日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法
法令番号: 法律第151号
公布年月日: 昭和29年6月1日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

本法案は、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う国内手続を定めたものである。朝鮮に軍隊を派遣した米国以外の国で、日本との間で協定が発効した国の軍隊に対する刑事裁判権の行使について、特別な刑事手続規定を設ける必要が生じたため提出された。これら軍隊の構成員等に対しては原則として日本の法令が適用されるが、協定の刑事裁判権条項により、必要最小限度の特別措置を規定している。なお、特別規定のない事項については既存の法令が適用される。

参照した発言:
第19回国会 衆議院 法務委員会 第38号

審議経過

第19回国会

衆議院
(昭和29年4月13日)
参議院
(昭和29年4月15日)
(昭和29年4月16日)
衆議院
(昭和29年4月20日)
(昭和29年4月28日)
(昭和29年4月30日)
参議院
(昭和29年5月1日)
(昭和29年5月19日)
衆議院
(昭和29年6月15日)
参議院
(昭和29年6月15日)
日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十九年六月一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百五十一号
日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法
目次
第一章
総則(第一条)
第二章
刑事手続(第二条―第十二条)
附則
第一章 総則
(定義)
第一条 この法律において「協定」とは、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定をいう。
2 この法律において「派遣国」とは、千九百五十年六月二十五日、六月二十七日及び七月七日の国際連合安全保障理事会決議並びに千九百五十一年二月一日の国際連合総会決議に従つて朝鮮に軍隊を派遣したアメリカ合衆国以外の国であつて、日本国との間に協定が効力を有している間におけるものをいう。
3 この法律において「国際連合の軍隊」とは、派遣国が前項に規定する諸決議に従つて朝鮮に派遣した陸軍、海軍及び空軍であつて、日本国内にある間におけるものをいう。
4 この法律において「国際連合の軍隊の構成員」とは、国際連合の軍隊に属する人員で、現に服役中のものをいう。
5 この法律において「軍属」とは、派遣国の国籍を有する文民(派遣国及び日本国の二重国籍者については、当該派遣国が日本国内に入れた者に限る。)で、当該国際連合の軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの(通常日本国内に在留する者を除く。)をいう。
6 この法律において「家族」とは、左に掲げる者(日本国の国籍のみを有する者を除く。)をいう。
一 国際連合の軍隊の構成員又は軍属の配偶者及び二十一歳未満の子
二 国際連合の軍隊の構成員又は軍属の父、母及び二十一歳以上の子で、その生計費の半額以上を当該国際連合の軍隊の構成員又は軍属に依存するもの
7 この法律において「国際連合の軍隊の使用する施設」とは、協定第五条第一項の施設をいう。
第二章 刑事手続
(施設内の逮捕等)
第二条 国際連合の軍隊がその権限に基いて警備している国際連合の軍隊の使用する施設内における逮捕、勾引状又は勾留状の執行その他人身を拘束する処分は、当該国際連合の軍隊の権限ある者の同意を得て行い、又は当該国際連合の軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。
2 死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる罪に係る現行犯人を追跡して前項の施設内で逮捕する場合には、同項の同意を得ることを要しない。
(逮捕された国際連合の軍隊の構成員又は軍属の引渡)
第三条 検察官又は司法警察員は、逮捕された者が国際連合の軍隊の構成員又は軍属であり、且つ、その者の犯した罪が協定第十六条第三項(a)に掲げる罪のいずれかに該当すると明らかに認めたときは、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定にかかわらず、直ちに被疑者を当該国際連合の軍隊に引き渡さなければならない。
2 司法警察員は、前項の規定により被疑者を国際連合の軍隊に引き渡した場合においても、必要な捜査を行い、すみやかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。
(国際連合の軍隊によつて逮捕された者の受領)
第四条 検察官又は司法警察員は、国際連合の軍隊から日本国の法令による罪を犯した者を引き渡す旨の通知があつた場合には、裁判官の発する逮捕状を示して被疑者の引渡を受け、又は検察事務官若しくは司法警察職員にその引渡を受けさせなければならない。
2 検察官又は司法警察員は、引き渡されるべき者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があつて、急速を要し、あらかじめ裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げてその者の引渡を受け、又は受けさせなければならない。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
3 前二項の場合を除く外、検察官又は司法警察員は、引き渡される者を受け取つた後、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
4 第一項又は第二項の規定による引渡があつた場合には、刑事訴訟法第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。但し、同法第二百三条、第二百四条及び第二百五条第二項に規定する時間は、引渡があつた時から起算する。
(施設内の差押、捜索等)
第五条 国際連合の軍隊がその権限に基いて警備している国際連合の軍隊の使用する施設内における、又は国際連合の軍隊の財産についての捜索(捜索状の執行を含む。)、差押(差押状の執行を含む。)又は検証は、当該国際連合の軍隊の権限ある者の同意を得て行い、又は検察官若しくは司法警察員から当該国際連合の軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。但し、裁判所又は裁判官が必要とする検証の嘱託は、その裁判所又は裁判官からするものとする。
(日本国の法令による罪に係る事件についての捜査)
第六条 協定により派遣国の軍事裁判所が裁判権を行使する事件であつても、日本国の法令による罪に係る事件については、検察官、検察事務官又は司法警察職員(鉄道公安職員を含む。)は、捜査をすることができる。
2 前項の捜査に関しては、裁判所又は裁判官は、令状の発付その他刑事訴訟に関する法令に定める権限を行使することができる。
(証人の出頭等の義務)
第七条 派遣国の軍事裁判所の嘱託により、裁判官から派遣国の軍事裁判所に証人として出頭すべき旨を命ぜられ、又は派遣国の軍事裁判所において宣誓若しくは証言を求められた者は、これに応じなければならない。
2 前項の者が、正当な理由がないのに、出頭せず、又は宣誓若しくは証言を拒んだときは、一万円以下の過料に処する。
(証人の勾引についての協力)
第八条 正当な理由がないのに、前条第一項の規定による裁判官の出頭命令に応じない証人について派遣国の軍事裁判所から嘱託があつたときは、裁判官は、その証人に対して勾引状を発して、これを派遣国の軍事裁判所に勾引することができる。
2 前項の勾引状には、派遣国の軍事裁判所の嘱託の趣旨を記載しなければならない。
3 第一項の勾引状は、検察官の指揮により、司法警察職員が執行する。
4 刑事訴訟法第七十一条及び第七十三条第一項前段の規定は、第一項の規定による勾引に準用する。
(書類又は証拠物の提供等)
第九条 裁判所、検察官又は司法警察員は、その保管する書類又は証拠物について、派遣国の軍事裁判所又は国際連合の軍隊から、刑事事件の審判又は捜査のため必要があるものとして申出があつたときは、その閲覧若しくは謄写を許し、謄本を作成して交付し、又はこれを一時貸与し、若しくは引き渡すことができる。
(日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件についての協力)
第十条 検察官又は司法警察員は、国際連合の軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、当該国際連合の軍隊の構成員、軍属又は当該派遣国の軍法に服する家族の逮捕の要請を受けたときは、これを逮捕し、又は検察事務官若しくは司法警察職員に逮捕させることができる。
2 国際連合の軍隊から逮捕の要請があつた者が、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内にいることを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の許可を得て、その場所に入りその者を捜索することができる。但し、追跡されている者がその場所に入つたことが明らかであつて、急速を要し裁判官の許可を得ることができないときは、その許可を得ることを要しない。
3 第一項の規定により国際連合の軍隊の構成員、軍属又は当該派遣国の軍法に服する家族を逮捕したときは、直ちに検察官又は司法警察員から、その者を当該国際連合の軍隊に引き渡さなければならない。
4 司法警察員は、前項の規定により国際連合の軍隊の構成員、軍属又は当該派遣国の軍法に服する家族を引き渡したときは、その旨を検察官に通報しなければならない。
第十一条 検察官又は司法警察員は、派遣国の軍事裁判所又は国際連合の軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、協力の要請を受けたときは、参考人を取り調べ、実況見分をし、又は書類その他の物の所有者、所持者若しくは保管者にその物の提出を求めることができる。
2 検察官又は司法警察員は、検察事務官又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。
3 前二項の処分に際しては、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、その処分を受ける者に対して派遣国の軍事裁判所又は国際連合の軍隊の要請による旨を明らかにしなければならない。
4 正当な理由がないのに、第一項又は第二項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の処分を拒み、妨げ、又は忌避した者は、一万円以下の過料に処する。
(刑事補償)
第十二条 刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の適用については、派遣国の軍事裁判所又は国際連合の軍隊による抑留又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留又は拘禁とみなす。
附 則
1 この法律は、日本国とアメリカ合衆国以外の国との間における協定の最初の効力発生の日から施行する。
2 この法律の施行前に派遣国に関して日本国における国際連合の軍隊に対する刑事裁判権の行使に関する議定書の実施に伴う刑事特別法(昭和二十八年法律第二百六十五号。以下「法律第二百六十五号」という。)の規定によつてなされた手続及び処分は、この法律の相当規定によつてなされた手続及び処分とみなす。この法律の施行後に法律第二百六十五号の派遣国がこの法律の派遣国となつた場合において、この法律の派遣国となる前に当該派遣国に関し法律第二百六十五号の規定によつてなされた手続及び処分についても、同様とする。
3 法律第二百六十五号の一部を次のように改正する。
第一条第二項中「議定書に署名し、且つ、日本国との間に議定書の効力が発生したもの」を「日本国との間に議定書が効力を有している間におけるもの」に改める。
附則を附則第一項とし、同項の次に次の一項を加える。
2 この法律は、議定書が効力を発生したすべての国と日本国との間において議定書が効力を失つたときは、議定書の最後の失効の時に、その効力を失う。但し、その時までにした行為に対する罰則の適用及びその時までに派遣国の軍事裁判所又は国際連合の軍隊によつてなされた抑留又は拘禁についての刑事補償法の適用に関しては、この法律は、その時以後も、なおその効力を有する。
法務大臣 加藤鐐五郎
内閣総理大臣 吉田茂