(日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律)
法令番号: 法律第七十六号
公布年月日: 昭和22年4月19日
法令の形式: 法律
朕は、帝國議会の協賛を経た日本國憲法施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月十八日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
法律第七十六号
第一條 この法律は、日本國憲法の施行に伴い、刑事訴訟法について應急的措置を講ずることを目的とする。
第二條 刑事訴訟法は、日本國憲法、裁判所法及び檢察廳法の制定の趣旨に適合するようにこれを解釈しなければならない。
第三條 被疑者は、身体の拘束を受けた場合には、弁護人を選任することができる。この場合には、刑事訴訟法第三十九條第二項の規定を準用する。
第四條 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。
第五條 判決以外の裁判は、判事補が一人でこれをすることができる。
第六條 引致された被告人又は被疑者に対しては、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならない。
勾留については、申立により、直ちに被告人又は被疑者及びこれらの者の弁護人の出席する公開の法廷でその理由を告げなければならない。
第七條 檢察官又は司法警察官は、勾引状及び勾留状を発することができない。
檢察官又は司法警察官は、裁判官の令状がなければ、押收、搜索又は檢証をすることができない。但し、現行犯人を逮捕する場合及び勾引状又は勾留状を執行する場合は、この限りでない。
檢察官又は司法警察官は、身体を檢査し、死体を解剖し、又は物を破壞する処分を必要とする鑑定は、これを命ずることができない。
第八條 逮捕状及び勾留状の発付並びに公訴の提起については、左の規定による。
一 檢察官又は司法警察官吏は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の逮捕状を得て、これを逮捕することができる。
二 檢察官又は司法警察官吏は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を得ることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
三 現行犯人が逮捕された場合には、遅滯なく刑事訴訟法第百二十七條及び第百二十九條に定める時間の制限内に檢察官から裁判官に対する勾留状の請求がされなければならない。この制限された時間は、逮捕の時からこれを起算する。檢察官又は司法警察官吏がやむを得ない事情により時間の制限に從うことができなかつた場合において、その事由が適当に示されたときは、裁判官は、その遅延がやむを得ない事情に基く正当なものであると認定することができる。勾留状が発せられないときは、直ちに犯人を釈放しなければならない。
四 第二号の規定により被疑者が逮捕された場合には、逮捕状と同時に勾留状を発することができる。第一号及び第二号の規定により被疑者が逮捕された場合には、前号の場合に準じ、遅滯なく同号に定める時間の制限内に檢察官から裁判官に対する勾留状の請求がされなければならない。勾留状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
五 第一号乃至前号の場合その他被疑者が逮捕されたすべての場合においては、公訴の提起は、遅滯なくこれをしなければならない。勾留状の請求があつた日から十日以内に公訴の提起がなかつたときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第九條 予審は、これを行わない。
第十條 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第十一條 檢察官及び弁護人は、公判期日において、裁判長に告げ、被告人、証人、鑑定人、通事又は飜訳人を訊問することができる。
被告人は、公判期日において、裁判長に告げ、共同被告人、証人、鑑定人、通事又は飜訳人を訊問することができる。
第十二條 証人その他の者(被告人を除く。)の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類は、被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に與えなければ、これを証拠とすることができない。但し、その機会を與えることができず、又は著しく困難な場合には、裁判所は、これらの書類についての制限及び被告人の憲法上の権利を適当に考慮して、これを証拠とすることができる。
刑事訴訟法第三百四十三條の規定は、これを適用しない。
第十三條 上告は、高等裁判所がした第二審又は第一審の判決に対しては最高裁判所に、地方裁判所がした第二審の判決に対しては高等裁判所にこれをすることができる。
刑事訴訟法第四百十二條乃至第四百十四條の規定は、これを適用しない。
第十四條 刑事訴訟法第四百十六條各号の場合には、地方裁判所がした第一審の判決に対しては最高裁判所に、簡易裁判所がした第一審の判決に対しては高等裁判所に、控訴をしないで、上告をすることができる。
第十五條 高等裁判所が上告裁判所である場合に、最高裁判所の定める事由があるときは、決定で事件を最高裁判所に移送しなければならない。
第十六條 上告裁判所においては、事実の審理は、これを行わない。
第十七條 高等裁判所が上告審としてした判決に対しては、その判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に更に上告をすることができる。但し、事件を差し戻し、又は移送する判決に対しては、この限りでない。
前項の上告は、判決の確定を妨げる効力を有しない。但し、最高裁判所は、同項の上告があつたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
第十八條 刑事訴訟法の規定により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、その決定又は命令において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
前項の抗告の提起期間は、五日とする。
第十九條 檢察事務官は、搜査及び令状の執行については、司法警察官に準ずるものとする。
第二十條 被告人に不利益な再審は、これを認めない。
第二十一條 この法律の規定の趣旨に反する他の法令の規定は、これを適用しない。
附 則
この法律は、日本國憲法施行の日から、これを施行する。
この法律は、昭和二十三年一月一日から、その効力を失う。
第十二條の規定は、この法律施行前に既にその証拠調が終つている書類については、その審級に限り、これを適用しない。
この法律施行前に終結した弁論に基いて言い渡された判決に対しては、なお刑事訴訟法の規定により上告することができる。
朕は、帝国議会の協賛を経た日本国憲法施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十二年四月十八日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
法律第七十六号
第一条 この法律は、日本国憲法の施行に伴い、刑事訴訟法について応急的措置を講ずることを目的とする。
第二条 刑事訴訟法は、日本国憲法、裁判所法及び検察庁法の制定の趣旨に適合するようにこれを解釈しなければならない。
第三条 被疑者は、身体の拘束を受けた場合には、弁護人を選任することができる。この場合には、刑事訴訟法第三十九条第二項の規定を準用する。
第四条 被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。
第五条 判決以外の裁判は、判事補が一人でこれをすることができる。
第六条 引致された被告人又は被疑者に対しては、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げなければならない。
勾留については、申立により、直ちに被告人又は被疑者及びこれらの者の弁護人の出席する公開の法廷でその理由を告げなければならない。
第七条 検察官又は司法警察官は、勾引状及び勾留状を発することができない。
検察官又は司法警察官は、裁判官の令状がなければ、押収、捜索又は検証をすることができない。但し、現行犯人を逮捕する場合及び勾引状又は勾留状を執行する場合は、この限りでない。
検察官又は司法警察官は、身体を検査し、死体を解剖し、又は物を破壊する処分を必要とする鑑定は、これを命ずることができない。
第八条 逮捕状及び勾留状の発付並びに公訴の提起については、左の規定による。
一 検察官又は司法警察官吏は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官の逮捕状を得て、これを逮捕することができる。
二 検察官又は司法警察官吏は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を得ることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
三 現行犯人が逮捕された場合には、遅滞なく刑事訴訟法第百二十七条及び第百二十九条に定める時間の制限内に検察官から裁判官に対する勾留状の請求がされなければならない。この制限された時間は、逮捕の時からこれを起算する。検察官又は司法警察官吏がやむを得ない事情により時間の制限に従うことができなかつた場合において、その事由が適当に示されたときは、裁判官は、その遅延がやむを得ない事情に基く正当なものであると認定することができる。勾留状が発せられないときは、直ちに犯人を釈放しなければならない。
四 第二号の規定により被疑者が逮捕された場合には、逮捕状と同時に勾留状を発することができる。第一号及び第二号の規定により被疑者が逮捕された場合には、前号の場合に準じ、遅滞なく同号に定める時間の制限内に検察官から裁判官に対する勾留状の請求がされなければならない。勾留状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
五 第一号乃至前号の場合その他被疑者が逮捕されたすべての場合においては、公訴の提起は、遅滞なくこれをしなければならない。勾留状の請求があつた日から十日以内に公訴の提起がなかつたときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第九条 予審は、これを行わない。
第十条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第十一条 検察官及び弁護人は、公判期日において、裁判長に告げ、被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人を訊問することができる。
被告人は、公判期日において、裁判長に告げ、共同被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人を訊問することができる。
第十二条 証人その他の者(被告人を除く。)の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類は、被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に与えなければ、これを証拠とすることができない。但し、その機会を与えることができず、又は著しく困難な場合には、裁判所は、これらの書類についての制限及び被告人の憲法上の権利を適当に考慮して、これを証拠とすることができる。
刑事訴訟法第三百四十三条の規定は、これを適用しない。
第十三条 上告は、高等裁判所がした第二審又は第一審の判決に対しては最高裁判所に、地方裁判所がした第二審の判決に対しては高等裁判所にこれをすることができる。
刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定は、これを適用しない。
第十四条 刑事訴訟法第四百十六条各号の場合には、地方裁判所がした第一審の判決に対しては最高裁判所に、簡易裁判所がした第一審の判決に対しては高等裁判所に、控訴をしないで、上告をすることができる。
第十五条 高等裁判所が上告裁判所である場合に、最高裁判所の定める事由があるときは、決定で事件を最高裁判所に移送しなければならない。
第十六条 上告裁判所においては、事実の審理は、これを行わない。
第十七条 高等裁判所が上告審としてした判決に対しては、その判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に更に上告をすることができる。但し、事件を差し戻し、又は移送する判決に対しては、この限りでない。
前項の上告は、判決の確定を妨げる効力を有しない。但し、最高裁判所は、同項の上告があつたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
第十八条 刑事訴訟法の規定により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、その決定又は命令において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
前項の抗告の提起期間は、五日とする。
第十九条 検察事務官は、捜査及び令状の執行については、司法警察官に準ずるものとする。
第二十条 被告人に不利益な再審は、これを認めない。
第二十一条 この法律の規定の趣旨に反する他の法令の規定は、これを適用しない。
附 則
この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
この法律は、昭和二十三年一月一日から、その効力を失う。
第十二条の規定は、この法律施行前に既にその証拠調が終つている書類については、その審級に限り、これを適用しない。
この法律施行前に終結した弁論に基いて言い渡された判決に対しては、なお刑事訴訟法の規定により上告することができる。