自殺対策基本法
法令番号: 法律第85号
公布年月日: 平成18年6月21日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

我が国の年間自殺者数は平成17年に32,552人となり、8年連続で3万人を超え、人口10万人当たりの自殺死亡率は25.5人と欧米諸国と比べて突出して高い状況にある。自殺の背景には過労、倒産、リストラ、社会的孤立やいじめといった社会的要因があり、個人の問題ではなく社会の問題として取り組む必要がある。政府の取組も国を挙げた施策展開には至っておらず、事態は憂慮すべき状況にある。このため、自殺対策の基本となる事項を定め、自殺対策を総合的に推進して自殺の防止を図り、自殺者の親族等への支援を充実させ、国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

参照した発言:
第164回国会 参議院 内閣委員会 第13号

審議経過

第164回国会

参議院
(平成18年6月8日)
(平成18年6月9日)
衆議院
(平成18年6月14日)
(平成18年6月15日)
自殺対策基本法をここに公布する。
御名御璽
平成十八年六月二十一日
内閣総理大臣 小泉純一郎
法律第八十五号
自殺対策基本法
目次
第一章
総則(第一条―第十条)
第二章
基本的施策(第十一条―第十九条)
第三章
自殺総合対策会議(第二十条・第二十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、近年、我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推移していることにかんがみ、自殺対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、自殺対策の基本となる事項を定めること等により、自殺対策を総合的に推進して、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援の充実を図り、もって国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第二条 自殺対策は、自殺が個人的な問題としてのみとらえられるべきものではなく、その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組として実施されなければならない。
2 自殺対策は、自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏まえ、単に精神保健的観点からのみならず、自殺の実態に即して実施されるようにしなければならない。
3 自殺対策は、自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は自殺が未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策として実施されなければならない。
4 自殺対策は、国、地方公共団体、医療機関、事業主、学校、自殺の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係する者の相互の密接な連携の下に実施されなければならない。
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(次条において「基本理念」という。)にのっとり、自殺対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、自殺対策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業主の責務)
第五条 事業主は、国及び地方公共団体が実施する自殺対策に協力するとともに、その雇用する労働者の心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(国民の責務)
第六条 国民は、自殺対策の重要性に対する関心と理解を深めるよう努めるものとする。
(名誉及び生活の平穏への配慮)
第七条 自殺対策の実施に当たっては、自殺者及び自殺未遂者並びにそれらの者の親族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、いやしくもこれらを不当に侵害することのないようにしなければならない。
(施策の大綱)
第八条 政府は、政府が推進すべき自殺対策の指針として、基本的かつ総合的な自殺対策の大綱を定めなければならない。
(法制上の措置等)
第九条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)
第十条 政府は、毎年、国会に、我が国における自殺の概要及び政府が講じた自殺対策の実施の状況に関する報告書を提出しなければならない。
第二章 基本的施策
(調査研究の推進等)
第十一条 国及び地方公共団体は、自殺の防止等に関し、調査研究を推進し、並びに情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとする。
2 国は、前項の施策の効果的かつ効率的な実施に資するための体制の整備を行うものとする。
(国民の理解の増進)
第十二条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、自殺の防止等に関する国民の理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする。
(人材の確保等)
第十三条 国及び地方公共団体は、自殺の防止等に関する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
(心の健康の保持に係る体制の整備)
第十四条 国及び地方公共団体は、職域、学校、地域等における国民の心の健康の保持に係る体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
(医療提供体制の整備)
第十五条 国及び地方公共団体は、心の健康の保持に支障を生じていることにより自殺のおそれがある者に対し必要な医療が早期かつ適切に提供されるよう、精神疾患を有する者が精神保健に関して学識経験を有する医師(以下この条において「精神科医」という。)の診療を受けやすい環境の整備、身体の傷害又は疾病についての診療の初期の段階における当該診療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保、救急医療を行う医師と精神科医との適切な連携の確保等必要な施策を講ずるものとする。
(自殺発生回避のための体制の整備等)
第十六条 国及び地方公共団体は、自殺をする危険性が高い者を早期に発見し、相談その他の自殺の発生を回避するための適切な対処を行う体制の整備及び充実に必要な施策を講ずるものとする。
(自殺未遂者に対する支援)
第十七条 国及び地方公共団体は、自殺未遂者が再び自殺を図ることのないよう、自殺未遂者に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。
(自殺者の親族等に対する支援)
第十八条 国及び地方公共団体は、自殺又は自殺未遂が自殺者又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等に対する適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとする。
(民間団体の活動に対する支援)
第十九条 国及び地方公共団体は、民間の団体が行う自殺の防止等に関する活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
第三章 自殺総合対策会議
(設置及び所掌事務)
第二十条 内閣府に、特別の機関として、自殺総合対策会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第八条の大綱の案を作成すること。
二 自殺対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
三 前二号に掲げるもののほか、自殺対策に関する重要事項について審議し、及び自殺対策の実施を推進すること。
(組織等)
第二十一条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣官房長官をもって充てる。
3 委員は、内閣官房長官以外の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者をもって充てる。
4 会議に、幹事を置く。
5 幹事は、関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。
6 幹事は、会議の所掌事務について、会長及び委員を助ける。
7 前各項に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(内閣府設置法の一部改正)
第二条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第二項中「保護」の下に「、自殺対策の推進」を加え、同条第三項第四十六号の二の次に次の一号を加える。
四十六の三 自殺対策の大綱(自殺対策基本法(平成十八年法律第八十五号)第八条に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。
第四十条第三項の表中
犯罪被害者等施策推進会議
犯罪被害者等基本法
犯罪被害者等施策推進会議
犯罪被害者等基本法
自殺総合対策会議
自殺対策基本法
に改める。
内閣総理大臣 小泉純一郎
総務大臣 竹中平蔵
財務大臣 谷垣禎一
文部科学大臣 小坂憲次
厚生労働大臣 川崎二郎