食糧確保臨時措置法
法令番号: 法律第182号
公布年月日: 昭和23年7月20日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

食糧確保臨時措置法案は、食糧供出制度の根本的改善を図るもので、以下の3点を主眼としている。第一に、国として合理的に期待できる一定量の食糧供出の確保。第二に、供出制度を通じた農家の増産意欲の向上。第三に、府県、町村、各農家を通じた供出負担の公平化。具体的には、主要食糧農産物について事前に生産と供出の割当を行い、農家の責任制を確立する。また農業調整委員会を設置し、委員を農民から公選することで実施機関の民主化を図る。さらに、農家の増産意欲を高めるため、追加供出割当は行わず、超過供出には奨励措置を講じる。本法案は当面の食糧危機突破のための対策として、昭和26年3月末までの時限立法とされている。

参照した発言:
第2回国会 衆議院 農林委員会 第19号

審議経過

第2回国会

参議院
(昭和23年6月11日)
衆議院
(昭和23年6月16日)
参議院
(昭和23年6月17日)
衆議院
(昭和23年6月24日)
(昭和23年6月25日)
(昭和23年6月26日)
(昭和23年6月28日)
参議院
(昭和23年6月28日)
(昭和23年6月29日)
衆議院
(昭和23年6月30日)
参議院
(昭和23年6月30日)
衆議院
(昭和23年7月1日)
(昭和23年7月2日)
(昭和23年7月3日)
(昭和23年7月4日)
参議院
(昭和23年7月4日)
(昭和23年7月5日)
(昭和23年7月5日)
食糧確保臨時措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十三年七月二十日
内閣総理大臣 芦田均
法律第百八十二号
食糧確保臨時措置法
(法律の目的)
第一條 この法律は、主要食糧農産物の生産及び供出を確保するため、公正且つ計画的にその生産数量及び供出数量の割当等を行い、もつて食糧事情の安定を図ることを目的とする。
(定義)
第二條 この法律において「主要食糧農産物」とは、米、大麦、はだか麦、小麦、甘しよ、馬鈴しよ及び雜穀をいう。
2 この法律において「農業計画」とは、主要食糧農産物の生産数量生産者保有数量若しくは供出数量(代替供出の範囲及び比率を含む)又はその生産に必要な肥料、農藥若しくは農機具等の配給数量について行政廳の定める計画をいう。
3 この法律において「生産者」とは、主要食糧農産物の生産を行う者をいう。
(農林大臣の定める農業計画)
第三條 農林大臣は、中央農業調整審議会及び都道府縣知事の意見に基き、米、大麦、はだか麦、小麦、甘しよ、馬鈴しよ又は農林大臣の指定する雜穀についての都道府縣別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該都道府縣知事に指示する。
2 政府は、主要食糧農産物の生産を確保するため必要な奬励措置を定め、これを公表する。
3 政府は、主要食糧農産物の生産を確保するため必要な資金の融通につき、計画を定め、その実施に関して必要な措置を講ずる。
4 主務大臣は、農業計画に定められた肥料、農藥及び農機具その他主要食糧農産物の生産に必要な物の生産、配給又は輸送の業務を営む者に対し、これらの物の供給を確保するため必要な事項を指示することができる。
5 中央農業調整審議会に関する規程は、政令でこれを定める。
(都道府縣知事の定める農業計画)
第四條 都道府縣知事は、前條第一項の指示を受けたときは、その指示に從い、都道府縣農業調整委員会の議決を経て、市町村別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該市町村長に指示しなければならない。
2 都道府縣知事は、必要があると認めるときは、農林大臣の承認を受け、都道府縣農業調整委員会の議決を経て、前條第一項に規定する雜穀以外の雜穀についての市町村別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該市町村長に指示することができる。
3 都道府縣知事は、前二項の規定による指示をしたときは、遅滯なくその指示に係る農業計画を公表しなければならない。
(市町村長の定める農業計画)
第五條 市町村長は、前條第一項又は第二項の規定による指示を受けたときは、その指示に從い、市町村農業調整委員会の議決を経て、当該市町村の区域内に住所を有する生産者別の農業計画を定めなければならない。
2 前項の農業計画は、当該農業計画に係る生産者の意見を徴し、左の事項を勘案してこれを定めなければならない。
一 当該生産者が農地の利用に関して有する計画
二 農地の面積、地方その他の状況
三 作付及び收穫の実績
四 作物の組み合せに関する事項
五 当該生産者と同一世帯に属する者の状況
六 飼養家畜の種類及び頭数
3 市町村長は、第一項の農業計画を定めたときは、遅滯なくこれを公表しなければならない。
(異議の申立)
第六條 前條第一項の農業計画に係る生産者は、当該農業計画について異議があるときは、市町村長に対して異議を申し立てることができる。但し、同條第三項の規定による公表があつた日から十日を経過したときは、この限りでない。
2 市町村長は、前項の申立を受けたときは、市町村農業調整委員会の議決を経て、同項の期間満了後二十日(第三項の場合にあつては四十日)以内にこれを決定しなければならない。
3 前項の決定をする場合において、当該決定に因つて第四條第一項又は第二項の規定により指示された農業計画又はその実施に関し必要な事項の変更を生ずるときは、市町村長は、あらかじめ都道府縣知事の承認を受けなければならない。
4 前項の場合において、市町村長は、都道府縣知事に対し、当該変更の理由たる事実について、その調査を請求することができる。
5 都道府縣知事は、前項の請求を相当と認めるときは、みずから、又は作物報告事務所長に委嘱して、同項の事実を調査しなければならない。
6 都道府縣知事は、第三項の承認をするには、都道府縣農業調整委員会の議決を経なければならない。
7 第三項の承認をする場合において、当該承認に因つて第三條第一項の規定により指示された農業計画又はその実施に関し必要な事項の変更を生ずるときは、都道府縣知事は、あらかじめ農林大臣の承認を受けなければならない。
(農業計画の指示)
第七條 第五條第一項の農業計画につき前條第一項の期間内に同項の規定による異議の申立がないとき又は同項の規定による異議の申立があつた場合において同條第二項の規定による決定をしたときは、市町村長は、当該農業計画に係る生産者に対し、当該農業計画を指示しなければならない。
2 前項の規定による指示を受けた者は、その指示に係る農業計画において定められた生産数量の確保に努めなければならない。
3 第一項の規定による指示があつたときは、その指示に係る農業計画において定められた主要食糧農産物の供出数量(第八條第一項の規定による変更があつた場合においては、その変更後における供出数量)をもつて、その指示を受けた者が食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)第三條第一項の規定により政府に賣り渡すべき数量とする。
4 政府は、第五條第一項の農業計画に係る生産者に対し、前項の供出数量をこえて食糧管理法第三條第一項の規定により主要食糧農産物の賣渡を命ずることはできない。
5 市町村長は、第一項の規定による指示をしたときは、その指示した農業計画において定めた配給数量に相当する数量の肥料、農藥又は農機具等を、臨時物資需給調整法(昭和二十一年法律第三十二号)第一條第一項の規定による命令に基き、時期を失しないで当該生産者に割り当てなければならない。
(供出数量の変更)
第八條 前條第一項の規定による指示を受けた者は、災害その他眞にやむを得ない事由に因つてその指示に係る農業計画によつて定められた供出数量の主要食糧農産物を供出することができなくなつたときは、市町村長に対して、当該供出数量の変更を請求することができる。
2 前項の請求をするには、同項の事由が生じてから十日以内に、市町村長に、これを届け出ておかなければならない。
3 第一項の請求は、都道府縣知事の定める期間内にこれをしなければならない。但し、その期間が経過してから生じた事由に基く場合は、この限りでない。
4 第一項の請求は、食糧管理法第三條第一項の規定による賣渡命令の効力を停止しない。但し、第五項において準用する第六條第二項の規定による決定があるまでは、食糧緊急措置令(昭和二十一年勅令第八十六号)第一條の規定による收用は、これを行わない。
5 第一項の場合には、第六條第二項から第七項までの規定を準用する。この場合において、同條第二項中「同項の期間満了後」とあるのは、「第八條第一項の請求を受けた日から」と読み替えるものとする。
(肥料等の配給数量の削減)
第九條 市町村農業調整委員会は、第七條第一項の規定による指示を受けた者が、その責に帰すべき事由に因りその指示に係る農業計画において定められた生産数量を確保できる見込がないと認めるときは、同條第五項の規定により割り当てられた肥料、農藥又は農機具等の配給数量の削減を市町村長に請求することができる。
(不急農産物の作付の制限)
第十條 都道府縣知事が、主要食糧農産物の生産を確保するため、その生産の確保に支障を及ぼす虞のある農産物の一定面積以上の作付を制限する必要があると認める場合において、都道府縣農業調整委員会の議決を経て、地域、期間、農産物の種類及び面積を指定したときは、市町村農業調整委員会の承認を受けなければ、当該地域においては当該期間内は当該面積をこえて当該農産物の作付をしてはならない。
2 前項の指定は、当該指定に係る期間の開始する日から少くとも二箇月前に、公示してこれをしなければならない。
(市町村農業調整委員会の指示)
第十一條 市町村農業調整委員会は、主要食糧農産物の生産を増進し、又はその生産の障害を除くため特に必要があると認めるときは、市町村の区域内に住所を有する生産者その他市町村の区域内の土地又は農業用施設につき権利を有する者に対し、病虫害の予防又は害虫の駆除、水利の調整、防護林の保全、農業用施設の共同利用等に関し必要な事項を指示することができる。
2 前項の規定による指示を受けた者がその指示に從わないときは、市町村農業調整委員会は、都道府縣知事に対して、その者に当該指示に從うことを命ずべきことを申請することができる。
3 都道府縣知事は、前項の規定による申請を受けたときは、その申請に係る者に対して、異議があれば十日以内にこれを申し出るべき旨を催告しなければならない。
4 前項の場合において、同項の期間内に異議の申出がないとき又は異議の申出に理由がないと認めるときは、都道府縣知事は、第二項の規定による申請に係る者に対し、第一項の規定による指示に從うべきことを命ずることができる。
(市町村農業調整委員会)
第十二條 市町村に市町村農業調整委員会を置く。
2 市町村農業調整委員会は、都道府縣知事及び市町村長の監督に属し、この法律その他の法令によりその権限に属させた事項を処理する。
(組織)
第十三條 市町村農業調整委員会は、委員をもつてこれを組織する。
2 市町村農業調整委員会に会長を置く。会長は、委員がこれを互選する。
3 委員は、第十四條の規定により選挙権を有する者が同條の規定により被選挙権を有する者につき選挙した者十五人をもつてこれに充てる。
4 市町村長は、特に必要があると認めるときは、都道府縣知事の認可を受けて前項の委員の定数を増減することができる。
5 市町村長は、第三項の規定により選挙される委員の外、三人を限り、委員を選任することができる。
6 市町村長は、前項の委員を選任するには、第三項の規定により選挙された委員の過半数の同意を得なければならない。
(委員の選挙権及び被選挙権)
第十四條 市町村の区域内に住所を有し、命令をもつて定める面積の農地について耕作の業務を営む者で年齢満二十年以上のものは、市町村農業調整委員会の委員の選挙権及び被選挙権を有する。
2 禁治産者及び準禁治産者並びに懲役又は禁この刑に処せられその執行を終り、又はその執行を受けることがなくなるまでの者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
(委員の解職の請求)
第十五條 市町村農業調整委員会の委員の選挙権を有する者は、その総数の三分の一以上の連署をもつて第十三條第三項の規定により選挙された委員の解職を請求することができる。
(報告等)
第十六條 市町村農業調整委員会は、第十二條第二項に規定する事項を処理するため必要があるときは、市町村の区域内に住所を有する生産者その他関係者に対し、その出頭を求め、若しくは必要な報告を徴し、又は委員に農地その他必要な場所に臨んで所要の調査をさせることができる。
(市町村長による取消及び代執行)
第十七條 市町村長は、市町村農業調整委員会の議決又は処分が法令又は法令に基いてする行政廳の処分に違反すると認めるときは、その議決又は処分を取り消すことができる。
2 前項の場合には、市町村長は、都道府縣知事の承認を受けて、市町村農業調整委員会の議決を経ないで第五條第一項若しくは第六條第二項(第八條第五項において準用する場合を含む。)の規定による処分をし、又は市町村農業調整委員会の処分に代るべき処分をすることができる。
3 市町村農業調整委員会が成立しないとき、又は成立した場合において議決すべき事項を議決しないときも、また前項と同様とする。
(補助金)
第十八條 市町村農業調整委員会に関する費用については、政府は、毎年度予算の範囲内で補助金を市町村に交付する。
(地区農業調整委員会等)
第十九條 特別の事情のある市町村には、命令の定めるところにより、市町村農業調整委員会を置かないことができる。この場合においては、この法律により市町村農業調整委員会の権限に属させた事項は、市町村長がこれを処理する。
2 都道府縣知事は、特に必要があると認めるときは、市町村の区域を二以上の地区に分け、市町村農業調整委員会に代え、各地区に地区農業調整委員会を置くことができる。
3 この法律中市町村農業調整委員会及びその委員に関する規定は、第一項の規定を除いて、前項の地区農業調整委員会及びその委員にこれを準用する。この場合において、第十一條、第十四條及び第十六條中「市町村の区域内」とあるのは、「地区農業調整委員会の地区内」と読み替えるものとする。
(委任規定)
第二十條 この法律に定めるものの外、市町村農業調整委員会及び地区農業調整委員会並びにこれらの委員会の委員に関し必要な事項は、政令でこれを定める。
(都道府縣農業調整委員会)
第二十一條 都道府縣に都道府縣農業調整委員会を置く。
2 都道府縣農業調整委員会は、農林大臣及び都道府縣知事の監督に属し、この法律その他の法令によりその権限に属させた事項を処理する。
(組織)
第二十二條 都道府縣農業調整委員会は、会長及び委員をもつてこれを組織する。
2 会長は、都道府縣知事をもつてこれに充てる。
3 委員は、都道府縣知事の定める選挙区ごとに、第十三條第三項の規定により選挙された市町村農業調整委員会の委員の中から二人を互選する。但し、第二十五條第一項の規定により地方農業調整委員会を置いた区域については、地方農業調整委員会ごとに同條第四項の規定により互選された委員の中から二人を互選する。
4 都道府縣知事は、前項の規定により互選される委員の外、五人を限り、委員を選任することができる。
5 前項の場合には、第十三條第六項の規定を準用する。
(委員の解職の請求)
第二十三條 前條第三項の規定により、都道府縣農業調整委員会の委員を互選することのできる者は、その者の属する選挙区(同項但書の場合にあつては地方農業調整委員会、以下本條において同じ。)と同一の選挙区に属し、同項の規定により互選することのできる者の総数の三分の一以上の連署をもつて、当該選挙区に属し、同項の規定により互選された都道府縣農業調整委員会の委員の解職を請求することができる。
(準用)
第二十四條 都道府縣農業調整委員会には、第十六條から第十八條まで及び第二十條の規定を準用する。この場合において、第十六條中「第十二條第二項」とあるのは「第二十一條第二項」と、「市町村の区域内」とあるのは「都道府縣の区域内」と、第十七條第一項中「市町村長」とあるのは「都道府縣知事」と、同條第二項中「市町村長は、都道府縣知事の承認を受けて」とあるのは「都道府縣知事は」と、「第五條第一項若しくは第六條第二項(第八條第五項において準用する場合を含む。)」とあるのは「第四條第一項若しくは第二項若しくは第十條第一項」と、第十八條中「市町村」とあるのは「都道府縣」と読み替えるものとする。
(地方農業調整委員会)
第二十五條 都道府縣知事は、必要があると認めるときは、区域を定めて地方農業調整委員会を置き、都道府縣農業調整委員会の権限に属する事項で当該区域に関するものを処理させることができる。
2 地方農業調整委員会は、会長及び委員をもつてこれを組織する。
3 会長は、当該区域を所管する支廳若しくは地方事務所の長又は当該区域内の市町村長で都道府縣知事の指定する者をもつてこれに充てる。
4 委員は、第一項の区域内の市町村に設置された市町村農業調整委員会ごとに第十三條第三項の規定(第十九條第三項において準用する場合を含む。)により選挙された委員の中から二人を互選する。
(準用)
第二十六條 地方農業調整委員会には、第十六條から第十八條まで、第二十條、第二十二條第四項第五項及び第二十三條の規定を準用する。この場合において、第十六條中「第十二條第二項」とあるのは、「第二十五條第一項」と、「市町村の区域内」とあるのは「地方農業調整委員会の区域内」と、第十七條第一項中「市町村長」とあるのは「都道府縣知事」と、同條第二項中「市町村長は、都道府縣知事の承認を受けて」とあるのは「都道府縣知事は」と、「第五條第一項若しくは第六條第二項(第八條第五項において準用する場合を含む。)」とあるのは「第四條第一項若しくは第二項」と、第十八條中「市町村」とあるのは「都道府縣」と、第二十二條第四項中「五人」とあるのは「三人」と、第二十三條中「前條第三項」とあるのは「第二十五條第四項」と、「選挙区」とあるのは「市町村農業調整委員会」と読み替えるものとする。
(特別市等の特例)
第二十七條 この法律中都道府縣又は都道府縣知事に関する規定は、特別市にあつては特別市又は特別市の市長に、市町村又は市町村長に関する規定は、特別区のある地にあつては特別区又は特別区の区長に、地方自治法第百五十五條第二項の市にあつては区又は区長に、特別市にあつては行政区又は行政区の区長に、全部事務組合又は役場事務組合のある地にあつては組合又は組合管理者にこれを適用する。
(行政廳による報告及び調査)
第二十八條 行政廳は、農業計画を定め又はこれを実施するため必要があると認めるときは、命令の定めるところにより、農地の面積、地力その他の状況又は作付及び收穫の実績等につき、必要な報告を徴し、又は当該官吏若しくは吏員に農地その他必要な場所に臨んで、その状況を調査させることができる。
2 前項の規定により調査を行う当該官吏若しくは吏員は、命令の定めるところにより、その身分を示す証票を携帯し、要求があるときは、何時でもこれを呈示しなければならない。
(罰則)
第二十九條 第三條第四項又は第十條第一項の規定に違反した者は、これを二万円以下の罰金に処する。
第三十條 第十一條第四項の規定による命令に違反した者は、これを五千円以下の罰金に処する。
附 則
1 この法律は、公布の日から、これを施行する。
2 この法律の施行後市町村農業調整委員会、都道府縣農業調整委員会、地方農業調整委員会又は地区農業調整委員会が成立するに至るまでは、この法律により当該委員会の権限に属させた事項は、命令で定める委員会がこれを処理する。
3 この法律は、昭和二十六年三月三十一日限りその効力を失う。但し、その時までにした行爲に対する罰則の適用については、この法律は、その時以後も、なおその効力を有する。
農林大臣 永江一夫
内閣総理大臣 芦田均
食糧確保臨時措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十三年七月二十日
内閣総理大臣 芦田均
法律第百八十二号
食糧確保臨時措置法
(法律の目的)
第一条 この法律は、主要食糧農産物の生産及び供出を確保するため、公正且つ計画的にその生産数量及び供出数量の割当等を行い、もつて食糧事情の安定を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「主要食糧農産物」とは、米、大麦、はだか麦、小麦、甘しよ、馬鈴しよ及び雑穀をいう。
2 この法律において「農業計画」とは、主要食糧農産物の生産数量生産者保有数量若しくは供出数量(代替供出の範囲及び比率を含む)又はその生産に必要な肥料、農薬若しくは農機具等の配給数量について行政庁の定める計画をいう。
3 この法律において「生産者」とは、主要食糧農産物の生産を行う者をいう。
(農林大臣の定める農業計画)
第三条 農林大臣は、中央農業調整審議会及び都道府県知事の意見に基き、米、大麦、はだか麦、小麦、甘しよ、馬鈴しよ又は農林大臣の指定する雑穀についての都道府県別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該都道府県知事に指示する。
2 政府は、主要食糧農産物の生産を確保するため必要な奨励措置を定め、これを公表する。
3 政府は、主要食糧農産物の生産を確保するため必要な資金の融通につき、計画を定め、その実施に関して必要な措置を講ずる。
4 主務大臣は、農業計画に定められた肥料、農薬及び農機具その他主要食糧農産物の生産に必要な物の生産、配給又は輸送の業務を営む者に対し、これらの物の供給を確保するため必要な事項を指示することができる。
5 中央農業調整審議会に関する規程は、政令でこれを定める。
(都道府県知事の定める農業計画)
第四条 都道府県知事は、前条第一項の指示を受けたときは、その指示に従い、都道府県農業調整委員会の議決を経て、市町村別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該市町村長に指示しなければならない。
2 都道府県知事は、必要があると認めるときは、農林大臣の承認を受け、都道府県農業調整委員会の議決を経て、前条第一項に規定する雑穀以外の雑穀についての市町村別の農業計画及びその実施に関し必要な事項を定め、これを当該市町村長に指示することができる。
3 都道府県知事は、前二項の規定による指示をしたときは、遅滞なくその指示に係る農業計画を公表しなければならない。
(市町村長の定める農業計画)
第五条 市町村長は、前条第一項又は第二項の規定による指示を受けたときは、その指示に従い、市町村農業調整委員会の議決を経て、当該市町村の区域内に住所を有する生産者別の農業計画を定めなければならない。
2 前項の農業計画は、当該農業計画に係る生産者の意見を徴し、左の事項を勘案してこれを定めなければならない。
一 当該生産者が農地の利用に関して有する計画
二 農地の面積、地方その他の状況
三 作付及び収穫の実績
四 作物の組み合せに関する事項
五 当該生産者と同一世帯に属する者の状況
六 飼養家畜の種類及び頭数
3 市町村長は、第一項の農業計画を定めたときは、遅滞なくこれを公表しなければならない。
(異議の申立)
第六条 前条第一項の農業計画に係る生産者は、当該農業計画について異議があるときは、市町村長に対して異議を申し立てることができる。但し、同条第三項の規定による公表があつた日から十日を経過したときは、この限りでない。
2 市町村長は、前項の申立を受けたときは、市町村農業調整委員会の議決を経て、同項の期間満了後二十日(第三項の場合にあつては四十日)以内にこれを決定しなければならない。
3 前項の決定をする場合において、当該決定に因つて第四条第一項又は第二項の規定により指示された農業計画又はその実施に関し必要な事項の変更を生ずるときは、市町村長は、あらかじめ都道府県知事の承認を受けなければならない。
4 前項の場合において、市町村長は、都道府県知事に対し、当該変更の理由たる事実について、その調査を請求することができる。
5 都道府県知事は、前項の請求を相当と認めるときは、みずから、又は作物報告事務所長に委嘱して、同項の事実を調査しなければならない。
6 都道府県知事は、第三項の承認をするには、都道府県農業調整委員会の議決を経なければならない。
7 第三項の承認をする場合において、当該承認に因つて第三条第一項の規定により指示された農業計画又はその実施に関し必要な事項の変更を生ずるときは、都道府県知事は、あらかじめ農林大臣の承認を受けなければならない。
(農業計画の指示)
第七条 第五条第一項の農業計画につき前条第一項の期間内に同項の規定による異議の申立がないとき又は同項の規定による異議の申立があつた場合において同条第二項の規定による決定をしたときは、市町村長は、当該農業計画に係る生産者に対し、当該農業計画を指示しなければならない。
2 前項の規定による指示を受けた者は、その指示に係る農業計画において定められた生産数量の確保に努めなければならない。
3 第一項の規定による指示があつたときは、その指示に係る農業計画において定められた主要食糧農産物の供出数量(第八条第一項の規定による変更があつた場合においては、その変更後における供出数量)をもつて、その指示を受けた者が食糧管理法(昭和十七年法律第四十号)第三条第一項の規定により政府に売り渡すべき数量とする。
4 政府は、第五条第一項の農業計画に係る生産者に対し、前項の供出数量をこえて食糧管理法第三条第一項の規定により主要食糧農産物の売渡を命ずることはできない。
5 市町村長は、第一項の規定による指示をしたときは、その指示した農業計画において定めた配給数量に相当する数量の肥料、農薬又は農機具等を、臨時物資需給調整法(昭和二十一年法律第三十二号)第一条第一項の規定による命令に基き、時期を失しないで当該生産者に割り当てなければならない。
(供出数量の変更)
第八条 前条第一項の規定による指示を受けた者は、災害その他真にやむを得ない事由に因つてその指示に係る農業計画によつて定められた供出数量の主要食糧農産物を供出することができなくなつたときは、市町村長に対して、当該供出数量の変更を請求することができる。
2 前項の請求をするには、同項の事由が生じてから十日以内に、市町村長に、これを届け出ておかなければならない。
3 第一項の請求は、都道府県知事の定める期間内にこれをしなければならない。但し、その期間が経過してから生じた事由に基く場合は、この限りでない。
4 第一項の請求は、食糧管理法第三条第一項の規定による売渡命令の効力を停止しない。但し、第五項において準用する第六条第二項の規定による決定があるまでは、食糧緊急措置令(昭和二十一年勅令第八十六号)第一条の規定による収用は、これを行わない。
5 第一項の場合には、第六条第二項から第七項までの規定を準用する。この場合において、同条第二項中「同項の期間満了後」とあるのは、「第八条第一項の請求を受けた日から」と読み替えるものとする。
(肥料等の配給数量の削減)
第九条 市町村農業調整委員会は、第七条第一項の規定による指示を受けた者が、その責に帰すべき事由に因りその指示に係る農業計画において定められた生産数量を確保できる見込がないと認めるときは、同条第五項の規定により割り当てられた肥料、農薬又は農機具等の配給数量の削減を市町村長に請求することができる。
(不急農産物の作付の制限)
第十条 都道府県知事が、主要食糧農産物の生産を確保するため、その生産の確保に支障を及ぼす虞のある農産物の一定面積以上の作付を制限する必要があると認める場合において、都道府県農業調整委員会の議決を経て、地域、期間、農産物の種類及び面積を指定したときは、市町村農業調整委員会の承認を受けなければ、当該地域においては当該期間内は当該面積をこえて当該農産物の作付をしてはならない。
2 前項の指定は、当該指定に係る期間の開始する日から少くとも二箇月前に、公示してこれをしなければならない。
(市町村農業調整委員会の指示)
第十一条 市町村農業調整委員会は、主要食糧農産物の生産を増進し、又はその生産の障害を除くため特に必要があると認めるときは、市町村の区域内に住所を有する生産者その他市町村の区域内の土地又は農業用施設につき権利を有する者に対し、病虫害の予防又は害虫の駆除、水利の調整、防護林の保全、農業用施設の共同利用等に関し必要な事項を指示することができる。
2 前項の規定による指示を受けた者がその指示に従わないときは、市町村農業調整委員会は、都道府県知事に対して、その者に当該指示に従うことを命ずべきことを申請することができる。
3 都道府県知事は、前項の規定による申請を受けたときは、その申請に係る者に対して、異議があれば十日以内にこれを申し出るべき旨を催告しなければならない。
4 前項の場合において、同項の期間内に異議の申出がないとき又は異議の申出に理由がないと認めるときは、都道府県知事は、第二項の規定による申請に係る者に対し、第一項の規定による指示に従うべきことを命ずることができる。
(市町村農業調整委員会)
第十二条 市町村に市町村農業調整委員会を置く。
2 市町村農業調整委員会は、都道府県知事及び市町村長の監督に属し、この法律その他の法令によりその権限に属させた事項を処理する。
(組織)
第十三条 市町村農業調整委員会は、委員をもつてこれを組織する。
2 市町村農業調整委員会に会長を置く。会長は、委員がこれを互選する。
3 委員は、第十四条の規定により選挙権を有する者が同条の規定により被選挙権を有する者につき選挙した者十五人をもつてこれに充てる。
4 市町村長は、特に必要があると認めるときは、都道府県知事の認可を受けて前項の委員の定数を増減することができる。
5 市町村長は、第三項の規定により選挙される委員の外、三人を限り、委員を選任することができる。
6 市町村長は、前項の委員を選任するには、第三項の規定により選挙された委員の過半数の同意を得なければならない。
(委員の選挙権及び被選挙権)
第十四条 市町村の区域内に住所を有し、命令をもつて定める面積の農地について耕作の業務を営む者で年齢満二十年以上のものは、市町村農業調整委員会の委員の選挙権及び被選挙権を有する。
2 禁治産者及び準禁治産者並びに懲役又は禁この刑に処せられその執行を終り、又はその執行を受けることがなくなるまでの者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
(委員の解職の請求)
第十五条 市町村農業調整委員会の委員の選挙権を有する者は、その総数の三分の一以上の連署をもつて第十三条第三項の規定により選挙された委員の解職を請求することができる。
(報告等)
第十六条 市町村農業調整委員会は、第十二条第二項に規定する事項を処理するため必要があるときは、市町村の区域内に住所を有する生産者その他関係者に対し、その出頭を求め、若しくは必要な報告を徴し、又は委員に農地その他必要な場所に臨んで所要の調査をさせることができる。
(市町村長による取消及び代執行)
第十七条 市町村長は、市町村農業調整委員会の議決又は処分が法令又は法令に基いてする行政庁の処分に違反すると認めるときは、その議決又は処分を取り消すことができる。
2 前項の場合には、市町村長は、都道府県知事の承認を受けて、市町村農業調整委員会の議決を経ないで第五条第一項若しくは第六条第二項(第八条第五項において準用する場合を含む。)の規定による処分をし、又は市町村農業調整委員会の処分に代るべき処分をすることができる。
3 市町村農業調整委員会が成立しないとき、又は成立した場合において議決すべき事項を議決しないときも、また前項と同様とする。
(補助金)
第十八条 市町村農業調整委員会に関する費用については、政府は、毎年度予算の範囲内で補助金を市町村に交付する。
(地区農業調整委員会等)
第十九条 特別の事情のある市町村には、命令の定めるところにより、市町村農業調整委員会を置かないことができる。この場合においては、この法律により市町村農業調整委員会の権限に属させた事項は、市町村長がこれを処理する。
2 都道府県知事は、特に必要があると認めるときは、市町村の区域を二以上の地区に分け、市町村農業調整委員会に代え、各地区に地区農業調整委員会を置くことができる。
3 この法律中市町村農業調整委員会及びその委員に関する規定は、第一項の規定を除いて、前項の地区農業調整委員会及びその委員にこれを準用する。この場合において、第十一条、第十四条及び第十六条中「市町村の区域内」とあるのは、「地区農業調整委員会の地区内」と読み替えるものとする。
(委任規定)
第二十条 この法律に定めるものの外、市町村農業調整委員会及び地区農業調整委員会並びにこれらの委員会の委員に関し必要な事項は、政令でこれを定める。
(都道府県農業調整委員会)
第二十一条 都道府県に都道府県農業調整委員会を置く。
2 都道府県農業調整委員会は、農林大臣及び都道府県知事の監督に属し、この法律その他の法令によりその権限に属させた事項を処理する。
(組織)
第二十二条 都道府県農業調整委員会は、会長及び委員をもつてこれを組織する。
2 会長は、都道府県知事をもつてこれに充てる。
3 委員は、都道府県知事の定める選挙区ごとに、第十三条第三項の規定により選挙された市町村農業調整委員会の委員の中から二人を互選する。但し、第二十五条第一項の規定により地方農業調整委員会を置いた区域については、地方農業調整委員会ごとに同条第四項の規定により互選された委員の中から二人を互選する。
4 都道府県知事は、前項の規定により互選される委員の外、五人を限り、委員を選任することができる。
5 前項の場合には、第十三条第六項の規定を準用する。
(委員の解職の請求)
第二十三条 前条第三項の規定により、都道府県農業調整委員会の委員を互選することのできる者は、その者の属する選挙区(同項但書の場合にあつては地方農業調整委員会、以下本条において同じ。)と同一の選挙区に属し、同項の規定により互選することのできる者の総数の三分の一以上の連署をもつて、当該選挙区に属し、同項の規定により互選された都道府県農業調整委員会の委員の解職を請求することができる。
(準用)
第二十四条 都道府県農業調整委員会には、第十六条から第十八条まで及び第二十条の規定を準用する。この場合において、第十六条中「第十二条第二項」とあるのは「第二十一条第二項」と、「市町村の区域内」とあるのは「都道府県の区域内」と、第十七条第一項中「市町村長」とあるのは「都道府県知事」と、同条第二項中「市町村長は、都道府県知事の承認を受けて」とあるのは「都道府県知事は」と、「第五条第一項若しくは第六条第二項(第八条第五項において準用する場合を含む。)」とあるのは「第四条第一項若しくは第二項若しくは第十条第一項」と、第十八条中「市町村」とあるのは「都道府県」と読み替えるものとする。
(地方農業調整委員会)
第二十五条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、区域を定めて地方農業調整委員会を置き、都道府県農業調整委員会の権限に属する事項で当該区域に関するものを処理させることができる。
2 地方農業調整委員会は、会長及び委員をもつてこれを組織する。
3 会長は、当該区域を所管する支庁若しくは地方事務所の長又は当該区域内の市町村長で都道府県知事の指定する者をもつてこれに充てる。
4 委員は、第一項の区域内の市町村に設置された市町村農業調整委員会ごとに第十三条第三項の規定(第十九条第三項において準用する場合を含む。)により選挙された委員の中から二人を互選する。
(準用)
第二十六条 地方農業調整委員会には、第十六条から第十八条まで、第二十条、第二十二条第四項第五項及び第二十三条の規定を準用する。この場合において、第十六条中「第十二条第二項」とあるのは、「第二十五条第一項」と、「市町村の区域内」とあるのは「地方農業調整委員会の区域内」と、第十七条第一項中「市町村長」とあるのは「都道府県知事」と、同条第二項中「市町村長は、都道府県知事の承認を受けて」とあるのは「都道府県知事は」と、「第五条第一項若しくは第六条第二項(第八条第五項において準用する場合を含む。)」とあるのは「第四条第一項若しくは第二項」と、第十八条中「市町村」とあるのは「都道府県」と、第二十二条第四項中「五人」とあるのは「三人」と、第二十三条中「前条第三項」とあるのは「第二十五条第四項」と、「選挙区」とあるのは「市町村農業調整委員会」と読み替えるものとする。
(特別市等の特例)
第二十七条 この法律中都道府県又は都道府県知事に関する規定は、特別市にあつては特別市又は特別市の市長に、市町村又は市町村長に関する規定は、特別区のある地にあつては特別区又は特別区の区長に、地方自治法第百五十五条第二項の市にあつては区又は区長に、特別市にあつては行政区又は行政区の区長に、全部事務組合又は役場事務組合のある地にあつては組合又は組合管理者にこれを適用する。
(行政庁による報告及び調査)
第二十八条 行政庁は、農業計画を定め又はこれを実施するため必要があると認めるときは、命令の定めるところにより、農地の面積、地力その他の状況又は作付及び収穫の実績等につき、必要な報告を徴し、又は当該官吏若しくは吏員に農地その他必要な場所に臨んで、その状況を調査させることができる。
2 前項の規定により調査を行う当該官吏若しくは吏員は、命令の定めるところにより、その身分を示す証票を携帯し、要求があるときは、何時でもこれを呈示しなければならない。
(罰則)
第二十九条 第三条第四項又は第十条第一項の規定に違反した者は、これを二万円以下の罰金に処する。
第三十条 第十一条第四項の規定による命令に違反した者は、これを五千円以下の罰金に処する。
附 則
1 この法律は、公布の日から、これを施行する。
2 この法律の施行後市町村農業調整委員会、都道府県農業調整委員会、地方農業調整委員会又は地区農業調整委員会が成立するに至るまでは、この法律により当該委員会の権限に属させた事項は、命令で定める委員会がこれを処理する。
3 この法律は、昭和二十六年三月三十一日限りその効力を失う。但し、その時までにした行為に対する罰則の適用については、この法律は、その時以後も、なおその効力を有する。
農林大臣 永江一夫
内閣総理大臣 芦田均