農業動産信用法
法令番号: 法律第三十號
公布年月日: 昭和8年3月29日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル農業動產信用法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年三月二十八日
內閣總理大臣 子爵 齋藤實
大藏大臣 高橋是淸
司法大臣 小山松吉
農林大臣 後藤文夫
法律第三十號
農業動產信用法
第一章 總則
第一條 本法ニ於テ農業トハ耕作、養畜又ハ養蠶ノ業務及之ニ附隨スル業務ヲ謂フ
水產動植物ノ採捕若ハ養殖又ハ薪炭生產ノ業務及之ニ附隨スル業務ハ本法ノ適用ニ關シテハ之ヲ農業ト看做ス
第二條 本法ニ於テ農業用動產トハ農業ノ經營ノ用ニ供スル動產ヲ謂フ
前項ノ農業用動產ノ範圍ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條 本法ノ先取特權又ハ農業用動產ノ抵當權ヲ取得スルコトヲ得ル者ハ信用組合及勅令ヲ以テ定ムル法人ニ限ル
第二章 農業經營資金貸付ノ先取特權
第四條 信用組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ガ農業ヲ爲ス者ニ對シ左ニ揭グル行爲ヲ爲スニ必要ナル資金ノ貸付ヲ爲シタルトキハ其ノ債權ノ元本及利息ニ付債務者ノ特定動產ノ上ニ先取特權ヲ有ス
一 農業用動產又ハ農業生產物ノ保存
二 農業用動產ノ購入
三 種苗又ハ肥料ノ購入
四 蠶種又ハ桑葉ノ購入
五 薪炭原木ノ購入
六 命令ヲ以テ定ムル水產養殖用ノ種苗又ハ餌料ノ購入
前項ノ法人ガ農事實行組合、養蠶實行組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ニ對シ其ノ農業用動產ヲ保存シ又ハ購入スル爲ニ必要ナル資金ノ貸付ヲ爲シタルトキ亦前項ニ同ジ
第五條 農業用動產保存資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ保存シタル農業用動產ノ上ニ存在ス
農業生產物保存資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ保存シタル農業生產物ノ上ニ存在ス
前二項ノ先取特權ハ農業用動產又ハ農業生產物ニ關スル權利ヲ保存、追認又ハ實行セシムル爲ニ必要ナル資金ノ貸付ニ付テモ亦存在ス
第六條 農業用動產購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル農業用動產ノ上ニ存在ス
第七條 種苗又ハ肥料ノ購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル種苗又ハ肥料ヲ用ヒタル後一年內ニ之ヲ用ヒタル土地ヨリ生ジタル果實ノ上ニ存在ス尙桑樹ノ肥料購入資金貸付ノ先取特權ニ在リテハ其ノ果實タル桑葉ヨリ生ジタル物ノ上ニモ亦存在ス
第八條 蠶種又ハ桑葉ノ購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル蠶種又ハ桑葉ヨリ生ジタル物ノ上ニ存在ス
第九條 薪炭原木購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル薪炭原木ヨリ生產シタル薪炭ノ上ニ存在ス
第十條 水產養殖用種苗購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル種苗ヲ養殖シタル物ノ上ニ存在ス
水產養殖用餌料購入資金貸付ノ先取特權ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル餌料ヲ用ヒテ養殖シタル物ノ上ニ存在ス
第十一條 先取特權ノ優先權ノ順位ニ付テハ農業用動產又ハ農業生產物ノ保存資金貸付ノ先取特權ハ動產保存ノ先取特權ト、農業用動產又ハ薪炭原木ノ購入資金貸付ノ先取特權ハ動產賣買ノ先取特權ト、種苗若ハ肥料、蠶種若ハ桑葉又ハ水產養殖用ノ種苗若ハ餌料ノ購入資金貸付ノ先取特權ハ種苗肥料供給ノ先取特權ト看做ス
第三章 農業用動產ノ抵當權
第十二條 農業用動產ハ農業ヲ爲ス者又ハ農事實行組合、養蠶實行組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ガ信用組合又ハ勅令ヲ以テ定ムル法人ニ對シテ負擔スル債務ヲ擔保スル場合ニ限リ之ヲ目的トシテ抵當權ヲ設定スルコトヲ得
農業用動產ノ抵當權ニハ本法其ノ他ノ法令ニ別段ノ定アルモノノ外不動產ノ抵當權ニ關スル規定ヲ準用ス但シ民法第三百七十八條乃至第三百八十七條ノ規定ハ此ノ限ニ在ラズ
第十三條 農業用動產ノ抵當權ノ得喪及變更ハ其ノ登記ヲ爲スニ非ザレバ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ對抗スルコトヲ得ズ
前項ノ規定ハ登記ノ後ト雖モ民法第百九十二條乃至第百九十四條ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第一項ノ登記ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條 抵當權ノ目的タル農業用動產ノ所有者ガ之ヲ讓渡セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ讓受人ニ對シ抵當權ノ存在スル旨ヲ吿知スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ抵當權ノ目的タル農業用動產ヲ他ノ債務ノ擔保ニ供セントスルトキニ之ヲ準用ス
第十五條 抵當權ノ目的タル農業用動產ノ所有者ガ之ヲ讓渡シ又ハ他ノ債務ノ擔保ニ供シタル場合ニ於テハ遲滯ナク前條ノ吿知ヲ爲シタル旨ヲ抵當權者ニ吿知スルコトヲ要ス
抵當權ノ目的タル農業用動產ニ付第三者ガ差押ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ所有者ハ遲滯ナク其ノ旨ヲ抵當權者ニ吿知スルコトヲ要ス
第十六條 先取特權ト農業用動產ノ抵當權ト競合スル場合ニ於テハ抵當權者ハ民法第三百三十條ニ揭グル第一順位ノ先取特權者ト同一ノ權利ヲ有ス
第十七條 農業用動產ノ抵當權ノ實行ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四章 罰則
第十八條 抵當權者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ抵當權ノ目的タル農業用動產ヲ損傷シ又ハ隱匿シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス但シ所有者ノ意思ニ反シテ損傷シタル者ニ付テハ刑法ニ依ル
第十九條 抵當權ノ目的タル農業用動產ノ所有者抵當權者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ該動產ニ關シ讓渡、質入其ノ他抵當權ヲ侵害スベキ行爲ヲ爲シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ動產所有者ノ代表者又ハ代理人本人ノ爲ニ前項ノ行爲ヲ爲シタルトキ亦同ジ
第二十條 前二條ノ罪ハ吿訴ヲ待テ之ヲ論ズ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
登錄稅法第三條ノ六ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第三條ノ七 農業用動產ノ抵當權ニ關スル登記ヲ受クルトキハ左ノ區別ニ從ヒ登錄稅ヲ納ムヘシ
一 抵當權ノ取得 債權金額 千分ノ二
但シ稅額金二十錢未滿ナルトキハ二十錢トス
二 抹消シタル登記ノ囘復 農業用動產每一箇 金十錢
三 假登記 農業用動產每一箇 金十錢
四 附記登記 農業用動產每一箇 金五錢
但シ一件ニ付稅額金一圓ヲ超ユルトキハ一圓トス
五 登記ノ更正、變更又ハ抹消 農業用動產每一箇 金十錢
但シ一件ニ付稅額金一圓ヲ超ユルトキハ一圓トス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル農業動産信用法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和八年三月二十八日
内閣総理大臣 子爵 斎藤実
大蔵大臣 高橋是清
司法大臣 小山松吉
農林大臣 後藤文夫
法律第三十号
農業動産信用法
第一章 総則
第一条 本法ニ於テ農業トハ耕作、養畜又ハ養蚕ノ業務及之ニ附随スル業務ヲ謂フ
水産動植物ノ採捕若ハ養殖又ハ薪炭生産ノ業務及之ニ附随スル業務ハ本法ノ適用ニ関シテハ之ヲ農業ト看做ス
第二条 本法ニ於テ農業用動産トハ農業ノ経営ノ用ニ供スル動産ヲ謂フ
前項ノ農業用動産ノ範囲ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三条 本法ノ先取特権又ハ農業用動産ノ抵当権ヲ取得スルコトヲ得ル者ハ信用組合及勅令ヲ以テ定ムル法人ニ限ル
第二章 農業経営資金貸付ノ先取特権
第四条 信用組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ガ農業ヲ為ス者ニ対シ左ニ掲グル行為ヲ為スニ必要ナル資金ノ貸付ヲ為シタルトキハ其ノ債権ノ元本及利息ニ付債務者ノ特定動産ノ上ニ先取特権ヲ有ス
一 農業用動産又ハ農業生産物ノ保存
二 農業用動産ノ購入
三 種苗又ハ肥料ノ購入
四 蚕種又ハ桑葉ノ購入
五 薪炭原木ノ購入
六 命令ヲ以テ定ムル水産養殖用ノ種苗又ハ餌料ノ購入
前項ノ法人ガ農事実行組合、養蚕実行組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ニ対シ其ノ農業用動産ヲ保存シ又ハ購入スル為ニ必要ナル資金ノ貸付ヲ為シタルトキ亦前項ニ同ジ
第五条 農業用動産保存資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ保存シタル農業用動産ノ上ニ存在ス
農業生産物保存資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ保存シタル農業生産物ノ上ニ存在ス
前二項ノ先取特権ハ農業用動産又ハ農業生産物ニ関スル権利ヲ保存、追認又ハ実行セシムル為ニ必要ナル資金ノ貸付ニ付テモ亦存在ス
第六条 農業用動産購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル農業用動産ノ上ニ存在ス
第七条 種苗又ハ肥料ノ購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル種苗又ハ肥料ヲ用ヒタル後一年内ニ之ヲ用ヒタル土地ヨリ生ジタル果実ノ上ニ存在ス尚桑樹ノ肥料購入資金貸付ノ先取特権ニ在リテハ其ノ果実タル桑葉ヨリ生ジタル物ノ上ニモ亦存在ス
第八条 蚕種又ハ桑葉ノ購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル蚕種又ハ桑葉ヨリ生ジタル物ノ上ニ存在ス
第九条 薪炭原木購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル薪炭原木ヨリ生産シタル薪炭ノ上ニ存在ス
第十条 水産養殖用種苗購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル種苗ヲ養殖シタル物ノ上ニ存在ス
水産養殖用餌料購入資金貸付ノ先取特権ハ貸付ヲ受ケタル資金ヲ以テ購入シタル餌料ヲ用ヒテ養殖シタル物ノ上ニ存在ス
第十一条 先取特権ノ優先権ノ順位ニ付テハ農業用動産又ハ農業生産物ノ保存資金貸付ノ先取特権ハ動産保存ノ先取特権ト、農業用動産又ハ薪炭原木ノ購入資金貸付ノ先取特権ハ動産売買ノ先取特権ト、種苗若ハ肥料、蚕種若ハ桑葉又ハ水産養殖用ノ種苗若ハ餌料ノ購入資金貸付ノ先取特権ハ種苗肥料供給ノ先取特権ト看做ス
第三章 農業用動産ノ抵当権
第十二条 農業用動産ハ農業ヲ為ス者又ハ農事実行組合、養蚕実行組合其ノ他勅令ヲ以テ定ムル法人ガ信用組合又ハ勅令ヲ以テ定ムル法人ニ対シテ負担スル債務ヲ担保スル場合ニ限リ之ヲ目的トシテ抵当権ヲ設定スルコトヲ得
農業用動産ノ抵当権ニハ本法其ノ他ノ法令ニ別段ノ定アルモノノ外不動産ノ抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス但シ民法第三百七十八条乃至第三百八十七条ノ規定ハ此ノ限ニ在ラズ
第十三条 農業用動産ノ抵当権ノ得喪及変更ハ其ノ登記ヲ為スニ非ザレバ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ズ
前項ノ規定ハ登記ノ後ト雖モ民法第百九十二条乃至第百九十四条ノ規定ノ適用ヲ妨ゲズ
第一項ノ登記ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 抵当権ノ目的タル農業用動産ノ所有者ガ之ヲ譲渡セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ譲受人ニ対シ抵当権ノ存在スル旨ヲ告知スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ抵当権ノ目的タル農業用動産ヲ他ノ債務ノ担保ニ供セントスルトキニ之ヲ準用ス
第十五条 抵当権ノ目的タル農業用動産ノ所有者ガ之ヲ譲渡シ又ハ他ノ債務ノ担保ニ供シタル場合ニ於テハ遅滞ナク前条ノ告知ヲ為シタル旨ヲ抵当権者ニ告知スルコトヲ要ス
抵当権ノ目的タル農業用動産ニ付第三者ガ差押ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ所有者ハ遅滞ナク其ノ旨ヲ抵当権者ニ告知スルコトヲ要ス
第十六条 先取特権ト農業用動産ノ抵当権ト競合スル場合ニ於テハ抵当権者ハ民法第三百三十条ニ掲グル第一順位ノ先取特権者ト同一ノ権利ヲ有ス
第十七条 農業用動産ノ抵当権ノ実行ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四章 罰則
第十八条 抵当権者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ抵当権ノ目的タル農業用動産ヲ損傷シ又ハ隠匿シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス但シ所有者ノ意思ニ反シテ損傷シタル者ニ付テハ刑法ニ依ル
第十九条 抵当権ノ目的タル農業用動産ノ所有者抵当権者ニ損害ヲ加フル目的ヲ以テ該動産ニ関シ譲渡、質入其ノ他抵当権ヲ侵害スベキ行為ヲ為シタルトキハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ動産所有者ノ代表者又ハ代理人本人ノ為ニ前項ノ行為ヲ為シタルトキ亦同ジ
第二十条 前二条ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ズ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
登録税法第三条ノ六ノ次ニ左ノ一条ヲ加フ
第三条ノ七 農業用動産ノ抵当権ニ関スル登記ヲ受クルトキハ左ノ区別ニ従ヒ登録税ヲ納ムヘシ
一 抵当権ノ取得 債権金額 千分ノ二
但シ税額金二十銭未満ナルトキハ二十銭トス
二 抹消シタル登記ノ回復 農業用動産毎一箇 金十銭
三 仮登記 農業用動産毎一箇 金十銭
四 附記登記 農業用動産毎一箇 金五銭
但シ一件ニ付税額金一円ヲ超ユルトキハ一円トス
五 登記ノ更正、変更又ハ抹消 農業用動産毎一箇 金十銭
但シ一件ニ付税額金一円ヲ超ユルトキハ一円トス