朕監獄則ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年七月十二日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
內務大臣 伯爵 松方正義
勅令第九十三號
監獄則
第一條 監獄ヲ別テ左ノ六種ト爲ス
一 集治監 徒刑流刑及舊法懲役終身ニ處セラレタル者ヲ拘禁スル所トス
二 假留監 徒刑流刑ニ處セラレタル者ヲ集治監ニ發遣スル迄拘禁スル所トス
三 地方監獄 拘留禁錮禁獄懲役ニ處セラレタル者及婦女ニシテ徒刑ニ處セラレタル者ヲ拘禁スル所トス
四 拘置監 刑事被吿人ヲ拘禁スル所トス
五 留置場 刑事被吿人ヲ一時留置スル所トス但警察署內ノ留置場ニ於テハ罰金ヲ禁錮ニ換フル者及拘留ニ處セラレタル者ヲ拘禁スルコトヲ得
六 懲治場 不論罪ニ係ル幼者及瘖啞者ヲ懲治スル所トス
第二條 監獄ハ內務大臣ノ監督ニ屬ス
第三條 集治監北海道ニ在ルモノヲ除ク及假留監ハ內務大臣之ヲ管理シ其他ノ監獄ハ警視總監北海道廳長官府縣知事東京府ヲ除ク之ヲ管理ス
第四條 內務大臣ハ隨時監獄巡閱官ヲシテ各監獄ヲ巡閱セシムヘシ
警視總監北海道廳長官府縣知事東京府ヲ除クハ每年少クトモ一囘所轄ノ監獄ヲ巡閱スヘシ
裁判官ハ時々其裁判所管轄內ニ在ル拘置監ヲ巡視スヘシ
檢察官ハ時々其裁判所管轄內ニ在ル監獄ヲ巡視スヘシ
第五條 府縣會議員ハ臨時其府縣所轄ノ監獄ヲ巡見スルコトヲ得
第六條 新ニ入監スル者アルトキハ典獄先ツ令狀又ハ宣吿書ヲ査閱シテ之ヲ領シ其領收證ヲ引致シ來リタル者ニ交付シタル後入監セシムヘシ其文書ナクシテ引致セラレタル者ヲ入監セシムルコトヲ得ス
第七條 在監ノ婦女其子ヲ乳養セント請フトキハ其齡滿三歲ニ至ル迄之ヲ許ス
第八條 新ニ入監スル者ノ携有スル財貨物件ハ典獄悉ク㸃檢シテ之ヲ領置スヘシ
第九條 水火風震等非常ノ變災ニ際シ監獄圍內ニ於テ避災ノ手段ナシト考定スルトキハ典獄ハ其狀況ニ依リ在監ノ囚人懲治人及刑事被吿人ヲ他所ニ押送シ其災ヲ避ケシムヘシ若シ押送スルノ遑ナキトキハ一時之ヲ解放スルコトヲ得
解放ニ遭ヒタル者ハ其時ヨリ二十四時以內ニ監署又ハ警察署ニ其旨ヲ申出ツヘシ
第十條 滿期ノ者ヲ釋放スルハ其滿期ノ翌日午前十時ヲ過クヘカラス
第十一條 囚人ハ各罪質ニ從テ嚴ニ其監房ヲ別異シ其中ニ就キ年齡ニ從ヒ左ノ如ク別異ス
一 滿十二歲以上十六歲未滿ノ者
二 滿十六歲以上二十歲未滿ノ者
三 滿二十歲以上ノ者
四 滿十六歲以上二十歲未滿再犯ノ者
五 滿二十歲以上再犯ノ者
第十二條 懲治人ハ左ノ年齡ニ從ヒ其監房ヲ別異ス
一 滿八歲以上十六歲未滿ノ者
二 滿十六歲以上二十歲未滿ノ者
三 滿二十歲以上ノ者
第十三條 刑事被吿人ハ各罪質ニ從テ其監房ヲ別異シ其中ニ就キ年齡ニ從ヒ左ノ如ク別異ス
一 滿十二歲以上十六歲未滿ノ者
二 滿十六歲以上二十歲未滿ノ者
三 滿二十歲以上ノ者
第十四條 地方監獄拘置監懲治場ノ一區畫內ニ在ルモノハ墻壁ヲ以テ之ヲ區畫スヘシ
第十五條 凡ソ監獄ハ男監女監ノ別ヲ嚴隔スヘシ
第十六條 囚人及刑事被吿人ヲ裁判所又ハ他監ニ押送スルトキハ男ト女トヲ分チ時宜ニ依リ戒具ヲ用フルコトヲ得但懲治人ニハ戒具ヲ用ヒス
第十七條 定役ニ服スヘキ囚人ノ作業ハ每囚ノ體力ニ應シテ之ヲ課シ一日ノ科程ヲ定メテ服役セシムヘシ但科程ノ標準ハ內務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十八條 左ニ記載シタル日ハ服役ヲ免ス
一月一日二日 元始祭
孝明天皇祭 紀元節
春季皇靈祭 神武天皇祭
秋季皇靈祭 神甞祭
天長節 新甞祭
十二月三十一日
父母ノ喪ニ遭フ者ハ三日免役ス
第十九條 無定役囚ニシテ監獄圍內ニ於テ自ラ作業ヲ爲サント請フトキハ之ヲ許シ作業ノ種類ハ典獄之ヲ指定ス刑事被吿人モ亦之ニ準スルコトヲ得
第二十條 懲治人ニハ每日五時以內農業若クハ工藝ヲ敎ヘ力作セシムヘシ
第二十一條 役場ハ男女ノ別ヲ嚴隔シ仍ホ定役囚無定役囚懲治人ノ役場ハ各別ニ之ヲ設ケ其中ニ就キ丁年以上ノ者ト未丁年者トヲ區別スヘシ
第二十二條 定役ニ服スヘキ囚人現役一百日ヲ經レハ始メテ各自ノ工錢ヲ料定シ之ヲ十分シテ重罪囚ニハ其二分輕罪囚ニハ其四分ヲ與ヘ餘分ハ監獄ノ費用ニ供ス
無定役囚懲治人及刑事被吿人ニシテ作業スル者ノ工錢ハ之ヲ十分シテ其六ヲ與ヘ其餘分ハ監獄ノ費用ニ供ス定役ニ服スル囚人ニシテ科程外ノ作業ヲ爲ス時ノ工錢モ亦之ニ準ス
第二十三條 前條ニ依リ作業者ニ與フヘキ工錢ハ典獄之ヲ領置スヘシ
第二十四條 囚人懲治人及刑事被吿人逃走シ監署ニ領置ノ貨物アルトキハ逃走ノ日ヨリ滿一箇年ヲ經テ之ヲ受クヘキ者ナキトキハ監獄慈惠ノ用ニ充ツ刑死者死亡者ノ領置貨物ニシテ受クヘキ者ナキトキモ亦同シ
第二十五條 囚人及懲治人監署ニ領置ノ貨物ヲ以テ其父母妻子ノ扶助及正當ノ費用ニ充ント請フトキハ典獄其事情ヲ取糺シテ之ヲ許可スヘシ
刑事被吿人ニ係ルトキハ當該裁判官ノ允許ヲ經ヘシ
第二十六條 囚人及懲治人ノ衣服臥具ハ之ヲ貸與ス但拘留囚ハ自衣ヲ著スルコトヲ得
第二十七條 刑事被吿人ノ衣服ハ總テ自辨トシ臥具ハ之ヲ貸與ス若シ臥具ヲ自辨セント請フ者アルトキハ之ヲ許ス赤貧ニシテ衣類ヲ自辨スルコト能ハサル者ニハ之ヲ貸與ス
第二十八條 囚人及懲治人一人一日ノ食糧
一 下白米十分ノ四麥十分ノ六 七合乃至八合 最モ强キ作業ニ服スル者
一 同 五合乃至六合 作業ニ服スル者
一 同 四合 作業ニ服セサル者
一 同 三合 十歲未滿ノ幼者
一 菜 金壹錢以下
地方ノ便宜ニ依リ粟稗黍薯ノ類ヲ以テ麥ニ代用スルコトヲ得又麥粟稗黍等ニ乏シキ地方ニ於テハ內務大臣ノ認可ヲ得テ下白米ノミヲ給スルコトヲ得
刑事被吿人モ亦前項ニ準ス但自費ヲ以テ食物ヲ購求セント請フトキハ之ヲ許ス
第二十九條 定役ニ服スル男囚ノ髮ハ常ニ之ヲ短薙シ髭鬚ハ常ニ剃除セシム
定役ニ服スル女囚ノ梳髮ハ膏ヲ用ヒテ裝飾スルコトヲ許サス
第三十條 囚人及懲治人ニハ敎誨師ヲシテ悔過遷善ノ道ヲ講セシム
第三十一條 囚人十六歲未滿ノ者及懲治人ニハ每日四時以內讀書習字算術ヲ敎フヘシ
第三十二條 囚人懲治人及刑事被吿人現行ノ法律命令書ヲ看ント請フトキハ之ヲ許ス
囚人及懲治人書籍ヲ看ント請フトキハ修身宗敎敎育及營業ニ必要ナルモノニ限リ之ヲ許ス
刑事被吿人書籍ヲ看ント請フトキハ總テ之ヲ許ス但領置外ノ書籍ハ當該裁判官ノ承認ヲ經ヘキモノトス
新聞紙及時事ノ論說ヲ記スルモノハ前二項ノ例ニアラス
第三十三條 囚人其親屬故舊ニ信書ヲ贈ルハ一箇月ニ一次懲治人ハ一箇月ニ二次トシ共ニ一通ニ過クルコトヲ得ス但官司ノ訊問等ニ由テ書信ヲ要スルトキ又ハ親屬故舊ニ囘答セント請ヒ典獄ニ於テ之ヲ必要ト認メタルトキハ此限ニ在ラス
第三十四條 囚人及懲治人ノ發スル信書又ハ外人ヨリ送リ來ル信書ハ典獄之ヲ檢閱スヘシ若シ書中不正不良ニ涉リ又ハ其改悛ヲ妨クルモノト認ムルトキハ之ヲ發贈付與スルコトヲ許サス但刑事被吿人ニ係ル信書ハ總テ當該裁判官ノ檢閱ヲ經ヘキモノトス
第三十五條 囚人懲治人及刑事被吿人ニ接見セント請フ者アルトキハ典獄ノ立會ヲ以テ之ヲ許スヘシ但典獄ニ於テ形跡ノ疑フヘキコトアリト認ムルトキハ之ヲ許サヽルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ重罪裁判所ニ移スノ言渡ヲ受ケタル者ハ裁判言渡アル迄辯護人ヲ除クノ外其現在地ノ裁判所長ノ允許ヲ受クヘク密室監禁者ハ當該裁判官ノ允許ヲ受クヘシ
第三十六條 囚人懲治人及刑事被吿人疾病ニ罹ルトキハ病狀ノ輕重ヲ料リ其監房若クハ病室ニ於テ醫療セシム懲治場ニ在ル者ハ情狀ニ由リ其親屬ニ交付スルコトヲ得
第三十七條 囚人懲治人及刑事被吿人死亡シタルトキハ典獄看守長醫師ノ立會ヲ以テ之ヲ檢視シ監署ニ於テ速ニ其本籍ニ通知スヘシ其遺骸ハ親屬若クハ故舊ノ之ヲ請フ者ニ下付ス但死亡後二十四時以內ニ在テ其下付ヲ請フ者無キトキハ監署ニ於テ之ヲ假葬シ其姓名ヲ記シタル木膀ヲ立ツヘシ
刑死者ハ死相ヲ驗シタル後仍ホ五分時ヲ過サレハ其遺骸ヲ絞架ヨリ解下シ之ヲ埋葬シ若クハ下付スルコトヲ許サス
第三十八條 刑事被吿人ニ其親屬故舊ヨリ書類書籍用紙衣服臥具其他必要ノ物品又ハ飮食物ヲ贈ラント請フトキハ之ヲ許ス但書類書籍ハ當該裁判官ノ檢閱ヲ受クヘシ其密室監禁者ニ係ルトキハ他物ニ於テモ亦同シ
新聞紙及時事ノ論說ヲ記スルモノハ前項ノ例ニアラス
第三十九條 囚人及懲治人ニハ現行ノ法律命令書竝ニ書籍用紙印紙郵便切手貨幣及內務大臣ニ於テ許可シタルモノヲ除クノ外差入ヲ許サス但書籍ハ第三十二條ニ記載シタル制限ニ從フ
第四十條 囚人獄則ヲ謹守シ作業ニ勉勵シ且改悛ノ行爲アル者ト典獄ニ於テ確認スルトキハ之ヲ賞譽スヘシ
賞譽セシ者ニハ之ヲ表スル爲メ賞表ヲ與ヘ獄衣ニ縫著セシムヘシ
賞表ハ假出獄免幽閉又ハ特赦ヲ具狀スルノ憑據ト爲スコトヲ得
第四十一條 賞表ヲ有スル囚人ハ其監房ヲ區別シテ尋常囚人ト別異シ賞表ノ多寡ニ應シテ優遇ヲ爲スヘシ
第四十二條 囚人獄則ヲ犯ストキハ其輕重ヲ量リ左ノ例ニ從テ處罰ス
一 屛禁 晝夜他ノ監房又ハ役場ト隔絕シタル監房ニ獨居セシメ服役時間坐作ノ役ヲ課ス
二 減食 一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減シ鹽湯二品ノ外菜ヲ與ヘス
三 闇室 闇室ニ入レ一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減シ鹽湯二品ノ外菜ヲ與ヘス仍ホ臥具ヲ禁ス
屛禁ハ二月以內減食ハ一週日以內闇室ハ五晝夜以內トス
第四十三條 囚人十六歲未滿ノ者及懲治人獄則ヲ犯ストキハ其輕重ヲ量リ左ノ例ニ從テ處罰ス
一 獨愼 晝夜一室ニ獨居セシム
二 減食 一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減ス
獨愼ハ七晝夜以內減食ハ三日以內トス
第四十四條 減食若クハ闇室ノ罰ニ處スヘキ者アルトキハ醫師ヲシテ診視セシメ身體ニ妨ナキヲ證シテ後之ヲ行フヘシ其處罰中ハ醫師ヲシテ每日之ヲ視察セシメ醫師ニ於テ身體ニ妨アルヲ證スルトキハ處罰ヲ中止スヘシ
第四十五條 無期徒刑ノ囚人重罪ヲ犯シ若クハ逃走シ又ハ獄舍獄具ヲ毀壞シ又ハ暴行脅迫ヲ爲シタルトキハ一年以上五年以下其他ノ輕罪ヲ犯シタルトキハ一月以上一年以下兩脚又ハ一脚ニ釱ヲ施シ仍ホ鐵丸ヲ屬シタル鐵索ヲ其釱ニ貫キ腰間ニ繚帶セシメ繚帶ノ所ニ下鍵ス其監房ニ在ルモ晝間ハ仍ホ之ヲ施スモノトス
若シ再ヒ重罪ヲ犯シタルトキハ五年以上十年以下前項ノ例ニ照シテ處罰ス
鐵丸ノ量ハ二百目以上一貫目以下トシ被罰者ノ體力ニ應シテ之ヲ施ス丸ハ索尾ニ屬シ地上ヲ轉ハスモノトス若シ外役ニ服スルトキハ鐵丸ヲ除キ二人聯絆ノ法ニ從フ
第四十六條 施釱中ノ者病ニ罹リ醫師ノ診斷ニ依リ釱ノ解除ヲ必要トスルトキハ一時之ヲ解除スルコトヲ得但解除中經過セシ日數ハ施釱期限ニ算入セス
第四十七條 賞表ヲ有スル者處罰ヲ受ケタルトキハ其情狀ニ因リ賞表一箇又ハ數箇ヲ褫奪スルコトアルヘシ
第四十八條 獄則ヲ犯シ罰ニ處セラレタル者改悛ノ狀著シキトキハ處罰中ト雖モ之ヲ免スルコトヲ得
第四十九條 免幽閉ヲ受ケタル流刑ノ者監署ノ命令ニ違背シタルトキハ七日以內之ヲ拘置スルコトヲ得
第五十條 囚人懲治人及刑事被吿人司獄官吏ノ處置ニ對シ情苦ヲ訴ヘントスルトキハ第四條ニ記載シタル官吏巡閱ノ際封書又ハ口述ヲ以テ申吿スルコトヲ得
第五十一條 此規則ヲ施行スル方法細則ハ內務大臣之ヲ定ム
第五十二條 此規則ハ陸海軍ニ屬スル監獄ニ適用セサルモノトス
朕監獄則ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年七月十二日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
内務大臣 伯爵 松方正義
勅令第九十三号
監獄則
第一条 監獄ヲ別テ左ノ六種ト為ス
一 集治監 徒刑流刑及旧法懲役終身ニ処セラレタル者ヲ拘禁スル所トス
二 仮留監 徒刑流刑ニ処セラレタル者ヲ集治監ニ発遣スル迄拘禁スル所トス
三 地方監獄 拘留禁錮禁獄懲役ニ処セラレタル者及婦女ニシテ徒刑ニ処セラレタル者ヲ拘禁スル所トス
四 拘置監 刑事被告人ヲ拘禁スル所トス
五 留置場 刑事被告人ヲ一時留置スル所トス但警察署内ノ留置場ニ於テハ罰金ヲ禁錮ニ換フル者及拘留ニ処セラレタル者ヲ拘禁スルコトヲ得
六 懲治場 不論罪ニ係ル幼者及瘖唖者ヲ懲治スル所トス
第二条 監獄ハ内務大臣ノ監督ニ属ス
第三条 集治監北海道ニ在ルモノヲ除ク及仮留監ハ内務大臣之ヲ管理シ其他ノ監獄ハ警視総監北海道庁長官府県知事東京府ヲ除ク之ヲ管理ス
第四条 内務大臣ハ随時監獄巡閲官ヲシテ各監獄ヲ巡閲セシムヘシ
警視総監北海道庁長官府県知事東京府ヲ除クハ毎年少クトモ一回所轄ノ監獄ヲ巡閲スヘシ
裁判官ハ時々其裁判所管轄内ニ在ル拘置監ヲ巡視スヘシ
検察官ハ時々其裁判所管轄内ニ在ル監獄ヲ巡視スヘシ
第五条 府県会議員ハ臨時其府県所轄ノ監獄ヲ巡見スルコトヲ得
第六条 新ニ入監スル者アルトキハ典獄先ツ令状又ハ宣告書ヲ査閲シテ之ヲ領シ其領収証ヲ引致シ来リタル者ニ交付シタル後入監セシムヘシ其文書ナクシテ引致セラレタル者ヲ入監セシムルコトヲ得ス
第七条 在監ノ婦女其子ヲ乳養セント請フトキハ其齢満三歳ニ至ル迄之ヲ許ス
第八条 新ニ入監スル者ノ携有スル財貨物件ハ典獄悉ク点検シテ之ヲ領置スヘシ
第九条 水火風震等非常ノ変災ニ際シ監獄囲内ニ於テ避災ノ手段ナシト考定スルトキハ典獄ハ其状況ニ依リ在監ノ囚人懲治人及刑事被告人ヲ他所ニ押送シ其災ヲ避ケシムヘシ若シ押送スルノ遑ナキトキハ一時之ヲ解放スルコトヲ得
解放ニ遭ヒタル者ハ其時ヨリ二十四時以内ニ監署又ハ警察署ニ其旨ヲ申出ツヘシ
第十条 満期ノ者ヲ釈放スルハ其満期ノ翌日午前十時ヲ過クヘカラス
第十一条 囚人ハ各罪質ニ従テ厳ニ其監房ヲ別異シ其中ニ就キ年齢ニ従ヒ左ノ如ク別異ス
一 満十二歳以上十六歳未満ノ者
二 満十六歳以上二十歳未満ノ者
三 満二十歳以上ノ者
四 満十六歳以上二十歳未満再犯ノ者
五 満二十歳以上再犯ノ者
第十二条 懲治人ハ左ノ年齢ニ従ヒ其監房ヲ別異ス
一 満八歳以上十六歳未満ノ者
二 満十六歳以上二十歳未満ノ者
三 満二十歳以上ノ者
第十三条 刑事被告人ハ各罪質ニ従テ其監房ヲ別異シ其中ニ就キ年齢ニ従ヒ左ノ如ク別異ス
一 満十二歳以上十六歳未満ノ者
二 満十六歳以上二十歳未満ノ者
三 満二十歳以上ノ者
第十四条 地方監獄拘置監懲治場ノ一区画内ニ在ルモノハ墻壁ヲ以テ之ヲ区画スヘシ
第十五条 凡ソ監獄ハ男監女監ノ別ヲ厳隔スヘシ
第十六条 囚人及刑事被告人ヲ裁判所又ハ他監ニ押送スルトキハ男ト女トヲ分チ時宜ニ依リ戒具ヲ用フルコトヲ得但懲治人ニハ戒具ヲ用ヒス
第十七条 定役ニ服スヘキ囚人ノ作業ハ毎囚ノ体力ニ応シテ之ヲ課シ一日ノ科程ヲ定メテ服役セシムヘシ但科程ノ標準ハ内務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十八条 左ニ記載シタル日ハ服役ヲ免ス
一月一日二日 元始祭
孝明天皇祭 紀元節
春季皇霊祭 神武天皇祭
秋季皇霊祭 神嘗祭
天長節 新嘗祭
十二月三十一日
父母ノ喪ニ遭フ者ハ三日免役ス
第十九条 無定役囚ニシテ監獄囲内ニ於テ自ラ作業ヲ為サント請フトキハ之ヲ許シ作業ノ種類ハ典獄之ヲ指定ス刑事被告人モ亦之ニ準スルコトヲ得
第二十条 懲治人ニハ毎日五時以内農業若クハ工芸ヲ教ヘ力作セシムヘシ
第二十一条 役場ハ男女ノ別ヲ厳隔シ仍ホ定役囚無定役囚懲治人ノ役場ハ各別ニ之ヲ設ケ其中ニ就キ丁年以上ノ者ト未丁年者トヲ区別スヘシ
第二十二条 定役ニ服スヘキ囚人現役一百日ヲ経レハ始メテ各自ノ工銭ヲ料定シ之ヲ十分シテ重罪囚ニハ其二分軽罪囚ニハ其四分ヲ与ヘ余分ハ監獄ノ費用ニ供ス
無定役囚懲治人及刑事被告人ニシテ作業スル者ノ工銭ハ之ヲ十分シテ其六ヲ与ヘ其余分ハ監獄ノ費用ニ供ス定役ニ服スル囚人ニシテ科程外ノ作業ヲ為ス時ノ工銭モ亦之ニ準ス
第二十三条 前条ニ依リ作業者ニ与フヘキ工銭ハ典獄之ヲ領置スヘシ
第二十四条 囚人懲治人及刑事被告人逃走シ監署ニ領置ノ貨物アルトキハ逃走ノ日ヨリ満一箇年ヲ経テ之ヲ受クヘキ者ナキトキハ監獄慈恵ノ用ニ充ツ刑死者死亡者ノ領置貨物ニシテ受クヘキ者ナキトキモ亦同シ
第二十五条 囚人及懲治人監署ニ領置ノ貨物ヲ以テ其父母妻子ノ扶助及正当ノ費用ニ充ント請フトキハ典獄其事情ヲ取糺シテ之ヲ許可スヘシ
刑事被告人ニ係ルトキハ当該裁判官ノ允許ヲ経ヘシ
第二十六条 囚人及懲治人ノ衣服臥具ハ之ヲ貸与ス但拘留囚ハ自衣ヲ著スルコトヲ得
第二十七条 刑事被告人ノ衣服ハ総テ自弁トシ臥具ハ之ヲ貸与ス若シ臥具ヲ自弁セント請フ者アルトキハ之ヲ許ス赤貧ニシテ衣類ヲ自弁スルコト能ハサル者ニハ之ヲ貸与ス
第二十八条 囚人及懲治人一人一日ノ食糧
一 下白米十分ノ四麦十分ノ六 七合乃至八合 最モ強キ作業ニ服スル者
一 同 五合乃至六合 作業ニ服スル者
一 同 四合 作業ニ服セサル者
一 同 三合 十歳未満ノ幼者
一 菜 金壱銭以下
地方ノ便宜ニ依リ粟稗黍薯ノ類ヲ以テ麦ニ代用スルコトヲ得又麦粟稗黍等ニ乏シキ地方ニ於テハ内務大臣ノ認可ヲ得テ下白米ノミヲ給スルコトヲ得
刑事被告人モ亦前項ニ準ス但自費ヲ以テ食物ヲ購求セント請フトキハ之ヲ許ス
第二十九条 定役ニ服スル男囚ノ髪ハ常ニ之ヲ短薙シ髭鬚ハ常ニ剃除セシム
定役ニ服スル女囚ノ梳髪ハ膏ヲ用ヒテ装飾スルコトヲ許サス
第三十条 囚人及懲治人ニハ教誨師ヲシテ悔過遷善ノ道ヲ講セシム
第三十一条 囚人十六歳未満ノ者及懲治人ニハ毎日四時以内読書習字算術ヲ教フヘシ
第三十二条 囚人懲治人及刑事被告人現行ノ法律命令書ヲ看ント請フトキハ之ヲ許ス
囚人及懲治人書籍ヲ看ント請フトキハ修身宗教教育及営業ニ必要ナルモノニ限リ之ヲ許ス
刑事被告人書籍ヲ看ント請フトキハ総テ之ヲ許ス但領置外ノ書籍ハ当該裁判官ノ承認ヲ経ヘキモノトス
新聞紙及時事ノ論説ヲ記スルモノハ前二項ノ例ニアラス
第三十三条 囚人其親属故旧ニ信書ヲ贈ルハ一箇月ニ一次懲治人ハ一箇月ニ二次トシ共ニ一通ニ過クルコトヲ得ス但官司ノ訊問等ニ由テ書信ヲ要スルトキ又ハ親属故旧ニ回答セント請ヒ典獄ニ於テ之ヲ必要ト認メタルトキハ此限ニ在ラス
第三十四条 囚人及懲治人ノ発スル信書又ハ外人ヨリ送リ来ル信書ハ典獄之ヲ検閲スヘシ若シ書中不正不良ニ渉リ又ハ其改悛ヲ妨クルモノト認ムルトキハ之ヲ発贈付与スルコトヲ許サス但刑事被告人ニ係ル信書ハ総テ当該裁判官ノ検閲ヲ経ヘキモノトス
第三十五条 囚人懲治人及刑事被告人ニ接見セント請フ者アルトキハ典獄ノ立会ヲ以テ之ヲ許スヘシ但典獄ニ於テ形跡ノ疑フヘキコトアリト認ムルトキハ之ヲ許サヽルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ重罪裁判所ニ移スノ言渡ヲ受ケタル者ハ裁判言渡アル迄弁護人ヲ除クノ外其現在地ノ裁判所長ノ允許ヲ受クヘク密室監禁者ハ当該裁判官ノ允許ヲ受クヘシ
第三十六条 囚人懲治人及刑事被告人疾病ニ罹ルトキハ病状ノ軽重ヲ料リ其監房若クハ病室ニ於テ医療セシム懲治場ニ在ル者ハ情状ニ由リ其親属ニ交付スルコトヲ得
第三十七条 囚人懲治人及刑事被告人死亡シタルトキハ典獄看守長医師ノ立会ヲ以テ之ヲ検視シ監署ニ於テ速ニ其本籍ニ通知スヘシ其遺骸ハ親属若クハ故旧ノ之ヲ請フ者ニ下付ス但死亡後二十四時以内ニ在テ其下付ヲ請フ者無キトキハ監署ニ於テ之ヲ仮葬シ其姓名ヲ記シタル木膀ヲ立ツヘシ
刑死者ハ死相ヲ験シタル後仍ホ五分時ヲ過サレハ其遺骸ヲ絞架ヨリ解下シ之ヲ埋葬シ若クハ下付スルコトヲ許サス
第三十八条 刑事被告人ニ其親属故旧ヨリ書類書籍用紙衣服臥具其他必要ノ物品又ハ飲食物ヲ贈ラント請フトキハ之ヲ許ス但書類書籍ハ当該裁判官ノ検閲ヲ受クヘシ其密室監禁者ニ係ルトキハ他物ニ於テモ亦同シ
新聞紙及時事ノ論説ヲ記スルモノハ前項ノ例ニアラス
第三十九条 囚人及懲治人ニハ現行ノ法律命令書並ニ書籍用紙印紙郵便切手貨幣及内務大臣ニ於テ許可シタルモノヲ除クノ外差入ヲ許サス但書籍ハ第三十二条ニ記載シタル制限ニ従フ
第四十条 囚人獄則ヲ謹守シ作業ニ勉励シ且改悛ノ行為アル者ト典獄ニ於テ確認スルトキハ之ヲ賞誉スヘシ
賞誉セシ者ニハ之ヲ表スル為メ賞表ヲ与ヘ獄衣ニ縫著セシムヘシ
賞表ハ仮出獄免幽閉又ハ特赦ヲ具状スルノ憑拠ト為スコトヲ得
第四十一条 賞表ヲ有スル囚人ハ其監房ヲ区別シテ尋常囚人ト別異シ賞表ノ多寡ニ応シテ優遇ヲ為スヘシ
第四十二条 囚人獄則ヲ犯ストキハ其軽重ヲ量リ左ノ例ニ従テ処罰ス
一 屏禁 昼夜他ノ監房又ハ役場ト隔絶シタル監房ニ独居セシメ服役時間坐作ノ役ヲ課ス
二 減食 一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減シ塩湯二品ノ外菜ヲ与ヘス
三 闇室 闇室ニ入レ一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減シ塩湯二品ノ外菜ヲ与ヘス仍ホ臥具ヲ禁ス
屏禁ハ二月以内減食ハ一週日以内闇室ハ五昼夜以内トス
第四十三条 囚人十六歳未満ノ者及懲治人獄則ヲ犯ストキハ其軽重ヲ量リ左ノ例ニ従テ処罰ス
一 独慎 昼夜一室ニ独居セシム
二 減食 一日ノ食糧ヲ二合乃至三合ニ減ス
独慎ハ七昼夜以内減食ハ三日以内トス
第四十四条 減食若クハ闇室ノ罰ニ処スヘキ者アルトキハ医師ヲシテ診視セシメ身体ニ妨ナキヲ証シテ後之ヲ行フヘシ其処罰中ハ医師ヲシテ毎日之ヲ視察セシメ医師ニ於テ身体ニ妨アルヲ証スルトキハ処罰ヲ中止スヘシ
第四十五条 無期徒刑ノ囚人重罪ヲ犯シ若クハ逃走シ又ハ獄舎獄具ヲ毀壊シ又ハ暴行脅迫ヲ為シタルトキハ一年以上五年以下其他ノ軽罪ヲ犯シタルトキハ一月以上一年以下両脚又ハ一脚ニ釱ヲ施シ仍ホ鉄丸ヲ属シタル鉄索ヲ其釱ニ貫キ腰間ニ繚帯セシメ繚帯ノ所ニ下鍵ス其監房ニ在ルモ昼間ハ仍ホ之ヲ施スモノトス
若シ再ヒ重罪ヲ犯シタルトキハ五年以上十年以下前項ノ例ニ照シテ処罰ス
鉄丸ノ量ハ二百目以上一貫目以下トシ被罰者ノ体力ニ応シテ之ヲ施ス丸ハ索尾ニ属シ地上ヲ転ハスモノトス若シ外役ニ服スルトキハ鉄丸ヲ除キ二人連絆ノ法ニ従フ
第四十六条 施釱中ノ者病ニ罹リ医師ノ診断ニ依リ釱ノ解除ヲ必要トスルトキハ一時之ヲ解除スルコトヲ得但解除中経過セシ日数ハ施釱期限ニ算入セス
第四十七条 賞表ヲ有スル者処罰ヲ受ケタルトキハ其情状ニ因リ賞表一箇又ハ数箇ヲ褫奪スルコトアルヘシ
第四十八条 獄則ヲ犯シ罰ニ処セラレタル者改悛ノ状著シキトキハ処罰中ト雖モ之ヲ免スルコトヲ得
第四十九条 免幽閉ヲ受ケタル流刑ノ者監署ノ命令ニ違背シタルトキハ七日以内之ヲ拘置スルコトヲ得
第五十条 囚人懲治人及刑事被告人司獄官吏ノ処置ニ対シ情苦ヲ訴ヘントスルトキハ第四条ニ記載シタル官吏巡閲ノ際封書又ハ口述ヲ以テ申告スルコトヲ得
第五十一条 此規則ヲ施行スル方法細則ハ内務大臣之ヲ定ム
第五十二条 此規則ハ陸海軍ニ属スル監獄ニ適用セサルモノトス