ依ル
第二十條 此法律ハ明治二十三年七月一日ヨリ施行ス
朕官吏遺族扶助法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十三年六月二十日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
内務大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
海軍大臣 子爵 樺山資紀
文部大臣 芳川顕正
農商務大臣 陸奥宗光
法律第四十四号
官吏遺族扶助法
第一条 文官判任以上ノ者左ニ掲クル事項ノ一ニ当ルトキハ其遺族ハ此法律ノ規定スル所ニ依リ扶助料ヲ受クルノ権利ヲ有ス但第二条ノ納金ヲナスヘキ義務ナキ者ノ遺族ハ此限ニ在ラス
一 在官十五年以上ノ者在官中死去シタルトキ
二 在官十五年未満ノ者公務ノ為メ死去シタルトキ
三 恩給ヲ受クル者死去シタルトキ
第二条 文官判任以上ノ者ハ其俸給百分ノ一ヲ国庫ニ納ムヘシ
第三条 交際官及領事貿易事務官等其俸給普通文官ヨリ多額ナルトキハ普通文官ノ俸給ニ依リ少額ナルトキハ現ニ受クル所ノ俸給ニ依リ第二条ノ納金ヲ為スヘシ
政府ヨリ俸給ヲ受ケサル官吏及商業ヲ営ムコトヲ得ヘキ官吏並ニ高等官試補判任官見習ノ俸給及兼官ニ依テ受クル加俸ニ対シテハ第二条ノ納金ヲ要セス
第四条 寡婦扶助料年額ハ亡夫ノ受ケタル若クハ受クヘキ恩給年額三分ノ一トス
公務ノ為メ受ケタル傷痍ニ原因シテ死去シ又ハ非常ノ労動及困苦ヲ忍ヒ勤務ニ従事シ為メニ発病死去シ又ハ公務ニ依リ伝染病者ニ接シ該病毒ニ感染シテ死去シ又ハ戦地ニ於テ若クハ公務旅行中流行病ニ罹リ死去シタル者ノ寡婦扶助料ハ亡夫ノ俸給ニ対シ官吏恩給法第五条ニ依リ算出シタル恩給年額三分ノ二トス
扶助料年額円位未満ノ数ハ円位ニ満タシム
第五条 寡婦ナキトキ又ハ扶助料ヲ受クル寡婦死去シ若クハ権利消滅シタルトキハ其扶助料ヲ孤児ニ給ス
第六条 孤児扶助料ハ数子アルトキハ家名継襲者ニ給シ戸主ニ非サル者ノ孤児ニ在テハ長子ニ給ス其継襲者及長子死去シ若クハ権利消滅シ若クハ支給期限ノ満ツルトキハ順次年少者ニ転給スルモノトス但家名継襲者ヲ除クノ外男子ヲ先ニシ女子ヲ後ニス
第七条 恩給ヲ受ケタル者ノ寡婦ニシテ其夫退官後結婚シタル者ハ扶助料ヲ受クルコトヲ得ス
第八条 此法律ニ於テ孤児トハ年齢二十歳未満ノ男女子ニシテ未タ結婚セサル者ヲ云フ但養男女子ハ家名継襲者ニ限ル
第九条 扶助料ハ之ヲ受クヘキ事由ノ生シタル月ノ翌月ヨリ之ヲ給ス
第十条 扶助料ヲ受クヘキ寡婦及孤児ナク若クハ扶助料ヲ受ケタル寡婦及孤児戸籍ヲ去リ若クハ死去シ若クハ権利消滅シタルトキ父母又ハ祖父母アルトキハ寡婦ニ相当スル扶助料ノ全額ヲ其父母又ハ祖父母ニ終身給スルコトヲ得
其扶助料ハ先ツ父ニ給シ其父存在セサルトキ若クハ権利消滅シタルトキハ母ニ給ス母ヨリ祖父ニ祖父ヨリ祖母ニ転給スルハ順次此例ニ依ル
第十一条 扶助料ヲ受クヘキ寡婦孤児又ハ父母祖父母ナクシテ死去シタル者ノ戸籍内ニ在ル二十歳未満又ハ廃疾若クハ不具ニシテ産業ヲ営ムコト能ハサル兄弟姉妹アリテ之ヲ給養スル者ナキトキハ寡婦ニ相当スル扶助料一個年分ヨリ少カラス五個年分ヨリ多カラサル金額ヲ人員ニ拘ハラス一時限リ其兄弟姉妹ニ給スルコトヲ得
第十二条 扶助料ハ之チ受クヘキ権利ノ生シタル日ヨリ三個年内ニ請求セサレハ其権利ヲ抛棄シタルモノトス
第十三条 扶助料ハ売買譲与質入書入スルコトヲ得ス又負債ノ抵償トシテ差押フルコトヲ得ス
第十四条 扶助料ヲ受クルノ権利ハ左ノ時ヨリ消滅ス
一 寡婦死去又ハ婚嫁シ若クハ戸籍ヲ去リタル月ノ翌月
二 孤児死去又ハ婚嫁シ又ハ他家ノ養子女トナリ又ハ年齢二十歳ニ満チタル月ノ翌月
三 父母祖父母死去シ又ハ戸籍ヲ去リタル月ノ翌月
第十五条 孤児二十歳ニ満ツルモ廃疾若クハ不具ニシテ産業ヲ営ムコト能ハス他ニ給養スル者ナキトキハ寡婦扶助料ノ三分ノ一ヲ其孤児ニ各終身給スルコトヲ得但一戸籍内ニ寡婦ト同額ノ扶助料ヲ受クル者アルトキハ其間之ヲ給セス
第十六条 扶助料ヲ受クル者日本臣民タルノ分限ヲ失ヒ若クハ重罪ノ刑ニ処セラレタルトキハ扶助料ノ支給ヲ廃ス
公権ヲ停止セラレタルトキハ其間支給ヲ停止ス
扶助料ヲ受クル者公権停止中ハ其転給ヲ受クヘキ者ニ之ヲ給ス
第十七条 在官十五年未満ノ者在官中公務ノ故ニアラスシテ死去シタルトキハ其遺族ニ一時扶助金ヲ給ス
前項ノ扶助金ハ在職最終ノ俸給年額百分ノ一ヲ在官年数ニ乗シタル額トス但一年未満ノ在官月数ハ計算セス
第十八条 扶助料ノ支給ハ地方長官ノ申牒ニ依リ恩給局ノ審査ヲ経テ内閣総理大臣之ヲ裁定ス
行政上ノ処分ニ因リ扶助料ニ関スル権利ヲ障害セラレタリトスル者ハ六個月以内ニ恩給局ニ具申シテ裁決ヲ請フコトヲ得其裁決ニ服セサル者ハ一個年以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九条 明治十七年達官吏恩給令ニ依リ扶助料ヲ受ケタル者及恩給ヲ受ケタル者ノ遺族扶助料ハ総テ其恩給令ニ依ルヘシ但其権利消滅及停止ハ此法律ニ依ル
第二十条 此法律ハ明治二十三年七月一日ヨリ施行ス