沿岸漁業等振興法
法令番号: 法律第165号
公布年月日: 昭和38年8月1日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

沿岸漁業等の生産性向上、従事者の福祉増進、近代化と合理化に関する施策を講じ、他産業従事者と均衡する生活を実現することを目的とする。国の基本施策として、水産資源の維持増大、生産性向上、経営近代化、流通合理化、災害補てん、人材育成、転職支援、漁村環境整備等を定める。重点施策として、構造改善事業の実施、中小漁業振興、試験研究機関の充実、改良普及事業の4つを掲げ、政府は財政措置等を講じることとする。施策実施にあたっては、地域の自然的・経済的・社会的条件を考慮し、従事者の自主性を尊重する。

参照した発言:
第43回国会 衆議院 農林水産委員会 第3号

審議経過

第43回国会

衆議院
(昭和38年2月5日)
参議院
(昭和38年2月5日)
衆議院
(昭和38年5月30日)
(昭和38年6月4日)
(昭和38年6月5日)
(昭和38年6月6日)
(昭和38年6月12日)
(昭和38年6月14日)
参議院
(昭和38年6月18日)
(昭和38年6月25日)
(昭和38年6月27日)
(昭和38年7月6日)
(昭和38年7月6日)
(昭和38年7月6日)
沿岸漁業等振興法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十八年八月一日
内閣総理大臣 池田勇人
法律第百六十五号
沿岸漁業等振興法
(目的)
第一条 この法律は、国民経済の成長発展及び社会生活の進歩向上に即応し、沿岸漁業等の生産性の向上、その従事者の福祉の増進その他沿岸漁業等の近代化と合理化に関し必要な施策を講ずることにより、その発展を促進し、あわせて、沿岸漁業等の従事者が他産業従業者と均衡する生活を営むことを期することができることを目途として、その地位の向上を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「沿岸漁業」とは、次の各号に掲げる漁業をいう。
一 政令で定める小型の漁船を使用して、又は漁船を使用しないで行なう水産動植物の採捕の事業
二 漁具を定置して行なう水産動物の採捕の事業(前号に該当するものを除く。)
三 水産動植物の養殖の事業
2 この法律において「沿岸漁業等」とは、次の各号に掲げる漁業をいう。
一 沿岸漁業
二 沿岸漁業以外の漁業で、その漁業に係る漁業生産活動の大部分が政令で定める中小漁業者により行なわれているもの
(国の施策)
第三条 国は、第一条の目的を達成するため、沿岸漁業等について、次の各号に掲げる事項に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講じなければならない。
一 水産資源の適正な利用、水産動植物の増殖、漁場の効用の低下及び喪失の防止等によつて、水産資源の維持増大を図ること。
二 漁港の整備、漁場の整備及び開発、漁業技術の向上等によつて、生産性の向上を図ること。
三 経営規模の拡大、生産行程についての協業化、生産性の高い漁業への転換、資本装備の高度化等と漁場の利用の合理化とによつて、経営の近代化を図ること。
四 水産業協同組合が行なう販売の事業の発達改善、水産物(加工水産物を含む。以下同じ。)の保蔵及び輸送の施設の整備、水産物の取引の近代化、水産加工業の振興、水産物の生産及び流通の調整等によつて、水産物の流通の合理化、加工及び需要の増進並びに価格の安定を図ること。
五 海外市場の開拓、輸出に係る水産物の競争力の強化、輸出取引の秩序の確立等によつて、水産物の輸出の振興を図ること。
六 水産物の輸入によつてこれと競争関係にある水産物を生産する沿岸漁業等に重大な損害を与え又は与えるおそれがある場合において必要があるときは、輸入の調整等によつて、経営の安定を図ること。
七 漁業資材の生産及び流通の合理化並びに価格の安定を図ること。
八 災害による損失の合理的な補てん等によつて、再生産の阻害の防止及び経営の安定を図ること。
九 教育、試験研究及び改良普及の事業の充実等によつて、近代的な沿岸漁業等の従事者としてふさわしい者の養成及び確保を図ること。
十 職業訓練及び職業紹介の事業の充実、漁村地方における農業、工業等の振興等によつて、沿岸漁業等の経営に係る家計の安定に資するとともに、沿岸漁業等の従事者及びその家族がその希望及び能力に従つて適当な職業に就くことができるようにすること。
十一 漁村における交通、衛生、文化等の環境の整備、生活改善、労働関係の近代化等によつて、沿岸漁業等の従事者の福祉の増進を図ること。
2 前項の施策は、地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して講ずるものとする。
(地方公共団体の施策)
第四条 地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならない。
(財政上の措置等)
第五条 政府は、第三条第一項の施策を実施するため必要な法制上及び財政上の措置を講じなければならない。
2 政府は、第三条第一項の施策を講ずるにあたつては、必要な資金の融通の適正円滑化を図らなければならない。
(沿岸漁業等の従事者等の努力の助長)
第六条 国及び地方公共団体は、第三条第一項及び第四条の施策を講ずるにあたつては、沿岸漁業等の従事者又は沿岸漁業等に関する団体がする自主的な努力を助長することを旨とするものとする。
(沿岸漁業等について講じた施策に関する年次報告等)
第七条 政府は、毎年、国会に、漁業の動向に関する報告書並びに政府が沿岸漁業等について講じた施策に関する報告書及び講じようとする施策を明らかにした文書を提出しなければならない。
(沿岸漁業の構造改善事業)
第八条 国は、沿岸漁業に係る構造改善事業が総合的かつ効率的に行なわれるように必要な助言、助成等の措置を講ずるものとする。
2 前項の構造改善事業は、次に掲げる事項を行なうために必要な事業とする。
一 生産性の高い漁業への転換及び漁場の利用関係の改善
二 魚礁の設置、養殖漁場の造成等生産基盤の整備及び開発
三 集団操業に係る先達漁船の建造、能率的な漁具及び漁ろう装置の設置等経営の近代化のための施設の導入
四 水産物の冷凍及び冷蔵のための共同利用施設、水産物共同加工場等水産物の流通及び加工の施設の整備
五 その他沿岸漁業の構造改善に関し必要な事項
(中小漁業の振興)
第九条 国は、第二条第二項第二号に該当する沿岸漁業等の業種でその業種に係る沿岸漁業等につき次に掲げる事項に関し改善を行なつてその振興を図る必要があると認められるものについて、当該改善に係る基本的事項を定めて公表するとともに、当該基本的事項に定めるところによりその改善を行なう当該業種に係る中小漁業者及びその者を直接又は間接の構成員とする団体に対し、必要な助言、指導及び資金の融通のあつせんを行なう等当該業種に係る沿岸漁業等の振興に関し必要な措置を講ずるものとする。
一 水産資源の利用に関する事項
二 漁船及び漁具、漁ろう装置その他の設備並びに水産物の保蔵及び輸送の施設に関する事項
三 水産物の流通及び取引関係に関する事項
四 賃金等の労働条件その他の労働関係及び労働環境に関する事項
五 その他当該沿岸漁業等に関し必要な事項
(調査及び試験研究の充実等)
第十条 国は、沿岸漁業等について、水産資源の維持増大、生産性の向上、水産物の利用及び加工についての技術の改良発達等を図るため、国の試験研究機関の行なう沿岸漁業等に関する調査及び試験研究の事業を充実する等必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、沿岸漁業等に関する調査及び試験研究につき、その重複を避け、及びその成果を高めるため、その課題、方法等について他の試験研究機関と協議し、当該調査及び試験研究を他の試験研究機関と協力して実施する等必要な措置を講ずるものとする。
(改良普及の事業に従事する職員等)
第十一条 国は、沿岸漁業等の生産性の向上及び経営の近代化並びに沿岸漁業等の従事者の生活改善を図るため、都道府県が、沿岸漁業等に関する技術及び知識を普及し又は沿岸漁業等の従事者の生活改善の指導を行なうことを任務とする職員並びにその職員を指導し及び沿岸漁業等に関する専門的事項について調査研究を行なうことを任務とする専門の職員を置く場合に、その設置及び養成につき助言及び助成を行なう等必要な措置を講ずるものとする。
(設置)
第十二条 総理府に、附属機関として、沿岸漁業等振興審議会(以下「審議会」という。)を置く。
(権限)
第十三条 審議会は、内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、この法律の施行に関する重要事項を調査審議する。
2 審議会は、前項に規定する事項に関し内閣総理大臣又は関係各大臣に意見を述べることができる。
(組織)
第十四条 審議会は、委員十五人以内で組織する。
2 委員は、前条第一項に規定する事項に関し学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 委員は、非常勤とする。
(資料の提出等の要求)
第十五条 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
(庶務)
第十六条 審議会の庶務は、水産庁長官官房において処理する。
(委任規定)
第十七条 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第十二条から第十七条まで及び附則第二項の規定は、昭和三十九年四月一日から施行する。
2 総理府設置法(昭和二十四年法律第百二十七号)の一部を次のように改正する。
第十五条第一項の表中農政審議会の項の次に次のように加える。
沿岸漁業等振興審議会
沿岸漁業等振興法(昭和三十八年法律第百六十五号)の規定によりその権限に属せしめられた事項を行なうこと。
3 この法律(附則第一項ただし書に係る部分を除く。以下同じ。)の施行の日から昭和三十九年三月三十一日までの間は、農林大臣は、この法律の施行に関する重要事項について、中央漁業調整審議会の意見を聞くことができる。
4 この法律の施行の日から昭和三十九年三月三十一日までの間は、漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)第百十三条第一項中「二十五人」とあるのは「三十五人」と、同条第三項第二号中「十人」とあるのは「二十人」とする。
5 前項の規定による増員に伴つて任命された中央漁業調整審議会の委員の任期は、漁業法第百十四条の規定において準用する同法第九十八条第一項の規定にかかわらず、昭和三十九年三月三十一日までとする。
内閣総理大臣 池田勇人
外務大臣臨時代理 国務大臣 福田一
大蔵大臣 田中角栄
文部大臣 灘尾弘吉
厚生大臣 小林武治
農林大臣 赤城宗徳
通商産業大臣 福田一
運輸大臣 綾部健太郎
郵政大臣 古池信三
労働大臣 大橋武夫
建設大臣 河野一郎
自治大臣 早川崇