第一條 文官判任以上ノ者退官シタルトキハ此法律ノ規定スル所ニ依リ恩給ヲ受クルノ權利ヲ有ス
第二條 在官滿十五年以上ノ者左ニ揭クル事項ノ一ニ當ルトキハ終身恩給ヲ給ス
二 傷痍ヲ受ケ若クハ疾病ニ罹リ其職ニ堪ヘス退官ヲ許シタルトキ
三 廢官廢廳若クハ官廳事務ノ伸縮又ハ非職滿期ニ依リ退官シタルトキ
第三條 左ニ揭クル事項ノ一ニ當ル者ハ前條ノ年限ニ滿タサルモ終身恩給ヲ給シ尙其最下金額十分ノ七マテノ增加恩給ヲ給ス
一 公務ニ因リ傷痍ヲ受ケ一肢以上ノ用ヲ失ヒ若クハ之ニ準スヘキ者ニシテ其職務ニ堪ヘス退官シタルトキ
二 公務ニ依リ健康ニ有害ナル感動ヲ受クルヲ顧ミルコト能ハスシテ勤務ニ從事シ爲メニ疾病ニ罹リ一肢以上ノ用ヲ失ヒ若クハ之ニ準スヘキ者ニシテ其職務ニ堪ヘス退官シタルトキ
第四條 滿五年以上國務大臣ノ職ニ在ル者退官シタルトキハ第二條ノ制限ニ拘ハラス恩給ヲ給ス
第五條 恩給ノ年額ハ退官現時ノ俸給ト在官年數トニ依リ之ヲ定ム卽チ在官滿十五年以上十六年未滿ニシテ退官シタル者ノ恩給年額ハ俸給年額ノ二百四十分ノ六十トシ十五年以後滿一年每ニ二百四十分ノ一ヲ加ヘ滿四十年ニ至テ止ム但在官四十年以上ノ者ニ給スヘキ恩給ハ四十年ノ額又十五年未滿ノ者ニ給スヘキ恩給ハ十五年ノ額トス
非職滿期ニ由テ退官シタル者ノ恩給ハ其在職最終ノ俸額ニ依テ之ヲ算定ス
交際官及領事貿易事務官等ノ恩給ハ其官等ニ對スル普通文官ノ俸額ニ依テ之ヲ算定ス
兼官ニ依テ受クル加俸ハ恩給年額ヲ算定スルニ當リ之ヲ除算スヘシ
第六條 恩給ヲ受ケ又ハ恩給ヲ受ケスシテ退官シタル者在官中ノ公務ニ起因スル傷痍疾病引續キ重症ニ趨キタルトキ其事由ヲ詳悉シ左ノ期限內ニ申出レハ査覈ノ上相當ノ恩給ヲ給ス
一 一肢ノ用ヲ失ヒ若クハ之ニ準スヘキ者ハ退官後二個年
二 一肢ヲ亡シ或ハ二肢ノ用ヲ失ヒ又ハ兩眼ヲ盲シ若クハ二肢ヲ亡シ若クハ之ニ準スヘキ者ハ退官後三個年
第七條 在官年數ハ判任官以上初任ノ月ヨリ起算シ退官ノ月ヲ以テ終リトス
明治四年八月以前ヨリ任官セラレタル者ハ同年同月ヨリ起算ス但本項ニ揭クル者退官スルトキハ明治四年七月以前ノ勤務ニ對シテハ同年同月ノ現官等ニ相當スル月俸ノ半額ヲ以テ在官年數ノ一個年ニ當テ其年數ニ應スル金額ヲ一時支給ス
第八條 左ニ揭クル月數及日數ハ在官年數中ニ算入スヘシ
二 武官ヨリ文官ニ轉シタル者又ハ軍人恩給ヲ受ケスシテ現役ヲ退キタル後文官ニ任シタル者ハ其現役中ノ日數
六 宮內官ヨリ文官ニ轉シタル者又ハ恩給ヲ受ケスシテ宮內官ヲ退キタル後文官ニ任シタル者ハ宮內判任官以上在官中ノ月數
第九條 左ニ揭クル月數及日數ハ在官年數中ヨリ除算スヘシ
三 郡區書記ヲ除クノ外政府ヨリ俸給ヲ受ケサル官職ニ在ル月數及商業ヲ營ムコトヲ得ヘキ官職ニ在ル月數
五 第八條第二ニ揭クル者ニ在テハ軍人恩給法ニ依リ除算スヘキ日數
六 自己ノ便宜ニ依リ退官シタル後又ハ懲戒處分若クハ刑事裁判ニ依リ免官シタル後再ヒ任官シタル者ニ在テハ其前官ノ月數
第十條 文官ニシテ從軍シタル者ハ軍人恩給法ノ算則ニ照シテ其從軍年ヲ加算ス
第十一條 恩給ヲ受クル者再ヒ官ニ就キ滿一年以上在官シタル後退官シタルトキハ左ノ區別ニ依リ恩給ヲ給ス
一 退官現時ノ俸給前後相同シカラサルトキハ前官年數ヲ後官ノ年數ニ通算シ後官ニ對スル恩給額ト前ノ恩給額トヲ比較シ其多キ方ヲ給ス
二 退官現時ノ俸給前後相同シキトキハ在官年數ニ依リ恩給ヲ增加ス但前官十五年未滿ニシテ恩給ヲ受ケタル者ニ在テハ前後通算シテ十六年以上ニ至ラサレハ增加セス
第十二條 恩給ヲ受クル者重罪ノ刑ニ處セラレ若クハ日本臣民タルノ分限ヲ失ヒタルトキハ恩給ヲ剝奪ス
左ニ揭クル事項ノ一ニ當ルトキハ其間恩給ヲ停止ス
一 判任以上ノ官ニ任シ政府ヨリ俸給ヲ受クルトキ但商業ヲ營ムコトヲ得ヘキ官職ニ在ルトキハ此限ニアラス
第十三條 年齡未タ六十歲ニ至ラスシテ自己ノ便宜ニ依リ退官シタル者又ハ懲戒處分若タハ刑事裁判ニ依リ免官シタル者ハ恩給ヲ受クルノ資格ヲ失フ
法律ヲ以テ設立シタル議會ノ議員ト爲リタルノ故ヲ以テ退官シタル者ハ恩給ヲ受クルノ資格ヲ失ハス
第十四條 政府ヨリ俸給ヲ受ケサル官吏及商業ヲ營ムコトヲ得ヘキ官吏竝ニ高等官試補判任官見習ハ恩給ヲ受クルノ權ナキモノトス但郡區書記ハ此限ニアラス
商業ヲ營ムコトヲ得ヘキ官吏竝ニ高等官試補判任官見習ニシテ公務ノ爲メ傷痍ヲ受ケ若クハ疾病ニ罹リ此法律第三條ニ該當スル者ニ限リ退官又ハ罷免現時ノ俸給四分ノ一ヲ終身支給スルコトヲ得
第十五條 恩給支給ノ期ハ退官ノ翌月ヨリ始マリ死亡ノ月ヲ以テ終ルモノトス
第十六條 恩給ハ之ヲ受クヘキ事由ノ生シタル後三個年內ニ請求セサレハ其權利ヲ抛棄シタルモノトス
第十七條 恩給ノ支給ハ本屬長官ノ證明ニ依リ恩給局ノ審査ヲ經テ內閣總理大臣之ヲ裁定ス
行政上ノ處分ニ因リ恩給ニ關スル權利ヲ障害セラレタリトスル者ハ六個月以內ニ恩給局ニ具申シテ裁決ヲ請フコトヲ得其裁決ニ服セサル者ハ一個年以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得但左ノ事件ニ關シテハ恩給局ノ裁決ハ終審確定ノモノトス
第十八條 恩給ハ賣買讓與質入書入スルコトヲ得ス又負債ノ抵償トシテ差押フルコトヲ得ス
第十九條 明治十七年達官吏恩給令ニ依リ恩給ヲ受ケタル者ハ總テ其恩給令ニ依ルヘシ但其權利消滅及停止ハ此法律ニ依ル
第二十條 此法律施行前ニ退官シタル者ノ恩給ハ明治十七年達官吏恩給令ニ依ルヘシ但此法律施行ノ日ヨリ三個年內ニ請求セサレハ之ヲ受クヘキ權利ヲ抛棄シタルモノトス
第二十一條 此法律ハ明治二十三年七月一日ヨリ施行ス