樺太相続税令
法令番号: 勅令第七十六號
公布年月日: 昭和12年3月31日
法令の形式: 勅令
朕樺太相續稅令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年三月三十一日
內閣總理大臣 林銑十郞
拓務大臣 結城豊太郞
勅令第七十六號
樺太相續稅令
第一條 相續開始シタルトキハ開始地ガ樺太ニ在ルト否トヲ問ハズ被相續人又ハ相續人ガ日本ノ國籍ヲ有スル者タルト否トヲ問ハズ樺太ニ在ル相續財產ニハ本令ニ依リ相續稅ヲ課ス
第二條 被相續人ガ樺太ニ住所ヲ有スルトキハ左ニ揭グル財產ヲ以テ樺太ニ在ル相續財產トス
一 樺太ニ在ル動產及不動產但シ相續稅法施行地、朝鮮又ハ臺灣ニ船籍ヲ有スル船舶ヲ除ク
二 樺太ニ在ル不動產ノ上ニ存スル權利
三 前二號ニ揭グルモノ以外ノ財產權
被相續人ガ樺太ニ住所ヲ有セザルトキハ前項第一號及第二號ノ財產ヲ以テ樺太ニ在ル相續財產トス
相續開始前一年內ニ樺太ヨリ樺太外ニ轉ジタル者ノ住所ハ樺太ニ在ルモノト看做ス但シ樺太ヨリ相續稅法施行地、朝鮮又ハ臺灣ニ轉ジタル者ノ住所ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三條 被相續人ガ樺太ニ住所ヲ有スルトキハ相續開始ノ際樺太ニ在ル相續財產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ被相續人ガ樺太ニ在ル財產ニ付爲シタル贈與ノ價額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課稅價格トス
一 公課(樺太外ニ在ル財產ニ係ル公課ヲ除ク)
二 被相續人ノ葬式費用
三 債務(樺太外ニ在ル財產ヲ目的トスル留置權、特別ノ先取特權、質權、抵當權其ノ他之ニ準ズベキ擔保權ヲ以テ擔保セラルル債務及樺太外ニ在ル財產ニ關スル贈與ノ義務ヲ除ク)
被相續人ガ樺太ニ住所ヲ有セザルトキハ相續開始ノ際樺太ニ在ル相續財產ノ價額ニ相續開始前一年內ニ被相續人ガ樺太ニ在ル財產ニ付爲シタル贈與ノ價額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課稅價格トス
一 其ノ財產ニ係ル公課
二 其ノ財產ヲ目的トスル留置權、特別ノ先取特權、質權又ハ抵當權ヲ以テ擔保セラルル債務
三 其ノ財產ニ關スル贈與ノ義務
國、公共團體又ハ慈善其ノ他ノ公益事業ニ對シ爲シタル贈與及遺贈ハ課稅價格ニ算入セズ
第四條 相續財產ノ價額、相續財產ノ價額ニ加算スベキ贈與ノ價額竝ニ相續財產ノ價額中ヨリ控除スベキ公課及債務金額ハ相續開始當時ノ現況ニ依ル
第五條 地上權、永小作權及定期金ニ付テハ政府ハ左ノ方法ニ依リ其ノ價額ヲ評定ス
一 地上權ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ價額トス
殘存期間十年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 二倍
殘存期間三十年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 三倍
殘存期間五十年以下ナルモノ又ハ存續期間ノ定ナキモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 五倍
殘存期間百年以下ナルモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 七倍
殘存期間百年ヨリ長キモノ 地上權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 十二倍
二 永小作權ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ價額トス
殘存期間十年以下ナルモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 二倍
殘存期間三十年以下ナルモノ又ハ存續期間ノ定ナキモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 三倍
殘存期間五十年以下ナルモノ 永小作權ノ目的タル土地ノ賃貸價格 五倍
三 有期定期金ハ其ノ殘存期間ニ於ケル定期金ノ總額ヲ以テ其ノ價額トス但シ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
四 無期定期金ハ其ノ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ以テ其ノ價額トス
五 終身定期金ハ目的トセラレタル人ノ年齡ニ依リ左ノ期間ニ於ケル定期金ノ總額ヲ以テ其ノ價額トス
二十歲未滿ノ者 十年
三十歲未滿ノ者 八年
四十歲未滿ノ者 六年
五十歲未滿ノ者 四年
六十歲未滿ノ者 二年
六十歲以上ノ者 一年
前項ノ規定ニ於テ土地ノ賃貸價格トハ貸主ガ公課、修繕費其ノ他土地ノ維持ニ必要ナル經費ヲ負擔スル條件ヲ以テ之ヲ賃貸スル場合ニ於テ貸主ノ收得スベキ一年分ノ金額ヲ謂フ
第六條 條件附權利、存續期間ノ不確定ナル權利、信託ノ利益ヲ受クベキ權利又ハ訴訟中ノ權利ニ付テハ政府ノ認ムル所ニ依リ其ノ價額ヲ評定ス
第三條第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ控除スベキ債務金額ハ政府ガ確實ト認メタルモノニ限ル
第七條 課稅價格ガ家督相續ニ在リテハ五千圓、遺產相續ニ在リテハ千圓ニ滿タザルトキハ相續稅ヲ課セズ
第八條 軍人又ハ軍屬ノ戰死又ハ戰爭ノ爲受ケタル傷痍疾病ニ起因シタル死亡ニ因リ相續開始シタルトキハ相續稅ヲ課セズ但シ傷痍者又ハ疾病者ニシテ負傷又ハ發病後一年ヲ經過シ死亡シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第九條 相續稅ハ課稅價格ヲ左ノ各級ニ區分シ其ノ各區分ニ對シ相續人ノ種類ニ從ヒ遞次ニ各稅率ヲ適用シテ之ヲ課ス
【表】
【表】
外國ノ法律ニ依リ開始シタル相續ニ關シテハ遺產相續ニ關スル稅率ヲ準用ス但シ相續人二人以上アル場合ニ於テ其ノ適用スベキ稅率相異ルトキハ最モ低キ稅率ヲ適用ス
第十條 相續人ノ廢除若ハ其ノ取消ニ關スル裁判ノ確定前又ハ相續ノ承認若ハ抛棄前ト雖モ政府ハ必要ニ依リ其ノ推定家督相續人又ハ推定遺產相續人ニ對スル稅率ヲ適用シ相續稅ヲ課スルコトヲ得
相續人アルコト分明ナラザルトキハ稅率ノ最モ高キ相續人ニ對スル稅率ヲ適用シテ相續稅ヲ課ス
前二項ノ規定ニ依リ課稅シタル後相續人確定シタルトキハ稅率ノ適用ヲ改訂シ稅金ノ差額ヲ追徵シ又ハ還付ス
第十一條 相續稅ヲ課セラルベキ相續開始後五年內ニ於テ更ニ相續開始シタルトキハ前ノ相續額ニ對スル相續稅ニ相當スル相續稅ヲ免除ス
相續稅ヲ課セラルベキ相續開始後七年內ニ於テ更ニ相續開始シタルトキハ前ノ相續額ニ對スル相續稅ノ半額ニ相當スル相續稅ヲ免除ス
相續稅法施行地、朝鮮又ハ臺灣ニ於ケル法令ニ依リ相續稅ヲ課セラルベキ相續開始後五年又ハ七年內ニ於テ更ニ相續開始シタルトキハ樺太廳長官ノ定ムル所ニ依リ相續稅ノ全部又ハ一部ヲ免除ス
第十二條 相續人、受遺者及第三條第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相續財產ノ價額ニ加算シタル贈與ヲ受ケタル者ハ課稅價格中各自其ノ受ケタル利益ノ價額ノ占ムル割合ニ應ジテ相續稅ヲ納付スル義務アルモノトス但シ相續人ハ共同相續人、受遺者及第三條第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相續財產ノ價額ニ加算シタル贈與ヲ受ケタル者ノ納付スベキ相續稅ニ付連帶納付ノ責ニ任ズ
第三條第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相續財產ノ價額ニ加算シタル贈與ノ價額ニシテ第二十四條ノ規定ニ依リ相續稅ヲ課スベキモノアルトキハ其ノ相續稅額ハ當該贈與ヲ受ケタル者ガ前項ノ規定ニ依リ當該贈與ニ付納付スベキ相續稅額ヨリ之ヲ控除ス
第十三條 相續人アルコト分明ナラザルトキ又ハ相續人ガ相續財產ニ付全ク處分ノ權能ナキトキハ本令中相續人ニ關スル規定ハ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外之ヲ相續財產管理人又ハ遺言執行者ニ適用ス
第十四條 相續人ハ相續開始ヲ知リタル日ヨリ三月內ニ相續稅ヲ課セラルベキ相續財產ノ目錄竝ニ相續財產ノ價額ニ加算セラルベキ贈與ノ價額及相續財產ノ價額中ヨリ控除セラルベキ金額ノ明細書ヲ政府ニ提出スベシ
前項ノ期間ハ相續財產管理人又ハ遺言執行者ニ付テハ就職ノ日ヨリ三月トス
被相續人又ハ相續人ガ帝國內ニ住所ヲ有セザルトキハ前二項ノ期間ハ六月トス
相續人確定シタルトキハ第一項ノ書類ヲ提出スルト同時ニ又ハ其ノ確定ノ日ヨリ一月內ニ相續人ノ相續關係ヲ記載シタル書面ヲ政府ニ提出スベシ
第十五條 納稅義務者樺太ニ住所又ハ居所ヲ有セザルトキハ前條ノ書類ノ提出、納稅其ノ他相續稅ニ關スル一切ノ事項ヲ處理セシムル爲納稅管理人ヲ定メ政府ニ申吿スベシ樺太外ニ住所又ハ居所ヲ移サントスルトキ亦同ジ
第十六條 町村長左ノ事項ニ關スル屆書ヲ受理シタルトキハ之ヲ所轄樺太廳支廳長ニ報吿スベシ
一 死亡又ハ失踪
二 戶主ノ隱居又ハ國籍喪失
三 戶主ガ婚姻又ハ養子緣組ノ取消ニ因リテ其ノ家ヲ去リタルコト
四 入夫婚姻ニ因リ女戶主ガ戶主權ヲ喪失シタルコト
五 戶主タル入夫ノ離婚
第十七條 課稅價格ハ政府ニ於テ之ヲ決定ス
課稅價格ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納稅義務者又ハ納稅管理人ニ通知スベシ
樺太ニ住所又ハ居所ヲ有セザル納稅義務者納稅管理人ノ申吿ヲ爲サザルトキハ前項ノ通知ハ公吿ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テ公吿ノ初日ヨリ七日ヲ經過シタルトキハ其ノ通知アリタルモノト看做ス
第十八條 納稅義務者前條第一項ノ決定ニ對シ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日內ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ審査ノ請求ヲ爲スコトヲ得
納稅義務者帝國內ニ住所ヲ有セザルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三月トス
第一項ノ請求アリタル場合ト雖モ政府ハ稅金ノ徵收ヲ猶豫セズ
第十九條 前條第一項ノ請求アリタルトキハ相續稅審査委員會ニ諮問シ政府ニ於テ之ヲ決定ス
第二十條 相續稅審査委員會ハ樺太廳ニ之ヲ置ク
審査委員會ハ會長一人及委員六人ヲ以テ之ヲ組織ス
會長ハ樺太廳高等官中ヨリ樺太廳長官之ヲ命ズ
委員ハ稅務官吏中ヨリ三人及直接國稅百圓以上ヲ納ムル者ヨリ三人ヲ樺太廳長官ニ於テ命ズ
稅務官吏ニ非ザル審査委員ノ任期ハ四年トス
審査委員會ノ議事ニ關スル事項ハ樺太廳長官之ヲ定ム
第二十一條 審査委員ニハ樺太廳長官ノ定ムル所ニ依リ日當及旅費ヲ支給ス但シ稅務官吏タル審査委員ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二條 相續稅ハ一時ニ之ヲ納付スベシ但シ稅額百圓以上ナルトキハ稅額ニ相當スル擔保ヲ提供シ七年內ノ年賦延納ヲ求ムルコトヲ得
納稅義務者前項ノ規定ニ依リ年賦延納ヲ求メントスルトキハ第十七條第二項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日內ニ政府ニ申請スベシ但シ連帶納付ノ責アル納稅義務者ニ在リテハ其ノ一人ヨリ申請スルヲ以テ足ル
納稅義務者帝國內ニ住所ヲ有セザルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三月トス
第二十三條 相續人期限內ニ第十四條第一項又ハ第四項ノ書類ヲ提出セザルトキハ政府ハ期間ヲ定メテ催吿ヲ爲スコトヲ得
相續人二人以上ナル場合ニ於テハ政府ハ其ノ一人ニ對シ前項ノ催吿ヲ爲スコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ相續人其ノ期間內ニ書類ヲ提出セザルトキハ政府ノ認ムル所ニ依リ課稅價格ヲ決定シ催吿ニ關スル費用及稅額ノ十分ノ一ニ相當スル金額ヲ相續人ヨリ徵收スルコトヲ得
相續人二人以上ナル場合ニ於テハ各相續人ハ前項ノ徵收金ニ付連帶納付ノ責ニ任ズ
第三項ノ規定ニ依ル金額ノ徵收ニ關シテハ國稅徵收法ヲ準用ス
第二十四條 左ニ揭グル場合ニ於テ樺太ニ在ル不動產及相續稅法施行地、朝鮮又ハ臺灣ニ船籍ヲ有スル船舶以外ノ財產ニ付爲シタル贈與ノ價額ガ千圓以上ナルトキハ遺產相續開始シタルモノト看做シ其ノ財產ノ價額ヲ課稅價格トシテ本令ニ依リ相續稅ヲ課ス
一 親族ニ贈與ヲ爲シタルトキ
二 分家ヲ爲スニ際シ又ハ分家ヲ爲シタル後本家ノ戶主又ハ家族ガ分家ノ戶主又ハ家族ニ贈與ヲ爲シタルトキ
前項ノ遺產相續ニ關シテハ第十一條ノ規定ヲ適用セズ
第二十五條 死亡ニ因ル相續開始後一年內ニ於テ相續人ガ相續財產ニ付爲シタル贈與ニ付テハ前條ノ規定ヲ適用セズ但シ自己ノ直系卑屬ニ贈與ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十六條 稅務官吏ハ調査上必要アルトキハ被相續人、納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ニ質問ヲ爲シ又ハ其ノ帳簿物件ヲ檢査スルコトヲ得
第二十七條 稅務官吏ハ調査上必要アルトキハ被相續人、納稅義務者若ハ納稅義務アリト認ムル者ニ金錢若ハ物品ヲ支拂フ義務ヲ有スト認ムル者ニ對シ又ハ被相續人、納稅義務者若ハ納稅義務アリト認ムル者ヨリ金錢若ハ物品ノ支拂ヲ受クル權利ヲ有スト認ムル者ニ對シ其ノ金額、數量、價額、支拂期日等ヲ質問シ又ハ之ニ關スル帳簿物件ヲ檢査スルコトヲ得
第二十八條 町村ハ相續稅ノ附加稅ヲ課スルコトヲ得ズ
第二十九條 本令ニ定ムルモノノ外相續稅ニ關シ必要ナル規定ハ樺太廳長官之ヲ定ム
附 則
本令ハ昭和十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
朕樺太相続税令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十二年三月三十一日
内閣総理大臣 林銑十郎
拓務大臣 結城豊太郎
勅令第七十六号
樺太相続税令
第一条 相続開始シタルトキハ開始地ガ樺太ニ在ルト否トヲ問ハズ被相続人又ハ相続人ガ日本ノ国籍ヲ有スル者タルト否トヲ問ハズ樺太ニ在ル相続財産ニハ本令ニ依リ相続税ヲ課ス
第二条 被相続人ガ樺太ニ住所ヲ有スルトキハ左ニ掲グル財産ヲ以テ樺太ニ在ル相続財産トス
一 樺太ニ在ル動産及不動産但シ相続税法施行地、朝鮮又ハ台湾ニ船籍ヲ有スル船舶ヲ除ク
二 樺太ニ在ル不動産ノ上ニ存スル権利
三 前二号ニ掲グルモノ以外ノ財産権
被相続人ガ樺太ニ住所ヲ有セザルトキハ前項第一号及第二号ノ財産ヲ以テ樺太ニ在ル相続財産トス
相続開始前一年内ニ樺太ヨリ樺太外ニ転ジタル者ノ住所ハ樺太ニ在ルモノト看做ス但シ樺太ヨリ相続税法施行地、朝鮮又ハ台湾ニ転ジタル者ノ住所ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第三条 被相続人ガ樺太ニ住所ヲ有スルトキハ相続開始ノ際樺太ニ在ル相続財産ノ価額ニ相続開始前一年内ニ被相続人ガ樺太ニ在ル財産ニ付為シタル贈与ノ価額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課税価格トス
一 公課(樺太外ニ在ル財産ニ係ル公課ヲ除ク)
二 被相続人ノ葬式費用
三 債務(樺太外ニ在ル財産ヲ目的トスル留置権、特別ノ先取特権、質権、抵当権其ノ他之ニ準ズベキ担保権ヲ以テ担保セラルル債務及樺太外ニ在ル財産ニ関スル贈与ノ義務ヲ除ク)
被相続人ガ樺太ニ住所ヲ有セザルトキハ相続開始ノ際樺太ニ在ル相続財産ノ価額ニ相続開始前一年内ニ被相続人ガ樺太ニ在ル財産ニ付為シタル贈与ノ価額ヲ加ヘ其ノ中ヨリ左ノ金額ヲ控除シタルモノヲ以テ課税価格トス
一 其ノ財産ニ係ル公課
二 其ノ財産ヲ目的トスル留置権、特別ノ先取特権、質権又ハ抵当権ヲ以テ担保セラルル債務
三 其ノ財産ニ関スル贈与ノ義務
国、公共団体又ハ慈善其ノ他ノ公益事業ニ対シ為シタル贈与及遺贈ハ課税価格ニ算入セズ
第四条 相続財産ノ価額、相続財産ノ価額ニ加算スベキ贈与ノ価額並ニ相続財産ノ価額中ヨリ控除スベキ公課及債務金額ハ相続開始当時ノ現況ニ依ル
第五条 地上権、永小作権及定期金ニ付テハ政府ハ左ノ方法ニ依リ其ノ価額ヲ評定ス
一 地上権ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ価額トス
残存期間十年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 二倍
残存期間三十年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 三倍
残存期間五十年以下ナルモノ又ハ存続期間ノ定ナキモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 五倍
残存期間百年以下ナルモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 七倍
残存期間百年ヨリ長キモノ 地上権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 十二倍
二 永小作権ニ付テハ左ノ金額ヲ以テ其ノ価額トス
残存期間十年以下ナルモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 二倍
残存期間三十年以下ナルモノ又ハ存続期間ノ定ナキモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 三倍
残存期間五十年以下ナルモノ 永小作権ノ目的タル土地ノ賃貸価格 五倍
三 有期定期金ハ其ノ残存期間ニ於ケル定期金ノ総額ヲ以テ其ノ価額トス但シ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ超ユルコトヲ得ズ
四 無期定期金ハ其ノ一年ノ定期金ノ二十倍ヲ以テ其ノ価額トス
五 終身定期金ハ目的トセラレタル人ノ年齢ニ依リ左ノ期間ニ於ケル定期金ノ総額ヲ以テ其ノ価額トス
二十歳未満ノ者 十年
三十歳未満ノ者 八年
四十歳未満ノ者 六年
五十歳未満ノ者 四年
六十歳未満ノ者 二年
六十歳以上ノ者 一年
前項ノ規定ニ於テ土地ノ賃貸価格トハ貸主ガ公課、修繕費其ノ他土地ノ維持ニ必要ナル経費ヲ負担スル条件ヲ以テ之ヲ賃貸スル場合ニ於テ貸主ノ収得スベキ一年分ノ金額ヲ謂フ
第六条 条件附権利、存続期間ノ不確定ナル権利、信託ノ利益ヲ受クベキ権利又ハ訴訟中ノ権利ニ付テハ政府ノ認ムル所ニ依リ其ノ価額ヲ評定ス
第三条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ控除スベキ債務金額ハ政府ガ確実ト認メタルモノニ限ル
第七条 課税価格ガ家督相続ニ在リテハ五千円、遺産相続ニ在リテハ千円ニ満タザルトキハ相続税ヲ課セズ
第八条 軍人又ハ軍属ノ戦死又ハ戦争ノ為受ケタル傷痍疾病ニ起因シタル死亡ニ因リ相続開始シタルトキハ相続税ヲ課セズ但シ傷痍者又ハ疾病者ニシテ負傷又ハ発病後一年ヲ経過シ死亡シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第九条 相続税ハ課税価格ヲ左ノ各級ニ区分シ其ノ各区分ニ対シ相続人ノ種類ニ従ヒ逓次ニ各税率ヲ適用シテ之ヲ課ス
【表】
【表】
外国ノ法律ニ依リ開始シタル相続ニ関シテハ遺産相続ニ関スル税率ヲ準用ス但シ相続人二人以上アル場合ニ於テ其ノ適用スベキ税率相異ルトキハ最モ低キ税率ヲ適用ス
第十条 相続人ノ廃除若ハ其ノ取消ニ関スル裁判ノ確定前又ハ相続ノ承認若ハ抛棄前ト雖モ政府ハ必要ニ依リ其ノ推定家督相続人又ハ推定遺産相続人ニ対スル税率ヲ適用シ相続税ヲ課スルコトヲ得
相続人アルコト分明ナラザルトキハ税率ノ最モ高キ相続人ニ対スル税率ヲ適用シテ相続税ヲ課ス
前二項ノ規定ニ依リ課税シタル後相続人確定シタルトキハ税率ノ適用ヲ改訂シ税金ノ差額ヲ追徴シ又ハ還付ス
第十一条 相続税ヲ課セラルベキ相続開始後五年内ニ於テ更ニ相続開始シタルトキハ前ノ相続額ニ対スル相続税ニ相当スル相続税ヲ免除ス
相続税ヲ課セラルベキ相続開始後七年内ニ於テ更ニ相続開始シタルトキハ前ノ相続額ニ対スル相続税ノ半額ニ相当スル相続税ヲ免除ス
相続税法施行地、朝鮮又ハ台湾ニ於ケル法令ニ依リ相続税ヲ課セラルベキ相続開始後五年又ハ七年内ニ於テ更ニ相続開始シタルトキハ樺太庁長官ノ定ムル所ニ依リ相続税ノ全部又ハ一部ヲ免除ス
第十二条 相続人、受遺者及第三条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相続財産ノ価額ニ加算シタル贈与ヲ受ケタル者ハ課税価格中各自其ノ受ケタル利益ノ価額ノ占ムル割合ニ応ジテ相続税ヲ納付スル義務アルモノトス但シ相続人ハ共同相続人、受遺者及第三条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相続財産ノ価額ニ加算シタル贈与ヲ受ケタル者ノ納付スベキ相続税ニ付連帯納付ノ責ニ任ズ
第三条第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ相続財産ノ価額ニ加算シタル贈与ノ価額ニシテ第二十四条ノ規定ニ依リ相続税ヲ課スベキモノアルトキハ其ノ相続税額ハ当該贈与ヲ受ケタル者ガ前項ノ規定ニ依リ当該贈与ニ付納付スベキ相続税額ヨリ之ヲ控除ス
第十三条 相続人アルコト分明ナラザルトキ又ハ相続人ガ相続財産ニ付全ク処分ノ権能ナキトキハ本令中相続人ニ関スル規定ハ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外之ヲ相続財産管理人又ハ遺言執行者ニ適用ス
第十四条 相続人ハ相続開始ヲ知リタル日ヨリ三月内ニ相続税ヲ課セラルベキ相続財産ノ目録並ニ相続財産ノ価額ニ加算セラルベキ贈与ノ価額及相続財産ノ価額中ヨリ控除セラルベキ金額ノ明細書ヲ政府ニ提出スベシ
前項ノ期間ハ相続財産管理人又ハ遺言執行者ニ付テハ就職ノ日ヨリ三月トス
被相続人又ハ相続人ガ帝国内ニ住所ヲ有セザルトキハ前二項ノ期間ハ六月トス
相続人確定シタルトキハ第一項ノ書類ヲ提出スルト同時ニ又ハ其ノ確定ノ日ヨリ一月内ニ相続人ノ相続関係ヲ記載シタル書面ヲ政府ニ提出スベシ
第十五条 納税義務者樺太ニ住所又ハ居所ヲ有セザルトキハ前条ノ書類ノ提出、納税其ノ他相続税ニ関スル一切ノ事項ヲ処理セシムル為納税管理人ヲ定メ政府ニ申告スベシ樺太外ニ住所又ハ居所ヲ移サントスルトキ亦同ジ
第十六条 町村長左ノ事項ニ関スル届書ヲ受理シタルトキハ之ヲ所轄樺太庁支庁長ニ報告スベシ
一 死亡又ハ失踪
二 戸主ノ隠居又ハ国籍喪失
三 戸主ガ婚姻又ハ養子縁組ノ取消ニ因リテ其ノ家ヲ去リタルコト
四 入夫婚姻ニ因リ女戸主ガ戸主権ヲ喪失シタルコト
五 戸主タル入夫ノ離婚
第十七条 課税価格ハ政府ニ於テ之ヲ決定ス
課税価格ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納税義務者又ハ納税管理人ニ通知スベシ
樺太ニ住所又ハ居所ヲ有セザル納税義務者納税管理人ノ申告ヲ為サザルトキハ前項ノ通知ハ公告ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ公告ノ初日ヨリ七日ヲ経過シタルトキハ其ノ通知アリタルモノト看做ス
第十八条 納税義務者前条第一項ノ決定ニ対シ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日内ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ審査ノ請求ヲ為スコトヲ得
納税義務者帝国内ニ住所ヲ有セザルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三月トス
第一項ノ請求アリタル場合ト雖モ政府ハ税金ノ徴収ヲ猶予セズ
第十九条 前条第一項ノ請求アリタルトキハ相続税審査委員会ニ諮問シ政府ニ於テ之ヲ決定ス
第二十条 相続税審査委員会ハ樺太庁ニ之ヲ置ク
審査委員会ハ会長一人及委員六人ヲ以テ之ヲ組織ス
会長ハ樺太庁高等官中ヨリ樺太庁長官之ヲ命ズ
委員ハ税務官吏中ヨリ三人及直接国税百円以上ヲ納ムル者ヨリ三人ヲ樺太庁長官ニ於テ命ズ
税務官吏ニ非ザル審査委員ノ任期ハ四年トス
審査委員会ノ議事ニ関スル事項ハ樺太庁長官之ヲ定ム
第二十一条 審査委員ニハ樺太庁長官ノ定ムル所ニ依リ日当及旅費ヲ支給ス但シ税務官吏タル審査委員ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十二条 相続税ハ一時ニ之ヲ納付スベシ但シ税額百円以上ナルトキハ税額ニ相当スル担保ヲ提供シ七年内ノ年賦延納ヲ求ムルコトヲ得
納税義務者前項ノ規定ニ依リ年賦延納ヲ求メントスルトキハ第十七条第二項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ三十日内ニ政府ニ申請スベシ但シ連帯納付ノ責アル納税義務者ニ在リテハ其ノ一人ヨリ申請スルヲ以テ足ル
納税義務者帝国内ニ住所ヲ有セザルトキハ前項ノ期間ハ之ヲ三月トス
第二十三条 相続人期限内ニ第十四条第一項又ハ第四項ノ書類ヲ提出セザルトキハ政府ハ期間ヲ定メテ催告ヲ為スコトヲ得
相続人二人以上ナル場合ニ於テハ政府ハ其ノ一人ニ対シ前項ノ催告ヲ為スコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ相続人其ノ期間内ニ書類ヲ提出セザルトキハ政府ノ認ムル所ニ依リ課税価格ヲ決定シ催告ニ関スル費用及税額ノ十分ノ一ニ相当スル金額ヲ相続人ヨリ徴収スルコトヲ得
相続人二人以上ナル場合ニ於テハ各相続人ハ前項ノ徴収金ニ付連帯納付ノ責ニ任ズ
第三項ノ規定ニ依ル金額ノ徴収ニ関シテハ国税徴収法ヲ準用ス
第二十四条 左ニ掲グル場合ニ於テ樺太ニ在ル不動産及相続税法施行地、朝鮮又ハ台湾ニ船籍ヲ有スル船舶以外ノ財産ニ付為シタル贈与ノ価額ガ千円以上ナルトキハ遺産相続開始シタルモノト看做シ其ノ財産ノ価額ヲ課税価格トシテ本令ニ依リ相続税ヲ課ス
一 親族ニ贈与ヲ為シタルトキ
二 分家ヲ為スニ際シ又ハ分家ヲ為シタル後本家ノ戸主又ハ家族ガ分家ノ戸主又ハ家族ニ贈与ヲ為シタルトキ
前項ノ遺産相続ニ関シテハ第十一条ノ規定ヲ適用セズ
第二十五条 死亡ニ因ル相続開始後一年内ニ於テ相続人ガ相続財産ニ付為シタル贈与ニ付テハ前条ノ規定ヲ適用セズ但シ自己ノ直系卑属ニ贈与ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十六条 税務官吏ハ調査上必要アルトキハ被相続人、納税義務者又ハ納税義務アリト認ムル者ニ質問ヲ為シ又ハ其ノ帳簿物件ヲ検査スルコトヲ得
第二十七条 税務官吏ハ調査上必要アルトキハ被相続人、納税義務者若ハ納税義務アリト認ムル者ニ金銭若ハ物品ヲ支払フ義務ヲ有スト認ムル者ニ対シ又ハ被相続人、納税義務者若ハ納税義務アリト認ムル者ヨリ金銭若ハ物品ノ支払ヲ受クル権利ヲ有スト認ムル者ニ対シ其ノ金額、数量、価額、支払期日等ヲ質問シ又ハ之ニ関スル帳簿物件ヲ検査スルコトヲ得
第二十八条 町村ハ相続税ノ附加税ヲ課スルコトヲ得ズ
第二十九条 本令ニ定ムルモノノ外相続税ニ関シ必要ナル規定ハ樺太庁長官之ヲ定ム
附 則
本令ハ昭和十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス