民法(財産取得編)
法令番号: 法律第二十八號
公布年月日: 明治23年4月21日
法令の形式: 法律
朕民法中財產編財產取得編債權擔保編證據編ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
內閣總理大臣兼內務大臣 伯爵 山縣有朋
海軍大臣 伯爵 西鄕從道
司法大臣 伯爵 山田顯義
大藏大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巖
文部大臣 子爵 榎本武揚
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
外務大臣 子爵 靑木周藏
農商務大臣 岩村通俊
法律第二十八號
民法財產取得編目錄
總則
第一章
先占
第二章
添附
第一節
不動產上ノ添附
第二節
動產上ノ添附
第三章
賣買
第一節
賣買ノ通則
第一款
賣買ノ性質及ヒ成立
第二款
賣渡又ハ買受ノ無能力
第三款
賣渡スコトヲ得サル物
第二節
賣買契約ノ效力
第一款
所有權ノ移轉及ヒ危險
第二款
賣主ノ義務
第一則
引渡ノ義務
第二則
追奪擔保ノ義務
第三款
買主ノ義務
第三節
賣買ノ解除及ヒ銷除
第一款
義務ノ不履行ニ因ル解除
第二款
受戾權能ノ行使
第三款
隱レタル瑕疵ニ因ル賣買廢却訴權
第四節
不分物ノ競賣
第四章
交換
第五章
和解
第六章
會社
第一節
會社ノ性質及ヒ設立
第二節
社員ノ權利及ヒ義務
第三節
會社ノ解散
第四節
會社ノ淸算及ヒ分割
第七章
射倖契約
第一節
博戲及ヒ賭事
第二節
終身年金權
第一款
終身年金權ノ設定
第二款
終身年金權ノ契約ノ效力
第三款
終身年金權ノ消滅
第八章
消費貸借及ヒ無期年金權
第一節
消費貸借
第二節
無期年金權ノ契約
第九章
使用貸借
第一節
使用貸借ノ性質
第二節
使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務
第十章
寄託及ヒ保管
第一節
寄託
第一款
任意寄託
第二款
急迫寄託及ヒ旅店寄託
第二節
保管
第十一章
代理
第一節
代理ノ性質
第二節
代理人ノ義務
第三節
委任者ノ義務
第四節
代理ノ終了
第十二章
雇傭及仕事請負ノ契約
第一節
雇傭契約
第二節
習業契約
第三節
仕事請負契約
民法
財產取得編
總則
第一條 物上及ヒ對人ノ權利ハ財產編ニ規定シタル原因ニ由ル外尙ホ本編ノ規定ニ從ヒ之ヲ取得スルコトヲ得
第一章 先占
第二條 先占ハ無主ノ動產物ヲ己レノ所有ト爲ス意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ爲スニ因リテ其所有權ヲ取得スル方法ナリ
第三條 狩獵、捕漁ノ權利ノ行使及ヒ漂流物、遺失物ノ取得ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
戰時ニ於ケル海陸ノ掠奪物ニ付テモ亦同シ
第四條 遺棄物ヲ先占シタリト主張スル者ハ原所有者ノ任意ノ遺棄ヲ證スル責ニ任ス
第五條 他人ニ屬スル物ノ中ニ於テ偶然ニ發見シタル埋藏物ハ所有者ノ知レサルトキハ其一半ヲ發見者ニ付與ス
埋藏物カ埋レ又ハ隱レタル所ノ物ノ所有者ノ權利ハ次章ノ規定ニ從フ
第六條 埋藏物ノ原所有者ハ發見後三个年間ニ非サレハ前條ノ付與ニ反シテ自己ノ權利ヲ主張スルコトヲ得ス
此期間ハ原所有者カ埋藏物ノ埋レ又ハ隱レタル所ノ物ノ所有者タルニ於テハ其發見ヲ知リタル後一个年間ニ之ヲ短縮ス
然レトモ埋藏物ノ占有者カ惡意ナルトキハ通常ノ時效ヲ適用ス
第二章 添附
第七條 動產ト不動產トヲ問ハス或ル物ノ所有者ハ其物ニ附從トシテ合シタル物ヲ下ノ區別ニ從ヒテ取得ス
第一節 不動產上ノ添附
第八條 建築其他ノ工作及ヒ植物ハ總テ其附著セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
右建築其他ノ工作物ノ所有權ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ屬ス但權原又ハ時效ニ因リテ第三者ノ得タル權利ヲ妨ケス
植物ニ關スル場合ハ第十條ノ規定ニ從フ
第九條 土地又ハ建物ノ所有者カ他人ニ屬スル材料ヲ以テ建築其他ノ工作ヲ爲シタルトキハ其工作物ヲ毀壞シテ材料ヲ返還スル强要ヲ受ケス又材料ノ本主ニ其取去ヲ强要スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ所有者ハ財產編第三百八十五條ノ規定ニ從ヒテ材料ノ本主ニ償金ヲ拂フノ責ニ任ス
第十條 他人ニ屬スル草木ノ栽植ニ付テハ其栽植ヲ爲シタル土地ノ所有者又ハ占有者ハ一个年內ニ其草木ヲ拔取リ且之ヲ返還スル强要ヲ受ク尙ホ損害アルトキハ之ヲ賠償ス
右草木ノ所有者カ其返還ヲ欲セス又ハ栽植ノ時ヨリ一个年ヲ經過シタルトキハ其所有者ハ償金ヲ受ク
第十一條 他人ノ土地又ハ建物ノ善意ノ占有者ニシテ其土地又ハ建物ニ自己ノ材料又ハ草木ヲ以テ築造又ハ栽植ヲ爲シタル者ハ所有者ヨリ不動產囘復ノ請求ヲ受クルニ當リ其工作物又ハ草木ヲ取拂フ責ニ任セス所有者ハ其選擇ヲ以テ占有者ニ材料及ヒ手間賃ヲ拂ヒ又ハ不動產ノ增價額ヲ拂フ
築造又ハ栽植ヲ爲シタル者カ惡意ノ占有者タリシトキハ所有者ハ工作物及ヒ草木ヲ除去シテ場所ヲ舊狀ニ復セシメ且損害アルトキハ之ヲ賠償セシムルコトヲ得又所有者ハ前項ノ規定ニ從ヒ占有者ニ償金ヲ拂ヒテ右ノ工作物及ヒ草木ヲ保存スルコトヲ得
第十二條 舟筏ノ通ス可キト否トヲ問ハス河川ノ寄洲、中洲、干潟ノ所有權又ハ水路ノ變換ニ因リ生スル浸沒地及ヒ舊川床ノ所有權ノ歸屬ハ別ニ之ヲ定ム但海ノ干潟ニ付テハ財產編第二十三條ノ規定ニ從フ
第十三條 私有池ノ魚又ハ鳩舍ノ鳩カ計策ヲ以テ誘引セラレ又ハ停留セラレタルニ非スシテ他ノ池又ハ鳩舍ニ移リタルトキ其所有者カ自己ノ所有ヲ證シテ一週日間ニ之ヲ要求セサレハ其魚又ハ鳩ハ現在ノ土地ノ所有者ニ屬ス
群ヲ爲シテ他ニ移轉シタル蜜蜂ニ付テハ一週日間之ヲ追求スルコトヲ得
飼馴サレタルモ逃ケ易キ野栖ノ禽獸ニ付テハ善意ニテ之ヲ停留シタル者ニ對シ一个月間其囘復ヲ爲スコトヲ得
第二節 動產上ノ添附
第十四條 各別ノ所有者ニ屬スル數箇ノ動產物カ所有者ノ意ニ非スシテ第三者ニ因リテ附合セラレ其各物共ニ著シキ毀損又ハ減價ヲ受ケスシテ容易ニ分タル可キトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スルコトヲ得但損害アルトキハ附合ヲ爲シタル者之ヲ賠償ス
附合ノ爲メニセル物ノ變樣ハ之ヲ毀損ト看做ス
第十五條 二箇ノ物カ分ツ可カラサルカ又ハ之ヲ分ツカ爲メ著シキ毀損、減價ヲ爲シ若クハ過分ノ費用、時日ヲ要スルトキハ孰レノ所有者モ分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ其物ハ附合ノ儘ニテ主タル物ノ所有者ニ歸屬ス但此所有者ハ從タル物ノ所有者ニ損害ヲ加ヘテ己レヲ利シタル限度ニ應シ賠償ヲ負擔ス
或ル物ノ便益、糚飾又ハ補完ノ爲メニ附合セラレタル物ハ之ヲ從タル物ト看做ス主從ノ區別ニ付キ疑アルトキハ價格ノ低キ物ヲ以テ從タル物トス
此他ノ場合ニ於ケル物ノ主從ノ區別ハ之ヲ裁判所ノ査定ニ委ス
第十六條 附合カ主タル物ノ所有者ノ過失又ハ詐欺ニ因リテ成リ前條ノ規定ニ從ヒテ其分離ヲ爲ス可カラサルトキハ從タル物ノ所有者ノ受ク可キ賠償ハ財產編第三百七十條及ヒ第三百八十五條ニ依リテ其額ヲ定ム
從タル物ノ所有者カ附合ヲ爲シタルトキハ主タル物ノ所有者ノ利益ノ限度ニ應シテノミ其損失ノ賠償ヲ受ク
第十七條 不都合ナシニハ物ヲ分離スルコトヲ得サル右同一ノ場合ニ於テ其性質、品質又ハ價格ニ因ルモ主從ノ區別ヲ爲シ難キトキハ其物ハ平等ノ權利ニテ各所有者之ヲ共有ス但過失又ハ惡意アル者ヨリ賠償ヲ受クルコトヲ妨ケス
第十八條 前數條ノ規定ハ各別ノ所有者ニ屬スル流動物、固形物又ハ金屬ノ混和ニモ亦之ヲ適用ス
然レトモ分離スルコトヲ得サル物カ其性質及ヒ品質ノ同シキニ因リテ共有ト爲ル可キトキハ各自ノ權利ハ己レヨリ出テタル物ノ數量ノ割合ニ應ス
第十九條 附合又ハ混和カ所有者ノ一人ノ所爲ヨリ生スル場合ニ於テハ他ノ所有者ハ專屬ノ所有權ヲモ共有權ヲモ承諾スル責ニ任セス添附ヲ爲シタル者ニ對シテ同品質ノ物又ハ其代價ヲ要求スルコトヲ得
第二十條 或人カ他人ノ物料ヲ以テ新ナル用方ノ物ヲ作リタルトキハ物料ノ所有者ハ手間賃ヲ拂フテ其物ノ所有權ヲ要求スルコトヲ得
然レトモ手間賃カ著シク物料ノ價額ヲ超ユルトキハ新ナル物ノ所有權ハ製作者ニ屬ス但製作者ハ物料ノ所有者ニ賠償スルコトヲ要ス
製作者カ物料ノ幾分ヲ供シタルトキハ其物料ノ價額ハ優先權ヲ定ムル爲メ之ヲ手間賃ニ合算ス
所有者ノ承諾ナクシテ物料ヲ用井タルトキハ其所有者ハ常ニ自己ノ優先權ヲ抛棄シテ同品質、同數量ノ物又ハ其代價ヲ要求スルコトヲ得
第二十一條 附合、混和又ハ製作カ所有者ノ明示又ハ默示ノ承諾ヲ以テ成ルトキハ所有權ハ合意ニ從ヒテ之ヲ定ム若シ疑アルニ於テハ分離カ容易ナリト雖モ其分離ヲ要求スルコトヲ得ス且優先權及ヒ共有權ニ關スル前數條ノ規定ヲ適用ス
第二十二條 前數條ニ定メサル動產物添附ノ場合ニ於テハ裁判所ハ前數條ノ規定ノ援引ス可キハ之ヲ援引シ且條理ニ基キテ所有權及ヒ賠償ノ論㸃ヲ審定ス
第二十三條 第五條ニ從ヒテ發見者ニ屬セサル埋藏物ノ部分ハ添附ニ因リテ其埋藏物ノ埋レ又ハ隱レタル所ノ動產又ハ不動產ノ所有者ニ屬ス
右動產又ハ不動產ノ所有者自身ニテ意外ニ發見シタル埋藏物ハ一半ハ先占ニ因リ一半ハ添附ニ因リテ全部其所有者ニ屬ス
所有者ノ所爲又ハ其指圖ヲ受ケ若クハ受ケサル第三者ノ所爲ニテ特ニ搜索ヲ爲スニ因リテ發見シタル埋藏物ハ添附ヲ以テ全部所有者ニ屬ス
原所有者ノ回復ニ對シ埋藏物ノ發見者ノ爲メ第六條ヲ以テ定メタル時效ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
第三章 賣買
第一節 賣買ノ通則
第一款 賣買ノ性質及ヒ成立
第二十四條 賣買ハ當事者ノ一方カ物ノ所有權又ハ其支分權ヲ移轉シ又ハ移轉スル義務ヲ負擔シ他ノ一方又ハ第三者カ其定マリタル代金ノ辨濟ヲ負擔スル契約ナリ
賣買契約ハ下ノ規定ニ從フ外有償且雙務ナル契約ノ一般ノ規則ニ從フ
第二十五條 賣買ハ當事者ノ承諾ノミヲ以テ完全ニ成立ス
然レトモ當事者ハ賣買ノ成立ヲ各自ノ證據ニ供スル公正證書又ハ私署證書ノ調製ノ條件ニ繫ラシムルコトヲ得
第二十六條 賣渡又ハ買受ノ一方ノミノ豫約アルトキハ要約者カ財產編第三百八條ノ條件及ヒ區別ニ從ヒテ契約ノ取結ヲ要求スル時ヨリ諾約者ハ其豫約ニ於テ定メタル代價及ヒ條件ヲ以テ契約ヲ取結フ義務ヲ負擔ス
第二十七條 諾約者カ契約ヲ取結フコトヲ拒ムトキハ裁判所ハ賣買カ成立シタリトノ判決ヲ爲ス不動產權ノ賣買ニ關スルトキハ其判決ヲ登記ス
賣渡ノ豫約ヲ登記シタルトキハ右判決ハ登記ニ之ヲ附記ス其登記ハ賣主ノ承繼人ニ對シ既往ニ遡リテ效力ヲ生ス
第二十八條 賣渡及ヒ買受ノ相互ノ豫約アルトキハ當事者ノ一方ハ前條ニ從ヒ他ノ一方ニ對シテ契約ノ取結ヲ强要スルコトヲ得
裁判所ハ此場合ニ於テ當事者ノ意思ヲ解釋シ賣買ノ豫約カ即時ノ賣買ノ效ヲ有スルモノト判決シ又期間ノ定アルトキハ其期間ハ履行ノミニ適用セラルルモノト判決スルコトヲ得
第二十九條 前四條ニ從ヒ當事者ノ雙方又ハ一方カ日後賣渡及ヒ買受ノ契約ヲ取結フ義務又ハ單ニ證書ヲ作ル義務ヲ負擔シタル場合ニ於テ豫約ノ擔保トシテ手附ヲ授受シタルトキハ契約ヲ取結フコト又ハ證書ヲ作ルコトヲ拒ム一方ハ其與ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受ケタル手附ヲ二倍ニシテ還償ス
第三十條 卽時ノ賣買ニ於テハ手附ハ之ヲ與ヘタル者ノ利益ノ爲メニノミ解約ノ方法ト爲ル但買主ノ與ヘタル手附カ金錢ナルトキハ其地ノ慣習ニテ之ニ解約ノ性質ヲ付スル場合ノ外合意ニテ此性質ヲ明示スルコトヲ要ス
契約ノ全部又ハ一分ノ履行アリタルトキハ如何ナル場合ニ於テモ解約ヲ爲スコトヲ得ス
第三十一條 試驗ニテ爲ス賣買ハ事情ニ隨ヒ買主ノ適意ノ停止條件又ハ拒絕ノ解除條件ヲ帶ヒテ之ヲ爲シタルモノト看做スコトヲ得
試味ノ慣習アル日用品ノ賣買ハ適意ノ停止條件ヲ帶ヒテ之ヲ爲シタルモノト推定ス
第三十二條 前條ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ買主カ己レニ屬スル權能ノ行使ニ付キ期限ヲ定メサルトキハ短キ期間ニ於テ決答ス可キ催吿ヲ受ク若シ其決答ヲ爲サスシテ賣渡物ノ引渡ヲ受ケタルトキハ買主ハ承諾シタリトノ推定ヲ受ケ反對ノ場合ニ於テハ拒絕シタリトノ推定ヲ受ク
第三十三條 賣買ノ代價ハ全額ヲ以テセサルモ其目安ヲ契約ニ定ムルコトヲ要ス
又其代價ハ或ハ同種類ノ商品ノ現時又ハ近日ノ市價ニ委子或ハ契約ヲ以テ指定シタル第三者ノ評價ニ委ヌルコトヲ得
右評價カ錯誤ニ出テタルカ又ハ明カニ公平ニ反スルトキハ其評價ニ異議ヲ爲スコトヲ得但其異議ハ損失ヲ受ケタリト主張スル一方カ評價ヲ知リタル時直チニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第三者ト當事者ノ一方トノ間ニ共謀ノ詐欺アルトキハ財產編第三百十二條及ヒ第五百四十四條ノ規定ヲ適用ス
當事者ハ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金權ヲ以テ代價ヲ定ムルコトヲ得然レトモ第三者ハ元本ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ定ムルコトヲ得ス但當事者カ明示ニテ一層廣キ權限ヲ第三者ニ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第三十四條 賣買契約ノ費用ハ當事者雙方平分シテ之ヲ負擔ス但雙方カ別段ノ定ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
第二款 賣渡又ハ買受ノ無能力
第三十五條 配偶者ノ間ニ於テハ動產ト不動產トヲ問ハス賣買ノ契約ヲ禁ス
配偶者ノ一方カ他ノ一方ニ對シテ負擔スル眞實且正當ナル債務ヲ消滅セシムルニハ相互ニ代物辨濟ヲ爲スコトヲ得
右代物辨濟ハ相當ノ疏明ヲ爲セル後裁判所ノ認許ヲ得タルニ非サレハ配偶者ノ間ニ於テ有效且完全ナラス
又此代物辨濟カ不動產物權ヲ目的トスルトキハ其代物辨濟ハ登記中ニ右認許ヲ附記シタルニ非サレハ第三者ニ對シテ效力ヲ有セス
第三十六條 前條ニ基キタル銷除ノ訴權ハ賣渡又ハ認許ナキ代物辨濟ヲ爲シタル配偶者、其相續人又ハ承繼人ノミニ屬ス但其訴權ハ財產編第五百四十四條以下ノ一般ノ規則ニ從フ
第三十七條 法律上、裁判上若クハ合意上ノ管理人ハ直接ニ自己ノ名ヲ以テスルモ間介人ニ依ルモ賣渡ノ任ヲ受ケタル財產ニ付キ協議上又ハ競賣上ノ取得者ト爲ルコトヲ得ス
此制禁ハ競賣ヲ處理シ又ハ指揮スルコトヲ法律ニ依リテ任セラレタル公吏ニ之ヲ適用ス
第三十八條 前條ノ規定ニ背キタル賣買ノ銷除訴權ハ原所有者、其相續人及ヒ承繼人ノミニ屬ス
第三十九條 判事、檢事及ヒ裁判所書記ハ爭ニ係ル物權又ハ人權ニシテ其職務ヲ行フ裁判所ノ管轄ニ屬ス可キモノノ取得者ト爲ルコトヲ得ス
此制禁ハ右同一ノ條件ヲ以テ辯護士及ヒ公證人ニ之ヲ適用ス
第四十條 前條ヨリ生スル銷除訴權ハ讓渡人、權利ヲ爭フ相手方、其雙方ノ相續人及ヒ承繼人ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
又權利ヲ爭フ相手方、其相續人又ハ承繼人ハ讓受人ニ讓渡ノ現價ト辨濟ノ日ヨリノ利息トヲ辨償シテ其權利ノ受戾ヲ爲スコトヲ得
右ノ規定ハ違背者ニ對スル懲戒ノ罰ヲ妨ケス
第三款 賣渡スコトヲ得サル物
第四十一條 賣買カ性質ニ因リテ一般ニ融通スルコトヲ得サル物又ハ特別法ヲ以テ各人ニ處分ヲ禁シタル物ヲ目的トスルトキハ其賣買ハ無效ナリ
此賣買ノ無效ハ抗辯ニ依ルモ訴ニ依ルモ當事者各自ニ之ヲ援用スルコトヲ得
當事者ノ一方カ詐欺ヲ以テ賣買ノ制禁ナルコトヲ隱祕シタルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
第四十二條 他人ノ物ノ賣買ハ當事者雙方ニ於テ無效ナリ
然レトモ賣主ハ賣買ノ際其物ノ他人ニ屬スルコトヲ知ラサルニ非サレハ其無效ヲ援用スルコトヲ得ス
第四十三條 賣買契約ノ當時ニ於テ物カ既ニ全部滅失シタルトキハ其賣買ハ無效ナリ但賣主カ此滅失ヲ知リタルトキ又ハ賣主ニ之ヲ知ラサル過失アルトキハ善意ノ買主ニ對スル損害賠償ヲ妨ケス
物ノ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ其選擇ヲ以テ或ハ殘餘ノ部分カ用方ニ不十分ナルコトヲ證シテ賣買ヲ解除シ或ハ割合ヲ以テ代價ヲ減少シテ賣買ヲ保持スルコトヲ得但此二箇ノ場合ニ於テ賣主ニ過失アルトキハ其損害賠償ヲ妨ケス
賣買解除ノ請求ハ買主カ一分ノ滅失ヲ知リタル時ヨリ六个月ヲ過キ又代價減少ノ請求ハ此時ヨリ二个年ヲ過クレハ之ヲ受理セス
第二節 賣買契約ノ效力
第一款 所有權ノ移轉及ヒ危險
第四十四條 賣買契約ハ賣渡物ノ所有權ノ移轉及ヒ其物ノ危險ニ付テハ財產編第三百三十一條、第三百三十二條、第三百三十五條及ヒ第四百十九條ニ定メタル如キ普通法ノ規則ニ從フ
第四十五條 賣買ノ目的カ不動產ナルトキハ其契約ヲ以テ賣主ノ特定且善意ノ承繼人ニ對抗スルニハ財產編第三百四十八條以下ノ規定ニ從ヒテ登記ヲ爲スコトヲ要ス
財產編第三百四十六條及ヒ第三百四十七條ハ右同一ノ目的ヲ以テ有體動產及ヒ債權ノ賣買ニ之ヲ適用ス
第二款 賣主ノ義務
第四十六條 賣主ハ定量物ノ所有權ヲ移轉スル義務ノ外尙ホ賣渡物ヲ引渡ス義務、引渡ニ至ルマテ其物ヲ保存スル義務及ヒ妨碍、追奪ニ對シテ買主ヲ擔保スル義務ニ任ス
第一則 引渡ノ義務
第四十七條 賣主ハ賣渡物ヲ其合意シタル時期及ヒ場所ニ於テ現存ノ形狀ニテ引渡ス責ニ任ス但其保存ニ付キ懈怠アルトキハ買主ニ對シテ賠償ヲ負擔ス
引渡ノ時期及ヒ場所ニ付キ合意ヲ爲ササリシトキハ財產編第三百三十三條第六項及ヒ第七項ノ規定ニ從フ
然レトモ買主カ代金辨濟ニ付キ合意上ノ期間ヲ得サリシトキハ賣主ハ其辨濟ヲ受クルマテ賣渡物ヲ留置スルコトヲ得
賣主ハ代金辨濟ノ爲メ期間ヲ許與シタルトキト雖モ買主カ賣買後ニ破產シ若クハ無資力ト爲リ又ハ賣買前ニ係ル無資力ヲ隱祕シタルトキハ尙ホ引渡ヲ遲延スルコトヲ得
第四十八條 賣主ハ契約ニ定メタル數量ヲ過不足ナク引渡スコトヲ要ス
然レトモ下ノ數條ニ定メタル場合及ヒ區別ニ從ヒテ賣主又ハ買主ハ約シタル數量ヨリ多ク讓渡シ又ハ取得スル責ニ任ス
第四十九條 賣渡物カ特定不動產ニシテ契約ニ其全面積ヲ明言シ且各坪ノ代價ヲ指示シタル場合ニ於テ現實ノ面積カ指示ノ面積ニ不足アルトキハ賣主ハ面積ヲ擔保セサル旨ヲ明言シタルトキト雖トモ割合ヲ以テ代價減少ノ要求ニ服ス
現實ノ面積カ指示ノ面積ニ超過アルトキハ買主ハ割合ヲ以テ代價補足ノ要求ニ服ス
第五十條 全面積ヲ明言シ唯一ノ代價ヲ以テ不動產ヲ賣渡シ其面積ノ不足ノ場合ニ於テ賣主ハ惡意ナルトキ又ハ善意ナルモ面積ヲ擔保シタルトキ又ハ不足ノ坪數カ少ナクトモ二十分一ナルトキニ非サレハ代價減少ノ要求ニ服セス
面積ヲ擔保セス又ハ面積ハ槪算ナリトノ附記ハ惡意ナル賣主ノ責任ヲ減セス
超過ノ場合ニ於テハ買主ハ其超過カ二十分一ニ及ヘルトキニ非サレハ代價補足ノ要求ニ服セス
第五十一條 建物ノ存スルト否トヲ問ハス數箇ノ土地ヲ一箇ノ契約ヲ以テ其各箇ノ面積ヲ指示シ唯一ノ代價ニテ賣渡シタル場合ニ於テ其面積カ一箇ノ土地ニ超過アリ一箇ノ土地ニ不足アルトキハ其坪ノ箇數ニ從ハス價額ニ從ヒテ相殺ス
此相殺ノ後猶ホ原價二十分一ノ過不足アルトキハ割合ヲ以テ代價ヲ增加シ又ハ之ヲ減少ス
此規定ハ一箇ノ土地內ニ於テ別異ノ性質アル各部分ノ面積ヲ指示シタル場合ニモ之ヲ適用ス
第五十二條 買主ハ面積不足ノ爲メ代價減少ニ付キ權利ヲ有スル場合ニ於テ尙ホ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得又買主ハ約シタル面積カ其用方ニ必要ナルコトヲ證シテ契約ノ解除ヲモ請求スルコトヲ得但面積ヲ擔保セサル旨ヲ明言シタル賣買ハ此限ニ在ラス
超過ノ場合ニ於テ買主ハ二十分一以上ノ代價補足ヲ辨償スルコトヲ要スルトキハ單純ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
第五十三條 上ノ規則ハ目方、員數及ヒ尺度ヲ以テ指示シタル數量カ買主ニ於テ容易且卽時ニ調査スルコトヲ得サル日用品及ヒ動產物ノ賣買ニ之ヲ適用ス
第五十四條 前數條ヨリ生スル代價改正、損害賠償又ハ契約解除ノ訴權ハ不動產ニ付テハ一个年動產ニ付テハ一个月ノ期間ニ之ヲ行フコトヲ要ス
右期間ノ經過ハ賣主ニ在テハ契約ノ日ヨリ買主ニ在テハ引渡ノ日ヨリ始マル
第五十五條 動產又ハ不動產ノ賣買ニ於テ錯誤カ其物ノ品質ニ存スルトキハ財產編第三百十條ノ規定ヲ適用ス
第二則 追奪擔保ノ義務
第五十六條 他人ノ物ヲ賣買シタル場合ニ於テ擔保ノ事ニ付キ何等ノ特別ナル合意モ有ラサリシトキハ買主ハ未タ追奪ノ恐アルニ至ラサルトキト雖トモ賣買無效ノ判決ヲ求ムルコトヲ得又買主カ契約ノ當時其物ノ賣主ニ屬セサルコトヲ知リ賣主カ之ヲ知ラサリシトキト雖モ亦同シ
第五十七條 買主カ惡意ナリシトキハ賣買ノ無效及ヒ追奪擔保ノ效果ハ買主ニ其猶ホ負擔スル代金辨濟ノ義務ヲ免カレシメ又ハ其既ニ辨濟シタル代金ヲ取戾スコトヲ許スニ在ルノミ
買主ハ買受物ノ價格カ減少シタルトキト雖モ右取戾ニ於テ代金ノ減少ヲ受クルコト無シ但價格ノ減少カ自己ノ詐欺ニ出テ又ハ自己ノ利益ト爲リタルトキハ此限ニ在ラス
如何ナル場合ニ於テモ買主カ其辨濟シタル代金ヲ取戾シタルトキハ物ノ占有ヲ賣主ニ返還スルコトヲ要ス
第五十八條 買主ハ契約ノ當時善意ナリシトキハ右ノ外尙ホ左ノ諸件ノ辨償ヲ受ク
第一 買主ノ支拂ヒタル契約費用ノ部分
第二 買受物ニ付キ買主カ支拂ヒタル費用ニシテ所有者ヨリ其辨償ヲ受クルコトヲ得サルモノ
第三 買受物ニ生シタル增價額但意外ノ事ニ因ルモ亦同シ
第四 所有者ノ請求後ニ收取シ之ニ返還スルコトヲ要スル果實
然レトモ買主ハ果實ニ換ヘテ之ニ對當スル時期間ノ賣買代金ノ法律上ノ利息ヲ受クルコトヲ欲スルトキハ之ヲ請求スルコトヲ得
又善意ナル買主ハ此他所有者ノ囘復ノ訴ニ對スル答辯ノ費用及ヒ擔保請求ノ費用等總テノ損害賠償ヲ普通法ニ從ヒテ請求スルコトヲ得
第五十九條 賣主ハ契約ノ當時善意ナリシトキハ財產編第三百八十五條ニ從ヒテ正當ニ豫見スルコトヲ得ヘカリシ限度ニ非サレハ前條ノ第二號第三號及ヒ末項ニ定メタル賠償ヲ負擔セス
第六十條 善意ナル賣主ハ契約後ニ賣渡物ノ他人ニ屬スルコトヲ覺知シタルトキハ買主ヨリ代金ヲ提供スト雖モ其物ノ引渡ノ請求ヲ受クルニ當リ賣買ノ無效ヲ申立テ且抗辯ノ方法ニ依リテ擔保ノ定方ノ判決ヲ求ムルコトヲ得但買主カ追奪ノ場合ニ於ケル求償權ヲ抛棄スル旨ヲ明白ニ陳述シタルトキハ此限ニ在ラス
第六十一條 右覺知カ引渡後ニ在リタルトキハ賣主ハ買主カ即時ニ擔保訴權ヲ行フヤ又ハ己レト立會ヒ第五十八條ニ從ヒテ現時負擔ノ賠償額ヲ評定スルヤニ付キ買主ヲ遲滯ニ付スルコトヲ得
此末ノ場合ニ於テ賣主ハ其受取リタル代金ト共ニ右評價ノ金額ヲ提供シテ供託シタルトキハ縱令擔保ノ請求アルモ此他ノ責任ヲ負擔セス
供託シタル金額ヲ引取ルノ權利ヲ財產編第四百七十八條ニ從ヒテ行使シタル賣主ハ再ヒ本條ノ許與セル權能ヲ援用スルコトヲ得ス
第六十二條 他人ノ物ノ賣主ハ日後其物ノ所有者ト爲リタルトキハ買主ヲシテ賣買ヲ認諾スルヤ擔保訴權ヲ行フヤノ一ヲ擇マシムルコトヲ何時ニテモ催吿スルコトヲ得
右同一ノ權利ハ他人ノ物ノ賣主ノ相續人ト爲リタル眞所有者ニ屬ス
第六十三條 買受物ノ分割ノ部分カ完全所有權又ハ虛有權ニテ第三者ニ屬スル場合ニ於テ買主カ此部分ヲ取得スルヲ得サルコトヲ知レハ初ヨリ其物ヲ買ハサル可キ程ニ其性質又ハ廣狹ニ因リテ有益ナルコトヲ證スルトキハ全部追奪ノ爲メ定メタル如ク損害ノ賠償ヲ得テ契約ヲ解除スルコトヲ得
買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ其受ケタル直接且現時ノ損失ノ限度ニ於テ賠償ヲ要求スルコトヲ得
第六十四條 買受物ノ不分ノ部分カ第三者ニ屬スルトキハ其部分ノ重要ノ如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ解除スル權利ヲ有ス
買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ買受物ノ價格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ此ニ對當スル買受代金ト契約費用トノ部分ヲ取戾シ又其價格ノ增加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク
第六十五條 或ハ賣渡シタル土地ニ屬スルモノトシテ契約ニ於テ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ契約ニ於テ述ヘサル人爲ヲ以テ設定シタル受方地役ニ關シ又ハ財產ノ一分ニ存スル用益權、賃借權ニ關シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第六十三條ノ規定ヲ適用ス財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ニシテ其經過ス可キ殘餘時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超エサルモノニ關シテモ亦同シ
賣買ノ財產ノ全部ニ存スル用益權又ハ賃借權ノ繼續時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ユ可キトキハ買主ハ尙ホ自己ニ殘存セル權利ノ不十分ナルヲ證スルコトヲ要セスシテ前條ニ從ヒ賣買ヲ解除スルコトヲ得
第六十六條 契約ニ於テ述ヘタルト否トヲ問ハス賣渡シタル土地ニ先取特權又ハ抵當權ノ負擔アリテ買主カ其代金ノ辨濟ノ前又ハ辨濟ノ時其土地ヲシテ此負擔ヲ免カレシムル爲メニ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ賣主ノ債權者ノ爲メニ所有權ヲ取上ケラレタルトキハ買主ハ賣主ニ對シ第五十八條及ヒ第五十九條ノ規定ニ從ヒテ擔保ノ求償權ヲ有ス
第六十七條 差押ヘタル財產ノ競落人カ追奪ヲ受ケタルトキハ被差押人ニ對シテ代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得若シ被差押人カ無資力ナルニ於テハ代金ノ配當ヲ受ケタル債權者ニ對シテ其代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得
競落人ハ差押人カ差押ノ際ニ其財產ノ債務者ニ屬セサルコトヲ知リタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス又債務者カ其財產ニ存スル第三者ノ權利ヲ詐欺ヲ以テ隱祕シタルニ非サレハ之ニ對シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
競賣條件書ノ調製及ヒ競落ノ處理ニ任シタル公吏ハ其職分ヲ缺キタル爲メ買主ノ錯誤ヲ惹起シタルニ非サレハ損害賠償ノ責ニ任セス
第六十八條 債權ノ賣主ハ當然自己ノ債權ノ存立及ヒ其有效ノ擔保ノ責ニ任ス
又賣主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ擔保ヲ諾約シタルニ非サレハ其擔保ノ責ニ任セス
有資力ノ擔保ニ任シタル場合ニ於テモ賣主ハ債權カ既ニ滿期ト爲リタルトキハ讓渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ且受取リタル代金ノ限度ニ從ヒテ其責ニ任ス但一層廣大ナル擔保ノ明約ト裏書ヲ以テ讓渡ス商證券ノ特別規則トヲ妨ケス
未タ滿期ト爲ラサル債權ノ讓渡ニ於テ讓渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ將來ノ有資力ヲ擔保シタルトキハ其擔保ハ滿期ヨリ一个年又無期年金權ニ付テハ其讓渡ヨリ十个年ニテ絕止ス
第六十九條 物權ト人權トヲ問ハス爭ニ係ル權利ノ讓渡ニ於テハ讓渡人ハ特別ノ合意ナク且讓受人カ爭アルコトヲ知リタルトキハ其主張ノ虛構ナラサルコトヲ擔保スルノミニシテ讓渡シタル權利ノ眞ノ成立ヲ擔保セス
裁判上ト裁判外トヲ問ハス本權ニ關スル明白ノ爭ノ目的タル權利ニ付テノミ右ノ規定ヲ適用ス讓渡人ハ其主張ノ虛構ナリシ場合ニ於テハ讓渡代金ノ返還ノ外讓受人カ正當ニ期望シタル利益ノ賠償ヲ負擔ス
第七十條 會社ニ於ケル自己ノ權利ヲ賣渡シタル者ハ其權利ノ存立及ヒ其賣買契約ニ示セル權利ノ廣狹ニ付テノミ擔保ノ責ニ任ス
會社ノ從前ノ營業ヨリ生シ既ニ淸算濟ト爲リタル賣主ノ權利及ヒ義務ハ買主ニ利害ノ關係ヲ及ホスコト無シ
賣主ト會社トノ間ニ於ケル特別ノ計算ニ付テモ亦同シ
第七十一條 上ノ場合ニ於テ無擔保ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタルトキト雖モ買主カ追奪ヲ受ケタルニ於テハ賣主ハ代金ヲ返還スル責ニ任ス但買主カ賣買ノ時ニ於テ追奪ノ危險アルコトヲ了知シタルトキハ賣主ハ此返還ヲ負擔セス
賣主ハ買主ノ危險負擔ニテ賣買スルトノ契約ヲ爲シタルコトノミニ因リテ亦代金ヲ返還スル責ヲ免カル
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約款ニ依ルモ賣主ハ賣買ノ前後ヲ問ハス第三者ニ授與シタル權利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ擔保ヲ免カルルコトヲ得ス
第七十二條 賣主カ擔保ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ惡意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ賣渡物ニ關スル行爲カ第三者ノ利益ノ爲メニ登記シ有リト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ惡意ヲ證スルニ足ラス尙ホ賣主ハ登記官吏ノ認證書ニ依リ又ハ其他ノ方法ヲ以テ買主カ賣買ノ前ニ此行爲ヲ了知シタル直接ノ證據ヲ供スルコトヲ要ス
第七十三條 財產編第三百九十九條及ヒ第四百條ハ擔保ノ爲メニスル賣主ノ召喚ニ付キ及ヒ追奪ヲ受ケタル買主カ擔保人ヲ訴訟ニ參加セシメサル爲メニ生スル失權ニ付キ之ヲ適用ス
第三款 買主ノ義務
第七十四條 買主ハ合意シタル時期ニ於テ代金ヲ辨濟スルコトヲ要ス又其時期ニ付キ特別ノ合意ナキトキハ引渡ノ時ニ於テ之ヲ辨濟スルコトヲ要ス
引渡ヲ日後ニ延フルノ合意アルトキハ代金ノ辨濟ヲモ暗ニ日後ニ延フルモノト推定ス
賣主カ引渡ノ爲メ恩惠期限ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代金辨濟ノ爲メ同一ノ期間ヲ享有ス
代金辨濟ノ恩惠期限ハ引渡ノ爲メ賣主亦之ヲ享有ス
第七十五條 代金辨濟ノ場所ヲ合意セサルトキハ其辨濟ハ有體動產ニ付テハ引渡ヲ爲ス場所不動產、債權、爭ニ係ル權利又ハ會社ニ於ケル權利ニ付テハ證書ノ交付ヲ爲ス場所ニ於テ之ヲ爲ス
引渡ノ前又ハ後ニ代金ノ辨濟ヲ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其辨濟ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
第七十六條 買受物カ果實其他金錢ニ見積ルコトヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ當然代金ノ利息ヲ負擔ス
反對ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ合意又ハ辨濟ノ催吿ニ依ルニ非サレハ之ヲ負擔セス
第七十七條 買主カ物上訴權ニ因リテ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受クル恐アル正當ノ事由ヲ有スルトキハ賣主カ其妨碍若クハ危險ヲ止マシムルマテ又ハ追奪アリタルニ於テハ代金ヲ返還スル爲メノ保證人ヲ立ツルマテ買主ハ此訴權ノ輕重ニ從ヒテ代金ノ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ拒ムコトヲ得
此規定ハ買主カ買受物ノ他人ニ屬スルヲ直接ニ證スルコトヲ得ルトキハ賣買無效ノ判決ヲ求メ及ヒ擔保ノ訴權ヲ行フコトヲ妨ケス
第七十八條 買受ケタル不動產ニ付キ抵當權又ハ先取特權ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニ非サレハ代金ヲ辨濟スル責ナシ但法律上ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フコトヲ要ス
第七十九條 前二條ノ場合ニ於テ賣主ハ其先取特權及ヒ第三者ニ對スル解除ノ權利ヲ保存スル爲メノ公示ヲ爲ササリシトキハ當事者雙方ノ名ヲ以テ買主ヲシテ猶豫ナク代金ヲ供託セシムルコトヲ得但其代金ハ當事者雙方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リ且諸手續ノ終了後ニ非サレハ之ヲ引取ルコトヲ得ス
第八十條 動產物ノ買主カ代金ヲ辨濟シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クル權利ヲ有スル時ニ於テ其引渡ヲ受クルコトヲ拒ミタルトキハ賣主ハ財產編第四百七十四條乃至第四百七十八條ニ從ヒテ其賣渡物ノ提供及ヒ供託ヲ爲スコトヲ得
然レトモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ賣主ハ買主ノ爲メ之ヲ轉賣スルコトヲ得ルトキハ其轉賣ヲ爲スコトヲ要ス
第三節 賣買ノ解除及ヒ銷除
第一款 義務ノ不履行ニ因ル解除
第八十一條 當事者ノ一方カ上ニ定メタル義務其他特ニ負擔スル義務ノ全部若クハ一分ノ履行ヲ缺キタルトキハ他ノ一方ハ財產編第四百二十一條乃至第四百二十四條ニ從ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ且損害アレハ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
當事者カ解除ヲ明約シタルトキハ裁判所ハ恩惠期限ヲ許與シテ其解除ヲ延ヘシムルコトヲ得ス然レトモ此解除ハ履行ヲ缺キタル當事者ヲ遲滯ニ付シタルモ猶ホ履行セサルトキニ非サレハ當然其效力ヲ生セス
第八十二條 買主カ辨濟其他ノ義務ヲ缺キタル爲メノ解除ハ買主ノ猶ホ代金ノ全部若クハ一分ノ負擔又ハ他ノ負擔ヲ明示シタル賣買證書ニ依リ登記ヲ爲シタルニ非サレハ賣主ヨリ轉得者ニ對シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス但債權擔保編第百八十二條ノ規定ヲ妨ケス
第八十三條 辨濟期限ノ定アル動產ノ賣買ニ於テ其引渡ヲ實行シタルトキハ辨濟ヲ缺キタル爲メノ賣主ノ解除ノ權利ハ買主ノ他ノ債權者ヲ害シテ之ヲ行フコトヲ得ス
辨濟期限ノ定ナキ賣買ニ付テハ賣主ハ引渡ヨリ八日內ニ賣買ヲ解除スルコトヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ既得ノ物權ヲ害スルコトヲ得ス
第二款 受戾權能ノ行使
第八十四條 賣主ハ賣買證書ニ明記シタル受戾ノ約款ニ依リ買主ノ辨濟シタル代金ト費用ノ部分トヲ指定ノ期間ニ買主ニ返還スルニ於テハ其賣買ヲ解除ス可キコトヲ要約スルヲ得
右期間ハ不動產ニ付テハ五个年、動產ニ付テハ二个年ヲ超ユルコトヲ得ス此ヨリ長キ時期ノ要約ハ當然之ヲ此期限ニ短縮ス
一旦期間ヲ定メタル以上ハ右制限內ト雖モ之ヲ伸長スルコトヲ得ス
然レトモ其伸長ハ之ヲ再賣買ノ豫約ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ第二十六條及ヒ第二十七條ノ規定ニ從フ
賣買後ニ於テ爲シ又ハ別證書ヲ以テ爲シタル受戾ノ要約ニ付テモ亦同シ
賣主ハ代金ノ半額以上ノ辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘ且其期限カ受戾ノ爲メ定メタル期間ノ半以上ニ及ヘルトキハ有效ニ受戾ノ權能ヲ要約スルコトヲ得ス
第八十五條 不動產ニ付テハ法律ノ定メタル期間ニ其定メタル條件ヲ以テ爲シタル受戾權能ノ行使ハ買主カ第三者ニ授與シ又ハ第三者カ買主ノ權ニ基キテ取得シタル物權ヲ排除シテ其不動產ヲ賣主ニ復セシム但賃借權ニシテ殘期ノ一个年ヲ超エサルモノハ此限ニ在ラス
動產物ニ付テハ受戾ノ權能ハ善意ニテ其動產物上ニ物權ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス
第八十六條 賣主ノ債權者ハ賣主ニ代ハリテ受戾ノ權能ヲ行フコトヲ得
然レトモ買主ハ右債權者カ豫メ其債務者ノ無資力ヲ證シ且財產編第三百三十九條ニ從ヒテ受戾權能ノ行使ノ爲メ裁判上ニテ賣主ニ代位スルヲ要求スルコトヲ得
買主ハ同一ノ場合ニ於テ鑑定人ノ評價シタル買受物ノ現時ノ價額ト第八十八條ニ從ヒテ賣主ヨリ己レニ返還ス可キ金額トノ差額ニ達スルマテ賣主ノ債務ヲ辨濟シテ債權者ノ訴ヲ止ムルコトヲ得
第八十七條 賣主カ受戾ノ約款ニテ賣渡シタル物ヲ日後抵當トシ又ハ之ニ其他ノ物權ヲ負擔セシメタルトキハ其權利ノ效力ハ賣主又ハ其債權者ノ受戾權能ヲ行ヒタル後ニ非サレハ生セス
賣主カ受戾ニ服スル物ノ所有權ヲ讓渡シタルトキハ讓受人ハ自己ノ名ヲ以テ受戾ヲ爲スコトヲ得然レトモ讓渡前ニ賣主カ他人ニ對シテ承諾シ且登記ヲ經タル此他ノ物權ヲ妨碍スルコトヲ得ス但其擔保訴權ヲ失フコト無シ
第八十八條 賣主カ受戾ノ權能ヲ行ハントスルトキハ指定ノ期間ニ賣買代價及ヒ契約費用ノ外尙ホ物ノ保存費用ヲ買主ニ辨償スルコトヲ要ス
買主カ右金額ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ賣主ハ猶豫ナク之ヲ供託スルコトヲ要ス
賣主ハ物ノ改良費用ヲモ辨償スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ此辨償ニ付テハ賣主ニ猶豫ヲ許スコトヲ得
買主ハ右金額ノ皆濟ヲ受クルマテ其物ノ上ニ留置權ヲ有ス
第八十九條 不動產ノ共有者ノ一人カ其不分ノ部分ヲ受戾約款ニテ賣リタル場合ニ於テ買主カ他ノ共有者ヨリ促カサレタル競賣ニ因リテ競落人ト爲リタルトキハ賣主ハ前條ニ揭ケタル金額ニ競賣ノ代金ヲ加ヘテ其不動產ノ全部ニ對スルニ非サレハ受戾ヲ爲スコトヲ得ス又買主ハ之ニ故障ヲ述フルコトヲ得ス
買主カ自ラ競賣ヲ促シタルトキハ賣主ハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ受戾ヲ爲スコトヲ得又買主ハ全部ノ受戾ニ故障ヲ述フルコトヲ得
第九十條 孰レヨリ競賣ヲ促カシタルヲ問ハス買主ニ非サル共有者ノ一人又ハ外人ノ競落シタル場合ニ於テ賣主ハ競賣ニ召喚セラレサリシトキハ其賣渡シタル部分ニ付テノミ競落人ニ對シテ受戾ノ權利ヲ有シ之ニ反スルトキハ其權利ヲ失フ
第九十一條 現物ヲ以テ分割シタルトキ賣主カ其分割ニ召喚セラレタルニ於テハ賣主ハ孰レヨリ分割ヲ促カシタルヲ問ハス他ノ所有者ニ歸シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ爲スコトヲ得スシテ買主ニ歸シタル部分ノミヲ受戾スコトヲ得但買主ノ供與シ又ハ受取リタル補足代金ヲ賣主買主ノ間互ニ計算スルコトヲ妨ケス
賣主カ分割ニ召喚セラレサリシトキハ賣主ハ選擇ヲ以テ或ハ其分割ヲ認諾シ買主ニ對シテ前項ニ示シタル權利ヲ行ヒ或ハ第八十八條ニ揭ケタル金額ヲ買主ニ辨償シ共有者ニ對シテ再分割ヲ促カスコトヲ得
第九十二條 不分物ノ共有者カ一箇ノ契約及ヒ唯一ノ代價ニテ其物ヲ受戾ノ約款ヲ以テ賣渡シタルトキハ買主ハ一分ニ付キ受戾ヲ受クル責ナシ
又買主ハ賣主ノ一人ヨリ爲ス全部ノ受戾ニ故障ヲ述フルコトヲ得
之ニ反シテ數人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ各自ノ部分ヲ賣渡シタルトキハ各別ニ受戾ヲ爲スコトヲ得但第八十九條及ヒ第九十一條ノ規定ハ之ヲ此場合ニ適用スルコトヲ得
第九十三條 數人ノ買主カ一箇ノ契約又ハ各別ノ契約ヲ以テ一箇ノ財產ヲ受戾ノ約款ニテ取得シタルトキ賣主カ買主ノ間ニ分割ヲ爲ササル前ニ受戾ヲ爲サント欲スルニ於テハ賣主ハ總買主ニ對シ又ハ一人若クハ數人ノ買主ニ對シテ其各自ノ部分ニ付キ受戾ヲ爲スコトヲ得
既ニ分割ヲ爲シタルトキハ賣主ハ各買主ニ對シ分割又ハ競賣ニ因リテ其各自ニ歸シタル部分ノミニ非サレハ受戾ヲ爲スコトヲ得ス
第三款 隱レタル瑕疵ニ因ル賣買廢却訴權
第九十四條 動產ト不動產トヲ問ハス賣渡物ニ賣買ノ當時ニ於テ不表見ノ瑕疵アリテ買主之ヲ知ラス又修補スルコトヲ得ス且其瑕疵カ物ヲシテ其性質上若クハ合意上ノ用方ニ不適當ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ初ヨリ買受ケサル可キ程ニ物ノ使用ヲ減セシムルトキハ買主ハ其賣買ノ廢却ヲ請求スルコトヲ得
此場合ニ於テハ買主ハ辨濟代金ト契約費用トヲ取戾シ其代金ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ收益又ハ使用ト之ヲ相殺ス
第九十五條 買主カ隱レタル瑕疵ノ賣買廢却訴權ヲ行フ可キ程ニ重大ナルヲ證スルコト能ハス又ハ物ヲ保有スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ便益ヲ失フ割合ニ應シテ代價ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
第九十六條 買主カ賣主ニ對シ賣買ノ廢却又ハ代價ノ減少ヲ得タルニ拘ハラス賣主カ初ヨリ其瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ尙ホ其受ケタル損害又ハ失ヒタル利益ニ付テノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
第九十七條 隱レタル瑕疵ヲ擔保セストノ要約ハ賣主ヲシテ初ヨリ自ラ了知シ且詐欺ヲ以テ隱祕シタル瑕疵ニ付テノ責任ヲ免カレシメス
第九十八條 賣買ノ當時ニ於テ物ニ瑕疵アリタルコト其瑕疵ヨリ買主ニ損害ヲ生シタルコト及ヒ買主又ハ賣主カ其瑕疵ヲ了知シタルコトハ人證、鑑定其他ノ法律上ノ證據方法ヲ以テ之ヲ證ス
第九十九條 賣買廢却、代價減少及ヒ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起スコトヲ要ス
第一 不動產ニ付テハ六个月
第二 動產ニ付テハ三个月
第三 動物ニ付テハ一个月
右期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ起算ス
然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知レル證據アリタル日ヨリ其半ニ短縮ス但其殘期カ此半ヲ超ユルトキニ限ル
買主カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ右期間ニ隱レタル瑕疵ヲ覺知スル能ハサリシコトヲ證スルトキハ其期間ノ滿了後ニ於テモ訴ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗力ノ止ミタル時ヨリ通常期間ノ三分一ヲ以テ新期間ト爲ス
第百條 隱レタル瑕疵ニ基キタル代價減少ノ訴權ハ買主カ買受物ヲ無償又ハ有償ニテ讓渡シタルモ之ヲ失ハス但有償ノ讓渡ノ場合ニ於テハ其瑕疵ノ爲メ買主カ損失ヲ受ケタルトキ又ハ讓受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ恐アルトキニ限ル
第百一條 賣渡物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ賣買廢却訴權ヲ行フコトヲ得ス
滅失部分ノ多少ニ拘ハラス代價減少ノ訴權ハ殘存部分ノ割合ニ應シテ存立ス
如何ナル場合ニ於テモ賣主ハ隱レタル瑕疵ヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス
第百二條 合式ノ强制賣却ハ賣買廢却訴權ヲモ代價減少訴權ヲモ生セス
第百三條 或ル動物又ハ日用品ノ隱レタル瑕疵ニ付テハ特別法ヲ以テ其賣買上ノ效果ヲ定ムルニ至ルマテ本法ノ規定ヲ適用ス
第四節 不分物ノ競賣
第百四條 不分財產ノ分割ヲ爲スニ當リ共有者ノ一人タリトモ現物ノ分割ヲ拒ム者アルトキハ其財產ノ協議賣却又ハ競賣ヲ爲シ各共有者ノ權利ノ限度ニ應シテ其代金ヲ配當ス
第百五條 共有者カ其一人若クハ第三者ニ協議賣却ヲ爲シ又ハ相互ノ間ニ競賣ヲ爲スニ付キ一致ヲ得ル能ハサルトキ又ハ共有者中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ裁判所又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニ於テ不分物ノ競賣ヲ爲ス但民事訴訟法ニ定メタル競賣方式ニ從フコトヲ要ス
共同競賣人ノ各自ハ常ニ競賣ニ外人ノ參與ヲ許スヲ要求スルコトヲ得共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ參與ハ當然且必要ナリトス
第百六條 共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハ其競賣又ハ協議賣却ハ共有者間ノ分割ノ行爲ト看做サレ會社ノ分割ニ關シ規定シタル效力ヲ生ス
第三者ニ競落又ハ協議賣却ヲ爲シタルトキハ其賣買ハ第三者ト原共有者トノ間ニ於テ本章ニ規定シタル賣買ノ效力ヲ生ス
第四章 交換
第百七條 交換ハ當事者ノ一方カ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ヨリ取得シ又ハ之ヲシテ諾約セシメ其對價トシテ或ル物ノ所有權其他ノ權利ヲ他ノ一方ニ移轉シ又ハ移轉スルコトヲ諾約スル契約ナリ
相互ノ權利ノ價額カ均一ナラサルトキハ金錢其他ノ物ノ補足ヲ以テ之ヲ均一ニス
金錢ノ補足カ交換ニ供シタル物ノ價額ヲ超ユルトキハ其契約ハ之ヲ賣買ト看做ス
第百八條 當事者ハ交換ニ供シ又ハ諾約シタル物又ハ權利ニ對スル妨碍及ヒ追奪ノ擔保ヲ相互ニ負擔ス
當事者ノ一方カ他ノ一方ノ諾約シタル物又ハ權利ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ其選擇ヲ以テ或ハ金錢ノ對價ヲ要求スルコトヲ得或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ供與シタルモノヲ取戾スコトヲ得但孰レノ場合ニ於テモ損害アレハ其賠償ヲ受ク
右解除ノ權利ハ取戾ニ服スル不動產ニ付キ權利ヲ取得シタル第三者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス但財產編第三百五十二條第一項ニ從ヒテ請求ノ公示前ニ其第三者ノ權原ノ登記アリタルトキニ限ル
第百九條 賣買ノ規則ハ左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス
交換ハ配偶者ノ間ニ之ヲ爲スコトヲ許ス但交換物ノ價額ノ差カ間接ノ利益ヲ成ストキハ贈與ヲ禁制シ又ハ之ヲ制限スル規則ニ從フ
當事者ノ一方又ハ雙方カ指定ノ期間ニ於テ任意ニ交換ヲ解除スルコトヲ要約シタルトキハ第二十七條ニ依リ賣買ノ豫約ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ル條件ニ從フニ非サレハ其解除ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第五章 和解
第百十條 和解ハ當事者カ交互ノ讓合又ハ出捐ヲ爲シテ既ニ生シタル爭ヲ落著セシメ又ハ生スルコト有ル可キ爭ヲ豫防スル契約ナリ
和解ノ成立、有效、效力及ヒ證據ハ下ノ規定ヲ除ク外合意ニ關スル一般ノ規則ニ從フ
第百十一條 和解ハ法律ノ錯誤ノ爲メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但其錯誤カ相手方ノ詐欺ニ起因スルトキハ此限ニ在ラス
第百十二條 和解ハ僞造ノ書類又ハ無效ノ行爲ニ依リ承諾シタルコトヲ理由トシテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但此等ノ申立ヲ爲スヲ得ヘキ當事者ニ於テ其書類ノ僞造ヲ知ラス又ハ其行爲ヲ法律ニ於テ無效ナラシムル所ノ事實ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
第百十三條 定マリタル爭ニ付キ爲シタル和解ハ新ニ發見シタル證書ニ因リテ當事者ノ一方カ爭ノ目的ニ付キ何等ノ權利ヲモ有セス又ハ他ノ一方カ其目的ニ付キ完全且爭フ可カラサル權利ヲ有スルコトノ顯ハレタルトキハ事實ノ錯誤ノ爲メ亦之ヲ銷除スルコトヲ得
確定シタル判決又ハ攻擊スルヲ得サル契約ニ因リ既ニ爭ノ落著シタル場合ニ於テ其判決又ハ契約ヲ知ラスシテ和解ヲ爲シタルトキモ亦同シ
然レトモ和解カ從前ノ原因ヨリ生スルコト有ル可キ總テノ爭ヲ落著セシメ又ハ之ヲ豫防スルヲ目的トシタルトキハ當事者ノ一方ノ利益タル確定證書ノ發見ハ其和解ノ銷除ヲ生セス但其證書カ相手方ノ所爲ニ因リテ控留セラレタルトキハ此限ニ在ラス
第百十四條 有效ノ和解ハ當事者ノ相互ニ追認シタル權利又ハ利益ニシテ既ニ生シ又ハ豫見シタル爭ノ目的タルモノニ付テハ當事者間ニ在テハ確定判決ノ權利ト均シキ認定ノ效力ヲ生ス此場合ニ於テハ其權利又ハ利益ハ從前ノ原因ニ由リテ保持シタルモノト看做ス但當事者雙方ニ更改ヲ爲ス意思アリシトキハ此限ニ在ラス
之ニ反シテ相互ニ供與シ又ハ諾約シタル權利又ハ利益ノ全部若クハ一分ニシテ爭ノ目的タラサリシモノニ付テハ和解ハ物權又ハ人權ヲ生シ之ヲ移轉シ若クハ之ヲ消滅セシムル有償合意ノ規則ニ從フ
第六章 會社
第一節 會社ノ性質及ヒ設立
第百十五條 會社ハ數人カ各自ニ配當ス可キ利益ヲ收ムル目的ニテ或ル物ヲ共通シテ利用スル爲メ又ハ或ル事業ヲ成シ若クハ或ル職業ヲ營ム爲メ各社員カ定マリタル出資ヲ爲シ又ハ之ヲ諾約スル契約ナリ
第百十六條 商事會社ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム
第百十七條 社員ノ出資ハ或ハ動產又ハ不動產ノ所有權若クハ收益權或ハ金錢又ハ技術、勞力ヲ以テスルコトヲ得
出資ハ不均一ナルコトヲ得
第百十八條 民事會社ハ當事者ノ意思ニ因リテ之ヲ法人ト爲スコトヲ得
此場合ニ於テハ會社ニ社名ヲ付シ且其契約ハ商事會社ノ公示ノ爲メ法律ニ規定シタル方式ニ從ヒテ之ヲ公示スルコトヲ要ス但社名ヲ付シ又ハ公示ヲ爲シタルトキハ其會社ヲ法人ト爲ス意思アリト推定ス
第百十九條 合意ノ一般ノ規則殊ニ當事者ノ承諾、能力、合意ノ目的、原因及ヒ證據ニ關スルモノハ會社ニ之ヲ適用ス
第百二十條 會社ハ其目的ノ商事ニ在ラサルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ從フ
第二節 社員ノ權利及ヒ義務
第百二十一條 會社ハ契約ノ日ヨリ開始ス但明示又ハ默示ニテ他ノ期限ヲ定メ又ハ條件ヲ附シタルトキハ此限ニ在ラス
各社員ハ會社ノ開始スル時ニ於テ其諾約シタル出資ヲ差入ルルコトヲ要ス之ヲ差入レサルトキハ其社員ハ出資ニ生スル果實及ヒ利息ヲ當然負擔ス且遲延ノ爲メ損害ヲ生シタルトキハ出資ノ金錢ヲ以テスルトキト雖モ其賠償ヲ負擔ス
第百二十二條 技術又ハ勞力ノ出資ヲ諾約シタル社員カ其諾約ヲ缺キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ選擇ニ從ヒ會社ニ對シテ或ハ其義務ノ履行ヲ缺キタル當時ヨリ會社ノ受ケタル損害ヲ賠償シ或ハ其勞力ヲ會社外ニ用井テ得タル利益ヲ分與スル責ニ任ス
第百二十三條 動產ト不動產トヲ問ハス特定物ノ所有權ヲ出資ト爲スコトヲ諾約シタル社員ハ會社ニ對シ賣主ト同シク其物ノ妨碍、追奪又ハ面積、數量ノ不足及ヒ隱レタル瑕疵ニ付キ擔保ノ責ニ任ス
又社員カ物ノ收益權ノミヲ出資ト爲スコトヲ諾約シタルトキハ賃貸人ト同シク擔保ノ責ニ任ス
第百二十四條 會社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ數人ノ業務擔當人ヲ選任シタルトキハ其各員ハ受任ノ權限ヲ踰ユルコトヲ得ス
權限ノ定マラサル業務擔當人ハ共同又ハ各別ニテ通常ノ管理行爲ヲ爲スニ止マル
又業務擔當人ハ會社ノ目的中ノ重要ナル行爲ニ付テハ共同ニテノミ之ヲ爲スコトヲ得但異議アル場合ニ於テハ其行爲ヲ中止シ總社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ決ス
第百二十五條 會社契約ヲ以テ業務擔當人ヲ選任セサル場合ニ於テ總社員ノ一致ニテ之ヲ選任セサル間ハ社員ノ各自ハ前條ニ規定シタル行爲ヲ其條件ニ從ヒテ爲ス權ヲ有ス
第百二十六條 會社契約ヲ以テ業務擔當人ニ選任セラレタル社員ハ正當ノ原因アルトキ又ハ其承諾及ヒ總社員ノ同意ヲ得タルトキニ非サレハ委任ノ期限內ニ之ヲ解任スルコトヲ得ス
會社設立以後ノ契約ヲ以テ選任シタル業務擔當人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ之ヲ解任スルコトヲ得
第百二十七條 業務擔當人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス其中ノ一人又ハ數人ノ死亡、辭任又ハ解任アリテ此等ノ事件ノ爲メニ會社ノ解散セサルトキハ總社員ノ過半數ヲ以テ其補闕者ヲ選任ス
第百二十八條 右ノ外會社定款ノ執行ニ關スル總テノ處分ハ亦社員ノ過半數ヲ以テ之ヲ定ム
定款ニ反スル行爲又ハ定款外ノ行爲ニ付テハ總社員ノ一致ヲ得ルヲ必要トス
本條ハ定款又ハ法律ノ之ニ反スル規定ヲ妨ケス
第百二十九條 第三者カ會社ト業務擔當社員ノ一人トニ對シテ同性質ノ債務ヲ負擔シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金錢又ハ有價物ヲ此社員ニ辨濟スルニ於テハ其社員ハ會社ノ債權額ト自己ノ債權額トノ割合ニ應スルニ非サレハ自己ノ債權ノ辨濟ニ之ヲ充當スルコトヲ得ス但債務者ノ爲シタル充當ヲ變更スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ正當ノ利益ナクシテ社員ノ債權額ノ全部ニ充當シタルトキハ社員ハ其辨濟ノ額內ヨリ右ノ割合ニ應スル部分ヲ會社ニ分與スル責ニ任ス
債務者又ハ社員カ有效ナル充當ヲ爲ササルトキハ財產編第四百七十二條ニ從ヒテ法律上ノ充當ノ規則ヲ適用ス
第百三十條 業務擔當人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ會社ノ債務者ヨリ會社ニ對スル債務ノ一分ヲ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス會社ニ其利益ヲ得セシムルコトヲ要ス但自己ノ持分トシテ受取證書ヲ與ヘタルトキト雖モ亦同シ
第百三十一條 業務擔當人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過失又ハ懈怠ニ因リテ會社ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
此損害ハ社員カ會社營業ノ他ノ事件ニ付キテ會社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事件ノ互ニ連絡シタルトキハ此限ニ在ラス
第百三十二條 會社契約ヲ以テ業務擔當人ヲ選任セサルカ爲メニ業務ヲ取扱フ社員ハ自己ノ業務ニ於ケルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニ非サレハ其過失ノ責ニ任セス
第百三十三條 各社員ハ會社資本中ニ於テ使用スルコトヲ得ル金額ナキトキハ會社ノ所屬物ニ關スル必要及ヒ保持ノ費用ヲ自己ノ權利ノ割合ニ應シテ分擔スル責ニ任ス
第百三十四條 業務擔當人タルト否トヲ問ハス各社員ハ會社ヲシテ自己ノ出資外ニ會社ノ爲メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ會社ノ利益ノ爲メ善意ニテ負擔シタル義務ヲ認諾セシメ又ハ會社ノ營業ノ爲メ自己ノ財產ニ受ケタル避クルヲ得サル損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
第百三十五條 會社營業ノ爲メ社員ノ立替ヘタル金額ハ其使用ノ日ヨリ當然利息ヲ生ス
之ニ反シテ各社員ハ自己ノ營業ノ爲メ會社資本中ヨリ引出シタル金額ニ付テハ當然會社ニ對シテ其利息ヲ負擔シ尙ホ損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
第百三十六條 社員ハ會社解散ノ際ニ現在スル資本ニ於ケル各自ノ持分ヲ會社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ隨意ニ定ムルコトヲ得但第百三十八條ニ揭ケタル二箇ノ場合ハ此限ニ在ラス
第百三十七條 社員ハ其一人又ハ數人ノ持分カ利益及ヒ損失ニ於テ同一ナラサルヲ合意スルコトヲ得
然レトモ利益ノミヲ豫見シテ右ノ持分ヲ定メタルトキハ損失ニ付テモ同一ノ定方ヲ合意シタリトノ推定ヲ受ク
如何ナル場合ニ於テモ受ケタル損失ヲ控除シ會社ノ貸方トシテ殘ル所ノモノニ非サレハ配當ス可キ利益ト看做サス又右貸方ヲ竭シタル後借方トシテ殘ル所ノモノニ非サレハ損失ト看做サス
然レトモ會社ノ存立中ニ詐害ナクシテ既ニ爲シタル利益又ハ損失ノ一分ノ配當ハ之ヲ變更セス
第百三十八條 會社資本ノ全部又ハ會社ノ得タル利益ノ全部ヲ社員中ノ一人ニ歸ス可キ約款ハ無效ナリ
技術又ハ勞力ヲ出資ト爲シタル社員ニ非サル社員ニ全ク損失ノ負擔ヲ免カレシム可キ約款モ亦同シ
會社契約ニ右ノ約款ヲ附記シタルトキハ其約款ハ契約ヲシテ全ク無效ナラシム又日後ニ右ノ約款ヲ追加シタルトキハ其約款ハ契約ノ存立ヲ妨ケスシテ會社ノ淸算ハ第百四十一條ニ從ヒテ之ヲ爲ス
第百三十九條 社員ハ自己ノ選任セシ又ハ選任ス可キ社員又ハ外人タル一人若クハ數人ノ仲裁人ヲシテ會社解散ノ際各自ノ持分ヲ定メシムルコトヲ會社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ合意スルコトヲ得
仲裁人ノ爲シタル定方ハ仲裁人カ仲裁ノ適法ノ方式又ハ仲裁契約ヲ以テ授ケラレタル條件ヲ履行セサルカ又ハ明カニ公平ヲ失シタルトキニ非サレハ之ヲ攻擊スルコトヲ得ス
右定方ノ無效ノ請求ハ此ニ因リテ害ヲ受ケタリト主張スル社員ニ在テハ其社員カ定方ノ執行ニ加ハリタルトキ又ハ其定方ヲ知リタルヨリ三个月ヲ經過シタルトキハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第百四十條 會社契約ヲ以テ持分ノ定方ヲ仲裁人ニ委任ス可キコトヲ定メタル場合ニ於テ少ナクトモ社員ノ過半數カ仲裁人ヲ選任スルコトニ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ其選任ヲ爲ス
選任セラレタル仲裁人カ定方ヲ爲スコトヲ欲セス又ハ之ヲ爲スコト能ハサルニ當リ社員カ其改選ニ付キ一致セサルトキモ亦同シ
第百四十一條 社員自身ニテ若クハ仲裁人ヲ以テ持分ノ定方ヲ爲サス又ハ仲裁人ノ定方ノ無效ト爲リタルトキハ會社資本及ヒ利益又ハ損失ハ社員ノ出資額ノ割合ニ應シテ之ヲ配當ス
社員ノ出資ト爲シタル技術又ハ勞力ノ評價ナキトキハ裁判所ハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ其出資ノ價額ヲ定ム
技術又ハ勞力ト財產トヲ出資ト爲シタル社員ハ前項ニ定メタル價額ノ外尙ホ其財產ノ價額ニ從ヒテ計算シタル持分ノ配當ヲ受ク
第百四十二條 各社員ハ自己ノ持分ニ第三者ヲ組合サシムルコトヲ得又其持分ヲ質入シ又ハ之ヲ讓渡スコトヲ得然レトモ此等ノ行爲ハ之ヲ以テ會社ニ對抗スルコトヲ得ス但會社契約ヲ以テ社員ニ此權利ヲ認許シタルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ會社カ社員ノ讓渡サント欲スル持分ヲ消却スル爲メ先買權ヲ留保シタルトキハ自己ノ持分ヲ讓渡サントスル社員ハ會社カ其先買權ヲ行フカ抛棄スルカニ付キ之ヲ遲滯ニ付スルコトヲ要ス
第百四十三條 業務擔當人カ會社ノ名ヲ以テ又ハ會社ノ營業ノ爲メ有效ニ負擔シタル義務ハ會社カ法人ヲ成セルトキハ各社員ノ一身上ノ債權者ニ先タチ會社資本ヲ以テ之ヲ擔保ス
會社資本ノ不十分ナル場合又ハ訴追債權者ニ其資本ヲ示ササル場合ニ於テハ總社員ハ連帶シテ會社ノ義務ヲ負擔ス會社カ法人ヲ成ササルトキモ亦同シ
右ノ場合ニ於テ各社員間ノ決算ハ第百三十六條乃至第百四十一條ニ規定シタル貸方及ヒ借方ニ於ケル各自ノ持分ニ從ヒテ之ヲ爲ス
第三節 會社ノ解散
第百四十四條 會社ハ左ノ諸件ニ因リテ當然解散ス
第一 會社契約ヲ以テ指定シタル期間ノ滿了又ハ解除條件ノ成就
第二 會社ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
第三 會社資本ノ全部又ハ半額以上ノ損失
第四 社員ノ一人ノ技術、勞力又ハ收益ヲ以テスル繼續ノ出資ヲ爲スノ不能
第五 社員ノ一人ノ死亡、禁治產、破產又ハ顯然ノ無資力但第百四十七條ノ規定ヲ妨ケス
第百四十五條 會社ハ左ノ諸件ニ因リテ之ヲ解散スルコトヲ得
第一 如何ナル場合ヲ問ハス社員ノ一致ノ意思
第二 會社ニ明示又ハ默示ノ一定ノ期間ナキ場合ニ於テ惡意ニ非ス又不都合ノ時期ニ非スシテ解散ノ請求ヲ爲ストキハ社員一人ノ意思
第三 會社ニ一定ノ期間アルトキト雖モ社員ノ一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ正當ノ理由ニ基キタル解散ノ請求
第百四十六條 社員ハ會社ノ期間ノ滿了前ニ明示又ハ默示ニテ其期間ヲ伸長スルコトヲ得
默示ノ伸長ハ一定ノ期間ノ滿了後ニ於テ社員ノ一人タモ故障ヲ爲サスシテ會社營業ノ繼續シタル事實ヨリ生スルコトヲ得此場合ニ於テ會社ハ前條第二號ニ從ヒ社員ノ一人ノ意思ヲ以テ之ヲ解散スルコトヲ得
第百四十七條 社員ハ第百四十四條第五號ニ揭ケタル原因ニ由リテ會社ヲ解散セス且闕員ノ持分ヲ定メ他ノ社員ニテ之ヲ繼續スルヲ合意スルコトヲ得
又社員ハ死亡シタル社員ノ相續人又ハ無能力ト爲リタル社員ト共ニ會社ヲ繼續スルヲ合意スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ相續人又ハ無能力者ノ合式ノ代人ノ新ナル承諾ヲ要ス
第四節 會社ノ淸算及ヒ分割
第百四十八條 會社ノ解散シタルトキハ社員ノ各自又ハ其承繼人ヨリ淸算ヲ請求スルコトヲ得
淸算ハ分割前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス但社員ノ多數カ全部又ハ一分ノ分割ヲ先ニスルコトヲ請求シタルトキハ此限ニ在ラス
又會社ノ各債權者ハ淸算前ニ分割ヲ爲スコトニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第百四十九條 淸算ハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 著手シタル業務ノ成就
第二 會社ノ債務ノ辨濟及ヒ其債權ノ取立
第三 各社員ト會社トノ間ノ特別ナル計算
第四 分割ス可キ貸方又ハ負擔ス可キ借方ニ於ケル各社員又ハ其代人ノ持分ノ指定
第百五十條 會社契約ニ淸算人ノ選任及ヒ其權限ニ關スル約款ナキトキハ淸算ハ或ハ總社員之ヲ爲シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ委任シタル一人若クハ數人ノ社員之ヲ爲シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル第三者之ヲ爲ス
社員カ淸算人ノ選任ニ付キ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ選任ス
第百五十一條 淸算人ハ如何ナル場合ヲ問ハス速ニ毀損又ハ滅盡ス可キ物ヲ讓渡スコトヲ要ス
滿期ト爲リタル債務ノ辨濟ノ爲メ必要ナルトキハ此他ノ動產ヲ讓渡スコトヲ得
不動產ニ付テハ淸算人ハ社員ノ特別ナル委任ヲ受クルニ非サレハ之ヲ抵當トシ又ハ讓渡スコトヲ得ス
前項ノ讓渡ハ競賣競落ニ依ルニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス但協議上ノ讓渡ヲ許シタル場合ハ此限ニ在ラス孰レノ場合ニ於テモ社員ノ過半數ヲ以テ決スルコトヲ要ス
淸算人ハ社員ノ名ヲ以テ原吿又ハ被吿トシテ訴訟ヲ爲スコトヲ得
淸算人カ會社ノ債務又ハ債權ニ付キ承諾シタル和解及ヒ仲裁ハ第三者ト通謀シタル詐欺ノ爲メニ非サレハ之ヲ攻擊スルコトヲ得ス
第百五十二條 淸算ニ於ケル總計算ハ社員ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
右ノ計算ヲ認可スルニハ社員ノ過半數ノ議決ヲ以テ足レリトス
此議決ハ總計算ニ付キ之ヲ爲シ又ハ計算ノ或ル部分ニ付キ各別ニ之ヲ爲スコトヲ得
認可ヲ得サル計算ニシテ仕直スコトヲ得ヘキモノナルトキハ淸算人其費用ヲ以テ之ヲ爲ス若シ仕直スコトヲ得サルトキハ淸算人ハ代理ノ規則ニ從ヒ其過失ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
淸算人ノ受任シタル權限ニ依リ又ハ前條ニ從ヒテ爲シタル行爲ハ善意ナル第三者ニ對シテ之ヲ取消スコトヲ得ス
第百五十三條 會社ノ淸算後ハ不分ニテ存スル財產ノ分割ハ社員ノ各自又ハ其承繼人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得但當事者カ財產編第三十九條ニ從ヒ不分ニテ存スルコトヲ會社ノ解散後ニ合意シタルトキハ此限ニ在ラス
第百五十四條 分割部分ノ定方又ハ其配付ニ付キ當事者ノ一致セサルトキハ財產共通ノ分割ノ爲メ別ニ定メタル規則ニ從フ
第百五十五條 會社資本中ノ物ニシテ分割ニ因リ各社員ニ歸シタルモノニ關スル其社員ノ權利ハ會社解散ノ日ニ遡リテ效力ヲ有シ又淸算中他ノ社員ヨリ其物ニ付キ第三者ニ授與シタル權利ハ之ヲ解除ス
第百五十六條 分割者ハ分割ニ因リテ取得ス可キ權利ノ上ニ受クルコト有ル可キ妨碍及ヒ追奪ニ付キ其各自ノ部分ニ應シテ相互ニ擔保ヲ爲ス
分割者ノ一人カ無資力ナルトキハ其一人ノ負擔シタル賠償ノ部分ハ被擔保人ヲ併セテ他ノ共同分割者ノ間ニ之ヲ分ツ
第七章 射倖契約
總則
第百五十七條 射倖契約トハ當事者ノ雙方若クハ一方ノ損益ニ付キ其效力カ將來ノ不確定ナル事件ニ繫ル合意ヲ謂フ
第百五十八條 射倖契約ニハ其性質ニ因ルモノ有リ當事者ノ意思ニ因ルモノ有リ
博戲、賭事、終身年金權其他終身權利ノ設定、陸上、海上ノ保險及ヒ冒險貸借ハ性質ニ因ル射倖ノモノナリ
此他成立又ハ效力ヲ停止又ハ解除ノ偶成ノ條件ニ繫ラシムル契約ハ當事者ノ意思ニ因ル射倖ノモノナリ
第百五十九條 陸上、海上ノ保險及ヒ冒險貸借ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一節 博戲及ヒ賭事
第百六十條 博戲ハ博戲者ノ勇氣、力量、巧技ヲ發達ス可キ性質ナル體軀運動ヲ目的トスルニ非サレハ其義務履行ノ爲メ訴權ヲ許サス
賭事ニ基ク訴權ハ右ノ如キ體軀運動ヲ爲ス人ノ爲メ又ハ賭者ノ直接ニ關係スル農工商業ノ進步ノ爲メニ非サレハ亦之ヲ許サス
右ノ博戲又ハ賭事ニ於テ諾約シタル金額又ハ有價物カ事情ニ照シテ過度ナリト見ユルトキハ裁判所ハ之ヲ減少スルコトヲ得スシテ全ク其請求ヲ棄却スルコトヲ要ス
第百六十一條 前條ノ場合ノ外博戲及ヒ賭事ハ自然義務ヲモ生セス且其債務ノ追認、更改又ハ保證ハ總テ無效ナリ
然レトモ右博戲又ハ賭事ニ因ル有能力者ノ任意ノ辨濟ハ之ヲ取戾スコトヲ許サス但勝者ニ於テ詐欺又ハ欺瞞アリタルトキハ此限ニ在ラス
第百六十二條 官許ヲ得サル富講ハ訴權ナキ博戲及ヒ賭事ト同視ス
商品又ハ公ノ證券ノ投機ノ定期賣買ニ付テモ初ヨリ當事者カ諾約シタル金額又ハ有價物ノ引渡及ヒ辨濟ヲ實行スルニ意ナク單ニ相場昂低ノ差額ヲ計算スルノミヲ目的トシタルコトヲ被吿ノ證スルトキモ亦同シ
第百六十三條 前二條ノ場合ニ於テ被吿ヨリ銷除ヲ申立テサルトキハ判事ハ職權ヲ以テ其銷除ヲ言渡スコトヲ得但契約又ハ請求ニ於テ博戲、富講又ハ相場差額ノ賭事カ債務ノ原因タルコトヲ明言セシトキニ限ル
第二節 終身年金權
第一款 終身年金權ノ設定
第百六十四條 終身年金權ハ動產若クハ不動產ナル元本ノ讓渡ノ報酬又ハ既往若クハ將來ノ勤勞ノ報酬トシテ有償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
又贈與又ハ遺贈ヲ以テ無償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
又終身年金權ハ有償又ハ無償ニテ讓渡シタル元本ノ上ニ留存シテ之ヲ設定スルコトヲ得
第百六十五條 終身年金權ハ對價物ノ供與者ニ非サル人ノ利益ノ爲メ之ヲ要約スルコトヲ得
此場合ニ於テハ要約者ト諾約者トノ間ニ在テハ有償契約ノ規則ニ從ヒ要約者ト得益者トノ間ニ在テハ贈與ノ規則ニ從フト雖モ贈與ノ方式ニ從フコトヲ要セス
第百六十六條 終身年金權ハ債權者若クハ債務者ノ終身ヲ期シ又ハ第三者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此末ノ場合ニ於テ契約カ有償ナルトキハ其成立ニ付キ第三者ノ承諾ヲ必要トス然レトモ此承諾前ニ辨濟シタル年金ハ之ヲ取戾スコトヲ得ス
第百六十七條 終身年金權ハ同時又ハ順次ニ數人ノ債權者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此場合ニ於テハ財產編第百條ノ用益權ニ關スル規定ヲ適用ス
第百六十八條 有償ノ終身年金權ノ契約ハ其設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ合意ノ當時ニ於テ既ニ死亡シタルトキハ當事者雙方其死亡ヲ知ラスト雖モ無效ナリ
右ノ人カ合意ノ當時ニ於テ既ニ罹レル疾病ノ爲メ六十日內ニ死亡シタルトキハ其契約ハ當然之ヲ解除ス
第百六十九條 無償ノ終身年金權ハ設定者ニ於テ之ヲ讓渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノト定ムルコトヲ得
右約款ハ設定證書ニ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
養料トシテ無償ニテ設定シタル終身年金權ハ當然讓渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノナリ
本條ノ規定ハ贈與者ノ利益ノ爲メ贈與財產ノ上ニ留存シタル終身年金權及ヒ支拂時期ノ至リタル年金ニ之ヲ適用セス
第百七十條 終身年金權ノ讓渡及ヒ差押ノ禁止ハ其一事ノミヲ要約シタルトキト雖モ二事共ニ存立ス
第二款 終身年金權ノ契約ノ效力
第百七十一條 債務者ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ生存中ハ其年金權ノ年金ヲ支拂フコトヲ要シ且買戾ヲ爲スコトヲ得ス但其買戾ニ付キ特別ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第百七十二條 年金ハ每月又ハ此ヨリ長キ時期ニ於テ其支拂ヲ爲ス可キトキト雖モ債權者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
然レトモ年金ヲ前拂ス可キトキハ債務者ハ既ニ支拂時期ノ始マリタル全一期分ヲ負擔ス
第百七十三條 債權者ハ解除ノ權利ヲ留保セサルトキハ年金支拂ノ欠缺ノ爲メ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得ス只其債務者ノ財產中ニ於テ年金ヲ受クルニ足ル可キ部分ヲ差押ヘ之ヲ賣却セシメ其賣却代金ヨリ生スル利息ヲ以テ年金ノ支拂ニ充ツルコトヲ得但他ノ債權者ノ競取ヲ拒ムコトヲ得ス
終身年金權ヲ無償ニテ設定シ又ハ贈與若クハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタルトキモ亦右ト同一ニ處辨ス
第百七十四條 終身年金權ノ債務者ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ支拂ノ時期ニ生存セシコトヲ債權者ヨリ生存認證書ヲ以テ證セサルトキハ其年金ノ支拂ヲ拒ムコトヲ得
此認證書ハ其人ノ現住地ノ受持公證人又ハ身分取扱人之ヲ交付ス
第三款 終身年金權ノ消滅
第百七十五條 有償ノ終身年金權ノ債務者カ年金支拂ノ爲メ諾約シタル擔保ヲ供セス又ハ供シタル擔保ヲ減少スルトキハ債權者ハ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得但既ニ取得シタル年金ヲ返還スル責ナシ
贈與又ハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタル終身年金權ノ債權者モ亦右ト同一ノ權利ヲ有ス
右ノ解除ハ年金權ノ設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人カ確定判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣吿セス
第百七十六條 普通法ニ於テ許シタル銷除及ヒ廢罷ノ原因ハ終身年金權ニ之ヲ適用ス
終身年金權ハ此他尙ホ更改、合意上ノ免除、混同、時效及ヒ要約シタル受戾ニ因リテ消滅ス
然レトモ終身年金權カ第百六十九條及ヒ第百七十條ニ從ヒ法律又ハ人爲ニ依リテ讓渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ其年金權ハ時效ニ罹ラス
如何ナル場合ニ於テモ年金ハ支拂時期後五个年ニシテ時效ニ罹ル
第百七十七條 終身年金權ハ其設定ノ爲メ終身ヲ期セラレタル人ノ死亡ニ因リテ消滅ス但第百六十八條ノ規定ヲ妨ケス
然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ債務者ノ責ニ歸ス可キ不正ノ原因ニ由リテ死亡シタル場合ニ於テ其年金權ヲ有償ニテ又ハ贈與若クハ遺贈ノ負擔トシテ設定シタリシトキハ其契約又ハ惠與ハ之ヲ解除ス且債務者ハ既ニ支拂ヒタル年金ヲ取戾サスシテ其取得シタル財產ヲ返還スルコトヲ要ス
右ト同一ノ死亡ノ場合ニ於テ其年金權ヲ直接ニ贈與シ又ハ遺贈シタリシトキハ年金ノ支拂ハ裁判所カ終身ヲ期セラレタル人ノ生命ノ繼續期ト推測スル期間之ヲ繼續セシム
第八章 消費貸借及ヒ無期年金權
第一節 消費貸借
第百七十八條 消費貸借ハ當事者ノ一方カ代替物ノ所有權ヲ他ノ一方ニ移轉シ他ノ一方カ或ル時期後ニ同數量及ヒ同品質ノ物ヲ返還スル義務ヲ負擔スル契約ナリ
第百七十九條 當事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ハ當事者ノ意思ヲ推測シ且事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
返還ノ場所ノ定マラサリシトキハ無利息ノ貸借ニ付テハ貸主ノ住所又利息附ノ貸借ニ付テハ借主ノ住所ニ於テ其返還ヲ爲ス
第百八十條 不可抗力ニ因リテ借用物ヲ返還スルコト能ハサルトキハ借主ハ其物ノ不可抗力ニ罹リシ日及ヒ場所ノ相場ニ從ヒテ算定シタル其物ノ價額ヲ負擔ス
第百八十一條 貸主ニ屬セサル物ノ貸借ハ無效ナリ其貸借カ利息附ニシテ且借主カ善意ナリシトキハ貸主ハ借主ニ對シテ擔保ノ責ニ任ス
然レトモ此貸借ハ左ノ場合ニ於テハ有效ナリ
第一 借主カ善意ニテ借用物ヲ消費シタルトキ
第二 借主カ時效ニ因リ眞所有者ノ囘復ノ請求ヲ排却シタルトキ
第三 眞所有者カ貸借ヲ認諾シタルトキ
第百八十二條 貸借物ニ借主ノ了知セスシテ貸主ノ了知シタル隱レタル瑕疵アリテ借主爲メニ損害ヲ受ケタルトキト雖モ貸主ハ無利息ノ貸借ニ付テハ其損害ノ責ニ任セス但貸主ニ詐欺アリ又ハ加害ノ意思アリタルトキハ此限ニ在ラス
此貸借カ利息附ナルトキハ貸主ノ了知セサリシ隱レタル瑕疵ト雖モ之ヲ了知スルコトヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス
此他賣買廢却訴權ニ關スル第九十四條乃至第百一條ノ規定ハ之ヲ消費貸借ニ適用スルコトヲ得
第百八十三條 財產編第四百六十三條乃至第四百六十六條ハ正貨又ハ强制通用ノ紙幣ニテ爲シタル消費貸借ニ之ヲ適用ス
然レトモ貸主カ財產編第四百六十五條ノ許セル金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定シタル價額ノ辨濟ヲ受ケ又ハ此等ノ正貨ノ一ヲ以テ辨濟ヲ受クルコトヲ要約スルニハ同性質ノ正貨又ハ他ノ正貨若クハ紙幣ヲ以テ對當ノ價額ヲ實際ニ貸付スルコトヲ要ス
第百八十四條 貸借ヲ金銀塊ニテ爲シタルトキハ借主ハ他ノ商品ノ貸借ノ如ク同一ノ性質、重量及ヒ品格ノ金銀塊ヲ返還スルコトヲ要ス
第百八十五條 金錢、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外ニ利息ノ名目ヲ以テ借用物ノ割合ニ應スル金額又ハ有價物ノ辨濟ヲ約スルコトヲ得
第百八十六條 利息ハ要約シタルニ非サレハ借主ニ對シテ之ヲ要求スルコトヲ得ス
借主ヨリ利息ヲ辨濟ス可キノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其割合ハ法律上ノ利息ニ從フ
要約セラレサル利息ヲ法律ノ制限內ニテ任意ニ辨濟シタル借主ハ之ヲ取戾シ又ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當スルコトヲ得ス
第百八十七條 合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユルコトヲ得但法律ヲ以テ特ニ定メタル合意上ノ利息ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ス
法律ノ制限ヲ超エテ顯然ニ利息ヲ定メタルトキハ之ヲ法律ノ制限ニ減却シ此制限ヲ超エテ爲シタル辨濟ハ之ヲ元本ノ辨濟ニ充當シ又ハ之ヲ取戾スコトヲ得
債權者カ實際ニ貸付シタル元本ヲ超ユル元本ヲ認メシメ又ハ其他ノ方法ヲ以テ不正當ノ利息ヲ隱祕シタルトキハ債務者ハ其不正當ノ利息ヲ辨濟スルコトヲ要セス若シ辨濟シタルトキハ之ヲ取戾スコトヲ得
第百八十八條 貸主ハ支拂時期ノ至リタル利息ニ付キ異議ヲ爲サスシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリトノ推定ヲ受ク但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
第百八十九條 十个年ヲ超ユル期間ヲ以テ利息附ノ貸借ヲ爲シタルトキハ借主ハ如何ナル反對ノ合意アルモ十个年後ハ常ニ辨濟ヲ爲ス權能ヲ有ス
然レトモ年賦金ヲ以テ利息ノ外尙ホ元本ノ幾分ヲ漸次ニ辨濟ス可キトキハ其取越辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
第百九十條 第百八十六條乃至第百八十九條ノ規定ハ消費貸借ヨリ生スル義務ヲ除ク外金錢又ハ定量物ノ義務及ヒ合意上、法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス
第二節 無期年金權ノ契約
第百九十一條 貸主ハ元本ノ要求ヲ爲スコトヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ルコトヲ要約スルコトヲ得之ヲ無期年金權ノ設定ト謂フ
此禁止ハ明示ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
第百九十二條 無期年金ノ債務ヲ負擔スル借主ハ如何ナル反對ノ合意アルモ常ニ其受取リタル元本ノ辨濟ヲ爲スコトヲ得
然レトモ借主ハ十个年ヲ超エサル或ル時期前ニ辨濟ヲ爲ササルヲ約スルコトヲ得
右期間ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ亦十个年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十个年ニ短縮ス
辨濟ハ反對ノ合意アラサルトキハ全部タルコトヲ要ス
債務者ハ六个月前ニ辨濟ヲ爲ス意思ヲ債權者ニ豫吿スルコトヲ要ス但當事者ニ於テ他ノ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
債務者ハ自己ノ定メタル時期ニ於テ辨濟ヲ爲ササルトキハ其損害賠償ノ責ニ任ス然レトモ辨濟ノ强要ヲ受クルコト無シ但更改アリタルトキハ此限ニ在ラス
第百九十三條 債務者ハ財產編第四百五條第一號乃至第三號ニ依リテ尋常ノ債務者カ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ場合又ハ合式ノ付遲滯ヲ受ケタル後引續キ二个年間年金ノ辨濟ヲ缺キタル場合ニ於テハ元本辨濟ノ强要ヲ受ク
此末ノ場合ニ於テ裁判所ハ財產編第四百六條ニ從ヒ債務者ニ恩惠上ノ期限及ヒ分割辨濟ヲ許與スルコトヲ得
第百九十四條 前二條ノ規定ハ不動產讓渡ノ代價若クハ條件トシテ設定シ又ハ無償ニテ設定シタル無期年金權ニ之ヲ適用ス
右孰レノ場合ニ於テモ辨濟ハ當事者ノ評定シタル元本ヲ以テ之ヲ爲シ又元本ノ評定ナキトキハ法律上ノ利息ノ割合ニ從ヒテ計算シタル年金ヲ生ス可キ元本ヲ以テ之ヲ爲ス
日用品ヲ以テ年金ニ充ツルトキハ辨濟ハ特別ノ合意アルニ非サレハ前十个年間ノ其平均代價ニ基キ計算シタル元本ヲ以テ之ヲ爲ス
第九章 使用貸借
第一節 使用貸借ノ性質
第百九十五條 使用貸借ハ當事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ爲メ之ニ動產又ハ不動產ヲ交付シ明示又ハ默示ニテ定メタル時期ノ後他ノ一方カ其借受ケタル原物ヲ返還スル義務ヲ負擔スル契約ナリ
此貸借ハ本來無償ナリ
第百九十六條 借主ハ使用ノ物權ヲ取得セス單ニ貸主及ヒ其相續人ニ對シテ人權ヲ取得ス
借主ノ權利ハ其相續人ニ移轉セス但其相續人カ當事者ノ意思ノ之ニ異ナルコトヲ證スルトキハ此限ニ在ラス又其相續人カ他ヨリ同種ノ物ノ使用ヲ得ル爲メ裁判所ヨリ返還猶豫ノ期間ヲ受クルコトヲ妨ケス
第二節 使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務
第百九十七條 借主ハ借用物ノ性質又ハ合意ニ因リテ定マリタル用方ニ從ヒ且貸借期間ニ非サレハ其物ヲ使用スルコトヲ得ス
借主ハ此他ノ使用又ハ期限後ノ使用ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ勿論又其使用ニ際シ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル滅失又ハ毀損ニ付テモ其責ニ任ス
第百九十八條 借主ハ自己ノ物ヲ用井テ借用物ノ滅失又ハ毀損ヲ免カレシムルコトヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物トカ同時ニ危險ヲ受クルニ際シ自己ノ物ノミヲ救護シタルトキモ亦意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ノ責ニ任ス
第百九十九條 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負擔シ貸主ニ對シテ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第二百條 借主ハ合意セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還スルコトヲ要ス其時期前ト雖モ許サレタル使用ヲ終リシトキハ亦同シ但第二百三條第二項ノ規定ヲ妨ケス
返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ繼續ス可キモノナルトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リテ返還ノ爲メ相應ナル時期ヲ定ム
第二百一條 借主カ借用物ノ第三者ニ屬スルコトヲ了知スルトキト雖モ貸主又ハ其代人ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス但第三者カ其返還ニ付キ合式ニ故障ヲ爲シタルトキハ此限ニ在ラス
此末ノ場合ノ外返還ハ貸主又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス
第二百二條 數人連合シテ同時又ハ交互ニ用ユル爲メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自連帶ニテ上ノ義務ヲ負擔ス
第二百三條 貸主ハ明示又ハ默示ニテ借主ニ許シタル期限前ニ貸付物ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス
然レトモ其物ニ付キ急迫ニシテ且豫期セサル要用ノ生シタルトキハ貸主ハ裁判所ニ請求シテ期限前ニ一時又ハ永久ノ返還ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百四條 貸主ハ借主カ借用物保存ノ爲メ支出シタル必要且急迫ナル費用ヲ之ニ辨償スル責ニ任ス
又貸主ハ貸付物ノ瑕疵ノ爲メニ借主ノ受ケタル損害ニ付テハ第百八十二條第一項ノ規定ヲ適用ス
第二百五條 借主ハ前條ニ依リテ自己ノ受ク可キ賠償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置權ヲ行フコトヲ得
第十章 寄託及ヒ保管
第一節 寄託
第二百六條 寄託ハ一人カ動產ヲ交付シ他ノ一人カ之ヲ看守シ要求次第直チニ原物ヲ返還スル契約ナリ
寄託ハ本來無償ナリ
寄託ニハ任意ノモノ有リ急迫ノモノ有リ
第一款 任意寄託
第二百七條 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ選擇スルコトヲ得ル場合ニ於テ成ルモノナリ
第二百八條 寄託ハ所有者ノミナラス尙ホ物ノ看守及ヒ保存ニ付キ利害ノ關係アル人又ハ其代理人之ヲ爲スコトヲ得
又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代人之ヲ爲スコトヲ得
第二百九條 寄託ハ契約ヲ爲ス完全ノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
然レトモ無能力者ハ猶ホ自己ノ手ニ存スル寄託物ノ返還又ハ寄託ニ因リテ得タル利益ノ返還ニ付キ民事上其責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス
第二百十條 受寄者ハ受寄物ノ看守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財產ニ加フルト同一ノ注意ヲ爲スコトヲ要ス
然レトモ受寄者カ自ラ求メテ寄託ヲ受ケ又ハ單ニ自己ノ利益ヲ目的トシ要用ニ從ヒ受寄物ヲ使用スルノ許諾ヲ得テ寄託ヲ受ケタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理人ノ注意ヲ爲ス責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テ受寄者カ其物ヲ使用シタルトキハ第百九十八條ノ規定ヲ適用ス
第二百十一條 受寄物返還ノ遲滯ニ付セラレタル受寄者ハ普通法ニ從ヒ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ル滅失ノ責ニ任ス
第二百十二條 寄託者カ受寄者ニ寄託物ノ性質ヲ隱祕シタルトキハ受寄者之ヲ知ラント探求スルコトヲ得ス又其性質ヲ受寄者ノミニ知ラシメタル場合ニ於テモ受寄者之ヲ他人ニ漏泄スルコトヲ得ス若シ之ヲ漏泄シタル爲メ損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第二百十三條 受寄者ハ受寄物ヲ使用シ又ハ其果實ヲ消費スルコトヲ得ス但此カ爲メ寄託者ノ明示又ハ默示ノ許諾アリタルトキハ此限ニ在ラス
此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ與フルニ足ラス
第二百十四條 受寄者ハ其收取シタル果實及ヒ產出物ト又之ヲ金錢ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代金ト共ニ原物ヲ返還スルコトヲ要ス但前條ノ規定ヲ妨ケス
受寄者カ受寄物ニ付キ或ル償金又ハ或ル權利若クハ利益ヲ取得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移轉スルコトヲ要ス
又受寄者カ故意ニテ受寄物ヲ消費シ讓渡シ又ハ隱匿シタルトキハ遲滯ニ付セラルルコト無クシテ當然損害賠償ノ責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス
第二百十五條 受寄者ノ相續人カ受寄物ナルコトヲ知ラスシテ其物ヲ消費シ又ハ之ヲ讓渡シタルトキハ其相續人ハ此ニ因リテ得タル利益ノ額ニ滿ツルマテ賠償ノ責ニ任ス
右ノ規定ハ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ物トシテ受寄物ヲ處分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス
第二百十六條 寄託物ノ返還ハ寄託者又ハ其法律上若クハ合意上ノ代人ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二百十七條 返還ニ付キ場所ヲ定メサリシトキハ受寄者カ受寄物ヲ移置シタルモ其現在ノ場所ニ於テ之ヲ返還ス但寄託者ヲ詐害スル意思アルトキハ此限ニ在ラス
第二百十八條 寄託者ノ要求次第物ヲ返還ス可キ受寄者ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
第一 受寄者カ其物ノ自己ニ屬スルコトヲ證スルコトヲ得ルトキ
第二 受寄者カ次條ニ從ヒテ留置權ヲ行フコトヲ得ルトキ
第三 受寄者カ拂渡差押ノ合式ノ吿知ヲ受ケタルトキ
第四 受寄者カ受寄物ノ盜品ナルコトヲ覺知シ且其所有者ヲ知リタルトキ但此場合ニ於テ受寄者ハ所有者ニ其寄託ヲ受ケタルコトヲ通知シ且指定セル相應ノ期間ニ寄託者ト立會ノ上ニテ其物ヲ要求ス可ク若シ此期間ヲ過クルモ立會ハサルトキハ寄託者ニ返還ヲ爲ス可キ旨ヲ催吿スルコトヲ要ス
第二百十九條 寄託者ハ寄託物ノ保存ノ爲メ受寄者ノ支出シタル必要ノ費用ト其物ノ爲メニ受寄者ノ受ケタル損害トヲ賠償スルコトヲ要ス
右賠償ノ皆濟ヲ受クルマテ受寄者ハ受寄物ノ上ニ留置權ヲ行フコトヲ得
第二款 急迫寄託及ヒ旅店寄託
第二百二十條 寄託者カ火災、洪水、難船、地震又ハ暴動ノ如キ不測ニシテ且不可抗ノ事變ニ因リ已ムヲ得ス寄託ヲ爲ストキハ之ヲ急迫ノ寄託ト謂フ
急迫ノ寄託ハ諸般ノ方法ニ依リ又ハ事情ヨリ生スル事實ノ推定ニ依リテ之ヲ證スルコトヲ得
此他急迫寄託ハ任意寄託ノ規則ニ從フ
第二百二十一條 旅店及ヒ下宿屋ノ主人ハ其止宿セシムル旅人ノ携帶シタル手荷物ノ受託ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス
舟車運送人其他水陸運送ノ營業人モ亦其運送ヲ任セラレタル荷物ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス
然レトモ本條ノ受寄者ハ有償合意ヨリ生スル通常ノ義務ヲ負擔ス
第二節 保管
第二百二十二條 保管トハ數人ノ間ニ於テ爭論ノ目的タル物ヲ第三者ニ寄託スルヲ謂フ
保管ハ動產又ハ不動產ヲ目的トスルコトヲ得
保管ニハ合意上ノモノ有リ裁判上ノモノ有リ
第二百二十三條 合意上ノ保管ハ其保管ニ付テモ保管人ノ選定ニ付テモ當事者ノ承諾アルコトヲ要ス
裁判上ノ保管人ハ當事者カ其選定ニ付キ一致セサルトキニ非サレハ裁判所ハ職權ヲ以テ之ヲ選定スルコトヲ得ス
裁判所ハ當事者ノ一人ヲ保管人ニ選任スルコトヲ得
第二百二十四條 合意上ト裁判上トヲ問ハス保管人ハ報酬ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テ保管人ハ善良ナル管理人ノ通常ノ注意ヲ保管物ニ加フル責ニ任ス
第二百二十五條 裁判上ノ保管人ハ財產編第百十九條ニ從ヒテ保管物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ合意上ノ保管人ハ當事者ノ特別ノ委任ヲ受クルニ非サレハ賃貸スルコトヲ得ス
裁判上又ハ合意上ノ保管人ハ其占有ヲ保持シ又ハ之ヲ囘收スル爲メ占有訴權ヲ行フコトヲ得
保管人ノ占有ハ爭訟ニ於テ確定ニ勝ヲ得タル當事者ヲ利ス
第二百二十六條 保管ニ付シタル物ハ勝ヲ得タル當事者ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス
然レトモ保管人ハ自己ノ責任ヲ免カルル爲メ當事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ求ムルコトヲ得
第二百二十七條 右ノ外合意上及ヒ裁判上ノ保管ハ尋常ノ寄託ノ規則ニ從フ
第二百二十八條 差押物ニ於ケル裁判上ノ保管及ヒ債務者カ辨濟ニ提供シテ債權者ノ受取ルコトヲ拒ミタル金錢若クハ有價物ノ供託ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第十一章 代理
第一節 代理ノ性質
第二百二十九條 代理ハ當事者ノ一方カ其名ヲ以テ其利益ノ爲メ或ル事ヲ行フコトヲ他ノ一方ニ委任スル契約ナリ
代理人カ委任者ノ利益ノ爲メニスルモ自己ノ名ヲ以テ事ヲ行フトキハ其契約ハ仲買契約ナリ
仲買契約ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二百三十條 代理ハ默示ニテ之ヲ委任シ及ヒ之ヲ受諾スルコトヲ得
第二百三十一條 代理ハ無償ナリ但反對ノ明示又ハ默示ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十二條 代理ニハ總理ノモノ有リ部理ノモノ有リ
總理代理ハ爲ス可キ行爲ノ限定ナキ代理ニシテ委任者ノ資產ノ管理ノ行爲ノミヲ包含ス
代理カ或ハ管理或ハ處分或ハ義務ニ關シテ一箇又ハ數箇ノ限定セル行爲ヲ目的トスルトキハ其代理ハ部理ナリ
第二百三十三條 凡ソ代理ハ總理ナルト部理ナルトヲ問ハス其目的タル行爲ヨリ必然ニ生ス可キ事柄ヲ暗ニ包含ス
然レトモ元本ヲ諾約スル委任ハ其辨濟ヲ爲ス委任ヲ包含セス
元本ヲ要約スル委任ハ其辨濟ヲ受クル委任ヲ包含セス
訴訟ヲ爲ス委任ハ仲裁人ヲ選任シ請求ニ承服シ訴訟ヲ取下ケ又ハ和解ヲ爲ス委任ヲ包含セス
和解ヲ爲ス委任ハ仲裁人又ハ裁判所ヲシテ爭論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス
仲裁人ヲ選任スル委任ハ和解ヲ爲シ又ハ裁判所ヲシテ其爭論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス
第二百三十四條 代理ハ無能力者ニモ有效ニ之ヲ委任スルコトヲ得然レトモ其代理人ハ委任者ニ對シテハ無能力者ノ制限アル責任ノミヲ負擔ス
第二百三十五條 代理人ハ其管理行爲ノ全部又ハ一分ニ付キ他人ヲシテ自己ニ代ハラシムルコトヲ得但此ヲ明示ニテ禁止セサルトキ又ハ事件ノ性質ニ因リテ專ラ代理人ノミニ委任シタリト看做ス可カラサルトキニ限ル此場合ニ於テ代理人ハ自己ノ管理ニ於ケル如ク其復代人ノ管理ノ責ニ任ス
委任者カ復代人ヲ指定シタルトキハ代理人ハ其指定ニ從フコト能ハサル場合ニ於テモ他人ヲ選任スルコトヲ得ス代理人カ其指定ニ從ヒ選任ヲ爲シタル場合ニ於テハ代理人ハ其復代人ノ無能又ハ不誠實ニ付キ委任者ニ之ヲ吿知スルコトヲ怠リ又ハ復代人ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス
委任者ノ禁止シタルニ拘ハラス復代人ヲ選任シ又ハ其許諾セサル人ヲ選任シタル場合ニ於テハ代理人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル損害ニ付テモ其責ニ任ス但此復代人ノ選任ヲ爲ササレハ其損害ノ生セサル可カリシトキニ限ル
第二百三十六條 前條第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テ委任者ハ復代人ニ對シ其管理ニ關スル訴權ヲ直接ニ行フコトヲ得又之ニ對シ直接ニ責任ヲ負擔ス
同條第三項ノ場合ニ於テ委任者ハ直接訴權ト代理人ノ名ヲ以テスル間接訴權トノ間ニ選擇權ヲ有ス然レトモ直接訴權ヲ行ヒタルトキハ其復代人ノ選任ヲ認諾シタルモノト看做ス
第二節 代理人ノ義務
第二百三十七條 代理ノ終了セサル間ハ代理人ハ委任ノ本旨ニ從ヒ且明示ナキモ自己ノ了知シタル委任者ノ意思ヲ斟酌シテ委任事件ヲ成就スル責ニ任ス此ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス
全部ノ履行ヲ爲スヲ得サルトキハ委任者ニ有益ナルニ非サレハ代理人ハ一分ノ履行ヲ爲ス責ナク且之ヲ爲スコトヲ得ス
第二百三十八條 指定ノ代價ニテ物ヲ買入ルル委任ヲ受ケタル代理人カ其指定ヲ超ユル代價ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ得ル能ハサリシトキハ代理人ハ其超過額ヲ抛棄シテ買入ノ認諾ヲ委任者ニ要求スルコトヲ得又委任者ハ代理人ノ辨濟シタル代價ヲ以テ物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得
物ヲ賣却スル委任ヲ受ケタル場合ニ於テ代理人カ指定ノ代價以下ニテ之ヲ賣却シタルトキハ代理人ハ代價ノ差額ヲ補足シテ其賣却ヲ認諾セシムルコトヲ得
第二百三十九條 代理人ハ委任事件ヲ成就セシムルコトニ付テハ善良ナル管理人タルノ注意ヲ爲ス責ニ任ス
然レトモ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ過失ハ較ヤ寬大ニ之ヲ査定ス
第一 代理人カ無償ニテ代理ヲ爲ストキ
第二 代理人カ自ラ求メテ代理ヲ爲シタルニ非サルトキ
第三 委任者カ代理人ノ不熟練ナルコトヲ了知シ又ハ之ヲ推量シタルトキ
第四 代理人カ管理ノ或ル行爲ニ付キ委任者ヲシテ其豫期セサリシ利益ヲ得セシメタルトキ
第二百四十條 代理人ハ代理ノ終了シタルトキハ證據書類ヲ添ヘテ其計算ヲ爲ス責ニ任ス其終了前ト雖モ委任者ノ之ヲ求メタルトキハ亦同シ
第二百四十一條 代理人ハ委任者ノ名ヲ以テ又ハ管理ニ關シ自己ノ名ヲ以テ受取リタル金額若クハ有價物ヲ委任者ニ返還スルコトヲ要ス又委任者カ正當ニ受取ルコトヲ得ス又ハ代理人ニ受取ルコトヲ託セサリシ金額若クハ有價物ト雖モ之ヲ受取リタルトキハ亦同シ然レトモ次節ニ從ヒテ委任者ヨリ受取ル可キ金額ヲ控除ス
代理人ハ自己ノ收取スルコトヲ怠リ又ハ自己ノ過失ニ因リテ滅失セシメタル金額若クハ有價物ノ價額ヲ前數條ニ依リテ負擔スル損害賠償ト共ニ前項ノ返還中ニ附加ス
第二百四十二條 委任者ノ許諾ヲ受ケスシテ其元本ヲ自己ノ利益ニ用井タル代理人ハ其使用ノ日ヨリ當然利息ヲ負擔ス其他損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
計算殘餘ノ金額ニ付テハ代理人ハ其遲滯ニ付セラレタル日ヨリ利息ヲ負擔ス
第二百四十三條 一箇ノ事件ニ付キ數人ノ代理人アルトキハ唯一ノ證書ヲ以テ之ヲ委任シタルト各別ノ證書ヲ以テ之ヲ委任シタルトヲ問ハス各代理人ハ自己ノ過失ニ付テノミ其責ニ任シ連帶ヲ要約シタルトキ又ハ過失ノ連合ナルトキニ非サレハ其間ニ連帶ヲ成サス
第二百四十四條 代理人カ委任者ノ爲メ委任者ノ名ヲ以テ第三者ト爲シタル行爲ノ履行ニ付テハ代理人ハ其第三者ニ對シテ責ニ任セス但代理人カ明示ニテ履行ノ責ニ任シ又ハ第三者ニ對シテ己レノ有セサル權限ヲ有スルモノノ如ク示シタルトキハ此限ニ在ラス
第三節 委任者ノ義務
第二百四十五條 委任者ハ代理人ニ對シテ左ノ義務ヲ負擔ス
第一 代理人カ代理ノ履行ノ爲メ支出シタル立替金又ハ正當ノ費用ノ辨償及ヒ其支出シタル日以來ノ法律上ノ利息ノ辨償
第二 合意シタル謝金ノ辨濟
第三 代理人カ其管理ニ因リ又ハ其管理ヲ爲スニ際シ自己ノ過失ニ非スシテ受ケタル損害ノ賠償但豫見シタル損害ニシテ其全部又ハ一分ニ付キ特ニ謝金ヲ諾約スル理由ト爲リタルモノハ此限ニ在ラス
第四 代理人カ其管理ニ因リテ負擔シタル一身上ノ義務ノ解脫又ハ其賠償
第二百四十六條 代理人ハ前條ニ揭ケタル支出ヲ爲スコトヲ約セサルトキハ其責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル資金ヲ供スルコトヲ拒絕シ又ハ遲延セシコトノ證據ナキニ於テハ支出ヲ約セサル爲メ代理ノ履行ヲ遲延スルコトヲ得ス
第二百四十七條 謝金ハ代理ノ全部履行アリタル後ニ非サレハ委任者之ヲ負擔セス但一分ツツ辨濟ス可キコトヲ諾約シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ノ責ニ歸セサル原因ニ由リテ全部ノ履行ニ妨碍アリタルトキハ謝金ハ其履行ノ割合ニ應シテ委任者之ヲ負擔ス
第二百四十八條 委任者カ義務ヲ辨濟スルニ至ルマテ代理人ハ代理ニ依リテ所持シ且債權者ト爲レル原因タル物ノ上ニ留置權ヲ有ス
第二百四十九條 數人カ唯一ノ證書又ハ各別ノ證書ヲ以テ共同事件ノ爲メ代理ヲ委任シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帶シテ上ノ義務ヲ負擔ス但反對ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
第二百五十條 委任者ハ代理人カ委任ニ從ヒ委任者ノ名ニテ約束セシ第三者ニ對シテ負擔シタル義務ノ責ニ任ス
委任者ハ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ權限外ニ爲シタル事柄ニ付テモ亦其責ニ任ス
第一 委任者カ明示又默示ニテ代理人ノ行爲ヲ認諾シタルトキ
第二 委任者カ代理人ノ行爲ニ因リテ利益ヲ得タルトキ但其利益ノ限度ニ從フ
第三 第三者カ善意ニシテ且代理人ニ權限アリト信スル正當ノ理由ヲ有シタルトキ
第四節 代理ノ終了
第二百五十一條 代理ノ履行又ハ其履行ノ不能及ヒ代理ニ付シタル期限ノ到來又ハ條件ノ成就ノ外尙ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リテ終了ス
第一 委任者ノ爲シタル廢罷
第二 代理人ノ爲シタル抛棄
第三 委任者又ハ代理人ノ死亡、破產、無資力若クハ禁治產
第四 委任者カ代理ヲ委任シ又ハ代理人カ之ヲ受諾セシ原因タル資格ノ絕止
第二百五十二條 委任者ノミノ利益ノ爲メニ委任セシ代理ノ廢罷ハ謝金ヲ諾約シタルトキト雖モ委任者ハ何時ニテモ隨意ニ之ヲ爲スコトヲ得
第二百五十三條 廢罷ハ將來ニ向ヒテノミ有效ナリ且其廢罷前ニ有效ニ爲シタル事柄ヲ害セス
第二百五十四條 數人ノ委任者アルトキハ其中ノ一人ノ爲シタル廢罷ハ他ノ人ノ代理ヲ終了セシメス
第二百五十五條 代理ノ廢罷ハ默示タルコトヲ得默示ノ廢罷ハ同一ノ事件ニ付キ新代理人ノ選任又ハ委任者ノ管理ノ囘復其他ノ事情ヨリ生スルモノナリ
第二百五十六條 代理ノ抛棄カ委任者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ代理人ハ其賠償ノ責ニ任ス但正當又ハ已ムヲ得サル原因ニ基キタルトキハ此限ニ在ラス
代理ノ抛棄モ亦默示ニテ之ヲ爲スコトヲ得
第二百五十七條 代理終了ノ原因ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ヨリ出テタルトヲ問ハス當事者カ其吿知ヲ受ケタルカ又ハ確實ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ當事者互ニ之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
當事者ノ一方ノ死亡シタル場合ニ於テハ其相續人ヨリ吿知スルコトヲ要ス
第二百五十八條 委任者カ代理人ヨリ委任狀ヲ取戾シタルトキト雖モ懈怠ナシニ代理ノ終了ヲ知ラスシテ代理人ト約束シタル第三者ニハ代理終了ノ原因ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス
第二百五十九條 代理カ上ニ揭ケタル原因ノ一ニ由リテ終了セシトキハ代理人又ハ其相續人ハ委任者又ハ其相續人カ既ニ生シタル利益ヲ自ラ處理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ處理セシムルコトヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ處理スルコトヲ要ス
此規定ハ代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廢罷ニ因レルトキヨリモ一層嚴ニ之ヲ適用ス
第十二章 雇傭及ヒ仕事請負ノ契約
第一節 雇傭契約
第二百六十條 使用人、番頭、手代、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ勞務ニ服スルコトヲ得
雇傭ハ地方ノ慣習ニ因リ定マリタル時期ニ於テ又ハ確定ノ慣習ナキトキハ何時ニテモ一方ヨリ豫メ解約申入ヲ爲スニ因リテ終了ス但其解約申入ハ不利ノ時期ニ於テ之ヲ爲サス又惡意ニ出テサルコトヲ要ス
第二百六十一條 雇傭ノ期間ハ使用人、番頭、手代ニ付テハ五个年職工其他ノ雇傭人ニ付テハ一个年ヲ超ユルコトヲ得ス但習業契約ニ關スル下ノ規定ヲ妨ケス
此ヨリ長キ時期ヲ約シタルニ於テハ當事者ノ一方ノ隨意ニテ右ノ時期ニ之ヲ短縮ス但更新ヲ爲ス權能ヲ妨ケス
第二百六十二條 雇傭ハ時期ヲ定メタルトキト雖モ當事者ノ一方ノ義務不履行ニ因ル解除ノ爲メ又ハ一方ヨリ出テタル正當ニシテ且已ムヲ得サル原因ノ爲メ其定期前ニ於テ終了ス
如何ナル場合ニ於テモ主人ノ一身ニ關スル雇傭ハ其死亡ノ爲メ當然終了ス
第二百六十三條 雇傭ヲ終了セシムル正當ノ原因カ主人ヨリ出テ且地方ノ慣習ニ從ヒ雇傭ノ新契約ヲ爲スニ困難ナル季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ事情ニ從ヒテ定ムル償金ヲ雇傭人ニ付與セシムルコトヲ得
第二百六十四條 如何ナル場合ニ於テモ雇傭人ノ死亡ハ契約ヲ終了セシム但其相續人ハ給料又ハ賃銀ノ取越過額ヲ返還ス
第二百六十五條 上ノ規定ハ角力、俳優、音曲師其他ノ藝人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス
第二百六十六條 醫師、辯護士及ヒ學藝敎師ハ雇傭人ト爲ラス此等ノ者ハ其患者、訴訟人又ハ生徒ニ諾約シタル世話ヲ與ヘ又ハ與ヘ始メタル世話ヲ繼續スルコトニ付キ法定ノ義務ナシ又患者、訴訟人又ハ生徒ハ此等ノ者ノ世話ヲ求メテ諾約ヲ得タル後其世話ヲ受クル責ニ任セス
然レトモ實際世話ヲ與ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及ヒ合意トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得
此等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ諾約シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絕シタル者ハ其拒絕ヨリ此等ノ者ニ金錢上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
之ニ反シテ世話ヲ與フルコトヲ諾約シタル後正當ノ原因ナクシテ之ヲ拒絕シタル者ハ因リテ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第二節 習業契約
第二百六十七條 工業人、工匠又ハ商人ハ習業契約ヲ以テ習業者ニ自己ノ職業上ノ知識ト實驗トヲ傳授シ習業者ハ其人ノ勞務ニ助力スルヲ約スルコトヲ得
未成年者ハ其父、後見人其他自己ニ對シテ權力ヲ有スル人ノ保佐又ハ名代ニ依ルニ非サレハ習業契約ヲ取結フコトヲ得ス
第二百六十八條 合式ニ保佐ヲ受クル未成年者又ハ其代人ノ取結ヒタル習業契約ハ其未成年ノ時期ヲ超ユルコトヲ得ス但習業者カ成年ニ達シタル後其契約ヲ更新シ又ハ之ヲ伸長スルコトヲ妨ケス
第二百六十九條 習業契約ハ當事者相互ノ義務ノ性質及ヒ廣狹ヲ定ム
習業契約ノ不備ハ師匠又ハ親方ノ其職業ヲ行フ地方ノ慣習ニ從ヒテ之ヲ補完スルコトヲ得
第二百七十條 師匠又ハ親方ハ習業者ニ衣食及ヒ職業ノ器具ヲ與ヘ且日常ノ便用ヲ足ラシムルコトヲ要ス但反對ノ合意ナク且地方ノ慣習ノ此ニ異ナラサルトキニ限ル
師匠又ハ親方ハ習業者ニ其習業契約ノ目的タル職業ヲ學フコトヲ得セシムル爲メ必要ナル時間ヲ與ヘ世話ヲ爲シ及ヒ諸般ノ便利ヲ圖ルコトヲ要ス
未成年ノ習業者カ未タ算筆ヲ知ラサルトキハ師匠又ハ親方ハ何等ノ反對ノ合意アルモ習業者ニ算筆修習ノ爲メ休憩時間外ニ於テ每日少ナクトモ一時間ヲ與フルコトヲ要ス
第二百七十一條 習業者ハ其習ハント欲スル職業ニ關シ日日ノ時間及ヒ勞務ヲ師匠又ハ親方ニ供スルコトヲ要ス
第二百七十二條 習業者カ自己又ハ其親屬ノ疾病其他不可抗ノ原因ニ由リテ一个月以上引續キ勞務ヲ供スルコト能ハサルトキハ習業者ハ其成年ニ達シタル後ト雖モ習業契約ノ期限滿了後ニ於テ前契約ニ同シキ相互ノ條件ヲ以テ休業シタル時間ヲ補足スルコトヲ要ス
第二百七十三條 習業契約ハ左ノ諸件ニ因リテ當然終了ス
第一 師匠、親方又ハ習業者ノ死亡
第二 師匠、親方又ハ習業者ノ陸海軍ノ現役
第三 師匠、親方又ハ習業者ノ重罪又ハ三个月ヲ超ユル禁錮ノ處刑
第四 合意又ハ法律ヲ以テ定メタル期間ノ滿了
第二百七十四條 左ノ原因アルトキハ解除ノ利益ヲ得ル一方ノ當事者ノ請求ニ因リ裁判所ハ契約ノ解除ヲ宣吿スルコトヲ得
第一 相互ノ義務ノ不履行但不可抗ノ原因ニ由ルトキモ亦同シ
第二 習業者ニ對スル師匠又ハ親方ノ苛酷ナル取扱
第三 習業者ノ平常ノ不品行
第四 前條ニ揭ケタル場合ノ外師匠、親方又ハ習業者ノ犯罪
第五 契約ヲ履行ス可キ土地外ニ師匠又ハ親方ノ轉居
本條ニ依リテ解除ノ宣吿ヲ受ケタル當事者ノ一方ハ自己ニ過失アルトキハ他ノ一方ニ對シテ尙ホ其損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ク前條ニ揭ケタル處刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
第三節 仕事請負契約
第二百七十五條 工技又ハ勞力ヲ以テスル或ル仕事ヲ其全部又ハ一分ニ付キ豫定代價ニテ爲スノ合意ハ注文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ若シ請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ爲ス可キ條件附ノ賣買ナリ
第二百七十六條 前條ニ揭ケタル二箇ノ場合ニ於テ物ノ全部又ハ一分ニ付キ既ニ仕事ヲ爲シタル後ニ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ其物ノ滅失セシトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ屬スル者之ヲ負擔シ請負人ハ仕事賃ヲ損失ス
當事者ノ一方カ其所爲ニ因リテ滅失ヲ來タシタルカ又ハ引渡若クハ受取ニ付キ遲滯ニ在ルトキハ其一方ノミ材料及ヒ仕事賃ニ付キ其滅失ヲ負擔ス但損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
請負人ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ一分ノ滅失又ハ單一ナル毀損カ物ニ其價額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス又其減價カ半以下ニ在ルトキハ財產編第百四十六條、第四百十九條第三項及ヒ第四百二十條ノ規定ヲ適用ス
注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ注文者ハ滅失又ハ毀損ノ後存在スル材料ノ部分ノ增價シタル限度ニ從ヒテ仕事賃ヲ辨濟スル責ニ任ス
第二百七十七條 注文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テハ仕事完成ノ後ニ非サレハ引渡ヲ實行セサル可キトキト雖モ一分宛仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スルコトヲ得
此場合ニ於テ注文者カ既成ノ仕事ヲ調査シテ受取リタルトキ又ハ之ヲ調査スルコトノ遲滯ニ在ルトキハ請負人ハ既成ノ仕事ニ付キ其危險ノ責ヲ免カル
仕事中ニ注文者ヨリ前金又ハ內金ヲ供シタルモ此ヲ以テ既成ノ仕事ヲ受取リタリト看做サス然レトモ物カ注文者ノ明白ナル受取又ハ其付遲滯ノ以前ニ滅失シタルトキハ注文者ハ既成ノ仕事ヲ超ユル部分ニ非サレハ前金又ハ內金ヲ取戾スコトヲ得ス
第二百七十八條 注文者カ異議ヲ留メスシテ工作物ヲ受取リタルモ後日其物ノ使用ニ不適當ナル隱レタル瑕疵ヲ發見スルトキハ注文者ハ其受取ヲ取消シテ代價ノ減殺又ハ其一分ノ返還ヲ請求スル權利ヲ失ハス
此權利ニ基キタル訴權ハ注文者ニ屬スル動產又ハ不動產ノ上ニ施シタル仕事ニ付テハ全部ノ工作物ヲ受取リタル後ノ三个月ニテ消滅ス
職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ付テハ第九十九條ノ規定ヲ適用ス
第二百七十九條 建物、牆壁其他地上ニ於ケル大ナル工作物ヲ請負ニテ築造シタルトキハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ地盤ノ瑕疵ヨリ生シタル其工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壞ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト否トヲ區別セス
右責任ハ左ノ時期ノ間繼續ス
第一 牆壁其他土工ニ付テハ其受取後二个年
第二 木造ノ建物ニ付テハ三个年
第三 石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ土藏ニ付テハ十个年
第二百八十條 右ノ責任ニ基キタル賠償訴權ハ左ノ時期ヲ以テ時效ニ罹ル
第一 物ノ全部ノ滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一个年
第二 物ノ一分ノ滅失又ハ重大ノ毀損ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ滿了ノ時ヨリ六个月
第二百八十一條 經畫ノ變更ヨリ代價ノ增減ヲ生ス可キモ書面ヲ以テ之ヲ定メサルトキハ其變更ヲ口實トシテ請負人ハ原代價ノ增加ヲ請求シ注文者ハ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ爲シ又ハ請負中ノ區分アル建築ヲ廢セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ當事者ノ間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代價ノ增減ヲ定ム
請負人ハ經畫又ハ其變更カ注文者ノ指圖ニ出テタルコトヲ口實トシテ第二百七十九條ニ定メタル責任ヲ免カルルコトヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ此責任ヲ免カルルコトヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第二百八十二條 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス注文者ハ常ニ自己ノ意思ノミヲ以テ契約ヲ解除スルコトヲ得然レトモ注文者ハ請負人ノ既成ノ仕事ノ賃銀及ヒ準備ノ材料ニ受ケタル損失其他ノ損害ヲ賠償シ且其契約ニ因リテ得ヘキ正當ナル利益ノ全部ヲ辨濟スル義務ヲ負擔ス
第二百八十三條 他人ノ材料ヲ以テ仕事ノ全部ニ供シタルト一分ニ供シタルト又其仕事ヲ實行シタルト契約ヲ解除シタルトヲ問ハス請負人ハ仕事ノ爲メ又ハ解除ノ賠償ノ爲メ自己ノ受ク可キ金額ノ皆濟ニ至ルマテ其材料ヲ留置スルコトヲ得但此留置權ハ動產物ノミニ之ヲ適用ス
第二百八十四條 注文者カ請負人其者ノ仕事ヲ主眼トシテ契約ヲ取結ヒタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ノ不能ニ因リテ之ヲ解除スルコトヲ得
右二箇ノ場合ニ於テ注文者ハ自己ノ期望セシ目途ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ價額ノミヲ請負人又ハ其相續人ニ辨濟スル責ニ任ス
第二百八十五條 仕事ノ一分ニ任シタル下請負人ト請負人トノ關係ニ付テハ上ノ規定ニ從フ
請負人カ下請負人ニ對シ負擔スル金額ヲ辨濟セサルトキハ下請負人ハ自己ノ名ヲ以テ直接ニ注文者ニ對シ其注文者ノ猶ホ請負人ニ辨濟ス可キ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起スコトヲ得
職工モ亦己レヲ雇ヒタル者カ賃銀ヲ辨濟セサルトキハ注文者ニ對シテ右ト同一ノ權利ヲ有ス
朕民法中財産編財産取得編債権担保編証拠編ヲ裁可シ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十六年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年三月二十七日
内閣総理大臣兼内務大臣 伯爵 山県有朋
海軍大臣 伯爵 西郷従道
司法大臣 伯爵 山田顕義
大蔵大臣 伯爵 松方正義
陸軍大臣 伯爵 大山巌
文部大臣 子爵 榎本武揚
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
外務大臣 子爵 青木周蔵
農商務大臣 岩村通俊
法律第二十八号
民法財産取得編目録
総則
第一章
先占
第二章
添附
第一節
不動産上ノ添附
第二節
動産上ノ添附
第三章
売買
第一節
売買ノ通則
第一款
売買ノ性質及ヒ成立
第二款
売渡又ハ買受ノ無能力
第三款
売渡スコトヲ得サル物
第二節
売買契約ノ効力
第一款
所有権ノ移転及ヒ危険
第二款
売主ノ義務
第一則
引渡ノ義務
第二則
追奪担保ノ義務
第三款
買主ノ義務
第三節
売買ノ解除及ヒ銷除
第一款
義務ノ不履行ニ因ル解除
第二款
受戻権能ノ行使
第三款
隠レタル瑕疵ニ因ル売買廃却訴権
第四節
不分物ノ競売
第四章
交換
第五章
和解
第六章
会社
第一節
会社ノ性質及ヒ設立
第二節
社員ノ権利及ヒ義務
第三節
会社ノ解散
第四節
会社ノ清算及ヒ分割
第七章
射倖契約
第一節
博戯及ヒ賭事
第二節
終身年金権
第一款
終身年金権ノ設定
第二款
終身年金権ノ契約ノ効力
第三款
終身年金権ノ消滅
第八章
消費貸借及ヒ無期年金権
第一節
消費貸借
第二節
無期年金権ノ契約
第九章
使用貸借
第一節
使用貸借ノ性質
第二節
使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務
第十章
寄託及ヒ保管
第一節
寄託
第一款
任意寄託
第二款
急迫寄託及ヒ旅店寄託
第二節
保管
第十一章
代理
第一節
代理ノ性質
第二節
代理人ノ義務
第三節
委任者ノ義務
第四節
代理ノ終了
第十二章
雇傭及仕事請負ノ契約
第一節
雇傭契約
第二節
習業契約
第三節
仕事請負契約
民法
財産取得編
総則
第一条 物上及ヒ対人ノ権利ハ財産編ニ規定シタル原因ニ由ル外尚ホ本編ノ規定ニ従ヒ之ヲ取得スルコトヲ得
第一章 先占
第二条 先占ハ無主ノ動産物ヲ己レノ所有ト為ス意思ヲ以テ最先ノ占有ヲ為スニ因リテ其所有権ヲ取得スル方法ナリ
第三条 狩猟、捕漁ノ権利ノ行使及ヒ漂流物、遺失物ノ取得ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
戦時ニ於ケル海陸ノ掠奪物ニ付テモ亦同シ
第四条 遺棄物ヲ先占シタリト主張スル者ハ原所有者ノ任意ノ遺棄ヲ証スル責ニ任ス
第五条 他人ニ属スル物ノ中ニ於テ偶然ニ発見シタル埋蔵物ハ所有者ノ知レサルトキハ其一半ヲ発見者ニ付与ス
埋蔵物カ埋レ又ハ隠レタル所ノ物ノ所有者ノ権利ハ次章ノ規定ニ従フ
第六条 埋蔵物ノ原所有者ハ発見後三个年間ニ非サレハ前条ノ付与ニ反シテ自己ノ権利ヲ主張スルコトヲ得ス
此期間ハ原所有者カ埋蔵物ノ埋レ又ハ隠レタル所ノ物ノ所有者タルニ於テハ其発見ヲ知リタル後一个年間ニ之ヲ短縮ス
然レトモ埋蔵物ノ占有者カ悪意ナルトキハ通常ノ時効ヲ適用ス
第二章 添附
第七条 動産ト不動産トヲ問ハス或ル物ノ所有者ハ其物ニ附従トシテ合シタル物ヲ下ノ区別ニ従ヒテ取得ス
第一節 不動産上ノ添附
第八条 建築其他ノ工作及ヒ植物ハ総テ其附著セル土地又ハ建物ノ所有者カ自費ニテ之ヲ築造シ又ハ栽植シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
右建築其他ノ工作物ノ所有権ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ属ス但権原又ハ時効ニ因リテ第三者ノ得タル権利ヲ妨ケス
植物ニ関スル場合ハ第十条ノ規定ニ従フ
第九条 土地又ハ建物ノ所有者カ他人ニ属スル材料ヲ以テ建築其他ノ工作ヲ為シタルトキハ其工作物ヲ毀壊シテ材料ヲ返還スル強要ヲ受ケス又材料ノ本主ニ其取去ヲ強要スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ所有者ハ財産編第三百八十五条ノ規定ニ従ヒテ材料ノ本主ニ償金ヲ払フノ責ニ任ス
第十条 他人ニ属スル草木ノ栽植ニ付テハ其栽植ヲ為シタル土地ノ所有者又ハ占有者ハ一个年内ニ其草木ヲ抜取リ且之ヲ返還スル強要ヲ受ク尚ホ損害アルトキハ之ヲ賠償ス
右草木ノ所有者カ其返還ヲ欲セス又ハ栽植ノ時ヨリ一个年ヲ経過シタルトキハ其所有者ハ償金ヲ受ク
第十一条 他人ノ土地又ハ建物ノ善意ノ占有者ニシテ其土地又ハ建物ニ自己ノ材料又ハ草木ヲ以テ築造又ハ栽植ヲ為シタル者ハ所有者ヨリ不動産回復ノ請求ヲ受クルニ当リ其工作物又ハ草木ヲ取払フ責ニ任セス所有者ハ其選択ヲ以テ占有者ニ材料及ヒ手間賃ヲ払ヒ又ハ不動産ノ増価額ヲ払フ
築造又ハ栽植ヲ為シタル者カ悪意ノ占有者タリシトキハ所有者ハ工作物及ヒ草木ヲ除去シテ場所ヲ旧状ニ復セシメ且損害アルトキハ之ヲ賠償セシムルコトヲ得又所有者ハ前項ノ規定ニ従ヒ占有者ニ償金ヲ払ヒテ右ノ工作物及ヒ草木ヲ保存スルコトヲ得
第十二条 舟筏ノ通ス可キト否トヲ問ハス河川ノ寄洲、中洲、干潟ノ所有権又ハ水路ノ変換ニ因リ生スル浸没地及ヒ旧川床ノ所有権ノ帰属ハ別ニ之ヲ定ム但海ノ干潟ニ付テハ財産編第二十三条ノ規定ニ従フ
第十三条 私有池ノ魚又ハ鳩舎ノ鳩カ計策ヲ以テ誘引セラレ又ハ停留セラレタルニ非スシテ他ノ池又ハ鳩舎ニ移リタルトキ其所有者カ自己ノ所有ヲ証シテ一週日間ニ之ヲ要求セサレハ其魚又ハ鳩ハ現在ノ土地ノ所有者ニ属ス
群ヲ為シテ他ニ移転シタル蜜蜂ニ付テハ一週日間之ヲ追求スルコトヲ得
飼馴サレタルモ逃ケ易キ野栖ノ禽獣ニ付テハ善意ニテ之ヲ停留シタル者ニ対シ一个月間其回復ヲ為スコトヲ得
第二節 動産上ノ添附
第十四条 各別ノ所有者ニ属スル数箇ノ動産物カ所有者ノ意ニ非スシテ第三者ニ因リテ附合セラレ其各物共ニ著シキ毀損又ハ減価ヲ受ケスシテ容易ニ分タル可キトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スルコトヲ得但損害アルトキハ附合ヲ為シタル者之ヲ賠償ス
附合ノ為メニセル物ノ変様ハ之ヲ毀損ト看做ス
第十五条 二箇ノ物カ分ツ可カラサルカ又ハ之ヲ分ツカ為メ著シキ毀損、減価ヲ為シ若クハ過分ノ費用、時日ヲ要スルトキハ孰レノ所有者モ分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ其物ハ附合ノ儘ニテ主タル物ノ所有者ニ帰属ス但此所有者ハ従タル物ノ所有者ニ損害ヲ加ヘテ己レヲ利シタル限度ニ応シ賠償ヲ負担ス
或ル物ノ便益、糚飾又ハ補完ノ為メニ附合セラレタル物ハ之ヲ従タル物ト看做ス主従ノ区別ニ付キ疑アルトキハ価格ノ低キ物ヲ以テ従タル物トス
此他ノ場合ニ於ケル物ノ主従ノ区別ハ之ヲ裁判所ノ査定ニ委ス
第十六条 附合カ主タル物ノ所有者ノ過失又ハ詐欺ニ因リテ成リ前条ノ規定ニ従ヒテ其分離ヲ為ス可カラサルトキハ従タル物ノ所有者ノ受ク可キ賠償ハ財産編第三百七十条及ヒ第三百八十五条ニ依リテ其額ヲ定ム
従タル物ノ所有者カ附合ヲ為シタルトキハ主タル物ノ所有者ノ利益ノ限度ニ応シテノミ其損失ノ賠償ヲ受ク
第十七条 不都合ナシニハ物ヲ分離スルコトヲ得サル右同一ノ場合ニ於テ其性質、品質又ハ価格ニ因ルモ主従ノ区別ヲ為シ難キトキハ其物ハ平等ノ権利ニテ各所有者之ヲ共有ス但過失又ハ悪意アル者ヨリ賠償ヲ受クルコトヲ妨ケス
第十八条 前数条ノ規定ハ各別ノ所有者ニ属スル流動物、固形物又ハ金属ノ混和ニモ亦之ヲ適用ス
然レトモ分離スルコトヲ得サル物カ其性質及ヒ品質ノ同シキニ因リテ共有ト為ル可キトキハ各自ノ権利ハ己レヨリ出テタル物ノ数量ノ割合ニ応ス
第十九条 附合又ハ混和カ所有者ノ一人ノ所為ヨリ生スル場合ニ於テハ他ノ所有者ハ専属ノ所有権ヲモ共有権ヲモ承諾スル責ニ任セス添附ヲ為シタル者ニ対シテ同品質ノ物又ハ其代価ヲ要求スルコトヲ得
第二十条 或人カ他人ノ物料ヲ以テ新ナル用方ノ物ヲ作リタルトキハ物料ノ所有者ハ手間賃ヲ払フテ其物ノ所有権ヲ要求スルコトヲ得
然レトモ手間賃カ著シク物料ノ価額ヲ超ユルトキハ新ナル物ノ所有権ハ製作者ニ属ス但製作者ハ物料ノ所有者ニ賠償スルコトヲ要ス
製作者カ物料ノ幾分ヲ供シタルトキハ其物料ノ価額ハ優先権ヲ定ムル為メ之ヲ手間賃ニ合算ス
所有者ノ承諾ナクシテ物料ヲ用井タルトキハ其所有者ハ常ニ自己ノ優先権ヲ抛棄シテ同品質、同数量ノ物又ハ其代価ヲ要求スルコトヲ得
第二十一条 附合、混和又ハ製作カ所有者ノ明示又ハ黙示ノ承諾ヲ以テ成ルトキハ所有権ハ合意ニ従ヒテ之ヲ定ム若シ疑アルニ於テハ分離カ容易ナリト雖モ其分離ヲ要求スルコトヲ得ス且優先権及ヒ共有権ニ関スル前数条ノ規定ヲ適用ス
第二十二条 前数条ニ定メサル動産物添附ノ場合ニ於テハ裁判所ハ前数条ノ規定ノ援引ス可キハ之ヲ援引シ且条理ニ基キテ所有権及ヒ賠償ノ論点ヲ審定ス
第二十三条 第五条ニ従ヒテ発見者ニ属セサル埋蔵物ノ部分ハ添附ニ因リテ其埋蔵物ノ埋レ又ハ隠レタル所ノ動産又ハ不動産ノ所有者ニ属ス
右動産又ハ不動産ノ所有者自身ニテ意外ニ発見シタル埋蔵物ハ一半ハ先占ニ因リ一半ハ添附ニ因リテ全部其所有者ニ属ス
所有者ノ所為又ハ其指図ヲ受ケ若クハ受ケサル第三者ノ所為ニテ特ニ捜索ヲ為スニ因リテ発見シタル埋蔵物ハ添附ヲ以テ全部所有者ニ属ス
原所有者ノ回復ニ対シ埋蔵物ノ発見者ノ為メ第六条ヲ以テ定メタル時効ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
第三章 売買
第一節 売買ノ通則
第一款 売買ノ性質及ヒ成立
第二十四条 売買ハ当事者ノ一方カ物ノ所有権又ハ其支分権ヲ移転シ又ハ移転スル義務ヲ負担シ他ノ一方又ハ第三者カ其定マリタル代金ノ弁済ヲ負担スル契約ナリ
売買契約ハ下ノ規定ニ従フ外有償且双務ナル契約ノ一般ノ規則ニ従フ
第二十五条 売買ハ当事者ノ承諾ノミヲ以テ完全ニ成立ス
然レトモ当事者ハ売買ノ成立ヲ各自ノ証拠ニ供スル公正証書又ハ私署証書ノ調製ノ条件ニ繋ラシムルコトヲ得
第二十六条 売渡又ハ買受ノ一方ノミノ予約アルトキハ要約者カ財産編第三百八条ノ条件及ヒ区別ニ従ヒテ契約ノ取結ヲ要求スル時ヨリ諾約者ハ其予約ニ於テ定メタル代価及ヒ条件ヲ以テ契約ヲ取結フ義務ヲ負担ス
第二十七条 諾約者カ契約ヲ取結フコトヲ拒ムトキハ裁判所ハ売買カ成立シタリトノ判決ヲ為ス不動産権ノ売買ニ関スルトキハ其判決ヲ登記ス
売渡ノ予約ヲ登記シタルトキハ右判決ハ登記ニ之ヲ附記ス其登記ハ売主ノ承継人ニ対シ既往ニ遡リテ効力ヲ生ス
第二十八条 売渡及ヒ買受ノ相互ノ予約アルトキハ当事者ノ一方ハ前条ニ従ヒ他ノ一方ニ対シテ契約ノ取結ヲ強要スルコトヲ得
裁判所ハ此場合ニ於テ当事者ノ意思ヲ解釈シ売買ノ予約カ即時ノ売買ノ効ヲ有スルモノト判決シ又期間ノ定アルトキハ其期間ハ履行ノミニ適用セラルルモノト判決スルコトヲ得
第二十九条 前四条ニ従ヒ当事者ノ双方又ハ一方カ日後売渡及ヒ買受ノ契約ヲ取結フ義務又ハ単ニ証書ヲ作ル義務ヲ負担シタル場合ニ於テ予約ノ担保トシテ手附ヲ授受シタルトキハ契約ヲ取結フコト又ハ証書ヲ作ルコトヲ拒ム一方ハ其与ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受ケタル手附ヲ二倍ニシテ還償ス
第三十条 即時ノ売買ニ於テハ手附ハ之ヲ与ヘタル者ノ利益ノ為メニノミ解約ノ方法ト為ル但買主ノ与ヘタル手附カ金銭ナルトキハ其地ノ慣習ニテ之ニ解約ノ性質ヲ付スル場合ノ外合意ニテ此性質ヲ明示スルコトヲ要ス
契約ノ全部又ハ一分ノ履行アリタルトキハ如何ナル場合ニ於テモ解約ヲ為スコトヲ得ス
第三十一条 試験ニテ為ス売買ハ事情ニ随ヒ買主ノ適意ノ停止条件又ハ拒絶ノ解除条件ヲ帯ヒテ之ヲ為シタルモノト看做スコトヲ得
試味ノ慣習アル日用品ノ売買ハ適意ノ停止条件ヲ帯ヒテ之ヲ為シタルモノト推定ス
第三十二条 前条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ買主カ己レニ属スル権能ノ行使ニ付キ期限ヲ定メサルトキハ短キ期間ニ於テ決答ス可キ催告ヲ受ク若シ其決答ヲ為サスシテ売渡物ノ引渡ヲ受ケタルトキハ買主ハ承諾シタリトノ推定ヲ受ケ反対ノ場合ニ於テハ拒絶シタリトノ推定ヲ受ク
第三十三条 売買ノ代価ハ全額ヲ以テセサルモ其目安ヲ契約ニ定ムルコトヲ要ス
又其代価ハ或ハ同種類ノ商品ノ現時又ハ近日ノ市価ニ委子或ハ契約ヲ以テ指定シタル第三者ノ評価ニ委ヌルコトヲ得
右評価カ錯誤ニ出テタルカ又ハ明カニ公平ニ反スルトキハ其評価ニ異議ヲ為スコトヲ得但其異議ハ損失ヲ受ケタリト主張スル一方カ評価ヲ知リタル時直チニ之ヲ為スコトヲ要ス
第三者ト当事者ノ一方トノ間ニ共謀ノ詐欺アルトキハ財産編第三百十二条及ヒ第五百四十四条ノ規定ヲ適用ス
当事者ハ元本又ハ無期若クハ終身ノ年金権ヲ以テ代価ヲ定ムルコトヲ得然レトモ第三者ハ元本ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ定ムルコトヲ得ス但当事者カ明示ニテ一層広キ権限ヲ第三者ニ与ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第三十四条 売買契約ノ費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス但双方カ別段ノ定ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第二款 売渡又ハ買受ノ無能力
第三十五条 配偶者ノ間ニ於テハ動産ト不動産トヲ問ハス売買ノ契約ヲ禁ス
配偶者ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ負担スル真実且正当ナル債務ヲ消滅セシムルニハ相互ニ代物弁済ヲ為スコトヲ得
右代物弁済ハ相当ノ疏明ヲ為セル後裁判所ノ認許ヲ得タルニ非サレハ配偶者ノ間ニ於テ有効且完全ナラス
又此代物弁済カ不動産物権ヲ目的トスルトキハ其代物弁済ハ登記中ニ右認許ヲ附記シタルニ非サレハ第三者ニ対シテ効力ヲ有セス
第三十六条 前条ニ基キタル銷除ノ訴権ハ売渡又ハ認許ナキ代物弁済ヲ為シタル配偶者、其相続人又ハ承継人ノミニ属ス但其訴権ハ財産編第五百四十四条以下ノ一般ノ規則ニ従フ
第三十七条 法律上、裁判上若クハ合意上ノ管理人ハ直接ニ自己ノ名ヲ以テスルモ間介人ニ依ルモ売渡ノ任ヲ受ケタル財産ニ付キ協議上又ハ競売上ノ取得者ト為ルコトヲ得ス
此制禁ハ競売ヲ処理シ又ハ指揮スルコトヲ法律ニ依リテ任セラレタル公吏ニ之ヲ適用ス
第三十八条 前条ノ規定ニ背キタル売買ノ銷除訴権ハ原所有者、其相続人及ヒ承継人ノミニ属ス
第三十九条 判事、検事及ヒ裁判所書記ハ争ニ係ル物権又ハ人権ニシテ其職務ヲ行フ裁判所ノ管轄ニ属ス可キモノノ取得者ト為ルコトヲ得ス
此制禁ハ右同一ノ条件ヲ以テ弁護士及ヒ公証人ニ之ヲ適用ス
第四十条 前条ヨリ生スル銷除訴権ハ譲渡人、権利ヲ争フ相手方、其双方ノ相続人及ヒ承継人ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
又権利ヲ争フ相手方、其相続人又ハ承継人ハ譲受人ニ譲渡ノ現価ト弁済ノ日ヨリノ利息トヲ弁償シテ其権利ノ受戻ヲ為スコトヲ得
右ノ規定ハ違背者ニ対スル懲戒ノ罰ヲ妨ケス
第三款 売渡スコトヲ得サル物
第四十一条 売買カ性質ニ因リテ一般ニ融通スルコトヲ得サル物又ハ特別法ヲ以テ各人ニ処分ヲ禁シタル物ヲ目的トスルトキハ其売買ハ無効ナリ
此売買ノ無効ハ抗弁ニ依ルモ訴ニ依ルモ当事者各自ニ之ヲ援用スルコトヲ得
当事者ノ一方カ詐欺ヲ以テ売買ノ制禁ナルコトヲ隠秘シタルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
第四十二条 他人ノ物ノ売買ハ当事者双方ニ於テ無効ナリ
然レトモ売主ハ売買ノ際其物ノ他人ニ属スルコトヲ知ラサルニ非サレハ其無効ヲ援用スルコトヲ得ス
第四十三条 売買契約ノ当時ニ於テ物カ既ニ全部滅失シタルトキハ其売買ハ無効ナリ但売主カ此滅失ヲ知リタルトキ又ハ売主ニ之ヲ知ラサル過失アルトキハ善意ノ買主ニ対スル損害賠償ヲ妨ケス
物ノ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ其選択ヲ以テ或ハ残余ノ部分カ用方ニ不十分ナルコトヲ証シテ売買ヲ解除シ或ハ割合ヲ以テ代価ヲ減少シテ売買ヲ保持スルコトヲ得但此二箇ノ場合ニ於テ売主ニ過失アルトキハ其損害賠償ヲ妨ケス
売買解除ノ請求ハ買主カ一分ノ滅失ヲ知リタル時ヨリ六个月ヲ過キ又代価減少ノ請求ハ此時ヨリ二个年ヲ過クレハ之ヲ受理セス
第二節 売買契約ノ効力
第一款 所有権ノ移転及ヒ危険
第四十四条 売買契約ハ売渡物ノ所有権ノ移転及ヒ其物ノ危険ニ付テハ財産編第三百三十一条、第三百三十二条、第三百三十五条及ヒ第四百十九条ニ定メタル如キ普通法ノ規則ニ従フ
第四十五条 売買ノ目的カ不動産ナルトキハ其契約ヲ以テ売主ノ特定且善意ノ承継人ニ対抗スルニハ財産編第三百四十八条以下ノ規定ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス
財産編第三百四十六条及ヒ第三百四十七条ハ右同一ノ目的ヲ以テ有体動産及ヒ債権ノ売買ニ之ヲ適用ス
第二款 売主ノ義務
第四十六条 売主ハ定量物ノ所有権ヲ移転スル義務ノ外尚ホ売渡物ヲ引渡ス義務、引渡ニ至ルマテ其物ヲ保存スル義務及ヒ妨碍、追奪ニ対シテ買主ヲ担保スル義務ニ任ス
第一則 引渡ノ義務
第四十七条 売主ハ売渡物ヲ其合意シタル時期及ヒ場所ニ於テ現存ノ形状ニテ引渡ス責ニ任ス但其保存ニ付キ懈怠アルトキハ買主ニ対シテ賠償ヲ負担ス
引渡ノ時期及ヒ場所ニ付キ合意ヲ為ササリシトキハ財産編第三百三十三条第六項及ヒ第七項ノ規定ニ従フ
然レトモ買主カ代金弁済ニ付キ合意上ノ期間ヲ得サリシトキハ売主ハ其弁済ヲ受クルマテ売渡物ヲ留置スルコトヲ得
売主ハ代金弁済ノ為メ期間ヲ許与シタルトキト雖モ買主カ売買後ニ破産シ若クハ無資力ト為リ又ハ売買前ニ係ル無資力ヲ隠秘シタルトキハ尚ホ引渡ヲ遅延スルコトヲ得
第四十八条 売主ハ契約ニ定メタル数量ヲ過不足ナク引渡スコトヲ要ス
然レトモ下ノ数条ニ定メタル場合及ヒ区別ニ従ヒテ売主又ハ買主ハ約シタル数量ヨリ多ク譲渡シ又ハ取得スル責ニ任ス
第四十九条 売渡物カ特定不動産ニシテ契約ニ其全面積ヲ明言シ且各坪ノ代価ヲ指示シタル場合ニ於テ現実ノ面積カ指示ノ面積ニ不足アルトキハ売主ハ面積ヲ担保セサル旨ヲ明言シタルトキト雖トモ割合ヲ以テ代価減少ノ要求ニ服ス
現実ノ面積カ指示ノ面積ニ超過アルトキハ買主ハ割合ヲ以テ代価補足ノ要求ニ服ス
第五十条 全面積ヲ明言シ唯一ノ代価ヲ以テ不動産ヲ売渡シ其面積ノ不足ノ場合ニ於テ売主ハ悪意ナルトキ又ハ善意ナルモ面積ヲ担保シタルトキ又ハ不足ノ坪数カ少ナクトモ二十分一ナルトキニ非サレハ代価減少ノ要求ニ服セス
面積ヲ担保セス又ハ面積ハ概算ナリトノ附記ハ悪意ナル売主ノ責任ヲ減セス
超過ノ場合ニ於テハ買主ハ其超過カ二十分一ニ及ヘルトキニ非サレハ代価補足ノ要求ニ服セス
第五十一条 建物ノ存スルト否トヲ問ハス数箇ノ土地ヲ一箇ノ契約ヲ以テ其各箇ノ面積ヲ指示シ唯一ノ代価ニテ売渡シタル場合ニ於テ其面積カ一箇ノ土地ニ超過アリ一箇ノ土地ニ不足アルトキハ其坪ノ箇数ニ従ハス価額ニ従ヒテ相殺ス
此相殺ノ後猶ホ原価二十分一ノ過不足アルトキハ割合ヲ以テ代価ヲ増加シ又ハ之ヲ減少ス
此規定ハ一箇ノ土地内ニ於テ別異ノ性質アル各部分ノ面積ヲ指示シタル場合ニモ之ヲ適用ス
第五十二条 買主ハ面積不足ノ為メ代価減少ニ付キ権利ヲ有スル場合ニ於テ尚ホ損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得又買主ハ約シタル面積カ其用方ニ必要ナルコトヲ証シテ契約ノ解除ヲモ請求スルコトヲ得但面積ヲ担保セサル旨ヲ明言シタル売買ハ此限ニ在ラス
超過ノ場合ニ於テ買主ハ二十分一以上ノ代価補足ヲ弁償スルコトヲ要スルトキハ単純ニ契約ヲ解除スルコトヲ得
第五十三条 上ノ規則ハ目方、員数及ヒ尺度ヲ以テ指示シタル数量カ買主ニ於テ容易且即時ニ調査スルコトヲ得サル日用品及ヒ動産物ノ売買ニ之ヲ適用ス
第五十四条 前数条ヨリ生スル代価改正、損害賠償又ハ契約解除ノ訴権ハ不動産ニ付テハ一个年動産ニ付テハ一个月ノ期間ニ之ヲ行フコトヲ要ス
右期間ノ経過ハ売主ニ在テハ契約ノ日ヨリ買主ニ在テハ引渡ノ日ヨリ始マル
第五十五条 動産又ハ不動産ノ売買ニ於テ錯誤カ其物ノ品質ニ存スルトキハ財産編第三百十条ノ規定ヲ適用ス
第二則 追奪担保ノ義務
第五十六条 他人ノ物ヲ売買シタル場合ニ於テ担保ノ事ニ付キ何等ノ特別ナル合意モ有ラサリシトキハ買主ハ未タ追奪ノ恐アルニ至ラサルトキト雖トモ売買無効ノ判決ヲ求ムルコトヲ得又買主カ契約ノ当時其物ノ売主ニ属セサルコトヲ知リ売主カ之ヲ知ラサリシトキト雖モ亦同シ
第五十七条 買主カ悪意ナリシトキハ売買ノ無効及ヒ追奪担保ノ効果ハ買主ニ其猶ホ負担スル代金弁済ノ義務ヲ免カレシメ又ハ其既ニ弁済シタル代金ヲ取戻スコトヲ許スニ在ルノミ
買主ハ買受物ノ価格カ減少シタルトキト雖モ右取戻ニ於テ代金ノ減少ヲ受クルコト無シ但価格ノ減少カ自己ノ詐欺ニ出テ又ハ自己ノ利益ト為リタルトキハ此限ニ在ラス
如何ナル場合ニ於テモ買主カ其弁済シタル代金ヲ取戻シタルトキハ物ノ占有ヲ売主ニ返還スルコトヲ要ス
第五十八条 買主ハ契約ノ当時善意ナリシトキハ右ノ外尚ホ左ノ諸件ノ弁償ヲ受ク
第一 買主ノ支払ヒタル契約費用ノ部分
第二 買受物ニ付キ買主カ支払ヒタル費用ニシテ所有者ヨリ其弁償ヲ受クルコトヲ得サルモノ
第三 買受物ニ生シタル増価額但意外ノ事ニ因ルモ亦同シ
第四 所有者ノ請求後ニ収取シ之ニ返還スルコトヲ要スル果実
然レトモ買主ハ果実ニ換ヘテ之ニ対当スル時期間ノ売買代金ノ法律上ノ利息ヲ受クルコトヲ欲スルトキハ之ヲ請求スルコトヲ得
又善意ナル買主ハ此他所有者ノ回復ノ訴ニ対スル答弁ノ費用及ヒ担保請求ノ費用等総テノ損害賠償ヲ普通法ニ従ヒテ請求スルコトヲ得
第五十九条 売主ハ契約ノ当時善意ナリシトキハ財産編第三百八十五条ニ従ヒテ正当ニ予見スルコトヲ得ヘカリシ限度ニ非サレハ前条ノ第二号第三号及ヒ末項ニ定メタル賠償ヲ負担セス
第六十条 善意ナル売主ハ契約後ニ売渡物ノ他人ニ属スルコトヲ覚知シタルトキハ買主ヨリ代金ヲ提供スト雖モ其物ノ引渡ノ請求ヲ受クルニ当リ売買ノ無効ヲ申立テ且抗弁ノ方法ニ依リテ担保ノ定方ノ判決ヲ求ムルコトヲ得但買主カ追奪ノ場合ニ於ケル求償権ヲ抛棄スル旨ヲ明白ニ陳述シタルトキハ此限ニ在ラス
第六十一条 右覚知カ引渡後ニ在リタルトキハ売主ハ買主カ即時ニ担保訴権ヲ行フヤ又ハ己レト立会ヒ第五十八条ニ従ヒテ現時負担ノ賠償額ヲ評定スルヤニ付キ買主ヲ遅滞ニ付スルコトヲ得
此末ノ場合ニ於テ売主ハ其受取リタル代金ト共ニ右評価ノ金額ヲ提供シテ供託シタルトキハ縦令担保ノ請求アルモ此他ノ責任ヲ負担セス
供託シタル金額ヲ引取ルノ権利ヲ財産編第四百七十八条ニ従ヒテ行使シタル売主ハ再ヒ本条ノ許与セル権能ヲ援用スルコトヲ得ス
第六十二条 他人ノ物ノ売主ハ日後其物ノ所有者ト為リタルトキハ買主ヲシテ売買ヲ認諾スルヤ担保訴権ヲ行フヤノ一ヲ択マシムルコトヲ何時ニテモ催告スルコトヲ得
右同一ノ権利ハ他人ノ物ノ売主ノ相続人ト為リタル真所有者ニ属ス
第六十三条 買受物ノ分割ノ部分カ完全所有権又ハ虚有権ニテ第三者ニ属スル場合ニ於テ買主カ此部分ヲ取得スルヲ得サルコトヲ知レハ初ヨリ其物ヲ買ハサル可キ程ニ其性質又ハ広狭ニ因リテ有益ナルコトヲ証スルトキハ全部追奪ノ為メ定メタル如ク損害ノ賠償ヲ得テ契約ヲ解除スルコトヲ得
買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ其受ケタル直接且現時ノ損失ノ限度ニ於テ賠償ヲ要求スルコトヲ得
第六十四条 買受物ノ不分ノ部分カ第三者ニ属スルトキハ其部分ノ重要ノ如何ニ拘ハラス買主ハ損害賠償ヲ得テ契約ヲ解除スル権利ヲ有ス
買主ハ契約ノ解除ヲ求メサルトキハ買受物ノ価格ノ減少シタルトキト雖モ常ニ此ニ対当スル買受代金ト契約費用トノ部分ヲ取戻シ又其価格ノ増加シタルトキハ其損害ノ賠償ヲ受ク
第六十五条 或ハ売渡シタル土地ニ属スルモノトシテ契約ニ於テ述ヘタル働方地役ノ追奪アリタルトキ或ハ契約ニ於テ述ヘサル人為ヲ以テ設定シタル受方地役ニ関シ又ハ財産ノ一分ニ存スル用益権、賃借権ニ関シテ第三者ノ要求アリタルトキハ第六十三条ノ規定ヲ適用ス財産ノ全部ニ存スル用益権又ハ賃借権ニシテ其経過ス可キ残余時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超エサルモノニ関シテモ亦同シ
売買ノ財産ノ全部ニ存スル用益権又ハ賃借権ノ継続時期カ建物ニ付テハ一个年土地ニ付テハ二个年ヲ超ユ可キトキハ買主ハ尚ホ自己ニ残存セル権利ノ不十分ナルヲ証スルコトヲ要セスシテ前条ニ従ヒ売買ヲ解除スルコトヲ得
第六十六条 契約ニ於テ述ヘタルト否トヲ問ハス売渡シタル土地ニ先取特権又ハ抵当権ノ負担アリテ買主カ其代金ノ弁済ノ前又ハ弁済ノ時其土地ヲシテ此負担ヲ免カレシムル為メニ必要ナル方式ヲ履行セサルニ因リ売主ノ債権者ノ為メニ所有権ヲ取上ケラレタルトキハ買主ハ売主ニ対シ第五十八条及ヒ第五十九条ノ規定ニ従ヒテ担保ノ求償権ヲ有ス
第六十七条 差押ヘタル財産ノ競落人カ追奪ヲ受ケタルトキハ被差押人ニ対シテ代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得若シ被差押人カ無資力ナルニ於テハ代金ノ配当ヲ受ケタル債権者ニ対シテ其代金ノ返還ヲ求ムルコトヲ得
競落人ハ差押人カ差押ノ際ニ其財産ノ債務者ニ属セサルコトヲ知リタルニ非サレハ之ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス又債務者カ其財産ニ存スル第三者ノ権利ヲ詐欺ヲ以テ隠秘シタルニ非サレハ之ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
競売条件書ノ調製及ヒ競落ノ処理ニ任シタル公吏ハ其職分ヲ欠キタル為メ買主ノ錯誤ヲ惹起シタルニ非サレハ損害賠償ノ責ニ任セス
第六十八条 債権ノ売主ハ当然自己ノ債権ノ存立及ヒ其有効ノ担保ノ責ニ任ス
又売主ハ明示ニテ債務者ノ有資力ノ担保ヲ諾約シタルニ非サレハ其担保ノ責ニ任セス
有資力ノ担保ニ任シタル場合ニ於テモ売主ハ債権カ既ニ満期ト為リタルトキハ譲渡ノ日ニ於ケル有資力ノミニ付キ且受取リタル代金ノ限度ニ従ヒテ其責ニ任ス但一層広大ナル担保ノ明約ト裏書ヲ以テ譲渡ス商証券ノ特別規則トヲ妨ケス
未タ満期ト為ラサル債権ノ譲渡ニ於テ譲渡人カ他ノ特約ナクシテ債務者ノ将来ノ有資力ヲ担保シタルトキハ其担保ハ満期ヨリ一个年又無期年金権ニ付テハ其譲渡ヨリ十个年ニテ絶止ス
第六十九条 物権ト人権トヲ問ハス争ニ係ル権利ノ譲渡ニ於テハ譲渡人ハ特別ノ合意ナク且譲受人カ争アルコトヲ知リタルトキハ其主張ノ虚構ナラサルコトヲ担保スルノミニシテ譲渡シタル権利ノ真ノ成立ヲ担保セス
裁判上ト裁判外トヲ問ハス本権ニ関スル明白ノ争ノ目的タル権利ニ付テノミ右ノ規定ヲ適用ス譲渡人ハ其主張ノ虚構ナリシ場合ニ於テハ譲渡代金ノ返還ノ外譲受人カ正当ニ期望シタル利益ノ賠償ヲ負担ス
第七十条 会社ニ於ケル自己ノ権利ヲ売渡シタル者ハ其権利ノ存立及ヒ其売買契約ニ示セル権利ノ広狭ニ付テノミ担保ノ責ニ任ス
会社ノ従前ノ営業ヨリ生シ既ニ清算済ト為リタル売主ノ権利及ヒ義務ハ買主ニ利害ノ関係ヲ及ホスコト無シ
売主ト会社トノ間ニ於ケル特別ノ計算ニ付テモ亦同シ
第七十一条 上ノ場合ニ於テ無担保ニテ売買スルトノ契約ヲ為シタルトキト雖モ買主カ追奪ヲ受ケタルニ於テハ売主ハ代金ヲ返還スル責ニ任ス但買主カ売買ノ時ニ於テ追奪ノ危険アルコトヲ了知シタルトキハ売主ハ此返還ヲ負担セス
売主ハ買主ノ危険負担ニテ売買スルトノ契約ヲ為シタルコトノミニ因リテ亦代金ヲ返還スル責ヲ免カル
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約款ニ依ルモ売主ハ売買ノ前後ヲ問ハス第三者ニ授与シタル権利ヨリ生スル妨碍又ハ追奪ノ担保ヲ免カルルコトヲ得ス
第七十二条 売主カ担保ノ義務ノ全部又ハ一分ヲ買主ノ悪意ノ故ヲ以テ免カレント主張スルトキハ売渡物ニ関スル行為カ第三者ノ利益ノ為メニ登記シ有リト雖モ其登記ノミニテハ買主ノ悪意ヲ証スルニ足ラス尚ホ売主ハ登記官吏ノ認証書ニ依リ又ハ其他ノ方法ヲ以テ買主カ売買ノ前ニ此行為ヲ了知シタル直接ノ証拠ヲ供スルコトヲ要ス
第七十三条 財産編第三百九十九条及ヒ第四百条ハ担保ノ為メニスル売主ノ召喚ニ付キ及ヒ追奪ヲ受ケタル買主カ担保人ヲ訴訟ニ参加セシメサル為メニ生スル失権ニ付キ之ヲ適用ス
第三款 買主ノ義務
第七十四条 買主ハ合意シタル時期ニ於テ代金ヲ弁済スルコトヲ要ス又其時期ニ付キ特別ノ合意ナキトキハ引渡ノ時ニ於テ之ヲ弁済スルコトヲ要ス
引渡ヲ日後ニ延フルノ合意アルトキハ代金ノ弁済ヲモ暗ニ日後ニ延フルモノト推定ス
売主カ引渡ノ為メ恩恵期限ヲ裁判所ヨリ得タルトキハ買主ハ代金弁済ノ為メ同一ノ期間ヲ享有ス
代金弁済ノ恩恵期限ハ引渡ノ為メ売主亦之ヲ享有ス
第七十五条 代金弁済ノ場所ヲ合意セサルトキハ其弁済ハ有体動産ニ付テハ引渡ヲ為ス場所不動産、債権、争ニ係ル権利又ハ会社ニ於ケル権利ニ付テハ証書ノ交付ヲ為ス場所ニ於テ之ヲ為ス
引渡ノ前又ハ後ニ代金ノ弁済ヲ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其弁済ハ買主ノ住所ニ於テ之ヲ為ス
第七十六条 買受物カ果実其他金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ定期ノ利益ヲ生スルトキハ買主ハ引渡ノ時ヨリ当然代金ノ利息ヲ負担ス
反対ノ場合ニ於テハ利息ハ特別ノ合意又ハ弁済ノ催告ニ依ルニ非サレハ之ヲ負担セス
第七十七条 買主カ物上訴権ニ因リテ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受クル恐アル正当ノ事由ヲ有スルトキハ売主カ其妨碍若クハ危険ヲ止マシムルマテ又ハ追奪アリタルニ於テハ代金ヲ返還スル為メノ保証人ヲ立ツルマテ買主ハ此訴権ノ軽重ニ従ヒテ代金ノ全部又ハ一分ノ弁済ヲ拒ムコトヲ得
此規定ハ買主カ買受物ノ他人ニ属スルヲ直接ニ証スルコトヲ得ルトキハ売買無効ノ判決ヲ求メ及ヒ担保ノ訴権ヲ行フコトヲ妨ケス
第七十八条 買受ケタル不動産ニ付キ抵当権又ハ先取特権ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ方式ヲ行フタル後ニ非サレハ代金ヲ弁済スル責ナシ但法律上ノ期間ニ於テ滌除ヲ行フコトヲ要ス
第七十九条 前二条ノ場合ニ於テ売主ハ其先取特権及ヒ第三者ニ対スル解除ノ権利ヲ保存スル為メノ公示ヲ為ササリシトキハ当事者双方ノ名ヲ以テ買主ヲシテ猶予ナク代金ヲ供託セシムルコトヲ得但其代金ハ当事者双方ノ承諾又ハ裁判所ノ判決ニ依リ且諸手続ノ終了後ニ非サレハ之ヲ引取ルコトヲ得ス
第八十条 動産物ノ買主カ代金ヲ弁済シタルト否トヲ問ハス引渡ヲ受クル権利ヲ有スル時ニ於テ其引渡ヲ受クルコトヲ拒ミタルトキハ売主ハ財産編第四百七十四条乃至第四百七十八条ニ従ヒテ其売渡物ノ提供及ヒ供託ヲ為スコトヲ得
然レトモ日用品其他速ニ敗損ス可キ物ニ付テハ売主ハ買主ノ為メ之ヲ転売スルコトヲ得ルトキハ其転売ヲ為スコトヲ要ス
第三節 売買ノ解除及ヒ銷除
第一款 義務ノ不履行ニ因ル解除
第八十一条 当事者ノ一方カ上ニ定メタル義務其他特ニ負担スル義務ノ全部若クハ一分ノ履行ヲ欠キタルトキハ他ノ一方ハ財産編第四百二十一条乃至第四百二十四条ニ従ヒ裁判上ニテ契約ノ解除ヲ請求シ且損害アレハ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
当事者カ解除ヲ明約シタルトキハ裁判所ハ恩恵期限ヲ許与シテ其解除ヲ延ヘシムルコトヲ得ス然レトモ此解除ハ履行ヲ欠キタル当事者ヲ遅滞ニ付シタルモ猶ホ履行セサルトキニ非サレハ当然其効力ヲ生セス
第八十二条 買主カ弁済其他ノ義務ヲ欠キタル為メノ解除ハ買主ノ猶ホ代金ノ全部若クハ一分ノ負担又ハ他ノ負担ヲ明示シタル売買証書ニ依リ登記ヲ為シタルニ非サレハ売主ヨリ転得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ得ス但債権担保編第百八十二条ノ規定ヲ妨ケス
第八十三条 弁済期限ノ定アル動産ノ売買ニ於テ其引渡ヲ実行シタルトキハ弁済ヲ欠キタル為メノ売主ノ解除ノ権利ハ買主ノ他ノ債権者ヲ害シテ之ヲ行フコトヲ得ス
弁済期限ノ定ナキ売買ニ付テハ売主ハ引渡ヨリ八日内ニ売買ヲ解除スルコトヲ得然レトモ善意ナル第三者ノ既得ノ物権ヲ害スルコトヲ得ス
第二款 受戻権能ノ行使
第八十四条 売主ハ売買証書ニ明記シタル受戻ノ約款ニ依リ買主ノ弁済シタル代金ト費用ノ部分トヲ指定ノ期間ニ買主ニ返還スルニ於テハ其売買ヲ解除ス可キコトヲ要約スルヲ得
右期間ハ不動産ニ付テハ五个年、動産ニ付テハ二个年ヲ超ユルコトヲ得ス此ヨリ長キ時期ノ要約ハ当然之ヲ此期限ニ短縮ス
一旦期間ヲ定メタル以上ハ右制限内ト雖モ之ヲ伸長スルコトヲ得ス
然レトモ其伸長ハ之ヲ再売買ノ予約ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ第二十六条及ヒ第二十七条ノ規定ニ従フ
売買後ニ於テ為シ又ハ別証書ヲ以テ為シタル受戻ノ要約ニ付テモ亦同シ
売主ハ代金ノ半額以上ノ弁済ノ為メ期限ヲ与ヘ且其期限カ受戻ノ為メ定メタル期間ノ半以上ニ及ヘルトキハ有効ニ受戻ノ権能ヲ要約スルコトヲ得ス
第八十五条 不動産ニ付テハ法律ノ定メタル期間ニ其定メタル条件ヲ以テ為シタル受戻権能ノ行使ハ買主カ第三者ニ授与シ又ハ第三者カ買主ノ権ニ基キテ取得シタル物権ヲ排除シテ其不動産ヲ売主ニ復セシム但賃借権ニシテ残期ノ一个年ヲ超エサルモノハ此限ニ在ラス
動産物ニ付テハ受戻ノ権能ハ善意ニテ其動産物上ニ物権ヲ取得シタル第三者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス
第八十六条 売主ノ債権者ハ売主ニ代ハリテ受戻ノ権能ヲ行フコトヲ得
然レトモ買主ハ右債権者カ予メ其債務者ノ無資力ヲ証シ且財産編第三百三十九条ニ従ヒテ受戻権能ノ行使ノ為メ裁判上ニテ売主ニ代位スルヲ要求スルコトヲ得
買主ハ同一ノ場合ニ於テ鑑定人ノ評価シタル買受物ノ現時ノ価額ト第八十八条ニ従ヒテ売主ヨリ己レニ返還ス可キ金額トノ差額ニ達スルマテ売主ノ債務ヲ弁済シテ債権者ノ訴ヲ止ムルコトヲ得
第八十七条 売主カ受戻ノ約款ニテ売渡シタル物ヲ日後抵当トシ又ハ之ニ其他ノ物権ヲ負担セシメタルトキハ其権利ノ効力ハ売主又ハ其債権者ノ受戻権能ヲ行ヒタル後ニ非サレハ生セス
売主カ受戻ニ服スル物ノ所有権ヲ譲渡シタルトキハ譲受人ハ自己ノ名ヲ以テ受戻ヲ為スコトヲ得然レトモ譲渡前ニ売主カ他人ニ対シテ承諾シ且登記ヲ経タル此他ノ物権ヲ妨碍スルコトヲ得ス但其担保訴権ヲ失フコト無シ
第八十八条 売主カ受戻ノ権能ヲ行ハントスルトキハ指定ノ期間ニ売買代価及ヒ契約費用ノ外尚ホ物ノ保存費用ヲ買主ニ弁償スルコトヲ要ス
買主カ右金額ヲ受取ルコトヲ拒ミタルトキハ売主ハ猶予ナク之ヲ供託スルコトヲ要ス
売主ハ物ノ改良費用ヲモ弁償スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ此弁償ニ付テハ売主ニ猶予ヲ許スコトヲ得
買主ハ右金額ノ皆済ヲ受クルマテ其物ノ上ニ留置権ヲ有ス
第八十九条 不動産ノ共有者ノ一人カ其不分ノ部分ヲ受戻約款ニテ売リタル場合ニ於テ買主カ他ノ共有者ヨリ促カサレタル競売ニ因リテ競落人ト為リタルトキハ売主ハ前条ニ掲ケタル金額ニ競売ノ代金ヲ加ヘテ其不動産ノ全部ニ対スルニ非サレハ受戻ヲ為スコトヲ得ス又買主ハ之ニ故障ヲ述フルコトヲ得ス
買主カ自ラ競売ヲ促シタルトキハ売主ハ其売渡シタル部分ニ付テノミ受戻ヲ為スコトヲ得又買主ハ全部ノ受戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得
第九十条 孰レヨリ競売ヲ促カシタルヲ問ハス買主ニ非サル共有者ノ一人又ハ外人ノ競落シタル場合ニ於テ売主ハ競売ニ召喚セラレサリシトキハ其売渡シタル部分ニ付テノミ競落人ニ対シテ受戻ノ権利ヲ有シ之ニ反スルトキハ其権利ヲ失フ
第九十一条 現物ヲ以テ分割シタルトキ売主カ其分割ニ召喚セラレタルニ於テハ売主ハ孰レヨリ分割ヲ促カシタルヲ問ハス他ノ所有者ニ帰シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ得スシテ買主ニ帰シタル部分ノミヲ受戻スコトヲ得但買主ノ供与シ又ハ受取リタル補足代金ヲ売主買主ノ間互ニ計算スルコトヲ妨ケス
売主カ分割ニ召喚セラレサリシトキハ売主ハ選択ヲ以テ或ハ其分割ヲ認諾シ買主ニ対シテ前項ニ示シタル権利ヲ行ヒ或ハ第八十八条ニ掲ケタル金額ヲ買主ニ弁償シ共有者ニ対シテ再分割ヲ促カスコトヲ得
第九十二条 不分物ノ共有者カ一箇ノ契約及ヒ唯一ノ代価ニテ其物ヲ受戻ノ約款ヲ以テ売渡シタルトキハ買主ハ一分ニ付キ受戻ヲ受クル責ナシ
又買主ハ売主ノ一人ヨリ為ス全部ノ受戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得
之ニ反シテ数人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ各自ノ部分ヲ売渡シタルトキハ各別ニ受戻ヲ為スコトヲ得但第八十九条及ヒ第九十一条ノ規定ハ之ヲ此場合ニ適用スルコトヲ得
第九十三条 数人ノ買主カ一箇ノ契約又ハ各別ノ契約ヲ以テ一箇ノ財産ヲ受戻ノ約款ニテ取得シタルトキ売主カ買主ノ間ニ分割ヲ為ササル前ニ受戻ヲ為サント欲スルニ於テハ売主ハ総買主ニ対シ又ハ一人若クハ数人ノ買主ニ対シテ其各自ノ部分ニ付キ受戻ヲ為スコトヲ得
既ニ分割ヲ為シタルトキハ売主ハ各買主ニ対シ分割又ハ競売ニ因リテ其各自ニ帰シタル部分ノミニ非サレハ受戻ヲ為スコトヲ得ス
第三款 隠レタル瑕疵ニ因ル売買廃却訴権
第九十四条 動産ト不動産トヲ問ハス売渡物ニ売買ノ当時ニ於テ不表見ノ瑕疵アリテ買主之ヲ知ラス又修補スルコトヲ得ス且其瑕疵カ物ヲシテ其性質上若クハ合意上ノ用方ニ不適当ナラシメ又ハ買主其瑕疵ヲ知レハ初ヨリ買受ケサル可キ程ニ物ノ使用ヲ減セシムルトキハ買主ハ其売買ノ廃却ヲ請求スルコトヲ得
此場合ニ於テハ買主ハ弁済代金ト契約費用トヲ取戻シ其代金ノ利息ハ請求ノ日ニ至ルマテノ物ノ収益又ハ使用ト之ヲ相殺ス
第九十五条 買主カ隠レタル瑕疵ノ売買廃却訴権ヲ行フ可キ程ニ重大ナルヲ証スルコト能ハス又ハ物ヲ保有スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ便益ヲ失フ割合ニ応シテ代価ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
第九十六条 買主カ売主ニ対シ売買ノ廃却又ハ代価ノ減少ヲ得タルニ拘ハラス売主カ初ヨリ其瑕疵ヲ知リタルトキハ買主ハ尚ホ其受ケタル損害又ハ失ヒタル利益ニ付テノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
第九十七条 隠レタル瑕疵ヲ担保セストノ要約ハ売主ヲシテ初ヨリ自ラ了知シ且詐欺ヲ以テ隠秘シタル瑕疵ニ付テノ責任ヲ免カレシメス
第九十八条 売買ノ当時ニ於テ物ニ瑕疵アリタルコト其瑕疵ヨリ買主ニ損害ヲ生シタルコト及ヒ買主又ハ売主カ其瑕疵ヲ了知シタルコトハ人証、鑑定其他ノ法律上ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証ス
第九十九条 売買廃却、代価減少及ヒ損害賠償ノ訴ハ左ノ期間ニ於テ之ヲ起スコトヲ要ス
第一 不動産ニ付テハ六个月
第二 動産ニ付テハ三个月
第三 動物ニ付テハ一个月
右期間ハ引渡ノ時ヨリ之ヲ起算ス
然レトモ此期間ハ買主カ瑕疵ヲ知レル証拠アリタル日ヨリ其半ニ短縮ス但其残期カ此半ヲ超ユルトキニ限ル
買主カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ右期間ニ隠レタル瑕疵ヲ覚知スル能ハサリシコトヲ証スルトキハ其期間ノ満了後ニ於テモ訴ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ意外ノ事又ハ不可抗力ノ止ミタル時ヨリ通常期間ノ三分一ヲ以テ新期間ト為ス
第百条 隠レタル瑕疵ニ基キタル代価減少ノ訴権ハ買主カ買受物ヲ無償又ハ有償ニテ譲渡シタルモ之ヲ失ハス但有償ノ譲渡ノ場合ニ於テハ其瑕疵ノ為メ買主カ損失ヲ受ケタルトキ又ハ譲受人ヨリ訴ヘラレ若クハ訴ヘラルルノ恐アルトキニ限ル
第百一条 売渡物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ全部又ハ半以上滅失シタルトキハ売買廃却訴権ヲ行フコトヲ得ス
滅失部分ノ多少ニ拘ハラス代価減少ノ訴権ハ残存部分ノ割合ニ応シテ存立ス
如何ナル場合ニ於テモ売主ハ隠レタル瑕疵ヨリ生スル全部又ハ一分ノ滅失ノ責ニ任ス
第百二条 合式ノ強制売却ハ売買廃却訴権ヲモ代価減少訴権ヲモ生セス
第百三条 或ル動物又ハ日用品ノ隠レタル瑕疵ニ付テハ特別法ヲ以テ其売買上ノ効果ヲ定ムルニ至ルマテ本法ノ規定ヲ適用ス
第四節 不分物ノ競売
第百四条 不分財産ノ分割ヲ為スニ当リ共有者ノ一人タリトモ現物ノ分割ヲ拒ム者アルトキハ其財産ノ協議売却又ハ競売ヲ為シ各共有者ノ権利ノ限度ニ応シテ其代金ヲ配当ス
第百五条 共有者カ其一人若クハ第三者ニ協議売却ヲ為シ又ハ相互ノ間ニ競売ヲ為スニ付キ一致ヲ得ル能ハサルトキ又ハ共有者中ニ失踪者若クハ無能力者アルトキハ裁判所又ハ裁判所ノ指定シタル公吏ノ前ニ於テ不分物ノ競売ヲ為ス但民事訴訟法ニ定メタル競売方式ニ従フコトヲ要ス
共同競売人ノ各自ハ常ニ競売ニ外人ノ参与ヲ許スヲ要求スルコトヲ得共有者ノ一人カ失踪シ又ハ無能力ナルトキハ外人ノ参与ハ当然且必要ナリトス
第百六条 共有者ノ一人カ不分物ノ全部ヲ取得シタルトキハ其競売又ハ協議売却ハ共有者間ノ分割ノ行為ト看做サレ会社ノ分割ニ関シ規定シタル効力ヲ生ス
第三者ニ競落又ハ協議売却ヲ為シタルトキハ其売買ハ第三者ト原共有者トノ間ニ於テ本章ニ規定シタル売買ノ効力ヲ生ス
第四章 交換
第百七条 交換ハ当事者ノ一方カ或ル物ノ所有権其他ノ権利ヲ他ノ一方ヨリ取得シ又ハ之ヲシテ諾約セシメ其対価トシテ或ル物ノ所有権其他ノ権利ヲ他ノ一方ニ移転シ又ハ移転スルコトヲ諾約スル契約ナリ
相互ノ権利ノ価額カ均一ナラサルトキハ金銭其他ノ物ノ補足ヲ以テ之ヲ均一ニス
金銭ノ補足カ交換ニ供シタル物ノ価額ヲ超ユルトキハ其契約ハ之ヲ売買ト看做ス
第百八条 当事者ハ交換ニ供シ又ハ諾約シタル物又ハ権利ニ対スル妨碍及ヒ追奪ノ担保ヲ相互ニ負担ス
当事者ノ一方カ他ノ一方ノ諾約シタル物又ハ権利ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ其選択ヲ以テ或ハ金銭ノ対価ヲ要求スルコトヲ得或ハ契約ノ解除ヲ請求シテ自己ノ供与シタルモノヲ取戻スコトヲ得但孰レノ場合ニ於テモ損害アレハ其賠償ヲ受ク
右解除ノ権利ハ取戻ニ服スル不動産ニ付キ権利ヲ取得シタル第三者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス但財産編第三百五十二条第一項ニ従ヒテ請求ノ公示前ニ其第三者ノ権原ノ登記アリタルトキニ限ル
第百九条 売買ノ規則ハ左ノ例外ヲ以テ交換ニ之ヲ適用ス
交換ハ配偶者ノ間ニ之ヲ為スコトヲ許ス但交換物ノ価額ノ差カ間接ノ利益ヲ成ストキハ贈与ヲ禁制シ又ハ之ヲ制限スル規則ニ従フ
当事者ノ一方又ハ双方カ指定ノ期間ニ於テ任意ニ交換ヲ解除スルコトヲ要約シタルトキハ第二十七条ニ依リ売買ノ予約ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ル条件ニ従フニ非サレハ其解除ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五章 和解
第百十条 和解ハ当事者カ交互ノ譲合又ハ出捐ヲ為シテ既ニ生シタル争ヲ落著セシメ又ハ生スルコト有ル可キ争ヲ予防スル契約ナリ
和解ノ成立、有効、効力及ヒ証拠ハ下ノ規定ヲ除ク外合意ニ関スル一般ノ規則ニ従フ
第百十一条 和解ハ法律ノ錯誤ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但其錯誤カ相手方ノ詐欺ニ起因スルトキハ此限ニ在ラス
第百十二条 和解ハ偽造ノ書類又ハ無効ノ行為ニ依リ承諾シタルコトヲ理由トシテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス但此等ノ申立ヲ為スヲ得ヘキ当事者ニ於テ其書類ノ偽造ヲ知ラス又ハ其行為ヲ法律ニ於テ無効ナラシムル所ノ事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
第百十三条 定マリタル争ニ付キ為シタル和解ハ新ニ発見シタル証書ニ因リテ当事者ノ一方カ争ノ目的ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス又ハ他ノ一方カ其目的ニ付キ完全且争フ可カラサル権利ヲ有スルコトノ顕ハレタルトキハ事実ノ錯誤ノ為メ亦之ヲ銷除スルコトヲ得
確定シタル判決又ハ攻撃スルヲ得サル契約ニ因リ既ニ争ノ落著シタル場合ニ於テ其判決又ハ契約ヲ知ラスシテ和解ヲ為シタルトキモ亦同シ
然レトモ和解カ従前ノ原因ヨリ生スルコト有ル可キ総テノ争ヲ落著セシメ又ハ之ヲ予防スルヲ目的トシタルトキハ当事者ノ一方ノ利益タル確定証書ノ発見ハ其和解ノ銷除ヲ生セス但其証書カ相手方ノ所為ニ因リテ控留セラレタルトキハ此限ニ在ラス
第百十四条 有効ノ和解ハ当事者ノ相互ニ追認シタル権利又ハ利益ニシテ既ニ生シ又ハ予見シタル争ノ目的タルモノニ付テハ当事者間ニ在テハ確定判決ノ権利ト均シキ認定ノ効力ヲ生ス此場合ニ於テハ其権利又ハ利益ハ従前ノ原因ニ由リテ保持シタルモノト看做ス但当事者双方ニ更改ヲ為ス意思アリシトキハ此限ニ在ラス
之ニ反シテ相互ニ供与シ又ハ諾約シタル権利又ハ利益ノ全部若クハ一分ニシテ争ノ目的タラサリシモノニ付テハ和解ハ物権又ハ人権ヲ生シ之ヲ移転シ若クハ之ヲ消滅セシムル有償合意ノ規則ニ従フ
第六章 会社
第一節 会社ノ性質及ヒ設立
第百十五条 会社ハ数人カ各自ニ配当ス可キ利益ヲ収ムル目的ニテ或ル物ヲ共通シテ利用スル為メ又ハ或ル事業ヲ成シ若クハ或ル職業ヲ営ム為メ各社員カ定マリタル出資ヲ為シ又ハ之ヲ諾約スル契約ナリ
第百十六条 商事会社ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム
第百十七条 社員ノ出資ハ或ハ動産又ハ不動産ノ所有権若クハ収益権或ハ金銭又ハ技術、労力ヲ以テスルコトヲ得
出資ハ不均一ナルコトヲ得
第百十八条 民事会社ハ当事者ノ意思ニ因リテ之ヲ法人ト為スコトヲ得
此場合ニ於テハ会社ニ社名ヲ付シ且其契約ハ商事会社ノ公示ノ為メ法律ニ規定シタル方式ニ従ヒテ之ヲ公示スルコトヲ要ス但社名ヲ付シ又ハ公示ヲ為シタルトキハ其会社ヲ法人ト為ス意思アリト推定ス
第百十九条 合意ノ一般ノ規則殊ニ当事者ノ承諾、能力、合意ノ目的、原因及ヒ証拠ニ関スルモノハ会社ニ之ヲ適用ス
第百二十条 会社ハ其目的ノ商事ニ在ラサルモ資本ヲ株式ニ分ツトキハ商法ノ規定ニ従フ
第二節 社員ノ権利及ヒ義務
第百二十一条 会社ハ契約ノ日ヨリ開始ス但明示又ハ黙示ニテ他ノ期限ヲ定メ又ハ条件ヲ附シタルトキハ此限ニ在ラス
各社員ハ会社ノ開始スル時ニ於テ其諾約シタル出資ヲ差入ルルコトヲ要ス之ヲ差入レサルトキハ其社員ハ出資ニ生スル果実及ヒ利息ヲ当然負担ス且遅延ノ為メ損害ヲ生シタルトキハ出資ノ金銭ヲ以テスルトキト雖モ其賠償ヲ負担ス
第百二十二条 技術又ハ労力ノ出資ヲ諾約シタル社員カ其諾約ヲ欠キタルトキハ其社員ハ他ノ社員ノ選択ニ従ヒ会社ニ対シテ或ハ其義務ノ履行ヲ欠キタル当時ヨリ会社ノ受ケタル損害ヲ賠償シ或ハ其労力ヲ会社外ニ用井テ得タル利益ヲ分与スル責ニ任ス
第百二十三条 動産ト不動産トヲ問ハス特定物ノ所有権ヲ出資ト為スコトヲ諾約シタル社員ハ会社ニ対シ売主ト同シク其物ノ妨碍、追奪又ハ面積、数量ノ不足及ヒ隠レタル瑕疵ニ付キ担保ノ責ニ任ス
又社員カ物ノ収益権ノミヲ出資ト為スコトヲ諾約シタルトキハ賃貸人ト同シク担保ノ責ニ任ス
第百二十四条 会社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ数人ノ業務担当人ヲ選任シタルトキハ其各員ハ受任ノ権限ヲ踰ユルコトヲ得ス
権限ノ定マラサル業務担当人ハ共同又ハ各別ニテ通常ノ管理行為ヲ為スニ止マル
又業務担当人ハ会社ノ目的中ノ重要ナル行為ニ付テハ共同ニテノミ之ヲ為スコトヲ得但異議アル場合ニ於テハ其行為ヲ中止シ総社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス
第百二十五条 会社契約ヲ以テ業務担当人ヲ選任セサル場合ニ於テ総社員ノ一致ニテ之ヲ選任セサル間ハ社員ノ各自ハ前条ニ規定シタル行為ヲ其条件ニ従ヒテ為ス権ヲ有ス
第百二十六条 会社契約ヲ以テ業務担当人ニ選任セラレタル社員ハ正当ノ原因アルトキ又ハ其承諾及ヒ総社員ノ同意ヲ得タルトキニ非サレハ委任ノ期限内ニ之ヲ解任スルコトヲ得ス
会社設立以後ノ契約ヲ以テ選任シタル業務担当人ハ之ヲ選任シタルト同一ノ方法ヲ以テ其承諾ヲ要セスシテ之ヲ解任スルコトヲ得
第百二十七条 業務担当人ヲ選任シタル方法ノ如何ヲ問ハス其中ノ一人又ハ数人ノ死亡、辞任又ハ解任アリテ此等ノ事件ノ為メニ会社ノ解散セサルトキハ総社員ノ過半数ヲ以テ其補闕者ヲ選任ス
第百二十八条 右ノ外会社定款ノ執行ニ関スル総テノ処分ハ亦社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ定ム
定款ニ反スル行為又ハ定款外ノ行為ニ付テハ総社員ノ一致ヲ得ルヲ必要トス
本条ハ定款又ハ法律ノ之ニ反スル規定ヲ妨ケス
第百二十九条 第三者カ会社ト業務担当社員ノ一人トニ対シテ同性質ノ債務ヲ負担シタルトキ其第三者カ二箇ノ債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル金銭又ハ有価物ヲ此社員ニ弁済スルニ於テハ其社員ハ会社ノ債権額ト自己ノ債権額トノ割合ニ応スルニ非サレハ自己ノ債権ノ弁済ニ之ヲ充当スルコトヲ得ス但債務者ノ為シタル充当ヲ変更スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ正当ノ利益ナクシテ社員ノ債権額ノ全部ニ充当シタルトキハ社員ハ其弁済ノ額内ヨリ右ノ割合ニ応スル部分ヲ会社ニ分与スル責ニ任ス
債務者又ハ社員カ有効ナル充当ヲ為ササルトキハ財産編第四百七十二条ニ従ヒテ法律上ノ充当ノ規則ヲ適用ス
第百三十条 業務担当人タルト否トヲ問ハス社員ニシテ会社ノ債務者ヨリ会社ニ対スル債務ノ一分ヲ受取リタル者ハ場合ノ如何ニ拘ハラス会社ニ其利益ヲ得セシムルコトヲ要ス但自己ノ持分トシテ受取証書ヲ与ヘタルトキト雖モ亦同シ
第百三十一条 業務担当人タルト否トヲ問ハス各社員ハ其過失又ハ懈怠ニ因リテ会社ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
此損害ハ社員カ会社営業ノ他ノ事件ニ付キテ会社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事件ノ互ニ連絡シタルトキハ此限ニ在ラス
第百三十二条 会社契約ヲ以テ業務担当人ヲ選任セサルカ為メニ業務ヲ取扱フ社員ハ自己ノ業務ニ於ケルト同一ノ注意ヲ加ヘサルトキニ非サレハ其過失ノ責ニ任セス
第百三十三条 各社員ハ会社資本中ニ於テ使用スルコトヲ得ル金額ナキトキハ会社ノ所属物ニ関スル必要及ヒ保持ノ費用ヲ自己ノ権利ノ割合ニ応シテ分担スル責ニ任ス
第百三十四条 業務担当人タルト否トヲ問ハス各社員ハ会社ヲシテ自己ノ出資外ニ会社ノ為メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ返還セシメ又ハ会社ノ利益ノ為メ善意ニテ負担シタル義務ヲ認諾セシメ又ハ会社ノ営業ノ為メ自己ノ財産ニ受ケタル避クルヲ得サル損害ヲ賠償セシムルコトヲ得
第百三十五条 会社営業ノ為メ社員ノ立替ヘタル金額ハ其使用ノ日ヨリ当然利息ヲ生ス
之ニ反シテ各社員ハ自己ノ営業ノ為メ会社資本中ヨリ引出シタル金額ニ付テハ当然会社ニ対シテ其利息ヲ負担シ尚ホ損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
第百三十六条 社員ハ会社解散ノ際ニ現在スル資本ニ於ケル各自ノ持分ヲ会社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ随意ニ定ムルコトヲ得但第百三十八条ニ掲ケタル二箇ノ場合ハ此限ニ在ラス
第百三十七条 社員ハ其一人又ハ数人ノ持分カ利益及ヒ損失ニ於テ同一ナラサルヲ合意スルコトヲ得
然レトモ利益ノミヲ予見シテ右ノ持分ヲ定メタルトキハ損失ニ付テモ同一ノ定方ヲ合意シタリトノ推定ヲ受ク
如何ナル場合ニ於テモ受ケタル損失ヲ控除シ会社ノ貸方トシテ残ル所ノモノニ非サレハ配当ス可キ利益ト看做サス又右貸方ヲ竭シタル後借方トシテ残ル所ノモノニ非サレハ損失ト看做サス
然レトモ会社ノ存立中ニ詐害ナクシテ既ニ為シタル利益又ハ損失ノ一分ノ配当ハ之ヲ変更セス
第百三十八条 会社資本ノ全部又ハ会社ノ得タル利益ノ全部ヲ社員中ノ一人ニ帰ス可キ約款ハ無効ナリ
技術又ハ労力ヲ出資ト為シタル社員ニ非サル社員ニ全ク損失ノ負担ヲ免カレシム可キ約款モ亦同シ
会社契約ニ右ノ約款ヲ附記シタルトキハ其約款ハ契約ヲシテ全ク無効ナラシム又日後ニ右ノ約款ヲ追加シタルトキハ其約款ハ契約ノ存立ヲ妨ケスシテ会社ノ清算ハ第百四十一条ニ従ヒテ之ヲ為ス
第百三十九条 社員ハ自己ノ選任セシ又ハ選任ス可キ社員又ハ外人タル一人若クハ数人ノ仲裁人ヲシテ会社解散ノ際各自ノ持分ヲ定メシムルコトヲ会社契約又ハ其後ノ契約ヲ以テ合意スルコトヲ得
仲裁人ノ為シタル定方ハ仲裁人カ仲裁ノ適法ノ方式又ハ仲裁契約ヲ以テ授ケラレタル条件ヲ履行セサルカ又ハ明カニ公平ヲ失シタルトキニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
右定方ノ無効ノ請求ハ此ニ因リテ害ヲ受ケタリト主張スル社員ニ在テハ其社員カ定方ノ執行ニ加ハリタルトキ又ハ其定方ヲ知リタルヨリ三个月ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ス
第百四十条 会社契約ヲ以テ持分ノ定方ヲ仲裁人ニ委任ス可キコトヲ定メタル場合ニ於テ少ナクトモ社員ノ過半数カ仲裁人ヲ選任スルコトニ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ其選任ヲ為ス
選任セラレタル仲裁人カ定方ヲ為スコトヲ欲セス又ハ之ヲ為スコト能ハサルニ当リ社員カ其改選ニ付キ一致セサルトキモ亦同シ
第百四十一条 社員自身ニテ若クハ仲裁人ヲ以テ持分ノ定方ヲ為サス又ハ仲裁人ノ定方ノ無効ト為リタルトキハ会社資本及ヒ利益又ハ損失ハ社員ノ出資額ノ割合ニ応シテ之ヲ配当ス
社員ノ出資ト為シタル技術又ハ労力ノ評価ナキトキハ裁判所ハ各般ノ事情ヲ斟酌シテ其出資ノ価額ヲ定ム
技術又ハ労力ト財産トヲ出資ト為シタル社員ハ前項ニ定メタル価額ノ外尚ホ其財産ノ価額ニ従ヒテ計算シタル持分ノ配当ヲ受ク
第百四十二条 各社員ハ自己ノ持分ニ第三者ヲ組合サシムルコトヲ得又其持分ヲ質入シ又ハ之ヲ譲渡スコトヲ得然レトモ此等ノ行為ハ之ヲ以テ会社ニ対抗スルコトヲ得ス但会社契約ヲ以テ社員ニ此権利ヲ認許シタルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ会社カ社員ノ譲渡サント欲スル持分ヲ消却スル為メ先買権ヲ留保シタルトキハ自己ノ持分ヲ譲渡サントスル社員ハ会社カ其先買権ヲ行フカ抛棄スルカニ付キ之ヲ遅滞ニ付スルコトヲ要ス
第百四十三条 業務担当人カ会社ノ名ヲ以テ又ハ会社ノ営業ノ為メ有効ニ負担シタル義務ハ会社カ法人ヲ成セルトキハ各社員ノ一身上ノ債権者ニ先タチ会社資本ヲ以テ之ヲ担保ス
会社資本ノ不十分ナル場合又ハ訴追債権者ニ其資本ヲ示ササル場合ニ於テハ総社員ハ連帯シテ会社ノ義務ヲ負担ス会社カ法人ヲ成ササルトキモ亦同シ
右ノ場合ニ於テ各社員間ノ決算ハ第百三十六条乃至第百四十一条ニ規定シタル貸方及ヒ借方ニ於ケル各自ノ持分ニ従ヒテ之ヲ為ス
第三節 会社ノ解散
第百四十四条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ当然解散ス
第一 会社契約ヲ以テ指定シタル期間ノ満了又ハ解除条件ノ成就
第二 会社ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能
第三 会社資本ノ全部又ハ半額以上ノ損失
第四 社員ノ一人ノ技術、労力又ハ収益ヲ以テスル継続ノ出資ヲ為スノ不能
第五 社員ノ一人ノ死亡、禁治産、破産又ハ顕然ノ無資力但第百四十七条ノ規定ヲ妨ケス
第百四十五条 会社ハ左ノ諸件ニ因リテ之ヲ解散スルコトヲ得
第一 如何ナル場合ヲ問ハス社員ノ一致ノ意思
第二 会社ニ明示又ハ黙示ノ一定ノ期間ナキ場合ニ於テ悪意ニ非ス又不都合ノ時期ニ非スシテ解散ノ請求ヲ為ストキハ社員一人ノ意思
第三 会社ニ一定ノ期間アルトキト雖モ社員ノ一人ノ義務不履行ニ基キタル解除ノ訴又ハ正当ノ理由ニ基キタル解散ノ請求
第百四十六条 社員ハ会社ノ期間ノ満了前ニ明示又ハ黙示ニテ其期間ヲ伸長スルコトヲ得
黙示ノ伸長ハ一定ノ期間ノ満了後ニ於テ社員ノ一人タモ故障ヲ為サスシテ会社営業ノ継続シタル事実ヨリ生スルコトヲ得此場合ニ於テ会社ハ前条第二号ニ従ヒ社員ノ一人ノ意思ヲ以テ之ヲ解散スルコトヲ得
第百四十七条 社員ハ第百四十四条第五号ニ掲ケタル原因ニ由リテ会社ヲ解散セス且闕員ノ持分ヲ定メ他ノ社員ニテ之ヲ継続スルヲ合意スルコトヲ得
又社員ハ死亡シタル社員ノ相続人又ハ無能力ト為リタル社員ト共ニ会社ヲ継続スルヲ合意スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ相続人又ハ無能力者ノ合式ノ代人ノ新ナル承諾ヲ要ス
第四節 会社ノ清算及ヒ分割
第百四十八条 会社ノ解散シタルトキハ社員ノ各自又ハ其承継人ヨリ清算ヲ請求スルコトヲ得
清算ハ分割前ニ之ヲ為スコトヲ要ス但社員ノ多数カ全部又ハ一分ノ分割ヲ先ニスルコトヲ請求シタルトキハ此限ニ在ラス
又会社ノ各債権者ハ清算前ニ分割ヲ為スコトニ付キ故障ヲ申立ツルコトヲ得
第百四十九条 清算ハ左ノ諸件ヲ包含ス
第一 著手シタル業務ノ成就
第二 会社ノ債務ノ弁済及ヒ其債権ノ取立
第三 各社員ト会社トノ間ノ特別ナル計算
第四 分割ス可キ貸方又ハ負担ス可キ借方ニ於ケル各社員又ハ其代人ノ持分ノ指定
第百五十条 会社契約ニ清算人ノ選任及ヒ其権限ニ関スル約款ナキトキハ清算ハ或ハ総社員之ヲ為シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ委任シタル一人若クハ数人ノ社員之ヲ為シ或ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル第三者之ヲ為ス
社員カ清算人ノ選任ニ付キ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ選任ス
第百五十一条 清算人ハ如何ナル場合ヲ問ハス速ニ毀損又ハ滅尽ス可キ物ヲ譲渡スコトヲ要ス
満期ト為リタル債務ノ弁済ノ為メ必要ナルトキハ此他ノ動産ヲ譲渡スコトヲ得
不動産ニ付テハ清算人ハ社員ノ特別ナル委任ヲ受クルニ非サレハ之ヲ抵当トシ又ハ譲渡スコトヲ得ス
前項ノ譲渡ハ競売競落ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但協議上ノ譲渡ヲ許シタル場合ハ此限ニ在ラス孰レノ場合ニ於テモ社員ノ過半数ヲ以テ決スルコトヲ要ス
清算人ハ社員ノ名ヲ以テ原告又ハ被告トシテ訴訟ヲ為スコトヲ得
清算人カ会社ノ債務又ハ債権ニ付キ承諾シタル和解及ヒ仲裁ハ第三者ト通謀シタル詐欺ノ為メニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
第百五十二条 清算ニ於ケル総計算ハ社員ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
右ノ計算ヲ認可スルニハ社員ノ過半数ノ議決ヲ以テ足レリトス
此議決ハ総計算ニ付キ之ヲ為シ又ハ計算ノ或ル部分ニ付キ各別ニ之ヲ為スコトヲ得
認可ヲ得サル計算ニシテ仕直スコトヲ得ヘキモノナルトキハ清算人其費用ヲ以テ之ヲ為ス若シ仕直スコトヲ得サルトキハ清算人ハ代理ノ規則ニ従ヒ其過失ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス
清算人ノ受任シタル権限ニ依リ又ハ前条ニ従ヒテ為シタル行為ハ善意ナル第三者ニ対シテ之ヲ取消スコトヲ得ス
第百五十三条 会社ノ清算後ハ不分ニテ存スル財産ノ分割ハ社員ノ各自又ハ其承継人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得但当事者カ財産編第三十九条ニ従ヒ不分ニテ存スルコトヲ会社ノ解散後ニ合意シタルトキハ此限ニ在ラス
第百五十四条 分割部分ノ定方又ハ其配付ニ付キ当事者ノ一致セサルトキハ財産共通ノ分割ノ為メ別ニ定メタル規則ニ従フ
第百五十五条 会社資本中ノ物ニシテ分割ニ因リ各社員ニ帰シタルモノニ関スル其社員ノ権利ハ会社解散ノ日ニ遡リテ効力ヲ有シ又清算中他ノ社員ヨリ其物ニ付キ第三者ニ授与シタル権利ハ之ヲ解除ス
第百五十六条 分割者ハ分割ニ因リテ取得ス可キ権利ノ上ニ受クルコト有ル可キ妨碍及ヒ追奪ニ付キ其各自ノ部分ニ応シテ相互ニ担保ヲ為ス
分割者ノ一人カ無資力ナルトキハ其一人ノ負担シタル賠償ノ部分ハ被担保人ヲ併セテ他ノ共同分割者ノ間ニ之ヲ分ツ
第七章 射倖契約
総則
第百五十七条 射倖契約トハ当事者ノ双方若クハ一方ノ損益ニ付キ其効力カ将来ノ不確定ナル事件ニ繋ル合意ヲ謂フ
第百五十八条 射倖契約ニハ其性質ニ因ルモノ有リ当事者ノ意思ニ因ルモノ有リ
博戯、賭事、終身年金権其他終身権利ノ設定、陸上、海上ノ保険及ヒ冒険貸借ハ性質ニ因ル射倖ノモノナリ
此他成立又ハ効力ヲ停止又ハ解除ノ偶成ノ条件ニ繋ラシムル契約ハ当事者ノ意思ニ因ル射倖ノモノナリ
第百五十九条 陸上、海上ノ保険及ヒ冒険貸借ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一節 博戯及ヒ賭事
第百六十条 博戯ハ博戯者ノ勇気、力量、巧技ヲ発達ス可キ性質ナル体躯運動ヲ目的トスルニ非サレハ其義務履行ノ為メ訴権ヲ許サス
賭事ニ基ク訴権ハ右ノ如キ体躯運動ヲ為ス人ノ為メ又ハ賭者ノ直接ニ関係スル農工商業ノ進歩ノ為メニ非サレハ亦之ヲ許サス
右ノ博戯又ハ賭事ニ於テ諾約シタル金額又ハ有価物カ事情ニ照シテ過度ナリト見ユルトキハ裁判所ハ之ヲ減少スルコトヲ得スシテ全ク其請求ヲ棄却スルコトヲ要ス
第百六十一条 前条ノ場合ノ外博戯及ヒ賭事ハ自然義務ヲモ生セス且其債務ノ追認、更改又ハ保証ハ総テ無効ナリ
然レトモ右博戯又ハ賭事ニ因ル有能力者ノ任意ノ弁済ハ之ヲ取戻スコトヲ許サス但勝者ニ於テ詐欺又ハ欺瞞アリタルトキハ此限ニ在ラス
第百六十二条 官許ヲ得サル富講ハ訴権ナキ博戯及ヒ賭事ト同視ス
商品又ハ公ノ証券ノ投機ノ定期売買ニ付テモ初ヨリ当事者カ諾約シタル金額又ハ有価物ノ引渡及ヒ弁済ヲ実行スルニ意ナク単ニ相場昂低ノ差額ヲ計算スルノミヲ目的トシタルコトヲ被告ノ証スルトキモ亦同シ
第百六十三条 前二条ノ場合ニ於テ被告ヨリ銷除ヲ申立テサルトキハ判事ハ職権ヲ以テ其銷除ヲ言渡スコトヲ得但契約又ハ請求ニ於テ博戯、富講又ハ相場差額ノ賭事カ債務ノ原因タルコトヲ明言セシトキニ限ル
第二節 終身年金権
第一款 終身年金権ノ設定
第百六十四条 終身年金権ハ動産若クハ不動産ナル元本ノ譲渡ノ報酬又ハ既往若クハ将来ノ勤労ノ報酬トシテ有償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
又贈与又ハ遺贈ヲ以テ無償ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
又終身年金権ハ有償又ハ無償ニテ譲渡シタル元本ノ上ニ留存シテ之ヲ設定スルコトヲ得
第百六十五条 終身年金権ハ対価物ノ供与者ニ非サル人ノ利益ノ為メ之ヲ要約スルコトヲ得
此場合ニ於テハ要約者ト諾約者トノ間ニ在テハ有償契約ノ規則ニ従ヒ要約者ト得益者トノ間ニ在テハ贈与ノ規則ニ従フト雖モ贈与ノ方式ニ従フコトヲ要セス
第百六十六条 終身年金権ハ債権者若クハ債務者ノ終身ヲ期シ又ハ第三者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此末ノ場合ニ於テ契約カ有償ナルトキハ其成立ニ付キ第三者ノ承諾ヲ必要トス然レトモ此承諾前ニ弁済シタル年金ハ之ヲ取戻スコトヲ得ス
第百六十七条 終身年金権ハ同時又ハ順次ニ数人ノ債権者ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得
此場合ニ於テハ財産編第百条ノ用益権ニ関スル規定ヲ適用ス
第百六十八条 有償ノ終身年金権ノ契約ハ其設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ合意ノ当時ニ於テ既ニ死亡シタルトキハ当事者双方其死亡ヲ知ラスト雖モ無効ナリ
右ノ人カ合意ノ当時ニ於テ既ニ罹レル疾病ノ為メ六十日内ニ死亡シタルトキハ其契約ハ当然之ヲ解除ス
第百六十九条 無償ノ終身年金権ハ設定者ニ於テ之ヲ譲渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノト定ムルコトヲ得
右約款ハ設定証書ニ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
養料トシテ無償ニテ設定シタル終身年金権ハ当然譲渡スコトヲ得ス且差押フルコトヲ得サルモノナリ
本条ノ規定ハ贈与者ノ利益ノ為メ贈与財産ノ上ニ留存シタル終身年金権及ヒ支払時期ノ至リタル年金ニ之ヲ適用セス
第百七十条 終身年金権ノ譲渡及ヒ差押ノ禁止ハ其一事ノミヲ要約シタルトキト雖モ二事共ニ存立ス
第二款 終身年金権ノ契約ノ効力
第百七十一条 債務者ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人ノ生存中ハ其年金権ノ年金ヲ支払フコトヲ要シ且買戻ヲ為スコトヲ得ス但其買戻ニ付キ特別ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第百七十二条 年金ハ毎月又ハ此ヨリ長キ時期ニ於テ其支払ヲ為ス可キトキト雖モ債権者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
然レトモ年金ヲ前払ス可キトキハ債務者ハ既ニ支払時期ノ始マリタル全一期分ヲ負担ス
第百七十三条 債権者ハ解除ノ権利ヲ留保セサルトキハ年金支払ノ欠欠ノ為メ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得ス只其債務者ノ財産中ニ於テ年金ヲ受クルニ足ル可キ部分ヲ差押ヘ之ヲ売却セシメ其売却代金ヨリ生スル利息ヲ以テ年金ノ支払ニ充ツルコトヲ得但他ノ債権者ノ競取ヲ拒ムコトヲ得ス
終身年金権ヲ無償ニテ設定シ又ハ贈与若クハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタルトキモ亦右ト同一ニ処弁ス
第百七十四条 終身年金権ノ債務者ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ支払ノ時期ニ生存セシコトヲ債権者ヨリ生存認証書ヲ以テ証セサルトキハ其年金ノ支払ヲ拒ムコトヲ得
此認証書ハ其人ノ現住地ノ受持公証人又ハ身分取扱人之ヲ交付ス
第三款 終身年金権ノ消滅
第百七十五条 有償ノ終身年金権ノ債務者カ年金支払ノ為メ諾約シタル担保ヲ供セス又ハ供シタル担保ヲ減少スルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得但既ニ取得シタル年金ヲ返還スル責ナシ
贈与又ハ遺贈ノ元本ノ上ニ留存シタル終身年金権ノ債権者モ亦右ト同一ノ権利ヲ有ス
右ノ解除ハ年金権ノ設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人カ確定判決前ニ死亡シタルトキハ之ヲ宣告セス
第百七十六条 普通法ニ於テ許シタル銷除及ヒ廃罷ノ原因ハ終身年金権ニ之ヲ適用ス
終身年金権ハ此他尚ホ更改、合意上ノ免除、混同、時効及ヒ要約シタル受戻ニ因リテ消滅ス
然レトモ終身年金権カ第百六十九条及ヒ第百七十条ニ従ヒ法律又ハ人為ニ依リテ譲渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ其年金権ハ時効ニ罹ラス
如何ナル場合ニ於テモ年金ハ支払時期後五个年ニシテ時効ニ罹ル
第百七十七条 終身年金権ハ其設定ノ為メ終身ヲ期セラレタル人ノ死亡ニ因リテ消滅ス但第百六十八条ノ規定ヲ妨ケス
然レトモ終身ヲ期セラレタル人カ債務者ノ責ニ帰ス可キ不正ノ原因ニ由リテ死亡シタル場合ニ於テ其年金権ヲ有償ニテ又ハ贈与若クハ遺贈ノ負担トシテ設定シタリシトキハ其契約又ハ恵与ハ之ヲ解除ス且債務者ハ既ニ支払ヒタル年金ヲ取戻サスシテ其取得シタル財産ヲ返還スルコトヲ要ス
右ト同一ノ死亡ノ場合ニ於テ其年金権ヲ直接ニ贈与シ又ハ遺贈シタリシトキハ年金ノ支払ハ裁判所カ終身ヲ期セラレタル人ノ生命ノ継続期ト推測スル期間之ヲ継続セシム
第八章 消費貸借及ヒ無期年金権
第一節 消費貸借
第百七十八条 消費貸借ハ当事者ノ一方カ代替物ノ所有権ヲ他ノ一方ニ移転シ他ノ一方カ或ル時期後ニ同数量及ヒ同品質ノ物ヲ返還スル義務ヲ負担スル契約ナリ
第百七十九条 当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ハ当事者ノ意思ヲ推測シ且事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
返還ノ場所ノ定マラサリシトキハ無利息ノ貸借ニ付テハ貸主ノ住所又利息附ノ貸借ニ付テハ借主ノ住所ニ於テ其返還ヲ為ス
第百八十条 不可抗力ニ因リテ借用物ヲ返還スルコト能ハサルトキハ借主ハ其物ノ不可抗力ニ罹リシ日及ヒ場所ノ相場ニ従ヒテ算定シタル其物ノ価額ヲ負担ス
第百八十一条 貸主ニ属セサル物ノ貸借ハ無効ナリ其貸借カ利息附ニシテ且借主カ善意ナリシトキハ貸主ハ借主ニ対シテ担保ノ責ニ任ス
然レトモ此貸借ハ左ノ場合ニ於テハ有効ナリ
第一 借主カ善意ニテ借用物ヲ消費シタルトキ
第二 借主カ時効ニ因リ真所有者ノ回復ノ請求ヲ排却シタルトキ
第三 真所有者カ貸借ヲ認諾シタルトキ
第百八十二条 貸借物ニ借主ノ了知セスシテ貸主ノ了知シタル隠レタル瑕疵アリテ借主為メニ損害ヲ受ケタルトキト雖モ貸主ハ無利息ノ貸借ニ付テハ其損害ノ責ニ任セス但貸主ニ詐欺アリ又ハ加害ノ意思アリタルトキハ此限ニ在ラス
此貸借カ利息附ナルトキハ貸主ノ了知セサリシ隠レタル瑕疵ト雖モ之ヲ了知スルコトヲ得ヘキトキハ其責ニ任ス
此他売買廃却訴権ニ関スル第九十四条乃至第百一条ノ規定ハ之ヲ消費貸借ニ適用スルコトヲ得
第百八十三条 財産編第四百六十三条乃至第四百六十六条ハ正貨又ハ強制通用ノ紙幣ニテ為シタル消費貸借ニ之ヲ適用ス
然レトモ貸主カ財産編第四百六十五条ノ許セル金貨若クハ銀貨ヲ以テ指定シタル価額ノ弁済ヲ受ケ又ハ此等ノ正貨ノ一ヲ以テ弁済ヲ受クルコトヲ要約スルニハ同性質ノ正貨又ハ他ノ正貨若クハ紙幣ヲ以テ対当ノ価額ヲ実際ニ貸付スルコトヲ要ス
第百八十四条 貸借ヲ金銀塊ニテ為シタルトキハ借主ハ他ノ商品ノ貸借ノ如ク同一ノ性質、重量及ヒ品格ノ金銀塊ヲ返還スルコトヲ要ス
第百八十五条 金銭、日用品又ハ商品ノ借主ハ使用ノ報酬トシテ元本ノ外ニ利息ノ名目ヲ以テ借用物ノ割合ニ応スル金額又ハ有価物ノ弁済ヲ約スルコトヲ得
第百八十六条 利息ハ要約シタルニ非サレハ借主ニ対シテ之ヲ要求スルコトヲ得ス
借主ヨリ利息ヲ弁済ス可キノ合意アリテ其額ノ定ナキトキハ其割合ハ法律上ノ利息ニ従フ
要約セラレサル利息ヲ法律ノ制限内ニテ任意ニ弁済シタル借主ハ之ヲ取戻シ又ハ之ヲ元本ノ弁済ニ充当スルコトヲ得ス
第百八十七条 合意上ノ利息ハ法律上ノ利息ヲ超ユルコトヲ得但法律ヲ以テ特ニ定メタル合意上ノ利息ノ制限ヲ超ユルコトヲ得ス
法律ノ制限ヲ超エテ顕然ニ利息ヲ定メタルトキハ之ヲ法律ノ制限ニ減却シ此制限ヲ超エテ為シタル弁済ハ之ヲ元本ノ弁済ニ充当シ又ハ之ヲ取戻スコトヲ得
債権者カ実際ニ貸付シタル元本ヲ超ユル元本ヲ認メシメ又ハ其他ノ方法ヲ以テ不正当ノ利息ヲ隠秘シタルトキハ債務者ハ其不正当ノ利息ヲ弁済スルコトヲ要セス若シ弁済シタルトキハ之ヲ取戻スコトヲ得
第百八十八条 貸主ハ支払時期ノ至リタル利息ニ付キ異議ヲ為サスシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ受取リタルトキハ其利息ヲ受取リ又ハ之ヲ抛棄シタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第百八十九条 十个年ヲ超ユル期間ヲ以テ利息附ノ貸借ヲ為シタルトキハ借主ハ如何ナル反対ノ合意アルモ十个年後ハ常ニ弁済ヲ為ス権能ヲ有ス
然レトモ年賦金ヲ以テ利息ノ外尚ホ元本ノ幾分ヲ漸次ニ弁済ス可キトキハ其取越弁済ヲ為スコトヲ得ス
第百九十条 第百八十六条乃至第百八十九条ノ規定ハ消費貸借ヨリ生スル義務ヲ除ク外金銭又ハ定量物ノ義務及ヒ合意上、法律上ノ利息ニ之ヲ適用ス
第二節 無期年金権ノ契約
第百九十一条 貸主ハ元本ノ要求ヲ為スコトヲ自ラ禁止シ年金ノミヲ受取ルコトヲ要約スルコトヲ得之ヲ無期年金権ノ設定ト謂フ
此禁止ハ明示ナルカ又ハ明カニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
第百九十二条 無期年金ノ債務ヲ負担スル借主ハ如何ナル反対ノ合意アルモ常ニ其受取リタル元本ノ弁済ヲ為スコトヲ得
然レトモ借主ハ十个年ヲ超エサル或ル時期前ニ弁済ヲ為ササルヲ約スルコトヲ得
右期間ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ亦十个年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヲ超ユルトキハ十个年ニ短縮ス
弁済ハ反対ノ合意アラサルトキハ全部タルコトヲ要ス
債務者ハ六个月前ニ弁済ヲ為ス意思ヲ債権者ニ予告スルコトヲ要ス但当事者ニ於テ他ノ期間ヲ定メタルトキハ此限ニ在ラス
債務者ハ自己ノ定メタル時期ニ於テ弁済ヲ為ササルトキハ其損害賠償ノ責ニ任ス然レトモ弁済ノ強要ヲ受クルコト無シ但更改アリタルトキハ此限ニ在ラス
第百九十三条 債務者ハ財産編第四百五条第一号乃至第三号ニ依リテ尋常ノ債務者カ権利上ノ期限ノ利益ヲ失フ場合又ハ合式ノ付遅滞ヲ受ケタル後引続キ二个年間年金ノ弁済ヲ欠キタル場合ニ於テハ元本弁済ノ強要ヲ受ク
此末ノ場合ニ於テ裁判所ハ財産編第四百六条ニ従ヒ債務者ニ恩恵上ノ期限及ヒ分割弁済ヲ許与スルコトヲ得
第百九十四条 前二条ノ規定ハ不動産譲渡ノ代価若クハ条件トシテ設定シ又ハ無償ニテ設定シタル無期年金権ニ之ヲ適用ス
右孰レノ場合ニ於テモ弁済ハ当事者ノ評定シタル元本ヲ以テ之ヲ為シ又元本ノ評定ナキトキハ法律上ノ利息ノ割合ニ従ヒテ計算シタル年金ヲ生ス可キ元本ヲ以テ之ヲ為ス
日用品ヲ以テ年金ニ充ツルトキハ弁済ハ特別ノ合意アルニ非サレハ前十个年間ノ其平均代価ニ基キ計算シタル元本ヲ以テ之ヲ為ス
第九章 使用貸借
第一節 使用貸借ノ性質
第百九十五条 使用貸借ハ当事者ノ一方カ他ノ一方ノ使用ノ為メ之ニ動産又ハ不動産ヲ交付シ明示又ハ黙示ニテ定メタル時期ノ後他ノ一方カ其借受ケタル原物ヲ返還スル義務ヲ負担スル契約ナリ
此貸借ハ本来無償ナリ
第百九十六条 借主ハ使用ノ物権ヲ取得セス単ニ貸主及ヒ其相続人ニ対シテ人権ヲ取得ス
借主ノ権利ハ其相続人ニ移転セス但其相続人カ当事者ノ意思ノ之ニ異ナルコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス又其相続人カ他ヨリ同種ノ物ノ使用ヲ得ル為メ裁判所ヨリ返還猶予ノ期間ヲ受クルコトヲ妨ケス
第二節 使用貸借ヨリ生シ又ハ其貸借ニ際シテ生スル義務
第百九十七条 借主ハ借用物ノ性質又ハ合意ニ因リテ定マリタル用方ニ従ヒ且貸借期間ニ非サレハ其物ヲ使用スルコトヲ得ス
借主ハ此他ノ使用又ハ期限後ノ使用ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ニ付テハ勿論又其使用ニ際シ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル滅失又ハ毀損ニ付テモ其責ニ任ス
第百九十八条 借主ハ自己ノ物ヲ用井テ借用物ノ滅失又ハ毀損ヲ免カレシムルコトヲ得ヘキトキ又ハ自己ノ物ト借用物トカ同時ニ危険ヲ受クルニ際シ自己ノ物ノミヲ救護シタルトキモ亦意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル借用物ノ滅失又ハ毀損ノ責ニ任ス
第百九十九条 借主ハ借用物保持ノ通常費用ヲ負担シ貸主ニ対シテ其償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第二百条 借主ハ合意セシ時期ニ於テ借用物ヲ返還スルコトヲ要ス其時期前ト雖モ許サレタル使用ヲ終リシトキハ亦同シ但第二百三条第二項ノ規定ヲ妨ケス
返還ノ時期ヲ定メス且物ノ使用カ継続ス可キモノナルトキハ裁判所ハ貸主ノ請求ニ因リテ返還ノ為メ相応ナル時期ヲ定ム
第二百一条 借主カ借用物ノ第三者ニ属スルコトヲ了知スルトキト雖モ貸主又ハ其代人ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス但第三者カ其返還ニ付キ合式ニ故障ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
此末ノ場合ノ外返還ハ貸主又ハ其代人ノ住所ニ於テ之ヲ為ス
第二百二条 数人連合シテ同時又ハ交互ニ用ユル為メ一箇ノ物ヲ借用シタルトキハ各自連帯ニテ上ノ義務ヲ負担ス
第二百三条 貸主ハ明示又ハ黙示ニテ借主ニ許シタル期限前ニ貸付物ノ返還ヲ要求スルコトヲ得ス
然レトモ其物ニ付キ急迫ニシテ且予期セサル要用ノ生シタルトキハ貸主ハ裁判所ニ請求シテ期限前ニ一時又ハ永久ノ返還ヲ為サシムルコトヲ得
第二百四条 貸主ハ借主カ借用物保存ノ為メ支出シタル必要且急迫ナル費用ヲ之ニ弁償スル責ニ任ス
又貸主ハ貸付物ノ瑕疵ノ為メニ借主ノ受ケタル損害ニ付テハ第百八十二条第一項ノ規定ヲ適用ス
第二百五条 借主ハ前条ニ依リテ自己ノ受ク可キ賠償ヲ得ルマテ借用物ニ付キ留置権ヲ行フコトヲ得
第十章 寄託及ヒ保管
第一節 寄託
第二百六条 寄託ハ一人カ動産ヲ交付シ他ノ一人カ之ヲ看守シ要求次第直チニ原物ヲ返還スル契約ナリ
寄託ハ本来無償ナリ
寄託ニハ任意ノモノ有リ急迫ノモノ有リ
第一款 任意寄託
第二百七条 任意ノ寄託ハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ選択スルコトヲ得ル場合ニ於テ成ルモノナリ
第二百八条 寄託ハ所有者ノミナラス尚ホ物ノ看守及ヒ保存ニ付キ利害ノ関係アル人又ハ其代理人之ヲ為スコトヲ得
又寄託ハ無能力者ノ法律上ノ代人之ヲ為スコトヲ得
第二百九条 寄託ハ契約ヲ為ス完全ノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
然レトモ無能力者ハ猶ホ自己ノ手ニ存スル寄託物ノ返還又ハ寄託ニ因リテ得タル利益ノ返還ニ付キ民事上其責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス
第二百十条 受寄者ハ受寄物ノ看守及ヒ保存ニ付テハ自己ノ財産ニ加フルト同一ノ注意ヲ為スコトヲ要ス
然レトモ受寄者カ自ラ求メテ寄託ヲ受ケ又ハ単ニ自己ノ利益ヲ目的トシ要用ニ従ヒ受寄物ヲ使用スルノ許諾ヲ得テ寄託ヲ受ケタルトキハ受寄者ハ善良ナル管理人ノ注意ヲ為ス責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テ受寄者カ其物ヲ使用シタルトキハ第百九十八条ノ規定ヲ適用ス
第二百十一条 受寄物返還ノ遅滞ニ付セラレタル受寄者ハ普通法ニ従ヒ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ル滅失ノ責ニ任ス
第二百十二条 寄託者カ受寄者ニ寄託物ノ性質ヲ隠秘シタルトキハ受寄者之ヲ知ラント探求スルコトヲ得ス又其性質ヲ受寄者ノミニ知ラシメタル場合ニ於テモ受寄者之ヲ他人ニ漏泄スルコトヲ得ス若シ之ヲ漏泄シタル為メ損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第二百十三条 受寄者ハ受寄物ヲ使用シ又ハ其果実ヲ消費スルコトヲ得ス但此カ為メ寄託者ノ明示又ハ黙示ノ許諾アリタルトキハ此限ニ在ラス
此許諾ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ与フルニ足ラス
第二百十四条 受寄者ハ其収取シタル果実及ヒ産出物ト又之ヲ金銭ニ換ヘサルヲ得サリシトキハ其代金ト共ニ原物ヲ返還スルコトヲ要ス但前条ノ規定ヲ妨ケス
受寄者カ受寄物ニ付キ或ル償金又ハ或ル権利若クハ利益ヲ取得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ移転スルコトヲ要ス
又受寄者カ故意ニテ受寄物ヲ消費シ譲渡シ又ハ隠匿シタルトキハ遅滞ニ付セラルルコト無クシテ当然損害賠償ノ責ニ任ス但背信ニ付テノ公訴ヲ妨ケス
第二百十五条 受寄者ノ相続人カ受寄物ナルコトヲ知ラスシテ其物ヲ消費シ又ハ之ヲ譲渡シタルトキハ其相続人ハ此ニ因リテ得タル利益ノ額ニ満ツルマテ賠償ノ責ニ任ス
右ノ規定ハ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ物トシテ受寄物ヲ処分シタル受寄者ニ之ヲ適用ス
第二百十六条 寄託物ノ返還ハ寄託者又ハ其法律上若クハ合意上ノ代人ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第二百十七条 返還ニ付キ場所ヲ定メサリシトキハ受寄者カ受寄物ヲ移置シタルモ其現在ノ場所ニ於テ之ヲ返還ス但寄託者ヲ詐害スル意思アルトキハ此限ニ在ラス
第二百十八条 寄託者ノ要求次第物ヲ返還ス可キ受寄者ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
第一 受寄者カ其物ノ自己ニ属スルコトヲ証スルコトヲ得ルトキ
第二 受寄者カ次条ニ従ヒテ留置権ヲ行フコトヲ得ルトキ
第三 受寄者カ払渡差押ノ合式ノ告知ヲ受ケタルトキ
第四 受寄者カ受寄物ノ盗品ナルコトヲ覚知シ且其所有者ヲ知リタルトキ但此場合ニ於テ受寄者ハ所有者ニ其寄託ヲ受ケタルコトヲ通知シ且指定セル相応ノ期間ニ寄託者ト立会ノ上ニテ其物ヲ要求ス可ク若シ此期間ヲ過クルモ立会ハサルトキハ寄託者ニ返還ヲ為ス可キ旨ヲ催告スルコトヲ要ス
第二百十九条 寄託者ハ寄託物ノ保存ノ為メ受寄者ノ支出シタル必要ノ費用ト其物ノ為メニ受寄者ノ受ケタル損害トヲ賠償スルコトヲ要ス
右賠償ノ皆済ヲ受クルマテ受寄者ハ受寄物ノ上ニ留置権ヲ行フコトヲ得
第二款 急迫寄託及ヒ旅店寄託
第二百二十条 寄託者カ火災、洪水、難船、地震又ハ暴動ノ如キ不測ニシテ且不可抗ノ事変ニ因リ已ムヲ得ス寄託ヲ為ストキハ之ヲ急迫ノ寄託ト謂フ
急迫ノ寄託ハ諸般ノ方法ニ依リ又ハ事情ヨリ生スル事実ノ推定ニ依リテ之ヲ証スルコトヲ得
此他急迫寄託ハ任意寄託ノ規則ニ従フ
第二百二十一条 旅店及ヒ下宿屋ノ主人ハ其止宿セシムル旅人ノ携帯シタル手荷物ノ受託ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス
舟車運送人其他水陸運送ノ営業人モ亦其運送ヲ任セラレタル荷物ニ付テハ之ヲ急迫ノ受寄者ト看做ス
然レトモ本条ノ受寄者ハ有償合意ヨリ生スル通常ノ義務ヲ負担ス
第二節 保管
第二百二十二条 保管トハ数人ノ間ニ於テ争論ノ目的タル物ヲ第三者ニ寄託スルヲ謂フ
保管ハ動産又ハ不動産ヲ目的トスルコトヲ得
保管ニハ合意上ノモノ有リ裁判上ノモノ有リ
第二百二十三条 合意上ノ保管ハ其保管ニ付テモ保管人ノ選定ニ付テモ当事者ノ承諾アルコトヲ要ス
裁判上ノ保管人ハ当事者カ其選定ニ付キ一致セサルトキニ非サレハ裁判所ハ職権ヲ以テ之ヲ選定スルコトヲ得ス
裁判所ハ当事者ノ一人ヲ保管人ニ選任スルコトヲ得
第二百二十四条 合意上ト裁判上トヲ問ハス保管人ハ報酬ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テ保管人ハ善良ナル管理人ノ通常ノ注意ヲ保管物ニ加フル責ニ任ス
第二百二十五条 裁判上ノ保管人ハ財産編第百十九条ニ従ヒテ保管物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ合意上ノ保管人ハ当事者ノ特別ノ委任ヲ受クルニ非サレハ賃貸スルコトヲ得ス
裁判上又ハ合意上ノ保管人ハ其占有ヲ保持シ又ハ之ヲ回収スル為メ占有訴権ヲ行フコトヲ得
保管人ノ占有ハ争訟ニ於テ確定ニ勝ヲ得タル当事者ヲ利ス
第二百二十六条 保管ニ付シタル物ハ勝ヲ得タル当事者ニ之ヲ返還スルコトヲ要ス
然レトモ保管人ハ自己ノ責任ヲ免カルル為メ当事者ノ許諾又ハ裁判所ノ命令ヲ求ムルコトヲ得
第二百二十七条 右ノ外合意上及ヒ裁判上ノ保管ハ尋常ノ寄託ノ規則ニ従フ
第二百二十八条 差押物ニ於ケル裁判上ノ保管及ヒ債務者カ弁済ニ提供シテ債権者ノ受取ルコトヲ拒ミタル金銭若クハ有価物ノ供託ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第十一章 代理
第一節 代理ノ性質
第二百二十九条 代理ハ当事者ノ一方カ其名ヲ以テ其利益ノ為メ或ル事ヲ行フコトヲ他ノ一方ニ委任スル契約ナリ
代理人カ委任者ノ利益ノ為メニスルモ自己ノ名ヲ以テ事ヲ行フトキハ其契約ハ仲買契約ナリ
仲買契約ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二百三十条 代理ハ黙示ニテ之ヲ委任シ及ヒ之ヲ受諾スルコトヲ得
第二百三十一条 代理ハ無償ナリ但反対ノ明示又ハ黙示ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十二条 代理ニハ総理ノモノ有リ部理ノモノ有リ
総理代理ハ為ス可キ行為ノ限定ナキ代理ニシテ委任者ノ資産ノ管理ノ行為ノミヲ包含ス
代理カ或ハ管理或ハ処分或ハ義務ニ関シテ一箇又ハ数箇ノ限定セル行為ヲ目的トスルトキハ其代理ハ部理ナリ
第二百三十三条 凡ソ代理ハ総理ナルト部理ナルトヲ問ハス其目的タル行為ヨリ必然ニ生ス可キ事柄ヲ暗ニ包含ス
然レトモ元本ヲ諾約スル委任ハ其弁済ヲ為ス委任ヲ包含セス
元本ヲ要約スル委任ハ其弁済ヲ受クル委任ヲ包含セス
訴訟ヲ為ス委任ハ仲裁人ヲ選任シ請求ニ承服シ訴訟ヲ取下ケ又ハ和解ヲ為ス委任ヲ包含セス
和解ヲ為ス委任ハ仲裁人又ハ裁判所ヲシテ争論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス
仲裁人ヲ選任スル委任ハ和解ヲ為シ又ハ裁判所ヲシテ其争論ヲ裁決セシムル委任ヲ包含セス
第二百三十四条 代理ハ無能力者ニモ有効ニ之ヲ委任スルコトヲ得然レトモ其代理人ハ委任者ニ対シテハ無能力者ノ制限アル責任ノミヲ負担ス
第二百三十五条 代理人ハ其管理行為ノ全部又ハ一分ニ付キ他人ヲシテ自己ニ代ハラシムルコトヲ得但此ヲ明示ニテ禁止セサルトキ又ハ事件ノ性質ニ因リテ専ラ代理人ノミニ委任シタリト看做ス可カラサルトキニ限ル此場合ニ於テ代理人ハ自己ノ管理ニ於ケル如ク其復代人ノ管理ノ責ニ任ス
委任者カ復代人ヲ指定シタルトキハ代理人ハ其指定ニ従フコト能ハサル場合ニ於テモ他人ヲ選任スルコトヲ得ス代理人カ其指定ニ従ヒ選任ヲ為シタル場合ニ於テハ代理人ハ其復代人ノ無能又ハ不誠実ニ付キ委任者ニ之ヲ告知スルコトヲ怠リ又ハ復代人ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス
委任者ノ禁止シタルニ拘ハラス復代人ヲ選任シ又ハ其許諾セサル人ヲ選任シタル場合ニ於テハ代理人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ生スル損害ニ付テモ其責ニ任ス但此復代人ノ選任ヲ為ササレハ其損害ノ生セサル可カリシトキニ限ル
第二百三十六条 前条第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テ委任者ハ復代人ニ対シ其管理ニ関スル訴権ヲ直接ニ行フコトヲ得又之ニ対シ直接ニ責任ヲ負担ス
同条第三項ノ場合ニ於テ委任者ハ直接訴権ト代理人ノ名ヲ以テスル間接訴権トノ間ニ選択権ヲ有ス然レトモ直接訴権ヲ行ヒタルトキハ其復代人ノ選任ヲ認諾シタルモノト看做ス
第二節 代理人ノ義務
第二百三十七条 代理ノ終了セサル間ハ代理人ハ委任ノ本旨ニ従ヒ且明示ナキモ自己ノ了知シタル委任者ノ意思ヲ斟酌シテ委任事件ヲ成就スル責ニ任ス此ニ違フトキハ損害賠償ヲ負担ス
全部ノ履行ヲ為スヲ得サルトキハ委任者ニ有益ナルニ非サレハ代理人ハ一分ノ履行ヲ為ス責ナク且之ヲ為スコトヲ得ス
第二百三十八条 指定ノ代価ニテ物ヲ買入ルル委任ヲ受ケタル代理人カ其指定ヲ超ユル代価ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ得ル能ハサリシトキハ代理人ハ其超過額ヲ抛棄シテ買入ノ認諾ヲ委任者ニ要求スルコトヲ得又委任者ハ代理人ノ弁済シタル代価ヲ以テ物ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得
物ヲ売却スル委任ヲ受ケタル場合ニ於テ代理人カ指定ノ代価以下ニテ之ヲ売却シタルトキハ代理人ハ代価ノ差額ヲ補足シテ其売却ヲ認諾セシムルコトヲ得
第二百三十九条 代理人ハ委任事件ヲ成就セシムルコトニ付テハ善良ナル管理人タルノ注意ヲ為ス責ニ任ス
然レトモ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ過失ハ較ヤ寛大ニ之ヲ査定ス
第一 代理人カ無償ニテ代理ヲ為ストキ
第二 代理人カ自ラ求メテ代理ヲ為シタルニ非サルトキ
第三 委任者カ代理人ノ不熟練ナルコトヲ了知シ又ハ之ヲ推量シタルトキ
第四 代理人カ管理ノ或ル行為ニ付キ委任者ヲシテ其予期セサリシ利益ヲ得セシメタルトキ
第二百四十条 代理人ハ代理ノ終了シタルトキハ証拠書類ヲ添ヘテ其計算ヲ為ス責ニ任ス其終了前ト雖モ委任者ノ之ヲ求メタルトキハ亦同シ
第二百四十一条 代理人ハ委任者ノ名ヲ以テ又ハ管理ニ関シ自己ノ名ヲ以テ受取リタル金額若クハ有価物ヲ委任者ニ返還スルコトヲ要ス又委任者カ正当ニ受取ルコトヲ得ス又ハ代理人ニ受取ルコトヲ託セサリシ金額若クハ有価物ト雖モ之ヲ受取リタルトキハ亦同シ然レトモ次節ニ従ヒテ委任者ヨリ受取ル可キ金額ヲ控除ス
代理人ハ自己ノ収取スルコトヲ怠リ又ハ自己ノ過失ニ因リテ滅失セシメタル金額若クハ有価物ノ価額ヲ前数条ニ依リテ負担スル損害賠償ト共ニ前項ノ返還中ニ附加ス
第二百四十二条 委任者ノ許諾ヲ受ケスシテ其元本ヲ自己ノ利益ニ用井タル代理人ハ其使用ノ日ヨリ当然利息ヲ負担ス其他損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
計算残余ノ金額ニ付テハ代理人ハ其遅滞ニ付セラレタル日ヨリ利息ヲ負担ス
第二百四十三条 一箇ノ事件ニ付キ数人ノ代理人アルトキハ唯一ノ証書ヲ以テ之ヲ委任シタルト各別ノ証書ヲ以テ之ヲ委任シタルトヲ問ハス各代理人ハ自己ノ過失ニ付テノミ其責ニ任シ連帯ヲ要約シタルトキ又ハ過失ノ連合ナルトキニ非サレハ其間ニ連帯ヲ成サス
第二百四十四条 代理人カ委任者ノ為メ委任者ノ名ヲ以テ第三者ト為シタル行為ノ履行ニ付テハ代理人ハ其第三者ニ対シテ責ニ任セス但代理人カ明示ニテ履行ノ責ニ任シ又ハ第三者ニ対シテ己レノ有セサル権限ヲ有スルモノノ如ク示シタルトキハ此限ニ在ラス
第三節 委任者ノ義務
第二百四十五条 委任者ハ代理人ニ対シテ左ノ義務ヲ負担ス
第一 代理人カ代理ノ履行ノ為メ支出シタル立替金又ハ正当ノ費用ノ弁償及ヒ其支出シタル日以来ノ法律上ノ利息ノ弁償
第二 合意シタル謝金ノ弁済
第三 代理人カ其管理ニ因リ又ハ其管理ヲ為スニ際シ自己ノ過失ニ非スシテ受ケタル損害ノ賠償但予見シタル損害ニシテ其全部又ハ一分ニ付キ特ニ謝金ヲ諾約スル理由ト為リタルモノハ此限ニ在ラス
第四 代理人カ其管理ニ因リテ負担シタル一身上ノ義務ノ解脱又ハ其賠償
第二百四十六条 代理人ハ前条ニ掲ケタル支出ヲ為スコトヲ約セサルトキハ其責ニ任セス然レトモ委任者ヨリ必要ナル資金ヲ供スルコトヲ拒絶シ又ハ遅延セシコトノ証拠ナキニ於テハ支出ヲ約セサル為メ代理ノ履行ヲ遅延スルコトヲ得ス
第二百四十七条 謝金ハ代理ノ全部履行アリタル後ニ非サレハ委任者之ヲ負担セス但一分ツツ弁済ス可キコトヲ諾約シタルトキハ此限ニ在ラス
代理人ノ責ニ帰セサル原因ニ由リテ全部ノ履行ニ妨碍アリタルトキハ謝金ハ其履行ノ割合ニ応シテ委任者之ヲ負担ス
第二百四十八条 委任者カ義務ヲ弁済スルニ至ルマテ代理人ハ代理ニ依リテ所持シ且債権者ト為レル原因タル物ノ上ニ留置権ヲ有ス
第二百四十九条 数人カ唯一ノ証書又ハ各別ノ証書ヲ以テ共同事件ノ為メ代理ヲ委任シタルトキハ委任者ノ各自ハ連帯シテ上ノ義務ヲ負担ス但反対ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
第二百五十条 委任者ハ代理人カ委任ニ従ヒ委任者ノ名ニテ約束セシ第三者ニ対シテ負担シタル義務ノ責ニ任ス
委任者ハ左ノ場合ニ於テハ代理人ノ権限外ニ為シタル事柄ニ付テモ亦其責ニ任ス
第一 委任者カ明示又黙示ニテ代理人ノ行為ヲ認諾シタルトキ
第二 委任者カ代理人ノ行為ニ因リテ利益ヲ得タルトキ但其利益ノ限度ニ従フ
第三 第三者カ善意ニシテ且代理人ニ権限アリト信スル正当ノ理由ヲ有シタルトキ
第四節 代理ノ終了
第二百五十一条 代理ノ履行又ハ其履行ノ不能及ヒ代理ニ付シタル期限ノ到来又ハ条件ノ成就ノ外尚ホ代理ハ左ノ諸件ニ因リテ終了ス
第一 委任者ノ為シタル廃罷
第二 代理人ノ為シタル抛棄
第三 委任者又ハ代理人ノ死亡、破産、無資力若クハ禁治産
第四 委任者カ代理ヲ委任シ又ハ代理人カ之ヲ受諾セシ原因タル資格ノ絶止
第二百五十二条 委任者ノミノ利益ノ為メニ委任セシ代理ノ廃罷ハ謝金ヲ諾約シタルトキト雖モ委任者ハ何時ニテモ随意ニ之ヲ為スコトヲ得
第二百五十三条 廃罷ハ将来ニ向ヒテノミ有効ナリ且其廃罷前ニ有効ニ為シタル事柄ヲ害セス
第二百五十四条 数人ノ委任者アルトキハ其中ノ一人ノ為シタル廃罷ハ他ノ人ノ代理ヲ終了セシメス
第二百五十五条 代理ノ廃罷ハ黙示タルコトヲ得黙示ノ廃罷ハ同一ノ事件ニ付キ新代理人ノ選任又ハ委任者ノ管理ノ回復其他ノ事情ヨリ生スルモノナリ
第二百五十六条 代理ノ抛棄カ委任者ニ損害ヲ生セシメタルトキハ代理人ハ其賠償ノ責ニ任ス但正当又ハ已ムヲ得サル原因ニ基キタルトキハ此限ニ在ラス
代理ノ抛棄モ亦黙示ニテ之ヲ為スコトヲ得
第二百五十七条 代理終了ノ原因ハ委任者ヨリ出テタルト代理人ヨリ出テタルトヲ問ハス当事者カ其告知ヲ受ケタルカ又ハ確実ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ当事者互ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
当事者ノ一方ノ死亡シタル場合ニ於テハ其相続人ヨリ告知スルコトヲ要ス
第二百五十八条 委任者カ代理人ヨリ委任状ヲ取戻シタルトキト雖モ懈怠ナシニ代理ノ終了ヲ知ラスシテ代理人ト約束シタル第三者ニハ代理終了ノ原因ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第二百五十九条 代理カ上ニ掲ケタル原因ノ一ニ由リテ終了セシトキハ代理人又ハ其相続人ハ委任者又ハ其相続人カ既ニ生シタル利益ヲ自ラ処理シ又ハ新代理人ヲシテ之ヲ処理セシムルコトヲ得ルニ至ルマテ其利益ヲ処理スルコトヲ要ス
此規定ハ代理ノ終了カ代理人ノ抛棄ニ因レルトキハ委任者ノ廃罷ニ因レルトキヨリモ一層厳ニ之ヲ適用ス
第十二章 雇傭及ヒ仕事請負ノ契約
第一節 雇傭契約
第二百六十条 使用人、番頭、手代、職工其他ノ雇傭人ハ年、月又ハ日ヲ以テ定メタル給料又ハ賃銀ヲ受ケテ労務ニ服スルコトヲ得
雇傭ハ地方ノ慣習ニ因リ定マリタル時期ニ於テ又ハ確定ノ慣習ナキトキハ何時ニテモ一方ヨリ予メ解約申入ヲ為スニ因リテ終了ス但其解約申入ハ不利ノ時期ニ於テ之ヲ為サス又悪意ニ出テサルコトヲ要ス
第二百六十一条 雇傭ノ期間ハ使用人、番頭、手代ニ付テハ五个年職工其他ノ雇傭人ニ付テハ一个年ヲ超ユルコトヲ得ス但習業契約ニ関スル下ノ規定ヲ妨ケス
此ヨリ長キ時期ヲ約シタルニ於テハ当事者ノ一方ノ随意ニテ右ノ時期ニ之ヲ短縮ス但更新ヲ為ス権能ヲ妨ケス
第二百六十二条 雇傭ハ時期ヲ定メタルトキト雖モ当事者ノ一方ノ義務不履行ニ因ル解除ノ為メ又ハ一方ヨリ出テタル正当ニシテ且已ムヲ得サル原因ノ為メ其定期前ニ於テ終了ス
如何ナル場合ニ於テモ主人ノ一身ニ関スル雇傭ハ其死亡ノ為メ当然終了ス
第二百六十三条 雇傭ヲ終了セシムル正当ノ原因カ主人ヨリ出テ且地方ノ慣習ニ従ヒ雇傭ノ新契約ヲ為スニ困難ナル季節ニ生シタルトキハ裁判所ハ事情ニ従ヒテ定ムル償金ヲ雇傭人ニ付与セシムルコトヲ得
第二百六十四条 如何ナル場合ニ於テモ雇傭人ノ死亡ハ契約ヲ終了セシム但其相続人ハ給料又ハ賃銀ノ取越過額ヲ返還ス
第二百六十五条 上ノ規定ハ角力、俳優、音曲師其他ノ芸人ト座元興行者トノ間ニ取結ヒタル雇傭契約ニ之ヲ適用ス
第二百六十六条 医師、弁護士及ヒ学芸教師ハ雇傭人ト為ラス此等ノ者ハ其患者、訴訟人又ハ生徒ニ諾約シタル世話ヲ与ヘ又ハ与ヘ始メタル世話ヲ継続スルコトニ付キ法定ノ義務ナシ又患者、訴訟人又ハ生徒ハ此等ノ者ノ世話ヲ求メテ諾約ヲ得タル後其世話ヲ受クル責ニ任セス
然レトモ実際世話ヲ与ヘタルトキハ相互ノ分限ト慣習及ヒ合意トヲ酌量シテ其謝金又ハ報酬ヲ裁判上ニテ要求スルコトヲ得
此等ノ者ノ世話ヲ受クルコトヲ諾約シタル後正当ノ原因ナクシテ之ヲ受クルコトヲ拒絶シタル者ハ其拒絶ヨリ此等ノ者ニ金銭上ノ損害ヲ生セシメタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
之ニ反シテ世話ヲ与フルコトヲ諾約シタル後正当ノ原因ナクシテ之ヲ拒絶シタル者ハ因リテ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第二節 習業契約
第二百六十七条 工業人、工匠又ハ商人ハ習業契約ヲ以テ習業者ニ自己ノ職業上ノ知識ト実験トヲ伝授シ習業者ハ其人ノ労務ニ助力スルヲ約スルコトヲ得
未成年者ハ其父、後見人其他自己ニ対シテ権力ヲ有スル人ノ保佐又ハ名代ニ依ルニ非サレハ習業契約ヲ取結フコトヲ得ス
第二百六十八条 合式ニ保佐ヲ受クル未成年者又ハ其代人ノ取結ヒタル習業契約ハ其未成年ノ時期ヲ超ユルコトヲ得ス但習業者カ成年ニ達シタル後其契約ヲ更新シ又ハ之ヲ伸長スルコトヲ妨ケス
第二百六十九条 習業契約ハ当事者相互ノ義務ノ性質及ヒ広狭ヲ定ム
習業契約ノ不備ハ師匠又ハ親方ノ其職業ヲ行フ地方ノ慣習ニ従ヒテ之ヲ補完スルコトヲ得
第二百七十条 師匠又ハ親方ハ習業者ニ衣食及ヒ職業ノ器具ヲ与ヘ且日常ノ便用ヲ足ラシムルコトヲ要ス但反対ノ合意ナク且地方ノ慣習ノ此ニ異ナラサルトキニ限ル
師匠又ハ親方ハ習業者ニ其習業契約ノ目的タル職業ヲ学フコトヲ得セシムル為メ必要ナル時間ヲ与ヘ世話ヲ為シ及ヒ諸般ノ便利ヲ図ルコトヲ要ス
未成年ノ習業者カ未タ算筆ヲ知ラサルトキハ師匠又ハ親方ハ何等ノ反対ノ合意アルモ習業者ニ算筆修習ノ為メ休憩時間外ニ於テ毎日少ナクトモ一時間ヲ与フルコトヲ要ス
第二百七十一条 習業者ハ其習ハント欲スル職業ニ関シ日日ノ時間及ヒ労務ヲ師匠又ハ親方ニ供スルコトヲ要ス
第二百七十二条 習業者カ自己又ハ其親属ノ疾病其他不可抗ノ原因ニ由リテ一个月以上引続キ労務ヲ供スルコト能ハサルトキハ習業者ハ其成年ニ達シタル後ト雖モ習業契約ノ期限満了後ニ於テ前契約ニ同シキ相互ノ条件ヲ以テ休業シタル時間ヲ補足スルコトヲ要ス
第二百七十三条 習業契約ハ左ノ諸件ニ因リテ当然終了ス
第一 師匠、親方又ハ習業者ノ死亡
第二 師匠、親方又ハ習業者ノ陸海軍ノ現役
第三 師匠、親方又ハ習業者ノ重罪又ハ三个月ヲ超ユル禁錮ノ処刑
第四 合意又ハ法律ヲ以テ定メタル期間ノ満了
第二百七十四条 左ノ原因アルトキハ解除ノ利益ヲ得ル一方ノ当事者ノ請求ニ因リ裁判所ハ契約ノ解除ヲ宣告スルコトヲ得
第一 相互ノ義務ノ不履行但不可抗ノ原因ニ由ルトキモ亦同シ
第二 習業者ニ対スル師匠又ハ親方ノ苛酷ナル取扱
第三 習業者ノ平常ノ不品行
第四 前条ニ掲ケタル場合ノ外師匠、親方又ハ習業者ノ犯罪
第五 契約ヲ履行ス可キ土地外ニ師匠又ハ親方ノ転居
本条ニ依リテ解除ノ宣告ヲ受ケタル当事者ノ一方ハ自己ニ過失アルトキハ他ノ一方ニ対シテ尚ホ其損害ヲ賠償ス可キノ言渡ヲ受ク前条ニ掲ケタル処刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
第三節 仕事請負契約
第二百七十五条 工技又ハ労力ヲ以テスル或ル仕事ヲ其全部又ハ一分ニ付キ予定代価ニテ為スノ合意ハ注文者ヨリ主タル材料ヲ供スルトキハ仕事ノ請負ナリ若シ請負人ヨリ主タル材料ト仕事トヲ供スルトキハ仕事ヲ為ス可キ条件附ノ売買ナリ
第二百七十六条 前条ニ掲ケタル二箇ノ場合ニ於テ物ノ全部又ハ一分ニ付キ既ニ仕事ヲ為シタル後ニ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ其物ノ滅失セシトキハ材料ノ滅失ハ其材料ノ属スル者之ヲ負担シ請負人ハ仕事賃ヲ損失ス
当事者ノ一方カ其所為ニ因リテ滅失ヲ来タシタルカ又ハ引渡若クハ受取ニ付キ遅滞ニ在ルトキハ其一方ノミ材料及ヒ仕事賃ニ付キ其滅失ヲ負担ス但損害アルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
請負人ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テ一分ノ滅失又ハ単一ナル毀損カ物ニ其価額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅失ト同視ス又其減価カ半以下ニ在ルトキハ財産編第百四十六条、第四百十九条第三項及ヒ第四百二十条ノ規定ヲ適用ス
注文者ヨリ材料ヲ供シタルトキハ注文者ハ滅失又ハ毀損ノ後存在スル材料ノ部分ノ増価シタル限度ニ従ヒテ仕事賃ヲ弁済スル責ニ任ス
第二百七十七条 注文者ヨリ材料ヲ供シタル場合ニ於テハ仕事完成ノ後ニ非サレハ引渡ヲ実行セサル可キトキト雖モ一分宛仕事ヲ調査シ且之ヲ受取ルヲ合意スルコトヲ得
此場合ニ於テ注文者カ既成ノ仕事ヲ調査シテ受取リタルトキ又ハ之ヲ調査スルコトノ遅滞ニ在ルトキハ請負人ハ既成ノ仕事ニ付キ其危険ノ責ヲ免カル
仕事中ニ注文者ヨリ前金又ハ内金ヲ供シタルモ此ヲ以テ既成ノ仕事ヲ受取リタリト看做サス然レトモ物カ注文者ノ明白ナル受取又ハ其付遅滞ノ以前ニ滅失シタルトキハ注文者ハ既成ノ仕事ヲ超ユル部分ニ非サレハ前金又ハ内金ヲ取戻スコトヲ得ス
第二百七十八条 注文者カ異議ヲ留メスシテ工作物ヲ受取リタルモ後日其物ノ使用ニ不適当ナル隠レタル瑕疵ヲ発見スルトキハ注文者ハ其受取ヲ取消シテ代価ノ減殺又ハ其一分ノ返還ヲ請求スル権利ヲ失ハス
此権利ニ基キタル訴権ハ注文者ニ属スル動産又ハ不動産ノ上ニ施シタル仕事ニ付テハ全部ノ工作物ヲ受取リタル後ノ三个月ニテ消滅ス
職工ヨリ材料ヲ供シタル製作物ニ付テハ第九十九条ノ規定ヲ適用ス
第二百七十九条 建物、牆壁其他地上ニ於ケル大ナル工作物ヲ請負ニテ築造シタルトキハ請負人ハ築造ノ瑕疵又ハ地盤ノ瑕疵ヨリ生シタル其工作物ノ全部若クハ一分ノ滅失又ハ重大ナル損壊ノ責ニ任ス但請負人カ他人ノ土地ニ築造シタルト自己ノ土地ニ築造シタルト材料ヲ供シタルト否トヲ区別セス
右責任ハ左ノ時期ノ間継続ス
第一 牆壁其他土工ニ付テハ其受取後二个年
第二 木造ノ建物ニ付テハ三个年
第三 石又ハ煉瓦ノ建物及ヒ土蔵ニ付テハ十个年
第二百八十条 右ノ責任ニ基キタル賠償訴権ハ左ノ時期ヲ以テ時効ニ罹ル
第一 物ノ全部ノ滅失ノ場合ニ於テハ其滅失ノ時ヨリ一个年
第二 物ノ一分ノ滅失又ハ重大ノ毀損ノ場合ニ於テハ請負人ノ責ニ任ス可キ期間ノ満了ノ時ヨリ六个月
第二百八十一条 経画ノ変更ヨリ代価ノ増減ヲ生ス可キモ書面ヲ以テ之ヲ定メサルトキハ其変更ヲ口実トシテ請負人ハ原代価ノ増加ヲ請求シ注文者ハ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
請負中ニ包含シタル建築ト全ク別ナル建築ヲ為シ又ハ請負中ノ区分アル建築ヲ廃セシトキハ此規定ヲ適用セス此場合ニ於テ当事者ノ間ニ一致ヲ得サルトキハ裁判所原代価ノ増減ヲ定ム
請負人ハ経画又ハ其変更カ注文者ノ指図ニ出テタルコトヲ口実トシテ第二百七十九条ニ定メタル責任ヲ免カルルコトヲ得ス但請負人カ書面ヲ以テ此責任ヲ免カルルコトヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
第二百八十二条 請負人カ仕事ノミヲ供スルト材料ヲ併セ供スルトヲ問ハス注文者ハ常ニ自己ノ意思ノミヲ以テ契約ヲ解除スルコトヲ得然レトモ注文者ハ請負人ノ既成ノ仕事ノ賃銀及ヒ準備ノ材料ニ受ケタル損失其他ノ損害ヲ賠償シ且其契約ニ因リテ得ヘキ正当ナル利益ノ全部ヲ弁済スル義務ヲ負担ス
第二百八十三条 他人ノ材料ヲ以テ仕事ノ全部ニ供シタルト一分ニ供シタルト又其仕事ヲ実行シタルト契約ヲ解除シタルトヲ問ハス請負人ハ仕事ノ為メ又ハ解除ノ賠償ノ為メ自己ノ受ク可キ金額ノ皆済ニ至ルマテ其材料ヲ留置スルコトヲ得但此留置権ハ動産物ノミニ之ヲ適用ス
第二百八十四条 注文者カ請負人其者ノ仕事ヲ主眼トシテ契約ヲ取結ヒタルトキハ其契約ハ請負人ノ死亡又ハ其仕事ノ不能ニ因リテ之ヲ解除スルコトヲ得
右二箇ノ場合ニ於テ注文者ハ自己ノ期望セシ目途ニ付キ利シタル仕事又ハ材料ノ価額ノミヲ請負人又ハ其相続人ニ弁済スル責ニ任ス
第二百八十五条 仕事ノ一分ニ任シタル下請負人ト請負人トノ関係ニ付テハ上ノ規定ニ従フ
請負人カ下請負人ニ対シ負担スル金額ヲ弁済セサルトキハ下請負人ハ自己ノ名ヲ以テ直接ニ注文者ニ対シ其注文者ノ猶ホ請負人ニ弁済ス可キ債務ノ限度ニ於テ訴ヲ起スコトヲ得
職工モ亦己レヲ雇ヒタル者カ賃銀ヲ弁済セサルトキハ注文者ニ対シテ右ト同一ノ権利ヲ有ス