大日本航空株式会社法
法令番号: 法律第八十四號
公布年月日: 昭和14年4月12日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル大日本航空株式會社法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月十一日
內閣總理大臣 男爵 平沼騏一郞
海軍大臣 米內光政
內務大臣 侯爵 木戶幸一
陸軍大臣 板垣征四郞
大藏大臣 石渡莊太郞
拓務大臣 小磯國昭
遞信大臣 田邉治通
法律第八十四號
大日本航空株式會社法
第一章 總則
第一條 大日本航空株式會社ハ航空輸送事業ノ振興發展ヲ圖ルヲ目的トスル株式會社トス
第二條 帝國(關東州及南洋群島ヲ含ム以下同ジ)內各地間ニ於ケル航空輸送事業及帝國內ニ起點ヲ有スル國際航空輸送事業ハ大日本航空株式會社ノ外之ヲ營ムコトヲ得ズ但シ勅令ヲ以テ定ムル帝國內各地間ニ於ケル航空輸送事業ハ此ノ限ニ在ラズ
第三條 大日本航空株式會社ノ資本ハ一億圓トス但シ政府ノ認可ヲ受ケ之ヲ增加スルコトヲ得
第四條 政府ハ三千七百二十五萬圓ヲ限リ大日本航空株式會社ニ出資スベシ
政府ハ金錢以外ノ財產ヲ以テ出資ノ目的ト爲スコトヲ得
政府所有ノ株式ノ株金拂込ハ其ノ他ノ株式ノ株金拂込ト之ヲ異ニスルコトヲ得
第五條 大日本航空株式會社ノ株金ノ第一囘拂込金額ハ株金ノ十分ノ一迄下ルコトヲ得
政府ハ金錢以外ノ財產ヲ以テ其ノ所有スル株式ノ第二囘以後ノ株金拂込ニ充ツルコトヲ得
第六條 大日本航空株式會社ノ株式ハ記名式トシ政府、公共團體、帝國臣民又ハ帝國法人ニシテ社員、株主若ハ業務ヲ執行スル役員ノ半數以上又ハ資本ノ半額以上若ハ議決權ノ過半數ガ外國人又ハ外國法人ニ屬セザルモノニ限リ之ヲ所有スルコトヲ得
第七條 大日本航空株式會社ニ非ザルモノハ大日本航空株式會社又ハ之ニ類似ノ名稱ヲ以テ其ノ商號ト爲スコトヲ得ズ
第二章 役員
第八條 大日本航空株式會社ニ總裁副總裁各一人、理事三人以上及監事二人以上ヲ置ク
第九條 總裁ハ大日本航空株式會社ヲ代表シ其ノ業務ヲ總理ス
副總裁ハ總裁事故アルトキハ其ノ職務ヲ代理シ總裁缺員ノトキハ其ノ職務ヲ行フ
副總裁及理事ハ總裁ヲ輔佐シ定款ノ定ムル所ニ從ヒ大日本航空株式會社ノ業務ヲ分掌シ又ハ之ニ參與ス
監事ハ大日本航空株式會社ノ業務ヲ監査ス
第十條 總裁及副總裁ハ勅裁ヲ經テ政府之ヲ命ジ其ノ任期ヲ五年トス
理事ハ株主總會ニ於テ二倍ノ候補者ヲ選擧シ政府其ノ中ヨリ之ヲ命ジ其ノ任期ヲ四年トス
監事ハ株主總會ニ於テ之ヲ選任シ其ノ任期ヲ三年トス
大日本航空株式會社ヲ監督スル官廳ノ官吏タリシ者ハ退職後五年間ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ大日本航空株式會社ノ役員ト爲ルコトヲ得ズ
第十一條 總裁、副總裁及業務ヲ分掌スル理事ハ他ノ職務又ハ商業ニ從事スルコトヲ得ズ但シ政府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三章 業務
第十二條 大日本航空株式會社ハ航空輸送事業ノ經營竝ニ航空輸送事業調整ノ爲ニスル投資、融資及助成ヲ爲スモノトス
大日本航空株式會社ハ政府ノ認可ヲ受ケ前項ノ事業ノ外本會社ノ目的達成上必要ナル諸事業ヲ營ムコトヲ得
第四章 準備金及航空事故損失塡補積立金
第十三條 大日本航空株式會社ハ每營業年度ニ準備金トシテ資本ノ缺損ヲ補フ爲利益金額ノ百分ノ五以上ヲ積立テ且利益配當ノ平均ヲ得シムル爲利益金額ノ百分ノ二以上ヲ積立ツベシ
第十四條 大日本航空株式會社ハ每營業年度ニ航空事故ニ因ル損失ヲ塡補スル爲命令ノ定ムル金額ヲ積立ツベシ
第五章 政府ノ監督及助成
第十五條 政府ハ大日本航空株式會社ノ業務ヲ監督ス
第十六條 大日本航空株式會社社債ヲ募集セントスルトキ又ハ借入金ヲ爲サントスルトキハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第十七條 定款ノ變更、利益金ノ處分、合併及解散ノ決議ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十八條 大日本航空株式會社ハ每營業年度ノ事業計畫ヲ定メ政府ノ認可ヲ受クベシ之ヲ變更セントスルトキ亦同ジ
第十九條 政府ハ大日本航空株式會社ノ業務ニ關シ監督上必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第二十條 政府ハ大日本航空株式會社ノ業務ニ關シ軍事上又ハ事業調整上其ノ他公益上必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
前項ノ命令ニ因リ生ジタル損失ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ政府之ヲ補償ス
前項ノ補償ヲ伴フベキ命令ハ之ニ因リ要スベキ補償金ノ總額ガ帝國議會ノ協贊ヲ經タル金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二十一條 政府ハ大日本航空株式會社監理官ヲ置キ大日本航空株式會社ノ業務ヲ監視セシム
第二十二條 大日本航空株式會社監理官ハ何時ニテモ大日本航空株式會社ノ金庫、帳簿及諸般ノ文書物件ヲ檢査スルコトヲ得
大日本航空株式會社監理官ハ必要ト認ムルトキハ何時ニテモ大日本航空株式會社ニ命ジテ業務ニ關スル諸般ノ計算及狀況ヲ報吿セシムルコトヲ得
大日本航空株式會社監理官ハ株主總會其ノ他諸般ノ會議ニ出席シテ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第二十三條 政府ハ大日本航空株式會社ノ決議又ハ役員ノ行爲ガ法令、法令ニ基キテ爲ス處分若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ其ノ決議ヲ取消シ又ハ役員ヲ解任スルコトヲ得
第二十四條 政府ハ定期航空輸送事業ヲ營マシムル爲大日本航空株式會社ニ對シ帝國議會ノ協贊ヲ經タル金額ヲ超エザル範圍內ニ於テ補助金ヲ交付スルコトヲ得
第二十五條 大日本航空株式會社ハ每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込金額ニ對シ年百分ノ六ノ割合ニ達スル迄政府ノ所有スル株式ニ對シ利益ノ配當ヲ爲スコトヲ要セズ
第二十六條 大日本航空株式會社ノ每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ六ノ割合ニ達セザルトキハ政府ハ初營業年度及爾後十年間ヲ限リ之ニ達セシムベキ金額ヲ補給スベシ但シ其ノ額ハ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ六ノ割合ニ相當スル額及當該年度ニ於テ支拂ヒタル社債ノ利息額ノ合計ヲ超ユルコトヲ得ズ
每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込ミタル株金額ニ對シ年百分ノ六ノ割合ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ハ先ヅ之ヲ前項ノ規定ニ依ル補給金ノ償還ニ充ツベシ
第二十七條 大日本航空株式會社ノ每營業年度ニ於ケル配當シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込金額ニ對シ年百分ノ六ノ割合ヲ超過スル場合ニ於テ政府以外ノ者ノ所有スル株式ニ對シ年百分ノ六ノ割合ヲ超エ利益配當ヲ爲サントスルトキハ其ノ超過スル利益金額ハ利益配當ガ總株式ニ付拂込ミタル株金額ニ對シ均一ノ割合ニ達スル迄政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ拂込金額及政府ノ所有スル株式ノ拂込金額ニ對シ一ト五トノ割合ヲ以テ之ヲ配當スベシ
第二十八條 大日本航空株式會社ハ商法ニ規定スル制限ヲ超エテ社債ヲ募集スルコトヲ得但シ社債ノ總額ハ拂込ミタル株金額ノ二倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
社債ヲ募集スル場合ニ於ケル株主總會ノ決議ハ資本ノ半額以上ニ當ル株主出席シ其ノ議決權ノ過半數ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
第二十九條 政府ハ大日本航空株式會社ノ社債ノ元本ノ償還及利息ノ支拂ニ付保證スルコトヲ得
第三十條 大日本航空株式會社ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ年及其ノ翌年ヨリ十年間其ノ事業ニ付所得稅及營業收益稅ヲ免除ス
第三十一條 北海道、府縣及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ前條ノ規定ニ依リ所得稅及營業收益稅ヲ免除セラレタル期間大日本航空株式會社ノ事業ニ對シ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ但シ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三十二條 大日本航空株式會社ガ左ノ事項ニ付登記ヲ受クル場合ニ於テハ其ノ登錄稅ノ額ハ左ノ額トス
一 第四條第二項ノ規定ニ依ル政府ノ出資及第五條第二項ノ規定ニ依ル第二囘以後ノ株金拂込 拂込株金額又ハ每囘拂込株金額ノ千分ノ一
二 第四條第二項ノ規定ニ依ル政府ノ出資又ハ第五條第二項ノ規定ニ依ル第二囘以後ノ株金拂込ニ基ク不動產又ハ船舶ニ關スル權利ノ取得 不動產又ハ船舶ノ價格ノ千分ノ三
第三十三條 朝鮮、臺灣、關東州、樺太及南洋群島ニ於ケル大日本航空株式會社ニ對スル課稅ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 罰則
第三十四條 大日本航空株式會社本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ總裁又ハ總裁ノ職務ヲ行ヒ若ハ代理スル副總裁ヲ百圓以上五千圓以下ノ過料ニ處ス副總裁又ハ理事ノ分掌業務ニ係ルトキハ副總裁又ハ理事ヲ過料ニ處スルコト亦同ジ
第三十五條 大日本航空株式會社ノ總裁、副總裁及業務ヲ分掌スル理事第十一條ノ規定ニ違反シ他ノ職務又ハ商業ニ從事シタルトキハ二十圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス
第三十六條 非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前二條ノ過料ニ之ヲ準用ス
附 則
第三十七條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十八條 昭和十三年十二月一日航空法第三十六條ノ許可ヲ受ケタル大日本航空株式會社(以下許可會社ト稱ス)ハ命令ノ定ムル所ニ依リ株主總會ノ決議ヲ以テ大日本航空株式會社ト爲ルコトヲ得
前項ノ決議ハ總株主ノ半數以上ニシテ資本ノ半額以上ニ當ル株主出席シ其ノ議決權ノ過半數ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ要ス
許可會社第一項ノ決議ヲ爲シタルトキハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第三十九條 前條ノ認可ヲ爲シタルトキハ政府ハ設立委員ヲ命ジ許可會社ヲ大日本航空株式會社ト爲ス爲ニ必要ナル一切ノ事務ヲ處理セシム
前項ノ設立委員ノ中少クトモ二人ハ許可會社ノ取締役ノ中ヨリ之ヲ命ズルコトヲ要ス
設立委員ノ任命アリタル後ハ取締役ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ會社ノ常務ニ屬セザル行爲ヲ爲スコトヲ得ズ
第四十條 設立委員ハ定款ヲ作成シ政府ノ認可ヲ受クベシ
政府前項ノ規定ニ依ル認可ヲ爲サントスルトキハ政府ノ出資ノ目的タル金錢以外ノ財產ノ價格及之ニ對シテ與フル株式ノ數ニ付政府航空出資評價委員會ノ議ヲ經ベシ
政府航空出資評價委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十一條 前條ノ認可アリタルトキハ設立委員ハ總株式ヨリ許可會社ノ株式ニ引當テラルベキ株式及政府ニ割當ツベキ株式ヲ控除シタル殘餘ノ株式ニ付株主ヲ募集スベシ
第四十二條 株式申込證ニハ商法第百二十六條第二項第二號、第四號及第五號ニ規定スル事項ノ外定款認可ノ年月日ヲ記載スベシ
第四十三條 設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込證ヲ政府ニ提出シ其ノ檢査ヲ受クベシ
第四十四條 設立委員ハ前條ノ檢査ヲ受ケタル後遲滯ナク各新株ニ付第一囘ノ拂込ヲ爲サシムベシ
第四十五條 前條ノ拂込アリタルトキハ設立委員ハ遲滯ナク創立總會ヲ招集スベシ
創立總會ノ決議ハ新株ノ引受人及新株ノ引受ヲ爲サザル許可會社ノ株主ノ合計ノ半數以上ニシテ資本ノ半額以上ニ當ル者出席シ其ノ議決權ノ過半數ヲ以テ之ヲ爲ス
第四十六條 創立總會ニ於テハ第十條ノ規定ニ準ジ理事候補者ノ選擧及監事ノ選任ヲ行フベシ
第四十七條 創立總會終結シタルトキハ設立委員竝ニ許可會社ノ取締役及監査役ハ各其ノ事務ヲ大日本航空株式會社總裁ニ引渡スベシ
第四十八條 大日本航空株式會社ノ成立ニ因リ許可會社ハ之ニ吸收セラルルモノトシ許可會社ノ權利義務ハ大日本航空株式會社ニ於テ之ヲ承繼ス
第四十九條 前條ノ規定ニ依リ許可會社ガ大日本航空株式會社ト爲リタルトキハ所得稅法、營業收益稅法、法人資本稅法及臨時利得稅法ノ適用ニ關シテハ許可會社ハ之ヲ合併ニ因リテ消滅シタル法人ト看做シ大日本航空株式會社ハ之ヲ合併ニ因リテ設立シタル法人ト看做ス
大日本航空株式會社ガ設立ノ登記ヲ受クルトキハ其ノ拂込株金額中許可會社ノ拂込株金額ニ相當スル部分ニ付テハ登錄稅ヲ課セズ大日本航空株式會社ガ前條ノ規定ニ依リ許可會社ヨリ不動產又ハ船舶ニ關スル權利ヲ承繼スル場合ニ於ケル其ノ取得ニ付登記ヲ受クルトキ亦同ジ
前條ノ規定ニ依ル許可會社ヨリ大日本航空株式會社ヘノ有價證券ノ移轉ニ付テハ有價證券移轉稅ヲ課セズ
第五十條 第三十八條乃至前條ニ規定スルモノヲ除クノ外許可會社ガ大日本航空株式會社ト爲ル場合ニ於テ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十一條 第三十八條第一項ノ決議ナキ場合又ハ其ノ決議ガ效力ヲ生ゼザル場合ニ於テハ大日本航空株式會社ノ設立及開業準備ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十二條 第二條及第七條ノ規定ハ大日本航空株式會社ガ成立スル迄之ヲ適用セズ
第五十三條 政府第五條第二項ノ規定ニ依リ金錢以外ノ財產ヲ以テ其ノ所有スル株式ノ株金拂込ニ充ツル場合ニ於テハ其ノ財產ノ價格ニ付政府航空出資評價委員會ノ議ヲ經ベシ
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル大日本航空株式会社法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十四年四月十一日
内閣総理大臣 男爵 平沼騏一郎
海軍大臣 米内光政
内務大臣 侯爵 木戸幸一
陸軍大臣 板垣征四郎
大蔵大臣 石渡荘太郎
拓務大臣 小磯国昭
逓信大臣 田邉治通
法律第八十四号
大日本航空株式会社法
第一章 総則
第一条 大日本航空株式会社ハ航空輸送事業ノ振興発展ヲ図ルヲ目的トスル株式会社トス
第二条 帝国(関東州及南洋群島ヲ含ム以下同ジ)内各地間ニ於ケル航空輸送事業及帝国内ニ起点ヲ有スル国際航空輸送事業ハ大日本航空株式会社ノ外之ヲ営ムコトヲ得ズ但シ勅令ヲ以テ定ムル帝国内各地間ニ於ケル航空輸送事業ハ此ノ限ニ在ラズ
第三条 大日本航空株式会社ノ資本ハ一億円トス但シ政府ノ認可ヲ受ケ之ヲ増加スルコトヲ得
第四条 政府ハ三千七百二十五万円ヲ限リ大日本航空株式会社ニ出資スベシ
政府ハ金銭以外ノ財産ヲ以テ出資ノ目的ト為スコトヲ得
政府所有ノ株式ノ株金払込ハ其ノ他ノ株式ノ株金払込ト之ヲ異ニスルコトヲ得
第五条 大日本航空株式会社ノ株金ノ第一回払込金額ハ株金ノ十分ノ一迄下ルコトヲ得
政府ハ金銭以外ノ財産ヲ以テ其ノ所有スル株式ノ第二回以後ノ株金払込ニ充ツルコトヲ得
第六条 大日本航空株式会社ノ株式ハ記名式トシ政府、公共団体、帝国臣民又ハ帝国法人ニシテ社員、株主若ハ業務ヲ執行スル役員ノ半数以上又ハ資本ノ半額以上若ハ議決権ノ過半数ガ外国人又ハ外国法人ニ属セザルモノニ限リ之ヲ所有スルコトヲ得
第七条 大日本航空株式会社ニ非ザルモノハ大日本航空株式会社又ハ之ニ類似ノ名称ヲ以テ其ノ商号ト為スコトヲ得ズ
第二章 役員
第八条 大日本航空株式会社ニ総裁副総裁各一人、理事三人以上及監事二人以上ヲ置ク
第九条 総裁ハ大日本航空株式会社ヲ代表シ其ノ業務ヲ総理ス
副総裁ハ総裁事故アルトキハ其ノ職務ヲ代理シ総裁欠員ノトキハ其ノ職務ヲ行フ
副総裁及理事ハ総裁ヲ輔佐シ定款ノ定ムル所ニ従ヒ大日本航空株式会社ノ業務ヲ分掌シ又ハ之ニ参与ス
監事ハ大日本航空株式会社ノ業務ヲ監査ス
第十条 総裁及副総裁ハ勅裁ヲ経テ政府之ヲ命ジ其ノ任期ヲ五年トス
理事ハ株主総会ニ於テ二倍ノ候補者ヲ選挙シ政府其ノ中ヨリ之ヲ命ジ其ノ任期ヲ四年トス
監事ハ株主総会ニ於テ之ヲ選任シ其ノ任期ヲ三年トス
大日本航空株式会社ヲ監督スル官庁ノ官吏タリシ者ハ退職後五年間ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ大日本航空株式会社ノ役員ト為ルコトヲ得ズ
第十一条 総裁、副総裁及業務ヲ分掌スル理事ハ他ノ職務又ハ商業ニ従事スルコトヲ得ズ但シ政府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三章 業務
第十二条 大日本航空株式会社ハ航空輸送事業ノ経営並ニ航空輸送事業調整ノ為ニスル投資、融資及助成ヲ為スモノトス
大日本航空株式会社ハ政府ノ認可ヲ受ケ前項ノ事業ノ外本会社ノ目的達成上必要ナル諸事業ヲ営ムコトヲ得
第四章 準備金及航空事故損失填補積立金
第十三条 大日本航空株式会社ハ毎営業年度ニ準備金トシテ資本ノ欠損ヲ補フ為利益金額ノ百分ノ五以上ヲ積立テ且利益配当ノ平均ヲ得シムル為利益金額ノ百分ノ二以上ヲ積立ツベシ
第十四条 大日本航空株式会社ハ毎営業年度ニ航空事故ニ因ル損失ヲ填補スル為命令ノ定ムル金額ヲ積立ツベシ
第五章 政府ノ監督及助成
第十五条 政府ハ大日本航空株式会社ノ業務ヲ監督ス
第十六条 大日本航空株式会社社債ヲ募集セントスルトキ又ハ借入金ヲ為サントスルトキハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第十七条 定款ノ変更、利益金ノ処分、合併及解散ノ決議ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ効力ヲ生ゼズ
第十八条 大日本航空株式会社ハ毎営業年度ノ事業計画ヲ定メ政府ノ認可ヲ受クベシ之ヲ変更セントスルトキ亦同ジ
第十九条 政府ハ大日本航空株式会社ノ業務ニ関シ監督上必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第二十条 政府ハ大日本航空株式会社ノ業務ニ関シ軍事上又ハ事業調整上其ノ他公益上必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
前項ノ命令ニ因リ生ジタル損失ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ政府之ヲ補償ス
前項ノ補償ヲ伴フベキ命令ハ之ニ因リ要スベキ補償金ノ総額ガ帝国議会ノ協賛ヲ経タル金額ヲ超エザル範囲内ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
第二十一条 政府ハ大日本航空株式会社監理官ヲ置キ大日本航空株式会社ノ業務ヲ監視セシム
第二十二条 大日本航空株式会社監理官ハ何時ニテモ大日本航空株式会社ノ金庫、帳簿及諸般ノ文書物件ヲ検査スルコトヲ得
大日本航空株式会社監理官ハ必要ト認ムルトキハ何時ニテモ大日本航空株式会社ニ命ジテ業務ニ関スル諸般ノ計算及状況ヲ報告セシムルコトヲ得
大日本航空株式会社監理官ハ株主総会其ノ他諸般ノ会議ニ出席シテ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第二十三条 政府ハ大日本航空株式会社ノ決議又ハ役員ノ行為ガ法令、法令ニ基キテ為ス処分若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害スト認ムルトキハ其ノ決議ヲ取消シ又ハ役員ヲ解任スルコトヲ得
第二十四条 政府ハ定期航空輸送事業ヲ営マシムル為大日本航空株式会社ニ対シ帝国議会ノ協賛ヲ経タル金額ヲ超エザル範囲内ニ於テ補助金ヲ交付スルコトヲ得
第二十五条 大日本航空株式会社ハ毎営業年度ニ於ケル配当シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込金額ニ対シ年百分ノ六ノ割合ニ達スル迄政府ノ所有スル株式ニ対シ利益ノ配当ヲ為スコトヲ要セズ
第二十六条 大日本航空株式会社ノ毎営業年度ニ於ケル配当シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込ミタル株金額ニ対シ年百分ノ六ノ割合ニ達セザルトキハ政府ハ初営業年度及爾後十年間ヲ限リ之ニ達セシムベキ金額ヲ補給スベシ但シ其ノ額ハ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込ミタル株金額ニ対シ年百分ノ六ノ割合ニ相当スル額及当該年度ニ於テ支払ヒタル社債ノ利息額ノ合計ヲ超ユルコトヲ得ズ
毎営業年度ニ於ケル配当シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込ミタル株金額ニ対シ年百分ノ六ノ割合ヲ超過スルトキハ其ノ超過額ハ先ヅ之ヲ前項ノ規定ニ依ル補給金ノ償還ニ充ツベシ
第二十七条 大日本航空株式会社ノ毎営業年度ニ於ケル配当シ得ベキ利益金額ガ政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込金額ニ対シ年百分ノ六ノ割合ヲ超過スル場合ニ於テ政府以外ノ者ノ所有スル株式ニ対シ年百分ノ六ノ割合ヲ超エ利益配当ヲ為サントスルトキハ其ノ超過スル利益金額ハ利益配当ガ総株式ニ付払込ミタル株金額ニ対シ均一ノ割合ニ達スル迄政府以外ノ者ノ所有スル株式ノ払込金額及政府ノ所有スル株式ノ払込金額ニ対シ一ト五トノ割合ヲ以テ之ヲ配当スベシ
第二十八条 大日本航空株式会社ハ商法ニ規定スル制限ヲ超エテ社債ヲ募集スルコトヲ得但シ社債ノ総額ハ払込ミタル株金額ノ二倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
社債ヲ募集スル場合ニ於ケル株主総会ノ決議ハ資本ノ半額以上ニ当ル株主出席シ其ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第二十九条 政府ハ大日本航空株式会社ノ社債ノ元本ノ償還及利息ノ支払ニ付保証スルコトヲ得
第三十条 大日本航空株式会社ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施行ノ年及其ノ翌年ヨリ十年間其ノ事業ニ付所得税及営業収益税ヲ免除ス
第三十一条 北海道、府県及市町村其ノ他之ニ準ズベキモノハ前条ノ規定ニ依リ所得税及営業収益税ヲ免除セラレタル期間大日本航空株式会社ノ事業ニ対シ地方税ヲ課スルコトヲ得ズ但シ特別ノ事情ニ基キ政府ノ認可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第三十二条 大日本航空株式会社ガ左ノ事項ニ付登記ヲ受クル場合ニ於テハ其ノ登録税ノ額ハ左ノ額トス
一 第四条第二項ノ規定ニ依ル政府ノ出資及第五条第二項ノ規定ニ依ル第二回以後ノ株金払込 払込株金額又ハ毎回払込株金額ノ千分ノ一
二 第四条第二項ノ規定ニ依ル政府ノ出資又ハ第五条第二項ノ規定ニ依ル第二回以後ノ株金払込ニ基ク不動産又ハ船舶ニ関スル権利ノ取得 不動産又ハ船舶ノ価格ノ千分ノ三
第三十三条 朝鮮、台湾、関東州、樺太及南洋群島ニ於ケル大日本航空株式会社ニ対スル課税ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 罰則
第三十四条 大日本航空株式会社本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令又ハ之ニ基キテ為ス処分ニ違反シタルトキハ総裁又ハ総裁ノ職務ヲ行ヒ若ハ代理スル副総裁ヲ百円以上五千円以下ノ過料ニ処ス副総裁又ハ理事ノ分掌業務ニ係ルトキハ副総裁又ハ理事ヲ過料ニ処スルコト亦同ジ
第三十五条 大日本航空株式会社ノ総裁、副総裁及業務ヲ分掌スル理事第十一条ノ規定ニ違反シ他ノ職務又ハ商業ニ従事シタルトキハ二十円以上千円以下ノ過料ニ処ス
第三十六条 非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ハ前二条ノ過料ニ之ヲ準用ス
附 則
第三十七条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十八条 昭和十三年十二月一日航空法第三十六条ノ許可ヲ受ケタル大日本航空株式会社(以下許可会社ト称ス)ハ命令ノ定ムル所ニ依リ株主総会ノ決議ヲ以テ大日本航空株式会社ト為ルコトヲ得
前項ノ決議ハ総株主ノ半数以上ニシテ資本ノ半額以上ニ当ル株主出席シ其ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス
許可会社第一項ノ決議ヲ為シタルトキハ政府ノ認可ヲ受クベシ
第三十九条 前条ノ認可ヲ為シタルトキハ政府ハ設立委員ヲ命ジ許可会社ヲ大日本航空株式会社ト為ス為ニ必要ナル一切ノ事務ヲ処理セシム
前項ノ設立委員ノ中少クトモ二人ハ許可会社ノ取締役ノ中ヨリ之ヲ命ズルコトヲ要ス
設立委員ノ任命アリタル後ハ取締役ハ政府ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ会社ノ常務ニ属セザル行為ヲ為スコトヲ得ズ
第四十条 設立委員ハ定款ヲ作成シ政府ノ認可ヲ受クベシ
政府前項ノ規定ニ依ル認可ヲ為サントスルトキハ政府ノ出資ノ目的タル金銭以外ノ財産ノ価格及之ニ対シテ与フル株式ノ数ニ付政府航空出資評価委員会ノ議ヲ経ベシ
政府航空出資評価委員会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十一条 前条ノ認可アリタルトキハ設立委員ハ総株式ヨリ許可会社ノ株式ニ引当テラルベキ株式及政府ニ割当ツベキ株式ヲ控除シタル残余ノ株式ニ付株主ヲ募集スベシ
第四十二条 株式申込証ニハ商法第百二十六条第二項第二号、第四号及第五号ニ規定スル事項ノ外定款認可ノ年月日ヲ記載スベシ
第四十三条 設立委員ハ株主ノ募集ヲ終リタルトキハ株式申込証ヲ政府ニ提出シ其ノ検査ヲ受クベシ
第四十四条 設立委員ハ前条ノ検査ヲ受ケタル後遅滞ナク各新株ニ付第一回ノ払込ヲ為サシムベシ
第四十五条 前条ノ払込アリタルトキハ設立委員ハ遅滞ナク創立総会ヲ招集スベシ
創立総会ノ決議ハ新株ノ引受人及新株ノ引受ヲ為サザル許可会社ノ株主ノ合計ノ半数以上ニシテ資本ノ半額以上ニ当ル者出席シ其ノ議決権ノ過半数ヲ以テ之ヲ為ス
第四十六条 創立総会ニ於テハ第十条ノ規定ニ準ジ理事候補者ノ選挙及監事ノ選任ヲ行フベシ
第四十七条 創立総会終結シタルトキハ設立委員並ニ許可会社ノ取締役及監査役ハ各其ノ事務ヲ大日本航空株式会社総裁ニ引渡スベシ
第四十八条 大日本航空株式会社ノ成立ニ因リ許可会社ハ之ニ吸収セラルルモノトシ許可会社ノ権利義務ハ大日本航空株式会社ニ於テ之ヲ承継ス
第四十九条 前条ノ規定ニ依リ許可会社ガ大日本航空株式会社ト為リタルトキハ所得税法、営業収益税法、法人資本税法及臨時利得税法ノ適用ニ関シテハ許可会社ハ之ヲ合併ニ因リテ消滅シタル法人ト看做シ大日本航空株式会社ハ之ヲ合併ニ因リテ設立シタル法人ト看做ス
大日本航空株式会社ガ設立ノ登記ヲ受クルトキハ其ノ払込株金額中許可会社ノ払込株金額ニ相当スル部分ニ付テハ登録税ヲ課セズ大日本航空株式会社ガ前条ノ規定ニ依リ許可会社ヨリ不動産又ハ船舶ニ関スル権利ヲ承継スル場合ニ於ケル其ノ取得ニ付登記ヲ受クルトキ亦同ジ
前条ノ規定ニ依ル許可会社ヨリ大日本航空株式会社ヘノ有価証券ノ移転ニ付テハ有価証券移転税ヲ課セズ
第五十条 第三十八条乃至前条ニ規定スルモノヲ除クノ外許可会社ガ大日本航空株式会社ト為ル場合ニ於テ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十一条 第三十八条第一項ノ決議ナキ場合又ハ其ノ決議ガ効力ヲ生ゼザル場合ニ於テハ大日本航空株式会社ノ設立及開業準備ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十二条 第二条及第七条ノ規定ハ大日本航空株式会社ガ成立スル迄之ヲ適用セズ
第五十三条 政府第五条第二項ノ規定ニ依リ金銭以外ノ財産ヲ以テ其ノ所有スル株式ノ株金払込ニ充ツル場合ニ於テハ其ノ財産ノ価格ニ付政府航空出資評価委員会ノ議ヲ経ベシ