技術士法
法令番号: 法律第124号
公布年月日: 昭和32年5月20日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

科学技術の振興のため、進歩した技術を産業全体に浸透させることが重要である。しかし現状では、技術は一部企業に独占され、大多数の企業は高度な技術を十分に活用できていない。この問題を解決するには、企業の技術上の問題点を的確に把握し解決できる経験豊富な技術者が必要である。そこで、企業の技術相談に応じ、経験を活かせる「技術士」制度を確立する。これにより企業の合理化を促進し、産業全体の技術水準向上を図る。また、技術士の社会的認知を高め、企業が安心して相談できるよう、技術士の資格要件と義務を法的に定める必要がある。

参照した発言:
第26回国会 衆議院 科学技術振興対策特別委員会 第17号

審議経過

第26回国会

衆議院
参議院
(昭和32年3月22日)
衆議院
(昭和32年3月30日)
参議院
(昭和32年4月2日)
(昭和32年5月10日)
(昭和32年5月11日)
(昭和32年5月13日)
衆議院
(昭和32年5月14日)
(昭和32年5月19日)
技術士法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十二年五月二十日
内閣総理大臣 岸信介
法律第百二十四号
技術士法
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
試験(第四条―第十三条)
第三章
登録(第十四条―第二十三条)
第四章
技術士の義務(第二十四条―第二十六条)
第五章
技術士審議会及び技術士試験委員(第二十七条―第三十五条)
第六章
日本技術士会(第三十六条・第三十七条)
第七章
雑則(第三十八条・第三十九条)
第八章
罰則(第四十条・第四十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、技術士の資格を定め、その業務の適正を図り、もつて科学技術の向上と国民経済の発展とに資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「技術士」とは、第十四条の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項について計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者をいう。
(欠格条項)
第三条 次の各号の一に該当する者は、技術士となることができない。
一 禁治産者又は準禁治産者
二 禁錮以上の刑に処せられた者で、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつてから二年を経過しない者
三 公務員で、懲戒免職の処分を受け、その処分を受けた日から二年を経過しない者
四 第三十九条の規定に違反して、罰金の刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつてから二年を経過しない者
五 第十八条第二号又は第十九条の規定により登録の取消の処分を受け、その処分を受けた日から二年を経過しない者
六 弁理士法(大正十年法律第百号)第十七条第一項の規定により業務を禁止された者、測量法(昭和二十四年法律第百八十八号)第五十二条第二号の規定により登録をまつ消された者、建築士法(昭和二十五年法律第二百二号)第十条第一項の規定により免許を取り消された者又は土地家屋調査士法(昭和二十五年法律第二百二十八号)第十三条第一項第三号の規定により登録の取消の処分を受けた者で、これらの処分を受けた日から二年を経過しないもの
第二章 試験
(技術士試験の種類)
第四条 技術士試験を分けて、予備試験及び本試験とする。
(予備試験)
第五条 予備試験は、技術士となるのに必要な基礎的学力を有するかどうかを判定することをその目的とし、理学、工学、農学その他総理府令で定める自然科学に属する科学の部門(以下「科学部門」という。)ごとに行う。
(予備試験の免除)
第六条 次の各号の一に該当する者に対しては、予備試験を免除する。
一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による大学(短期大学を除く。)、旧大学令(大正七年勅令第三百八十八号)による大学又は旧専門学校令(明治三十六年勅令第六十一号)による専門学校において理科系統の正規の課程を修めて卒業した者
二 前号に該当する者のほか、政令で定めるところにより、自然科学に関し前号の一に該当する者と同等以上の基礎的学力を有すると認められる者
(本試験)
第七条 本試験は、技術士となるのに必要な高等の専門的応用能力を有するかどうかを判定することをその目的とし、総理府令で定める技術の部門(以下「技術部門」という。)ごとに行う。
2 本試験は、予備試験に合格した者又は前条の規定により予備試験を免除された者で、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する専門的応用能力を必要とする事項について計画、研究、設計、分析、試験、評価その他政令で定める事項の業務に従事した期間が通算して七年をこえるものに限り受けることができる。
(技術士の資格)
第八条 本試験に合格した者は、技術土となる資格を有する。
(受験手数料)
第九条 予備試験又は本試験を受けようとする者は、政令で定めるところにより、受験手数料を納付しなければならない。
(合格証書)
第十条 予備試験又は本試験に合格した者には、それぞれ当該試験に合格したことを証する証書を授与する。
(試験の執行)
第十一条 予備試験及び本試験は、毎年一回以上、科学技術庁長官が行う。
(合格の取消等)
第十二条 科学技術庁長官は、不正の手段によつて予備試験又は本試験を受け、又は受けようとした者に対しては、その合格の決定を取り消し、又はその試験を受けることを禁止することができる。この場合においては、なお、その者について、期間を定めてその試験を受けさせないことができる。
(試験の細目)
第十三条 この章に規定するもののほか、科学部門、技術部門、試験科目、受験手続その他予備試験及び本試験に関し必要な事項は、総理府令で定める。
第三章 登録
(登録)
第十四条 技術士となる資格を有する者が技術士となるには、技術士登録簿(以下「登録簿」という。)に、氏名及び住所、事務所の名称及び所在地、生年月日、合格した本試験の技術部門その他総理府令で定める事項の登録を受けなければならない。
(登録簿)
第十五条 登録簿は、科学技術庁に備える。
(登録証)
第十六条 科学技術庁長官は、技術士の登録をしたときは、申請者に技術士登録証(以下「登録証」という。)を交付する。
2 登録証には、次の事項を記載しなければならない。
一 登録の年月日及び登録番号
二 氏名及び住所並びに事務所の名称及び所在地
三 生年月日
四 合格した本試験の技術部門
(登録証等の訂正)
第十七条 技術士は、前条第二項第二号又は第四号に規定する事項に変更があつたときは、遅滞なく、科学技術庁長官に登録証を提出し、訂正を受けなければならない。
2 科学技術庁長官は、前項の規定により登録証の記載事項の訂正を行つたときは、第十四条の登録簿の登録事項の訂正をしなければならない。
(登録の取消等)
第十八条 科学技術庁長官は、技術士が次の各号の一に該当する場合には、その登録を取り消さなければならない。
一 第三条各号の一に該当するに至つた場合(同条第五号に該当する場合を除く。)
二 虚偽又は不正の事実に基いて登録を受けた場合
第十九条 科学技術庁長官は、技術士が第二十四条から第二十六条までの規定に違反した場合には、その登録を取り消し、又は二年以内の期間を定めて技術士の名称の使用の停止を命ずることができる。
(登録の取消等の手続)
第二十条 科学技術庁長官は、技術士に第十八条第二号又は前条に該当する事実があると思料するときは、職権をもつて、必要な調査をすることができる。
2 科学技術庁長官は、第十八条第二号又は前条の規定により技術士の登録を取り消し、又はその名称の使用の停止をしようとするときは、当該技術士にあらかじめその旨を通知し、その者又はその代理人の出頭を求め、釈明のための証拠を提出する機会を与えるため、聴聞しなければならない。
3 第十八条第二号又は前条の規定による登録の取消又は名称の使用の停止は、前項の規定による聴聞を行つた後、相当な証拠により第十八条第二号又は前条に該当する事実があると認めた場合において、あらかじめ技術士審議会の意見をきいてするものとする。ただし、当該技術士又はその代理人が正当な理由がなくて出頭しない場合においては、前項の規定による聴聞を行わないですることができる。
4 科学技術庁長官は、第一項の規定により事件について必要な調査をするため、当該職員をして次の各号に掲げる処分をさせることができる。
一 事件関係人若しくは参考人に出頭を命じて審問し、又はこれらの者から意見若しくは報告を徴すること。
二 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。
三 帳簿書類その他の物件の所有者に対し、当該物件を提出させること。
5 前項の規定により出頭又は鑑定を命ぜられた参考人又は鑑定人は、政令で定めるところにより、旅費、日当その他の費用を請求することができる。
(登録の消除)
第二十一条 科学技術庁長官は、技術士の登録がその効力を失つたときは、その登録を消除しなければならない。
(登録手数料等)
第二十二条 第十四条の規定により登録を受けようとする者、第十七条第一項の規定により登録証の訂正を受けようとする者及び登録証の再交付を受けようとする者は、政令で定めるところにより、手数料を納付しなければならない。
(登録の細目)
第二十三条 この章に規定するもののほか、登録の手続、登録証の再交付及び返納、登録の消除その他技術士の登録に関し必要な事項は、総理府令で定める。
第四章 技術士の義務
(信用失墜行為の禁止)
第二十四条 技術士は、技術士の信用を傷つけ、又は技術士全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
(秘密を守る義務)
第二十五条 技術士は、正当の理由がなく、その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。技術士でなくなつた後においても、同様とする。
(名称表示の場合の義務)
第二十六条 技術士は、その業務に関して技術士の名称を表示するときは、その登録を受けた技術部門の全部又は一部を明示してするものとし、登録を受けていない技術部門を表示してはならない。
第五章 技術士審議会及び技術士試験委員
(技術士審議会)
第二十七条 科学技術庁に、技術士審議会(以下「審議会」という。)を置く。
第二十八条 審議会は、技術士に関する重要事項並びに技術士の登録の取消及びその名称の使用の停止に関し審議する。
第二十九条 審議会は、委員十五人以内をもつて組織する。
(会長)
第三十条 審議会の会長は、委員の互選によつて定める。
2 会長は、審議会を代表し、会務を総理する。
3 会長に事故があるときは、あらかじめその指名する委員がその職務を代理する。
(委員)
第三十一条 委員は、関係行政機関の職員及び技術士に関する事項について識見の高い者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
2 委員(関係行政機関の職員のうちから任命された委員を除く。以下この項において同じ。)の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
(技術士試験委員)
第三十二条 科学技術庁に、技術士試験の事務をつかさどらせるため、技術士試験委員を置く。
2 技術士試験委員の定数は、政令で定める。
3 技術士試験委員は、技術士試験を行うについて必要な学識経験のある者のうちから、試験の執行ごとに、審議会のすいせんに基き、科学技術庁長官が任命する。
(委員等の勤務)
第三十三条 審議会の委員及び技術士試験委員は、非常勤とする。
(不正行為の禁止)
第三十四条 技術士試験委員その他技術士試験の事務をつかさどる者は、試験の執行について、厳正を保持し不正の行為のないようにしなければならない。
(議事手続等)
第三十五条 この章に定めるもののほか、審議会の議事その他その運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第六章 日本技術士会
(設立)
第三十六条 技術士は、全国を区域とする一の日本技術士会と称する民法(明治二十九年法律第八十九号)第三十四条の規定による法人を設立することができる。
(目的)
第三十七条 日本技術士会は、技術士の品位の保持及びその業務の進歩改善に資するため会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とする。
第七章 雑則
(業務に対する報酬)
第三十八条 技術士の業務に対する報酬は、公正かつ妥当なものでなければならない。
(名称の使用の制限)
第三十九条 技術士でない者は、技術士又はこれに類似する名称を使用してはならない。
第八章 罰則
第四十条 第二十五条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、告訴を待つて論ずる。
第四十一条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第十九条の規定により技術士の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止期間中に、技術士又はこれに類似する名称を使用したもの
二 第三十四条の規定に違反して、不正の採点をした者
三 第三十九条の規定に違反した者
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して四月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過規定)
2 予備試験又は本試験は、第十一条の規定にかかわらず、昭和三十二年においては行わないことができる。
3 この法律の施行の際現に技術士又はこれに類似する名称を使用している者は、第三十九条の規定にかかわらず、昭和三十三年八月三十一日までは、なお従前の名称を使用することを妨げない。
(科学技術庁設置法の一部改正)
4 科学技術庁設置法(昭和三十一年法律第四十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第十号の次に次の一号を加える。
十の二 技術士試験を行い、及び技術士を登録すること。
第六条中第十一号を第十二号とし、第十号の次に次の一号を加える。
十一 技術士に関すること。
第二十条第一項の表中
科学技術審議会
科学技術に関する重要事項並びに日本学術会議への諮問及び日本学術会議の答申又は勧告に関する事項を審議すること。
技術士審議会
技術士に関する重要事項及び技術士の登録の取消等の処分に関し審議すること。
技術士試験委員
技術士試験を行うこと。
科学技術審議会
科学技術に関する重要事項並びに日本学術会議への諮問及び日本学術会議の答申又は勧告に関する事項を審議すること。
に改める。
内閣総理大臣 岸信介